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関連審決 判定2000-60124
審判1999-35199
関連ワード 考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  自然法則 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  相違点の認定 /  新規性(3条1項) /  削除 /  請求項 /  実施例 /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 /  明瞭でない記載 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 302号 審決取消請求事件
原告 有限会社武藤選果機製作所
訴訟代理人弁理士 高松利行
被告A
被告 有限会社今村機械
被告ら訴訟代理人弁理士 田中香樹
同 平木道人
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/23
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35199号事件について平成12年7月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告らは、名称を「生花の下葉取装置」とする実用新案登録第2548320号の考案(平成2年5月30日出願、同9年5月30日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案登録権者である。
原告は、平成11年4月28日本件実用新案登録について無効審判を請求し、この請求は平成11年審判第35199号事件として特許庁に係属したところ、被告らは同年8月5日に訂正請求をし、平成12年7月5日、特許庁は「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月24日に原告に送達された。
2 本件考案の要旨 (1) 登録時の実用新案登録請求の範囲の記載【請求項1】処理対象の生花の根元部と予定間隔をおいて、かつこれとほぼ直交するように配置される回転軸と、前記回転軸に結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し、前記弾性ヒモの長さは前記予定間隔よりも長く設定され、前記回転軸は前記弾性ヒモが前記根元部の位置でその基端部に向けて回転する方向に駆動され、回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする生花の下葉取装置。
請求項2】処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に、前記根元部とほぼ直交するように配置され、互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸と、前記回転軸のそれぞれに結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し、前記各回転軸の弾性ヒモの長さの和が前記各回転軸と前記平面間の距離の和よりも大であり、かつ前記回転軸は前記弾性ヒモが前記平面の位置で前記根元部の基端部に向けて回転するように駆動され、回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする生花の下葉取装置。
請求項3】一対の無端チェーンに所定間隔で並設した支持杆の花受腕に生花を載置して移送し、生花を選別する生花選別機の、無端チェーンの回動によって移送される生花の根元部と対向する位置に、前記無端チェーンの進行方向とほぼ平行に、
その回転軸が配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の生花の下葉取装置。
(2) 訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載(下線部が訂正による付加箇所)【請求項1】(登録時と同文)【請求項2】処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に、前記平面とほぼ平行で、かつ前記根元部とほぼ直交するように配置され、互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸と、前記回転軸のそれぞれに結着された少なくとも1本の弾性ヒモとを具備し、前記各回転軸の弾性ヒモの長さの和が前記各回転軸と前記平面間の距離の和よりも大であり、かつ前記回転軸は前記弾性ヒモが前記平面の位置で前記根元部の基端部に向けて回転するように駆動され、回転している弾性ヒモが前記生花の根元部の葉を衝撃して叩き落とすことを特徴とする生花の下葉取装置。
請求項3】(登録時と同文) 3 審決の理由の要旨 審決は、別紙審決の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、平成11年8月5日付け訂正請求に係る訂正(本件訂正)を認めたうえ、@本件考案(本件訂正後)は実用新案法3条1項柱書きの規定に違反して登録されたもの(原告主張の無効理由1)とはいえない、A請求項1ないし3に係る本件各考案は、審判甲第1号証(本訴甲第14号証)記載の考案、同第2号証(本訴甲第15号証)記載の考案又は同第3号証(本訴甲第16号証)記載の考案である(原告主張の無効理由2)ということはできず、Bまた、本件考案がこれら審判甲号各証記載の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができた(原告主張の無効理由3)ともいえないし、C本件考案が、実用新案法5条3項、4項の規定に違反して登録された(原告主張の無効理由4)ということもできない、と認定判断した。
原告主張の審決取消事由
審決は、平成11年8月5日付けの本件訂正が不明りょうな記載の釈明に当たると誤って判断(取消事由1)することにより、本件訂正を誤って認めたうえ、本件訂正後の明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載不備を看過し(取消事由2)、本件実用新案登録請求の範囲請求項1ないし3に係る考案(以下順に「本件考案1」ないし「本件考案3」ということがある。)の産業上の利用可能性の判断を誤り(取消事由3)、本件考案新規性進歩性の判断を誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正請求についての判断の誤り) 訂正事項aは、登録時の請求項2の「・・平面の両側に、・・」を「・・平面の両側に、前記平面と平行で、かつ・・」と訂正し、訂正事項bは登録時の明細書考案の詳細な説明欄(甲第2号証の登録公報5欄24行)の「下葉の掻き取りの難易」を「下葉取りの難易」と訂正するものであるが、審決がこれらの訂正を認めたことは誤りである。
(1)訂正事項aについて 登録時の請求項2の「処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に、前記根元部とほぼ直交するように配置され、互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸」なる構成を忠実に図面化すると、甲第36号証第6図(原告作成の説明図)のとおり、「処理対象の生花の根元部を含む平面」内に1対の回転軸が存在するものであり、この構成によっては、弾性ヒモを茎に当てて葉落しすることは物理的に不可能である。すなわち、この構成は下葉取装置の構成として誤っており、不明なものである。
