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関連ワード 技術的範囲 /  構成要件充足性 /  出願経過 /  禁反言 /  均等 /  損害額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  図面 /  構造 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  拒絶理由 /  削除 /  請求項 /  本質的部分 /  同一の作用効果 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  転用 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 1569号 損害賠償等請求事件
原告 京葉化成工業株式会社
訴訟代理人弁護士 浅見雄輔
補佐人弁理士 大野克躬
被告 日本総合住生活株式会社
訴訟代理人弁護士 生田哲郎
同 名越秀夫
同 山田基司
同 森本晋
同 美和繁男
訴訟代理人弁理士 落合稔
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/11/26
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,別紙物件目録(2)記載の商品を製造し,販売の申出をし,販売してはならない。
2 被告は,その所有に係る別紙物件目録(2)記載の商品,その構成部品,及びその製造に供する金型を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,3023万円及びこれに対する平成10年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 請求の要旨 原告は,後記の配管被覆構造の実用新案権者であり,被告は,団地等の土木,建築一式,水道施設などの施工,設計,監理及び測量業務等を業とする会社である。本件は,被告の製造販売するカバー付き配管装置は上記実用新案権の技術的範囲に属すると主張して,原告が同実用新案権に基づいて,製造販売等の差止め等及び損害賠償を求めている事案である。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については,末尾に証拠を掲げた。) (1) 当事者 ア 原告は,プラスチック製品の金型の製造販売,建築材料の製造販売等を主たる目的とする株式会社である。
イ 被告は,独立行政法人都市再生機構(旧日本住宅公団,旧都市基盤整備公団。以下,これらを区別せず,「公団」ということがある。)の業務に関連して,団地等における託児所・駐車場その他居住者の利便に供する施設の経営,植栽・清掃その他環境整備業務,土木一式・建築一式・電気・管・舗装・塗装・防水・内装仕上・造園・水道施設又は清掃施設の工事等の施工・設計・監理及び測量業務等を行うことを主たる目的とする株式会社である。
(2) 原告の有する実用新案権 原告は,次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している(甲3,4,乙6〜11)。
ア 登録番号 第2144004号 イ 考案の名称 配管被覆構造 ウ 出願日 平成5年3月3日 エ 公告日 平成8年1月31日 オ 登録日 平成8年11月13日 なお,本件実用新案権に係る考案は,出願過程において,特許庁審査官から,平成7年3月28日付けで,引用文献1(実願昭60-145168号〔実開昭62-54397号〕のマイクロフィルム)記載の考案(以下,「引例1」という。乙8)及び引用文献2(実願昭-160156号〔実開平1-63924号〕のマイクロフィルム)記載の考案(以下,「引例2」という。乙9)に照らして進歩性が欠如しているとの拒絶理由通知を受けた(以下「本件拒絶理由通知」という。)。そこで,原告は,同年5月29日,手続補正書を提出して補正(以下「本件補正」という。)を行うとともに,意見書(以下「本件意見書」という。)を提出した。
(3) 本件実用新案権の願書に添付された明細書(本件補正により,その内容が補正されている。以下,出願時に提出された明細書を,「当初明細書」といい,本件補正後の明細書を,「本件明細書」という。本判決末尾添付の実用新案公告公報〔以下「本件公報」という。〕参照。)の実用新案登録請求の範囲における請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に係る考案を「本件考案」という。)。
「頂部に突嘴を有する立上がり部を両側端部に設けた配管ベース上に開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座を複数設け,該固定座と固定座との間に位置して上縁にパイプ挟持用の凹部を有する下部断熱材を前記立上がり部間に配設し,前記下部断熱材上に載置され下縁にパイプ挟持用の凹部を有する上部断熱材との両断熱材によりパイプを挟持し,前記両断熱材をカバーで覆い,前記立上がり部の突嘴とカバー端部の突嘴とを互いに係合して該配管ベースとカバーとを一体に係止したことを特徴とする配管被覆構造。」 (4) 本件考案を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。)。
A 頂部に突嘴を有する立上がり部を両側端部に設けた配管ベース上に B 開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座を複数設け C 該固定座と固定座との間に位置して上縁にパイプ挟持用の凹部を有する下部断熱材を前記立上がり部間に配設し D 前記下部断熱材上に載置され下縁にパイプ挟持用の凹部を有する上部断熱材との両断熱材によりパイプを挟持し E 前記両断熱材をカバーで覆い,前記立上がり部の突嘴とカバー端部の突嘴とを互いに係合して該配管ベースとカバーとを一体に係止した F ことを特徴とする配管被覆構造 (5) 被告の行為 被告は,カバー付き配管装置を施工・販売しているが,これらの製品には,被告が過去に施工・販売していた旧タイプの製品と,現在施工・販売している新タイプの製品がある(以下,被告の施工・販売するカバー付き配管装置のうち,旧タイプの製品を,「被告製品(旧タイプ)」と,新タイプの製品を,「被告製品(新タイプ)」といい,両タイプを総称して「被告各製品」という。なお,被告各製品の具体的構成については,後記第3の1に記載のとおり,一部争いがある。)。
(6) 被告の有する特許権 被告は,次の特許権(以下「被告特許権」という。)の共有者である(甲5) ア 特許番号 第3160628号 イ 発明の名称 カバー付き配管装置 ウ 出願日 平成5年6月30日 エ 公開日 平成7年1月20日 オ 登録日 平成13年2月23日 被告特許権に係る明細書の特許請求の範囲における請求項1の記載は,次のとおりである(以下「被告発明」という。)。
「係止突条付きの側板部を有し断面コ字状に形成したカバー受と,上部に配管の嵌着部を有しカバー受内に嵌着して配置される配管固定座と,上側に配管下半部の嵌合溝を有しカバー受内に配置される下側断熱材と,下側に配管上半部の嵌合溝を有し上面にカバーの内面に当接する緩衝突条を設けて下側断熱材上に配置される上側断熱材と,上側断熱材上に嵌装しカバー受の側板部に嵌着されて全体的に覆う断面コ字状等に形成したカバーを具備したことを特徴とするカバー付き配管装置。」 3 争点 (1) 被告各製品の具体的構成(争点1) (2) 被告各製品の構成要件充足性(争点2) (3) 自由技術の抗弁(争点3) (4) 先使用の抗弁(争点4) (5) 本件考案に係る実用新案登録には無効理由があることが明らかであり,本件実用新案権に基づく原告の差止め及び損害賠償の請求は権利の濫用に当たるか(争点5) (6) 原告の損害額(争点6)
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)-被告各製品の具体的構成について (原告の主張) (1) 被告が施工・販売する被告各製品の具体的な構成は,別紙「原告物件説明書(1)」(被告製品〔旧タイプ〕)及び同「原告物件説明書(2)」(被告製品〔新タイプ〕)各記載のとおりである。なお,被告各製品の具体的構成に関する被告の主張は,別紙「被告物件説明書1」(被告製品〔旧タイプ〕)及び同「被告物件説明書2」(被告製品〔新タイプ〕)各記載のとおりである。被告各製品の具体的構成については,当事者間に争いがあるが,符号については,被告が一部付加するほかは,同一の部材には同一の符号が用いられているので,以下の符号は,特に断らない限り,上記各別紙記載の符号を示すものとする。
(2) 被告製品(旧タイプ)について ア 別紙原告物件説明書(1)記載の「3 構造の説明」のうち,(a),(b)の各記載と,図1(1)及び同(2)の各記載については,当事者間に争いはない。
イ 被告が主張する被告製品(旧タイプ)の具体的な構成については,次のとおり不適切な記載がみられる (ア) 被告主張の「逆Ω字状」について 被告は,パイプを固定する部材を,「逆Ω字状」のパイプ保持部32と表現する。しかし,「逆Ω字状」とは,上側が一部口の開いた円形の下部と,「┐┌」の上部からなるところ,被告製品(旧タイプ)のパイプを固定する部材には,「┐┌」の部分はない。したがって,「逆Ω字状」という表現は,不適切である。
(イ) 下部断熱材溝内面と固定座に保持されたパイプ下半部外面との間の間隙S2について 被告は,下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプPの下半部外面との間に所定の間隙S2が存すると主張する。
しかし,被告各製品は,被告の共有に係る被告特許権の実施品と認められるが,被告特許権に係る明細書の【特許請求の範囲】及び【発明の詳細な説明】並びに被告作成のカタログ等には,当該間隙S2があることが不可欠の構成である旨の記載はない。むしろ,次のとおり,間隙が存在しないことを前提とした記載が多数見られる。
