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関連ワード 均等 /  間接侵害 /  考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  物品の形状 /  物品の構造 /  新規性(3条1項) /  削除 /  特定 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 42年 (ネ) 1104号
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裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1969/05/08
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事仮処分
主文 本件控訴を棄却する。
控訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
(当事者の求める裁判) 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の本件申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
(当事者双方の主張および疎明関係) 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに疎明資料の提出、援用および認否は、つぎのとおり変更、追加および削除をするほか、原判決の事実欄の記載(原判決添付の(イ)号ベルトの説明書および図面を含む)と同一であるので、みぎ記載を引用する。
(被控訴人の主張について)一、原判決二枚目表五行目に「(一)」とある次に、「本件実用新案権の帰属」と追加し、行を変えて、同行目の「申請人は」との記載に続ける。
二、同枚目表九行目冒頭から同三枚目表六行目末尾までをつぎのとおりに変更する。
(二)、実用新案権の範囲(1) 実用新案公報に登載された本件新案権の範囲 実用新案公報によれば本件新案権の登録請求の範囲は、同公報添付図面(別紙図面のとおり)に示すように「所要着付に腰揚げ(1)を施した和服の下前襟(2)をクリツプ(3)で挟持した中間に伸縮具(4)を有するバンド(5)の他端を身八ツ口から背部外側を廻してクリツプ(3)’で上前襟(2)を挾持して成る和服下締具の構造。」である。
(2) みぎ登録請求の範囲についての解釈 みぎ登録請求の範囲は、婦人用和服の下締具であつて特定の形態構造を有するバンド自体(これをb点と称する。)を対象とするものであつて、みぎバンドの形態構造特定するためにバンドの使用場所(これをa点と称する。)および使用方法(これをc点と称する。)とを併記したものである。すなわち、本件新案権の範囲は、b点、すなわち「両端にクリツプを取り付け、中間に伸縮具を有する構造のバンド」そのものであつて、a点、すなわち「所要着付けに腰揚げを施した和服」の下締具であること、およびc点、すなわち「下前襟をクリツプで挾持し、バンドの他端を身八ツ口から背外側を廻して、クリツプで上前襟を挾持する」方法で使用するものであることは、b点の補足的説明に過ぎない。したがつて、本件新案権は本件バンドの構造(b点)のみに関する考案である。
(三)、本件新案権に対する控訴人の侵害(1) 直接侵害(その一) 控訴人は原判決添付別紙(イ)号図面およびその説明書に示す和装ベルト(商品名は当初和装ベルトと称していたが本訴提起後マイテイベルトと改称した。以下(イ)号ベルトと略称する。)を業として製造販売し、本件新案権を侵害している。すなわち、(イ)号ベルトは、伸縮バンドの両端にクリツプを設け、中間に両端クリツプの間隔を調節する伸縮具を有する構造のものであつて、しかも婦人和装の下締具として本件新案権によるベルトと同一の方法で使用されるものであるから、このような構造の婦人和装下締具を業として製造販売する行為は被控訴人の本件新案権を侵害するものである。
(2) 直接侵害(その二) 仮に本件新案権の範囲が前記a、b、c三点の要件の全部を具備した物品に限られるとしても、(イ)号ベルトはみぎa、b、c三点の全部について本件新案権の範囲に属するベルトと均等または共通であつて、控訴人の(イ)号ベルトの製造販売は本件新案権に対する実用新案法27条所定の直接侵害に該当する。すなわち、
