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事件 |
平成
10年
(ワ)
11089号
実用新案権侵害差止等請求事件
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原告 高園産業株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 小西敏雄 被告 有限会社メディカルサプライ右代表者取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 川村哲二 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2000/02/03 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、別紙物件目録記載の芯管に分包用紙を巻き付けて、これを使用したり、分包用紙を巻き付けた右芯管を販売してはならない。 二 被告は、原告に対し、金九九一万六三四五円及び内金九〇一万六三四五円に対する平成一一年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 三 原告のその余の請求を棄却する。 四 訴訟費用は被告の負担とする。 五 この判決は、一及び二項に限り仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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全容
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日 平成一一年一一月二六日) |
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追加 | |
別紙第1請求1主文一項同旨2被告は、原告に対し、金1011万5045円及び内金921万5045円に対する平成11年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要(争いのない事実等)1(1)訴外【C】は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)を有していた(甲21)。 意匠に係る物品薬剤分包機用紙管出願日昭和50年7月19日(意願昭50-30230号)登録日昭和59年2月29日登録番号第625445号登録意匠及び説明別紙意匠公報該当欄掲載のとおり(2)訴外【C】は、昭和59年3月ころ、原告に対し、原告が独占的に本件意匠権を実施することを許諾した(甲24)。 (3)本件意匠権は、平成11年2月28日の経過をもって、存続期間が満了した。 2(1)原告の代表取締役である訴外【D】は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた(甲2)。 考案の名称薬剤分包用紙の芯管出願日平成2年2月13日(実願平2-13426号)公開日平成3年10月31日(実開平3-105171号)公告日平成5年7月30日(実公平5-30058号)登録日平成6年4月20日登録番号第2015820号実用新案登録請求の範囲別紙実用新案公報該当欄記載のとおり(2)訴外【D】は、本件考案の出願後である平成2年2月ころ、原告に対し、原告が独占的に本件実用新案権を実施することを許諾した(甲3)。 (3)訴外【D】は、その後、原告に対し、本件実用新案権を譲渡し、平成10年11月5日にその旨の登録がされた(甲17)。 3原告は、薬剤自動分包機(その取扱説明書が甲14。「全自動分割分包機/Duet」シリーズ。以下「原告分包機」という。)を製造し、病院等に販売している。また、原告は、原告分包機に適合する薬剤分包機用紙管(芯管ともいう。)として、昭和59年3月から平成2年2月ころまでは、本件登録意匠の実施品を、同月以降は、プラスチック製の別紙物件目録記載の本件考案の実施品(以下「本件考案実施品」という。)を製造し、これらの芯管に薬剤分包用紙(分包紙ともいう。)をロール状に巻き付けて、同機械の購入者に対し販売している。 4(1)被告は、平成10年6月から同年12月まで、原告が販売した本件考案実施品を、その販売先から1本当たり100円で買い取り、これに独自に分包紙を巻き付けて販売した。 (2)原告は、本件訴えを提起するのと同時に、本件を本案とする仮処分を申し立てていたが(当庁平成10年(ヨ)第3086号実用新案権侵害差止等仮処分申立事件)、同事件は、債務者(被告)が、本案である本件の判決が確定するまで、本件考案実施品を回収し、分包紙を巻き付け、これを販売しないことを約し、債権者(原告)が同仮処分命令申立てを取り下げることを内容とする和解が成立したことにより終了した(当裁判所に顕著な事実)。 (3)被告は、平成11年1月以降、本件登録意匠と同一の意匠を有する薬剤分包機用紙管(以下「本件意匠実施品」という。)