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関連審決 審判1999-35665
関連ワード 考案 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  相違点の判断 /  きわめて容易 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 501号 審決取消請求事件
原告 有限会社双野テック
訴訟代理人弁護士 深井潔
同 弁理士 犬飼新平
被告 三山工業株式会社
訴訟代理人弁護士 渡邊敏
同 弁理士 林宏
同 後藤正彦
同 林 直生樹
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35665号事件について平成12年11月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「マンホール用足掛具の取り付け構造」とする実用新案登録第1871750号考案(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。なお、本件考案に係る実用新案登録は、昭和59年10月15日に株式会社デルタ工業がした実用新案登録出願に係り、平成3年11月19日に設定登録がされた後、
原告において、平成8年3月12日にその実用新案権を同会社から譲り受け、同年11月18日に移転登録を受けたものである。
被告は、平成11年11月17日、上記実用新案登録につき無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第35665号事件として審理した上、
平成12年11月17日に「登録第1871750号の実用新案登録を無効ととする。」との審決をし、その謄本は同年12月6日原告に送達された。
2 本件考案の要旨 マンホールの側壁Wにおける通孔1にテーパー状の受部8と外向き受面9とを設けるほか、先端に雄ねじ4を刻設すると共に中間に鍔片5を設けた取付杆3、
3が平行に形成されたコ字状主体からなる足掛具2を設けて、この足掛具2における取付杆3と通孔1の受部8との中間空隙にテーパー付き筒状パッキング12を圧入する状態のもとに、座金13およびナット7により座金13が受面9に圧接するように締め付け固定してなるマンホール用足掛具の取り付け構造
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件考案は、実願昭56-102834号(実開昭58-9500号)のマイクロフィルム(審判・本訴とも甲第1号証)、実開昭53-38152号公報(同甲第3号証)及び実願昭56-74117号(実開昭57-186161号)のマイクロフィルム(同甲第4号証)記載の各考案及び技術常識に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定に該当し、その実用新案登録は、同法37条1項1号(平成5年法律第26号による改正前の同号の趣旨と解される。)の規定により無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、甲第1、第3号証の記載事項の認定(審決謄本3頁34行目〜5頁15行目)、本件考案と甲第1号証記載の考案との一致点及び相違点1〜3の認定(同5頁31行目〜6頁17行目)、相違点1についての判断(同6頁20行目〜35行目)は認める。
審決は、相違点2、3についての判断を誤り(取消事由1、2)、また、本件考案の顕著な効果を看過した(取消事由3)結果、本件考案は、甲第1、第3、
第4号証記載の各考案及び技術常識に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は、本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点2として、「本件考案においては、その受部をテーパー状とし、テーパー付き筒状パッキングを圧入するのに対し、甲第1号証に記載されたものにおいては、本件考案のパッキングに対応するシール材がそのような構成を有しない点」(審決謄本6頁10行目〜12行目)を認定した上、当該相違点について、「甲第4号証によると、『パッキン4をナット5で圧縮することにより水密構造を得ている』(同明細書1頁19、20行)との記載があり、防水性確保の点から、テーパー状の受部と、テーパー付き筒状パッキンを圧入する状態のもとに、座金およびナットにより締め付け固定してなるとの構成を用いることが記載されている。一方、甲第1号証によると・・・防水性を確保するためにシール材を設けることが記載されている。してみると、甲第1号証に記載された課題と同じ課題である防水性をより高めるために、甲第1号証に示されているシール材に代えて、適用されている直接の技術分野は異なるものの、
甲第4号証において同様の課題解決のために開示されているテーパー状の受部とテーパー付き筒状パッキン等の構成を採用し、本件考案におけるように構成するようなことは、特にその適用を阻害する要因もないことから、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得た程度のことである」(同7頁6行目〜23行目)と判断するが、誤りである。
