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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10061審決取消(実用新案)請求事件 判例 実用新案
関連ワード 技術的範囲 /  禁反言 /  意識的除外 /  均等 /  実施許諾 /  損害額 /  逸失利益 /  実施料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  先願 /  拒絶理由 /  先行技術 /  実施許諾(実施の許諾) /  削除 /  請求項 /  本質的部分 /  同一の作用効果 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  置換 /  設計変更 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
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事件 平成 15年 (ネ) 277号 実用新案権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件
平成 15年 (ネ) 655号 実用新案権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件
控訴人兼附帯被控訴人(1審被告) A
同訴訟代理人弁護士 清永利亮
同 宮寺利幸
同補佐人弁理士 B
被控訴人兼附帯控訴人(1審原告) C
同訴訟代理人弁護士 太田耕治
裁判所 名古屋高等裁判所
判決言渡日 2005/04/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 本件附帯控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 (1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,4億2614万4000円及び内4560万円に対する平成8年8月28日から,内3億8054万4000円に対する平成14年7月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 本件控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。
(5) 仮執行宣言
事案の概要
1 本件は,圧流体シリンダに関する実用新案権(以下「本件権利」といい,その請求項1(ただし,訂正後のもの)に係る考案を「本件考案」という。)を有する被控訴人が,控訴人に対し,控訴人の製造販売した原判決別紙イ号物件目録記載の圧流体シリンダ(ロッドレスシリンダ。以下「イ号物件」という。)は上記被控訴人の本件権利を侵害すると主張して,損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成8年8月28日から(請求拡張分については,同申立書送達の日の翌日である平成14年7月2日から)支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
控訴人は,(1)イ号物件は,本件考案技術的範囲に属しない,(2)本件考案は,新規性ないし進歩性を欠き,明らかに無効(実用新案法(以下「法」という。)3条1項,2項,3条の2)であるから,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たる,(3)本件考案は,本件権利の登録請求の範囲において,同考案に必要不可欠な構成要件の開示がされておらず,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反して無効であるなどと主張して争った。
2 原審は,(1)イ号物件は,本件考案の各構成要件を充足するものと認められる(均等と認められるものを含む。),(2)本件考案の技術的思想は,控訴人の主張する各公知技術において開示ないし示唆されているものとは認められず,新規性ないし進歩性の欠如を理由として明らかに無効であるとの主張は理由がない,(3)控訴人の主張する事項は,考案の更正に欠くことのできない事項に当たるとは認められないなどとして,被控訴人の請求のうち実施料相当額の限度で請求を認容した。
そこで,これを不服とする控訴人が控訴するとともに,被控訴人が附帯控訴した。なお,被控訴人は,原判決が主位的請求(侵害者たる控訴人が得た利益額による請求)を棄却した部分については控訴せず,不服の範囲を,予備的請求(実施料相当額による請求)に限定した。また,請求金額については,原審においては,イ号物件の販売価格を最低10万円として算出した実施料相当損害金3億7257万2000円に,弁護士費用5558万4000円を加えた総額4億2915万6000円のうちの4億2614万4000円とこれに対する遅延損害金の支払を求めていたところ,当審においては,同販売価格を10万5033円として算出した実施料相当損害金3億9237万3878円に,弁護士費用3923万円を加えた総額4億3160万3878円のうちの4億2614万4000円とこれに対する遅延損害金の支払を求めるものとして改めた。
3 本件の前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により明らかな事実等) (1) 当事者 控訴人と被控訴人は,いずれもシリンダ等の空油圧機器を製造販売することを業とする株式会社である。
(2) 本件権利 ア 被控訴人は,以下のとおりの実用新案権(本件権利)を有していた(平成12年11月6日存続期間満了)。
登録番号 第2035182号 考案の名称 圧流体シリンダ 出願日 昭和60年11月6日 出願公告日 平成4年12月10日 登録日 平成6年10月6日 訂正審判請求日 平成10年6月11日 訂正認容審決 平成11年3月9日 請求項の数 2 イ 訂正前の明細書の「実用新案登録請求の範囲」の請求項1の記載は以下のとおりであった。
「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し,該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し,スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け,その案内レールには,前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え,これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ。」 ウ 訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の「実用新案登録請求の範囲」の請求項1の記載は以下のとおりである(ただし,下線は訂正部分)。
「バレルの側壁に軸方向にスリットを有し,該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し,スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その 一方 の側壁 から 下方 に延びる 側壁 の下方部 にベース を一体 に突設 し,その ベース の上にピストンの軸芯と平行な棒状 の案内レールを 一体に突設 し,その案内レールには,前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え,これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ。」 エ 本件考案の構成を以下のとおり分節して,それぞれ「構成要件A」のようにいう。
A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し,該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し,スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて, B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し, C その案内レールには,前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え, D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴とする圧流体シリンダ。
オ 本件考案の作用効果は,下記のとおりとされている。
(ア) バレルのスリットを挾んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベースの上に一体に突設された棒状の案内レールによって案内するようにしたので,ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行うことができる。
(イ) バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁に突設したベース上に棒状の案内レールを一体に突設しているので,従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき,狭い場所であっても容易に取付けが可能である。
(ウ) バレルのスリットを挾んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部に突設したベース上に棒状の案内レールを突設し,その案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を夫々備えているので,圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき,最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。
(エ) センサスイッチ等の制御部材は従来と同様に支障なく取付けることができる。
