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関連審決 無効2000-35270
関連ワード 考案 /  構造 /  組合せ /  物品 /  技術的思想の創作 /  補正 /  設定登録 /  先願考案 /  先後願 /  先願 /  請求項 /  実施例 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 354号 審決取消請求事件
原告 本多産業株式会社
訴訟代理人弁護士 川上英一
同 飯島康博
訴訟復代理人弁護士 藤田祐子
補佐人弁理士 池田宏
被告 中興化成工業株式会社
訴訟代理人弁護士 寒河江孝允
同 武藤元
同 弁理士 鈴江武彦
同 河井将次
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/18
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2000-35270号事件について平成13年7月2日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,名称を「蛇行防止コンベアベルトのガイド体」とする登録第2053947号の考案(昭和63年11月16日出願,平成7年3月6日設定登録。以下「本件考案」といい,その登録を「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者である。被告は,平成12年5月18日,本件実用新案登録の無効審判の請求をし,特許庁は,同請求を無効2000-35270号事件として審理した結果,平成13年7月2日,「登録第2053947号の実用新案登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月12日,原告に送達された。
2 本件考案の要旨 コンベアベルトを構成する枠体の一端部および他端部にそれぞれ配設されている主動プーリおよび従動プーリ間に巻回され,上記主動プーリの駆動によって走行されるベルト本体の裏面の長手方向に沿って直線的に取り付られていて,上記ベルト本体が走行するときに,上記主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガイド溝中に嵌合することにより,上記ベルト本体が所定の位置を走行できるように案内するためのガイド体において; 上記ガイド体は複数の細い紐を編組することにより構成されるとともに,その断面形状が上記主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合するような形状に形成されていることを特徴とする蛇行防止コンベアベルトのガイド体。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件考案は,実願昭63-38719号(注,昭和63年3月24日出願)の平成4年6月5日付け手続補正書(審判甲10・本訴甲4)の実用新案登録請求の範囲請求項1記載の考案(以下「先願考案」という。)と実質同一であるから,本件実用新案登録は,実用新案法(注,「平成5年法律第26号附則4条1項により,同法の施行前にした実用新案登録出願に係る実用新案登録についてなおその効力を有するものとされる同法による改正前の実用新案法」の趣旨と解される。以下「旧実用新案法」という。)7条1項に違反してされたものであって,同法37条1項1号に該当し,無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本件考案先願考案と実質同一であるとの誤った認定判断をし(取消事由1),旧実用新案法7条1項の適用を誤ったものであるから(取消事由2),違法として取り消されるべきである。
1 取消事由(実質同一の認定判断の誤り) (1) 構成上の一応の相違点 審決は,本件考案先願考案の一応の相違点として,「(a) ベルト本体の素材に関し,本件考案は,不明であるのに対し,甲第10号証考案(注,先願考案。以下同じ。)は,耐熱性に富む基材シートにフッ素樹脂を含浸して焼成した点,(b) 細い紐の素材に関し,本件考案は,不明であるのに対し,甲第10号証考案は,耐熱性に富む基材繊維にフッ素樹脂を含浸して焼成した点,(c) ベルト本体に関し,本件考案は,コンベアベルトを構成する枠体の一端部および他端部にそれぞれ配設されている主動プーリおよび従動プーリ間に巻回され,上記主動プーリの駆動によって走行されるのに対し,甲第10号証考案は,不明である点,(d) ガイド体の取り付け態様に関し,本件考案は,直線的に取り付けられているのに対し,甲第10号証考案は,不明である点,(e) ガイド体の機能に関し,本件考案は,ベルト本体が走行するときに,ベルト本体が所定の位置を走行できるように案内するのに対し,甲第10号証考案は,不明である点,(f) ガイド体のベルト本体を案内する態様に関し,本件考案は,主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガイド溝中に嵌合するのに対し,甲第10号証考案は,不明である点,(g) ガイド体の断面形状に関し,本件考案は,ガイド溝に過不足なく嵌合するような形状に形成されているのに対し,甲第10号証考案は,丸形,または多角形の帯状に構成される点,(h) 請求している物品が,本件考案は『蛇行防止コンベアベルトのガイド体』であり甲第10号証考案は『蛇行防止コンベアベルト』である点」(審決謄本12頁(a)〜(h),以下「相違点(a)」〜「相違点(h)」という。)を認定する。本件考案先願考案は,これらの相違点を有するところ,相違点(h)について,この点により両者が別の考案であるとはいえないとした審決の判断は認めるが,相違点(a)〜相違点(g)において両考案を実質同一とした審決の認定判断は,誤りである。