したがって、この訂正は、不明な記載の訂正であって、不明りょうな記載の訂正ではないから、許されるものではない。そして、訂正が許されない以上、請求項2に係る考案は、意味不明なものとして無効とされるべきである。
(2)訂正事項bについて 「掻き取る」と「衝撃して叩き落とす」とは、表現は相違するが、実体は同じであるというのが、原告の主張である。この主張が容認されるのであれば、この訂正は容認されるが、両者は利用する自然法則が相違する別異の作用というのであれば、この訂正は容認されるべきではない。審決は、訂正を誤って認めたことにより、本件考案の作用を誤認したものである。
2 取消事由2(記載不備の看過) 2-1.取消事由2-1(「弾性ヒモ」についての記載不備の看過) (1)審決は、「『弾性ヒモ』は、社会通念上必ずしも一般的な用語ではない」(審決書11頁5行)と認定したうえで、
「『弾性ヒモ』は、弾性を有する(力を加えれば変形し、また、力を加えるのを止めれば原形に復帰する)ものではある(注.以下「第1要件」という。)が、回転停止状態では、回転軸の上方に設けられた弾性ヒモの先端が自重により下方に垂れ下がり(注.以下「第2要件」という。)、回転するとほぼ直線状、一文字状、十文字状になる程度の柔軟性を有し(注.以下「第3要件」という。)、物を束ねたり、結んだりすることのできるもの(注.以下「第4要件」という。)であるということができる。」(審決書12頁27〜32行)と定義した。 しかし、「弾性ヒモ」の概念は不明と認定したうえで、その定義をすることは、
登録査定後に権利の内容を確定する行為に他ならないから、「弾性ヒモの定義」をしたこと自体が誤りである。
(2)しかも、審決の定義も誤りである。
第2要件は、同一太さ、同一材質であっても、その長さによって変わる。すなわち、長さが短いと起立しているものでも、長くなるに従い、次第にその先端は自重により下方へ垂れ下がる。ところが、どの程度をもって下方へ垂れ下がったとみなすかは各人の主観によって相違するのであるが、審決は、その判断基準を示していないのであるから、第2要件によって弾性ヒモと非弾性ヒモを区別することはできない。
本件明細書に「弾性ヒモは、自由回転状態ではほぼ直線状をなしている」(甲第41号証6頁14、15行)、「弾性ヒモ37はそれ自体の遠心力によって一文字状のプロペラのように回転する。」(同号証7頁26、27行)、及び「第4図のように・・・4本の弾性ヒモにすると、十文字状の形状を保って回転する」(同号証7頁28行〜8頁1行)と記載されていること、並びに本件明細書の第3図及び第4図に弾性ヒモ先端が下方へ垂れ下ったものが図示されていることは認める。
しかし、遠心力Fは、F=mrω2(mは回転体(弾性ヒモ)の質量、rは回転半径、ωは角速度)で与えられる、垂れ下がった部分の角速度ωは0であり、したがって遠心力も0であり、しかも垂れ下った部分は腰がきわめて弱いため、回転軸が回転すると、回転軸に巻き付くのであって、遠心力によって直線状や一文字状になることは、物理の法則上あり得ない。
すなわち、第2要件と第3要件は、互いに物理法則に相矛盾する要件なのであって、この2つの要件を共に満足する部材は、理論的にも実際上もこの世に存在しないのである。なぜならば、第2要件を満足するものは第3要件を満足せず、またこれと反対に、第3要件を満足するものは第2要件を満足しないからである。 さらに、第3要件は、自然法則から見ても誤っていることは明白である。すなわち、柔軟性を有するものであれば、高速回転をすれば、強い空気抵抗により決して直線状や一文字状にはならず、スパイラル状にわん曲するからである。この点審決は、
「弾性ヒモが遠心力により遠心方向に引っ張られて直線(一文字、十文字)に近い状態で回転することを指して、『ほぼ直線状、一文字状、十文字状になる程度の』といったのであって、スパイラル状になることを排除したものではない」(審決書22頁10〜13行)ともいうが、どの程度をもってほぼ直線状やほぼ一文字状とみなすかの判断基準も示していない。
第4要件は、「物を束ねたり、結んだりすることができるもの」というものであるが、何をもって束ねたり、結んだりしたと見なすかの判断基準がない限り、その判断はできないのである。そしてこの判断基準が示されない以上、この第4要件は事実上、弾性ヒモの要件たり得ず、第4要件によっても、弾性ヒモと非弾性ヒモを区別することはできない。
(3)被告らは、「弾性紐」との用語が用いられている例として特開平7-217222号公報(乙第1号証)、特開平8-229041号公報(乙第2号証)、
特開平8-295179号公報(乙第3号証)、特開平9-188136号公報(乙第4号証)、実願昭62-190962号(実開平1-95153号)のマイクロフィルム(乙第17号証)、及び実願昭63-104095号(実開平2-25326号)のマイクロフィルム(乙第18号証)を挙げるが、本件考案とは技術分野がかけ離れているばかりか、いずれの文献における「弾性紐」もかなり長尺であって、ヒモとして用いられるから「弾性紐」と命名されたにすぎない。
2-2.取消事由2-2(請求項1の「予定間隔」についての記載不備の看過) 審決も、「本件登録明細書考案の詳細な説明には、確かにこのような記載はない」(審決書19頁3、4行)と認定しているとおりであるから、請求項1の「予定間隔」はその意味が不明である。
2-3.取消事由2-3(請求項3の記載不備の看過) 請求項3の「一対の無端チェン・・・生花を選別する生花選別機」における、
「支持杆」や「花受腕」とは具体的にいかなるものであるのか不明である。いうまでもなく、請求項に記載された考案の構成は、実施例によって、しっかり裏付けされたものでなければならない。
また審決は、「また、本件出願前に頒布された・・・実施例として記載されているに等しいものである。」(審決書20頁27〜35行)と認定したが、本件出願とは全く無関係の他の文献にそれらしいと想像されるものが記載されているからといって、それを本件考案の実用新案登録請求の範囲の構成にしてよいはずはない。
3 取消事由3(産業上の利用可能性の判断の誤り) 取消事由2-1で述べたように、「弾性ヒモ」とはいかなるものであるか不明であるが、(イ)一般的な社会通念のとおり、腰の強さを有しないものとの解釈(検甲第14号証の繊維ヒモが、社会通念上の代表的なヒモである)、又は、(ロ)一般的な社会通念上のヒモの概念に反し、腰の強さや可撓性を有するものとの解釈が可能である。
