関連審決 |
審判1982-14201 |
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関連ワード | 考案 / 考案者 / 図面 / 構造 / 組合せ / 自然法則 / 技術的思想の創作 / 設定登録 / 相違点の認定 / 実施例 / 容易に想到 / 寄せ集め / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
昭和
58年
(行ケ)
183号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1987/10/29 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和五八年七月一一日、同庁昭和五七年審判第一四二〇一号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。 |
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請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。 一 特許庁における手続の経緯 被告は、考案の名称を「ドラムブレーキのシユー支持機構」とする昭和四九年七月一九日実用新案登録出願、昭和五四年八月八日出願公告、昭和五六年二月二六日設定登録に係る実用新案登録第一三六八二〇九号(以下「本件実用新案登録」といい、その考案を「本件考案」という。)の権利者であるが、原告は、昭和五七年七月三日本件実用新案登録について無効の審判を請求し、昭和五七年審判第一四二〇一号事件として審理された結果、昭和五八年七月一一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年九月三日原告に送達された。 二 本件考案の要旨 シユーの弓形をなすリム板の半径方向一側面をドラムの内側でバツキングプレート上に摺動可能に接合せしめたドラムブレーキのシユー支持機構において、前記バツキングプレートに固定され、かつシユーのウエブ板に穿かれた貫通孔に遊嵌貫通したスタツドボルトと、該スタツドボルトの頭部に螺合され、前記ウエブ板との間に所定の間隙を有し、かつ該ウエブ板との接合面縁部に弧状の面とりを形成したつば部を有するスロツテツドナツトとを備え、該つば部によりシユーウエブの案内面を形成したことを特徴とするドラムブレーキのシユー支持機構。(別紙図面(一)参照)三 本件審決理由の要点 本件考案の要旨は、前項記載(明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)のとおりと認められるところ、請求人(原告)の提出した証拠(いずれも刊行物。以下併せて「引用例」という。)について検討すると、(1) 昭和四〇年一〇月交文社刊の「銘柄別改善要望事項に対する回答(第八回)」(以下「第一引用例」という。)には、図面の説明はないが、@スタツドボルトは、バツキングプレートに固定され、かつ、シユーのウエブ板に穿かれた貫通孔に遊嵌貫通され、Aスタツドボルトの頭部にスロツテツドナツトが螺合され、Bウエブ板とスロツテツドナツトの間にウエブ板との間に所定の間隙をおいてワツシヤーがはめられている構成からなるブレーキのシユー支持機構が図示されているところ、ワツシヤーとウエブ板との間隙の保持は、ワツシヤーとスロツテツドナツトとの間の摩擦係合によるのか、ワツシヤーとナツトとを一体に形成することによるのか図面から明らかでないから、ワツシヤーとナツトとが一体であるとは断定できない。(2) 実開昭四九-九九八五号公開実用新案公報(以下「第二引用例」という。)には、ドラムブレーキのシユー支持機構において、スタツドボルトがバツキングプレートに固定され、かつ、シユーのウエブ板に穿かれた貫通孔に遊嵌貫通されたものが示されている(特に第6図及び第7図)。(3) 財団法人日本機械学会昭和二六年五月一日発行(第三版)の「機械設計上巻」には、ナツトの底面を広く作つた座金ナツトが示されている。(4) 日刊工業新聞杜一九七三年二月発行の「機械設計2」には、ナツトと座金とを一体としたネジが示されている。(5) 財団法人日本自動車輸送技術協会編募、昭和四八年五月一日発行の「モータービークル5」には、下面を広くしたナツトが示されている。(6) 一九六八年一二月発行の「GENERAL MOTORS ENGINEERING STANDARDS」には、座付ボルトの座金部接合面縁に孤状の面取りを施したものが示されている。(7) いすゞ自動車株式会社サービス部発行の「いすゞフオワード・シヤシ修理書」(以下「第三引用例」という。)には、パツキングプレートに設けられたシユーホールドダウンピンをシユーウエブ板の貫通孔に遊嵌状に挿嵌したシユー支持機構が示されており、そのワツシヤとスロツテツドナツトとは別体である(7-2図の16参照)。(8) 意匠第三七七四〇一号意匠公報(昭和四九年二月二0日発行)には、接合面縁に孤状の面取りを形成したつば部を有するナツトが示されている。 (9) JIS BO701-1963の「機械部分の丸ミおよび面取リ(削リ加工品)」(以下「第四引用例」という。)には、一般の丸み及び面取りの機能についての解説がなされている。(10) 「モータービークル」第二一巻第四号(昭和四六年四月一日発行)所掲の「いすゞ自動車改造要領」には、接合面縁に孤状の面取りを施したナツトの図が示されている。