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関連審決 審判1999-35182
関連ワード 国内優先権 /  考案 /  図面 /  物品 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  訂正の請求 /  減縮 /  請求項 /  容易に想到 /  設計変更 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 282号 審決取消請求事件
原告 岐阜プラスチック工業株式会社
訴訟代理人弁理士 西川惠清
同 森厚夫
被告 三甲株式会社
訴訟代理人弁護士 新保克芳
訴訟代理人弁理士 平井保
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35182号事件について,平成12年6月8日にした審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨。
2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「物品へのラベル貼付構成」とする実用新案登録第2528061号(実願平3-69511号に基づく国内優先権を主張し,優先日を平成3年8月30日として,平成3年10月22日出願(以下「本件出願」という。)。
平成8年12月2日設定登録。以下「本件登録実用新案」といい,その考案そのものを「本件考案」という。)の実用新案権者である。原告は,平成11年4月16日,本件登録実用新案の請求項1ないし8の登録を無効とすることについて審判の請求をし,特許庁はこれを平成11年審判第35182号事件として審理した。被告は,この審理の過程で,平成11年8月5日に,本件出願の願書に添付された明細書について,8あった請求項を6に減縮することなどを内容とする訂正の請求をした。特許庁は,審理の結果,平成12年6月8日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月3日,その謄本を原告に送達した。
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲(訂正後のもの。別紙図面1参照) 「【請求項1】輸送用コンテナに設けたラベル貼付部に剥離されるラベルを貼付するためのラベル貼付構成において,前記輸送用コンテナが,その側壁に前記ラベル貼付部を有するとともに,前記ラベル貼付部は該貼付部に貼付したラベルの少なくとも一部の縁部と前記輸送用コンテナとの間に,作業者が手指を挿入可能な幅及び深さの溝部を形成するように前記輸送用コンテナの側壁の外面から突出した台座形状となっており,且つ,ラベルを貼る貼着表面に梨地加工が施されていることを特徴とする輸送用コンテナへのラベル貼付構成。
請求項2】前記ラベル貼付部が前記輸送用コンテナとは別体にて形成されたことを特徴とする請求項1に記載の輸送用コンテナへのラベル貼付構成。
請求項3】前記ラベル貼付部は略矩形に構成され,該略矩形のラベル貼付部の角部分に前記溝部が設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のラベル貼付構成。
【請求頃4】輸送用コンテナに設けたラベル貼付部に剥離されるラベルを貼付するためのラベル貼付構成において,前記輸送用コンテナが,その側壁に前記ラベル貼付部を有するとともに,前記ラベル貼付部は複数の貼付台が前記輸送用コンテナの表面より突出して併設されることにより該貼付台間に間隙を形成し,該間隙は該貼付部に貼付したラベルの少なくとも一部の縁部と前記輸送用コンテナとの間に,作業者が手指を挿入可能な幅及び深さの空隙を形成し,且つ,ラベルを貼る貼着表面に梨地加工が施されていることを特徴とする輸送用コンテナへのラベル貼付構成。
請求項5】前記ラベル貼付部が前記輸送用コンテナとは別体にて形成されたことを特徴とする請求項4に記載の輸送用コンテナへのラベル貼付構成。