に分包紙を巻き付けて販売した。 (4)被告が、平成10年6月から同年12月までに販売した本件考案実施品の本数及び平成11年1月と2月に販売した本件意匠実施品の本数は、別紙商品別月別売上巻数表記載のとおりである。なお、同表中商品欄の、「グラシン」とは半透明のグラシン紙からなる分包紙が巻き付けられた商品であり、「セロポリ」とは縦半分が透明で、その他の部分が半透明のセロポリ紙からなる分包紙が巻き付けられた商品であり、「記名入り」とは、原告分包機を使用する病院等の名称が印刷されている分包紙が巻き付けられた商品である(甲32)。 (原告の請求)原告は、被告に対し、次の請求をしている。 1被告が本件考案実施品を使用、販売することは、本件実用新案権を侵害するとして、同実施品の使用、販売の差止請求。 2(1)被告による本件考案実施品の販売により本件実用新案権又は同権利の独占的通常実施権が侵害されたとして、(2)被告の同じ行為により本件考案実施品に対する所有権が侵害されたとして、(3)被告による本件意匠実施品の販売により本件意匠権の独占的通常実施権が侵害されたとして、損害賠償(民法709条に基づく逸失利益)を請求している。 (争点)1原告が、原告分包機の購入者に対し、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売した際、本件考案実施品の所有権は原告に留保されていたか。 この争点が、肯定されると、被告が、本件考案実施品に分包紙を巻き付けるなどして使用し、販売したことは、本件実用新案権又はその独占的通常実施権を侵害するとともに、原告の同実施品に対する所有権を侵害することになる。 2過失被告が本件意匠権の独占的通常実施権を侵害したことについて過失があるか。 3損害の発生及びその額。 4原告の本件請求は権利濫用か。 第3争点に関する当事者の主張1争点1(所有権留保)について。 【原告の主張】(1)原告は、本件考案実施品の芯管に分包紙を巻き付けたものを、原告分包機の購入者である病院、薬局に販売し、芯管自体は非売品として、病院、薬局で分包紙を使用し終わった段階で芯管を回収し、再使用している。このように、原告が、原告分包機の購入者に対し、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売する際、本件考案実施品の所有権は原告に留保しているのであるから、被告が、原告の販売先から本件考案実施品を買い取り、同実施品に分包紙を巻き付けるなどして使用し、販売することは、本件実用新案権又はその独占的通常実施権を侵害するとともに、本件考案実施品に対する原告の所有権を侵害する。 (2)通常、原告が、原告分包機を病院等に購入してもらうには、実際に購入してもらう前に試用期間を設けており、その間に、購入先は、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を複数本使用する。 そして、本件考案実施品には「この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、譲渡又は無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」と刻印され、その旨記載されたシールが貼付されており、本件考案実施品を梱包している箱の中には同様の警告文が記載された紙が挿入されている。また、原告分包機の取扱説明書には、「紙管については弊社が実用新案権を有する非売品でありこれを、譲渡又は無断で使用されますと、実用新案権侵害となりますのでご注意下さい。」と太文字で強調して記載されている。さらに、原告は、顧客である病院、薬局にその旨説明し、了解してもらっている。 したがって、原告が、原告分包機の購入者に対し、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売する際には、同実施品の所有権を原告に留保する旨の黙示の合意が成立している。 【被告の主張】(1)被告は、原告によって販売された本件考案実施品をその販売先から買い取って、同実施品を使用、販売しているところ、本件考案実施品の所有権は原告に留保されていない。したがって、いわゆる権利の消尽により、被告の行為は本件実用新案権及びその独占的通常実施権を侵害しないとともに、本件考案実施品に対する原告の所有権を侵害しない。なお、原告が、本件考案実施品の一部を回収していることは認めるが、全部を回収している事実はない。 (2)原告は、本件考案実施品は非売品であり、所有権は原告に留保されていると主張する。 しかし、原告と分包紙を巻き付けた本件考案実施品の購入者との間に、そのような合意が明示の形であるわけではない。 原告は、本件考案実施品に施された刻印、本件考案実施品が入れられた箱に同包されている書面等を理由に所有権留保を主張するが、そのようなものでは、販売時点で、所有権留保の合意が存在する余地はない。また、その刻印、書面の内容では、所有権留保の趣旨が明示されているとはいえず、顧客の側もそのような認識を有していない。 