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関連審決 審判1999-35011
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  新規性(3条1項) /  拒絶理由 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 /  明瞭でない記載 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 266号 審決取消請求事件
原告 株式会社ユタカ
訴訟代理人弁護士 佐藤泰正、阿部泰典、飯田丘、鈴木正勇、弁理士 志村正 和、阪本清孝
被告 イノテック株式会社
訴訟代理人弁護士 阿部佳基、松留克明、和田信博、渡辺広己、中川豊、野中武 復代理人弁理士 大塚康徳
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/14
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第35011号事件について平成13年5月1日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 実用新案登録第2134718号の請求項1及び請求項2に係る考案(考案の名称「ガス圧力調整器」)は、平成元年12月29日(優先日同年3月28日、日本国)に出願され(実願平1-151529号)、平成8年1月29日に出願公告(実公平8-2735号)され、同年9月10日にその実用新案設定登録がされた。原告は、上記考案の実用新案権者である。
被告は、平成10年12月29日、上記考案のうち請求項1に係る考案(本件考案)について無効審判の請求をし、原告は、平成11年5月10日訂正請求(本件訂正)をしたが、平成13年5月1日、「実用新案登録第2134718号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同月15日原告に送達された。
2 本件考案(請求項1に係る考案)の要旨 (1) 本件訂正後(訂正考案) ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、上記ハウジングに被冠されたカバーと、上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラムと、該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と、該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体と、上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置された鍔を有する箱体と、上記カバー内に配置され上記箱体を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、上記カバー内のスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され、箱体を反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したことを特徴とするガス圧力調整器。
(2) 本件訂正前 ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、上記ハウジングに被冠されたカバーと、上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラム、該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と、該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体と、上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置された箱体と、上記カバー内に配置され上記箱体を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、上記カバー内に配置され箱体を反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したことを特徴とするガス圧力調整器。
3 審決の理由の要点 (1) 訂正の可否についての判断 (1)-1 本件訂正 上記訂正請求に係る訂正事項(本件訂正)は、(a)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1の「ダイヤフラム、」(4行ないし5行)及び考案の詳細な説明の項の「ダイヤフラム、」(実用新案公報4欄19行)の記載を「ダイヤフラムと、」と訂正、(b)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1の「配置された箱体」を「配置された鍔を有する箱体」と訂正、考案の詳細な説明の項の「配置された箱体」(実用新案公報4欄25行)を「配置された鍔を有する箱体」と訂正、(c)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1の「カバー内に配置され」を「カバー内のスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され、」と訂正、考案の詳細な説明の項の「カバー内に配置され」(実用新案公報4欄29行)を「カバー内のスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され、」と訂正、(d)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲請求項2において「配置された箱体、」と「第2調整スプリング」との間に「請求項1に記載の鍔に代えて、」の文字を挿入、考案な詳細な説明の項の「配置された箱体、」と「第2調整スプリング」との間(実用新案公報4欄34行)に「請求項1に記載の鍔に代えて、」を挿入、(e)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「結部材」(実用新案公報3欄38行)を「連結部材」と訂正、(f)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「シート部」(実用新案公報5欄12行及び13行)を「連結部材」と訂正、(g)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「ダイヤウラム」(実用新案公報5欄17行)を「ダイヤフラム」と訂正、(h)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「弁体」(実用新案公報5欄32行)を「反弁体」と訂正、(i)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「溝」(実用新案公報5欄45行)を「隙間10」と訂正、(j)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「弁体7」(実用新案公報6欄29行)を「弁体9」と訂正、(k)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「流出孔」(実用新案公報6欄30行)を「流出口」と訂正、(l)訂正前明細書考案の詳細な説明の項の「流量口」(実用新案公報8欄4行)を「流入口」と訂正しようとするものである。
(1)-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項(a)は明瞭でない記載の釈明に該当する。訂正事項(b)、(c)のうちの請求項1に係る訂正事項である「配置された鍔を有する箱体」及び「カバー内のスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され、」は出願当初の明細書に添付された図面に示された構成で、かかる構成の付加は実用新案請求の範囲減縮を目的とするものに該当し、また、これによって実用新案登録請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、訂正事項(b)、(c)のうち考案の詳細な説明の項に係る訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。訂正事項(d)、(h)は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、訂正事項(e)、(f)、(i)、(j)、(k)及び(l)は誤記の訂正を目的とするものに該当する。
(1)-3 独立登録要件 (1)-3-1 訂正考案 訂正明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1に記載された考案(訂正考案)は次のとおりのものである。
「ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、上記ハウジングに被冠されたカバーと、上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラムと、該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と、該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体と、上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置された鍔を有する箱体と、上記カバー内に配置され上記箱体を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、上記カバー内のスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され、箱体を反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したことを特徴とするガス圧力調整器。」 (1)-3-2 引用例 審判での訂正拒絶理由で引用した米国特許第4744387号明細書(審判甲第1号証の1。引用例1)に、「例えば、多くの工程が最高の純度で提供される流体を必要としている。実施例の一つが半導体工業の場合、この工業では、レギュレータそれ自身から流体の流れの中に導入された迷い子の微粒子は、これらが製品機能を破壊する場所にある製品に付着した時に極めて高価な製品をスクラップ化してしまう。一つの実施例は導電性粒子であって、チップ上の二つの電子素子を架橋してまう。レギュレータ内部でこの種の微粒子の発生源は、隔膜、バルブそして特に流体経路中のバネ類である。事例としてバネの屈曲作用、部品間の擦り合い又はぶつかり合いが、相対する部品間のバネの摩擦を含めている。」(1欄19行ないし32行)、「自由作動するあらゆる部品及び流れ経路中の摩擦接触を取り除き、空隙部容積を最小化するために流れ経路からすべてのバネを取り除くことが本発明の目的である。」(1欄48行ないし51行)、「本発明のレギュレータ10は、ネジ山13で螺合接合される二つの部品11、12で構成される本体を有する。バルブは作動線14を有する。入口15は伸びて本体に入り、感知空隙部21に入る。軸線14上のポペット通路22は入口空隙部及び出口空隙部と相互に連結する。隆起したリング形弁座25がポペット通路を取り囲み、ここで弁座が入口空隙部に入る。感知空隙部は部分的に本体で拘束され、また部分的に可撓性隔膜26で覆われる。