運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議1998-74873
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  請求項 /  容易に想到 /  特段の事情 /  寄せ集め /  設計変更 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 288号 実用新案取消決定取消請求事件
原告 株式会社ホーメックス
訴訟代理人弁護士 窪田英一郎
同弁理士 天野広
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 山口由木
同 田中弘満
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/07
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第74873号事件について平成12年6月15日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,考案の名称を「木造家屋の外壁下地構造」とする登録第2569914号の登録実用新案(平成5年6月16日出願,平成10年2月6日設定登録
以下,これを「本件登録実用新案」といい,その登録を「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者である。
特許庁は,平成10年9月28日及び同年10月28日,本件実用新案登録についてそれぞれ異議申立てを受け,これを平成10年異議第74873号事件として審理した。原告は,上記異議申立手続の過程において,平成11年9月28日,本件登録実用新案に係る願書に添付された明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求をした。特許庁は,上記事件について審理をした結果,平成12年6月15日,「登録第2569914号の実用新案登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本を平成12年7月10日,原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲 (1) 訂正前(以下,訂正前の実用新案登録請求の範囲に係る考案を「本件考案」という。) 「外壁を形成する柱により枠作りした枠体と,この枠体内に嵌着されるパネル体とからなり,このパネル体は,上下方向に延びる一対の同じ高さの第一の板材及び左右方向に延び,第一の板材と同一高さの一対の第二の板材が矩形状に連結された壁枠体と,壁枠体の室内側に止着された壁板と,壁板の屋外側に付設された,第一及び第二の板材よりも高さの低い硬質発泡ウレタン板とからなり,土台上に枠体を形成し,この枠体内にパネル体を嵌着した場合において,枠体内に一枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部を覆うように,また,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープが貼着されていることを特徴とする木造家屋における外壁下地構造。」 (2) 訂正後(以下,本件訂正に係る実用新案登録請求の範囲に係る考案を「訂正考案」という。下線部が訂正された箇所である。) 「柱と土台と横架材により枠作りした枠体と,この枠体内に嵌着されるパネル体とからなり, このパネル体は,上下方向に延びる一対の同じ高さの第一の板材及び左右方向に延び,第一の板材と同一高さの一対の第二の板材が矩形状に連結された壁枠体と,壁枠体の室内側に止着され,壁枠体と同一の大きさを有する壁板と,壁板の屋外側に付設された,第一及び第二の板材よりも高さの低い硬質発泡ウレタン板とからなり, 前記 枠体内に,一枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部を覆うように,また,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープが貼着されていることを特徴とする木造家屋における外壁下地構造。」 (本件考案,訂正考案につき別紙図面(1)参照) 3 本件決定の理由 本件決定の理由は,別紙決定書の写しのとおりである。要するに,@訂正考案は,実願昭60-129734号(実開昭62-38308号)のマイクロフィルム(甲第4号証,以下「引用刊行物1」という。),実願平1-67849号(実開平3-8211号)のマイクロフィルム(甲第5号証,以下「引用刊行物2」という。),平成2年3月31日日本住宅新聞社発行「住宅建築新工法全集」の32頁ないし34頁(甲第6号証,以下「引用刊行物3」という。)及び平成3年1月社団法人北海道住宅リフォームセンター監修「BIS講習会テキスト 高性能住宅の設計」の23頁ないし63頁(甲第7号証,以下「引用刊行物4」という。)に記載された各技術(以下,それらを順に「引用考案1」,「引用考案2」,「引用考案3」,「引用考案4」ということがある。)に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであって,実用新案法3条2項に該当するから,本件訂正は認められず,A本件考案も,上記と同様の理由によって,実用新案法3条2項に該当する,というものである。
