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示したところと異なる見解に立つて同法に基づく上告会社の各請求を棄却すべきものとした原判決には、同法の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない 該当部分へ
めて出願人が第三者に対して同条所定の警告をするなどして、第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要するが、その補正が、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の登録請求の範囲を減縮するものであつて、第三者の実施している物品が補正の前後を通じて考案の技術的範囲に属するときは、右補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である 該当部分へ
願公開に基づく上告人Aの補償金支払請求を棄却した原追加判決は、その要件を定めた実用新案法一三条の三の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない 該当部分へ
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18受1772特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 判例 特許
平成10受153医薬品販売差止請求事件 判例 特許
平成14受1100損害賠償,商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
昭和54オ336実用新案権に基づく製作販売差止 判例 実用新案
平成6オ1083特許権侵害差止等 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  実施許諾 /  考案 /  図面 /  物品 /  補正 /  拒絶理由 /  実施許諾(実施の許諾) /  減縮 /  特段の事情 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 模造品製造差止等
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裁判所 最高裁判所第三小法廷
判決言渡日 1988/07/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、昭和五九年三月一六日言渡しの原判決中上告人有限会社三栄交易敗訴部分、及び昭和六一年(オ)第三一号事件につき、昭和六〇年九月三〇日言渡しの原追加判決をいずれも破棄する。
二 前項の部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
三 昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、上告人Aの上告を棄却する。
四 前項の部分に関する上告費用は、上告人Aの負担とする。
事実及び理由
昭和六一年(オ)第三〇号事件
一 上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由一について 上告人らの第一次請求たる不正競争防止法に基づく請求は、上告人Aの設立した上告人有限会社三栄交易(以下「上告会社」という。)が昭和五三年六月以降「アースベルト」なる商標(以下「原告商標」という。)を使用して製造販売している原判決添付の別紙第一目録記載の自動車接地具(以下「原告製品」という。)は、
爆発的売行きを示し、昭和五四年三月までに約一五万本販売され、更にその製造販売数は増加の一途をたどつており、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等による広告宣伝とあいまつて、原告製品の形態自体及び原告商標は、昭和五四年三月には、上告会社の商品たることを示す表示として仙台市を中心に全国的に知られるようになり、同法1条1項1号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」(以下「周知」又は「周知性」という。)商品表示となつていたところ、被上告人宮川商工株式会社(以下「被上告人宮川商工」という。)は、
