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事件 平成 2年 (ネ) 3130号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1991/08/29
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者が求めた裁判
一 控訴人(第一審被告) 「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決二 被控訴人(第一審原告) 主文同旨の判決
請求の原因
一 【A】はニブリング金型機構を考案し、同考案につき昭和四七年九月二五日、
実用新案の登録出願をした。被控訴人は、そのころ右実用新案に係る登録を受ける権利を右【A】から代金二〇〇〇円で譲り受けたところ、右出願は昭和五五年一二月二五日出願公告され、同五六年一〇月三〇日、被控訴人を権利者として実用新案登録番号第一四〇四六六二号をもって登録された(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)。
二 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は以下のとおりである。
「ダイ3に備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押え5内に摺動自在に嵌合して設けるとともに、板押え5から突出したパンチボデー1の上端部と板押え5との間にスプリング11を弾装して設け、
前記パンチチップ15を板押さえ5の下端部にて摺動自在に囲繞支持するとともに、前記パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17に、該溝17と前記板押え5の下端部内周面との間において摺動自在に案内され、かつパンチチップ15の下面より下端部が突出自在のパンチヒール19を係合して設け、前記パンチチップ15による打ち抜き加工時に板押え5とダイ3により加工材Wを挟圧固定するとともに、少なくとも一つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3に係合し、打ち抜き加工時における側圧をダイ3により受けるために、前記パンチヒール19の下端部をパンチチップ15の下端部より突出して設け、前記パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状を、前記ダイ3のダイ孔の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けたことを特徴とするニブリング金型機構」(別紙図面(一)参照)三1 本件考案の構成要件を分説すれば、以下のとおりである。
(一) ダイ3に備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押え5内に摺動自在に嵌合して設けるとともに、
(二) 板押え5から突出したパンチボデー1の上端部と板押え5との間にスプリング11を弾装して設け、
(三) パンチチップ15を板押え5の下端部にて摺動自在に囲繞支持するとともに、
(四) パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17に、該溝17と前記板押え5の下端部内周面との間において摺動自在に案内され、かつパンチチップ15の下面より下端部が突出自在のパンチヒール19を係合して設け、
(五) 前記パンチチップ15による打ち抜き加工時に、板押え5とダイ3により加工材Wを挟圧固定するとともに、
(六) 少なくとも一つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3に係合し、
(七) 打ち抜き加工時における側圧をダイ3により受けるために、前記パンチヒール19の下端部をパンチチップ15の下端部より突出して設け、
(八) パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状を、ダイ3のダイ孔の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けたことを特徴とする(九) ニブリング金型機構2 本件考案の作用効果は以下のとおりである。
本件考案は、打ち抜き加工時に、打抜きによる剪断部分を境として生じる傾向にある材料の流れを極力抑えることができるとともに、打抜部の縁に発生するだれの半径を小さくでき、精度の高い打ち抜き加工ができる。また、打ち抜き加工時には、パンチチップ及びパンチヒールは板押えの下端部によって案内されるものであるから、正確な打ち抜き加工ができるとともにパンチヒールがパンチチップの溝から離脱するように折れ曲がることを阻止することができる。さらに、パンチチップ等による打ち抜き加工に先立って、少なくとも一つのパンチヒールがダイに係合し、打ち抜き加工時にパンチチップに作用する側圧をダイで受けるので、パンチチップが曲げられる傾向にあるのを阻止することができ、パンチチップの曲がりによるダイとの干渉を防止し、右干渉によるパンチチップ等の破損を防止できる作用効果がある。
