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事件 平成 12年 (ワ) 22042号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 ヤーマン株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男
補佐人弁理士 須山佐一
被告 株式会社ベステック
訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎
同 三森仁
同 金子憲康
同 黒岩海映
被告 コミー株式会社
訴訟代理人弁護士 早川忠孝
同 橋本勇
同 小倉秀夫
訴訟復代理人弁護士 大河内 万紀子
補佐人弁理士 田辺恵基
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/03/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告ベステックに対する請求 (主位的請求) 被告ベステックは,原告に対し,6500万円及びこれに対する平成12年11月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求@) 被告ベステックは,原告に対し,3638万円及びこれに対する平成12年11月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告コミーに対する請求 (主位的請求) 被告コミーは,原告に対し,6500万円及びこれに対する平成12年11月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求@) 被告コミーは,原告に対し,3638万円及びこれに対する平成12年11月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求A) 被告コミーは,原告に対し,1625万円及びこれに対する平成12年11月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,下肢骨格矯正装置の実用新案権を有する原告が,被告らに対し,被告ベステックが製造・販売し,被告コミーが使用する別紙物件目録1及び2記載の各下肢部矯正装置(以下,同目録1記載の装置を「被告装置1」といい,同目録2記載の装置を「被告装置2」という。また,これらを併せて「被告各装置」と総称する。)は上記実用新案権の技術的範囲に属しており,被告装置の製造・販売及び使用は同実用新案権を侵害すると主張して,被告らに対して実用新案法29条1項(主位的請求)又は2項(予備的請求@),被告コミーに対しては予備的に同条3項(予備的請求A)にそれぞれ基づき,損害賠償を請求している事案である。
1 前提となる事実関係(証拠により認定した事実は,末尾に証拠を摘示した。
それ以外は,当事者間に争いのない事実である。) (1) 原告は,電子機器,医療機器,医療用具等の製造・販売等を目的とする株式会社である。
被告ベステックは,医療用機器,マッサージ機器,美容用機器の製造・販売等を目的とする株式会社であり,被告コミーは,美容・健康機器,医療機器等の製造・販売,及び,美容所,脱毛美容所の経営等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は,下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有していた。
登録番号 第3014470号 考案の名称 下肢骨格矯正装置 出願日 平成7年2月8日 登録日 平成7年5月31日 期間満了 平成13年2月8日 (3) 本件実用新案権の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の登録実用新案公報〔以下「本件公報」という。〕参照。)の実用新案登録請求の範囲における請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項記載に係る考案を「本件考案」という。)。
「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さで,幅が足の片側表面を覆うことのできる程度であり,内部に圧搾空気を導入できる空気導入口(24)を有する気密封止された柔軟に湾曲できる二つの外側エヤークッション(10a,10b)と,少なくとも足先部分と膝部分の二箇所で両足の間に装着でき,内部に圧搾空気を導入できる空気導入口を有する気密封止された柔軟に湾曲できる内側エヤークッション(301,30 2)と,両方の足の外側部に前記外側エヤークッション(10a,10 b)を密着させ,内側エヤークッション(30 1,30 2)を足の間に装着した状態で,少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる少なくとも3本の締付ベルト(121,12 2,12 3,12 4)と,前記外側エヤークッション(10a,10 b)および内側エヤークッション(301,30 2)に圧搾空気を送るため,圧搾空気発生源(CP),この圧搾空気発生源(CP)に導管を介して接続する電気分配器(DS)およびこの分配器をプログラム電子制御する電子制御装置(50)から成る圧搾空気供給系とから成ることを特徴とする下肢骨格矯正装置。」(なお,本件公報の各図と照らし合わせると,3箇所にわたる上記「外側エヤークッション(10a,10 b)」の記載は,単純な誤記であり,「外側エヤークッション(20a,20 b)」が正しいとと思われるが,そのまま表記した。) (4) 本件考案の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。)。