a 被告特許権に係る明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】及び【発明の詳細な説明】【0006】【問題を解決するための手段】等において,「上側に配管下半部の嵌合溝を有しカバー受内に配置される下側断熱材」との表現が見られるところ,「嵌合」とは,「to fit into形状が合ったものを嵌め合わせること」(甲17)という意味であるから,「配管下半部の嵌合溝」とは,配管(パイプ)の下半部の形状と同様の形状を有し,配管下半部が嵌め合わせられる溝を意味し,配管下半部と下側断熱材との間には間隙はなく,両者が接していることが前提となる。
b 被告は,上部断熱材と配管が接していることを認めているところ,同明細書において,当該部分を「下側に配管上半部の嵌合溝を有し‥‥‥下側断熱材上に配置される上側断熱材」と表現しており,被告も,「嵌合」という言葉を,上記と同趣旨に用いているものである。
c 同明細書【発明の詳細な説明】【0008】【作用】には,「上部に設けた配管固定座の嵌着部に配管を嵌着して下側断熱材の嵌合溝に配管の下半部を嵌合するとともに,その配管の上半部に上側断熱材の嵌合溝を嵌合して下側断熱材上に配置し,カバーを上側断熱材に嵌装しカバー受の側板部に嵌着して全体的に覆い,上側断熱材の上面に設けた緩衝突条がカバーの内面に当接せしめて,上側断熱材とともに下側断熱材及び配管が緩衝支持されて各部材の振動を防止し」との記載があり,同様に,【0018】には,「上側断熱材の上側に設けた緩衝突条がカバーの内面に当接して,上側断熱材,下側断熱材及び配管が緩衝されて支持され各部材の振動が防止される」との記載があるが,このような表現も,上記「嵌合」の意味からすると,配管下半部と下側断熱材が接していることを前提としていると解される。
d 上側断熱材の上側の緩衝突条がカバー内面に当接することにより,上側断熱材,下側断熱材及び配管が緩衝支持され,各部材の振動が防止されるという説明も,配管下半部と下側断熱材が接しているからこそ,可能となる。
e 【発明の詳細な説明】【0015】には,「配管固定座5の嵌着部6に配管aを嵌着して下側断熱材11の嵌合溝12にその下半部を嵌合し,さらに,配管aの上半部に上側断熱材15の嵌合溝16を嵌合して下側断熱材11上に配置し」との記載があるが,これも,配管と上側及び下側断熱材が接していることを表現しているものである。
f 【発明の詳細な説明】【0016】には,「上側断熱材15の上部に突設した緩衝突条17がカバー21の内面に当接して,上側断熱材15とともに下側断熱材11で配管aを緩衝して支持し」とあるが,「支持」とは,「支え持つこと」という意味であり(甲18),これは明らかに,上側断熱材と下側断熱材で配管を挟持,すなわち「挟んだ状態で支持すること」(乙12)を示しているものである。
g 被告が作成し,証拠として提出したカタログ(乙1)に掲載されている「ケースウェイカバー使用断面図」でも,下部断熱材と配管は密着しており,間隙はない。また,同カタログの固定座に関する図面及び下部断熱材(直管保温材〔下〕)に関する図面によると,配管固定座に配管を嵌着した場合の配管ベースから配管下までの高さと,配管ベースから下部断熱材の嵌合溝の一番低い部分までの高さは同一であるから,被告は,下部断熱材と配管固定座に固定された配管との間に間隙を設けることを設計上予定していないというべきである。そもそも,断熱材と配管の間にわずかでも隙間が生じた場合,空気の流通が発生し,保温性能が低下するから,断熱効果をより発揮するためには,断熱材と配管が密着している方が好ましい。また,ウォーターハンマー現象(配管内の水の圧力変化により配管が振動する現象)による給水管の破損を防止するためには,配管をしっかりと固定し,ぐらつかないようにしなければならないのであり,あえて配管と断熱材との間に間隙を設けるように設計するはずがない。特に,配管固定座間の間隔は,場所により1メートル近くにも及ぶのであるから,その間に,何らかの配管固定手段がないとは考えられない。
また,発泡ポリスチレン等,ゴム状弾性を有さない断熱材を使用する際には,配管と断熱材が互いに出っ張りすぎて干渉することがないように,配管については0.2o程度,断熱材については1o程度のアロワンスを製造上設けるのが通常であり,その結果として,断熱材と配管との間に1o程度の隙間が生じることもある。しかし,配管や断熱材を設計どおり寸分の狂いもなく製造することは不可能であり,干渉を避けるための製造技術上の制約から隙間が生じたとしても,これを被告製品(旧タイプ)の特徴というべきものではない。同様に,被告主張の【図2】裁断側面図・寸法図には,1oの間隙S2が記載されているが,削除すべきである。なお,被告作成のカタログ(乙1)には,外径18oの配管に対応する製品も記載されているのであるから,外径26oの配管しか想定していない上記図面は,この点においても不適切である。
ウ 被告製品(旧タイプ)の構成の分説 以上を前提として被告製品(旧タイプ)の構成を,本件考案の構成要件に対応して記載すると,次のとおりである。
a’ 断面コ字状に形成されており,上面中央部にV溝を形成した平板状のベース部本体と,ベース部本体の両側部に形成した一対の立ち上がり部と,各立ち上がり部の頂部に形成した突嘴と,を有する塩化ビニル性のベースを備え b’ 断面逆コ字状に形成されており,天板部と,天板部の両端部からベースの立ち上がり部を覆うように垂下された一対の側板部と,各側板部の下端部内面に形成され突嘴に係止するフック部と,を有する塩化ビニル性のカバーを備え c’ ベースの延在方向に適宜の間隔を存して配置されており,ベース内に嵌着される着座部と,着座部の上側に連なる開口部がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ保持部と,を有する固定座であって,パイプ保持部は,バネ性を有するとともにその内面がパイプの外形と同一径に形成されている複数個の固定座を備え d’ ベース上の隣接する固定座間に装着されており,上面中央部に形成され,パイプの下半部を囲繞する断面半円形の下部断熱材溝と,下部断熱材溝の両側に連なる一対の上向き密接面と,を有する発泡ポリスチレン製の下部断熱材を備え e’ 下部断熱材及び固定座の上側に配設されると共にカバーに内包されており,下面中央部に形成され,パイプの上半部を囲繞する上部断熱材溝と,上部断熱材溝の両側に連なると共に下部断熱材の上向き密接面に密接する一対の下向き密接面と,上面中央部に形成した押圧突条と,を有する上部断熱材であって,上部断熱材溝の内面は,パイプ保持部の両上端部を逃げるように断面半楕円形に形成されている,発泡ポリスチレン製の上部断熱材を備える f’ 露出配管用被覆カバー (3) 被告製品(新タイプ)について ア 原告物件説明書(2)に記載の「3 構造の説明」のうち,(b)の記載と,図1(1)及び同(2)の記載については,当事者間に争いはない。
イ 被告が主張する被告製品(新タイプ)の具体的な構成についても,被告製品(旧タイプ)について述べたとおり,固定座パイプ保持部32を「逆Ω字状」と表現している点,下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプPの下半部外面との間に所定の間隙S2が存すると表現している部分について,同様に不適切である。
ウ 「立ち上がり部の中間部に形成した突嘴」について 被告は,被告製品(新タイプ)の構造の説明(a)において,立ち上がり部13に形成される突嘴14の位置を,「立ち上がり部の中間部に形成した突嘴」と表現するが,「中間」とは,「二つの物のほぼ真ん中。」を意味するところ,被告製品(新タイプ)の突嘴14は,立ち上がり部の真ん中にはない。カバーの側板を係止するという突嘴の機能からしても,配管ベースの立ち上がり部の突嘴は,配管ベースの底面に近い位置に配置されることになるから,当該部分は,「カバーのフック部に対応する位置に形成した突嘴と,それを延長した立ち上がり部」という表現が適切である。
エ 被告製品(新タイプ)の構成の分説 上記を前提として被告製品(新タイプ)の構成を,本件考案の構成要件に対応して記載すると,次のとおりである。
a” 断面コ字状に形成されており,上面中央部にV溝を形成した平板状のベース部本体と,ベース部本体の両側部に,カバーのフック部に対応する位置に形成した突嘴と,それを延長した立ち上がり部を有する塩化ビニル性のベースを備え b” 断面逆コ字状に形成されており,天板部と,天板部の両端部からベースの立ち上がり部を覆うように垂下された一対の側板部と,各側板部の下端部内面に形成され突嘴に係止するフック部と,を有する塩化ビニル性のカバーを備え c” ベースの延在方向に適宜の間隔を存して配置されており,ベース内に嵌着される着座部と,着座部の上側に連なる開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ保持部と,を有する固定座であって,パイプ保持部は,バネ性を有するとともにその内面がパイプの外形と同一径に形成されている複数個の固定座を備え d” ベース上の隣接する固定座間に装着されており,上面中央部に形成され,パイプの下半部を囲繞する断面半円形の下部断熱材溝と,下部断熱材溝の両側に連なる一対の上向き密接面と,を有する発泡ポリスチレン製の下部断熱材を備え e” 下部断熱材及び固定座の上側に配設されると共にカバーに内包されており,下面中央部に形成され,パイプの上半部を囲繞する上部断熱材溝と,上部断熱材溝の両側に連なると共に下部断熱材の上向き密接面に密接する一対の下向き密接面と,上面中央部に形成した押圧突条と,を有する上部断熱材であって,上部断熱材溝の内面は,パイプ保持部の両上端部を逃げるように断面半楕円形に形成されている,発泡ポリスチレン製の上部断熱材を備える f” 露出配管用被覆カバー (被告の主張) (1) 原告が本件訴訟において本件実用新案権を侵害するとして主張する被告各製品は,訴外伸栄工業株式会社(以下「伸栄工業」という。)が製造販売するケースウェイカバーと思われる。もっとも,被告製品(旧タイプ)は,過去,ごくわずかな期間(平成8年12月ころまで)しか施工・販売されておらず,平成9年1月ころから現在までは,被告製品(新タイプ)が施工・販売されている。被告各製品の具体的な構成は,別紙「被告物件説明書1」(被告製品〔旧タイプ〕)及び同「被告物件説明書2」(被告製品〔新タイプ〕)各記載のとおりであって,不適切な記載等は存在しない。