(11) 同誌所掲の「日産デイーゼル車改造要領」には、フランジナツトの形状をワツシヤーと一体型にしたものが示されている。(12) 「6TWDC15 6TVC11 シヤシーパーツカタログ」(日産デイーゼル販売株式会社部品課昭和四五年六月二五日発行)のうち「DIFFERENTIAL CARRIER」には、一体型のフランジナツトが示されている(6TVCT の符合54参照)。 更に、請求人(原告)提出の引用例について本件考案との関係において検討すると、第一引用例ないし第三引用例記載のものは、本件考案の全体構成に対応しているが、引用例のうち第一引用例ないし第三引用例を除く刊行物記載のものは、本件考案の一部の構成のみが対応しているにすぎず、このうち、第四引用例記載のものは、面取りの機能にかかわるものであり、これ以外の引用例記載のものは、ナツトとワツシヤーとを一体に形成したものにかかわるものである。 そこで、本件考案と第一引用例(第二引用例及び第三引用例についても同じ。)記載のものとを比較すると、本件考案の構成要件である「スタツドボルトの頭部に螺合され、ウエブ板との間に所定の間隙を有し、かつ、該ウエブ板との接合面縁部に孤状の面とりを形成したつば部を有するスロツテツドナツトとを備えた」点については、第一引用例に記載がない。本件考案は、前記の構成要件を有することによつて、「スロツテツドナツト8はつば部8a部が本体と一体的であるため、上記シユー1の傾斜によるホールドダウンワツシャーの局部的な浮き上りがなく、スタツドボルト3に対するウエブを押える支点が従来のものに比して長い。従つてシユー1の傾斜、即ち幅方向への自由度が減少されている。しかもつば部8aのウエブ板1bとの接合面縁部は孤状の面とり部8bをなしているためウエブ板1bに圧痕が生ずることもなくブレーキ解放時のシユー1の戻り動作において摺動抵抗が増大することは防止される。」という本件考案の明細書記載の作用効果を奏することが認められ、右作用効果は、本件考案の明細書記載の従来例と本件考案の実施例との比較表が示すようにドラムブレーキのシユー支持機構として顕著な作用効果であることが確認できる。 請求人(原告)は、本件考案は、それぞれの構成要件は公知又は慣用手段の適用であり、かつ、これらの結合によつてもたらされる効果も各構成要件から当然もたらされる効果を単に寄せ集めた以上のものは期待し得ないものであると主張するところ、ナツトとワツシヤーとを一体とし面取りすることは慣用手段と認めることができるが、この慣用手段を第一引用例(第二引用例及び第三引用例についても同じ。)記載のものに適用して本件考案のように構成したことによる作用効果は、前記したように当業者が予測し得ない顕著な作用効果であることが認められるから、 請求人(原告)の右主張は採用できない。 したがつて、本件考案は、請求人(原告)提出の引用例に記載されたものにより当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認めることはできない。 以上のとおりであるから、請求人(原告)の主張する理由及び提出した証拠方法によつては本件実用新案登録を無効とすることはできない。 四 本件審決を取り消すべき事由 引用例の記載内容が本件審決認定のとおり(第一引用例における、ワツシヤーとウエブ板との間隙の保持の原因及びワツシヤーとナツトとの一体性に関する認定部分を除く。)であり、ナツトとワツシヤーとを一体とし面取りすることが慣用手段であることは認めるが、本件審決は、第一引用例の記載事項の認定を誤つた結果、 本件考案と第一引用例記載のものとの相違点の認定判断を誤り、また、右相違点の認定判断を誤つた結果、本件考案の作用効果が公知慣用の技術手段の組合せにすぎない点を看過し、ひいて、本件考案は引用例記載のものから当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認めることはできないとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において違法として取り消されるべきである。すなわち、 1 第一引用例記載のブレーキシユーの支持機構の図面、すなわち、第三頁左欄一一行の下に掲載された二つの図面(別紙図面(二)参照)のうち右側の図面(以下「右図」といい、その左側のものを「左図」という。)には、スロツテツドナツト(以下単に「ナツト」ということがある。)とワツシヤーとが一体に形成されたもの、すなわち「つば部を有するスロツテツドナツト」が示されており、本件審決が第一引用例記載のものについて「ワツシヤーとナツトが一体であるとは断定できない。」と認定したのは誤りである。右図ではナツトとホールドダウンワツシヤー(以下単に「ワツシャー」ということがある。)が当接した状態で、ワツシヤーとウエブ板との間に間隙が設けられ、当該個所に間隙寸法として0.25±0.1(mmを意味する。以下図面寸法において同じ。)と示され、他方、左図では、ナツト、ワツシヤー及びウエブ板が当接した状態で、ブレーキシユーとブレーキデイスクとの間に間隙が設けられ、当該個所に間隙寸法として0.3〜0.6と示されている。このように、右図と左図とでは、ナツト、ワツシヤー及びウエブ板の相互の位置関係が異なり、図示態様(寸法記入個所など)が同一でない。更に、左図及び右図の作図手法は、それぞれ本件考案の図面第1図(従来例であるナツトとワツシヤーとが別体のもの。