(2) まず、審決の上記判断は、甲第4号証には、ケーブルを「締め付け固定してなる構成」が記載されているとの認定に基づくものであるが、甲第4号証に記載された「電動機のケーブル引出装置」においては、専ら、損傷しやすいケーブルの水密構造を標ぼうしており、ケーブルの固定を目的としていないし、ケーブル自体の軸線方向への拘束部材も見当たらない。仮に、パッキンの圧縮によりケーブルを固定しようとしても、ケーブルに軸線方向への力が作用すると、ケーブルは可撓性のある直線形状であるから、ケーブル自体が変形(縮径)して軸線方向へ移動してしまい、これを固定することはできない。むしろ、ケーブルは、その接続部で固定されるため、水密構造を得るためのパッキン自体には固定部材や固定手段を設ける必要がない。したがって、審決の上記判断は、ケーブルを「締め付け固定してなる構成」が甲第4号証に記載されていると認定した前提において誤りである。
(3) さらに、元来、パッキングは弾性材を圧縮して使用するものであるところ、その圧縮手段としてねじが多用され、弾性材の圧縮の程度をねじの締め加減で調節するのが技術常識であり、甲第1、第3、第4号証記載の各考案もこのような構造を採用したものであって、いずれにも、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造はない。これに対し、本件考案は、その要旨が「パッキング12を圧入する状態のもとに、座金13およびナット7により座金13が受面9に圧接するように締め付け固定してなる」と規定するとおり、座金13と受面9との圧接位置がストッパーとして機能する構成を採用したものであり、締め付けの程度、すなわち締め付け位置があらかじめ規定された構成のものである。そうすると、本件考案は、
甲第1、第3、第4号証が開示していない構成を採用し、ねじの締め加減により調節する構成の常識的なパッキング装置とは異なるパッキング手段を採用するものであるから、本件考案が甲第1、第3、第4号証記載の各考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとはいえない。
2 取消事由2(相違点3についての判断の誤り) (1) 審決は、本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点3として、「パッキングを圧入する状態のもとに、本件考案においては、座金が受面に圧接するように締め付け固定するのに対し、甲第1号証に記載されたものにおいては、そのような構成についての明示の記載がない点」(審決謄本6頁14行目〜17行目)を認定した上、当該相違点について、「甲第1号証の、特に第2、3図によると、ナット11の座金と凹所9の底壁との間にシール材10を介在しているものの、ナット11の座金が凹所9の底壁に直接圧接しているかどうか明確でなく、第4図のものにおいても、『座金が受面に圧接するように締め付け固定してなる』との点に関し、
必ずしも明示の記載はされていない。しかし、この種の足掛部材において、その取り付けに際し、足掛部材には作業員が手足を掛けてその全体重をのせることから強固に取り付ける必要があり、又、防水性を確保するためには当然テーパー付き筒状パッキングを圧入する必要があり・・・これらの点を考慮すると、甲第1号証の第4図記載のものにおいて、ストッパー5、シール材10、座金、ナットによりコンクリート管6の周壁を挟み込むように、換言すればナットの座金が凹所9の底壁(外向き受面)にシール材10を圧入する状態のもとに、圧接するように締め付け固定することが当然のこととして必要であり、このようなことは、この種の分野における技術常識からすれば当然に考慮すべき技術事項であると認められる」(同7頁25行目〜8頁5行目)との認定に基づいて、「甲第1号証に開示されているものにおいて、特に『座金が受面に圧接するように』締め付け固定するようなことは、上記技術常識からすれば当然考慮すべき技術事項であり、このように構成するようなことは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得た程度のことである。」(同8頁12行目〜16行目)と判断するが、誤りである。
(2) すなわち、甲第1号証の第2、第3図は、ナット11の座金と凹所9の底壁との間に間隙が存在し、その間隙にモルタル12が充填されている構成を図示するものであるから、審決の上記認定は明らかな誤りである。なお、第4図は他例を図示するものであるが、同図ではナット11の座金とモルタル12が省略されていると考えられるから、この他例においても、ナットと座金を用いて組み立てると、
第2、第3図が図示するものと同様な構成になるものと推認される。また、審決のいうように「足掛部材には作業員が手足を掛けてその全体重をのせることから強固に取り付ける必要」があるとしても、この課題から直ちに「座金が凹所9の底壁(外向き受面)にシール材10を圧入する状態のもとに、圧接するように締め付け固定することが当然のこと」ということはできない。したがって、甲第1号証記載の考案に技術常識を併せ考慮したとしても、相違点3に係る構成を得ることが当業者のきわめて容易にし得たこととはいえない。