四 控訴人は、昭和五五年一二月二五日以降、本件実用新案権の存続期間が満了する同六二年九月二五日までの間(なお、控訴人の昭和五五年当時の商号は「株式会社コニック社」であった。)、別紙図面(二)記載の金型一・二五インチ角型シャープルーフ(以下「イ号物件」という。)及び同一・二五インチ丸型シャープルーフ(以下「ロ号物件」という。)を業として製造し、控訴人がその地位を承継する前の第一審被告であるコニック販売株式会社がこれらの製品を業として販売していた。なお、コニック販売株式会社は控訴人に合併され、控訴人がその権利義務の一切を承継した(以下、控訴人及びコニック販売株式会社の両名に係る事項については、一括して「控訴人ら」という。)。
五 イ号物件及びロ号物件の技術的特徴及び効果は以下のとおりである。
1 両物件の技術的特徴 @ダイcに備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップpを下端部に固定したパンチボデーaを板押えe内に摺動自在に嵌合して設けるとともに、A板押えeから突出したパンチボデーaの上端部gと板押えeとの間にスプリングkを弾装して設け、
Bパンチチップpを板押えeの下端部にて摺動自在に囲繞支持するとともに、Cパンチチップpの周囲に設けた適数の溝に、右溝と板押えeの下端部内周面との間において摺動自在に案内され、かつ、パンチチップpの下面により下端部が突出自在のパンチヒールsを係合して設け、Dパンチチップpによる打ち抜き加工時に板押えeとダイcにより加工材wを挟圧固定するとともに、少なくとも一つのパンチヒールsがパンチチップpに先行して、ダイcに係合し、打ち抜き加工時における側圧をダイcにより受けるために、パンチヒールsの下端部をパンチチップpの下端部より突出して設け、Eパンチチップpと複数のパンチヒールsを含む断面形状を、前記ダイcのダイ孔形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けたことを特徴とするニブリング金型機構2 両物件の効果 このように、イ号物件及びロ号物件は本件考案の前記構成要件をすべて充足しているから、その効果も本件考案と同じである。
六 被控訴人は、イ号物件及びロ号物件についての控訴人らの前記製造販売活動により、次の損害を被った。
1 侵害期間 昭和五五年一二月二五日以降、本件実用新案権の存続期間が満了する同六二年九月二五日までの六年九箇月間2 損害額 実用新案法29条1項により、以下に述べる控訴人らの得た利益が被控訴人の損害と推定される。
(一) 被控訴人の本件考案に係る製品の年間売上量は二〇〇〇本であり、これに対する控訴人らの市場占有率は二〇パーセントであるから、被侵害量は年間四〇〇本となり、これに製品一本当たりの単価である五万円及び前記侵害期間を乗ずると侵害総売上高は一億三五〇〇万円となるところ、これに純利益率一〇パーセントを乗ずると控訴人らの得た利益は一三五〇万円となる。
(二) 前項が認められないとしても、控訴人らは次の利益を得ている。
昭和五六年一月〜同 年三月 一三万一九五〇円同 五六年四月〜同五七年三月 四四万九二〇〇円同 五七年四月〜同五八年三月 二三万九七五〇円同 五八年四月〜同五九年三月 一四六万五五〇〇円同 五九年四月〜同六〇年三月 一一八万七五五〇円同 六〇年四月〜同六一年三月 二三九万四二〇〇円同 六一年四月〜同六二年三月 四五六万七七五〇円同 六二年四月〜同六三年三月 二八四万三四〇〇円以上合計 一三二七万九三〇〇円 なお、後記のように、仮に昭和六〇年一一月二一日以前の分が時効によって消滅したとすると、右期間以降の損害額は、これを期間計算すると八二六万三八七八円となる。
(三) 仮に、昭和六〇年一一月二一日以前の損害賠償請求権が時効によって消滅したとしても、控訴人らは悪意により昭和五六年一月から同六一年一一月二一日まで被控訴人の本件実用新案権により実施料相当の利益を受け、これにより被控訴人に同額の損失を与えているところ、右期間中の控訴人らの売上高は前項記載の利益額の一〇倍であり、これに五パーセントの実施料率を乗ずると、被控訴人の受けた損失は二五〇万七七一〇円となる。
七 よって、被控訴人は控訴人に対して、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求として一三五〇万円及び不法行為後の日である昭和六三年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、予備的に昭和五六年一月から同六〇年一一月二一日までの期間については不当利得返還請求権に基づき二五〇万七七一〇円及びこれに対する利得の日以後の日である六三年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による利息の各支払い並びに日本経済新聞及び日刊工業新聞の各全国版に第一審判決添付の別紙第一及び第二記載の謝罪広告を行うことを求める。
請求の原因に対する認否
一 請求の原因一ないし五は認める。
二 同六は争う。なお、控訴人らのイ号及びロ号の各物件の売上高は次のとおりである。
昭和六〇年一一月〜同六一年一〇月 イ号物件 一三五二万四九〇〇円 ロ号物件 八八万二〇〇〇円同 六一年一一月〜同六二年一〇月 イ号物件 九七七万〇八〇〇円 ロ号物件 一二六万円同 六二年一一月〜同六三年一〇月 イ号物件 七二八万三〇〇〇円 ロ号物件 六八万九〇〇〇円 そして、被控訴人は本件実用新案権を実施していなかったから、仮に控訴人が損害賠償義務を負うとしても、その額は前記売上高に対する実施料相当額にすぎない。
