関連審決 |
無効2000-35253 |
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関連ワード | 均等 / 分割出願 / 考案 / 図面 / 補正 / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 新規事項の追加(新規事項を追加) / 請求項 / 実施例 / 数値限定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
443号
審決取消請求事件
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原告 日本メタル工業株式会社 原告 株式会社木村鋳造所 原告ら訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同 神谷巌 訴訟代理人弁理士 名塚聡 被告 アマノ株式会社 訴訟代理人弁護士 佐藤治隆 同 矢島正和 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/01/22 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が無効2000-35253事件について平成12年10月11日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、考案の名称を「ダストボックスによる総合集塵システム」とする実用新案登録第2548560号の考案(以下、「本件考案」という。)の実用新案権者である。本件考案に係る実用新案登録出願は、昭和63年11月4日出願の昭和63年実用新案登録願第144723号(以下「原出願」という。)から平成4年11月4日に分割出願され、その後、同年12月4日提出の手続補正書により明細書の全文及び第1図の補正(部材番号の追記)がされ、さらに、同7年8月11日提出の手続補正書により明細書の全文が補正され、同9年5月30日に設定登録された。 被告は、平成12年5月11日、本件実用新案登録について無効審判を請求し、 無効2000-35253号として審理された結果、同年10月11日に「本件実用新案登録を無効とする。」旨の審決があり、その謄本は同年11月8日原告らに送達された。 2 実用新案登録請求の範囲の記載【請求項1】吸引ポンプに繋がったメインパイプを工場内の所要箇所に配置し、工場内の集塵所要の複数箇所においてメインパイプから枝管を延設し、該枝管にダストボックスの上部を接続し、該ダストボックスの側壁に、前記枝管よりも小径の可撓性の集塵ホースを着脱自在に繋ぎ、該集塵ホースにより吸引した重量ダストをダストボックスの負圧減少により落下させて回収し、軽量ダストを各ダストボックスからメインパイプを経て総合して回収するように構成したダストボックスによる総合集塵システム。 3 審決の理由の要旨 審決の理由は、別紙審決書の理由写しのとおりである。その要点は、@本件考案は、原出願に包含された考案と認めることができないから、原出願の実用新案登録出願の時に実用新案登録出願をしたものとは認められず、その出願日は分割出願時である平成4年11月4日であると認められる、A本件考案は、甲第7号証(実願昭63-144723号(実開平2-63765号)のマイクロフィルム)、甲第6号証(実願昭55-100360号(実開昭57-25715号)のマイクロフィルム)及び甲第8号証(特開昭59-36520号)に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、その実用新案登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してなされてものである、というにある。 |
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原告ら主張の審決取消事由
