運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議1997-74526
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 10年 (行ケ) 357号 実用新案取消決定取消請求事件
原告 大一紙工株式会社代表者代表取締役 A
原告 中村物産株式会社代表者代表取締役 B
原告両名訴訟代理人弁理士 C
同 D
同 E
被告 特許庁長官F
指定代理人 G
同 H
同 I
同 J
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/10/05
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成9年異議第74526号事件について平成10年9月10日にした決定を取り消す。
前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、考案の名称を「包装容器」とする実用新案登録第2530521号(平成4年7月7日出願、平成8年12月20日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案登録権者である。
武井肇は、平成9年9月25日本件考案の登録につき登録異議の申立てをし、特許庁は、この申立てを平成9年異議第74526号事件として審理した。原告らは、平成10年3月23日付け訂正請求書により明細書の訂正を請求したが、特許庁は、平成10年9月10日、本件考案の登録を取り消す旨の決定をし、その謄本は、同年10月21日原告らに送達された。
2 本件考案の要旨 (1) 本件訂正請求書の請求項1に係る考案(以下「訂正考案」という。)の要旨 折畳まれて重合する湿式シート材を収納する比較的軟質な合成樹脂材料製の容器本体の上面部に、前記上面部の一部を切り抜かないで連続させてほとんど切り抜かれた部分によって前記湿式シート材を一枚ずつ取出す取出口を設けると共に前記上面部のほとんど切り抜かれた部分を蓋片とし、前記蓋片よりも一回り大きくて下面に粘着剤を塗布した貼着片を前記蓋片の上面に貼着して蓋材を構成し、前記取出口の周縁の前記上面部の上面に比較的硬質な合成樹脂製の補強部分を設け、前記補強部分には前記貼着片の周端部における貼着層を圧着して前記取出口を密閉する蓋材を剥離可能にしてなる包装容器。
(2) 本件考案の要旨 折畳まれて重合する湿式シート材を収納する比較的軟質な合成樹脂材料製の容器本体の上面部に、前記湿式シート材を一枚ずつ取出す取出口を設けると共に、該取出口の周縁の前記上面部の上面に比較的硬質な合成樹脂製の補強部分を設け、更に、該補強部分に圧着されて前記取出口を密閉する蓋材を剥離可能に設けてなる包装容器。
3 決定の理由 決定の理由は、別紙決定書の理由写し(以下「決定書」という。)に記載のとおりであり、決定は、訂正考案は、刊行物1(実願昭58-128149号(実開昭60-35077号)のマイクロフィルム)、刊行物2(特開昭63-152577号公報)及び刊行物3(特開昭60-80405号公報)に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであるから、当該訂正は認められないと判断した上、本件考案は、上記刊行物1ないし3に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、その登録を取り消すべきである旨判断した。
決定の取消事由
1 決定の認否 (1) 決定の理由1(手続きの経緯。決定書2頁3行ないし9行)は認める。
(2) 同2(訂正の適否についての判断)のうち、「訂正請求書の請求項1に係る考案」(決定書2頁12行ないし3頁7行)は認める。
「引用刊行物記載の考案」(同3頁9行ないし5頁15行)は認める。
「対比・判断」(同5頁17行ないし9頁14行)のうち、5頁17行から6頁3行「あったので、」まで、6頁8行から9行「記載されている」まで、7頁5行「一般に」から16行まで、8頁1行ないし7行は認め、その余は争う。相違点は、決定指摘の点(8頁1行ないし7行)に限られないものである。
「むすび」(同9頁16行ないし10頁2行)は争う。