なお,被告各製品は,被告特許権(甲5)の実施品ではないから,原告の主張はその前提において誤りである。
(2) 被告各製品の固定座3は,逆Ω字状のパイプの保持部32を有しており,断面がU字状のパイプ受け面を有していない。
(3) 被告各製品の下部断熱材溝内面と固定座に保持されたパイプ下半部外面との間の間隙S2について ア 被告各製品の下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプP下半部外面との間に間隙S2があることは,検証物(検乙1及び同2)により明白である。原告は,カタログ(乙1)の断面図に間隙がないと指摘するが,当該図面は,カタログという性質上あくまで全体の断面構造を図示したものにすぎず,間隙について正確に記載したものではない。伸栄工業が作成した別のカタログ(乙20)の下部断熱材に関する部品図には,下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプPの下半部外面との間に所定の間隙S2がある旨明記されており,1oの間隙が存在するように設計されていることは明らかである。
イ 断熱材の機能面においても,発泡ポリスチレン断熱材の保温性能は,多数の気孔(空気層)により生み出されるものであるから,隙間(空気層)の存在自体が,保温性能上マイナスとなることはない。しかも,被告各製品においては,上下の断熱材とカバーにより二重に密閉されているのであるから,空気の流通(ケースウェイの外部の湿った空気が内部に流入すること)が生じることにより保温性能が低下することはない。
ウ 被告各製品において,パイプPは固定座3でしっかりと固定保持されており,給水管として用いられる硬質塩化ビニル管は,十分な強度と曲げ剛性を有するJISの規格品(水道用硬質塩化ビニル管:JIS K6742)であるから,配管と断熱材の間に間隙を設けても支障はなく,ウォーターハンマー現象による破損の危険性もない。一般的には,20oから40oの硬質塩化ビニル管の配管においては,同現象をも考慮した上で,1m間隔で固定部材を設ければよいものとされているのであるから,固定座と固定座との間の間隔が1mあったとしても,配管と断熱材の間に間隙を設けることが設計上不可能となるわけではない。
エ 被告各製品が,配管と下部断熱材との間に1oの間隙を設けるように設計され,そのように製造されていることは,伸栄工業作成のパンフレット(乙20)記載の保温材下(SD-2511)の図からも明らかである。同間隙は,下部断熱材がパイプに接触することにより,パイプが固定座から浮き上がるのを防止するためのものであり,被告各製品において,パイプを固定座で確実に固定するための必須の構成である。原告も,断熱材と配管との干渉を防止するために設けられたアロワンスにより,配管と断熱材の間に間隙があることが通常である点については認めているのである。
なお,被告が施工・販売しているのは,20Aの配管に対応するケースウェイのみであり,13Aの配管に対応するケースウェイは施工・販売していない。原告は,伸栄工業のカタログ(乙1)を,被告各製品のカタログであると主張するが,他社のカタログに,被告が施工・販売していない製品が掲載されているにすぎない。
(4) 被告製品(新タイプ)の立ち上がり部13は,その中間部に突嘴14を有し,頂部に突嘴を有するものではない。
2 争点(2)-被告各製品の構成要件充足性 (原告の主張) (1) 被告製品(旧タイプ)について ア 被告製品(旧タイプ)の構成a’が本件考案の構成要件Aを充足することは,当事者間に争いがない。
イ 前記のとおり,被告製品(旧タイプ)の固定座3のパイプ保持部32は,逆Ω字状ではなく,断面U字形であるから,被告製品(旧タイプ)の構成c’が本件考案の構成要件Bを充足することは明らかである。
ウ 前記のとおり,被告製品(旧タイプ)の下部断熱材溝41とパイプPの間には間隙S2はなく,被告製品(旧タイプ)の下部断熱材は,本件考案の構成要件Cの「上縁にパイプ挟持用の凹部を有する下部断熱材」に相当する。そこで,被告製品(旧タイプ)の構成d’が本件考案の構成要件Cを充足することは,明らかである。
エ 被告製品(旧タイプ)の構成e’が本件考案の構成要件Dを充足することは明らかである。なお,e’には,構成要件Dにはない,「上面中央部に形成した押圧突条53」があるが,当該構成の特徴は,飽くまで上側断熱材の存在を前提として押圧突条を付加したものであり,上部断熱材を設けずに押圧突条を付加することはできないのであるから,上記構成の特徴は,本件考案の実施を前提としてのみ可能なもので,同考案を利用するものであること,断熱材として用いられる発泡材は,それ自体が緩衝性を有しており,かかる押圧突条を設置する意味は乏しいことからすると,押圧突条53の存在は上記結論を左右するものではない。また,前記のとおり,下部断熱材とパイプとの間には間隙は存しないのであるから,「両断熱材によりパイプを挟持し」ているということができるのである。
オ 被告製品(旧タイプ)の構成b’が本件考案の構成要件Eを充足することは明らかである。
カ 被告製品(旧タイプ)の構成f’が本件考案の構成要件Fを充足することは明らかである。
(2) 被告製品(新タイプ)について ア 被告製品(新タイプ)の構成a”と本件考案の構成要件Aを対比すると,a”の「カバーのフック部に対応する位置に形成した突嘴と,それを延長した立ち上がり部」は,本件考案の構成要件Aの「頂部に突嘴を有する立ち上がり部」について,突嘴の部分から配管ベースの底面とは反対側に立ち上がり部を単に延長したものにすぎないのであるから,被告製品(新タイプ)の構成a”は,本件考案の構成要件Aを充足する。この点について,被告は,当該部分は,「立ち上がり部の中間部に形成した突嘴」であると主張するが,当該立ち上がり部は,その間に固定座を嵌着するとともに,立ち上がり部に設けられている突嘴によって上下断熱材を覆う配管カバー(構成要件E参照)を固定するためのものであって,カバー両側面の先端内部の突嘴と前記突嘴とをかみ合わせることにより配管ベースとカバーとが一体に係止されるのであるから,両突嘴同士を組み合わせるという構造上,立ち上がり部の突嘴の高さは,カバー端部の位置によりおのずから限定されるものであり,構成a”の突嘴の上に延長部があろうがなかろうが,構造上,突嘴の位置は配管ベースの底面に近い位置にならざるを得ず,ほぼ同位置になるものである。そこで,当該延長部分は,何らの技術的意義を有するものではないというべきであるから,当該突嘴を,「中間部に形成した突嘴」と表現するか否かはさておくとしても,構成要件Aを充足することには変わりはない。
なお,仮に,「立ち上がり部の中間部に形成した突嘴」が構成要件Aの文言を侵害しないとしても,当該構成は同構成要件と均等であり,本件考案技術的範囲に属することは明らかである。
イ 被告製品(旧タイプ)について述べたのと同様の理由により,被告製品(新タイプ)の構成c”,d”,e”,b”,f”が,それぞれ本件考案の構成要件B,C,D,E,Fを充足することは明らかである。
(3) 上記によれば,被告各製品は,いずれも本件考案の構成要件のすべてを充足しており,本件考案技術的範囲に属するものである。
なお,被告は,被告特許権の出願過程において,特許庁審査官から,出願当初の明細書における特許請求の範囲の記載では本件考案と同一である旨の拒絶理由通知(甲9)を受けたため,当初の明細書の特許請求の範囲の記載につき,上記「押圧突条」に相当する「上面にカバーの内面に当接する緩衝突条を設けて」という部分と,「カバー受及びカバーからなる直線用のカバー型組の他に,短い繋ぎ用型組とエルボ型組あるいはまたT字型組の連結用変形カバー型組を組み合わせた」という部分を付加する補正をして(甲10〜12),ようやく特許査定されたのであるから,被告特許権が有効か否かはともかくとして,被告特許権は,本件実用新案権を利用するものであり,被告特許権を実施するためには,必然的に本件考案を実施しなければならない関係にある。したがって,被告特許権の実施品である被告各製品が本件考案技術的範囲に属することは明らかであり,同製品を施工・販売することは本件実用新案権を侵害するものである。
(被告の主張) (1) 被告製品(旧タイプ)について ア 被告製品(旧タイプ)が構成要件Aを充足することは,認める。
イ 構成要件Bについて 被告製品(旧タイプ)の固定座は,逆Ω字状のパイプの受け面を有しており,断面がU字状のパイプ受け面を有していないから,被告製品(旧タイプ)の構成は構成要件Bを充足しない。
ウ 構成要件C,D及びEについて (ア) 構成要件C,D及びEにおける「断熱材」と「挟持」の意味の解釈については,後記のとおり,各用語の有する通常の意味,本件考案に先行する従来技術である実願平3-37001号(実開平4-122897号)のマイクロフィルム記載の考案(以下「実開平4-122897号考案」という。)の内容,本件明細書の記載及び出願経過における出願人の陳述に照らすと,「断熱材」とは,断熱効果を有するのみならず,上下の断熱材のみでもパイプを固定する固定部材としての役割を果たすことが必要であり,また,「挟持」とは,少なくとも上下にパイプを挟むことにより,パイプを保持し,定位置に固定し,支持することが必要というべきである。
(イ) 「挟持」とは,「挟んだ状態で支持すること」と定義されている。
(ウ) 実開平4-122897号考案の特徴は,左右の断熱材(保温材)が,単にパイプの保温だけでなく,パイプを固定位置に固定する固定部材としての役割を果たすため,従来のように,固定座及びバンドなど,余計な部品を必要とせず,極めて迅速かつ容易に配管を実施することができ,施工費も大きく低減することができるという点にある。そして,本件考案の特徴は,実開平4-122897号考案の構成を前提として,上下の断熱材(保温材)がパイプを挟持するという構成と,断面U字形のパイプ受け面を有する固定座を付加することにより,「例え断熱材が経時変化により固定部材としての作用を失ってもパイプは固定座に嵌着されているためその位置を変えることがない」(本件明細書【0019】)という効果を発揮させることにある。したがって,本件考案における「断熱材」とは,断熱効果を有するのみならず,それのみでパイプを固定する固定部材としての役割を果たすことが必要であり,また,「挟持」といえるためには,少なくともパイプを挟むことにより,パイプを保持し,定位置に固定し,支持することが必要というべきである。
