関連審決 |
審判1971-7390 |
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関連ワード | 考案 / 考案の要旨認定 / 図面 / 構造 / 補正 / 減縮 / 削除 / 実施例 / 同一の作用効果 / 数値限定 / 頒布 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
昭和
55年
(行ケ)
25号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1982/06/30 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
原告は、「特許庁が昭和四六年審判第七三九〇号事件について昭和五四年一二月三日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文と同旨の判決を求めた。 |
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当事者の主張
(原告)請求の原因一 特許庁における手続の経緯考案の名称 「ゴルフクラブ」実用新案登録出願 昭和四四年三月八日査定 昭和四六年六月二八日・拒絶査定審判請求 昭和四六年九月一六日(昭和四六年審判第七三九〇号)審決 昭和五〇年一二月一三日・請求不成立訴の提起 昭和五一年一月九日(昭和五一年(行ケ)第三号)判決 昭和五一年七月二八日・審決取消出願公告 昭和五三年一月七日手続補正 昭和五三年八月一六日昭和五四年一二月三日・補正却下審決 昭和五四年一二月三日・請求不成立審決の送達 昭和五五年一月一四日二 本願考案の登録請求の範囲(補正前) クラブの頭部に於ける球打面Zを囲んでその周囲若しくは球打面Zの前端位、前後端位、前端位と下端位、前後端位と下端位に球打面Zの中心部を囲むように偏倚重3を配設したことを特徴とするゴルフクラブ。(別紙第一図面参照)(補正後) クラブ頭部の球打面Zを囲んでその周囲に偏倚重3を配設し、球打面の上辺以外の偏倚重は、その外周の各点と球打面の重心を結ぶ線上において、偏倚重の外周より内周に至る距離が偏倚重内周より球打面の重心に至る距離の等距離以下五分の一以上であり、かつ、球打面外周の各点と球打面重心を結ぶ適宜の線によつて区分された区画における偏倚重部分の重量がこれに対応する球打面部分の重量の等重量以上五倍以下であること及び球打面上辺の偏倚重部分とこれに対応する球打面部分の重量比は、球打面下辺のそれより常に小さいことを特徴とするゴルフクラブ。(別紙第一図面(但し、その第5図〜第8図を削除)、第二図面参照)三 審決の理由の要点(補正の当否についてー補正却下決定) 補正明細書に記載の考案は、いわゆるスウイートスポツトの拡大を目的とし、球打面Zの周囲にその中心部を囲むように偏倚重を設けることにより、打球に際してボールがクラブヘツドの球打面の中心部に当らない場合でも、すなわち、クラブヘツドの球打面の端の方に当つた場合でも、中心部に当つた場合とほぼ同様の飛距離を出させることができる利点や効果を奏するものであつて、これがため、 @ クラブ頭部の球打面Zを囲んで、その周囲に偏倚重3を配設していること、 A 球打面の上辺以外の偏倚重は、その外周の各点と球打面の重心を結ぶ線上において、偏倚重の外周より内周に至る距離が、偏倚重内周より球打面の重心に至る距離の等距離以下五分の一以上であること、 B 球打面外周の各点と球打面重心を結ぶ適宜の線によつて区分された区画における偏倚重部分の重量が、これに対応する球打面部分の重量の等重量以上五倍以下であること、 C 球打面上辺の偏倚重部分とこれに対応する球打面部分の重量比は、球打面下辺のそれより常に小さいこと、 の四つの構成要件からなるとしたものである。 右の補正は、一応、実用新案登録請求の範囲の減縮に当ると認めることができる。 しかしながら、本願考案の要旨を右の四つの構成要件よりなるものとすることが、出願当初の明細書又は図面に記載されていたか否かについては、更に検討の必要がある。 その点について検討すると、出願当初の明細書には、補正明細書に記載された考案の目的の、スウイートスポツトを拡大するものであるというような文言は見当らないけれども、その狙いとするところは、補正明細書に記載のものと変るところはないと認められる。 