抗弁
一 本件考案は、以下に述べるように、その実用新案登録出願前、全部公知の考案である。
1 いずれも本件考案の実用新案登録出願前に頒布された外国刊行物である一九六七(昭和四二)年二月一五日以前の作成に係る米国ユニパンチプロダクト社のカタログ(乙第二号証、)一九六八(昭和四三)年八月に作成された同社のカタログ(乙第三号証)及び同年九月に作成された同社のカタログ(乙第四号証、以下、右各カタログを一括して「ユニパンチカタログ」という。)には、金型に関し、以下の技術が開示されている。
(一) ユニパンチカタログには、「ユニプレス二五〇 ずれ防止コンビネーションホール、ニブリングパンチとダイ」の表題のもとに、パンチチップに組み込まれた一つ又はそれ以上のバネ加重された挿入片が加工物によりカバーされないダイ開口部に入り込み、パンチとダイを整序する。七/八インチ角穴パンチング時には、
四つの挿入片すべてはパンチ底面と同一平面にある。」と記載されている。
右記載は、右金型(以下「ユニパンチ金型」という。)においては、@挿入片(本件考案のパンチヒールに相当)は、a バネ加重されている、b パンチチップに組み込まれている、c 前回の打ち抜き穴が開いているため加工材によりカバーされない部分からダイ開口部に入り込んで、パンチボデーとダイを整序する、d パンチング時には、パンチボデーの底面と同一平面となる、Aユニパンチ金型は、「ずれ防止」用のコンビネーションホール、ニブリングパンチとダイである、
ことをそれぞれ示している。なお、乙第三、第四号証ユニパンチカタログには、同カタログ掲載の金型はノッチング、ニブリング及びパンチングの各機能を有すること並びに四つのバネ加重された挿入片の一つ又はそれ以上がパンチチップに組み込まれ、ダイ中で常にパンチとダイを整序し、パンチのずれを防止するとの記載が付加されている。
(二) 本件実用新案権の登録出願当時におけるニブリング金型の従来技術(本件考案のパンチヒール以外の構成)を基にして、ユニパンチカタログに掲載された写真を図解すると別紙図面(三)のとおりであり、ユニパンチ金型の構成が以下のとおり開示されている。
@ パンチボデー101は、a ダイ103に備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップ115を下端部に固定し、b 板押え105内に摺動自在に嵌合して設けられている。A スプリング111は、板押え105から突出したパンチボデー101の上端部に蝶着されたパンチヘッド107と板押え105の上端部に挿嵌されたリテーナーカラー109との間に弾装して設けられている。B 挿入片119、119、119、119は、a パンチチップ115を板押え105の下端部にて摺動自在に囲繞支持するとともに、b パンチチップ115の縦方向四面に設けた四本の溝117に、該溝117と前記板押え105の下端部内周面との間において摺動自在に案内され、c パンチチップ115の下面より下端部が突出自在であり、
d パンチチップ115による打ち抜き加工時に@ 板押え105とダイ103により加工材Wを挟圧固定し、A少なくとも一つの挿入片119がパンチチップ115に先行してダイ103に係合し、打ち抜き加工時における側圧をダイ103により受けるために、前記挿入片119の下端部をパンチチップ115の下端部より突出して設けられている。C パンチチップ115と四本の挿入片119とを含む断面形状は、前記ダイ103のダイ孔の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けられている。
2 本件考案の構成要件は、以下のとおりである。
@ パンチボデー1は、a ダイ3に備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定し、b 板押え5内に摺動自在に嵌合して設けられている。A スプリング11は、板押え5から突出したパンチボデー1の上端部と板押え5との間に弾装して設けられている。B パンチヒール19は、a パンチチップ15を板押え5の下端部で摺動自在に囲繞支持するとともに、b パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17に、該溝17と前記板押え5の下端部内周面との間において摺動自在に案内され、c パンチチップ15の下面より下端面が突出自在であり、d パンチチップ15による打ち抜き加工時に、@ 板押え5とダイ3により加工材Wを挟圧固定し、A 少なくとも一つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3に係合し、打ち抜き加工時における側圧をダイ3により受けるために、前記パンチヒール19の下端部をパンチチップ15の下端部より突出して設けられている。C パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状は、前記ダイ3のダイ孔の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けられている。
