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関連審決 異議1998-70168
審判1999-35199
関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  損害額 /  実施料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  自然法則 /  補正 /  新規性(3条1項) /  先行技術 /  訂正の請求 /  通常実施権 /  請求項 /  実施例 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 541号 実用新案権侵害行為差止等請求事件
原告Y
原告 有限会社今村機械
原告ら訴訟代理人弁護士 太田耕治
同補佐人弁理士 平木道人
被告 有限会社武藤選果機製作所
同訴訟代理人弁護士 林桂一郎
同補佐人弁理士 高松利行
裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 2002/01/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙イ号装置目録記載のイ号装置を生産し,使用し,譲渡し若しくは貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しのための申出(展示を含む。)をしてはならない。
2 被告は,原告らに対し,それぞれ金214万9000円及びこれに対する平成11年2月23日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを2分し,それぞれを原告ら及び被告の各負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が原告らに対し,それぞれ金150万円の担保を供するときは,上記仮執行を免れることができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 主文第1項と同旨。
(2) 被告は,原告らに対し,それぞれ金1200万円及びこれに対する平成11年2月23日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) (2)項につき仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(3) 仮執行免脱の宣言
事案の概要
本件は,生花の下葉取装置に係る実用新案権を共有する原告らが,被告の製造販売する生花の下葉取装置が原告らの考案技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,実用新案権に基づき侵害行為の差止め並びに損害賠償及び補償金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実) (1) X及び原告有限会社今村機械(以下「原告会社」という。)は,次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,本件実用新案権に係る明細書を「本件明細書」という。)を共有していた。
(ア) 考案の名称 生花の下葉取装置 (イ) 出願日 平成2年5月30日 (ウ) 出願番号 実願平2-57125 (エ) 考案者及び出願人 X (オ) 公開日 平成4年2月14日 (カ) 公開番号 実開平4-17877 (キ) 登録日 平成9年5月30日 (ク) 実用新案登録番号 第2548320号 (2) 本件明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1ないし3の記載は次のとおりである(以下,これらに記載された考案を,それぞれ順に「本件考案1」,「本件考案2」,「本件考案3」といい,これらを「本件考案」と総称する。)。
なお,下線部を付した部分は,後記(9)の訂正請求により,付加訂正されたものである。
ア 本件明細書の【請求項1】 処理対象の生花の根元部と予定間隔をおいて,かつこれとほぼ直交するように配置される回転軸と,前記回転軸に結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し,前記弾性ヒモの長さは前記予定間隔よりも長く設定され,前記回転軸は前記弾性ヒモが前記根元部の位置でその基端部に向けて回転する方向に駆動され,回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする生花の下葉取装置。
イ 本件明細書の【請求項2】 処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に,前記平面とほぼ平行で,かつ 前記根元部とほぼ直交するように配置され,互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸と,前記回転軸のそれぞれに結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し,前記各回転軸の弾性ヒモの長さの和が前記各回転軸と前記平面間の距離の和よりも大であり,かつ前記回転軸は前記弾性ヒモが前記平面の位置で前記根元部の基端部に向けて回転するように駆動され,回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする生花の下葉取装置。