請求項6】輸送用コンテナに設けたラベル貼付部に剥離されるラベルを貼付するためのラベル貼付構成において,前記ラベル貼付は該貼付部に貼付したラベルの少なくとも一部の縁部と前記輸送用コンテナとの間に,作業者が手指を挿入可能な幅及び深さの空隙を形成する底面を有する溝部が前記輸送用コンテナの表面から凹んで設けられたことを特徴とする輸送用コンテナへのラベル貼付構成。」 (以下,上記請求項1ないし6に係る考案を,それぞれ順に,「本件考案1」・・・「本件考案6」という。) 3 審決の理由の要点 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,平成11年8月5日付けの訂正請求による訂正事項a〜tについて,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,本件考案1ないし6は,実願昭57-79495号(実開昭58-183694号)のマイクロフィルム(甲第10号証(審判甲第1号証)。以下,「引用例1」という。),実願昭61-74584号(実開昭62-188414号)のマイクロフィルム(甲第11号証(審判甲第3号証)。以下,「引用例2」という。),実願平1-86886号(実開平3-26737号)のマイクロフィルム(甲第12号証(審判甲第4号証)。以下,「引用例3」という。),実願平1-68668号(実開平3-8116号)のマイクロフィルム(甲第13号証(審判甲第5号証)。以下,「引用例4」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできないから,本件考案1ないし6は,本件出願の際独立して実用新案登録請求を受けることができるものであるとして上記訂正を認め,上記と同様の理由により,本件考案1ないし6は,当業者が容易に考案することができる程度のものとすることはできない,として,原告主張の無効事由を排斥したものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,周知技術の認定を誤ったことにより,本件考案1ないし5の進歩性についての認定判断を誤り(取消事由1),本件考案6の認定を誤ったため,その進歩性の判断を誤ったものであり(取消事由2),これらの誤りが,それぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件考案1ないし5の進歩性についての認定判断の誤り) 審決は,本件考案1と引用例1記載の考案とを対比して,両者は,少なくとも,「(1)ラベルを貼る貼着表面に,本件考案1においては梨地加工が施されているのに対して,甲第1号証(判決注・本訴甲第10号証,引用例1)に記載された考案においては特別な加工が施されていない点」で相違する(甲第1号証8頁36行〜38行),と認定した上,上記相違点について,引用例2ないし4に記載されている加工は梨地加工とは認められず,また,「ラベルを貼着面より容易に剥離できるようにすることが,本件の出願前に周知であるとする根拠も見当たらない。」(審決書9頁21行〜23行)と認定し,これを前提に,「甲第1号証(判決注・本訴甲第10号証,引用例1)に記載された考案について,ラベルを貼る貼着表面を,梨地加工が施されているものとすることが当業者がきわめて容易に想到しうるものであるとすることはできない。」(審決書9頁24行〜26行),「本件考案2〜6は,・・・上記請求項1に係る考案について示したと同様の理由により・・・当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない。」(同10頁3行〜7行)と認定判断した。しかし,上記相違点に関する審決の認定判断は誤りである。
(1) 周知事項についての認定の誤り 審決は,「ラベルを貼る貼着表面に梨地加工を施すことにより,ラベルを貼着面より容易に剥離できるようにすることが,本件の出願前に周知であるとする根拠も見当たらない」(審決書9頁21行〜23行)と認定した。しかし,この認定は,誤りである。
ア 「プラスチック金型ハンドブック」(社団法人日本合成樹脂技術協会編,日刊工業新聞社1989年6月30日発行)(甲第2号証。以下「甲第2号証刊行物」という。)によれば,一般的に,梨地加工とは,化学的又は物理的処理によるシボ加工であって,サンドブラストやショットブラストを意味するブラスト法によって,金型等の表面に多数の微細な凹凸を形成し,その加工面を梨地シボに加工するものである(甲第2号証690頁14行〜25行)。
実願昭62-4708号(実開昭63-115481号)のマイクロフィルム(甲第3号証。以下「甲第3号証刊行物」という。)には,しぼ(皺)などの表面加工を施した成形品の表面に,シールなどの表皮材を設けた複合成形品に関する考案が開示されており,従来技術として,しぼを形成するとともに表面処理を行った成形品1の表面2にシール3を貼り付けると,成形品1の表面2とシール3との間に空気が存在してしまうため,貼り付けたシール3がはがれやすい,ということが記載されている(甲第3号証明細書1頁18行〜2頁7行)。