仮に(イ)の解釈であれば、下葉落し装置として産業上利用することができないのであるから、「本件考案は実用新案法第3条第1項柱書きの規定に違反しない。」(審決書14頁8、9行)との審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(相違点の認定の誤り) (1)「弾性ヒモ」についての相違点の認定の誤り 審決は、「甲第1号証(注.実願平1-49865号(実開平2-57348号公報)のマイクロフィルム、本訴甲第14号証、以下「引用例1」という。)記載の葉落し部材は、いずれも、弾性ヒモではなく、該弾性ヒモを回転軸に結着したものでもなく」(審決書15頁33〜35行)、「請求項1に係る考案が、少なくとも、葉落し部材が「回転軸に結着された少なくとも1本の弾性ヒモ」からなるのに対して、甲第2号証(注.実公昭60-38354号公報、本訴甲第15号証、以下「引用例2」という。)記載の葉落し部材は『合成樹脂製筒状ロール2の外周面に、軟質の合成樹脂棒4及びブラシ7を植設』されている点で相違し」(審決書16頁8〜12行)、「請求項1に係る考案が、少なくとも、葉落し部材が『回転軸に結着された少なくとも1本の弾性ヒモ』からなるのに対して、甲第3号証(注.実願昭55-28728号(実開昭56-131754号公報)のマイクロフィルム、本訴甲第16号証、以下「引用例3」という。)記載の葉落し部材は「突起2を設けたゴムブラシ1をシャフト7に取り付け」た点で相違し」(審決書8頁23〜26行)等と認定し、引用例1ないし3に記載された葉落とし部材(以下これらを総称して「公知3部材」という。)が「弾性ヒモ」ではないと認定したが、取消事由1で述べたように、「弾性ヒモ」の定義を誤り、この誤った定義を前提とする認定であるから、この認定も誤りである。
ア 材質・形状面における「弾性ヒモ」と公知3部材の同一性 取消事由3で述べたように、「弾性ヒモ」が腰の強さを有しないのであれば、産業上の利用可能性がないため、腰の強さや可撓性を有するとの解釈を採用すると、
「弾性ヒモ」と公知3部材を区別することはできない。すなわち、引用例1の考案の「ピン状の可撓性の葉落し部材」、引用例2の考案の「軟質の合成樹脂棒」、及び引用例3の考案の「ゴムブラシの突起」は、いずれも弾性を有する細長い部材であるから、本件考案の「弾性ヒモ」と同一であり、単に名称が相違するにすぎない。
イ 作用面における「弾性ヒモ」と公知3部材の同一性 葉落としの作用を考えても、「弾性ヒモ」と公知3部材には相違がない。
本件考案の作用として本件明細書には、「生花の葉や葉柄に衝突して自由回転が妨げられると、当該葉柄や葉の部分を衝撃的に強く叩くと当時に、慣性力によって、それよりも先端の部分が、葉や葉柄との衝突点からさらに回転方向へ曲がり込んでこれに巻き付くように屈曲変形し、これによって葉や葉柄はこれとほぼ直交する力で確実に叩き落とされる。」(甲第41号証6頁15〜19行、以下「作用1」という。)、及び「生花の茎に傷つけることなく、根元部の全周の下葉を完全に叩き落とす」(同号証6頁21〜22行、以下「作用2」という。)と記載されているが、これらの作用は、理論的にも実際的にも有り得ない架空の作用である。
本件考案実施例に挙げられているウレタンゴムの強度は葉の強度よりもはるかに大きいので、ウレタンゴムが葉に当った場合、屈曲するのは葉の方であり、ウレタンゴムの先端が屈曲することは物理的にあり得ない。しかも、弾性ヒモは1500rpm程度の速度で回転するものであり、1枚の葉を通過するのに要する時間は、せいぜい0.000064秒程度である。このような一瞬の間に、「弾性ヒモ」の先端が屈曲・伸長を繰り返すことはまったく非現実的であって、作用1は物理現象として有り得ない。
原告撮影に係る甲第25号証の写真Eは葉落し前のキクの茎を撮影したものであり、同写真Fは、検甲第5号証の葉落し部材により葉落しした後の茎を撮影したものであるが、写真Fから明らかなように、葉落しすると、茎の全周に相当の摺り傷がつく。そもそも、茎に傷をつけずに葉落しすることは物理的に不可能であるから、作用2も現実にはあり得ない作用である。
「弾性ヒモ」や公知3部材などの葉落し部材は、高速回転しながら葉に当って葉を落すものであるから、葉には必らず衝撃を与えるものである。したがって葉を「衝撃して叩き落とす」作用は、弾性ヒモに固有の作用ではなく、公知3部材を含むすべての葉落し部材が当然に奏する自明の作用である。ただし、「衝撃して叩き落とす」という表現は、「掻き落とす」、「摺接して落とす」、「払落する」、
「当接して落とす」などの他の表現と比較して、特異な表現というべきである。なお低速回転であれば、葉落し部材は葉を軽くなでるだけであり、葉は落ちない。
被告らは、審判において、「弾性ヒモ」は柔らかいので、本件考案の作用効果を奏する旨主張したが、「柔らかい」か否かは相対的な性質であって、何をもって「柔らかい」とするかの客観的な基準はない。また一般論としては、柔かいものよりも、硬いものの方が衝撃力は大きいのであるから、弾性ヒモが柔らかいものとするならば、その衝撃力はむしろ小さいのである。
(2)「結着」についての相違点の認定の誤り 審決は、「本件考案の『結着』とは、上記本件登録明細書に記載されているように、弾性ヒモを回転軸に結束バンドで取り付けたり、回転軸に取り付けたピンや鈎片に弾性ヒモを取り付けたりすることを、意味している。」(審決書15頁27〜29行)と解釈したうえで、「甲第1号証記載の葉落し部材は、・・・該弾性ヒモを回転軸に結着したものでもなく」(審決書15頁33〜35行、17頁19〜20行)、及び「甲第2、3号証記載の葉落し部材は、回転軸に結着したものではない」(審決書17頁25〜27行)と認定した。
しかし、新漢和辞典(甲第44号証)によれば、「結着」とは「結びつける」の意味であり、また「結ぶ」とは「むすびめを作る」の意味であるから、上記審決の解釈は誤っており、したがってこの誤った解釈を前提とした上記相違点の認定も誤りである。
任意部材の取り付け方法として、「結着」することは、古来より、広く一般に行われている立証するまでもない公知の方法にすぎないのであるから、「結着」自体に考案進歩性はないことは明らかである。
被告らの反論の要点
1 取消事由1に対して (1)訂正事項aについて 登録時の請求項2の「処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に、前記根元部とほぼ直交するように配置され、互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸」なる構成は、審決も認めるように明瞭ではあるが、原告が主張するような誤解を少なくするように、より一層明瞭にするための訂正であり、審決がこれを容認したのは正当である。
(2)訂正事項bについて 登録明細書の「下葉の掻き取り」を「下葉取り」にした訂正も、審決が判断したとおり、明りょうでない記載の釈明に相当するから、これを許可した審決の判断は正当である。なお、本件考案の弾性ヒモによる葉落しの原理が「掻き取り」や「摺りおとし」では無く、「叩き落とし」と解するのが機械、物理学の諸法則に照らして正しいことは石井次郎作成の鑑定書(乙第12号証)及び松本健一作成の鑑定書(乙第13号証)によって立証されている。
2 取消事由2に対して 2-1.取消事由2-1について (1)原告は、審決が「弾性ヒモ」を解釈(定義)するに当たって、明細書図面を参酌したことが誤りであると主張するが、実用新案法26条で準用する特許法70条の規定に照らせば、原告の主張が的はずれであることは明白である。 ただし、「弾性ヒモ(紐)」の用語は、特開平7-217222号公報(乙第1号証)、特開平8-229041号公報(乙第2号証)、特開平8-295179号公報(乙第3号証)、特開平9-188136号公報(乙第4号証)、日本機械学会1999年度年次大会講演論文集T、第211〜212頁「955. 弾性紐の離散モデルを用いた巻き取りシミュレーション」論文(乙第5号証)、Q.J. Mec. Appl. Math. (UK), Vol.43, Pt.3, AUG. 1990, 317〜333 頁“PLANE DEFORMATIONS OF MEMBRANES FORMED WITH ELASTIC CORDS ”論文(乙第8号証)、Eur. J. Phys. (uk), 第18巻第5号第338〜391頁の論文“A simple theoretical model of a bungee jump"(乙第9号証)、実願昭61-142898号(実開昭63-48770号)のマイクロフィルム(乙第16号証)、実願昭62-190962号(実開平1-95153号)のマイクロフィルム(乙第17号証)、