控訴人は(イ)号ベルトを製造販売するに当つて、商品名を和装ベルトと名付けて広告し、商品の外箱上および説明書中にも「和装ベルト」と商品名を明記し、説明書の図面および説明文の記載内容も本件新案権による商品コーリンベルトの図面および使用方法の説明文と全く同様の記載をしているばかりでなく、実際の商品そのものも材料、形状、構造、大きさ(幅および長さ)等すべて本件新案権による商品と区別できないものであるから、控訴人製造販売にかかる(イ)号ベルトは前記a、b、cの三点の全部について本件新案権によるベルトと同一であつて、みぎ製造販売は本件新案権の直接侵害に当る。
(3) 間接侵害 仮に(イ)号ベルトの製造販売が本件新案権の直接侵害に該当しないとしても、
前記a、b、c三点の要件全部を具備する物品はb点の構造のベルトを必須的構成部分としていて、b点の構造のベルトは専らa、b、c三点を具備した物品の製造のみに使用される物品に該当するから、(イ)号ベルトを業として製造販売することは本件新案権に対する実用新案法28条所定のいわゆる間接侵害に該当する。」三、原判決三枚目表最終行目から同枚目裏一行目にかけて「著手」とあるのを「着手」と訂正する。
四、原判決六枚目表七行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。
「(三)、控訴人は、(イ)号ベルトについては婦人和装下締具としての用途以外の用途があるからa、b、c三点の要件を具備した本件新案権の実施物品の製造のみに使用される物品には該当しないと主張するが物品の用途は物品の通常のまたは主要な用途が何であるかを社会通念に従つて判断すべきで、たまたま稀に他に用途に流用可能であつても、本来の用途が変更または拡張されたと云うことはできない。控訴人の所論はこぢつけに過ぎない。」(控訴人の主張について)一、原判決六枚目表最終行目冒頭から同枚目裏六行目末尾までをつぎのとおり変更する。
「(二)、同1、(二)、(1)の事実は認めるが、同1、(二)、(2)の事実は争う。
(三)、同1、(三)、(1)のうち控訴人が(イ)号図面および説明書に示す物品を製造、販売していること、(イ)号ベルトの構造が被控訴人主張のとおりであることは認めるが、その余の点は争う。
(四)、同1、(三)、(2)、(3)および(四)は争う。
(五)、同2、(仮処分の必要性)は争う。
二、同八枚目裏三行目に「効果を秦する」とあるのを「効果を奏する」と訂正する。
三、同八枚目裏九行目末尾の次に行を変えて次のとおり追加する。
「(五)、実用新案法28条の趣旨は、「登録実用新案権の完全な侵害品が市場(小売店等)に広く出まわつているが、直接の侵害者である製造業者が巧妙に隠くれて容易に発見できない場合、」または「登録実用新案に係る物品の各部分の全部をセツトとして販売している場合」に、このように本来は実用新案権の直接侵害行為には該当しない正当な行為によつて脱法的に新案権を侵害する行為から権利者を保護するために、みぎ脱法的正当行為を「権利侵害とみなす」旨を規定したものであつて、ややもすれば濫用のおそれがあるので、「登録新案に係る物品の製造にのみ使用する物」と極めて制限的に規定しているのであるから、本条の解釈は注文の文言どおり厳格にしなければならない。すなわち、みぎ制限規定に該当するためには、実用新案物品の製造に使用されることが客観的に明白で、かつそれ以外に用途が全くないことが必要であつて、いやしくも他に用途がある以上産業上の使用効果が認められない場合もみぎ間接侵害に当る場合には該当しない。また新案権侵害品の製造のために使用されている見込みが大であつても単にそのように推定されるにすぎない場合には、間接侵害に当るとするには足りない。
