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関連審決 審判1978-7830
関連ワード 考案 /  補正 /  共同出願 / 
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事件 昭和 53年 (行ケ) 163号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1980/09/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告ら訴訟代理人は、「特許庁が昭和五三年九月一日、同庁昭和五三年審判第七八三〇号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
原告らの請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告らは、昭和四九年一月二一日その名称を「帳簿を構成する整理伝票」とする考案につき実用新案登録出願をし、同年九月一〇日、実用新案法第55条第2項
特許法第14条ただし書の規定に基づいて、代表者を原告Aと定め代表者選定届をもつて特許庁に届け出たところ、昭和五三年三月一五日拒絶査定を受けたので、同年五月一九日審判の請求をし、昭和五三年審判第七八三〇号事件として審理されたが、特許庁は昭和五三年九月一日「本件審判の請求を却下する。」との審決をし、
その謄本は同年九月一四日原告Aに送達された。
二 審決理由の要点 特許庁は、共同出願人の一人である原告Aに拒絶査定謄本を送達したのであるから、その送達の効力は実用新案法第55条第2項、特許法第14条の規定により共同出願人たる原告ら両名について生じたものというべきである。本件実用新案登録出願は原告ら両名が共同でしたものであるから、その拒絶査定に対する審判の請求は原告ら両名共同ですべきものであるのに、原告Aが単独でこれをしたものであり、実用新案法第41条、特許法第132条第3項の規定に違反するものとして、
実用新案法第41条、特許法第135条の規定により、審判請求を却下する。
三 審決を取消すべき事由 原告らは、実用新案法第55条第2項、特許法第14条の規定に基づいて代表者を原告Aと定めて特許庁に届け出たのであるから、以後の特許庁における手続はすべて代表者である原告Aがすれば足り、実用新案法第41条、特許法第132条第3項による審判の請求とてこの例外ではあり得ない。しかるに本件審決は、この点を看過し、本件審判請求を却下したものであつて、右審決には審理不尽、理由不備の違法がある。
被告は、特許法第9条の、委任による代理人の代理権の範囲についての規定を根拠として、同法第14条の代表者(以下「選定代表者」という。)たる原告Aも、
拒絶査定不服の審判を請求するについては、共同出願人たる原告Bからの特別の授権を必要とすると主張する。しかしながら、選定代表者の代表権と委任による代理権とは、その性質において全く異なる。選定代表者は自ら考案したと信ずる本人であつて、共同出願した当事者本人のうちから選定された者である。そこには代理関係は全く存在しない。選定代表者は、選定により、選定者及び自己の権利利益について原告又は被告として訴訟を追行する適格をもつ。選定代表者は、いつさいの訴訟行為ができるのであつて、その権限の行使について委任による代理人のような制限は受けない。選定代表者の地位は、民事訴訟法第47条の選定当事者の地位に準ずる。従つて、本件審判請求が原告Aのみによつてなされていても、特許法第132条第3項の適用については共有者の全員が共同して請求したことになる。
更に、実用新案法第55条第2項、特許法第14条ただし書の代表者選定に関し、前記と異なる解釈が特許庁の審判部において採用されているものであれば、この点につき理由を示すべきであるにもかかわらず、なんらこれに言及することなく審決に至つた点においても、審決には審理不尽、理由不備の違法がある。
被告の認否及び主張
一 請求の原因一、二を認め(ただし、一の事実中、審判請求人については、次に主張するとおりである。)、三を争う。
二(一) 原告は、本件出願は代表者選定届をもつて代表者をAと定めて特許庁に届け出たものであり、「以後の特許庁における手続についてはすべて代表者であるAをもつて足りるものであり、実用新案法第41条、特許法第132条第3項の規定とてこの例外ではあり得ない。」と主張する。
(二) しかしながら、原告の右主張は特許法第14条ただし書及び第132条第3項の解釈の誤りに基づくものである。
その理由は次のとおりである。
特許法第9条は、委任による代理人の代理権の範囲につき、特許出願の変更、放棄若しくは取下、請求、申請若しくは申立の取下、第121条第1項若しくは第122条第1項の審判の請求については特別授権を要する旨を定めている。以上列記の事項は、必ずしも不利益行為のみに限定されてはおらず、委任者に重大な影響を及ぼすべき事項として把握することができるものであり、以下これらを一括して「拒絶査定不服の審判の請求等」と略称することにする。
特許法第14条本文は拒絶査定不服の審判の請求等以外の手続については各人が全員を代表して手続行為をすることができる旨を定めており、同条ただし書において代表者を定めて特許庁に届け出たときは「この限りでない」としている。