(エ) また,本件明細書における次の各記載を併せ考慮すると,本件考案における「断熱材」とは,上記のとおり,断熱効果及びパイプ固定,支持作用を有する必要があるというべきである。
a 「配管ベース上に配設された開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座の開口にパイプを押当て,押圧力により該開口を押拡いて固定座にパイプを嵌着し,かつ下部断熱材と,下部断熱材上に載置された上部断熱材によりパイプを挟持するようにしたから,断熱材の取付けが容易となり,然も該断熱材は単にパイプの断熱だけでなく,固定座と共にパイプを定位置に固定する固定部材としての役割をもたらす。そして断熱材が経時変化してパイプの挟持力を減じたとしても,パイプは固定座に支持されてその位置を変えることがない」(【0009】) b 「配管ベース10の両端に設けた立上り部11,11間に下部断熱材15aを配設し,前記凹部17a,17bの形成面を互いに対向し両形成面により,パイプ16を上下から挟持した後,その上にカバー13を被せ,配管ベース10の突嘴12とカバー13の突嘴14とを互いに係合して配管ベース10とカバー13を一体に係止する。」(【0013】) c 「上部断熱材15b,下部断熱材15aは,断熱性を有するものであればどのようなものであっても差支えないが,パイプ16を所定位置に保持し,且つ配管ベース10とカバー13とが形成する内部空間を完全に充填するために,スチロール樹脂等を素材とする多泡性プラスチック等適宜の断熱材を使用することができる。」(【0014】) d 「その結果,パイプ16は固定座18にしっかり嵌着され,かつ断熱材に挟持され支持される。そして断熱材が経時変化してパイプ16の挟持力を減じたとしても,パイプ16は固定座18に支持されてその位置を変えることがない」(【0016】) e 本件公報の図1によると,上部断熱材15b,下部断熱材15aの凹部はパイプの外径と同一口径の半円形状とされている。
f 「断熱材は単にパイプの断熱だけでなく,固定座と共にパイプを定位置に固定する固定部材としての役割をもたらし,例え断熱材が経時変化により固定部材としての作用を失っても,パイプは固定座に嵌着されているためその位置を変えることがない。又,従来のように曲管部分,分岐部分の多寡,パイプの長短等によって作業の自由度を制限されることもなく,その結果極めて迅速且つ容易に半永久的な配管を実施することができ,施工費も大きく低減することが出来る」(【0019】) (オ) 本件考案の実用新案登録の出願経過において,平成7年3月28日付けで特許庁審査官から本件拒絶理由通知がされたところ,原告は,同年5月29日,固定座を設けることを本件考案の構成要件に付加する補正(本件補正)をするとともに,本件意見書を提出し,本件考案と,引例1及び2の考案との相違を強調して,「本件考案にあっては,パイプは固定座にしっかりと嵌着支持され,かつ固定座と固定座との間に設けた一対の断熱材を上下に位置せしめたから,従来のように弾性を備えた断熱材に限ることなく,種々の断熱材を広く選択使用することができ,被覆時における断熱材の損傷も皆無となり,然もカバーと上部断熱材を取り外すことによりパイプの交換等を容易に実施することができ,然も断熱材は単にパイプの断熱だけでなく,固定座と共にパイプを定位置に固定する固定部材としての役割をもたらし,例え断熱材が経時変化により固定部材としての作用を失ってもパイプは固定座に嵌着されているためその位置をかえることがないのである」と主張した。したがって,原告は,本件考案の断熱材は,パイプを固定する固定部材としての役割をも有することを自認している。
(カ) 上記のとおり,本件考案の「断熱材」といえるためには,断熱効果を有するのみならず,パイプを固定する固定部材としての役割を果たすことが必要である。また,「挟持」といえるためには,少なくとも,パイプを挟むことにより,パイプを保持し,定位置に固定し,支持することが必要である。しかし,被告製品(旧タイプ)においては,パイプは複数の固定座に支持されるものであるところ,パイプと下部断熱材凹部との間には,所定の間隙S2があることから明らかなとおり,下部断熱材はパイプを固定する機能を有していない。したがって,被告製品(旧タイプ)の断熱材は,パイプを挟むことにより,パイプを定位置に固定し,支持するものではないから,被告製品(旧タイプ)の構成が,構成要件C,D及びEを充足しないことは明らかである。
(2) 被告製品(新タイプ)について ア 構成要件Aについて 被告製品(新タイプ)の立ち上がり部13は,その中間部に突嘴14を有するものであり,頂部に突嘴を有するものではない。したがって,被告製品(新タイプ)の構成は,構成要件Aを充足しない。
なお,被告製品(新タイプ)の立ち上がり部は1つの部材より構成されており,構造上,突嘴よりも下の部分と上の部分に区別されていない。機能的にも,一体としての立ち上がり部がカバーの停止突条に係止される突嘴を設けるための部材として機能しているのであるから,立ち上がり部が突嘴より下の部分と上の部分(延長部)とに区別できることを前提として,上の部分は付加にすぎないとする原告の主張は,立ち上がり部の構造及び機能に鑑みると,失当である。
イ 構成要件Bについて 被告製品(旧タイプ)について前記したとおり,被告製品(新タイプ)の固定座3は,逆Ω字状のパイプの保持部32を有しており,断面がU字状のパイプ受け面を有していないから,被告製品(新タイプ)の構成は構成要件Bを充足しない。
ウ 構成要件C,D及びEについて 被告製品(旧タイプ)について前記したとおり,被告製品(新タイプ)においても,パイプPは複数の固定座3に支持されるものであるところ,パイプと下部断熱材溝41との間には,所定の間隙S2があることから明らかなとおり,下部断熱材はパイプを固定する機能を有していない。したがって,被告製品(新タイプ)の断熱材は,パイプを挟むことにより,パイプを定位置に固定し,支持するものではないから,被告製品(新タイプ)の構成が,構成要件C,D及びEを充足しないことは明らかである。
なお,原告は,被告製品(新タイプ)について,予備的に均等侵害を主張するようであるが,被告製品(新タイプ)の構成が,均等のいわゆる5要件を充足せず,本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等であるとは到底いえないことは明らかである。
3 争点3-自由技術の抗弁について (被告の主張) (1) 自由技術の抗弁(その1) 被告各製品の構成は,実願昭52-57915号(実開昭53-152255号)のマイクロフィルム(乙13)記載の考案(以下「実開昭53-152255号考案」という。)に実願昭54-97090号(実開昭56-15882号)のマイクロフィルム(乙14)記載の考案(以下「実開昭56-15882号考案」という。)を組み合わせることにより当業者が極めて容易に想到することができたものであるから,自由技術の抗弁が成立し,被告各製品の販売は本件実用新案権の侵害とはならないというべきである。
ア 実開昭53-152255号考案のマイクロフィルム(乙13)には,次の考案が記載されている。
「頂部に係止受片を有する立上がり部を両側端部に設けた配管カバー本体上に開口幅が配水管径より狭い断面略逆円形状の配水管受け面を有する配管挟持体を複数設け,配管カバーの内周面部に上・下の断熱材を配設し,立上がり部の係止受片と,内周面部に保温・遮音材層を配設した蓋体端部の係止片とを互いに係合して配管カバー本体と蓋体とを一体に係止した配管カバー構造」。
イ 実開昭56-15882号考案のマイクロフィルム(乙14)には,次の考案が記載されている。
「パイプ固定支持具41の両側は垂直であるためにパイプの外側に所定の間隔おきに半円形孔を有する脚部付の下方のパイプ固定支持片42にパイプ45を置き,その上に半円形孔を有する上方のパイプ固定支持片43を重ねて,逆U字形金属製バンド44でパイプ固定支持具41を介してパイプ45を固定支持し,パイプ固定支持具以外のパイプ45の外側に発泡スチロールなどの断熱材46を設ける」。
ウ 本件考案との一致点 (ア) 被告各製品と実開昭53-152255号考案とを対比すると,同考案の「係止受片」,「配管カバー本体」,「配水管」,「配管挟持体」,「保温・遮音材層(配管カバー本体)」,「保温・遮音材層(蓋体)」,「蓋体」,「係止片」,「配管カバー構造」は,それぞれ,被告各製品の,「突嘴(ベース)」,「ベース」,「パイプ」,「配管固定座」,「下部断熱材」,「上部断熱材」,「カバー」,「突嘴(カバー)」,「配管被覆構造」に対応する。
(イ) 本件考案と実開昭53-152255号考案とを対比すると,次のとおり,一致点が認められる。
「頂部に突嘴を有する立上がり部を両側端部に設けたベース上に開口幅がパイプ径より狭いパイプ受け面を有する配管固定座を複数設け,立上がり部の突嘴とカバー端部の突嘴とを互いに係合して該ベースとカバーとを一体に係止したことを特徴とする配管被覆構造」。
エ 相違点 本件考案と実開昭53-152255号考案とを対比すると,被告各製品の下部断熱材は,配管固定座と配管固定座との間に位置して立上がり部間に配設されているのに対し,実開昭53-152255号考案の下部断熱材は配管カバーの内周面部に配設されているという相違点が認められる。
オ 検討 被告各製品のように,下部断熱材を,固定座と固定座との間に位置して立上がり部間に配設した構造とすることは,実開昭56-15882号考案のマイクロフィルム(乙14)に記載されているように,本件考案の実用新案登録の出願時における周知技術又は公知技術である。しかも,被告各製品においては,パイプ受け面を有する配管固定座が配管ベース上に設けられているのであるから,下部断熱材は,構造上必然的に配管固定座と配管固定座との間に配置せざるを得ない。したがって,このような周知技術又は公知技術を実開昭53-152255号考案における配管固定座に採用することは当業者が極めて容易に想到することができたというべきである。