しかるに、(イ)号ベルトはそのままの状態で完成商品で、なんら手を加えることなくそのままの状態で使用されるのであつて、どんな意味でも他の物品の製造に使用されることはない。それは(イ)号ベルトそのものの使用であつて、他の物品の製造のための使用ではない。また、(イ)号ベルトはたすき、ブツクホルダー等和装下締具としての用途以外の用途があるから、本件新案権による商品の製造のみに使用されるものと云うことはできない。」(疎明関係について)(省略) 理 由一、当事者間に争いのない事実 被控訴人が本件新案権の権利者であること、本件新案権の登録請求の範囲が別紙図面(実用新案公報添付図面)に示すように「所要着付けに腰揚げ(1)を施した下前襟(2)をクリツプ(3)で挾持した中間に伸縮具(4)を有するバンド(5)の他端を身八ツ口から背部外側を廻してクリツプ(3)’で上前襟(2)を挾持して成る和服下締具の構造」であること、控訴人が別紙(イ)号図面および説明書に示す和装ベルト((イ)号ベルト)を製造販売していること、(イ)号ベルトが本件新案権の考案の構成要件中控訴人のいわゆる」の構成要件に該当する物品、すなわち、
「両端にクリツプを取り付け中間に伸縮具を有するバンドbであること、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、争点についての判断(一)、被控訴人の営業および本件新案権の出願、登録等 成立に争いのない疎甲第一九、第二二号証に徴すると、被控訴人が着物ベルトその他服飾衣料品等の普及を事業目的とする会社であることが認められ、成立に争いのない疎甲第一、第二号証に徴すると、本件新案権は、昭和三一年八月二二日考案者訴外Aが出願し、昭和三三年九月一一日出願公告(第一四、七三六号)があり、
昭和三四年六月三〇日登録番号第四九六、五二八号をもつて実用新案権の登録があり、昭和四一年七月三〇日Aから被控訴人に譲渡されたとして昭和四一年一二月一〇日受付第三八二〇号の登録申請に基づいて昭和四二年一月二〇日被控訴人を取得者とする実用新案権取得登録がされたことが疎明される。
(二)、本件新案権の権利範囲について 前記当事者間に争いのない本件新案権の登録請求の範囲は、文章の構成部分に分析すると、「a、所要着付けに腰揚げを施した和服」、「b、両端にクリツプを取り付け中間に伸縮具を有するバンド」、「c、一方のクリツプでaの和服の下前襟を挾持し、バンドの他端をみぎ和服の身八ツ口から背部外側に廻して、みぎ他端に取り付けた他方のクリツプでみぎ和服の下前襟を挾持して成る和服下締具の構造」の三点に分けられるのであるが、みぎ「登録請求の範囲」の記載の趣旨に関して、
被控訴人は、第一次的主張(被控訴人の直接侵害その二および間接侵害の主張は、
登録請求の範囲についての第一次主張とは別個の解釈を根拠とするものである)として、本件新案権は和服下締具のb点記載の構造に対して与えられたものであつて、a点およびc点の記載はいずれも対象物品の構造そのものには関係のない附随的事項の記載にすぎないと主張するのに対して、控訴人は、本件新案権はa点記載の構造の和服とb点記載の構造バンドとがc点記載の構造をもつて結合された組合せ物品に対して与えられたのであつて、みぎ三点記載の構造全部を具備する物品に限り本件新案権の権利範囲に包含され、そのいずれかを欠くものはみぎ権利範囲に含まれないと主張する。当裁判所は、本件新案権の「登録請求の範囲」の記載の趣旨は、本件新案権の権利範囲を、b点記載の構造のバンドのうち、a点記載の和服の下締具としてc点記載の使用方法をもつて使用されるべき構造のものに限定するものであると解するものであるが、その理由はつぎのとおりである。
(1)、本件新案権は旧実用新案法施行当時出願されたものであること。
すなわち、新実用新案法は昭和三五年四月一日から施行された(同法施行法1条)のであるから、さきに疎明された事実関係によると、本件新案権は旧実用新案法施行当時に出願および登録された旧法による実用新案権に当る(新法施行法3条参照)わけである。しかるに、旧法(大正一〇年法律第九七号)1条22条1項2号、旧法施行規則(大正一〇年農商務省令第三四号)2条によると、実用新案権は「実用ある新規の型の工業的考案」に対して与えられるのであつて、出願書の登録請求の範囲の項には「実用新案が物品の形状構造又は組合せのいずれに係るかを記載すべき」ものであるから、みぎ旧法により出願された本件新案権の「登録請求の範囲」の項の記載は、物品の形状構造または組合せのいずれかを記載したものと解すべきものであるが、旧法による実用新案法出願の場合には、新法5条4項のような「登録請求の範囲」の項に記載すべき事項についての厳格な制限がなく、
