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事件 昭和 41年 (行ケ) 132号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1969/09/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、昭和四十一年六月二十日、同庁昭和三四年抗告審判第一、八六四号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
原告は、請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和三十二年九月二十七日、名称「MY式法律会計特許事務処理カード」につき実用新案登録の出願をしたが、昭和三十四年八月二十日拒絶査定を受けたので、同年九月七日抗告審判の請求をし、同年抗告審判第一、八六四号事件として審理された結果、昭和四十一年六月二十日「本件抗告審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は同年八月一日原告に送達された。
二 本件審決理由の要点 本件審決は、本願考案の要旨を認定するに当たり、まず、「請求人(原告)は当審において手続補正書として全文訂正明細書及び全訂正図面を差し出しているが、
これには本出願当初の説明書及び図面に何ら記載のない事項(例えば、事務記録書(A)における到着、来訪者の種別、援助欄、事務記録書(B)における到着、発信(話)、通話(信)先、対話(信)者欄、事件処理報酬実費計算書(B)に関する説明及び第四図全体、請求書領収書(A)における依頼者、相手方、請求者欄、
通知書に設けた記載欄に関する連絡通知事項を通知書に記載することなど)が考案の要旨として、登録請求範囲を含む明細書及び図面に書き加えられていて、本出願の要旨を変更したものと認められるから、これを採用することはできない」としたうえ、出願当初の説明書全体の記載により、本願考案の要旨を「別紙第一図ないし第七図に示された記載欄及び欄外説明文字を有する事務記録書(A)、(B)、事務処理実費計算報告書、請求書兼領収書、事務処理費精算書、通知書からなる法律会計特許事務処理カード」(別紙当初図面第一図ないし第七図参照)と認定し、特公昭三〇-五、四一八号公報(以下「引用例」という)には、氏名記入欄、番号及び摘要欄、金額欄、捺印欄等を表示した売上勘定票、売上金入金票、売掛金勘定元帳票、領収証、納品書、物品受領書など組のカードと、これとほぼ同じ欄を設けた他の数組のカードを備えた業務処理カードが記載されているが、事務処理カードにおいて、数組のカードを組合わせたもの及びそれぞれのカードにおいて、必要な記載欄を適当に配置して業務を正確迅速に行ない、また収支計算を能率的に処理しうるようにしたものは、右引用例などによつて本願出願前公知であり、本願考案のものは、その対象とする業務内容を異にしていても、本願の各カードにおける記載内容及びカードの種別は、いずれも、法律、会計、特許の事務内容として普通に取り扱われている事項にすぎず、各カード間の相互関係にも、右事務内容を処理するに際して格別新規な機能を発揮するものと認めるに足りるほどのものはないから、本願考案程度のものは、当業者が、引用例による前記公知事実に基づいて、必要に応じて極めて容易に、その業務に実施することができるものと認めるのが妥当であり、本願考案は、旧実用新案法(大正十年法律第九十七号)第1条考案とは認められず、出願を拒絶すべきものである、としている。
三 本件審決を取り消すべき事由 本件審決は、次の二点において判断を誤つた違法があり、取り消されるべきものである。すなわち、
第一に、本件審決は、本願考案の要旨の認定を誤り、したがつて、引用例との比較において事実を誤認したものである。本願考案の当初の説明書の記載に基づく考案の要旨が、本件審決認定のとおりであつたことは、争わないが、原告は、昭和三十九年六月二日、本願考案につき手続補正書を提出して、説明書の全文を訂正するとともに、登録請求の範囲の記載を別紙のとおり訂正し、かつ、図面全部を別紙のとおり訂正した(別紙訂正による実用新案登録請求の範囲及び訂正図面第一図ないし第八図参照)。右訂正前の当初図面及び説明書に、形式的には、本件審決の指摘するような諸事項の記載がなく、これを右手続補正書によつて訂正すべく書き加えたものであることは、審決の説くとおりである。ところで、本願考案の目的は、法律、会計、特許事務について、これを能率的に処理し、その合理化を促進し、また、依頼者に対しては事務処理の経過や報酬、実費等を明確に報告、了知させようとするにあり、このような目的に照らすと、右訂正によつて新たに書き加えた諸事項は、当業者なら当初の説明書及び図面の記載に基づいて当然に考え及ぶべき技術的事項であり、当初の説明書及び図面に基づく考案要旨に本質的な変更を加えるほどのものではない。以下、この点につき、本件審決の指摘する諸事項のうち、三点に限つて詳論する(なお、原告としては、前記手続補正書による訂正が、要旨の変更をもたらすか否かについては、以下の三点について判断を受ければ十分であり、