審決は、原出願の明細書及び図面(以下、「原明細書」及び「原図面」といい、 これらをあわせて「原明細書等」という。)の記載内容についての認定判断を誤った結果、本件出願が分割出願の要件を充たさないものと判断し(取消事由1〜3)、ひいては本件実用新案の出願日の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(「枝管よりも小径の可撓性の集塵ホース」についての判断の誤り) (1)審決は、「原出願の願書に添付された明細書及び図面は、・・・ダストボックスの集塵ホース(吸引ホース)の径がメインパイプから延設された枝管の径よりも小径であることに関しては何ら記載されていない。」(審決書3頁26〜35行)、「原出願におけるバルブ(10)及び吸引管継手(11)が『枝管』に含まれるという被請求人の主張は失当というべきである。そして、ダストボックスの上端に開設された吸引口の径や吸引速度が『枝管』の径と一義的な関係を有するものとまではいえないから、原出願における吸引口の径や吸引速度の記載から、ダストボックスの集塵ホース(吸引ホース)がメインパイプから延設された枝管よりも小径であることまで原出願に記載されているということはできない。」(審決書5頁26〜32行)と判断したが、誤りである。 (2)これらの判断は、本件実用新案登録出願が、いわゆる旧法(平成5年改正前の特許法及び実用新案法)の適用される原出願の分割出願であるにもかかわらず、新法(平成5年改正後の特許法及び実用新案法)に基づいて原明細書及び原図面第3図を判断したことに起因している。要するに、明細書及び図面の補正は要旨変更をしなければ許されるという旧法に対して、新法は新規事項の追加を許さないという制限が明確にされている点に大きな差異がある。換言すると、旧法の補正は新法に比べて許容度が大きいのである。 被告は、「要旨変更の審査基準の適否は、本件の争点たり得ない。」と主張するが、原出願に対する補正が認められるものであれば、分割出願に支障がなく、適法な分割たり得るものであるから、補正に関する規定の変更は、実質的に分割要件の変更に結びつくのである。 (3)枝管15’とは、原明細書等においては第3図に図示されているだけで、 本件実用新案において追記された名称であり、メインパイプ15(原明細書の「建屋内吸引管15」に符合するもの)とダストボックス2とを繋ぐ管として示されている。 つまり、枝管15’は、基幹から分岐している管を指す概念のものであり、かつ、メインパイプ15とダストボックス2とを接続する管を指すことが明白であるから、メインパイプ15とダストボックス2との間に介在されるバルブ10及び吸引管継手11が、前記両者を接続するところの枝管15’の一部であるとしても、 何ら矛盾するものではなく、また、本件考案の作用、効果に照らしてみても整合性を持つものである。 審決は、原明細書等記載のバルブ(10)及び吸引管継手(11)が「枝管」に含まれないというが、その場合は、枝管15’のダストボックス2への接続は不可能となる。 (4)原明細書に、「小径の吸引ソケット」(原明細書(甲第4号証)4頁19〜20行)、「吸引管に接続された吸引口は大径としているのでその吸引速度は3m/sec乃至6m/secと急激に低下」(同5頁5〜7行)と記載があるとおり、先側(吸引ホース)の高速吸引と後側(枝管)の減速吸引を得るには当然に両者に口径差を設けることは技術的に自明である。 審決は、ダストボックスの上端に開設された吸引口の径や吸引速度が「枝管」の径と一義的な関係を有するものとまではいえないと判断したが、吸引口に合致する管が接続されるには、その吸引口の径と同径の管が用いられることは自明であり、 その接続された管が理由なくわざわざ異径に変化されるということも技術常識に照らして不自然なことであるから、その管が吸引口と同径とみるのは自然なことである。してみると、この大径の吸引口5に接続される管、すなわち枝管15’が大径のものであるとみることは、何ら不自然、不合理なことではなく、且つ、その大、 小径を限定している意図が、先側(吸引ホース)の高速吸引と、後側の減速吸引とを創出してダストの分離を行うためのものであるから、作用、効果に照らしてみても明白である。 (5)この点について、被告は、たとえ吸引口5よりも吸引ソケット4の径が小さいとしても、それに繋がれる吸引ホース9が吸引ソケット4の径と同じであるとは限らない、と主張するが、原出願記載の考案が、ダストボックスにおける粉塵分離機能(大型粉塵の沈降)を発揮させることが目的である以上、吸引ホース9を吸引口5よりも大径に構成するといった非合理的な構成を採るはずがないことは、技術常識からみて明らかである。 2 取消事由2(「上部」についての判断の誤り) (1)審決は、「原出願には、ダストボックス(2)の『上端』に吸引口(5)が開設されていることが明細書・図面に記載されているのであって、『上端』より広範囲となる『上部』に開設する点に関しては記載も示唆もない。」(審決書5頁33〜35行)、「原出願に『上端』以外に『上部』であってもよいことが明示されていない以上、『上部』が原出願に記載されていたということはできない。」(審決書6頁21〜22行)と認定判断したが、誤りである。 (2)この判断も、本件実用新案登録出願が、いわゆる旧法適用の原出願の分割出願であるにもかかわらず、新法に基づいて原明細書及び原図面第3図を判断したことに起因している。 (3)原明細書には実施例として、「ダストタンク(1)を有するダストボックス(2)」(原明細書5頁19、20行)との記載及びこれに続けて、「その上端には、・・・吸引口(5)を開設し」(同号証6頁2〜4行)との記載があるが、 この実施例ではダストボックス(2)がいかなる形状のボックスであるか具体的説明はなされていない。 では、何故そのような形状不明のダストボックス(2)に「上端」が存在するのかということを見ると、これは、原図面第1図に示されたダストボックス(2)の形状が、その上部面が中高の形状となり、その形状によって「端部」が存在することになり、それ故に「上端」という語彙が用いられたものである。 しかしながら、原明細書等において、かかるダストボックス(2)が上面中高の形状のものでなければ、その考案が成り立たたないとする根拠は、その作用、効果を見ても、どこにも存在しないのであり、ドラム缶のごとき上面フラットな円筒形のボックスであっても、考案としての目的が達成されることは明らかである。 そして、図示されたダストボックスがドラム缶形状のものであったとすれば、中高の「上端」が存在しないのであるから、「端」を除いた表現を用いる外なく、この場合、「上」と表現することは物を指し示すことにはならないから、「上部」という表現を用いることになろうことは自然である。 すなわち、「上端」と「上部」の差異は、その考案の技術的差異に影響を及ぼすものでないことは、明細書の全体を通して明白であり、同義(均等)といえるものである。 3 取消事由3(「負圧減少」についての判断の誤り) (1)審決は、「本件考案の『負圧減少』により落下させる点も原出願の明細書には記載がない。」(審決書6頁26、27行)と判断したが、誤りである。 (2)原明細書には、ダスト分離が吸引速度の差によって行われることの記載はあるが、確かに圧力減少という文言は用いられていない。しかしながら原明細書には、「常時吸引による負圧状態にある・・・吸引ソケット(4)、(4’)は・・・その負圧状態を保持しており、・・・」(原明細書6頁18行〜7頁1行)と記載されているように、その吸引ソケットからみると、ダストボックス(2)内はその負圧が減少していることになるのは明らかである。つまり、本件実用新案では圧力の側からダスト分離現象を表現しようとしたもので、原明細書のとおりに速度の側から「吸引速度の差」をそのまま引用する方が好ましかったのかもしれないが、両者ともに結果として重力沈降によるダスト分離を行うことに変わりはないものであるから、かかる「圧力減少」の表現を用いたことは誤りではない。 すなわち、この表現は、圧力損失に基づく分離、沈降の現象を、圧力側から表現しただけにすぎず、吸引ホースの内部よりもダストボックス内の圧力が低下していることに相異がなく、また、原明細書等において、ダストタンクにおいてダストの分離が圧力損失で行われることが認められるものである。 (3)さらに審決は、「『負圧減少により落下させて回収する』点・・・の技術的意義は一義的に明確であるとはいえず、その点は本件明細書の考案の詳細な説明においても明らかではない」(審決書8頁28〜32行)というが、そのような心証を得たのであれば、実用新案法41条で準用する特許法153条2項(職権審理に関する規定)に基づいて、無効理由通知をして、本件無効審判の被請求人ら(原告ら)に意見を申し述べる機会(ひいては本件明細書及び図面を訂正する機会)を与えなければならないはずである。このような機会を本件無効審判の被請求人らに与えることなくなされた本件審決は、この点においてもやはり違法であるといわざるを得ない。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1に対して (1)原告らは、審決は、本件実用新案登録出願が、いわゆる旧法適用の原出願の分割出願であるにもかかわらず、新法に基づいて原明細書及び原図面第3図を判断する誤りを冒している旨主張するが、実用新案法により準用される特許法44条1項は実質的改正はなく、分割出願の要件は、何ら変わりはない。 すなわち、分割出願の適否の判断は、原出願がその願書に添付した明細書又は図面の記載において2以上の発明(考案)を包含し、分割出願に係る発明がその発明の2以上の発明の一部である、という要件を充たすか否かの判断である。審決は、 本件考案の3つの要件が、原明細書に実質的に記載されていない、つまり原明細書に記載された考案の一部とはいえないと判断したのである。その判断には、旧法と新法とで差違がなく、要旨変更の審査基準の適否は、本件の争点たり得ない。 (2)本件明細書には「枝管」を定義する明確な記載はない。そうすると、実施例の記載を参酌することになるが、実施例図面とその説明では「枝管15’」は、 「吸引管継手11」、「バルブ10」「吸引口5」と別の概念であることが明確にされている。原告らもいうとおり、「枝管」は、「原明細書に記載された用語でなく、本件実用新案において追記された名称」であるから、その定義は、本件明細書において定めるしかない。それを原告らは、原出願では、「枝管」は図示されているだけで、「メインパイプ15」と「ダストボックス2」とを繋ぐ管として示されている、と主張している。 しかし工場内設置時の概略図である原図面第3図では、管も継手も明確でなく、 第1図、第2図によって原明細書に「吸引口(5)」、「バルブ(10)」及び「吸引管継手(11)」の構成が示されているのであり、本件考案の「枝管」に相当するものが、「メインパイプ15」と「ダストボックス2」とを繋ぐ管として示されているというようなことではない。本件出願は、原図面に、新たに「枝管15’」の図番を付して、「吸引管継手11」、「バルブ10」、「吸引口5」を別概念のものとして記載しているのである。この記載を無視して、「枝管15’」を「吸引管継手11」を含むものとする原告らの主張は誤りである。 原告らは、「枝管」の概念を審決のようにとらえると、「枝管15’のダストボックス2への接続は不可能」と主張するが、請求の範囲に接続に必要な全ての構成が記載されている必要はない。本件実施例では、「枝管15’」は、「吸引管継手11」、「バルブ10」、「吸引口5」を介して「ダストボックス2」に接続されている。そして実用新案登録請求の範囲に記載された「枝管」がどのような構成を指すかは、明細書の実施例、図面の記載から理解されるべきことは前記のとおりである。 (3)原告らは、枝管を審決のとおりに解するにしても、「吸引口に合致する管が接続されるには、その吸引口の径と同径の管が用いられることは自明」と主張するが、そのようなことはない。「枝管15’」が「吸引管継手11」、「バルブ10」、「吸引口5」より小径であることもあり得る。メインパイプから分岐する「枝管15’」全体の径が同一とも限らない。このような集塵システムでは、管体の屈曲、傾斜、長さ等により設計上適正な管径を決定するものである。ダストがたまりやすい部分では径を細くして流速を早くすること、及び管径を小さくして設備費を押さえるということもあり得る。したがって、「吸引管継手11」、「バルブ10」、及び「吸引口5」と枝管が同一径であるのが自然というようなことはない。 