以下これを「別体型」という。)及び第2図(ナツトとワツシヤーとが一体に形成されたもの(以下これを「一体型」という。)で、ワツシヤーを浮き上がらせた状態でのワツシヤーとウエブ板との間隙寸法8eを示している。)に採用され、左図と右図、本件考案の第1図と第2図はそれぞれ対をなして示されている。なお、第三引用例のシユー支持機構は、別体型であるが、その7-16図と左図とが作図方法が同一である。してみると、第一引用例の左図(別体型のもの)に対し、右図には、本件考案(第2図)におけると同様、一体型のものが示されていることが明らかである。しかも、ブレーキシユー支持機構においてナツトとワツシヤーの接触面にその軸線方向に作用し、ナツトとワツシヤーを一体に保持する摩擦力はあり得ないから、本件審決認定のように、ワツシヤーとウエブ板との間隙の保持が摩擦係合によることは全くあり得ず、そのうえ、シユー支持機構においては、ワツシヤーとウエブ板との間に自由度を有し、ブレーキ作動時におけるライニングの傾斜等によつてウエブ板が傾き、ワツシヤーが局部的に浮き上がり、 両者の当接縁部に圧痕を生ずる(本件考案の実用新案公報(以下「本件公報」という。)第一頁第二欄第二五行ないし第三六行)ほどの力を受けるから、この力に抵抗するに十分な結合強度を有するものとしてナツトとワツシヤーが一体に形成されていなければ、本件審決認定のようにワツシヤーとウエブ板との間に右図所定の寸法の間隙を保持することは不可能である。この点において、右図のものでは、たといナツトとワツシヤーが同一部材で形成されていないまでも、少なくとも面接触して一体として機能しなければならず、結局、右図は「つば部を有するナツト」それ自体を示しているのである。右図及び左図の間隙寸法表示の意味について被告の主張するところは、右図に関しては、右図記載のものでは、ブレーキシユーの端縁とブレーキデイスクの間にも間隙が設けられ、ワツシヤーとウエブ板との間隙寸法はシツクネスゲージを挿入して確認しても変化してしまうことからしても、図示の範囲を超える一推論にすぎない。以上のとおり、第一引用例の右図には、本件考案の「ウエブ板との間に所定の間隙を有」する「つば部を有するスロツテツドナツト」を備えたシユー支持機構が記載されているものということができる。したがつて、 本件考案と第一引用例記載のものとの構成上の差異は、第一引用例には本件考案の構成中、該つば部の「ウエブ板との接合面縁部に孤状の面とりを形成した」点が示されていないことにすぎないことに帰する。右の孤状の面取りについては、加工形成物の稜線部にエツジコーナーを残さないことは、第四引用例に示すように常用の手段であり、接合面縁部に面取り又は弧状の面取りを形成することは、第三引用例第七-一一頁注書き並びに引用例のうち甲第五号証、第六号証及び第八号証に示すように周知慣用の手段であるところ、接合縁部に形成される面取りによりシユーの戻り動作において摺動抵抗の増大を防止する効果が生ずるのであつて、弧状の面取りによる作用効果と面取りによる作用効果との間に差異があつたとしても、その差異は微差にすぎないから、本件考案に顕著な作用効果があるとした本件審決の認定判断は誤りである。 2 本件考案がドラムブレーキのシユー支持機構として顕著な作用効果があるとした本件審決の認定判断は誤りである。これを詳述するに、本件考案は、その構成が公知あるいは慣用の技術手段、すなわち(一)第三引用例記載のナツトとワツシヤーとを別体型としたシユー支持機構、(二)慣用手段であるナツトとワツシヤーとを一体に形成して面取りすること、(三)引用例のうち甲第九号証及び第一〇号証の記載から慣用手段といえるワツシヤーのそり及び摩耗防止のためナツトとワツシヤーとを一体に形成して被固定物を案内すること、(四)第三引用例記載のワツシヤーのウエブ板との接合面には抜きばりのない側(打抜き加工時に打抜き縁に弧状の湾曲面の形成される側)が接するようにすること、及び(五)第一引用例記載のつば部を有するナツトを備え、ウエブ板との間に所定の間隙を有するシユー支持機構の構成から極めて容易に想到し得る結合であつて、その作用効果は、これら公知慣用の技術手段から当然にもたらされる作用効果を単に寄せ集めた以上のものでなく、結局、本件考案には当業者が予測し得ない顕著な作用効果はないものというべきである。本件審決は、本件考案の作用効果の一つとして、ナツトとワツシヤーが一体型であるため、「シユー1の傾斜によるホールドダウンワツシヤーの局部的な浮き上りがなく、スタツドボルト3に対するウエブを押える支点が従来のものに比して長い。従つてシユー1の傾斜、即ち幅方向への自由度が減少されている。 」と認定判断するが、(1)ワツシヤーの局部的浮き上りがなくなること、及びウエブ板を押さえる支点が長くなることは、ナツトとワツシヤーを一体型に形成したことによる当然の効果であり、甲第九号証のピニオンワツシヤーのそり及び摩耗坊止の記載(第一〇三頁)からも当然予測されるところである。(2)ナツトとワツシヤーを一体に形成することは慣用手段であり、そのそれぞれの大きさはその作用を考慮してなされる設計事項であるところ、従来の別体型のものをそのままの大きさで一体型とすれば、ナツトの下面とワツシヤーの外周縁との長さの差だけウエブを押さえる支点が長くなり、その分だけシユーの傾斜、すなわち、幅方向の自由度が小さいうちにナツト下面外周縁がウエブと接触することが認められる。