(3) 同3(実用新案登録異議申立てについての判断。決定書10頁4行ないし12頁1行)は争う。
2 取消事由 決定は、訂正考案は、進歩性を欠き、独立して実用新案登録を受けることができないと誤って判断したものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り) ア 三方が切目からなる開口部と固定板 決定は、「刊行物1には、「切取線による開口部」と「三方が切目からなる開口部」が記載されているけれども、三方が切目からなる開口部を有する袋体についても、開口部裏面に、この開口部と同じかわずかに小さい形状の穴を有する固定板を固着することにより、開封の際に、袋体と固定板との固着力に抗してまで開口部以外の袋本体が切り裂かれてしまうことはないものと解されるから、刊行物1には、
三方が切目からなる開口部を有する袋体の開口部裏面に、この開口部と同じかわずかに小さい形状の穴を有する固定板を固着したものも開示されていたものと認められる」(決定書6頁8行ないし19行)と認定するが、誤りである。
したがって、訂正考案は、刊行物1記載の考案と対比して、「その他の点において一致しているものと認められる」(決定書7頁19行、20行)との決定の認定も誤りである。訂正考案と刊行物1記載の考案とは、三方が切目からなる開口部を有する袋体の開口部裏面に、この開口部と同じかわずかに小さい形状の穴を有する固定板を固着した点では、一致していないものである。
すなわち、刊行物1(甲第5号証)には、「三方が切目からなる開口部」を形成したウェットティッシュの袋体が従来例として第1図(別紙1第1図参照)に記載されている。そして、第1図の開口部の周囲には本件考案にいう補強部分等の構成は存在しない。これに対し、第2、第3図(別紙1第2図、第3図参照)には、上記従来例の問題点を解決したものとして、「切取線による開口部」を形成し、当該開口部の裏面に「開口部と同じかこれよりもわずかに小さい形状の穴を有する固定板」を固着したウェットティッシュの袋体が記載されている。このように、刊行物1においては、「三方が切目からなる開口部」と「切取線による開口部」とを別異の考案として記載されているから、両者を混同して認定判断することはできないものである。
イ 補強部分の構造 仮に、刊行物1に、三方が切目からなる開口部を有する袋体の開口部裏面に固定板を固着したものが開示されているとしても、「刊行物1記載の固定板は、開封及び再封に際し開口部の歪みを少なくするものであることからみて、開口部を補強する部材とみることができるから、訂正考案における補強部分に対応するものと認められる」旨(決定書6頁末行ないし7頁4行)の決定の認定は、誤りである。
したがって、訂正考案は、刊行物1に記載された考案と対比して、「その他の点において一致しているものと認められる」(決定書7頁19行、20行)との決定の認定も誤りである。訂正考案と刊行物1記載の考案とは、補強部分の構造が異なるものである。
すなわち、刊行物1記載の固定板は、開封及び再封に際し、切取線による開口部の歪みを少なくし、開封及び再封を容易にするために上記開口部裏面に固着したものにすぎない。
これに対し、訂正考案の補強部分は、容器本体の上面部の一部を切り抜かないで連続させてほとんど切り抜かれた部分によって湿式シート材を1枚ずつ取出すための取出口の周縁の上面に設けられ、貼着片の周縁部における貼着層が圧着されるものであり、そのため、比較的硬質な合成樹脂製のものであって、刊行物1記載の固定板とは構造を異にするものである。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 決定の相違点についての判断(決定書8頁9行ないし9頁8行)は、誤りである。
ア すなわち、決定は、「この種の包装体において、取出口の周縁あるいはその近傍に設けられる板状部材(保形部材)あるいはシート片は、包装体の上面部の上面あるいは裏面のいずれにも設け得るものであることは、刊行物2及び3にみられるように、本件出願の出願前周知の事項である」(決定書8頁9行ないし14行)と認定するが、誤りである。
