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関連審決 審判1996-5735
関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  実施許諾 /  損害額 /  逸失利益 /  実施料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  実施許諾(実施の許諾) /  通常実施権 /  専用実施権 /  独占的通常実施権 /  減縮 /  削除 /  容易に想到 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
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事件 平成 11年 (ネ) 2603号 損害賠償等請求控訴,同附帯控訴事件
平成 11年 (ネ) 3860号 損害賠償等請求控訴,同附帯控訴事件
控訴人、附帯被控訴人(一審被告) 株式会社 コバヤシ右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 藤山利行
同 伊藤真右補佐人弁理士 峯唯夫
被控訴人、附帯控訴人(一審原告) 【B】
同 株式会社ハイパックシステム 右代表者代表取締役 【B】 右両名訴訟代理人弁護士 松本司
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2000/12/22
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴及び附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告は、一審原告【B】に対し、金三四九〇万二八四〇円及びこれに対する平成七年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 一審被告は、一審原告株式会社ハイパックシステムに対し、金五三九四万九四二〇円及び内金二三一五万六七〇〇円に対する平成五年一月一日から、内金二四〇七万七七六〇円に対する平成六年一月一日から、内金六七一万四九六〇円に対する平成六年四月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 一審原告株式会社ハイパックシステムのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じ、一審原告【B】に生じた費用は、一審被告の負担とし、一審原告株式会社ハイパックシステムに生じた費用の五分の一及び一審被告に生じた費用の四分の三を一審被告の負担とし、一審原告株式会社ハイパックシステム及び一審被告に生じたその余の費用を一審原告株式会社ハイパックシステムの負担とする。
三 この判決は、第一項1、2に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 一審被告 1(控訴について) 原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。
一審原告らの請求を棄却する。
2(附帯控訴について) 一審原告らの附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。
二 一審原告ら 1(控訴について) 一審被告の控訴を棄却する。
2(附帯控訴について) 原判決を次のとおり変更する。
(一) 一審被告は、一審原告【B】に対し、金三四九〇万二八四〇円及びこれに対する平成七年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 一審被告は、一審原告株式会社ハイパックシステムに対して、金一億五九四七万九九三九円及び内金七三六三万八三〇六円については平成五年一月一日から、内金七一二七万〇一七〇円については平成六年一月一日から、内金一四五七万一四六三円については平成六年四月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用(控訴費用を含む)は、第一、二審とも一審被告の負担とする。
4 仮執行宣言 (以下、一審原告【B】を「原告【B】」、一審原告株式会社ハイパックシステムを「原告会社」と、一審被告を「被告」という。また、略称については原判決のそれによる。)
事案の概要