更に進んで他の事項についてまで判断を求めるものではない。)。
(一) 事務記録書(A)、(B)(第一、二図〉において、依頼、申入、援助事項欄に横罫線を書き加えた点について。
一般に、カード類の記載欄として、白地のものと横罫線のものとは、周知慣用のものであり、したがつて、白地のものを横罫線のものに書き換えたところで、それは単なる慣用技術の置換にすぎず、考案の要旨に変更を来たすべき記載欄の変更ではない。また、実質的にみても、本来横書きの本願考案のカードに横罫線を加えたからといつて、その記載方式を限定したり変更したりしたことにはならず、この点について被告の主張する作用効果上の差異は、全く形式的な議論にすぎない。したがつて、白地欄に横罫線を書き加えたことは、本願考案の目的、機能に照らし、これに本質的な変更を加えるようなものではなく、当業者ならば当然に考え及ぶ技術常識であり、要旨の変更とすべきものではない。
(二) 事務記録書(B)(第二図)の記載欄上から二行目左端に「受付」とある表示を「到着、発信(話)」と書き改めた点について。
法律、会計、特許事務について、依頼又は申入れが電信、電話によつてされることがあるのは当然のことであり、したがつて「受付」の概念には、来所又は訪問による受付のほか、電信、電話による受付をも包含するものであることは、当業者ならば容易に予測できることであり、「受付」を「到着」「発信(話)」と訂正したところで、それは、実質的変更のない訂正補充であるか、またはいつそう精密な表示をしたにすぎないものであり、そのため特に新たな作用効果上の差異を生ずべきものでもない。したがつて、右訂正をもつて要旨変更とすべき根拠はない。なお、
右訂正にかかる記載例をもつて、被告の主張するように、時間的報酬計算法による時間計算の根拠とすべき時刻記入表示のためのものである旨、狭く限定的に解すべきものではない。
(三) 事務処理実費計算報告書(当初図面の第三図)の表裏両面を切断して、事件処理報酬実費計算書(A)(訂正図面の第三図)と同(B)(同第四図)との二枚の図面とした点について。
本件審決は、訂正により第四図全体が新たに書き加えられたと判断し、また、被告は、当初の図面においては、第三図と第四図との間に図番号のない図面が連綴されていた旨主張するが、当初の図面の第三図は、全紙一枚の図面を半折して綴り込んだものであり、これが表裏両面の関係にあつたものであるから、その裏面に当たる部分に図番号を付さなかつたのは当然のことである。そして、訂正図面の第四図は、当初の図面の第三図の裏面の部分と形式的に多少の相違点はあるが、本質的には異なるものではなく、単に、当初の図面の第三図の欄外文字と同一文字をやはり欄外に転記したにすぎないものである。被告は、当初の説明書にカードの枚数及び表裏両面に記載欄を設けたものがあることは、明確な記載がないというが、これは、説明書と図面とを注意して見ればすぐ判別できることであり、また、訂正説明書によつても、右表裏両面の関係及びこれを切断して二枚の図面としたことを窺知しえないというが、これまた、当初のものと対比してみれば一見明瞭なことであり、何ら異とするに足りず、原告が本願考案の要旨と無関係な事柄を主張しているものでないことは、明らかである。
以上三点について述べたところによつて明らかなとおり、原告が前記手続補正書によつてした説明書及び図面の訂正は、考案の要旨を変更すべぎものではなかつたにかかわらず、本件審決は、要旨の変更ありとして、当初の説明書及び図面に基づいて本願考案の要旨を認定したのであるが、これは、結局、要旨の認定を誤り、ひいては引用例との比較において判断を誤つたことになるといわねばならない。
第二に、仮りに、本件審決が本願考案の要旨の認定を誤つたものではないとしても、訂正前のものをもつて、引用例に基づく公知事項から容易に実施しうるとした点において、事実を誤認した違法がある。すなわち、原告は、訂正前の本願考案の要旨が審決認定のとおりであること、引用例に審決認定のとおりの業務処理カードの記載があること、また、審決認定のように、事務処理カードにおいて、数組のカードを組み合わせたもの及びそれぞれのカードにおいて必要な記載欄を適当に配置して業務を正確迅速に行ない、また収支計算を能率的に処理しうるようにしたものが、本願出願前公知であつたことは、いずれも争わないが、引用例記載りものは、