刊行物2(甲第6号証)に記載の保形部材は、箱体(第1図から第8図までの実施例)、枠体(第9図、第10図の実施例)及び額縁状板体(第11図から第13図までの実施例)であって、板状体ではない。刊行物2では、収納するウェットティッシュのサイズが大きくなっても、また、収納する枚数が多くなっても、使用中は常にウェットティッシュの取出しがスムーズに行え、かつ開閉蓋の開閉も確実に行えることを目的としたもので、具体的構成としては、封入袋の取出し口より大きな開口部を保形部材に設け、この開口部の領域内に封入袋の取出し口を位置させた構成で、しかも取出し口を開閉する開閉蓋は封入袋に直接設けてあるだけである。
また、刊行物3(甲第7号証)に記載のシート片は、磁力を利用して開閉蓋と袋体とを開閉可能に密封するためのもので、補強とは関係がない。
イ また、決定は、「刊行物1記載の考案において、補強部分を、包装容器の上面部の裏面に設けることが、必然的な事項であるとする根拠は見当たらない」(決定書8頁15行ないし17行)と認定するが、誤りである。
刊行物1記載の考案は、薄いフィルムを複数枚重ねた積層フィルムからなり、固定板は袋本体の裏面と同じ材質の樹脂であるから、固定板を袋本体の裏面に、周囲又は全面をヒートシールにより設けることができるのである。換言すれば、フィルムや薄いシートをヒートシールする場合、同一材質の樹脂同士であれば最も強固にシールすることができるが、異なる種類の樹脂であれば、樹脂の種類によってヒートシールできないことがある。したがって、刊行物1記載の考案において、「固定板は、袋本体の裏面と同じ樹脂で、」と記載されている以上、裏面に設けることが必須要件である。
また、刊行物1には、袋本体に固定板を設ける他の例として、感圧接着剤による場合が開示されており、この場合には、固定板の全面に感圧接着剤を塗布してから袋体の上面部に貼り付けるが、この場合、固定板の穴が切取線による開口部よりわずかに小さい状態で上面部の上面に固定板を貼り付けると、感圧接着剤が塗布されている開口部よりわずかに小さい部分が下に向くので、上面部の開口部から袋体の内部に臨み、感圧接着剤がウェットティッシュに直接接触して染み込んだり汚損させるので欠陥商品となる。しかし、固定板を上面部の裏面に貼り付けると、感圧接着剤が塗布されている開口部よりわずかに小さい部分が上に向くので、蓋体の裏面に臨むことになり、袋体内部のウェットティッシュに染み込んだり汚損させることがない。したがって、この観点からも、固定板を裏面に設けることが必須要件となる。
ウ さらに、決定は、「刊行物3の第9〜12図にみられるように、シート片を包装容器の上面部の上面に設けるに当たっては包装容器の上面部の上面と開閉蓋の間に介在させている」(決定書8頁18行ないし9頁1行)と認定するが、誤りである。
刊行物3の第11、第12図は、シート片を上面部と開閉蓋との間に介在させていないし、このシート片は補強ではなく磁力で開閉蓋を保持しているものであるから、訂正考案とは関係がない。
エ したがって、刊行物1記載の考案に基づいて刊行物2及び3記載の内容を勘案したとしても、これらを適当に組み合わせて訂正考案考案することは当業者であっても極めて容易になし得ないものである。
決定の取消事由に対する認否及び反論
1 認否 原告ら主張の決定の取消事由は争う。
2 反論 (1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)について ア 刊行物1(甲第5号証)には、「このような袋体として第1図(別紙1第1図参照)に示すように袋体の一部に三方が切目からなる開口部を有する袋体があったが、この袋体の開口部は、開封した際、袋体の切目の端部で開封が停止せず、開口部以外の袋本体まで切り裂れてしまうおそれがあった。本考案は、上記欠点を解消した包装袋であって必要以上の開封を防止できる包装袋である。」(2頁6行ないし12行)と記載されており、実用新案登録請求の範囲(1)の記載によれば、一応、「切取線による開口部」とし、「開口部裏面に、この開口部と同じかわずかに小さい形状の穴を有する固定板を固着」することにより、上記欠点を解消することができたものと解することができる。
しかしながら、刊行物1には、開口部を「切取線による開口部」としたことにより上記欠点が解消されたと明記されているわけではなく、かつ、「切取線による開口部」であっても、「三方が切目からなる開口部」であっても、裏面に固定板を設けることにより、「裏面に固定板を設けているので、開封および再封に際し、開口部の歪みが少ないので、開封および再封が容易である。」(甲第5号証3頁10行ないし12行)という刊行物1記載の効果が期待できるものと認められる。すなわち、刊行物1には、三方が切目からなる開口部を有する袋体の開口部裏面に、この開口部と同じ形状の穴を有する固定板を固着することを積極的に否定するような記載があるものとは認められない。