原告主張の取消事由の要点
決定の理由中,U(訂正請求について)のうちの相違点についての判断部分及びむすびの部分(決定書7頁16行〜8頁15行),V(実用新案登録異議申立てについて)のうちの相違点についての判断部分及びむすびの部分(決定書10頁2行〜11頁8行)を争い,その余を認める。
本件決定が認定する訂正考案と引用考案1との相違点は, @ 「訂正明細書請求項1に係る考案は,壁板の屋外側に,壁枠体の板材よりも高さの低い硬質発泡ウレタン板を付設したものであるが,刊行物1には,この構造が記載されていない点。」(相違点1) A 「枠体内が一枚のパネル体より広い場合には,訂正明細書請求項1に係る考案は,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着するのに対して,刊行物1記載の考案は,連設部に太い桟を設け壁板を連設している点。」(相違点2) B 「訂正明細書請求項1に係る考案は,枠体内に一枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部を覆うように,また,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープを貼着しているのに対して,刊行物1には,この記載がない点。」(相違点3) であり(決定書7頁5行〜15行),本件考案と引用考案1との相違点は, @ 「本件請求項1に係る考案は,壁板の屋外側に,壁枠体の板材よりも高さの低い硬質発泡ウレタン板を付設したものであるが,刊行物1には,この構造が記載されていない点。」(相違点1) A 「枠体内が一枚のパネル体より広い場合には,本件請求項1に係る考案は,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着するのに対して,刊行物1記載の考案は,連設部に太い桟を設け壁板を連設している点。」(相違点2) B 「本件請求項1に係る考案は,枠体内に一枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部を覆うように,また,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープを貼着しているのに対して,刊行物1には,この記載がない点。」(相違点3) である(決定書9頁30行〜10頁1行)。
本件決定は,本件訂正については,訂正考案と引用考案1との相違点についての認定判断を誤り(取消事由1〜3),また,訂正考案の顕著な作用効果を看過し(取消事由4),また,実用新案登録異議申立てについても,上記と同様に,本件考案と引用考案1との相違点についての認定判断を誤るとともに,本件考案の顕著な作用効果を看過し(取消事由5),これらの誤りは,いずれも,結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法なものとして,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) 本件決定は,相違点1(訂正考案は,壁板の屋外側に,壁枠体の板材よりも高さの低い硬質発泡ウレタン板を付設したものであるのに対して,引用考案1には,この構造が記載されていない点)について,「相違点1における訂正明細書請求項1に係る考案の事項は,刊行物2記載の考案の「壁板の屋外側に,壁枠体の枠板材よりも高さの低い断熱材を付設した」構造を単に刊行物1記載の考案に付加することによりなし得られるもので,かくすることに,格別困難性も認められず,当業者であれば,きわめて容易になし得ることにすぎない。」(決定書7頁27行〜32行)と判断したが,この判断は,誤りである。
(1) 引用考案2の「枠体(訂正考案における壁枠体に相当する。)の枠板材よりも高さの低い断熱材を付設すること」という技術は,パネル体の強度を維持するため,及び,パネル体の気密性を確保するために,@構造合板1(訂正考案における壁板に相当する。)を方形状の枠体3よりも一回り大きなものとし,A枠体3及び補強桟に切欠段差部を設けこれに板状の断熱剤の周縁を嵌め込むこと,と不可分一体に結合したものである。
すなわち,引用刊行物2に,「いずれも現場で断熱材を寸法に合わせて裁断加工しながら釘や接着剤で取付けるので,施工が厄介である上,隙間が開き易く,断熱性能の低下の一因にもなっていた。さらに,内壁の上下端部が各々天井裏や床下に開放されていて,床下から冷たい気流が侵入し,外壁も同様に断熱層内に冷たい気流が生じるので,一層断熱性能が悪くなってしまい,引いては,これらの問題点が外壁内での結露を生じさせ,木質部の腐りの原因となって住宅自体の耐久性に悪影響を及ぼすことにもなっていた。」(甲第5号証の明細書2頁10行〜3頁2行)と記載されていることからも明らかなように,引用考案2は,それが従来技術の課題として把握した課題を解決し気密性の高い断熱パネルを提供することを目的とするものであり,また,同刊行物に,「第7図に示すように,枠体3及び補強桟4に切欠段差部24,25をそれぞれ形成し,その切欠段差部24,25に板状の断熱材5の周縁を嵌め込むようにして枠体の各区画内に該断熱材5を埋め込み固着してもよい。」(同6頁末行〜7頁4行)と記載されていることからも明らかなとおり,切欠段差部24,25に板状の断熱材5の周縁部を嵌め込むことにより,枠体3及び補強桟4と板状の断熱材5との間に隙間を生ずることなく気密性及び断熱性を高めることができるという技術を開示しているものである。そして,同刊行物には,方形状の枠体3から張り出した構造合板1の位置で,釘打ち等によって木造家屋の軸組を構成する軸部材と固定されることが記載されているから(同5頁5行〜7行参照),引用考案2は,壁面を構成する構造合板1が方形状の枠体3よりも大きくされるという構成を採ることによって初めて可能となるものである(別紙図面(3)参照)。