(3) 控訴人による製造販売行為 控訴人は,平成7年1月から平成12年10月までの間に,イ号物件を「メカジョイント式高精度ガイド形ロッドレスシリンダMY1Hシリーズ」(MY1H10,16,20,25,32,40の6種類)として製造販売した。
(4) 手続の経緯 ア Dは,平成5年2月17日,訂正前の本件考案についての登録異議を申し立てた(甲6)ところ,特許庁は,平成6年7月26日,同申立ては理由がないとする決定をし(甲8),同考案は,同年10月6日,登録された(甲2)。
イ 控訴人は,平成8年10月17日,訂正前の本件考案の実用新案登録の無効の審判(平成8年審判17661号)を申し立て(乙1),特許庁は,平成10年4月7日,本件考案は,後記(5)ア及びエの公知技術に基づき,容易に想到し得たものと認められるなどとして,同考案の登録を無効とする審決をなした(乙13)。
ウ 被控訴人は,平成10年5月13日,東京高等裁判所に上記無効審決の取消訴訟を提起するとともに(平成10年(行ケ)第141号),同年6月11日,特許庁に訂正審判を請求し(平成10年審判39041号。乙19の1),2度の訂正拒絶理由通知(乙20,22)と手続補正書の提出(甲26,乙21及び23の各2)を経て,平成11年3月9日,訂正を認める旨の審決がなされ(甲23),確定した。東京高等裁判所は,これを受けて,同年6月24日,上記無効審決を取り消す旨の判決を言い渡した(甲24)。
エ 特許庁は,平成13年1月9日,訂正後の本件考案について,実用新案登録請求の範囲のうち「一方の側壁から下方に延びる側壁」と訂正した部分は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とは認められないなどとして,改めて実用新案登録を無効とする審決をなした(乙30)ため,被控訴人が,平成13年2月23日,東京高等裁判所に同審決取消訴訟を提起した(平成13年(行ケ)第78号)ところ,東京高等裁判所は,平成14年5月9日,上記審決を取り消す旨の判決を言い渡した(甲36)。
これに対し,控訴人は,平成14年5月21日付けで最高裁判所に上告受理の申立てをした(乙39,41)が,最高裁判所は,平成14年10月25日,これを不受理とする決定をした(甲62)。
オ 上記を受けて改めて行われた特許庁における審理において,控訴人は,概略以下のとおりの事由により本件考案の実用新案登録は無効である旨主張した(甲66)。
(ア)(上記訂正前の無効審判申立時の主張) a 下記(5)記載の公知技術1(以下「公知技術1」などという。)による新規性欠如(法3条1項,37条1項) b 公知技術2による新規性欠如(公知の擬制)(法3条の2,37条1項) c 公知技術1と同3による進歩性欠如(法3条2項,37条1項) d 公知技術3と同4による進歩性欠如(法3条2項,37条1項) e 公知技術1,同3及び同4による進歩性欠如(法3条2項,37条1項) f 実用新案登録請求の範囲の記載が必須の構成要件(連結板の存在)を規定していないことによる無効(法5条4項,37条1項) (イ) 上記確定した訂正審決において認容された訂正は,いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とはいえず,実用新案登録請求の範囲考案の効果を実質的に変更するものである(特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号。)附則4条2項(以下「附則4条2項」という。)により読み替えるものとされる同法による改正前の実用新案法(以下「旧法」という。)37条1項2の2号,同39条1項ただし書き,同2項)。
(ウ) 以下のとおり,上記確定した訂正審決において認容された,訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案は,実用新案登録出願の際,独立して実用新案登録を受けることができなかったものである(旧法37条1項2の2号,同39条5項)。
a 公知技術1及び同4による進歩性欠如 b 公知技術1,同4及び同5による進歩性欠如 c 公知技術3,同4及び同5による進歩性欠如 d 公知技術1,同3,同4及び同5による進歩性欠如 (エ) 公知技術6による新規性欠如(公知の擬制)(法3条の2,37条1項) (オ) 被控訴人が3回にわたり提出した全文訂正明細書のうち,後の2件は,審判請求時の同明細書の要旨を変更するものであって,訂正無効とされるべきものであるから,本件考案は,訂正自体がなかったものとして取り扱われるべきところ,訂正前の考案については,既に,公知技術1及び4による新規性の欠如により無効であると判断されている。したがって,本件考案に係る訂正審決は無効とされるべきである。
カ 特許庁が,平成15年7月23日,上記審判の請求は成り立たないとする審決を行った(甲66)ところ,控訴人は,東京高等裁判所に対し,概略以下のとおり主張して,同審決の取消しを求める訴えを提起した(甲77)。
(ア) 審決取消事由1(訂正要件についての判断の誤り) (イ) 同取消事由2(本件考案と下記(5)記載の公知技術6との同一性の判断の誤り) 本件考案は,公知技術6に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明(公知技術6)と同一であり,かつ本件考案公知技術6の発明者又は出願人が同一であるとはいえず,特段の事情があるとも認められないから,旧法3条の2に違反したものであり,同法37条1項1号に該当する。
(ウ) 同取消事由3(本件考案の容易想到性の判断の誤り) 要するに,公知技術4は本件考案の構成要件Bを具備するから,これを否定した上記審決は公知技術4を誤認している。その根拠は以下のとおりである。
a 公知技術4に係る公報の請求の範囲1項の「平行案内部の案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」との記載は,2つの案内レールを有することを意味しておらず,同公報には,両側の側壁にスライダが設けられる旨の積極的な開示もないこと。
b 上記カ記載の無効審判の口頭審理において,請求人(控訴人)及び被請求人(被控訴人)が,「移動要素45aは荷重受け要素11に結合しているか,あるいは移動要素45aは,案内要素170に結合している」と一致して陳述していること。
c 同公報の記載(「さらに外部案内システムは45で示唆する形態だけでなく,筒状部材1に直接構成できる。その配置は,筒状部材に固定的に配置するレール要素に外部案内システムを取り付けることもできる」)と同添付の第1図及び第2図の図示によれば,案内レールを下方に配置し,かつ,これに外部案内要素を装着してもよいことが示されており,外部案内システムは筒状部材に単一の形態で突設形成されているから,ベースとしての機能を有するレール要素に単一の外部案内システム,すなわち,棒状の案内レールを一体に突設することが示唆されていること。
d 上記イ記載の審決は,訂正前の本件考案の構成要件Bの構成につき,公知技術1及び4に基づく容易想到性を肯定しており,また,公知技術4に係る公報の第2図には,筒状部材の縦方向スリットの左側に破線で示される外部案内要素及び可動要素が示されていること。
キ 東京高等裁判所は,上記カ記載の審決取消請求事件について,平成16年5月19日,概略以下のとおり判示して,控訴人の請求を棄却する旨の判決をした(甲77)。
(ア) 審決取消事由1(訂正要件についての判断の誤り)について 当初明細書等の記載から当業者にとって自明な事項として訂正が認められるべきであるから,取消事由1の主張は理由がない。
(イ) 同取消事由2(本件考案と下記(5)記載の公知技術6との同一性の判断の誤り)について 公知技術6は,本件考案の構成要件Bを具備していない。また,両者の相違点が構成要件A及びEのみであるとしても,本件考案は,圧流シリンダの有する「圧流体の供給によってスリット4が広がることにより,稜角部300に設けたガイドレールのゲージもともに広がり,摺動抵抗が大となって円滑な作動が行い得ない虞れがある」(訂正後の明細書)という課題を解決するための考案であるのに対し,公知技術6は,「(同発明の)目的は,上述(注,従来例)の直線駆動装置と比較して拡張された使用範囲を長所とし,しかもそれによって場所の必要が大幅に増加せず,又は被駆動部分の位置ぎめ又は運動の精度が阻害されない機械式直線駆動装置を提供することである」(同技術に係る公報)というのであり,両者は課題が共通するものとはいえないし,本件考案との相違点が課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないということもできない。したがって,公知技術6が本件考案と実質的に同一ということはできないから,控訴人の主張は理由がない。
(ウ) 同取消事由3(本件考案の容易想到性の判断の誤り)について aについては,公知技術4に係る公報の請求の範囲の記載によれば,筒状部材の両側の外面に設置された2本の案内レールが,必須の構成要件として記載されているものと認められ,bについては,裁判所の判断を左右するものではない。c及びdについては,控訴人の指摘する上記公報の記載自体からは,ここにいう外部案内システムの形態や配置は不明であるが,他の記載を徴すると,外部案内システムを配置した実施形態であっても,筒状部材の両側の外面に設置された2本の案内レールがつる状の案内要素を案内するものであり,案内要素を省略した場合でも,外部案内システムは,筒状部材のスリット近傍の両側にあるものと認められるから,本件考案のように,一方のみの側壁の下方部にベースを突設した構成を開示していないことは明らかであるし,構成要件Bとは異なるものであるから,控訴人の主張は理由がない。
(エ) したがって,控訴人の主張する審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵も見当たらない。
ク 控訴人は,上記キ記載の判決を不服として,最高裁判所に上告受理の申立てを行ったが,最高裁判所は,平成16年10月12日,これを受理しない旨の決定を行い(甲88),上記カ記載の審決が確定した。
(5) 公知技術 本件考案の出願日である昭和60年11月6日当時,以下の公知技術が存在した(ただし,公開日は上記月日に遅れるが,その出願日ないし優先権主張日は先立っているものを含む。)。