往往にして、同項中に考案の要部のみならず関連事項にわたつて記載することがあり、同項中に記載するところ全部が不可分的に実用新案の必須的構成部分であるとは限らない一面があると共に、他面において、同項の記載のみでは当該実用新案権の権利範囲が明確でなく、「説明書」その他の項の記載事項、その他諸般の事情により、権利範囲を判断しなければならない場合も生ずるわけである。(疎甲第一八号証参照)みぎの事情から、旧法による実用新案権の権利範囲を確定するにあたつては、出願公告に登載された「登録請求の範囲」の項の記載をもつて判断の有力な資料となすべきことはいうまでもないが、みぎ記載の文字のみに拘泥することなく、
すべからく、考案の性質、目的または説明書のその他の項の記載事項および添付図面の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきであり(最高裁判所昭和三九年八月四日判決民集一八巻七号一、三一九頁)、また、実用新案は出願当時における技術水準を超越したものに対して与えられるものであるから、「登録請求の範囲」の項の記載事項のうちいかなる事項について実用新案権が与えられたかは、
当時における技術水準を勘案して決定するのが当然である(特許権についての同旨の判例として最高裁判所昭和三七年一二月七日判決民集一六第一二号二、三二一頁参照。この点につき特許と実用新案とを区別して論ずべき実質的理由を見出すことができない)。したがつて、本件新案権の権利範囲の確定にあたつても、前記「登録請求の範囲」の項の記載の趣旨は一見して明瞭であるとは云い難いものがあるから、みぎ記載の字句に拘泥することなく、前述したような諸般の事情を勘案して実質的に権利範囲を判断する必要がある。
(2)、本件新案権の実用新案公報の記載自体から形成的に判断しても、前記当裁判所の判断が相当であること。
本件新案権が控訴人の主張するように特定の和服と特定のバンドとの組合せに対して与えられたものであるならば、前記旧法施行規則2条により本件新案権の実用新案公報中にこのような「組合せ」であることを表明する文言が記載されているはずであるのに、前顕疎甲第二号証によると、みぎ実用新案公報中には、表題として「和服下締具」と記載し、「登録請求の範囲」の項の末尾に「和服下締具の構造」と記載していて、「組合せ」なる字句の記載は見当らない。したがつて、本件新案権はみぎ実用新案公報の記載自体から形式的に判断しても、特定の和服と特定のバンドとの組合せに対して与えられたものではなく、和服下締具の構造そのものに対して与えられたものと解するのが相当である。他面において「出願書の登録請求の範囲の項には前述したとおり、「実用新案が物品の形状構造又は組合せのいずれに係るかを記載すべき」ものであるから、同項の記載はできるかぎりみぎ記載事項のいずれかを記載したものと解すべきであつて、本件新案権の「登録請求の範囲」の項の記載もまた前記a、b、c三点の記載全部が直接または間接に和服下締具の構造に関する記載であると解するのが相当で、被控訴人の主張するように、同項の記載のうち、b点の記載のみが和服下締具の構造に関するもので、a点およびc点の記載はみぎ構造に関係のない附随的事項に関するものであるとの見解に左袒するわけにいかない。
(3)、控訴人主張の物品は実用的でなく、みぎ物品の形状構造に対して実用新案権が与えられたと解するのは常識上不合理であること。
すなわち、前記a点の記載は、少女和服、婦人仕事着等腰揚げを施さない特殊な婦人和服を除く通常一般の婦人和服を指称しているのであつて、控訴人の主張するように「縫揚げ」を施した和服を指称しているのではないことは、本件新案権の考案の性質上および婦人和服についての常識上明白である。けだし、「縫揚げ」とは和服の身丈けを縮めるため和服の腰部をたくりあげて三重にしてその部分を縫付け固定したものを指称し、場合によつては「腰揚げ」と呼称されることがないわけではないが、通常一般に「腰揚げ」と称するのは、和服腰部をたくりあげて三重にし紐で結んで暫時固定したものの呼称であること、いわゆる「縫揚げ」は幼年男女和服(四ツ身と称する)または男和服に施すものであつて通常の婦人服には施されないこと、および、「縫揚げ」を施した和服には通常は帯揚げ腰紐等の下締具類の使用を必要としないことは、和服についての常識として公知の事実であるところ、本件新案権の実用新案公報(前顕疎甲第二号証)の「説明書」の項の記載によると、
みぎ新案権による和服下締具はこのような「縫揚げ」を施した和服に使用する目的のものではないことは明らかであつて、考案の性質上、a点の記載は「縫揚げ」ではない「腰揚げ」を施した和服と解すべきである。