そこで,被告各製品の構成は,実開昭53-152255号考案考案に実開昭56-15882号考案考案を適用することにより極めて容易に想到することができたものであるから,自由技術の抗弁が成立し,被告各製品の施工・販売は本件実用新案権の侵害とはならないというべきである。
(2) 自由技術の抗弁(その2) 本件補正は,当初明細書の要旨の変更を伴うものであり,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「改正前実用新案法」という。)9条1項が準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法40条により,補正について手続補正書を提出した時,すなわち平成7年5月29日に出願したものとみなされる。したがって,仮に原告主張のように被告各製品が被告特許権の実施品であるならば,その構成は,本件考案の実用新案登録出願前の平成7年1月20日に公開された被告特許権の特許公開公報(特開平7-19395号公報。乙19)に記載されているから,自由技術の抗弁が成立し,被告各製品の施工・販売は,本件実用新案権の侵害とならない。
ア 本件補正前の明細書(当初明細書)における実用新案登録請求の範囲の記載は,次のとおりであった。
「【請求項1】 配管ベース上に配設された下部断熱材と,前記下部断熱材上に載置された上部断熱材によりパイプを挟持し,該上下に位置する一対の断熱材をカバーで覆い,配管ベース上の突嘴とカバー上の突嘴とを互いに係合して該配管ベースとカバーを一体に係止し,前記配管ベースとカバーとにより周面を覆われた断熱材によりパイプを囲繞したことを特徴とする配管被覆構造。」。
イ 本件補正後の明細書(本件明細書)における実用新案登録請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】 頂部に突嘴を有する立上がり部を両側端部に設けた配管ベース上に開口部がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座を複数設け,該固定座と固定座との間に位置して上縁にパイプ挟持用の凹部を有する下部断熱材を前記立上がり部間に配設し,前記下部断熱材上に載置され下縁にパイプ挟持用の凹部を有する上部断熱材との両断熱材によりパイプを挟持し,前記両断熱材をカバーで覆い,前記立上がり部の突嘴とカバー端部の突嘴とを互いに係合して該配管ベースとカバーとを一体に係止したことを特徴とする配管被覆構造」。
ウ 本件補正の内容 本件補正における実質的な補正内容は,次の各点である。
(ア) 「配管ベース」について,「頂部に突嘴を有する立上がり部を両側端部に設けた配管ベース」とした。
(イ) 「開口部がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座を複数設け」る旨追加した。
(ウ) 「下部断熱材」及び「上部断熱材」を,それぞれ,「該固定座と固定座との間に位置して上縁にパイプ挟持用の凹部を有する下部断熱材」及び「下縁にパイプ挟持用の凹部を有する上部断熱材」とした。
(エ) 「配管ベース上の突嘴とカバー上の突嘴とを互いに係合して該配管ベースとカバーを一体に係止」について,「前記立上がり部の突嘴とカバー端部の突嘴とを互いに係合する」旨に補正した。
エ 本件明細書の要旨の変更 当初明細書において,「固定座」は,施工時に断熱材の両凹部に小口側からパイプが嵌挿されるものと記載されており,仮に固定座がパイプを密に固定する機能を有しているとすると,パイプの嵌挿は不可能となる。したがって,当初明細書【0016】における固定座の「固定する」という意味は,あくまでもパイプを「ガイドする」あるいは「仮固定する」という意味であると解釈される。しかも,同明細書【0009】(作用)及び【0019】(効果)の欄には,「該断熱材は単にパイプの断熱だけではなく,パイプを定位置に固定する固定部材」としての役割を有する旨記載されていることからしても,施工後にパイプを固定するのは「両断熱材」であり,「固定座」は施工時にパイプをガイドし,仮固定する機能を有しているにすぎないものと解される。
これに対し,本件明細書【0009】(作用)及び【0019】(効果)の欄には,「‥‥‥固定座の開口にパイプを押当て,押圧力により該開口を押拡いて固定座にパイプを嵌着し,‥‥‥然も該断熱材は,‥‥‥固定座と共にパイプを定位置に固定する固定部材としての役割をもたらす。」と記載され,補正により施工手順を変更するとともに,補正後の「固定座」が,「バネ性」を有する部材あるいは「弾性」を有する部材であることを示唆し,かつ施工時及び施工後を問わずパイプを固定する「固定部材」であるとされているのである。
オ 要旨の変更 当初明細書の各記載によっては,「固定座」が「バネ性」や「弾性」を有する部材であることは示唆されておらず,「固定座」が「バネ性」や「弾性」を有していることが,技術的に自明であるとはいえない。したがって,補正により追加された「固定座」とは,当初明細書の詳細な説明又は図面に記載されていない事項であるから,本件補正は,願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本送達前の補正がこれらの要旨を変更するものに該当するというべきであり,本件考案の実用新案登録の出願は,本件補正書を提出した時,すなわち平成7年5月29日に出願したものとみなされる。
そして,被告各製品は,被告特許権の実施品であるから,被告各製品の構成は,本件実用新案権について,繰り下げられた出願日において公知の技術であるというべきであるから,自由技術の抗弁が成立し,被告各製品の施工・販売は,本件実用新案権の侵害とはならない。
(原告の反論) (1) 自由技術の抗弁(その1)について 被告各製品の構成は,実開昭53-152255号考案と実開昭56-15882号考案を組み合わせることにより当業者が極めて容易に想到することができるものではない。
ア 被告各製品と実開昭53-152255号考案を比較すると,ベースの突嘴(係止受片)にカバー(蓋体)のフック(係止片)を係止することにより,ベース(配管カバー本体)に,カバー(蓋体)を係止する構造及びカバー(蓋体)内にパイプ(排水管)を固定座(配管挟持体)によって支持し,パイプ(排水管)の周囲を断熱材(保温・遮音材)で囲う構造を有していることは共通している。
イ しかし,被告各製品と上記考案を比較すると,次のように多数の点で異なっており,同考案に,実開昭56-15882号考案を組み合わせても,当業者が被告各製品に想到することは容易ではないというべきである。
(ア) 被告各製品においては,断熱材は,ベースないしカバーから取り外すことができる別の部材として構成されているが,実開昭53-152255号考案においては,配管カバー本体ないし蓋体と保温・遮音材は,一体として形成され,取り外しができない構成となっている。
(イ) 被告各製品においては,ベース両側の立上がり部にある突嘴は,その両側で被係止体を係止できるように矢じり形をしており,そのうち,突嘴の外側は,カバー側板部先端のフックと係止する機能を有し,突嘴の内側は,固定座の基部を係止する機能を有し,固定座のベースへの取付けは,内側の突嘴への係止によるのみで,適宜,間隔を設けることができるようになっている。これに対し,上記考案においては,配管カバー本体両側の立上り部の係止受片は外側にのみしかなく,蓋体の側板部の係止片と係止めをする機能しか有しておらず,配管カバー本体内の配管挟持体は,別の方法により,配管カバー本体に取り付けるようになっている。したがって,被告各製品においては,突嘴と固定座基部とが係止していることから,固定座取付け後も,突嘴と固定座基部間を摺動させることによって適宜,位置の変更ができるのに対し,同考案の配管挟持体は,一度取り付けた後は,自由にその位置を変更することができないのであって,両者は構造及び作用が明らかに異なる。
(ウ) 被告各製品の断熱材は,少なくとも上部断熱材についてはパイプと接し,固定座と共に挟持していることを被告も認めており,パイプを挟持・固定する役割を有しているが,同考案においては,保温・遮音材は,配管を固定する役割は有していない。
(エ) 被告各製品の下部断熱材は,固定座と固定座の間に位置しているが,同考案の保温・遮音材は,配管カバー本体の内周面部に,配管挟持体により途切れることなく連続して配設されている。
(オ) 被告各製品の断熱材は,パイプの中間部において上下に分割されており,各断熱材は,内側に断面半円状の溝を有しているが,同考案においては,下部の保温・遮音材の形はコ字状で,側面の保温・遮音材の高さは配管の上部付近まで達しており,上部の保温・遮音材の形は直線状である。
ウ しかも,被告各製品が解決しようとした課題は,配管被覆製品について,小型化を図り,かつ,施工を容易にするものであったのに対し,実開昭53-152255号考案が解決しようとした課題は,屋外に露出されている配管について外観を良くし,保温性及び遮音性を良くするという課題であり,両者の解決しようとする課題,発想の出発点,着想の原点は全く異なるのである。したがって,当業者が,実開昭53-152255号考案から,被告各製品の技術を極めて容易に想到できるものではない。
エ 被告は,上記考案と被告各製品の相違点は,下部断熱材が配管固定座と配管固定座との間に位置して立上り部間に配設されているか(被告各製品),配管カバーの内周面部に配設されているか(同考案)にすぎないとの前提に基づいて,同考案に実開昭56-15882号考案を組み合わせると,被告各製品に極めて容易に想到することができると主張する。しかし,前記のとおり,被告各製品と実開昭53-152255号考案との相違点は,多数かつ広範囲にわたるものであり,被告の主張はその前提自体が誤りである。また,実開昭56-15882号考案のマイクロフィルムには,断熱材がいかなる構成を有しているかについて全く記載されていないから,同公報記載の技術から,断熱材がパイプを挟む形で上下に分割されるという被告各製品の構成を極めて容易に想到することはできないというべきである。