一 本件は、原告らが、被告に対し、被告が製造販売するトレーが、原告【B】の実用新案権の考案技術的範囲に属するとして、@ 原告【B】が、実用新案権に基づく不当利得返還請求として、平成元年四月一日から平成三年一二月三一日までの間の被告トレーの製造・販売に対する実施料相当額三四九〇万二八四〇円と平成九年一月二四日以降の遅延損害金の支払を求め、A 原告会社が、本件実用新案権の独占的通常実施権に対する不法行為に基づく損害賠償請求として、平成四年一月一日から平成六年四月一一日までの間の被告トレーの製造・販売による損害金四億円及び平成九年一月二四日以降の遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は、原告【B】の請求を全部認容し、原告会社の請求を七九六三万四七九七円及び平成九年一月二四日以降の遅延損害金の限度でそれぞれ認容したところ、前記第一のとおり、被告が控訴を提起し、これに対し、原告らは、附帯控訴を提起するとともに訴えを変更し、遅延損害金の起算日を遡らせて遅延損害金に関する請求を拡張し、さらに、原告会社は、その後、訴えを変更することにより、損害金の元金についてもその不服の範囲を拡張した。
二 前提となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。) 1 原告【B】の実用新案権 原告【B】は、次の実用新案権(本件実用新案権)を有していた(存続期間満了日平成六年四月一一日)。
(一) 考案の名称 包装用トレー (二) 出願日 昭和五四年四月一一日(実願昭五四ー四八八六六号) (三) 公告日 昭和六二年四月一七日(実公昭六二ー一五一五五号) (四) 登録日 昭和六二年一二月二一日 (五) 登録番号 第一七一二三二〇号 (六) 実用新案登録請求の範囲 本件実用新案権の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の実用新案登録請求の範囲の記載は、原判決添付の実用新案公報(本件公報)中の「実用新案登録請求の範囲」欄記載のとおりである。
2 本件考案の構成要件の分説 本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A(1) 被包装物を盛付けしたトレーの上面にストレッチフィルムをオーバーラップして糊付面に接着させたのち (2) トレーの周囲上縁の近傍でフィルムを切断して (3) 包装体を形成するために使用するトレーであって、
B(1) 平坦な底板と、
(2) 上記底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、
(3) 上記周壁の上部外側面全周に形成された略垂直な接着剤塗布面とを具備し、
C 上記トレーの接着剤塗布面を、多数個のトレーを重ね合わせたとき、各トレーの接着剤塗布面が露呈して連続した略垂直な面として柱状を呈する如く形成したことを特徴とする D 包装用トレー 3 被告の行為 被告は、平成元年四月一日から平成六年四月一一日までの間、ほんしめじ用の包装用トレー(被告トレー)を製造・販売していた。
4 被告トレーと本件考案の関係 被告トレーは、本件考案の構成要件A、B(2)及びDを充足する。
三 争 点 1 被告トレーの特定 2 被告トレーは本件考案の構成要件B(1)、(3)及びCを充足するか。
3 原告らは、被告に対し、被告トレーの製造・販売を承認したか。また、被告に過失があるか。
4 原告会社は、本件実用新案権について独占的通常実施権を有しており、被告に対し、本件実用権侵害について損害賠償を請求し得る地位にあるか。
5 被告トレーの製造・販売が本件実用新案権を侵害する場合に、原告らが被告に対して支払を求め得る金員の額。
四 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は、後記五を付加するほか、原判決九頁二行目から三六頁九行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正等) 1 原判決二七頁三行目の「主位的請求」を「主位的主張」に、同三〇頁六行目及び三二頁六行目の各「予備的請求」を「予備的主張」に改める。
2 同二九頁一行目から三〇頁五行目までを削る(この部分を後記五2【原告らの主張】(一)のとおり改める。)。
3 原判決別表1を本判決別表1のとおり改める(原判決別表1の<30>、<31>、<33>、<35>の各数値が当審で訂正されたことによるが、これにより、原判決別表1の<36>、<37>、<39>ないし<41>の数値が変動する。なお、原判決別表1の平成六年四月から平成七年三月欄の@、A、C、D、N、O、Q、Rの数値については、証拠関係からみると違算又は誤記と思われるが、これらについてはそのままとする。他の明らかな違算については適宜訂正するが、四捨五入等による若干の違いが生じる。)。