3 ユニパンチ金型と本件考案との比較 前記1(二)のユニパンチ金型の構成と前項の本件考案の構成を対比すると、1(二)の@ないしCはそれぞれ前項の@ないしCとそれぞれ同一であり、両者の作用効果もニブリングの際のずれ防止であるから、同一である。
以上によれば、本件考案は、その出願前に頒布されていたユニパンチカタログ(乙第二ないし第四号証)に記載されたユニパンチ金型と全く同一であるから、全部公知の考案であり、全く新規性を有しない。
二 出願前全部公知の実用新案権の技術的範囲1 本件考案技術的範囲は、本件明細書記載の実施例に限定されるべきである。
すなわち、本件考案は、前述したように出願前全部公知であるから、その技術的範囲は本件考案の掲載された出願公告公報(甲第二号証)の実施例(考案の詳細な説明欄の記載及び第1図、第2図)に限定されるべきであるところ、右実施例と対比すると、イ号物件は以下の(一)ないし(八)の、ロ号物件は同(一)ないし(六)の各相違点があるから、イ号及びロ号の各物件は右実施例に限定された本件考案技術的範囲に属さない。
(一) 本件考案のスプリング11は断面略円形であるが、イ号物件及びロ号物件のスプリングkは、断面角型である。
(二) 本件考案のスプリング11はパンチヘッド7及びリテーナーカラー9の内側に挿嵌されているが、イ号物件及びロ号物件のスプリングkは、パンチヘッドg及びリテーナーカラーjの外側と同一面をなしている。
(三) 本件考案の板押え5と該板押え5の上部のパンチヘッド7、スプリング11及びリテーナーカラー9との長さの比は、約一〇対七であるのに対し、右部分に対応するイ号物件及びロ号物件の長さの比は、八対六・五である。
(四) 本件考案のパンチヘッド7の上端は、中央に向かって勾配があるが、イ号物件のパンチヘッドgの上端は水平である。
(五) 本件考案のリテーナーカラー9の外周の厚みはパンチヘッド7のそれの厚みと同じであるのに対し、イ号物件及びロ号物件のリテーナーカラーjの外周の厚みはパンチヘッドgのそれの厚みの半分である。
(六) 本件考案のパンチヘッド7の上端からパンチチップ15の下端までの長さとダイ3の高さの比は、一〇・八対二であるのに対し、イ号物件及びロ号物件のパンチヘッドgの上端からパンチチップpの下端までの長さとダイcの高さの比は、
一七・四対三である。
(七) 本件考案のパンチチップ15とパンチヒール19を含む断面形状は円形であるのに対し、イ号物件のパンチチップpとパンチヒールqを含む断面形状は正方形である。
(八) 本件考案のパンチヒール19の本数は六本であるが、イ号物件のパンチヒールは四本である。
2 本件考案技術的範囲は不確定である。すなわち、実用新案権は、新規性のある考案に対して与えられる権利であるところ、考案技術的範囲公知技術を包含する形で認定することは、右の実用新案の基本原理と反するものである。したがって、本件考案のように、全部公知の考案についてはその技術的範囲を実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて確定することは許されず、結局、本件考案技術的範囲を確定することはできない。したがって、本訴請求は侵害の有無を判断できないから、右事実の立証がないものとして棄却されるべきである。
3 本訴請求は、権利の濫用である。本件考案は、既に述べたように、全部公知の考案であるところ、被控訴人は、以下に述べるように、本件考案について出願登録する以前に本件考案が公知の技術であることを知悉していながら、登録出願したものである。すなわち、被控訴人の関連会社であるアマダツールは、米国ユニパンチ社と遅くとも昭和四六年四月に技術提携をしているのであり、この事実からすると、被控訴人が、本件考案の出願前に前記ユニパンチ社のカタログに記載された金型を知悉していたことは明らかである。被控訴人は、かかる事情を知りながら本件考案について実用新案権の登録を受けたものであるから、本訴請求は権利の濫用である。
4 イ号物件及びロ号物件はいずれも公知技術の実施品であるから、右実施に対し本件実用新案権の効力は及ばない。すなわち、本件実用新案登録出願時に存在したユニパンチカタログに、前記第四、一、1、(一)に記載したとおりの技術内容が開示されていることは前述したとおりであり、これに対して、イ号物件及びロ号物件の構造上の特徴は、以下のとおりである。
@パンチボデーaは、ダイcに備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップpを下端部に固定して設け、板押えe内に摺動自在に嵌合して設けられている。Aスプリングkは、板押えeから突出したパンチボデーaの上端部に蝶着されたパンチヘッドgと板押えeの上端部に挿嵌されたリテーナーカラーjの間に弾装され、Bパンチヒールsは、パンチチップpを板押えeの下端部にて摺動自在に囲繞支持するとともに、パンチチップpの周囲に設けた溝qに、該溝qと板押えeの下端部内周面との間において摺動自在に案内され、かつ、パンチチップpの下面より下端面が突出自在である。パンチチップpによる打ち抜き加工時に、板押えeとダイcにより加工材Wを挟圧固定するとともに、一つのパンチヒールsがパンチチップpに先行して、ダイcに係合し、打ち抜き加工時における側圧をダイcにより受けるために、
パンチヒールsの下端部をパンチチップpの下端部より突出して設けられている。
