関連ワード | 技術的範囲 / 出願経過 / 禁反言 / 分割出願 / 実施料相当額 / 考案 / 図面 / 組合せ / 補正 / きわめて容易 / 拒絶理由 / 減縮 / 削除 / 実施例 / 公知技術 / 頒布 / 明細書 / 請求の範囲 / 利益額 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
24280号
不当利得請求事件
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原告A 原告B右両名訴訟代理人弁護士 木川 統一郎 同 石川明 同 岩月史郎 同 福田平 同 板垣範之 同 中川寛通 同 岩本勝彦 同 武川襄右訴訟復代理人弁護士 大久保 重信 被告 日本電信電話株式会社右代表者代表取締役 C右訴訟代理人弁護士 本間崇 同 牧野知彦右訴訟復代理人弁護士 田中成志 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2000/07/26 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告らの請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は、原告らに対し、金一二五億円及びこれに対する平成一一年一一月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、原告らが、被告に対し、テレホンカードを製造販売する被告の行為は原告らの有していた実用新案権(なお、後記本件実用新案権2については、仮保護の権利を含む。)の技術的範囲に属する製品を製造販売する行為であり、不当利得行為に当たるとして、不当利得の返還等を求めた事案である。 一 前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。) 1 原告らの権利 (一) 原告A(以下「原告A」という。)は、以下のとおりの実用新案権(以下「本件実用新案権1」、その出願を「本件原出願」、その考案を「本件考案1」という場合がある。)を有していた。なお、原告Aから訴外徳栄興産株式会社に持分二分の一が移転された旨登録がされている。 (1) 考案の名称 テレホンカード (2) 出願日 昭和五九年九月五日 (3) 登録日 平成七年四月二〇日 (4) 登録番号 第二〇五八一〇四号 (5) 実用新案登録請求の範囲 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、テレホンカード。 (二) 原告らは、以下のとおりの実用新案権(以下「本件実用新案権2」、 その出願を「本件分割出願」、その考案を「本件考案2」という場合がある。)を有していた。 なお、右は、本件原出願を分割したものである。 (1) 考案の名称 テレホンカード (2) 出願日 昭和五九年九月五日 (分割出願日 平成六年五月二四日) (3) 登録日 平成一二年三月一七日 (4) 登録番号 第二一五〇六〇三号 (5) 実用新案登録請求の範囲 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり、該指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており、且つ、該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際、目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。 2 各考案の構成要件 (一) 本件考案1を構成要件に分説すると、次のとおりである。 (1) 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、 (2) 該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、 (3) 該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、 (4) テレホンカード。 (二) 本件考案2を構成要件に分説すると、次のとおりである。 (1) 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、 (2) このカード本体の一部に、電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり、 (3) 該指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する二つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており、 (4) 且つ、該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際、目の不自由な者の指がふれる位置に配置されている (5) ことを特徴とするテレホンカード。 3 被告の行為 被告は、カード式の電話機に用いるため、4記載の構成を備えるカード式公衆電話機専用のテレホンカード(以下「被告物件」という。)を製造、販売している。 4 被告物件の構成 被告物件の構成は以下のとおりである。