該隔膜は円形(空隙部やポペット通路と同様に)であり、しかも中心部分は軸線方向に動き、この時隔膜を横切る差動力が変化する。ポペットステム27がポペット口を通るが周囲に隙間があるので摩擦は起きない。ポペットヘッド28がステムに取り付けられるか、又はステムと一体構成される。ポペットヘッド上のシール29は座に接した時にポペット通路を閉じるように座に面している。」(2欄36行ないし58行)、「固定物32は隔膜に取り付けられて封止されるフランジ32aを持つ。底部バネ案内33は隔膜に担持され、固定物32が通っている。上方バネ案内34は底部バネ案内に対面し、距離バネ35がこれら両方の案内間に置かれ、圧縮状態にある。」(3欄1行ないし6行)、「ポペットバネ60は固定物32と56の間に引っ張られた状態でその両端で保持された引っ張り形コイルバネである。このバネ60の性向は隔膜を上方に引き寄せる傾向を持つ。距離バネの性向は隔膜を下方に押し込む傾向を持つ。距離バネが印可する圧縮力は距離バネ調節ネジを旋回して調節できる。ポペットバネに加わる張力はポペットバネ調節ネジを旋回して調節できる。」(3欄25行ないし32行)、「流体の流れ中には、自由作動部品、又はバネ、又は摩擦部品が存在しないことが観察されよう。唯一の物理的接触はポペットとその座の間のみである。」(3欄39行ないし42行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、引用例1は訂正考案の技術的課題、すなわち、「弁の開閉、すなわち、弁体109の摺動に伴い、スプリング111が伸縮するが、このスプリング111の伸縮により、スプリングとハウジング101とが接触して、金属粉等が発生する。スプリング111はガス流路途中に配置されているので、上記発生した金属粉が流通するがガス中に混入して、ガスの品質を低下させてしまうという問題点があった。特に、ICの製造等の半導体産業において使用するガスは、高純度であることが望ましく、そのため、従来はスプリング111として耐食性に優れた特殊な材質のものを使用する等、コスト的にも好ましくない方策を余儀なくされていた。本考案は上記実情に鑑みてなされたもので、スプリングとハウジングとの摺接により発生する金属粉等がガス中に混入されることのないガス圧力調整器を提供することを目的としている。」(訂正明細書3頁5行ないし16行)という技術的課題と同様の技術的課題を解決するものであって、そのための構成として「ガス流入口とガス流出口を備えるとともに入口空隙部及びリング形弁座を一体的に備えた部品11と、上記部品11と部品12との間に形成された感知空隙部と、上記可撓性隔膜に連結された可撓性隔膜の変形により上記入口空隙部内を移動して上記リング形弁座の開閉をなすポペットヘッドと、上記可撓性隔膜の反ポペットヘッド側の部品12内に配置された底部バネ案内と上部バネ案内との配置され上記底部バネ案内を介して可撓性隔膜をポペットヘッド方向に付勢する距離バネと、上記部品12内に取り付けられ上記距離バネを調整する摘まみと、上記部品12内の固定物32と56との間に配置され、底部バネ案内を反ポペットヘッド方向に付勢するポペットバネと、を具備したガス圧力調整器」との考案(引用例1考案)が開示されていると認めることができる。
同じく、審判の訂正拒絶理由で引用した米国特許第4807849号明細書(審判甲第3号証の1。引用例2)に、「本発明の目的は、螺合手段の存在に起因する前述のバーチャルリークの問題を回避する改良した流体流れ制御装置を提供することにある。更に詳しくは、本発明の目的は、内部螺合手段を採用せずにシールを設計した位置に保持、すなわち締め付ける構造を持ち改良された流体流れ制御装置を提供することにある。」(1欄24行ないし31行)、「ここで図を参照すると、
直径方向に漸増する力から、装置2のシール上に、集中中心力を生み出す目的で力を伝達するために、本発明の圧縮部材1が、本発明の流体流れ制御装置2の中に使用された状態が示されている。圧縮部材1は、集中中心力をシール3に与えるために圧縮部材の一方の側の中心に位置する第一表面4と、第一表面と反対側の部材1の第二側面状の大きい直径の第二表面5とを有する。第二表面5の半径方向外側部分6はその半径方向内側部分よりも高くなっていて、直径方向に大きい力が印可される接触表面を提供している。圧縮部材1には流体通路7が形成されており、この流体通路は第一表面4から第二表面5に向け部材の中心軸線8に沿いこの圧縮部材を貫通している。」(3欄46行ないし4欄7行)、「アーム10の下方表面11はくり抜き溝13を介して圧縮部材1の中心部分12に接合される。
第二表面5の外側周辺部分の上には環状リム14があり、このリムは直径方向に漸増する力が印可される接触面となっている。このリム14はまたスペーサとしても機能し、流体流れ制御装置2の隔膜15を、図示のようなアーム10の中に均一に離間された四つの流体通路16の障害とならないように保持する。アーム10のテーパーのついた形状と、圧縮部材の下方中心部分12のくり抜き溝13とがこの圧縮部材の固定応力部材を構成する。すなわち、圧縮部材のアーム10のあらゆる部分は等しく応力を受け、圧縮部材のアームが負荷中心に湾曲するようになっている。くり抜き部分13がなかったならば、中心部分12とアーム10の下方表面11との交点に過剰応力が生じる筈である。」(4欄41行ないし59行)と記載されていることが認められる。
同じく、審判の訂正拒絶理由で引用した米国特許第1859089明細書(審判甲第5号証の1。引用例3)に、「バルブ・ケーシング1は、入口フランジ2と出口フランジ3とそれぞれ、また弁シート支持物5中で終わる内部下向き排出流体進入チャネル4と一体化された鋳造物である。比較的短い円筒状ケーシング20はプランジャ・ダイヤフラム80を収容し、低圧膨張室として働く。この室本体は、バルブ・ケーシングのトップ・フランジ6にねじ込まれ、レンチを用いて、プランジャ・ダイヤフラムの周辺部分がその間に締め付けられて、ケーシングの直立フランジ部分23上に設けられた平面と係合する。膨張室のケーシングはトップ・キャップ30を担持する。バルブ・ケーシングの底部は、ねじによって連結された個別のボトム・カップ40によって形成されている。ダイヤフラムの中央で支持されて、
垂直に延びるバルブ・オペレータは2つの一体にねじ込まれる部材50、60から成り、その間にはプランジャ・ダイヤフラムが締め付けられており、バルブを操作するための限られた垂直移動を自由に実施できる。下部の分岐部材又はヨーク部材50は、リング部分52中のねじ式結合によって作動可能なバルブ・ディスク51を担持し、上部中空スピンドル部材60は、それぞれ61と62とで示す内部押し下げスプリングと外部押し上げスプリングのためのガイドとして働く。バルブ・オペレータの押し下げがバルブの開きに該当し、バルブ・オペレータの押し上げがバルブの閉じに相当することは明白である。」(1頁左欄49行ないし右欄81行)、「ボトム・クロージャ40はソケット41付きで形成され、ソケット41は、バルブ・ディスク51から垂れ下がる棒部分56を受け入れ案内するために内側が機械加工されているので、バルブ・オペレータは正確に案内され、その移動は下向きに制限されている。ボトム・カップ40の着脱を容易にするために、その外側部分はナット面42を備えている。」(2頁左欄3行ないし11行)と記載されていることが認められる。
同じく、審判の訂正拒絶理由で引用した実願昭59-152387号(実開昭61-70211号)のマイクロフィルム(審判甲第10号証。引用例4)に、「第1図に示されるように、この減圧弁1は、供給ポンプ側に接続される一次側通路3と、ノズル側に接続される二次側通路4とをそれぞれ開設されているボデー2を備えており、ボデー2には弁通路5が一次側通路3と二次側通路4とを連通するように開設されている。弁通路5には弁体7が進退自在に挿通されており、弁体7は弁通路5に形成されている弁座6に離着座することにより弁通路5を開閉するように構成されている。ボデー2には中空部8が形成されており、中空8の内部にはダイヤフラム11が中空部8を横断して2室に仕切るように張設されている。中空部8の内部をダイヤフラム11に仕切られてなる一方の室9には連絡通路13が二次側通路4に連通するように開設されており、この連通により、この室は圧力室を構成するようになっている。この圧力室9には弁体7の先端部が突出されており、弁体7はばね14により、ダイヤフラム11の中央部に保持されている受け具12にその先端面が常時当設するように、付勢されている。・・・この大気室10の内部には弁ばね16がボデー2に反力をとって弁体7を弁座6から離反させる方向に常時付勢するように配設されている。すなわち、大気室10における弁体7の延長線上には、ばね受け18を保持している調整ねじ部材17が進退調整可能に螺合されており、ばね受け18とダイヤフラム11の受け具12との間には、圧縮コイルばねからなる弁ばね16が蓄力状態で介設されている。また、大気室10の内部には感温ばね19がボデー2に反力をとって弁体7を弁ばね16の付勢方向とは反対方向に付勢するように配設されている。すなわち、ダイヤフラム11の受け具12には略筒形状に形成されているばね受け具20が、弁ばね16の外側を包囲するように同心的に配されて保持されており、ばね受け具20におけるダイヤフラム11とは反対側の端部に突設された係合部21と、大気室10の内周面におけるダイヤフラム11に寄った位置に突設されている係合部22との間には、昇温時に伸張する特性を持つ形状記憶合金により圧縮コイルばね形状に形成されている感温ばね19が弁ばね16と同心的に配されて介設されている。そして、この感温ばね19は大気室10の温度が上昇した時に、伸張変形することにより、弁ばね16に抗する付勢力を増加するように設定されている。」(4頁11行ないし7頁1行)と記載されていることが認められる。
(1)-3-3 対比・判断 訂正考案の構成要件の一部として実用新案登録請求の範囲請求項1に記載されている「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」に関し、訂正明細書に「上記ハウジング1には、カバー11が被冠されており、カバー11とハウジング1との間には仕切体13が介在している。この仕切体13はハウジング1側に固着されており、その中央部には弁シート15が形成されている。この弁シート15と上記弁体9とにより弁を構成している。」(訂正明細書4頁21行ないし24行)と記載され、また、図面第1図にはハウジング1、弁シート15、仕切体13はそれぞれ別体のものとして図示されているといえ、これらによれば、「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」の技術的意味はハウジングとは別体のものとして備えられた弁シートを保持するものであって、それ以上の意味、すなわち、ガス圧力の調整に関与する等の技術的意味を有するものでないことは訂正明細書及び技術常識に照らして明らかである。
そこで、訂正考案と引用例1考案とを対比するに、まず、両者で使用されている用語の意味につきそれらの技術的意味ないし機能の観点から考えると、引用例1考案の、「入口空隙部」、「リング形弁座」、「部品11」、「部品12」、「可撓性隔膜」、「感知空隙部」、「ポペットヘッド」、「距離ばね」、「摘み」、「ポペットばね」はそれぞれ訂正考案の「弁室」、「弁シート」、「ハウジング」、
「カバー」、「ダイヤフラム」、「ダイヤフラム室」、「弁体」、「第1調整スプリング」、「ハンドル」、「第2調整スプリング」に相当するものといえる。