Cパンチチップpと四本(ロ号物件は六本)のパンチヒールsとを含む断面形状を、前記ダイcのダイ孔形状とほぼ同一寸法の形状にして形成して設けたことを特徴とするニブリング金型機構であるところ、右@ないしCは前記第四、一、1、
(二)に記載された@ないしCとそれぞれ同一である。したがって、イ号物件及びロ号物件は、いずれもユニパンチカタログに開示された公知技術の実施品であるから、本件実用新案権の効力は及ばない。
5 仮に、被控訴人が損害賠償請求権を有したとしても、本訴の提起は昭和六三年一一月二二日であるから、右損害賠償請求権のうち三年を経過した昭和六〇年一一月二一日以前に発生した分は時効により消滅したので、控訴人は本訴において右消滅時効を援用する。
抗弁に対する認否及び反論
一 抗弁に対する認否1 抗弁の1うち、(一)のユニパンチカタログに控訴人主張の記載があることは認めるが、その余は争う。
2 同2は認める。
3 同3、
4は争う。
4 同5のうち、本訴の提起が控訴人主張の日であることは認めるが、その余は争う。
二 反論1 ユニパンチカタログには、本件考案の構成は開示されていない。すなわち、本件考案において、パンチチップ15はパンチボデー1と異なる部材から成り、パンチボデー1の下端部に固定されているのに対し、ユニパンチ金型においてはパンチチップがパンチボデーと別部材とされていない。また、ユニパンチカタログに掲載されたユニパンチ金型においては、本件考案におけるパンチチップ15の周囲に適数ある溝に相当するもの及びパンチヒールに相当するものの各存在が不明である。
さらに、本件考案では、打ち抜き加工時に板押え5とダイ3により加工材Wを挟圧固定するが、ユニパンチカタログからは右動作は不明であるし、パンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3に係合する動作に対応する動作も不明である。本件考案では、パンチチップ15とパンチヒール19とを含む断面形状はダイ孔の形状とほぼ同一寸法であるが、この点もユニパンチカタログからは不明であり、以上からすれば、本件考案の構成がユニパンチカタログに開示されているとはいえない。
2 控訴人は、本件考案が全部公知であることを前提とした上で、イ号物件及びロ号物件が本件実用新案権を侵害しない旨を主張するが、右主張は、以下のとおり失当である。まず、本件考案技術的範囲が、実施例に限定されるべきである旨主張するが、考案技術的範囲実施例のみならず図面にまで限定するとの裁判例は従来なかったところであるし、そもそも考案の技術的思想と関わりのない単なる設計上の問題をとらえて、実用新案権の保護範囲とするとの主張は、実用新案権を限定して解釈する立場ではなく、その権利性を否定するものであって、失当である。また、控訴人は、本件考案技術的範囲の確定は不能であると主張するが、右技術的範囲は本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりであり、何ら不明確な点はない。さらに、控訴人は、被控訴人は本件考案について出願登録前に本件考案が公知の技術であることを知悉していながら、登録出願したものであるから、
本訴請求は権利の濫用であると主張するが、被控訴人が右事情を知悉していたことはないのであるから、右主張は前提を誤っているものであり、失当である。
証拠(省略)
理 由一 請求の原因一ないし五の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁について判断する。
1 抗弁一1(一)(ユニパンチカタログの記載内容)については、当事者間に争いがなく、右カタログに掲載された写真を図示すると別紙図面(三)記載のとおりとなることは、右別紙の記載内容と原審証人【B】の証言により成立の認められる乙第二ないし第四号証の各写真とを対比すれば、明らかであるから、以下、右別紙記載の符号を用いて本件考案とユニパンチ金型とを比較対照することとする。
2 当事者間に争いのないユニパンチカタログの前記記載内容及び原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証(本件考案に係る実用新案公報)によれば、別紙図面(三)記載の部材103が本件考案のダイ3に、同105が本件考案の板押え5に、同111が本件考案のスプリング11に、同115が本件考案のパンチチップ15に、同119が本件考案のパンチヒール19にそれぞれ相当することが認められ、他にこれを左右する証拠はない(部材101と本件考案の対応関係については後に検討する。)。
そして、本件考案の構成が請求の原因三1に分説したとおりであることは前記のとおり当事者間に争いがなく、以上によれば、ユニパンチ金型が本件考案の前記構成の(二)及び(四)ないし(八)を具備することが認められる。