なお、乙第1号証は、被告が製造販売したセントラルクリーニングシステムの図面であるが、本件考案の「枝管15’」、「吸引管継手11」、「バルブ10」、 「吸引口5」等と対比されるべき「分岐パイプ4」、「耐磨耗性ホース5」、「バタフライバルブ6」と「排気側接続パイプ7」、「排気継手9」とは、それぞれ径が異なっている。同径の管が接続されるというような技術常識が存在しないことは、この実例からしても明らかである。 (4)以上のとおり、原明細書等には、本件考案の枝管に相当する管の径については何らの記載がないものであるから、集塵ホースの径より枝管が大径であるという技術思想は、原明細書等にはなく、原出願に本件考案が含まれていたということはできない。 したがって、審決に何ら誤りはない。 2 取消事由2に対して (1)取消事由2においても、原告らは、審決は本件実用新案登録出願がいわゆる旧法適用の原出願の分割出願であるにもかかわらず、新法を基にして原明細書の記載内容及び原図面第3図を判断する誤りを冒している旨主張するが、この主張が誤りであることは、前記1で述べたと同様である。 (2)原明細書等には、ダストボックスの2の「上端」に吸引口5が開設されていることが記載されているのであって、「上端」より広範囲となる「上部」に開設する点に関して記載も示唆もないことは審決が指摘するとおりである。 原告らは、原明細書等の実施例では、ダストボックスの形状が不明などというが、実施例についての記載は、図面に基づいてなされているのであり、不明というようなことはない。 また、原告らは、「原図面第1図に示されたダストボックス(2)の形状が、その上部面が中高の形状となり、その形状によって「端部」が存在することになり、 それ故に「上端」という語彙が用いられた」、「ダストボックスがドラム缶形状のものであったとすれば、中高の「上端」が存在しない」と主張するが、独自の見解である。実施例図面では、上面が中高の形状といっても極く僅か丸みを帯びているにすぎず、ドラム缶のような形状でも「上端」はある。 原明細書等は上半部と下半部そして上端を有する構成のみを記載したものであるから、その構成がどのような作用効果を有するか否かにかかわりなく、それ以外の構成を有する考案が含まれていることはない。均等の範囲で分割が認められるごとき原告らの主張は、全く誤りである。 3 取消事由3に対して (1)原明細書に「負圧減少により落下させる」という記載がないことは原告らも認めるところである。審決が指摘するように、「負圧減少」の意味はそもそも明確でない。原明細書で記載されておらず、概念が明確でない「負圧減少」という用語を分割出願に記載したのであるから、それが原出願に含まれた発明でないことは明らかである。 (2)原告らは、「吸引ソケットからみると、ダストボックス(2)内はその負圧が減少していることになるのは明らかである。」と主張するが、原告らが主張するダストボックス内の負圧というのは動圧か静圧か総圧か、どの位置での測定かすら明瞭でない。「吸引速度の差」をそのまま引用すればよかったというが、吸引口と排出口とで空気の速度に差があり得ることは常識で、原出願すら吸引速度の差を数値限定しなければ登録されなかったのである。たまたま「負圧減少」という意味不明な要件のために、出願時の審査では、分割出願の要件の欠如が見落とされたというほかない。 したがって、審決に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由2について (1)甲第4号証によれば、原出願の実用新案登録請求の範囲は「下半分を着脱自在としたダストボックスを有するダストボックスの上半分の周面に、各々密閉自在蓋を有する小径の吸引ソケットを適宜数取着すると共にその上端には、該吸引ソケットより大径とした吸引口を開設してなることを特徴とするダストボックス。」であり、原明細書の考案の詳細な説明欄の(作用)の項には、「吸引ホースの先端より22m/sec乃至28m/secの吸引速度で砂、鉄粉、鉄粒等の粉粒塵をダストボックス内に強力に吸引し、該粉粒塵がダストボックス内に吸引されればその上端の吸引管に接続された吸引口は大径としているのでその吸引速度は3m/sec乃至6m/secと急激に低下してこのダストボックス内で砂、鉄粉、鉄粒等の比重が高く且つ摩耗性の高い粉粒塵のみが下方のダストタンク内に自然沈降し、吸引ホースにより吸引した粉粒塵の内比重が軽く微細な浮遊粉塵のみがその上端の吸引口より吸引管に吸引される」(甲第4号証5頁1〜12行)との記載があることが認められる。