ウ 本件明細書の【請求項3】 一対の無端チェーンに所定間隔で並設した支持杆の花受腕に生花を載置して移送し,生花を選別する生花選別機の,無端チェーンの回動によって移送される生花の根元部と対向する位置に,前記無端チェーンの進行方向とほぼ平行に,その回転軸が配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の生花の下葉取装置。
(3) 本件考案1ないし3の実用新案登録請求の範囲の記載は,次のような構成要件に分説できる(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。
ア 本件考案1 A 処理対象の生花の根元部と予定間隔をおいて,かつこれとほぼ直交するように配置される回転軸と B 前記回転軸に結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し C 前記弾性ヒモの長さは前記予定間隔よりも長く設定され D 前記回転軸は前記弾性ヒモが前記根元部の位置でその基端部に向けて回転する方向に駆動され,回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする E 生花の下葉取装置 イ 本件考案2 F 処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に,前記根元部とほぼ直交するように配置され,互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸と G 前記回転軸のそれぞれに結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し H 前記回転軸の弾性ヒモの長さの和が前記各回転軸と前記平面間の距離の和よりも大であり I 前記回転軸は前記弾性ヒモが前記平面の位置で前記根元部の基端部に向けて回転する方向に駆動され,回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする J Eと同じ ウ 本件考案3 K 一対の無端チェーンに所定間隔で並設した支持杆の花受腕に生花を載置して移送し,生花を選別する生花選別機の L 無端チェーンの回動によって移送される生花の根元部と対向する位置に,前記無端チェーンの進行方向とほぼ平行に,その回転軸が配置されたことを特徴とする M 請求項1または2に記載の生花の下葉取装置 (4) 被告は,平成7年1月ころから現在に至るまで,別紙イ号装置目録の構成を有する生花の下葉取装置(以下「イ号装置」という。)を少なくとも307台製造販売している。イ号装置を付設した菊選別機の販売価額は,1台当たり少なくとも70万円である。
(5) Xは,平成4年2月29日到達の内容証明郵便をもって,有限会社武藤農機製作所に対して,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「旧法」という。)13条の3第1項に基づく警告をした(乙6の2)。
(6) Xは,平成10年2月4日到達の内容証明郵便をもって,被告に対し,(5)に基づく補償金請求権の2分の1を原告会社に譲渡する旨を通知した。
(7) Xは,平成10年2月6日死亡し,遺産分割協議により,原告Yが,本件実用新案権に関する権利中,Xの補償金請求権及び損害賠償請求権を取得し(甲19の1ないし4),前者については,同年10月29日,その旨登録された(甲1)。
(8) 被告は,平成10年1月14日,本件実用新案権の登録について異議申立てを行った(特許庁平成10年異議第70168号,乙14の1)。これに対し,特許庁は,同年7月27日,上記登録を維持する旨の決定をし(乙15),同決定は同年8月27日に確定した。
(9) 被告は,平成11年4月28日,本件実用新案権の登録について無効審判請求をした(特許庁平成11年審判第35199号,乙18の1)ところ,原告らは,同年8月5日,本件実用新案権の当初明細書の実用新案登録請求の範囲請求項2に前記(2)イの下線部を付加することを内容とする訂正の請求をした。
これに対して,特許庁は,平成12年7月5日,原告らからの訂正請求を認めるとともに,被告の無効審判の請求は成り立たないとの審決をした(甲18,乙43)。
2 本件の争点及び争点についての当事者の主張 (1) イ号装置が本件考案の構成要件を充足するか。
具体的な争点は,次のとおり,構成要件B,G,Mの充足性であり,イ号装置がその余の構成要件を充足することは,当事者間に争いがない。
ア イ号装置の葉落とし部材(ウレタンゴムヒモ)が本件考案の「弾性ヒモ」に該当するか否か。
イ イ号装置における葉落とし部材と回転軸の固着方法が本件考案の「結着」に該当するか否か。
(原告らの主張) ア 「弾性ヒモ」の該当性について (ア) 「弾性ヒモ」の定義は,「弾性物質を材料として作られたヒモ」というものであり,それ以上でもそれ以下でもない。
すなわち,「弾性」は固体物質の性質を表す用語であって,外力が加えられると変形し,外力が除かれると元の形状,寸法に戻る性質を指す。「ヒモ」は,一般的に「糸より太く,綱やなわより細い,長い線状の繊維製品や紙・革など」を指し,物理や技術の面では「長さが直径の何倍も大きく,剛性をもたない物体」として定義される。したがって,被告主張に係る特許庁による定義に限定される理由はない。
(イ) イ号装置の葉落とし部材は,本件明細書実施例に挙げられた「直径2ないし4ミリ程度のウレタンゴム」そのものであることに照らしても,イ号装置の葉落とし部材が「弾性ヒモ」に該当することが明らかである。