そもそも、座金によりパッキングを圧入すると同時に同じ座金を受面に圧接する水密構造兼固定構造は、水密技術分野における技術常識に反するものであり、本件考案が、座金を受面に圧接するように締め付け固定する構成としたのは、
従来の技術常識とはかけ離れた技法を取り入れたものであって、これをきわめて容易になし得た程度のことであるとした審決の判断は到底容認することができない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過) (1) 審決は、「全体として本件考案によってもたらされる効果も、甲第1、3及び4号証の各号証に記載された事項及び上記技術常識から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別なものとはいえない」(審決謄本8頁18行目〜20行目)と判断するが、誤りである。
(2) すなわち、本件考案は、相違点1、2に係る構成を採用することにより、
座金によりパッキングを圧入すると同時に同じ座金を受面に圧接する水密構造兼固定構造を実現し、足掛具の確実な固定と確実な水密効果とを同時に満足する作用効果を奏するものである。具体的には、パッキング12がテーパー面を介して圧入されているため、パッキング内には常に内部応力が存在し、この力がシール面に伝播してパッキングが常に押しつけられた状態となり、テーパー状の受部8の内面、取付杆3の取付部の外周面、座金13のパッキングへの押圧面の合計した広い面積がシール面となるので、長期にわたり優れたシール性能を維持することができる。さらに、本件考案では、取付杆の取付部のほぼ全体にわたりパッキングが巻かれているから、足掛具に作業者の体重がかかっても足掛具の位置ずれや傾斜を防止するものであり、また、テーパー付き筒状パッキングを使用することにより、通孔1に対する取付杆の心合わせを確実かつ容易とし、通孔の大きさや取付杆の太さに製作誤差が生じても、パッキングをすきまなく詰めることを可能とする。
他方、甲第1号証記載の考案は、締め付け固定が不十分となりやすく、しかも、反復荷重や地中での使用環境による経時変化に起因する水密機能の低下という問題があるので、長期にわたり漏水を確実に防止することができない致命的欠陥がある。甲第4号証記載の考案は、ケーブルに軸線方向への力が作用すると、ケーブル自体が変形(縮径)して軸線方向へ移動してしまい、これを固定することができないのであって、本件考案の上記のような顕著な効果は、甲第1、第3、第4号証がそれぞれ開示するものから当業者の予測し得ないものである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は、甲第4号証にはケーブルを「締め付け固定してなる構成」が記載されているとの審決の認定の誤りを主張するが、甲第4号証の第1、第2図に図示された構造において、テーパー付き筒状パッキン4をナット5により座金7を介して軸方向に押し付けると、この力は、パッキンをテーパー状の受部の壁面に沿って移動させようとする力と、壁面に垂直に押し付ける力に分力され、壁面に垂直に押し付ける力の反力が壁面に発生し、この反力が筒状パッキンを介してケーブル3の外周面を半径方向に押すことにより、パッキン4がテーパー状の受部に固定されるとともに、パッキンの内周面とケーブルの外周面との間に反力による摩擦力が作用することで両者が固定される。このように、甲第4号証記載の考案では、座金とナットを締め付けると、パッキン4がテーパー状の受部の壁面に固定されるとともに、ケーブル3がパッキン4を介してテーパー状の受部の壁面に固定されるものであるから、審決の上記認定に誤りはない。
この点について、原告は、さらに、パッキンの圧縮によりケーブルを固定するとしても、ケーブルに軸線方向への力が作用するとケーブル自体が変形(縮径)して軸線方向へ移動してしまい、これを固定することはできない旨主張するが、ケーブルは通常ある程度の硬さを有するので、ケーブルをテーパー状の受部の壁面との間にテーパー付き筒状パッキンを圧入して締め付けた場合、くさび効果により発生する大きな力により、ケーブルは筒状パッキンを介してテーパー状の受部の壁面に固定され、ケーブルに軸線方向の力が作用してもケーブルが軸線方向へ移動するということはない。
(2) 次に、原告は、本件考案は座金13と受面9との圧接位置がストッパーとして機能する構成を採用したものであるのに対し、甲第1、第3、第4号証記載の各考案には、このようなストッパー構造はない旨主張するが、甲第1号証の第4図は、パッキングであるシール材10がステップ1の挿通部3とテーパー状の取付凹部13との中間空隙に、その大部分が取付凹部に収納されて残る部分だけが凹所9の底壁受面から出た状態を図示している。そして、このような構成のものにおいて、座金を介してナットを締め付けると、上記シール材が座金に押されて弾性変形しながら取付凹部内に圧入され、座金が凹所の底壁受面に圧接することは、当業者には自明である。したがって、甲第1号証の第4図が図示するものは、本件考案と同様に、座金が受面に圧接する位置がねじを締め付ける際のストッパー位置となるものである。
そして、本件考案も甲第4号証記載の考案も、パッキングを圧着した水密効果の良いシール手段という点で共通するものであるから、甲第1号証の第4図に図示されたテーパー状の取付凹部13とシール材10に代えて、甲第4号証に記載されたテーパー状の受け部とテーパー付き筒状パッキンの構成を採用して本件考案を構成することは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易にし得た程度のことである。