A 臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さで,幅が足の片側表面を覆うことのできる程度であり,内部に圧搾空気を導入できる空気導入口を有する気密封止された柔軟に湾曲できる2つの外側エヤークッションを有する。
B 少なくとも足先部分と膝部分の2箇所で両足の間に装着でき,内部に圧搾空気を導入できる空気導入口を有する気密封止された柔軟に湾曲できる内側エヤークッションを有する。
C 両方の足の外側部に前記外側エヤークッションを密着させ,内側エヤークッションを足の間に装着した状態で,少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる少なくとも3本の締付ベルトを有する。
D 前記外側エヤークッションおよび内側エヤークッションに圧搾空気を送るため,圧搾空気発生源,この圧搾空気発生源に導管を介して接続する電気分配器およびこの分配器をプログラム電子制御する電子制御装置から成る圧搾空気供給系を有する。
E 上記AないしDから成ることを特徴とする下肢骨格矯正装置 (5) 本件考案は,以下のような作用・効果を有する。
両足の外側部に外側エヤークッション(本件公報【図2】参照)を密着させ,内側エヤークッション(同【図4】参照)を両足の間に装着し,臀部,両方の足及び足先をそれぞれ締付ベルトで保持固定した状態で,外側エヤークッション及び内側エヤークッションに圧搾空気を導入すると,締付ベルトは伸び縮みしない材料で作られているので,同ベルトの位置を支点として,足には,外側エヤークッションにより内向きの,内側エヤークッションにより外向きの力がそれぞれ加わる。
したがって,膝の間に入れた内側エヤークッションに圧搾空気を導入すると,臀部及び足先の部分の締付ベルトが支点となり,内側エヤークッションが作用点となって,足に外向きの力が加わり,X脚の矯正が行われる。逆に,外側エヤークッションに圧搾空気を導入し,内側エヤークッションに余り強い力を加えないようにすると,外側エヤークッションが作用点となって,足に内向きの力が加わり,O脚の矯正が行われる。
(6) 被告ベステックは,被告装置1(商品名「ウエリックス・スクウィーズシェイパー」)を製造し,平成11年4月8日ころまでに,同装置350台を被告コミーに販売した(なお,同装置については,シートの形状及び装着の仕方,外側エヤークッションの個数及び装着位置等につき争いがあるが,甲9,甲18等によれば,同装置の構成は別紙物件目録1記載のとおりと認められる。)。
被告コミーは,同被告が経営する美容サロンにおいて,「スクウィーズシェイパーOX」という名称の美容コースを提供するに際し,被告装置1を使用した。
(7) 原告は,平成11年10月25日付け文書をもって,被告ベステック及び被告コミーに対し,実用新案技術評価書を呈示した上,被告装置1が本件考案技術的範囲に属しており,同装置の製造・販売は本件実用新案権の侵害にあたる旨警告した。
(8) 被告ベステックは,被告コミーの発注に基づき,平成12年4月28日から同年5月10日にかけて,被告装置2全体から圧搾空気供給系を除いた外側エヤークッション,内側エヤークッション及びベルト部等からなる部分(被告らは同部分を「カフ」と呼称するので,それに従い,以下「被告カフ」という。)を製作し,被告カフ合計300セットを被告コミーに納入した。
被告コミーは,同被告が経営する美容サロンにおいて,「スクウィーズシェイパーOX」という名称の美容コースを提供するに際し,被告カフを用いた被告装置2を使用した(なお,同装置についても,シートの形状及び装着の仕方,外側エヤークッションの本数及び装着位置等につき争いがあるが,甲9,甲18等によれば,同装置の構成は別紙物件目録2記載のとおりと認められる。)。
2 争点 本件においては,@ 被告各装置が構成要件AないしEを充足し,本件考案技術的範囲に属するか,A 原告の損害額はいくらかが,争点になっている。各争点の具体的な内容は以下のとおりである。
(1) 構成要件Aの充足性 ア 外側エヤークッションの本数について 被告各装置が,「二つの」外側エヤークッションを有するといえるか(争点(1)ア)。
イ 外側エヤークッションの長さについて 被告各装置の外側エヤークッションが,「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」を有するといえるか(争点(1)イ)。
ウ 外側エヤークッションの幅について 被告各装置の外側エヤークッションが,「足の片側表面を覆うことのできる程度」の幅を有するといえるか(争点(1)ウ)。
エ 「柔軟に湾曲できる」の解釈について 被告各装置の外側エヤークッションが,「柔軟に湾曲できる」ものであるといえるか(争点(1)エ)。
