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関連審決 無効2005-80151
無効2002-35295
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10350審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  設定登録 /  引用考案の認定 /  相違点の認定 /  新規性(3条1項) /  公然実施 /  判決の拘束力 /  請求項 /  実施例 /  特段の事情 /  特定 /  明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10060号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士三谷浩 二郎
被告ハ タノヤ株式会社
訴訟代理人弁理士小林正治
同森徳久
同小林正英
訴訟代理人弁護士五藤昭雄
同芦川淳一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2002-35295号事件について平成18年1月6日にした審決を取り消す。
第2事案の概要原告は,後記実用新案登録を有していたところ,被告が無効審判請求をしたので,特許庁は審理の上,平成16年1月28日に請求不成立の審決をしたが,当庁は,被告からの訴えに基づき,平成17年6月30日,審決取消しの判決をし,確定した。そこで上記無効審判請求は,再び特許庁で審理され,特許庁は,平成18年1月6日,上記実用新案登録を無効とする旨の審決をした。本件は,平成18年1月6日になされた上記審決に不服の原告が,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア原告は,昭和63年9月24日,名称を「表面筋状薄肉こんにゃく」とする考案について実用新案登録出願をし,平成10年12月11日,実用新案登録第2150363号として設定登録を受けた(請求項1。以下「本件実用新案登録」という。)。
イところが,被告から,平成14年7月15日付けで,本件実用新案登録について無効審判請求がなされたので,特許庁は,これを無効2002-35295号事件(以下「本件無効審判事件」という。)として審理し,平成16年1月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。甲101)をした。
ウこれに対し,被告は,第1次審決に対して取消訴訟(東京高裁平成16年(行ケ)第89号,その後,当庁平成17年(行ケ)第10061号。
以下「第1次訴訟」という。)を提起したところ,当庁は,平成17年6月30日,同事件について,第1次審決を取り消す旨の判決(以下「第1次判決」という。甲102)をし,同判決は確定した。
エそこで,特許庁は,上記無効2002-35295号事件について再び審理した上,平成18年1月6日,「本件実用新案登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成18年1月18日原告に送達された。
(2) 考案の内容本件実用新案登録の請求項1の内容は,下記のとおりである(以下「本件考案」という。)。
記【請求項1】個々に独立した多数個のノズルが1〜2列に連設された押出ノズルから,太さ3mm以下に押出された糸状こんにゃくを即横幅方向へ一体化して,長手方向に多数の凹条(2)と凸条(3)を表面に有し,凸条(3)部分の厚肉部が3mm以下であって,凹条(2)部分の薄肉部が半透明の縞模様を形成してなる表面筋状薄肉こんにゃく。
(3) 本件審決の内容本件審決の内容は,別紙審決写しのとおりであり,その理由の要点は,下記のとおりである。
記第1次判決において,「カネマタ食品工業株式会社(以下「カネマタ食品」という。)は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の表面筋状薄肉こんにゃくを,遅くとも,昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。」と判示された。この判示事項は,審判合議体を拘束する。したがって,本件考案は本件実用新案登録出願前に日本国内において公然実施された考案であるから,本件実用新案登録は,実用新案法3条1項2号に違反してされたものであり,無効とすべきものである。
(4) 本件審決の取消事由しかしながら,本件審決が前提とした第1次判決には,判決に影響を及ぼす重要な事項について判断の遺脱があったから,これに基づく本件審決には瑕疵があることになるので,取り消されるべきである。
ア 取消判決の拘束力の範囲審決又は決定が判決によって取り消されこれが確定すると,判決は,その事件について審判官を拘束し(行政事件訴訟法33条1項),この拘束力のもとに審判官はさらに審理を行い,審決又は決定をする(実用新案法47条2項,特許法181条5項)。この拘束力は,当該事件について審理され,判決の理由において違法事由として示された事実上及び法律上の判断について生ずるが,それ以外には及ばない。
実際に生起する訴訟の審決取消判決では,当該訴訟の結論を導くための説示に主眼がおかれるため,拘束力の範囲を把握するのに必要な論理的思考過程を理解しにくい説示となることがある。判決の理由説示に際してはこの点を念頭におくべきであるし,取消し後の審判手続においては,判決の理由の文面そのままを理解するのではなく,判決の結論に至る論理的帰結を踏まえて,拘束力の範囲を慎重に見極める必要がある。
最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決(民集46巻4号245頁)には,園部裁判官の次の意見が述べられている。
「再度の審判の審決を不服として提起された再度の審決取消訴訟の審理判断において,当初の審決取消訴訟の判決の趣旨に従ってされた当該審決を,その限りにおいて適法であるとし,これを違法とすることができないということについては,法廷意見が述べるように当然の理であるとは考えない。…行政事件訴訟法第33条は,取消判決の実効性を担保するという政策的な見地から,当該処分に関係のある行政庁に対し判決の趣旨に従うべきことを規定したのにとどまり,当初の審決取消訴訟の判決が再度の審決取消訴訟の係属する裁判所の審理判断をも当然に拘束することを規定したものではないと解されるからである。…右規定の背後にある公益性への配慮あるいは迅速で実効性のある訴訟の遂行という法意にかんがみれば,当初の審決取消訴訟に続く累次の訴訟において,裁判所は,従前の各確定判決の理由中の認定判断から審決の根拠となるべき行為規範を見出し,それとの関係において,審決の適法性を審理し判断することが,行政事件訴訟の制度の趣旨にも合致した妥当な処理であると考えるのである。」この園部裁判官の意見の趣旨は,@第1次判決の理由中の認定判断,A審決の根拠となるべき行為規範,B両者の関係における審決の適法性を総合的に審決の適法性として審理し判断すべきものと理解する。この意見は,本件訴訟においても重視されなければならない。
イ取消事由1(本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案の認定を欠いている違法,及び本件審決が同考案と本件考案が一致しないことを看過した違法)(ア)本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内において実施していた発明の認定を欠いている違法a「実用新案登録出願前に日本国内又は外国において公然実施された考案」(実用新案法3条1項2号)に該当するか否かの判断は,@実用新案登録に係る考案の認定,A引用考案の認定,B実用新案登録に係る考案と引用考案との一致点及び相違点の認定,C相違点についての認定・判断,D結論の論理構成によって結論に至っていることが必要である。
b本件審決は,公然実施を審理する上で,@本件実用新案登録に係る本件考案を認定したが,以下のとおり,Aカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内において実施していた考案(以下「カネマタ考案」という。)がいかなるものかについての認定をしていない。
(a)第1次審決及び本件審決が,カネマタ考案について記載した部分は次の箇所である。
α第1次審決(甲101)の「3.当審の判断」の「(五)」に,「甲第11及び15号証に添付の写真の目皿を用いれば甲第5,11,及び13ないし15号証に添付の写真のようなこんにゃく製品が得られ,当該こんにゃく製品は,本件請求項1において特定する「表面筋状薄肉こんにゃく」の要件を満たすものであるとの請求人の主張に対して,被請求人は特に反論していない」(11頁7行〜11行),「昭和57年当時叶口屋スーパーチェンにおいて販売されていた「きしめん風こんにゃく」及び昭和58,59年当時販売されていた「高級料亭の味しゃぶしゃぶ」という製品の形状を推認することはできない。」(17頁11行〜13行)との記載がある。
β本件審決の「3.知財高裁審決取消判決平成17年(行ケ)(第10061号)の概要」の「(1) 発見品について」に,「発見品訴訟段階で提出された「しゃぶしゃぶこんにゃく」の現物で(あって,このこんにゃくの形状,構造が,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一であることについては,当事者間に争いがない。には…」(5頁12行〜14行)との記載があ)る。
(b)上記(a)αの記載は,「被請求人は特に反論していない」と記載したのみで,カネマタ考案の認定判断を欠いているものである。
(c)上記(a)βに記載された第1次判決の概要部分は,認める部分を確定的な事実とするものではない上,「カネマタ考案の構成」を認定したものではない。
(d)したがって,本件審決には,カネマタ考案がいかなるものかについて認定されていない。
cさらに,本件審決は,B本件考案とカネマタ考案との一致点及び相違点の認定並びにC相違点についての認定判断をしていない。
dよって,本件審決は,論理構成自体が不合理であり,違法なものとして取り消されるべきである。
eまた,第1次判決は,カネマタ考案も本件考案も認定することなく,構成要件の対比もしていないものであって,カネマタ考案の構成要件と本件考案の構成要件が同一であると判断する法的根拠が示されていないから,主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を欠いており,この判決に拘束力はない。
(イ)本件審決がカネマタ考案と本件考案が一致しないことを看過した違法以下のとおり,カネマタ考案の製造に用いる目皿は,本件考案に用いる目皿とは異なるから,カネマタ考案が本件考案と一致するとの認定はできない。これを看過した本件審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
a被告は,本件無効審判事件において,次の主張をしている。
(a) カネマタ考案構造(審判請求書[甲103]9頁)@直径0.9oの孔が0.4〜0.5oの間隔で開けられ,その孔の列が縦,横に数列開けられた目皿の各孔(押し出しノズル)から,A太さ3o以下に押し出された糸こんにゃく(0.9oの孔から押し出された糸こんにゃくの直径は当然3o以下である)を,即,横方向へ接着させて一体化して,B表面長手方向に,多数の凹条(糸状こんにゃくの接着部分)と凸状(糸こんにゃくの部分)を有し,C凸条部分の厚肉部が3o以下(0.9oの孔から押し出される糸こんにゃくの直径は圧力開放により膨張しても3o以下である)であって,D凹条部分の薄肉部が半透明の縞模様を形成してなる表面筋状薄肉こんにゃく(b)本件考案とカネマタ考案の比較(審判請求書[甲103]10頁下5行〜1行)本件考案の「個々に独立した多数個のノズルが1〜2列に連接された押出ノズルから」は,カネマタ考案の「直径0.9oの孔が0.4〜0.5oの間隔で開けられ,その孔が数列開けられた目皿の各孔(押し出しノズル)から」と同一又はほとんど同一構造である。
b本件考案は,「個々に独立した多数個のノズル」を構成要素としている考案である。したがって,本件考案に用いる目皿は,孔間にすき間がある。
これに対し,被告が主張するカネマタ考案は,「0.9oの孔が0.4〜0.5o間隔で開けられた」目皿を用いるものである。ここでいう「孔間隔」は,左右の孔の中心間距離を意味する。そうすると,孔間隔(左右の孔の中心間距離)は,0.4〜0.5oであるから,孔間のすき間は,0.4〜0.5o-0.9o=-0.5〜-0.4oとなって,マイナスとなる。したがって,当該目皿では,孔間にはすき間が発生しないので,オーバーラップ状につながった一体孔となる。
以上のとおり,カネマタ考案に用いる目皿と本件考案に用いる目皿とでは,孔間のすき間の有無において異なっている。
c被告は,本件無効審判事件においてカネマタ考案に係る目皿が検甲1の目皿であるとして検甲1を提出した。しかし,検甲1の目皿は,「十数個の孔の間隔(平均間隔)を測定すると,1.35oで,横一列に,その孔が設けられている。」,「表側から測定して,その口径は0.9から1oである。」というもの(甲110)であって,被告が主張するカネマタ考案に係る目皿(上記bのもの)とは異なっている。
第1次判決(甲102)は,カネマタ考案に係る目皿について,「孔径は0.9o,孔の間隔は1o前後」と認定した(23頁15行など)。しかし,この認定は,被告が主張するカネマタ考案に係る目皿(上記bのもの)とは異なっており,当事者の主張に基づかない事実認定をしたものであるから,拘束力は生じない。