すなわち、カード式公衆電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードで、縦の辺が横の辺に比して短い長方形であって、表裏ともに一様に平坦で、その一短辺には、その中央から一側に偏った位置に、一つあるいは二つの半月状の切欠部が形成されており、この切欠部に手、指で触れることにより、カードの表裏及び差込方向の確認をすることができるもので、この内、使用度数が五〇度数のものは切欠部が二個あり、使用度数一〇五度数のものは切欠部が一個ある(甲五、枝番号は省略する。以下同じ)。 二 主要な争点 1 本件考案1(構成要件(3)の充足性)について (原告らの主張) 被告物件は、本件考案1の構成要件(3)を充足する。 (被告の反論) 被告物件における「切欠部」は、以下のとおりの理由から、本件考案1の構成要件(3)における「カード枠体を押圧して形成されたへこみ部」に該当しない。 本件考案1の出願当初明細書における実用新案登録請求の範囲には、「切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていた。ところが、その後、出願人は、明細書を全文訂正し、第1図、第2図及びそれらに関する一切の記載を明細書から削除し、その結果、実用新案登録請求の範囲の記載を「ーーーカード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とするーーー」とした。以上の出願経緯に照らすと、構成要件(3)における「カード枠体を押圧して形成されたへこみ部」は、「切欠部」を含まないものと解するのが相当である。 他方、被告物件は、カードの一端面の一部を打ち抜いて、半月状に切除して「切欠部」を形成したものであるから、「押圧して形成」したものとはいえない。したがって、被告物件は、本件考案1の構成要件(3)を充足しない。 2 本件考案2(構成要件(3)の充足性)について (原告らの主張) 被告物件は、本件考案2の構成要件(3)を充足する。 被告は、本件考案2が本件原出願からの分割出願であるから、本件考案2の技術的範囲を確定するに当たり、本件原出願の最初に添付した明細書(当初明細書)から削除した部分に係る技術を除外して解すべきであると主張するが、右主張は失当である。 すなわち、本件考案1の当初明細書の「実用新案登録請求の範囲」には「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或いは押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と記載され、これに対応する切欠部、穴部、押形部の指示部の図面が記載されていた。確かに、出願人が分割出願の過程で、本件考案2の「考案の詳細な説明欄」における「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の各補正をしたところ、右補正は実質上本件考案2の「実用新案登録請求の範囲」を拡張するものであるとして却下されたが(乙一〇)、分割出願における右各補正は、原出願である本件考案1の当初明細書及び図面に記載された考案の範囲内でされたものであるから、補正却下の審決は誤りである。被告物件は本件考案2の構成要件(3)を充足しないとする被告の主張は理由がない。 (被告の反論) 被告物件における「切欠部」は、以下のとおりの理由から、「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」という構成を具備しない。したがって、被告物件は、本件考案2の構成要件(3)を充足しない。 本件考案2は、本件原出願が公告された後に、本件原出願から分割出願されたものである。本件考案2の技術的範囲を確定するに当たっては、本件原出願の公告時の明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載、明細書のその他の記載及び図面を基準として、本件原出願の出願経緯をも考慮して、解釈すべきである。特に出願人が、原出願の出願過程で意識的に除外して減縮した部分を分割出願の過程で拡張した場合には、その部分は限定して解釈すべきことは当然である。 ところで、本件考案1の当初明細書における「実用新案登録請求の範囲」には、「切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていた。その後、出願人は、明細書を全文訂正し、第1図、第2図及びそれらに関する一切の記載を明細書から削除し、その結果、実用新案登録請求の範囲の記載を「ーーーカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるーーー」と補正した。右補正された結果、原出願について出願公告がされた。その後、平成六年五月二四日に至って、本件分割出願がされた。 したがって、原出願の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載から削除された「切欠部」は、本件考案1の技術的範囲から除外されていると解すべきであるから、本件考案2における構成要件(3)の解釈に当たって、「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」だ該指示部が「切欠部」を含むものと解釈する余地はない。