(2) 構成要件Bの充足性 ア 内側エヤークッションの装着位置について 被告各装置の内側エヤークッションが,「少なくとも足先部分と膝部分の二箇所で両足の間に装着でき」るものであるといえるか(争点(2)ア)。
イ 「柔軟に湾曲できる」の解釈について 被告各装置の内側エヤークッションが,「柔軟に湾曲できる」ものであるといえるか(争点(2)イ)。
(3) 構成要件Cの充足性 ア 締付ベルトの本数について 被告各装置が,「少なくとも3本の締付ベルトを有する」といえるか(争点(3)ア)。
イ 締付ベルトの装着位置について 被告各装置において,「少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる」締付ベルトが存在するといえるか(争点(3)イ)。
(4) 構成要件Dの充足性 被告各装置が,「電気分配器」を有しているといえるか(争点(4))。
(5) 構成要件Eの充足性 被告各装置が,上記構成要件AないしDから成ることを特徴とする「下肢骨格矯正装置」であるといえるか(争点(5))。
(6) 原告の損害額(争点(6))
当事者の主張
1 構成要件Aの充足性 ア 争点(1)ア(被告各装置が,「二つの」外側エヤークッションを有するといえるか)について (原告の主張) 別紙物件目録1及び2に図示されたとおり,被告装置1については合計6つ,被告装置2については合計4つの外側エヤークッションがあるように見える。
しかし,本件考案における「外側エヤークッション」は,左右両下肢の外側に当てて,圧縮空気の導入により内向きの力を加えるためのものであるから,このような機能を発揮できる形態である限り,複数に区分(分割)することも可能である(ちなみに,本件公報【図2】ないし【図4】には,2つの外側エヤークッションを,それぞれ幅方向に4つに区分した実施例が示されている。)。被告各装置における外側エヤークッションは,本来1つに構成できるものを単に長さ方向に3区分ないし2区分したにすぎない。
被告らは,被告各装置においては,上記6つないし4つの各エヤークッションにそれぞれ独立して空気が送られるから,これらを「2つの外側エヤークッション」と同視することはできない旨主張する。しかし,長さ方向(縦方向)に1列に並んだ3つないし2つのエヤークッションは,圧縮空気の導入による膨張圧をもって足に内向きの力を加えるものであり,本件考案の「外側エヤークッション」と全く同じ機能を有している。したがって,被告らの上記主張は失当というべきである。
以上により,被告各装置は,「二つの」外側エヤークッションを有するということができる。
(被告らの主張) 本件考案における外側エヤークッションは「二つ」と規定されているところ,被告装置においては6つ(被告装置1)ないし4つ(被告装置2)の外側エヤークッションが存在する。
被告装置においては,左右一対となった3組(同装置1)ないし2組(同装置2)のエヤークッションの全てに対し,同時に同じ量の空気を送るのではなく,各組ごとに異なるタイミングで空気を注入できる構成となっており,そのことによって複雑かつ高度な加圧効果が得られる。このように,被告装置における外側エヤークッションの独立性は,形態面のみならず機能面からも重要な要素であり,6つ(ないし4つ)のエヤークッションが「二つの外側エヤークッション」と同じ機能を持つ旨の原告の主張は誤りである。
イ 争点(1)イ(被告各装置の外側エヤークッションが,「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」を有するといえるか)について (原告の主張) 本件考案は,エステサロン等に設置して使用されるものであるから,特定の1人ではなく,身長の異なる多数の人を想定して構成されている。したがって,「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」が,絶対的な特定の長さを指すわけではない。下肢骨格の矯正,とりわけX脚及びO脚の矯正という本件考案の目的に照らして考えると,外側エヤークッションにより内向きの力を加える必要のある部分は,おおよそ大腿部の上部から足首の近傍までである(下肢骨格のうち大腿部と脛部が中心となる。)。そこで,この部分を「臀部から足先まで」と表現したものであり,「大腿部の上部から足首まで」と表現することと有意な差はない。
したがって,「臀部」は「大腿部の上部」を意味しており,「足先」とは,字義どおり「足指の先端」を指すものではなく,「足首の近傍」を意味すると解すべきである。
以上の解釈を前提とすれば,被告各装置における外側エヤークッションは,「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」を有すると認められる。
なお,甲9(原告は,第7準備書面において「甲10」と表記しているが,「甲9」の単純な誤記と思われるので,以下,原告が「甲10」を引用している部分については,いずれも「甲9」を指すものと善解して扱うことにする。)及び乙2の各写真に示された「外側エヤークッション」は,日本人としては相当足の長いモデルの臀部からくるぶし上にわたる長さになっているが,平均的な女性の場合には,「臀部から足先まで」の長さになるものと思われる。
(被告らの主張) 本件考案における外側エヤークッションは,「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」が必要とされているところ,甲9及び乙2の各写真が示すとおり,被告各装置の外側エヤークッションは,大腿部から足首まで各足の外側部に密着できる長さしか有しない。