そして、補正明細書の前記@の構成要件が出願当初の明細書及び図面に記載されていることは認められるとしても、前記A、B及びCの構成要件は出願当初の明細書には全く記載されておらず、また、クラブ頭部の球打面Zを囲んで、その周囲に偏倚重3を配設した図面、すなわち、第1図及び第2図、更には第1図の×―×線断面図である第4図からみても、A、B及びCの構成要件に記載されている数値を限定していたものまでが記載されているとは到底理解することができない。 そうすると、右の補正は、出願公告後のものであつて、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるから、実用新案法第41条で準用する特許法第159条、同条第一項で準用する同法第54条、同条第一項で指摘する同法第64条、同条第二項で準用する同法第126条第2項の規定に違反し、同法第54条第1項の規定によつて却下すべきものである。 (登録出願の当否について) 昭和五三年八月一六日付手続補正書による補正は、前記のとおり、却下すべきものであるから、本願考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載から、 「クラブの頭部における球打面Zの中心部を囲むように前端位及び後端位に偏倚重3を配設したゴルフクラブ」にあるものと認める。 他方、本願考案の登録出願前にアメリカ合衆国内で頒布された刊行物・米国特許第一一三九九八五号明細書(以下「引用例」という。)には、アイアン型の金属ゴルフクラブであつて、比較的薄い打球面と後方へ伸びるトウとヒール部分を有する葉状部からなり、トウとヒール部分は頂部と後部で開放された凹部を側面に設け、 互いに分離されていて、底部から上方へ打球面の厚さと一致するように傾斜していること、このゴルフクラブは、適当な重量及び適当な重量の配分を維持しながら、 クラブの操作性能を増大させる目的から改良されたものであること、が記載されている。(別紙第三図面参照) ところで、引用例記載のアイアン型クラブは、その図面にも明らかなように、比較的薄い打球面と後方へ伸びたトウとヒール部分を有する葉状部からなつていて、 トウとヒール部分は、頂部と後部で開放された凹部を側面に設けることによつて互いに分離されていること、すなわち、葉状部の比較的薄い打球面の裏面において、 トウ側とヒール側に、縦方向の肉厚部を形成したものである。 そこで、本願考案と引用例のものとを比較すると、両者は、共にゴルフクラブであつて、本願考案において、クラブの頭部における球打面Zの中心部を囲むように前端位及び後端位に偏倚重3を配設した構成は、引用例のものにおける葉状部の比較的薄い打球面の裏面において、トウ側とヒール側に、縦方向の肉厚部を形成した構成と一致するものであり、本願考案における、スウイートスポツトの拡大を目的とし、打球に際して、ボールがクラブヘツドの球打面の中心部に当らない場合でも、中心部に当つた場合とほぼ同様に飛距離を出させる利点や効果を有するという点は、引用例のものが、適当な重量の配分を維持しながら、クラブの操作性能を増大させる目的から改良されたものであること、すなわち、比較的薄い打球面の裏面のトウ側とヒール側に縦方向の肉厚部を設けることによつて、打球が打球面のスウイートスポツトをすこし外れても、トウ側及びヒール側の肉厚部による重量でその打球方向の狂いを少くするという効果が容易に理解できることからみて、引用例のものと差異がないと認められる。 したがつて、本願考案は引用例のものと同一のものと認められるから、実用新案法第3条第1項第3号の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない。 四 審決の取消事由 審決は、昭和五三年八月一六日付手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下すべきものとし、本願考案の要旨を右補正前の明細書及び図面に基いて前記三、の項のとおり認定しているが、右補正却下の決定は誤りであるから、これを前提とする右考案の要旨認定もまた誤りである。 仮に、右補正却下の決定が正当であるとしても、本願考案(補正前のもの)は引用例のものとは同一でないから、これを同一の考案とする審決の認定は誤りである。以下に詳述する。 1 本願考案の要旨認定の誤り 審決が本願考案の要旨認定の前提としている本件補正の却下決定は、補正後の考案が実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するものであることを一応認めながら、 補正後の考案を構成するA〜Cの構成要件(前記三、の項参照)が出願当初の明細書及び図面に記載されていないから、結局、本件補正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるとしている。 