オ しかも,被告は,被告各製品と同様の技術的思想を有するカバー付き配管装置について,新規性進歩性があるとして特許出願し,被告特許権を取得している。被告特許権の構成と,実開昭53-152255号考案の構成を比較すると,被告各製品と同考案の構成を比較した場合と同様の一致点及び相違点が認められるにもかかわらず,被告は,被告各製品については,公知技術から極めて容易に想到することができると主張しながら,他方,被告特許権については,新規性進歩性ありと主張して,特許権を取得しているのである。かかる被告の主張は,禁反言の原則に反するというべきである。
(2) 自由技術の抗弁(その2)について ア 特許庁審査基準において,要旨の変更は,「明細書または図面補正した結果,特許請求の範囲に記載した技術的事項が願書に最初に添付した明細書または図面に記載した範囲内でないものとなったとき,その補正明細書の要旨を変更したものとする」とされているが,当初明細書【0016】には,「前記施工に当って,配管ベース10内の要所に固定座18を嵌着し,配管時パイプ16を固定するようにしても良い」と記載され,更に,同図面1及び2には,「開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面」という構造が明記されているのであるから,本件補正は,当初明細書の要旨の変更を伴うものではない。
イ 被告は,当初明細書【0015】に,パイプは上下断熱材の凹部に小口側から嵌挿すると記載されていることから,固定座はパイプを「ガイドする」機能を有するにすぎないと主張する。しかし,「嵌挿」とは,パイプの下半部を下部断熱材の上方向に向けた凹部に,パイプの上半部を上部断熱材の下方向に向けた凹部にそれぞれはめ込むことを意味し,長穴状態に作られている凹部に,長穴の小口側から挿入しようとするものではない。
また,当初明細書【0004】に,従来の施工例として,「配管ベース1に沿って配管されたパイプ2を断熱材3a,3bによりその左右から挟持し,該断熱材3a,3bの弾性を利用しながら配管ベース1の立上がり部4間に断熱材3a,3bを並列状態に挿着した」と記載されているとおり,配管被覆構造の施工中,断熱材が作ったパイプ用長穴にその小口からパイプを挿入することは想定されていない。
ウ さらに,被告は,当初明細書の「固定座」には,「バネ性」や「弾性」を有する部材であることは示唆されていないとも主張するが,当初明細書【0016】,図1及び2の記載によれば,固定座にはパイプを固定する役割があること,パイプ受け面は,パイプ径よりも狭い断面U字形の構造を有していることは明らかであるから,当該固定座のパイプ受け面が,「バネ性」あるいは「弾性」を有していることは容易に認識することが可能である。
エ しかも,改正前実用新案法13条により準用される平成5年法律第26号による改正前の特許法53条1項は,要旨の変更を伴う補正については,特許庁審査官が却下しなければならない旨定めていたところ,本件補正は,審査官により却下されなかったのであるから,要旨の変更に当たるものではない。
4 争点4-先使用の抗弁について (被告の主張) 仮に,被告各製品の構成が,本件考案技術的範囲に属するとしても,被告は,被告製品(旧タイプ)を利用した配管改修方法を,本件考案の実用新案登録の出願日(平成5年3月3日)以前である平成4年12月17日ころ,実際に団地において施工している。被告各製品の構成は,被告が同出願前から実施する技術と同一の技術思想に属するものであるから,先使用の抗弁が成立し,被告各製品の施工・販売は,本件実用新案権の侵害とはならない。
(原告の反論) 被告は,先使用の事実に関する証拠として,報告書(乙4の1),写真(乙4の2)及びビデオ画像(乙15)を提出するが,同報告書は,実施日とされる日(平成4年12月17日)から2年も経過した後に作成されたもので,しかも,目次に記載された添付資料が添付されていないなど,記載内容の信ぴょう性が認められないこと,ビデオ画像も,いくつもの画像をつなぎ合わせた形跡がうかがわれること,被告各製品が施工されている公団住宅は,部屋のタイプが同じであれば,どの部屋も全く同じ構造を有していることなどからすると,これらの証拠をもってしても,真実,平成4年12月17日に,被告製品(旧タイプ)が施工されたものとは到底認められない。
また,仮に被告が同日,被告製品(旧タイプ)を施工していたとしても,上記報告書によると,当該施工は,他の工法と比較検討するための試作段階,実験段階によるものであり,被告がかかる段階で,「考案の実施である事業」ないし「事業の準備」を行っていたと解する余地はない。
さらに,本件考案は,昭和60年ころ,公団保有の賃貸住宅老朽化に伴い発生した鉄製水道管及びライニング管のさびによる赤水,黒水対策を目的として考案されたものである。原告は,被告が公団の事業に関連する会社であり,公団が保有する賃貸住宅の保守工事を一手に引き受けていることに着目し,被告を通じて本件実用新案権の実施品を施工・販売することとして,時期は不明であるが,被告に対し,販売広告用の実験的施工を実施していた。その際に撮影されたのが,乙15である。しかし,被告は,本件考案の開発に関与した者が設立した会社によって,本件実用新案権を盗用して製造された被告各製品を仕入れ,施工・販売しているのである。すなわち,被告各製品は,本件考案を起源とするものであり,かかる製品を実施したとしても,先使用ということはできない。
5 争点5-権利の濫用について, (被告の主張) (1) 進歩性欠如について(その1) 本件考案の構成は,本件明細書に従来技術として記載されている実開平4-122897号考案(【0003】,【0006】及び図3)に,引例1,実開昭53-152255号考案,意匠登録第840492号公報(乙17),意匠登録第823742号公報(乙18)に各記載の本件考案の実用新案登録出願時における周知技術又は公知技術を適用することにより,当業者が極めて容易に想到することができた構成であるというべきであり,本件考案に係る実用新案登録は進歩性を欠き,無効理由が存在することは明らかである。
ア 意匠登録第840492号公報には,開口幅が管径より狭い断面U字形の管受け面を有している管立ち上げ固定具が記載されている。
イ 意匠登録第823742号公報には,開口幅が排水管径より狭い断面U字形の排水管受け面を有している排水管支持具が記載されている。
ウ 本件考案と,実開平4-122897号考案との相違点は,以下のとおりである。
(ア) 本件考案の構成は,パイプを上下の断熱材で挟持しているのに対し,実開平4-122897号考案の構成は,パイプを左右の断熱材により挟持している。
(イ) 本件考案の構成は,上下の断熱材及び開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座によりパイプを固定するのに対し,実開平4-122897号考案は左右の断熱材のみでパイプを固定している。
エ(ア) 本件考案のように,パイプを上下の断熱材により挟持することは引例1に記載されているとおりであり,本件考案の実用新案登録出願時における周知技術又は公知技術である。そして,かかる技術を実開平4-122897号考案の断熱材について適用することについて格別の困難性はないから,同考案の断熱材を本件考案と同様の構成とすることは,当業者が極めて容易に想到することができた事項にすぎない。
(イ) 本件考案のように,パイプ受け面を有する固定座によりパイプを固定することは,実開昭53-152255号考案のマイクロフィルムに記載されているとおり,本件考案の実用新案登録出願時における周知技術又は公知技術である。また,固定座のパイプ受け面を断面U字形とすることも,意匠登録第840492号公報及び意匠登録第823742号公報に種々のパイプ受け面の形状が記載されていることに照らすと,本件考案の実用新案登録出願時において,公知技術から極めて容易に想到できるというべきである。そして,かかる周知技術又は公知技術を実開平4-122897号考案に適用することには格別困難性はないから,同考案のパイプ受け面を本件考案と同様の構成とすることは,当業者が極めて容易に想到することができた事項にすぎない。
オ 以上より,本件考案に係る実用新案登録は,進歩性欠如の無効理由があることは明らかである。
(2) 進歩性欠如(その2) 前記のとおり,本件補正は,本件明細書の要旨の変更を伴うものであり,出願日が平成7年5月29日に繰り下がるところ,本件考案の構成は,被告特許権に係る発明に,引例1及び意匠登録第840492号公報又は意匠登録第823742号公報記載の本件考案の実用新案登録出願時における周知技術又は公知技術を適用して得られる構成であり,かかる構成には格別の困難性は存しないから,公知技術から当事者が極めて容易に想到できた構成というべきであり,本件考案に係る実用新案登録は進歩性を欠き,無効理由が存在することが明白である。
ア 本件考案と,被告特許権に係る発明の相違点は,以下のとおりである。
(ア) 本件考案の構成は,パイプを上下の断熱材で挟持しているのに対し,被告特許権に係る発明の構成は,パイプを断熱材により挟持していない。
(イ) 本件考案の構成は,上下の断熱材及び開口幅がパイプ径より狭い断面U字形のパイプ受け面を有する固定座によりパイプを固定するのに対し,被告特許権に係る発明の固定座のパイプ受け面は断面コ字状である。
イ(ア) 前記のとおり,パイプを上下の断熱材により挟持することは引例1に記載されているとおりであり,本件考案の実用新案登録の繰り下げられた出願時における周知技術又は公知技術である。そして,かかる技術を被告特許権に係る発明の断熱材について適用することについて格別の困難性はないから,同特許に係る発明の断熱材を本件考案と同様の構成とすることは,当業者が極めて容易に想到することができた事項にすぎない。
(イ) 固定座のパイプ受け面を断面U字形にすることは,意匠登録第840492号公報及び意匠登録第823742号公報に各記載のとおり,本件考案の実用新案登録の繰り下げられた出願時にパイプ受け面の形状には種々のものがあったことに照らすと,周知技術又は公知技術から極めて容易に想到できるというべきである。そして,かかる周知技術又は公知技術を被告特許権に係る発明に適用することには格別困難性はないから,同発明のパイプ受け面を本件考案と同様の構成とすることは,当業者が極めて容易に想到することができた事項にすぎない。