ア 昭和60年9月6日公開の特開昭60-172711号に係る「圧力媒体シリンダ」の特許発明(以下「公知技術1」という。乙2) イ 昭和60年11月20日公開(昭和60年4月8日出願,昭和59年4月10日優先権主張)の特開昭60-234106号に係る「直線伝動装置」の特許発明(以下「公知技術2」という。乙3) ウ 昭和58年12月13日公開の特開昭58-214015号に係る「テーブル用直線運動ころがり軸受ユニット」の特許発明(以下「公知技術3」という。乙4) エ 1985年(昭和60年)10月16日公開(1984年4月10日出願)の欧州公開特許公報第0157892A1号に係る「直線伝動装置」の特許発明(以下「公知技術4」という。乙5の1,2) オ 1980年(昭和55年)9月11日公開(1979年3月5日出願)のドイツ連邦共和国公開特許公報DE2908605A1号に係る「ピストンロッドの無いシリンダを備える空気式リニアユニット」の特許発明(以下「公知技術5」という。乙16) カ 昭和62年4月23日公開(昭和61年3月1日出願,昭和60年3月2日優先権主張)の特開昭62-88866号に係る「機械式直線駆動装置」に係る特許発明(以下「公知技術6」といい,公知技術1から公知技術6までを併せて「本件各公知技術」という。乙56) 4 本件の争点 (1) イ号物件が,本件考案の技術範囲に属するか。
ア 構成要件B及びCの充足の有無 (ア) イ号物件の「摺動子50」が摺動する部分は,構成要件Bの「バレルの…側壁の一方のみに…案内レールを…突設し」の充足を否定するか。
(イ) イ号物件の「案内レール10」は,構成要件Bの「棒状の案内レール」及び同Cの「その案内レール」に当たるか。
(ウ) イ号物件は,構成要件Bの「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」に一体に突設される「ベース」を充足するか。
イ 構成要件Dの充足の有無 イ号物件の「ドライバー3」と「連結板14」の連結構造であるフローティング構造は,構成要件Dの「案内子をドライバーに設けた」を充足するか。
ウ イ号物件は,本件考案均等といえるか。
構成要件Aに関し,イ号物件におけるスリットを密封する「樹脂製のインナーバンド5」及び「樹脂製のアウターバンド6」(以下,両者を「樹 脂製バンド」という。もっとも,本件で主として問題となるのは,前者である。)は,本件考案における構成要件Aの「スチールバンド」と文言上異なるが,イ号物件は,本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件考案技術的範囲に属するものといえるか。
(2) 本件考案は,新規性(公知の擬制に係るものを含む。)ないし進歩性を欠くことから明らかに無効である(法3条1項,2項,3条の2)として,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たるか。
(3) 本件考案は,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反し,無効か。
(4) 損害額 5 争点に関する当事者の主張 (1)ア 構成要件B及びCの充足の有無について (ア) イ号物件の「摺動子50」が摺動する部分は,構成要件Bの「バレルの…側壁の一方のみに…案内レールを…突設し」の充足を否定するかについて 次のとおり付加するほか,原判決「第2 事案の概要」の3(1)イ「構成要件B及びCの充足の有無((ア)イ号物件の「摺動子50」が摺動する部分は,本件考案の「案内レール」に当たるか。)について」(原判決11頁14行目冒頭から同12頁21行目末尾まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
a 被控訴人の主張に関し, @ 原判決11頁22行目「本件考案の」から24行目末尾までを次のとおり改める。
「単に摺動するのみで,本件考案の「案内レール」と同等のものとして,ドライバー3が傾倒しないようにこれを案内する機能を果たすものではないから,ドライバー3は,案内レール10のみによって案内されているものであり,「バレルの・・・側壁の一方のみに・・・案内レールを・・・突設し」との構成要件Bを充足する。」 A 同12頁3行目から4行目の「ドライバー」から同6行目末尾までを次のとおり改める。
「仮に,無負荷の状態において,ドライバーに対し,弾性変形による僅かな反力が作用することがあるとしても,これが左右に傾倒しないように案内することはできず,本件考案の「案内レール」と同等のものとしてドライバー3を案内する機能を有するものとはいえないから,ドライバー3は,案内レール10のみによって案内されるものとして,「バレルの・・・側壁の一方のみに・・・案内レールを・・・突設し」との構成要件Bを充足する。」 b 控訴人の主張に関し,原判決12頁21行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。
「原判決は,イ号物件につき連結板14に対して負荷をかけた場合に,摺動部55は連結板14を支持するものであることを認めながら,「シリンダの作動中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーを傾倒させることなく案内保持する機能」は有しないとして,イ号物件の摺動子が摺動する部分を結論的に「案内レール」と認めなかったものであるが,この判断は,イ号物件における力の伝達について正しい技術的理解がされていないことによるものであり,誤りである。この種の装置には,ピストンの軸心に対して直角方向の力が作用すると,その力は回転力に変換されるところ,イ号物件の案内子である摺動部50は,連結板14にかかるそのような負荷を担持する。特に,軸心と直交する横荷重をかけた場合には,乙24のとおり,スライドテーブルの上方にある一方の案内レール部分を支点として回転力が生じるところ,摺動部50は,これを担持する。しかも,摺動部50は,その構造(両端部が高くなるように上側へ折り曲げ形成され,中央部がバレル1Aの上面に載置され,両端部の上面が凹部48の天井面に対面する構造)上弾性力が生じることから,無負荷の場合でも,同弾性力も相まって,軸心と直交する方向の横荷重を良く担持しているものである。したがって,摺動部50が,ピストンの軸心に対して直角方向の力が作用した場合に負荷を支持するものである以上,本件考案における「案内レール」に該当し,イ号物件は,本件考案と異なり,いわゆる両持ちであるというべきである。」 (イ) イ号物件の「案内レール10」は,構成要件Bの「棒状の案内レール」及び同Cの「その案内レール」を充足するかについて 原判決「第2 事案の概要」の3(1)イ「構成要件B及びCの充足の有無((イ) イ号物件の「案内レール10」は,構成要件Bの「棒状の案内レール」及び同Cの「その案内レール」を充足するか。)について」(原判決12頁22行目冒頭から同13頁22行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(ウ) イ号物件は,構成要件Bの「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」に一体に突設される「ベース」を充足するかについて 原判決「第2 事案の概要」の3(1)イ「構成要件B及びCの充足の有無((ウ) イ号物件は,構成要件Bの「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」に一体に突設される「ベース」を充足するか。)について」(原判決13頁23行目冒頭から同14頁23行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
イ 構成要件Dの充足の有無(イ号物件の「ドライバー3」と「連結板14」の連結構造であるフローティング構造は,構成要件Dの「案内子をドライバーに設けた」を充足するか。)について 次のとおり付加訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」の3(1)ウ「構成要件Dの充足の有無(イ号物件の「ドライバー3」と「連結板14」の連結構造であるフローティング構造は,構成要件Dの「案内子をドライバーに設けた」を充足するか。)について」(原判決14頁24行目冒頭から16頁17行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
a 控訴人の主張に関し,原判決16頁1行目冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「「案内子をドライバーに設け」は,それ自体では内容が明らかではないが,一般的な意味内容としては,「案内子をドライバーに固着する構成」と解釈せざるを得ない。そして,」 ウ イ号物件は,本件考案均等といえるかについて 次のとおり付加訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」の3(1)ア「構成要件Aの充足性の有無(イ号物件の「樹脂製バンド」は,構成要件Aの「スチールバンド」と均等といえるか。)」(原判決7頁13行目冒頭から同11頁13行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(ア) 被控訴人の主張に関し, a 原判決7頁22行目末尾に次のとおり付加する。
「そして,上記ア及びイにおいて主張したとおり,イ号物件は,構成要件BないしDを充足しているから,本件考案の構成要件と文言上相違するのは,上記「スチールバンド」の点のみである。」 b 同8頁10行目「D」から同13行目末尾までを次のとおり改める。
「D樹脂製バンドを用いたイ号物件が,本件考案の出願手続において,その請求範囲から意識的に除外されたものではないこと,以上から,樹脂製バンドを用いたことは本件考案の単なる設計変更に過ぎず,イ号物件は「スチールバンド」を用いた本件考案均等というべきである。」 c 同9頁19行目末尾に次のとおり付加する。
「控訴人は,出願過程において,補正により容易に請求の範囲に取り込むことが可能であったはずの事項については,出願人がそのような出願ないし補正をしなかったことが,当該事項を考案技術的範囲から除外したと外形的に解される行動に当たる旨主張し,本件において,被控訴人が「スチールバンド」として出願し,これを「シールバンド」と訂正ないし補正する手続をとらなかったことをもって,意識的除外に該当するというのである。しかし,控訴人の見解によれば,請求の範囲に記載された構成と異なる部分が出願時に公知のものである場合には,訂正による補正ができなければ,およそ均等論が成立しないことになるが,これは,前記(引用に係る原判決)最高裁判決と矛盾することは明らかであり,控訴人の主張は失当である。」 (イ) 控訴人の主張に関し, a 原判決10頁21行目「(エ)」の後に次のとおり付加する。