しかしながら、右決定が構成要件A〜Cという事項は、補正後の考案の構成要件たる@の要件(前記三、の項参照)にいう偏倚重の説明に過ぎず、本件考案の課題たる「スウイートスポツトの拡大」を解決するための偏倚重は常識的に見てどの程度のものであるかということを、誤解を避けるために正確な表現方法を用いて説明したにとどまるのであつて、右決定のいうように大げさな構成要件というほどのものではない。 すなわち、単に、球打面Zの周囲にその中心部を囲むよう偏倚重を設けると言つただけでは、偏倚重の幅も厚さもどの程度のものか判然とせず、偏倚重の幅が広過ぎれば球打面の面積は狭過ぎてスウイートスポツトの拡大にならず、また、偏倚重の幅が狭過ぎる場合も、狭ければ狭い程、その厚みを増加させなければスウイートスポツトの拡大につながらず、したがつて、無効原因を含んでいるか否かの論争を呼ぶことになる。このため、明細書添付の第1図、第2図、第4図程度のものであることを説明したのが前記A〜Cの事項であつて、正確な表現方法を用いたため、 あたかも数値限定考案の如き観を呈しているだけのものに過ぎない。 これを更に詳言すれば、前記Aは、偏倚重の幅がどの程度であるかを説明したものであり、Bは、右Aとの関係での偏倚重の重量がどの程度のものであるかを説明したものであり、Aにおいて球打面上辺の偏倚重を除外しているのはCと密接な関係を有するもので、これは、アイアンクラブは常に上辺より底辺が厚く、したがつて上辺より底辺が重くなければならないという常識を説明したに過ぎないのである。 以上のように、本件補正は、「球打面Zを囲んでその周囲に偏倚重3を配設する構造」(前記@)が、文言どおり解釈すれば、偏倚重の幅は、ゴルフボールの直径部分の面積程度の球打面の周囲を囲む広い場合から球打面の周縁にしか存しない狭い場合までをも含むことになるので、このような広い範囲を、ABCをもつて、当業者の常識に従つた範囲に限定したものに過ぎず、かかる範囲内に限定した場合にのみ格別の作用効果(格別のスウイートスポツトの拡大)を奏するというものではない。 したがつて、本件補正は、「球打面Zを囲んでその周囲に偏倚重3を配設した構造」のうちから、当業者として最も常識的な範囲である明細書の第1図、第2図、 第4図の程度のものに減縮したものに過ぎないのであるから、純然たる請求の範囲の減縮であつて、これが考案の要旨の変更となるいわれはない。 補正却下決定は、当業者の常識を無視し、形式論理に走り過ぎた謬見である。 2 引用例のものとの対比判断の誤り 審決は、引用例のものを、「適当な重量の配分を維持しながらクラブの操作性能を増大させる目的から改良されたものであること、すなわち、比較的薄い打球面の裏面のトウ側とヒール側に、縦方向の肉厚部を設けることによつて、打球が、打球面のスウイートスポツトを少し外れても、その打球方向の狂いを少なくするという作用効果が容易に理解できる」ものであると認定の上、本願考案(補正前のもの)の「球打面の中心部を囲むように前端位及び後端位に偏倚重を配設した」構成はこれと同一であると判断している。 しかしながら、本願考案の構成による効果は「球打方向の狂いを少なくする」ことではなくて、「飛距離の減少を防止する」ことであり、したがつて、両者の構成もまた異なつている。 すなわち、本願考案の構成の主要部は、「球打面Zを囲む偏倚重」にある。そして、この偏倚重は、従来のクラブの基本的構成である、「クラブ頭部の厚みは上下方向において下方に向つて厚く形成されている」構成を変えるものではなく、かかる基本的構成の下に、偏倚重を配設するというものである。したがつて、本願考案の基礎をなすものは、「球打面Zを囲んでその周囲に偏倚重を配設した」ことで、 その応用の変形として、「球打面Zを囲んでその前端位、前後端位、前端位と下端位、前後端位と下端位に球打面Zの中心部を囲むように偏倚重3を配設した」ものであつて、球打面Zの中心部を三方向或いは四方向から取り巻くように偏倚重を配設したものである。つまり、打球に際して、球打面の中心部を外れた位置に球が当つた場合でも、球打面中心に球が当つた場合と大差のない飛距離を出す(飛距離の減少防止)という課題を解決するために、球打面の中心部を囲むように偏倚重を配設するという手段を選択したもので、「打球方向の狂いを少なくする」ために、単に、球打面のトウ部とヒール部に縦方向に肉厚部を設け、かつ、トウ側の肉厚部が球打面の上辺より突出した構成のものとは、構成も効果も異なる。 (被告)請求の原因の認否と主張一 請求の原因一ないし三の事実は認める。 二 同四の主張は争う。 