これらによれば、原出願の明細書に記載された発明においては、吸引口位置での吸引速度を吸引ホース先端の吸引速度よりも十分小さくすることで、比重の大きい砂、鉄粉、鉄粒等の粉粒塵(以下「粗粉塵」という。)をダストタンクに落下させるとともに、比重の小さい微細な浮遊粉塵(以下「微粉塵」という。)を上端の吸引口から吸引管に吸引させるようにしたもの、すなわち、微粉塵は吸引ホースにて吸引した空気流に乗って吸引管に到達するのに対し、粗粉塵は空気流に乗らないで落下するものと認めることができる。 ところで、吸引ホースにて吸引した空気流は22m/sec乃至28m/secの速度であるから、そこに含まれる粗粉塵もそれに近い速度で吸引されるものであり、仮に吸引ホース先端から吸引された粉粒塵がダストボックス内に流入する箇所と水平に対向する位置に吸引口があるとすれば、粗粉塵はそのまま吸引口を経て吸引管に到達するおそれが十分あるものといえる。 すなわち、粗粉塵と微粉塵とを分離するには、単に吸引口位置での吸引速度を吸引ホースの先端の吸引速度よりも十分小さくすることのみでは不十分であり、粗粉塵と微粉塵の分離という作用が吸引ホースの後端(ダストボックスに接続される箇所)と吸引口との位置関係に大きく依存することは明らかである。 (2)このことを踏まえてさらに検討すると、原明細書等の記載によれば、粉塵を含む空気流は、吸引ホース後端より水平にダストボックス内に流入し、空気流と微粉塵は上方に90゜方向を変えて吸引口及び吸引管に至るのに対し、粗粉塵は下方に90゜方向を変えるものということができる。ここで、微粉塵と粗粉塵の相違は、それらの比重及びサイズにあるが、それらに作用する力という点では、下方への力、すなわち重力が、微粉塵に比して粗粉塵では大きいという相違があり、それ以外に微粉塵と粗粉塵の相違を見出すことはできない。また、空気流による力は、 空気流の方向に作用することは当然である。そして、粗粉塵のみに大きく作用する力である重力を利用して、粗粉塵を空気流及び微粉塵から分離する以上、空気流の方向を重力と逆方向、すなわち上方とすることが分離効率上有効であることは容易に理解し得るところであり、原明細書において吸引口が上端に設けられているのも、空気流の方向を上方とする趣旨と解するのが相当である。 (3)そして、原明細書には、「ダストボックスの上半部の周面に、各々密閉自在蓋を有する小径の吸引ソケットを適宜数取着すると共にその上端には、該吸引ソケットより大径とした吸引口を開設」(甲第4号証1頁6〜9行、実用新案登録請求の範囲)、「夫々密閉自在蓋を有するソケットを適宜数配設して、清掃の都度必要箇所のソケットの密閉自在蓋を開口」(同2頁末行〜3頁2行)、「密閉自在蓋を有する吸引ソケットの内、任意のソケットの密閉自在蓋を開口して吸引ホースの後端を嵌着」(同4頁19行〜5頁1行)、「ダストボックス(2)の上半部の周面に、各々密閉自在蓋(3)(3’)を有する小径の吸引ソケット(4)(4’)を適宜数取着すると共にその上端には、該吸引ソケット(4)(4’)より大径とした吸引口(5)を開設」(同5頁末行〜6頁4行)等の記載があり、これら記載によると、ダストボックス上半部周面に取着される吸引ソケットは複数であって、 その内任意のソケットを開口し、それに吸引ホースの後端を嵌着することにより清掃を行うものと認められ、原図面第1図及び第2図においても、吸引ソケットが周方向に90゜離れた位置に2つあるものが図示されている。 そして、吸引ソケットが複数ある以上、どの吸引ソケットを選択開口しても、粗粉塵がダストタンク内に落下し、微粉塵及び空気流は吸引管に至る必要があることはいうまでもない。また、原明細書等において吸引口が上端に設けられているのは、空気流の方向を上方とする趣旨であることは前示のとおりであるが、空気流の方向を上方とするのであれば、吸引口の位置はどこでもよいというものではなく、 どの吸引ソケットを選択開口しても、粗粉塵と微粉塵・空気流の分離が同程度に行われる位置でなければならないのは当然である。 