「そもそも実用新案権の権利範囲の外縁を明確にすることは,出願人の責務であるから,その権利侵害については,被侵害製品が実用新案登録請求の範囲に記載された構成要件の1つでも欠ければ,その余の点について検討するまでもなく,文言侵害は成立せず,権利侵害は認められないのが大原則である。しかし,考案技術的範囲については,請求の範囲を文言どおりに解釈すると,物に化体された考案を言葉によって的確に表現することが困難であることや,出願時には予見不可能な構成要件を備えた被疑侵害品が出現することによって,発明者が不当に不利益を被り,公平に反する結果が生じることになる場合がある。そのため,一定の要件を満たす場合には,例外的に,考案技術的範囲を,文言解釈を超えて,請求の範囲の記載と均等と評価される構成にまで及ぼす考え方が,いわゆる均等論である。
したがって,過誤によって自ら誤った文言を用い,しかも訂正をする機会があったにもかかわらずそれを行うこともなく,権利を行使しようとする場合に,均等論を適用することは,上記本来の趣旨に反し,前記(引用に係る原判決)最高裁判例にも明らかに反することになるというべきである。均等論は,誤記訂正が許されない範囲まで拡張して被控訴人の利益を保護するものではない。」 b 同10頁26行目「当たると解される場合には,」を「当たると解すべきであり,」と改める。
c 同11頁9行目から同頁10行目にかけての「樹脂製バンドと均等とはいえない。」を次のとおり改める。
「 したがって,「樹脂製バンド」を使用したイ号物件は,本件考案の出願手続において実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たることになるから,イ号物件が本件考案の構成と均等ということはできない。本件は,均等論適用の前提を欠くというべきである。
(オ) なお,原判決は,本件考案における「スチールバンド」とイ号物件における「樹脂製バンド」が均等と言えるか否かのみを検討・判断し,「樹脂製バンド」を用いたイ号物件が本件考案均等と言えるか否かについては何ら判断をせずに,均等論の適用を認めているが,均等論の適用を誤ったものであるとともに,審理不尽の違法がある。」 (2) 本件考案は,新規性(公知の擬制に係るものを含む。)ないし進歩性を欠くことから明らかに無効である(法3条1項,2項,3条の2)として,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たるかについて 次のとおり付加訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」の3(2)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 控訴人の主張に関し, (ア) 原判決16頁21行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。
「なお,本件考案に係る実用新案登録の無効の審判について,請求が成り立たないとする審決が確定したとしても,侵害訴訟において権利濫用の抗弁が認められるか否かとは,理論上必ずしも一致するものではないというべきである。」 (イ) 原判決18頁2行目冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「イ 公知技術2による新規性の欠如(法3条の2による公知の擬制)」 (ウ) 同18頁18行目冒頭から同19行目末尾までを次のとおり改める。
「以上のとおり,構成要件AないしDのすべてが,乙3に示されており,本件考案は,公知技術2と同一であると認められ,かつ両発明の発明者は同一であるとはいえないから,法3条の2により,当然に無効である。」 (エ) 同19頁5行目「というべきであり,」から同行末尾までを次のとおり改める。
「というべきである。法3条の2は,特許法29条の2に対応するものであるが,その趣旨は,明細書又は図面に記載されている発明(考案)は,特許請求(実用新案)の範囲以外に記載されていても,特許(実用新案)掲載公報の発行又は出願公開前に出願された後願であっても,その発明が先願明細書または図面に記載された発明(考案)と同一である場合には,これについて公報の発行または出願公開をしても新しい技術を何ら公開するものではなく,このような発明(考案)に特許(実用新案権)を付与することは,新しい発明(考案)の公表の代償として発明(考案)を保護しようとする制度趣旨からみて妥当ではないことから,後願を拒絶すべきものとしたものである。そして,上記同一性の判断については,請求項に係る発明(考案)の特定事項と引用発明(考案)特定事項とに相違がある場合でも,それが課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)である場合(実質同一)は,同一と考えるべきである。したがって,被控訴人の主張は失当である。」 (オ) 同22頁8行目冒頭から同行末尾までを次のとおり改める。
「キ 公知技術6による新規性の欠如(法3条の2による公知の擬制)」 (カ) 同22頁9行目「発明であるが,」の後に,次のとおり付加する。
「昭和60年3月2日出願の西ドイツ特許出願P3507497.3号を基礎として優先権を伴って,昭和61年3月1日に,日本国特許庁に出願され,昭和62年4月23日に公開されたもので,その出願日は,第1国出願日である昭和60年3月2日となるから,法3条の2の適用が可能となる先行技術に当たる。」 (キ) 同23頁7行目「49」の後に「,58ないし60」を付加する。
(ク) 同23頁7行目「何ら」から同10行目末尾までを次のとおり改める。
「何ら特徴となる構成を有するものではない。
そうすると,公知技術6と本件考案とを対比すると,構成要件Aの点で差異があるものの,公知技術6の発明者と公知技術4の発明者が同一であることから明らかなように,駆動源が圧流体と電気であることによる違いはあっても,公知技術6と本件考案における技術は,相互に転換可能な技術であるということができ,上記の差異は,周知技術ないし慣用技術を転換したものということができる。
そして,公知技術6は,構成要件BないしDを明確に示しているところ,本件考案の作用効果は,乙56の構造から当然に生ずることになり,新たな効果を奏するものでもないから,本件考案は,公知技術6と実質的に同一というべきであり,その発明者または出願人が同一であるとはいえないから,本件考案は,法3条の2に違反し,同法37条1項1号により無効であるというべきである。」 イ 被控訴人の主張に関し,原判決23頁13行目末尾に,以下のとおり付加する。
「前記3(本件の前提事実)(4)カないしクに記載のとおり,控訴人が申し立てた本件考案の実用新案登録の無効の審判において,請求が成り立たないとする審決がされ,同審決の取消訴訟において,請求棄却の判決が確定したから,実用新案権の無効を前提とする主張はいずれも理由がないことが明らかである。」 (3) 本件考案は,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反し,無効かについて 以下のとおり付加するほか,原判決「第2 事案の概要」の3(3)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決27頁17行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。
「なお,本件考案に係る実用新案登録の無効の審判について,請求が成り立たないとする審決が確定したとしても,侵害訴訟において権利濫用の抗弁が認められるか否かとは,理論上必ずしも一致するものではないというべきである。」 イ 同27頁25行目末尾に次のとおり付加する。
「前記3(本件の前提事実)(4)カないしクに記載のとおり,控訴人が申し立てた本件考案の実用新案登録の無効の審判において,請求が成り立たないとする審決がされ,同審決の取消訴訟において,請求棄却の判決が確定したから,実用新案権の無効を前提とする主張はいずれも理由がないことが明らかである。」 (4) 損害額について (被控訴人の主張) ア 実施料相当損害金 (ア) 販売価格 a イ号物件の販売価格は,控訴人の定価表(甲39)によれば,平均的なイ号物件である「MY1H25-500」本体の最終販売価格が,11万1600円,同本体に付設のストローク調整ユニットの平均価格が1万5200円,オートスイッチの平均価格が8200円であることから,13万5000円となるが,その内金として10万5033円を基礎として請求する。
b 仮に上記の金額が認められないとしても,イ号物件の販売価格は,控訴人の定価表(甲39)によれば,本体価格の平均価格が8万6870円,ストローク調整ユニットの平均価格が1万1823円,オートスイッチの平均価格が6340円であることから,10万5033円となる。
c この点について原判決は,代理店等を介する取引の割合が多いものと推測され,値引販売が行われていることが認められるとして,平均販売価格を5万8477円(約44.3%の値引き)と認定しているが,不当である。常識的にみて,44パーセントもの値引きが行われることは考えられないし,仮に値引きが行われているとすれば,市場占有率を拡大し大量に販売することによって利益を拡大することを目的とするものであって,被控訴人は,控訴人がイ号物件を値引き販売することによって多大な損害を被っているのに対し,実用新案権侵害による損害の算定において,当該値引き後の価格を採用するとすれば,いわゆる侵害のし得を許すことになり,極めて不当である。また,上記定価表記載の低額な価格の記載は,いわゆる卸し価格と考えられるところ,被控訴人は,各販売代理店と販売契約を締結して,各販売代理店によるイ号物件の販売を管理し,各販売代理店は,いわば控訴人の管理下で,控訴人による販売を代理しているものであるから,損害額の算定に当たっては,卸し価格ではなく,最終販売価格を基礎とすべきである。実際,実施料を定めるに当たっては,実用新案権の効力が対象製品の製造行為のみならず販売行為にも及ぶことから,一般に最終的な顧客渡し価格を基準とするのが通常であるから,最終販売価格を採用すべきである。