また,引用考案2では,切欠段差部24,25に板状の断熱剤5の周縁を嵌め込む構成を採用しているため,枠体3と構造合板1との接触面積が小さくなって,構造合板1の内側から枠体3に釘打ちする際に,構造合板1と壁板3とが剥離する危険性があるので,この意味でも,方形状の枠体3よりも一回り大きな構造合板1を有していなければならないのである。
このように,引用考案2は,方形状の枠体3よりも一回り大きな構造合板1を有する技術であるために,そこでは,訂正考案のような「柱と土台と横架材により枠作りした枠体」内に,複数の構造合板1を嵌着しようとしても,構造合板1同士が抵触し合うので嵌着することができない。結局,引用考案2を引用考案1に適用することができないのである。
(2) 被告は刊行物に記載された技術的事項であれば,考案を構成しない技術的事項であっても,これを「考案」とみることができるとし,この見解を前提に,引用刊行物2における「補強桟(4)によって分割する枠体(3)内の各区画に断熱材(5)を埋め込んだ」構造は,独立した技術的事項であって「考案」であると主張する。しかし,被告の上記見解は,明らかに誤っている。
実用新案法3条2項に「前項各号に掲げる考案に基づいて」と規定されているように,進歩性の判断対象は,「考案(または発明)」のみであって,「技術的事項」ではない。進歩性の判断材料は,あくまでも考案であって,考案を構成していない単なる「技術的事項」は進歩性の判断材料にはなり得ない。
仮に,被告のいうような論理が通用するのであれば,すべての刊行物から適宜の構成のみを取り出すことが可能となり,ほとんどの出願発明・考案が,それらを寄せ集めたものであると判断されることになる。このような結果を認めることが不当であることは,明らかである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) 本件決定は,相違点2(枠体内が1枚のパネル体より広い場合,訂正考案は,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着するのに対して,引用考案1は,連設部に太い桟を設け壁板を連設している点)について,「一般に,広幅な間隔に,壁体等を建付ける場合,複数枚の壁板で行うか,壁板自体を広幅なものに形成し行うかは,当業者であれば,適宜選択できる設計事項にすぎず,相違点2において,刊行物1記載の考案に代えて訂正明細書請求項1に係る考案のようにすることは,当業者であればきわめて容易設計変更できることにすぎない。」(決定書7頁34行〜38行)と判断したが,この判断は誤りである。
(1) 枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することを,周知慣用の手段ということはできない。
被告は,建物の開口部の建具枠に襖,障子,戸等の建具を突き合わせ又は密接して配置し,開口部を閉塞することは,普通に実施されていることであるとし,枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することも,周知慣用の手段であると主張する。
しかしながら,枠体内に襖,障子等を設けることとパネルを設けることとは,全く異質な事項であり,襖や障子とパネル体を同列に論じることはできない。襖や障子は,開口部に対して移動可能なものであり,そこから出入りすることを目的とするのに対し,本件のようなパネル体は開口部を塞ぐことに意味があるからである。
(2) 仮に,枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することが,周知慣用の手段であったとしても,この周知慣用の手段を引用考案1に適用することは,当業者であっても容易に想到し得なかったことであるというべきである。なぜならば,引用考案1にあっては,用いられるパネル体は,あくまでも一つであり,本来の大きさの一つのパネル体で埋められないような大きな空間部が生じる場合には,パネル体自体に太い桟を用いパネル体自体を大型化するものとされているのであり,パネル体を開口部に複数用いることにしたのでは,引用考案1の技術思想を根本から覆すことになってしまうからである(別紙図面(2)参照)。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り) 本件決定は,相違点3(訂正考案は,枠体内に一枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部を覆うように,また,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープを貼着しているのに対して,引用考案1には,この記載がない点)について,「刊行物3,4には,上記摘示したように,気密性を確実にするため,柱とパネルが接する部分,パネル同士の接合部を覆うように室内側からテープを貼着することが記載されており,相違点3における訂正明細書請求項1に係る考案のようにすることは,当業者であれば必要に応じてきわめて容易になし得ることにすぎない。」(決定書8頁1行〜5行)と判断したが,この判断は誤っている。