d以上のとおり,カネマタ考案が本件考案と一致するとの認定をすることはできないウ取消事由2(本件審決が発見品の日付印につき第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及び発見品は押されている日付に製造されたものでないにもかかわらず本件審決はその日に製造されたものであるとの認定をした違法)(ア)本件審決が,発見品の日付印につき,第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法a第1次判決(甲102)は,第4の2(1)(「発見品について」)において,次のような趣旨の認定判断をしている(17頁下4行〜22頁6行)。
「発見品(訴訟段階で提出された「しゃぶしゃぶこんにゃく」の現物であって,このこんにゃくの形状,構造が本件考案1及び2によって製造される「筋組織状こんにゃくと同一であることについては,当事.... 者間に争いがない)には,「60 10 27製造」又は「60 111製造」の日付印が押されていることから,発見品自体又は日付印部分がねつ造に係るものであることを疑わせる事情その他の特段の事情が認められない限り,上記日付印から,発見品が昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであることが推認されるというべきである。
原告(本訴の被告)が提出した証拠及び弁論の全趣旨から認定できる事実によれば,発見品は,その包装袋に押された日付印のとおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが自然というべきであり,この認定を覆すに足りる的確な証拠は見当たらない。
発見品が発見されたタイミングがよいこと,発見品の発見によって,原告(本訴の被告)のみならずカネマタ食品が利益を受けること等は,被告(本訴の原告)の主張するとおりであるとしても,そのことから直ちに,発見品の製造時期がその製造日付とは異なる時期であることが推認されるというわけではないから,被告(本訴の原告)の主張は,上記の認定判断を左右するものではない。
以上によれば,発見品は,その日付印のとおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが相当である。」bしかし,カネマタ食品が,発見品の押印日付当時,発見品の内容物・外観(日付を含む)のものを定常的に製造していたこと,発見品がそのうちに含まれるものであることを認定をしなければ,発見品がその日付印の日に製造されたものと認めることはできない。
ところが,第1次判決は,発見品の製造及び製造に至るまでの事実については,上記aの「発見品について」の認定判断とは異なる,同判決第4の2(2) (「本件公然実施の事実について」)ア(ア)〜(オ)で認定している。
したがって,発見品の製造及び製造に至るまでの事実は,発見品がその日付印の日に製造されたものであるとの認定に関し,第1次判決の拘束力の範囲外である。
さらに,第1次判決が,第4の2(1)(「発見品について」)において認定しているイ(ア)〜(キ)の事実は「発見品自体」に係るものであって,「日付印部分」に係るものではない。第1次判決は,「発見品自体」又は「日付印部分」と前置きしながら,「日付印部分」については全く審理していない。したがって,発見品の「日付印部分」も第1次判決の拘束力の範囲外である。
本件審決は,以上のような第1次判決の拘束力の範囲外の事項について,拘束力を受けるものとして判断をしているから,違法なものとして取り消されるべきである。
(イ)発見品は,押されている日付に製造されたものでないにもかかわらず,本件審決は,その日に製造されたものであるとの認定をした違法a第1次訴訟における,発見品の日付印に関する主張立証の経緯は,次のとおりであった。
(a)被告は,第1次訴訟において,発見品の製造日は甲40(本訴の甲112)の回転式ゴム印と同類の回転式ゴム印で刻印した旨を主張した(準備書面(1)[甲111]30頁13行〜15行)が,実際に用いたゴム印及びスタンプ台を提示しなかった。
(b)そこで,原告が,被告の主張を前提とすると,回転式ゴム印表示するために特殊なスタンプインクを用いていたことになる,発見品にゴム印で日付が押印されていたことは,不自然である,と指摘した(第2準備書面[甲113]4頁2行〜下5行)。
(c)そうすると,被告はカネマタ食品が使用していたスタンプ台のインキはシャチハタ株式会社(以下「シャチハタ」という。)の不滅インキであると主張した(準備書面(4)[甲114]3頁下4行〜3行)。
(d)被告は,発見品の日付印と新たに押された日付印のインキの違いを判別する試験結果(甲121[本訴の甲117])を提出したが,その試験において,不滅インキではなくTATインキを用いた。被告代理人は,TATインキの性能は,発見品に使用された当時の不滅インキとほぼ同じであると説明した。
(e)原告は,被告が主張する「不滅インキ」とは乙7(本訴の甲120)乙8(本訴の甲121)の製品であるとして写真を提示した(平成17年3月22日付け最終準備書面[甲119]22頁11行〜12行)。被告はこれについて全く反論しておらず,発見品に使用した不滅インキの種類を,原告が提示した上記乙7及び乙8の製品であることを自認した。
(f)被告は,財団法人化学物質評価研究機構が行った,発見品の日付印と新たに押された日付印のインキの違いを判別する試験報告書(甲124[本訴の甲123])を提出したが,上記試験報告書には,上記乙7及び乙8の製品とは異なる「多目的タイプ強着スタンプ台タート ATG-3 油性顔料系黒」の写真が載せられている。
b以上の第1次訴訟の審理を通じて,原告は,被告の主張立証の矛盾点,不自然な点を指摘していた。それにもかかわらず,第1次判決は,「日付印部分」そのものの真偽を審理,判断しなかった。第1次判決には,「日付印部分」の真偽の審理,判断の遺脱があったことが明らかである。
cまた,第1次訴訟では,被告は,次の3主張をしたのであり,これを立証する必要があった。しかし,被告は,Bについて陳述書を提示したのみであり,@とAを立証していない。
@押印期日が 昭和60年10月27日,昭和60年11月1日であることA スタンプインキはシャチハタの不滅インキであることB ゴム印で数人で手押ししたものであることd上記aの発見品の「日付印部分」に関する被告の主張立証には,次のとおり矛盾点,不自然な点がある。
(a)被告は,発見品の「日付印」に不滅インキを用いたと主張しながら,不滅インキスタンプ台を証拠として提示しないばかりか,押印に用いたという不滅インキも特定しておらず,原告が提出した上記乙7及び乙8に反論もしていない。
(b)被告は,発見品の「日付印」に使用したものと「ほぼ同じ性能である」として,TATインキを試験に使用した。「ほぼ同じ性能である」との主張は,押印に用いられていなければならないインキとは性能・成分が異なるということを被告が知っているということである。
(c)原告が提出した上記乙7及び乙8の製品である「不滅インキプラスチック用SFP」は,現在は「タートインキプラスチック用STP」との名称で商品として存在している。ところが,財団法人化学物質評価研究機構が行った試験報告書に写真が載せられているものは,「多目的タイプ強着スタンプ台タート ATG-3 油性顔料系黒」である。「不滅インキプラスチック用SFP」と「多目的タイプ強着スタンプ台タート ATG-3油性顔料系 黒」とは,成分・用途が異なる。
押印比較試験は同一性能のスタンプインキを用いなければならず,かつ,当時のスタンプインキが現存するにもかかわらず,上記試験報告書の試験は,これを用いずに試験をしている。財団法人化学物質評価研究機構も専門業者として当然その常識を備えているはずであるが,試験報告書にはインクの同一性を前提としたことの記載はない。
(d)発見品の押印に用いられたというシャチハタのスタンプインキは,インキの製造時期からして,「不滅インキ プラスチック用」しかありえないにもかかわらず,被告がこれを全く立証しようとしないことからして,発見品の「日付印」には押印日付当時存在していなかった「TATインキ」が用いられていることが容易に推測される。
被告が実験に使用した「多目的タイプ強着スタンプ台タートATG-3 油性顔料系黒」は,発見品に押されたスタンプインクと一致させるためのものとしか考えられない。
(e)被告が発見品の「日付印」のインキとほぼ同じ性能であるとする「多目的タイプ強着スタンプ台タートATG-3 油性顔料系黒」を用いてポリエチレン,ナイロン等のプラスチック類へなつ印した場合の印影乾燥時間は「5〜10分」となっている(甲136)。そうすると,印字部分のインクが乾いて包装用フィルムに定着するまでその印字部を触れられないし,印字部を重ねられないという非効率的作業をカネマタ食品が行っていたことになり,これは製造業者の常識から逸脱している。
e発見品には,被告の他の製品では見られない「不滅インキのゴム印」が押されている。また,被告は,孔径が0.9oの目皿では,目詰まりが激しく連続稼働できないから,孔径が1.5oの目皿に変えたと主張立証しているにもかかわらず,発見品は,孔径が0.9oの目皿を用いて製造されたものである。これらは,発見品がその日付けの日に製造されたものでないというべき「特段の事情」となる。
fさらに,第1次訴訟における被告の主張立証には,次のような虚偽がある。
(a) ハンドラベラーによる日付ラベルの貼付けについて被告は,第1次訴訟において,「カネマタ食品がゴム印を押していたのは販売店からの要請による。ラベルの日付は剥がれ易いこと,張り替えができることから,当時,大手販売店は包装袋に直接印を押すよう要請してきた。カネマタ食品はそれに従っただけである。」と主張した(準備書面(4)[甲114]3頁下11行〜8行)。
しかし,そのような要請をした販売店も担当者も不明である。証明は陳述書によるものだけであって,そこにはいかようにでも記載できるのである。要請があったことについて信用できる証拠は全くない。
そして,当時カネマタ食品はラベルを張り替えようとしてもそれができない特殊カットしたラベル(SA専用ラベル)を使用していたことが明らかになった(甲138,139)。したがって,被告の上記主張は根拠がない。
なお,カネマタ食品は,現在でも張替えが可能な透明ラベルを貼り付けた商品を販売している(甲143〜146)。
(b) 包装機について被告は,第1次訴訟において,「カネマタ食品は,カネマタ食品製造の各種こんにゃくの包装に,中央包装機株式会社の三方自動包装機を使用してきた。その機械(発見品を包装した包装機)は包装フィルムの開口部を,5か所シールする5本のシール線が入(る)機械であり,包装時に製造日を印字できない方式のものであった」旨の主張をした(準備書面(2)[甲148]4頁6行〜9行)。
しかし,中央包装機株式会社の三方自動包装機カタログ(甲149,150)によれば,5本のシール線が入るというMS-602型,3本のシール線が入るというMS-601型は,包装速度が異なるのみで,他の寸法・仕様は全く同じである。
そして,いずれにも,「仕様」の「標準装備品」の欄に,「印字装置ゴム印」と記載され,「オプション別仕様」の欄に() ()「ホットプリンター・・・最大4段(2030o)」と記載されて ×いる。
被告提出の,中央包装機株式会社の「三方自動包装機製造,販売証明書」(甲151)には,「製造指示・仕様書」が添付されているが,MS-602型の「製造指示・仕様書」には,「印字装置」の項に「背張り」を丸で囲んである。これはロールフィルムから形成される縦シールの部分,すなわち「背張り」となる部分に印字するものと考えられる。これに対して,MS-601型の「製造指示・仕様書」には,「印字装置」の項に「背張り(603不適)表面印字機AA(直角打ちのみ)」と記載された中で「AA」を丸で囲んである。
以上によると,カネマタ食品は,MS-602型では「背張り」部分にゴム印で印字する標準装備仕様で,MS-601型ではホットプリンターで印字するオプション装備仕様で購入したものと考えられる。
したがって,発見品の包装に用いた包装機について,「包装時に製造日を印字できない方式のものであった」との主張は,虚偽である。
(c) 「いび特産こんにゃく」と日付表示について発見品と同時に発見したと被告が主張している「いび特産こんにゃく」には,「61 8 11製造」と印字されており(甲140の..1),しかも,その包装の熱シール跡は5本線である(甲154)から,「いび特産こんにゃく」と発見品は,同じ包装機を使って包装していた事実が明らかとなる。
そして,「いび特産こんにゃく」の包装材に印字されている「61 8 11製造」という製造年月日表示は機械印字である。
. .このように「いび特産こんにゃく」の製造年月日を機械印字している事実が認められるにもかかわらず,同じ包装機を使う発見品の製造年月が機械印字でないことを説明できる理由はない。
(d) カネマタ食品が押印に用いたスタンプインクについてカネマタ食品が昭和58年12月5日に三星セロファン株式会社から購入した株式会社オクイが販売する「ヘビ印不滅スタンプインク」は,手押スタンパー用のインクであったか,又は,日付押印用に機械に組み込まれたスタンパー用のインクであった(甲155)。このインクの乾燥時間は3秒である。