また,上記の価格は,本件考案について被控訴人が締結している実施許諾契約書に基づく1本当たりの実施料の平均1万2659円であり,同契約に基づく平均実施料率12パーセントで除して算出される平均販売価格10万5492円と近似することからしても,被控訴人主張の額を販売価格として採用するのが相当であることが明らかである。
(イ) 販売数 控訴人は,平成7年1月から平成12年10月までの間に,イ号物件を3万1131本製造販売したことを自認している。
(ウ) 寄与率 原判決は,イ号物件は,ストローク調整ユニット及びオートスイッチと組み合わせて販売されているところ,これらの物はイ号物件本体に付属する部品に過ぎず,イ号物件に完全に依存して販売されるものであることなどから,本件考案のイ号物件に占める寄与率は,90パーセントを相当とするが,不当である。
これらの部品は,いわば本体と一体的に販売して利益を得るものであって,被控訴人は当然にその分の損害も被っているのであるから,イ号物件の販売に伴う損害の対象に含めるべきであって,寄与率は100パーセントとするべきである。損害額の算定に当たっては,権利侵害を行った者に利益を保有することを奨励するような判断が行われるべきではない。
(エ) 実施料率 被控訴人は,本件権利を同業他社に販売金額の12パーセントの実施料で実施許諾し,その実施料の支払を受けていた(甲41)のであり,本件権利の実施に対し通常受けるべき金銭の額(平成11年1月1日からは,実施に対し受けるべき金銭の額)は,イ号物件の販売金額の12パーセントとされるべきである。
原判決は,控訴人と被控訴人との販売規模の格差や,控訴人の販売実績等からみて売上げ増加に貢献している面があると考えられること等を勘案して,実施料率を10パーセントとするのが相当と判断しているが,侵害のし得を許すもので不当である。実施料相当の損害額に関する法の規定が,平成10年の改正により,「実施に対し通常受けるべき金銭の額」(改正前の法29条2項)から「通常」という語が削除されて,「実施に対し受けるべき金銭の額」(法29条3項)と改められたのは,「侵害のし得」を許さず,実施料相当額は実用新案権の侵害による損害賠償額の最下限であって,それ以上の賠償請求も許されることを明らかにする趣旨である。同趣旨に鑑みても,またイ号物件は利益率の高い製品であり,控訴人の限界利益率は35パーセントを下ることはないこと等を考慮すると,実施料率が12パーセントであっても決して高いとはいえない。
(オ) 以上によれば,実施料相当損害金は,(ア)販売価格に,(イ)販売数及び(ウ)実施料率を乗じた3億9237万3878円となる。
(ア)105,033円×(イ)31,131本×(ウ)12%=392,373,878円 イ 弁護士費用 被控訴人は,控訴人による本件権利の侵害のため,訴訟代理人に本訴の提起を依頼せざるを得なかったところ,控訴人の不法行為と因果関係を有する上記費用は,認容額の10パーセントを下るものではなく,少なくとも上記アの1割に相当する3923万円が認められるべきである。
ウ 結論 よって,被控訴人は,控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償の内金として,上記ア及びイの合計額4億3160万3878円のうちの4億2614万4000円並びに内4560万円に対する履行期後であることの明らかな平成8年8月28日から,内3億8054万4000円に対する同様の平成14年7月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(控訴人の主張) ア 実施料相当損害金について (ア) 販売価格 イ号物件の販売金額合計は,平均販売単価は,5万8477円である。センサー等のオプション品代金額は含ませるべきではない。
被控訴人は定価表の金額を基準として主張するが,定価表は,公示価格であって単なる目安であり,実際にその価格で販売されることは稀であり,それが業界の実情である。また,被控訴人が値引きと断じて論じているもののは,実質的な「値引き価格」ではない。イ号物件の大部分が,特約店や代理店を介して販売されるものであり,公示価格による販売はそもそも予定されていないのであるから,いわゆる定価を基礎として損害額を算定するのは不当である。また,控訴人は値引き販売をダンピングとして非難するが,企業努力によって販売価格を低減させた上,市場に提供したに過ぎないのであって,批判は当たらないし,結果的に紛争が生じたものの,イ号物件は本件考案を文言侵害していないことは明らかであるから,本件において,実用新案登録製品を完全にコピーした模倣品を製造販売した者に対するような主張をすることは失当である。被控訴人が,侵害者が高い利益を得たと認識するのであれば,実施料相当額の請求ではなく,逸失利益の損害賠償請求を積極的に行えば足りるのであるから,侵害のし得防止等を強調する被控訴人の主張は失当である。
また,被控訴人は,控訴人が代理店販売システムをとっているなどとして,最終販売価格を基準とすべき旨主張し,一般的にも,同価格を基準として契約を締結するのが通常であるなどと主張とするが,否認する。これらの点については何らの立証もないし,代理店による販売行為によって,自己の権利が侵害された場合には,侵害者たる各代理店に請求するのが当然である。
なお,法29条の3の改正趣旨は,黙って侵害した方が得になり,侵害行為を助長しかねないことや,当事者の業務上の関係,新会社の得た利益等訴訟に表れた諸般の事情が考慮されないことになる等の問題点は,「通常」という文言の存在によるところが大きいと考えられたためであり,被控訴人の主張するような趣旨によるものではない。
(イ) 販売数 認める。
(ウ) 寄与率 本件考案は,無効審決,訂正審判請求,審決取消請求等を繰り返してきたこと自体から明らかなように,格段の進歩性がある考案とはいえないものである。周知技術であるロッドレスシリンダの基本形,すなわち,本体上部に移動自在に連結板を設け,本体に設けられたスリットを介してピストンの動きに応じて連結板を変位させ,ワークを移送するものと比較すれば,その寄与率は44.59パーセントであり,45パーセントを超えることはない。原判決が90パーセントもの寄与率を認めたのは失当である。
(エ) 実施料率 甲79(実施契約書)は,本件考案以外の2つの知的財産権をも含むものについての実施料を定めたものであるから,本件考案についての実施料率が当然に12パーセントと認められるものではない。
一般産業用機械の最頻値は5パーセントであり,平成7年以降については,更に平均値は下落していること,金属加工機械のイニシャルペイメント条件のないものに係る昭和63年から平成3年までの実施料率の最頻値は,2パーセントであり,平均実施料率は3.75パーセントである。ハード系技術のロイヤルティーの多くが5パーセント未満であること,8パーセント以上の実施料率が設定されるのは,特殊な目的でのみ使われるなどの理由で,生産数量が小さいなどの特別事情がある場合と認識されていること等からすれば,実施料率は3パーセントを上回るものではない。原判決が10パーセントもの高率の実施料率を認めたのは失当である。
ウ 弁護士費用について 本件権利は,いったん従来技術によって無効とされていることから明らかなとおり,無効事由を包含しているから,弁護士費用の請求は失当である。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求のうち,1億7383万9240円及び内4560万円に対する平成8年8月28日から,内1億2823万9240円に対する平成14年7月2日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきであると判断するが,その理由は,以下のとおりである。
(1) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((ア)イ号物件の「摺動子50」が摺動する部分は,構成要件Bの「バレルの・・側壁の一方のみに・・案内レールを・・突設し」の充足を否定するか。)について ア 法26条,特許法70条1項は,「特許発明(考案)の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求(実用新案登録請求)の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」とし,同条2項は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求(実用新案登録請求)の範囲の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求(実用新案登録請求)の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定する。これらの規定の趣旨からすると,実用新案権請求の範囲に記載された文言の意味内容を解釈するには,その言葉の一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された発明の目的,技術的課題,その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び作用効果並びに図面をも参酌して,その文言により表現された技術的意義を考察した上で,客観的,合理的に行うべきである。ただし,実用新案請求の範囲は,実用新案権の及ぶ範囲を画し,第三者に対してこれを明示する作用を有するものであるから,上記のように周辺事情を斟酌する場合も,請求の範囲に記載された文言の通常の意味以上に考案技術的範囲を拡大するような解釈をしてはならないことはいうまでもない。