1 本願考案の要旨認定について 原告は、本件補正が実用新案登録請求の範囲を変更するものであるとする補正却下決定は誤りであると主張する。 しかしながら、本件補正後の本願考案の構成要件のうちのAB及びCの要件(請求の原因三、の項参照)は、出願当初の明細書又は図面に顕在的にも潜在的にも記載されていないのである。 すなわち、出願当初の明細書及び図面に記載された考案は、クラブの頭部における球打面を囲んでその周囲若しくは片寄つた位置に偏倚重を配設したゴルフクラブである。そして、右明細書における考案の詳細な説明及び図面に記載された事項と出願当時の技術水準からみて、右ゴルフクラブ頭部の球打面は、従来の一般的な、 下部方向へ厚みのあるクラブヘツドの球打面と同様な形状でもよいし、均一に薄くした構成でもよいし、また、外側から中心部に近くなるほど次第に薄くなる構成でもよいものである。 しかるに、右偏倚重の幅と偏位距離の比は、該偏倚重によつて、図面に示された実施例が有する程度までのスウイートスポツトの拡大効果があればよいことは常識的に理解できるのであるが、それが具体的にどの程度の範囲であればよいかについては、出願当時において、偏倚重の幅の程度とスウイートスポツトの拡大の効果の関係についての公開された資料がなく、しかも、出願当初の明細書及び図面にも記載されていないのであるから、右明細書及び図面から当業者が理解できるのは、図面に示された偏倚重の幅(第1図〜第4図)に過ぎない。同様に、偏倚重部分重量と球打面部分重量との比についても、出願当初の明細書及び図面から当業者が理解できるのは、図面に示された偏倚重部分の重量(第1図、第2図、第4図)に過ぎない。また、同様に、偏倚重部分と球打面部分の上辺重量比と下辺重量比の関係についても、出願当初の明細書及び図面から当業者が理解できるのは、図面に示された、上辺重量比と下辺重量比の関係(両者の比をほぼ1/2とすること)に過ぎない。したがつて、補正後の構成要件AB及びCは、出願当初の明細書及び図面に記載の事項から当業者が常識的に読みとれる範囲のものではない。 しかも、右構成要件によつて規定された構成は、出願当初の明細書及び図面から当業者が常識的に読み取れる構成のもの、すなわち図面に示される構成のものと比較して、スウイートスポツトの拡大に関して格別の効果を奏する構成を含むから、 補正後の構成要件AB及びCは、出願当初の明細書及び図面に記載した事項の範囲内ということができないのであつて、右構成要件を考案の要旨に加える本件補正は要旨変更である。 2 引用例のものとの対比判断について原告は、本願考案(すなわち補正前のもの)が引用例のものと同一であるとした審決の判断は誤りであると主張する。 原告の主張は、本願考案は、「球打面を囲んで、その前端位、前後端位、前端位と下端位、前後端位と下端位に球打面の中心部を囲むように偏倚重を配設した」ものであつて、球打面の中心部を三方向或は四方向から取り巻くように偏倚重を配設したものであるから、引用例のものとは相違するというのである。 しかしながら、本願考案の出願当初の明細書及び図面、すなわち、その第6図及びそれに関する明細書の記載によれば、本願考案の「球打面の前後端位に球打面の中心部を囲むように偏倚重を配設した」構成は、球打面の前端位と後端位に、実質的に下端から上端まで達する縦長の偏倚重を配設した構成と同一であり、しかも、 引用例の「トウ部分b」と「ヒール部分c」は、右構成における縦長の偏倚重に相当するから、本願考案と引用例のものとは同一である。 次に、原告は、本願考案と引用例のものとでは作用効果を異にすると主張する。 しかしながら、本願考案の出願当初の明細書には、その球打面の中心部を囲むように偏倚重を設けたことによる作用効果として、「打球に際しボールがクラブヘツドの打球面の中心に当らない場合でも、すなわち、クラブヘツドの打球面の端の方に当つた場合でも、中心部に当つた場合とほぼ同様の飛距離を出させることができる。」と記載されているのであつて、それと異なる記載はない。 右の作用効果の原理は、偏倚重のないクラブヘツドにおいては、ボールの当る位置が打球面の中心部をはずれると、当つた位置の両側部分のクラブヘツド重量は大きく増減し、一側部は他側部に比し非常に軽くなる。したがつて、その軽くなつた一側部はボールを強く反撥できないのでボールに飛距離を出すことができない。これに対し、球打面の両側に偏倚重があれば、ボールが球打面中心部からどちらの方向にはずれて当つても、当つた位置の両側部分のクラブヘツド重量の変化は、右偏倚重のないクラブヘツドと較べて小さい。すなわち、当つた位置から最も近いクラブヘツド端部までの間に前記偏倚重があるから、その偏倚重の重量がボールを反撥するのに依然として役立つ、ことにある。 