実願昭57-35390号(実開昭58-140588号)のマイクロフィルム(甲第4号証。以下「甲第4号証刊行物」という。)には,テープカセットに関する考案が開示されており,ラベルを貼着するためのラベル貼着面(3)に多数の微細な凹凸(4)(しぼ等)が形成された構成が記載されている(甲第4号証1頁20行〜2頁1行,2頁19行〜3頁4行,第2図)。
このように,甲第3号証刊行物にはシール3を貼る成形品1の表面2に,甲4号証刊行物にはラベルを貼着するラベル貼着面3に,それぞれシボ加工を施すことが記載されており,しかも,甲第3号証刊行物にはシボ加工された成形品1の表面2からシール3を容易に剥離できることが記載されている。
実開昭57-183213号公報(甲第5号証。以下「甲第5号証刊行物」という。),実開昭62-171423号公報(甲第6号証。以下「甲第6号証刊行物」という。),実公昭63-23295号公報(甲第7号証。以下「甲第7号証刊行物」という。),実願昭58-22466号(実開昭59-129599号)のマイクロフィルム(甲第8号証。以下「甲第8号証刊行物」という。),実願昭63-63396号(実開平1-168433号)のマイクロフィルム(甲第9号証。以下「甲第9号証刊行物」という。)によれば,容器等の表面に梨地加工を施す技術は,本件の出願前の周知慣用の技術であると認められる。この周知慣用技術に,甲第3,第4号証刊行物の上記記載を勘案すれば,ラベルを貼る貼着表面にシボ加工の中の一形状である梨地加工を施すことにより,ラベルを貼着面より容易に剥離できるようにすることは,本件の出願前に周知であることが明らかである。
このような周知技術は存在しないとの審決の認定は,明らかに誤りである。
イ 被告は,甲第3号証刊行物の「しぼ」と本件考案1ないし5の「梨地加工」とは全く別のものである,と主張する。
しかし,「プラスチック金型ハンドブック」(日刊工業新聞社,1989年6月30日発行。甲第2号証刊行物)には,シボ工法の一種として梨地加工法が記載されており,「射出金型の基本と応用」(日本プラスチック加工技術協会編集,昭和59年9月1日発行。甲第14号証)にも,「シボ(梨地)」と記載されており,さらに,「図解 型技術用語辞典」(型技術協会編,日刊工業新聞社1991年11月30日発行。甲第15号証)にも,「しぼ」として「模様には皮革のしわ模様や木目,布模様,梨子地などさまざまなものがある。模様の種類によってはサンドブラスト,放電加工,電鋳などの加工法も利用される.」と記載されている。また,本件考案明細書(甲第16号証)の訂正請求書(甲第17号証の1)に添付された訂正明細書(甲第17号証の2)には,「シボ加工(梨地加工)」(3頁5行),「上面14aは梨地状にシボ加工されている」(6頁6行)と記載されており,被告自身も「しぼ」と「梨地加工」とを同一のものと認識していることが明らかである。これらのことからすれば,「しぼ」の概念に「梨地加工」も含まれることは当業者の技術常識である,というべきである。被告の主張は失当である。
(2) 引用例2ないし4記載の評価の誤り ア 引用例2ないし4には,ラベルを貼る容器等の表面に,多数の凹部,凸部からなる凹凸群等を形成する構成が開示されている。そして,引用例2ないし4記載の各考案において,凹凸群等が形成された容器等の表面とラベルとの接着面積が小さくなることにより,容器等の表面に貼着されたラベルの剥離開始作業が容易になることは明らかである。
また,この種のコンテナの技術分野においては,バーコード等が印刷されるこの種のラベルが波打ったり凹部が形成されたりすると,バーコードの読み出しミスなどの不都合が生じることから,ラベルを容器等の表面に貼着した場合に,貼着されたラベルが波打つようなことがないようにするとか,外力が加わった場合に,ラベルに凹み等の凹部が形成されることがないようにするとかということは,当然に考慮されるべき技術的課題であるから,この課題を解決するために,凹凸の大きさ等を考慮してラベルを貼る貼着表面を加工することは,当業者にとってきわめて容易に想到できるものであるというべきである。
本件考案1における梨地加工が施されたラベルの貼着表面と引用例2〜4における凹凸群等が形成された容器等の表面とは,単に凹凸の大きさとか形状とかが相違するだけであり,この凹凸群等の大きさや密度を変更したり,凸部の表面を平坦にしたり,凸部の分布や高さを考慮したりすることにより,ラベルに印刷されたバーコード等をバーコードリーダーで読み出す際の読み出しミスがなくなる,という作用効果を奏することができることは明らかである。したがって,上記相違は設計変更程度のものであり,前記のとおり,容器等の表面に梨地加工を施す技術自体が周知慣用技術であることをも考慮すると,本件考案1の「梨地加工」の貼着表面を形成することは,当業者であればきわめて容易に想到できるものであるというべきである。
