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関連審決 審判1963-1053
関連ワード 出願経過 /  考案 /  考案者 /  図面 /  組合せ /  補正 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  共同出願 /  きわめて容易 /  通常実施権 /  専用実施権 /  実施例 /  特段の事情 /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 43年 (行ケ) 138号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1975/04/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が昭和四三年九月三日同庁昭和三八年審判第一〇五三号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
被告指定代理人は、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、予備的に主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告および岩正産業株式会社は、昭和三六年一二月一五日名称を「バルキー製メリヤス地(後に、「バルキー状メリヤス地」と補正)」とする考案につき実用新案登録出願をし(昭和三六年実用新案登録願第六二四三四号)、昭和三八年一月二一日拒絶査定があつた。そこで同年二月二八日審判を請求し、昭和三八年審判第一〇五三号事件として審理された結果、昭和四三年九月三日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年九月二一日原告に送達された。
二 本願考案の要旨 バルキー糸で編成した特に伸縮率の大なる荒目編メリヤス地(1)と伸縮率の小さい普通のメリヤス地(2)とを接着剤(3)にて通気性を失わないよう貼合せ一体化したバルキー状メリヤス地三 審決理由の要点 本願考案の要旨は、前項のとおりである。本願出願前国内に頒布された刊行物である実公昭六―一〇三一三号公報(以下「第一引用例」という。)には、毛莫大小表地(1)の裏面に細糸にて編成せる薄地莫大小地の裏地(2)を重合縫着して一体化したメリヤス生地が記載され、スポーツ用外衣などとして適当である旨説明されており、同じような刊行物である実公昭三三―八五九一号公報(以下「第二引用例」という。)には、二枚の布帛を多数の小部分において接着剤により貼り合わせて一体化した二重布帛が記載されている。
本願考案と第一引用例とを比較すると、両者は嵩高性と伸縮性の相違するメリヤス地とを重ね合わせて一体化したメリヤス地である点において構成が一致し、第一引用例と本願考案との相違点は、
(1)第一引用例の嵩高性の大きい方のメリヤス地は「毛メリヤス」であるのに対し、本願考案のものは「バルキー糸で編成した特に伸縮率の大なる荒目編メリヤス地」である点および(2)その一体化の具体的構成においても第一引用例のものは「重合縫着したもの」であるのに対し、本願考案のものは「接着剤で通気性を失わないように貼り合わせた」ものである点だけである。
請求人(原告および岩正産業株式会社)は、本願考案は裏地メリヤスを貼り合わせることによりバルキーメリヤス地の過大な伸縮性を調整するという効果が第一引用例のものと相違する旨主張しているが、メリヤス地に他の布帛を貼り合わせるとメリヤス地の過大な伸縮性を調整する効果があることは、本願出願前公知であり、
バルキー糸で編成した荒目メリヤス地は伸縮性の大なるメリヤス地として本願出願前周知であるから、その過大な伸縮性を調整するために他の布帛を重合一体化することは当業者の容易に推考することができる事項である。
そして、二枚の布帛を重ね合わせて一体化する手段として、接着剤を用いて通気性を失なわないように接着したものは第二引用例に記載されているので、これらの相違点は当業者の容易に選択できる設計的事項である。
結局、本願考案は、全体として第一引用例および第二引用例に記載の技術思想に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたもので、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない。
四 本件審決を取消すべき事由 審決理由のうち本願考案の要旨、第一引用例および第二引用例の記載内容については認める。なお、メリヤス地に他の布帛をはりあわせると、メリヤス地の過大な伸縮性を調整する効果があることが周知であることは、一般論としては認める。