また,公知の葉落とし部材は,曲げ剛性が大きく,葉落としを完了するために必要なエネルギーは動力源から連続的に与えられるのに対し,本件考案の弾性ヒモは,軸を中心に遠心力によって幾分伸長状態で自由回転し,その速度に応じた運動エネルギーを蓄えていて,葉や葉柄などに当たると,そのエネルギーが衝撃力に変換され,先端部分が回転方向にく字状に屈曲しながら叩き落とす作用を発揮するところ,イ号装置においては,その下葉の落とし方が「叩き落とし」に該当することが明らかである。
(ウ) イ号装置の葉落とし部材は,出荷時の巻き癖により湾曲しているものの,回転停止状態でこれを上向きに支持すれば,自重により巻き癖以上に下向きに湾曲するし,これを回転させれば,遠心力によって巻き癖が矯正され,ほぼ直線状になる。
イ 「結着」の該当性について 結着には,結び目は必要ではなく,回転軸が回転する葉落とし作動中に回転軸から弾性ヒモがずれたり,外れたりしないように,弾性ヒモが適当な手段,方法によって固着されていれば足り,その方法は自由であって,イ号装置のような固着方法も「結着」に該当するし,本件明細書実施例とイ号装置の固着方法は,機能的にも構造的にも両者間に差異はないから,少なくとも均等といえる。
(被告の主張) ア 「弾性ヒモ」の該当性について (ア) 「弾性ヒモ」は,特許庁による前記争いのない事実等(8),(9)の異議決定及び審決によれば,@弾性を有するものではあるが,A回転停止状態では回転軸上方に設けられた弾性ヒモの先端が自重により下方に垂れ下がり,回転するとほぼ直線状,一文字状,十文字状になる程度の柔軟性を有し,B物を束ねたり,結んだりすることができる,という3要件を要するところ,イ号装置の葉落とし部材(直径3ミリ,長さ4ないし12センチメートルのウレタンゴム製)は,@の要件は充足するが,回転停止状態でも先端は起立しており,回転中は空気抵抗のためにスパイラル状に大きく湾曲するので,Aの要件を充足しない。Bの要件も,少なくとも正常には物を束ねたり,結んだりすることができないことに照らすと,充足しないというべきである。
なお,原告らは,上記定義によることを否定するが,特許庁は上記定義が成立することを前提にして本件実用新案権の有効性を認めたのであるから,これを否定することは自己矛盾というべきである。
(イ) 本件明細書の作用効果の記載に照らすと,「弾性ヒモ」は,茎の表面を傷つけることなく葉落としが可能になるよう「表面が軟らかく折曲自在である」ことを要するところ,イ号装置の葉落とし部材はバンドー化学株式会社の製造に係るウレタンゴム製で,極めて硬質の素材であり,茎全周に相当の傷を生ずるから,上記要件を充足しない。
(ウ) 本件考案は,弾性ヒモが「葉柄に衝突してく字状に折曲し,葉柄に巻き付いて衝撃により葉を叩き落とす」作用があるとされており,この点において公知の葉落とし部材との差別化を図っていることは,本件考案の出願時の明細書が「掻き取る」,「茎の表面を摺接して除去する」としていたのを,平成8年12月2日付け手続補正書の段階で上記のように変更した事実に照らしても明らかであるところ,イ号装置の葉落とし部材は,葉に衝突しても「く字状」に折曲することはなく,また,葉を「摺り落とす」ものであるから,上記作用はなく,本件考案の弾性ヒモとは異なるものである。
イ 「結着」の該当性について 本件考案は,弾性ヒモが回転軸に「結着」していること,すなわち結び着けられていることを要するので,「結び目」の存在を要するところ,イ号装置における葉落とし部材は,回転軸の挿通孔にまっすぐに挿入され,該挿通孔の両端部に抜け止めのストッパー2個をそれぞれ装着しているにすぎないから,イ号装置の弾性ヒモの固着方法は,「結着」に当たらない。
(2) 原告らの本件実用新案権侵害に基づく各請求は,本件実用新案権には明白な無効理由が存在することにより,権利濫用であると認められるか。
(被告の主張) ア 下葉取装置については,先行技術として,@実開平2-57348号,A実公昭60-38354号,B実開昭56-131754号が存在しているところ,本件考案は,葉落とし部材として「弾性ヒモ」を用いた点についてのみ相違している。しかしながら,「ヒモ」とは「物を束ねまたは結びつなぐ太い糸。また細い布・革など」であり,弾性を有しない完全に屈曲自在なものであって,弾性を有するものは,ゴムホースやゴムチューブのように物を束ねたり結んだりすることができても,社会通念上,「ヒモ」とはいわないから,「弾性」と「ヒモ」とを結合して成る「弾性ヒモ」とは意味矛盾の成語であり,概念を特定できない。
また,上記先行技術に係る葉落とし部材として,@ピン状の可撓性の葉落とし部材,A軟質の合成樹脂棒,Bゴムブラシの突起が公知であるところ,「弾性ヒモ」が定義できないために,これら公知部材と明確に区分できない。
イ また,本件考案は,弾性ヒモが葉柄に衝突してく字状に折曲し,葉柄に巻き付いて衝撃により葉を叩き落とす作用があるとされているが,かかる作用は,理論的にはあり得ず(あり得るとしても,回転する弾性ヒモと垂直に交差するように突き出た一部の葉のみである。),実際にも確認できないものである。
仮にこのような衝撃による叩き落とし作用があるとすれば,直径が大きい葉落とし部材ほどその力は大きいはずであるから,上記の公知部材も当然にその作用を有している。
ウ さらに,本件考案の作用効果は,生花の茎に傷を付けることなく,茎全周の下葉取りが完全に行われるというものであるが,葉落とし部材の強度は茎の表面よりも強く,茎の表面には必ず摺り傷が付くはずであり,このような効果を奏し得る葉落とし部材は理論上も実際上も存在せず,本件考案の弾性ヒモも同様である。ちなみに,茎に傷を付けない弾性ヒモの「軟らかい」,「折曲自在」の具体的程度は全く明らかにされていない。