しかし、 ナツトとワツシヤーを一体型にすること、又はワツシヤーの局部的な浮き上りがないこととシユーの傾斜、すなわち幅方向の自由度の減少とがどのような因果関係に立つかについて本件考案の明細書には何らの開示もない(このことは、本件公報第一頁第二欄第三〇行ないし第三六行及び同第二頁第三欄第七行ないし第一〇行の記載からも明らかである。)。 また、本件審決は、本件考案の作用効果の一つとして、「ウエブ板1bに圧痕が生ずることもなくブレーキ解放時のシユー1の戻り動作において摺動抵抗が増大することは防止される。」と認定判断するが、(1)右効果は、第三引用例第七-一一頁注書きの記載から当然予測されるところであり、かつ、慣用手段である面取りによりもたらされる作用効果と格別の差異はない。(2)ウエブ板の圧痕については、別体型では、圧痕の生ずるのは、ワツシャー上面であつて、ワツシヤー下面外周縁はウエブ板と面接触するからウエブ板に圧痕が生ずることはもともとない。すなわち、別体型では、通常の状態においてワツシヤーとウエブ板とが面接触しており、ナツトとワツシヤーとは間隙を有するが、シユーが傾斜するとワツシヤーとウエブ板は面接触のままで、ナツト外縁とワツシャー上面とが点又は線接触するのであるから、面取りの設けられたワツシヤー下面外周縁が面接触によりウエブ板に圧痕を与えることはない。一方、一体型では、通常の状態ではナツトつば部とウエブ板とは接触せず、シユーの傾斜、すなわち幅方向の自由度によつてつば部外周縁がウエブ板と接触する状態を繰り返すもので、右接触は最初点又は線接触であるので、これによりウエブ板面に圧痕を生ずることが多い。(3)シユーの戻り動作における摺動抵抗の増大を防止する効果については、シユーの戻り動作において、別体型では、ワツシヤーは上面でナツトと接触して支えられながら、下面でウエブ板と面接触して摺動するのに対し、一体型では、ウエブ板がつば部下面外周縁と接触しながら戻るのであるが、一体型のものでは別体型のものに比し、前記(2)のとおりウエブ板の接触縁に圧痕が生ずる場合が多いこと、ウエブ板を押さえる支点が長いためシユーの動きを不円滑にすることからすれば、一体型のものが別体型のものに比し、摺動抵抗を増大させるのである。(4)また、一体型のものを寸法諸元同一の別体型のものと比較した場合、作用効果上別体型におけるナツトとワツシャーとの間隙寸法を小さくした場合と同じで、ワツシヤーの下面外周縁がウエブ板に直接当接することになる点が異なるのであり、これらはいずれも摺動抵抗の増大を招くものであり、本件考案の日的と逆行する効果しか生じない。 更に、本件考案の明細書において、ドラムブレーキのシユー支持機構の顕著な作用効果とされる「シユーの戻り動作に要する時間が短縮される」こと、「引き摺り現象が発生することがない」こと、並びにライニングの「摩擦時の偏摩耗が減少する」ことについては、一体型のものにおいて別体型のものに比し、このような作用効果はない。すなわち、(1)原告が甲第一四号証に示す方法(摩耗に関しては、 社団法人自動車技術会の定めた規格JASOC427-75に適合する。)により施行した実験によると、一体型のものにおいて別体型のものに比し、戻り時間短縮の効果は認められず(甲第一一号証)、ライニングの偏摩耗量が上側シユーのドラム側で減少するほか、その減少の効果は認められなかつた(甲第一二号証)。 (2)ブレーキにおいては、いかなる構造の場合でも、作用する力が取り除かれたならば、シユーはドラムから戻しバネによつて引き離さなければならず、この操作は遅れなしに行われる必要がある。したがつて、バネを十分強力に設計しなけれぱならないし、バネの力の設計に当たつてこの点を考慮しなければならないのが普通であり、単に一体型の構成を採つただけで戻り時間が減少するとは考え難い。 (3)一体型のものが別体型のものに比し、シユーの傾斜、すなわち、幅方向への自由度の減少の効果があるとしても、このことはウエブ板のある傾きの範囲で自由な傾斜を押さえ、シユーの動きを不円滑とするから、シユーの戻り動作時間の短縮や引き摺り発生防止に結びつかない。仮に、一体型のものでは摺動抵抗増大が防止されるものとしても、つば部下面外周縁がウエブ板と点又は線接触することによる摺動抵抗をもつのみで、当該摺動抵抗はシユーの戻り時間の短縮や引き摺り発生防止に結びつかない。 |
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被告の答弁
被告訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。 一 請求の原因一ないし三の事実は認める。 二 同四の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告主張のような違法の点はない。 1 同四1の主張について 第一引用例には、ナツトとワツシヤーの図示はあるが、その一体構成の記載は全くない。すなわち、第一引用例の右図は、ブレーキアツセンブリにおいて、スタツドボルトの頭部に螺合されているナツトに断面図示のワツシヤーが面接触し、該ワツシヤーと同じく断面図示のウエブ板との間に同図示寸法の間隙があることを示すにとどまり、該間隙があることにより右ワツシヤーとナツトとが一体に形成されたものであるとする必要性はない。