しかし、本件審決は以下の事由により違法であつて取消を免れない。
(一) 第一引用例には表地と裏地に関して糸の番手の相違しか記載されていないが、この相違のみから両布地の伸縮性が相違する旨認定した審決は、事実認定を誤るか理由不備の違法がある。
一般に、メリヤス地の伸縮性は編ゲージ、度目(密度)、組織、糸番手、糸の種類の組合せの如何により定まるものであるが、第一引用例には糸の番手の差異以外のメリヤス地の編ゲージ、度目(密度)、組織の差異については全く記載されてなく、他に表地と裏地とが伸縮性において相違すると認めるに足りる根拠は何ら示されていない。一般に、メリヤス地においては、糸の番手のみ異なり他の条件を同じくすれば、糸の番手の細いメリヤス地の方が伸縮性が大となる。また、編ゲージ以外の条件を同じとすれば、編ゲージの密なる程伸縮性がなく、編ゲージの粗なる程伸縮性は大となる。
それゆえ、同一編ゲージで編成したときは太糸で編成したものより編地の伸縮性が大となる細糸を使用しても、細糸の方の編ゲージを密にすればその伸縮性は小の方向に変るものであり、糸の太さに差のあるものでも編ゲージの粗密の関係如何によつては、表地と裏地の伸縮性が同じこともあり、更に細糸で編成したメリヤス地の伸縮性の方が太い糸で編成したメリヤス地より小となることすらある。
このように、糸の番手が異なつても他の条件(たとえば編ゲージ)を変えることによつて両者の伸縮性を同じにすることが出来、また糸の番手が同じでも両者の伸縮性が異なることもあるので、単に糸の番手の相違することが示されているにすぎない第一引用例記載の表地(1)と裏地(2)とは、その編成からみて両者の伸縮性が相違するとみることはできない。
(二) かりに、第一引用例に表地と裏地の伸縮率に差のあるものが含まれていたとしても、本願考案のごとく縫製、裁断に不均衡を生じるメリヤス地と普通メリヤス地とを併用して、両者の伸縮性を調整し、寸法安定性を有し、織物と編物の中間値をもたらそうとする技術思想の開示はない。
第一引用例の毛メリヤス表地は、裏地が起毛してあるものであり、かつ、第一引用例の第一図の表地の編ゲージは、図面から判断すると適性ゲージで編成されたものであり、荒目編メリヤスではなく普通のメリヤス地である。一方、本願考案のものは、荒目編で特に伸縮率が大きく寸法安定性を有しない特殊なメリヤス地である。したがつて、第一引用例の表地は、本願考案の表地ほどは伸縮性がない。それゆえ、かりに第一引用例に表地と裏地との伸縮率の差異のあるものも含まれているとして、その伸縮率に差のあるものと本願考案とを比較しても、第一引用例の表地または裏地の伸縮性は、本願考案のものが伸縮性があまりにも大きいために縫製、
裁断に不都合を感じる程には伸縮性大なるものではない。したがつて、単独でも縫製、裁断に不都合を感じないメリヤス地を重合縫製したものを記載した第一引用例からは、本願の構成、目的、作用効果が示唆されるものではない。
(三) 審決は、本願考案の構成の一部である「通気性を失わないように貼り合わせ一体化した」ことが「表地と裏地のそれぞれを構成する糸同志を、糸の表面の一部において、しかも編地全般にわたつて接着させて、均一に通気性を有するように貼り合わせる」ものであることを誤認し、その結果、これと貼り合わせ方法を異にする第二引用例によつて本願考案進歩性を否定した違法がある。
本願考案について、当業者であれば、バルキー糸で編成した特に伸縮率の大なる荒目編メリヤス地(1)と伸縮率の小さい普通のメリヤス地(2)とを、接着剤にて通気性を失わないように貼合せ一体化するという記載は、第二引用例の第一図、
第二図の如く部分的に接着部を設けて接着することを意味するのではなく、本願考案公報第一図第二図の如くメリヤス地全般において接着させ、しかも、メリヤス地全体において均一に通気性を有するように貼合せること、すなわち、表地(1)と裏地(2)のそれぞれを構成する糸同志を糸の表面の一部において、しかも、編地全般にわたつて接着させて、表地(1)と裏地(2)とがずれを生じたり、剥離したりしないようにすることを意味することは自明のことである。そして、このことは本願考案出願経過よりみても明らかであり、また、本願考案の公報明細書記載の目的、作用効果、図面の記載よりみても明らかである。かりに、バルキー糸で編成した特に伸縮率の大なる荒目編メリヤス地と伸縮率の小さい普通のメリヤス地とを、第二引用例に示す如く多数の少部分において部分的に接着部を設けて接着した場合、接着部分の単位面積当りの接着強力を本願考案の単位面積当りの接着強力と同様の強さにするならば、この二重メリヤス地は全体として接着強力が不足し、使用中に二枚のメリヤス地に分離することがある。この剥離現象をさけるため、接着部分の接着を強固にして、メリヤス地全体の接着強力を本願考案のメリヤス地全体の接着強力と同程度に強固にする必要がある。しかし、このように部分的に強固な接着を行うと接着部分は固い接着部が存在することとなり、本願考案の効果の一つである「編物本来に有する着心地の良さ」を害する。
