関連ワード | 技術的範囲 / 均等 / 間接侵害 / のみ用いる / 逸失利益 / 権利濫用(権利の濫用) / 考案 / 考案者 / 図面 / 構造 / 組合せ / 物品 / 補正 / 進歩性(3条2項) / 新規性(3条1項) / きわめて容易 / 拒絶理由 / 通常実施権 / 独占的通常実施権 / 減縮 / 削除 / 請求項 / 実施例 / 本質的部分 / 同一の作用効果 / 容易に想到 / 公知技術 / 特段の事情 / 寄せ集め / 置換 / 設計変更 / 頒布 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
7271号
意匠権侵害差止等請求事件
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原告A 原告 株式会社ライズ 原告ら訴訟代理人弁護士 上田隆 原告ら補佐人弁理士 福島三雄 被告 山根鉄構建設株式会社 訴訟代理人弁護士 山上和則 同 西山宏昭 補佐人弁理士 盛田昌宏 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/11/26 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告は、別紙被告製品目録1記載の受金具を製造し、販売してはならない。 (2) 被告は、その所有に係る別紙被告製品目録1記載の受金具及び同受金具の製造に供せられる金型を廃棄せよ。 (3) 被告は、原告株式会社ライズに対し、金1440万円及びこれに対する平成12年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は被告の負担とする。 (5) (1)ないし(3)項につき仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 実用新案権侵害 ア 本件実用新案権 (ア) 原告Aは、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。 実用新案登録番号 第2091426号 考案の名称 ステップ用具 出願年月日 平成2年4月13日(平2-129963号) 出願公告年月日 平成7年2月15日(平7-6480号) 登録年月日 平成7年12月1日 (イ) 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、本件考案の実公平7-6480号実用新案公報を、以下「本件実用新案公報」という。)の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(なお、本件考案の実用新案登録出願は、意匠登録出願(平2-12826号)が実用新案登録出願に変更されたものである。)。 「上向きに開口している凹部と、左右両端部において後方向きに突出している屈曲部とを有し、前記屈曲部の後端が建築用鉄骨などに固着されている固着部材と、 帯板が環状に形成されてなり、その一部に前後方向に貫通する貫通穴を有するステップ部材と、 前記ステップ部材の後方側端面に予め固着されている本体部と、この本体部の左右両端から後方向きに突出する突部とからなり、前記本体部は前記貫通穴に連通する連通穴を有しており、前記突部は前記屈曲部の左右外側端面を挟持する間隔に形成されている回転止め部材と、 前記屈曲部の左右内側端面によって回転を阻止される一端部と、前記固着部材の凹部に嵌合可能な大きさを有すると共に前記貫通穴と前記連通穴とに挿通されている胴体部と、この胴体部の他端部に設けられる締め込み部と、を有する固定用部材とを備えており、 前記固着部材の凹部に前記連通穴より後ろ側の胴体部を嵌入した後、前記固定用部材の締め込み部を操作することにより、前記ステップ部材を前記建築用鉄骨などに固定することを特徴とするステップ用具。」 (ウ) 本件考案を構成要件に分説すると、次のとおりとなる。 A 上向きに開口している凹部と、左右両端部において後方向きに突出している屈曲部とを有し、前記屈曲部の後端が建築用鉄骨などに固着されている固着部材と、 B 帯板が環状に形成されてなり、その一部に前後方向に貫通する貫通穴を有するステップ部材と、 C 前記ステップ部材の後方側端面に予め固着されている本体部と、この本体部の左右両端から後方向きに突出する突部とからなり、前記本体部は前記貫通穴に連通する連通穴を有しており、前記突部は前記屈曲部の左右外側端面を挟持する間隔に形成されている回転止め部材と、 D 前記屈曲部の左右内側端面によって回転を阻止される一端部と、前記固着部材の凹部に嵌合可能な大きさを有すると共に前記貫通穴と前記連通穴とに挿通されている胴体部と、この胴体部の他端部に設けられる締め込み部と、を有する固定用部材とを備えており、 E 前記固着部材の凹部に前記連通穴より後ろ側の胴体部を嵌入した後、前記固定用部材の締め込み部を操作することにより、前記ステップ部材を前記建築用鉄骨などに固定することを特徴とする F ステップ用具。 (エ) 本件考案の考案者及び出願人であったBは、本件実用新案権及び後記本件意匠権を登録時から有していたが、平成7年9月2日、死亡し、原告Aが本件実用新案権及び後記本件意匠権を相続により承継した。 Bは、平成4年から、「C」の屋号で、本件考案及び後記本件登録意匠の実施品であるタラップ本体及び受金具(受金具は、別紙原告製品目録記載のとおりである。以下、本件考案及び後記本件登録意匠の実施品であるタラップ、及びそれを構成するタラップ本体、受金具を、それぞれ「原告タラップ」、「原告タラップ本体」、「原告受金具」という。)を製造販売し、同年6月30日、コンドーテック株式会社(以下「コンドーテック」という。)に対し、本件実用新案権及び後記本件意匠権につき、タラップ本体の製造販売について独占的通常実施権を許諾し、以後、コンドーテックは、原告タラップ本体の製造販売を行っている。平成6年5月24日、原告株式会社ライズ(以下「原告会社」という。)が設立され、Bは、同月ごろ、原告会社に対し、本件実用新案権及び後記本件意匠権につき、受金具の製造販売について独占的通常実施権を許諾し、同年6月以降、原告会社が原告受金具の製造販売を行っている。 原告タラップのうち、原告タラップ本体は、使用後、受金具から取り外されて再使用が可能であるが、原告受金具は、柱に溶接されるため、再使用ができず、建設現場では大量に使い捨てされる部品である。 Bが平成4年から製造販売し、その後原告会社が製造販売した原告受金具の数量は、合計約650万個である。このうち、原告会社が平成9年9月21日から平成12年9月29日までに販売した数量は、240万6250個であり、 1か月平均6万6840個であった。 イ 被告製品の製造販売 (ア) 被告は、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに、別紙被告製品目録2記載の製品(以下「被告タラップ1号」といい、その本体を「被告タラップ1号本体」という。)を429個製造販売した。 被告は、平成12年3月1日から、別紙被告製品目録3記載の製品(以下「被告タラップ2号」といい、その本体を「被告タラップ2号本体」という。)及び別紙被告製品目録4記載の製品(以下「被告タラップ3号」といい、その本体を「被告タラップ3号本体」という。)を製造販売している。 (イ) 被告は、別紙被告製品目録1記載の製品(以下「被告受金具」という。)を、平成11年9月1日から平成12年6月30日までに80万個製造販売し、そうでないとしても、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに3万2000個製造販売し、現在も製造販売をしている。 ウ 被告タラップ1号 被告タラップ1号は、本件考案の構成要件をすべて充足し、本件考案の技術的範囲に属する。 エ 被告タラップ2号 (ア) 被告タラップ2号の構成 被告タラップ2号の構成を分説すると、次のとおりである。 a2 上向きに開口している凹部と、左右両端部において後方向きに突出している屈曲部とを有し、前記屈曲部の後端が建築用鉄骨などに固着されている受金具を採用する。 b2 帯板を上底の中央部が開口する台形状に形成し、開口両端部を外側に曲折して一対の突出部を設けるとともに、下底をほぼ全長にわたって断面く字状にくぼませてタラップ部材とする。前記開口を塞ぐように、前記上底内面の広い範囲にわたって重ねて溶接固定されるとともに、帯板の下縁から台形状に延出する大きい金属板を設ける。前記タラップ部材と前記金属板とによって、被告タラップ2号本体を構成する。 c2 前記帯板の開口両端部を外側に曲折して一対の突部を形成し、この一対の突部は受金具の左右外側面を挟持する間隔に形成されて回転止め部を構成する。前記大きい金属板の延出部の端縁部を外側に曲折して、タラップ部材の突出部と直交する抜け止め部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通孔を形成する。 d2 前記貫通穴にボルトを貫通させ、ナットを螺合させて固定部材とする。 (イ) 文言侵害 被告タラップ2号の構成a2は、本件考案の構成要件Aを充足し、構成b2ないしd2は、構成要件BないしFを充足する。 (ウ) 均等成立の要件 考案の構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)その部分が考案の本質的部分ではなく(第1要件)、(2)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、考案の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、(3)そのように置き換えることに、当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、(4)対象製品等が、考案の実用新案登録出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時にきわめて容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、(5)対象製品等が考案の実用新案登録出願手続において実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、その対象製品等は、実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、考案の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。 (エ) 均等 a 構成要件Bにおける相違について @ 均等の第3要件 被告タラップ2号は、被告タラップ2号本体の内面に金属板を溶接した点、環状構造を台形状にした点、抜け止めを設けている点において、本件考案の構成要件Bと相違する。しかし、帯板に金属板を溶接することにより環状構造とし、この金属板に貫通孔を設けることは、後記本件意匠公報、特開平9-328896号公開特許公報(乙第24号証)などに記載されていた。また、本件明細書には、「なお、このステップ部材3は、矩形に限るものではなく、方形や円形でもよく」(本件実用新案公報第4欄10行ないし12行)と記載されており、特開平9-328896号公開特許公報(乙第24号証第4欄31行ないし33行)、特開平7-279407号公開特許公報(乙第25号証第4欄25行ないし36行)にも、ステップ部材の形状は限定されない旨記載されている。さらに、実願昭56-19570号(実開昭57-133707号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第7号証)に記載された抜け止めは、被告タラップ2号の抜け止めと、抜け止め板の形状は同一であり、受金具の下面側に係止して抜け止め効果を奏する点も全く同一である。 したがって、被告タラップ2号は、被告タラップ2号本体の内面に金属板を溶接した点、環状構造を台形状にした点、抜け止めを設けている点において、本件考案の構成要件Bと相違するとしても、均等の第3要件を充足する。 A 均等の第4要件 本件考案においては、固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が、共に固着部材の屈曲部によって阻止されることが特徴的部分であり、この部分において新規性、進歩性があったところ、被告タラップ2号もこの特徴的部分を備えているから、被告タラップ2号は均等の第4要件を充足する。 B その他の均等の要件 被告タラップ2号は、構成要件Bと相違することについて、均等の第1要件、第2要件、第5要件を充足する。 b 構成要件Cにおける相違について @ 均等の第1要件 本件明細書の記載などから、本件考案の本質的部分は、固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が、共に固着部材の屈曲部によって阻止される点にある。構成c2と構成要件Cの相違は、この本質的部分に係るものではないから、構成c2と構成要件Cが相違していたとしても、均等の第1要件は充足される。 A 均等の第4要件 前記aAのとおり、被告タラップ2号は、均等の第4要件を充足する。 B 均等の第5要件 平成6年1月17日付け手続補正書(乙第17号証)によって行われた補正は、考案の内容をより分かりやすくするために行ったものであり、拒絶理由を回避するため又は特定の実施例を回避するために行ったものではない。 補正と共に提出された平成6年1月17日付け意見書(乙第18号証)には、拒絶理由通知に示された引用例に対して新規性及び進歩性を有することの主張として、「すなわち、引用例1が教示するところは、せいぜい『係合部4の空所11に嵌まるような形状の鉤状部15を設けておき、且つ、その鉤状部15にねじ孔6を設けておくこと』に過ぎず、『ステップ部材と、これに固着されている回転止め部材と、これら全体を固定する固定用部材』とからなり、固定用部材の一端部(5a)の回転と、回転止め部材(4)の回転が、ともに固着部材の屈曲部によって阻止される技術は、引用例1には示唆さえされていません。」(乙第18号証3頁9行ないし15行)と明確に記載されている。これは、本件考案が、「固定用部材の一端部(5a)の回転と、回転止め部材(4)の回転が、ともに固着部材の屈曲部によって阻止される」という引用例にはない特徴的部分を有することを主張したものであり、この主張が特許庁によって認められ、本件考案の実用新案登録がされた。出願当初の実用新案登録請求の範囲の記載によっては、この特徴的部分が分かりにくかったことから、出願人Bは、補正を行ったものである。 考案の詳細な説明についての補正は、考案の詳細な説明の記載を、補正された実用新案登録請求の範囲の記載に合わせ、考案の内容を分かりやすくするために図面に使用した符号を付記し、実用新案登録請求の範囲において指示されている方向が分かりやすいように補足説明をしたものである。出願当初記載していた「作用」の欄を削除したのは、「考案の効果」の欄の記載と実質的に重複するのを避けるためである。また、補正により、「ステップ部材から回転止め突部が、径方向外方に向けて突設され、固着部材の脚部を挟持する間隔で左右一対設けられていることにより、ステップ部材が回転するのを防止する。」(出願当初の明細書(乙第15号証)4頁16行ないし19行)という記載が削除されたが、補正後においても、突部(4b、4b)が後方向きに突出し、固着部材の屈曲部(2B、2B)の左右外側端面を挟持する間隔に形成されていることにより、ステップ部材の回転が防止されることが明らかとなっているから、この記載を削除したことにより、明細書に記載された作用が異なるということはない。 したがって、補正によって被告タラップ2号を意識的に除外したという事情はなく、被告タラップ2号は、均等の第5要件を充足する。 C その他の均等の要件 被告タラップ2号は、構成要件Cと相違することについて、均等の第2要件、第3要件も充足する。 (オ) したがって、被告タラップ2号は、本件考案の技術的範囲に属する。 オ 被告タラップ3号 (ア) 被告タラップ3号の構成 被告タラップ3号の構成を分説すると、次のとおりである。 