五 当審における当事者の主張の要旨 1 争点2について 【被告の主張】 (一) 特許庁は、平成八年審判第五七三五号における審決において、「本案考案の『略垂直な面』は設計誤差、型成形であることによる等の、実際の製作に当たって避けられない誤差範囲を限界にして実質上垂直な面を意味するものと解するのが相当」と説示し、この限りにおいて要旨の変更にならないと判断しているのであるから(乙31)、原判決のように、構成要件Cにおける「各トレーの接着剤塗布面が露呈して連続して略垂直な面として柱状を呈する」を、多数個の重ね合わせたトレー群に対し、外側面の接着剤塗布面のみに一斉、均等かつ容易に接着剤を塗布できる程度に接着剤塗布面が露呈・連続している状態であれば足り、それに支障がない程度の隙間や凹凸が存在することを許容するものであると解し、また、構成要件B(3)の「略垂直な接着剤塗布面」を、トレーを重ね合わせたときに、右のようにして接着剤を塗布することが可能な程度に垂直に近い接着剤塗布面を意味するものと解することは許されない。
(二) 本件考案の出願前に公知であった特開昭五〇ー二六六八六号公報及び、特開昭五〇ー六五三八一号公報によると、垂直な外側面の上部を接着面とする技術が公開されており、本件実用新案は進歩性を有せず、本件実用新案登録は無効事由を有する。
したがって、本件請求は権利の濫用というべきであり、仮に、右事由が無効原因とならないまでも、その技術的範囲は極めて限定的に解釈されなければならない。
【原告らの反論】 審決(乙31)も「略垂直」とは「感熱接着剤の一斉、均等、容易な塗布に特段の支障がない」ような「接着面の重ね合わせ面に著しい段差」を生じない「実質的に垂直」な範囲を含むとしているのであるから、原判決の判断と矛盾するものではないが、仮に、右審決と原判決との判断が異なるとしても、原審も要旨変更か否かの認定の権限を有し、侵害訴訟において該考案技術的範囲の解釈は侵害訴訟の裁判所の判断が優先する。
しかも、右審決において、要旨変更か否かは、無効か否かの判断の前提問題であり、本件考案技術的範囲は、右要旨変更か否かの判断の前提問題である。
そのような前提問題についての判断に、侵害訴訟の裁判所が拘束される理由はない。
2 争点5について 【原告らの主張】 (一)(原告会社の主位的請求における損害の算定について=前記四1で削除した部分の補正) 製造間接費については、その内容が明確ではなく、本件侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費とはいえず、これを売上額から控除すべきではない。そして、他の経費が、原判決別表3(原判決で認定された経費)のとおりであるとすると、平均単位費用は三・一二二円となり、損害は、本判決別表5のとおり、一億五九四七万九九三九円となる(なお、原告らの主張によると、平成四年四月から平成四年九月の糊付けの伊那工場における加工費は八九二万九七〇八円となるべきであり〔平成一二年五月一〇日付訴の変更申立書添付の別表1の修正左欄の21の数値一四八九万〇七六三円とあるのは八九二万九七〇八円となるべきである。〕、平均単位費用は三・〇六二円となり、原告らの主張すべき損害額は一億七五六〇万〇二〇四円となるべきである。)。
よって、被告は、原告会社に対して、右損害金一億五九四七万九九三九円及び 内金七三六三万八三〇六円(平成四年度の損害)については平成五年一月一日から、
内金七一二七万〇一七〇円(平成五年度の損害)については平成六年一月一日から、
内金一四五七万一四六三円(平成六年度の平成六年四月一一日までの損害)については平成六年四月一二日から、
各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(右は、請求の原因の変更を伴い、当初の請求額〔四億円〕より減縮されているから、請求の減縮である一方、減縮された請求額は、原審での認容額を超えるものであるから、附帯控訴による不服申立ての範囲の拡張でもある。)。
(二) 仮に、製造間接費のうち、経費として控除すべきものがあったとしても、その額は、直接作業労務費とほぼ同額で、あまりに多額というべきであり、内容も明確ではなく、信用できない。
【被告の主張】 侵害会社も被侵害会社も、会社全体を維持、管理していくためには一定の狭義の一般管理費の支出が必要になるが、その額は、ある程度売上額や利益額に比例する。すなわち、売上額・利益額が減少すれば、会社としての利益率を維持するため、それに応じて狭義の一般管理費の支出も削減される。他方、売上増になれば、生産に要する社員なども増加し、それらを管理する人員も増やさなければならなくなる。また、利益が増加すれば、それを社員にも還元すべく福利厚生費なども含め狭義の一般管理費の支出も増加する。
したがって、「直接的には侵害品の生産数量に応じて増加する性質を有しない」という理由から、純利益の計算においてこの狭義の一般管理費を控除しないとすると、会社は、後日の侵害訴訟の結果によって、侵害商品以外の生産・販売額のみでこの狭義の一般管理費部分を負担しなければならなくなり、結果として他の商品における利益率を著しく減少させ、場合によっては赤字に転落することになる。
