運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  損害額 /  実施料相当額 /  考案 /  図面 /  構造 /  実施例 /  公知技術 /  特定 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 43年 (ワ) 5721号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1979/03/23
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告ら両名との関係で、被告は別紙第一目録(二)記載の柱上安全帯用ロープ伸縮調節器について別紙第二目録(一)の標章を附してはならない。
2 原告ら両名との関係で、被告は右調節器に前項の標章を附したものを譲渡し、
引き渡し、または譲渡もしくは引渡のために展示してはならない。
3 原告ら両名との関係で、被告はその所持にかかる第1項の標章を附した前記調節器を廃棄せよ。
4 被告は(イ)原告【A】に対し金五一万四、二九〇円とこれに対する昭和四三年一〇月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、(ロ)原告藤井電工株式会社に対し金二八三万二、四一九円とうち金二〇万四、九六〇円に対する昭和四三年一〇月一七日から、うち金二一万四、〇六〇円に対する同四九年七月一〇日から、うち金二四一万三、三九九円に対する同五一年五月一日から、各支払いずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
5 原告らのその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用はこれを二分しその一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
7 この判決は1ないし4項につき仮りに執行することができる。
事実及び理由
原告【A】の実用新案権に基く損害賠償請求
一 原告【A】はかつて次の実用新案権を有していた(旧実用新案法10条により登録の日から一〇年をもつて消滅)。
1 考案の名称 柱上安全帯用ロープ伸縮調節器2 出願 昭和三一年八月一〇日(実願昭三一ー四〇六二四)3 公告 昭和三四年二月一六日(実公昭三四ー一九四三)4 登録 昭和三四年七月九日(第四九六八一三号)5 登録請求の範囲 図面に示す如く、4節3連リンク機構を用いてロープ止爪の開閉を行はしめる様にした、柱上安全帯用ロープ伸縮調節器において、ロープ挿通管1に、止爪2の運動空間部を覆う止爪覆い3を設けた構造
二1 本件実用新案の構成要件を分説すると、
(イ) 4節3連リンク機構を用いてロープ止爪の開閉を行わしめる様にした、柱上安全帯用ロープ伸縮調節器において、
(ロ) ロープ挿通管に止爪の運動空間部を覆う止爪覆いを設けた構造である。
2 そして、その作用効果は次のとおりである。すなわち、
(1) 従来の柱上安全帯用ロープ伸縮調節器(以下、調節器と略称する)ではロープを締止する止爪の部分に止爪覆いがないので、柱上作業中に調節器を握つてロープを締止している止爪を開く場合に、止爪の部分がその枢着部を中心として口を開けるのでその開口部へ電線の切れ端とか、木片の切れ端等が挟まる場合がしばしばあり、それに気付かずに調節器の握りを離した場合には、ロープは止爪により締止されずにずるずると滑る危険があつた。
(2) この考案は右のような欠点を除去して改善したもので止爪の運動空間部を覆うように止爪覆を設けたため、調節器を握つて止爪の口を開かせても、電線の切れ端や木片の切れ端等がロープと止爪との間に挟まつて、右のような危険すなわちこれに基因して作業者が柱上から落下するような危険をもたらすおそれがないという効果がある。
三 被告は業としておそくとも昭和四〇年二月一日以降同四一年一二月末まで別紙第一目録(一)の調節器を、同四二年以降は同第二目録(二)の調節器を、それぞれ製造販売した(以下、前者を旧イ号器、後者を新イ号器といい、両者を総称して単にイ号器ということもある。そして、両者はそのロープ挿通機構の端面がU形かU形かの相違があるだけで、他は本件実用新案との関係では同一であり、また、右端面形状の相違も技術的にみて特段意味ある相違とは考えられないから、その技術上の説明においても後者は前者の説明を借りて同時に説明する。)。
四1 イ号器の構成を分説すると、
(イ)′ 4節3連リンク機構を用いてロープ止爪の開閉を行わしめる様にした、
柱上安全帯用ロープ伸縮調節器において、
(ロ)′ ロープ挿通U形材の両側壁を上方へ延長して並行側壁を連続形成し、それを止爪の運動空間部を覆う止爪覆い部とした構造
2 そして、その作用効果は前記二2と同じである。
五 イ号器は本件実用新案の技術的範囲に属する。すなわち、イ号器の構成を本件実用新案の構成要件に照らすと、(イ)′が(イ)に該当することは明らかであり、(ロ)′の構成についても、そのロープ挿通U形材は(ロ)のロープ挿通管と均等であり、その止爪覆い部は(ロ)の止爪覆いに相当するから(ロ)の構成要件に該当することになり、結局、イ号器の構成は本件実用新案の構成要件全部を充足するものである。