イ ところで,本件考案は,前記のとおり,ピストンロッドを有しないいわゆるロッドレスシリンダについての考案であるところ,本件考案明細書(甲1,37,59)によれば,(ア)同シリンダは,構造上,ドライバーに軸芯と直角方向の加重が作用すると,加重方向(明細書添付の第2図面においては,右又は左)に倒れ,スリットの側壁及び2本のバンドに摺接しながら移動することによって摺動抵抗が増大し,正確な直線移動が行い得なくなる欠点があり,また,シリンダへの圧流体の供給によって,バレルが押し広げられてスリットが広くなる傾向があるため,これによって上記の欠点がさらに助長される欠点を有していたこと,(イ)従来技術は,これを是正しようとするものであったところ,このうちの1つは,ドライバーが傾倒する欠点は防止することができたものの,正確な直線移動を行うためのガイドロッドや左右のガイドレールの機構をシリンダと別個に設けなければならなかったため,装置の大型化の欠点を有し,他の1つは,圧流体の供給に起因するスリットの広がりによって,ガイドレールのゲージがともに広がることによる摺動抵抗の増大という欠点を有していたたこと,(ウ)本件考案は,上記のような欠点を有する従前技術を改良するため,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには,その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し,そのベース上に棒状の案内レール(スリット幅方向の両外側にピストンの軸心と平行な案内面をそれぞれ備えたもの)を一体に突設し,この案内レールによって片持ち状態でドライバーを案内する構成を採っていること,(エ)このような構成を採ることにより,前記「第2 事案の概要」3(2)オ記載のとおりの作用効果(主として,@ドライバーにピストンの軸心と直角方向の負荷が作用してもドライバーが傾倒することなく直線運動を行うことができること,A圧流体の供給によりバレルがふくれても支障なくドライバーを案内することができ,最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となること,B装置の小型化)が得られるようにしたものであることが認められ,技術常識を考え合わせれば,本件構成要件B及びCの技術的意義は,上記の作用効果(前記「第2 事案の概要」3(4)カ記載の特許庁の審決(甲66)によれば,「側壁がスリット幅方向へ傾倒する場合でも,案内レールの移動や両案内面間の距離変動を防止でき,側壁の下方部に突設したベース上の案内レールの案内面により正確に直線案内できるという効果も生じるものと考えられる。」)をもたらす点にあると考えられる。
上記のような本件考案の課題及び効果,ロッドレスシリンダの分野においては,「案内」がドライバーを正確に(精密に)導くことを意味すると解されること(乙2,3,5の1等)からすると,構成要件B,Cの「案内レール」は,構成要件Cで示されるとおり,スリットの幅方向の両外側に(すなわち,互いにその背面が向き合って),前記軸芯と平行な(すなわち,上記変位の移動方向と直交する)2つの案内面を備えることを要し,しかも,シリンダの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用しても,ドライバーを傾倒することなく正確に案内し(導き),保持する機能を果たすためのレール状のものを意味すると解され,そのような機能を有するものが,「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみ」に設けられていることを要するというべきである。
ウ この点について,控訴人は,イ号物件の摺動子50が摺動する部分は構成要件Bの「案内レール」に相当する機能を有し,他方の案内レールとともに両持ちで負荷を担持し案内している旨主張し,上記構成要件Bを充足しないとする。
そこで検討すると,摺動子50は,原判決別紙イ号物件目録記載のとおり,その中央部で一体になっている係合部52(118)と摺動部55とで形成されており,係合部52と摺動部55(122)との間には対向する1組のスリット58が形成され,係合部52と摺動部55の両端部が上下,左右に撓むようになっていること,そして,係合部52は,側方に張り出す係止片53を備え,係止片53がバレル1Aの上面に載置され,一方の側面がバレル1Aの溝60の一方の内側面に対面すること,他方,摺動部55は,両端部の外側の側面が張り出すように幅広く形成されるとともに両端部が高くなるように上側へ折り曲げ形成され,中央部がバレル1Aの上面に載置され,両端部の上面が凹部48の天井面に対面し,両端部の張り出し側面が凹部48の一方の側面に対面すること,以上の構造を有していることが明らかであり,その係止片53及び摺動部55がバレル1Aの上面及びバレル1Aの溝60に沿って摺動することが看取できる。
しかしながら,証拠(乙28の1ないし15,甲29)及び弁論の全趣旨(控訴人の平成12年9月1日付け準備書面(原審)の第一の三参照)によれば,摺動部55は,連結板14の下面に対面してはいるが,連結板14に対して無負荷ないし軽負荷の場合,摺動部55と連結板14との間若しくは摺動部55とバレル1Aの上面との間に,肉眼によってもその存在が容易に判別し得る程度の間隙が存在する。ただし,原判決別紙イ号物件目録の第7図及び乙43によれば,摺動部55の厚さは均一であるものの,その両端が上方に向かってゆるやかに湾曲しているものと認められるため,切断面の位置によって上記間隙が生ずる位置は異なるものと推認されるが,いずれにせよ各切断面において合計値としては同一の間隙が存在するものと考えられる。連結板14に対して13キログラム(イ号物件における最大荷重とされる27.5キログラムの約半分)の負荷を掛けた場合,両者の間隙が消失し,摺動部55は連結板14の下面とバレル1Aの上面に接すること,摺動子50(摺動部及び係合部)は,樹脂製であって,素材自体,撓みを許す性質のものである上,形状的にも,摺動部55と係合部52とは中央部で一体となってはいるものの,両端部にはスリットが形成され,撓みを許す構造になっていること,以上の事実が認められる。これによれば,摺動部55は,連結板14に掛かる負荷が増加した場合等に連結板14を支持する機能を有することは否定できないものの,それ以外の場面においては,その弾性に由来する一定の反力が作用して,ドライバーの安定を保つことにある程度貢献するとしても,その効果は「案内レール」の効果に比して極めて限定的なものであり,未だ前示のような「案内レール」に相応する作用効果(シリンダの作動中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーを傾倒することなく案内保持する機能)を有すべきものとは認められず,専ら他方の案内レールによって本件考案における構成要件B及びCの有する技術的意義が実現されているというべきである。
上記の点に関し,控訴人は,証拠(乙24,25,31,63)を援用して反論する。乙24,25には,イ号物件(メカジョイント式ロッドレスシリンダMY1H25)を横向きに取り付け,摺動子50を取り外して連結板に軸芯と直交する方向の負荷を加えた場合に,負荷の大きさ(1キログラムから6キログラム)に比例して連結板の変位量が増大するのに対し,摺動子50を取り付けて同様の負荷を加えた場合には,比例的に生ずる摺動子の反力によって変位することはない旨の記載があり,乙31,63には,上記イ号物件に摺動子がある場合,負荷荷重の大きさに比例して増大する連結板の変位量が,摺動子がない場合のそれと比較して小さい旨の記載がある。しかしながら,乙24,25については,前記のとおり,摺動部と連結板との間若しくは摺動部とバレルの上面との間には,肉眼によっても判別し得る程度の間隙があるところからすると,少なくともその間隙が消失するまでは,負荷に比例して変位が生ずるはずであり(控訴人提出の乙31も変位が生ずることを示している。),更に負荷が大きなものになると,樹脂製の摺動子自体の変形も予想されるから,乙24,25は前記判断を覆すものとはいえない。また,乙31,63については,摺動子が取り付けられている場合とそうでない場合で,横荷重についてある程度変位の生じ方に差があることが看守されるものの,乙63については,当該横荷重の大きさは同証拠自体からは明らかでない上,いずれも限定的な範囲にとどまるものであって,これらの数値をもって,上記のような「案内レール」に相当する機能を果たすものと認めるには足りないといわざるを得ない。
エ したがって,イ号物件は,案内レールと摺動子の両持ち状態でドライバーが案内される構成であるとする控訴人の主張は採用できず,専ら案内レールによって片持ちで案内されているものというべきであるから,構成要件Bを充足することになる。
(2) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((イ)イ号物件の案内レールは,構成要件Bの「棒状の案内レール」,構成要件Cの「その案内レール」に当たるか)について 原判決「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(3) 争点(1)ア「構成要件B及びCの充足の有無」((ウ)構成要件Bの「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」に一体となって突設される「ベース」を充足するか。)について 原判決「第3 当裁判所の判断」の4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(4) 争点(1)イ「構成要件Dの充足の有無」(構成要件Dの「案内子をドライバーに設け」を充足するか。)について 原判決「第3 当裁判所の判断」の5に記載のとおりであるから,これを引用する。
(5) 争点(1)ウ「イ号物件は,本件考案均等といえるか。」について ア 構成要件Aの「スチールバンド」は,「スチール」の材質からなる「バンド」の意味と解されるところ,イ号物件においては,これが存在せず,「樹脂製」の「バンド」によって構成されているから,構成要件Aの「スチールバンド」を充足しない。したがって,イ号物件は,本件考案を文言侵害しないことは明らかである。
イ 被控訴人は,上記の相違にかかわらず,イ号物件は,本件考案請求の範囲に記載された構成と均等なものとしてその技術的範囲に属する旨(均等論)主張する。