これでは、まさに侵害行為者に対し制裁的な賠償を課することになってしまう。
これを費用別にみると、以下のとおりである。
(一) 労務費 生産量が増大すると、ロス時間が増大し、それに要する労務費も増大することになる。
(二) 工場長の労務費 長野コバヤシ工場の工場長は、管理業務だけでなく、現場で直接生産に携わっていた。しかも、工場長が主に従事していた作業は、被告トレーの製造作業である。しかも、工場長の給与は残業手当がでる給与体系であり、工場長の労務費は一般職員の労務費と同様、生産量の増大に伴い変動する経費であるから、経費として控除されるべきである。 (三) 諸経費 長野コバヤシ工場においては、第四一期ころから、被告トレーの生産量が増大し、数量においては全体の九五パーセントであり、成形と糊付けを併せた被告トレー関連の加工金額は約六八パーセントである。
したがって、同工場における被告トレーの生産量の割合は高く、諸経費の相当な部分は、被告トレーの生産のために投下されており、諸経費は、被告トレーの製造に係る経費として計上されるべきである。
なお、第四一期は、第三九期と比較して、諸経費において、約三〇〇〇万円から約五〇〇〇万円に増加し、被告トレーの生産数量は、約六五〇〇万枚から約一億一六〇〇万枚に増加し、逆に他の製品の生産量は約一五〇〇万枚から六四〇万枚に半減している。このことからも、諸経費を経費として控除すべきといえる。
当裁判所の判断
一 争点1(被告トレーの特定)について 当裁判所も、被告トレーの接着剤塗布面11aの傾斜角度は「約二・四度外側に傾斜した金型によって製造され、短縁中央付近においては約二・八度、隅部においては約〇・八度、長縁中央部においては約六・六度外側に傾斜した」とするべきであると考える(原判決別紙物件目録二1の傍線部分であり、その他については、
同目録記載のとおりであることについて当事者間に争いがない。)。その理由は、
原判決三七頁一行目から四一頁四行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
二 争点2(被告トレーは本件考案の構成要件B(1)、(3)及びCを充足するか)について 1 当裁判所も、被告トレーが本件考案の構成要件B(1)、(3)及びCを充足すると考える。その理由は、後記2、3を付加するほか、原判決四一頁七行目から五九頁二行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正等) (一) 原判決五三頁一〇行目の二カ所に「のB」とあるのをいずれも「のA」と改める。
(二) 原判決五五頁四行目の二カ所に「のB」とあるのをいずれも「のA」と改める。
(三) 原判決五五頁一〇行目の「(五)」を「(六)」に、五七頁末行の「3」を「2」に、五九頁二行目の「4」を「3」に各改める。
2 被告は、登録無効審判事件において、審決が「本案考案の『略垂直な面』は設計誤差、型成形であることによる等の、実際の製作に当たって避けられない誤差範囲を限界にして実質上垂直な面を意味するものと解するのが相当」と説示されたのであることを理由として、「略垂直な面」を原判決のように解釈することは、
要旨の変更となるから許されないと主張する。
しかし、本件訴訟において、本件考案技術的範囲を認定するに当たり、
右審判の理由中の判断に直接拘束されることはないというべきところ、本件考案技術的範囲については、前記引用した原判決四九頁七行目から同五一頁六行目までに記載されたとおりであり、要旨変更の有無については原判決五三頁七行目から五五頁八行目までに記載されたとおりであるから、被告の右主張は採用できない。
なお、被告は、検甲9、甲10の実験結果(九個だけを重ねたトレーに対し、実験用のローラーで手作業で、接着剤を塗布することができたというもの)について、注意深く手作業で塗布することによって塗布が可能であったからといって、構成要件中の「略垂直」に該当するとはいえず、五〇枚程度のトレーを重ねた状態で、迅速に十分な塗布ができるか否かが重要であると主張する。
しかし、被告が指摘するような条件下でも、ローラーによる接着剤の塗布が不可能であるとは考え難く、それが不可能であるとの実験結果も提出されていないのであるから、被告の反論には理由がない。
3 また、被告は、本件考案の出願前に公知であった特開昭五〇ー二六六八六号公報及び、特開昭五〇ー六五三八一号公報によると、垂直な外側面の上部を接着面とする技術が公開されており、本件実用新案は進歩性を有せず、本件実用新案登録は無効事由を有すると主張するが、いずれの引用例にも、本件考案の「上記周壁(すなわち、トレーの平坦な底板の周囲から上方へ拡張傾斜して一体に延長された周壁)の上部外側全周に形成された略垂直な接着剤塗布面を具備」するという点は記載されておらず、また、右の点が、右の引用例から当業者がきわめて容易に想到できるものとも認められない(乙九四)。したがって、本件考案が無効事由を有するとの被告の主張は理由がなく、また、被告の主張するように、本件考案技術的範囲を必要以上に狭く解する必要もないと考える。