(ロ)′の構成について敷衍するに、(1)まず、もともと本件実用新案にいう「ロープ挿通管」についてはその詳細な説明においてすら何らその端面形状を限定した記載はないのであるから(その図面においてはそれが円形状に記載されているがこれが一実施例を示したものにすぎず、何ら本考案技術的範囲を限定するものでないことはいうまでもない。)、ここで「ロープ挿通管」とは広義に「ロープ挿通体」と解して然るべきものですらある。げんに、本件出願前、本件のような調節器のロープ挿通機構をU端面型(またはU型)としているものは公知であつた(米国特許二、二二〇、二〇三号ー甲第二四号証ー、実用新案公報実公昭二四ー四九八二ー同第二五号証ー、米国特許二、〇〇〇、八九一号ー同第二六号証ー、米国特許二、〇六〇、六二八号ー乙第四号証ー、米国特許二、四三一、八一九号ー同第五号証参照)から、当業者であれば本件実用新案公報をみればイ号器のようなロープ挿通U形材を推考することは容易であり、もとよりその作用効果は「ロープ挿通管」のそれと同一である。したがつて、イ号器のロープ挿通U形材が「ロープ挿通管」と均等であることは明らかである。(2)また、イ号器の止爪覆い部が本件実用新案にいう「止爪覆い」に相当することはいうまでもない。しかして、以上のような帰結は、たとえ被告のようにイ号器のロープ挿通U形材をことさら「深い溝状体」といおうと何ら変りはないのである。
六 以上のとおりであるから被告が昭和四〇年二月一日以降本件実用新案権の消滅する昭和四四年七月八日までの間原告【A】の右実用新案権を侵害したことは明らかであり、また右侵害行為は過失によつてなされたものと推定される(実用新案法30条、特許法103条)。
そこで、原告【A】は被告に対し本件実用新案の実施に対し通常受けるべき金額相当額を自己の受けた損害額としてその賠償を請求できるところ(実用新案法29条2項)、被告は(イ)昭和四〇年二月一日から同四三年六月末日までにイ号器を合計一五、〇五三個製造販売して合計四、四五一万五、二四五円の売上高を得、
(ロ)翌日から同四四年七月八日までに同じく合計五、五一三個製造販売して合計一、七四一万九、四二五円の売上高を得たから、いまその実施料をできるだけ低くみて売上高の七パーセントとすると、その実施料相当額は計算上合計四三三万五、
四二六円となり、結局、原告【A】の蒙つた損害額は右同額となる。
七 そうすると、原告【A】は被告に対し右損害金四三三万五、四二六円の支払いを請求する権利がある。
原告らの商標権、商標専用使用権に基く差止請求と損害賠償請求
一 原告【A】は次の各商標権(互いに連合商標)を有するものであり、原告会社はそのうち(一)の商標につき昭和四二年三月二三日以降、(二)の商標につき同四五年一〇月六日以降、それぞれ専用使用権登録を受けた専用使用権者であり(設定契約日は、前者が昭和四一年一二月一日、後者が同四五年七月一三日)、いずれもその存続期間更新の登録も経由している。
(一)登録番号 第四九六九七〇号登録商標 別紙第二目録(一)のとおり指定商品 旧七〇類 高所作業用安全器具、高所作業用救命器具出願日 昭和三一年二月二一日公告日 同年九月二七日登録日 同三二年二月二七日(以下、甲商標という)(二)登録番号 第七八六七九一号登録商標 別紙第二目録(二)のとおり指定商品 九類 高所作業用安全器具、高所作業用救命器具、その他の保安用機械器具出願日 昭和四一年七月二〇日公告日 同四三年三月七日登録日 同年七月二〇日(以下、乙商標という)二 被告は(イ)昭和四〇年二月一日から同四一年一二月末日まで甲商標の指定商品に該当または類似する旧イ号器を販売するにさいし別紙第三(一)または(二)記載の標章を使用し、(ロ)同四二年一月一日からは同じく甲商標(または乙商標)の指定商品に該当または類似する新イ号器を販売するにさいし同じく別紙第三(一)または(二)記載の標章(以下、被告標章(一)または(二)という)を使用している。
三 右被告標章(一)(二)はいずれも甲、乙両商標に類似している。すなわち、
被告標章(一)(二)の各要部である「POLE SAFETY」は甲商標と称呼、観念において類似し、また、乙商標とは称呼、観念、外観において類似しているから全体としても類似していることが明らかである。
四 そうすると、被告は両イ号器について被告標章(一)(二)を使用することによつて原告らの甲、乙商標権および専用使用権を侵害している。
五1 また、被告の右侵害行為は過失によつてなされたものと推定されるから(商標法39条、特許法103条)、原告らは被告に対し右侵害行為によつて受けた損害の賠償を請求しうるところ、その損害額は商標法38条2項により商標使用料相当額である。
2 そして、本件における商標使用料相当額は次のとおりである。
(原告【A】の甲商標権侵害分) 被告は昭和四〇年二月一日から同四二年三月二二日までの間に合計二四、二八六個の被告標章(一)または(二)を附した両イ号器を販売して八、三五八万七、三六五円の利益を得ているから、その使用料は低目にみて右売上額の三パーセントである二五〇万七、六二〇円となる。
(原告会社の甲商標または乙商標専用使用権侵害分) 被告は左記期間左記の個数の被告標章(一)または(二)を附した新イ号器を販売した左記の利益を得ているから、その商標使用料相当額はそれぞれ左記のとおり右利益の三パーセントとするのが相当である(合計一、一六七万七、七一五円)。
<12121-001>六 したがつて、原告らは被告に対し被告標章(一)および(二)使用の差止を請求できるとともに、原告【A】においては損害金二五〇万七、六二〇円の、原告会社においては損害金一、一六七万七、七一五円の各支払を請求することができる。
七 被告の商標法26条1項2号に基く普通名称普通使用の抗弁を否認する。
被告標章(一)が柱上安全帯またはその一部である調節器の普通名称であるという被告の主張は事実に反する。
普通名詞である「柱上安全帯」に該当する英文は被告が主張するような「Pole Safety Belts」ではなく「Safety Belts for Line‐men」であり、あるいは「Tool Belt」「Linemen’S Belt」「Life Belt」等ともいうのである。また、そもそも英語の「Pole」には「柱上」の意味はない。これを要するに、「Pole Safety Belts」の要部である「Pole Safety」(ポールセフテイ)は原告【A】が案出した新造語である。だからこそ同原告は甲、乙商標の登録をうることができたのである(商標法3条1項1号所定の商標登録消極要件参照)。