a3 上向きに開口している凹部と、左右両端部において後方向きに突出している屈曲部とを有し、前記屈曲部の後端が建築用鉄骨などに固着されている受金具を採用する。 b3 表面に凹凸のある丸棒材の両端に、一対の特殊な山形形状に形成した一対の帯板の端部をそれぞれ溶接固定してタラップ部材とする。前記一対の帯板の前記丸棒材を溶接した部位と反対側の部位の内面の広い範囲にわたって重ねて溶接固定されるとともに、帯板の下縁から台形状に延出する大きい金属板を設ける。前記タラップ部材と前記金属板とによって、被告タラップ3号本体を構成する。 c3 前記一対の帯板の先端部を間隔を設けて外側に曲折して一対の突部を形成し、この一対の突部は受金具の左右外側面を挟持する間隔に形成されて回転止め部を構成する。前記大きい金属板の延出部の端縁部を外側に曲折して、タラップ部材の突出部と直交する抜け止め部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通孔を形成する。 d3 前記貫通穴にボルトを貫通させ、ナットを螺合させて固定用部材とする。 (イ) 文言侵害 被告タラップ3号の構成a3は、構成要件Aを充足し、構成b3ないしd3は、構成要件BないしFを充足する。 (ウ) 均等 a 構成要件Bにおける相違について @ 均等の第3要件 被告タラップ3号は、タラップ本体の足掛部が、帯板ではなく表面に凹凸のある丸棒材である点において、本件考案の構成要件Bと相違する。しかし、足掛部について、帯板を他の部材に置換すること、足掛部に凹凸を設け滑りにくい構造にすることは、特開平9-328896号公開特許公報(乙第24号証)、特開平7-279407号公開特許公報(乙第25号証)に示されており、 丸棒材を足掛部とすることは、実公昭47-6034号実用新案公報(乙第22号証)に示されているから、タラップ本体の足掛部を、帯板に代えて表面に凹凸のある丸棒材に置き換えることは、当業者が極めて容易に想到し得る程度のことであり、この点で均等の第3要件(置換容易性)を充足する。 被告タラップ3号は、被告タラップ3号本体の内面に金属板を溶接した点、抜け止めを設けている点においても、本件考案の構成要件Bと相違するが、これらの点で相違するとしても均等の第3要件を充足することは、前記の被告タラップ2号について(前記エ(エ)a@)と同様である。 したがって、被告タラップ3号は、本件考案の構成要件Bと相違するとしても、均等の第3要件を充足する。 A 均等の第4要件 被告タラップ3号は、固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が、共に固着部材の屈曲部によって阻止されるという本件考案の特徴的部分を備えているから、均等の第4要件を充足することは、被告タラップ2号について(前記エ(エ)aA)と同様である。 B その他の均等の要件 被告タラップ3号は、構成要件Bと相違することについて、均等の第1要件、第2要件、第5要件も充足する。 b 構成要件Cにおける相違について @ 均等の第1要件 本件考案の本質的部分は、固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が、共に固着部材の屈曲部によって阻止される点にあり、構成c3と構成要件Cの相違部分は、この本質的部分ではないから、構成c3と構成要件Cが相違していたとしても、均等の第1要件は充足される。 A 均等の第4要件 前記aAのとおり、被告タラップ3号は、均等の第4要件を充足する。 B 均等の第5要件 被告タラップ2号について(前記エ(エ)bB)と同様に、補正によって被告タラップ3号を意識的に除外したという事情はなく、被告タラップ3号は、均等の第5要件を充足する。 C その他の均等の要件 被告タラップ3号は、構成要件Cと相違することについて、均等の第2要件、第3要件も充足する。 (エ) したがって、被告タラップ3号は、本件考案の技術的範囲に属する。 カ 被告受金具による間接侵害等 (ア) 間接侵害 a 被告受金具は、原告タラップ本体に使用可能に形成された特定の形状・寸法等を有する製品であり、原告タラップ本体と組み合わせて使用されるが、 その場合は、本件考案の実施品が構成される。被告受金具は、被告タラップ1号、 2号及び3号の構成部分としても使用されるが、被告タラップ1号、2号及び3号は、これまで述べたとおり、本件考案の技術的範囲に属する。そして、被告受金具は、汎用品として他の用途に使用される物ではない。 したがって、被告受金具は、本件考案に係る物品の製造にのみ用いる物に当たり、被告が被告受金具を製造販売する行為は、本件実用新案権を侵害するものとみなされる(平成14年法律第24号による改正前の実用新案法28条)。 b 被告は、被告タラップ2号及び3号が本件考案の技術的範囲に属しないとした上、被告受金具には、被告タラップ2号及び3号の製造に用いるという他用途があるから、間接侵害は成立しない旨主張する。 しかし、他用途として主張されている被告タラップ2号及び3号は、製造に極めて手間のかかるものであり、すべて被告の製造に係り、原告らによる警告後設計変更しつつ製作されたものであり、被告の身近に存在する建設会社へ販売され、被告自身又はそれらの建設会社という極めて狭い範囲で限定的に使用されているにすぎない。したがって、被告受金具の被告タラップ2号及び3号への使用は、形式的、名目的な使用であって、間接侵害の成立を妨げる他用途には当たらない。 c 原告ら以外の者が製造した受金具を原告タラップ本体に使用する行為は、実用新案法2条3項の規定する「製造」に該当すると解すべきである。この「製造」に該当するかどうかという問題は、実用新案権の排他的効力との関連において決する必要があるところ、実用新案権の排他的効力は、競争者による模倣品の製造、使用、譲渡若しくは貸渡し又は模倣品の譲受人若しくは借受人による使用等の行為を排除するが、実用新案権者等が製造、販売した実施品の正当な購入者の使用行為等は排除しない。これは、一般に、実施品の販売等により実用新案権が消尽したからであると説明される。 この実用新案権が消尽することの実質的根拠は、購入者の使用行為等が、実用新案権者等に支払った対価を回収する行為であって、これを認めることにより実用新案権者等の独占的利益の源泉が確保されることにある。仮に、購入者等の使用行為等にも実用新案権の排他的効力が及ぶとすれば、実用新案権者等に対価を支払って実施品を購入する者はまずいなくなるであろうから、実用新案権者等の利益はかえって害されることになる。機械等の部品の取替え行為についても、上記のような実質的な観点を加味して考察すべきである。 このような観点からすると、購入した機械が予定されていた使用目的を達成する前に故障し、購入者が実用新案権者等に支払った対価を予定どおり回収できなくなったために、故障した機械等の機能を回復すべく故障した部品を取り替えるような場合は、支払った対価の回収行為の範囲に属するから、そのような行為は修理として許される。これに対し、購入時に予定されていた使用目的を達成し、実用新案権者等に支払った対価を予定どおりに回収した後に、新たに部品を取り替えて機械を使用するような場合は、取替えの結果、実用新案権者等に支払った対価を超えて新たに考案を利用することになるから、そのような行為は当然に許されるものではないと解すべきである。購入者等が実用新案権等に支払った対価を超えて考案を利用することは、本来実用新案権等に確保されるべき独占的利益を害することになると考えられるからである。部品の取替えは、それが実用新案権者等に支払った対価を超えて考案を利用することになる場合は、もはや単なる修理行為とはいえず、実用新案法2条3項の「製造」に該当し、実用新案権の侵害となるというべきである。 これを本件考案に係る受金具についてみると、本件明細書の記載(本件実用新案公報第6欄3行ないし10行参照)から明らかなように、一度鉄骨等に溶接されて使用された後は、そのまま鉄骨等に固着されたままにされ、一度の使用で取り替えることが本来的に予定されているものであり、実際の使用においても、一度使用された受金具が再使用されることはない。このような本件考案の特質から、原告らは、タラップ本体及び受金具の価格を可能な限り低く抑え、原告タラップを市場に普及させて受金具の販売量を増加させることにより、本件考案を公開することの対価を得ている。そして、原告タラップを普及させるために、購入者等の便宜を考慮し、タラップの販売時には、タラップ本体と当面必要になる受金具を販売し、その後、購入者等の注文に応じて受金具を販売するという態勢を採っているのである。 このようなことからすると、本件考案において予定されている受金具の取替え行為は、考案自体において正常な行為として予定されたものであるから、受金具を消費した本件考案に係るタラップ本体の状態は故障の概念に含まれず、受金具を交換する行為は故障の修理には該当しない。さらに、このことを、支払済みの対価の回収行為といえるかどうかという前記の実質的な観点からみると、 本件考案に係るステップ用具は、一定の耐用性を有するタラップ本体と、一度の使用で取替えが予定されている受金具とからなるものであり、受金具を消費した場合は、タラップ本体は既存のものをそのまま使用し、受金具だけを新しいものと交換して使用することを予定しているものである。受金具の消費量は、工事回数等によって大きく左右され、ステップ用具(タラップ)の購入時にタラップ本体の耐用期間中に必要となるであろう受金具の数量を予測することは容易でなく、これを一括して購入することは事実上困難である。もし、これを一括して購入しなければならないとすると、購入者等に不必要に大きな経済的負担を強いることになり、ひいては、そのようなタラップの購入者等を減少させて実用新案権等の独占的利益の源泉を失わせる結果になりかねない。このような事実に照らすと、本件考案に係るタラップを販売するに当たり、まずは当面必要な受金具を販売し、その後は購入者等の注文に応じて予備の受金具を販売していくというのが本件考案の特質に即した販売方法であり、現実の取引の実情に鑑みても、実用新案権等の独占的利益を確保する方法として許されてよい。 そうすると、上記のような販売方法によって販売された本件考案に係る原告タラップを購入した者が、実用新案権者等から新たに受金具を購入し、これを適宜取り替えて使用することは、支払った対価の回収行為として許されることであるが、実用新案権者等から購入した受金具を消費した後に、実用新案権者等以外の者から新たに受金具を購入するなどして使用することは、実用新案権者等に支払った対価を超えて原告タラップ本体を使用することになり、当然に許されることではない。そのような行為は、実用新案法2条3項の「製造」に該当し、実用新案権の侵害となる。そして、原告タラップ本体に使用されることを知りながら被告受金具を販売する行為は、実用新案権の侵害行為に加担する違法行為である。このように解しても、原告タラップ本体に、実用新案権者である原告A又はその許諾を得た者以外の者が製造した、本件考案に係る原告タラップ本体に適合する汎用品でない受金具を使用する場合のみ本件実用新案権の侵害となるだけであるから、不当ではない。 (イ) 実用新案法27条1項に基づく妨害予防請求権 被告受金具は、原告受金具と形状及び寸法が同一であり、被告は、被告受金具が原告タラップ本体に使用されることを知りながら被告受金具の製造販売を行っている。前記(ア)cのとおり、原告タラップ本体に被告受金具を組み合わせて使用することは本件実用新案権を侵害するから、原告Aは、被告に対し、実用新案法27条1項に基づき、本件実用新案権侵害について妨害予防請求権を有している。 キ 原告会社の独占的通常実施権の侵害 前記ア(エ)のとおり、原告Aは、原告会社に対し、本件実用新案権につき、受金具の製造販売について独占的通常実施権を許諾しており、原告会社は、この独占的通常実施権に基づき、原告受金具を製造販売している。したがって、原告会社は、被告に対し、本件実用新案権の独占的通常実施権の侵害について損害賠償請求権を有している。 (2) 意匠権侵害 ア 本件意匠権 原告Aは、次の意匠権(「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を有している。 登録番号 第841484号 意匠に係る物品 建築用柱取付足場 出願年月日 平成2年4月9日(平2-12234号) 登録年月日 平成4年3月27日 登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり(本件登録意匠の意匠公報を「本件意匠公報」という。) また、原告Aは、本件登録意匠を本意匠とする次の類似意匠の意匠権を有している。 登録番号 第841484号の類似1 意匠に係る物品 建築用柱取付足場 出願年月日 平成2年11月16日(平2-38567号) 登録年月日 平成4年3月27日 登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり(以下「類似意匠」という。) イ 本件登録意匠 (ア) 本件登録意匠の構成 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。 a 基本的構成態様 @ タラップ本体と受金具とからなる。 A タラップ本体は、帯板を略長方形に成形してなる略長方形部と、 略長方形部の前辺中央部に間隔をおいて前方に突出する一対の突部とが形成され、 一対の突部間の略長方形部に前後に貫通する貫通孔が開けられており、貫通孔に、 頭付きボルトが前方から後方に挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている。 B 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている。 C 受金具の屈曲部は、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされている。 b 具体的構成態様 @ 略長方形部は、縦対横の長さの比率が、約1対1.5である。 A 一対の突部は、略長方形部と一連の帯板を屈曲して構成しており、一対の突部間に板片を橋絡、結合している。 B 受金具の凹部はU字形である。 なお、類似意匠の構成は、b具体的構成態様Aが「一対の突部は、略長方形部と別体をなす板片の左右側縁を前方に屈曲して構成されており、この板片は略長方形部に溶接固定されている。」というものであるほかは、本件登録意匠の構成と同じである。 (イ) 本件登録意匠の要部 本件登録意匠に係るタラップは、建設現場等で垂直に立設された鉄骨等に設置され、作業員が昇降するために使用されるものであり、このような使用態様において看者の注意を引く部分が、要部となり得る部分である。 上記の点のほか、本件登録意匠と類似意匠の関係も考慮すると、本件登録意匠の要部は、次の点にある。 @ タラップ本体と受金具とからなる点。 A タラップ本体が、帯板を前辺と後辺とが平行をなすように形成してなる略長方形部と、略長方形部の前辺中央部に間隔をおいて前方に突出する一対の突部とにより形成されている点。 B タラップ本体は、一対の突部間に前後に貫通する貫通孔が開けられており、前記貫通孔に、頭付きボルトが前方から後方に挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている点。 C 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、その中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている点。 D 受金具の屈曲部は、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされている点。 ウ 被告タラップ1号 (ア) 被告タラップ1号の構成 被告タラップ1号の構成は、次のとおりである。 a 基本的構成態様 @ タラップ本体と受金具とからなる。 A タラップ本体は、帯板を後辺が前辺よりやや長い四角形に成形してなる略長方形部と、略長方形部の前辺中央部に間隔をおいて前方に突出する一対の突部とが形成され、一対の突部間に前後に貫通する貫通孔が開けられており、貫通孔に、頭付きボルトが前方から後方に挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている。 