被告が発見品に押印してあるインクとほぼ同じ性能であるとしているシャチハタの「多目的タイプ強着スタンプ台タートATG-3 油性顔料系黒」のインキの印影乾燥時間は,既に指摘したとおり,「5〜10分」であるのに対し,上記の「ヘビ印不滅スタンプインク」の乾燥時間は3秒と格段に短いから,常識的に考えて,製造業者がそのいずれを選択して営業用に使うかは明白である。
gそして,発見品は事後的に製造可能である。
カネマタ食品は,現在の製造工場(新工場)において,公然実施を主張する関係者らと平成14年4月10日に孔径0.9oの目皿を用いて復元実験をして,こんにゃくを製造している(本件無効審判事件におけるAの証人調書[甲104]27頁〜28頁)ところ,発見品を事後的に製造することが可能である条件が次のとおり存する。
包材:被告は「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」の初版デザインのフィルムは使い切って残っていなかったと主張するが,他製品の包装用ロール状フィルムが残っているから,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」の初版デザインの包装用フィルムも実際には残っていたと考えられる。これを否定し得る証拠はない。
目皿:押出孔径0.9oの目皿は現存する。
包装機:MS-602型包装機も現存しており使用可能である。
印字:印字設定をしなければ機械で印字されない。ゴム印による日付は製造後いつの時点でも押印することができるものである。
中身のこんにゃくの状況については,市販品の中には購入時点において既にこんにゃく同士が一体となっているものがある(甲225の1〜4)上,こんにゃくが弾力性を減少するのに20年以上を必要とするものではないことは,被告自らが「保存できない」と主張していたことからも明らかである。発見品の内容物に弾力性が失われていたことは20年という時間経過の証拠とならない。
エ取消事由3(本件審決がカネマタ食品による公然実施の事実について第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及びカネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず本件審決が公然実施の事実があったものと認定した違法)(ア)本件審決が,カネマタ食品による公然実施の事実について,第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法a第1次判決(甲102)は,カネマタ食品による公然実施の事実について,第4の2(2)において,次のような趣旨の認定判断をしている(22頁8行〜29頁10行)。
「発見品は,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであるとの上記認定を前提に,本件公然実施の事実(カネマタ食品が昭和56年ころに本件考案1及び2と同様の方法及び装置を開発し,それにより,こんにゃくを製造販売していた事実)の有無について検討すると,原告(本訴の被告)が提出した証拠及び弁論の全趣旨から認定できる事実を総合すれば,カネマタ食品は,本件考案1と同一の筋組織状こんにゃくの製造方法及び本件考案2と同一の筋組織状こんにゃくの製造装置に係る考案を,遅くとも,カネマタ食品が本件こんにゃく(発見品と同じ形状,構造のこんにゃく)の製造販売を本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。
したがって,本件公然実施の事実を認めるに足りないとした審決の認定判断は,結果的に誤りであったというほかはなく,原告(本訴の被告)の取消事由の主張は理由があるから,審決は,違法として取消しを免れない。」b第1次判決は,上記のとおり,「遅くとも,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。」と判断した。
しかし,当事者は,「本件目皿(Aが本件こんにゃく用として当初に作成した目皿)を本格的製造に用いることが可能である。」との主張をしておらず,第1次判決も「本件目皿を本格的製造に用いることが可能である。」との認定をしていない。
したがって,「本件目皿を本格的製造に用いることが可能である。」という点は,第1次判決の拘束力の範囲外である。
c第1次判決では,カネマタ食品が松田機械工業株式会社(以下「松田機械」という。)から昭和56年5月11日に購入した4枚の孔の開いていない目皿のうちから,本件目皿を製作したとの認定をしている(23頁8行〜18行)。そして,「…昭和56年9月2日に孔の開いていない目皿4枚を,さらに昭和56年10月30日にも同様の目皿3枚を購入し,Aは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。」との認定をしている(23頁19行〜22行)。
しかし,本件目皿の製作においてAは何の試行錯誤もしていないことが明らかであるから,試行錯誤に関する第1次判決の上記認定は,当事者の主張及び証拠に基づかないものであって,第1次判決の拘束力の範囲外である。
d第1次判決では,カネマタ考案について,「製造方法は…糸こんにゃく用の目皿の代わりに,…本件目皿孔間隔は1o前後を取り付()けて行う方法であった。」との認定をしている(23頁下2行〜24頁2行)。
しかし,本件目皿についての「孔間隔は1o前後」との認定は,被告の主張に基づかないものであるから,第1次判決の拘束力の範囲外である。
e第1次判決は,「このほか,被告(本訴の原告)は,カネマタ食品が本件実用新案登録を無効にすることにつき利害関係を有し,原告(本訴の被告)の訴訟追行に協力し続けていること等を理由として,A作成の陳述書(甲80[本訴の甲162])その他の関係証拠の信用性を論難するが,そもそも,…昭和60年10月又は11月に製造された発見品の存在が認められ,これがA作成の陳述書(甲80)を始めとする関係証拠と符合することからすると,それらの証拠は相互にその信用性を高め合うものであるということができる…」と判断している(27頁下9行〜3行)。
しかし,具体的にどの認定事実をもって「関係証拠と符合する」と判断したのかを示しておらず,第1次判決の拘束力の範囲外である。
f本件審決は,以上のような第1次判決の拘束力の範囲外の事項について,拘束力が及ぶとして審理をせずに,カネマタ食品による公然実施の事実を認めている違法があり,取消しを免れない。
(イ)カネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず,本件審決が公然実施の事実があったものと認定した違法本件審決は,第1次判決の拘束力を理由として,カネマタ食品による公然実施の事実があったものと認定しているが,この認定には,次のとおり誤りがある。
a目皿使用に関する第1次判決の認定判断の矛盾(a) 目皿使用に関する被告及びカネマタ食品の主張の経緯@被告は,本件無効審判事件の平成15年3月11日付け上申書(甲165)において,「カネマタ食品は,しゃぶしゃぶ用こんにゃく製造用の目皿を,最初に1枚,次に1枚,その後2枚製作した。最初の2枚は,孔径0.9oの目皿であった。後の2枚は,目詰まりしないように,孔径を1.5oとした。」旨の主張をした(2頁5行〜13行)が,孔径1.5oのスリット付き目皿2枚についての証拠を提示しなかった。
A被告は,大阪高裁平成14年(ネ)第1693号事件(控訴人:被告,被控訴人:日本繊食有限会社ほか1名)の平成15年2月27日付け準備書面(甲166)において,昭和56年に買い付けた巣板11枚のうち,しゃぶしゃぶ用こんにゃく目皿として使用できたのは,試作品を含めて2枚と主張した(2頁下7行〜6行)が,その孔径1.5oのスリット付き目皿2枚の証拠を提示しなかった。
Bカネマタ食品は,大阪地裁平成16年(ワ)第7175号事件(原告:日本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)の平成16年8月31日付け答弁書(甲167)において,「11枚の巣板のうち,2枚を使用して,こんにゃく用の孔径0.9oで孔間がスリットで連通されてない試作段階の目皿を作り,2枚を使用して,孔径1.5oで孔間が0.2oのスリットで連通した目皿を作り,残り7枚のうち6枚は,異なる形状のこんにゃくの新規開発のための目皿の試作に使用した。残り1枚は未加工のまま被告で保管していたが,平成16年8月に特許実施例の実験のため孔をあけた。」旨の主張をした(8頁9行〜15行)。しかし,11枚中の3枚(孔径1.5oのスリット付き目皿2枚,未加工1枚)の証拠を提示しなかった。
カネマタ食品は,同事件において,平成17年2月14日になって,孔径1.5oのスリット付き目皿2枚(乙78の3,4[本訴の甲169の3,4])及び平成16年8月に穴あけしたという実験用目皿1枚を含む11枚の目皿の写真を提示した(乙78の1〜11[本訴の甲169の1〜11])。そして,カネマタ食品は,平成17年2月14日付け準備書面(甲168)において,孔径0.9oの目皿のことを「孔径0.9oで孔間にスリットで連通されてない試作段階の目皿」と述べ,「こんにゃくを試作」と述べて,孔径0.9oの目皿及びそれを用いて製造したこんにゃくのいずれもが試作段階のものであったとの主張をした(8頁下2行〜9頁1行)。
(b)以上により,孔径0.9oの目皿は試作段階のものであり,カネマタ食品がしゃぶしゃぶ用こんにゃくを製造することが可能になった目皿は,孔径1.5oのスリット付き目皿であったことが明らかである。
(c)第1次判決(甲102)は,孔径0.9oの目皿から孔径1.5oの目皿に切替えた時期について,次のように判断している(25頁下2行〜26頁7行)。
「また,被告(本訴の原告)は,昭和62年9月5日に,松田機械からカネマタ食品に対し「無地スイタ」2枚が販売された事実を指摘するが,Aが,当初,孔間隔を0.9oの本件目皿を製作した後,孔間隔を1.5oのものを新たに製作したことは関係証拠から明らかであるところ,後者の製作時期が昭和62年であったとすれば,上記「無地スイタ」販売の事実とも,格別,矛盾は生じないし,仮に,そうでないとしても,昭和62年9月ころに,カネマタ食品が,本件こんにゃく製造用の目皿を追加で製作した可能性も存するから,この点に関する被告(本訴の原告)の指摘は,必ずしも,…認定判断を左右するものではない。」(孔間隔0.9o及び1.5oは,孔径0.9o及び1.5oの誤りと思われる)しかし,上記のとおり,被告は,昭和56年に購入した巣板11枚の中から孔径1.5oの目皿を加工したと主張しているから,上記の第1次判決の判断は,当事者の主張に基づかないものである。
(d)第1次判決は,「さらに,被告(本訴の原告)は,本件審判事件における証人尋問において,証人Aが,「巣板は,松田機械から買った11枚以外は,ほかにはどこからも買ってない」(甲29[本訴の甲104]の6頁)旨供述していることを指摘する。しかしながら,被告(本訴の原告)の指摘に係るAの供述内容は,本件目皿の素材として,当初,松田機械から購入した孔の開いていない目皿の枚数についてのものであると解することができるから,この点の指摘も,…認定判断を左右するに足りるものではない。」と判断している(26頁8行〜14行)。
ここでいう「当初」とは,昭和56年であると考えられるので,「後者の製作時期が昭和62年であったとすれば」との前記仮定による第1次判決の判断は,完全に矛盾し破綻している。
(e)さらに,第1次判決は,「イ上記アの認定事実を総合すれば,カネマタ食品は,本件考案1と同一の筋組織状こんにゃくの製造方法及び本件考案2と同一の筋組織状こんにゃくの製造装置に係る考案を,遅くとも,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。」と判断している(24頁下9行〜6行)。
しかし,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開始したのは,孔径0.9oの目皿では詰まって自動包装機にかからないからとの理由で,孔径1.5oの目皿を作ってからである。孔径1.5oの目皿を作った時期が昭和62年であったとすれば,昭和58年11月ころまでに本格的に本件こんにゃくの製造販売を開始したとの判断と矛盾する。
b旧工場の事務室の位置に関する被告の主張が虚偽であること等(a)本件無効審判事件の審判請求書(甲103)において,被告は,カネマタの「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」製造に関する公然実施を次のように主張していた(11頁下4行〜12頁14行)。
「旧工場の入り口,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」の製造設備,事務所等の配置は,甲第5号証,甲第6号証のとおりである。事務所はしゃぶしゃぶ用こんにゃく製造設備の奥にあり,事務所に通じる通路は当該製造設備の横にあったため,事務所に行き来する人は…誰もが自由にしゃぶしゃぶ用こんにゃくの製造現場を見ることができた。」(b)第1次訴訟において,被告の代理人であった小林正治弁理士は,宣誓供述書(甲153)にビデオテープを添付し,ビデオテープの撮影収録目的を,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」4個を発見したカネマタ食品の旧工場,同工場内の発見現場及び発見状況を明らかにすることである旨の説明をしている。このビデオテープからカネマタ食品の旧工場内の状況を再現すると,道路側に最も近い位置に事務室があり,その直近部分には両開きの出入口が存在するから,外来者が事務所へ行く際にしゃぶしゃぶ用こんにゃくの製造現場を見ることはなかった。被告が事務所であると主張していた部屋は休憩室であって,事務所ではない。