この点について被告は種々の論証をしようとしているがいずれも被告の主張を裏付けうるものではない。すなわち、原告会社が「Pole Safety Belts」という用語を使用したのは自社の商品表示のためにほかならないのであるから、右使用の事実によつて右用語が柱上安全帯の普通名称ということはできないし、被告が右用語を使用したのも原告の甲商標出願後、その多くは本訴提起後であつて、特段意味を有することとは解されない。また第五回委員会(被告が後記の主張第二の二の4でいう委員会)で「柱上安全帯」の英文名を「Pole Safety Belts」と決定したかにいう点もそれより先すでに昭和四三年一〇月一一日の第二回の委員会でこれを「Safety Belts for Line‐men」と決定していたのに(甲第三〇、第三一号証)、本訴提起後の第五回の委員会で被告が本訴を有利にするため画策して突然提案しただけのことであつて(当日原告会社代表者は病気欠席し、代理の者が出席)、それも後日元の名に復帰しているからこれらの経緯は何ら被告を有利にするものではない(甲第三五、第三六号証)。なお、昭和三九年九月一日に制定された「鉱山用安全帯」の日本工業規格に関する記載でもその英文は「Safety Belts for Mine」となつている(甲第三七号証)。
結論
よつて、原告らは被告に対し(イ)甲または乙商標権(原告【A】の場合)、専用使用権(原告会社の場合)に基き請求趣旨1項同旨の差止請求と(ロ)原告【A】においては実用新案権に基く損害金(四三三万五、四二六円)、甲商標権に基く損害金(二五〇万七、六二〇円)の合計六八四万三、〇四六円とうち五六二万三、六八七円に対する昭和四三年一〇月一七日から、うち一二一万九、三五九円に対する昭和四四年七月一〇日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求、(ハ)原告会社においては甲商標専用使用権(ただし、昭和四五年一〇月六日以降分については予備的に乙商標専用使用権)に基く損害金一、一六七万七、七一五円とうち一〇九万一、五二六円に対する昭和四三年一〇月一七日から、うち九九万五、四二二円に対する同四九年七月一〇日から、うち九五九万〇、七六七円に対する同五一年五月一日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求をする。
(被告の主張)
原告【A】の実用新案権に基く損害賠償請求に対して
一 原告【A】の主張中、一項については同原告が本件実用新案の権利者であつたことは認めるがその余は不知。
二項の2は認める。三項のうち被告が業として両イ号器を製造販売したことは認めるが、別紙第一目録の(一)と(二)の構造説明は実態に則したものではない(図面は認める)、また製造販売時期も旧イ号器については同原告主張のとおりであるが、新イ号器については昭和四二年一二月下旬からである。その余の主張事実は争う。
二 両イ号器の構造はいずれも本件実用新案の技術的範囲に属さない。
1 まず、原告【A】のイ号器の構造説明はことさらこれを本件実用新案の構成要件に該当させようとしてした実態に符合せぬ牽強付会の説明である。すなわち、被告のイ号器は従来のロープ挿通管を廃して「端面U形(またはU形)の深い溝状体」をもつて主体とし、その両側壁間に2節3連リンクの両側リンクを枢着して4節3連リンク機構を構成したので、止爪の運動空間側面は右「深い溝状体」の両側壁により最初から自然に覆われていて、特に止爪覆いを設ける必要のない構造である。原告の説明は、イ号器の主体である「端面U形(またはU形)の深い溝状体」をことさら底部と上方部とに分離して理解し、底部を「ロープ挿通管」と均等物であり、上方部のさらに一部分が「止爪覆い」である、と無理矢理に説明しているものにほかならない。
2 以上の主張によつても明らかなとおり、イ号器には本件実用新案の構成要件にいう「ロープ挿通管」および「止爪覆い」に該当するものは何ら具備されていない。
3 このことをさらに明らかにするため本件実用新案の要旨等について考えてみるに、本件実用新案の要旨は、要するに、従来この種調節器のロープ挿通機構として公知公用されていた「端面円形状の挿通管」に関して、その欠点である止爪とロープとの間に電線の切れ端・木切れ等が挟まりロープの締止の妨げとなるという点を克服するため、止爪の運動空間部を覆う止爪覆いを設けたところにあるにすぎない。換言すると、従来の端面円形状の挿通管を考案の起点としこれを改良したところに要旨が存する。したがつて、本件考案においては、当初からイ号器の主体である前記のような「端面U形(またはU形)の深い溝状体」は全く念頭になかつたものである。もし、このような機構をも念頭においた考案であるのであれば、右のような機構自体は本件考案出願前すでに公知であつたこと原告【A】も主張するとおりであるから、少くともその詳細な説明中に右機構について何らかの示唆があつて然るべきであるがそれが全くない。
しかるところ、イ号器においてはロープ挿通機構として「管」構造を捨て、前記のような深い溝状体を採用したので止爪の運動空間はもともと右溝状体の側壁によつて覆われており、そもそも当初から本件考案が克服しようとした欠点(考案の課題)がない。すなわち、イ号器には技術上、本件考案が克服しようとした欠点が本質的にないわけである。溝状体の側壁は本件考案のように後から付加したものではなくその構造の本質上具備されているものである。
三 被告のイ号器製造販売個数等についても、原告【A】の主張する期間中、その前期の期間は九、〇三六個でその売上高五五七万三、二〇〇円であり(単体売りが七五八個、単価八〇〇円、ロープその他とセツトして売つたものが八、二七八個、
単価六〇〇円)、後期の期間は三、二五〇個でその売上高二二七万五、〇〇〇円(単価七〇〇円)であつたにすぎず、またその実施料額も売上高の七パーセントは高額にすぎ二パーセントをもつて相当と考える。
四 以上のとおりであるからいずれにしても原告【A】の請求には応じ難い。
原告らの商標権、商標権専用使用権に基く差止請求と損害賠償請求に対して