そうすると、両者は「ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、上記ハウジングに被冠されたカバーと、上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラムと、該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたとの間に形成されたダイヤフラム室と、該ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に設けられたダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、ダイヤフラムを反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したガス圧力調整器。」の点で一致し、
@ 訂正考案が弁シートをハウジングに別体に形成して備え、ダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体を設けたのに対し、引用例1考案が弁シートをハウジングに一体的に形成し、仕切体を備えていない点、
A 訂正考案が第1調整スプリングを鍔を有する箱体に、第2調整スプリングを箱体の鍔とカバー内のスプリング受座との間に配置したのに対し、引用例1考案が第1調整スプリングを底部ばね案内と上方ばね案内との間に、第2調整スプリングを第1調整ばね内方に位置する上下の固定物の間に配置した点、
でそれぞれ相違する。
前記各相違点について検討する。
イ 相違点@について 引用例2の前記記載によれば、引用例2には、訂正考案が属する技術分野であるガス圧力調整器においてシール(訂正考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が示されており、このハウジングとは別体として備えられたシールを引用例1考案のハウジングに一体的に形成された弁シートに代えて採用し、このシールの保持部材として圧縮部材を用いることは当業者が容易に着想できることであり、そして、引用例1考案にはその構成上シールと圧縮部材の採用を妨げるべき事情は存在しないのであるから、訂正考案の相違点@に係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。
この点に関し、原告は、引用例1の構造に仕切体を具備させるためには、引用例2におけるリング20のように仕切体を押し付ける部材が必要となるが、カバー内にリング20のような部材を装着すると、その場所に訂正考案の第2調整スプリングが配置できなくなるので、引用例1、引用例2、引用例3及び引用例4の記載を単に組み合わせても、訂正考案のように第1調整スプリングの外側に第2調整スプリングを配置した状態で仕切板を具備する構成は得られない旨主張する。
確かに、引用例2はリング20を設けているが、訂正拒絶理由が引用例2を引用した趣旨は、ガス圧力調整器においてシール(訂正考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が存在するということであって、リング20までを引用しているものではない。そして、圧縮部材を押し付ける部材は、圧縮部材がその機能を発揮できる限度で採用して足りるものといえ、引用例1においては、可撓性隔膜を挟んでいる部材11(訂正考案のハウジングに相当する。)と部材12(訂正考案のカバーに相当する。)との部分にその適用の余地があるというべきである。
なお、訂正考案が第2調整スプリングが配置されるカバー内のスプリング受座と仕切体の関連構成について何ら限定するものでないことは訂正明細書請求項1の記載に照らして明らかである。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
ロ 相違点Aについて 引用例4の前記記載によれば、引用例4にはダイヤフラムの反弁体側のボデー(訂正考案のカバーに機能上相当する。)内に配置された係合部を有するばね受け具(訂正考案の鍔を有する箱体に相当する。)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(訂正考案の第1調整スプリングに相当する。)とボデー内の係合部(訂正考案のカバー内のスプリング受座に相当する。)とばね受け具の係合部との間に箱体を反弁体方向に付勢するスプリングを配置するとの訂正考案の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置構成と共通する構成が示されている。
もっとも、引用例4の圧力制御弁はインクジェットプリンタのインクを加圧するもので、また、ボデー内の係合部とばね受け具の係合部に配置するスプリングが感温ばねである点で訂正考案とは異なるといえるが、しかし、引用例4のばね受け具自体についてみれば、その係合部に配設されるばねが感温ばねでなければ使用できないとする技術的理由は見当たらず、そうすると、引用例4からは、係合部を有するばね受け具の内外にばねを配置(ばね受け具の内部と係合部21と係合部22による外部に配置)するとの構成を摘出することができ、そして、引用例3には正確に案内させるためにバルブ・スティックから垂れ下がる棒部分をソケットに案内させるものではあるが、流体圧力調整弁においてナットを有するスピンドル部材を用いて内部押し下げスプリングをスピンドル内部に配置し、ナットとばね受け座との間に外部押し上げスプリングを配置するという技術思想が開示されているのであるから、この引用例3に接した当業者であれば、引用例4の2つのばねを内部押し下げスプリング、外部押し上げスプリングとし、このばね受け具の構成を引用例1の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置に代えて適用しようとすることは容易に着想できるものといえ、そして、その適用に当たり、引用例1の底部ばね案内とダイヤフラムとの接続関係を鍔を有する箱体とダイヤフラムとの接続関係として足りるのであるから、訂正考案の相違点Aに係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。
この点に関し、原告は、引用例4における感温ばね19は、温度が上昇した場合の弁ばね16に抗する付勢力の調整を目的とし、常時弁体7を押し上げるように作用するものではなく、弁体7とばね受け部材20とが分離した構成が前提となっているのであり、感温ばねは、訂正考案の第2調整スプリングとその作用を全く異にし、感温ばねの有する作用を無視してばねの配置の仕方だけを単純に比較し、訂正考案のばねの配置構成を容易に想到できるものではなく、また、引用例3は、下方位置にガイド機構を有する流体圧力調整弁であり、引用例3及び引用例4を組み合わせても訂正考案における「箱体を使用した2つのばねの配置構成」にならない旨主張する。
確かに引用例4のばね受け具20の係合部21とボディー2に形成された係合部22との間に配設され、使用されるばねは感温ばねではあるが、しかし、引用例4の係合部21を有するばね受け具20自体の構成が、その係合部21に配設されるばねが感温ばねでなければばね受け具として使用できないとする技術的理由はなく、そうすると、引用例4からは、係合部を有するばね受け具の内外にばねを配置(ばね受け具の内部と係合部21と係合部22による外部に配置)するとの構成を摘出することができ、そして、引用例3には正確に案内させるためにバルブ・スティックから垂れ下がる棒部分をソケットに案内させるものではあるが、流体圧力調整弁においてナットを有するスピンドル部材を用いて内部押し下げスプリングをスピンドル内部に配置し、ナットとばね受け座との間に外部押し上げスプリングを配置するという技術思想が開示されているのであるから、引用例4の前示の係合部を有するばね受け具のばねの配置と引用例3のばねの配置関係から、「箱体を使用した2つのばねの配置構成」は容易に導き出せるというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
また、原告は、カバーで覆うことにより独立部材としてのスプリング受座が固定され、このスプリング受座によりダイヤフラムとの間をシールする構成となっていると主張する。
しかしながら、訂正発明がスプリング受座に関して規定するのは「カバー内のスプリング受座」とするだけで、この規定からは、スプリング受座がカバーの内側に一体として形成されているもの、別体のものとしてカバーの内側に位置するものとのいずれにも解することができる。そして、原告が主張するようにスプリング受座が独立部材(カバーの内側に位置するもの)と解したとしても、訂正考案が、スプリング受座がダイヤフラムとの間をシールすることについて何ら規定するものでないことは訂正明細書請求項1の記載に照らして明らかであり、また、スプリング受座がその機能を発揮するには何かに固定されていなければならないのであるから、そうすると、スプリング受座がカバーの内側に一体として形成されているものと別体のものとしてカバーの内側に位置するもの(別体としてカバー内に固定されているもの)との間には格別の技術的意義が存在するものとは認められない。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
そして、訂正考案が奏する「まず、第2調整スプリング31の摺動に伴って発生する金属粉等のガス中への混入を防止することができるので、ガスの品質を維持することができる。特に、IC等の半導体の製造におけるように、高純度のガスを使用する場合には効果的である。また、第2調整スプリング31として、耐食性に優れた特殊のものを使用する必要はなく、設計自由度の拡大を図ることができる。」(訂正明細書5頁15行ないし6頁1行)との作用効果も引用例1ないし4から当業者が予測できる範囲のものである。
(1)-4 訂正の可否に関するむすび 以上のとおりであるから、訂正明細書請求項1に係る考案は、引用例1ないし4の記載に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法(平成5年法律第26号)附則4条2項の旧実用新案法40条2項の読替規定中5号で準用する旧実用新案法39条3項において規定する独立要件に違反するものであるから、本件訂正は認めることのできないものである。 (2) 無効理由について (2)-1 請求人(被告)の主張 a 本件請求項1に係る考案は、審判甲第5号証又は審判甲第10号証に記載された考案と同一であり、実用新案法3条1項3号の規定に違反して実用新案登録されたものであり、同法37条1項2号に規定に該当し無効とされるべきものである。
b 本件請求項1に係る考案の仕切体は必須の構成要素とはいえないから、本件登録実用新案は審判甲第5号証から当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定に違反して実用新案登録されたものであるから、同法37条1項2号の規定に該当し無効とされるべきものである。
c 本件登録実用新案の明細書及び図面(第5図)における従来技術(審判甲第19号証、審判甲第20号証、審判甲第21号証、審判甲第22号証)に審判甲第5号証、審判甲第10号証、及び審判甲第11号証、審判甲第13号証ないし審判甲第15号証のいずれかに記載された箱体に相当する構成を組み合わせて、本件請求項1に係る考案とすることは当業者が極めて容易に想到できることであるから、
本件登録実用新案は、実用新案法3条2審判甲の規定に違反して登録されたものであり、同法37条1項2号の規定に該当し無効とされるべきものである。
d 本件請求項1に係る考案は、審判甲第1号証の1の1及び審判甲第2号証の1、審判甲第6号証の1及び審判甲第7号証の1、審判甲第12号証の1のいずれかに記載された基本となる構成に、審判甲第3号証の1、審判甲第8号証の1及び審判甲第9号証のいずれかに記載の仕切体に相当する構成と、審判甲第5号証の1、審判甲第10号証、審判甲第11号証の1、審判甲第13号証の1ないし審判甲第15号証のいずれかに記載された箱体に相当する構成とを組み合わせて当業者であれば極めて容易に考案できたものであり、本件登録実用新案は実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法37条1項2号項の規定に該当し無効とされるべきものである。