審決が,上記相違点に係る本件考案1の構成を,引用例1ないし4に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない,と認定判断したことは誤りであり,この認定判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは,明らかである。
イ 被告は,引用例2記載の凹部と凸部並びに引用例3及び引用例4にそれぞれ記載されている凹凸群等と,本件考案1の梨地とは同一視できない,と主張する。
しかし,引用例2ないし4記載の凹凸群等が形成された容器等の表面と,本件考案1における梨地加工が施されたラベルの貼着表面とは,単に凹凸の大きさとか形状とかが相違するだけであって,実質的に同一である。引用例2ないし4記載の各考案においても,容器等の凹凸群等が形成された表面とラベルとの接着面積が小さくなれば貼着されたラベルの剥離開始作業が容易になることは明らかであり,ラベルを貼る容器等の表面の凹凸群等の大きさや密度を変更したり,凸部の表面を平坦にするとか凸部の分布や高さを考慮するなどといった設計変更をすることにより,ラベルに印刷されたバーコード等がバーコードリーダーに読まれる際の読み出しミスがなくなることも当然である。
ラベル貼着表面に,梨地加工が施された試料(検甲第1号証),しぼ加工の一種である皮しぼ加工が施された試料(検甲第2号証),突条が形成された試料(検甲第3号証),凹凸群が形成された試料(検甲第4号証)を作成し,これらの試料を用いたラベルの剥離性の試験結果(甲第18号証)によれば,梨地加工が施されたラベル貼着表面は,突条が形成されたラベル貼着表面とほとんど変わらないラベルの剥離性を示し,皮しぼ加工が施されたラベル貼着表面と凹凸群が形成されたラベル貼着表面は,梨地加工が施されたラベル貼着表面よりもラベルが剥離しやすいことがわかる。
バーコードの読み取りミスの試験結果(甲第19号証)によれば,ラベル貼着表面に突条が形成された試料及び凹凸群が形成された試料のいずれにおいても,バーコードの読み取りミスは発生しなかった。このように,本件考案1のように梨地加工が施された試料は,皮しぼ加工が施された試料,凹凸群が形成された試料と,技術的な有意差はなく,実質的に同一である。したがって,本件考案1の梨地加工が施された表面と引用例2〜4記載の凹凸群等が形成された表面とは,凹凸群等の大きさや密度を変更したり,凸部の表面を平坦にしたり,凸部の分布や高さを考慮したりするという単なる設計変更程度の差異があるにすぎない。
2 取消事由2(本件考案6の進歩性についての判断の誤り) 本件考案6は,ラベルを貼る貼着表面に梨地加工が施された構成を具備していない。したがって,「本件考案2〜6は,甲第1号証(判決注・本訴甲第10号証,引用例1)に記載された考案と対比すると,いずれも,少なくとも上記相違点(1)(判決注・梨地加工が施されているか否か)において相違すると認められる」(審決書10頁3行〜4行)との審決の認定は,本件考案6に関する限り,誤りであり,この認定を前提として,本件考案6が,本件考案1と同じく,引用例1ないし4に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない,とした判断は誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であり,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本件考案1ないし5の進歩性についての認定判断の誤り)について (1) 周知事項についての認定の誤りについて 原告は,甲第5ないし第9号証刊行物によれば,容器等の表面に梨地加工を施す技術は周知慣用技術であると認められ,これに甲第3,第4号証刊行物の記載を勘案するならば,ラベルを貼る貼着面にしぼ加工の中の一形状である梨地加工を施すことにより,ラベルを貼着面より容易に剥離できるようにすることは,本件考案の出願前に周知であることが認められる,と主張する。