一 原告らの主張中、一項は不知。
二項中被告が両イ号器(ただし、その構造説明に異論のあることは前記のとおりであるが、要するに柱上安全帯用ロープ伸縮調節器を指称するものとしての両イ号器)を販売するにさいし被告標章(一)を使用してきたことは認めるが、同(二)を使用したことはない。
被告標章(一)はギリシヤ神話で「巨人」または「大力の人」の意を有する「TITAN」なる語を採つた被告商標に日本語の「柱上安全帯」と同義の英文商品名「POLE SAFETY BELT」という普通名称を附したものにほかならない。また、販売時期については、新イ号器の販売開始時期が昭和四二年一月ではなく一二月下旬であると主張するほかは原告らの主張を認める(すなわち、昭和四二年一月から三月下旬までは両イ号器とも販売していない)。
三ないし五項は争う。
二 かりに被告標章(一)が原告ら主張のとおり甲、乙商標に類似するものであるとしても、被告標章(一)は被告が甲・乙商標の指定商品又はこれに類似する商品である柱上安全帯用ロープ伸縮調節器(両イ号器)について使用してきたものであるところ、右被告標章(一)は柱上安全帯またはその一部である柱上安全帯用ロープ伸縮調節器の普通名称であつて、被告はこれを普通に用いられる方法で使用しているにすぎないから、右商標権の効力はこれに及ばない(商標法26条1項2号)。
被告標章(一)が普通名称であることを敷衍するに、被告標章(一)は一で述べたような由来からして被告商品であることを示すに特別顕著な「TITAN」なる用語に柱上安全帯の英文である「POLE SAFETY BELT」を付加したものであるところ、右の後者が普通名称であることは次のような点を考えると明白であるから、結局、被告標章(一)全体としても普通名称といえるわけである。すなわち、
1 昭和二二年と同三二年に発行された英国規格協会刊行の英国標準規格「安全帯およびハーネス」でも、柱上で働らくラインズマンのために作られた柱上安全帯を「pole safety belt」といつている(乙第一〇、第一一号証)。
2 原告会社自身も古く昭和二九年から柱上安全帯のことを「ポールセイフチベルト」と称しており(乙第三号証)、また同じ頃のカタログ(乙第一六号証)やその後の和文・英文のカタログ、包装箱等(乙第一八、第一九号証、第二一ないし第二四号証)でも同じように柱上安全帯を「POLE SAFETY BELT」と称している。
3 昭和四五年ごろ原告会社と被告が中部電力株式会社に共同で納入した柱上安全帯の調節器にはともに「POLE SAFETY BELT」と刻し、ただ両者を区別する趣旨で前者には「FUJII」と、後者には「TITAN」と刻している。
4 通商産業省が「柱上安全帯」の日本工業規格を制定した(昭和四七年三月一日)さいに調査審議をした日本工業標準調査会の医療安全用具部会柱上安全帯専門委員会(以下、単に委員会と略称する)が開催した第五回委員会(昭和四六年二月八日)でも「柱上安全帯」の規格英文名を「Safety Belts for Lineーmen」から二十数年来当業界で用いてきた「Pole Safety Belts」に訂正可決されている(乙第八、第九号証)。もつとも、右の決議はその後いつの間にかもとの「Safety Belts for Lineーmen」に戻つているが(甲第三六号証)、これは原告会社側の圧力と裏工作によつて委員会の審議も経ず変更されたにすぎない。
三 かりに何らかの意味で被告に甲乙商標権または専用使用権の侵害があつたとしても、原告らはこれにより何ら損害を受けたわけではない。すなわち、一般に登録商標権者は、当該商標についてはこれを専用する権能を有するからこれを他人にそのまま使用させて対価を得ることができるが、当該商標に類似するだけの標章(本件被告標章の場合)については商標権者はその専用権はなくただ消極的な禁止権を有するにとどまる。したがつて、商標権者は類似標章の使用を他人に認めてその対価を得る権能はない。また、本件では特に甲商標については原告らはかつて一度もこれを使用したことはなく、そのため昭和五一年一月被告から不使用による商標登録取消の審判請求をされているぐらいである。以上のような場合、商標権者または専用使用権者に何らかの金銭上の損害があるとは考えられない。
次に、被告の被告標章(一)を附した両イ号器の販売実績は左記表のとおりであつて、原告らの主張は過大である。
そして、商標使用料率に関する原告らの主張もまた過大であり、それはたかだか売上高の一パーセントとみるのが妥当である。現に原告【A】の原告会社に対する本件甲乙商標専用使用権設定対価も一パーセントとしている。
<12121-002>四 以上のとおりであるから、いずれにしても原告らの請求には応じられない。
(証拠関係)(省略) 理 由
原告【A】の実用新案権に基く損害賠償請求について
一 原告【A】が本件実用新案権者であつたことは当事者間に争いがなく、右実用新案権の存続期間、内容等が同原告主張のとおりであることは成立に争いない甲第一、第三号証によつて明らかである。
また、右認定事実によれば、本件実用新案の構成要件を分説すると同原告が二1で主張するとおりの(イ)(ロ)のようになると解するのが相当であり、本件実用新案の作用効果が同原告の二の2の主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 被告が本件実用新案権の存続期間中に業として両イ号器を製造販売していたこと自体は被告も自認するところである。
もつとも、被告は原告【A】主張の両イ号器の図面を認めながらその構造説明についてはこれを争つている。しかし、本件においては図面による表現自体には争いがないほか、いまあらためて原告【A】の説明文をみても一部是正するのが妥当と思われる部分も認められないではないが、全体としてはイ号器を説明しえていると考えられ、これによつてイ号器を特定したからといつて、そのことだけの理由で本件における争点についての黒白が決せられるものとも考えられないから、本件においては以下、イ号器の特定または説明は原告【A】の主張に従うこととする。