(c)本件考案公然実施されたと認められるためには,製造現場において実際に目皿から糸こんにゃくが押し出されて一体となっている状況を見たことの証拠がなければならない。なぜなら,第1次判決は,「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張して,押し出された孔よりも少し大きくなること,そのため,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者にとって周知の事項であった。」と認定している(22頁下9行〜5行)が,これは,後記オ(ア)のとおり周知の事実ではなく,当時,製品となったこんにゃくを見たとしても,「直径0.9oの孔が0.4〜0.5oの間隔で開けられ,その孔の列が縦,横に数列開けられた目皿の各孔(押し出しノズル)から,」,「太さ3o以下に押し出された糸こんにゃく(0.9oの孔から押し出された糸こんにゃくの直径は当然3o以下である)を,即,横方向へ接着させて一体化して,」という構成を有することが分からないからである。
しかし,カネマタ食品の工場において,こんにゃくの製造中に,目皿からこんにゃくが吐出している状況を確認することはできなかった。
cカネマタ食品の公然実施の事実が存しなかったことを示す事実カネマタ食品の公然実施の事実が存しなかったことを示す次のような事実がある。
(a) 同業者の特許及び実用新案登録の出願と異議申立ての不存在α原告は,「筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置」とする発明について,平成7年3月9日,特許第1912343号として設定登録を受けた(以下「本件特許」という。)。
β被告を含むこんにゃく機械業者らは,平成3年ころから,本件特許に用いる目皿を全国的に販売した。
平成6,7年には,本件特許に係る発明により製造した本件実用新案登録に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」を用いて商品化した「蒟蒻と海藻サラダ」が大ブームになった。
平成6年5月に,本件特許の公告がされた。また,平成7年2月に,本件実用新案登録の公告がされた。
被告らこんにゃく機械業者は,本件特許及び本件実用新案登録の侵害を免れるために,今までは独立孔であった押出孔を細幅のスリットで連通した形状の押出孔の目皿を販売するとともに,スリットで連通した形状の押出孔の目皿,その目皿で製造したこんにゃく等に関する,次の各特許,実用新案登録の出願をした。
@出願人:被告権利の種類:実用新案登録(甲178)登録番号:第3015550号名称:「多条蒟蒻」出願日:平成7年3月7日A出願人:オリヒロ株式会社(甲179)権利の種類:実用新案登録番号第3015566号名称:「こんにゃく成形用目皿」出願日:平成7年3月8日B出願人:松田機械権利の種類:特許(審査請求せず)(甲180)名称:「帯状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる目皿」出願日:平成7年9月25日C出願人:有限会社園工作所権利の種類:特許(審査請求せず)(甲184)名称:「こんにゃく用押出成形板」出願日:平成7年5月25日なお,株式会社伏見屋は,原告が代表取締役である日本繊食有限会社が,本件特許及び本件実用新案登録に係るこんにゃくを最初に紹介したこんにゃく業者で,その後は,同種のこんにゃくを自ら製造販売していた。同社は,平成3年7月25日に,「帯状こんにゃくの製造方法及び絞り出しノズル並びに帯状こんにゃく及び帯状こんにゃくを主成分とする低カロリー食品」との名称の特許を出願している(甲183)。
γ松田機械の関係者は,カネマタ食品の工場に入って作業をしていたから,カネマタ食品が,昭和56年にしゃぶしゃぶ用こんにゃく製造用目皿を作って以来,4枚以上のしゃぶしゃぶ用こんにゃく用目皿を製作し,それを旧工場において誰でも見ることができる状態で使用していたとすれば,松田機械の関係者も,この目皿を見ていたものである。
また,松田機械は,本件特許に係る目皿を販売していた。
カネマタ食品も松田機械も共に特許に関する知識を有していたから,両者のうちいずれか又は両者が共同して本件特許及び本件実用新案登録につき公然実施を主張して異議申立てをするはずである。
しかし,両者は異議申立てをしておらず,逆に,松田機械は,被告と同様に,上記のとおり,侵害を回避するための目皿を販売し,特許出願をしていた。
この事実は,松田機械が本件特許及び本件実用新案登録の出願前には公然実施の事実が無かったことを知っていたことを如実に物語るものである。
なお,上記β記載の松田機械以外の業者も,本件特許及び本件実用新案登録について異議申立てをしていない。
(b)カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」が「全国製品収集サンプルリスト」に掲載されていないこと平成2年に兵庫県蒟蒻協同組合が作成した「全国製品収集サンプルリスト」(甲185)には,各種こんにゃく製品が紹介されているが,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」や被告の主張によればそれと同種の製品である本件実用新案登録に係る製品は掲載されていない。
こんにゃく粉を扱う業者は特定地域に偏在している傾向にあり,これらの業者は全国のこんにゃく製造業者を相手に営業している。
そして,こんにゃく製造機械の製造販売業者は数社で,全国のこんにゃく製造業者を相手に取引している。したがって,こんにゃく業界の各種情報の伝播は速く広いものである。
それにもかかわらず,カネマタ食品が本格的に「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」を製造販売したという時期(昭和58年)から7年後に作成された上記リストには,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」や本件実用新案登録に係る製品は掲載されていない。
このような経緯からすると,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は,同業者がまねをする程に価値のあるものではなく,従来品と大差のないもの,すなわち,本件実用新案登録に係るものではなかったということがわかる。
オ 取消事由4(その他の第1次判決の認定の誤り)カネマタ食品による公然実施の事実に関する被告の主張と証拠は,次のとおり,「着想 ↑ 巣板の購入 ↑ 加工 ↑ 試作・試行 ↑ 製造 ↑ 販売」のいずれの過程においても,矛盾しており,カネマタ食品による公然実施の事実を認めた第1次判決の認定は誤っている。
(ア) 着想カネマタ食品のAの証明書(甲8)には,孔や溝から押し出されたこんにゃくのりは,膨張して,押し出された孔や溝よりも少し大きくなる,直径1oの孔から押し出された糸こんにゃくのりは,押し出し直後に膨張して1.5o程度の太さになる,3oの糸こんにゃくを作るときは,2〜2.5oの孔の目皿を使用していた旨の記載がある。ところが,Aは,本件無効審判請求事件において,「できるだけへっつけたいと。」(甲104の20頁下11行など),「自分の手の指を見ました。だから指がですね,えー,このようにへっつくということで,これを応用したらいいんかと。」(甲104の2頁下13行〜12行)との証言をしている。証明書(甲8)では,膨張を考慮して孔と孔を離す旨の記載がされていたのに,証言(甲104)では,そのような発想はない。証明書(甲8)の記載は,目皿の孔あけに関する証言と結び付かない。
第1次判決(甲102)は,「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張して,押し出された孔よりも少し大きくなること,そのため,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者にとって周知の事項であった。」と認定している(22頁下9行〜5行)が,これは周知の事実ではない。なぜなら,通常,糸こんにゃく用目皿の押出孔の孔間隔は10o程度であり(甲162の写真1),これは上記甲8の証明書記載の膨張程度から考えても,膨張で引っ付くことはないからである。「誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまう」のは,「そのため」(膨張のため)ではないのである。
(イ) 巣板の購入a 「巣板」の用語等本件無効審判事件において,被告は,「「巣板」という用語は,松田機械工業が使い始めた用語であり,松田機械に関連する業者であれば知っている筈である」(上申書(5)7頁)などと主張し,「巣板」という用語が業界一般に使用されているかのような主張をしている。
また,大阪地裁平成16年(ワ)第7175号事件(原告:日本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)においては,カネマタ食品は「業界では,孔の有無にかかわらず,通称「巣板」と称されている」と主張している(準備書面(1)[甲168]8頁9行〜10行)。しかし,その立証はない。
「巣板」を販売している松田機械自らが,公的に「目皿」との用語を用いている(前記エ(イ)c(a)βの松田機械出願の特許の考案の名称参照)。また,被告の製作図(甲106の判決書添付図面)及び納品書(甲189)には,「目皿」という用語が使われているし,オリヒロ株式会社の納品書(甲190)にも,「目皿」という用語が使われている。
第1次訴訟において,被告は,「松田機械以外の他社製の目皿は甲第41号証(本訴の甲187),甲第42号証(本訴の甲188)のように,松田機械が販売している巣板或いは目皿とは形状,厚さが異なること等からすれば,無効検甲第1号証の目皿の素材であったムクの巣板はカネマタが松田機械から購入したものであることが裏付けられる。」と主張している(準備書面(1)[甲111]32頁下8行〜5行)。
しかし,被告が前橋地裁高崎支部平成7年ワ第487号事件で()提示した目皿図面(甲106の判決書添付図面)を見れば,被告は様々な目皿を販売しており,この中には,厚さは異なるが松田機械がカネマタへ販売したとする直径137oの目皿も含まれているから,上記主張の虚偽は一目瞭然である。目皿はこんにゃく製造業者それぞれの要望により,製造設備,製造条件,製造品目に合わせて製造し納品されるものであり,形状,厚さから購入先が裏付けられるはずがない。
b巣板購入時期と孔あけ時期の関係第1次判決は,「カネマタ食品は,昭和56年5月11日,松田機械から孔の開いていない目皿を4枚購入し,そのころ,Aは,これを素材として,上記孔間隔を狭くした目皿の製作を開始した。…ドリルが曲がったり折れたりせず,かつ,隣り合う孔同士がつながらないようにしながら孔を開けるのは大変な作業であり,1枚の目皿に300個以上の孔を開け終わるのに数か月を要した。」と認定している(23頁8行〜18行)。
Aは松田機械から「巣板が着き次第」最初の1枚の孔あけを開始した(本件無効審判事件におけるAの証人調書[甲104]11頁28行)のであり,孔あけを開始した時点で,作業に時間がかかることはわかっていた。Aは,業務終了後に孔あけ作業を行っており,1枚目の目皿の孔あけが完了した昭和56年11月ころまでに,他の目皿を孔あけしたことは認められない。2枚目の目皿の孔あけ開始時期は56年11月以降,完了時期は昭和57年3月ころである上記甲10(4の18頁下から8行)。
カネマタ食品は,最初に購入した巣板4枚のうち3枚残っているのに,昭和56年9月2日に加工用のムクの巣板4枚を,さらに昭和56年10月30日に3枚を買い増したことになる。2枚目の目皿の孔あけを開始する時点で,計10枚の未加工巣板が残っていたのである。
また,カネマタ食品が昭和56年に購入した上記11枚の巣板から加工したという目皿には,孔あけを途中で中止した失敗作がない。
以上の事実は,巣板を11枚購入したことについて,Aが「必要ではなかったんですけども」,「失敗ということもありますと」,「何かもっとほかの物が,あー,できないかっていう可能性を求めまして」,「随時ちょっと買い入れました」と証言していること(上記甲104の6頁13行〜22行)と矛盾する。
(ウ) 目皿加工a被告は,第1次訴訟の準備書面(1)(甲111)において,「A氏は陳述書(甲第19号証[本訴の甲191])で陳述しているように…,ドリルをドリルスタンドにセットしてバンドで締め付け…ドリルに取り付けたドリルの刃で目皿に孔をあけた。」と主張し(33頁12行〜16行),その証拠としてテーブルの写真(甲192)と木の台の写真(甲193)を提出した。
しかしながら,Aは,平成16年4月12日付けの陳述書(甲191)において,被告が提示した証拠物について,「…この写真のスタンドは古いため巣板を正規の位置にのせることができません…」と否定している。それが,平成16年12月21日付けの陳述書(甲162)では,「この写真のスタンドは古くて錆付いて昇降できないため」と陳述を変えている。そして,同陳述書において,「参考までに巣板をのせた写真のカラーコピー1を本書に添付します。このスタンドはこの写真撮影のために購入した新品です」と陳述している。
原告は,第1次取消訴訟において,「甲36(本訴の甲192)や甲37(本訴の甲193)の道具では「目皿」の孔あけ作業はできない事実をA氏本人が認めているのである。」と主張していた(第2準備書面[甲113]9頁下2行〜1行)。