さらに、原告は、本件考案実施品を全部は回収していない(せいぜい半分程度回収しているにすぎない。)のであるから、実際の取扱い状況から考えても所有権留保はなされていなかった。 2争点2(過失)について【被告の主張】原告は、通常実施権者であり、過失の推定を定めた意匠法40条の適用はない。 本件においては、被告に本件意匠権の独占的通常実施権侵害の故意又は過失はない。原告において、本件登録意匠の実施品である芯管は、平成2年には製造販売を中止されている上、社内外において本件意匠権の存在は一般的に知られていなかった。したがって、被告代表者は、本件意匠権の存在を知らなかったし、それを知る機会もなかった。 【原告の主張】原告は、独占的通常実施権者であるから、実質上専用実施権者と同視して差し支えない地位を有するものであり、意匠法40条を類推適用すべきである。 3争点3(損害の発生及びその額)について【原告の主張】(1)損害の発生(本件意匠権の独占的通常実施権侵害に関して)原告は、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売しており、被告が本件意匠権の独占的通常実施権を侵害して分包紙を巻き付けた本件意匠実施品を販売しなければ、その数量分の分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売し得た関係にあるから、原告の損害は発生している。 (2)本件実用新案権又はその独占的通常実施権侵害による損害額被告が分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売しなければ、原告は、被告が販売した数量分の分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売し得たのである。 したがって、原告が被った損害の額は、被告が、平成10年6月から同年12月までの各月ごとに、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売した巻数に、原告の同月における分包紙を巻き付けた本件考案実施品の販売による1巻当たりの利益額を乗じることにより得られる金額と評価できる(民法709条)。 そして、その計算は、別紙パックメイト用分包紙損害額算定表記載のとおりであり、損害額は、合計金530万8337円となる。 (3)本件意匠権の独占的通常実施権侵害による損害額(2)と同様に、計算すると、本件意匠権の独占的通常実施権侵害による原告の損害は、合計金370万8008円となる。 (4)所有権侵害による損害額被告は、平成10年6月から同年12月までの間に、原告が所有権留保している本件考案実施品につき、病院等から1個100円で1987巻買い取り、これに分包紙を巻き付けて、病院等に販売した。 したがって、原告は、1987巻の本件考案実施品の所有権を喪失した。 本件考案実施品1個の価格を、被告の買入価格100円で計算すると、損害は、 19万8700円となる。 (5)弁護士費用90万円【被告の主張】(1)損害の発生(本件意匠権の独占的通常実施権侵害に関して)原告は、本件登録意匠の実施品を、平成2年3月以降販売していないから、損害は発生していない。 (2)本件実用新案権又はその独占的通常実施権による損害の額分包紙は、本件実用新案権とは無関係であるから、損害額を算定するに当たっては、分包紙を巻き付けた本件考案実施品全体の利益を基礎にすべきでない。 また、原告分包機自体は、本件実用新案権取得の相当以前から同様の製品が販売されているのであり、本件考案実施品以前の芯管も利用可能である。したがって、 本件考案実施品自体の不可欠性、重要性はほとんどない。 (3)本件意匠権の独占的通常実施権侵害による損害額ア分包紙は、本件意匠権とは無関係であるから、損害額を算定するに当たっては、分包紙を巻き付けた本件考案実施品全体の利益を基礎にすべきでない。また、芯管の美感は、需要者の選択の要素としての機能を持たないから、意匠権侵害による損害は皆無又は僅少なものにすぎない。 イ本件を本案とする仮処分事件の和解の席上等において、複数の原告社員及び原告代理人は、被告が原告製芯管の再利用を中止し、平成11年初めころから自社商品を販売することを、何度も聞いていた。そして、原告分包機にセットされる芯管の形状は限定されるため、原告は、被告が本件意匠権に抵触するような芯管を存続期間中に販売するであろうことを十分予想できたはずであった。それにもかかわらず、原告は、被告に対し、本件意匠権の独占的通常実施権侵害の可能性があることを警告することもしなかった。 したがって、被告の本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為は、原告自身の故意又は重大な過失により生じたものであり、過失相殺により相当額の減額をすべきである。 (4)所有権侵害による損害額原告の所有権侵害の損害額の算定根拠は理由がない。 