一般に、つば部を有するナツト、すなわちナツトとワツシヤーが一体となつているものを断面図示するときは、例えば、第三引用例第一〇三頁下右から二つ目の図のようにナツトとフランジ部とが同一材料であることの表示(例えば、ハツチング)を施すのが製図の基本であり、ワツシヤーにのみハツチングを施して断面図示されていれば、ナツトとワツシヤーとが別体であると解するのが技術常識であるところ、第一引用例の右図及び左図は、共にワツシヤーにのみハツチングの施された断面が図示され、両面が単にリターンスプリングの掛け方に関する改善の要点を示す略示図にすぎず、そのナツトとワツシヤーに関しては両図とも同一の手法で示されていることを考慮すれば、両図共ナツトとワツシヤーとは別体であり、右図のものだけが両者一体であるとみる根拠はない。原告は、 @第一引用例の両図において図示の態様、寸法記入箇所が異なることから、Aその右図のものは、ナツトとワツシヤーが一体に形成されていることが明らかであると主張するが、第一引用例記載のブレーキシユー支持機構の全体は左図から右図へと改善されているのであつて、両図の図示態様が異なることは当然であり、寸法の記入箇所も異なるが、@とAとは関係のないことであるから、右主張は失当である。 第一引用例の左図及び右図における間隙寸法表示ば、いずれもブレーキシユー支持機構のナツトの締付け固定に際し所定の箇所に所定の厚さのシツクネスゲージを挿入することを指示するのみで、ナツトとワツシヤーとの一体を前提とするものではない。本件審決にいう摩擦係合とは、ワツシヤーとナツトが単に面接触している状態を表現したものと理解することができ、ワツシヤーとナツトとが一体に形成されていなければワツシヤーとウエブ板との間隙が保持できないとする必然性はない。 また、原告は、第一引用例の右図に一体型のシユー支持機構の記載があるとして、 本件考案と第一引用例記載のものとの構造上の相違点が「弧状の面とり」の点のみであるとし、本件審決の本件考案に顕著な作用効果があるとした判断を誤りであると主張するが、右主張は前述したとおりその前提に誤りがあり、本件審決の右認定判断に誤りはない。 2 同四2の主張について 本件考案は、本件審決の認定判断のとおり、「フタツドボルトの頭部に螺合され、ウエブ板との間に所定の間隙を有し、かつ、 該ウエブ板との接合面縁部に弧状の面とりを形成したつば部を有するスロツテツドナツトを備えた」点を構成要件とし、この構成要件を備えることによつて、シユーの傾斜、すなわち幅方向への自由度減少効果及びシユーの戻り動作における摺動抵抗増大防止の効果を奏するものであつて、少なくとも、幅方向への自由度の減少効果は、本件考案の一体型に特有の効果である。したがつて、本件考案に右作用効果を認めた本件審決に誤りはない。これを詳述するに、一体型のものにおいては、別体型のものにおけるワツシヤーのがたつきがあり得ず、ワツシヤーとウエブ板との間隙を一定にとる限り、スタツドボルトに対するウエブ板を押さえる支点が別体型のものに比して長くなり、必然的にシユーの傾斜、すなわち幅方向への自由度が減少されるのである。原告は、一体型のものが別体型のものに比し、シユーの戻り動作時間の短縮及び引き摺り発生防止の効果を有しない旨主張するが、本件考案のブレーキシュー支持機構がその明細書の記載とおりの作用効果を有することは、乙第一号証及び第四号証の試験結果によつて実証されている。原告は、シューの傾斜、 すなわち幅方向への自由度の減少がシユーの戻り時間の短縮につながる要素はない旨主張するが、ワツシヤーとウエブ板の間隙の大きさは、ブレーキの形式やサイズにより選択されるところで、適当な自由度が必要なことは常識的な事項である。シユーの戻り動作のみを考慮した場合、ワツシヤーとウエブ板の間隙が大きいか、あるいはワツシヤーが存在しない方がシユーの動きの規制が緩和され、シユーの戻り動作が速くなることは当然であるが、ブレーキ機構全体からみれば、当然シユーの自由な動きを規制しなければならず、そこで、シユーとウエブ板の間隙を必要な限度でできる限り大きくしてシユーを戻りやすくし、かつ、その間隙寸法の条件下で、引き摺り発生の原因につながるシューの傾斜、すなわち、幅方向の自由をできる限り減少させることがシューの戻り動作時間の短縮に必要である。 |
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証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。 (本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 本件審決の認定判断は、以下に説示するとおり、正当であつて、原告の主張はすべて理由がないものというべきである。 1 前記争いのない本件考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本件公報)を総合すれば、本件考案は、ドラムに圧接し得るようにドラム内に拡開可能に収容されている左右のシユーを有するドラムブレーキにおいて、ブレーキ作動時の必要以上のシユーの傾斜によるライニングの偏摩耗を防止し、かつ、ブレーキ解放時のシユーの戻り低抗を減少させるためのシユーの支持機構の改良に関するものであつて、従来このようなシユーの支持機構(別紙図面(一)第1図はその縦断正面図)としては、シユー1の弧状部をなすリム板1aの一側面をバツキングプレート2上に摺動可能に接合させるとともに、バツキングプレート2に設けられたスタツドボルト3をウエブ板1bに穿かれている孔1cに遊嵌貫通せしめ、更にスタツドボルト3の頭部にはホールドダウンワツシヤー4を遊嵌してスロツテツドナツト5を所定位置にまで螺合せしめて、ウエブ板1bとホールドダウンワツシヤー4との間に間隙を持たせたものが知られているが、この場合、ウエブ板1bとホールドダウンワツシヤー4との間に自由度があり、また、スタツドボルト3とホールドダウンワツシヤー4が遊嵌していて、しかもホールドダウンワツシヤー4とスロツテツドドナツト5が別部材で、別体型であるために、ブレーキ作動時におけるライニング6の傾斜等によつてウエブ板1bが傾き、ホールドダウンワツシヤー4が局部的に浮き上がり、したがつて、スロツテツドナツト5の縁部を支点とする力が生じ、同支点A(別紙図面(一)第1図のA部)に圧痕を生じ、右圧痕はブレ-キ解放時のシユー1の戻りに支障を来すおそれがあり、また、ライニング6の偏磨耗の原因となつていたところ、本件考案は、この欠点の解消を考案の課題ないし目的とし、前示要旨のとおり(明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)の構成を採用したもので、その構成上の特徴はスロツテツドナツトとホールドダウンワツシヤーとを一体としてつば付ナツト(一体型)とし、つば部8aのウエブ板1bとの接合面縁部に弧状の面とり8bを備えたことにあり、この一体型の構成により奏される作用効果につき、明細書の考案の詳細な説明の項に、シユー1の傾斜によるワツシヤーの局部的な浮き上りがなくなり、また、スタツドボルト3に対するウエブ板を押さえる支点が従来の別体型のものに比べ長くなり、したがつて、シユー1の傾斜すなわち幅方向への自由度が減少され、しかも、つば部8aのウエブ板1bとの接合縁部に弧状の面とり8bが施されているので、ウエブ板1bに圧痕を生ずることもなく、ブレーキ解放時のシユー1の戻り動作における摺動抵抗の増大が防止され、 結局、従来の別体型のものに比し、ライニング6の傾斜が軽減されて摩擦時の偏摩耗が減少するとともにシューの戻り動作に要する時間が短縮され、特に摩擦による熱の発生した高温時において引き摺り現象が発生しないなどの効果を奏する旨記載されていることを認めることができる。右認定の事実よると、本件考案の一体型の構成のものは、別体型のものに比べ、ナツト8のつば部8aがナツト本体と一体的であるため、シユー1の傾斜によるワツシヤーの局部的な浮き上り(一部の上方への変位)がなく、ボルト3に対するウエブ板1bを押さえる支点がナツトの下面とワツシヤーの外周縁の長さの差に相当する分だけ長くなり、そのため、つば部8aとウエブ板1b間の間隙を所定の一定のものとすれば、シユー1のリム板1aの外側に固着されたライニング6の傾斜、すなわち、幅方向への自由度が減少されライニング6の傾斜角度が小となれば、バツキングプレート2側のシユーライニングとドラム7との間の接触圧力とドラム側のシユーライニングとドラム間の接触圧力が減ずるので、プレート2側とドラム7側の摩擦量の差、すなわち、偏摩耗量が小となることは明らかであり、偏摩耗量が小となれば、ライニングが全面的にドラムに圧接することによりブレーキの効きが良好に保たれ、ライニングの耐用期間が増加することは当然の理というべく、また、ナツト8のつば部8aに弧状の面とり8bが施された構成により、ウエブ板1bが傾斜してつば部8aと圧接してもウエブ板1bに圧痕を生じないから、ウエブ板1bの表面が粗とならず、ウエブ板1bとつば部8aとの間の摺動抵抗の増大を来すことがないことも明らかである。また、一体型のものでは、別体型のもののようにワツシヤーのがたつきによりウエブ板1bに損傷を与えるおそれがなく、また、がたつきにより、ウエブ板1bの戻り動作時の摺動抵抗を増大することもないが、別体型のものは、単にワツシヤーを損傷するだけでなく、ナツトの縁部とワツシヤーの当接部での食込み、がたつきにより、シユー1のより大きな傾斜、偏摩耗の増大を招き、このことにより圧痕面がウエブ板の面と直接摺接するものではないが、シユー1のより大きな傾斜によつてシユー1はワツシヤーから摺動方向と逆方向の分力を受けてシユーの戻り時の抵抗を増す結果を生じ、このように、本件考案の一体型の構成のものは、シユーの戻り時の摺動抵抗を減少することができ、摺動抵抗の減少は、シユーの戻り動作に要する時間を短縮するものであり、更に、一体型のものは、別体型のものに比し、シユーの傾斜角度が小であるから、シユーの戻り動作時にシユーが摺擦面であるナツトのつば面とほぼ平行に移動することができるので、つば部8aの摩擦抵抗が小となり、この点でも戻り動作時間の短縮に結びつくと同時に摩擦熱の発生した高温時における引き摺り現象(ライニング6がドラム7に密着して離れなくなること。)の発生を防止するものと認められる。そうすると、本件考案は、その明細書記載とおりの作用効果を奏し得るものというべきである。原告は、本件考案の構成では、このような作用効果を生じる因果関係が明らかでなく、理論上もそのような効果を生じ得ない旨るる主張するが、実用新案法にいう考案とは自然法則を利用し技術的思想の創作をいう(同法第2条第1項)のであるから、当該創作が自然法則を利用するものであり、それにより一定の効果を反覆継続して得ることができるものであれば十分であり、たとい、考案者において解決手段とそれがもたらす作用効果との間の因果関係や理論的関連性につき科学的認識を欠き、又は誤つた認識をもつたとしても、このことは何らその考案性を妨げるものということができない。