エ 構成要件Aの「予定間隔」は実施例に記載がなく,意味不明であるなど,本件考案明細書には記載不備が多いので,本件考案とイ号装置とを対比することができない。
オ したがって,実用新案法3条1項,2項,5条3項,4項により,本件実用新案権には明白な無効事由が存在するから,原告らの本件各請求は権利濫用として許されない。
(原告らの主張) ア 被告の主張は争う。公知の葉落とし部材は,形状がヒモでなく,争点(1)で述べたとおり,葉落としに利用する自然法則が異なるから,「弾性ヒモ」と明確に区別することが可能である。
イ 被告は,弾性ヒモが葉や葉柄に「巻き付いて」葉落としをすることは理論上あり得ないなどと主張するが,そもそも本件明細書には「巻き付いて」とは記載されておらず,原告らもそのような主張はしていない。原告らは,弾性ヒモの自由端側の慣性による屈曲変形が「巻き付くように」生じて葉落としに寄与すると言っているにすぎないのであって,かかる作用は理論上も実際上も確認されている。
ウ 弾性ヒモは,表面が軟らかく,折曲自在であるから,ヒモが茎の上面を衝撃したときも容易に折れ曲がり,すぐに横にずれ落ちるので,茎の表面そのものを傷つけることは極めて少なく,曲げ剛性を有する公知の葉落とし部材が茎表面を強くこするために茎表面に傷が付き易いのとは異なる。
(3) 被告がイ号装置について,実用新案法26条により準用する特許法79条所定の先使用によって通常実施権を有するかどうか。
(被告の主張) 被告は,本件考案の出願日より前の平成元年夏ころから,葉落とし部材として線状ゴム(ウレタンゴム製)を用いた下葉取装置を製造販売してきた。当該線状ゴムは,イ号装置に係る葉落とし部材と比べて太くて短い点に違いがあるのみであり,公知部材の範ちゅうに含まれるものであるところ,本件考案の弾性ヒモは公知の葉落とし部材と区別ができないことは前述のとおりである。したがって,被告は,イ号装置について先使用権を有している。
(原告らの主張) 否認する。被告主張に係る線状ゴムの葉落とし部材は,イ号装置のそれとは異なる。
そもそも被告の本主張は,時機に遅れた防禦方法として却下されるべきものである。
(4) 原告らの補償金請求権の有無 (原告らの主張) Xは,平成4年2月29日到達の内容証明郵便をもって,有限会社武藤農機製作所に対して,旧法13条の3に基づく警告をしているところ,同社は,実質的に被告と同一であるから,原告らは,被告に対して,補償金請求権を有している。
(被告の主張) 否認する。被告と有限会社武藤農機製作所は,全くの別法人である。
(5) 原告らの損害額ないし補償金額 (原告らの主張) ア 被告は,平成7年1月から現在まで,イ号装置を307台以上製造販売し,その総売上金額は3億円を下らない。また,本件実用新案権の実施料相当額は総売上金額の8パーセントが相当であり,原告らの損害額及び補償金額は2400万円を下らない。
イ 菊選別機は,供給装置,下葉取装置及び選別装置から成るが,本件考案を用いた下葉取装置を装備した菊選別機が発売されるや否や,公知の葉落とし部材を用いた下葉取装置を装備する菊選別機の需要は皆無となり,製造もされなくなっているから,本件考案の寄与率は100パーセントと見るのが相当であり,被告が発売するイ号装置を装備した菊選別機の1台当たりの価格は少なくとも70万円とするのが相当である。仮に,損害賠償の対象が下葉取装置に限定されるとしても,その価格は3万円を下ることはない。
(被告の主張) ア 被告が,平成7年1月から現在まで,307台のイ号装置を製造販売してることは認め,その余については否認ないし争う。仮に,イ号装置が本件実用新案権を侵害するとしても,損害賠償の対象は,公報発行日である平成9年9月17日以降のものに限定されるべきである。また,本件実用新案権は,生花の下葉取装置のうち葉落とし部材の改良にすぎず,補償金請求権には過大な実施料率は適用されないから,その実施料相当額は総売上金額の2パーセントが相当である。
イ イ号装置を装備した基本的構成を有する菊選別機の1台当たりの価格は70万円である。しかし,損害賠償の対象は,菊選別機全体ではなく,付設装置である生花の下葉取装置に限定されるべきであって,その損害額ないし補償金額は,生花の下葉取装置の価格を基礎として算定すべきところ,生花の下葉取装置の製造原価は1万9576円であり,これを基礎とすべきである。
当裁判所の判断
1 争点(1)ア(弾性ヒモの該当性)について ア 実用新案法26条により準用する特許法70条は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」(1項)とし,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」(2項)と規定する。このような規定の趣旨からすると,実用新案権について,明細書の実用新案登録請求の範囲の文言の意味・内容を解釈・確定するに当たっては,その言葉としての一般的な意味内容を基礎としつつも,詳細な説明に記載された考案の目的,その目的達成の手段として採られた技術的構成及びその作用効果をも参酌して,その文言により表された技術的意義を考察した上で,客観的・合理的に解釈・確定すべきである。