本件考案は,パネルと柱,パネルとパネル同士の接合部にシール材を用いることなく,テープ材を用いるのみで,容易に断熱効果を得ることができ,現場作業の著しい短縮を図ることができるようにしたところに特徴があるものである。
一方,引用刊行物3又は同4は,パネル体と枠体又はパネル体とパネル体同士の接合部に隙間が生ずることを前提とし,このような隙間にまずコーキング材等によるシールを施した上,更にテープ材を用いて,気密性の確保を図る必要があることを指摘しているにすぎない。訂正考案のように,現場作業の短縮化を図るために,気密テープのみを使用するといる技術的思想は,全く開示されていない。
4 取消事由4(訂正考案の顕著な作用効果の看過) 訂正考案は,その構成によって,パネル体自体を小型化することができ,これによりその取付けが容易となることに加えて,その運搬も容易となり,現場作業が著しく短縮するという有利な効果を有する。また,訂正考案においては,あらかじめパネル体を規格化して枠体の大きさに応じて必要枚数のパネル体を使用することができるため,いちいち枠体に合わせてパネル体を形成する必要がない。
このように,本件考案にはきわめて顕著な効果があるにもかかわらず,本件決定はこの点を全く看過しており,明らかに不当である。
5 取消事由5(本件考案と引用考案1との相違点についての認定判断の誤り及び本件考案の顕著な作用効果の看過) 本件決定が,本件考案と引用考案1との各相違点についての認定判断を誤り,しかも,本件考案の顕著な作用効果を看過していることは,取消事由1ないし4において述べたのと同様であり,本件決定は,本件考案進歩性についての認定判断を誤ったものである。
被告の反論の要点
本件決定の認定判断は,いずれも正当であって,本件決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用刊行物2に,断熱パネルの構造として,枠体3の一面側に枠体3の方形よりも1回り大きな方形状の構造合板1を,その周縁部2を張り出して固着するという技術事項が記載されているとしても,この技術事項と,そこに開示されている「枠体3(訂正考案の壁枠体に相当する。)の枠板材よりも高さの低い断熱材を付設すること」という構成との間には,特別の結合関係はない。そうである以上,断熱構造の部分のみを独立した技術思想として把握することに,何ら問題はない。
本件決定が,引用刊行物2から,「壁枠体の枠板材よりも高さの低い断熱材を付設すること」という構成のみを引用考案2として引用したことに,誤りはない。
(2) 進歩性判断の前提となる引用技術を把握するに当たっては,例えば,引用した刊行物が実用新案登録出願に係る明細書であれば,当該明細書に記載されている限り,登録を請求している考案自体とは直接に関係のない技術的事項であっても,引用技術として把握することができるのである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 例えば,広幅な間隔に壁板,床板,天井板等を建て付ける場合に,複数枚の壁板,床板,天井板等を連続して突き合わせ,接合させることは,本件出願前,建築工事で普通に実施されていたことである。また,日常的にも,建物の開口部の建具枠に襖,障子,戸等の建具を突き合わせ又は密接して配置し,開口部を閉塞することは,本件出願前,普通に実施されていたことである。したがって,訂正考案のように枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することは,周知慣用の手段にすぎない。
訂正考案のように,枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することが周知慣用の手段であったことは,例えば,実願昭46-37800号(実開昭47-35310号)のマイクロフィルム(乙第1号証),特開昭50-117217号公報(乙第2号証),実公昭51-24732号公報(乙第3号証)などからも明らかである。
(2) もともと,一般に,広幅な間隔に壁体等を建て付ける場合に,複数枚の壁板で行うことは,当業者であれば適宜選択できる,設計事項の範囲に属することにすぎないものというべきである。そうであれば,訂正考案のような場合にも,枠体内が1枚のパネル体より広ければ,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着するようなことは,当業者が適宜選択できることである。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について パネルと柱等の枠体との間では,製造上当然に,位置公差及び寸法公差が生じ,木質材の場合には,四季の温度及び湿度に応じて,膨張・収縮するため,気密状態が必要な冬季の低温期間等にパネルと柱等の枠体間に隙間が生じることになる。引用刊行物3及び同4に記載されている気密手段は,上記のような問題を解決し,気密状態にするため,パネルの枠と柱等の枠体の間の隙間を塞ぐようにコーキング材,気密パッキン材を使用し,それとともに,枠体とパネルの壁板との継合部及び隣接するパネルの壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープを貼着するというものである。上記気密手段のうち気密テープのみで,一応の気密状態を図ることができることは当然の事柄であるから,必要に応じて気密テープのみを使用することにするということは,当業者であれば,きわめて容易に想到し得たことである。