bAはボール盤を30度に傾斜させてその上へ巣板をセットして穴あけした旨を述べている本件無効審判事件におけるAの証人調書[甲(104]9頁12行が,原告は,第1次取消訴訟において,「テー )ブルに台を30度傾斜させてセットしようとすれば台がテーブルから外れてしまうものである」(第2準備書面[甲113]10頁3行〜4行)と主張していた。
甲191及び甲162の写真6でテーブルと木の台との関係を見れば,木の台を30度傾斜させようとすれば木の台がバイス部から外れて保持できないことが明らかである。
c被告が11枚の巣板から孔あけした目皿であるとして提示した写真のうちの4枚の目皿の表裏面に朱肉を塗って転写したものを反転したもの(甲194の1〜8)によれば,表裏いずれの面にも直径60oの円弧の痕が見られるが,Aが説明している孔あけの方法(甲11の証明書,甲104の証人調書,甲191の陳述書)では,保持具の痕であると考えられるこのような円弧痕が付くことはない。したがって,これらの目皿をAが孔あけしたものと認めることはできない。
試行錯誤(エ)a第1次判決は,「Aが試験を行わなかった理由については,原告(本訴の被告)が主張するとおり,目皿全体の孔開けを完成しないまま,通常の糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が小さいため,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外れてしまうおそれがある上,仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,そのこんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予想されることによるものであるとすれば,格別,矛盾なく理解することができるから,被告(本訴の原告)の上記指摘は,Aの供述内容等の信用性を減殺するものではないというべきである。…しかしながら,…Aが,本件目皿の作成に当たり,一定の試行錯誤をしたことは,同人作成に係る様々な形態の目皿の存在(甲2の23の1〜7[本訴の甲23の1〜7])によって推認することができるというべきであるから,この点に関する被告の主張は,その前提を欠くというべきである。」との判断をした(26頁下2行〜27頁下10行)。
bしかし,甲23の1〜7は,本件目皿の製作に当たり製作されたものではなく,その後に製作されたものであり,甲23の1〜6は,使用もされていないから,甲23の1〜7を試行錯誤の根拠とすることはできない。そして,「Aが試験を行わなかった」との判断と「本件目皿の作成に当たり,一定の試行錯誤をした」との判断は矛盾する。
c上記の第1次判決の「目皿全体の孔開けを完成しないまま,通常の糸こんにゃくの製造装置で試験を行えば,目皿の孔面積が小さいため,圧力が過剰となって練り機と目皿とをつなぐホースが外れてしまうおそれがある上,仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,そのこんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予想されることによるものである」との認定は,被告の主張に基づくものであるが,これは目皿製造業者である被告の独自主張にすぎない。
Aは「糸こんにゃくの製造装置をそのまま使い,目皿だけ換えた。
こんにゃくの硬さ,押出し圧,速度といった方法は何も変えていない」と証言しているのみである。カネマタ食品にはもともと設計値などない。その証拠にしゃぶしゃぶ用こんにゃく用に最初に孔あけしたと主張する0.9o径の目皿と,孔が詰まるからと理由で孔あけしたという1.5o径の目皿の,孔径,孔数,孔面積,押出速度の関係,さらにスリットを設けた経緯が全く不明なのである。被告は,カネマタ食品のこんにゃくのりの吐出量さえ明らかにしていない。
dこんにゃく業界において,練機の吐出量が可変であることは常識である。練機にはこんにゃくのりの押出用ポンプが装備されており,練機の吐出量はこんにゃく製造業者自らが決めるものである。したがって,少量押出しが可能であり,少量押出実験をすることができた。
下限吐出量が4s/分の練機が存するのであり,被告の「そのような吐出量の練り機は通常は市販されておらず,特注しない限り入手できない。」との主張は虚偽である。
e被告もカネマタ食品の関係者も,本件考案が利用関係にある本件特許の本質である糸状こんにゃくのりの吐出膨張による一体化の試行錯誤について全く述べていない。本件特許明細書(甲228)の第1表には孔径と間隙について21の条件で押出試験を実施したことが示されているが,カネマタ食品にはこのような試行錯誤は全くない。
(オ) カネマタ食品の製造方法,製造装置a押し出したこんにゃくのりを落下させる湯被告は,本件無効審判事件及び第1次訴訟において,カネマタ食品のしゃぶしゃぶ用こんにゃく製造方法について,「押出されたこんにゃくのりは,目皿の下の流し釜内を流れる湯中に落下させて炊き上げて作った。」と主張し,証拠として,Aの証明書陳述書(甲20,8)に添付した写真を提出している。この写真には,目皿からこんにゃくのりが真下に押し出されている状況が撮影されている。
これに対し,大阪地裁平成16年(ワ)第7175事件(原告:日本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)において,カネマタ食品は,「被告こんにゃくの製法は,目皿から押出された糸状こんにゃくが,秒速2.7mの速度で流ている温水(65℃程度)中に投入されるので,目皿から押出された糸状こんにゃくが温水の流れる方向に引っ張られ,流水の力(外力)で糸状こんにゃく同士が接着するものとすれば,被告こんにゃくの製法は,この点において,本件特許の構成とは異なり,…」と主張している(準備書面(1)[甲168]2頁11行〜15行)。
また,無効2005-80151号事件(請求人:カネマタ食品ほか)は,カネマタ食品らが本件特許について無効審判請求をしたものであるが,同事件において,カネマタ食品らは,「押出されて接触したこんにゃくのりは,目皿の下の流し釜内を流れている湯(温度60〜80℃,流速24m min:通常の糸こんにゃくの製造と同じ条/件)中に落下させて炊き上げて作った」と主張している(審判請求書[甲209]31頁14行〜16行)。流速24m minは,秒速/0.4mである。
以上のとおり,カネマタ食品の製造方法における,押し出したこんにゃくのりを落下させる湯に関する主張は,その時々で都合のよいように変わっており,主張に信憑性がない。特に,大阪地裁平成16年(ワ)第7175事件においては,上記のとおり,カネマタ食品自身が自らの製法が本件特許の構成とは異なることを主張している。
b孔径1.5oの目皿(a)被告は,本件無効審判事件及び第1次訴訟において,カネマタ食品は,最初に孔あけした孔径0.9oの目皿では詰まるので孔径1.5oの目皿を製作したと主張している。
(b)Aは,大阪地裁平成11年(ワ)第12586号事件(原告:日本繊食有限会社,被告:日本食研株式会社ほかにおいて,「昭和61年ころからは,乙第30号証(本訴の甲197)に撮影されている目皿の穴の大きくした乙第47号証(本訴の甲198)の目皿を使用するようになり,現在に至っている。」,「前者では孔が小さすぎて,こんにゃくのりが詰まるので,孔の大きさを少し大きくしたためであります。」と陳述していた(甲164)。ここでは,連通孔目皿であることを述べていなかったが,原告に虚偽証拠を見破られ,後に仕方なく連通孔目皿を提示した。
(c)被告は,本件無効審判事件において,「前記1番目と2番目の2枚の目皿は共に孔径0.9o,孔間隔(平均)1.35oであり,後の2枚の目皿はこんにゃくのりが目詰まりしないように孔径1.5oとし,孔間隔は前の2枚と同じにした。」と主張し(平成15年3月11日付け上申書[甲165]2頁10行〜12行),さらに,その後,「1.5oの孔をあけた目皿は,孔の間隔が広すぎたため,その孔から押し出されるこんにゃくが帯状に繋がらずに間隙の広い部分で切れてしまった。この目皿を使用して繋がった製品ができるようにするために入れたのが切込みである。」との主張をした。これらの主張は,「孔径1.5oとし孔間隔は前の2枚と同じにした」にもかかわらず「孔の間隔が広すぎた」という,矛盾した主張となっている。
(d)Aは,本件無効審判事件の証人尋問において,連通孔の目皿は「1.5oの孔を0.5o間隔で開けたものである」旨証言した(甲104の35頁下6行)。
(e)カネマタ食品は,大阪地裁平成16年(ワ)第7175号事件(原告:日本繊食有限会社ほか1名,被告:カネマタ食品)においては,「孔間を0.2o幅のスリットで連通した目皿を2枚手作業で作った。目皿2枚を交換しながら使用し製造している。」と主張している(準備書面(1)[甲168]9頁2行〜6行)。しかし,0.2o幅のスリット加工は素人が自分で加工できない。
(f)以上のとおり,孔径1.5oの目皿に関する被告及びカネマタ食品の主張は支離滅裂で信用するに値しないものである。
(カ) 製造a製造日報の不提出被告は,カネマタ食品が販売した「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」との商品名のこんにゃくについての伝票類の証拠を多数提出するにもかかわらず,その製造を裏付ける証拠を提出しない。カネマタ食品は製造者であるから必ず製造日報を記載して保存しているはずであり,通常であれば,それを提出して,発見品の内容物・外観(日付を含む)のものを定常的に製造していた事実を立証すべきである。製造日報には,製造年月日,製造品目,使用原料,組成,製造条件,充填条件,製造数量,責任者名等が記載されているから,これを提出すれば,発見品の日付押印日に,孔径0.9oの目皿を用いて特別に少量生産したことが明らかになる。
b発見品の日付表示(a)第1次訴訟において,被告は,「カネマタがゴム印を押していたのは販売店からの要請による。ラベルの日付は剥がれ易いこと,張り替えができることから,当時,大手販売店は包装袋に直接印を押すよう要請してきた。カネマタはそれに従っただけである。」と主張した(準備書面(4)[甲114]3頁下11行〜8行)。しかし,販売先の関係者は「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」を販売したこと及びこんにゃくの形状を陳述,証明しているが,誰もゴム印で押印した製品を販売したこと,包装袋に直接印を押すよう要請したことを述べていない。要請した大手販売店名も担当者名も不明である。
(b)昭和60年当時は,こんにゃくに製品に日付表示を義務付ける法はなく,業者がそれぞれ自主的に対応していた。その時期におけるカネマタ食品の日付の表示状況は,表示の無いもの,ハンドラベラーによるもの,プリンターによるものがあり,その中で,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」のみにゴム印が押されていた(甲113)。
昭和63年当時の市販こんにゃく製品の日付表示の状況は,依然として日付表示のない商品があるが,表示されたものでは,ハンドラベラーによるものよりも,プリンターによるものの方が多い。この中には,表示欄全体をラベル表示し,それにゴム印を押したと見られるものが1品あるが,包装袋にゴム印を直接手押したものはない(甲213)。
(c)「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」にゴム印を押していたとの主張に対する証拠は陳述のみであり,陳述人は,具体的なゴム印やスタンプインキ,押していた具体的な方法を述べていない。押印日付当日の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」を何個製造したのかの立証もない。
(d)以上のとおり,製品にゴム印を直接手押しすることは特殊なものであるところ,これに対する証拠の提示はないから,信用できない。
(キ) カネマタ食品の製品a発見品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は「60 10 27製造」 ..と「60 11 1製造」の製造日の異なる4個のこんにゃくがすべて ..同様にくっついており,押すと同様に容易につぶれるものである。同じ場所で発見された「いび特産こんにゃく」等の他の製品の保存状態が,液状であったり,半液状であったり,形状をとどめている中で,この4個の中身だけはすべてが同じ程度に形をとどめている。目皿を換えるだけで全く同じ製造装置・方法で製造した「mini mini糸こんにゃく」はくっつかない状態で残っていた様子がうかがえる(甲214)。
被告は,本件無効審判事件において,「本件実用新案出願前に製造販売された製品を今日まで保存しておくことは腐敗等の面から通常は不可能である」(口頭審理陳述要領書U[甲174]17頁下5行〜3行)と主張していたのであり,この主張と証拠の食違いを信用できるものと判断することはできない。
b販売者は,カネマタ食品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」について,「糸こんにゃくの部分」又は「糸こんにゃくが繋がった」との,こんにゃくの製造方法に係る証明をしている(甲215〜218)。