「商取引又は業務処理カード」であり、生産会社、販売会社等の商品の移動等に関する会計処理の方法のためのものであり、本願考案のカードのように、非商人である弁護士、弁理士、税理士又は会計士が、その依頼者、相手方等の言語、動作に関する記録をするためのものに比して、これを用いる業態が全く異なるばかりでなく、形状、構造も全く異なるものであるから、引用例記載のものから本願考案のカードを容易に考案することはできないものといわなければならない。現に、弁護士業を含む当業者において、本願考案のような業務処理カードを備え付け実施した事例は、これまでなかつたことに鑑みても、右の事実は明らかである。したがつて、
訂正前の本願考案の業務処理カードをもつて、引用例記載のものに基づく公知事項から容易に実施できるものとした本件審決は、事実を誤認したものといわざるをえない。
被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のとおり述べた。
原告主張の請求原因事実中、第一項及び第二項の事実並びに第三項の事実中、原告主張の日にその主張のような訂正を内容とする手続補正書の提出があつたことは認めるが、その余の事実はすべて争う。本件審決の認定は正当であり、原告主張のような違法の点はない。以下、原告主張の点について順次反論する。
まず、要旨変更の点について。
本願考案の内容は、カードにおける記載欄の構造と複数のカードの組合わせに関するものであるが、カードの記載欄が実用新案の構成要件に含まれている場合には、その記載欄の具体的な表示自体が物品の型を形成する構成要件であると認めるべきものであるから、手続補正によつてその一部を訂正し、これに出願当初の説明書及び図面に記載のない表示を加えたりして記載欄の具体的表示を変えたならば、
訂正された後のものは、出願当初のものとは物品の型を異にするものとなつて、要旨を変更するものに該当することは明らかである。これを原告主張の三点について具体的に検討する。
(一) 事務記録書(A)、(B)(第一、二図)の依頼、申入、援助事項欄が当初の図面のように白地であるときは、文章を記入するときは縦書きでも横書きでも自由に選択して記入することができ、文字の大さにも格別の制限はなく、また、必要によつては、図面、地図、スケツチなどの図形を書き込むことができ、あるいは写真を貼布することもできるが、このような場合に、白地欄であるため、記入、作図、貼布の妨げになるものがないという機能を有するものである。しかるに、訂正により、右白地欄に等間隔で横罫線を設けるときは、その構成に変更を来たすものであることが明らかであるばかりでなく、文章記載の際、横書きを前提とし、文字の大きさ、行の間隔をも規整する基準線としての効用を有し、任意の文章、図、スケツチなどの記載に自由に使用しえた白地の記載欄とは、その作用効果を異にするものである。したがつて、当初の図面の白地欄とこれに横罫線を施こした訂正図面の記載欄との間には、その具体的構造であるところのいわゆる「型」の明白な相違があるのみならず、記載欄の利用方法としての作用効果にも顕著な差異があることが明らかであるから、右訂正は、考案の要旨の変更に該当するものといわなければならない。
(二) 事務記録書(B)(第二図)における「受付」の表示は、同図の記載全体及び当初説明書の記載に徴し、来訪者が事務所に来訪し事務の依頼又は申入があつた場合に、時間的報酬計算法をとる目的で、来訪者の受付年月日及び受付時刻を「受付」表示欄に記入し、これと同行の右側に隣接する「退所」表示欄に記入する退所時刻との両者から、報酬支払いの対象となる所要時間を計算する用に供するものと認められる。これに対し、「到着」「発信(話)」なる表示は、訂正明細書及び訂正図面の記載を併せ検討すれば、新たに電信、電話を使用する際の記録を記入しうる記載欄としても構成されたことが明らかである。したがつて、当初の図面の「受付」の表示を「到着」「発信(話)」の表示に変更したことは、単に字句の書き換えによる型の変更に止まらず、記載欄の使用目的、作用効果にも明白な変更が加えられたことが明らかであるから、このような記載欄の訂正は、出願当初のものの要旨を変更したものと認めざるをえない。
(三) 原告は、当初の図面の第三図事務処理実費計算報告書は表裏両面にわたるものであり、訂正図面の第三図及び第四図の事件処理報酬実費計算書(A)及び同(B)は、右表裏両面を切断して、二枚の図面にしたものにすぎない旨主張するが、当初の説明書及び図面の記載によつては、その第三図事務処理実費計算報告書なるカードと第四図請求書(A)との間に、図番号のない図面が連綴されているのみで、それが右第三図の裏面であることは不明というほかないばかりでなく、当初の説明書の登録請求の範囲の項の記載に徴し、カードの枚数、表裏両面に記載欄を設けたことなどは、考案の要旨に含まれているものとはいいがたく、また、訂正説明書と図面の記載によつても、そのカード枚数及び右当初の図面第三図の表裏面の関係並びにこれを切断して二枚の図面としたことについては、明確にすることができない。したがつて、原告の前記主張点は、本願の当初の説明書及び訂正説明書のいずれからも窺知しえないところであり、考案の要旨とは無関係な事項にすぎないことであるから、訂正によつて、新たに第四図全体を加入したことは、考案要旨の変更に当たることが明らかである。