B 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている。 C 受金具の屈曲部が、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされている。 b 具体的構成態様 @ 略長方形部は、縦対横の長さの比率が、約1対2である。 A 略長方形部は、前辺対後辺の長さの比率が、約4対5である。 B 略長方形部の後辺における帯板は、断面く字状にわずかに屈曲されている。 C 一対の突部は、略長方形部と別体をなす板片の左右側縁を前方に屈曲して構成されており、この板片は溶接固定されている。 D 受金具の凹部はU字形をしており、該凹部の開口部付近はわずかに面取りがされている。 (イ) 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠の対比 a 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠の共通点は、次のとおりであり、要部において共通している。 @ タラップ本体と受金具とからなる点。 A タラップ本体が、帯板を形成してなる略長方形部と、略長方形部の前辺中央部に間隔をおいて前方に突出する一対の突部とが形成されてなる点。 B タラップ本体は、一対の突部間に前後に貫通する貫通孔が開けられており、前記貫通孔に、頭付きボルトが前方から後方に挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている点。 C 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている点。 D 受金具の屈曲部が、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされている点。 b 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠の相違点は、次のとおりであり、いずれも微差にとどまる。 @ 本件登録意匠のタラップ本体を構成する帯板は略長方形に成形されているのに対し、被告タラップ1号本体の帯板は後辺が前辺に比してやや長い四角形に成形されている。しかし、いずれも四角形の一態様であり、被告タラップ1号の前辺対後辺の長さの比率は、約4対5で、前辺と後辺の差はそれほど大きくなく、しかも、タラップ本体は、手や足をかけて昇降するために使用されるので、前辺と後辺とが平行である点が看者の注意を最も引くところであり、前記相違点は微差にすぎない。 A 本件登録意匠のタラップ本体の略長方形部は縦対横の長さの比率が約1対1.5であるのに対し、被告タラップ1号本体の略長方形部は縦対横の長さの比率が約1対2であるが、縦対横の長さの比率の相違は、看者の注意を引くところとはなり得ず、前記相違点は微差にすぎない。 B 本件登録意匠のタラップ本体の一対の突部は、略長方形部と一連の帯板を屈曲して構成されているのに対し、被告タラップ1号本体の一対の突部は、略長方形部と別体をなす板片の左右側縁を前方に屈曲し、この板片を略長方形部に溶接固定することにより構成されている。しかし、タラップ本体は、手でつかみ足をかけるために使用されるもので、前辺と後辺とが平行な環状に形成されている点に重要な特徴を有しており、この点が看者の注意を最も強く引くところであるから、接合部位における前記相違点は微差にすぎない。しかも、被告タラップ1号本体において一対の突部が形成されている形態は、類似意匠と同一であり、この点からも前記相違点は微差にすぎない。 C 本件登録意匠のタラップ本体の帯板の断面は屈曲されていないのに対し、被告タラップ1号本体においては、略長方形部の後辺の帯板は、断面く字状にわずかに屈曲されている。しかし、タラップ本体全体の意匠からみると、帯板の一部を断面く字状にするか否かの差異は、帯板を環状に形成することに比して、 微差にすぎない。 D 本件登録意匠の受金具の凹部の開口部付近は面取りがされていないのに対し、被告タラップ1号の受金具の凹部の開口部付近はわずかに面取りがされている。しかし、受金具はタラップ本体の突部が挟むように取り付けられ、かつ、ボルト頭部をかけてタラップ本体を受金具に固定するものであるから、受金具が断面コ字形に成形され、かつ、U字形の凹部が形成されている点が看者の注意を強く引くのであって、前記相違点は微差にすぎない。 c そうすると、被告タラップ1号は、本件登録意匠の要部をすべて具備しているものであって、相違点は特に看者の注意を引くものではなく、本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠は、意匠全体として、共通点が相違点を凌駕する。 したがって、被告タラップ1号の意匠は、本件登録意匠と類似する。 エ 被告タラップ2号 (ア) 被告タラップ2号の構成 被告タラップ2号の構成は、次のとおりである。 a 基本的構成態様 @ タラップ本体と受金具とからなる。 A タラップ本体は、帯板を前辺と後辺とが平行な四角形に成形してなる略長方形部と、略長方形部の前辺中央部に間隔をおいて前方に突出する一対の突部とが形成され、一対の突部間に前後に貫通する貫通孔が開けられており、貫通孔に、頭付きボルトが前方から後方に挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている。 B 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている。 C 受金具の屈曲部が、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされている。 b 具体的構成態様 @ 略長方形部は、縦対横の長さの比率が、約1対2である。 A 略長方形部は、前辺対後辺の長さの比率が、約4対5である。 B 略長方形部の後辺における帯板は、断面く字状をなすようにわずかに屈曲されている。 C 一対の突部は、略長方形部と一連の帯板を屈曲して構成しており、一対の突部間を塞ぐように帯板の前辺内側に金属板を溶接している。 D 前記金属板の下端部は帯板から下方に向かってわずかに突出し、 下端部に断面略L字状の抜け止めが形成されている。 E 受金具の凹部はU字形をしており、該凹部の開口部付近はわずかに面取りがされている。 (イ) 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠の対比 a 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠の共通点は、次のとおりであり、要部において共通している。 @ タラップ本体と受金具とからなる点。 A タラップ本体が、帯板を形成してなる略長方形部と略長方形部の前辺中央部に間隔をおいて前方に突出する一対の突部とで形成されている点。 B タラップ本体は、一対の突部間に前後に貫通する貫通孔が開けられており、前記貫通孔に、頭付きボルトが前方から後方に挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている点。 C 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いたU字形の凹部が形成されている点。 D 受金具の屈曲部が、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされている点。 b 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠の相違点は、次のとおりであり、いずれも微差にとどまる。 @ 本件登録意匠のタラップ本体を構成する帯板は略長方形に成形されているのに対し、被告タラップ2号本体の帯板は後辺が前辺に比してやや長い四角形に成形されている。しかし、いずれも四角形の一態様であり、被告タラップ2号の前辺対後辺の長さの比率は、約4対5で、前辺と後辺の差はそれほど大きくなく、しかも、前辺と後辺とが平行である点が看者の注意を最も引くところであり、 前記相違点は微差にすぎない。 A 本件登録意匠のタラップ本体の略長方形部は縦対横の長さの比率が約1対1.5であるのに対し、被告タラップ2号本体の略長方形部は縦対横の長さの比率が約1対2であるが、縦対横の長さの比率の相違は、看者の注意を引くところとはなり得ず、前記相違点は微差にすぎない。 B 本件登録意匠のタラップ本体においては、一対の突部間は板片で橋絡、結合されているのに対し、被告タラップ2号本体においては、一対の突部間は帯板の前辺内側に金属板を溶接することにより塞がれている。しかし、本件登録意匠のタラップ本体は、前辺と後辺とが平行な環状をなしている点が看者の注意を引くところであるから、突部間の接合形態の相違点は微差にすぎない。 C 本件登録意匠のタラップ本体には抜け止めが設けられていないのに対し、被告タラップ2号本体においては、金属板の下端部は帯板から下方に向かってわずかに突出し、下端部に断面略L字状の抜け止めが形成されている。しかし、抜け止めは付随的に設けられたものであり、タラップ本体が、前辺と後辺とが平行な環状に形成されている点に比して、微差にすぎない。 D 本件登録意匠のタラップ本体の帯板の断面は屈曲されていないのに対し、被告タラップ2号本体においては、略長方形部の後辺の帯板は、断面く字状にわずかに屈曲されている。しかし、前辺と後辺とが平行な環状に形成されていることに比して、帯板の一部が断面く字状であるか否かの相違点は微差にすぎない。 E 本件登録意匠における受金具の凹部の開口部付近は面取りがされていないのに対し、被告タラップ2号の受金具における凹部の開口部付近はわずかに面取りがされている。しかし、受金具はタラップ本体の突部が挟むように取り付けられ、かつ、ボルト頭部を掛けてタラップ本体を受金具に固定するものであるから、受金具が断面コ字形に成形され、かつ、U字形の凹部が形成されている点が看者の注意を強く引くのであって、前記相違点は微差にすぎない。 c そうすると、被告タラップ2号は本件登録意匠の要部をすべて具備しているものであって、相違点は特に看者の注意を引くものではなく、本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠は、意匠全体として、共通点が相違点を凌駕する。したがって、被告タラップ2号の意匠は、本件登録意匠と類似する。 オ 被告受金具による間接侵害 被告受金具は、原告タラップ本体と組み合わせて使用されるが、その場合は、本件登録意匠が構成される。被告受金具は、被告タラップ1号及び2号の構成部分としても使用されるが、被告タラップ1号及び2号は、これまで述べたとおり、本件登録意匠に類似する。そして、被告受金具は、汎用品として他の用途に使用される物ではない。なお、被告タラップ3号については、本件登録意匠に類似することを主張するものではないが、前記(1)カ(ア)bで述べたとおり、被告受金具の被告タラップ3号への使用は、形式的、名目的な使用にすぎない。 したがって、被告受金具は、本件登録意匠又は本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物に当たり、被告が被告受金具を製造販売する行為は、本件意匠権を侵害するものとみなされる(平成14年法律第24号による改正前の意匠法38条)。 カ 原告会社の独占的通常実施権の侵害 前記(1)ア(エ)のとおり、原告Aは、原告会社に対し、本件意匠権につき、受金具の製造販売について独占的通常実施権を許諾しており、原告会社は、この独占的通常実施権に基づき、原告受金具を製造販売している。したがって、原告会社は、被告に対し、本件意匠権の独占的通常実施権の侵害について損害賠償請求権を有している。 (3) 不正競争防止法 ア 不正競争 (ア) 周知商品表示 a 原告タラップ本体及び原告受金具の製造販売の経緯は、前記(1)ア(エ)のとおりである。 b Bが原告タラップを開発するまでは、このようなステップは存在せず、高所作業の足場としては、ロッドの一端を鉄骨の側面に水平に溶接固定することが行われていたが、これでは、足を載せたり把持するのに困難を伴い、滑りやすいという危険性があり、突出量が大きいため作業終了後に取付け基端を除去しなければならないという欠点があった。Bの開発したステップ用具は、建造物に対する着脱が容易で、取付け後に足を安定性よく載せることができ、確実に把持可能であるとともに、作業終了後、後続する作業に支障がない程度に除去可能であるという大きな長所を有していたため、販売開始の直後から、建設業界で広く受け入れられ、平成6年5月までには、原告タラップ本体と原告受金具からなる原告タラップは、Cの製品として周知となった。そして、原告受金具は、鉄骨に溶接されたまま使い捨てされるため、その販売個数は、原告タラップ本体よりも圧倒的に多く、同月までに、原告受金具はCの製品として認知され、その形態は、周知の商品表示となっていた。同年6月、原告会社がBから原告受金具の製造販売を引き継ぎ、同月以降は、原告受金具の形態は、原告会社の周知の商品表示となっていた。 (イ) 被告による商品表示の使用 前記(1)イ(イ)のとおり、被告は、被告受金具を製造販売している。 (ウ) 商品表示の同一又は類似 被告受金具と原告受金具の形態は、凹部の上端が、被告受金具は隅丸に面取りがされているのに対し、原告受金具はそのように面取りがされていない点が異なるだけで、その余は同一であるから、被告受金具の形態は、原告会社の商品表示である原告受金具の形態と同一又は類似である。 (エ) 混同 被告が被告受金具を製造販売することにより、原告会社の商品である原告受金具と混同を生じている。 (オ) したがって、被告が被告受金具を製造販売することは、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する。 イ 営業上の利益の侵害 被告が不正競争を行うことにより、原告会社は、営業上の利益を侵害され、損害を被ったものであり、また、今後も営業上の利益を侵害されるおそれがある。 ウ 故意過失 被告には、不正競争を行うにつき、故意又は過失があった。 (4) 原告会社の損害 ア 一般不法行為に基づく逸失利益の主張 (ア) 原告会社は、被告による本件意匠権及び本件実用新案権についての独占的通常実施権の侵害又は不正競争により、平成11年9月1日から平成12年6月30日までに、80万個の原告受金具を販売することができなかった。 (イ) 原告会社が原告受金具の販売により得る利益は、1個当たり、末端販売価格60円の30パーセントに当たる18円であり、そうでないとしても、27.66パーセントに当たる16.6円である。 (ウ) したがって、本件意匠権及び本件実用新案権についての独占的通常実施権の侵害又は不正競争による逸失利益相当額の損害は1440万円(1440万円=18円×80万個)であり、そうでないとしても、1328万円(1328万円=16.6円×80万個)である。 イ 意匠法39条1項類推適用、実用新案法29条1項類推適用 (ア) 前記(1)イ(イ)のとおり、被告は、被告受金具を、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに、3万2000個販売した。 (イ) 原告会社が原告受金具の販売により得る利益は、前記ア(イ)のとおり、1個当たり18円であり、そうでないとしても、16.6円である。 (ウ) したがって、本件意匠権及び本件実用新案権についての独占的通常実施権の侵害による損害の額は、原告会社が原告受金具の販売により得る1個当たりの利益に、被告受金具の販売個数を乗じた57万6000円(57万6000円=18円×3万2000個)であり、そうでないとしても、53万1200円(53万1200円=16.6円×3万2000個)である。 (5) 結論 よって、原告らは、被告に対し、次のとおり請求する。 ア 原告Aは、本件意匠権又は本件実用新案権に基づき、原告会社は、不正競争防止法2条1項1号、3条1項、2項に基づき、それぞれ、被告に対し、被告受金具の製造販売の差止め、並びに被告の所有に係る被告受金具及びその製造に供せられる金型の廃棄を求める。 