すなわち、本件考案2の構成要件(3)における「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」の意義は、出願経過等に照らすならば、「カード本体の厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくぼみが形成された」と解すべきである。 そうすると、被告物件は、カードの一端面の一部を打ち抜いて、半月状に切除して「切欠部」を形成したものであるから、被告物件は本件考案2の構成要件(3)を充足しない。 3 不当利得の額 (原告らの主張) 被告は、被告物件を、本件各実用新案権の出願日である昭和五九年九月五日以降、年間二億枚以上製造、販売しており、その売上高は年間平均約一九〇〇億円を超える。 本件実用新案権1及び2の実施料相当額は、それぞれ売上高の三パーセントが相当であるので、被告は少なくとも年間五七億円を不当に利得していることになる。 原告らは、被告に対し、一〇年分の利益額金五七〇億円のうちの一部である金一二五億円について不当利得の返還を求める。 (被告の反論) 原告らの主張は争う。 |
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争点に対する判断
一 被告物件は本件考案1の技術的範囲に属するか。 被告物件が本件考案1の技術的範囲に属するか否かを判断するに当たり、まず、構成要件(3)の充足性について検討する。 1 構成要件(3)の解釈について (一) 本件考案1の実用新案登録請求の範囲の構成要件(3)に係る部分は、 「該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、」と記載されている。 右「カード枠体を押圧して形成され」る「へこみ部」の意義は、以下のとおりに解すべきである。 まず、「実用新案登録請求の範囲」欄の記載を、用語の通常の意味に即して解すると、「カード枠体を押圧して」「へこみ部」を「形成」するとは、カード状に切り取られたものを素材として、その一部に凹みを生ずるに足りる押圧を掛けることにより、へこみを有するように変形させることを意味することは明らかである。したがって、カード状に切り取られる前のシート状材料からカードを製造する際に、同時に辺の一部をも切り離すことによって、切欠部を備えたカードを製造することは含まないものと解される。 のみならず、本件考案1における出願当時の公知技術の状況、出願の客観的経緯及び出願人の陳述内容に照らすならば、「カード枠体を押圧して形成され」る「へこみ部」は、カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるために該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを除外していると解すべきであることは、より一層明らかである。 以下、出願の経緯について、補足して、詳細に述べる。 (二) 甲一及び二、乙一ないし八及び弁論の全趣旨によれば、本件考案1に係る出願経緯は、以下のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。 (1) 本件考案1の出願当初明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄には、 「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と記載され、「考案の詳細な説明」欄において、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていた。 (2) 右出願に対して、平成二年八月八日付けで、以下のとおりの拒絶理由通知が発せられた。すなわち、「この出願の考案は、その出願前国内において頒布された下記の刊行物に記載された考案に基いて、その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、きわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。」とされ、引用例として、「実願昭五六―四八三六八号(実開昭五七―一六一一三一号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム」が示された。 (3) 出願人は、平成二年一一月一三日、「意見書に代える手続補正書」を提出し、その中で明細書を全文訂正し、図面中、第1図、第2図を削除し、第3図とあるのを第1図と訂正した。その結果、訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載は、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」とされ、また、「考案の詳細な説明」欄において、第1図、第2図に関する記載が削除された。 (4) 右出願は、平成三年四月二日付けで、拒絶査定を受けた。なお、右拒絶査定謄本の備考欄で、「方向の指示のための表示を行う事は磁気カードの分野では従来周知の技術である(特開昭五五―四三六六九号公報参照)」と指摘された。 (5) これに対して、出願人は、平成三年五月二三日付け審判請求書を提出し、拒絶査定の取消を求めた。出願人は、その理由として、「本願考案は、ーーー特に『カードの差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード』を必須の要件としております。