そして、「三方が切目からなる開口部」を有する袋体の開口部裏面に、この開口部と同じかわずかに小さい形状の穴を有する固定板を固着することにより、開封の際に、袋体と固定板との固着力に抗してまで開口部以外の袋本体が切り裂かれてしまうこともないものと解されるから、刊行物1には、技術思想としてみると、「三方が切目からなる開口部」であっても、開口部裏面に、この開口部と同じかわずかに小さい形状の穴を有する固定板を固着することにより、開封の際に、袋本体の切目の端部で開封が停止せずに開口部以外の袋本体まで切り裂かれてしまうおそれがある、という従来技術の欠点は解消されることが開示されていたものと認められる。
イ 刊行物1記載の考案における「固定板」は、ヒートシールし得るものであるから、合成樹脂製とみることができ、また、開封及び再封に際し、開口部の歪みが少ないので、開封および再封が容易であるという機能を持つものであり、少なくとも開口部の歪みを防止し得る程度の硬さを有しているものと認められるから、
本件考案の比較的硬質な合成樹脂製の補強部分に対応するとした決定の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について ア 刊行物2(甲第6号証)には、ウェットティッシュ用の包装袋について、次のように記載されている。
(ア) 特許請求の範囲「1.柔軟なシートから形成された封入袋と該封入袋よりも硬い材料からなる保形部材とから構成され、・・・該保形部材の開口部内・・・に、前記封入袋の・・・取出し口を形成するための切離し用切込みが位置し、且つ該・・・取出し口を形成するための切離し用切込み付近の封入袋のシート面が前記保形部材に固着されていることを特徴とする包装体。
・・・ 6.保形部材が板状である特許請求の範囲第1項記載の包装体。
7.板状保形部材が封入袋の外表面に固着されている特許請求の範囲第6項記載の包装体。
8.板状保形部材が封入袋の内部表面に固着されている特許請求の範囲第6項記載の包装体。」 (イ) 2頁右下欄3行ないし3頁左上欄4行「・・・特に、開閉蓋を開けてウェットティッシュを取出した後、再び開閉蓋を袋体に貼着する際に、袋体が歪んでいたり、開閉蓋を貼着すべきシート面が弛んでいると、開閉蓋がピッタリと袋体に貼着せずに隙間ができる。ウェットティッシュに含浸された液がこの隙間から蒸発してしまい、ウェットティッシュが乾燥してしまうという問題が生じる。・・・ 本発明は、前述したようなウェットティッシュ封入袋における問題点を解決して・・・開閉蓋の開閉も確実に行えるような包装体を提供することを目的とする。」 (ウ) 7頁右上欄6行ないし9行「一方、保形部材2は偏平な板体2である。板体2は可撓性であっても、比較的硬いものがよく、例えば、板紙、薄いプラスチック板やアルミニウム等の金属板等とするとよい。」 (エ) 以上の記載からみて、刊行物2記載の保形部材は、板状部材とみることができるから、訂正考案における補強部分と、ウェットティッシュ包装体の取出し口近傍に固着される板状部材という点において共通するものである。
イ 刊行物3(甲第7号証)には、ウェットティッシュ用の包装袋について、次のように記載されている。
(ア) 特許請求の範囲第12項「前記袋体の開口周縁部に貼着されたシート片が磁性粉末を含む可撓性シート材からなる特許請求の範囲第11項記載の化粧料封入袋。」 (イ) 5頁右下欄12行ないし18行「・・・第7図および第8図の実施例では、シート片8が袋体1の内側に貼着されていたのに対し、第9図および第10図の実施例では、シート片8が袋体1の外側に貼着されている点、および開閉蓋3が、第7図および第8図では袋体1に固着されているが、第9図および第10図ではシート片8に固着4されている点である。」 (ウ) 7頁左下欄2行ないし14行「本発明によれば、袋体の一面に開口(取出し口)が形成されており、この開口を開閉蓋が覆い、繊維素材に含浸させた化粧料を袋体内部に収納した化粧料封入袋において、前記開閉蓋と前記袋体の少なくとも開口周縁部との何れか一方が磁力を有しており、他方が前記磁力に吸引される性質を有している。このように本発明では、磁力を利用して開閉蓋と袋体とを開閉可能に密封しているので、・・・確実に繰返し開封および密封できる。」 (エ) 以上の記載からみて、刊行物3記載のシート片8は、ウェットティッシュ取出用開口の周縁部に貼着されるものであるから、訂正考案における補強部分とウェットティッシュ包装体の開口部周縁に固着されるシート片である点で共通するものである。