また、本願考案は、前記の如くメリヤス地全般において接着させ、しかも、メリヤス地全体において均一に通気性を有するように接着するもので、人間の視覚範囲内で表地(1)と裏地(2)とは全面に接着されているものであり、両メリヤス地は互いに浮遊しないものである。しかし、第二引用例のように接着すると、非接着部においては表地と裏地とが浮遊する。そして、バルキー糸で編成した特に伸縮率の大なる荒目編メリヤス地と伸縮率の小さい普通のメリヤス地とを接着剤にて第二引用例のように接着すると、縫製時の採寸、裁断に不均衡を生じ、家庭用ミシンで容易には縫製できなくなり、しかも、寸法安定性をそこない、形くずれ・布のだれ等が起り易くなる。したがつて、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、第二引用例の接着手段は含まれないものであることは明らかである。
これに対して、第二引用例のものは、透視可能な薄い布帛(1)と異色の下地布帛(3)とを第二引用例第二図に示されるように、小範囲の接着部分が布帛全面に散在するようにして接着することである。したがつて、これにより得られた二重布帛は玉虫織のごとき効果を発揮するが、この小部分の接着部において通気性は失われている。したがつて、第二引用例のものは、本願考案のものと貼り合わせ方法を異にするものである。
五 被告の本案前の主張に対する反論 本件訴訟は固有必要的共同訴訟ではないと解すべく、また、固有必要的共同訴訟であるとしても民事訴訟法第62条の規定の適用により共同出願人の一人である原告による審決取消請求訴訟の提起により、他の共同出願人たる岩正産業株式会社も提訴したのと同様の効力を有すると解すべきであつて、いずれにしても、本訴は適法である。その理由は次のとおりである。
(一) 拒絶査定不服審判の審決取消訴訟は、特許権等の設定の登録を受ける権利の消滅を防止する保存行為として共同出願人の一人が単独で出訴することができると解すべきである。
1 一般の行政事件訴訟においては、共同権利者の一人は、保存行為であることを理由として、単独で、その権利に関する行政処分の取消請求をすることができるとされている。ところで、特許出願等についての拒絶査定に対して出願人からする審判の申立を排斥する審決は、出願人に対しその特許権等の設定登録を受ける権利を消滅させるものであり、したがつて、このような審決の取消を請求することは、前記登録を受ける権利の消滅を防ぐ唯一の手段であるといわなければならない。そして、特許法等工業所有権に関する法律においては、発明、考案等の保護を図ることを目的としているから、特許権等の設定の登録を受ける権利を保存することを得させるように解することが法の目的にそうものである。したがつて、前記共同出願人のうちの一部の者でも、保存行為として、かかる審決の取消を請求することができるものというべきである。
2 実用新案法第47条において準用する特許法第178条第2項の規定も前述の見解を肯認していると解される。すなわち、同項は、参加人や参加申請をしてその申請を拒否された者に対しても原告適格を認めている。たとえば、共有特許の無効審判において特許権者の側に参加した実施権者は、特許権者とは別個に無効審決の取消訴訟を提起することができるのである。このように、参加人らに対して単独の出訴が認められている以上、これらの者より直接的な法律上の利益を有する共有者に対しても、それぞれ原告適格が肯定されるべきことは均衡上当然である。もつとも、本件審判のような拒絶査定不服審判については参加の制度は存在しないが、特許権の共有と特許を受ける権利の共有とは、権利の共有という点で共通しているので、両者は同様に取扱われるべきであつて、各共有者の原告適格について、無効審判の審決に対する訴の場合と拒絶査定不服審判の審決に対する訴の場合とを区別すべき理由は存しない。
(二) 審決取消請求訴訟が共同出願人全員ですることを要する必要的共同訴訟であるとしても、共同出願人の一人のした訴の提起は、民事訴訟法第62条の規定の適用により他の共同出願人にもその効力を生じるから、結局、共同出願人の一人が訴を提起したときは共同出願人全員で訴を提起した効力を生ずると解すべきである。すなわち、審決取消請求訴訟は、審決の確定を遮断し、新たな審判手続の係属を生ぜしめる点において、民事訴訟における上訴と全く同一の性質を有する。そもそも、特許庁における審判は、本来裁判所の権限に属する法律上の争訟について、
裁判所による裁判の前提としていわば前審として行われるものであり、少なくともその争訟に関しては、当該審決取消請求訴訟は上訴審に準ずるものに該当するというべきである。したがつて、共同出願人の一部の者のした訴の提起行為は、他の共同出願人にとつても利益な行為に当るとして、民事訴訟法第62条の規定により共同出願人全員にその効力を生ずると解すべきである。