そして、このような通常の婦人和服と特定構造のバンドとが特定の形状、構造をもつて組合わされて一体をなした物品の構造が本件新案権の考案であると解するとすれば、みぎ考案のバンドを買い受けようとする者はバンドに結合された和服も同時に買い受けねばならないことになり、和服に対する一般婦人の好みの多様性と価格の点のみから考えてもこのような組合せ品は実用性がなく、「実用ある新規の型の工業的考案」に対して与えられるべき実用新案権がこのような実用性皆無の物品に対して与えられたと解するのは常識に反する。したがつて、本件新案権の範囲が前記組合わされて一体をなした物品の構造であるとは到底解されない。
(4)、本件新案権の出願当時の技術水準から考えて前記当裁判所の判断が妥当であること。
すなわち、本件新案権の出願時以前から市中で販売されていた商品の中には、靴下留め、ワイシヤツの袖吊り等前記b点記載の形状、構造に近い商品が多数にあつたことは公知の事実であるから、仮に当時厳格にb点記載の形状、構造どおりの物品がなかつたとしても、このように既知の考案のみを平凡に組み合わせたにすぎないb点記載のバンドになんらの制限も付けないで実用新案権が与えられるとは、旧法1条の趣旨からも考えられないことであつて、本件新案権がb点記載の構造のバンドにつき無制限に与えられた旨の被控訴人の主張は採用できない。他面において、前出疎甲第二号証、原審証人Bの証言により成立が認められる同第三号証、成立に争いのない疎甲第一八、第二一、第二二号証、当審証人B、同Aの各証言に徴すると、本件の考案に対して実用新案権を与えるに足りる新規性があると特許庁に認められたのは、みぎb点記載の構造をもつたバンドを婦人和服の下締具として使用する点にあつたと考えるほかはなく、そうすれば本件新案権はb点記載の構造のバンドのうち婦人和服の下締具として特定の形状、構造を持つたものに限定して与えられたと解すべきであつて、前記旧法施行規則2条所定の「登録請求の範囲」の項の記載事項についての技術的要請から考えて、a点およびc点の記載はみぎ形状、構造を限定するためのものと解するのが相当である。
(5)、本件新案権の場合には、物品の使用目的および使用方法をもつて物品の形状構造を規制することが可能であること。
すなわち、本件新案権にあつては、前記a点記載の使用目的およびc点記載の使用方法をもつて、間接的に、バンド、クリツプおよび伸縮具の大さき(殊にバンドの長さおよび巾、これによつて靴下留め、ワイシヤツの袖吊り等から区別できる)、材料(素材は繊維製品であることを要し金属皮革でないこと)、形状、構造等をある程度明確に規制することができる。このような物品の使用目的および使用方法をもつて物品の形状構造を間接的に規制する方法が実用新案の「登録請求の範囲」に記載方式として妥当であるかどうかについては疑問があるが、みぎ疑問点は実用新案無効の審判においてはともかく、本件のような実用新案の権利範囲を判断する場合には直接の妨げにはならない。したがつて、いやしくも「登録請求の範囲」の項にみぎのような疑問のある記載がなされている出願に対して実用新案権が付与されている以上、みぎ新案権の権利範囲を判断する場合には、そのような解釈が可能で且つ合理的である限り、みぎ記載は不要の事項を記載したのではなく、物品の形状構造を規制したものであると解するのが相当である。もつとも、みぎのような方法で物品の形状構造を規制するのは、実用新案の登録請求の範囲の記載方式としては必ずしも妥当なものではないから、みぎ記載を物品の形状構造そのものの直接的な記載であると解することが可能で且つ合理的な限り、みぎ記載を形状、構造そのものの直接的な記載であると解すべきものではあるけれども、本件の場合には、既に述べたとおり、前記諸般の事情に徴し、本件新案権の「登録請求の範囲」の記載を物品の形状構造そのものの直接的な記載であると解することは不可能ではないが、合理的ではないことが明らかである。
(6)、本件新案権の「登録請求の範囲」中の「……して成る……」との記載は必ずしも以上当裁判所の判断と牴触するものと云えないこと。
すなわち、本件新案権の登録出願人Aが、出願の際に、特許庁との間の往復文書において、