4争点4(権利濫用)について【被告の主張】(1)本件実用新案権又はその独占的通常実施権に基づく請求について本件実用新案権は、原告が販売していた旧芯管との間にほとんど作用効果の差異がないにもかかわらず、自らの独占的地位を守るために取得した権利とも考えられるのであって、このような権利又はその独占的通常実施権に基づく請求は権利の濫用である。原告の権利主張は、実用新案権又はその独占的通常実施権の保護を目的としたものではなく、主たる目的が自らの市場の独占的地位を守り、競争者を不当に排除しようとする目的に出たものであるから、権利の濫用である。 (2)本件意匠権の独占的通常実施権侵害に基づく損害賠償請求について3【被告の主張】(3)イ記載のとおり、原告は、被告による侵害行為を、敢えて、 又は重大な落ち度をもって、自ら招いたのであって、このような自らの責任によって生じた侵害行為に対し損害賠償請求を行うことは、権利の濫用というべきである。 また、本件登録意匠は、製品の美感にはほとんど影響せず、意匠として保護すべき価値は乏しいから、原告に本件意匠権の独占的通常実施権に基づく権利行使を認める必要はない。原告の権利主張は、意匠権の保護を目的としたものではなく、主たる目的が自らの市場の独占的地位を守り、競争者を不当に排除しようとする目的に出たものであるから、権利の濫用である。 【原告の主張】争う。 第4当裁判所の判断1争点1(所有権留保)について(1)証拠(甲1、14ないし16、20、26、検甲5、6、乙4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア原告は、全国の病院、診療所、調剤薬局等に薬剤自動分包機を販売するとともに、分包機で使用される分包紙をこれら分包機の購入先に納入しているが、10年余り前から、分包紙の芯管については非売品扱いとし、営業員が分包紙の購入先から使用済みの芯管を回収してきた(全部回収できていたわけではない。)。なお、 原告以外の分包機及び分包紙の製造販売会社の中にも、分包紙についての安全衛生上の配慮等から芯管を非売品とし、所有権を留保する旨を表示しているところがある。 イ原告分包機には、分包紙を装填する部分(紙管ドラム)に、分包紙の抜け止め装置や、分包紙がなくなったことを感知する装置が内蔵されており、それらの装置に対応するために芯管には、一定の構造が要求される。そして、そのような芯管は、これまでのところ、本件考案実施品又は本件登録意匠の実施品のみであった。 本件考案実施品は、本件分包機に用いられる分包紙の芯管として使用する以外に格別の用途はなく、また繰り返し使用することに耐える材質からなるものである。 ウ原告が、病院等に対し、原告分包機を販売するに当たっては、事前に試用期間を設けており、その間に、将来の購入先は、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を複数本使用している。 エ原告分包機の取扱説明書(甲14)には、「包装材料(分包紙)及び紙管についてのご注意」として、「包装材料(分包紙)に関しては、必ず当社製の包装材料を使用して下さい。当社製以外の包装材を使用された場合は、トラブルについて当社では一切の責任を負いません。」、「紙管については弊社が実用新案権を有する非売品でありこれを、譲渡または無断で使用されますと、実用新案権侵害となりますのでご注意下さい。」との記載がある。 オ分包紙を巻き付けた本件考案実施品が梱包された箱の中には、「分包紙ご使用後の紙管回収とサービス券発行についてのご案内」と題する文書(検甲6)が同包されており、同文書には、「分包紙ご使用後の紙管(分包紙ロールの樹脂製芯)は、非売品ですので弊社サービス員が定期的に回収させて頂いております。」、 「尚、回収にご協力いただきました場合は紙管6本につきサービス券1枚又は粗品を進呈いたします。」との記載があり、さらに、同文書下部には、罫線の囲みの中に「注意この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、これを譲渡または無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との太字の記載がある。 カビニル包装された分包紙を巻き付けた本件考案実施品(検甲3)の上端面と下端面には、ラベルが貼付されており、同ラベルには「注意この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、これを譲渡または無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との記載がある。また、本件考案に巻き付けられた分包紙の端部には、ガイド紙が設けられているが、ガイド紙にも、ラベルと同じ記載がある。 キ本件考案実施品(検甲5)には、「注意この紙管は、紙の吸湿伸縮、乾燥端切れを防止し、加えて給紙終了信号発生装置を作動する為の形状を有する弊社独自のものです。この紙管については弊社が実用新案権を有する非売品であり、譲渡または無断使用されますと、実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との記載が刻印されている。 (2)以上の認定事実によれば、原告は、本件考案実施品を使用した分包紙を販売するに当たり、本件考案実施品については、その所有権を譲渡することなく、自己に留保しているものというべきである。 もっとも、上記事実からすると、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入した者は、本件考案実施品が非売品であるなどの記載を、原告分包機の取扱説明書に記載されたものを除いては、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を受領した後でなければ、目にすることができないといえる。 しかしながら、本件考案実施品は原告分包機用として製造されたものであり、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入する者は、原告分包機の購入者、使用者である病院、薬局等に限定されると認められるから、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入するに先立って、原告分包機の取扱説明書を受領していると推認される。 また、原告分包機を購入しようとする者は、同機械の試用期間中に、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を複数本使用するのであるから、その際、本件考案実施品が梱包されている箱の中に同包されている文書、ビニル包装の上下端面に貼付されているラベル、及び分包紙端部のガイド紙の各記載、並びに本件考案実施品に施されている刻印を読むことによって、原告分包機の購入後に分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入しても、本件考案実施品自体の所有権は原告に留保されることを理解していると推認するのが相当である。 その上、分包紙は消耗品であるところ、被告が本件考案実施品を買い取り独自に分包紙を巻き付け販売するようになったのは、原告が本件考案実施品を製造し始めてから8年以上が経過した後であるから(前記第2(争いのない事実等)3及び4(1))、原告分包機の購入者の多くは、その時点で、複数回、原告から、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入していたと認められる。 したがって、少なくとも、被告が、原告分包機の購入者から買い取った本件考案実施品については、原告が当該原告分包機の購入者に対し分包紙を巻き付けて販売した際、本件考案実施品の所有権は原告に留保するとの黙示の合意が成立していたと見るのが相当である。 なお、原告分包機の取扱説明書、本件考案実施品が梱包されている箱の中に同包されている文書、ビニル包装の上下端面に貼付されているラベル、及び分包紙端部のガイド紙の各記載、並びに本件考案実施品に施されている刻印には「非売品」と記載されており、その記載を読む者は、法的には本件考案実施品の所有権が原告に留保されていると評価するのに十分な認識を得ることができるものと認められる。 本件考案実施品が梱包された箱の中に同包されている文書には、「回収にご協力」とか「紙管6本につきサービス券1枚又は粗品を進呈いたします。」という、原告に所有権留保されているのであれば、本来必要のない記載があるが、これは、原告が顧客に配慮し、回収を円滑にするために記載したにすぎないと理解することができる。そして、同文書にも本件考案実施品が「非売品」と明確に記載されていることは、既に判示したとおりであるから、上記裁判所の認定を左右するものではない。 (3)被告は、原告が本件考案実施品をユーザーから全部は回収していないことをもって、所有権留保はなされていなかったと主張するが、上記認定事実と弁論の全趣旨によれば、原告が、本件考案実施品をすべて回収しなかったのは、法的にそのようにすることが不可能だったのではなく、当該回収に伴う費用と新たに本件考案実施品を製造するのに要する費用とを比較し、経済的観点からそのように判断していたにすぎないと理解することができる。 したがって、被告の主張を採用することはできない。 (4)以上によれば、被告が、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入した者から、本件考案実施品を買い取り、同実施品に分包紙を巻き付けるなどして使用し、 販売することは、本件実用新案権又はその独占的通常実施権を侵害するとともに、 本件考案実施品に対する原告の所有権を侵害するものというべきであり、被告主張の権利の消尽はその前提を欠き失当である。 2争点2について意匠法40条本文は、「他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定して、意匠権侵害者の過失を推定している。