2 取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について 原告は、甲第1号証の第4図も、第2、第3図と同様、ナット11の座金と凹所9の底壁との間に間隙が存在し、その間隙にモルタル12が充填されている構成を図示する旨主張するが、凹所9に埋設されるモルタル12は、ナット4を締め付けて座金がパッキング10をテーパー状の取付凹部13内に圧入するように押し付けてから埋設されることは当然であるから、第4図に示すものでは、原告の主張するような間隙が存在することはないというべきであり、原告の主張は失当である。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について 原告は、本件考案は、相違点1、2に係る構成を採用することにより、足掛具の確実な固定と確実な水密効果とを同時に満足する作用効果を奏するものであり、その顕著な効果は、甲第1、第3、第4号証からは予測し得ない旨主張するが、甲第1号証記載の考案のテーパー状の取付凹部13とシール材10に代えて、
甲第4号証記載のテーパー状の受部とテーパー付き筒状パッキンの構成を採用して本件考案を構成することが、当業者のきわめて容易にし得た程度のことである以上、本件考案と同様に、簡単な構成のもとに長期にわたり漏水を確実に防止することができるという効果を奏することは明らかであるから、本件考案の奏する効果は、甲第1、第3、第4号証にそれぞれ記載された事項や技術常識から、当業者が予測することのできる程度のものにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は、まず、甲第4号証には、ケーブルを「締め付け固定してなる構成」は記載されていないのに、審決は当該構成の記載を認定したとして、その誤りを主張する。しかし、審決が「甲第4号証によると・・・防水性確保の点から、テーパー状の受部と、テーパー付き筒状パッキンを圧入する状態のもとに、座金およびナットにより締め付け固定してなるとの構成を用いることが記載されている」(審決謄本7頁6行目〜10行目)とした認定は、相違点2、すなわち、「受部をテーパー状とし、テーパー付き筒状パッキングを圧入する」との構成に係る相違点の判断として、甲第4号証には、テーパー状の受部にテーパー付き筒状パッキンを圧入する手段として、座金及びナットによる締め付け固定手段が採られていることをいうにすぎないものであって、「ケーブルの締め付け固定」をいう趣旨でないことは、当該説示及び前後の文脈から明らかというべきである。そして、足掛具の固定手段に係る構成については、相違点3についての判断として別途示されているのであるから、審決の上記認定が「ケーブルの締め付け固定」をいう趣旨であることを前提とする原告の主張は、審決の趣旨を正解しないものであって、その前提において失当といわざるを得ない。
(2) 次に、原告は、甲第1、第3、第4号証記載の各考案は、パッキングに用いる弾性材の圧縮程度をねじの締め加減で調節する構造を採用したものであって、
いずれにも、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造はないとして、相違点2についての審決の判断の誤りを主張するが、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造の有無は、相違点3に係るものであって、相違点2、すなわち「受部をテーパー状とし、テーパー付き筒状パッキングを圧入する」との構成の有無とは関係がないというべきであり、相違点2についての判断の誤りをいう主張としては、
それ自体失当である。ただし、当該主張の趣旨は、取消事由2(相違点3についての判断の誤り)において改めて取り上げる。
(3) 以上のとおり、審決の相違点2についての判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について (1) 甲第1号証の第4図に示された考案に基づいて、相違点3に係る構成を当業者がきわめて容易に得ることができたかどうかを検討する。
甲第1号証によれば、同号証は「マンホール用足掛装置」に関するものであって、その考案の詳細な説明中には、一つの実施例として、「シール材10を安定した状態で挿通部3に取付ける場合には第4図に示す如く、凹所9内の挿通孔7の周りにシール材10の取付凹部13を予め形成することも可能である」(4頁10行目〜13行目)との記載があり、第4図として、コンクリート管6の壁面を貫通した挿通孔7が壁面に設けられた凹所9の底壁に開口する箇所にテーパー状の取付凹部13が形成され、パッキングに相当するシール材10が、その大部分を取付凹部内に収納され、残る部分を底壁から凹所内に出た状態で装着されている状態が図示されていることが認められる。