次に、進歩性の点について。
本願の各カードにおける記載内容及びカードの種別は、いずれも法律、会計、特許の事務内容として普通に取り扱われている事項にすぎず、また、各カード間の相互関係も、単に必要なカードを寄せ集めただけで、右事務内容を処理するに際し新規な機能を発揮する格別な効果も認められないことは、審決説示のとおりであるから、本願考案程度のものは、業務内容を異にしても、なお、引用例記載のものに基づく公知事項から、当業者が容易に推考実施することができるものといわざるをえない。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点として原告の主張する事実並びに原告が昭和三十九年六月二日、本願考案につき、説明書の全文を訂正するとともに、登録請求の範囲の記載を別紙のとおり訂正し、かつ、図面全部を別紙のとおり訂正する旨の手続補正書を提出したことは、いずれも当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 原告は、まず、本件審決は本願考案の要旨の認定を誤つた旨主張するが、原告の右主張は、理由がない。すなわち、前項掲記の手続補正書による訂正前の本願考案の要旨が、審決認定のとおりであること、当初の図面及び説明書に、形式的には、審決の指摘する諸事項の記載がなかつたことは、原告の認めて争わないところであるが、そのうち原告の主張する三点について検討しても、右手続補正書による訂正は、やはり、旧実用新案法にいわゆる物品の型としての考案の要旨を変更するものといわざるをえない。本願考案にあつては、カードの記載欄が実用新案の構成要件をなすべきものであることが、成立に争いのない甲第二号証の一ないし九及び甲第七号証の一ないし十一によつて明らかであり、その記載欄の具体的表示が物品の型を形成すべきものであるから、補正によつて記載欄の一部を訂正補充し、当初の図面及び説明書に記載のない事項を付加したりするときは、記載欄の具体的表示が変更されたものとして、結局、物品の型を異にし、考案の要旨を変更するものとせざるをえないからである。以下、原告主張の三点について順次検討説示することとする。
(一) 事務記録書(A)及び(B)(第一図及び第二図)の依頼、申入、援助事項の各白地欄に横罫線を書き加えることは、その記載欄としての具体的構造に変更があることは明らかであるのみならず、これを利用するうえでの作用効果に、被告の主張するような差異を生ずることもまた明らかなことであり、これを単なる形式的なものにすぎないといらことはできない。したがつて、かような訂正は、考案の要旨に変更をもたらすべきものである、といわざるをえない。
(二) 事務記録書(B)(第二図)における「受付」の表示を「到着、発信(話)」と改めることは、やはり、記載欄の具体的構造の変更に当たるほか、新たに電信、電話による事務処理に関する記載欄を設けた点で、これを記載欄として使用するうえでの作用効果に差異をもたらすものであることも、また明らかであるといわなければならない。
(三) 当初の図面第三図の事務処理実費計算報告書が表裏両面にわたるものであり、訂正図面第三図及び第四図の事件処理報酬実費計算書(A)及び(B)は、右表裏両面を切断して二枚の図面としたものであるとの点については、前掲甲第二号証の五によると、右当初の図面第三図は、本来全紙一枚の図面であり、これを半折して表裏両面に記載欄を設けたものであることを認めることはできるが、これを切断して二枚の図面とし、その裏面部分を新たに独立した図面として訂正加入することは、物品の形状構造又はその組み合わせとしての物品の型を異にするものであることが明白であるのみならず、前掲甲第二号証の五と甲第七号証の六及び七とを対比してみると、全紙一枚の図面をそのまま、または半折して表裏両面として用いる場合と、これを切断して半紙一枚ずつのカードとして各表面のみに記載欄を設けて使用する場合とでは、それぞれの記載欄の構成が同一であつても、使用上の作用効果におのずから差異が生ずることは、明らかなところである。
以上のとおりであるから、いずれの点をみても、原告のした前記手続補正書による訂正補充は、本願考案の要旨を変更するものであり、許されないところというべく、本願考案の要旨の認定に関し、原告の主張するところは、理由がないものといわざるをえない。