右の原理に基づく作用効果は、偏倚重を球打面の前後端位に配設する実施例においては、球打面の下端から上端に達する縦長の偏倚重を球打面の前後端位に配設すれば生ずるものであつて、偏倚重を設けない扁平なクラブヘツドと較べれば、右偏倚重の形状が直線状であろうが、ゆるやかに曲つた形状であろうが、両者は実質的に同じ作用効果(スウイートスポツトの拡大)を有するものである。 したがつて、本願考案と引用例のものとでは、その作用効果においても異なるところはない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。 二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。 1 その1の主張について 原告は、審決が、本願考案の要旨認定を誤つていると主張する。その主張するところは、本件補正を却下すべきものとした補正却下決定の判断が誤りであるというのである。 そして、その根拠は、本件補正が実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものではないというのである。 よつて検討するに、本件補正の前後における本願考案の登録請求の範囲の記載が、それぞれ、次のとおりであることは当事者間に争いがない。 (補正前) クラブの頭部に於ける球打面Zを囲んでその周囲若しくは球打面Zの前端位、前後端位、前端位と下端位、前後端位と下端位に球打面Zの中心部を囲むように偏倚重3を配設したことを特徴とするゴルフクラブ。 (補正後)@ クラブ頭部の球打面Zを囲んでその周囲に偏倚重3を配設し、 A 球打面の上辺以外の偏倚重は、その外周の各点と球打面の重心を結ぶ線上において、偏倚重の外周より内周に至る距離が偏倚重内周より球打面の重心に至る距離の等距離以下五分の一以上であり、かつ、 B 球打面外周の各点と球打面重心を結ぶ適宜の線によつて区分された区画における偏倚重部分の重量が、これと対応する球打面部分の重量の等重量以上五倍以下であること、及びC 球打面上辺の偏倚重部分とこれに対応する球打面部分の重量比は、球打面下辺のそれより常に小さいことを特徴とするゴルフクラブ。 右の登録請求の範囲の記載によれば、本件補正後の考案が、右@ないしCの事項を構成要件とするゴルフクラブであることは、その記載に徴して明らかである。 ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、本件補正前の本願考案の出願公告公報における考案の詳細な説明の項には、右構成要件のABCに関し、偏倚重が外縁へ偏つていること、偏倚重が相当の重さを有していることについての示唆があることは認められるが、偏倚重の比率について数値の限定が要求され、右BBCのような偏倚重の具体的構成が必要であつて、それらが技術的にどのような意味をもつものであるかの点については、何等の記載も示唆も存しないことが明らかであり、また、成立に争いのない甲第六号証によれば、これらの点について、本願考案の出願当初の明細書及び図面にも何等の記載も示唆も存しないことが認められる。 原告は、右ABCの要件は偏倚重の配設に関し当業者の常識に従つた範囲のものに限定したに過ぎないと主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。 一方、前記補正前と補正後の各実用新案登録請求の範囲を対比すると、補正後のものは、補正前のものにABCの各要件を付加したことにより、形式上は登録請求の範囲を減縮した場合であるようにみえる。しかし、これを仔細に検討すれば、偏倚重の配設箇所については選択的であつたものを、球打面Zを囲んでその周囲に配設するものに限定したほか、その偏倚重の外縁への偏り、重さ、上辺部分の重量比と下辺部分の重量比とについてそれぞれ前記のような限定を加えたものであつて、 これによれば、補正前の考案と異り、偏倚重の配設位置、大きさ、重さなどについて特定の条件を付したものというべく、球打面のスウイートスポツトの拡大による飛距離の減少防止を目的とする点においては同様であつても、その効果を異にすべきものであることは、自から明らかである。考案の構成要件は、それぞれが組合わされて、考案の目的を達成するため特有の効果を奏すべきものであるから、これに無意味な要件を付加することは当業者の技術常識に反するところであるばかりでなく、補正前の考案における偏倚重の漠然とした配設を改めて、補正によつて前記ABCのような具体的な限定条件を付加することは、これによつて特段にすぐれた効果を奏すべきものとしたことに疑いを容れる余地がないからである。 