本件特許の製造方法及び製造装置が公開されておらず,本件実用新案登録の「表面筋状薄肉こんにゃく」も公開されていない時点において,こんにゃくを製造していない者が,こんにゃくの形状を見て,なぜ「糸」と判断できるのであろうか。昭和55年には既に実開昭55-157896号「蒟蒻成形用簀板」(甲109)が公開となっていた。この明細書には「蒟蒻の表裏両面にその長手方向に沿って複数条の切込み条が形成された」ことが記載され,第4図にはそのこんにゃくの斜視図が記載されている。このようなこんにゃくが公になっていた時期において,上記証明者らがどのようにして「糸こんにゃくが繋がった」構造と判断したのかの記載はない。これを信用できるものと判断することはできない。
(ク) 販売a第1次訴訟において,被告は三星セロファン株式会社のBの証明書(甲138)を提出した。Bは「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」包装用フィルムを,カネマタ食品の仕入れ台帳のコピー1-1〜1-5に記載のとおり納品したと証明している。
しかし,この証拠には,次のとおり虚偽がある。
@2回目納品のコピー2・写真2には「製法特許出願中」の表示がない。同じデザインである甲53の2には「製法特許出願中」が記載されている。
A4回目と5回目は同一デザインであるとして,写真3で示しているが,4回目と5回目とではデザインが異なる。4回目には「製法特許出願中」の表示があったが,5回目にはなく,また,5回目には,プラマークを新たに記載し,原材料名表示欄の「こんにゃくいも精粉」を「国産こんにゃくいも精粉」に変えた(甲53の4)。
上記コピー1-4に,平成7年9月25日「改版代」,数量「1」,単価「20000」円,仕入金額「20000」円と記載され,上記コピー1-5に,平成12年8月21日「改版代」,数量「3」,単価「20000」円,仕入金額「60000」円と記載されている。これは,5回目の印刷に際し,3色の版すべてをやり変えたということを示している。
b被告は,本件無効審判事件において,「昭和57年以降今日まで,カネマタが販売した「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は,甲第1号証,…甲15号証の写真のこんにゃくの形状と同一形状のものだけであり,カネマタにはそれ以外に「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」というものは存在しない」との主張をした(口頭審理陳述要領書U[甲174]8頁下10行〜7行)。
第1次訴訟で被告が提出したカネマタ食品の売上証拠中に,「カネマタシャブシ」とプリントされた納品関係があることを原告が指摘したところ,これは通常品ではないお徳用の内容量400 入りの「しgゃぶしゃぶ用こんにゃく」であると主張して,ニチイ羽島店の物品受領書7枚を提示した(甲220)。伝票には「しゃぶしゃぶ」と記載された品名に「400g」と添え書きがある。しかし,商品形態も包装形態も全く不明である。同商品の商品コードは「春日生1枚」及び「春日厚切」と同じであることから見ても,内容量の違いだけであると推測できるものではない。
(ケ) 事実実験公正証書a被告は,第1次訴訟において,「検甲1の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」が本件特許で製造されるこんにゃくと同一形状,構造であることを立証する」として,平成16年8月25日作成の事実実験公正証書(甲152)を提出した。
上記公正証書には,発見品の本件こんにゃく4包は未開封であって,製造日が刻印され,刻印はゴム印を押したもののようであり,写真14,写真16,写真18は,昭和60年10月27日,写真20は,昭和60年11月1日の製造日の刻印があった旨の記載,4包の本件こんにゃくのうち,公証人が任意に選び出した写真18のこんにゃくの包装フィルムを破り,中身を取り出してこんにゃくを見た旨の記載がある。
上記「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」4個のうち,昭和60年10月27日の日付のものが3個あるので,この3個を判別する方法として,写真14,写真16,写真18において,押印日付の「60」の「6」と,「品名」欄枠の縦線の位置関係を確認すると,写真14では,「6」と「0」の間に縦線があり(甲221),写真16では,「6」の前端に縦線があり(甲222),写真18では,「6」の後部に縦線(甲223)がある。
上記公正証書の実験で開封したのは,写真18のこんにゃくであるから,「6」の後部に縦線が位置しているものである。
b被告は,第1次訴訟において,「カネマタ旧工場から発見のしゃぶしゃぶ用こんにゃくがその日付に押印されたことを立証する」として,平成17年2月7日作成の事実実験公正証書(甲158)を提出した。
上記公正証書には,本件包装袋が東京高裁において検証した際に担当裁判官の面前で開封して空になった袋である旨の記載,この空の包装袋は別添写真@・Aのとおりである旨の記載がある。
写真@において,押印日付の「60」の「6」と「品名」欄枠の後側縦線の位置関係を確認すると,「6」の後部に縦線が位置している(甲224)。これは,前記甲152の事実実験公正証書に記載された写真18の袋と同じ位置関係であり,東京高裁で開封する前に既に開封した袋と一致する。
c以上の各事実実験公正証書の内容が事実であるならば,同一位置に日付が押印された「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」が2個存在したことになる。そうすると,昭和60年10月27日の日付のものは4個となり,発見品の「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は4個ではなく,5個でなければならないという矛盾が生じる。以上の各事実実験公正証書は信用できない。
(コ) 証拠の提示方法及び証明願,陳述書の信用性a証拠の提示方法本件無効審判請求において,被告は,カネマタ食品の巣板購入を立証するとして松田機械の売上げ台帳のコピーを提示したが,それは昭和56年の一部分をコピーしたものであった(甲22別紙1)。被告は,第1次訴訟において,松田機械のその後の納品分を追加提示した(甲181)。しかし,巣板の購入に関して,カネマタ食品の買掛台帳も納品書も提示していない。
被告は,カネマタ食品がしゃぶしゃぶ用こんにゃくを販売した証拠として,多数の納品伝票を提示した。しかし,伝票が残されているくらいであれば,売上台帳,製造日報が残っているはずであるが,それを提示しない。
以上のとおり,被告の証拠の提示方法は,信用できないものである。
b証明願,陳述書第1次判決理由中の判断の基となった証明願,陳述書は,相互で食違いがあるもの,同一人において前後で違うもの,同じ年に証明依頼人を変えて再度証明をさせたものがある。いずれも信用性に欠けるものであるが,第1次判決は後から提出した書面を判断の根拠としている。
伝統的な採証法則の観点からみた場合,当事者と代理人が合作した陳述書は,その証拠価値は,ほとんど「主張」のレベルを出ないといわざるをえないといわれている。裏付ける他の証拠がない限り,陳述内容は弁論の全趣旨として斜酌される程度の証明力しかないものであるが,第1次判決は,裏付ける証拠がなくても,被告提出の陳述書を認定事実に沿うものとして認めているのであり,公平性を欠いている。
(サ) 推認における証拠の信用性a第1次判決は,次のとおり仮定による推認の論理で構成されている。
(a) 発見品について「発見品自体又は日付印部分がねつ造に係るものであることを疑わせる事情その他の特段の事情が認められない限り,」(17頁下2行〜1行)「製造量が少量の場合には,たまに孔径0.9oの目皿を使うことはあった旨,明確に供述しており (甲29[本訴の甲104]の45頁),そうとすれば,」(20頁下1行〜21頁2行)(b) 公然実施について「後者の製作時期が昭和62年であったとすれば,上記 「無地スイタ」販売の事実とも,格別,矛盾は生じないし,仮に,そうでないとしても,昭和62年9月ころに,カネマタ食品が,本件こんにゃく製造用の目皿を追加で製作した可能性も存するから,」(26頁2行〜6行)「仮に,こんにゃくが押し出されたとしても,そのこんにゃくは過剰圧力のため,設計値とは異なる太さとなることが予想されることによるものであるとすれば,格別,矛盾なく理解することができるから,」(27頁3行〜6行)「その旨包装袋に表示したが,その後断念したとの事情 (甲28[本訴の甲171])の14〜15頁,29〜30頁,甲29[本訴の甲104])の37〜38頁)があるとすれば,その間の経緯自体を,格別,不自然ないし不合理であるということまではできないし,原告が主張するように,本件こんにゃくに係る包装袋に「製法特許出願中」との記載をしたことは,真実,カネマタ食品が本件こんにゃく及びその製法を開発したためであると解することも可能であるから,」(28頁下6行〜29頁1行)bこのように,事実認定をせず,仮定した上になした推認は,証拠の一方を採用し一方を排除する論理を説明したことにならない。
2請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア本件審決にはカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案の認定を欠いている違法があるとの主張につき原告は,前記1(4)イ(ア)(b)において,第1次審決について主張するが,第1次審決については,それを取り消す判決が確定済みであるので,この主張は論外である。
第1次訴訟において,被告は,発見品の内容物であるこんにゃくの形状,構造は,長手方向に多数の凹状と凸とを表面に有し,凸状部分の肉厚が3o以下であって,凹状部分の薄肉部分半透明の縞模様となっており,本件考案に係る表面筋状薄肉こんにゃくと同一であると主張し,原告もこれを明らかに争わなかったから,第1次判決は,「発見品に係るこんにゃくの形状,構造は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一である」との認定をしている(17頁12行〜22行)。本件審決は,この認定に従ったものであって,違法となる事由はない。
イ本件審決はカネマタ考案と本件考案が一致しないことを看過した違法があるとの主張につき原告は,「0.9oの孔が0.4〜0.5o間隔であけられた」目皿を用いるとの被告の主張につき,孔と孔の中心間の寸法が0.4〜0.5oである目皿を用いると独自に解釈し,曲解して主張しているものである。
原告は,被告が本件目皿には「0.9oの孔が,0.4ないし0.5o間隔で多数開けられている」との主張したのに対し,第1次判決が「本件目皿の孔径は0.9o,孔の間隔は1o前後である」と認定したことが,当事者の主張に基づかない認定であると主張するが,この事実認定は,民事訴訟において認められている範囲のもので,取消事由になるものではない。
(2) 取消事由2に対しア本件審決には発見品の日付印につき第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法があるとの主張につき発見品の製造日については,発見品が公然実施されたかどうかの判断に含めて一括判断する手法もあるし,公然実施とは別々に判断する手法もある。必ず一括判断しなければ違法となるということはない。
原告は,第1次判決が「日付印部分」については全く審理していないと主張する。しかし,第1次判決は,「発見品には,上記のとおり,「60.10.27製造」「60.11.1製造」の日付印が押されていることから,発見品自体又は日付部分がねつ造にかかるものであることを疑わせる事情その他の特段の事情が認められない限り,上記日付印から,発見品が昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであることが推認されるというべきである。」(17頁下4行〜18頁2行)とした上で,「日付印には,開封や改ざんされた痕跡は見当らなかった。」(18頁14行〜15行)と,正しく認定判断している。また,第1次判決は,発見品について,発見の経過,発見時の状況,その保管状態,発見品の内容物,同時に保管されていた発見品以外の物品の種類等についての当事者双方の主張立証を詳細に検討した上で,事実認定をしている。第1次判決が「日付印部分」について全く審理していないということはない。
発見品の製造及び製造に至るまでの事実や発見品の「日付印部分」が拘束力の範囲外であるということはない。
イ発見品は押されている日付に製造されたものでないにもかかわらず本件審決はその日に製造されたものであるとの認定をした違法があるとの主張につき(ア)原告は,第1次判決が発見品の「日付印部分」の真偽を審理しなかったというが,第1次判決は,日付印の真偽について当事者双方の主張及び立証を整理判断しているのであって,原告が主張するような判断の遺脱はない。
発見品の製造日の印字に使用したスタンプ台は,シャチハタ製の「不滅インキ」であることは原告に指摘されるまでもなく,被告自ら説明しているところである。また,財団法人化学物質評価研究機構の試験報告書の添付写真には,品名,メーカーが明示されたスタンプ台の写真が掲示されている。上記機構にシャチハタの「不滅インキ」を持ち込めなかったのは,シャチハタに問い合わせたところ,昭和60年10月当時の「不滅インキ」の製造が中止となり在庫もないといわれたので,「不滅インキ」類似の「タートインキ」を入手して提供したためである。
原告は,発見品の製造日の押印に用いたインクが当時存在しなかった「TATインキ」であると容易に推認されるというが,第1次判決は,発見品の製造日について昭和60年10月27日及び同年11月1日である旨判示し,同判決は確定しているのであるから,本件訴訟においてこれに反する主張は,許されない。