すなわち、吸引口と吸引ソケットが近接位置にある場合と、離隔位置にある場合とでは、吸引ソケットから吸引口に至る空気の流れ方に相違が生じ、その結果粗粉塵と微粉塵・空気流の分離の度合いにも影響を及ぼすことも自明というべきであり、そのことからすると、吸引口はどの吸引ソケットに対しても、一定の相対位置にあるべきものと認められる。そうすると、原明細書等において、「ダストボックスの・・・上端に・・・吸引口を開設」(原明細書の実用新案登録請求の範囲)したのは、実施例として挙げられているダストボックスは上面が上に凸な湾曲面のものであり、上端は上面中心位置でもあることから、どの吸引ソケットからも一定の相対位置であるとともに、吸引ホースから吸引した空気流を上方に導く位置であるものとして、選ばれた位置であるということができる。 (4)以上によれば、原明細書等の記載から把握される吸引口の位置は、どの吸引ソケットからも一定の相対位置であるとともに、吸引ホースから吸引した空気流を上方に導く位置であるところの、ダストボックス上面中心位置しかあり得ないといわざるを得ない。 これに対し、本件考案は「枝管にダストボックスの上部を接続」を構成要件とするものであり、枝管とダストボックスの接続部分は原明細書にいう吸引口であるから、吸引口位置が「ダストボックスの上部」であることを構成要件とするものといえる。この「ダストボックスの上部」が、ダストボックス上端又はダストボックス上面中心位置を包含し、それよりも広い概念であることは明らかである。そして、 原明細書等からは、吸引口の位置としてダストボックス上面中心位置しか把握することができないことは上記説示のとおりであるから、吸引口を「ダストボックスの上部」に開設することは、原明細書等に記載されておらず、自明の事項でもないというべきである。 (5)原告らは、ダストボックスがドラム缶形状のものであったとすれば、上端が存在せず「上部」と表現せざるを得ないと主張する。しかし、原明細書等記載のダストボックスが原図面第1図に図示のものに限定されず、ドラム缶形状を含むものであるということはいえても、第1図のダストボックスの上端に相当する表現が「上部」しかないということにはならない。 原告らは、また、「『上端』と『上部』の差異は、その考案の技術的差異に影響を及ぼすものでない」とも主張するが、吸引口の位置が粗粉塵と微粉塵・空気流の分離に影響を及ぼすことは上記説示のとおりである。 (6)さらに原告らは、審決は新法に基いて原明細書の記載内容及び原図面第3図を判断したとも主張するが、審決にはそのことを窺わせる記載はない。そして、 旧法に照らして、吸引口をダストボックス上部に開設することは原明細書等に記載されておらず、自明の事項でもないことは上記説示のとおりであるから、原告らの主張は失当である。 (7)したがって、「原出願には、ダストボックス(2)の「上端」に吸引口(5)が開設されていることが明細書・図面に記載されているのであって、『上端』より広範囲となる『上部』に開設する点に関しては記載も示唆もない。」(審決書5頁33〜35行)とした審決の認定判断に誤りはなく、取消事由2には理由がない。 2.結論 以上のとおり、原告ら主張の取消事由2には理由がなく、原出願には吸引口(5)をダストボックスの「上部」に開設する点に関しては記載も示唆もないとした審決の認定判断は正当であるから、取消事由1及び3について検討するまでもなく、「本件は、実用新案法第11条第1項で準用する特許法第44条第1項の『二以上の考案を包含する実用新案登録出願の一部を・・・新たな実用新案登録出願』としたものではないから、原出願の実用新案登録出願の時に実用新案登録出願をしたものとは認められず、・・・本件の出願日は分割出願日である平成4年11月4日であると認める。」(審決書7頁1〜5行)との審決の認定判断に誤りは認められず、その他審決を取り消すべき瑕疵は見いだすことができない。 よって、原告らの請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 橋本英史 |