ウ そして、刊行物2及び3に記載されている、ウェットティッシュ包装体の取出用開口の近傍あるいは周縁部に固着される板状の保形部材あるいはシート片は、この包装体の上面部の上面あるいは裏面のいずれにも設け得るものである。
したがって、「この種の包装体において、取出口の周縁あるいはその近傍に設けられる板状部材(保形部材)あるいはシート片は、包装体の上面部の上面あるいは裏面のいずれにも設け得るものであることは、刊行物2及び3にみられるように、
本件出願の出願前周知の事項である。」(決定書8頁9行ないし14行)との決定の認定に誤りはない。
エ(ア) 原告らは、刊行物1記載の考案において、「固定板(4)は、袋本体の裏面と同じ樹脂で、」(甲第5号証3頁6行、7行)と記載されている以上、裏面に設けることが必須要件である旨主張するが、刊行物1記載の考案においては、ヒートシール以外にも感圧接着剤により固定することもできるのであり、この場合には、固定板は袋本体の表面あるいは裏面の何れに固定することにも格別の不都合があるものとは認められないから、原告らの上記主張は、一実施例に基づく主張であり、理由がない。
(イ) さらに、原告らは、刊行物1記載の考案について、固定板の穴が切取線による開口部よりわずかに小さい状態で上面部の上面に固定板を貼り付けると、
感圧接着剤が塗布されている開口部よりわずかに小さい部分が下に向くので、感圧接着剤がウェットティッシュを汚損させるので、固定板を裏側に固着することが必須要件である旨主張するが、刊行物1には、固定板の穴は、袋本体の開口部と同じかわずかに小さい形状であることが記載されており、同じ大きさの場合には、上記のようにウェットティッシュを汚損させるおそれもなく、また、固定板の穴と袋本体の開口部の大小の関係は設計的事項に属することと認められるから、原告らの上記主張は理由がない。
理 由1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 訂正考案 訂正考案の要旨(前記第2、2)は、当事者間に争いがない。
(2) 三方が切れ目からなる開口部と固定板について ア 甲第5号証によれば、刊行物1の実用新案登録請求の範囲に、「切取線による開口部を設けた積層フィルムからなる袋本体」(1頁5行、6行)と、考案の詳細な説明に、「このような袋体として第1図(別紙1第1図参照)に示すように袋体の一部に三方が切目からなる開口部を有する袋体があったが、この袋体の開口部は、開封した際、袋体の切目の端部で開封が停止せず、開口部以外の袋本体まで切り裂れてしまうおそれがあった。本考案は、上記欠点を解消した包装袋であって必要以上の開封を防止できる包装袋である。」(2頁6行ないし12行)、「本考案は、第2図および第3図(別紙1第2図、第3図参照)に示すように一面に切取線による開口部(2)を設けた積層フィルムからなる袋本体(1)の前記開口部(2)の裏面にこの開口部(2)と同じかこれよりわずかに小さい形状の穴(3)を有する固定板(4)を固着し、かつ開口部(2)の表面にこの開口部(2)を被うように感圧接着剤(5)を設けた蓋体(6)を貼着してなる取出口付き包装袋である。」(2頁14行ないし3頁1行)、「本考案の開口部(2)は、単なる円形の形状でなく鍵穴形状のように開封開始部分が広く、終了部分が狭い形状が取り出し易いうえ開封に際し、袋体が裂けるおそれが少なく好ましい」(3頁2行ないし5行)、「本考案は、このように裏面に固定板を設けているので、開封および再封に際し、開口部の歪みが少ないので、開封および再封が容易である」(3頁10行ないし12行)と、図面の簡単な説明に、「第1図は、従来例の説明図、第2図は本考案の説明図、第3図は、第2図の開封した状態の説明図である。」(3頁16行ないし18行)と記載されていることが認められる(一部は、当事者間に争いがない。)。