(イ)ハンドラベラーは,粘着剤の粘着強度によって剥がれ易いか剥がれ難いかの差はあるが,張ったものが剥がれないということは無い。カネマタ食品が大手販売店から直接印を押すよう要請されたことは事実である。
「いび特産こんにゃく」は「板こんにゃく」であり,「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」は「板こんにゃく」ではない。そのため,両こんにゃくの包装機は異なる。カネマタ食品には各種の包装機があり,それらをこんにゃくに合わせて使い分けている。
原告は「しゃぶしゃぶ用こんにゃくの初版デザインの包装用フィルムも実際には残っていたと考えられる。」というが,被告は残っていることも知らないし,残っているのを見たこともない。発見品はカネマタ食品が事後的に復元実験で製造したこんにゃくでは断じてない。第1次判決は,こんにゃく同士が一体となっていることだけで,発見品は製造日付印の日に製造されたと判断したのではなく,発見品の他の状況を総合的に勘案して製造日付印の日に製造されたとの判断をしている。
(3) 取消事由3に対しア本件審決にはカネマタ食品による公然実施の事実について第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法があるとの主張につき原告は,当事者は「本件目皿を本格的製造に用いることが可能である。」と主張していないというが,本件目皿は,最初に製作したので試作目皿と表現しているだけであり,それは量産に使用できないものではなく,カネマタ食品では量産に使用していた。
本件目皿については第1次判決で判断済みである。原告の主張は蒸し返しにすぎない。
イカネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず本件審決は公然実施の事実があったものと認定した違法があるとの主張に対し原告は,孔径0.9oの目皿は,試作段階のもので,本格的製造に該当しないと主張する。しかし,カネマタ食品では,昭和56年末までに0.9oの目皿を製作してしゃぶしゃぶ用こんにゃくの製造に成功し,同目皿を更に1枚手作りして量産化に備え,それまできしめんこんにゃくの包装に使用していた包装フィルムにしゃぶしゃぶ用こんにゃくを包装して販売していたが,昭和58年11月にはしゃぶしゃぶ用こんにゃく専用の包装フィルムを図案化して発注したものであって,カネマタ食品では,0.9oの目皿を本格的製造に使用していた。
原告は,カネマタ食品の旧工場の事務所は,ボイラー室の道路側に位置し,来客は工場中央を通行しなくても道路から直接出入りできたと主張する。しかし,カネマタ食品の旧工場には,原告指摘の箇所に事務所はない。事務所は,原告の指摘する休憩室である。
公然実施とは,実際に見たかどうかとは関係なく見得る状態に置かれていることをもって足りるのであり,目皿からこんにゃくが吐出している状況をのぞき込めることまでは必要がない。
誰がいつ何を特許出願したか,どのような商品が紹介されていたか,サラダこんにゃくがブームになったかなどは,本件の公然実施を判断する上では全く関係のないことである。原告のこれらに関する主張は失当である。
(4) 取消事由4に対し原告は,第1次判決が「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張して押し出された孔よりも大きくなること,そのため,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者にとって周知の事項であった。」と認定したことに対し,これは周知の事実ではないと主張する。
しかし,「糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張して押し出された孔よりも大きくなること」,「糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあること」は周知の事実であった。
取消事由4は証拠の信用性に関する原告の主張である。これらの主張は証拠の評価に対する原告の意見を披瀝して,第1次判決で判断済み事項について蒸返しをするものであって,いずれも,第1審判決の拘束力に照らし審決取消事由に該当しない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(本件審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 第1次判決の拘束力の範囲について(1)特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理・審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。そして,その理は,実用新案登録無効審判事件の審決取消訴訟においても変わりがないと解されるところ,前記のとおり,平成16年1月28日になされた第1次審決は,平成17年6月30日の第1次判決により取り消され,同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は,第1次判決の有する拘束力の下で認定判断しなければならないこととなる。
(2)ところで,第1次判決(甲102)は,本件考案が本件実用新案登録出願前に日本国内において公然実施された考案であるかどうかについて,次のように認定判断した(17頁11行〜29頁8行)。
「(1) 発見品についてア原告(判決注,本訴の被告。以下同じ)は,@カネマタ食品が,本件出願日前に製造販売していた「しゃぶしゃぶこんにゃく」については,「60.10.27製造」又は「60.11.1製造」の日付印が押された発見品が存在すること,A発見品の内容物であるこんにゃくの形状,構造は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一であること,B発見品の製造時期は,その日付印のとおり,いずれも本件出願日前であることを主張する。
これに対し被告(判決注,本訴の原告。以下同じ)は,発見品が存在すること及びそれに原告主張に係る日付印が押されていること,及び,発見品に係るこんにゃくの形状,構造が,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一であることについては,明らかには争わないから,この点に関する実質的な争点は,発見品の製造時期の点のみであるということになる。
イそこで,発見品の製造時期について検討する。そもそも,発見品には,上記のとおり,「60.10.27製造」又は「60.11.1製造」の日付印が押されていることから,発見品自体又は日付印部分がねつ造に係るものであることを疑わせる事情その他の特段の事情が認められない限り,上記日付印から,発見品が昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであることが推認されるというべきである。
加えて,証拠…及び弁論の全趣旨(釈明処分としての検証の結果を含む。)によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)発見品は,平成16年2月29日,カネマタ食品の旧工場において,原告代理人弁理士小林正治がバケツの中から発見したものである。
(イ)発見品の包装袋には,塵芥又はバケツの錆と思われる汚れが付着している上,フィルムが白濁し,古びた外観である。その汚れ方は一様ではなく,部分的に錆と思われる汚れが濃く付着している部分もある。また,発見品のうち,一つの袋は,他のものに比べ,包装袋がやや膨張していた。なお,発見品及びその包装袋に押された日付印には,開封や改ざんがされた痕跡は見当たらなかった。
(ウ)発見品の内容物であるこんにゃくは,幅1cm,厚さ2mm弱程度の帯状のこんにゃくであり,その1本ずつを子細に観察すると,細かい糸状のこんにゃくが11本程度横に接着して帯状になったものであり,白色の部分と半透明の部分とで縞模様を形成していた。
(エ)発見品の内容物であるこんにゃくは,こんにゃく同士が一部くっつき合った状態にあった上,全体的にもろく,親指と人差し指とで挟み,すり合わせると,容易に潰れて,のり状になった。
これに対し,原告代理人弁護士五藤昭雄が平成16年9月17日に購入した,カネマタ食品製造に係る本件こんにゃく(賞味期限平成16年12月15日)は,同年10月22日の時点において,こんにゃく同士がくっつき合うこともなく,発見品の内容物であるこんにゃくに比べ,明らかに弾力を有していた。
(オ)発見品が存在したバケツの中ないし発見場所の周囲からは,カネマタ食品製及び他社製のこんにゃく,古新聞その他多数の物品が発見された。これらの物品は,いずれも全体的に汚れが付着し,古びた外観であり,また,製造日付等が確認できるものについては,その日付は,いずれも,昭和61年以前である。
(カ)カネマタ食品は,昭和61年に新工場を建築し,以後,こんにゃくの製造は新工場で行うようになった。現在,旧工場は,物置として使用されている状態にある。
(キ)カネマタ食品の製造販売する「しゃぶしゃぶこんにゃく」の包材は,三星セロファン株式会社から,昭和58年11月24日を初回として,これまでに5回納入されているが,その間に4回デザインを変更しており,初回の納品に係るデザインと2回目の納品(平成2年10月17日及び同月19日)に係るデザインとは異なっている。発見品の包装袋のデザインは,初回に納入されたものと同一である。
ウ上記認定事実によれば,発見品は,その包装袋に押された日付印のとおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが自然というべきであり,この認定を覆すに足りる的確な証拠は見当たらない。
エこれに対し,被告は,発見品が昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであるとは認められない旨主張するが,…被告主張の事情は,いずれも,上記ウの認定判断を左右するには足りない。…オ以上によれば,発見品は,その日付印のとおり,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであると認めるのが相当である。
(2) 本件公然実施の事実について以下,発見品は,昭和60年10月27日又は同年11月1日に製造されたものであるとの上記(1)の認定を前提に,本件公然実施の事実の有無について検討する。
ア証拠…及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)糸こんにゃくが,目皿に設けられた孔から押し出された後,膨張して,押し出された孔よりも少し大きくなること,そのため,糸こんにゃくの製造中,誤って複数の糸こんにゃくが引っ付いてしまうことがあることは,昭和56年以前から,こんにゃく製造業者にとって周知の事項であった。
(イ)カネマタ食品の専務取締役であるAは,昭和55年秋ころ,株式会社川口屋スーパーチェーン(以下「川口屋」という。)の従業員であったCから,「タレの乗りやすいこんにゃくを開発してはどうか」と言われたことをきっかけとして,糸こんにゃくを数本並べて,あえて引っ付かせたものを製品として製造することを思い付いた。従来の糸こんにゃく用の目皿は,押し出される糸こんにゃく同士が引っ付かないよう,孔間隔が広くなっており,糸こんにゃく同士が引っ付くように孔間隔を狭くした目皿は販売されていなかったことから,Aは,従来カネマタ食品がこんにゃく製造機械を購入していた松田機械から孔の開いていない目皿を購入した上,自ら孔開けして,孔間隔を狭くした目皿を製作することとした。
(ウ)カネマタ食品は,昭和56年5月11日,松田機械から孔の開いていない目皿を4枚購入し,そのころ,Aは,これを素材として,上記孔間隔を狭くした目皿の製作を開始した。Aは,手で持つタイプのドリルをドリルスタンドにセットし,ドリルスタンドに金属製のテーブルを取り付け,このテーブルに木の台を傾斜させて固定し,その上に,孔の開いていない目皿を乗せて,その目皿を左手で押さえながら,右手でスタンドにセットされたドリルを操作して,一つずつ孔を開けていった。ドリルは直径0.9mmのものを用い,孔の間隔は1mm前後としたが,ドリルが曲がったり折れたりせず,かつ,隣り合う孔同士がつながらないようにしながら孔を開けるのは大変な作業であり,1枚の目皿に300個以上の孔を開け終わるのに数か月を要した。その後,カネマタ食品は,松田機械から,昭和56年9月2日に孔の開いていない目皿4枚を,さらに昭和56年10月30日にも同様の目皿3枚を購入し,Aは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。
(エ)こうして,遅くとも昭和58年7月ころまでには,カネマタ食品は,旧工場において実際に本件こんにゃくの製造を開始した。
その製造方法は,従来,糸こんにゃくの製造に使用していた,こんにゃく練り機,流し釜及び目皿取付け治具等の既存の装置を用い,糸こんにゃく用の目皿の代わりに,Aが製作した本件目皿(孔間隔は1mm前後)を取り付けて行う方法であった。それによって製造されたこんにゃくの構造,形状は,発見品に係るこんにゃくと同様の特徴を有する表面筋状薄肉こんにゃくである。