そして、イ号器の構成を分説すると、原告【A】が四1で主張するとおり、
(イ)′、(ロ)′の二つの構成となると解される。
三 そこで、原告【A】主張のイ号器が本件実用新案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 本件実用新案のクレームはいわゆるジエプソン方式のクレームであつて、
(イ)の構成要件は本件考案の適用範囲を限定する前提部分にほかならないところ、イ号器の構成も右の前提にいう調節器であることはいうまでもないから、その(イ)′の構成は右(イ)の構成要件に該当する。
2 そこで次にイ号器の(ロ)′の構成を本件実用新案の(ロ)の構成要件に対比して考える。
(一) まず、本件考案の要旨はどの点にあるか検討してみる。(1)前掲甲第一号証(本件実用新案公報)によれば、本件実用新案の説明欄には原告【A】がその作用効果として主張し被告もこれを争わない記載(同原告の二2の主張参照)が見られ、これによると、本件考案は、要するに、従来の「ロープ挿通管」を使用する調節器においてはロープ締止のために設けた止爪の運動空間部が覆われていないため止爪とロープとの間に電線の切れ端、木切れ等が挟まりロープ締止の妨げとなり、ひいては柱上で柱上安全帯を着用して作業中の者に柱上落下の危険を及ぼす欠点が存することに着目し、右の欠点を克服することを考案の課題とし、右課題解決の方法として「ロープ挿通管に、止爪の運動空間部を覆う止爪覆いを設ける」ことを提案したところにその要旨があると考えられる。これを換言すると、本件考案は前記のような従来の「ロープ挿通管」を構成の一部とした調節器に関するいわゆる改良考案にほかならず、他に別の要旨を見出すことはできない。(2)以上の結論は、この技術分野における従来の公知技術に照らしても正当であることが裏付けられる。すなわち、成立に争いない甲第二四号証(昭和一六年三月八日特許庁陳列館受入のケーブルクランプに関する米国特許二、二二〇、二〇三号)、同第二七号証(墜落防止用ロープの伸縮調節器に関する特公昭三四ー八二九の特許公報)、に前掲同第一号証も総合してみると、ロープ締止機構の部材であるこの種ロープ挿通器材としては、本件出願前から端面円形のものも、両側壁を有する端面U形またはU形のものも公知であつたことが認められる。このことを勘案して前示の本件考案の要旨をさらに敷衍すると、本件考案は、調節器のうち、従前公知の幾通りかのロープ挿通器材中、端面丸形のものを採用している場合について、それが有する欠点を克服改良することを要旨としたものであり、端面U形またはU形の両側壁を有する挿通器材は考慮の外にあつたと解すべきである。
(二) はたしてそうだとすると、本件実用新案のクレームにいう「ロープ挿通管」を原告【A】が主張するように広く「ロープ挿通体」と解することは本件実用新案権の権利解釈としては適切ではなく、かえつて、ここに「ロープ挿通管」とは「管」の有する本来の意義である「@くだ。つつ。A気体・液体などの輸送に用いる長い中空円筒。」(広辞苑の「かん〔管〕」の項)の意になるべく忠実に解し、
少くともロープ締止のために設けた止爪の運動空間部を覆うていないような構造になつている端面円U形のものを指すというように限定して解釈するのが相当であり、またそれゆえ右の点について均等を論ずることも許されないと解すべきである。
(三) しかるところ、被告のイ号器におけるロープ挿通器材が両側壁を有する端面U形またはU形であることは前示のとおりであるから、これが本件実用新案のクレームにいう「ロープ挿通管」に該当しないことは明らかである。
そして、以上の点を換言すると次のとおり説明することも可能である。すなわち、被告のイ号器におけるロープ挿通U(または)U形材はそれ自体両側壁が上方に延長された構造であるため、すでに止爪の運動空間部を覆う結果となつており、
本件実用新案が解決課題としたような欠点はその構造自体それを有しないものというべきであるから、イ号器の構造が具現している技術思想の中には何ら本件実用新案が提出しているような課題とその解決という思想を見出すことはできない。したがつて、イ号器は何ら本件実用新案の要旨を具現したものではない。
3 そうすると、被告のイ号器は本件実用新案の技術的範囲に属するものではない。
叙上の説示に反する甲第四号証の三(原告【A】を請求人、被告を被請求人とする判定請求に対する特許庁の昭和四二年一一月四日付判定で、被告の旧イ号器が本件実用新案の技術的範囲に属するとしたもの)の見解は採用しない。
四 よつて、被告のイ号器製造販売は何ら本件実用新案権を侵害するものではないから、原告【A】のこれと異なる前提に立つ損害賠償請求は爾余の判断をなすまでもなく理由がない。
原告らの商標権、商標専用使用権に基く差止請求と損害賠償請求について
一 成立に争いない甲第二、第五二号証によると原告らの主張一のうち甲商標に関する部分の主張事実を認めることができる(ただし、正確には、原告会社の現在の甲商標専用使用権は原告ら主張の登録ののち、あらためて昭和五三年三月一三日の設定契約に基き同年一〇月二〇日に登録されたことに由来するものである。)。
二 被告が柱上安全帯用ロープ伸縮調節器である両イ号器を販売するにさいし被告標章(一)を使用してきていること、その使用期間が旧イ号器については昭和四〇年二月一日から同四一年一二月末までであり、新イ号器については同四二年一二月下旬以降であることは当事者間に争いがない(なお、弁論の全趣旨に照らすと、当事者がいう「使用」とは商標法2条3項所定の定義に基く使用をいうものと解して差支えないと思われる。)。また、使用期間のうち当事者間に争いある期間についてはこれを認めるに足る確証がない。