これらの記載によれば、刊行物1には、三方が切目からなる開口部を有する袋体が開封した際に開口部以外の袋本体まで切り裂れてしまうことを防止することを課題として、第2図及び第3図に示されたような切取線による開口部とした考案だけでなく、切取線による開口部のものであるか、三方が切目からなる開口部のものであるかを問わず、感圧接着剤層を設けた蓋体を蓋片に設け、開口部の歪みを少なくし、開封及び再封を容易とすることを目的として、開口部の裏面に固定板を設ける考案も記載されているものと認められる(刊行物1の考案の詳細な説明は、課題、
構成、作用効果がしっかりとかみ合った記載とはなっておらず、理解しにくい面があるが、開口部の裏面に固定板を設けることが開口部以外の切り裂き防止を目的としたものである旨の記載はなく、また、技術的にみても、切取線による開口部につき、開口部裏側の固定板が三方が切目からなる開口部の切目の端部における場合と同様な切り裂き防止の作用効果を奏すると認めることもできないから、開口部裏面の固定板の設置は、開口部以外の切り裂き防止とは関係しないものとして理解すべきである。)。
これに反する原告らの主張は採用することができない。
したがって、刊行物1には「三方が切目からなる開口部」であっても、裏面に固定板を設けることにより「開封および再封に際し、開口部の歪みが少ないので、開封および再封が容易」とすることが開示されている旨の被告の主張は、理由があり、三方が切目からなる開口部を有する袋体の開口部裏面に固定板を固着した点で、訂正考案と刊行物1記載の考案とは、一致しているものと認められ、原告らの主張の取消事由1のうち、三方が切れ目からなる開口部と固定板の点をいう部分は、理由がない。
(3) 補強部分の構造について 原告らは、訂正考案の補強部分は、容器本体の上面部の一部を切り抜かないで連続させてほとんど切り抜かれた部分によって湿式シート材を1枚ずつ取出すための取出口の周縁の上面に設けられ、貼着片の周縁部における貼着層が圧着されるものであり、そのため、比較的硬質な合成樹脂製のものであるのに対し、刊行物1記載の固定板は、開封及び再封に際し、切取線による開口部の歪みを少なくし、開封及び再封を容易にするために上記開口部裏面に固着したものにすぎないから、両者の補強部分の構造が異なる旨主張する。
しかしながら、刊行物1記載の固定板は、前記のとおり、「開封および再封に際し、開口部の歪みが少ないので、開封および再封が容易である」ことを目的とし、
「袋本体の裏面と同じ樹脂で、周囲または全面をヒートシールにより設けるのが好ましいが、感圧接着剤により固定してもよい」ものであるから、刊行物1には、固定板として比較的硬質な合成樹脂製のものを使用することも開示されているものと認められる(上記「袋本体の裏面と同じ樹脂」との記載が、刊行物1記載の固定板の構造を袋本体と同じ比較的軟質なものに限定しているものと解することはできない。)。
そして、刊行物1記載の固定板が、開口部の裏面に固着されたものであるため、蓋体に設けられた感圧接着剤層により直接的に貼着されるものではない点は、決定が相違点として挙げているところである。
したがって、刊行物1記載の固定板は、開封及び再封に際し開口部の歪みを少なくするものであることからみて、開口部を補強する部材とみることができるから、
訂正考案における補強部分に対応するものと認められる旨(決定書6頁末行ないし7頁4行)の決定の認定に誤りはなく、したがって、訂正考案と刊行物1に記載された考案とは、補強部分の構造の点を含めて、一致している旨の決定の認定にも誤りはなく、原告ら主張の取消事由1のうち、補強部分の構造の点をいう部分も、理由がない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 甲第6号証によれば、刊行物2(特開昭63‐152577号公報)の特許請求の範囲には、「1.柔軟なシートから形成された封入袋と該封入袋よりも硬い材料からなる保形部材とから構成され、・・・該保形部材の開口部内・・・に、前記封入袋の・・・取出し口を形成するための切離し用切込みが位置し、且つ該・・・取出し口を形成するための切離し用切込み付近の封入袋のシート面が前記保形部材に固着されていることを特徴とする包装体。