昭和五三年八月ころに原告製品の独占的販売権を得たい旨上告会社に申し入れたものの、四六〇〇本程度を仕入れたのみで、その後の継続的取引を断られたことから、昭和五四年三月ころ、被上告人株式会社セイワ(旧商号・株式会社清和工業製作所)に依頼して原判決添付の別紙第二目録ないし第五目録記載の自動車接地具(以下「被告製品」と総称する。)を製造し、これに「エンドレスアースベルト」なる商標(以下「被告商標」という。)を使用してその販売を開始したが、被告製品の形態は原告製品の形態と酷似しており、また、被告製品に使用されている被告商標は原告製品に使用されている原告商標と類似しているため、被告製品の販売自体並びに被告商標の使用及びこれを使用した被告製品の販売(同法1条1項1号にいう、商品表示「ヲ使用シ又ハ之ヲ使用シタル商品ヲ販売」することを、以下「使用等」という。)は、被告製品を原告製品と誤認混同させるものであると主張して、被上告人らに対し、被告製品の製造販売及び「アースベルト」なる名称の使用等の差止め、並びに被上告人らが昭和五四年四月から昭和五六年一月までの間被告商標を使用して被告製品を一九万八六一〇本製造販売したことによつて被つた損害八〇〇〇万円の賠償及び新聞紙上への謝罪広告の掲載を請求する、というものである。
原判決は、(1) 上告人Aは、昭和五三年二月ころ原告製品を考案して、同年四月末ころ製品化し、同年六月一日上告会社を設立し、これを通じて原告製品の販売を開始した、(2) 上告会社は、全国に販売されている自動車専門雑誌二誌に広告を掲載して通信販売の方法をとる一方、地元の新聞やラジオにより広告宣伝をし、同年八月ころ、訴外株式会社双見商会と取引を開始し、同社に卸売りされた原告製品は主に東北六県の出光関係のガソリンスタンドで小売りされ、また、上告会社は、同年一二月ころ東京の株式会社向島自動車用品製作所外一社とも取引を開始し、更に右双見商会を介して他の数社とも取引を行うようになつた、(3) 原告製品は、主としてガソリンスタンド、カー用品店、スーパー等で小売りされ、昭和五四年三月ころには東京都内のガソリンスタンドでも販売されており、昭和五三年六月から同五四年三月までの販売数は、通信販売や展示即売会等での販売数を加えて約一五万本である、(4) 被上告人宮川商工は、昭和五三年九月ころ上告会社から原告製品を仕入れたことがあつたが、その後上告会社に販売を断られたため、昭和五四年三月末ころ被告製品のうちの第二目録記載の自動車接地具の製造販売を始め、その後、同じく第三目録ないし第五目録記載の自動車接地具も製造販売している、との事実を確定したうえ、不正競争防止法1条1項1号の趣旨に鑑みれば、自己の商品表示が同号にいう周知の商品表示に当たると主張する甲が、これと同一又は類似(以下単に「類似」という。)の商品表示の使用等をする乙に対してその使用等の差止め及び右使用等による損害賠償(謝罪広告の掲載を含む。以下同じ。)を請求するには、甲の商品表示は、遅くとも乙の商品の販売開始より前に周知性を備えていることを要し、本件においては、被告製品の販売が開始された昭和五四年三月末ころまでに原告製品の形態自体及び原告商標が原告製品の商品表示として周知性を備えていることを要するところ、原告製品の形態自体及び原告商標は右時期には未だ周知性を備えていたとは認められないとして、上告人らの右各請求をすべて棄却すべきものとした。
しかしながら、右周知性を備えるべき時期についての原審の判断は、是認することができない。
自己の商品表示が不正競争防止法1条1項1号にいう周知の商品表示に当たると主張する甲が、これと類似の商品表示の使用等をする乙に対してその差止め等を請求するには、甲の商品表示は、不正競争行為と目される乙の行為が甲の請求との関係で問題になる時点、すなわち、差止請求については現在(事実審の口頭弁論終結時)、損害賠償の請求については乙が損害賠償請求の対象とされている類似の商品表示の使用等をした各時点において、周知性を備えていることを要し、かつ、これをもつて足りるというべきである。けだし、同号の規定自体、原判決説示のように周知性具備の時期を限定しているわけではなく、周知の商品表示として保護するに足る事実状態が形成された以上、その時点から右周知の商品表示と類似の商品表示の使用等によつて商品主体の混同を生じさせる行為を防止することが、周知の商品表示の主体に対する不正競争行為を禁止し、公正な競業秩序を維持するという同号の趣旨に合致するものであり、このように解しても、右周知の商品表示が周知性を備える前から善意にこれと類似の商品表示の使用等をしている者は、継続して当該表示の使用等をすることが許されるのであつて(同法2条1項4号。いわゆる「旧来表示の善意使用」の抗弁)、その保護に十分であり、更には、損害賠償の請求については行為者の故意又は過失を要件としているのであつて(同法1条ノ二)、不当な結果にはならないからである。
そして、甲の商品表示を使用した商品の販売、宣伝活動等、甲の商品表示が周知性を備えるに至つたことを基礎づける事実は、甲において具体的に主張立証すべきものであるところ、記録によれば、本件において、上告人らは、被上告人らが被告製品の製造販売を始めた昭和五四年三月末までの時点だけでなく、それ以降の時点において上告会社が株式会社双見商会、株式会社向島自動車用品製作所等に販売した原告製品の数量をも具体的に主張し、これを裏づける証拠も提出していることが明らかである。