そして、同図には、ナット及び座金は記載されていないものの、挿通部3が凹所内に露出した側周面にはネジ4が切られていることから、第2、第3図の実施例と同様に、座金をはめてナットにより螺合して挿通部3を締め付けることが予定されていることは明らかであり、また、同図に示された考案がマンホール用足掛装置に関するものであって、ステップ1は人の体重を支えるものであるから、ステップ1を支える挿通部3は、そのような荷重に耐えられるよう強固に固定される必要のあることは自明の課題というべきである。そうすると、甲第1号証の第4図に示された考案において、座金を凹所9の底壁に圧接させ、ストッパー5と相まって、挿通部3の周壁部分を挟み込むようにしてステップ1を固定することは、当業者にとって自明の技術事項というべきである。しかも、そのような締め付け固定方法を採用した場合、上記取付凹部13は凹所9に向けて開いたテーパー状であることから、座金がシール材を押してこれを取付凹部13内に圧入することで水密作用を奏することは明らかであり、甲第1号証記載の考案の目的の一つであるステップの取付部分の防水性の向上と何ら矛盾しないばかりか、むしろこれに沿うものである。
したがって、甲第1号証の第4図に示された考案に、上記自明の技術事項を適用して相違点3に係る構成を得ることは、当業者にとってきわめて容易に想到し得るものということができる。
原告は、甲第1号証の第2、第3図は、ナット11の座金と凹所9の底壁との間に間隙が存在し、その間隙にモルタル12が充填されている構成を図示するものであって、ナット等の記載の省略された第4図に示された考案においても、これと同様な構成になるものと推認される旨主張する。しかし、上記第2、第3図が、座金を凹所9の底壁に圧接せず、間隙が存在する状態を図示するものであるとしても、それは、同各図の実施例が、第4図の実施例と異なり、シール材10を収納するためのスペースとなる取付凹部13を設けないものであるために、座金と凹所9の底壁との間に取り付けられたシール材10の存在により、座金と凹所9の底壁とが物理的に圧接し得ず間隙が残ってしまう状態が示されているにすぎないというべきであり、それ以上にこのような間隙を残しておくべき技術的必然性はにわかに見い出し難い。もっとも、水密機能の維持に必要な限度を超えてシール材が押しつぶされることによるシール材の劣化を防止するといった配慮も考えられるが、そのような配慮は、第2、第3に示されたものと異なり、シール材10の大部分を収納する取付凹部13が設けられている第4図に示された考案においては、ほとんど考慮する必要のない事項にすぎないから、結局のところ、第4図に示された考案において、ナット11の座金と凹所9の底壁との間に間隙を残しておく技術的必然性はなく、座金を凹所9の底壁に圧接させるという自明の技術事項の適用を阻害する要因とはなり得ないというべきである。したがって、甲第1号証の第2、第3図において、座金が凹所9の底壁に圧接せず、間隙が存在する状態が図示されているとしても、上記の認定判断を何ら左右するものではない。
(2) 原告は、取消事由1に関する主張として、甲第1、第3、第4号証記載の各考案は、パッキングに用いる弾性材の圧縮程度をねじの締め加減で調節する構造を採用したものであって、いずれにも、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造はない旨主張するが、これを相違点3についての判断の誤りをいう趣旨と解したとしても、甲第1号証記載の考案(第4図の実施例に係るもの)に自明の技術事項を踏まえて検討した場合、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造が実質的に開示されているということができるから、原告の上記主張は、結局、採用することができない。
(3) したがって、相違点3についての審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について 原告は、本件考案の顕著な効果として、相違点1、2に係る構成を採用することにより、座金によりパッキングを圧入すると同時に同じ座金を受面に圧接する水密構造兼固定構造を実現し、足掛具の確実な固定と確実な水密効果とを同時に満足する点を主張するが、このような効果が、甲第1号証(第4図の実施例に係るもの)から当業者の予測し得る程度のものであることは、上記2(1)で述べたところから明らかというべきである。
また、原告は、本件考案では、@テーパー状の受部8の内面、取付杆3の取付部の外周面、座金13のパッキングへの押圧面の合計した広い面積がシール面となるので、長期にわたり優れたシール性能を維持することができること、A取付杆の取付部のほぼ全体にわたりパッキングが巻かれているから、足掛具に作業者の体重がかかっても足掛具の位置ずれや傾斜が防止されること、Bテーパー付き筒状パッキングを使用することにより、通孔1に対する取付杆の心合わせを確実かつ容易とし、通孔の大きさや取付杆の太さに製作誤差が生じても、パッキングをすきまなく詰めることが可能となることについても主張するが、これらの点は、甲第1号証が開示するシール材と取付凹部に代えて、甲第4号証が開示するテーパー状の受部とテーパー付き筒状パッキングを適用すれば、その客観的な構成自体から当然に当業者の予測することのできる程度のものにすぎないというべきであり、これを本件考案の格別顕著な効果ということはできない。
4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利