六 被告の本案の答弁について 一般に、伸縮性の大きい布と伸縮性の小さい布とを接着すれば、伸縮性の大きい布の伸縮性が抑制され寸法安定性となることが本願出願前から周知の事実であること、噴霧法によつて二枚の布を接着することが同様に周知の事実であることは認める。
被告の本案前の主張および本案の答弁
一 本案前の主張 本訴は不適法であるから却下をまぬがれない。本願考案について実用新案登録を受ける権利は、原告主張のとおり、原告と岩正産業株式会社の共有に属し、拒絶査定および本件審決はこの両名に対してなされたものである。したがつて、その審決の取消を求める訴は、原告と岩正産業株式会社の両名において提起しなければならないところ、本訴は原告が単独で提起したものであるから、不適法である。
二 本案の答弁 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨および本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは認めるが、本件審決を違法とする事由については争う。
(一) 第一引用例に記載された表地は、毛メリヤスの裏面を起毛したものであり、裏地は、細糸にて編成した薄地メリヤスである。すなわち、両者は糸の番手、
種類及び起毛の有無が相違し、全体としてメリヤス地の構成が異るので、両者の伸縮性は相違するかまたは相違するものもありうるとみるのが相当である。
(二) 一般に、伸縮性の大きい布と伸縮性の小さい布とを接着すれば、伸縮性の大きい布の伸縮性が抑制され寸法安定性となることは本願出願前から周知の事実であるから、本願考案のように、バルキー糸で編成した伸縮率の大きい荒目編メリヤス地と伸縮率の小さいメリヤス地とを貼合せれば寸法安定性となり、裁断、縫製が容易となることは予測されることで、その効果も格別のものとみることはできない。
(三) 本件の出願当初の明細書図面には、バルキーメリヤス地(1)の裏面に伸縮性の少ない平織地(またはメリヤス地)をアクリル糊を使つて貼着したと記載されているだけであつて、通気性と貼合わせの具体的手段については何も記載されていなかつたものである。ただ、本件バルキー状メリヤス地が被服地である点を考慮すると、通気性を失わないように貼合わせることは自明であるかもしれないが、
原告主張の貼合わせの具体的手段は自明とはいえない。すなわち、実用新案登録請求の範囲の「通気性を失わないように貼合わせ一体化したバルキー状メリヤス地」の記載を、原告主張のような構成のものを意味すると解することはできず、単に、
「通気性を失わないように貼合わせたバルキー状メリヤス地」とみるのが相当である。
ところで、第二引用例には、二枚の布帛を多数の小部分において接着剤により通気性を失わないように貼合せた二重布帛が記載され、衣服地として好適である旨説明され、本願考案の二枚の布帛を重ね合わせて一体化する手段として、接着剤を用いて通気性を失わないように接着した構成が記載されているものである。
かりに、本願考案にいう一体化が原含主張のとおりのものであるとしても、噴霧法によつて二枚の布を接着することは本願出願前から周知の事項であるから、このような周知な接着手段を採用することは、当業者であればきわめて容易になしうることである。
証拠(省略)
理 由一 原告の当事者適格について(一) 当裁判所は、共同出願にかかる実用新案登録出願を拒絶した査定に対する不服審判について、当該申立を排斥した審決の取消を求める訴訟は、当該共同出願人の一部の者においてこれを提起することができると解する。その理由は次のとおりである。
(二) 実用新案法によれば、実用新案権または実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有にかかる権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならず、逆に共有にかかる実用新案権について実用新案権者に対し審判を請求するときは、共有者の全員を被請求人として請求しなければならない旨定められている(実用新案法第41条、特許法第132条二、三項)。これは、
実用新案権または実用新案登録を受ける権利について審判の判断が区々にされることを防ぐため、審判手続においていわゆる必要的共同審判とする旨を定めたものである。
しかし、このような定めは審判手続に関してのみであつて、当該審決の判断を不服として提起する審決取消訴訟に関しては、共有者の全員が当事者として訴えまたは訴えられることを要するか否かについて、実用新案法その他の法規には何ら規定がない。したがつて、この問題は解釈によつて解決しなければならないが、この問題すなわち実用新案権の共有者または実用新案登録を受ける権利の共有者の提起する審決取消訴訟がいわゆる固有必要的共同訴訟に属するか否かは、これらの権利の共有がどういう性質を有するかによつて決するのが相当である。