原告は,大腿部の上部は臀部であり,足首は足先に含まれる概念である旨主張するが,それ自体乱暴な議論と言うほかないし,外側エヤークッションの長さが「臀部から足先まで」ある場合と「大腿部から足首まで」ある場合を比べれば,作用効果に有意な差が生じることは明らかである。
以上のとおり,被告各装置が「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」を有するとはいえない。
ウ 争点(1)ウ(被告各装置の外側エヤークッションが,「足の片側表面を覆うことのできる程度」の幅を有するといえるか)について (原告の主張) 本件明細書には,「外側エヤークッション」に「圧縮空気を導入すると膨張圧により足は内向きの力を受ける」と記載されているが(段落【0014】),この記載は,X脚やO脚の矯正のためには,同クッションが膨張圧により互いに内向きに力を加えれば足り,斜め方向や上下方向の力は矯正効果と直接関係ないことを示している。したがって,同クッションは,「膨張圧により足が内向きの力を受ける」程度に足の片側表面を覆っていれば足りるのであって,必ずしも足の片側表面の全部を覆う必要はない。
しかるところ,甲9及び乙2の各写真が示すとおり,被告各装置の外側エヤークッションは,上記程度の幅を備えているから,「足の片側表面を覆うことのできる程度」の幅を有するといえる。
(被告らの主張) 甲9及び乙2の各写真が示すとおり,被告各装置の外側エヤークッションは,足の片側側面の中心線上の狭い範囲に対接する程度の幅しかなく,「足の片側側面を覆うことのできる程度」の幅を有していない。
その結果,本件考案においては,空気が入って膨らんだ外側エヤークッションが足の片側側面を覆うように面として足に圧力を加えるのに対し,被告装置においては,外側エヤークッションが足の外側から内側に向かって線として圧力を加えており,作用効果において明確な差異が生じている。
エ 争点(1)エ(被告各装置の外側エヤークッションが,「柔軟に湾曲できる」ものであるといえるか)について (原告の主張) 本件考案における外側エヤークッションが「柔軟に湾曲できる」とは,同クッションに圧搾空気が導入されて内圧が高められたときに,足の片側表面を覆う同クッションが足に沿って均一に弾性変形できるという意味であり,「湾曲」の字義どおり,弓形に曲がることを意味するものではない。
以上の解釈を前提とすれば,被告各装置の外側エヤークッションが,「柔軟に湾曲できる」ものであることは明らかである。
(被告らの主張) 「湾曲」とは「弓形に曲がること」をいうが,被告各装置の外側エヤークッションは,圧縮空気によって膨張した状態で弓形に曲がることはない。
よって,同クッションは「柔軟に湾曲できる」ものではない。
2 構成要件Bの充足性 ア 争点(2)ア(被告各装置の内側エヤークッションが,「少なくとも足先部分と膝部分の二箇所で両足の間に装着でき」るものであるといえるか)について (原告の主張) 前記のとおり,下肢骨格矯正(とりわけX脚及びO脚の矯正)という本件考案の目的に照らせば,外側エヤークッションの長さは,おおよそ大腿部の上部から足首の近傍まであれば足りると解されるところ,内側エヤークッションは,外側エヤークッションに対応して作用するものであるから,「足先部分」(構成要件B)の文言については,外側エヤークッションの場合と同様,足首の近傍を意味するものと解すべきである。
しかるところ,甲9及び乙2の各写真が示すとおり,被告各装置の内側エヤークッションは,足首の近傍と膝部分の2箇所で両足の間に装着されている。
したがって,被告各装置の内側エヤークッションは,「足先部分と膝部分の二箇所で両足の間に装着でき」るものであるといえる。
(被告らの主張) 被告各装置の内側エヤークッションの1つが,膝部分で装着されることは確かであるが,もう1つは,脛から足首にかけての部分で装着される。
したがって,同クッションが,「足先部分と膝部分の二個所で両足の間に装着」されているとはいえない。
イ 争点(2)イ(被告各装置の内側エヤークッションが,「柔軟に湾曲できる」ものであるといえるか)について (原告の主張) 外側エヤークッションについて上述したとおり,「柔軟に湾曲できる」とは,エヤークッションに圧搾空気が導入されて内圧が高められたときに,同クッションが足に沿って均一に弾性変形できるという意味である。
被告各装置の内側エヤークッションは,両足の間に装着され,圧搾空気が導入されて内圧が高められたときに,足に沿って均一に弾性変形できるものであるから,「柔軟に湾曲できる」との文言を充足している。
(被告らの主張) 外側エヤークッションについて上述したとおり,「湾曲」とは「弓形に曲がること」をいうが,被告各装置の内側エヤークッションは,外側エヤークッションと同様,圧縮空気によって膨張した状態で弓形に曲がることはない。
よって,「柔軟に湾曲できる」との文言を充足しない。
3 構成要件Cの充足性 ア 争点(3)ア(被告各装置が,「少なくとも3本の締付ベルトを有する」といえるか)について (原告の主張) 甲9の写真が示すとおり,被告装置1は,3本の締付ベルトを有するほか,1本の補助ベルトを有している(別紙物件目録1の【図4】及び【図5】参照)。また,甲17の写真が示すとおり,被告装置2は,2本の締付ベルトを有するほか,2本の補助ベルトを有している(同目録2の【図4】及び【図5】参照)。