・・・6.保形部材が板状である特許請求の範囲第1項記載の包装体。
7.板状保形部材が封入袋の外表面に固着されている特許請求の範囲第6項記載の包装体。
8.板状保形部材が封入袋の内部表面に固着されている特許請求の範囲第6項記載の包装体。」と記載され、
発明の詳細な説明に、「特に、開閉蓋を開けてウェットティッシュを取出した後、再び開閉蓋を袋体に貼着する際に、袋体が歪んでいたり、開閉蓋を貼着すべきシート面が弛んでいると、開閉蓋がピッタリと袋体に貼着せずに隙間ができる。ウェットティッシュに含浸された液がこの隙間から蒸発してしまい、ウェットティッシュが乾燥してしまうという問題が生じる。」(2頁右下欄3行ないし10行)、
「本発明は、前述したような従来のウェットティッシュ封入袋における問題点を解決して、・・・開閉蓋の開閉も確実に行えるような包装体を提供することを目的とする。」(2頁右下欄18行ないし3頁左上欄4行)、「一方、保形部材2は偏平な板体2である。板体2は可撓性であっても、比較的硬いものがよく、例えば、板紙、薄いプラスチック板やアルミニウム等の金属板等とするとよい。」(7頁右上欄6行ないし9行)と記載されていることが認められ(一部は、当事者間に争いがない。)、これらの記載によれば、刊行物2には板状である保形部材が封入袋の外表面又は内表面に固着されている点が記載され、かつ、この板状である保形部材が訂正考案の補強部分に相当することが認められる。
また、甲第7号証によれば、刊行物3(特開昭60‐80405号公報)の特許請求の範囲には、「1.気密性を有するシート材で形成され、その一面に内容物取出し用の開口を有する袋体と、前記開口を覆うシート状開閉蓋とからなる化粧料封入袋において、前記開閉蓋と前記袋体の少なくとも開口周縁部との何れか一方が磁力を有しており、他方が前記磁力に吸引される性質を有していることを特徴とする化粧料封入袋。
2.前記開閉蓋が磁力を有しており、前記袋体の少なくとも開口周縁部が前記磁力に吸引される性質を有している特許請求の範囲第1項記載の化粧料封入袋。
・・・11.前記袋体の開口周縁部に、磁力に吸引される性質を有するシート片が貼着されている特許請求の範囲第2項記載の化粧料封入袋。
12.前記袋体の開口周縁部に貼着されたシート片が磁性粉末を含む可撓性シート材からなる特許請求の範囲第11項記載の化粧料封入袋。」と記載され、
発明の詳細な説明に、「シート片8に、磁力に吸引される性質または磁力を付与するには、前述の実施例と同様にすればよい。すなわち、磁性粉末を含む可撓性シート材、磁性粉末を含む層と非磁性層とからなる可撓性シート材、箔状磁性体層と非磁性層とからなる可撓性シート材等でシート片8を構成したり、あるいは磁石粉末を含む可撓性シート材、磁石粉末を含む層と非磁性層とからなる可撓性シート材、薄板状磁石層と非磁性層とからなる可撓性シート材等でシート片8を構成すればよい。また、強磁性体の箔状物(薄板状物)や薄板状磁石そのものをシート片8としてもよい。」(5頁左下欄12行ないし右下欄3行)、「第7図および第8図の実施例では、シート片8が袋体1の内側に貼着されていたのに対し、第9図および第10図の実施例では、シート片8が袋体1の外側に貼着されている点、および開閉蓋3が、第7図および第8図では袋体1に固着されているが、第9図および第10図ではシート片8に固着4されている点である。」(5頁右下欄12行ないし18行)と記載されていることが認められ(一部は、当事者間に争いがない。)、
これらの記載によれば、刊行物3にはウェットティッシュ取出用開口の周縁部にシート片が袋体の上面又は下面に貼着された点が記載されていることが認められ、
かつ、当該シート片が袋体を補強する機能を有するのは自明であるから、刊行物3のシート片が訂正考案の補強部分に相当するものと認められる。
そして、刊行物2に記載のウェットティッシュを収納するのに適した包装体、刊行物3に記載の化粧料封入袋は、ともに訂正考案の包装容器と技術分野が共通するものと認められるから、決定が「この種の包装体において、取出口の周縁あるいはその近傍に設けられる板状部材(保形部材)あるいはシート片は、包装体の上面部の上面あるいは裏面のいずれにも設け得るものであることは、刊行物2及び3にみられるように、本件出願の出願前周知の事項である」(決定書8頁9行ないし14行)と認定したことに誤りはないものと認められる。