原告らは、被告は被告標章(二)も使用していると主張し、成立に争いない甲第六号証の一によると被告の商品パンフレツト表紙に被告標章(二)を刻した調節器が画かれていることが認められ、少くともかつていつのころかこれを使用したことがあることは認められる。しかし、被告のその他のパンフレツト(成立に争いない同号証の二、四)等ではすべて被告標章(一)が画かれており、またもともと被告もその使用を認める被告標章(一)の頭部の「TITAN」は被告が主張するとおりギリシヤ神話上の巨人または大力の人を指す有意の固有名詞であることを考えると、被告標章(二)の頭部の「TAITAN」は何らかの理由でかつて一時的に「TITAN」を誤つて表記し画いた結果にすぎないと解するのが相当で、かつ被告の弁論の全趣旨に照らすと被告が将来とも被告標章(二)を使用するおそれはないと認められる。
また前示被告標章(二)の過去における一時的な使用についていまこれを無視したとしても特段原告らの損害賠償請求金額の判断に影響を及ぼすものでもない(すなわち、損害賠償請求については被告標章(一)を附したイ号器のみが問題となるだけである。)。
三 そこで、本件では以下専ら被告標章(一)を甲商標に照らし検討することとし、その類否について考える。
1 (商品の同一性) 被告のイ号器が甲商標の指定商品である旧七〇類の高所作業安全器具に属することは前記第一の実用新案権に関して説示したイ号器の目的、作用効果に照らし明白である。
2 (商標の類似性) 被告標章(一)は甲商標と同一ではない。
そこで、その類似性の存否について検討する。
まず、両者の構成をみるに、甲商標は片仮名七文字を左から右に並べて構成したいわゆる文字商標であるところ、被告標章(一)も英語の単語四つ(順次五、四、
六、四文字からなるもの)を左から右に並べて構成した文字標章であつて、両者とも称呼に親しむものである。したがつて、ここでは類否を決する称呼、観念、外観の三要素のうち、まず称呼に関する共通性について考えるに、被告標章(一)を構成する四つの単語はこれを一つずつ取り挙げるといずれも英語辞典にも収められている名詞であることは明らかであるところ、いまこのことと我が国の英語教育の普及度が相当程度に達していると思われる点をもあわせ考えると、イ号器の取引需要者が被告標章(一)をみたさいには、必らずこれを英語の発音に従い「タイタンポールセイフテイベルト」と発音呼称するものと考えて大過ないと思われる。しかるところ、右称呼中の中央の二つの単語の音声「ポールセイフテイ」は片仮名文字ポールセフテイからなる甲商標の称呼全体と全く同一と解して妨げないものである(「セイフテイ」と「セフテイ」は語感において同一とみて差支えない。)。そして、被告標章(一)の称呼上右「ポールセイフテイ」なる部分は全体の称呼の中央部に配され、文字に直すと一九文字中その過半数の一〇文字を占めており他の構成要素である冒頭の「タイタン」と末尾の「ベルト」はいずれもこれと分離可能な独立の名詞であつて、被告標章(一)全体を呼称する場合、頭部の「タイタン」で一度区切り、そこで語調抑揚を変えて「ポール セイフテイベルト」と続けるものと思われる(「タイタン」が「ン」なるはね音によつて終る点も参照)。以上のような点からすると、人は被告標章(一)全体の称呼を聞き終えたとき中央部の「ポールセイフテイ」なる部分を相応に強く印象づけられ耳に残すものと思われる。結局、被告標章(一)はその称呼上その重要な中央部に甲商標の称呼をそつくりそのまま取り込んだものと解され、そのことからして、両者は称呼上類似しており、被告標章(一)はその中に甲商標と同じ称呼を含む以上両者混同のおそれが存する。
もつとも、被告標章(一)を構成する四語の意味中、頭初の「TITAN」は前示のようにギリシヤ神話上の特異な固有名詞であるのに対し、その余の「POLE」「SAFETY」「BELT」の三語の一つ一つはそれぞれ普通名詞であり、
観念上は人に与える響きを異にし頭初の部分が特徴的であることはこれを認めるに十分である。しかし、右のような観念連想上の特徴が存するからといつて前示のような呼称上の類似性、共通性に関する判断を左右しなければならないものでもない。
かえつて、後記四の末尾括弧の中で説示するとおり、甲商標の「ポールセフテイ」は柱上安全帯を意味する普通名称というよりは「ポール」(電柱)と「セフテイ」(安全)という普通名詞を並べて独特の連想を起こさせる一種の造語であると解される点からすると、被告標章(一)は冒頭に「TITAN」なる固有名詞を含むにもかかわらず、なお右甲商標と同じ独特の造語をそのまま含むことにより、独特の連想をひき起こし、甲商標と観念連想上も類似点を有し、前記称呼上の共通性による両者の混同を増幅させていると思われる。そうすると、被告標章(一)は甲商標に類似している。
四 そこで、次に被告の商標法26条1項2号に基く普通名称普通使用の抗弁について検討する。
被告の右抗弁についてまず留意しなければならないことは、普通名称であるか否かを検討すべき対象は、甲商標でないのはもちろん、被告標章(一)の一部ではないのであつて、その全体を全体的に考察しなければならないという点である。しかして、右のような見地からすると、被告標章(一)は前示のとおりその頭部に「TITAN」なるギリシヤ神話上の特異な固有名詞を冠しており、これが我が国で何らかのありふれたものを指す用語として定着使用されているとはとうてい考え難い。したがつて、被告標章(一)全体としても、爾余の構成部分について検討するまでもなく、これを普通名称ということはとうていできない。
のみならず、いま被告標章(一)の構成中、頭初の「TITAN」を捨象し、その余の「POLE SAFETY BELT」なる部分についてのみ検討しても、
これを「柱上安全帯」一般を指す普通名称と断ずることは以下の理由により困難である。すなわち、