これを本件考案の「弾性ヒモ」についてみるに,同語は,一般的な技術用語ではなく,「弾性」という語と「ヒモ」という語を合成した造語であって,その意味内容を一義的には確定し難い。しかし,言葉自体を字句どおりに解釈すれば,「弾性ヒモ」とは,「弾性物質から成るヒモ状のもの」と解するのが相当であり,本件実用新案登録請求の範囲の記載をみても,これ以上にその意味を限定解釈すべき根拠は見出せない。そして,証拠(甲3,4,5の1,2)によれば,弾性物質とは固体物質にして力が加えられるとその形状を変え,力を除去すると元の形に戻るものであり,ヒモとは長さが直径の何倍もあるが剛性を持たない物体にして,糸よりも太く,綱や縄よりも細いものを意味すると認められるところ,本件明細書の【考案の詳細な説明】の「実施例」には,弾性ヒモの例として,「ウレタンゴムヒモ,アメゴムヒモ等の表面が軟かく折曲自在」のものが挙げられていること,「作用」には,「弾性ヒモは表面が軟らかく折曲自在なので,生花の茎に傷つけることなく,根元部の全周の下葉を完全に叩き落とす」と記載されており,「考案の効果」にもこれと同様の記載があることからすれば,要するに,折曲自在にして柔軟性を有するヒモ状のものが求められていると解されるから,上記のような字義解釈は合理的なものというべきである。
この点につき,被告は,特許庁の異議決定及び審決を引用して,「弾性ヒモ」とは,@弾性を有するものではあるが,A回転停止状態では回転軸上方に設けられた弾性ヒモの先端が自重により下方に垂れ下がり,回転するとほぼ直線状,一文字状,十文字状になる程度の柔軟性を有し,B物を束ねたり,結んだりすることができる,という3要件を充足する必要があるところ,イ号装置の葉落とし部材はA,Bの要件を充足しないと主張する。
なるほど,Aの要件については,本件明細書の【考案の詳細な説明】に,「弾性ヒモは,自由回転状態ではほぼ直線状をなしている」,「弾性ヒモ37はそれ自体の遠心力によって一文字状のプロペラのように回転する」,「十文字状の形状を保って回転する。」等の記載があり,第3図,第4図には,弾性ヒモの回転停止状態において,回転軸の上方に結着した弾性ヒモの先端が自重により垂れ下がっている図が記載されているところ,前者の点については,一般的な「ヒモ」の性状に合致する上,本件考案の作用効果との関連性を否定し難い(甲16,17によれば,弾性ヒモが自由回転状態で直線状,一文字状であると,生花の葉や葉柄に衝突してその自由回転状態が妨げられたときに,弾性ヒモの衝突点よりも先端部分は,慣性によって,衝突前と同速度で回転し続けようとするため,同先端部分は回転方向前方へ屈曲するように変形しようとする傾向を生じることが認められ,結果として,本件明細書の【考案の詳細な説明】の「作用」に記載されているように,弾性ヒモの先端部分が葉や葉柄に巻き付くようになって,確実に葉や葉柄を叩き落とすことが可能となる。)。
しかしながら,弾性ヒモの回転停止状態において,回転軸の上方に結着した弾性ヒモの先端が自重により垂れ下がっているか否かは,本件考案の作用効果とは無関係である上,上記の第3図,第4図は本件考案実施例についての説明図にすぎないところ,本件考案技術的範囲実施例の記載のみによって定めることができないことは当然であって(更に言えば,第3図,第4図は,弾性ヒモの回転軸への結着方法を説明するための図面にすぎず,弾性ヒモの形状について説明しているものではない。),本件明細書には他に本件考案の弾性ヒモが上記の第3図,第4図のような性状,すなわち,自重により垂れ下がる程度に柔軟性を有するものに限定される趣旨の記載はなく,作用効果に照らしても,そのように限定すべき理由がない。したがって,Aの要件を本件考案の弾性ヒモの定義の一内容とすることは不適当というべきである。
また,本件考案の弾性ヒモが,物を束ねたり,結んだりすることを目的とせず,またそのような性質を有しなければ所期の作用効果を有しないというものでないことは明らかであるから,Bの要件は,本件明細書の記載を離れて,一般的抽象的な「ヒモ」の性質を述べたにすぎないものであって,不適当といわざるを得ない。
さらに,被告は,特許庁の前記定義を無視することは自己矛盾となって許されず,また,争点(2)に関連して,これを無視した場合,弾性ヒモの意味内容は確定できないと主張するが,前記定義は,登録に至る過程で無効とされるのを回避するため,出願人自らが限定したものではないから,本訴において拘束されるいわれはなく,また,前記のとおり,弾性ヒモの意味内容は容易に確定できるから,被告の同主張も採用できない。
イ そこで,イ号装置の葉落とし部材が「弾性ヒモ」に該当するか否かについて検討するに,証拠(甲14の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,イ号装置の葉落とし部材は,バンドー化学株式会社製のウレタンゴムにして,直径3ミリ,長さ4ないし12センチメートルであって,後者が前者の何倍も大きいものであると認められるところ,これは本件考案実施例として挙げられた「直径2〜4粍程度のウレタンゴムヒモ,アメゴムヒモ等」と一致するから,まさに「弾性物質から成るヒモ状のもの」と評価でき,イ号装置の葉落とし部材が「弾性ヒモ」に該当することは明らかというべきである。
もっとも,被告は,@弾性ヒモは茎の表面を傷つけることなく葉落としが可能になるよう表面が軟らかく折曲自在であることを要するところ,イ号装置の葉落とし部材は硬質の素材であり,茎全周に相当の傷を生ずるから,上記要件を充足しない,A本件考案は,弾性ヒモが葉柄に衝突してく字状に折曲し,葉柄に巻き付いて衝撃により葉を叩き落とす作用があるとされているところ,イ号装置の葉落とし部材は,葉に衝突しても「く字状」に折曲することはなく,また,葉を摺り落とすものであるから,上記作用を有しないなどと主張して,弾性ヒモの該当性を争っている。