(三) 実用新案法によれば、実用新案登録を受ける権利が共有にかかるときは、
共有者は、他の共有者と共同でなければ実用新案登録出願をすることができず(実用新案法第9条1項、特許法第37条)、各共有者は他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡することができない(実用新案法第9条2項、特許法第33条3項)。また、実用新案権が共有にかかるときは、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡しまたはその持分を目的として質権を設定することができず、さらに実用新案権について専用実施権を設定しまたは他人に通常実施権を許諾することができない(実用新案法第26条、特許法第73条1項、三項)旨定められている。
これらの規定によれば、実用新案登録を受ける権利または実用新案権の収益処分については、一般の権利の共有の場合に比して強い制約が加えられている。このような規定が設けられた理由は、考案の実施は有体物の使用と異なり一人が使用したために他人が使用できなくなるものではなく、しかも投下する資本と考案を実施する技術によつてその効果が著しく違い、他の共有者の持分の経済的価値に変動を及ぼすので、他の共有者を保護する目的で定められたものであり、共有者の間に共同の目的があつて、その目的を達成するために収益処分を制限したものではないと解するのが相当である。けだし、実用新案権の共有者は契約で別段の定めをした場合を除いては他の共有者の同意を得ないで考案を実施することができる(実用新案法第41条、特許法第73条2項)のであつて、実用新案権の共有者間には考案の実施について共同の目的があるとはいえないからである。もとより、考案者と企業家とが共同して考案実施の事業を営むことを約して共有者となつた場合には、共有者間に共同の目的があるといえようが、実用新案権の共有者が常にそのような関係に立つとはいえないのである。また、実用新案権の共有者がその分割を請求した場合、権利そのものを分割することはその性質上不可能であるが、これを売却してその代金を分割し、または共有者の一人が権利を取得し他の共有者に償金を与えろという方法で共有物を分割することは可能であり、許されるものと考えるのが妥当である。
このように見てくると、実用新案権の共有者は民法上の合有によく似た制約を受けるけれども、民法上の組合、共同相続の場合とは異なり、共有の性質は民法上の共有に属すると解される。
そして、実用新案登録を受ける権利は、実用新案権それ自体ではないけれども、
その設定登録を目的とするものであるから、その権利の性質はできるかぎり実用新案権に準ずると解するのが相当である。
したがつて、実用新案登録を受ける権利または実用新案権が共有にかかるときは、これらの権利には、民法第264条により同法第249条以下の規定が準用されることになる。
(四) このように、実用新案権および実用新案登録を受ける権利の共有について民法にいう共有に関する規定が準用される以上、当該権利の共有者は自己の持分に基づいて当該権利の保存、維持のために積極的に必要な行為をすることができることは、共有にかかる他の通常の権利の場合と同様であるといわなければならない。
それゆえ、審決が実用新案登録出願の拒絶査定を正当とする場合、実用新案権それ自体またはその訂正を無効とする場合などにおいて、当該権利の共有者は、当該権利自体を維持保存することにより自己の権利を保存するため、自己の持分に基づき他の共有者の同意を得ないで審決の取消を求める訴を提起することができると解すべきである。けだし、このような請求は、当該実用新案権に対する違法な侵害行為に対する妨害排除と同じく、共有者各自が自己の権利を保存するために必要かつやむをえないものだからである。そして、このような請求を共有者の持分権に基づく保存行為として肯認したからといつて、他の共有者にとつてなんら不当な結果をもたらすことにはならない。
(五)当事者間に争いのない本件に関する特許庁における手続の経緯によれば、本訴は共同出願人の一人である原告から提起されたものであるが、前述したようにこのような訴の提起も許容されるべきものと解されるので、本訴は適法であるといわなければならない。
二 審決の取消事由について(一) 原告主張の請求原因事実のうち本願考案の要旨、
審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。そこで、以下原告の主張する審決取消事由の有無について検討する。