ウ したがって,本件考案に係る実用新案登録は,進歩性欠如の無効理由があることは明らかである。
(3) 進歩性の欠如(その3)について 争点3に関して既に述べたとおり,被告各製品の構成は,実開昭53-152255号考案(乙13)に,実開昭56-15882号考案(乙14)の技術を組み合わせることにより当業者が極めて容易に想到することができたものであるところ,本件考案についても同様であるから,本件考案に係る実用新案登録に進歩性欠如の無効理由があることは明らかである。
(4) 上記のとおり,本件実用新案権に基づく権利行使は,権利濫用により許されないというべきである。
(原告の反論) (1) 進歩性の欠如(その1)について ア 原告は,本件考案の実用新案登録の出願過程において,本件補正書記載の補正に加えて,本件意見書を提出し,引例1及び同2の各考案に基づいて,進歩性が欠如するとの特許庁審査官の拒絶理由通知(本件拒絶理由通知)に対し,引例1の考案は,確かに上下部断熱材がパイプを挟んでおり,かつ,それらがカバー内に位置しているが,本件考案における配管ベースに相当するものはなく,本件考案のように容易に施工することができないこと,パイプは上下断熱材のみにより支持されているため,パイプの固定が不十分で,施工時にも不安定感が残るが,本件考案においては,パイプは固定座にしっかりと嵌着支持され,かつ固定座と固定座との間に上下一対の断熱材を設けたことから,従来のように弾性を備えた断熱材に限ることなく,種々の断熱材を広く取捨選択することができるし,断熱材はパイプの断熱のみならず,固定座と共にパイプを定位置に固定する固定部材としての役割を有することになるから,たとえ断熱材が経時変化により固定部材としての作用を失っても,パイプは固定座に嵌着されること,従来のように曲管部分,分岐部分の多寡,パイプの長短等により作業の自由度が制限されることもなく,施工費も低減することができることなどからすると,引例1及び同2の考案に基づいて極めて容易に考案できたとすることはできず,進歩性が認められると主張した。特許庁審査官は,かかる意見をいれて,実開昭53-152255号考案,意匠登録第840492号公報及び意匠登録第823742号公報各記載の意匠の存在を理由として再度の拒絶理由通知を発することなく,本件考案には進歩性が認められるとして,本件実用新案権の登録を認めたのである。
イ 実際,争点3に関して既に述べたとおり,実開昭53-152255号考案と本件考案との間には,種々の相違が見られるのであるから,本件考案は,実開昭53-152255号考案に上記各意匠公報記載の意匠を加えただけで,極めて容易に想到できるものではない。特に,本件考案においては,配管ベースの立上がり部の突嘴は矢じり状となっており,その外側はカバーの突嘴と,内側は固定座の基部に係止めされる構造となっているが,かかる構造は,上記各公報には何ら示されていないのである。
ウ さらに,本件実用新案権の出願前である平成元年ころから,意匠性及び施工性のより優れた配管被覆構造が,市場において強く求められていたのであるから,仮に本件考案が,公知技術から容易に想到できるものであるならば,原告以外の当業者が本件考案と同様の製品を容易に開発し,販売したはずである。しかしながら,かかる事実は存しない。
(2) 進歩性の欠如(その2)について 前記のとおり,本件補正は要旨の変更を伴うものではないから,要旨の変更を前提とする被告の主張は,失当である。
(3) 進歩性の欠如(その3)について 争点3に関して既に述べたとおり,被告の主張は失当である。
6 争点6-原告の損害額について (原告の主張) (1) 被告は,遅くとも平成8年以降,公団から受注した公団住宅のリフォーム事業のうち,水道管取替え工事について,被告各製品を施工・販売した。被告は,少なくとも千葉県花見川区さつきが丘団地2-10-13所在の「さつきが丘団地」において,平成8年及び同9年に施工した水道管取替え工事に際し,被告各製品を施工・販売し,売上高は,平成8年においては840戸,2億2360万円,同9年においては340戸,7870万円に上った。
(2) 被告は,上記水道管取替え工事により,少なくとも,合計売上高3億0230万円の10パーセントに当たる3023万円の利益を得たというべきであるから,同金額が原告の被った損害額と推定される。
(3) よって,原告は,被告に対し,損害賠償として3023万円及びこれに対する侵害行為の後である平成10年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の反論) 原告主張の損害は,否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点1(被告各製品の具体的構成)について (1) 別紙原告物件説明書(1)に記載の「3 構造の説明」のうち,(a),(b)の各記載と,図1(1)及び同(2)の各記載並びに同原告物件説明書(2)に記載の「3 構造の説明」のうち,(b)の記載と,図1(1)及び同(2)の各記載については,当事者間に争いはない。
(2)ア 被告は,被告各製品においては,下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプ下半部外面との間にいずれも所定の間隙S2が存在すると主張するので,まずその点について検討する。
イ 証拠(検乙1,同2)及び弁論の全趣旨によると,被告各製品には,それぞれパイプPの下半部と下部断熱材溝41との間に約1oの間隙が存在し,パイプPが下部断熱材に密着しているとは認められない。
この点,原告は,被告特許権の明細書,被告作成のカタログ等には,間隙があることが不可欠の構成である旨の記載はなく,むしろ,間隙が存在しないことを前提とした記載が多数見られること,「嵌合」という用語の通常の意味からすると,配管下半部と下部断熱材が接していることが前提とされていること,断熱効果を向上させ,さらに,ウォーターハンマー現象による配管破損を防止する観点からは,技術的にも間隙が存しないことが望ましいなどと主張する。
しかし,発泡ポリスチレン等,ゴム状弾性を有さない断熱材を使用する際には,配管と断熱材が互いに干渉することを防止するため,製造上,配管に0.2o,断熱材に1o程度のアロワンスを設けるのが通常であることは,原告においても認めるところである。また,被告製品(新タイプ)のカタログ(乙20)には,パイプ外径が26oであるところ,配管固定座の内径半径は13o,下部断熱材溝41の半径は14oと記載されており,設計上も約1oの間隙が存することが前提となっている。この点については,たしかに,伸栄工業が被告と共同開発したと称するケースウェイカバーのカタログ(乙1)には,上記間隙が存在しない図(ケースウェイカバー使用断面図)が掲載されている。しかし,同図面は,カタログ冒頭に,使用例と共に掲載されているもので,配管カバーの高さ及び横幅のみ寸法の数値が記載されているだけであり,同図面は,上記製品の構造を概略的に記載したものにすぎず,細部まで詳細に記載したものではないというべきであるから,このような図面に,約1o程度の間隙が記載されていないことをもって,直ちに被告各製品に間隙が存しないということはできない。したがって,同カタログの記載が上記認定を左右するものではない。その他,上記認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
2 争点2(被告各製品の構成要件充足性)について (1) 構成要件C及びDについて ア 争点1に関する前記認定のとおり,被告各製品においては,下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプ下半部外面との間にいずれも約1oの間隙が存在するので,構成要件の充足性については,構成要件C及びDをまず検討する。
イ この点,特許技術用語集〔第2版〕(乙12)によれば,「挟持」とは,「挟んだ状態で支持すること。」を一般的に意味するものと認められ,構成要件C及びDにおけるパイプの「挟持」の解釈としては,上下の断熱材が,それぞれパイプと接して挟むことを意味すると解するのが相当である(原告も,このような解釈を前提として,被告各製品の下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプ下半部外面との間には間隙S2はないと主張していたものというべきであるから,「挟持」の解釈については,当事者間に争いがないといえる。)。
ウ 以上からすると,被告各製品には,いずれも下部断熱材溝41の内面と固定座3に保持されたパイプ下半部外面との間に約1oの間隙が存することから,下部断熱材は,「パイプ挟持用」の凹部を有さず(構成要件C),さらには,両断熱材によりパイプを「挟持し」ているとはいえない(構成要件D)から,構成要件C及びDを充足しないというべきである。
(2) 構成要件Aについて ア 前記のとおり,被告製品(新タイプ)の配管ベースの立ち上がり部13における突嘴14の具体的構成については,当事者間に争いがある。しかし,原告が被告製品(新タイプ)の構成として主張する別紙「原告物件説明書(2)」記載の構成を前提としたとしても,そこに掲げられた各図面に照らせば,被告製品(新タイプ)の突嘴は,立ち上がり部の「頂部」にあるということはできない(なお,「原告物件説明書(2)」において,原告は,同部分について,「カバーのフック部に対応する位置に形成した突嘴と,それを延長した立ち上がり部」として特定している(前記被告製品(新タイプ)の分説a”参照)ものであり,この点に照らしても,被告製品(新タイプ)の突嘴は,立ち上がり部の「頂部」にはないことは明らかである。)。よって,被告製品(新タイプ)は,構成要件Aを充足しないというべきである。
イ なお,原告は,被告製品(新タイプ)の突嘴が,仮に構成要件Aの文言を侵害しないとしても,当該構成は,同構成要件と均等であると主張する。