一般に,実用新案権侵害訴訟において,相手方が製造等をする製品(以下「対象製品等」という。)が考案技術的範囲に属するか否かを判断するときは,願書に添付した明細書請求の範囲の記載に基づいて,その技術的範囲を確定しなければならず(法26条,特許法70条1項),請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には,これらの対象製品等は,考案(実用新案権)の技術的範囲に属するということはできない(したがって,権利侵害は存しない)のが原則である。しかし,(ア)出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書請求の範囲を記載することは極めて困難であり,相手方において,その構成の一部を出願後に明らかになった物質・技術等に置き換えることによって,実用新案権者による権利行使を容易に免れることができるとすれば,考案の保護・奨励を通じて産業の発達に寄与する等の法の目的に反するばかりでなく,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるのであって,このような点を考慮すると,考案の実質的価値は,第三者が請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当である。他方,(イ)考案の出願時において公知であった技術や,当業者が出願時にこれから容易に推考することができた技術については,そもそも何人も実用新案権を受けることができなかったはずのものであるから(法3条),対象製品等がそのようなものであれば,考案技術的範囲に属するものということはできないし,(ウ)出願手続において出願人が請求の範囲から意識的に除外したなど,考案者の側においていったん考案技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとった等,権利者が後にこれと反する主張をすることが,禁反言の法理に照らし許されないといった事情が存在する場合には,当該考案について保護は与えられるべきではない。
したがって,以上を総合すると,上記のように対象製品等に考案の構成要件と一部に異なる部分が存する場合であっても,@当該部分が考案本質的部分ではなく,A当該部分を対象製品におけるものと置き換えても,考案の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品が,考案の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつD対象製品が考案の出願手続において登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,その対象商品等は,実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,考案技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成10年2月24日第3小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
ウ そこで以下検討すると,まず@の本質的部分とは,登録請求の範囲のうちで,先行技術と対比して当該考案特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,当該部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該考案の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。
そのような本質的特徴に係る構成要件を欠く場合には,もはや対象製品等は当該考案と技術的思想を異にするものであって,同一の技術という余地はないと考えられるからである。
しかるところ,本件明細書によれば,本件考案はピストンロッドを有しないいわゆるロッドレスシリンダについての考案であること,ロッドレスシリンダは,バレルに封入したピストンに一体に止着したドライバーの先端を,バレルの長手方向にピストンの軸線と平行に穿設したスリットにより外部に突出させ,2本のバンドのうちインナーバンドにて圧流体を密封するとともに,アウターバンドにてスリット内の防塵を行うように構成され,圧流体供給口よりバレル内に圧流体を供給することにより,ピストンと一体構成のドライバーがスリット内において左右に移動し,ドライバーによって被移送体を移送する構造になっていること,そして,スリットはドライバーの摺動抵抗を少なくするため,スリットの側壁とドライバーとの間に遊隙が設けられていること,そのため,このままの状態でシリンダを作動させ被移送体を移送させると,ドライバーに軸芯と直角方向の荷重が作用した場合には,その荷重方向によって右又は左(本件明細書第2図参照)に倒れ,スリットの側壁と2本のバンドに摺接しながら移動するので,摺動抵抗を増大させるばかりでなく,正確な直線移動を行い得なくなり,精密機械に使用することは適当でなくなる問題が生じること,さらに,シリンダは圧流体を供給することにより,バレルが押し広げられてスリットが広くなる傾向があり(この広がり幅は圧流体の圧力の強弱,ピストンのストロークの長短等の条件により種々変化する),そのため上記の欠点は更に助長されること,このような欠点を是正するために,従来は,ドライバーに案内子を取り付け,この案内子をガイドロッドによって案内する方法か,バレル上面の左右の稜角部にガイドレールを取り付け,この左右のガイドレールによってドライバーを案内する方法がとられてきた(本件明細書第4図参照)こと,しかし,上記の各従来技術によれば,ドライバーが傾倒する欠点は防止することができるが,ガイドロッドによって案内する方法は,ガイドロッドをシリンダと別個に設けなければならないため装置が大型になり,また,バレルの稜角部にガイドレールを設ける方法は,圧流体の供給によってスリットが広がることにより,ガイドレールのゲージも共に広がり,摺動抵抗が増大するおそれがあるという欠点を有していたこと,本件考案は,上記欠点を解決するために,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,その側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に設け,その上にスリット幅方向の両外側に案内面をそれぞれ備えた棒状の案内レールを一体に突設して,片持ち状態でドライバーを案内することによって,装置を小型化しつつ,圧流体が供給されてピストンの軸芯に負荷が作用してもドライバーが左右に傾倒することなく,摺動抵抗を極めて小さくして,ドライバーを支障なく正確に案内できるようにしたもの(かつセンサスイッチ等の制御機構の取付けにも支障ないようにしたもの)であること,以上の事実が認められる。
これによれば,本件考案の特徴は,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,その側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に設け,その上にスリット幅方向の両外側に案内面をそれぞれ備えた棒状の案内レールを一体に突設して,片持ち状態でドライバーを案内することによって,装置を小型化しつつ,圧流体が供給されてピストンの軸芯に負荷が作用してもドライバーが左右に傾倒することなく,摺動抵抗を極めて小さくして,ドライバーを支障なく正確に案内できるようにしたことにあり,この構成が本質的部分であると認められる。他方,ロッドレスシリンダにおいて,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込めるものとして,スチールバンドを用いることは,本件考案本質的部分でないことも明らかである。
この点について,控訴人は,構成要件Aは,いわゆる「おいて書き」の形式で記載され,本件考案の前提要件であるから,「スチールバンド」は,本件考案本質的部分である旨主張するところ,なるほど,「おいて書き」に記載される構成は,公知技術や上位概念を表示する場合の用語例として用いられることが多いことは否定できないが,本質的部分か否かは,その記載形式だけで決定されるものではなく,前記のとおり,従前技術と比較して,当該考案の特徴がどの部分に存在するかを実質的に考察して判断すべきものであるところ,上記のとおり,本件考案本質的部分が,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁のうち,一方のみに案内レールを突設して,片持ち状態でドライバーを案内することにあると認められるから,控訴人の主張は採用できない。
エ 次に,前記のとおり,構成要件Aの「スチールバンド」は,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込める作用効果を有しているところ,この目的,作用効果を達成するためのバンドが鋼製でなければならないという技術的理由は見当たらず,イ号物件の樹脂製のベルトも,同様の目的,作用効果を有していることは,その構成から明らかであるから,Aの置換可能性を肯認することができる。
この点について,控訴人は,樹脂製バンドが,「スチールバンド」と比較して,種々の利点を有すると主張し,両者の作用効果が同一であることを否定するが,本件考案における「スチールバンド」が果たすべき役割は,上記のとおり,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込めることにあり,かつそれでもって足りるから,樹脂製バンドが,この役割を果たすに際して,「スチールバンド」が有していない利点を持っているとしても,置換可能性が否定されるものではなく,控訴人の上記主張は,採用できない。
オ 続いて,Bの要件について判断するに,証拠(甲3,乙3,5の1,2)によれば,ロッドレスシリンダにおいて,スリットを密封するシールバンドとしてスチールバンド又は樹脂製バンドを用いることは,本件考案出願当時において公知であったと認められ,これに照らせば,イ号物件の製造開始時において,当業者は,「スチールバンド」を樹脂製バンドに置き換えることを容易に想到することができたというべきである。
カ さらに,控訴人は,Cの要件に関し,イ号物件は,公知技術1,公知技術4及び公知技術5を併せれば,当業者が極めて容易に推考できた旨主張するが,この点に関する判断は後記(2)のとおりであり,上記の各公知技術によって,本件考案ひいてはイ号物件を容易に推考できたと認めることはできない。