イ 原告会社は、被告に対し、本件意匠権及び本件実用新案権についての独占的通常実施権の侵害又は不正競争による損害賠償として1440万円及びこれに対する侵害行為又は不正競争の後である平成12年7月21日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延侵害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否及び被告の主張 (1)ア(ア) 請求原因(1)(実用新案権侵害)ア(本件実用新案権)(ア)ないし(ウ)は認める。 (イ) 請求原因(1)ア(エ)の事実のうち、Bが平成7年9月2日死亡し、原告Aが本件実用新案権及び本件意匠権を相続により承継したこと、コンドーテックが原告タラップ本体を製造販売していること、原告会社が原告受金具を製造販売していること、原告タラップのうち、原告タラップ本体は、使用後、受金具から取り外されて再使用が可能であるが、原告受金具は、柱に溶接されるため、再使用ができず、建設現場では大量に使い捨てされる部品であることは認め、その余は不知。 イ(ア) 請求原因(1)イ(被告製品の製造販売)(ア)の事実のうち、被告が、 平成11年9月1日から平成12年2月末日までに、被告タラップ1号本体を300個製造販売したこと、被告が、平成12年3月1日から被告タラップ2号及び3号を製造販売していることは認め、その余は否認する。 (イ) 請求原因(1)イ(イ)の事実のうち、被告が、被告受金具を、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに3万2000個製造販売し、現在も製造販売をしていることは認め、その余は否認する。 ウ 請求原因(1)ウ(被告タラップ1号)は争う。 エ(ア) 請求原因(1)エ(被告タラップ2号)(ア)(被告タラップ2号の構成)のうち、a2、b2、d2は認め、c2は否認する。 c2の構成は、次のとおりとすべきである。 前記帯板の開口両端部を外側に曲折して、受金具の左右外側面を挟持する間隔の一対の突出部を設ける。前記大きい金属板の延出部の端縁部を外側に曲折して、タラップ部材の突出部と直交する突出部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通穴を形成する。前記帯板の突出部と前記金属板の突出部とによって、回転止め部かつ抜け止め部とする。 (イ) 請求原因(1)エ(イ)(文言侵害)のうち、構成a2、b2、d2により、構成要件A、D、E、Fが充足されることは認める。構成b2は構成要件Bを充足せず、構成c2は構成要件Cを充足しない。 (ウ) 請求原因(1)エ(ウ)(均等成立の要件)は認める。 (エ)a@ 請求原因(1)エ(エ)(均等)a(構成要件Bにおける相違について)@(均等の第3要件)は争う。 本件明細書の記載(本件実用新案公報第4欄9行ないし16行)から、構成要件Bの「帯板が環状に形成されてなり」の意味は、全体が一定幅の帯板で形成された形態で、接続端部がないシームレス状か、又は一定幅の帯板の端部を強固に溶接して環状に構成したものと解すべきである。これに対し、被告タラップ2号は、上底の中央部が開口する台形状の帯板と大きな金属板の2つの部材からなる台形の環状構造をとった点に特徴がある。本件意匠公報、乙第24号証には、 大きな金属板は開示されておらず、これらに記載されたタラップの本体は、被告タラップ2号本体と同じ効果を発揮し得ない。 被告タラップ2号の大きな金属板による補強構造は、原告タラップに大きなたわみが生じていたことから開発されたものであり、ねじりモーメントの作用する部分を補強し、環状構造を台形状にしてねじりモーメントの作用する部位の長さを短くすること、また、大きな金属板を帯板の内面に重ねて溶接してその部分の帯板の厚さを2倍とし、大きな金属板が帯板の下縁から延出して帯板の高さ寸法を実質的に大きくすることにより、タラップ本体の変形を阻止しており、ボルトナット又はこれらに接する部分のみを補強するものではない。 被告タラップ2号の抜け止め部は、タラップ本体の受金具に対する着脱作業を阻害せずにタラップ本体の上下方向への移動を規制するように考案された新たな技術内容であり、特許出願も行っている。乙第7号証に記載された抜け止めは、被告タラップ2号の抜け止めとは、構成、作用効果を異にする。 したがって、被告タラップ2号は、その環状構造が構成要件Bと相違する点において、均等の第3要件を充足しない。 A 請求原因(1)エ(エ)aA(均等の第4要件)は争う。 固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が、共に固着部材の屈曲部によって阻止される点は、公知の固定用部材と公知の回転止め部材の単なる組合せであり、新規性、進歩性は認められないし、この点は、実用新案登録請求の範囲に記載されていないから、均等の第4要件を検討する場合の基準とはならない。 B 請求原因(1)エ(エ)aB(その他の均等の要件)は認める。 b@ 請求原因(1)エ(エ)b(構成要件Cにおける相違について)@(均等の第1要件)は争う。 固定用部材の一端部の回転が固着部材の屈曲部によって阻止される点、及び回転止め部材の回転が固着部材の屈曲部によって阻止される点は、いずれも公知であり、これらを結合することに困難はないから、固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が共に固着部材の屈曲部によって阻止されるということは、公知技術の寄せ集めであり、新規性、進歩性は認められず、本件考案の本質的部分とはなり得ない。本件考案の本質的部分は、帯板で形成された環状のステップ部材の背面に回転止め部材を溶接することにより、一対の突部を設けるところにある。 被告タラップ2号においては、構成c2のとおり、台形状の帯板の開口両端部を外側に曲折して一対の突部を形成して回転止め部を構成しており、 構成要件Cのような、溶接によって帯板に接合される回転止め部材は存在しない。 したがって、構成c2と構成要件Cの相違は、本件考案の本質的部分に係るものであり、被告タラップ2号は、均等の第1要件を充足しない。 A 請求原因(1)エ(エ)bA(均等の第4要件)は争う。 前記aAのとおり、固定用部材の一端部の回転と回転止め部材の回転が、共に固着部材の屈曲部によって阻止される点は、新規性、進歩性は認められないし、実用新案登録請求の範囲に記載されていないから、均等の第4要件を検討する場合の基準とはならない。 また、タラップ本体から一対の回転止め部を一体的に延出させる構成は、公知である。 したがって、被告タラップ2号は、均等の第4要件を充足しない。 B 請求原因(1)エ(エ)bB(均等の第5要件)は争う。 乙第17号証(平成6年1月17日付け手続補正書)により行われた補正により、出願当初の実用新案登録請求の範囲の「固着部材の脚部を挟持する間隔で、ステップ部材から径方向外方に向けて突設された左右一対の回転止め突部」という記載は、構成要件Cのように改められた。 補正後の本件明細書には、構成要件Cに示された構成の回転止め部材の実施例しか記載されておらず、他にどのような実施例があるか不明である。 また、帯板により形成された環状のタラップ本体に一対の突部をどのようにして形成するかは、本件考案の本質的部分である。さらに、乙第17号証と共に提出された乙第18号証(平成6年1月17日付け意見書)には、拒絶理由に挙げられた引用例に対する進歩性を獲得するための特徴的部分として、構成要件Cの構成が記載されている。このようなことから、前記補正は、拒絶理由を回避するために行われた減縮補正である。 したがって、構成要件Cは、減縮補正されたものであり、構成要件Cに記載された構成の相違について均等論を適用すべきではなく、被告タラップ2号は、均等の第5要件を充足しない。 C 請求原因(1)エ(エ)bC(均等のその他の要件)は認める。 (オ) 請求原因(1)エ(オ)は争う。 オ(ア) 請求原因(1)オ(被告タラップ3号)(ア)(被告タラップ3号の構成)のうち、a3、b3、d3は認め、c3は否認する。 c3の構成は、次のとおりとすべきである。 前記一対の帯板の先端部を間隔を設けて外側に曲折して、受金具の左右外側面を挟持する間隔の一対の突出部を設ける。前記大きい金属板の延出部の端縁部を外側に曲折して、タラップ部材の突出部と直交する突出部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通穴を形成する。前記帯板の突出部と前記金属板の突出部とによって、回転止め部かつ抜け止め部とする。 (イ) 請求原因(1)オ(イ)(文言侵害)のうち、構成a3、b3、d3により、構成要件A、D、E、Fが充足されることは認める。構成b3は構成要件Bを充足せず、構成c3は構成要件Cを充足しない。 (ウ)a@ 請求原因(1)オ(ウ)(均等)a(構成要件Bにおける相違について)@(均等の第3要件)は争う。 前記エ(エ)a@記載のとおり、構成要件Bの「帯板が環状に形成されてなり」の意味は、全体が一定幅の帯板で形成された形態で、接続端部がないシームレス状か、又は一定幅の帯板の端部を強固に溶接して環状に構成したものと解すべきである。これに対し、被告タラップ3号は、表面に凹凸のある丸棒材、特殊な山形形状に形成した一対の帯板、及び帯板の内面の広い範囲にわたって溶接固定されるとともに、帯板の下縁から台形状に延出する大きい金属板からなる環状構造をとった点に特徴があり、本件意匠公報、乙第24号証に記載されたタラップの本体は、被告タラップ3号本体と同じ効果を発揮し得ない。 被告タラップ3号の大きな金属板による補強構造、抜け止め部については、被告タラップ2号についての前記エ(エ)a@と同様である。 被告タラップ3号は、溶接型を採用することによって4つの形態の異なる構成部材を精度高く環状に形成している点でも、新規性、進歩性を有する。 したがって、被告タラップ3号は、その環状構造が構成要件Bと相違する点において、均等の第3要件を充足しない。 A 請求原因(1)オ(ウ)aA(均等の第4要件)は争う。 被告タラップ2号について(前記エ(エ)aA)と同様に、被告タラップ3号は、その構造が構成要件Bと相違する点において、均等の第4要件を充足しない。 B 請求原因(1)オ(ウ)aB(その他の均等の要件)は認める。 b@ 請求原因(1)オ(ウ)b(構成要件Cにおける相違について)@(均等の第1要件)は争う。 前記エ(エ)b@のとおり、本件考案の本質的部分は、帯板で形成された環状のステップ部材の背面に回転止め部材を溶接することにより、一対の突部を設けるところにある。 被告タラップ3号においては、構成c3のとおり、一対の特殊な山形形状に形成した一対の帯板の先端部を間隔を設けて外側に曲折して一対の突部を形成して回転止め部を構成しており、構成要件Cのような、溶接によって帯板に接合される回転止め部材は存在しない。 したがって、構成c3と構成要件Cの相違は、本件考案の本質的部分に係るものであり、被告タラップ3号は、均等の第1要件を充足しない。 A 請求原因(1)オ(ウ)bA(均等の第4要件)は争う。 被告タラップ2号について(前記エ(エ)bA)と同様に、被告タラップ3号は、均等の第4要件を充足しない。 B 請求原因(1)オ(ウ)bB(均等の第5要件)は争う。 被告タラップ2号について(前記エ(エ)bB)と同様に、構成要件Cに記載された構成の相違について均等論を適用すべきではなく、被告タラップ3号は、均等の第5要件を充足しない。 カ(ア)a 請求原因(1)カ(被告受金具による間接侵害等)(ア)(間接侵害)aないしcの事実は否認し、主張は争う。 b 被告タラップ2号及び3号は、本件考案の技術的範囲に属しない。 そして、被告タラップ2号は、現実に製造、使用及び販売の実績を積み重ねている。また、被告タラップ3号は、顧客の要望等を取り入れて改善を重ねたものであり、丸棒、山形形状に形成した一対の板及び大きな金属板の四つの部材を、被告が開発した溶接型により精度高く溶接することにより構成されており、安全性や使い勝手等が原告タラップより改良されていることは明らかであり、被告が自社で使用する分も含めて約1年間に8000台が製造され、現実に販売、使用されている。 このように、被告タラップ2号及び3号は、現実に製造、使用、販売されており、 単なる形式的、名目的なものではなく、被告受金具の被告タラップ2号及び3号への使用も、単に形式的、名目的な使用ではない。 したがって、被告が被告タラップ2号及び3号の製造販売を開始した平成12年3月1日以降は、被告受金具には、本件登録実用新案に係る物品の製造以外に使用される用途があったことになるから、被告受金具を製造販売する行為が本件実用新案権を侵害するものとみなされることはない。 c 構成要件Aの固着部材、すなわち本件考案に係る受金具は、乙第6ないし第10号証に示されているように、従来からボルトを平板等に立設するための金具として、種々の物品の取付構造等に用いられてきたものであることが明らかであり、本件考案の実用新案登録出願前及び本件登録意匠の意匠登録出願前に公知であった。実用新案法は、新規有用な技術の公開の対価として独占を認めるものであるところ、本件考案は、少なくとも周知形態の受金具に装着できる環状タラップの考案に係るものであり、本件考案に係る受金具のような出願前に公知であり従来技術に属する部品は、本来誰でも自由に製造販売できるものであり、実用新案権の独占権は及ばない。そうすると、被告受金具は、実用新案法2条3項の「考案に係る物品」には当たらず、原告タラップ本体と被告受金具を組み合わせて使用することは、修理に当たるとしても、同項の「製造」には当たらない。 原告らは、本件考案の特質から、タラップ本体及び受金具の価格を可能な限り低く抑え、原告タラップを市場に普及させて受金具の販売量を増加させることにより新規考案の対価を得ている旨主張するが、タラップの価格を低く押さえて受金具で新規考案の対価を得なければならない必要性は全くなく、単に原告会社の営業方針にすぎない。本件考案の受金具については、周知の形態の受金具をそのまま利用しただけであるから、このような受金具に対して実用新案権の消尽を認めなければ、実用新案品を構成するすべての部品に効力の残存を認めることになるが、このようなことは、社会通念上又は取引慣行上許容されることではない。原告会社は、購入者との間で、受金具が消耗したときに原告会社から受金具を購入する旨の契約を締結することができるから、このような契約がない場合には、購入者が受金具を自由に取り替えることを黙認したとされてもやむを得ない。 したがって、被告受金具を原告タラップ本体と組み合わせて使用したとしても、本件実用新案権を侵害することにはならず、この点からしても、被告受金具を製造販売する行為が本件実用新案権を侵害するものとみなされることはない。 (イ) 請求原因(1)カ(イ)(実用新案法27条1項に基づく妨害予防請求権)のうち、被告が被告受金具の製造販売を行っていることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。 キ 請求原因(1)キ(原告会社の独占的通常実施権の侵害)のうち、原告会社が原告受金具を製造販売していることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。 (2)ア 請求原因(2)(意匠権侵害)ア(本件意匠権)は認める。 イ(ア) 請求原因(2)イ(本件登録意匠)(ア)(本件登録意匠の構成)a(基本的構成態様)、b(具体的構成態様)は争う。 原告らの主張によれば、本件登録意匠の基本的構成態様として、タラップ本体の帯板につき「略長方形」と記載されているが、本件意匠公報の説明欄に記載されているように、帯板は「長方形」に形成されており、「台形」は含まれないから、「略長方形」ではなく「長方形」とすべきである。 原告らの主張によれば、本件登録意匠の具体的構成態様として、タラップ本体の前方に突出する一対の突部間を橋絡、結合している「板片」が記載されているが、「板片」が存在しなければ、基本的構成態様の「貫通孔」も物理的に存在し得ないのであるから、この「板片」は、基本的構成態様の一部として記載すべきである。 原告らの主張によれば、受金具の凹部がU字形であることが具体的構成態様とされているが、「凹部」といっても、蟻ほぞ状、浅い漏斗状など様々であり、ボルトがスムーズに嵌入し、かつ安定して固定されるためには、凹部の形状は重要であるから、凹部がU字形であることも基本的構成態様とすべきである。 (イ) 請求原因(2)イ(イ)(本件登録意匠の要部)は争う。 本件登録意匠に係るタラップの使用者は、タラップ本体の帯板部分を握ることによってタラップ本体の着脱やタラップの昇降を行うことから、タラップ本体の「長方形状に成形された帯板」の形態が、本件登録意匠の要部になる。 受金具とタラップ本体の一対の突部との取付構造は、機能的構成であるから、看者の注意を引くことはないし、タラップ本体の後辺が前辺に対して平行に形成されている点は、本件登録意匠の意匠登録出願前から公知であったから、本件登録意匠の要部とはならない。 ウ(ア) 請求原因(2)ウ(被告タラップ1号)(ア)(被告タラップ1号の構成)は争う。 被告タラップ1号の構成は、次のとおりである。 @ 被告タラップ1号のタラップ本体は、帯板を台形状に形成し、該台形部の上底部中央の外面に断面コ字状の板片を溶接して構成されている。 A 前記台形部の下底部の帯板を、ほぼ全長にわたって略く字状にくぼませている。 B 前記台形部の上底、前記板片にボルト貫通孔を形成する。 C 前記貫通孔に頭付きボルトを貫通させ、ナットを螺合させる。 D 前記台形部の高さは約10cm、上底部の長さは約16cm、下底部の長さは約21cmである。 E 被告タラップ1号本体の外形寸法の縦対横の長さの比率は約1対2であり、台形部の上底部と下底部の長さの比率は約1対1.3である。 (イ) 請求原因(2)ウ(イ)(本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠の対比)は争う。 本件登録意匠に係るタラップのうち受金具は、ほとんど同一の形態が意匠登録出願前に公知であったから、本件登録意匠の要部とはなり得ず、タラップ本体が要部である。そして、一対の突部を長方形帯板の後部に一体形成したマンホール用タラップが、本件登録意匠の意匠登録出願前に公知であったから、本件登録意匠に係るタラップ本体は、本件意匠公報に記載された形態のものに限られるべきである。 本件登録意匠に係るタラップ本体が帯板を長方形状に形成しているのに対し、被告タラップ1号本体は帯板を台形状に形成していること、本件登録意匠に係るタラップ本体と被告タラップ1号とでは、外形寸法の縦対横の長さの比率及び壁面からの突出量が大きく異なること、本件登録意匠に係るタラップ本体の帯板は平坦であるのに対し、被告タラップ1号のタラップ本体の帯板は略く字状のくぼみを形成していることから、本件登録意匠に係るタラップ本体と被告タラップ1号は、印象を大きく異にする。本件登録意匠の意匠権者であったBが、本件登録意匠と、帯板が六角形状に形成された点のみが異なる意匠(意匠登録第952199号、乙第13号証)を意匠登録出願し登録を得ていることからすると、意匠権者も、帯板の形状が相違することにより意匠が類似しなくなることを認識していたものである。 したがって、本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠は類似しない。 エ(ア) 請求原因(2)エ(被告タラップ2号)(ア)(被告タラップ2号の構成)は争う。 被告タラップ2号の構成は、次のとおりである。 @ 被告タラップ2号のタラップ本体は、帯板を上底の中央部が開口する台形状に形成し、開口両端部を外側に曲折して一対の突出部を設けるとともに、 下底をほぼ全長にわたって断面く字状にくぼませる。 A 大きい金属板を帯板の上底内面の広い範囲にわたって溶接固定し、 ボルトナット取付け部材とする。前記金属板は、帯板の下縁から台形状に延出し、 該延出部の端縁部を外側に曲折してタラップ本体の突出部と直交する突出部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通穴を形成する。 B 前記貫通穴に頭付きボルトを貫通させ、ナットを螺合させる。 C 前記台形部の高さは約10cm、下底部の長さは約21cmであり、タラップ本体の縦対横の長さの比率は、約1対2である。 D 前記台形部の上底部の長さは約16cm、台形部の上底部と下底部の長さの比率は、約1対1.3である。 (イ) 請求原因(2)エ(イ)(本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠の対比)は争う。 前記ウ(イ)のとおり、本件登録意匠に係るタラップ本体は、本件意匠公報に記載された形態のものに限られるべきである。 本件登録意匠に係るタラップ本体が帯板を長方形状に形成しているのに対し、被告タラップ2号本体は帯板を台形状に形成していること、本件登録意匠に係るタラップ本体と被告タラップ2号とでは、外形寸法の縦対横の長さの比率及び壁面からの突出量が大きく異なること、本件登録意匠に係るタラップ本体の帯板は平坦であるのに対し、被告タラップ2号のタラップ本体の帯板は略く字状のくぼみを形成していること、受金具とタラップ本体の連結部分は、本件登録意匠に係るタラップ本体と被告タラップ2号とで外観が大きく異なることから、本件登録意匠に係るタラップ本体と被告タラップ2号は、印象を大きく異にする。前記ウ(イ)のとおり、本件登録意匠の意匠権者も、帯板の形状が相違することにより意匠が類似しなくなることを認識していたものである。 したがって、本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠は類似しない。 オ(ア) 請求原因(2)オ(被告受金具による間接侵害)は争う。 (イ) 前記エ(ア)、(イ)記載のとおり、被告タラップ2号の意匠は、本件登録意匠と類似しない。 (ウ) 被告受金具は被告タラップ3号にも使用されるところ、被告タラップ3号の意匠は本件登録意匠に類似しない。 a 被告タラップ3号の構成は、次のとおりである。 @ 被告タラップ3号のタラップ本体は、表面に凹凸のある丸棒材の両端に、特殊な山形形状に形成した一対の帯板の端部をそれぞれ溶接固定して形成される。その一対の帯板の先端部は、間隔を設けて外側に突出させる。 A 前記一対の帯板の内面に大きい金属板を広い範囲にわたって溶接固定し、ボルトナット取付け部材とする。この金属板は、帯板の下縁から台形状に延出し、その延出部の端縁部を外側に曲折してタラップ本体の突出部と直交する突出部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通穴を形成する。 B 前記貫通穴に頭付きボルトを貫通させ、ナットを螺合させる。 b 被告タラップ3号の意匠は、本件登録意匠と比較すると、次のように相違する。 タラップ本体の形状について、本件登録意匠は、帯板を長方形に成形し、その両端を外径側に突出させるが、被告タラップ3号本体は、表面に凹凸のある丸棒材の両端に、特殊な山形形状に形成した一対の帯板の端部をそれぞれ溶接固定し、その一対の帯板の先端部は、間隔を設けて外側に突出させる。ボルトナットの取付け部材について、本件登録意匠は、帯板の両端部に、長方形の小さい板片を溶接により橋絡、結合するが、被告タラップ3号は、一対の帯板の内面に大きい金属板を広い範囲にわたって溶接固定し、ボルトナット取付け部材とし、この金属板は、帯板の下縁から台形状に延出し、その延出部の端縁部を外側に曲折してタラップ本体の突出部と直交する突出部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通穴を形成する。 また、被告タラップ3号の意匠は、意匠登録第1121358号として登録されている。 したがって、被告タラップ3号の意匠は、本件登録意匠と類似しない。 (エ) 本件登録意匠の意匠登録出願前に頒布された刊行物である実願昭52-18096号(実開昭53-113960号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第6号証、考案の名称「ボルトの固定構造」)、実願昭56-19570号(実開昭57-133707号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第7号証、考案の名称「組立構造物における連結桿などの接続用金具」)、実願昭56-79253号(実開昭57-190803号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第8号証、考案の名称「枠材面における他部材の取付金具」)、実願昭58-24712号(実開昭59-131500号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第9号証、考案の名称「金属管柱における足場ボルト取付け金具」)、実願昭58-34304号(実開昭59-139607号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第10号証、考案の名称「基材面における他部材の取付金具」)の図面には、いずれも、本件登録意匠と類似しない金具等が記載されており、そのような金具等の一構成部分として、原告受金具及び被告受金具とほとんど同一の形態を備えた部材が記載されている。 (オ) 被告受金具は、本件登録意匠と類似しない被告タラップ1号、2号及び3号の製造に用いられる物であり、また、乙第6ないし第10号証の図面に記載された本件登録意匠と類似しない金具等の種々の取付構造において用いられ、それらの製造に用いられる物にも当たる。 したがって、被告受金具は、本件登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物に当たらず、被告受金具を製造販売する行為は、本件登録意匠を侵害するものとみなされることはない。 カ 請求原因(2)カ(原告会社の独占的通常実施権の侵害)のうち、原告会社が原告受金具を製造販売していることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。 (3)ア(ア)a 請求原因(3)(不正競争防止法)ア(不正競争)(ア)(周知商品表示)aに対する認否は、請求原因(1)ア(エ)に対する認否(前記(1)ア(イ))と同旨である。 b 請求原因(3)ア(ア)bのうち、原告会社が原告受金具の製造販売を行っていることは認め、原告タラップ本体と原告受金具からなる原告タラップがCの製品として周知であったこと、原告受金具がCの製品として認知され、その形態が周知の商品表示となっていたこと、原告受金具の形態が原告会社の周知の商品表示となっていたことは否認し、その余の事実は不知であり、主張は争う。 c 原告受金具については、特定のための図面が示されていないから、 その形態の商品表示性を論じることはできないし、被告受金具の形態との対比をすることもできない。 原告受金具の形態は、乙第6ないし第10号証の図面に開示されている受金具と同一と評価できるものであり、ありふれたもので、商品表示性を認める余地はない。 d 原告タラップ本体及び原告受金具からなる原告タラップと同種のタラップが取り付けられる鉄骨の平成10年から平成12年までの3年間の需要は、 約2087万トンであり(週刊「鋼構造ジャーナル」第985号(乙第27号証)に記載された「S造」(鉄骨造)の鉄骨需要量)、鉄骨1トンにつき約3個の受金具が使用されるから、同期間に約6261万個(6261万個=2087万トン×3個)の受金具が使用されたものと推定される。原告らの主張によれば、原告会社は、平成9年9月21日から平成12年9月29日までの約3年間に、240万6250個の原告受金具を製造販売したということであるが、これは、ほぼ同時期に使用された受金具全体の4パーセントにも満たない。このように、原告受金具のシェアは、同種の受金具のうちで非常に小さく、原告受金具の形態が原告会社の商品表示として周知であるとはいえない。 (イ) 請求原因(3)ア(イ)(被告による商品表示の使用) 請求原因(3)ア(イ)の事実は認めるが、被告による被告受金具の製造販売が原告会社の商品表示の使用に当たることは、争う。 (ウ) 請求原因(3)ア(ウ)(商品表示の同一又は類似)の事実は否認し、主張は争う。 (エ) 請求原因(3)ア(エ)(混同)の事実は否認し、主張は争う。 (オ) 請求原因(3)ア(オ)の主張は争う。 イ 請求原因(3)イ(営業上の利益の侵害)の事実は否認し、主張は争う。 ウ 請求原因(3)ウ(故意過失)の事実は否認し、主張は争う。 (4)ア(ア) 請求原因(4)(原告会社の損害)ア(一般不法行為に基づく逸失利益の主張)(ア)の事実は否認する。 (イ) 請求原因(4)ア(イ)の事実は否認する。 原告らは、末端販売価格を基準に利益を算出しているが、原告会社の利益は、原告会社の販売価格を基準にして算出すべきであり、末端価格を基準として算出すべきではない。 (ウ) 請求原因(4)ア(ウ)の事実は否認し、主張は争う。 イ(ア) 請求原因(4)イ(意匠法39条1項類推適用、実用新案法29条1項類推適用)(ア)の事実は認める。 (イ) 請求原因(4)イ(イ)に対する認否は、請求原因(4)ア(イ)に対する認否(前記(4)ア(イ))と同旨である。 (ウ) 請求原因(4)イ(ウ)の事実は否認し、主張は争う。 3 抗弁(本件実用新案権の無効による権利濫用の主張) (1)ア 本件考案の構成要件Aに示された受金具は、乙第6ないし第10号証から明らかなように、建築の分野において種々の用途に使用されており、特殊な部材と組み合わされて使用されたり装置の内部に使用されるものではなく、汎用のボルトナットと組み合わされて使用されるものであるから、その形状は公知である。 イ 長方形部と一対の突部を備えたタラップは、実願昭59-127583号(実開昭61-45455号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第11号証)の第1図及び第2図に記載され、環状のタラップは、実願昭60-191770号(実開昭62-99644号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第20号証)の第2図及び第3図に記載されているから、構成要件Bに示されたタラップ本体の形状は公知である。 ウ(ア) 実公昭50-12217号実用新案公報(乙第21号証)に記載された足場ボルトは、(a)「断面略コ字状の基板1」、(b)「角形ナット2」、 (c)「円筒体6の一端に断面コ字状の回動防止片7及び傾斜突片8を一体に形成してなる補強金具5」、(d)「先端にナット4を螺入したボルト3」により構成される。 このうち(a)「断面略コ字状の基板1」は、構成要件Aの受金具に対応する。 (b)「角形ナット2」は、構成要件Dの「固定用部材」の「一端部」に、(d)の「ナット4」は、同固定用部材の「締め込み部」に、「ボルト3」は、同固定用部材の「胴体部」に対応し、(b)「角形ナット2」と(d)の「ナット4」及び「ボルト3」は、構成要件Dの「固定用部材」に対応する。 (c)の「補強金具5」に形成された「回動防止片7」は、左右一対の突部を備え、「補強金具5」の回転を阻止するために、(a)「断面略コ字状の基板1」の両側部に係合させられている。(a)「断面略コ字状の基板1」は、一対の屈曲部が上下に位置するように、円筒体に接合されているが、屈曲部を左右に位置するように接合しても全く同じ回り止め効果が得られることは明らかである。 すなわち、構成要件Dの「固定用部材」の「一端部」に対応する(b)「角形ナット2」の回転と、構成要件Cの「回転止め部材」に対応する(c)の「回動防止片7」の回転が、共に構成要件Aの「固着部材」に該当する(a)「断面略コ字状の基板1」によって阻止されている。 以上から明らかなように、(c)の「補強金具5」を本件考案のタラップ本体に対応すると考えると、(a)「断面略コ字状の基板1」に対する(c)の「補強金具5」の連結構造は、本件考案の連結構造とほぼ同一となり、回り止めとしての作用効果も全く同一となる。 (イ) さらに、一対の突部を鉄骨等に設けた受金具の両側を挟むように係合させて、回り止め部として機能させる構成は、乙第11号証及び第12号証(実公昭45-28763号実用新案公報)にも記載されている。 エ このように、本件考案は、乙第11号証、第20号証に記載された公知の環状のタラップ本体に、乙第11号証又は第21号証に記載されたような一対の突出部を回転止め部材として設け、ボルトナット等の周知の連結部材を介して、乙第6ないし第10号証に記載された周知の受金具に対して回り止め機能をもった連結を行えるように構成しただけのものである。 