しかしながら,@については,証拠(検乙16ないし20)によると,イ号装置の葉落とし部材はウレタンゴム製のものであり,その表面は柔軟性を有しており,回転面と同方向の生花の茎に対しては茎表面を滑るようにして横方向に逃げる作用があるから,理論上茎の表面を傷つけない作用効果があると認められ,仮に,葉落とし部材の形状やその回転速度,回転数等の相違によって,茎の表面に微細な傷が付くことがある(乙25によれば,そのような結果が生じる場合があることが認められる。)としても,下葉の処理部分は出荷時に結束され,その一部は切り落とされるから,この部分に微細な傷が付いていたとしても,生花自体の商品価値には特段影響しないものであって,本件考案が本来予定している作用効果が失われるものではないというべきである。また,Aについては,弾性物質から成るヒモ状のものが,ほぼ直線状で回転運動をしている場合に生花の葉や葉柄に当たれば,一瞬「く字状」に折曲した上,そこで放出されるエネルギーが臨界点に達した段階で葉や葉柄を衝撃して叩き落とす作用があることは力学的に十分首肯できることである(葉や葉柄が柔らかく,弾性ヒモの質量,速度が大きいために,衝突時にほとんど折曲しないことがあるとしても,そのことは上記原理を否定するものではないから,結論を左右するものではない。)。
よって,被告の前記@,Aの主張はいずれも採用できない。
2 争点(1)イ(結着の該当性)について 証拠(乙42)によれば,「結着」は「結びつける」ことを意味し,さらに「結ぶ」には「むすびめを作る」,「しばる」,「たばねる」といった意味もあるが,単に「つなぐ」との意味もあることが認められる。
この点につき,被告は,前者の意味に着目し,本件考案の「結着」は弾性ヒモが回転軸に結び着けられていることを意味し,「結び目」の存在を要するところ,イ号装置の弾性ヒモの固着方法はこのような結び目が存在せず,「結着」に当たらないと主張する。
しかしながら,本件明細書実施例(第3図,第4図)をみても,弾性ヒモを回転軸に設けられた孔に通して折り曲げ,ヒモの回転軸に近いところを結束バンドで抜け止めしたものが示されており,弾性ヒモの回転軸への結着方法が弾性ヒモ自体を結ぶようなものに限定していないことは明らかである。また,ヒモとヒモとを結ぶ場合は,結び目を作る方法が通常の形態と考えられるが,ヒモとその他の物体を結ぶ場合は,いろいろな結び方が考えられるところ,本件考案の構成要件B,Gは,単に「結着」ではなく,「回転軸(のそれぞれ)に結着」となっていることからすると,「結着」とは,弾性ヒモを回転軸につなぐ,すなわち取り付けるとの意味に解することが十分に可能である。そして弾性ヒモを回転軸に取り付けるのは,回転軸の回転運動を弾性ヒモに伝えるとともに,葉落とし作動中に回転軸から弾性ヒモがずれたり,外れたりしないようにする目的にすぎないから,その目的に沿う限り,弾性ヒモは適当な手段,方法によって回転軸に固着されていれば足り,その固着方法は基本的には問題ではない(もっとも,本件明細書の【考案の詳細な説明】の「考案の効果」に記載されているように,弾性ヒモの回転軸への結着交換が容易であるような固着方法であることは必要となる。)と解するのが相当である。そうすると,被告主張のように「結着」の意味を狭く解する必要はなく,イ号装置のような固着方法も「結着」に該当するというべきである。
3 争点(2)(権利濫用の抗弁)について ア まず,被告は,「ヒモ」とは弾性を有しない完全に屈曲自在なものであって,弾性を有するものは,社会通念上,「ヒモ」とは言わないから,弾性ヒモの概念を特定できず,それゆえ,弾性ヒモと公知の葉落とし部材(ピン状の可撓性の葉落とし部材,軟質の合成樹脂棒,ゴムブラシの突起)とを明確に区分できないとし,本件実用新案権には明白な無効理由が存するから,本件の各請求は権利濫用として許されないと主張する。
しかしながら,ゴムヒモのように弾性を有するヒモ状のものが存することは公知の事実であり(もっとも,ゴムヒモのように柔軟性の大きい物質では,ヒモの直径があまりに細くて質量が不足する場合,遠心力が小さくなるために高速回転によってヒモが回転軸に巻き付く事態も考えられるが,実施例に記載されている直径2ないし4ミリ程度に達すれば,【考案の詳細な説明】にあるように,回転時に直線状,一文字状を示すことは乙39からも認められる。),前記で検討したように,「弾性ヒモ」は,「弾性物質から成るヒモ状のもの」と明確に定義することができ,そのような弾性ヒモが上記の公知部材と異なることは明らかであって,被告の前記主張は採用できない。
イ 次に,被告は,@本件考案の弾性ヒモが葉柄に衝突してく字状に折曲し,葉柄に巻き付いて衝撃により葉を叩き落とす作用,及びA本件考案の生花の茎に傷を付けない作用は,いずれも理論上も実際上も存在しないとして,同様に権利濫用の主張をするが,本件考案が上記の作用効果を奏すると認められることは前記のとおりであるから,上記主張は採用できない。
ウ さらに被告は,構成要件Aの「予定間隔」が意味不明であると主張するが,本件実用新案権の公報の実施例には,「このように移送されてくる生花の根元部の上下にモータに直結した回転軸が設けられている」との記載があり,これに公報の第1図とを対照すれば,「予定間隔」とは,処理対象である生花の根元部と所定の間隔をおいて回転軸を配置したとの意味であることは容易に判明するから,意味不明とはいえない。
エ その他,本件実用新案権に明白な無効事由があるとは認められないから,被告の権利濫用の抗弁は理由がない。