この点,実用新案登録請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,@上記部分が考案本質的部分ではなく,A上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,考案の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品等が,考案の実用新案登録出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に極めて容易に推考できたものではなく,かつ,D対象製品等が実用新案登録出願手続において実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,考案技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照。)ところ,原告は単に均等の成立をいうのみで,上記各要件について何ら具体的な主張・立証をしないから,原告の上記主張は採用できない。
(3) したがって,被告製品(旧タイプ)は本件考案の構成要件C及びDを充足せず,被告製品(新タイプ)は本件考案の構成要件A,C及びDの構成要件を充足しないから,その余の構成要件の充足性について判断するまでもなく,被告各製品は,いずれも本件考案技術的範囲に属しないというべきである。
3 争点5(本件考案に係る実用新案登録の無効理由)について (1) 前記のとおり,被告各製品は,いずれも本件考案に係る実用新案登録の技術的範囲に属するとはいえないから,原告の本訴請求は既にいずれも理由がない。
もっとも,本件においては,事案の内容にかんがみ,同実用新案登録に無効理由があることが明らかであるかどうかについても検討する。
(2)ア 本件考案の実用新案登録出願前に頒布された刊行物である実開昭53-152255号考案のマイクロフィルム(乙13)には,配管カバーに関する考案が示されており,次の記載がある。
(ア) 「この考案は,排水配管の外周胴部に被着して使用するのに好適な配管カバーに係る。」(1頁10行目ないし11行目)もので,「‥‥‥配管を収納する合成樹脂製角桶体(例えば,塩化ビニル樹脂製角桶体,強化ポリエステル樹脂製角桶体等),金属製角桶体等よりなる桶状の配管カバー本体1の内周面部に,合成樹脂発泡体(例えば,ポリウレタン発泡体,ポリスチレン発泡体等),石綿,ガラス繊維等の保温・遮音材を積層,固着して保温・遮音材層2を形成すると共に,弾性を有する合成樹脂成形品(例えば,塩化ビニル樹脂成形品,強化ポリエステル樹脂成形品等),金属等よりなる配管挟持体3,3‥‥‥‥‥‥を取り付けて突設し,且該配管カバー本体1の開口面部に,内周面部に前記と同様の保温・遮音材を積層,固着して保温・遮音材層4を形成した合成樹脂製蓋体(例えば,塩化ビニル樹脂製蓋体,強化ポリエステル樹脂製蓋体),金属製蓋体等の蓋体5を嵌合,装着して成る配管カバーである。」(2頁4行目ないし20行目)。
(イ) 「この考案において,配管カバー本体1の開口面部に蓋体5を装着する場合には,例えば,第1図に示す如く,配管カバー本体1の両上縁部を外側方に折曲して係止受片6を形成すると共に,蓋体5の両側縁部を内方に折曲して係止片7を形成し,該配管カバー本体1の係止受片6および蓋体5の係止片7の弾性を利用して係止受片6に係止片7に係止させることによって配管カバー本体1の開口面部に蓋体5を装着すれば良い。」(3頁1行目ないし9行目)。
(ウ) 「この配管カバーを使用する場合には,‥‥‥配管カバー本体1を‥‥‥固着した後,該配管カバー本体1の内部に上記排水管Bを収納し,配管挟持体3,3‥‥‥にて排水管Bを挟着支持し,次いで,配管カバー本体1の開口面部に蓋体5を嵌合,装着して使用する。」(3頁10行目ないし17行目)。
(エ) 「この考案の配管カバーは,配管を収納する桶状の配管カバー本体1の内周面部に保温・遮音材層2を形成すると共に配管挟持体3,3‥‥‥を突設し,且該配管カバー本体1の開口面部に,内周面部に保温・遮音材層4を形成した蓋体5を装着して成るので,上記配管カバー本体1の内部に排水管Bを収納して配管挟持体3,3‥‥‥にて挟着支持し,該配管カバー本体1の開口面部に蓋体5を装着することにより‥‥‥上記配管カバー本体1および蓋体5の内周面部に形成した保温・遮音材層2,4によって配水管Bの外周胴部が被覆でき,排水管Bの保温性,遮音性が向上する」(4頁1行目ないし14行目)。
イ 以上を前提に,本件考案と実開昭53-152255号考案を対比する。
(ア) 実開昭53-152255号考案における「配管カバー本体1」は,係止受片6を有し,係止片7を有する「蓋体5」と,係止受片6,蓋体5及び係止片7の弾性を利用して,係止受片6に係止片7を係止させることにより配管カバー本体1の開口面部に蓋体5を装着するのであるから,同考案における「配管カバー本体1」は本件考案における「配管ベース」に,「蓋体5」は,「カバー」にそれぞれ対応している。
(イ) 実開昭53-152255号考案における配管挟持体3は,弾性を有し,配管カバー本体に突設され,排水管Bを挟着支持するのであるから,同「配管挟持体3」は,本件考案における「固定座」に対応する。
(ウ) 実開昭53-152255号考案においては,配管カバー本体1の内周面部に,合成樹脂発泡体等の保温・遮音材を積層,固着して保温・遮音材層2が形成され,また,蓋体5の内周面部にも,同様の保温・遮音材が積層,固着され,保温・遮音材層4が形成されるのであるから,同考案における「保温・遮音材層2」及び「保温・遮音材層4」は,本件考案における「下部断熱材」及び「上部断熱材」にそれぞれ対応する。
(エ) 実開昭53-152255号考案においては,保温・遮音材層2を内周面部に有する配管カバー本体1の開口面部に,内周面部に保温・遮音材層4を形成した蓋体5を装着することにより,配管カバー本体1の内部において排水管Bを収納して配管挟持体3,3‥‥‥により挟着支持した上で,保温・遮音材層2,4によって排水管Bの外周面部を被覆するのであるから,上記構造は,本件考案における「両断熱材をカバーで覆い,立上がり部の突嘴とカバー端部の突嘴とを互いに係合して該配管ベースとカバーとを一体に係止したことを特徴とする配管被覆構造」に対応する。
ウ そうすると,本件考案と実開昭53-152255号考案とは,「頂部に係止受片を有する立上がり部を両側端部に設けた配管カバー本体上に開口幅が配水管径より狭い配水管受け面を有する配管挟持体を複数設け,配管カバーの内周面部に上・下の断熱材を配設し,立上がり部の係止受片と,内周面部に保温・遮音材層を配設した蓋体端部の係止片とを互いに係合して配管カバー本体と蓋体とを一体に係止した配管カバー構造」である点で一致する。
エ 他方,本件考案においては,下部断熱材は,固定座と固定座との間に配置され,凹部を有し,同様に凹部を有する上部断熱材と共に配管を挟持しているが,実開昭53-152255号考案は,そのような構成を備えていない点で相違する。
(3)ア そこで,上記相違点について検討する。
本件考案の実用新案登録出願前に頒布された刊行物である引例1の文献(乙8)には,配管用断熱材に関する考案が示されており,次の記載がある。
(ア) 「本考案は,建物の給排水配管の外周に取付ける防露用断熱材に関する。」(1頁12行目ないし13行目)。
(イ) 「‥‥‥断熱材はプラスチックの発泡成形体で構成されているので,断熱性を有するとともに配管を支持する程度の圧縮強度は有して」いる(3頁8行目ないし10行目)。
(ウ) 「断熱材5は‥‥‥角柱を二つ割したような形状の二つの部材5A,5Aからなり,各部材5Aには互いに接合する接合面5aと直管挿入用の孔5bを有している。」(4頁目3行目ないし6行目)。
(エ) 「‥‥‥断熱材5‥‥‥は‥‥‥配管を支えるための手段としても使用するもの」(5頁6行目ないし7行目)。
(オ) 「‥‥‥金属バンドで断熱材ごと配管を‥‥‥取付面に固定することにより,安定して配管を固定することができる。この結果,配管への断熱材取付作業及び配管の取付作業が極めて容易となる。また,配管を覆った断熱材が取付面に直接接触している」(7頁15行目ないし20行目)。
イ 上記考案において,断熱材5は,二つの部材5Aから構成されるところ,接合面5a及びパイプ挿入用の孔5bを有することからすると,断熱材5の部材5Aは,パイプ挿入用の凹部を有しているというべきであるから,同部材5Aは,本件考案における上部・下部各断熱材に対応するということができる。また,配管ベース上に,固定座を複数設置した場合において,断熱材をパイプに接着するように設置する場合には,固定座と固定座の間に設置することになることは,当然である。
そして,引例1は,配管用断熱材に関する考案であるが,配管被覆構造は,断熱材に被覆(カバー)を設けたにすぎないものであるから,断熱材に関する技術を,配管被覆構造について相互に転用することができることは当業者にとって自明というべきである。
したがって,上記(2)エにおける相違点については,実開昭53-152255号考案に,引例1の考案が有する技術的事項及び周知技術を勘案することにより,当業者が極めて容易に想到することができたものと認められる。
そうすると,本件考案に係る登録実用新案は,平成11年法律第41号による改正前の実用新案法3条1項3号,2項の規定に違反して実用新案登録された無効理由を有することが明らかというべきであるから,本件実用新案権に基づく権利行使は,権利の濫用に当たり許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。
4 結論 以上によれば,被告各製品は,本件考案に係る登録実用新案の技術的範囲に属さないものであり,かつ,同登録実用新案は無効理由を有することが明らかであり本件実用新案権に基づく原告の請求は,権利の濫用に当たるものとして許されない。したがって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録(1)別紙原告物件説明書(1)に記載した構造を有する「ケースウェイカバー」と称する屋内給水管用硬質塩化ビニールカバー(別紙)物件目録(2)別紙原告物件説明書(2)に記載した構造を有する「ケースウェイカバー」と称する屋内給水管用硬質塩化ビニールカバー(別紙)原告物件説明書(1)図1図2図3原告物件説明書(2)図1図2図3被告物件説明書1図1図2図3被告物件説明書2図1図2図3
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 鈴木千帆
裁判官 荒井章光