したがつて、原告製品の形態自体及び原告商標は、原判示の昭和五四年三月末ころの時点では周知性を備えるに至つていなかつたとしても、審理の結果次第では前記のような被上告人らの行為が問題になるその後の時点においては周知性を備えるに至つていると認められる可能性があるから、右に説示したところと異なる見解に立つて同法に基づく上告会社の各請求を棄却すべきものとした原判決には、同法の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。これと同旨の上告会社の論旨は、理由がある。
しかし、上告人Aは、その主張自体から、自ら原告商標を使用して原告製品を販売する等の営業をしている者でないことが明らかであり、被上告人らの被告製品の製造販売及び被告商標の使用等により営業上の利益、信用を害されることはないというべきであるから、同法に基づく上告人Aの各請求を棄却すべきものとした原審の判断は結論において是認することができ、同上告人の論旨は採用することができない。
しかして、上告会社の本訴請求に係る各損害賠償請求、昭和六一年(オ)第三一号事件の考案の実用新案登録出願についての出願公開に基づく補償金支払請求は、第一次請求ないし第三次請求として順次予備的に併合されており、これらをすべて棄却した原判決、原追加判決に対し上告があつたところ、第一次請求たる不正競争防止法に基づく損害賠償請求について右のとおり破棄理由があるのであるから、第二次請求、第三次請求についても原判決、原追加判決を破棄すべきものである。したがつて、以下、昭和六一年(オ)第三一号事件も含め、上告人Aの関係においてのみ判断を加えることとする。
二 その余の上告理由について 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、
その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
昭和六一年(オ)第三一号事件
上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由について 上告人Aの第三次請求のうちの実用新案法13条の3に基づく補償金支払請求は、上告人Aは、原告製品に係る考案(以下「本件考案」という。)について実用新案権(昭和五三年五月二三日実用新案登録出願、
昭和五四年一二月一日出願公開、昭和五六年六月一九日出願公告)を有するところ、被上告人らは、昭和五四年三月末ころから本件考案技術的範囲に属する被告製品を製造販売しており、同年一二月一日に出願公開があつた後も昭和五六年一月まで、出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知つて、被告製品を製造販売したから、同条所定の補償金の支払を請求する、というものである。
原追加判決は、本件考案の出願公開時の実用新案登録請求の範囲(以下「登録請求の範囲」という。)は、原追加判決添付の別紙(一)記載のとおりであるが、審査官から昭和五五年五月一四日付拒絶理由の通知を受けたため、上告人Aは、同年七月一七日付で登録請求の範囲を同別紙(二)記載のとおり補正した、との事実を確定したうえ、補償金請求権発生要件の関係においては、出願公開の後に補正がされたときは、
補正の時点で新たに出願がされたものと解するのを相当とするとし、本件においては、右昭和五五年七月一七日付の補正後に、上告人Aが被上告人らに対し同条所定の警告をし、あるいは被上告人らが同条にいう悪意の状態にあつたことを認めるに足りる証拠はないとして、上告人Aの同条に基づく補償金支払請求を棄却した。
しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。
実用新案登録出願人が出願公開後に第三者に対して実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして、第三者が石出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案の内容を知つた後に、補正によつて登録請求の範囲補正された場合において、その補正が元の登録請求の範囲を拡張、変更するものであつて、第三者の実施している物品が、補正前の登録請求の範囲の記載によれば考案技術的範囲に属しなかつたのに、補正後の登録請求の範囲の記載によれば考案技術的範囲に属することとなつたときは、出願人が第三者に対して実用新案法13条の3に基づく補償金支払請求をするためには、右補正後に改めて出願人が第三者に対して同条所定の警告をするなどして、第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要するが、その補正が、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の登録請求の範囲減縮するものであつて、第三者の実施している物品補正の前後を通じて考案技術的範囲に属するときは、右補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である。第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するために右警告ないし悪意を要件とした同条の立法趣旨に照らせば、前者の場合のみ、改めて警告ないし悪意を要求すれば足りるのであつて、後者の場合には改めて警告ないし悪意を要求しなくても、