3 そこで、まず、ユニパンチ金型が本件考案の構成(三)を具備するか否かについて検討する。当事者間に争いのない本件考案の登録請求の範囲には、構成(三)として、「パンチチップ15を板押え5の下端部で摺動自在に囲繞支持する」と記載されており、また、構成(一)として、「パンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押え5内に摺動自在に嵌合する」と記載されているところであり、この記載によれば、本件考案においては、パンチボデー1全体が板押え5と摺動自在に嵌合するのに対し、その下端部に固着(固定)されたパンチチップ15はその下端部では板押え5内に摺動自在に嵌合(囲繞支持)されているが、その上端部では板押え5内に摺動自在に嵌合(囲繞支持)されていない構成とされているものと認めることができる。これに対し、前掲乙第二ないし第四号証及び別紙図面(三)によれば、ユニパンチ金型においては、本件考案におけるパンチチップ15に相当する部材115の全体が本件考案における板押え5に相当する部材105内に摺動自在に嵌合しているものと認められるから、ユニパンチ金型が本件考案の構成(三)を具備しないことは明らかであり、この点において、既に、両者は構成を異にするものといわざるを得ない。
4 次に、ユニパンチ金型が本件考案の構成(一)を具備するか否かについて、パンチボデー1、パンチチップ15、パンチヒール19との構成上の関連において、
検討する。
(一) まず、本件考案の構成(一)についてみると、本件考案の前記登録請求の範囲の記載及び本件公報(前掲甲第二号証)によれば、パンチボデー1は、板押え5内に摺動自在に嵌合しており、板押え5より上方に突出したパンチボデー1の上端部にはパンチヘッド7を蝶着し、その下端部にはボルト13を介してパンチチップ15が固着されている。パンチチップ15の周囲には適宜な間隔に設けた溝17があり、右溝にはそれぞれ周面の一部が円弧状に切欠きされたパンチヒール19が摺動自在に係合し、右パンチヒール19は、パンチチップ15の鍔部15′に設けた孔21を貫通してその頭部19′はパンチボデー1に設けた孔23内に挿入され、その頭部19′とパンチボデー1との間に弾装したスプリング25により下方向に押圧されてパンチチップ15に保持されている旨の記載が認められ、他にこれを左右する証拠はなく、これらの記載からすれば、本件考案におけるパンチボデー1とは、その外側が板押え5に摺動自在に嵌合するとともに、その内部にパンチチップ15に保持されたパンチヒール19の頭部19′とスプリング25とを挿入保持するもので、その上端部は別部材であるパンチヘッド7の蝶着部を、その下端部は別部材であるパンチチップ15の固着部をそれぞれ構成するものということができる。しかして、本件考案の登録請求の範囲の記載自体からは、パンチチップ1とパンチヒール19との構成上の関連は明らかではないが、本件公報の前記記載が唯一の実施例として示されている別記図面(一)に即しての説明であり、また、パンチヒール19の有する打抜き機能、パンチチップ15の曲がりによるだれ防止機能等の確保の点からみて、本件考案は、パンチチップ15の周囲の溝に係合して設けられたパンチヒール19が、頭部より下端部はパンチチップ15内で保持されるが、頭部はパンチチップ15を固着しているパンチボデー1内の弾装したスプリング25により下方向に押圧されて保持される構成を前提としているものと認めることができる。
また、本件考案におけるパンチチップ15は、前記のように、その上端部をパンチボデー1への固着部とし、その上端部でパンチヒール19を保持し、板押え5の下端部で摺動自在に囲繞支持されているものということができ、また、当事者間に争いのない本件考案の登録請求の範囲の記載によれば、パンチチップ15はパンチヒール19の下端部を含む周囲をダイ3のダイ孔と同じ断面形状としているものであることが認められる。
(二) 次に、ユニパンチ金型をみると、前記当事者間に争いのないユニパンチカタログの記載内容中には、本件考案のパンチヒール19に相当する四個の挿入片119につき、右挿入片がパンチチップに組み込まれていること、右挿入片はバネ加重されていること、右挿入片は加工物によりカバーされないダイ開口部に入り込み、パンチとダイを整序する機能を果たす旨の記載があることが認められるところ、これと別紙図面(三)とを対比してみると、前記のとおり部材115がパンチチップの構成部分であることは明らかである。
そして、右カタログ掲載の写真によれば、部材101と同115との間に細線の存在が認められるところである。しかしながら、
右細線は文字どおり極めて細いもので右各部材が別部材であるのか同一部材であるのかは、右写真からは判然としないといわざるを得ないし、別部材とした場合の両者の連結固定手段も明らかではない(本件考案においては、前述したようにパンチボデー1の下端部に設けたボルト13を介してパンチチップ15がパンチボデー1の下端部に固着されているが、ユニパンチ金型のパンチチップ下端面には小さな孔が右写真から看取されるが、右孔の径は小さくこれが両部材の連結固定手段をなすとは認めがたいところである。)。
(三) そうすると、本件考案は前述したようにパンチボデー1とパンチチップ15を別部材とし、それぞれ前記のような機能を有するものとして構成されていることからすると、ユニパンチ金型の部材101と同115が別部材ではないのであれば、右各部材が本件考案のパンチボデー1、パンチチップ15と対応するとしても、既にこの点において構成を異にするものというべきであるが、以下においては、両部材が別部材である場合をも念頭において検討を進めることとする。
ところで、前記写真によれば、部材101の上端部は螺子部を構成しているところ、右螺子部は部材107に螺合するものと認められるので、この限りにおいては部材101は本件考案のパンチボデー1と同様の機能を果たしているものとみることができる。しかしながら、部材101の構造は、右写真から明らかなように、径の太い部分の幅は極めて短い上、径の細い部分の直径は挿入片119の配置されている位置の同芯仮想円のそれよりも小さいものと認められること、前記のように、