三 争点3(被告トレーの製造・販売の承認等)について 1 当裁判所も、原告らが、被告に対し実施許諾をした事実を認めることはできず、被告には許諾を得たと信じて侵害行為を行うことについて少なくとも過失があったと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決五九頁五行目から六五頁五行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決六〇頁一行目の「担当して製造し」を「して」と、同二行目の「製造全部を行って」を「糊付けを含めて製造し」と各改める。)。
2 被告は、農業資材の製造販売業者にとって、経済連の意向は「絶対」といっていいほどの強い力を有していると主張するが、これにより過失の判断が覆るものとは考えられないし、原告らの許諾を推認させる事情にもならない。
四 争点4(原告会社の独占的通常実施権の有無等)について 当裁判所も、原告会社は、原告【B】から独占的通常実施権の設定を受けていたと認めることができ、そして、本件実用新案権の独占的通常実施権を有している者は、本件実用新案権の侵害を行った者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使できると解する。その理由は、原判決六五頁九行目から六八頁九行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する。
五 争点5(不当利得及び損害の額)のうち、原告【B】が請求し得る不当利得の額について 当裁判所も、原告【B】が返還を求めることのできる不当利得の金額は、金三四九〇万二八四〇円であると認める。その理由は、原判決六九頁二行目から七一頁六行目までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決七〇頁八行目の「されていること」を「解するべきであること」と改め、七一頁一行目の「被告主張の」の前に「被告トレーの製造が長野経済連の要請に基づくものであるという」を加える。) 六 争点5(不当利得及び損害の額)のうち、原告会社が請求し得る損害額について 1 実用新案法29条1項ないし三項の類推適用 前記四のとおり、原告会社は、本件実用新案権の独占的通常実施権者であり、本件実用新案権の実施による市場利益を独占し得る地位にある点で、専用実施権者と変わるところはないから、実用新案法29条1項、二項の類推適用があるものと解する。
また、実用新案法29条3項は、実施料の不当利得を求めるものではなく、最小限の損害額を推定するものであること、原告会社は、無償で本件実用新案権の独占的通常実施権の設定を受けていたと認められること(弁論の全趣旨)に照らすと、同条三項についても類推適用があると解すべきである。
2 主位的主張(実用新案法29条2項による損害の算定)について (一) 被告の販売量及び販売価格について(原審と同じ) 甲12によれば、平成四年一月一日から平成六年四月一一日までの各時期の被告トレーの販売量、販売額及び平均販売単価は、次のとおりであると認められる。これに反する乙30の記載は採用しない。
(1) 平成四年一月一日から同年一二月三一日まで 一億一五七八万三五〇〇枚 四億三五〇九万六〇六〇円 三・七五八円 (2) 平成五年一月一日から同年一二月三一日まで 一億二〇三八万八八〇〇枚 四億四七一四万四二〇一円 三・七一四円 (3) 平成六年一月一日から同年四月一一日まで 三三五七万四八〇〇枚 一億一九三八万八二七六円 三・五五六円 (4) 合 計 二億六九七四万七一〇〇枚 一〇億〇一六二万八五三七円 三・七一三円 (二) 被告が右販売によって得た利益の額を算定するに当たって、控除すべき費用額について (1) 実用新案法29条2項は、侵害行為を行った者が当該行為により受けた利益の額をもって権利者等の損害の額と推定する旨規定しているところ、この規定は、実用新案権が侵害された場合に権利者が侵害行為と損害との因果関係を立証することが一般に困難であることに鑑みて設けられたものであるが、さらに逸失利益の立証の容易化を図る趣旨で、平成一〇年の実用新案法の改正により、同条一項として、侵害者の譲渡した侵害品の数量に権利者が侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を損害の額とすることができる旨の規定が新設されたものである。これらの規定の趣旨を総合して考えると、同条二項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から侵害者において当該侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費を控除した額であると解するのが相当である。