(オ)カネマタ食品では,本件こんにゃくの製造開始当初は,川口屋における試験販売であり本格的に販売されるかどうかも決まっていなかったことから,無地の透明フィルムで包装した後,既存の「きしめん風こんにゃく」のラベルを付して納品した。その後,カネマタ食品は,昭和58年10月26日ころ,三星セロファンに対し,本件こんにゃく用の包材として,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称を記載した包材を発注し,当該包材が同年11月24日に納入された後は,「しゃぶしゃぶこんにゃく」の名称で本件こんにゃくを販売するようになった。
(カ)以後,カネマタ食品は,今日に至るまで,本件こんにゃくに係る「しゃぶしゃぶこんにゃく」を,多数の販売店に納入し続けており,販売店では,同こんにゃくを販売している。上記川口屋のほかにも,例えば,株式会社名鉄ストア,株式会社ニチイ,株式会社岐阜高島屋,株式会社ヤナゲン等がその販売店となっている。
イ上記アの認定事実を総合すれば,カネマタ食品は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の表面筋状薄肉こんにゃくを,遅くとも,カネマタ食品が本件こんにゃくの製造販売を本格的に開始した昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。…(3)以上,本件訴訟において新たに提出された証拠を含む本件全証拠を総合すると,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」は,カネマタ食品が,遅くとも昭和58年11月ころには公然実施していた本件こんにゃくと同一であると認めるのが相当であるから,本件公然実施の事実を認めるに足りないとした審決の認定判断は,結果的に誤りであったというほかはなく,原告の取消事由の主張は理由がある。」(3)以上の第1次判決の認定判断によれば,第1次判決は,カネマタ食品は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の本件こんにゃくを,昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めることができるとの認定判断をしていることが認められる。
そうすると,この公然実施の事実を認めた認定判断に拘束力が生じ,本件審決を担当する審判官は第1次判決の有する拘束力の下で認定判断しなければならないこととなる。
そして,本件審決は,前記第3の1(3)のとおり,「第1次判決において,「カネマタ食品…は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の表面筋状薄肉こんにゃくを,遅くとも,昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めるのが相当である。」と判示された。この判示事項は,審判合議体を拘束する。したがって,本件考案は本件実用新案登録出願前に日本国内において公然実施された考案であるから,本件実用新案登録は,実用新案法3条1項2号に違反してされたものであり,無効とすべきものである。」と認定判断したものであるから,本件審決を担当した審判官は,第1次判決の有する拘束力の下で認定判断したことが認められる。
そこで,以上の見解に立って,以下検討を進める。
3取消事由1(本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案の認定を欠いている違法,及び本件審決が同考案と本件考案が一致しないことを看過した違法)について(1) 原告は,本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案の認定を欠いており,同考案と本件考案との一致点及び相違点の認定並びに相違点についての認定判断を欠いていると主張する。しかし,本件審決は,前記2(3)のとおり,第1次判決の拘束力の下で,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案は本件考案と同一であると認定しており,本件審決にカネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案の認定を欠いているということはない。そして,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案は本件考案と同一であると認定する以上,さらに,これらの考案間における一致点及び相違点の認定並びに相違点についての認定判断は必要がないことが明らかである。
また,原告は,第1次判決は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内において実施していた考案も本件考案も認定することなく,構成要件の対比もしていないものであって,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内において実施していた考案の構成要件と本件考案の構成要件が同一であると判断する法的根拠が示されていないから,主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を欠いていると主張する。しかし,前記のとおり,第1次判決は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に日本国内において実施していた考案の構成要件と本件考案の構成要件が一致する旨の判断をしており,その判断に欠けるところはない。第1次判決は,明示的に,それらの考案間の構成要件の対比をしているわけではないが,そのような対比をするまでもなく構成要件が一致する旨の判断をすることができる場合には,明示的に対比する必要がないことは明らかである。したがって,原告の主張は採用することができない。
(2)また,原告は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案と本件考案は一致しないと主張するが,本件審決を担当する審判官は,カネマタ食品が本件実用新案登録出願前に実施していた考案は本件考案と同一であるとの第1次判決の認定と抵触する認定をすることは許されないのであるから,原告が主張する上記の点は,本件審決を違法とするものではなく,本件審決の取消事由となり得るものではない。
なお,原告は,第1次判決は,カネマタ考案に係る目皿について,「孔径は0.9o,孔の間隔は1o前後」と認定しているところ,この認定は当事者の主張に基づかない事実認定をしたものであるから,拘束力は生じないと主張するが,認定事実が当事者の主張に基づかないという理由で拘束力が生じないというべき根拠はなく,原告の主張は独自の見解に基づく主張で採用することができない。
4取消事由2(本件審決が発見品の日付印につき第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及び発見品は押されている日付に製造されたものでないにもかかわらず本件審決はその日に製造されたものであるとの認定をした違法)について(1)原告は,@発見品の製造及び製造に至るまでの事実は,発見品がその日付印の日に製造されたものであるとの認定に供されていないから,この認定に関し第1次判決の拘束力の範囲外である,A発見品の「日付印部分」も第1次判決で審理判断されていないから,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張する。しかし,前記のとおり,第1次判決は,発見品がその日付印の日に製造されたものであると認定し,その認定に基づいて,カネマタ食品は,本件考案と同一の考案を,昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと判断しているから,これらの認定判断に拘束力が生じる。そのことは,これらの認定判断の基礎となった事実関係によって左右されるものではない。第1次判決において上記認定判断に供されていない事実を,第1次判決確定後の本件無効審判事件において,当事者が主張立証したとしても,本件審決を担当する審判官は,第1次判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることができない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2)原告は,発見品は押されている日付に製造されたものでないにもかかわらず本件審決はその日に製造されたものであるとの認定をした違法があると主張するが,本件審決を担当する審判官は,発見品がその日付印の日に製造されたものであるとの第1次判決の認定に抵触する認定をすることはできないから,原告が主張する上記の点は,本件審決を違法とするものではなく,本件審決の取消事由となり得るものではない。
5取消事由3(本件審決がカネマタ食品による公然実施の事実について第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法,及びカネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず本件審決が公然実施の事実があったものと認定した違法)について(1)原告は,本件審決には,カネマタ食品による公然実施の事実について第1次判決の拘束力の範囲外の事項について拘束力を受けるものと判断した違法があるとして,次の各主張をするが,次のとおり,いずれも採用することができない。
ア原告は,「本件目皿(Aが本件こんにゃく用として当初に作成した目皿)を本格的製造に用いることが可能である。」との主張を当事者はしておらず,第1次判決も「本件目皿を本格的製造に用いることが可能である。」との認定をしていないから,「本件目皿を本格的製造に用いることが可能である。」という点は,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張する。
しかし,前記のとおり,第1次判決は,カネマタ食品では,昭和56年5月11日に松田機械から購入した目皿に,Aが孔の間隔1mm前後の加工をしたもの(本件目皿)を用いて,遅くとも昭和58年7月ころまでには,旧工場において実際に本件こんにゃくの製造を開始し,当初は試験販売であったが,後に本格的に販売するようになった旨の認定をしているから,本件目皿を本格的製造に用いることができた旨の認定がされており,この認定には拘束力が生じるものというべきである。なお,この認定につき,当事者の主張に基づくかどうかで拘束力の有無が左右されることがないことは,前記のとおりである。
イ原告は,第1次判決では,「Aは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。」との認定をしているが,本件目皿の製作においてAは何の試行錯誤もしていないことが明らかであるから,試行錯誤に関する第1次判決の上記認定は,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張するところ,前記のとおり,第1次判決は,「Aは,試行錯誤しながら,本件こんにゃく用の目皿の製作作業を続けた。」との認定をしている。原告の上記主張は,この認定が誤りであると主張するものにすぎず,この認定が拘束力の範囲外であるということはできない。
ウ原告は,第1次判決は,本件目皿について「孔間隔は1o前後」との認定は被告の主張に基づかないものであるから,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張する。しかし,認定事実が当事者の主張に基づくかどうかで拘束力の有無が左右されることがないことは,前記のとおりである。
エ原告は,第1次判決は,「昭和60年10月又は11月に製造された発見品の存在が認められ,これがA作成の陳述書(甲80)を始めとする関係証拠と符合することからすると,それらの証拠は相互にその信用性を高め合うものであるということができる…」と判断しているところ,具体的にどの認定事実をもって「関係証拠と符合する」と判断したのかを示しておらず,第1次判決の拘束力の範囲外であると主張する。しかし,原告の上記主張は,この第1次判決の判断について十分な根拠が示されていないことを主張するにすぎず,そのような理由で拘束力の範囲外であるということはできない。
(2)原告は,本件審決には,カネマタ食品による公然実施の事実がなかったにもかかわらず公然実施の事実があったものと認定した違法があると主張するが,前記2(3)のとおり,第1次判決は,カネマタ食品は,本件考案に係る「表面筋状薄肉こんにゃく」と同一の本件こんにゃくを,昭和58年11月ころまでには,公然実施していたものと認めることができるとの認定判断をしているから,本件審決を担当する審判官は,この認定判断に抵触する認定判断をすることができない。したがって,原告が主張する上記の点は,本件審決を違法とするものではなく,本件審決の取消事由となり得るものではない。
6 取消事由4(その他の第1次判決の認定の誤り)について原告は,カネマタ食品による公然実施の事実に関する被告の主張と証拠は,「着想 ↑ 巣板の購入 ↑ 加工 ↑ 試作・試行 ↑ 製造 ↑ 販売」のいずれの過程においても,矛盾しており,カネマタ食品による公然実施の事実を認めた第1次判決の認定は誤っていると主張するが,原告のこの主張は,第1次判決の認定の誤りを指摘するものにすぎず,第1次判決の拘束力に従って認定判断した本件審決を違法とするものではないから,本件審決の取消事由となり得るものではない。
7 結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一