したがって、本件考案は、実用新案登録出願前に、当業者が、刊行物に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものといえる。 (2) このように、本件実用新案に無効理由が存在することは明らかであり、本件実用新案権に基づく請求は、権利の濫用に当たり許されない。 4 抗弁に対する認否 (1) 抗弁(1)アないしエ、(2)の事実は否認し、主張は争う。 (2) 乙第20、第21号証は、本件考案の実用新案登録の審査において、拒絶理由中に示されたもので、本件実用新案権は、これらの引用文献の存在を前提として登録が認められたものである。無効審判を請求しないにもかかわらず、被告がこれらの文献を引用して無効理由を主張することは、専門官庁である特許庁の判断を無視するもので、許されるべきではない。 乙第11号証に記載されたものは、立設されたコンクリート製の突条に通孔を設け、その通孔にボルトを挿通し、そのボルトとナットによりステップを固定するというもので、ステップ部が回転することはあり得ず、回転止め機能を意図したものではないし、乙第11号証には、本件考案の技術的課題及び解決手段を示唆する記述もない。 乙第12号証に記載された足場金具は、本件考案とは、構成、形状及びその効果が著しく異なり、その足場金具から本件考案の進歩性を論じることはできない。 理 由1(1)ア(ア) 請求原因(1)(実用新案権侵害)ア(本件実用新案権)(ア)ないし(ウ)の事実は、当事者間に争いがない。 (イ) 請求原因(1)ア(エ)の事実のうち、Bが平成7年9月2日、死亡し、原告Aが本件実用新案権及び本件意匠権を相続により承継したこと、コンドーテックが原告タラップ本体を製造販売していること、原告会社が原告受金具を製造販売していること、原告タラップのうち、原告タラップ本体は、使用後、受金具から取り外されて再使用が可能であるが、原告受金具は、柱に溶接されるため、再使用ができず、建設現場では大量に使い捨てされる部品であることは、当事者間に争いがない。 甲第1号証、第3ないし第5号証、第14号証の1ないし23、第15号証の1ないし36、第16ないし第18号証及び弁論の全趣旨によれば、本件考案の考案者及び出願人であったBが、本件実用新案権及び本件意匠権を登録時から有していたこと、Bは、平成4年から、「C」の屋号で、原告タラップ、原告タラップ本体、原告受金具を製造販売し、同年6月30日、コンドーテックに対し、本件実用新案権及び本件意匠権につき、タラップ本体の製造販売について独占的通常実施権を許諾し、以後、コンドーテックが原告タラップ本体の製造販売を行っていること、平成6年5月24日、原告会社が設立され、Bは、同月ごろ、原告会社に対し、本件実用新案権及び本件意匠権につき、受金具の製造販売について実施権を許諾し、同年6月以降、原告会社が原告受金具の製造販売を行っていること、Bが平成4年から製造販売し、その後原告会社が製造販売した原告受金具の数量は、合計約650万個であること、このうち、原告会社が平成9年9月21日から平成12年9月29日までに販売した数量は、少なくとも240万6250個であり、1か月平均6万6840個であったことが認められる。 イ(ア) 請求原因(1)イ(被告製品の製造販売)(ア)の事実のうち、被告が、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに、被告タラップ1号本体を300個製造販売したこと、被告が、平成12年3月1日から被告タラップ2号及び3号を製造販売していることは、当事者間に争いがない。 原告らは、被告が、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに、被告タラップ1号を429個販売した旨主張するが、300個を超えて製造販売した事実を認めるに足りる証拠はない。 (イ) 請求原因(1)イ(イ)の事実のうち、被告が、被告受金具を、平成11年9月1日から平成12年2月末日までに3万2000個製造販売し、現在も製造販売をしていることは、当事者間に争いがない。 被告が、被告受金具を、平成11年9月1日から平成12年6月30日までに、上記の3万2000個を超えて80万個製造販売したことについては、これを認めるに足りる証拠はない。 ウ 請求原因(1)ウ(被告タラップ1号)について検討する。 タラップ1号は、別紙被告製品目録2記載の構造のものであるところ、甲第9号証の1ないし5、第13号証の1ないし4、乙第14号証の1ないし5及び弁論の全趣旨によれば、被告タラップ1号は、本件考案と同じ構成を備えていることが認められるから、本件考案の構成要件をすべて充足し、本件考案の技術的範囲に属するものということができる。 エ(ア)a 請求原因(1)エ(被告タラップ2号)(ア)(被告タラップ2号の構成)のうち、a2、b2、d2は、当事者間に争いがない。 b 構成c2について、原告らは、帯板の突出部が回転止め部を構成し、 金属板の突出部が抜け止め部を構成することを前提として構成c2を特定するよう主張するのに対し、被告は、帯板の突出部及び金属板の突出部が、回転止め部かつ抜け止め部を構成することを前提として構成c2を特定するよう主張する。 そこで検討するに、乙第1号証の1ないし5、第32号証、検乙第1号証によれば、次の事実が認められる。 被告タラップ2号において、帯板の突出部は、受金具の屈曲部の左右外側面の幅のほとんどを覆う程度に、大きく突出しているのに対し、金属板の突出部は、受金具の前面の厚さと同程度にわずかに突出しているにすぎない。そして、 帯板の突出部は、受金具の屈曲部の左右外側面と、わずかの間隔をおいて広い面で向き合っているのに対し、金属板の突出部は、わずかの間隔をおいて受金具の下面と向き合っている。そのため、タラップ本体が回転しようとする場合、帯板の突出部は、受金具から、回転を阻止しようとする大きな力を受けるのに対し、金属板の突出部は、受金具からそれほど大きな力を受けるわけではない。他方、帯板の突出部は、受金具の屈曲部の左右外側面と向き合っているだけであり、受金具との動きを上下方向に規制することはないのに対し、金属板の突出部は、受金具の下面に当接するように設けられていることから、タラップ本体の左右の動きを規制する働きはないが、上下の動きを規制し、タラップ本体の貫通孔に挿通されたボルトが受金具の凹部から外れるのを防止している。 以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば、帯板の突出部は、タラップ本体の回転を阻止する役割を果たしているが、タラップ本体が受金具から抜けるのを防止する役割は果たしておらず、他方、金属板の突出部は、タラップ本体の回転を阻止する役割は全くないとはいえないが、その点での役割は、あくまで帯板の突出部に比べて補助的なものにとどまり、主として、タラップ本体が受金具から抜けるのを防止する役割を果たしているものと認められる。そうすると、帯板の突出部は、回転止め部として特定し、金属板の突出部は、抜け止め部として特定すべきものと認めるのが相当である。 したがって、構成c2は、原告ら主張(請求原因(1)エ(ア)c2)のように、次のとおり特定されるべきである。 c2 前記帯板の開口両端部を外側に曲折して一対の突部を形成し、この一対の突部は受金具の左右外側面を挟持する間隔に形成されて回転止め部を構成する。前記大きい金属板の延出部の端縁部を外側に曲折して、タラップ部材の突出部と直交する抜け止め部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通孔を形成する。 (イ)a 請求原因(1)エ(イ)(文言侵害)のうち、構成a2、b2、d2により、構成要件A、D、E、Fが充足されることは、当事者間に争いがない。 b 構成c2が構成要件Cを充足するかについて検討する。 構成要件Cの「前記ステップ部材の後方側端面に予め固着されている本体部と、この本体部の左右両端から後方向きに突出する突部とからなり」という文言からすると、構成要件Cにいう回転止め部材は、ステップ部材と別の部材がステップ部材に溶接等により固着されたものを意味すると解される。甲第4号証によれば、本件明細書の実施例には、「回転止め部材4は、断面コ字状に形成されてステップ部材3の回動を防止するもので、本体部4aと、本体部4aの左右から後方向きに突出する突部4b、4bとで構成されている。」(本件実用新案公報第4欄20行ないし23行)、「ステップ部材3の後方側端面に本体部4aを溶接して、 ステップ部材3と回転止め部材4を一体化している。」(同第4欄27行ないし29行)と記載され、本件実用新案登録出願の願書に添付された図面(補正後のもの)第1図、第3図(本件実用新案公報第1図、第3図)にも、回転止め部材4は、ステップ部材3に別の部材が溶接されたものとして描かれており、構成要件Cの文言に沿う記載がされていることが認められる。 構成c2によれば、被告タラップ2号において、構成要件Cにいう本体部は、大きい金属板のうち帯板の開口部に対応する部分に該当し、構成要件Cにいう突部は、帯板の開口両端部を外側に曲折して形成された一対の突部に該当する。そうすると、構成要件Cにおいて本体部と突部とからなるとされる回転止め部材は、被告タラップ2号においては、構成c2により、帯板の一部と、大きい金属板の一部とからなるということになる。ところが、構成b2によれば、構成要件B、Cにいうステップ部材は、被告タラップ2号本体に該当し、被告タラップ2号本体は、帯板と大きい金属板からなる。そうすると、被告タラップ2号において、 回転止め部材は、ステップ部材(すなわち、帯板と大きい金属板)の一部からなり、回転止め部材を、ステップ部材と別の部材がステップ部材に固着されたものとする構成要件Cは充足されないこととなる。 したがって、構成c2は、構成要件Cを文言上充足しない。 (ウ) 請求原因(1)エ(ウ)(均等成立の要件)は、当事者間に争いがなく、当裁判所も相当であると考える(最高裁判所平成10年2月24日第3小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。 (エ)a 前記(イ)bのとおり、被告タラップ2号は、構成c2において構成要件Cを文言上充足しないものと認められるが、この点に関し、均等の第5要件が充足されるか(請求原因(1)エ(エ)bB(均等の第5要件))について検討する。 b 甲第4号証、乙第15ないし第18号証によれば、次の事実が認められる。 本件実用新案登録出願の願書に添付された出願時の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、「中央に上向き凹部が設けられ、両側に後方向きに脚部が形成され、脚部後端が建築用鉄骨等に対し固着される固着部材と、帯板を環状に形成してなるステップ部材と、固着部材の脚部を挟持する間隔で、ステップ部材から径方向外方に向けて突設された左右一対の回転止め突部と、脚部によって回転を規制される頭部を有し、かつ、固着部材の上向き凹部に掛止可能でステップ部材の回転止め突部間に貫設され、ステップ部材内からナット締めされる固定用ボルト部材と、を備えるステップ用具。」というものであった。 特許庁審査官は、平成5年10月15日付けで、拒絶理由通知を行った。その理由としては、@本件実用新案登録出願に係る考案は、その出願前に頒布された刊行物である〔引用例1〕実願昭60-191770号(実開昭62-99644号)のマイクロフィルム(中央に上向き凹部(通過用切欠13)が設けられ、両側に後方向きに脚部が形成され、脚部後端が建築用鉄骨等(開口2)に対し固着される固着部材(係合部4)と、環状に形成してなるステップ部材(手掛け3)と、ステップ部材から突出された回転止め突部(係止部5)と、固着部材の上向き凹部に掛止可能でステップ部材の回転止め突部間に貫設され、ステップ部材内から固定される固定用ボルト部材(緊締ねじ7)を備える点)及び〔引用例2〕実公昭50-12217号公報(固着部材(基盤1)を挟持する間隔でステップ部材(ボルト3)から突出された左右一対の回転止め突部(補強金具6の回転防止片7)と、ナット締めされる固定用ボルト部材(角型ナット2とボルト3)を備える点)に記載された考案から当業者がきわめて容易に考案されたものであると認められる(ナット締めする固定用ボルト部材の構成に関して、脚部によって回転を規制される頭部を設けることは周知であり(実公昭47-6034号公報、実願昭49-83137号(実開昭51-12141号)のマイクロフィルムを引用)、ステップ部材を帯板を使用して形成することは、当業者が適宜変更する設計事項にすぎない。)というものと、A明細書及び図面の記載が不備である(明細書第1ページ第10行目及び第3ページ第10行目の「径方向外方」とは具体的にどの方向を指すのか不明瞭であるなど)というものであった。 出願人は、平成6年1月17日付けの手続補正書を提出し、実用新案登録請求の範囲を、現在の実用新案登録請求の範囲のとおりにすることなどを内容とする補正を行い、同日付けの意見書も提出した。 以上の事実が認められる。 c 他方、甲第1号証、第3号証及び弁論の全趣旨によれば、本件考案の出願人であったBは、平成2年4月9日、本件登録意匠を意匠登録出願したこと、 本件登録意匠は、平成4年3月27日、意匠登録されたこと、本件登録意匠のタラップ本体は、帯板を長方形に成形し、その両端を外側に向けて突出させ、その突出した部分の内側に、中央にボルトを挿通させる貫通孔が開けられた板片が、溶接等により橋絡、結合されているものであったことが認められる(帯板の両端によって突部が形成され、突部間が帯板とは別部材によって橋絡、結合され、その別部材にボルト挿通孔が設けられた構成を、以下「橋絡的構成」という。)。 d@ 本件考案の出願時の実用新案登録請求の範囲の記載は、前記bのとおりであり、構成要件Cのように、回転止め部材をステップ部材とは別の部材とする構成のほか、橋絡的構成をも含むような記載となっていたところ、出願人は、補正により、本件考案を、構成要件Cのように、回転止め部材をステップ部材とは別の部材とする構成に限定したものである。 A 出願人に通知された拒絶理由についてみると、拒絶理由通知の理由@中に示された実願昭60-191770号(実開昭62-99644号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第20号証)、 実公昭50-12217号実用新案公報(乙第21号証)、実公昭47-6034号実用新案公報(乙第22号証)、実願昭49-83137号(実開昭51-12141号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第23号証)には、橋絡的構成は記載されておらず、そのような構成を示唆する記載は見当たらない。また、補正は、前記拒絶理由通知の理由Aに対応して、 「径方向外方」という文言を明瞭にするためにも行われたものと認められるが、このことは、本件考案を構成要件Cのような構成に限定することに結びつくとはいえない。 B しかし、出願人は、前記cのとおり、補正の前に、本件登録意匠の出願、登録をしており、本件登録意匠は、橋絡的構成によるものであった。したがって、出願人は、補正当時、構成要件Cのように回転止め部材をタラップ部材と別の部材とする構成のほかに、橋絡的構成があることを認識していたものと推認される。 出願人は、補正当時、橋絡的構成があることを認識しながら、補正により、橋絡的構成を含むように記載されていた出願時の実用新案登録請求の範囲を、橋絡的構成を含まず、構成要件Cのように回転止め部材をステップ部材と別の部材とする構成に限定する記載とした。したがって、出願人は、補正により、橋絡的構成を実用新案登録請求の範囲から意識的に除外したものといわざるを得ない。 構成c2は、帯板の両端によって突部が形成され、突部間が帯板とは別部材(大きい金属板)によって橋絡、結合され、その別部材にボルト挿通孔が設けられた構成であり、橋絡的構成を採るものである。 e したがって、被告タラップ2号は、構成c2が構成要件Cと異なる点において、均等の第5要件を充足しないから、均等が成立するとは認められない。 (オ) したがって、被告タラップ2号は、本件考案の技術的範囲に属さない。 オ(ア)a 請求原因(1)オ(被告タラップ3号)(ア)(被告タラップ3号の構成)のうち、a3、b3、d3は、当事者間に争いがない。 b 構成c3について検討する。 構成c2について(前記エ(ア)b)と同様に、帯板の突出部は、回転止め部として、金属板の突出部は、抜け止め部として特定すべきものと認められる。 したがって、構成c3は、原告ら主張(請求原因(1)オ(ア)c3)のように、次のとおり特定されるものと認められる。 c3 前記一対の帯板の先端部を間隔を設けて外側に曲折して一対の突部を形成し、この一対の突部は受金具の左右外側面を挟持する間隔に形成されて回転止め部を構成する。前記大きい金属板の延出部の端縁部を外側に曲折して、タラップ部材の突出部と直交する抜け止め部を形成するとともに、帯板の開口部に対応する部分にボルト貫通孔を形成する。 (イ)a 請求原因(1)オ(イ)(文言侵害)のうち、構成a3、b3、d3により、構成要件A、D、E、Fが充足されることは、当事者間に争いがない。 b 構成c3が構成要件Cを充足するかという点について検討する。 前記(1)エ(イ)bのとおり、構成要件Cにいう回転止め部材は、ステップ部材と別の部材がステップ部材に溶接等により固着されたものを意味するものと認められる。 構成c3によれば、被告タラップ3号において、構成要件Cにいう本体部は、大きい金属板のうち帯板の開口部に対応する部分に該当し、構成要件Cにいう突部は、一対の帯板の先端部を間隔を設けて外側に曲折して形成された一対の突部に該当する。そうすると、構成要件Cにおいて本体部と突部とからなるとされる回転止め部材は、被告タラップ3号においては、構成c3により、帯板の一部と、大きい金属板の一部とからなるということになる。ところが、構成b3によれば、構成要件B、Cにいうステップ部材は、被告タラップ3号本体に該当し、被告タラップ3号本体は、丸棒材と一対の帯板と大きい金属板とからなる。そうすると、被告タラップ3号において、回転止め部材は、ステップ部材(すなわち、丸棒材と一対の帯板と大きい金属板)の一部からなり、回転止め部材を、ステップ部材と別の部材がステップ部材に溶接等により固着されたものとする構成要件Cは充足されないこととなる。 したがって、構成c3は、構成要件Cを文言上充足しない。 (ウ) 前記(イ)bのとおり、被告タラップ3号は、構成c3において構成要件Cを文言上充足しないものと認められるが、この点に関し、均等の第5要件が充足されるか(請求原因(1)オ(ウ)bB(均等の第5要件))について検討すると、前記エ(エ)bないしdのとおり、出願人は、補正により、橋絡的構成を実用新案登録請求の範囲から意識的に除外したものと認められるところ、構成c3は、橋絡的構成を採るものである。 したがって、被告タラップ3号は、構成c3が構成要件Cと異なる点において、均等の第5要件を充足しないから、均等が成立するとは認められない。 (エ) したがって、被告タラップ3号は、本件考案の技術的範囲に属さない。 カ(ア) 請求原因(1)カ(被告受金具による間接侵害等)(ア)(間接侵害)について検討する。 a 乙第3、第4号証の各1ないし4、第5号証、第29、第30号証、 第34号証、第35ないし第40号証の各1、2、第47号証の1ないし3及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 被告は、豊工業株式会社(以下「豊工業」という。)に対し、被告タラップ1号本体のみを、平成11年9月4日200個、同年11月11日100個販売した。被告は、平成12年3月1日以降、被告タラップ2号を製造して自社で使用し、同年5月1日、被告タラップ2号を200個、豊工業に販売した。被告は、その後、被告タラップ3号を製造し、同年8月23日以降、自社で使用するとともに、同月28日株式会社櫻之宮鉄工所に2500個、平成13年2月9日株式会社ソエジマに240個、同年4月21日株式会社菊池鉄工所に850個、同年7月9日株式会社エンジニアリング吉井に840個、同日株式会社鐘商に500個、 同年8月3日山口鉄工建設株式会社に500個販売し、現在も製造販売を行っている。 以上の事実が認められる。 b 前記のとおり、被告タラップ1号は本件考案の技術的範囲に属するが、被告タラップ2号及び3号は、本件考案の技術的範囲に属さない。被告は、平成12年3月1日以降、本件考案の技術的範囲に属さない被告タラップ2号及び3号を製造販売しており、被告受金具は、これらの製造にも用いられ、本件考案に係る物品の製造にのみ用いる物ではないから、平成12年3月1日以降においては、 被告受金具の製造販売につき、本件実用新案権の間接侵害は成立しないというべきである。 c そこで、平成12年3月1日以前について、被告受金具の製造販売につき、本件実用新案権の間接侵害が成立するかについて検討する。まず、被告タラップ1号本体と被告受金具が組み合わされることにより本件実用新案権の直接侵害が成立する場合について検討する。 原告タラップ本体及び原告受金具の販売の経緯は、前記ア(イ)のとおりであり、原告受金具は、平成9年9月21日から平成12年9月29日までの間だけでも、少なくとも240万6250個、1か月平均6万6840個販売されていたものである。また、原告タラップ本体は、甲第14号証の1ないし23、第15号証の1ないし36、第16号証によれば、平成9年9月から平成12年10月までの間だけでも、2万個以上販売されていたことが認められる。他方、被告タラップ1号本体については、前記aのとおり、被告は、豊工業に対し、被告タラップ1号本体のみを、平成11年9月4日200個、同年11月11日100個販売した。被告受金具については、乙第48ないし第64号証の各1、2、第65号証によれば、被告は、平成12年3月1日以前において、平成11年9月17日から平成12年2月22日まで、山大興業ほか合計17名に対し、別表のとおり、合計3万2000個の被告受金具を販売したことが認められるが、これらの販売先には、 被告タラップ1号本体の販売先である豊工業は含まれていなかった。乙第5号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成11年3月までは、原告受金具を購入し、 同年10月までは、コンドーテックの販売する原告タラップ本体を購入し、現在でも約1000個の原告タラップ本体を保有し使用していることが認められる。 以上の事実に照らすと、被告が被告タラップ1号本体、被告受金具の販売を開始した平成11年9月当時においては、既に、相当多数の原告タラップ本体及び原告受金具が、市中に広く出回っていたものと認められる。前記のとおり、 被告は、平成11年9月4日と同年11月11日に合計300台の被告タラップ1号本体のみを豊工業に販売したが、平成12年3月1日以前には、豊工業には被告受金具を販売しておらず、被告が豊工業に販売した被告タラップ1号本体が被告受金具と組み合わされて使用されたことを具体的に裏付ける証拠は存在しない。そうすると、豊工業に販売された被告タラップ1号本体は、すべて原告受金具と組み合わせて使用されたものと推認される。なお、乙第5号証及び弁論の全趣旨によれば、被告の社内において、被告タラップ1号本体と被告受金具が組み合わされて少数使用されたことが推認されるが、その使用数を認めるに足りる証拠はなく、また、本件において原告らが間接侵害を主張するのは、被告が製造し、かつ販売した被告受金具による直接侵害を前提とする趣旨であり、被告が製造後自社内で使用したことによる直接侵害を前提とする趣旨ではないと解される。 したがって、被告が製造販売した被告受金具が被告タラップ1号本体と組み合わされることにより本件実用新案権の直接侵害が成立したことを前提とする、被告受金具についての間接侵害の主張は、理由がない。 d 前記cのとおり、被告は、平成11年9月17日から平成12年2月22日まで、山大興業ほか合計17名に対し、合計3万2000個の被告受金具を販売したものであるが、その当時、既に、相当多数の原告タラップ本体及び原告受金具が、市中に広く出回っていたものであり、その一方で、被告タラップ1号本体は、豊工業に対して300台販売されたのみである。このような事実に鑑みると、 被告が被告受金具を販売した山大興業ほか合計17名は、もとは、原告タラップ本体及び原告受金具を購入し、使用していたものであり、受金具だけ、被告が製造販売した被告受金具を購入して使用するようになったものと推認される。そうすると、被告が平成11年9月17日から平成12年2月22日まで製造販売した受金具は、原告タラップ本体と組み合わせて使用されていたものと推認される。 e そこで、当初、原告タラップ本体及び原告受金具を購入して使用していた者が、受金具だけを被告から購入し、原告タラップ本体と組み合わせることが、本件実用新案権の直接侵害となるかという点について検討する。 実用新案権者又は実用新案権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該登録実用新案に係る製品(実施品)を譲渡した場合には、当該実施品については実用新案権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや実用新案権の効力は、当該登録実用新案の実施品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである(最高裁判所平成9年7月1日第3小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)。そして、実用新案の実施品の一部分で、考案の構成要件の一部を構成する部分が、実施品全体に比べて耐用期間が明らかに短く、 容易に交換できるように設計されている場合は、そのような部分を耐用期間の経過により交換する行為は、形式的には考案に係る物の「製造」(実用新案法2条3項)に当たり、考案の実施に当たるように見えるが、実用新案権はもはや目的を達したものとして消尽しており、このような行為は実用新案権の侵害とはならないものと解するのが相当である。けだし、@実用新案権者は、当初実施品を譲渡することにより、考案公開の対価を得ることができ、A仮に、実施品全体に比べて耐用期間が明らかに短く、容易に交換できるように設計されている部分の製造販売等についてまで、常に実用新案権者が実用新案権を行使できるとすれば、実用新案権者は、考案の構成要件すべてを充足する実施品について考案公開の対価を回収することができるという原則を著しく逸脱することになり、考案の技術的範囲を実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないとした法(実用新案法26条、特許法70条)の趣旨に大きく反することになるし、B実施品全体に比べて耐用期間が明らかに短く、容易に交換できるように設計されている部分を交換しても、実施品全体については、当初の実施品との同一性が失われるとはいえず、Cまた、そのような部分を耐用期間の経過により交換することは、当然に予想されるところであって、そのような行為に実用新案権の効力を及ぼさないとすることは、実用新案権者、取引者等の通常の意思に合致するものといえるからである。 これを本件についてみると、タラップ本体は、何度も使用することができるのに対し、受金具は、建設現場の鉄柱等に溶接され、一度しか使用することができないから、受金具は、タラップ本体も含めた実施品(タラップ)全体に比べて明らかに耐用期間が短いといえる。また、受金具は、U字形の凹部にボルトが係合することによってタラップ本体と結合されており、容易にタラップ本体から取り外して交換できるように設計されている。そして、受金具は、本件考案の構成要件の一部を構成するものの、本件考案の本質的部分を構成する主要な部分に当たるとすべき事情があるとまではいえない。そうすると、受金具だけを被告受金具に交換して原告タラップ本体と組み合わせることは、形式的には考案に係る物の製造に当たり、考案の実施に当たるように見えるが、実用新案権は消尽しており、このような行為は実用新案権の侵害とはならないというべきである。 したがって、被告が製造販売した被告受金具が原告タラップ本体と組み合わされることにより本件実用新案権の直接侵害が成立するとは認められず、被告受金具が原告タラップ本体と組み合わせて使用されたことを前提とする、被告受金具についての間接侵害の主張は、理由がない。 f 原告らは、実用新案権者等は、タラップ本体及び受金具の価格を可能な限り低く抑えてタラップを市場に普及させ、受金具の販売量を増加させて考案公開の対価を得ており、そのことからすると、受金具を取り替える行為は、修理には該当せず、実用新案権者又はその許諾を受けた者以外の者が製造した受金具を、実用新案権者等が製造したタラップ本体に組み合わせて使用する行為は、実用新案権者等に支払った対価を超えてタラップ本体を使用することになり、実用新案法2条3項の「製造」に該当し、実用新案権の侵害となる旨主張する。しかし、実用新案権者等は、原則として、考案の構成要件をすべて充足する実施品について考案公開の対価を回収することができるのであり、本件考案の受金具のように、実施品全体に比べて耐用期間が明らかに短く、容易に交換できるように設計されており、しかも考案の本質的部分を構成する主要な部分とはいえない部分のみの交換についてまで、当然に考案公開の対価を回収し得るわけではないから、そのような部分についてまで考案公開の対価の回収ができることを前提とする原告らの主張は、採用することができない。 g したがって、原告らの間接侵害の主張は、理由がない。 (イ) 請求原因(1)カ(イ)(実用新案法27条1項に基づく妨害予防請求権)のうち、被告が被告受金具の製造販売を行っていることは、当事者間に争いがない。 これまで述べたように、被告が被告受金具を製造販売することは、本件実用新案権を侵害することはないから、原告Aが、被告に対し、実用新案法27条1項に基づき妨害予防請求権を有する旨の主張は、採用することができない。 キ 請求原因(1)キ(原告会社の独占的通常実施権の侵害)のうち、原告会社が原告受金具を製造販売していることは、当事者間に争いがない。 これまで述べたように、被告が被告受金具を製造販売する行為は、本件実用新案権を侵害することはないから、原告会社の実施権を侵害することはない。 (2)ア 請求原因(2)(意匠権侵害)ア(本件意匠権)は、当事者間に争いがない。 イ 請求原因(2)イ(本件登録意匠)について検討する。 (ア) 本件登録意匠の構成 甲第1号証によれば、本件登録意匠の構成は、次のとおりであると認められる。 a 基本的構成態様 @ タラップ本体と受金具とからなる。 A タラップ本体は、一定幅の帯板を長方形の環状に成形してなる長方形部と、長方形部の底面の辺の中央部に間隔をおいて外側に向け突出させた一対の突部とが形成され、一対の突部間の長方形部に環状の内外方向に貫通する貫通孔が開けられており、貫通孔に、頭付きボルトが環状の外側から内側に向けて挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている。 B 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている。 C 受金具の屈曲部は、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされており、受金具の両端が、タラップ本体の一対の突部間に嵌め込まれて使用される。 b 具体的構成態様 @ タラップ本体の長方形部は、前面の辺(上辺)と底面の辺(下辺)の長さが等しく、前面及び底面の辺(横)が側面の辺(縦)よりも長く、横対縦の長さの比率が、約1.5対1である。 A タラップ本体の一対の突部は、長方形部をなす一連の帯板の両端部を外側に向け略直角に屈曲して構成しており、一対の突部間は、中央に貫通孔を有する板片を橋絡、結合している。 B 受金具の凹部はU字形であり、U字形の開口部の隅角は隅切りがなく直角である。 (イ) 本件登録意匠の要部 a 甲第2号証によれば、類似意匠の構成は、具体的構成態様Aを「タラップ本体の長方形部は、環状に形成された両端が底面の辺の中央部で当接しており、一対の突部は、長方形部と別体の中央に貫通孔を有する板片が長方形部に固着されて形成され、その左右側縁を外側に向け略直角に屈曲して構成されている。」