(2) 被告が支出した経費の算定 被告は、被告が被告トレーの製造販売を行うに当たって要した費用の額は、本判決別表1記載のとおりであると主張するところ、乙33ないし乙62及び弁論の全趣旨によると、本判決別表3記載の各数値のとおり被告が支出したことを認めることができる(なお、平成六年四月から平成七年三月欄の<32>の数値については、これを直接認め得る証拠は見当たらないが、原告らは右数字を争っているわけではないから、弁論の全趣旨によりこれを認める。)。
原告らは、原告会社自身の費用との比較等により、これらの数値自体(特に人件費)の信用性を否定するが、後記のとおり原告ら主張の原告会社の利益額が採用し難いこと、乙21と乙87によれば、被告が従業員二五〇名を擁する組織の整った企業であるのに対し、原告会社は正社員わずか三名の家族的企業であると認められ、経費率において大きな相違が生じるのが通常であると考えられることからすると、被告の提出した資料(乙33ないし乙62)に記載された右数値の信用性を否定することはできない。
また、被告による費用の開示は平成四年四月から九月までと平成六年の時期のものしかなく、しかも平成六年は本件の請求期間でない期間を多く含むものであるが、本件においては、原告会社の請求期間が平成四年一月一日から平成六年四月一一日までであることを考慮すると、被告によって開示された平成四年四月から九月までと平成六年三月から平成七年四月までの数値の平均値を採用すれば、
なお、請求期間を通じた平均値の近似値として損害額算定の基礎として使用することが可能であるというべきである。
(3) そこで、控除すべき経費額を検討するに、本判決別表3記載のとおり控除すべきであると考える。すなわち、
ア 実質的に争いのない経費 当裁判所も、本判決別表3記載のI、M、<28>、<29>の各費用については、これを経費として売上額から控除すべきものと考えるが、その金額については、乙35ないし45、48ないし58及び弁論の全趣旨により、右別表記載のとおりであると認めることができる。
イ 加工単価中直接労務費(@ないしB、NないしP)について 成型工程及び糊付け工程(伊那工場分)における直接作業労務費については、工場においてトレーの製造作業を行うのに直接要する労務費であり、これを控除の対象とすべきことは明らかである。
なお、原告会社は、直接労務費について、時給が高すぎるなどと主張し、その数値を争うが、これを否定するに足る証拠はない。
ウ 加工単価中製造間接費(CないしE、QないしS)について 被告の主張によれば、製造間接費の中には、a 工場において、準備、故障の修繕、ミーティング、後作業等の、直接製造に携わった時間以外のために要する労務費、b 直接の製造作業には携わらない工場長の労務費、c 工場における旅費交通費、発送配達費、修繕費、水道光熱費、消耗品費等の製造に係る諸経費であって、個別製品の経費としての計上が困難なもの、の三種類のものが含まれるということである。
このうち、a及びcについては、被告において被告トレーを追加的に製造するに当たって発生する費用であると考えられるから、これらは控除の対象とすべきであるが、bについては、被告においても、トレーの増産によって増加する経費とは考え難い。したがって、bについては、これを控除すべき経費と認めることはできない。
もっとも、本判決別表1中の製造間接費中、右bに相応する金額は判然としないが、費目の性質からしてそれらの三分の一を上回ることはないと考えられるから、製造間接費としては、本判決別表1の額の三分の二に相当する額を控除するにとどめるのが相当である。
エ 製造間接費についての双方の主張について 原告会社は、被告主張の製造間接費の額があまりに多額であり、その内容も明確でなく信用できないと主張するが、右のとおりの費用を要したと認められることは前記(2)のとおりであって、これを左右するに足る証拠はない(乙33の製品製造原価計算書のフォームの項目を見ても、右の認定と矛盾するものは見当たらない。)。
なお、原告会社は、原判決が、工場長の労務費を経費とは考えがたいとしながら、それが製造間接費の三分の一を上回ることはないとして、製造間接費のうち三分の二に相当する額を控除したことを批判しているが、原判決は、製造間接費のうち、被告トレー製造に関係する費用を算出した上、工場長の労務費はそのうちの三分の一を超えることはないと認定して、控除対象額から除外しているのであるから、原告会社の批判は当たらない。
これに対して、被告は、工場長の労務費につき、右ウのa、cと同様に控除すべきであると主張する。