これに対し、上述の拒絶理由通知書において引用された実開昭五七―一六一一三一号および拒絶査定謄本において引用された上述の特開昭五五―四三六六九号公報のいずれにも本願考案の上述の必須要件、とりわけ、押形部について開示しておりません。これら引用例に記載された考案はいずれも磁気カードやキャッシカードに係るものであるのに対し、本願考案はテレホンカードに係るものであり、両者はその技術分野を全く異にします。ーーー又、本願考案の指示部は押形部から成っております。これは上述の引用例の切除部や矢印と違って、目の悪い人でも差込方向を容易に感知できるという利点を有します。」と述べた。 (6) 右出願について、平成五年六月二四日、実用新案登録出願公告がされ、その後、実用新案登録異議申立がされた。 出願人は、平成六年五月二四日、明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載を「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、テレホンカード。」と補正した。 さらに、出願人は、実用新案登録異議答弁書において、以下のとおり述べた。すなわち、 @ 「押形部がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る」という補正は、「押形部」という言葉の社会通念上の意味、即ち、押圧して形づくられた部分という意味並びに本願の図面の記載に照らし、「押形部」を更に明確に限定したものである。 A 甲第一号証(実開昭五七―一六一一三一号、以下「第一引用例」という。)には、磁気カードに切除部を設け、この切除部が切取線によりカードから切離しやすくするように構成されていることを開示しております。ーーー本願考案と甲第一号証(第一引用例)の考案とを比較すると、両者は磁気カードの電話機への挿入方向(裏返しあるいは上下返転)の正誤検出を目的とする点で共通しますが、本願考案がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る押形部の指示部をカード本体に設けたのに対し、甲第一号証(第一引用例)の指示部が切除部即ち、カード本体から切離してしまう部分としている点で両者は構成を全く異にします。 B 甲第二号証(実開昭五五―二三五七四号公報、以下「第二引用例」という。)ではカセットテープ用ケースの片面に突起体又は凹部を設けてケースの表裏識別を可能ならしめており、これら突起体や凹部をインジェクションモールドや熱を加えて形成することが開示されております。従って、この甲第二号証(第二引用例)には、本願考案におけるカード本体の一部を押圧してへこませた押形部の構成を全く開示されてなく、又この本願考案における押形部の構成は甲第二号証(第二引用例)に記載されたカセットテープ用ケースの凹部又は突起体と全く異なります。ーーー上述から、甲第一号証の考案(第一引用例)と甲第二号証の考案(第二引用例)とを組み合わせた考案(以下組合せ考案という)は、甲第一号証(第一引用例)の切除部に替えて、甲第一号証(第一引用例)の磁気カードに、甲第二号証(第二引用例)の凹部等をインジェクションモールドや熱により形成するということになります。してみれば、本願考案は、テレホンカードの一部に、このカード本体の一部を押圧してへこませた押形部を設けたものであって、上述の組合せ考案とはその構成を全く異にすることになります。 (7) 本件考案1は、右のとおりの手続を経て、平成七年四月二〇日、実用新案登録がされた。 (三) 右認定した本件考案1の出願の経緯に照らすと、「実用新案登録請求の範囲」の構成要件(3)に係る部分は、以下のとおり、カード表面から押圧を掛けて、へこみを有するように変形させて、「へこみ部」を形成するものに限定され、 カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるため、 該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを含まないと解すべきであるのは明らかである。すなわち、 (1) 出願当初明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄には、「切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され、「考案の詳細な説明」欄には、実施例として、切欠部のある例が第1図に、穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていたにもかかわらず、その後、出願人は、明細書の全文を訂正し、「実用新案登録請求の範囲」欄から「切欠部」「穴部」の記載を削除し、「押形部」の記載のみを残し、「考案の詳細な説明」欄から第1図、第2図及びそれらに関する一切の記載を削除し、第3図に関する記載のみ残した。右「押形部」を削除された「穴部」と対比すると、前者は、カード表面から押圧を掛けて、へこみを設けるものであるの対し、後者は、カード平面の一部に貫通孔を設けるものである点で、相違することが明らかである。 (2) また、出願人は、実用新案登録異議答弁書の中で、@本件考案1は、 「カード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る押形部の指示部をカード本体に設けている」点で、「カード本体から切離してしまう指示部を設けている」第一引用例とは構成を異にする旨を、また、A本件考案1は、「このカード本体の一部を押圧してへこませた押形部を設けている点」において、「インジェクションモールドや熱により凹部を形成している第二引用例」と構成を異にする旨を、 それぞれ述べている。 