しかし,甲第5号証刊行物記載のものは,トレー本体の周縁鍔部4に梨地加工を施したものであり,本件考案のようにラベルを貼る貼着表面に梨地加工を施したものではないから,貼着表面に繰り返してラベルを貼着する際の剥離性を意図したものでない。甲第6号証刊行物には,単に,構成容器の内面に梨地加工が施されている点が開示されているだけである。甲第7号証刊行物には,容器本体1の口縁端面2に梨地加工を施すことにより,シール部材とシール部材が貼付される口縁端面2とを点接触とすることにより,シール時のばらつきを少なくするとともに,成型時の冷却の際のひけを目立たなくするようにした技術が記載されているだけである。甲第8号証刊行物には,プラスチック成形品の壁部に形成された塗料層に,サンドブラストにより梨地面を形成して,プラスチック成形品に装飾を施すことが開示されているだけである。甲第9号証刊行物に記載のものは,ガラス瓶10の表面10aに梨地加工を施すとともに,ガラス瓶10の表面10aの相対する面に,それぞれ透明シート20とラベル30を貼着することにより,透明シート20を通して,ラベル30に施された意匠を覗き見ることができるようにしたものである。
このように甲第5ないし第9号証刊行物に記載されているものは,いずれも,梨地加工があっても,貼着表面に繰り返してラベルを貼着する際の剥離性を意図したものでなく,本件考案1とは,目的,構成,効果のすべてにおいて相違するものである。
甲第3号証刊行物には,従来の技術の説明につき,「しぼを形成するとともに表面処理を行なった成形品1の表面2に,シール3を直接貼り付けていた。しかし,この場合,シール3の貼り付け場所の目安がないため,貼り付け位置が不正確になりやすいとともに,貼り付け工数が多くなる。また,第7図に示すように,成形品1の表面2とシール3との間に空気が存在してしまうため,貼り付けたシール3が剥れやすい。」(甲第3号証1頁19行〜2頁7行)との記載があり,同刊行物には,こうした問題点を解決するために,成形品の表面より低くないレベルに表面加工のない領域を設け,この領域にシールを貼付するようにした構成が開示されているにすぎない。ここで問題とされている「しぼ」は,甲第3号証の第7図に図示されたようなもので,本件考案1における微細な多数の凹凸からなる「梨地加工」とは,まったく別のものである。甲第3号証刊行物には,ラベル貼付部に梨地加工を施すことにより,繰り返し行われるラベルの剥離作業が容易になることについての記載も示唆もない。
甲第4号証刊行物には,「ラベル貼着面(3)には接着剤が入り込んで上記ラベルの接着が強固に行えるよう,第2図に示すような多数の微細な凹凸(4)(しぼ等)が形成されて前記の通りざらざらな粗面となっている」(甲第4号証2頁19行〜3頁3行)と記載されており,同記載によれば,甲第4号証刊行物は,接着剤を微細な凹凸(4)に入り込ませて,ラベルを強固に接着できるようにした技術であって,貼着面に繰り返してラベルを貼着する際の剥離性を意図したものではないから,本件考案1とは,目的,構成,効果のすべてにおいて相違する。
甲第3号証刊行物又は甲第4号証刊行物からは,ラベルの貼着力や接着力が強力であることは認められても,ラベル貼付部に梨地加工を施すことによって剥離開始作業が容易であることが周知であったと認めることはできない。
(2) 引用例2ないし4記載の評価の誤りについて ア 原告は,引用例2ないし4(甲第11ないし第13号証)記載の考案に基づいて,本件考案1の「梨地加工」と同様の作用効果を奏するようなラベルを貼る貼着表面を形成することは,当業者であればきわめて容易に想到できたものである,と主張する。
しかし,梨地加工とは,一般的に研磨剤により表面に微細でランダムな凹凸を形成することにより,銀白色ないし銀鼠色を呈するように加工することを意味しているのに対し,引用例2記載の凹部もしくは凸部は,その面積が「5〜30o2」(甲第11号証2頁16行)であり,その「分布率は100〜500個/100p2」(同2頁16行〜17行)であって,梨地とは凹凸の大きさ,形状,分布率等が異なるものであるから,このような凹部及び凸部をもって梨地と同一視できないことは明らかである。同様に,引用例3及び引用例4にそれぞれ記載の凹凸群等についても,本件考案1の梨地と同一視することができないことが,明らかである。
イ 原告提出の平成13年2月9日付けの証拠説明書の中には,「梨地」が,「深さ40μmで梨の皮のような模様」,「皮しぼ」が,「深さ60μmで1φ前後のランダムな模様であり,皮の表面模様」,「突状」が,「深さ0.5mmの円弧状(0.5R)の突状が多数本形成されており,突条と突条の間隔が5mm」,「凹凸」が,「深さ1mmで2φの円弧状突起が多数個形成されており,突起と突起の間隔が16mm」と記載されており,原告自身が認めるように,これらの表面加工が,それぞれ異なることは明らかである。