第三者に対して不意打ちを与えることにはならないからである。
本件についてこれをみると、出願公開時における本件考案の登録請求の範囲は、原追加判決挙示の甲第四四号証(本件考案の公開実用新案公報)によると、原追加判決添付の別紙(一)のままではなく、出願公開前の昭和五四年六月二九日付補正により補正されており、これと昭和五五年七月一七日付補正後の登録請求の範囲とを対比すれば、実質的な相違点は、自動車に帯電した静電気をアースするために自動車後部のフレームに取付金具によつて吊り下げられる導電性ゴム製の帯体に反射板を取り付けた構成からなる自動車接地具に係る本件考案において、前者では、右帯体への反射板の取付方法に特段の限定がなかつたが、後者では、右反射板が「取付位置調節、相対移動可能に」取り付けられていることを要件として付加したものであることにあり、換言すれば、右昭和五五年七月一七日付補正は、願書に最初に添附した明細書又は図面(原追加判決挙示の甲第一号証の三)に記載した事項の範囲内において、反射板が「取付位置調節、相対移動可能」であるものも、そうでないものも含む考案から、「取付位置調節、相対移動可能」であるものに限定したものとして、登録請求の範囲減縮に当たると解される。そうであれば、反射板が帯体に「取付位置調節、相対移動可能に」取り付けられている被告製品は、補正の前後を通じて本件考案技術的範囲に属することになるから(被告製品が、登録された本件考案技術的範囲に属することは、原判決の判示するところであつて、右判断は是認することができる。)、前記説示は照らし、出願人が同条所定の補償金の支払を請求するには、右補正の後に改めて被上告人らに対して警告をするなどして被上告人らにおいて補正後の登録請求の範囲の内容を知ることは要しないということになる。
なお、右警告ないし悪意の要件については、実用新案登録出願は、一年六か月経過後に例外を除き自動的に出願公開がされるものであるところ(同法13条の2)、本件記録によれば、被上告人らは、昭和五四年五月七日に本件訴状とともに甲第一号証の一ないし五(本件考案の実用新案登録願、出願審査請求書、
明細書、委任状、出願番号通知)の写しの送達を受けることにより、本件考案が出願されたこと及びその内容、出願番号等を知り、その後も、本件考案に類似する考案の出願の有無・内容等を調査し(乙第一号証ないし第三号証、第四号証の一・二、第五号証の一ないし七、第六号証)、本件考案の審査の過程を見守つていたこと(乙第七号証の一ないし七)が窺われ、更には、第一審の昭和五五年二月二〇日の口頭弁論期日における上告人Aの本人尋問において、被上告人らの訴訟代理人の質問に対して、上告人Aが本件考案はこの間公開されたばかりである旨答えており、これらのことに照らせば、出願公開の直後に、あるいは遅くとも右口頭弁論期日において、本件考案が出願公開された事実を被上告人らが知つたとの疑いが濃厚である。
したがつて、出願公開に基づく上告人Aの補償金支払請求を棄却した原追加判決は、その要件を定めた実用新案法13条の3の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない。これと同旨に帰するものと解される上告人Aの論旨は、理由がある(なお、上告会社は、その主張によつても、本件考案について独占的実施許諾を受けて昭和五三年六月から原告製品の製造販売をしているというだけであつて、本件考案の出願人でないことが明らかであるから、他に特段の事情のない限り、同条所定の補償金支払請求を認める余地はない。)。
結論
以上のとおりであるから、昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、昭和五九年三月一六日言渡しの原判決中上告会社敗訴部分を破棄し、特に、上告会社の不正競争防止法に基づく差止め及び損害賠償の各請求につき、前記第一の一に説示した各時点において原告製品の形態自体及び原告商標が周知性を備えるに至つていたかどうか(原告製品の形態については、右判断の前提として右形態が商品表示としての性質を備えるに至つていたかどうかを含む。)等について、更に審理を尽くさせるため原審に差し戻し、上告人Aについてはその上告を棄却することとし、昭和六一年(オ)第三一号事件につき、昭和六〇年九月三〇日言渡しの原追加判決を破棄し、特に、上告人Aの関係で、明細書の登録請求の範囲補正と実用新案法13条の3所定の警告ないし悪意との関係について前記第二に説示した見解のもとに、本件考案の出願公開後における悪意の存否につき更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法407条1項396条384条95条89条の規定に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 伊藤正己
裁判官 安岡滿彦
裁判官 坂上壽夫
裁判官 貞家克己