ユニパンチカタログには「バネ加重された挿入片がパンチチップに組み込まれている」と記載されており、右記載によれば、本件考案のパンチチップ15に相当する部材115片が挿入片とこれを押圧するバネを保持しているものと解されることからすると、部材101の内部に挿入片119やこれをバネ加重するためのスプリングを挿入保持しているものと推認することは困難というべきである。
しかも、部材101及び115が本件考案における板押え5に相当する部材105内を摺動するとき、部材101と部材105と摺接する部分は同115のそれに比べて少ないため、部材101、115及び119の全体のための嵌合支持機能は主として部材115が果たしているものであり、部材101の果たす役割は僅かなものというべきである。
以上からすれば、ユニパンチ金型における部材101は、本件考案におけるパンチヘッド7に相当する部材107に螺合する蝶着部の機能、ひいては部材115と同107を接続する機能のみを果たすにすぎないものと認められる。換言すれば、
ユニパンチ金型においては部材115が本件考案におけるパンチチップ15とパンチボデー1の両機能を兼有しているものと認められる。
ところで、本件考案におけるパンチボデー1は、前述したように、その外側が板押え5に摺動自在に嵌合するとともに、その内部にパンチヒール19の頭部19′とスプリング25とを挿入保持するもので、その上端部はパンチヘッド7の蝶着部を、その下端部はパンチチップ15の固着部をそれぞれ構成するものであるから、
前記のような構成と前記のような機能しか有しないユニパンチ金型の部材101を本件考案のパンチボデー1と同視することはできない。
(四) したがって、ユニパンチ金型は本件考案の構成(一)をも欠くものといわざるを得ない。
5 前記3及び4に説示したところによれば、本件考案はユニパンチカタログに記載された考案と同一であり全部公知であるとはいえないから、これを前提とする控訴人の抗弁二の1ないし3は、その余の点について判断するまでもなく、その前提を欠くものとして失当である。
6 次に控訴人は、イ号物件及びロ号物件はいずれも本件実用新案登録出願時に存在したユニパンチカタログに記載された公知技術の実施品であるから、右実施に対し本件実用新案権の効力は及ばないと主張する(抗弁二の4)ので、検討する。
前記各物件が本件考案の構成要件をすべて具備することは当事者間に争いがなく、本件考案の構成要件のすべてがユニパンチカタログに記載されていないことは、既に説示したとおりであるから、前記各物件をユニパンチカタログに記載された公知技術の実施品とみることはできないものというべきであり、控訴人の右抗弁は前提を欠くものであって、失当である。
三 進んで、被控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求について判断する。
1 主位的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)について 前記のように、控訴人らがイ号物件及びロ号物件を製造販売していたことは当事者間に争いがないところ、以上によれば、イ号物件及びロ号物件は本件実用新案権の技術的範囲に属するものであるから、控訴人らには右行為につき少なくとも過失があったものと推定される。そこで、以下、損害について検討する。
(一) まず、実用新案法29条1項に基づく主張についてみると、右条項の適用を受けるためには、実用新案権者が自ら当該実用新案権を実施していること要するところ、この点に関して原審証人【C】の証言中には、被控訴人が一時期、本件考案に係る製品を販売した旨の証言が存するが、右証言は具体性に乏しく、右証言のみから被控訴人が本件実用新案権を実施していたものと認定することは困難であり、他にこれを裏付ける的確な証拠はないから、結局、被控訴人が本件実用新案権を実施していた事実を認めるに足りる証拠はないものというほかない。したがって、前記条項の適用を求める被控訴人の主張は、その余の点について検討するまでもなく、採用できず、損害額の算定は実施料相当額によるべきである。
(二) ところで、仮に被控訴人主張の損害賠償請求権が発生したとしても、控訴人は消滅時効を主張しているので最初にこの点をみておくと、本訴の提起が控訴人主張の日であることは当事者間に争いがなく、控訴人が原審第八回口頭弁論期日において消滅時効を援用したことは記録上明らかであるから、これによれば、本件損害賠償請求権のうち昭和六〇年一一月二一日以前に発生した分は時効により消滅したものというべきであり、右抗弁は右の限度で理由があるものというべきである。
以上によれば、損害賠償額の算定を要するのは昭和六〇年一一月二二日から請求の終期である同六二年九月二五日までということになる。
2 予備的請求(不当利得返還請求)について(一) 控訴人らはイ号物件及びロ号物件を製造販売することにより本件実用新案権を実施していたものであることは、これまで述べてきたところから明らかというべきである。したがって、控訴人は請求の始期である昭和五六年一月一日以降同六〇年一一月二一日までの間の右実用新案権の実施料相当額の利得をし、被控訴人は右期間に右利得額に相当する損失を被ったものということができ、この間に因果関係があることは明らかである。