これに反する原告らの主張は採用することができない。
(2)ア 原告らは、フィルムや薄いシートをヒートシールする場合、同一材質の樹脂同士であれば最も強固にシールすることができるが、異なる種類の樹脂であれば、樹脂の種類によってヒートシールできないことがあるところ、刊行物1記載の考案において、「固定板は、袋本体の裏面と同じ樹脂で、」と記載されている以上、裏面に設けることが必須要件である旨主張する。
しかしながら、甲第5号証によれば、刊行物1には「開口部(2)の裏面に設ける固定板(4)は、・・・周囲または全面をヒートシールにより設けるのが好ましいが、感圧接着剤により固定してもよい。」(3頁6行ないし9行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、固定板は感圧接着剤により固定してもよいところ、感圧接着剤による固定の場合には、固定板は袋本体の表面あるいは裏面の何れに固定することに格別の不都合はないから、原告らの上記主張は、ヒートシールにより固定板を設ける一実施例に関する主張にすぎず、採用することができない。
イ さらに、原告らは、感圧接着剤による場合に、固定板の穴が切取線による開口部よりわずかに小さい状態で上面部の上面に固定板を貼り付けると、感圧接着剤がウェエットティッシュを汚損させることとなるので、固定板は袋体の上面の裏面に設けられることが必須要件となる旨主張する。
しかしながら、前記説示のとおり、刊行物1には「一面に切取線による開口部(2)を設けた積層フィルムからなる袋本体(1)の前記開口部(2)の裏面にこの開口部(2)と同じかこれよりわずかに小さい形状の穴(3)を有する固定板(4)を固着し」(2頁14行ないし18行)と記載されているものであり、この記載によれば、固定板の穴が袋本体の開口部と同じ形状である場合もあるところ、
固定板の穴が袋本体の開口部と同じ形状である場合には、固定板を上面部の上面に貼り付けても感圧接着剤によりウェットティッシュが汚損されることはないから、
原告らの主張は、この点に関しても一実施例に関する主張にすぎず、採用することができない。
ウ そうすると、決定が「刊行物1記載の考案において、補強部分を、包装容器の上面部の裏面に設けることが、必然的な事項であるとする根拠は見当たらない」(決定書8頁15行ないし17行)と判断したことにも、誤りはない。
(3) 原告らは、刊行物3の第11、第12図ではシート片を上面部と開閉蓋との間に介在させていないし、このシート片は補強ではなく磁力で開閉蓋を保持しているものであるから、訂正考案と関係がない旨主張する。
しかしながら、刊行物3(甲第7号証)の第11、第12図によれば、同図の場合において、開閉蓋3が閉じた際にはシート片が上面部と開閉蓋との間に介在し、
また、当該シート片が補強の機能を有していることが認められるから、原告らの上記主張は採用することができない。
したがって、決定が「刊行物3の第9〜12図にみられるように、シート片を包装容器の上面部の上面に設けるに当たっては包装容器の上面部の上面と開閉蓋の間に介在させている」(決定書8頁18行ないし9頁1行)と認定したことにも、誤りはない。
(4) 以上によれば、刊行物1記載の考案について、補強部分を、包装容器の上面部の裏面に設けることに代えて、包装容器の上面部の上面に設け、包装容器の上面部と蓋材を構成する貼着片との間に介在させることは、当業者が極めて容易に想到し得る程度のことであり、訂正考案は実用新案法3条2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものと認められるから、
これと同旨の決定の判断に誤りはなく、原告ら主張の取消事由2は理由がない。
3 結論 そして、本件考案も、上記と同様の理由により、刊行物1ないし3に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められ、これと同旨の決定の判断に誤りはない。
以上によれば、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年9月21日)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 市川正巳