甲第18号証によれば,基板試料4検体(皮しぼ・梨地・突状・凹凸)にラベルを貼付し,室温180゜で引き剥がし試験を行った際の最大剥離荷重は,梨地で24.9N,皮しぼで13.8N,突状で21.9N,凹凸で15.1Nであり,梨地が一番大きくて凹凸との差は明確である。
本件考案1は,輸送用コンテナに関するものであるから,ラベルの剥離作業が単に容易であるというだけでは不十分で,輸送中等にラベルが剥がれたり,波打ったりしないことも重要である。凹凸よりもラベルが剥離しにくい梨地を選択することによって,ベタ面に比べてラベルを剥離しやすいと同時に運送中にはがれたりしないという効果が発揮されるのである。
ウ したがって,本件考案1を,引用例1ないし4に記載された各考案に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたものとすることはできない,とした審決の判断に誤りはなく,同じ理由により,本件考案2ないし5を,当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない,とした審決の判断にも誤りはない。
2 取消事由2(本件考案6の進歩性についての判断の誤り)について 原告は,本件考案6がラベルを貼る貼着表面に梨地加工が施された構成を具備しているものではないから,本件考案6と引用例1記載の考案とを対比して,少なくともラベルを貼る貼着表面に梨地加工が施されている点で相違するとした審決の認定は誤りであり,その結果,引用例1〜4記載の各考案に基づいて当業者が容易に考案することができたものとすることはできないとした審決の判断も誤りとなる,と主張する。
しかし,本件考案6は,その構成の中に「ラベル貼付は該貼付部に貼付したラベルの少なくとも一部の縁部と前記輸送用コンテナとの間に,作業者が手指を挿入可能な幅及び深さの空隙を形成する底面を有する溝部が前記輸送用コンテナの表面から凹んで設けられた」という特徴ある構成を有し,これにより,空隙に爪や器具等を挿入してラベル縁を貼付面から持ち上げてめくることができ,ラベルの剥離開始作業を極めて容易に行うことができる,という格別の効果を奏するものである。
引用例1ないし3には,この特徴ある構成については何ら開示されていないし,引用例4では,欠如部が,壁に穿設された手指が挿入し得る貫通穴であるから,本件考案6における輸送用コンテナの表面から凹んで設けられた底面を有する溝部とは相違する。
したがって,本件考案6は,引用例1〜4記載の各考案と同一でもなく,これらの考案に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたものでもない。したがって,本件考案6についての審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件考案1ないし5の進歩性についての認定判断の誤り)について (1) 周知事項についての認定の誤りについて 甲第3号証刊行物(実願昭62-4708号(実開昭63-115481号)のマイクロフィルム)には,「従来,この種の複合成形品においては,たとえば第6図および第7図(判決注・別紙図面2参照)に示すように,しぼを形成するとともに表面処理を行なった成形品1の表面2に,シール3を直接貼り付けていた。・・・第7図に示すように,成形品1の表面2とシール3との間に空気が存在してしまうため,貼り付けたシール3が剥れやすい。」(甲第3号証1頁18行〜2頁7行)との記載がある。本件登録実用新案に係る登録公報(甲第16号証)には,【考案が解決しようとする課題】の欄に「また,容器のラベル貼付面にシボ加工(梨地加工)を施して剥離性を高めることが提案されている。」(同号証3欄48行〜49行)との記載があり,本件考案の訂正明細書(甲第17号証の2)にも,同一の記載(同号証3頁4行〜5行)がある。これらの記載によれば,本件登録実用新案に係る優先権主張日(以下「本件優先権主張日」という。)当時,成形品に「しぼ」を形成した表面では,貼り付けたシールがはがれやすいことが,当業者の一般的認識として存在していたものと認められる。