そうすれば、前記ABCの構成要件は、補正前の実用新案出願公告公報にも、出願当初の明細書及び図面にも何等記載されておらず、その示唆もないのであるから、本件補正は、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものというべく、原告の主張は理由がない。 2 その2の主張について 原告は、審決が本願考案(すなわち、本件補正前のもの)と引用例のものとが同一のものであると判断したのは誤りであると主張する。その主張するところは、本願考案は、打球に際して、球打面の中心部をはずれた位置に球が当つた場合でも、 球打面の中心に球が当つた場合と大差のない飛距離を出す(飛距離の減少防止)という課題を解決するために、球打面の中心部を囲むように偏倚重を配設するという構成を選択したもので、引用例のもののように、「打球方向の狂いを少なくする」ために、単に、球打面のトウ部とヒール部に縦方向に肉厚部を設け、かつ、トウ側の肉厚部が球打面の上辺より突出した構成のものとは異なる、というのである。 よつて検討するに、前掲甲第四号証によれば、本願考案は、原告のいわゆる「飛距離の減少防止」、換言すれば、「スウイートスポツトの拡大」を解決課題とし、 その課題達成のために、「球打面の中心部を囲むように、前端位及び後端位に偏倚重を配設した構成」を含むものであることが認められる(同号証の第6図参照)。 そこで、同号証の右第6図を見ると、そこには、確かに、彎曲して前後端位の上・下辺にも一部及んでいる偏倚重(これを「彎曲偏倚重」という。)が描かれていることが認められるが、同号証の第3図には、格別彎曲していない偏倚重(これを「縦長偏倚重」という。)も示されていることが認められる。 ところで、「飛距離の減少を防止する」という観点からみるとき、偏倚重がクラブヘツドの前・後端位に配設される場合には、それが彎曲偏倚重であつても、縦長偏倚重であつても、それらは、偏倚重を配設していないものに比して、いずれも共通の作用効果を奏するものと解される。また、前記第6図の彎曲偏倚重の僅かに及んでいる上・下辺部分があることによつて、それを有しないものに較べて格別顕著な作用効果上の差異があるとも解されない。 以上の点を合せ考えれば、本願考案において「球打面の中心部を囲む」というのは、球打面の中心部を中心として円を描いたとき、偏倚重の配設が、その半径方向のものではなく、中心を囲むところの円周方向のものという意味で、円周接線方向のものも含まれる、と解するのが相当である。 これに対し、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例のものにおいても、 クラブヘツドの前後端位において、偏倚重が球打面の中心部を囲んで配設されていることが認められるから、これは本願考案中前記第6図に示されたものと同一の構成を備えているということができる。 次に、前掲甲第四号証と甲第五号証によれば、本願考案においてはその解決すべき課題として、「一般に用いられているクラブは、……打球の際、球がクラブの球打面の中心、すなわち重心位置に当つた場合と、この位置を外れた場合では飛球距離に著しい相違があり、殊に球打面の先の方に球が当つた場合は飛球距離は著しく低下する欠点がある。本考案はこの欠点をなくしようとする新しい提案である。」と記載されている(原告のいわゆる「飛距離の減少防止」)のに対し、引用例においては、その解決すべき課題として、「一方では適当な重量及び適当な重量配分を維持しながら……クラブの操作性能を増大させる目的から改良されたもの」と記載されている(原告のいわゆる「打球方向の狂いを少なくする」)ことが認められるのであつて、両者の表現が異なることは原告主張のとおりであるが、もともと、考案の課題の提起は主観的なものであるから、その相違があるからといつて、既述のように、その構成が同一である以上、同一の作用効果を奏すべきものであることは当然の事理というべく、本願考案に含まれる前記第6図に例示のものと引用例のものとが同一の考案でないとすることはできない。 以上のとおりで、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がない。 三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 石澤健 |
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裁判官 | 楠賢二 |
裁判官 | 岩垂正起 |