本願考案の当初の図面及び説明書に基づく考案の要旨が、審決認定のとおりのものであることは、前記のとおり、原告の認めて争わないところであり、また、引用例に審決認定のとおりの業務処理カードの記載があること、事務処理カードにおいて、数組のカードを組み合わせたもの及びそれぞれのカードにおいて必要な記載欄を適当に配置して業務を正確迅速に行ない、収支計算を能率的に処理しうるようにしたものが、本願出願前公知であつたことも、原告の認めて争わないところである。しかし、事務処理カードにおいて、右のような点が公知であつても、それぞれの業種に応じ、各カードの記載欄の具体的構成の如何により、考案における物品の型としての新規性をもたらすべき場合があることは、いうまでもない。この点につき、本件審決は、本願の各カードにおける記載内容及びカードの種別は、いずれも法律、会計、特許の事務内容として普通に取り扱われている事項にすぎず、また、
各カード間の相互関係にも、格別、右事務内容を処理するに際して新規な機能を発揮するものと認めるに足りるほどのものではない、というが、その判断の根拠を示さない意味において、独断のそしりを免かれず、そのまま容認しがたいところである。むしろ、前掲甲第二号証の二(当初の説明書)によつて認められるように、本願考案の各カードは、法律、会計、特許事務の能率的処理、事務の合理化をはかることを目的とするほか、依頼者に対し、必要カードを交付することによつて、事務処理の経過や報酬、実費等を明確に報告、了知させることができるという点に、その新規な機能があるものと認めて然るべきものであり、本願カードの具体的構成及びその種別の点についても、前掲甲第二号証の一ないし九によると、本願のものは、それぞれの記載事項を個別的にみる限り、当業者として普通に取り扱つている事項にすぎないであろうが、これを当初の図面第一図ないし第七図のように編成配置して、報酬等の計算及びその依頼者への告知との関連において組み合わせて使用するものであり、このようにして法律、会計、特許事務につき前記の効果を奏するものであることを認めることができ、したがつて、これをもつて、単にありふれたものにすぎずと断じ去ることも、考案の技術的内容に関する認定を誤つたものであるといわなければならない。
このようにみると、業種を全く異にする引用例記載の商取引又は業務処理カードに基づいて、前記公知事項を抽出し、本願考案の程度のものも、当業者が、右公知事項からきわめて容易に本願の対象である法律、会計、特許事務に実施しうるものであり、したがつて、本願考案は旧実用新案法第1条考案と認めることはできないとした本件審決は、結論を導く前提たる事実の認定を誤つた違法のものといわざるをえない。
(むすび)三 以上説示のとおりであるから、本願考案をもつて引用例から容易に実施できるものであるとした点において違法であるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第八十9条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
<11564-001><11564-002><11564-003><11564-004><11564-005><11564-006><11564-007><11564-015>訂正による実用新案登録請求の範囲本文及別紙図面記載の通り、到着、受付、紹介者、来訪者の種別、事件名、番号、依頼、援助、申入の種別、捺印等の各欄を設けた事務記録書(A)、到着、発信(話)、訪問先、通話(信)先、面接者、対話(信)者、事件名、番号、依頼、
援助、申入の各種別、捺印等の各欄を設けた事務記録書(B)、宛名、事件名、月日、出頭場所、出張地、援助の種別、立替実費、検印等の各欄を設けた事件処理報酬実費計算書(A)、月日、出頭場所、出張地、援助の種別、立替実費、検印等の各欄を設けた事件処理報酬実費計算書(B)、金額、事件名、裁判所名、事件番号、目的の価額、債権者、依頼者、債務者、相手方、内訳、請求者、領収書、名宛等の各欄を設けた請求書領収書(A)、これと概ね同じ欄を設けた請求書領収書(B)、年月日、名宛、精算者、相手方、事件名、報酬及実費a/c、その借方、
貸方、合計、返還金a/c、その借方、貸方、合計等の各欄を設けた事件処理費精算書、相手方、事件名、回数、月日、時刻、裁判所及法廷等の名称、訴訟書類の送付、証人取調、印鑑持参、立替実費請求、通知年月日、名宛等の欄を設け又はこれらに関する連絡通知事項を記載した通知書並びに以上の各カード欄外にその使用要領を夫々記載した法律会計特許事務処理カード。
<11564-008><11564-009><11564-010><11564-011><11564-012><11564-013><11564-014><11564-016>
裁判官 三宅正雄
裁判官 荒木秀一
裁判官 石澤健