これは、登録意匠についてはその存在及び内容が公示されているから、業として新たに意匠を実施しようとする者は、その意匠が他人の意匠権を侵害するか否かを公示に基づいて調査することが可能であり、そのような調査を行うべきであり、その意匠が、他人の意匠権を侵害するものである場合には、調査を怠ったか、調査に基づいて適切な判断をしなかった等の過失があるものと推定されるからである。このように、意匠法40条本文が意匠権侵害者の過失を推定した根拠は、登録意匠の存在及び内容が公示されていることにあり、それが何人の権利であるかが公示されていることにはないから、登録意匠の権利者として公示されない独占的通常実施権者の法的利益の侵害行為についても、意匠法40条本文を類推適用するのが相当である。 したがって、被告の本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為につき過失が推定されるところ、当該推定を覆すに足りる事情は認められないので、被告が本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為をするにつき、過失があったものと認められる。 3争点3について(1)損害の発生について前記第2(争いのない事実等)3記載のとおり、原告は、平成2年3月以降、本件登録意匠を実施した芯管を製造、販売していなかった。 しかしながら、既に判示したとおり、原告分包機に使用できる芯管は、これまでのところ、原告が実用新案権若しくはその独占的通常実施権又は意匠権の独占的通常実施権を有する、本件考案実施品又は本件登録意匠の実施品のみであるという状況の下で、原告は、平成2年3月以降、本件考案実施品を製造、販売していたのである。 したがって、被告が本件意匠権の独占的通常実施権を侵害して、分包紙を巻き付けた本件意匠実施品を販売したため、原告は、本件登録意匠の実施品の代替品ともいえる本件考案実施品に分包紙を巻き付けて販売することにより、本来得ることができたはずの利益を得ることができなかったという損害を受けたことが認められる。 よって、原告には、被告の本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為により、損害が発生したものというべきである。 (2)本件実用新案権又はその独占的通常実施権侵害による損害額について原告の請求のうち平成10年6月から同年11月5日までに被告が分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売したことによる損害賠償請求権は、本件実用新案権の独占的通常実施権に基づくものであるが、その場合であっても、実用新案法(平成5年法律第26号による改正前のもの)30条、特許法103条に定める過失の推定規定が類推適用されることは、前記2記載と同様である。したがって、被告は過失により本件実用新案権の独占的通常実施権を侵害したものと認められる。 (1)同様、被告が、本件実用新案権又はその独占的通常実施権を侵害して、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売したことにより、原告は、本件考案実施品に分包紙を巻き付けて販売することにより、本来得ることができたはずの利益を得ることができなかったという損害を受けたことが認められる。 そして、被告が、本件考案実施品に分包紙を巻き付けて販売した場合に、原告が、被告販売巻数分の分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売することができず、販売利益が減少することは、原告以外の第三者による適法な競合品の存在をうかがうことができない状況の下では、通常生じ得る損害であるといえる。 なお、被告は本件考案実施品以外の芯管も、原告分包機に装着できると主張するが、弁論の全趣旨によれば、それは、原告が独占的通常実施権を有していた本件登録意匠の実施品であると認められるから、原告以外の第三者による適法な競合品の存在をうかがうことができないことに変わりはない。 また、被告から分包紙を巻き付けた本件考案実施品を購入した者は、その芯管に本件考案実施品が使用され、自己が有している原告分包機に装着することができるからこそ、被告から当該製品を購入したものと考えられる。 以上のことからすると、被告の本件実用新案権又はその独占的通常実施権侵害と相当因果関係のある原告の損害額は、被告が販売した分包紙を巻き付けた本件考案実施品の巻数に、原告が分包紙を巻き付けた本件考案実施品1巻を販売したことにより得ることができる利益額全額を乗じることにより、得られる金額と見るのが相当である。被告は、損害額の算定に当たって、分包紙を巻き付けた本件考案実施品全体の利益を基礎とすべきでないと主張するが、前示の事情からすれば、原告は、 被告の行為によって、分包紙を巻き付けた本件考案実施品全体の販売機会を喪失したのであるから、それによる得べかりし利益の額は、分包紙を巻き付けた本件考案実施品全体の利益の額を基礎とすべきである。 