及び実願昭63-104095号(実開平2-25326号)のマイクロフィルム(乙第18号証)に見られるように、特許明細書や一般技術文献等にも普通に広く使用されている、慣用された技術用語である。さらに、ひもや棒、リングなどの物体の形状を表す用語の前に、その材料又は物性を表す用語を接頭語として付加することは、特に技術分野では従来から普通に行われている一般的な表現手法である。
したがって、実用新案登録請求の範囲に記載された技術用語としての「弾性ヒモ」の意味、定義は、それ自体で明確である。「弾性ヒモ」の解釈に当たって、審決が不必要に明細書図面を参酌し、重視して不当に限定的に解釈したことは事実誤認であり、不適法であるといわざるを得ない。
(2)「弾性ヒモ」は、弾性材料で作られたヒモ(すなわち、線状の物体)と解すれば十分である。仮に、より具体的な定義が必要であるとしても、(イ)長さが直径の何倍も大きく、非常に細長い物体であり、また(ロ)軸方向(長さ方向)の張力に対しては弾性を示し(張力を加えれば伸び、前記張力を取り去れば原形に復する)、(ハ)これと直角の方向には十分に曲がり易く、事実上剛性を持たず、
(ニ)回転状態では、遠心力によって一文字状や十文字状を呈する、という4要件を満たす物体と定義するのが正当であり、審決の解釈における、第2要件(静止状態で、回転軸に取り付けられた弾性ヒモが、自重によって垂れ下がること)及び第4要件(モノを束ねたり、結んだりできること)は、不要である。 第2要件について、本件明細書には、弾性ヒモが自重で垂れ下がる旨の記載や、そのことを示唆する記載は一切なく、本件実用新案登録公報(甲第2号証)第3、4図は単に「孔36の穿孔状態」や「弾性ヒモの結着状態」を示すことのみを意図したものである。実施例に示したウレタンゴムヒモは、長尺のこの種ヒモが小径の巻枠(スプール)に巻かれた状態で出荷されるので、巻き癖がついており、所望の長さ(10〜30センチ程度)に切断して回転軸に結着したときでも、この巻き癖が直らず、外観上前記第3、4図のようになるので、本件考案考案者、出願人が、見たままの弾性ヒモの状態を図に描いたにすぎないものである。
第4要件については、ヒモの工学的用途としては、例えば、物を吊したり、引っ張ったり、滑車に懸けたりするのにも用いられることが周知であるから、「物をしばったり、つないだりする」ことを「弾性ヒモ」の「ヒモ」の定義要件に取り込むべき根拠も、理由もない。
(3)以上のとおり、「弾性ヒモ」は社会通念上一般的な用語ではなく、その技術内容が把握できないとの審決の認定は誤りであるが、結論に影響を及ぼすものではない。
2-2.取消事由2-2について 請求項1の「予定間隔」に関する記載に不備がないことは審決記載のとおりであり、審決の認定判断は正当である。
2-3.取消事由2-3について 請求項3の「生花選別機」に関して引用した特許公開公報番号(本件明細書8頁第17、第18行)が誤記であることは認めるが、審決が判断したとおり、本件明細書の他の箇所の記載及び当業者間の周知技術から見て、その内容は明確に把握することができるものであり、本件実用新案登録を無効にしなければ公正を欠くような不備ではない。審決の認定判断は正当である。
3 取消事由3に対して 審決の認定判断は正当であり、取り消されるべき違法性はない。
4 取消事由4に対して (1)「弾性ヒモ」について ア 公知3部材が「弾性ヒモ」に当たらない旨の審決の認定には誤りがない。
原告は、本件考案の弾性ヒモと公知3部材との間には差異がないと主張するが、
「弾性ヒモ」が事実上曲げ剛性を持たないという要件を無視した主張である。すなわち、2-1で述べたように、本件考案の弾性ヒモは、曲げ応力に対する抵抗力(剛性)を事実上持たないものであり、むちのようにしなって葉を叩き落とすのに対し、公知3部材は、相当大きな曲げ剛性を持つことが必須であり、後方へ湾曲して葉を摺り落すから、それぞれの部材の直径や長さに自ずから制約があることは改めて論ずるまでもなく当然である。
具体的に述べれば、例えば引用例1の第1実施例においては、突起15aは、従来の人手による扱き落としと同じように、茎の表面に沿って摺動するが、葉や葉柄に当った時に簡単に後方へ曲がったり、撓ったりしない十分な曲げ剛性を持つような直径(断面寸法・形状)、長さであることが必要である。またこの場合は、葉落しの可否はその駆動速度には関係なく、どんなに遅い速度で駆動されても、前記1対の突起が花卉を把持し、その表面を摺動しておりさえすれば葉落しができるものである。
これに対し、本件考案の弾性ヒモは、回転中に葉や葉柄に衝突し、反作用によってヒモの回転が妨げられた瞬間に、それよりも先端部が慣性によって前方へ曲がり込むように変形しようとすることが必要であるから、弾性ヒモは十分な柔軟性を持つこと(すなわち、曲げ剛性を持たないこと)が必要である。
原告の主張は、それぞれの技術の背景や作動原理を完全に無視した空論という外ない。
イ なお、回転中の弾性ヒモが葉や葉柄に衝突した瞬間に、反作用によってヒモの衝突点の回転が妨げられる事実は、原告が本件登録実用新案を対象として特許庁に提起した別件の判定2000-60124号において、特許庁に提出した写真(乙第14号証)からも明らかである。乙第15号証は、乙第14号証(A)(B)の写真から、ヒモの映像(ピンク部分の輪郭)を模写・拡大した図であるが、ヒモの最先端が障害物に衝突した時は、先端(すなわち、衝突点)の移動速度がほぼ零に近くなる(衝突時の写真Bでは、先端のぶれの幅がほとんど無くなっている)一方、衝突点より内側(回転中心側)のヒモ部分は、自由回転時に比べて最先端部よりも先行して回転していることが分かる。このような現象は、衝突点ではヒモの回転が妨げられる一方、その他の部分では慣性によって回転を続けようとし、さらにこのヒモが曲げ剛性を事実上持たず、曲げ方向に極めて容易に曲がる性質を有することに起因するものであり、本件明細書に記載の弾性ヒモの挙動とも極めて良く整合している。
(2)結着について 審決は、本件考案における「結着」の解釈にあたり、明細書図面の記載を参酌して「弾性ヒモを回転軸に結束バンドで取り付けたり、回転軸に取り付けたピンや鉤片に弾性ヒモを取り付けたりすることを意味する」(審決書15頁28〜29行)と正当に認定しているから、この点を理由に審決を取り消すべき違法性はない。
なお原告は、「部材の取り付け法として、結着することは広く行なわれている公知の方法」と主張するが、下葉取り部材としての弾性ヒモの回転軸への結着の構成や手法が公知であったことの証拠はない。
当裁判所の判断
1 本件考案について (1) 甲第41号証によれば、本件明細書には、本件考案について、以下のとおり記載されていることが認められる。