(二) 成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例には裏面を起毛した毛莫大小の起毛面に細糸で編成した薄地莫大小またはその他の布地を重合縫着した莫大小生地について記載されている。したがつて、この引用例において表地と裏地とが糸の番手の相違するものであることは明らかである。原告も自認するように、メリヤス地において編ゲージ、度目などの他の条件が同一である場合に、糸の番手を異にすれば、両生地の伸縮性は相違する。このことはまた、両生地の糸の番手が異なる場合には、両生地の編ゲージ、度目などをほどよく調節するのでなければ両生地の伸縮性が同一となるものではないことを意味するといえる。してみれば、第一引用例において表地と裏地の糸の番手が相違する旨記載されている以上、両生地の伸縮性が同一となるよう編ゲージ、度目などがほど良く調節されるなどの特段の事情のないかぎり、両生地は伸縮性を異にするものと考えられる。そして、このような特段の事情があるとは見られないから、第一引用例に記載された両生地は、伸縮性において相違するものと認めるのが相当である。
ところで、前記甲第五号証の記載を見ると、第一引用例は本願考案のように縫製、裁断に不均衡を生じるメリヤス地と普通メリヤス地とを併用して両者の伸縮性を調整し寸法安定性を有し織物と編物の中間値をもたらそうとしたものではない。
しかしながら、一般に、伸縮性の大きい布と伸縮性の小さい布とを接着すれば、伸縮性の大きい布の伸縮性が抑制され寸法安定性をえられることが周知の事実であることは、原告の自認するところである。してみれば、当業者がバルキー糸で編成した荒目メリヤス地の過大な伸縮性を調整しようとする場合、この周知の事実を前提に第一引用例の記載を見れば、バルキー糸で編成した荒目メリヤス地に伸縮率の小さい普通のメリヤス地を重ね合わせて一体化することをきわめて容易に考えつくものというべきである。
(三) 原告は、本願考案にいう「通気性を失わないように貼り合わせ一体化した」とは、具体的には「表地と裏地のそれぞれを構成する糸同志を、糸の表面の一部において、しかも編地全般にわたつて接着させて、均一に通気性を有するように貼り合わせる」ことを意味すると主張する。しかし、本願考案の実用新案登録請求の範囲には原告の主張するこのような具体的貼り合わせ方法について記載されていないことはいうまでもない。また、成立に争いのない甲第一号証の一によれば、考案の詳細な説明中にもこの点の具体的接着方法についての説明はなく、ただ、「接着剤3を用いて貼合せ一体化した」とのみ記載されているにすぎない事実が認められる。もつとも、実施例においては「ウレタン接着剤3の酢酸エチール溶液(固形分濃度一五%)を接着剤生地平方米当りの附着量が固形分で二〇グラムとなるように粒子状に噴霧附着せしめ」と記載されているが、これはもとより一実施例であるにすぎない。成立に争いない乙第一号証の二によれば、本件登録願出願時の原明細書にはこの点について「アクリル糊(3)を使つて貼着した」と記載されているが、この記載を前記のように補正したからといつて、貼合せの具体的方法が原告主張のような方法に限定されると解すべきであるとすることはできない。
原告は、また、本願考案の目的、作用効果に照らしてみても貼合せの具体的方法は原告主張のようなものである旨主張する。しかし、第二引用例のように二枚の布帛を「多数の小部分において接着」することが本願考案の目的、作用効果にそわないものであるということはできない。すなわち、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例の布帛は「薄い布帛と下地布帛とが多数の小部分で一体になつているのでその仕立も容易で和装、洋装の着尺、服地はもとよりシヨール、マフラー、ネクタイその他婦人用衣服地として好適である。」旨記載されているのである。それ故、本願のようなメリヤス地についてみても、このような接着方法をとることにより両メリヤス地が剥離、浮遊したり、着心地の良さを失つたり、寸法安定性をそこなつたりするものとはいえない。また、
通気性についてみても、第二引用例記載のような方法で接着しても、布地を全体としてみれば通気性は失われていないものというべきである。
したがつて、本願考案は、両メリヤス地の接着方法については接着剤で通気性を失わないように貼合わせ一体化すればよいのであつて、その方法についてさらに原告主張のような限定が付されるべきものとは認められない。してみれば、第二引用例記載の貼合わせ方法は本願考案に定めた貼合わせ方法に当るものというべきである。
三 結論 よつて、本件審決には原告主張の違法はないから、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 古関敏正
裁判官 杉本良吉
裁判官 宇野栄一郎