なお,被告装置2を写したとされる乙2の写真においては,大腿部の上部及び膝部分を2本のベルトで締めただけの状態が示されているが,このように足先部分に補助ベルトがない状態で圧縮空気を送ると,内側エヤークッションの作用を受ける足先側の支点がなく,また,同クッションの位置を固定することが困難であるから,膝を支点にして両足先が開いてしまう。したがって,足先部分の補助ベルトなしに被告装置を使用することは考えられない。被告装置においては,足先部分の補助ベルトで両足を保持固定することが必須なのであり,上記写真は,この補助ベルトを装着していない状態を撮影したものと考えられる。
ところで,本件明細書の段落【0016】には,締付ベルトをシートに固定しておく方式のものと並んで,シートを使用せず締付ベルトを個々に使用する方式のものが記載されている。このことからわかるとおり,本件考案における「締付ベルト」は,シートに取り付けられた方式のものに限定されるわけではない。しかも,前述の補助ベルトは,通常,シートに取り付けられたベルトの間及び足首の近傍にそれぞれ装着され,これら取り付け式のベルトを補助して,両足を締め付け固定するために用いられる。したがって,機能の面から見ても,取り付け式のベルトと補助ベルトの間に何ら差異はない。
以上によれば,上記補助ベルトは「締付ベルト」に該当するというべきであり,したがって,被告各装置は「少なくとも3本の締付ベルト」を有することになる。
(被告らの主張) 原告は,別紙物件目録1の【図4】に示された補助バンドB7,並びに,同目録2の【図4】に示された補助バンドB3及びB4が,いずれも「締付ベルト」に該当することを前提に,被告装置が「少なくとも3本の締付ベルトを有する」と主張する。
しかしながら,これらの補助バンドは,単に内側エヤークッションの位置がずれないように固定するためのものにすぎず,シートに取り付けられたバンドを補助し,両足を締め付け固定するためのものではない。
よって,原告の上記主張は誤りであり,少なくとも,被告装置2については,「少なくとも3本の締付ベルトを有している」とはいえない。
イ 争点(3)イ(被告各装置において,「少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる」締付ベルトが存在するといえるか)について (原告の主張) 甲9の写真が示すとおり,被告装置1においては,3本の取り付け式ベルトが臀部,大腿部の上部及び膝の部分に装着され,さらに,補助ベルトが足先部分に装着されている。また,甲17の写真が示すとおり,被告装置2においては,シートから独立した2本のベルトが臀部及び膝の部分に装着され,さらに,補助ベルトが膝上部分及び足先部分に装着されている。
上述したとおり,上記の補助ベルトは,いずれも「締付ベルト」に該当するものであり,かつ,被告装置1においても,また被告装置2においても,これらの装置が所定の作用効果を奏するためには,足先部分で両足を保持固定する補助ベルトの存在が必須であると考えられる。
以上によれば,被告各装置においては,足先部分で両足を保持固定する締付ベルト(補助ベルト)が必ず存在し,さらに,臀部,大腿部の上部及び膝の部分に装着される3本の締付ベルト(被告装置1),あるいは,臀部及び膝の部分に装着される2本の締付ベルト(被告装置2)が存在することになる。よって,「少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる」締付ベルトが存在するといえる。
(被告らの主張) 原告は,別紙物件目録1及び2にそれぞれ示された補助ベルトが,いずれも「締付ベルト」に該当することを前提に,被告各装置において,「少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる」締付ベルトが存在すると主張する。
しかしながら,上述したとおり,そもそも上記補助ベルトは「締付ベルト」に該当しないから,被告各装置においては,足先を脱着可能に保持固定できる締付ベルトが存在しないことになる。原告の上記主張はその前提を欠いており,誤りである。
また,上記足先の補助ベルトの点をさておいても,被告各装置は,その他の締付ベルトの装着位置においても本件考案と相違している。すなわち,被告装置1における3本の締付ベルトの装着位置は,大腿部,膝及びふくらはぎ部であり,被告装置2における2本の締付ベルトの装着位置は,大腿部及びふくらはぎ部であるから,いずれにせよ,被告各装置においては,「臀部,両方の足」に装着される締付ベルトが存在しないことになる。
なお,締付ベルトの装着位置は,両足に圧力を加え,X脚やO脚を矯正するという本件考案の作用効果との関係で重要である。そのことは,原告自身が,本件明細書の段落【0006】において,「…骨盤部分や足首部分にも同時に機械的な力を適切な向きに適切な強さで加えて矯正する必要がある。」と記載していることからも明らかである。しかるに,被告各装置は,骨盤部分や足首部分には圧力を加えておらず,締付ベルトにより足先を保持固定することもしていないのである。