証拠(甲29、31の1ないし3)と弁論の全趣旨によれば、原告が平成10年6月から同年12月までの各月に分包紙を巻き付けた本件考案実施品1本を販売することにより得ることができた利益額は、別紙パックメイト用分包紙損害額算定表「利益」欄の「98/6」欄ないし「98/12」欄記載のとおりであることが認められる。 したがって、原告は、被告が、分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売したことにより、同別紙「損害額」欄の「98/6」欄ないし「98/12」欄記載の損害額(合計530万8337円)の損害を被ったと認められる。 (3)本件意匠権の独占的通常実施権侵害による損害額について(2)で述べたのと同様、被告が、分包紙を巻き付けた本件意匠実施品を販売したことにより、原告が被った損害額は、被告が販売した分包紙を巻き付けた本件意匠実施品の巻数に、原告が分包紙を巻き付けた本件考案実施品1巻を販売したことにより得ることができる利益額全額を乗じることにより、得られる金額と見るのが相当である。被告は、芯管の美感は需要者の商品選択上重要な機能を持たないと主張するが、そうであるとしても、先に(2)で述べたことからすれば、本件では、損害額を減額する事由とはならないというべきである。 そして、前掲証拠と弁論の全趣旨によれば、原告が平成11年1月と2月に分包紙を巻き付けた本件考案実施品1本を販売することにより得ることができた利益額は、別紙パックメイト用分包紙損害額算定表「利益」欄の「99/01」欄と「99/02」欄記載のとおりであると認められる。 したがって、原告は、被告が、分包紙を巻き付けた本件意匠実施品を販売したことにより、同別紙「損害額」欄の「99/01」欄と「99/02」欄記載の損害額(合計金370万8008円)の損害を被ったと認められる。 被告は、原告が被告に対し、本件意匠権の独占的通常実施権侵害の可能性があることを警告しなかったことを理由に、過失相殺を主張する。しかし、被告の主張する事実を前提としても、そもそも当業者である被告は、自らの行為が他人の意匠権を侵害しないようにする注意義務を負っているのであるから、原告が、被告に対し、本件意匠権の独占的通常実施権を侵害する可能性があることを事前に警告しなければならないような注意義務を負っていたとは認め難い。そして、原告が、被告に対し、積極的に、本件意匠権の独占的通常実施権を侵害するよう仕向けたなどという事情は認められない。したがって、被告の過失相殺の主張は、採用することができない。 (4)所有権侵害による損害額について原告は、所有権侵害に基づく損害額を、被告が本件考案実施品を販売した本数に、同実施品を購入した価格100円を乗じている。 確かに、本件考案実施品は、原告の所有に属するものであるから、被告が、本件考案実施品を、原告に無断で使用、販売する行為は、原告の所有権を侵害するといえる。また、証拠(甲10、11の1及び2、16、乙4)によれば、被告の代表者は、 昭和57年3月8日から平成10年2月18日まで原告の従業員であり(ただし昭和58年10月26日から昭和60年12月15日までを除く)、原告在職中は、 平成6年3月には福岡支店医薬専課主任となるなど、原告分包機を含む原告製品の営業を行い、自ら分包紙を巻き付けた本件考案実施品を販売し、本件考案実施品の回収に携わっていたと認められるので、被告は、少なくとも過失により本件考案実施品に対する原告の所有権を侵害したと認められる。 しかし、被告が本件考案実施品を100円で購入したからといって、直ちに、原告に同額の損害が生じたとは認められない。 そして、他に、原告の損害額を認めるに足る証拠はないから、結局、所有権侵害に基づく損害賠償請求は、認められない。 (5)弁護士費用について原告は本件訴訟の追行を弁護士に委任しているが、本件訴訟のうち本件実用新案権、その独占的通常実施権、及び本件意匠権の独占的通常実施権侵害に基づく請求に係る部分を追行するのに相当な弁護士費用は、金90万円と見るのが相当であるから、同額をもって上記各権利の侵害と相当因果関係のある損害額と認める。 4争点4(権利濫用)について被告は、権利濫用を主張するが、原告が、その有する本件実用新案権又はその独占的通常実施権及び本件意匠権の独占的通常実施権に基づき、被告に対し、本件請求を行うことは、正当な権利行使であり、何ら権利の濫用に該当するとは認められない。原告の請求が自らの市場の独占的地位を守る目的であったとしても、それは実用新案法や意匠法の予定するところである。 また、被告は、本件意匠権の独占的通常実施権に基づく請求に関し、原告が被告に対し、本件意匠権の独占的通常実施権侵害の可能性があることを警告しなかったことを権利濫用の根拠として主張する。しかし、本件意匠権の独占的通常実施権侵害に対する損害賠償請求に関し過失相殺が認められないのと同様、被告の主張する事実をもって、原告の本件意匠権の独占的通常実施権侵害に基づく請求が、権利濫用と評価することはできない。 したがって、被告の主張は採用することができない。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 安永武央 |