「登録請求の範囲」の記載を「……挾持するようにした……」から「……挾持して成る……」と訂正したことは成立に争いのない疎乙第一六号証の一ないし一〇によつて認められるところであるが、前記諸般の事情に徴し、みぎ出願人の意思に関する限り、両者は同一の事項について表現方法を変更しただけのものと解すべきであつて、特許庁としても同項の記載を物品の形状構造の型についての考案を記載したものとなるように表現方法を訂正したまでのことで、実質的内容について別個の新たな新案権の出願に変更させたものとまでは前掲疎乙第一六号各証上認められないから、新案権付与の当否の審理段階での考慮としてはとにかく、新案権の権利範囲の確認の際には、必ずしもこのような字句の末節に拘泥するを要しない。
(7)、被控訴人は、登録異議答弁書(疎乙第一六号証の一二)において、本件新案権の対象である考案が、和服とバンドとの組合せに関する考案であると主張していないこと。
すなわち、前掲疎乙第一六号証の一二によれば、被控訴人は登録異議答弁書中で「本件実用新案は和服下締具であつて、バンド自体を要旨とするものでなく、和服との組合せによつて説明書所記のような効果を奏するものであつて、……」と記載していることが認められるが、みぎ被控訴人の用いた「組合せ」と云う文字の意味は、旧実用新案法施行規則2条にいわゆる「組合せ」すなわち二個以上の特定形状、構造物品組合せの意味ではなく、単に「使用目的が和服下締具に限定されたものである点において」と云う意味に過ぎないことは前記文章の前後の関係から明らかである。
以上の当裁判所の判断と相容れない被控訴人の前記主張ならびにみぎ主張に副う疎甲第三、第一八、第二一、第二二号証および当審証人C同Aの各証言の各一部と控訴人の前記主張ならびにみぎ主張に副う疎乙第九、第一八、第一九、第二〇、第二一、第二五号証および当審証人D、同Eの各証言とは、採用できない。
(三)、本件新案権に対する控訴人の侵害 前記本件新案権の権利範囲と前記当事者間に争いのない控訴人が(イ)号ベルトを業として製造販売している事実と疎検甲第一、第二号証の検証の結果および疎甲第七号証とを総合すると、控訴人が製造販売している「和装ベルト」ないし「マイテイベルト」は、被控訴人が本件新案権の実施として製造している「コーリンベルト」と形状、構造および使用目的、使用方法の点で同一であつて、前述した本件新案権の「登録請求の範囲」に記載された和装下締具に該当する物品であることを認めることができ、業としてみぎ(イ)号ベルトを製造販売する行為は、被控訴人の本件新案権を直接に侵害する行為に当ると云わねばならない。
(四)、本件仮処分の必要性 前記控訴人が(イ)号ベルトを業として製造販売して被控訴人の本件新案権を侵害している事実、成立に争いない疎甲第二二号証によつて成立を認める同第六号証、成立に争いのない同第二〇号証によつて成立を認める同第九号証、成立に争いがない同第一九、第二〇号証、同第二二ないし同第二五号証、当審証人Aの証言により成立を認める同第二六ないし第三三号証、同第三四号証の一、二、同第三五、
第三六号証、同第三九号証の一ないし七八、および当審証人Aの証言を総合すると、被控訴人は、多大の労力と費用とを投じて新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等を通じて本件新案権実施として製造している「コーリンバンド」のために宣伝普及につとめ、その結果商品の効用と優秀さが世人に認識されるようになつたこと、他方控訴人は(イ)号ベルトを製造販売し、かつ(イ)号ベルトを製造販売することはなんら本件新案権に牴触しない旨を一般消費者に強調して一層販路を拡張しようと努めていること、控訴人のみぎ行為のために被控訴人の「コーリンベルト」の販路が著しく侵害され、被控訴人が多大の損害を被つていること、控訴人の(イ)号ベルトの製造販売をこのまま継続させると被控訴人の損害は更に増大し、被控訴人の回復し難い損害を与えることが一応認められ、この認定に反する疎明はない。
よつて本件仮処分の必要性が肯認できる。
三、結論 以上の理由により、
被控訴人において控訴人に対し保証金二〇〇万円を供託することを条件として本件仮処分申請を認容した原判決は結論において相当であつて、本件控訴は失当として棄却を免れない。
よつて、民訴法384条89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 三上修
裁判官 長瀬清澄
裁判官 古崎慶長