(2) 各相違点について ア 相違点(a)について 先願考案は,ベルト素材に着目した考案であって,考案の構成に欠くことができない事項として,耐熱性に富む基材シートにフッ素樹脂を含浸して焼成したことが特定されているのに対し,ベルト素材について特定しない本件考案のベルト本体の構成は,本件考案の他の構成要素と組み合わさって,先願考案とは別の考案を構成している。
イ 相違点(b)について 先願考案は,細い紐の素材に着目した考案であって,考案の構成に欠くことができない事項として,耐熱性に富む基材繊維にフッ素樹脂を含浸して焼成したことが特定されているのに対し,本件考案は,細い紐の素材に着目しておらず,先願考案とは異なる技術的思想となっている。
ウ 相違点(c)について 本件考案は,考案の構成に欠くことができない事項として,コンベアベルトを構成する枠体の一端部及び他端部にそれぞれ配設されている主動プーリ及び従動プーリ間に巻回され,主動プーリの駆動によって走行されることを特定しているのに対し,先願考案は,これが考案の構成に欠くことができない事項ではない。
エ 相違点(d)について 本件考案は,ガイド体がベルト本体の長手方向に直線的に取り付けられる構成を採用しているのに対し,先願考案は,これが考案の構成に欠くことができない事項ではない。
オ 相違点(e)について 本件考案が,考案の構成に欠くことができない事項として,ベルト本体を走行させるとき,所定の位置を走行し得るように案内する構成を採用しているのに対し,先願考案は,これが考案の構成に欠くことができない事項ではない。
カ 相違点(f)について 本件考案は,考案の構成に欠くことができない事項として,ガイド体が主動プーリ及び従動プーリの周面に形成されているガイド溝中に嵌合する構成を採用しているのに対し,先願考案は,これが考案の構成に欠くことができない事項ではない。
キ 相違点(g)について 本件考案は,考案の構成に欠くことができない事項として,ガイド体の断面形状が主動プーリ及び従動プーリの周面に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合するような形状になっている構成を採用しているのに対し,先願考案は,主動プーリ,従動プーリ及びプーリの周面に形成されているガイド溝に係る考案ではなく,これらは,考案の構成に欠くことができない事項ではない。
(3) 作用効果の相違 ア 本件考案は,個々の構成を組み合わせた効果として,本件明細書(甲1)の〔効果〕の欄(4頁左欄)記載の効果を奏する。すなわち,複数の細い紐を編組してガイド体を構成するとともに,その断面形状を主動プーリ及び従動プーリの周面に形成されているガイド溝中に過不足なく嵌合するように形成したもので,ガイド体が主動プーリ及び従動プーリに形成されているガイド溝中に嵌合して走行するときに伸縮力が加えられると,伸縮力に応じて編組体が良好に変形する。したがって,ガイド体の各部に偏ったストレスが可及的にかからないから,円滑なガイド性を確保することができるとともに,繰り返し湾曲させられてもガイド体が破損することなく,耐久性に優れた蛇行防止用コンベアベルトを提供するという作用効果を奏する。
この本件考案の作用効果は,先願考案のような,ベルト本体の裏面に長手方向に沿って編組体としてのガイド体が設けられているというだけで奏されるものではなく,本件考案の構成が密接に一体となって組み合わされることにより可能となる効果である。
先願考案は,ベルト本体の裏面に長手方向に取り付けられているガイド体とプーリの周面に形成されたガイド溝との関係,組合せを必須の構成としているものではなく,ベルト本体に取り付けられている編組体のガイド体が,ベルト本体とともに耐久性に富み,ガイド体がガイドされるべき手段,例えば,平板上の直線ガイド溝,平板上に配設された一対の水平ロール間の間隙,プーリの周面のガイド溝などと,このガイド体との組合せに係る考案ではない。
これに対し,本件考案は,編組体としてのガイド体の断面形状が,主動プーリ及び従動プーリの周面に形成されているガイド構に過不足なく嵌合する形状が採用されているので,複数の細い紐の編組体であるガイド体が伸縮力に応じて追従変形しようとするとき,ガイド溝側からの拘束を受けることなく,その変形が自由であるために,編組体であるガイド体のガイド性がよく,円滑なガイド性が得られる。これは,編組体が破損せず,耐久性が得られるという先願考案の効果とは異なるものである。
(4) 以上のように,本件考案及び先願考案は,互いに構成及び作用効果が相違しており,そもそも技術的思想を異にしているから,同一ではないのに,これを実質同一の考案であるとした審決の認定判断は,誤りである。