e 本件請求項1に係る考案は、審判甲第2号証の1ないし3、及び審判甲第16号証1及び2に記載された本件登録実用新案の出願前に日本国において公然と実施された考案(証人井本明良、同木村幸正の証言)であり、実用新案法3条1項2号に該当し、同法37条1項2号により無効とされるべきである。
f 本件明細書(請求項1及び考案の詳細な説明の項)には記載不備があり、実用新案法5条4項及び5項に規定する要件を満たさないものであるから、実用新案法37条1項4号の規定に該当し無効である。
(2)-2 審決の判断 無効理由dについて検討する。
(2)-2-1 本件登録実用新案の請求項1に係る考案(本件考案)は、明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。
「ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、上記ハウジングに被冠されたカバーと、上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラム、該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と、該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体と、上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置された箱体と、上記カバー内に配置され上記箱体を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、上記カバー内に配置され箱体を反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したことを特徴とするガス圧力調整器。」 (2)-2-2 審判甲第1号証の1(米国特許第4744387号明細書。引用例1)に、「例えば、多くの工程が最高の純度で提供される流体を必要としている。
実施例の一つが半導体工業の場合、この工業では、レギュレータそれ自身から流体の流れの中に導入された迷い子の微粒子は、これらが製品機能を破壊する場所にある製品に付着した時に極めて高価な製品をスクラップ化してしまう。一つの実施例は導電性粒子であって、チップ上の二つの電子素子を架橋してしまう。レギュレータ内部でこの種の微粒子の発生源は、隔膜、バルブそして特に流体経路中のバネ類である。事例としてバネの屈曲作用、部品間の擦り合い又はぶつかり合いが、相対する部品間のバネの摩擦を含めている。」(1欄19行ないし32行)、「自由作動するあらゆる部品及び流れ経路中の摩擦接触を取り除き、空隙部容積を最小化するために流れ経路からすべてのバネを取り除くことが本発明の目的である。」(1欄48行ないし51行)、「本発明のレギュレータ10は、ネジ山13で螺合接合される二つの部品11、12で構成される本体を有する。バルブは作動線14を有する。入口15は伸びて本体に入り、感知空隙部21に入る。軸線14上のポペット通路22は入口空隙部及び出口空隙部と相互に連結する。隆起したリング形弁座25がポペット通路を取り囲み、ここで弁座が入口空隙部に入る。感知空隙部は部分的に本体で拘束され、また部分的に可撓性隔膜26で覆われる。該隔膜は円形(空隙部やポペット通路と同様に)であり、しかも中心部分は軸線方向に動き、この時隔膜を横切る差動力が変化する。ポペットステム27がポペット口を通るが周囲に隙間があるので摩擦は起きない。ポペットヘッド28がステムに取り付けられか、又はステムと一体構成される。ポペットヘッド上のシール29は座に接した時にポペット通路を閉じるように座に面している。」(2欄36行ないし58行)、「固定物32は隔膜に取り付けられて封止されるフランジ32aを持つ。底部バネ案内33は隔膜に担持され、固定物32が通っている。上方バネ案内34は底部バネ案内に対面し、距離バネ35がこれら両方の案内間に置かれ、圧縮状態にある。」(3欄1行ないし6行)、「ポペットバネ60は固定物32と56の間に引っ張られた状態でその両端で保持された引っ張り形コイルバネである。このバネ60の性向は隔膜を上方に引き寄せる傾向を持つ。距離バネの性向は隔膜を下方に押し込む傾向を持つ。距離バネが印可する圧縮力は距離バネ調節ネジを旋回して調節できる。ポペットバネに加わる張力はポペットバネ調節ネジを旋回して調節できる。」(3欄25行ないし32行)、「流体の流れ中には、自由作動部品、又はバネ、又は摩擦部品が存在しないことが観察されよう。唯一の物理的接触はポペットとその座の間のみである。」(3欄39行ないし42行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば引用例1は本件考案の技術的課題、すなわち、「弁の開閉、すなわち、弁体109の摺動に伴い、スプリング111が伸縮するが、このスプリング111の伸縮により、スプリングとハウジング101とが接触して、金属粉等が発生する。スプリング111はガス流路途中に配置されているので、上記発生した金属粉が流通するがガス中に混入して、ガスの品質を低下させてしまうという問題点があった。特に、ICの製造等の半導体産業において使用するガスは、高純度であることが望ましく、そのため、従来はスプリング111として耐食性に優れた特殊な材質のものを使用する等、コスト的にも好ましくない方策を余儀なくされていた。本考案は上記実情に鑑みてなされたもので、スプリングとハウジングとの摺接により発生する金属粉等がガス中に混入されることのないガス圧力調整器を提供することを目的としている。」(明細書3頁5行ないし16行)という技術的課題と同様の技術的課題を解決するものであって、そのための構成として「ガス流入口とガス流出口を備えるとともに入口空隙部及びリング形弁座を一体的に備えた部品11と、上記部品11と部品12との間に形成された感知空隙部と、上記可撓性隔膜に連結された可撓性隔膜の変形により上記入口空隙部内を移動して上記リング形弁座の開閉をなすポペットヘッドと、上記可撓性隔膜の反ポペットヘッド側の部品12内に配置された底部バネ案内と上部バネ案内との配置され上記底部バネ案内を介して可撓性隔膜をポペットヘッド方向に付勢する距離バネと、上記部品12内に取り付けられ上記距離バネを調整する摘まみと、上記部品12内の固定物32と56との間に配置され、底部バネ案内を反ポペットヘッド方向に付勢するポペットバネと、を具備したガス圧力調整器」との考案(引用例1考案)が開示されていると認めることができる。
審判甲第3号証の1(米国特許第4807849号明細書。引用例2)に、「本発明の目的は、螺合手段の存在に起因する前述のバーチャルリークの問題を回避する改良した流体流れ制御装置を提供することにある。更に詳しくは、本発明の目的は、内部螺合手段を採用せずにシールを設計した位置に保持、すなわち締め付ける構造を持ち改良された流体流れ制御装置を提供することにある。」(1欄24行ないし31行)、「ここで図を参照すると、直径方向に漸増する力から、装置2のシール上に、集中中心力を生み出す目的で力を伝達するために、本発明の圧縮部材1が、本発明の流体流れ制御装置2の中に使用された状態が示されている。圧縮部材1は、集中中心力をシール3に与えるために圧縮部材の一方の側の中心に位置する第一表面4と、第一表面と反対側の部材1の第二側面状の大きい直径の第二表面5とを有する。第二表面5の半径方向外側部分6はその半径方向内側部分よりも高くなっていて、直径方向に大きい力が印可される接触表面を提供している。圧縮部材1には流体通路7が形成されており、この流体通路は第一表面4から第二表面5に向け部材の中心軸線8に沿いこの圧縮部材を貫通している。」(3欄46行ないし4欄7行)、「アーム10の下方表面11はくり抜き溝13を介して圧縮部材1の中心部分12に接合される。第二表面5の外側周辺部分の上には環状リム14があり、このリムは直径方向に漸増する力が印可される接触面となっている。このリム14はまたスペーサとしても機能し、流体流れ制御装置2の隔膜15を、図示のようなアーム10の中に均一に離間された四つの流体通路16の障害とならないように保持する。アーム10のテーパのーついた形状と、圧縮部材の下方中心部分12のくり抜き溝13とがこの圧縮部材の固定応力部材を構成する。すなわち、圧縮部材のアーム10のあらゆる部分は等しく応力を受け、圧縮部材のアームが負荷中心に湾曲するようになっている。くり抜き部分13がなかったならば、
中心部分12とアーム10の下方表面11との交点に過剰応力が生じる筈である。」(4欄41行ないし59行)と記載されていることが認められる。
審判甲第5号証の1(米国特許第1859089明細書。引用例3)に、「バルブ・ケーシング1は、入口フランジ2と出口フランジ3とそれぞれ、また弁シート支持物5中で終わる内部下向き排出流体進入チャネル4と一体化された鋳造物である。比較的短い円筒状ケーシング20はプランジャ・ダイヤフラム80を収容し、
低圧膨張室として働く。この室本体は、バルブ・ケーシングのトップ・フランジ6にねじ込まれ、レンチを用いて、プランジャ・ダイヤフラムの周辺部分がその間に締め付けられて、ケーシングの直立フランジ部分23上に設けられた平面と係合する。膨張室のケーシングはトップ・キャップ30を担持する。バルブ・ケーシングの底部は、ねじによって連結された個別のボトム・カップ40によって形成されている。ダイヤフラムの中央で支持されて、垂直に延びるバルブ・オペレータは2つの一体にねじ込まれる部材50、60から成り、その間にはプランジャ・ダイヤフラムが締め付けられており、バルブを操作するための限られた垂直移動を自由に実施できる。下部の分岐部材又はヨーク部材50は、リング部分52中のねじ式結合によって作動可能なバルブ・ディスク51を担持し、上部中空スピンドル部材60は、それぞれ61と62とで示す内部押し下げスプリングと外部押し上げスプリングのためのガイドとして働く。バルブ・オペレータの押し下げがバルブの開きに該当し、バルブ・オペレータの押し上げがバルブの閉じに相当することは明白である。」(1頁左欄49行ないし右欄81行)、「ボトム・クロージャ40はソケット41付きで形成され、ソケット41は、バルブ・ディスク51から垂れ下がる棒部分56を受け入れ案内するために内側が機械加工されているので、バルブ・オペレータは正確に案内され、その移動は下向きに制限されている。ボトム・カップ40の着脱を容易にするために、その外側部分はナット面42を備えている。」(2頁左欄3行ないし11行)と記載されていることが認められる。