社団法人日本合成樹脂技術協会編「プラスチック金型ハンドブック」(日刊工業新聞社・1989年6月30日発行)には,「シボ工法としてのブラスト法は,一般にサンドブラスト(sand blast),ショットブラスト(shot blast)を意味し,物理的処理による梨地加工法である。」(甲第2号証690頁14〜15行)との記載がある。「射出金型の基本と応用」(日本プラスチック加工技術協会編集,昭和59年9月1日発行)には,「化成処理には化学的腐蝕(エッチング)によるシボ(梨地)・・・などがあるが,・・・」(甲第14号証310頁末行〜311頁2行)との記載がある。これらの記載によれば,本件優先権主張日当時,「しぼ」とは,通常,梨地加工を意味するものであるとされていたことが認められる。
本件登録実用新案に係る登録公報には,「シボ加工(梨地加工)」(甲第16号証3欄48行),「上面14aは梨地状にシボ加工されている」(同号証6欄6行〜7行)と記載されており,本件考案の訂正明細書にも同一の記載がある(甲第17号証の2の3頁5行,6頁6行)。これらの記載によれば,被告においても「しぼ」と「梨地加工」とを同一のものと認識していたものと認められる。
以上によれば,本件優先権主張日当時,「しぼ」とは,通常「梨地加工」のことを意味することは,当業者の技術常識であり,成形品の表面に「しぼ」,すなわち「梨地加工」を施した表面において,貼り付けたシールがはがれやすいことは,当業者において周知の技術的事項であったというべきである。
(2) 被告は,甲第3号証刊行物には,貼り付けたシール3がはがれやすいという問題点を解決するために,成形品の表面より低くないレベルに表面加工のない領域を設け,この領域にシールを貼付するようにした構成が開示されているにすぎず,ここで問題とされている「しぼ」は,同刊行物の第7図が図示するようなものであって,本件考案1における微細な多数の凹凸からなる「梨地加工」とは,全く別のものである,と主張する。
しかしながら,「しぼ」とは「梨地加工」を意味するものであることは前記のとおりである。甲第3号証刊行物中には第7図中の凹凸の大きさを限定する記載はなく,かつ,本件考案の実用新案登録請求の範囲請求項1においても,「梨地加工が施されている」との記載があるだけで,「微細な多数の凹凸からなる」との記載はなく,その他凹凸の大きさや数について限定する記載は何もない。被告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものというべきであり,採用することができない。
(3) そうすると,審決が「ラベルを貼る貼着表面に梨地加工を施すことにより,ラベルを貼着面より容易に剥離できるようにすることが,本件の出願前に周知であるとする根拠も見当たらない」(甲第1号証9頁21〜23行)と判断したことは,誤りであるというべきである。
審決は,この周知の技術を考慮しないまま,本件考案1ないし5が進歩性を有しないとの判断を導いたものであるから,上記周知技術の存否についての認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは,明らかである。
2 取消事由2(本件考案6の進歩性についての判断の誤り)について 審決は,「本件考案2〜6は,甲第1号証(判決注・本訴甲第10号証,引用例1)に記載された考案と対比すると,いずれも,少なくとも上記相違点(1)(判決注・梨地加工が施されているか否か)において相違すると認められる」(審決書10頁3行〜4行)と認定し,この認定を前提として,本件考案6についても,本件考案1についてと同じく,引用例1ないし4に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものとすることはできない,と判断した。
しかしながら,本件考案6の実用新案登録請求の範囲は,前記のとおり,「輸送用コンテナに設けたラベル貼付部に剥離されるラベルを貼付するためのラベル貼付構成において,前記ラベル貼付は該貼付部に貼付したラベルの少なくとも一部の縁部と前記輸送用コンテナとの間に,作業者が手指を挿入可能な幅及び深さの空隙を形成する底面を有する溝部が前記輸送用コンテナの表面から凹んで設けられたことを特徴とする輸送用コンテナへのラベル貼付構成。」というものであり,同考案は,ラベルを貼る貼着表面に梨地加工が施された構成を具備していないことが明らかである。
したがって,審決の,本件考案6と引用例1とが,ラベルを貼る貼着表面の梨地加工の有無において相違するとの認定,及び,これを前提とする進歩性の判断は,誤りであることが明らかである。
そうすると,その余の原告主張について検討するまでもなく,原告の本訴請
求は理由があることが明らかであるので,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久