4 構成要件Dの充足性 争点(4)(被告各装置は,「電気分配器」を有しているといえるか)について (原告の主張) 本件考案における「電気分配器」は,圧搾空気発生源で発生した圧搾空気を外側エヤークッション及び内側エヤークッションに送るための圧搾空気供給系を構成するもので,上記発生源に導管を介して接続され,電子制御装置によりプログラム制御されるものである。
別紙物件目録1及び2の各【図6】が示すとおり,被告各装置における電子制御装置H,圧力センサG,電磁弁F1ないしF 9及びこれらを接続する配管I 2ないしI21 等からなるシステムは,ポンプEで発生した圧搾空気を外側エヤークッション及び内側エヤークッションに送るための圧搾空気供給系を構成するもので,同ポンプに導管を介して接続され,電子制御装置Hによりプログラム制御されている。よって,同システムは「電気分配器」に該当し,被告各装置は構成要件Dの文言を充足する。
なお,被告らは,上記システムを構成する配管の1つをバッファータンクと称しているが,「電気分配器」をどのように具体化するかは単なる設計事項にすぎず,配管にバッファータンクの機能を付加したところで,電気分配器としての機能がなくなるわけではない。よって,被告らの主張は意味をなさない。
(被告らの主張) 本件明細書の段落【0018】には,「吸気口SUから吸引された空気をコンプレッサCPで圧縮してバッファータンクBTに貯蔵する。バッファータンクBT中の圧縮空気は分配器DSを介して外側エヤークッション導管QCと内側エヤークッション導管QOに配分される。」,「分配器DSは複数の電磁開閉弁(図示せず)とこれ等の電磁開閉弁を介して外側エヤークッション導管QCと内側エヤークッションQOの空気を外部に排気する排気口EXを含む。」との各記載がある。これらの記載に照らすと,「分配器」ないし「電気分配器」とは,バッファータンクとは完全に別の装置であり,かつ,圧縮空気の流れにおいて,バッファータンクよりも下流に位置するものと解すべきである。
しかるに,被告各装置においては,バッファータンクの下流位置には,空気を分岐させる機能を有する複数の電磁開閉弁はなく,導管及び独立した開閉バルブがあるだけで,「電気分配器」に該当するものは存在しない。
よって,被告各装置は構成要件Dを充足しない。
5 構成要件Eの充足性 争点(5)(被告各装置が,上記AないしDから成ることを特徴とする「下肢骨格矯正装置」であるといえるか)について (原告の主張) 上記のとおり,被告各装置は構成要件AないしDを充足しており,その当然の帰結として下肢骨格を矯正する効果を有するから,構成要件Eも充足する。
被告らは,被告各装置は下肢骨格矯正ではなく,痩身美容に用いられるものであると主張するが,甲9のチラシ及び甲18のパンフレットには,O脚やX脚をよりストレートラインに近づける旨の文言が明記されているから,被告各装置が下肢骨格矯正効果を有することは明らかである。また,仮に被告各装置が痩身美容に用いられるとしても,だからといって,その下肢骨格矯正効果が否定されるわけではない。よって,被告らの主張は意味をなさない。
(被告らの主張) 被告各装置は痩身美容器として用いられるもので,下肢骨格矯正の効果はない。よって,構成要件Eを充足しない。
6 争点(6)(原告の損害額)について (原告の主張) ア 被告ベステックに対する請求 (1) 主位的請求 被告ベステックは,被告コミーに対し,被告各装置を合計650台分(被告装置1を350台,被告装置2に用いる被告カフを300セット)販売した。これによって,原告が販売の機会を失った下肢骨格矯正装置の1台あたりの利益は10万円である。また,原告は同装置650台を製造・販売する能力を有していた。
したがって,実用新案法29条1項により,原告が被った損害額の合計は6500万円となる。
(2) 予備的請求@ 被告ベステックは,被告コミーに対し,被告装置1を1台50万円で350台販売したが,1台当たりの利益は販売額の20%を下らないから,これにより被告の得た利益は,3500万円となる。
被告ベステックは,被告コミーに対し,被告カフを1セット2万3000円で300セット販売したが,1台当たりの利益は販売額の20%を下らないから,これにより被告の得た利益は,138万円となる。
したがって,実用新案法29条2項により,原告が被った損害額の合計は3638万円となる。
イ 被告コミーに対する請求 (1) 主位的請求 被告コミーは,被告ベステックに対して,被告装置1及び被告カフを発注するに当たり,その仕様及び構成を指定して発注したものであるから,被告ベステックと共同で本件実用新案権を侵害したものである(共同不法行為)。
したがって,被告コミーは,上記ア(1)の実用新案法29条1項による原告の損害額6500万円について,被告ベステックと連帯して賠償義務を負う。
(2) 予備的請求@ 上述のとおり,被告コミーは,共同不法行為者として被告ベステックの実用新案権侵害行為について連帯して責任を負う。
したがって,被告コミーは,上記ア(2)の実用新案法29条2項による原告の損害額3638万円について,被告ベステックと連帯して賠償義務を負う。
(3) 予備的請求A 上述のとおり,被告コミーは,被告ベステックから,被告各装置を合計650台分購入し,その経営にかかる美容サロン(「TBC」の名称で複数の店舗が展開されている。)において使用した。その購入価格は1台あたり50万円であり,下肢骨格矯正装置における本件実用新案権の実施料は価格の5パーセントを下らないから,実施料相当額の損害金は合計1625万円である(実用新案法29条3項)。