2 被告物件の構成及び構成要件(3)との対比 被告物件は、表裏ともに一様に平坦で、その一短辺には、その中央から一側に偏った位置に、一つあるいは二つの半月状に形成される「切欠部」を備えており、「切欠部」は、製造工程上、カード状に切り離される際、同時に切り離されて形成されたものであると認められる(弁論の全趣旨)。 他方、本件考案1の構成要件(3)は、前記のとおり、カード表面から押圧を掛けて、へこみを有するように変形させて、「へこみ部」を形成するものに限定され、カード本体から、辺の一部を切り離したり、あるいは貫通した穴部を設けるため、該当部を切り落とすように、カード本体からその一部を欠落させるものを含まないと解すべきである。 したがって、被告物件は、本件考案1の構成要件(3)を充足しない。 二 被告物件は本件考案2の技術的範囲に属するか。 1 構成要件(3)の解釈について (一) 本件考案2の実用新案登録請求の範囲の構成要件(3)に係る部分は、 「該指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する二つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており、」と記載されている。 本件考案2は、本件原出願が公告された後に、本件原出願を親出願として、分割出願されたものである。そこで、右記載部分の意義を確定するに当たり、 本件原出願及び本件分割出願の経緯を検討することにする。 甲一ないし三、六及び七、乙九ないし一一並びに弁論の全趣旨によれば、本件原出願がされてから本件実用新案権2が登録されるまでの手続の経緯は、 以下のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。 (1) 本件実用新案権1に係る原出願から登録に至るまでの経緯は、一、 1、(二)の(1)ないし(7)記載のとおりである。 (2) 平成六年五月二四日、本件原出願を親出願として、本件考案2に係る分割出願がされた(実願平六ー五六七五号)。 平成八年二月二一日、本件考案2に係る出願公告がされた(実公平八ー五八二七号)。右「実用新案登録請求の範囲」は、第二、一(前提となる事実)、1(原告らの権利)、(二)記載のとおりである。 (3) 右出願公告後の平成八年五月一七日、右出願公告に対し、被告らから異議申立がされ、平成九年一二月二五日、右異議申立について「異議理由あり」とする異議決定がされ、平成九年一二月二五日、本件分割出願に対する拒絶査定がされた。次いで、平成一〇年二月一二日、右拒絶査定に対する不服審判が請求され(審判平一〇ー二四一九号)、平成一一年一〇月一四日、本件分割出願に対する拒絶理由通知がされた。 (4) その後、平成一一年一〇月二八日、原告らから、以下のとおり、右拒絶理由通知に対する手続補正書及び意見書が提出された。 右手続補正書において、図面につき図3ないし図6を追加し、指示部として「穴」(図3)、「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図4)、 「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加し、「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正がされた。なお、「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)の例は、平成一一年一二月六日付手続補正書で削除された。 また、右意見書において、「『カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる』の文言中の『内方向』の意は、図1に示すような平面図におけるカード本体の内方向、つまり平面的なカードの中心方向を意味する場合と、 テレホンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合とが考えられます。このため、上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合を明瞭にするために手続補正書で図2及び図3を補充し、平面的なカードの中心方向を意味する場合を明瞭にするために図4乃至図6を補充致しました。」と述べられている。 (5) 平成一二年一月二六日、右手続補正書と他の補正書に対し、補正の却下の決定がされ、右同日、「原査定を取り消す。本願の考案は、実用新案登録すべきものとする。」との審決がされた。 なお、補正却下の決定によれば、本件考案2における「押形部」は「材料に押し型によって圧力を加えて成形した形状部」を意味し、「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる指示部」の形状に穴形状及び切欠形状を含むものとする補正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものであるから許されないとされている。 (二) 右認定した本件原出願及び本件分割出願の経緯に照らすと、本件考案2の構成要件(3)における「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」だ「該指示部」の意義は、「テレホンカードを側面からみて上下面から厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくぼんだ形状を有する指示部」に限定され、「カードを平面方向からみて中心方向にくぼんだ形状を形成した切欠部」やあるいは「カード本体に貫通して形成した穴部」を含まないと解すべきであることは明らかである。 このように解した理由は、以下のとおりである。 (1) 本件考案2は、前記のとおり、本件原出願に係る当初明細書が補正され、出願公告(実願昭五九ー一三四六一一号)がされた後に、本件原出願から分割出願されたものである。このように原出願に係る当初明細書が分割出願前に補正され、出願公告されている場合には、分割出願に係る考案は、原出願に係る当初明細書及び補正後の公告明細書の双方に記載されている考案であることを要するものというべきである。したがって、分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」を確定する場合においても、原出願の過程を考慮して解釈すべきことは当然である。特に、原出願に係る当初明細書及び図面から、出願人が、補正によって、意識的に、 一部を削除した場合には、分割出願に当たって、既に削除した事項に含まれる考案を拡張することは許されないので、分割出願に係る「実用新案登録請求の範囲」の確定に当たっても、右の趣旨に沿った解釈をすべきことになる。 (2) 本件考案1の当初明細書における「実用新案登録請求の範囲」欄には、「切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部」と記載され、「考案の詳細な説明」欄には、実施例として、切欠部のある例が第1図に、 穴部のある例が第2図に、押形部のある例が第3図に、それぞれ示されていたにもかかわらず、その後、出願人は、明細書の全文を訂正し、「実用新案請求の請求の範囲」欄から「切欠部」「穴部」の記載を削除して、「押形部」の記載のみを残し、「考案の詳細な説明」欄から第1図、第2図及びそれらに関する一切の記載を削除し、第3図に関する記載のみを残した。右補正がされたことにより、右実用新案登録請求の範囲の記載のとおり、実用新案登録出願公告がされた。 したがって、「切欠部、穴部からなる表裏並びに差込方向の指示部」は、本件考案1の出願公告前に補正により削除された以上、出願公告後の分割出願に当たって、一旦削除した事項を拡張することは許されないから、本件考案2に係る「実用新案登録請求の範囲」も、右の趣旨に沿って、右削除した事項を除外して解釈すべきことになる。そうすると、構成要件(3)における「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん」だ「該指示部」には、前記のとおり「切欠部」及び「穴部」を含む余地はないことになる。 この点につき、原告らは、分割出願に係る考案は、出願公告前に補正によって削除された考案であっても、原出願に係る当初明細書及び図面に開示されていたものについては許される旨主張するが、右主張は前提において採用できない。また、原告らが構成要件(3)の意義について、「切欠部、穴部からなる表裏並びに差込方向の指示部」を含めて解釈すべきである旨主張することは、本件原出願の手続過程において、拒絶理由を回避するために、意識的に「カード本体の一部に形成した切欠部」等の事項に係る考案を除外したことと相反することになり、包袋禁反言の法理からも許されない。 (3) なお、前記認定のとおり、原告らは、平成一一年一〇月二八日付手続補正書において、図面の図3〜図6を追加して、指示部として「穴」(図3)、 「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図4)、「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加し、「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正をしたところ、右手続補正は、平成一二年一月二六日付の補正の却下の決定により、「実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものである。」として却下されているが、右却下決定の趣旨も、前記解釈と合致するものといえる。 2 被告物件の構成と構成要件(3)との対比 被告物件は、表裏ともに一様に平坦で、その一短辺には、その中央から一側に偏った位置に、一つあるいは二つの半月状に形成される「切欠部」を備えており、右「切欠部」は、カード本体から辺の一部が切り離されたことにより、カードを平面的にみて中心方向にくぼみが形成される形状を有している。他方、前記のとおり、本件考案2の構成要件(3)は、「テレホンカードを側面から見て上下面から厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくぼんだ形状を有する指示部」を指し、カードを平面的にみて中心方向にくぼみが形成される切欠部を設けるものを含まない。 したがって、被告物件は、本件考案2の構成要件(3)を充足しない。 三 以上のとおり、原告らの本件請求は、いずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 八木貴美子 |
裁判官 | 石村智 |