審判甲第10号証(実願昭59-152387号(実開昭61-70211号)のマイクロフィルム。引用例4)に、「第1図に示されるように、この減圧弁1は、供給ポンプ側に接続される一次側通路3と、ノズル側に接続される二次側通路4とをそれぞれ開設されているボデー2を備えており、ボデー2には弁通路5が一次側通路3と二次側通路4とを連通するように開設されている。弁通路5には弁体7が進退自在に挿通されており、弁体7は弁通路5に形成されている弁座6に離着座することにより弁通路5を開閉するように構成されている。ボデー2には中空部8が形成されており、中空8の内部にはダイヤフラム11が中空部8を横断して2室に仕切るように張設されている。中空部8の内部をダイヤフラム11に仕切られてなる一方の室9には連絡通路13が二次側通路4に連通するように開設されており、この連通により、この室は圧力室を構成するようになっている。この圧力室9には弁体7の先端部が突出されており、弁体7はばね14により、ダイヤフラム11の中央部に保持されている受け具12にその先端面が常時当設するように、付勢されている。・・・この大気室10の内部には弁ばね16がボデー2に反力をとって弁体7を弁座6から離反させる方向に常時付勢するように配設されている。すなわち、大気室10における弁体7の延長線上には、ばね受け18を保持している調整ねじ部材17が進退調整可能に螺合されており、ばね受け18とダイヤフラム11の受け具12との間には、圧縮コイルばねからなる弁ばね16が蓄力状態で介設されている。また、大気室10の内部には感温ばね19がボデー2に反力をとって弁体7を弁ばね16の付勢方向とは反対方向に付勢するように配設されている。すなわち、ダイヤフラム11の受け具12には略筒形状に形成されているばね受け具20が、弁ばね16の外側を包囲するように同心的に配されて保持されており、ばね受け具20におけるダイヤフラム11とは反対側の端部に突設された係合部21と、大気室10の内周面におけるダイヤフラム11に寄った位置に突設されている係合部22との間には、昇温時に伸張する特性を持つ形状記憶合金により圧縮コイルばね形状に形成されている感温ばね19が弁ばね16と同心的に配されて介設されている。そして、この感温ばね19は大気室10の温度が上昇した時に、伸張変形することにより、弁ばね16に抗する付勢力を増加するように設定されている。」(4頁11行ないし7頁1行)と記載されていることが認められる。
(2)-2-3 対比・判断 本件考案の構成要件の一部として実用新案登録請求の範囲請求項1に記載されている「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」に関し、明細書考案の詳細な説明の項に、「上記ハウジング1には、カバー11が被冠されており、カバー11とハウジング1との間には仕切体13が介在している。この仕切体13はハウジング1側に固着されており、その中央部には弁シート15が形成されている。この弁シート15と上記弁体9とにより弁を構成している。」(実用新案公報5欄9行ないし13行)と記載され、また、図面第1図にはハウジング1、弁シート15、仕切体13はそれぞれ別体のものとして図示されているといえ、これらによれば、「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」の技術的意味はハウジングとは別体のものとして備えられた弁シートを保持するものであって、それ以上の意味、すなわち、ガス圧力の調整に関与する等の技術的意味を有するものでないことは明細書及び技術常識に照らして明らかである。
そこで、本件考案と引用例1考案とを対比するに、まず、両者で使用されている用語の意味につきそれらの技術的意味ないし機能の観点から考えると、引用例1考案の、「入口空隙部」、「リング形弁座」、「部品11」、「部品12」、「可撓性隔膜」、「感知空隙部」、「ポペットヘッド」、「距離ばね」、「摘み」、「ポペットばね」はそれぞれ本件考案の「弁室」、「弁シート」、「ハウジング」、
「カバー」、「ダイヤフラム」、「ダイヤフラム室」、「弁体」、「第1調整スプリング」、「ハンドル」、「第2調整スプリング」に相当するものといえる。
そうすると、両者は「ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、上記ハウジングに被冠されたカバーと、上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラム、該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたとの間に形成されたダイヤフラム室と、該ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に設けられたダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、ダイヤフラムを反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したガス圧力調整器。」の点で一致し、
@ 本件考案が弁シートをハウジングに別体に形成して備え、ダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体を設けたのに対し、引用例1考案が弁シートをハウジングに一体的に形成し、仕切体を備えていない点、
A 本件考案の第1調整スプリング、第2調整スプリングが箱体を介してそれぞれ設けられているのに対し、引用例1考案が第1調整スプリングを底部ばね案内と上方ばね案内との間に、第2調整スプリングを第1調整ばね内方に位置する上下の固定物の間に配置した点、
でそれぞれ相違する。
前記各相違点について検討する。
イ 相違点@について 引用例2の前記記載によれば、引用例2には、本件考案が属する技術分野であるガス圧力調整器においてシール(本件考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が示されており、このハウジングとは別体として備えられたシールを引用例1考案のハウジングに一体的に形成された弁シートに代えて採用し、このシールの保持部材として圧縮部材を用いることは当業者が容易に着想できることであり、そして、引用例1考案にはその構成上シールと圧縮部材の採用を妨げるべき事情は存在しないのであるから、本件考案の相違点@に係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。
ロ 相違点Aについて 引用例4の前記記載によれば、引用例4にはダイヤフラムの反弁体側のボデー(本件考案のカバーに機能上相当する。)内に配置された係合部を有するばね受け具(本件考案の箱体に相当する。)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(本件考案の第1調整スプリングに相当する。)と反弁体方向に付勢するスプリングを配置するとの本件考案の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置構成と共通する構成が示されている。
もっとも、引用例4の圧力制御弁はインクジェットプリンタのインクを加圧するもので、また、ボデー内の係合部とばね受け具の係合部に配置するスプリングが感温ばねである点で本件考案とは異なるといえるが、しかし、引用例4のばね受け具自体についてみれば、それに配設されるばねが感温ばねでなければ使用できないとする技術的理由は見当たらず、そうすると、引用例4からは、ばね受け具の内外にばねを配置するとの構成を摘出することができ、そして、引用例3には正確に案内させるためにバルブ・スティックから垂れ下がる棒部分をソケットに案内させるものではあるが、流体圧力調整弁においてナットを有するスピンドル部材を用いて内部押し下げスプリングをスピンドル内部に配置し、ナットとばね受け座との間に外部押し上げスプリングを配置すという技術思想が開示されているのであるから、この引用例3に接した当業者であれば、引用例4の2つのばねを内部押し下げスプリング、外部押し上げスプリングとし、このばね受け具の構成を引用例1の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置に代えて適用しようとすることは容易に着想できるものといえ、そして、その適用に当たり、引用例1の底部ばね案内とダイヤフラムとの接続関係を箱体とダイヤフラムとの接続関係として足りるのであるから、本件考案の相違点Aに係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。
そして、本件考案が奏する「まず、第2調整スプリング31の摺動に伴って発生する金属粉等のガス中への混入を防止することができるので、ガスの品質を維持することができる。特に、IC等の半導体の製造におけるように、高純度のガスを使用する場合には効果的である。また、第2調整スプリング31として、耐食性に優れた特殊のものを使用する必要はなく、設計自由度の拡大を図ることができる。」(実用新案公報6欄5行ないし12行)との作用効果も引用例1ないし4から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本件考案は引用例1ないし引用例4から当業者が極めて容易に考案をすることができたものである。
(3) 審決のむすび 以上のとおりであるから、被告が主張する無効理由aないしc及びe、fについて検討するまでもなく、本件登録実用新案の請求項1に係る考案は、実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり、同法37条1項2号に該当し、請求項1に係る実用新案登録は無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は、訂正考案の独立登録要件の有無の判断において訂正考案と引用例1考案とを対比するに当たり、引用例1考案のポペットばねが訂正考案の第2調整スプリングに相当するとして、引用例1考案と訂正考案は、「ダイヤフラムを反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと」を具備する点においても一致する旨認定したが、誤りである。
(2) 訂正考案の第2調整スプリングは、弁体を弁体方向に付勢することはないし、弁体を反弁体方向に付勢する際の力も常に一定であるが、引用例1考案のポペットばね(ポペットバネ60)は「固定物32と56の間に引っ張られた状態でその両端で保持された引っ張り形コイルバネである」(甲第3号証訳文4頁13〜14行)ため、距離バネ35の圧縮状態により、ポペットばねを保持している固定物56の位置が異なり、ポペットばねの反ポペットヘッド方向への付勢力もそれに応じて変化する。また、距離バネ35が最も圧縮され固定物56が最下方に位置した場合には、ポペットばねはポペットヘッド方向へ付勢力を働かせることになる。
さらに、訂正考案の第2調整スプリングと第1調整スプリングとの間の付勢力の関係と引用例1考案のポペットばねと距離ばねとの間の付勢力の関係は異なる。すなわち、第1調整スプリングの弁体方向への付勢力は、第2調整スプリングの反弁体方向への付勢力に抗しながら及ぼすものであり、第2調整スプリングは、第1調整スプリングの弁体方向への付勢力を調整する作用を有している。これに対して、
距離バネのポペットヘッド方向への付勢力は、ポペットばねの反ポペットヘッド方向への付勢力に抗しながら及ぼすものではないため、ポペットばねは距離バネのポペットヘッド方向への付勢力を調整する作用は有していない。
このように、訂正考案の第2調整スプリングと引用例1考案のポペットばねはその機能・作用が異なるものであるから、上記審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点@の判断の誤り) (1) 審決は、訂正考案の独立登録要件の有無を判断するに当たり、米国特許第4807849号明細書(引用例2)に「ガス圧力調整器においてシール(訂正考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が示されており」と認定した上で、「ハウジングとは別体として備えられたシールを引用例1考案のハウジングに一体的に形成された弁シートに代えて採用し、このシールの保持部材として圧縮部材を用いることは当業者が容易に着想できることであり、そして、引用例1考案にはその構成上シールと圧縮部材の採用を妨げるべき事情は存在しないのであるから、訂正考案の相違点@に係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。」と説示したが、誤りである。