(被告らの主張) 原告の上記主張は,いずれも争う。
当裁判所の判断
1 本件考案の特徴 ア 本件明細書の【考案の詳細な説明】欄をみると,まず,従来技術として,フットバーを踏ん張る力を膝に加える力に変換することにより,使用者の外側方向から足に力を加えるO脚矯正装置が紹介され,この矯正装置は,座屈状態で使用する上に,足の踏ん張りにより矯正力を生み出すため,長時間使用するには忍耐が必要で,多くの人が継続使用を諦めた旨記載されている(段落【0003】【0004】)。また,横臥状態で足を屈伸運動してO脚を矯正する装置が紹介され,このような装置は長時間使用しても飽きがこないが,外側から脚を押圧する部材が狭い範囲の部位に当たるため,保護用のパッド等をあてても,長時間使用すると,押圧部分に相当な肉体的負担をかける旨記載されている(段落【0005】)。
そして,上記の各記載に引き続き,「一般に,O脚あるいはX脚のような下肢の骨格の不正規な状態は,単に下肢の骨格のみでなく,骨盤あるいは足関節等にも不自然な歪みがある。…解説書には,O脚により他の部位の骨格に歪みが生じることが指摘されている。代表的なものとして『骨盤の歪み』,『股関節の歪み』,『足首の歪み』および『足根骨の出っ張り』である。これ等の不整骨格状態は単独に生じていたり,場合によっては,複合状態で生じている。それ故,O脚を矯正するため,脚の曲がり部分にのみ機械的な力を加えて,正規な姿勢に強制的に矯正することでは十分ではない。つまり,骨盤部分や足首部分にも同時に機械的な力を適切な向きに適切な力で加えて矯正する必要がある。」と記載された上で(段落【0006】),本件考案が解決しようとする課題は,「使用が容易で,構造・構成が単純で,身体の種々の部位に機械的な力を適切な向きに適切な力で加えてO脚あるいはX脚を総合的に矯正できる下肢骨格矯正装置を提供することにある。」(段落【0007】)と記載されており,矯正効果の実を挙げるためには,脚の曲がり部分にのみ圧力をかけるのでは不十分で,骨盤部分や足首部分にも同時に力を加えることが重要である旨の考案者の認識が明確に示されている。
さらに,実施例を説明している箇所(段落【0010】以下)においても,「締付ベルト…の当たる位置の足部分に最も効果的に力が加わる」から,「何れにしても,個々の人の骨格状態に応じて適当な位置に締付ベルトを置くことが必要」であるとされた上で(段落【0014】),「O脚あるいはX脚の人の臀部や足先の骨格は不整があるため,これを臀部の締付ベルト…及び足先部の締付ベルト…により加圧印加を与える。」とされており(段落【0015】),やはり,締付ベルトを通じて,脚の曲がり部分のみならず,臀部及び足先にも力を加えることが重要である旨の記載がなされている。
イ 以上を総合すれば,本件考案は,従来技術に比べて,使用が容易で,構造・構成が単純であるという一般的な長所を有することに加え,その具体的な構成・作用においては,矯正効果を実効的ならしめるため,単に脚の曲がり部分に力を加えるだけでなく,骨盤部分や足首部分にも同時に力を加えることを特徴とするものというべきである。
そして,前記のとおり,本件明細書の段落【0006】において,「骨盤あるいは足関節等にも不自然な歪みがある。」との記載の直後に,「『骨盤の歪み』,『股関節の歪み』,『足首の歪み』および『足根骨の出っ張り」との表現が列記され,その上で,「つまり,骨盤部分や足首部分にも同時に機械的な力を適切な向きに適切な力で加えて矯正する必要がある。」と,上記本件考案の特徴に関わる考案者自身の認識が開示されていることからすれば,ここにいう「足首部分」とは,漠然と足首周辺を指しているのではなく,矯正すべき歪みの生じ得る足首の関節部分を指す概念として用いられているというべきである。また,上記の実施例説明箇所における,「X脚を矯正するには,膝,臀部,および足先の部分に締付ベルト…を巻き付け,………O脚の場合にも,膝,臀部および足先の部分に締付ベルト…を巻き付け,」(段落【0014】),及び,「O脚あるいはX脚の人の臀部や足先の骨格は不整があるため,これを臀部の締付ベルト…及び足先部の締付ベルト…により加圧印加を与える。」(段落【0015】)との各記載に照らせば,「臀部」とは,原告が主張するように「大腿部の上部」程度の意味で用いられているのではなく,矯正すべき歪みの生じ得る骨盤部分と同義に用いられているというべきである。
【実用新案登録請求の範囲】における構成要件AないしDの各文言は,上記本件考案の特徴,及び,【考案の詳細な説明】欄における用語例を前提として解釈する必要がある。したがって,構成要件A,B及びCの「足先」とは足首の関節部分を含んだ足先までの部分を指すものであり,同A及びCの「臀部」とは骨盤部分を指すものと解すべきである。
2 争点(1)イ(被告装置の外側エヤークッションが,「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」を有するか)について ア 前記1で述べたところからすれば,外側エヤークッションの長さに関する「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる」(構成要件A)との文言は,同クッションが骨盤部分から足首の関節部分を含んだ足先までの下肢全体に接触し,骨盤部分から足首の関節部分を含んだ足先までの下肢全体に圧力を加えるに足りる長さを有することを要件としているものと解すべきである。