ア 産業上の利用分野 「本考案は、生花の下葉取装置に関し、特に定寸切断した菊等の生花を選別する生花選別機に組込むのに好適な生花の下葉取装置に関する。」 イ 従来の技術 「実開平2-57348号公報(注、甲第13号証)の生花選別機には、搬送される生花の茎の基端部(根元部)に摺接する葉落し部材を茎の末端部方向へ平行移動または回転させて下葉を除去する下葉取装置が開示されている。・・・ 実公昭60-38354号公報(注.甲第15号証)の生花下葉取機用回転ブラシは、比較的硬い合成樹脂製線を束ねたブラシと軟質樹脂棒群とを有した回転ブラシで、ブラシの毛先に上下の段差を設けて山形に構成されている。この回転ブラシは、多数の生花の花に近い側を作業者が手で握って何回も前後左右にしごくことによって、多数本の生花の下葉を同時に掻き落とす下葉取装置に使用するものである。・・・」 ウ 考案が解決しようとする課題 「従来の合成樹脂製ブラシや軟質樹脂棒群を有する平行移動型または回転ブラシを、一本ずつ移送される生花の下葉取りに使用すると、移送中の生花は前後左右のしごき動作をされないから所定長(17〜20cm程度)の下葉全部をきれいに掻き取ることができない。のみならず、腰の強い軟質樹脂棒群の先端で、根元部の同じ部位が繰り返し叩かれるので、茎に叩き傷や擦り傷ができ易く、極端な場合は根元部が潰れて千切れる恐れすらある。さらに、従来のブラシなどは構造が複雑で高価であり、保守交換作業も面倒であるという問題があった。
考案は、前述の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、構造や保守交換が簡単で、コストも安く、しかも葉落しはほぼ完全に行なえる下葉取装置を提供することにある。また本考案の他の目的は、生花選別機に付設して移送中の生花の下葉取りを自動的に行なうことのできる下葉取装置を提供することにある。」 エ 課題を解決するための手段 「本考案の下葉取装置は、処理対象の生花の根元部と予定間隔をおいて、かつこれとほぼ直交するように配置される回転軸と、前記回転軸に結着された少なくとも1本の、屈曲自在の弾性ヒモとを具備し、前記弾性ヒモの長さは前記予定間隔よりも長く設定され、前記回転軸は前記弾性ヒモが前記根元部の位置でその基端部に向けて回転する方向に駆動される。」 オ 作用 「回転軸に結着されて回転している弾性ヒモは、自由回転状態ではほぼ直線状をなしているが、生花の葉や葉柄に衝突して自由回転が妨げられると、当該葉柄や葉の部分を衝撃的に強く叩くと同時に、慣性力によって、それよりも先端の部分が、
葉や葉柄との衝突点からさらに回転方向へ曲がり込んでこれに巻き付くように屈曲変形し、これによって葉や葉柄はこれとほぼ直交する力で確実に叩き落とされる。・・・弾性ヒモは表面が軟らかく折曲自在なので、生花の茎に傷つけることなく、根元部の全周の下葉を完全に叩き落とす。葉の除去範囲はヒモの長さ調整によって自由に変更可能である。」 カ 実施例 「・・・上下の回転軸29,30は互いに対向しないように複数個の孔36が第3図、又は第4図のように穿孔されている。それらの孔36に直径2〜4粍程度のウレタンゴムヒモ、アメゴムヒモ等の表面が軟かく折曲自在の弾性ヒモ37を通して両端を揃えた後、ビニール製結束バンドで回転軸29,30に弾性ヒモ37を結着する。第3図のように弾性ヒモ37を結着すると、回転軸29,30を回転したとき、弾性ヒモ37はそれ自体の遠心力によって一文字状のプロペラのように回転する。
一方、第4図のように2つの孔36に通して回転軸の表と裏に弾性ヒモ37を結着すると共に上下にも結着して4本の弾性ヒモにすると、十文字状の形状を保って回転する。2つの孔にすると2〜6本の弾性ヒモを結着でき、下葉の掻き取りの難易に応じて本数を加減できる。
弾性ヒモ37の長さは、第5図に示すように弾性ヒモを相反する方向に回転したときに、上下の弾性ヒモの先端部の軌跡が互いに重なる長さ、すなわち上下回転軸29,30間の距離よりも上下のヒモの長さの和が大となるようにする。この重なり長さ(第5図の1)によって下葉除去範囲が定まる。
・・・中略・・・ 又前記実施例では回転軸に穿孔して弾性ヒモの中間を結着したが、回転軸にピンを植設したり、鈎片を溶着して弾性ヒモの一端を取付けるようにしても良い。弾性ヒモは、生花の茎に傷をつけないで下葉をきれいに叩き落とせるものであればよく、その材質や太さは、前記のものに限定するものではない。」 キ 考案の効果 「以上のように本考案は、表面が軟らかく折曲自在の弾性ヒモの回転によって下葉を衝撃し、下葉に直角方向の衝撃力を加えて叩き落とすので、生花の茎に傷をつけることなく茎全周の下葉取りが完全に行なわれ、茎の所定長範囲での下葉除去を実現することができる。弾性ヒモはニッパーや鋏で容易に切断でき、また回転軸への結着交換も容易なので、作業者が何時でも所要の下葉除去長さに応じた最適長さの弾性ヒモを取付けることができる。本考案の下葉取装置は構造が簡単で安価に製造ができる上に、これを生花選別機に付設するだけで移送中の生花の下葉取りを自動的に行なうように性能を向上することができる。」 (2)本件明細書のこれらの記載によると、合成樹脂製ブラシや軟質樹脂棒群を用いた従来の下葉取り装置では、所定長(17〜20cm程度)の下葉全部をきれいに掻き取ることができない、茎に叩き傷や擦り傷ができ易い、及び保守交換作業が面倒であるという課題があり、本件考案はこれら課題を「弾性ヒモ」による衝撃力で強く叩くという手段を採用することにより解決したものであると認められる。
本件考案2は、回転軸が1対あることを規定したものであり、特段技術的に限定したとはいえない。
本件考案3は、生花選別機(1対の無端チェーン間に支持杆と花受腕を有する)と下葉取装置を別体とするのではなく(第1図、第2図は別体である。)、生花選別機での移送中に下葉取りが行えるようにしたものであると認められる。
2 取消事由1(訂正請求についての判断の誤り)について (1)訂正事項aについて ア 訂正事項aは、登録時の本件明細書(以下、「登録明細書」という。)請求項2の「処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に、前記根元部とほぼ直交するように配置され、互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸」を「処理対象の生花の根元部を含む平面の両側に、前記平面とほぼ平行で、かつ前記根元部とほぼ直交するように配置され、互いに反対方向に駆動される少なくとも1対の回転軸」と訂正するものであり、審決は「訂正前の記載であっても、・・・回転軸は生花の根元部を含む平面上には設けないことは明らかであるが、・・・回転軸が生花の根元部を含む平面上に設けられると解される恐れも皆無ではなく、この点を解消するために『前記平面とほぼ平行で、かつ』という文言を挿入することにより、明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものに相当する。」(審決書2頁30〜36行)と判断したものである。
イ 登録時の請求項2の「根元部を含む平面の両側に、・・・配置され、・・・1対の回転軸」とは、1対の回転軸が「根元部を含む平面」(以下ではこの平面を「平面1」という。)を間に挟むように配置されるとの意味に解釈することがこの記載自体の文理及び本件考案の詳細な説明及び図面に適った解釈と認められる。特に、登録時の請求項2には、「回転軸の弾性ヒモの長さの和が前記各回転軸と前記平面間の距離の和よりも大」と記載されているが、この記載は、回転軸が平面1と離隔しており、1対の回転軸が平面1に対して垂直方向に位置し、その回転軸が平面1と平行であることを前提としてのみ理解し得るものである。
しかしながら、請求項2の文面だけからみると、「回転軸は前記弾性ヒモが前記平面の位置で前記根元部の基端部に向けて回転するように駆動され」は、1対の回転軸が平面1内であって根元部の両側に配置されていることを意味すると解釈する余地が全くないとまでは言い切れない。現に、原告は、請求項2の記載を忠実に解釈して図面化すると原告作成の説明図(甲第36号証の第6図)のようになると主張し、この解釈を前提として、本件考案の下葉取装置によっては葉落としは物理的に不可能であるから、本件考案は構成が不明である旨、本訴において主張している。