まず、右の三つの語を一つずつ取り挙げるとそれが普通名詞であることは前示のとおりであるが、普通名詞の集合体を即前記法条号所定の「普通名称」と解さなければならないいわれはないし、現にこれを全体として「柱上安全帯」の意味に用いる用法は英語上見出せない(成立に争いない乙第六号証や巷間の英語辞書によると「safety belt」が安全バンドまたは安全ベルトの意に解されていることは窺われるが、「pole safety」または「pole safety belt」なる用語は英語辞書にも、また最も詳細な我が国の外来語辞典である【B】著角川第二版にも見出せない。)。かえつて、成立に争いない甲第三〇、第三一号証、第三五ないし第三七号証に証人【C】の証言を総合すると、「柱上安全帯」を意味する熟した英語としては「Safetybelt for line‐men」なる語が存すること、なお、これにパラレルに鉱山用安全帯を指す英語として「safety belt for mine」なる語も存すること、および右各英文はいずれも我が国が右各用具について工業規格(JIS)を制定したさいに参考用にこれら商品を指す英文名として採択しているものであること、以上のような事実が認められる。
被告は「pole safety belt」が普通名称であることを裏付けるために種々の主張をしているが(被告の主張第二の二の1ないし4)、いずれも決定的なものとはいえない。すなわち、成立に争いない乙第一〇、第一一号証によると被告の右主張1の事実が認められ、この点は一考に値いするけれども、外国である英国規格協会における柱上安全帯を指す用語「pole safety belt」が直ちに我が国で使用され定着されている普通名称であると即断することはできないし、また、被告の主張2ないし4についても、その主張自体はそれぞれ被告が該当項で挙示する証拠によつてこれを認めることができるけれども(ただし、4の後段で原告会社側の圧力と裏工作に言及する部分は表現として穏当を欠くからこれを除く)、これらはいずれも原告らがその主張の第二の七の後段で指摘するとおり専ら原告会社が自社製品の商標として使用したものにほかならないものや、あるいは本訴提起後に被告が使用し、または関与して一時的に用いられた事例にすぎないから、これらの事実をもつて被告の主張を裏付けようとすることは無理である。
またこの点に関する被告の主張にそう証人【D】、同【E】の証言は措信しない。
(そして、このように考えてくると、原告らの甲商標はその観念上も全体としては特段正確な意味を有せず、むしろ造語に近い文字標章であつて、それ自体、自他を区別認識するに足る特別顕著な商標であるといわざるをえず、またそれゆえ登録査定をうけえたものと解されるー商標法3条1項1号参照ー。) 結局、被告の前記抗弁は理由がない。
五 そうすると、被告は両イ号器について被告標章(一)を使用することによつて原告らの各甲商標権、専用使用権を侵害してきたものとみなされる(商標法37条1号参照)。
六 そこですすんで原告らの損害賠償請求について判断する。
1 被告の前記侵害行為は過失によつてなされたものと推定されるから(商標法39条、特許法103条)、原告らはいずれもその主張の期間について被告に対し商標の使用料相当額を損害額として賠償請求することができる(商標法38条2項)。
ところで、被告は、本件のように同一でなく類似しているにすぎない標章を指定商品に使用することによる商標権(および専用使用権)侵害であつて、ことに右商標自体権利者も使用しているような場合においては、権利者はもともと当該類似標章について専用使用権を有さず、ただ使用の差止請求権を有するだけであるから、
その使用を許諾して使用料を徴する権能を持ち合わせず、それゆえ使用料相当額によつて計上される得べかりし利益はなく、ひいては損害の発生する余地もない旨主張しているので検討する。思うに、商標権者は同一商標を無断使用する者に対して使用差止請求権(禁止権)を有するほか、当該登録商標の独占使用権を有する結果として他にその使用を許諾して使用料を得ることもできるのに対し、類似商標を無断使用する者に対しては商標法37条1号によつて同一商標の場合と同様に使用差止請求権(禁止権)を有するけれども、類似商標についてまで独占使用権を有するものではないから他にその使用を許諾して使用料を得る機能は有しないことは被告所論のとおりである。しかし、そのことと、類似商標の無断使用について不法行為が成立するか否か、いいかえれば、商標権者(または専用使用権者)が他人の類似商標使用によつて権利を侵害されたとみなされた結果(なお、擬制侵害でも不法行為法上の違法性ある行為であることには相違ない)、損害を受けたと解すべきか否か、およびその額をどのように考えるかということとは別個の問題である。かえつて、類似商標の違法使用についても、同一商標の違法使用と同様に、違法使用自体によつて相応の損害を蒙つていると解するのが相当である(なお、以上の点については次のような実情にも想到すべきである。すなわち、違法使用の態様は、普通、
同一商標の使用による場合は極めて稀であつて、むしろ登録商標を少し変え、もじつた類似商標を使用するケースがほとんどであつて、このような場合にそれが登録商標と同一でないという理由だけですべてその損害賠償請求を否定することは著しく法感情に反する結果となり相当でなく、両者を区別する合理的な根拠が見出せない。)。かくして、商標法38条2項にいう「侵害した者」とは少くとも同法37条1号所定の擬制侵害者をも包含する趣旨であると解すべきであるし、そこに定められている損害額に関する条項も、権利者は違法使用標章が同一であるか類似であるかにかかわらず、それによつて損害を蒙ることを当然の前提として、ただその場合の額を、一般に侵害によつて生ずべき通常の損害として相当と考えられている当該同一商標の使用料と同額と定めたまでであると解すべきである。
しかして、以上のように解することによつてはじめて商法20条1項(および21条一、二項)や不正競争防止法1条1項1号、二号、1条ノ二の一項において商号、商標等の営業表示、商品表示一般の不正使用についてそれが同一のものであるか、類似のものであるかを特段区別することなく損害賠償請求を肯定していることとも整合するものと考えられる。
また、原告らは商標法38条1項による損害額を請求しているのであれば格別、