キ 最後に,控訴人は,本件出願時に樹脂製バンドは既に存在し,容易想到であり,上位概念である「シールバンド」という用語を用いるについて何の支障もなかったにもかかわらず,被控訴人は,出願に際し,あえて(誤って)樹脂製バンドを含まない「スチールバンド」という文言で請求の範囲特定し,これを訂正することなく放置しているというのであるから,そもそも予見不可能な構成要件を備えた被疑侵害品の出現による不利益・不公平の防止を目的とする均等論を適用する余地はなく,不作為による意識的除外(Dの要件)に該当するか,包袋禁反言の法理により,これに反する主張をすることは許されない旨主張する。
確かに,出願人は出願に際し,自由にその請求の範囲を確定し得ること,また,請求の範囲が,先に述べたとおり,実用新案権の及ぶ範囲を第三者に対して明示する根幹的な役割を果たすものであることからすれば,周辺技術を開発しようとする第三者に対し不合理な危険を強いる結果になることは,厳に慎まなければならない。しかしながら,本件考案の技術的特徴及びその課題と効果は先に判示したとおりであり,「シールバンド」が属する構成要件Aは公知であって,本件考案において,その本質的部分ないし技術的特徴に関する限り,スリットを密封するシールバンドの材質が何らの技術的意味も有しないことは,当業者であれば,一見明らかにこれを知り得るものというべきである。そして,被控訴人が,本件考案の出願手続において,樹脂製バンドによる構成を意識的に除外したと認めるに足りる証拠はない(甲1によれば,本件明細書中の考案の詳細な説明にも,従来技術の説明においてロッドレスシリンダの一般的な構成を示すために1回だけ「スチールバンド」の用語が使用されているにすぎないことが認められる。他の案件に関しいかなる用語を使用していたかは,本件の判断を左右するに足りない。)。均等論の本質が,前記のとおりの点にあって,本質的でない文言の相違によって保護を否定される権利者と第三者との間の利害を法の趣旨及び正義,衡平の観点から調整を試みようとするものであることに鑑みると,本件のように構成要件を異にする部分が考案と実質的に同一の範囲に属することを第三者が一見明白に知り得るような場合には,これに考案技術的範囲が及ぶことを予想することを強いる結果となったとしても,なお衡平に悖るとは言えないというべきである。
控訴人は,包袋禁反言の法理を援用するが,上記の法理は,例えば出願中の審査官からの登録拒絶通知又は無効理由通知に対応して,権利者がその権利の登録ないし存続を図るべく,権利の範囲を限定し,あるいはそれを明確ならしめる特定文言を付加したなどの事情が存する場合に,後日,これに反する主張をすることは,信義則によって禁じられるという内容であるところ,本件のように,より広義の用語を使用することができたにもかかわらず,過誤によって狭義の用語を用い,かつ広義の用語への訂正をしない(このような訂正が許されるか否かはともかく)というだけでは,均等の主張をすることが信義則に反するといえないというべきである。
ク したがって,樹脂製ベルトを用いたイ号物件は,「スチールバンド」を構成要件Aの要素とする本件考案均等であり,同考案技術的範囲に属するものと解するのが相当である。
(6) 争点(2)「本件考案は,新規性(公知の擬制に係るものを含む。)ないし進歩性を欠くことから明らかに無効である(法3条1項,2項,3条の2)として,本件権利に基づく請求は権利濫用に当たるか」及び同(3)「本件考案は,平成10年法律第51号改正前の法5条4項,37条1項3号に違反し,無効か」について 実用新案権に無効理由が存在することが明らかであるときは,その権利に基づく損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり,許されないものとされているが,本件では,前記「第2 事案の概要」3(4)カないしク記載のとおり,無効審判について請求が成り立たない旨の審決がなされ,これが確定した。証拠(甲66,77)に前記前提事実及び弁論の全趣旨を併せ鑑みれば,本件において,本件考案の無効原因として主張されている事実及び証拠は同一であるものと認められる。したがって,本件において,控訴人の主張するような無効理由が存在することが明らかとは言えないし,実用新案権登録無効の審判の確定審決の登録があったときは,何人も,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することはできない(法41条,特許法167条)のであって,上記と異なる判断がされる可能性もない以上,その余の点について判断するまでもなく,これらの争点に係る控訴人の主張は理由がない。
(7) 争点(4)「損害」について ア イ号物件の販売代金総額 証拠(甲39)によれば,イ号物件の1本当たりの定価は,本体の平均価格が8万6870円,ストローク調整ユニットのそれが1万1823円,オートスイッチのそれが6340円とされており,その合計額は10万5033円であることが認められる。
しかしながら,一般に,実際の販売価格が定価を下回る状況はまれではなく,特にイ号物件は一般産業用機械であり,大半が特約店や代理店等を介して取引されているものと推測できるから,定価を相当程度下回る価格で販売しているものと考えられる。証拠(乙47)によれば,その平均販売単価は5万8477円であり,合計販売代金総額が18億2043万6000円であると記載され,この金額を上回る金額で販売されたことを裏付ける証拠は見当たらないことからすると,定価は名目上のものにすぎず,上記金額をもって控訴人の販売代金総額であると認めるのが相当である。
この点,被控訴人は,控訴人は販売代理店方式を採用して自社製品を市場に流通させているところ,そのような流通方式を採る製造会社としては,仮に販売代理店等への販売価格が定価を下回っていたとしても,販売代理店の販売についても一定の管理を行い,利益を得ている以上,最終販売価格を基礎として実施料相当額を算定すべきである旨主張する。しかしながら,本件全証拠に照らしても,控訴人の採用する販売方式ないし販売代理店等との関係,利益分配率等についての実態を認めるに足りる証拠は見当たらないから,被控訴人の主張は採用の限りでない。
また,控訴人は,上記ストローク調整ユニット等の本体以外の価格は控除されるべきである旨主張するが,その点については,下記イ(寄与率)において考慮することとする。
イ 寄与率 前記のとおり,イ号物件は,ストローク調整ユニット(定価の平均価格が1万1823円)及びオートスイッチ(同6340円)と組み合わされて販売されているところ,ストローク調整ユニットやオートスイッチは,ロッドレスシリンダ本体に付属する部品にすぎず,その機能や購入の動機づけにおいては,これに完全に依存した部品と考えられることなどを考慮すると,本件考案のイ号物件に占める寄与率は,90パーセントをもって相当と判断する。
ウ 実施料率 一般に,実施料率の算定に当たっては,権利者の実施状況,実施契約の状況,侵害された権利が基本的技術か又は改良的技術か,従前技術との距離,イ号物件において果たしている重要性,商業的実施における困難性,実施に際し更に投資を要するものであったか否か,当該権利の技術内容と程度,控訴人の規模,控訴人製品の単価数量等,当該事案における諸般の事情に加え,平成10年法律第51号による改正によって,現行の実用新案法29条3項の規定が新設された趣旨を総合的に考慮して,相当な割合を算定すべきである。
これを本件についてみるに,前記のとおり,本件権利は,ロッドレスシリンダの分野においては,小型化しつつ正確な直線運動を確保し得る,有用性の高い考案を対象とするものであること,他方,製造については,特段複雑な工程を要するものではなく,利益率は高いと考えられること,控訴人は,空圧機器で世界シェア2割,国内シェア5割を占める大手の会社であり,被控訴人と比較して規模に格段の相違があること(甲40),控訴人において相当数の販売実績を有し,その販売数量が増加傾向にあること(乙47),それが,控訴人の上記シェアの拡大,維持に貢献していると考えられることが認められる。
一方,本件考案は,基本的に改良発明型の考案であり,先に認定したとおり,本件考案については,数次にわたる無効審決や訂正審決等が繰り返されてきたことからもうかがわれるように,当初出願の時点においては,必ずしもその技術的範囲に明らかでない部分があったこと,その意味で控訴人の実施態様ばかりを責めることはできないこと,イ号物件は,控訴人の技術と努力によって本件考案に更に改良を加えたものであることがうかがわれること等の事情が存在する。
そして,被控訴人は,本件権利を同業他社に販売金額の12パーセントの実施料で実施することを許諾し,その実施料の支払を受けていたことが認められるものの,実施契約はこの1件のみで,販売数量も少ない上,本件実用新案権以外に意匠権等も併せてその使用を認める契約であること(甲41)が認められるから,同実施料率をただちに採用することはできないといわざるを得ない。
その他本件に顕れた上記の諸般の事情を総合考慮すれば,本件において相当な実施料率は,10パーセントと判断するのが相当である。
この点について,控訴人は,発明協会発行の「実施料率」における当該分野の最頻値や平均値を採用すべきである等と主張するが,上記のとおり,各事案における実施料率は,具体的な事情に基づいて個別的に判断されるべきものであり,いわゆる業界相場はその一要素として検討され得るにすぎないから,上記判断を覆すには足りず,控訴人の上記主張は,採用できない。
エ よって,アの金額にイ及びウの各割合を乗じて算出した実施料相当損害金は,1億6383万9240円となる。
オ 弁護士費用 被控訴人が,本訴の提起・追行を訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり,これに本件事案の性質・内容・複雑さ等本件訴訟の経過及び認容額並びに本件実用新案権の存続期間内であれば差止請求が認容されるべきであったこと,その他本件に顕れた一切の事情を参酌すると,被告による侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては,1000万円をもって相当と認める。
(8) 以上の次第で,被控訴人の本訴請求は,損害金1億7383万9240円並びにうち4560万円に対する履行期後であることの明らかな平成8年8月28日から,うち1億2823万9240円に対する同様の平成14年7月2日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
2 よって,原判決は相当であり,控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 青山邦夫
裁判官 田邊浩典
裁判官 手嶋あさみ