たしかに、乙98ないし・によると、被告の長野コバヤシ工場の工場長は、実作業にも従事し、残業手当が出る給与体系であったことが認められ、当時、被告トレーの生産量が増大し、他の製品の生産量が減少していることに照らすと、工場長の労務費の全額につき、被告トレーの製造に必要であった諸経費と関係がないということはできず、これについても一定程度控除するのが相当とも考えられる。しかし、前記認定の限度で製造間接費を控除した場合でも、後記(三)及び4のとおり、主位的主張で推定される損害額は予備的主張2の損害額を下回ることとなるから、主位的主張における損害額を求めるため、これ以上、工場長の労務費のうちの控除割合について詮索する必要はない。
オ 営業経費(<30>ないし<35>)について 営業経費については、乙82及び乙83によれば、被告トレーにも農家から品質上の問題点が指摘され、その改善のための協議を要したことが認められ、
このように被告が被告トレーの販売をするに当たって営業経費が必要となったことは認めることができる。そして、乙21及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張する営業経費は、被告の農業資材事業部のうちの販売部において被告トレーを担当する農業資材二課の全経費を、同課の所管する商品別売上高の割合に基づいて按分したものであり、純粋の管理部門である管理部(ここには経理課、人事課及び電算課が置かれている。)に要する経費は入っていないと認められるから、被告主張の営業経費は、それなりに合理的なものと考えられる。
したがって、営業経費についても、控除の対象とすべきであり、乙96によると、本判決別表3のとおりの経費を控除することとなる。
(4) まとめ 以上の検討に従い控除すべき経費をまとめると、本判決別表3のとおりとなる。そこで、被告が開示した二時期の平均をもって本件請求期間中の費用と見るべきものとした上、被告が被告トレーの製造販売に要した単位利益を算定すると、本判決別表4のようになる。なお、被告は、利益の算定に当たって、右二時期に対応する各時期の単価を売上額として用いているが、売上単価は各時期によって変動するのであり、しかも右二時期の経費の平均値をもって通期的な経費額と把握すべき以上、先に認定した各時期の平均単価から右の平均経費額を控除することによって単位利益を算定すべきである。
(三) 被告が得た利益額 前記(一)において認定した販売量及び販売単価と右(二)において認定した控除すべき費用を組み合わせて、本件請求期間中に被告が被告トレーの製造販売によって得た利益を算定すると、本判決別表4のとおり、四三四八万八六八六円と認められる。
なお、被告は、実用新案法29条2項の適用に関し、原告には生産を拡大する能力がなかったとか、被告の参入は長野県連の要請に基づくものであると主張するが、後記4のとおり、右被告の得た利益は、予備的主張2の損害額を下回ることとなるから、右の点について判断するまでもなく、予備的主張2の損害額を認容額とすべきこととなる。
3 予備的主張1(実用新案法29条1項又は民法709条による損害の算定)について 当裁判所も、原告ら主張の原告会社の単位利益額はにわかにこれを採用することができず、他に前記被告の単位利益額より大きな単位利益額を認めるに足りる証拠もないから、予備的主張1は理由がないと考える。
その理由は、原判決八五頁末行から八九頁末行までに記載されたとおりであるからこれを引用する。
4 予備的主張2(実用新案法29条3項による損害の算定)について 前記2(一)のとおり、被告は、平成四年一月一日から平成六年四月一一日までの間に二億六九七四万七一〇〇枚の被告トレーを販売したものであるところ、
前記五で認定したとおり、一枚当たりの実施料相当額は〇・二円であるから、原告会社が被った損害額は、実用新案法29条3項の類推適用により、右の枚数に実施料相当額〇・二円を乗じた五三九四万九四二〇円と認めるのが相当である。
右の金額は、前記2の主位的主張の認容額を上回ることになるから、本件では、右の金額をもって認容額とすべきことになる(なお、本判決別表4によると、平成四年一月一日から同年一二月三一日までの単位利益は、右実施料相当額〇・二円を超えるが、この年度だけを切り離して実用新案法29条2項による請求を認めるのは相当でないと考える。)。
七 結 論 以上によると、原告【B】の請求は理由があるからこれを認容すべきであり、原告会社の請求は五三九四万九四二〇円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、原告会社のその余の請求は失当として棄却すべきであるところ、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条61条64条65条を適用して主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鳥越健治
裁判官 若林諒
裁判官 山田陽三