4 争点(3)(先使用の抗弁)について 被告は,平成元年夏ころから,葉落とし部材として線状ゴム(ウレタンゴム製)を装着した下葉取装置を製造販売しているところ,当該線状ゴムは,公知部材の範ちゅうに含まれるものであり,本件考案の弾性ヒモが公知の葉落とし部材と区別ができないことからすれば,被告はイ号装置についての先使用権を有していることになると主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,結局,本件考案の構成要件に含まれる弾性ヒモが公知部材と区別できないことを理由とする前記の権利濫用の主張と同一に帰し(同主張が採用できないことは前述のとおりである。),さもなくば被告が公知の葉落とし部材を自由に実施することができる旨の無意味な主張をしているにすぎないというべきである。
そもそも,本件において,被告につき,先使用による通常実施権が成立するためには,被告が本件考案を知らないで自らイ号装置に係る葉落とし部材を考案し,又は本件考案を知らないで考案者から知得して,本件考案の出願の際(平成2年5月30日)に,現に日本国内においてイ号装置を製造販売し,又はその準備をしている必要があるところ,被告はこのような事実を主張するものではなく,また被告提出の証拠(乙61ないし63,65ないし81)によっても,これを認めることはできず,この点からも被告の前記主張は採用できない(なお,原告らは,被告の本主張は時機に遅れたものであると主張するが,被告の本主張がなされたのはいまだ弁論準備手続終結前であることに照らすと,却下すべきものとはいえない。)。
5 争点(4)(補償金請求権の有無)について 前記争いのない事実等(5)及び証拠(乙6の2)によれば,Xは,平成4年2月29日到達の内容証明郵便をもって,有限会社武藤農機製作所に対して,旧法13条の3に基づく警告をしていること,同警告に際して,書留郵便で本件実用新案権の公開公報を別送していること,有限会社武藤農機製作所の代表取締役は被告代表者と同一であること,以上の事実が認められる。
これらによれば,被告は,上記警告によって出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知りながら,イ号装置を製造,販売してきたものであるから,Xは,旧法13条の3第1項後段に基づき,被告に対する補償金請求権を取得したというべきである。そして,前記争いのない事実等(6),(7)の事実(債権譲渡及び遺産分割による相続)によれば,原告らは被告に対する補償金請求権それぞれ2分の1を共有するに至ったことは明らかであり,被告と有限会社武藤農機製作所が別法人であることは上記結論を左右するものとはいえない。
なお,旧法において発生した補償金請求権については,実用新案法施行法29条により,現行実用新案法の下においても存続している。
6 争点(5)(原告らの損害額ないし補償金額)について (1) 前判示のとおり,イ号装置が本件考案技術的範囲に属するものと認められる以上,被告が,Xが有限会社武藤農機製作所に対して旧法13条の3に基づく警告をした平成4年2月29日以降,イ号装置を製造販売する行為は,本件実用新案権を侵害する不法行為に当たり,原告らは被告に対し,その侵害によって被った損害の賠償ないし補償金の請求できるものである。そこで,原告らの損害額ないし補償金額について検討する。
前記争いのない事実等(4)に証拠(甲2,乙46ないし48)及び弁論の全趣旨を総合すれば,イ号装置は菊選別機に付設された機械であること,同菊選別機はイ号装置の他,供給装置及び選別装置から構成されていること,上記供給装置自体は一般的なものであること,上記選別装置には結束機能等の付加的機能が付いているものがあること,菊等の生花を出荷するに当たっては,生花の保持取扱いの便のため,生花の下葉が完全に除去されていることが必要であること,イ号装置は,供給装置の無端チェーンの回動によって移送される生花の根元部と対向する位置に,無端チェーンの進行方向とほぼ平行にその回転軸が配置されていることにより,移送中の生花の下葉取りを効率よく行える構成になっていること,菊選別機全体の販売価額は1台当たり少なくとも70万円であること,イ号装置の製造原価は1万9576円であること,以上の事実が認められる。
これらによれば,菊選別機全体に占める製造原価の割合はそれほど高くはなく,選別装置部分や基本的機能に付加される部分の果たす役割も無視できないものの,菊の出荷に当たって菊の基端部分の下葉取りを行うことは必要不可欠な作業工程であって,このような下葉取りの重要性を考えれば,イ号装置において下葉取装置が果たす役割は極めて大きいというべきであって,顧客が菊選別機を購入するに際し,イ号装置が装備されているかどうかは重要な要素となるものであるから,イ号装置が菊選別機に装備されていることは,被告の菊選別機の売上げに相当程度寄与しているというべきである。そして,上記の事実等,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,イ号装置の菊選別機全体における寄与率は40パーセントとするのが相当である。
(2) 原告らは,実用新案法29条3項及び旧法13条の3第1項に基づき,本件考案の実施に対して(通常)受けるべき金銭の額に相当する額を,自己が受けた損害としてその賠償を請求するものであるところ,本件考案の属する技術分野,イ号装置が装備された菊選別機の単価,製造販売に係る数量及びその期間,本件考案に係る弾性ヒモを用いた下葉取装置の需要状況,原告会社及び被告の事業規模等,本件訴訟に提出された全証拠及び弁論の全趣旨により認められる諸般の事情に加え,平成10年法律第51号による改正によって現行の実用新案法29条3項の規定が新たに設けられた趣旨をも併せ勘案すれば,本件考案を実施してイ号装置を製造する場合に受けるべき金銭の額に相当する額としては,イ号装置が装備された菊選別機の価額に,前記(1)のイ号装置の菊選別機全体における寄与率40パーセントを乗じた金額の5パーセントと認めるのが相当である。