というものであるほかは、本件登録意匠の構成と同じであることが認められる。 乙第11、第12号証、第20ないし第23号証によれば、本件登録意匠の意匠登録出願前に公知であった足場、タラップとしては、足掛金物をマンホール側塊の突条にボルトとナットで固定したもの(乙第11号証記載)、薄鋼板製の電柱に溶着した角形ナットに三角形の足場金具を螺締したもの(乙第12号証記載)、地下構造物の枠体内面に設けられた係合部と手掛けに設けた係止部をねじで止めたもの(乙第20号証記載)、電柱等に溶接された基板に、角形ナット、回動防止片、円筒体、ナットにより足場となるボルトを固定するもの(乙第21号証記載)、ボルト孔を穿設した取付金具を金属柱に溶着し、足場ボルトを取付金具のボルト孔に挿通してナット、スプリングワッシャーにより螺着したもの(乙第22号証記載)、中央板面に貫通孔を有する座金を鉄柱側面に溶接付けし、座金の貫通孔にナットで足場ボルトを固定したもの(乙第23号証記載)があることが認められる。 これらの公知意匠と比較すると、本件登録意匠に係るタラップは、基本的構成態様全体に特徴があり、それが看者の目を引くものである。 甲第1号証、乙第3号証の2ないし4、第4号証の1ないし4及び弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠においては、環状をなすタラップ本体の帯板が、全体の中で物理的に大きな割合を占めていること、また、本件登録意匠に係るタラップは、建設現場で垂直に立設された鉄骨等に溶接された受金具にタラップ本体を取り付け、鉄骨から前に張り出したタラップ本体が縦方向に並んでタラップを構成し、作業員がタラップ本体に手や足を掛けて昇降するという方法で使用されることが認められる。そのような使用状態においては、タラップ本体の正面及び背面の形状が、非常に大きく目立つものといえる。 さらに、乙第13号証、第19号証によれば、環状の帯板の形状等が異なったタラップについて意匠登録がされていることが認められる。 b これらの認定事実によれば、本件登録意匠の要部は、基本的構成態様(前記(ア)a)と、具体的構成態様のうち、タラップ本体の長方形部の前面及び底面の辺(横)が、側面の辺(縦)よりも長い横長の点(前記(ア)b@)にあるものと認めるのが相当である。 ウ 請求原因(2)ウ(被告タラップ1号)について検討する。 (ア) 被告タラップ1号の構成 甲第9号証の1ないし5、第13号証の1ないし4、乙第14号証の1ないし5及び弁論の全趣旨によれば、被告タラップ1号の意匠の構成は、次のとおりであると認められる。 a 基本的構成態様 @ タラップ本体と受金具とからなる。 A タラップ本体は、一定幅の帯板を台形の環状に成形してなる台形部と、台形部の底面の辺の中央部に間隔をおいて外側に向け突出させた一対の突部とが形成され、一対の突部間の台形部に環状の内外方向に貫通する貫通孔が開けられており、貫通孔に、頭付きボルトが環状の外側から内側に向けて挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている。 B 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている。 C 受金具の屈曲部は、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされており、受金具の両端が、タラップ本体の一対の突部間に嵌め込まれて使用される。 b 具体的構成態様 @ タラップ本体は、正面及び背面の形状が、前面の辺(上辺)が底面の辺(下辺)よりも長く、両側面の辺の長さが等しい台形である。 A 台形部の上辺と下辺の長さの比率は、約5対4であり、上辺と側面の辺の長さの比率は、約2対1である。 B タラップ本体は、環状の台形部とは別体の中央に貫通孔を有する板片で形成され、その左右両側縁を外側に向け略直角に屈曲して構成されている。 C タラップ本体の台形部の上辺は、断面く字状にわずかに屈曲している。 D 受金具の凹部はU字形であり、U字形の開口部の隅角は、丸みを帯びた隅切りがされている。 (イ) 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠の対比 a 構成の対比 @ 共通点 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠は、基本的構成態様のうち、タラップ本体の形状を除いた点、及び具体的構成態様のうち、受金具の凹部がU字形である点が共通している。 A 相違点 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠は、次のとおり異なる。 @ 本件登録意匠は、タラップ本体が長方形であり、上辺と下辺の長さが等しいのに対し、被告タラップ1号のタラップ本体の形状は、上辺が下辺より長い台形であり、台形の上辺と下辺の長さの比率は、約5対4である。 A 本件登録意匠では、長方形部の前面及び底面の辺(横)と側面の辺(縦)の長さの比率は、約1.5対1であるのに対し、被告タラップ1号では、 台形部の上辺と側面の辺の長さの比率は、約2対1である。 B 本件登録意匠では、タラップ本体の一対の突部は、長方形部をなす一連の帯板の両端部を外側に向け略直角に屈曲して構成しており、一対の突部間は、中央に貫通孔を有する板片を橋絡、結合している。これに対し、被告タラップ1号では、タラップ本体は、環状の台形部とは別体の中央に貫通孔を有する板片で形成され、その左右両側縁を外側に向け略直角に屈曲して構成されている。 C 被告タラップ1号のタラップ本体の台形部の上辺は、断面く字状にわずかに屈曲しているが、本件登録意匠のタラップ本体の上辺にはこのような屈曲はない。 D 本件登録意匠では、受金具の凹部のU字形の開口部の隅角は、隅切りがなく直角である。これに対し、被告タラップ1号では、受金具の凹部のU字形の開口部の隅角は、丸みを帯びた隅切りがされている。 b 類否 前記イ(イ)bのとおり、本件登録意匠の要部は、基本的構成態様(前記(ア)a)と、具体的構成態様のうち、タラップ本体の長方形部の前面及び底面の辺(横)が、側面の辺(縦)よりも長い横長の点(前記(ア)b@)にある。 本件登録意匠と被告タラップ1号の意匠は、基本的構成態様において、タラップ本体の形状が、前者は長方形であるのに対し、後者は台形である点で既に異なっており、この点で、被告タラップ1号は、本件登録意匠の要部をなすタラップ本体の形状と異なっている。 このように、被告タラップ1号の意匠は、本件登録意匠と、その要部において相違する上、上記aAのとおり、その余の部分においても相違するから、 被告タラップ1号の意匠は、全体として、本件登録意匠とは美感を異にし、本件登録意匠に類似しないというべきである。 エ 請求原因(2)エ(被告タラップ2号)について検討する。 (ア) 被告タラップ2号の構成 甲第9号証の1ないし5、乙第1号証の1ないし5、検乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告タラップ2号の意匠の構成は、次のとおりであると認められる。 a 基本的構成態様 @ タラップ本体と受金具とからなる。 A タラップ本体は、一定幅の帯板を台形の環状に成形してなる台形部と、台形部の底面の辺の中央部に間隔をおいて外側に向け突出させた一対の突部とが形成され、大きい板片を、上記突部間の開口部を塞ぐように帯板の内側に固定し、この板片の中央部に環状の内外方向に貫通する貫通孔が開けられており、貫通孔に、頭付きボルトが環状の外側から内側に向けて挿通され、挿通されたボルトの後端にナットが螺合されている。 B 受金具は、左右両端から前方に向けて屈曲部を有する略コ字形端面を有し、中央部には、上向きに開いた凹部が形成されている。 C 受金具の屈曲部は、タラップ本体の突部間の間隔に適合する幅とされており、受金具の両端が、タラップ本体の一対の突部間に嵌め込まれて使用される。 b 具体的構成態様 @ タラップ本体は、正面及び背面の形状が、前面の辺(上辺)が底面の辺(下辺)よりも長く、両側面の辺の長さが等しい台形である。 A 台形部の上辺と下辺の長さの比率は、約5対4であり、上辺と側面の辺の長さの比率は、約2対1である。 B タラップ本体の下辺中央において、一対の突部間の開口部を塞ぐように帯板の内側に固定された大きい板片は、帯板に溶接された六角形の金属板であり、その上辺は台形下辺より少し短い長さで、下部は帯板の下縁から台形状に延出している。 C 金属板の下端部に、受金具とほぼ等しい幅で、断面L字形の抜け止めが設けられている。 D タラップ本体の台形部の上辺は、断面く字状にわずかに屈曲している。 E 受金具の凹部はU字形であり、U字形の開口部の隅角は、丸みを帯びた隅切りがされている。 (イ) 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠の対比 a 構成の対比 @ 共通点 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠は、基本的構成態様のうち、タラップ本体の形状及び帯板の開口部を塞ぐ大きい板片の有無を除いた点、及び具体的構成態様のうち、受金具の凹部がU字形である点が共通している。 A 相違点 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠は、次のとおり異なる。 @ 本件登録意匠は、タラップ本体が長方形であり、上辺と下辺の長さが等しいのに対し、被告タラップ2号のタラップ本体の形状は、上辺が下辺より長い台形であり、台形の上辺と下辺の長さの比率は、約5対4である。 A 本件登録意匠では、長方形部の前面及び底面の辺(横)と側面の辺(縦)の長さの比率は、約1.5対1であるのに対し、被告タラップ2号では、 台形部の上辺と側面の辺の長さの比率は、約2対1である。 B 本件登録意匠では、タラップ本体の一対の突部間は、中央に貫通孔を有する板片を橋絡、結合している。これに対し、被告タラップ2号では、タラップ本体の一対の突部間は、大きい六角形の金属板の板片を、上記突部間の開口部を塞ぐように帯板の内側に溶接により固定しており、その下部は帯板の下縁から台形状に延出している。また、被告タラップ2号では、金属板の下端部に、受金具とほぼ等しい幅で、断面L字形の抜け止めが設けられているが、本件登録意匠にはそのような抜け止めは設けられていない。 C 被告タラップ2号のタラップ本体の台形部の上辺は、断面く字状にわずかに屈曲しているが、本件登録意匠のタラップ本体の上辺にはこのような屈曲はない。 D 本件登録意匠では、受金具の凹部のU字形の開口部の隅角は、隅切りがなく直角である。これに対し、被告タラップ2号では、受金具の凹部のU字形の開口部の隅角は、丸みを帯びた隅切りがされている。 b 類否 本件登録意匠と被告タラップ2号の意匠は、基本的構成態様において、タラップ本体の形状が、前者では長方形であるのに対し、後者では台形であり、また、後者には前者にない帯板の一対の突部間の開口部を塞ぐ大きな金属板の板片が存在する。このように、本件登録意匠の要部をなす基本的構成態様において、被告タラップ2号の意匠は本件登録意匠と異なっている。 被告タラップ2号の意匠は、本件登録意匠と、その要部において相違する上、上記aAのとおり、その余の部分においても顕著に相違するところがあり、被告タラップ2号の意匠は、全体として本件登録意匠とは美感を異にし、本件登録意匠に類似しないというべきである。 オ 請求原因(2)オ(被告受金具による間接侵害)について検討する。 前記(1)イ(ア)、(イ)のとおり、被告は、平成11年9月1日以降、被告タラップ1号本体及び被告受金具を製造販売したものである。 甲第9号証の1ないし5、第13号証の1ないし4、乙第14号証の1ないし5及び弁論の全趣旨によれば、被告タラップ1号は、建設現場において鉄骨等に設置する仮設のタラップとして使用するに耐えるものであると認められ、前記(1)カ(ア)cのとおり、被告の社内で少数使用されたほか、被告タラップ1号本体のみが豊工業に合計300個販売され、豊工業に販売された被告タラップ1号本体は、 原告受金具と組み合わせて使用されたと推認される。甲第9号証の1ないし5及び弁論の全趣旨によれば、被告受金具と原告受金具の形態は、凹部の上端が、被告受金具は隅丸に面取りがされているのに対し、原告受金具はそのように面取りがされていない点が異なるだけで、その余はほぼ同一であることが認められるから、被告タラップ1号本体が原告受金具と組み合わせて使用されたのであれば、被告受金具と組み合わせて使用することも可能であったと認められる。したがって、被告受金具を被告タラップ1号本体と組み合わせて被告タラップ1号として使用することは、被告受金具の使用方法としては、社会通念上、経済的、実用的な用途であったと認められ、被告タラップ1号への使用が、形式的、名目的な使用にとどまるとはいえない。 そうすると、被告受金具は、被告により製造販売が開始された当時から、 本件登録意匠に類似しない被告タラップ1号に使用するという他用途があったことになり、本件登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物に当たらなかったものと認められる。 前記(1)イ(ア)のとおり、被告は、平成12年3月1日以降は、被告タラップ2号を製造販売したものであり、被告タラップ2号は、前記エ(イ)のとおり、本件登録意匠に類似しないから、同日以降は、被告受金具について、被告タラップ2号と組み合わせて使用するという他用途もあったものと認められ、被告受金具は、 この点からも、本件登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物に当たらなかったものと認められる。 したがって、原告らの間接侵害の主張は、理由がない。 カ 請求原因(2)カ(原告会社の独占的通常実施権の侵害)のうち、原告会社が原告受金具を製造販売していることは、当事者間に争いがない。 これまで述べたように、被告が被告受金具を製造販売する行為は、本件意匠権を侵害することはないから、原告会社の実施権を侵害することはない。 (3)ア 請求原因(3)(不正競争防止法)ア(不正競争)(ア)(周知商品表示)について検討する。 (ア) 商品の形態は、通常、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるために選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、 かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態が商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得る。 (イ) 原告受金具等の販売の経緯、販売数量は、前記(1)ア(イ)のとおりである。 原告受金具の形状は、2箇所が屈曲し、略コ字形端面を有し、中央部には上向きに開いたU字形の凹部が形成され、U字形の開口部の隅角は、隅切りがなく直角であるというものであり、その形状は比較的単純なものということができる。また、本件考案の実用新案登録出願前に頒布された刊行物である乙第6ないし第10号証には、ボルトの取付金具などとして、屈曲部の長さやU字形の凹部の幅と全体の寸法との比率などが異なるものの、原告受金具と基本的に同様な形状の金具が記載されており、原告受金具の形状は、本件考案の出願当時、金具の形状として、特段、斬新なものであったとはいえない。 したがって、原告受金具の形態は、他の商品と識別し得る独特の特徴を有するものとはいえず、前記(1)ア(イ)記載のとおり相当数が製造販売されたことを考慮しても、なお、原告受金具の形態が、原告会社の商品表示として需要者の間で広く認識されていたとは認められない。 イ したがって、被告が被告受金具を製造販売することは、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとはいえず、不正競争防止法に基づく請求は理由がない。 2 以上によれば、本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 田中秀幸 |