(二) また、原審証人【B】の証言によれば、控訴人会社は昭和五三年に設立された金型の製造を専門とする法人であることから、右設立当初から同業各社の扱う製品については実用新案権の有無等も含めて承知していたことが認められるところ、右証言によれば、承継前第一審被告コニック販売株式会社は控訴人製品の販売を担当する子会社として昭和五九年に設立されたことが認められるから、同社についても右事情は同様であるものと推認されるところであり、これによれば、控訴人らは、本件実用新案権の存在について悪意であったものというべきである。
3 次に損害額及び損失額について、検討する。
前記1及び2に説示したところによれば、控訴人は被控訴人に対し、昭和五六年一月一日から同六〇年一一月二一日までは不当利得として、同月二二日から同六二年九月二五日までは不法行為に基づく損害賠償として、いずれも本件実用新案権の実施料相当額を支払う義務がある。
成立に争いのない甲第一七号証によれば、本件実用新案権の実施料は売上高の五パーセントと算定するのが相当であると認められる。
そこで、右実施料算定の基礎となるイ号物件及びロ号物件の売上高をみるに、まず、被控訴人の損害額に関する主張2(一)を認めるに足る証拠はないから同(二)について検討するに、成立に争いのない甲第三号証及び証人【C】の証言により真正に成立したものと認められる甲第一六号証並びに同証言によれば、年間のパンチプレスの実働台数(別紙(四)A欄)と各パンチプレスが必要とするニブリング金型の台数(同B欄)からニブリング金型の販売台数を推定し(同C欄)、ニブリング金型の製造販売業者が被控訴人と控訴人らに限られていることから、右販売台数から被控訴人の販売台数(同D欄)を控除して控訴人らの販売台数を推定し(同E欄、なおF欄はイ号物件、G欄はロ号物件である。)、イ号物件の販売台数(同F欄)には単価五万円を、ロ号物件の販売台数(同G欄)には単価三万九五〇〇円をそれぞれ乗じて控訴人らの売上高を算出し推定したものが同H欄(I欄はイ号物件、J欄はロ号物件の各売上高)であり、この算出方法は合理的であると認められる。したがって、別紙(四)のH欄記載の額を基礎として実施料を算定すべきである。
まず、控訴人が不当利得として返還すべき期間である昭和五六年一月一日から同六〇年一一月二一日までの間の売上高は、昭和六〇年四月一日から同六〇年三月三一日までの売上高二三九四万二〇〇〇円を日割計算して算出した昭和六〇年四月一日から同年一一月二一日までの売上高一五四一万四七一二円に、その余の期間である昭和五六年一月一日から同六〇年三月三一日までの売上高三四七三万九五〇〇円を加えた五〇一五万四二一二円であり、控訴人が支払うべき実施料相当額はその五パーセントである二五〇万七七一一円となる。
次に、控訴人が不法行為に基づく損害賠償を支払うべき期間である昭和六〇年一一月二二日から同六二年九月二五日までの間の売上高は、前記の昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの売上高二三九四万二〇〇〇円を日割計算して算出した昭和六〇年一一月二二日から同六一年三月三一日までの売上高八五二万七二八八円に、同六二年四月一日から同年九月三〇日までの売上高二八四三万四〇〇〇円を日割り計算して算出した同年四月一日から同年九月二五日までの売上高二七六五万七一一五円、及びその余の昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの四五六七万七五〇〇円を合算した八一八六万一九〇三円であり、控訴人が支払うべき実施料相当額はその五パーセントである四〇九万三〇九五円である。
なお、控訴人は昭和六〇年一一月から同六三年一〇月までのイ号物件及びロ号物件の売上高を自認しているから、昭和六〇年一一月から本訴請求の終期である同六二年九月の右各物件の売上高については控訴人の自認の限度で当事者間に争いのないことになるが、被控訴人が右自認額を超える額を売上高として主張し、前記のように、右主張額が証拠により合理的なものとして認められる以上、右自認額を基礎として、利得額及び損害額を算定すべきでないことはいうまでもないところである。
4 以上によれば、被控訴人は控訴人に対し、不当利得として二五〇万七七一一円、不法行為に基づく損害賠償として四〇九万三〇九五円(合計六六〇万八〇六円)を請求し得べきところ、原判決の認容額はいずれも右金額以下であり、かつ被控訴人は右認容額について不服を申し立てていないのであるから、結局、被控訴人の不当利得返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容した原判決に対する本件控訴は理由がないことに帰する(本訴請求中謝罪広告を求める部分は棄却され、この点について被控訴人は不服を申し立てていない。)。
四 結論 以上のとおりであり、本件控訴は理由がないから民事訴訟法384条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法95条89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 松野嘉貞
裁判官 舟橋定之
裁判官 田中信義