したがつて、本件考案において、その構成と作用効果との因果関係が明らかでないとか、作用効果を生ぜしめる理論的根拠の当否を問題としても、そのこと自体は本件考案の考案性を否定する理由とはなし難いし、本件考案は前認定の作用効果を奏するものでもあるから、原告の右主張はいずれも採用の限りでない。原告は、前記作用効果中、ライニングの偏摩耗の減少及びシユーの戻り動作時間の短縮について実験上肯定することができない旨主張するところ、(一)成立に争いのない甲第一二号証ないし第一四号証によれば、原告において社団法人自動車技術会の制定した規格JASOC 427-75に適合する試験方法によつてした摩耗試験では、ライニングの偏摩耗量が上シユーにおいては別体型のものが一体型のものより大きく、下シユーにおいては、一体型のものが別体型のものより大きいとの結果を得たことが認められるが、 他方、成立に争いのない乙第四号証によれば、被告においておおむね右と同様の方法でした試験では、ライニングの偏摩耗量が上下シュー共、別体型のものにおいて一体型のものより高い値を得たことが認められ、また、(二)シユーの戻り動作時間については、前掲甲第一四号証並びに成立に争いのない甲第一一号証及び第一七号証によれば、原告において実施した試験では、新品時及び熱履歴後のもの、クリアランス〇・五mm及び一・〇mm、制動前ドラム温度常温(1〇〇℃)及び高温(三〇〇℃)の場合を通じ、別体型のものが一体型のものに比しおおむね右戻り動作時間が短い結果を得たことが認められるが、一方、前掲乙第四号証及び成立に争いのない乙第一号証によれば、被告において右と若干異なつた条件下でした試験(前示試験のそれといずれの条件をもつて適切と解すべきかを判断するに足りる資料はない。)では、常温時において別体型のものが一体型のものに比し右戻り動作時間が総じて短いものの、高温時では一体型のものにおいて戻り動作時間が変動の少ない比較的に安定した数値を示しており、別体型のものに比し明白な長短の差がなかつたことを認めることができる。なお、本件公報(前掲甲第二号証)第二頁第四欄に示されたシユーの戻り動作時間についての従来例と本件考案の実施例との比較表は、前掲乙第一号証の実験結果により作成されたものとみられるところ、右実験結果によると、同表の本実施例の項中「0〜0.8」は「0.6〜0.8」の誤記と認められ、また、同表の従来例の項中「6.0」とあるのは、右乙第一号証中の特異値であるから、この値は採用することができない。叙上認定の(一)及び(二)の実験結果を総合すると、原告の挙示する叙上甲号各証は、直ちに前認定の本件考案の作用効果を左右するに足りず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。 2 原告は、第一引用例の右図に一体型あるいはこれと機能上同視し得るブレーキのシユー支持機構が記載されている旨主張し、これを前提として、本件審決は、本件考案と第一引用例記載のものとの相違点の認定判断を誤り、また、本件考案の作用効果が公知慣用の技術手段の寄せ集めにすぎない点を看過した旨主張するから、 審究するに、第一引用例が昭和四〇年一〇月に発行された本件審決認定の表題の刊行物であることは、原告の明らかに争わないところであり、これに@スタツドボルトはバツキングプレートに固定され、かつ、シユーのウエブ板に穿かれた貫通孔に遊嵌貫通され、Aスタツドボルトの頭部にスロツテツドナツトが螺合され、Bウエブ板とスロツテツドナツトの間にウエブ板との間に所定の間隙をおいてワツシヤーがはめられている構成からなるブレーキのシユー支持機構が図示されていることは当事者間に争いのないところ、以上の事実に成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)を総合すれば、第一引用例の左図及び右図は、ブレーキの改善要望に対する、シユーの倒れを防ぐため左図のものを右図のものに改善するとの回答文に付けられた図面であつて、両図を比較すると、左図ではリターンスプリングがブレーキシユー保持するウエブ板に直接係止されているのに対し、右図ではリターンスプリングがウエブ板に係合されているピンの頭部に係止されている点を除くと、他に改善箇所を示す記載がないところ、両図共ワツシヤーとウエブ板はハツチングを施した断面図をもつて示され、これに対しナツトは側面図をもつて描かれていること、 両図の間隙寸法表示箇所は同一でなく、左図ではブレーキデイスクとブレーキシユーとの間の間隙を、右図ではワツシヤーとウエブ板との間の間隙をそれぞれ示していることを認めることができる。右認定の事実によれば、第一引用例の左図及び右図は、前示要望の改善前後の状態を示すものとして並んで掲載されているのであるから、両図共に同一の手法で作図されたものとみるべきであり、しかも、両図に関し記載された改善事項は、ナツトやワツシヤーに関するものでないから、ナツトやワツシヤーに関しては通常の図面解釈に従い理解すべきところ、一般にナツトやワツシヤーの断面図にはハツチングを入れないのが普通であり、ナツトとワツシヤーが別部材であるときは一方にハツチングを入れることがあつても、ナツトとワツシヤーとが一体のときに一方のみをハツチングを入れた断面で示すことはあり得ず、 したがつて、両図は、共に、ナツトとワツシヤーとが一体のものを示すものではなく、別体のものを示すものというべきである。