4 取消事由4(訂正考案の顕著な作用効果の看過)について 訂正考案の効果は,引用考案1と比較しても格別なものではなく,また,建築技術として常識的手段から予測できるものにすぎないものである。訂正考案に,効果の顕著性を認めることはできない。
5 取消事由5(本件考案と引用考案1との相違点についての認定判断の誤り及び本件考案の顕著な作用効果の看過)について 本件決定の,本件考案進歩性についての認定判断に誤りがないことは,取消事由1ないし4に対する反論において述べたとおりである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用考案2の「枠体3(訂正考案の壁枠体に相当する。)の枠板材よりも高さの低い断熱材を付設すること」という技術は,パネル体の強度を維持するため,及び,パネル体の気密性を確保するために,@構造合板1(訂正考案における壁板に相当する。)を方形状の枠体3よりも一回り大きなものとし,A枠体3及び補強桟に切欠段差部を設けこれに板状の断熱剤の周縁を嵌め込むこと,と不可分一体に結合したものであると主張する。
しかしながら,引用考案2の,「枠体3(訂正考案における壁枠体板に相当する。)の枠板材よりも高さの低い断熱材を付設すること」という技術について,それが,原告が主張する上記他の技術と結び付くことによって初めて存在意義を有することをうかがわせる資料は,本件全証拠を検討しても見いだすことはできず,上記両技術の内容を対比すれば,むしろ,前者が後者とは無関係に存在し得るものであることは,明らかというべきである。
(2) 原告は,実用新案法3条2項に「前項各号に掲げる考案に基づいて」と規定されているように,進歩性の判断対象は,「考案(又は発明)」のみであって,「技術的事項」ではない,進歩性の判断材料は,あくまでも考案であって,考案を構成していない単なる「技術的事項」は進歩性の判断材料にはなり得ないと主張する。
原告のいわんとするところは必ずしも明らかではないものの,おそらく,公知文献に,典型的には引用刊行物2の実用新案登録請求の範囲のような形で,まとまったものとして示されている技術的事項全体を,まとまりのある一体のものとして把握しないで,そこに含まれている特定の事項のみに着目し,他の事項を捨象して把握することは,許されない,ということにあるのであろう。しかし,そうであるとしても,採用することはできない。
引用刊行物を考えるに当たって重要なことは,ある引用刊行物に接した当業者の視点から,これを契機として問題となっている考案に極めて容易に想到し得るかどうかということである。引用刊行物に技術的事項全体がまとまったものとして示されている場合,その技術的事項全体の中から,そこに含まれている特定の事項のみを選び出し,他の事項を捨象して把握することが,無条件に許されるものではないことは,当然である。その限りでは,原告の主張は正当である。しかし,そうであるからといって,逆に,まとまったものとして示されている技術的事項は,まとまりのある一体のものとしてしか把握してはならない,ということになるわけのものではない。そのような考えは,人(当業者)の有する理解力や応用力を不当に低く設定するものであり,不合理であることが明らかである。全体を構成する各事項の中の特定のものを選び出し,他の事項を捨象し,その限度では,全体をより抽象化して把握することが許されるか否かは,選び出そうとする事項の性質と当該事項とその他の事項との関係などにより,個別的具体的に決めるべき事柄という以外にないのである。そして,人(当業者)の有する理解力や応用力を考慮すると,特定の事項がそれ自体として容易に認識できるものであるときは,他の事項との結び付きを離れての採用を困難とする特段の事情が認められない限り,上記把握が許されるものというべきである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 一般に,枠体がパネル体より広い場合に,枠体にパネル体を嵌め込めば,当然に隙間が生じること,枠体内に隙間を生じさせずにパネル体を嵌め込むためには,必ずしもパネル体自体を大きくする必要はなく,パネル体を複数にすればよいこと,このようなことが,当業者ならずともきわめて容易に考えつく事柄であることは,当裁判所に顕著である。
そして,パネル体を複数のパネル体にすることに何らの技術的困難性がないことは,いうまでもないことである。
本件決定が,「一般に,広幅な間隔に,壁体等を建付ける場合,複数枚の壁板で行うか,壁板自体を広幅なものに形成し行うかは,当業者であれば,適宜選択できる設計事項にすぎず,相違点2において,刊行物1記載の考案に代えて訂正明細書請求項1に係る考案のようにすることは,当業者であればきわめて容易設計変更できることにすぎない。」(決定書7頁34行〜38行)と判断したのは,正当であって,そこには何らの誤りもない。
枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することは周知慣用の手段とはいえないとする原告の主張は,その余の点について検討するまでもなく,失当であることが明らかである。