そうすると、訂正事項aは、請求項2について、原告の主張する解釈が採られる可能性を排除するための訂正というべきであり、これを明瞭でない記載の釈明を目的としたものと認めた審決の認定判断(審決書2頁34〜36行)に誤りはないというべきである。
なお、訂正事項aは、平面1と回転軸が平行であるとの構成を請求項2に加入したものであるが、同構成は訂正前の請求項2に係る考案が備えていた構成であると認められるものであるから、これによって本件考案2の要旨が変更されるものではない。
(2)訂正事項bについて ア 訂正事項bは、登録明細書考案の詳細な説明中の「下葉の掻き取りの難易に応じて本数を加減できる」(甲第2号証5欄24行)との記載を「下葉取りの難易に応じて本数を加減できる」と訂正するものであり、審決は同訂正が「登録明細書の他の箇所との整合を図るために「下葉の掻き取り」を「下葉取り」と訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものに相当する。」(審決書3頁6〜7行)と判断したものである。
イ 広辞苑第5版によれば、「掻く」とは「@爪またはそれに形の似た道具類で物の面をこする。・・・A手そのもので物をおしのける。・・・B手その他の物を、すりまわすようにして動かす。」と記載されており、「掻き取る」とは、弾性ヒモにより、葉や葉柄をこすることにより、葉を取ることであると解される。
登録明細書は、「従来の技術」として「ゴム等の弾性突起を突設した葉落し部材を茎に摺接しても、特に横向きの下葉は摺り落すのが難しい」(甲第2号証3欄9〜11行)と記載し、一方で、本件考案の「作用」として「弾性ヒモは、・・・生花の葉や葉柄に衝突して自由回転が妨げられると、当該葉柄や葉の部分を衝撃的に強く叩くと同時に、・・・これに巻き付くように屈曲変形し、これによって葉や葉柄はこれとほぼ直交する力で確実に叩き落とされる。」(甲第2号証4欄12〜19行)と記載している。従来の技術における「摺り落す」が「掻き取る」とほぼ同義であること、及び作用欄における「衝撃的に強く叩く」が「掻く」若しくは「掻き取る」に該当しないことは明らかである。
したがって、登録明細書全体の記載によれば、本件考案は「掻き取り」によって下葉を落とすという作用をするのではなく、衝撃的に叩くという作用により下葉を落とすものと認められる。このように解することは登録時の請求項1及び請求項2に「葉を衝撃して叩き落とす」と記載されていることとも首尾一貫するものである。
そうすると、登録明細書の「下葉の掻き取りの難易」(甲第2号証5欄24行)との記載は適切な表現とはいえず、同記載があることによって本件考案が下葉を掻き取るものとの誤解を招く懸念も否定し得ないから、同記載を「下葉取りの難易」と訂正することは、明りょうでない記載の釈明を目的としたものというべきであって、これと同旨の審決の判断には誤りはない。なお、「掻き取り」との表現を削除することは、不適切な表現を適切な表現に改めて誤解を生じないように明確にしたということにすぎないから、登録明細書に記載の範囲内の訂正であって、この訂正によって実用新案登録請求の範囲が実質上拡張・変更されるものではない。
ウ 原告は、「掻き取る」と「衝撃して叩き落とす」とが「利用する自然法則が相違する別異の作用というのであれば、この訂正は容認されるべきではない。」と主張するが、「下葉の掻き取りの難易」について記述した箇所は、前後も含めて引用すると「2つの孔にすると2〜6本の弾性ヒモを結着でき、下葉の掻き取りの難易に応じて本数を加減できる。」というものであり、その文脈からみて下葉取りの原理ないし作用を明らかにすることを意識した記述でないことは明らかである。そして、本件考案がもともと「葉を衝撃して叩き落とす」ものであることは前記イに説示したとおりであり、したがって、訂正前の記載における不適切な表現を訂正することによって、利用する自然法則が異なるものになるということではない。この点に関する原告の主張は採用することができない。
(3)以上のとおり、訂正事項a及びbについての審決の判断には誤りがなく、
取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(記載不備)について 2-1.取消事由2-1(「弾性ヒモ」についての記載不備)について (1)マグローヒル科学技術用語大辞典(乙第6号証の1、2)に、「ひも・・・⇒弦」、及び「弦・・・長さが直径の何倍も大きく、剛性を持たない物体」との記載があることから、「ヒモ」とは「長さが直径の何倍も大きく、剛性を持たない物体」を指すものと認めることができる。また「弾性」とは、「外力によって形や体積に変化を生じた物体が、力を取り去ると再びもとの状態に回復する性質」(広辞苑第5版による)である。そして、「弾性ヒモ」に限らず、「○○性△△」という用語は、○○性を有する△△との意味で広く用いられている用法であるから、「弾性ヒモ」という用語は、「弾性」を有する「ヒモ」と一応解することができるのであって、その用語自体が意味不明ということはできない。
現に、乙第1号証〜第4号証及び乙第16号証〜第18号証によれば、「弾性ヒモ」又は「弾性紐」の用語が各種技術分野において使用されており、これらの「弾性ヒモ」はいずれも、弾性を有するとともにわずかの外力で容易に変形するものであると認められる。
以上によれば、「弾性ヒモ」とは、「弾性」を有する「ヒモ」、すなわち「弾性を有し、長さが直径の何倍も大きく、剛性を持たない物体」ということになるが、
この場合の「剛性を持たない」とは、剛性(外力に対する変形のしにくさ)を全く持たないという意味ではなく、わずかの外力で容易に変形するという意味である。
このように解することは、「弾性ヒモ」という語が「弾性」という性質と「剛性を持たない」ヒモの性質を合わせ持ったものを表していることを考えたときに、「弾性ヒモ」の解釈として最も合理的なものということができる(剛性を全く持たない物体は、弾性をも有さないから、「弾性ヒモ」が剛性を全く持たないとすると、弾性であることと矛盾することになる。)。
(2) ところで、どの程度の弾性が備わっていて、長さが直径よりもどの程度長ければ「弾性ヒモ」と称し得るかは、その弾性ヒモが用いられる技術分野、並びに弾性ヒモに要求される性質及び機能によって異なるというべきであり、「弾性ヒモ」という用語が明確かどうかは、本件明細書全体を通じて、当業者が用語の意味を明確に理解し、本件考案を容易に実施し得る程度に記載されているかどうかによって決しなければならない。審決も同手法によって、本件「弾性ヒモ」の解釈を試みており、その手法は当然誤りではない。