原告は、左図ではナツトとワツシヤーとが別体であるが、右図では両者が一体である旨主張するが、両図における間隙寸法表示箇所の差異は右主張の根拠とすることはできず、また、前掲甲第二号証及び甲第三号証の各図面を対比するときは、本件公報の図面第1図と左図、本件公報の図面第2図と右図にそれぞれ作図上類似の点がみられないわけではないが、本件公報の図面第1図(従来例のもので別体型を示す。)には、第一引用例の左図及び右図と同様ワツシヤーとウエブ板とにハツチングが施され、ナツトは側面図をもつて示されていることが認められるから、第一引用例の右図のものは左図のものと同様別体型を示し、本件公報の図面第2図(一体型を示すもの)のようなナツトとワツシヤーが一体のものを示しているものとみることはできない。原告は、この点に関し、第三引用例を援用するけれども、成立に争いのない甲第四号証(第三引用例)によるも、第三引用例の7-16図(これが別体型のものであることは、原告の認めるところである。)をもつて、第一引用例の右図が一体型のものであることを示す根拠とすることは到底できない。なお、原告は第一引用例の右図が一体型であるか否かについて右図表示の間隙寸法について言及するから、この点につき検討するに、前掲甲第二号証によれば、本件公報の図面第1図(ナツトとワツシヤーを別体とする従来例を示すもの)では、ワツシヤーとウエブ板の間隙に4aと表示し、前掲甲第四号証によれば、第三引用例の7-16図の説明として「調整は、中央レツヂ面とシユーリムとの間に〇・四mmのシツクネスゲージを挿入し、ナツトを一旦締付け、ナツトとシユーホールド・ダウンピンとの割ピン穴が最初にあう所まで戻し、割ピンをはめこみ、ナツトを固定する。」旨の記載があることを認めることができるところ、これらの記載にかんがみると、第一引用例の右図におけるナツトとウエブ板との間隙寸法表示は、mmを単位として第三引用例の7-16図におけると同様ナツトをボルトに固定するに際し、シツクネスゲージを挿入するなどしてワツシヤーとウエブ板との間に所定の寸法の間隙を採るべき旨を指示したものと解するのが相当である。このことは、通常ナツトとワツシヤーとは、他部材との関係では一組のもの(結合体)として把握されるから、本件公報の図面第1図の4aの表示同様、ナツトとワツシヤーとの間隙寸法ではなく、ワツシヤーとウエブ板との間隙寸法をもつてナツトの固定位置を指示したものとみるのを自然とすることからも説明することができる。ところで、原告は、本件審決が、第一引用例の右図のシユー支持機構のワツシヤーとウエブ板との間隙の保持は、ワツシヤーとナツトとの間の摩擦係合によるのか、ワツシヤーとナツトとを一体に形成することによるのか明らかでない旨認定判断したのに対し、右間隙保持がワツシヤーとナツトとの摩擦係合によることはあり得ず、そのうえ、シユー支持機構においてはブレーキ作動時におけるライニングの傾斜等によりウエブ板とワツシヤーとの当接縁部に圧痕を生ずるほどの力を受けるから、ナツトとワツシヤーとがこの力に抵抗するに十分な結合強度を有するものでなければならず、ワツシヤーとウエブ板との間隙保持は、ナツトとワツシヤーの一体性によるほかない旨主張するが、第一引用例の右図におけるワツシヤーとナツトとの間隙及びその寸法表示は、前認定のとおりに解すべきであるから、結局原告の右主張も採用することができない(なお、本件審決の叙上の認定判断は、前認定説示に照らし相当とはいえないが、一体型のものと断定し得ないとした点において結論に影響を及ぼすものでないことは明らかである。)。また、第一引用例右図のワツシヤーとナツトとが機能上一体であるとの原告の主張も、これにそう証拠がなく、採用するに由ない。そうすると、第一引用例の右図に一体型又はこれと同視し得る機能のブレーキの支持機構が記載されていることを前提として、本件考案と第一引用例記載のものとの相違点の認定判断の誤り及び右相違点の誤認に基づく本件考案の作用効果の認定判断の誤りをいう原告の主張は、結局において採用することができない。なお、原告の主張が、第一引用例に一体型のシユー支持機構が開示されていないとしても、本件考案は、公知の別体型のシユー支持機構とその他公知慣用の技術手段とを結合することにより極めて容易に想到し得るものであつて、その作用効果もこれら公知慣用の技術手段の効果の寄せ集め以上のものではないとの趣旨の主張を含むものと解しても、前説示のとおり、本件考案は、ドラムブレーキのシユー支持機構に「スタツドボルトの頭部に螺合され、ウエブ板との間に所定の間隙を有し、かつ、該ウエブ板との接合面縁部に弧状の面とりを形成したつば部を有するスロツテツドナツトを備えた」構成を適用することにより、はじめて前認定の優れた作用効果を奏し得たものであり、その顕著な作用効果は当業者の予測し得る範囲を超えるものというべきであり、この点を参酌すると、本件考案は、原告主張の公知慣用の技術手段から極めて容易に想到し得るものとは到底認めることができない。したがつて、原告の叙上主張も採用する限りでない。 そうすると、本件考案をもつて、引用例に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものということができないとした本件審決の認定判断は、正当というべきである。 (結語)三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 武居二郎 |
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裁判官 | 高山晨 |
裁判官 | 川島貴志郎 |