(2) 原告は,仮に,枠体内に複数枚の壁パネル体を嵌着することも,周知慣用の手段であるとしても,この周知慣用の手段を引用考案1に適用することは,当業者であっても容易に想到したこととはいえない,なぜならば,引用考案1にあっては,あくまでも一つのパネル体を用いることが記載されており,一つのパネル体で埋められないような大きな空間部が生じる場合には,パネル体自体に太い桟を用いパネル体自体を大型化するというものであるから,パネル体を開口部に複数用いるならば,引用考案1の技術思想を根本から覆すことになってしまうからであると主張する。
原告の主張は,引用刊行物1に,「柱間が1.5Pまたは2Pなど,1Pより広幅の壁の場合は,合板を連設して貼着する必要が生ずるが,この場合連設部に太い桟(4)を設け固定すればよい。」(甲第4号証4頁14行〜17行)などといった記載があることに基づくものである。
一般に,枠体がパネル体より広い場合に,枠体にパネル体を嵌め込めば,当然に隙間が生じること,枠体内に隙間を生じさせずにパネル体を嵌め込むためには,必ずしもパネル体自体を大きくする必要はなく,パネル体を複数にすればいいこと,このようなことが,当業者ならずともきわめて容易に考えつく事柄であることは,上述のとおりである。原告が主張の根拠とする,引用刊行物1の,「柱間が1.5Pまたは2Pなど,1Pより広幅の壁の場合は,合板を連設して貼着する必要が生ずるが,この場合連設部に太い桟(4)を設け固定すればよい。」などという記載も,広幅の壁の場合のために,より広い幅の合板のものを提案するのではなく,本来の幅の合板を「連設」して貼着することを提案するものであることからすれば,むしろ,上述したところを支える資料というべきであり,このような記載のために,パネル体を複数用いることが困難になることはあり得ないものというべきである。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 引用刊行物1,3及び同4によれば,相違点3について,「刊行物3,4には,上記摘示したように,気密性を確実にするため,柱とパネルが接する部分,パネル同士の接合部を覆うように室内側からテープを貼着することが記載されており,相違点3における本件請求項1に係る考案のようにすることは,当業者であれば必要に応じてきわめて容易になし得ることにすぎない。」とした本件決定の判断が正当であることを優に認めることができる。
引用刊行物3,同4に,パネル体と枠体又はパネル体とパネル体同士の接合部の隙間にコーキング材等によるシールを施し,更にテープ材を貼付して気密性を確保する技術が開示されていることは,当事者間に争いがない。
原告は,訂正考案は,パネルと柱,パネルとパネル同士の接合部にシール材を用いることなく,テープ材を用いるのみで,容易に断熱効果を得ることができ,現場作業の著しい短縮を図ることができるようにしたところに特徴があるものであるとし,引用刊行物3,同4には,現場作業の短縮化を図るために,気密テープのみを使用するという技術的思想が開示されていないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,訂正考案の実用新案登録請求の範囲には,「前記枠体内に,一枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部を覆うように,また,枠体内に複数枚のパネル体を嵌着した場合には,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部を覆うように室内側から気密テープが貼着されていることを特徴とする」と記載されているのであり,同記載によれば,訂正考案は,枠体とパネル体の壁板との継合部及び隣接するパネル体の壁板同士の継合部に気密テープを貼着することをその構成とはしているものの,気密テープを貼着することに加えて他の気密手段を施すことを何ら禁じるものでないことが,明らかである。
また,本件決定が,引用刊行物3及び同4から認定した「気密性を確実にするため,柱とパネルが接する部分,パネル同士の接合部を覆うように室内側からテープを貼着する」(決定書8頁1行〜3行)との技術を,コーキング材等によるシールを施すという技術を伴って用いるか,これを伴わないで独立に用いるかが,必要に応じて適宜選択されるべき事項であることは,事柄の性質上,明らかというべきである。
原告の主張は採用できない。
4 取消事由4(訂正考案の顕著な作用効果の看過)について 原告主張の作用効果は,訂正考案の構成から得られる自明の効果であり,このような効果が同考案の登録を根拠づけ得るものでないことは,論ずるまでもないところである。原告の上記主張も採用できない。
5 取消事由5(本件考案と引用考案1との相違点についての認定判断の誤り及び本件考案の顕著な作用効果の看過)について 訂正考案と引用考案1との相違点と,本件考案と引用考案1との相違点とが同一であることは,当事者間に争いがない。
そうすると,本件考案進歩性が認められないことは,取消事由1ないし4について認定判断したのと同様となる。
6 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他本件決定には,これを取り消すべき瑕疵が見あたらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充