(2) 引用例2記載の発明において圧縮部材によりシールを保持するためには、圧縮部材を押さえるリング20が必須であって、リング20を除いた圧縮部材によりシールを保持する構成のみを引用例1考案に採用することはできない。引用例1の図1の記載から明らかなように部品11と可撓性隔膜26の間は狭く、その間にシールと圧縮部材を組み込むことは困難である。
この点審決は、「圧縮部材を押し付ける部材は、圧縮部材がその機能を発揮できる限度で採用して足りるものといえ、引用例1においては、可撓性隔膜を挟んでいる部材11(訂正考案のハウジングに相当する。)と部材12(訂正考案のカバーに相当する。)との部分にその適用の余地があるというべきである。」と判断したが、「圧縮部材がその機能を発揮できる限度」は一義的に明確なものではなく、引用例1考案のガス圧力調整器に組み込むリング20と異なる圧縮部材を押さえる部材の形状と配置場所を当業者が着想することが極めて容易であったとはいえない。
3 取消事由3(相違点Aの判断の誤り) (1) 審決は、訂正考案の独立登録要件の有無を判断するに当たり、実願昭59-152387号(実開昭61-70211号)のマイクロフィルム(引用例4)に「ダイヤフラムの反弁体側のボデー(訂正考案のカバーに機能上相当する。)内に配置された係合部を有するばね受け具(訂正考案の鍔を有する箱体に相当する。)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(訂正考案の第1調整スプリングに相当する。)とボデー内の係合部(訂正考案のカバー内のスプリング受座に相当する。)とばね受け具の係合部との間に箱体を反弁体方向に付勢するスプリングを配置するとの訂正考案の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置構成と共通する構成が示されている。」と認定し、また、米国特許第1859089明細書(引用例3)に「流体圧力調整弁においてナットを有するスピンドル部材を用いて内部押し下げスプリングをスピンドル内部に配置し、ナットとばね受け座との間に外部押し上げスプリングを配置するという技術思想が開示されている」と認定した上で、「引用例3に接した当業者であれば引用例4の2つのばねを内部押し下げスプリング、外部押し上げスプリングとし、このばね受け具の構成を引用例1の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置に代えて適用しようとすることは容易に着想できるものといえ、そして、その適用に当たり、引用例1の底部ばね案内とダイヤフラムとの接続関係を鍔を有する箱体とダイヤフラムとの接続関係として足りるのであるから、訂正考案の相違点Aに係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。」と判断したが、これらの認定判断は誤りである。
(2) まず、引用例4記載の考案では、ボデー2の一部に係合部22を設けているため、係合部21を備えたばね受け具をボデー2に設置することは、両係合部が引っ掛かり、不可能である。すなわち、引用例4は、実現不可能な技術を開示するものにすぎず、引用例4の記載からは、相違点Aに係る訂正考案の構成を導くことはできない。訂正考案の当該構成は、第2調整スプリングのスプリング受座をカバーとは独立した部材として初めて可能となったものである。なお、訂正考案のスプリング受座が、別体のものとしてカバーの内側に位置することは、訂正明細書の「この第2スプリング31は、箱体19の鍔33及びハウジング1に固定されたスプリング受座35との間に配置されている。」(5頁7〜9行)との記載及び第3図から明らかである。
この点被告は、「引用例4の第1図に開示された構成を実施する際に、例えば、
ボデー2をばね受け具22の少なくとも上端で上下に分割し、上下に分割されたボデー2を互いに『螺合』により固定できる構成とすれば技術的に実現可能である。
この程度の変更は設計上当然考えられ、実施する上で全く支障はない。」と主張するが、大いなる手間であり、訂正考案の「スプリング受座」を独立部材とすることにより鍔を有する箱体をカバー内に組み込む技術に比べて極めて稚拙である。
(3) また、引用例4記載の感温ばね19は、温度が上昇したときに、ばね定数をあげ、弁ばね16の弁体方向への付勢力を制限することによって制御圧力を下げるためだけに機能し、弁体を反弁体方向へ付勢する機能を有するものはばね14であって感温ばねではない。これに対して、訂正考案の第2調整スプリングは、第1調整スプリングの弁体方向への付勢力を制限する機能とともに、弁体を反弁体方向へ付勢する機能も備えており、両者の機能は明らかに異なっている。すなわち、訂正考案との対比において重要なのは、弁体を反弁体方向に付勢することとの関係におけるばねの配置構造であって、「弁体7」と「ばね受け具20」が繋がっていない引用例4のばね受け具へのばねの配置関係は無意味であり、引用例4記載の感温ばねと訂正考案の第2調整スプリングはその機能・作用が異なっており、前者から後者を着想することはできない。
(4) さらに審決も指摘しているように、引用例3記載の発明は、外部押し上げスプリングのみによりバルブ・オペレータを押し上げ、バルブを閉じるものではなく、「正確に案内させるためにバルブ・スティックから垂れ下がる棒部分をソケットに案内させるもの」であって、当該棒部分とソケットの構成が必須であり、それを除いて、内部押し下げスプリングと外部押し上げスプリングの構成のみを取り出すことはできず、これらを引用例4記載の弁ばねと感温ばねに置き換えることは極めて容易であったということはできない。
4 取消事由4(組合せの容易性の判断の欠如) (1) 審決は、訂正考案の独立登録要件の有無を判断するに当たり、引用例1〜4記載の発明、考案を組み合わせることの容易性について何ら検討することなく、
「訂正明細書請求項1に係る考案は、引用例1ないし4の記載に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり」と判断したが、誤りである。
引用例1考案は、引用例4のばね受け具を設置し、そのばね受け具の外側に引用例3の外部押し上げスプリングを設置することを予定するものではなく、直ちに、
これらのものを引用例1考案に組み込むことができるようなものではない。また、
引用例1考案は、引用例2のシールとシールを保持するための圧縮部材を設置することを予定するものではなく、直ちに、これらのものを引用例1考案に組み込むことができるようなものではない。しかも、シールを保持するために圧縮部材を配置する場合に、当然に外部押し上げスプリングをばね受け具の外側に設置することになるものではなく、その設置スペースが限られていることもあり、両部材の必要な機能を損なわないように両部材を合わせて設置することは、極めて容易に着想できるものではない。引用例2に記載の発明は外部押し上げスプリングに相当するばねは弁室内に配置することを前提とするもので、ばね受け具とばね受け具の外側に外部押し上げスプリングを配置することは予定されていないし、引用例4記載の考案も、シールとシールを保持するための圧縮部材を配置することを予定していないのである。
(2) 特に、引用例2記載のリング20のような圧縮部材を押さえる部材は、圧縮部材の上方周縁で押さえるものであり、可撓性隔膜の周縁に配置する必要がある。
他方、外部押し上げスプリングはばね受け具の外周に配置されることから、そのスプリング受座もばね受け具の外周より外側で、ばね受け具の底面とほぼ同じ位置である可撓性隔膜の周縁上に配置する必要がある。すなわち、圧縮部材を押さえる部材とスプリング受座を配置する場所が重なってしまうため、両部材を共に引用例1考案の圧力調整器に組み込むことはできない。この問題については、願書に添付の図1(甲第2号証)に示すように、スプリング受座が圧縮部材を押さえる部材を兼ね、スプリング受座により圧縮部材を押さえるという技術が必要であるが、この点については、引用例1〜4には一切記載されていないし、引用例1〜4記載の発明、考案を組み合わせることにより当然に導かれるものではない。
5 取消事由5(訂正前考案の容易想到性判断の誤り) 仮に本件訂正が認められないとしても、「本件考案は引用例1ないし引用例4から当業者が極めて容易に考案をすることができたものである。」との審決の判断は、取消事由1〜4で述べたと同様の理由により、この判断は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して 訂正考案の技術的課題である「スプリングとハウジングとの摺接により発生する金属粉等がガス中に混入されることのないガス圧力調整器を提供する」ためには、
互いに反対方向に付勢力を作用させるための「可撓性隔膜をポペットヘッド方向に付勢する距離バネと、底部バネ案内を反ポペットヘッド方向に付勢するポペットばね」の構成を有すれば十分である。
ポペットばねが第2調整スプリングに相当することは、当業者の技術常識に照らして明らかである。
2 取消事由2に対して (1) 訂正明細書には、カバー、ダイヤフラム、ダイヤフラム室、仕切体、ハウジングの順に各部材が配置されていること、仕切体はハウジングに固着されており、
その下面側の中央には弁シートが設置されていること、及び仕切体はダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通しながら仕切ることのみが記載されており、仕切体の作用、仕切る対象、及び仕切る方法についての技術的な説明は一切ない。そうである以上、訂正考案にいう「仕切体」には何の作用効果もなく、不必要事項の記載にすぎないから、相違点@は存在しない。
(2) 相違点@が存在するとしても、その判断に当たって、原告の主張するように「引用例1の図1の・・・部品11と可撓性隔膜26の間にシールと圧縮部材を組み込む」必要はない。
また、審決が判断したとおり、「引用例2を引用した趣旨は、ガス圧力調整器においてシール(訂正考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が存在するということであって、リング20までを引用しているものではな」く、「圧縮部材を押し付ける部材は、圧縮部材がその機能を発揮できる限度で採用して足りるもの」である。
3 取消事由3に対して (1) 審決が判断したとおり、「引用例4からは係合部を有するばね受け具の内外にばねを配置(・・・)するとの構成を摘出することができ」るのであって、その限度においてのみ引用例4は意味を有するのであり、「引用例4のばね受け具自体について見れば、その係合部に配設されるばねが感温ばねでなければ使用できないとする技術的理由は見当たらず」との審決の判断にも誤りはない。さらに、引用例4の第1図に開示された構成を実施する際に、例えば、ボデー2をばね受け具22の少なくとも上端で上下に分割し、上下に分割されたボデー2を互いに「螺合」により固定できる構成とすれば技術的に実現可能である。この程度の変更は設計上当然考えられ、実施する上で全く支障はない。
(2) 原告は、「訂正考案において、第2調整スプリングは箱体を反弁体方向に付勢することそれ自体に意味があるのではなく、箱体を反弁体方向に付勢することによって、箱体に繋がっている弁体を反弁体方向に付勢することを目的とする」と主張するが、訂正明細書にはそのような記載はなく、原告の主張は独自の見解にすぎず、何ら根拠のないものである。
原告は、相違点Aに係る訂正考案の構成は、第2調整スプリングのスプリング受座をカバーとは独立した部材として初めて可能となったものであるとも主張するが、スプリング受け座がその機能を発揮するには何らかに固定されていなければならないのであり、スプリング受け座がカバーの内側に一体として形成されていても、別体としてカバーの内側に固定されていても、両者の間に格別の技術的意義が存在しないのは自明である。
(3) 原告は引用例3についても主張するが、引用例4には訂正考案の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置構成と共通する構成が示されているのであるから、相違点Aの判断に当たって引用例3を持ち出す必要はそもそもないばかりか、「引用例3には、・・内部押し下げスプリングをスピンドル内部に配置し、ナットとばね受け座との間に外部押し上げスプリングを配置するという技術思想が開示されている」、及び「引用例4の・・・ばね受け具のばねの配置と引用例3のばねの配置関係から、『箱体を使用した2つのばねの配置構成』は容易に導き出せる」との審決の認定判断にも誤りはない。
4 取消事由4に対して 引用例の部品や部材の形状、大きさ、位置などを単純に対比し、他の部品、部材と取り替えたり、別途部品、部材を組み込むことができるか否かは「組合せの容易性の判断」の基準とはならない。
5 取消事由5に対して 本件請求項1に係る考案についての「引用例1ないし引用例4から当業者が極めて容易に考案をすることができたものである。」の判断に誤りがないことは、取消事由1〜4に対して述べたのと同様である。
当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 審決は、「訂正考案と引用例1考案とを対比するに、まず、両者で使用されている用語の意味につきそれらの技術的意味ないし機能の観点から考える」と断った上で、引用例1考案の「ポペットバネ」が訂正考案の「第2調整スプリング」に相当すると認定している。
そこで、訂正考案の「第2調整スプリング」及び引用例1考案の「ポペットバネ」の技術的意味及び機能について検討する。
甲第8号証によれば、訂正明細書に次のとおりの記載のあることが認められる。
「(従来の技術)」欄に、「弁室107内には、弁体109が、スプリング111により図中上方向に付勢された状態で、図中上下方向に摺動可能に収容されている。」(2頁3〜4行)との記載。
「(作用)」欄に、「請求項1記載の考案は、従来、弁室内に配置されていた調整スプリングを第2調整スプリングとして、カバー内に配置したものである。」(4頁6〜7行)との記載。
「(実施例)」欄に、「カバー11内には、ダイヤフラム17が、箱体19とキャップ21とにより挟持された状態で収容されている。」(4頁25〜26行)、
「弁体9の先端には、連結部材23が一体的に形成され、この連結部材23の端部が上記キャップ21に螺着することにより、弁体9とキャップ21とが一体化されている。」(4頁29行〜5頁2行)、「箱体19の外周側には、第2調整スプリング31が配置されている。この第2調整スプリング31は、箱体19の鍔33及びハウジング1に固定されたスプリング受座35との間に配置されている。この第2調整スプリング31により上記箱体19を反弁体方向に付勢する。」(5頁7〜10行)、「ダイヤフラム17に固着されたキャップ21に一体化している弁体9」(5頁16〜17行)、及び「第2調整スプリング31は、従来のように、ガス流路途中に配置されているのではなく、カバー11内に配置されている」(5頁21〜22行)との各記載(本判決3頁の本件考案第1図参照)。
これらの記載からみて、「第2調整スプリング」は、ダイヤフラムを挟持する一方の部材である箱体を反弁体方向(甲第2号証第1図上方であり、以下では「上方」という。)に付勢するものであり、それはダイヤフラムを挟持する他方の部材であるキャップ及びキャップと一体の弁体をも上方に付勢することから、従来ガス流路途中に配されたスプリング(第5図、第6図のスプリング111)と同等の機能を果たす部材である旨記載されているものと認められる。すなわち、「第2調整スプリング」の技術的意味及び機能が、弁体を上方に付勢することにあることは明らかである。
(2) 甲第3号証及び乙第1号証によれば、引用例1に、「レギュレータ内部でこの種の微粒子の発生源は、隔膜、バルブそして特に流体経路中のバネ類である。事例としてバネの屈曲作用、部品間の擦り合い又はぶつかり合いが、相対する部品間のバネの摩擦を含めている。」(甲第3号証訳文1頁下から5〜3行)、「自由作動するあらゆる部品及び流れ経路中の摩擦接触を取り除き、空隙部容積を最小化するために流れ経路からすべてのバネを取り除くことが本発明の目的である。」(同2頁10〜11行)、「引張りバネ(すなわちポペットバネ)は・・・隔膜上の固定物にも連結される。ポペットバネ調節ネジを適度に回してポペットバネの張力を増すと、ポペットヘッドを座に向けて引っ張りバルブを閉じるようになる。」(同2頁26〜28行)、及び「ポペットバネ60は固定物32と56の間に引っ張られた状態でその両端で保持された引っ張り形コイルバネである。このバネ60の性向は隔膜を上方に引き寄せる傾向を持つ。」(同4頁13〜14行)との各記載のあることが認められる(本判決23頁の引用例1 FIG.1参照)。
これらの記載によると、引用例1考案は、従来技術における流体経路中に存在するバネを、流体経路から取り除くことを目的としてなされた考案であって、従来技術についての詳細な記載はみられないものの、訂正明細書記載の従来技術同様、流体経路中のバネによって弁体を上方に付勢するものであることが明らかである。そして、引用例1考案の「ポペットバネ」は、その張力によって「ポペットヘッドを座に向けて引っ張」るもの、すなわち、弁体を上方に付勢するものとして、従来技術のバネと同機能を果たすものと認めることができる。
(3) そうすると、訂正考案の「第2調整スプリング」と引用例1考案の「ポペットバネ」は、いずれも弁体を上方に付勢する部材として、従来流路中に配されていたバネに代わるものとして採用された構成であるといえるから、これら部材の技術的意味及び機能に相違を認めることはできない。
したがって、「技術的意味ないし機能の観点から考える」との前提下において、
引用例1考案の「ポペットバネ」が訂正考案の「第2調整スプリング」に相当するとの審決の認定に誤りはない。
(4) 原告の取消事由1の(2)の主張は、訂正考案の「第2調整スプリング」は、
弁体を反弁体方向に付勢する際の力が一定であるが、引用例1考案の「ポペットバネ」の付勢力は距離バネ35の圧縮状態により変化し、距離バネ35が最も圧縮された状態では、ポペットヘッド方向へ付勢力を働かせることになり、ポペットバネは距離バネのポペットヘッド方向への付勢力を調整する作用は有していないというにある。
しかし、ガス圧力調整器においては、弁体及びダイヤフラムの位置及びそれらに作用する力によって、ガス圧力が調整されるのであって、訂正考案においては、
「第1調整スプリング29により箱体19を介してダイヤフラム17を弁体9方向に付勢する。」(甲第8号証添付の訂正明細書5頁5〜6行)、「調整ハンドル37を適宜の方向に回転させることにより、押しねじ39を介して第1調整スプリング29を調整する。」(同5頁12〜14行)、及び「調整ハンドル37を所定方向に回転させて、ダイヤフラム17に固着されたキャップ21に一体化している弁体9を下降させる。これによって、弁体9と、弁シート15との間に、隙間が形成される。」(同5頁15〜18行)と記載されているように、ガス圧力調整は専ら調整ハンドルの回転による第1調整スプリングの付勢力調整により行われるのであって、この際第2調整スプリングの付勢力が変化してもしなくても、ダイヤフラム及び弁体に作用する力は変化するのであるから、第2調整スプリングの取付構成上、その付勢力が変化するかどうかは、そのスプリングが第2調整スプリングに相当するかどうかとは無関係の事項というべきである。そのことは、訂正明細書(甲第8号証添付)の「(考案が解決しようとする課題)」欄に、従来の構成によると、「弁の開閉、すなわち弁体109の摺動に伴い、スプリング111が伸縮する」(同3頁5行)との記載があるように、従来技術のスプリング111の付勢力が弁体位置によって変化する構成となっているにもかかわらず、「第2調整スプリング」が従来技術のスプリング111に相当するとの訂正明細書の記載とも一致するものである。
(5) 以上説示のとおり、引用例1考案の「ポペットバネ」は訂正考案の「第2調整スプリング」に相当するものと認められるので、訂正考案の独立登録要件の有無を判断するに当たり、訂正考案と引用例1考案とは「「・・・ダイヤフラムを反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、を具備したガス圧力調整器。」の点で一致し」とした審決の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について (1) 訂正明細書には、「ハウジング1には、カバー11が被冠されており、カバー11とハウジング1との間には仕切体13が介在している。この仕切体13はハウジング1側に固着されており、その中央部には弁シート15が形成されている。
この弁シート15と上記弁体9とにより弁を構成している。」(甲第8号証添付の訂正明細書4頁21〜24行)、及び「ダイヤフラム17と仕切体13との間には、ダイヤフラム室14が形成され、このダイヤフラム室を介して上記ガス流入口3側とガス流出口5側とが連通する構造となっている。」(同4頁26〜28行)との記載があり、これらの記載と第1図によれば、仕切体とハウジングは固着されており、したがって、その間にある弁シートも含めて、これら三者は固定構造にあること、そして、ガス流出口とダイヤフラム室は常時連通する構成となっていることを認めることができる。
そうすると、訂正考案の仕切体及び弁シートは、ハウジングと別体ではあるものの、別体であることには格別の技術的意義がなく、ダイヤフラム室を形成し、ダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通させるために、使用状態においてハウジングと固定構造となるものの一態様として採用された構成であるということができる。
(2) 引用例2には、「圧縮部材は、適当な大きさの、巧みに設計された構造部材であり、・・・圧力レギュレータ又はバルブのような、流体流れ制御装置内の弁座のような交換可能なシールを固定する。」(甲第4号証訳文2頁6〜8行)、「圧縮部材1は、集中中心力をシール3に与えるために圧縮部材の一方の側の中心に位置する第一表面4と、第一側面と反対側の部材1の第二側面上の大きい直径の第二表面5とを有する。第二表面5の半径方向外側部分6はその半径方向内側部分よりも高くなっていて、直径方向に大きい力が印加される接触表面を提供している。圧縮部材1には流体通路7が形成されており、この流体通路は第一表面4から第二表面5に向け部材の中心軸線8に沿いこの圧縮部材を貫通している。」(同4頁26行〜5頁2行)、そして「加圧流体が、図示していない入口通路を経て、圧縮部材のアーム10の下部に位置する装置本体17の凹み19内に導入される。この加圧流体はアーム10の四本の通路16を経て流れ、圧縮部材と弁座3内の流体通路7と26を経てバルブ25に作用する。」(同7頁27〜29行)との記載のあることが認められる。
引用例2の上記記載からすると、引用例2記載の発明においては、本体17の凹み19が流体流入口に連通しており、本体17中心部であってバルブ25及びばね27を収納する部分が流体流出口に連通していることは明らかであり、隔膜15と圧縮部材間の空間はダイヤフラム室と称し得るものであるから、引用例2記載の圧縮部材及びシールは、ダイヤフラム室を形成し、ダイヤフラム室を介して流体流入口と流体流出口とを連通させるものということができる。さらにそれらは、使用状態では本体(訂正考案の「ハウジング」に相当する。)、圧縮部材及びシールの3者が固定構造となるものと認められるから、引用例2記載の「圧縮部材」及び「シール」は、訂正考案の「仕切体」及び「弁シート」と、構造面からみても機能面からみても同一の部材と認められ、したがって、「引用例2には訂正考案が属する技術分野であるガス圧力調整器においてシール(訂正考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が示されており」との審決の認定に誤りはない。