「この限りでない」の解釈については、委任による代理人の制度と選定代表者の制度とを比較した場合に、両者ともその法律効果が本人に生じるものである点において共通していることにかんがみると、選定代表者の代表権限の範囲は委任による代理人の場合と同じとみるのが均衡上至当であり、そうすると、選定代表者の代表権限の範囲は、一般的には、拒絶査定不服の審判の請求等以外の手続に限られると解するほかはない。従つて、第14条ただし書は、選定代表者が拒絶査定不服の審判の請求等以外の手続をするときには相互代表の原則は適用されない旨を規定したものであると解すべきであり、そのように解すると、選定代表者が拒絶査定不服の審判の請求をするについては特別授権を要することになる。
特許法第132条第3項の規定が設けられた趣旨を考えるに、共有者の一部の者は特許の付与を希望しているにもかかわらず、他の共有者は発明を公衆一般に開放することを希望ないしは容認している場合には、@特許の付与を求める一部の共有者の審判請求行為を一種の保存行為的なものとみて、その審判請求を適法とするという仕組みとするか、それともA一部の共有者による審判請求を不適法とするという仕組みとするかの選択を迫られるが、特許法は、@の仕組みを採用せず、Aの仕組みを採つた。けだし、特許権及び実用新案権は峻烈無比の排他的効力を有する権利であるため、一般第三者の利害との調和を図ることは特許法の眼目のひとつであるところ、共有者の一部に発明又は考案を公衆一般に開放することを希望ないしは容認する者がいる場合には、独占権を作出しないこととし、共有者の全員が独占権の付与を希望している場合にのみ権利を与えるとした方が、権利者と一般第三者との利害の調和という観点からは妥当であるとみたからであろう。
原告らの、選定代表者が定められて特許庁に届け出られた場合には、特許法第132条第3項の適用が排除されるとの主張は、前述の同条項が定められた趣旨に照らして、その合理的理由を見出し得ないばかりでなく、かえつて、特許法第9条が、委任による代理人の代理権の範囲について、特別の授権を得なければ拒絶査定不服の審判の請求等をすることができないとしていることとの均衡からいうと、選定代表者の代表権限の範囲もまた委任による代理人の場合と同じ範囲とみるのが相当である。
(三) 右のとおりであるから、原告Aが単独でした審判請求は不適法というほかはなく、その補正をすることができないものというべきであるから、実用新案法第41条、特許法第135条の規定によりこれを却下すべきものとした本件審決は正当である。
理 由 原告らの請求の原因一(審判請求人の点を除く。)、二は当事者間に争いがない。
そこで、審決に原告らの主張するような瑕疵があるかどうかについて考える。
実用新案法第41条で準用する特許法第132条第3項によれば、特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。原告らは、実用新案登録を受ける権利の共有者であるから、拒絶査定不服の審判を請求するには原告ら共同でなければならないのに、成立に争いのない甲第三号証によれば、原告A単独でこれをしたものであることが認められるから、その審判請求は不適法であつて却下を免れない。
原告らは、実用新案法第55条第2項、特許法第14条の規定に基づいて代表者を原告Aと定めて特許庁に届け出たのであるから、以後の特許庁における手続はすべて代表者である原告Aがすれば足り、実用新案法第41条、特許法第132条第3項による審判の請求としてこの例外ではあり得ないと主張する。しかしながら、
特許法第14条は、二人以上が共同して手続きをしたときは、同条本文に掲げる手続(審判の請求等)以外の手続については各人が全員を代表するが、代表者を定めて特許庁に届け出たときは、同条本文に掲げる手続以外の手続についてはその代表者が全員を代表することを定めたものであつて、代表者を定めて特許庁に届け出たときは同条本文に掲げる手続についてもその代表者が全員を代表できる旨を定めたものではない。このことは同条を同法第9条と対比してみても明瞭である。
原告らは、特許法第14条ただし書にいう代表者は民事訴訟法第47条に定める選定当事者に準ずる地位を有するものであつて、特許法第9条に規定する委任による代理人とは異なるから、本件審判請求が同法第14条ただし書にいう代表者原告Aのみによつてなされていても、同法第132条第3項の適用については共有者の全員が共同して請求したことになるとの趣旨を主張する。しかしながら、特許法第9条の代理人と同法第14条ただし書の代表者の法的性質が異なるとしても、後者が民事訴訟法上の選定当事者に準ずる地位を有すると解すべき根拠はなく、同法第14条ただし書にいう代表者は拒絶査定不服の審判を請求し得るとのことは、同法第9条及び第14条の解釈からは出て来ない。原告らの主張は理由がない。
原告らはまた、実用新案法第55条第2項、特許法第14条ただし書の代表者選定に関し、前記のような解釈と異なる解釈が特許庁の審判部において採用されているのであれば、この点につき理由を示すべきであるのに、これに言及することなくした審決には審理不尽理由不備の違法があるというが、右法条の解釈は原告ら独自のものであつて、審決でその然らざるゆえんを説明する必要はない。原告らの右主張も理由がない。
以上のとおりであるから、
原告Aが単独でした審判請求を不適法として却下した審決には違法の点はなく、原告らの請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用は敗訴の当事者である原告らに負担させることとして主文のとおり判決する。
裁判官 小堀勇
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裁判官 舟橋定之