(3) 石井次郎作成の鑑定書(乙第12号証)には、「自由回転中に、弾性ヒモの中間点が、静止した障害物に衝突すると、@ヒモの運動量が障害物への衝撃力に変換される。このとき、ヒモの質量をm、衝撃時の速度をV、衝撃力をF、衝撃力が作用する時間をtとすると、mV=Ftの式が成立する。」(1頁11〜15行)との記載、及び実公昭60-38354号(甲第15号証)のロールブラシについて、「軟質合成樹脂棒4が茎に摺動し、葉に当たると、・・・回転方向の後方に全体的にスパイラル状に撓んで(弾性変形して)葉が摺り落とされる(しごき落とされる)。・・・葉を摺り落すためには、・・・曲げ剛性が相当強くなければならず」(2頁10〜14行)との記載があり、これらによると、弾性部材が回転し、葉や葉柄に衝接した際には、衝接時に弾性ヒモが有する運動量によって定まる力(以下「衝撃力」という。)と弾性部材が撓むことによる力(以下「弾性力」という。)とが葉や葉柄に加わるものと認めることができる。そして、弾性力は曲げ剛性の程度に大きく依存するのに対し、衝撃力は曲げ剛性とは関係なく、弾性部材の運動量(速度と質量の積)によって定まるものである。さらに、弾性部材の長さを考えると、弾性部材が長いほど、先端の弾性力は小さいが、衝撃力は大きくなる(長いほど衝撃力が大きいことは原告も認めている。)という相違があるから、これら2つの力は、その力の由来、並びに力の大きさと弾性部材及び回転速度との関係がことごとく異なる別種の力であり、これら別種の力が、その大きさは別として、必ず作用するものと認めることができる。
(4) そして、本件明細書の「細い鋼線のようなブラシ毛を植設したブラシや回転ブラシの葉落し部材はブラシ毛の腰が弱いので、確実に下葉を摺り落すことができない。」(甲第41号証5頁5、6行)という従来の技術についての記載によると、従来技術は腰の強さを必要とする弾性力を主たる力として下葉取りを行っていたのに対し、本件考案は「葉を衝撃して叩き落とす」(同号証4頁実用新案登録請求の範囲(1)項及び(2)項)との記載から明らかなように衝撃力を主たる力として下葉取りを行うものであり、「慣性力によって、それよりも先端の部分が、
葉や葉柄との衝突点からさらに回転方向へ曲がり込んでこれに巻き付くように屈曲変形し、これによって葉や葉柄はこれとほぼ直交する力で確実に叩き落とされる。」(同号証6頁16〜19行)との記載から、曲げ剛性は小さい方がよいとされていることが分かる。
(5) したがって、本件考案は、衝撃力を利用するもので、曲げ剛性は小さい方が好ましいのであるが、曲げ剛性のない通常のヒモを用いると、原告が指摘するとおり、回転軸に結着して回転させた場合直ちに回転軸に巻き付くものと予測される。
そうすると、本件考案が弾性ヒモを採用した技術的意義は、下葉取りを行う主たる力を衝撃力とし、その衝撃力を得るのに阻害要因となる回転軸へのヒモの巻き付きを防止するという観点から、ヒモに弾性を持たせる(これを反面からいえば、わずかな力で変形し得る程度の曲げ剛性を持たせる)ことにあると解するのが最も合理的である。実際、適宜の弾性を有する弾性ヒモであれば、弾性ヒモ本来の原形復帰機能に回転時の遠心力が加わることから、回転軸に巻き付くことなく、略一文字状又は略十文字状の形状となることは十分あり得るというべきである。本件第3図及び第4図に弾性ヒモの先端が垂れ下がっている図が示されているのも、弾性ヒモは過大な曲げ剛性を有するものではなく、自重のために自立ができない程度の曲げ剛性しか有さないことを表したものというべきである。
(6) したがって、「弾性ヒモ」について、「回転停止状態では、回転軸の上方に設けられた弾性ヒモの先端が自重により下方に垂れ下がり(注、第2要件)、
回転するとほぼ直線状、一文字状、十文字状になる程度の柔軟性を有し(注、第3要件)」(審決書12頁28〜31行)とした審決の解釈は、いずれも妥当ということができ、その解釈に誤りがあるとはいえない(なお、弾性ヒモに要求されるのは、適宜の曲げ剛性であって、弾性ヒモが伸縮するかどうかは、下葉取りの作用においては無関係というべきである。もちろん、弾性ヒモが弾性体で形成されている以上、回転時に遠心力により伸びることは十分あり得ることであるが、その伸びの程度がどの程度であるかは、本件考案の「弾性ヒモ」にとっては要件でないことが明らかである。)。
そして、自重による垂れ下がり(静止時)という第2要件と直線、一文字、十文字等の形状(回転時)という第3要件とは、「葉を衝撃して叩き落とす」という作用があること、すなわち、衝撃力により下葉取りを行うために下葉取部材の静止時及び回転時に要求される形状であり、このように形状が変化するために弾性を有するという第1要件がさらに必要とされるのであるから、「弾性ヒモ」が第1〜第3要件を備えることは、それを作用としてみれば「葉を衝撃して叩き落とす」ことになり、逆にこの作用をなすには下葉取部材は「弾性ヒモ」でなければならないという関係が成立し、下葉取部材が「弾性ヒモ」であるとの構成と、「葉を衝撃して叩き落とす」ことは一体不可分であるいうべきである。
(7) 原告は、垂れ下がりの程度が不明であるとか、回転時にはスパイラル状になるとか主張するが、第2要件及び第3要件は、衝撃力を有効に利用して下葉取りを行うために採用された要件であるから、「葉を衝撃して叩き落とす」程度であれば足り、具体的な垂れ下がりの程度や直線状、一文字状、十文字状の程度を限定することはできないし、その必要があるとも認めることはできない。
なお、被告らは、本件第3図及び第4図の垂れ下がりが巻き癖によるものであり、第2要件は「弾性ヒモ」の要件として不要である旨主張する。しかし、上記図における弾性ヒモは垂れ下がった後はほぼ直線状を呈していることから、巻き癖であるとはいえない上、垂れ下がらずに自立するような部材を「ヒモ」と称することは、「ヒモ」という用語の通常の観念にも反する。また被告らは、「直角の方向には十分に曲がり易く、事実上剛性を持たず」を弾性ヒモの要件に挙げるが、直角の方向に事実上曲げ剛性を持たないのであれば、自重により垂れ下がるはずであるから、垂れ下がりが弾性ヒモの要件であることは明らかである。したがって、第2要件が不要である旨の被告らの主張は、採用し得ない。
(8) 以上によれば、「弾性ヒモ」について、審決が「弾性を有する(力を加えれば変形し、また、力を加えるのを止めれば原形に復帰する)」ものであること(第1要件)、「回転停止状態では、回転軸の上方に設けられた弾性ヒモの先端が自重により下方に垂れ下が」ること(第2要件)及び「回転するとほぼ直線状、一文字状、十文字状になる程度の柔軟性を有する」ものであること(第3要件)を要すると認定したことは相当である。審決が認定した第4要件、すなわち「物を束ねたり、結んだりすることのできるもの」(審決書12頁31行)は、ヒモが物を束ねたり、結んだりすることのみに使用されるものではないから、第1ないし第3要件に加わる要件としては必ずしも必要とはいえないが、第2要件及び第3要件を満たす程度の曲げ剛性、直径及び長さを有するものであれば、その弾性ヒモによって物を束ねたり、結んだりすることも可能であると認めることができるから、第4要件も誤りとはいえない。
したがって、本件考案の「弾性ヒモ」は、当業者がその技術的意義を理解することができる程度に記載されており、これを不明ということはできないから、「請求人の主張は、『弾性ヒモ』の意味が不明であるというものであるが、・・・意味不明ということはできない」(審決書18頁31〜33行)との審決の判断に誤りはなく、取消事由2-1には理由がない。
2-2.「予定間隔」について 本件請求項1には「処理対象の生花の根元部と予定間隔をおいて、・・・配置される回転軸」と記載されていることから、「予定間隔」とは「生花の根元部」と「回転軸」の間隔であることは明らかである。ところで、衝突時の衝撃力が弾性ヒモの速度に比例することは前掲石井次郎作成の鑑定書(乙第12号証)記載のとおりであり、速度が回転軸からの距離に比例することは自明であるところ、下葉取りを行うに当たっては、どの程度の衝撃力を与えるべきかを考慮し、衝突点までの回転軸からの距離を予定するものであるから、その距離に対応して「生花の根元部」と「回転軸」との間隔も予定されるものということができ、回転軸と生花の根元部との間隔を「予定間隔」と表現したとしても、これをもって不明確であるということはできない。