同法条二項による損害額を請求しているにすぎないのであるから、かりに原告らが被告主張のとおり甲商標を全く使用していなかつたとしてもそのことにより右請求を妨げられる合理的な理由もない。
したがつて、被告の前記主張は失当である。
2 原告【A】が甲商標権を侵害されたために受けた損害額について。
証人【F】(第二回)の証言によつて真正に成立したと認める甲第四二号証の二、第四四号証と右証言によると被告は原告【A】が商標権を有していた昭和四〇年二月一日から同四二年三月二二日までの間に被告標章(一)を附した旧イ号器を少くとも三万四、二八六個販売したことが認められる。また、右証拠によると、両イ号器は単体として販売する場合とロープ・フツク等とセツトにして販売する場合とがあることが認められるが原告らの請求の趣旨その他の弁論の趣旨に照らすと、
商標使用料算出の基礎となる代金はイ号器単体だけの代金をもつて相当と解すべきである。しかるところ、本件ではその代金額は証拠によつて確定することができないので、被告の主張に基き一個六〇〇円とするほかない(被告は、セツト売りのさいの旧イ号器だけの代金割合は六〇〇円、単体売りのさいの代金は八〇〇円と主張しているが、両者の数量割合が不明であるから被告に有利に低額の方を採用したもの)。そして、そのさいにおける商標使用料は鑑定人【G】の鑑定の結果により右代金額の二・五パーセントをもつて相当と考える。前掲甲第二、第五二号証によると原告【A】が実際に原告会社に甲商標の専用使用を許諾したさいの使用料は代金額の一パーセントとしていることが認められるが、原告【A】は原告会社の代表者であることからすると右自己契約の内容を一般取引上の使用料割合検討のさいの参考とすることは相当でない。
以上の各数値に基くと原告【A】の受けた損害額は別紙計算表のとおり五一万四、二九〇円となる。
3 原告会社が甲商標専用使用権を侵害されたために受けた損害額について。
前掲証人【F】(第二回)の証言によつて真正に成立したと認める甲第四三号証の一、二、前掲同第四四号証に右証人の証言を総合すると、原告会社が甲商標専用使用権を有していた別表備考欄記載の@およびAの期間内に被告が被告標章(一)を附した新イ号器を販売した数はそれぞれ一万三、六六四個、一万〇、七〇三個であることが認められ、Bの期間内が一〇万五、一五九個であつたことは当事者間に争いがない。そして、その基礎単価は前示2と同じ理由により被告の主張に従い、
順次六〇〇円、八〇〇円、九一八円とするほかない。また、商標使用料率も前示2と同じ理由により代金額の二・五パーセントを相当とする。
そうすると原告会社が受けた損害額は別紙計算表のとおり合計二八三万二、四一九円となる。
七 そして、叙上の判示によると予備的な乙商標に基く請求について判断しても叙上の範囲を超えて原告らに有利な結論を導き出すことはできない。
したがつて、原告らの差止請求と損害賠償請求は上来説示の限度で理由があるが、その余は失当である。
結論
よつて、(第一の実用新案関係)原告【A】の実用新案権に基く請求を棄却し、
(第二の商標関係)原告らの差止請求については新イ号器について被告標章(一)を附することの差止を求める限度でこれを認容し、その余を棄却し、損害賠償請求については原告【A】について損害金五一万四、二九〇円とこれに対する昭和四三年一〇月一七日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で、原告会社について損害金二八三万二、四一九円とうち金二〇万四、九六〇円に対する昭和四三年一〇月一七日から、うち金二一万四、〇六〇円に対する同四九年七月一〇日から、うち金二四一万三、三九九円に対する同五一年五月一日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で、それぞれこれを認容し(なお、附帯金の起算日はいずれも不法行為の日以後であつて、かつ原告らの請求の範囲でこれを定めたもの)、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法92条93条を、仮執行宣言につき同法196条を各適用して主文のとおり判決する。
追加
第一目録の(一)(旧イ号器)添付イ号図面に示すように、ロープ挿通U形材(1′)の両側壁を上方へ延長して並行側壁(2′1)、(2′2)を形成し、並行側壁(2′1)、(2′2)に枢着部(5′)、(6′)において四節三連リンク機構の両側リンク(3′)、(4′)を枢着するとともに、両側リンク(3′)、(4′)の延長部である上爪(7′)、(8′)の連動空間側面を覆う止爪覆い部(11′)、(10′)を枢着部(5′)、(6′)に連続して設けた構造の柱上安全帯ロープ伸縮調節器。
イ号図面の説明第一図は柱上安全帯ロープ伸縮調節器の正面図第二図はこれを左側から見た側面図第三図はこれを右側から見た側面図第四図はその平面図第五図はこの調節器を握つて止爪の口を十分に開かせた場合の状態を示す第一図図示調節器の正面図<12121-003><12121-004>第一目録の(二)(新イ号器)添付イ号図面に示すように、ロープ挿通U形材(1′)の両側壁を上方へ延長して並行側壁(2′1)、(2′2)を形成し、並行側壁(2′1)、(2′2)に枢着部(3′)、(6′)において四節三連リンク機構の両側リンク(3′)、(4′)を枢着するとともに、両側リンク(3′)、(4′)の延長部である止爪(7′)、(8′)の運動空間側面を覆う止爪覆い部(11′)、(10′)を枢着部(5′)、(6′)に連続して設けた構造の柱上安全帯ロープ伸縮調節器。
イ号図面の説明第一図は柱上安全帯ロープ伸縮調節器の正面図第二図はこれを左側から見た側面図第三図はこれを右側から見た側面図第四図はその平面図第五図はこの調節器を握つて止爪の口を十分に開かせた場合の状態を示す第一図図示調節器の正面図<12121-005><12121-006>第二目録<12121-007>第三目録<12121-008>
裁判官 畑郁夫
裁判官 中田忠男
裁判官 小圷真史