しかるところ,証拠上(甲9,甲17,甲18),被告各装置の外側エヤークッションは,くるぶしの上付近で両下肢に接触しているにとどまり,足首の関節部分まで覆う長さを有するとは認められない。したがって,被告各装置が上記文言を充足していると認めることはできない。
イ なお,原告は,下肢骨格の矯正,とりわけX脚及びO脚の矯正という本件考案の目的に照らして考えると,外側エヤークッションにより内向きの力を加える必要のある部分は,おおよそ大腿部の上部から足首の近傍までである(下肢骨格のうち大腿部と脛部が中心となる。)ことから,この部分を「臀部から足先まで」と表現したものであると主張する(第3の1イ(原告の主張)イ)。
しかしながら,上述したとおり,本件明細書の段落【0006】の記載に照らせば,本件考案においては,外側エヤークッションが骨盤部分や足首の関節部分にも同時に力を伝えるに足りる長さを有していることを要するものというべきであるから,原告の上記主張は,明細書の記載を無視するものというほかなく,採用の限りでない。
また,原告は,甲9及び乙2の写真に示された「外側エヤークッション」は,日本人としては相当足の長いモデルの臀部からくるぶし上にわたる長さになっているもので,平均的な女性の場合には「臀部から足先まで」の長さの要件を満たすと主張する。しかしながら,本件考案の構成要件を満たしているというためには,身長の高低にかかわらず全般的な使用において骨盤部分と足首部分にも同時に力を加えるような使用態様が予定されていることを要するものであり,たまたま身長の低い人にはそのような使用態様に足りる長さであるというだけでは,本件考案の構成要件を満たしているということにはならない。
ウ 以上のとおり,被告各装置の外側エヤークッションが「臀部から足先まで各足の外側部に密着できる長さ」を有するとは,認められない。
よって,その他の文言の充足性(争点(1)ア,ウ及びエ)について検討するまでもなく,被告各装置は構成要件Aを充足しない。
3 争点(3)イについて 上記のとおり,被告各装置は構成要件Aを充足しないが,念のため,争点(3)イ(構成要件Cの充足性)についても判断する。
ア 前記1において述べたとおり,本件明細書の段落【0010】以下においては,実際に外側エヤークッション及び内側エヤークッションを装着し,締付ベルトで保持固定した上,各エヤークッションに圧搾空気を送った場合,力がどのように作用するかが実施例に即して説明されているところ,段落【0014】においては,「締付ベルト…の当たっていないところでは,締付ベルトによる外向きの移動が拘束されていないため,例えば,外側エヤークッション…に圧縮空気を導入しても,内向きに力を与えないか,あるいは極めて弱い力しか与えない。」と記載されており,締付ベルトの当たる位置に力が作用することが明確に示されている。また,段落【0015】においては,「O脚あるいはX脚の人の臀部や足先の骨格は不整があるため,これを臀部の締付ベルト…及び足先部の締付ベルト…により加圧印加を与える。」と記載されており,O脚ないしX脚の矯正との関係では,臀部や足先に締付ベルトを保持固定する必要のあることが示されている。
これらの記載は,既に述べたように,本件考案が,単に足の曲がり部分のみならず,臀部や足先にも同時に力を加え,骨盤部分や足首の関節部分の歪みに働きかけてO脚ないしX脚を矯正することを特徴とすることに対応するものであり,これらの記載内容に照らせば,構成要件Cが,「少なくとも臀部,両方の足および足先をそれぞれ脱着可能に保持固定できる」締付ベルトの存在を要求しているのは,少なくとも臀部と足先部分において,締付ベルトにより外側エヤークッションの外向きの移動を拘束し,その上で同クッションを膨張させることによって,骨盤部分や足首の関節部分に内向きの力を加えることが,本件考案の作用効果を達成するために必要であるからと考えられる。
したがって,ここでいう「締付ベルト」とは,単に両足を保持固定する機能を有するにとどまるものではなく,臀部と足先部分を含む下肢全体を外側エヤークッションごと保持固定することによって,同クッションが圧搾空気により膨張した際に,その外向きの移動を拘束し,骨盤部分及び足首部分を含む下肢全体を締め付ける機能を有するものでなければならないというべきである。
イ ところが,原告が被告各装置において「足先を…脱着可能に保持固定できる…締付ベルト」に該当すると主張する各ベルトは,証拠に照らすと,外側エヤークッションを介さずに直接足に接触して足先を保持固定していたり(甲9),あるいは,外側エヤークッションごと足先を保持固定しているのか不明瞭であったり(甲17,甲18)するものであって,外側エヤークッションが膨張した際に,その外向きの移動を拘束することによって,骨盤部分及び足首部分を含む下肢全体を締め付ける機能を有しているものとは認められない。
上記によれば,被告各装置が「足先を…脱着可能に保持固定できる…締付ベルトを有する」ということも,できない。
ウ したがって,その他の文言の充足性(争点(3)ア)について検討するまでもなく,被告各装置は構成要件Cを充足しない。
4 結論 以上によれば,被告各装置は構成要件Aを充足せず,また,構成要件Cも充足しない。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之