したがって、「請求項1に係る本件考案の『予定間隔』とは、処理対象の生花の根元部と所定の間隔をおいて回転軸を配置したとの意味であることは明らかであり、請求人の、意味が不明であるという主張は当たらない。」(審決書19頁7〜10行)との審決の判断に誤りはなく、取消事由2-2にも理由がない。
2-3.請求項3の記載不備の主張について 原告は、請求項3の「支持杆」及び「花受腕」が具体的にいかなるものであるのか不明であるとして、「請求項に記載された考案の構成は、実施例によって、しっかり裏付けされたものでなければならない。」と主張するが、請求項3の記載が、
当業者の技術常識を加味することにより明確に理解することができ、当業者が実施することを困難ならしめる要因がないとするならば、実施例の裏付けがないという理由のみで記載不備ということはできない。
そこで請求項3の「支持杆」及び「花受腕」について検討すると、「一対の無端チェーンに所定間隔で並設した支持杆の花受腕」との記載からみて、「支持杆」は一対の無端チェーンの所定間隔毎に設けられているものであり、「花受腕」はその「支持杆」に設けられて生花載置部となる部分であって、腕状をなす部分であることは明らかであるから、「支持杆」及び「花受腕」が不明確ということはできない。そのことは、引用例1に「1は・・・無端回動チェン、2は花卉Pを横架して支持するアーム状の支持材」(甲第14号証4頁8〜10行)、及び「9は支持材を支持する為に、チェン1,1間に架設された支杆である。」(同号証7頁19行〜8頁1行)との記載があり、第1図及び第7図において支持材2が花卉を載置するアーム状(腕状)をしていること、第2図においてチェン1,1間に架設された支杆9から支持材2が突設していることからすると、当業者の技術常識ともいえることである。なお、引用例1記載の「支持材2」が本件考案3の「花受腕」に相当し、「支杆9」が「支持杆」に相当することはいうまでもない。
以上のとおり、請求項3の記載は、それ自体で当業者が明確に理解することができ、実施を困難ならしめるものではないから、「請求項3の上記記載事項は、本件登録明細書考案の詳細な説明の記載から明確に把握できるので、・・・請求項3の上記記載が不明瞭なものになっているとは認められない。」(審決書20頁37行〜21頁2行)との審決の判断に誤りはない。
よって取消事由2-3にも理由がない。
3 取消事由3(産業上の利用可能性の判断の誤り) 原告は、本件考案の「弾性ヒモ」を腰の強さを有しないものと解釈することを前提として、「請求人の弾性ヒモは回転軸に巻付くので葉落しができない」から産業上の利用可能性がないと主張する。
しかし、2-1で検討したように、本件考案の「弾性ヒモ」は適宜の弾性(わずかな力で変形する程度の曲げ剛性)を持たせることによって、回転軸に巻き付かないようにしたものであるから、原告の主張は前提において失当であり、採用することができない。
したがって、「本件考案は実用新案法第3条第1項柱書きの規定に違反しない。」(審決書14頁8、9行)との審決の判断に誤りはなく、取消事由3にも理由がない。
4 取消事由4について (1)「弾性ヒモ」について ア 審決は、引用例考案1〜3が、本件考案の「回転軸に結着された少なくとも1本の弾性ヒモ」という構成要件を有さないと認定したうえで、本件考案が引用例考案1〜3ではないと認定判断するとともに、「本件考案が甲第1〜3号証記載の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとはいえない。」(審決書18頁10〜12行)と判断したものである。
イ 本件考案の弾性ヒモが、審決認定の第1〜第3要件の構成を備えた部材であることは、2-1で述べたとおりである。
これに対して、引用例1の「葉落し部材15は、・・・茎Paの基端部の下面に摺接して同方向(イ)へ摺動し、・・・葉Pbを落す。(甲第14号証6頁4〜7行)、及び「上方の葉落し部材62aはブラシからなり、また下方の葉落し部材62bは、可撓性を有するゴムや合成樹脂などにより、ピン状に形成されており」(同号証10頁4〜7行)との記載によれば、引用例考案1における葉落し部材は、弾性を有するという第1要件を充足するものとは認められるが、弾性力により葉を落とすものであって、衝撃力を利用するものと認めることはできない。また、
第8図〜第11図によれば、葉落し部材が静止時垂れ下がるものとも認められない。
引用例2の「下葉は軟質樹脂棒群5とブラシ部8によって払落され、軸部にトゲがあるバラの場合は、腰の強い軟質樹脂棒群5,5…でたたいてトゲも同時に取去る。」(甲第15号証2欄25〜29行)との記載によれば、引用例考案2における下葉取部材は、弾性を有するという第1要件を充足するものとは認められるが、
弾性力により葉を落とすものであって、衝撃力を利用するものと認めることはできない。また、第1図〜第4図によれば、下葉取部材が静止時垂れ下がるものとも認められない。
引用例3の「2本のゴムブラシを前記シャフトに取り付ける」(甲第16号証実用新案登録請求の範囲)、及び「上下のゴムブラシ1、1の突起2、・・・が互い違いに設置してあるために花卉の葉は突起2、…に確実に当接して落とされる。」(同号証3頁17〜19行)との記載によれば、引用例考案3における下葉取部材は、弾性を有するという第1要件を充足するものとは認められるが、弾性力により葉を落とすものであって、衝撃力を利用するものと認めることはできない。また、
第1図〜第5図によれば、下葉取部材が静止時垂れ下がるものとも認められない。
ウ 以上によれば、引用例考案1〜3の下葉取部材(公知3部材)は、いずれも衝撃力によって下葉取りを行う部材ではなく、しかも自重により垂れ下がる部材でないのであり、2-1で述べたことから、本件考案の「弾性ヒモ」に当たらないことは明らかであるといえる。
エ 原告は、「葉落し部材が、どのような作用で葉を落すのであろうと・・・、茎に生えている葉を落すという下葉取装置の本質とは無関係である。」と主張するが、弾性部材から葉又は葉柄に作用する力に、弾性力と衝撃力の2種類あることは2-1で述べたとおりであり、これら別種の力による作用が異なることは明らかであるから、葉落としに係る作用は下葉取装置の本質というべきである。
弾性力と衝撃力が別異の作用をなすことは、下葉取りに必要な回転速度からもいえることである。すなわち、弾性力による場合は、弾性力が回転速度によらないことから、低速であっても、時間をかければ下葉取りが可能と認められるが、衝撃力は回転速度に比例すること、及びそもそも低速回転であれば、弾性ヒモが直線状にならないことから、いくら時間をかけても低速回転での下葉取りは不可能といえるのである。
オ そうすると、下葉取部材として「弾性ヒモ」を用いること、換言すれば、「葉を衝撃して叩き落とす」ことが引用例1〜3のいずれにも記載されていないのであるから、引用例考案1〜3が本件考案の「結着」との構成を充足するか否か、及び本件考案が引用例考案1〜3に比して格別の作用効果を奏するか否かについて検討するまでもなく、本件考案は引用例考案1〜3であるといえないばかりか、引用例考案1〜3に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたということもできないものである。
カ したがって、これと同旨の審決の判断に誤りはなく、取消事由4にも理由がない。
5 結論 以上のとおり、取消事由はすべて理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実