そして、訂正考案の仕切体及び弁シートは、ハウジングと別体ではあるものの、
別体であることには格別の技術的意義がないことは上記(1)に説示のとおりであるから、上記審決の認定に続く「ハウジングとは別体として備えられたシールを引用例1考案のハウジングに一体的に形成された弁シートに代えて採用し、このシールの保持部材として圧縮部材を用いることは当業者が容易に着想できることであり、そして、引用例1考案にはその構成上シールと圧縮部材の採用を妨げるべき事情は存在しないのであるから、訂正考案の相違点@に係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。」との審決の判断にも誤りはない。
(3) 原告は、「引用例2記載の発明において圧縮部材によりシールを保持するためには、圧縮部材を押さえるリング20が必須であって、リング20を除いた圧縮部材によりシールを保持する構成のみを引用例1考案に採用することはできない。」と主張する。
引用例2の、「本体17の凹みすなわち空隙部18と19は、シールと圧縮部材が適当な順序で正しい位置に落ち込むように構成されており、隔膜15が付加され、そして装置2の締付けキャップすなわちリング20が、図1に示すねじの切ってあるナット21に締め付けられ、圧縮部材に負荷が加えられる。」(甲第4号証訳文6頁29行〜7頁2行)との記載、及び「締付けキャップすなわちリング20が圧縮部材のアーム10の上方の外側部分を、組立て中に少なくとも弾性的に下方に湾曲させ、隔膜15を用いて、リング20が凹み19の周囲の本体17の環状停止体22に接触するまで圧縮部材とシール3に負荷を印加する。」(同7頁4〜7行)との記載並びにFIG.1の図示(本判決24頁)からみて、リングは隔膜に対して圧縮部材とは反対側(上側)にあって、本体17の環状停止体22に接触するまで圧縮部材とシール3に負荷を印加する部材であり、負荷印加前の圧縮部材は、その最上位置が環状停止体22よりも高い位置にあるものと認められる。
また、上記審決の判断における、「ハウジングとは別体として備えられたシールを引用例1考案のハウジングに一体的に形成された弁シートに代えて採用し、このシールの保持部材として圧縮部材を用いる」ということは、引用例1考案においてダイヤフラム室を形成している部品11の上部部分を、それとは別体の弁シート及び仕切体とすることであり、引用例1考案のハウジングに対して、さらに弁シート及び仕切体を付加することではない。
引用例1(甲第3号証の1)のFIG.1(本判決23頁)によれば、部品12は部品11にねじ込むことにより部品11と係合しており、部品11には周辺部やや内側寄りに凸部が形成され、同凸部と部品12によって隔膜26を挟持していることが認められる。そうであれば、引用例1考案の部品11の一部(隔膜と対向してダイヤフラム室を形成する部分)を凹みとし、そこに圧縮部材をはめ込むという引用例2記載の発明の構成を採用した場合にも、圧縮部材が上記凸部よりも高い位置にあれば、部品12を部品11にねじ込む際に圧縮部材が圧縮されること、すなわち、
引用例1考案の部品12が引用例2記載のリングの機能を果たすことは明らかであるから、新たに引用例2記載のリングに相当する部材を設ける必要はなく、圧縮部材によりシールを保持する構成のみを引用例1考案に採用することは十分可能というべきである。
審決は、「圧縮部材を押し付ける部材は、圧縮部材がその機能を発揮できる限度で採用して足りるものといえ、引用例1においては、可撓性隔膜を挟んでいる部材11(訂正考案のハウジングに相当する。)と部材12(訂正考案のカバーに相当する。)との部分にその適用の余地があるというべきである。」と判断しているが、結局のところ上記の趣旨と同旨と解されるのであり、そこに原告主張の誤りはない。
したがって、取消事由2も理由がない。
3 取消事由3について (1) 甲第6号証によれば、引用例4に、「大気室10の内部には弁ばね16がボデー2に反力をとって弁体7を弁座6から離反させる方向に常時付勢するように配設されている。すなわち、大気室10における弁体7の延長線上には、ばね受け18を保持している調整ねじ部材17が進退調整可能に螺合されており、ばね受け18とダイヤフラム11の受け具12との間には、圧縮コイルばねからなる弁ばね16が蓄力状態で介設されている。また、大気室10の内部には感温ばね19がボデー2に反力をとって弁体7を弁ばね16の付勢方向とは反対方向に付勢するように配設されている。すなわち、ダイヤフラム11の受け具12には略筒形状に形成されているばね受け具20が、弁ばね16の外側を包囲するように同心的に配されて保持されており、ばね受け具20におけるダイヤフラム11とは反対側の端部に突設された係合部21と、大気室10の内周面におけるダイヤフラム11に寄った位置に突設されている係合部22との間には、昇温時に伸長する特性を持つ形状記憶合金により圧縮コイルばね形状に形成されている感温ばね19が弁ばね16と同心的に配されて介設されている。」(5頁14行〜6頁17行)との記載のあることが認められる。
この記載と引用例4第1図の図示(甲第6号証。本判決26頁)によれば、引用例4には「ダイヤフラムの反弁体側のボデー(訂正考案のカバーに機能上相当する。)内に配置された係合部を有するばね受け具(訂正考案の鍔を有する箱体に相当する。)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(訂正考案の第1調整スプリングに相当する。)とボデー内の係合部(訂正考案のカバー内のスプリング受座に相当する。)とばね受け具の係合部との間に箱体を反弁体方向に付勢するスプリングを配置する」との審決認定の構成が記載されていることが明らかである。
(2) 原告は、引用例4記載の考案において、ばね受け具の係合部21とボデーの係合部22の間に設置するばねは感温ばねに限られ、引用例4記載の感温ばね19は、弁体7を反弁体方向に付勢するものではなく、単に弁ばね16の付勢力を弱めるにすぎず、弁体を反弁体方向へ付勢する機能を有するものはばね14であると主張する。
なるほど、引用例4の実施例では、弁体7は「ダイアフラム11に常時押接している」(甲第6号証10頁2〜3行)ため、感温ばね19自体は弁体を反弁体方向に付勢することはできないものと認められる。しかしながら、引用例4には、「弁ばね及び感温ばねはダイアフラムを介して弁体を付勢するに限らず、弁体を直接付勢するようにしてもよい。」(甲第6号証14頁12〜14行)との記載もあり、
弁ばね及び感温ばねが直接付勢する対象がばね受け具であることは明らかであるから、上記記載中「弁体を直接付勢する」とは、ばね受け具と弁体とを固定することと解することができる。したがって、引用例4には、弁体7を反弁体方向に付勢するという技術も記載されているのであるから、感温ばね19は、弁体7を反弁体方向に付勢するものではなく、単に弁ばね16の付勢力を弱めるにすぎないとの原告の主張は理由がない。
そして、引用例1考案の「ポペットバネ」は、弁体を上方に付勢するものであることは取消事由1に関して前記1(2)で説示したとおりであり、そこにおける「ポペットバネ」にはそれ以上の機能が要求されるものでなく、弁体を上方に付勢するとの機能を有する限り、その配置構成を任意に選択できることは明らかである。そうであれば、弁体を上方に付勢するものが、感温ばねであるかどうか、及び感温ばね以外に弁体を上方に付勢する他のばね(引用例4記載のばね14)が存在することは、引用例4記載の弁ばねと感温ばねの配置構成を引用例1考案に適用することを妨げる要因となるものではない。
したがって、「引用例4の2つのばねを内部押し下げスプリング、外部押し上げスプリングとし、このばね受け具の構成を引用例1の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置に代えて適用しようとすることは容易に着想できるものといえ、そして、その適用に当たり、引用例1の底部ばね案内とダイヤフラムとの接続関係を鍔を有する箱体とダイヤフラムとの接続関係として足りるのであるから、訂正考案の相違点Aに係る構成は当業者が極めて容易に想到できたものというべきである。」とした審決の判断に誤りはない。
(3) 原告はまた、「引用例4では、ボデー2の一部に係合部22を設けているため、係合部21を備えたばね受け具をボデー2に設置することは、両係合部が引っ掛かり、不可能である。」とも主張する。なるほど引用例4記載の考案において、
ボデー2が一体構造であるとすると、係合部21及び係合部22間にばねを配置することは困難であるといえるものの、ボデー2を上下分割構造とすればそのような困難が回避されることは明らかである。そして、引用例4にはボデー2が一体構造である旨の記載はなく、同様に訂正考案の「カバー」が一体構造であることは訂正考案の構成要件とはされていないのであるから、引用例4記載の弁ばねと感温ばねの配置構成を引用例1考案に適用することに障害があるものと認めることはできない。原告は、「訂正考案のスプリング受座が、別体のものとしてカバーの内側に位置する」とも主張するが、訂正考案はスプリング受座がカバー内にあることを構成要件とするものの、スプリング受座がカバーと別体であることを構成要件とするものではないから、この主張は、訂正考案の要旨に基づかないものである。
(4) 以上のとおり、相違点Aに係る訂正考案の構成は、引用例1考案に引用例4記載の技術を適用することにより、当業者が極めて容易に想到可能であったということができるので、取消事由3に関する原告のその余の主張について判断するまでもなく、取消事由3も理由がない。
4 取消事由4について (1) 審決は、訂正考案と引用例1考案との一致点及び相違点を認定し、認定した相違点に係る訂正考案の構成が当業者が極めて容易に想到できるかどうかという論理に従って、「訂正明細書請求項1に係る考案は、引用例1ないし4の記載に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができた」との結論に至ったものである。そして、審決のこの判断はその説示に照らして十分に首肯することができる。
審決の認定した一致点及び相違点に原告主張の誤りがなく、相違点の判断にも誤りがないことは取消事由1ないし3に関して判断したとおりであるから、取消事由4も理由がない。
(2) 原告は、「圧縮部材を押さえる部材とスプリング受座を配置する場所が重なってしまうため、両部材を共に引用例1考案の圧力調整器に組み込むことはできない。」と主張する。
この主張は相違点@に係る訂正考案の構成と相違点Aに係る訂正考案の構成を同時に採用することが困難であるとの点をいうものと理解されるところ、取消事由2に関して説示したように、引用例1考案の部品12は引用例2記載のリング(圧縮部材を押さえる部材)の機能を果たすと同時に、審決が認定したとおり訂正考案の「カバー」に相当するものであって、引用例4記載の考案においては、感温ばね19がばね受け具20とボデー2の係合部22間に係止されており、ボデー2が訂正考案のカバーに相当することは審決認定のとおりであるから、同じく訂正考案のカバーに相当する引用例1考案の部品12に係合部(原告主張による「スプリング受け座」)を設けることが困難であると認めるべき理由を見いだすことはできない。
5 取消事由5について 取消事由5における原告の主張内容は取消事由1〜4と同様のものであるところ、取消事由1〜4に理由がないことは既に判断したとおりであり、取消事由5も理由がない。
結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年2月28日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史