(3) そして,前記争いのない事実等(4)のとおり,被告が,平成7年1月ころから現在に至るまで,少なくとも307台のイ号装置を製造販売していること,イ号装置を装備した菊選別機の販売価額は,1台当たり少なくとも70万円であること,以上の事実は当事者間に争いがない(被告の販売台数がこれを超えること及び同販売価額が70万円を超えるものであることを認めるに足りる証拠はない。)。
そうすると,原告らの損害額及び補償金額は,次式のとおり,合計429万8000円(各214万9000円)となる。
70万円×0.4×0.05×307台=429万8000円 7 以上の次第で,原告らの本訴請求のうち,イ号装置の生産等の差止請求は理由があるから認容することとし,損害賠償請求は,前項(3)の金員及びこれに対する不法行為の後の日である平成11年2月23日(本件訴状送達の日の翌日)から年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し,その余は失当であるから棄却し,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,仮執行免脱の宣言につき同条3項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
追加
別紙イ号装置目録下記に説明する構造を有するところの被告の製造・販売に係る下葉取装置を装備した生花選別機「MH-351D」,「MH-353D」,「MH-352F」,「KIS-3500」,「MZ-1B」,「MZ-2K」,「MZ-35B」及び「MZ-45D」並びにその他の型番でこれらと同様の下葉取装置を装備する生花選別機。
図1は生花選別機の下葉取装置の側面図であり,図2はその平面図であり,図3は生花重量選別装置の側面図である。
まず,生花選別機について説明する。左右の機枠1,1の前後に取り付けた軸受2,3に回動自在に軸支されているチェーン駆動軸4と従動軸5に左右のチェーンホイール6を楔着し,表面に等間隔で送り板7を固着した生花移送用コンベア8(幅が1個の鎖の長さと略同じ長さの細長い多数のアルミ板の両端を左右のチェーンに取り付けた構成のコンベア)のチェーンがチェーンホイール6に懸回されている。生花先端当用平ベルト12は左の機枠1とブリッジ21に固着した支持部材51に設けられていて,生花移送用コンベア8と略同じ速度で回動するようになっている。13は生花茎切断刃,14は機枠に取り付けた切断用モータ,20は下葉取装置,15は生花計量用の一対の無端チェーンで,一対の生花計量用無端チェーン15には花受腕61を備えた支持杆62が等間隔で並設されている。無端チェーン15の回動により生花は花受腕61に支持されて移送され(図3の矢印B),移送路に配設された計量部63により重量別に選別されて,下方の搬出コンベア64上に落下する。
生花の先端が生花先端当用平ベルト12に当接するように生花移送用コンベア8上に生花を投入すると,生花移送用コンベア8の送り板7によって生花は前方へ移送され(図2の矢印A方向),生花茎切断刃13で定寸に切断され,下葉取装置20で根元部の下葉が叩き落とされた生花が,生花計量用無端チェーン15の花受腕61上に落下して生花の重量の選別が行われるようになっている。
生花選別機に付設した下葉取装置20は次のように構成されている。
長いコ字状ブリッジ21が左右の機枠1,1に取り付けられている。箱状に形成されている下葉取装置20の本体50(切断された茎や叩き落とされた下葉が落下するように下方が開放されている)が,右機枠1上とブリッジ21に固着されている。本体50の後壁鉄板25の上下にモータ26とモータ32を固着し,仕切鉄板27に軸受28と軸受34が取り付けられている。軸受28に回動自在に支承した回転軸29をモータ26とカップリング(図示省略)を介して連結し,軸受34に支承されている回転軸30がモータ32とカップリング(図示省略)を介して連結されている。このように移送されてくる生花の根元部を含む平面の上下両側にこれと予定間隔をおいて根元部と直交するように回転軸29,30が設けられている。
上下の回転軸29,30には互いに対向しないように複数個のウレタンゴムヒモ37が回転軸29,30に穿設された挿通孔にまっすぐに挿入され,該挿通孔の両端部に抜け止めのためのストッパーをそれぞれ装着することにより,着脱可能に該回転軸の所望位置に固着されている。ウレタンゴムヒモ37は,移送されている生花の根元部の位置でその基端部に向けて回転する方向に駆動され,上下のウレタンゴムヒモは相反する方向に回転する。そのウレタンゴムひもヒモ37の長さは,回転軸と処理対象の生花の根元部との間隔よりも長く,更に回転中の上下のウレタンゴムヒモの先端の軌跡が互いに重なる長さ,すなわち上下の回転軸29,30間の距離よりも上下のヒモの長さが大となっており,この重なり長さによって下葉除去長さが定まる。41はブリッジ21に取着されている取付部材52に固着された生花押さえ杆であり,ウレタンゴムヒモ37で下葉を叩き落とすときに生花の移送姿勢が崩れないようにしている。
このように生花の下葉取装置20が構成されているので,生花移送コンベア8上の生花は,送り板7によって前方へ移送され,移送中に生花切断刃13で定寸に切断された後,回転しているウレタンゴムヒモが生花の根元部の葉を衝撃して自動的に叩き落とす。ウレタンゴムヒモは表面が軟らかく折曲自在なので,生花の茎に傷つけることなく,所要の除去長さの全周の下葉を完全に叩き落とす。
図1図2図3
裁判長裁判官 加藤幸雄
裁判官 橋本都月
裁判官 富岡貴美