2 取消事由2(旧実用新案法7条1項の適用の誤り) 本件考案先願考案先後願は,先願考案の登録出願の願書に添付した明細書(以下「先願明細書」という。)における実用新案登録請求の範囲と本件実用新案の登録出願(以下「本件出願」という。)の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲とを対比して認定すべきところ,審決は,先願考案の実施態様に言及して同一性を判断しており,旧実用新案法7条1項の適用を誤っている。
被告の反論
1 取消事由1(実質同一の認定判断の誤り)について (1) 原告は,先願考案が相違点(a)〜相違点(g)において本件考案と異なると主張するが,審決は,これらの相違点につき検討した結果,本件考案先願考案と実質同一であると認定判断したものであり,正当である。
(2) 各相違点について ア 相違点(a)について 本件考案は,実施例において耐熱性に富む基材シートにフッ素樹脂を含浸して焼成したものが示されているから,相違点(a)に係るベルト本体の素材について,先願考案の技術事項を包含する。
イ 相違点(b)について 本件考案は,実施例において耐熱性に富む繊維にフッ素樹脂を含浸して焼成して紐を得ることが示されているから,相違点(b)に係る細い紐に関して,先願考案の技術事項を包含する。
ウ 相違点(c)について 審決は,本件考案の相違点(c)に係る構成は,先願考案の構成に周知慣用の技術事項を付加したものであると認定するが(審決謄本13頁第2段落),このことは,例えば,特開昭58-2104号公報(乙1。以下「乙1」という。),実願昭59-141350号(実開昭61-56312号)のマイクロフィルム(乙4。以下「乙4」という。)からも明らかである。
エ 相違点(d)について 審決は,本件考案の相違点(d)に係る構成は,先願考案に周知慣用の技術事項を付加したものであると認定するが(審決謄本13頁第3段落),このことは,例えば,実願昭58-34145号(実開昭59-140206号)のマイクロフィルム(乙5。以下「乙5」という。)からも明らかである。
オ 相違点(e)について 審決は,本件考案の相違点(e)に係る構成は,先願考案に周知慣用の技術事項を付加したものであると認定するが(審決謄本13頁第4段落〜14頁第1段落),先願考案のガイド体は,蛇行防止コンベアベルトのガイド体であるから,そのガイド体の機能をベルト本体が所定の位置を走行し得るように案内する構成に限定することは自明な技術事項であり,このことは,実願昭59-132224号(実開昭61-46912号)のマイクロフィルム(乙6。以下「乙6」という。)からも明らかである。
カ 相違点(f)について 審決は,本件考案の相違点(f)に係る構成は,先願考案に周知慣用の技術事項を付加したものであると認定するが(審決謄本14頁第2段落),このことは,例えば,乙1,5からも明らかである。
キ 相違点(g)について 先願考案のガイド体の断面形状を,ガイド溝に過不足なく嵌合するものと限定することにより,本件考案の相違点(g)に係る構成とすることは,本件出願時において当業者に周知の技術事項であり,このことは,乙4からも明らかである。
(3) 作用効果の相違について 本件考案の相違点(c)〜相違点(f)に係る構成は,上記のとおり,先願考案に周知慣用の技術事項を付加したものであるから,これらが一体となった本件考案の原告主張の作用効果は,当業者が予測する範囲のものにすぎず,格別なものではない。
2 取消事由2(旧実用新案法7条1項の適用の誤り)について 審決は,飽くまで,先願明細書及び本件明細書の実用新案登録請求の範囲を対比し,先後願クレームの実質的同一性を肯定したものである。先後願クレームの対比判断においては,双方のクレームを常に形式的に対比するのではなく,その同一性について実質的に対比判断すべきであるから,審決に原告主張の誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(実質同一の認定判断の誤り)について 審決は,本件考案先願考案とが相違点(a)〜相違点(h)において相違すると認定したが,相違点(a)及び相違点(b)は,先願考案の具備する構成について,本件考案が具備するかどうか不明であるというものであって,本件考案先願考案と実質同一であるという旧実用新案法7条1項所定の事由の存否に影響を及ぼすものではなく,また,相違点(h)により両者が別の考案であるとはいえないことは,原告の自認するところである。そこで,以下相違点(c)〜相違点(g)及び作用効果の相違について検討する。
(1) 相違点(c)について ア 審決は,本件考案の相違点(c)に係る構成は,本件出願時において,蛇行防止コンベアベルトにおいて周知慣用の技術事項であると認定する(審決謄本13頁第2段落)。
イ 乙1等に示されるコンベアベルトを用いた搬送装置では,コンベアベルトの枠体があることは自明であるとともに,駆動プーリがある以上,これと対を成す従動プーリを備えることは当業者にとって自明であり,これら駆動プーリ及び従動プーリが,一端及び他端の位置関係で配設されることも当業者に自明の事項であることは明らかである。また,本件考案のコンベアにおいて,枠体を設けること,コンベアベルトを主動プーリと従動プーリの間に掛け回したこと,ベルトを主動プーリによって駆動させることは,いずれも,コンベア装置において周知慣用の構成であり,これを採用することによって格別の作用効果を生ずるものともいえない。
ウ したがって,相違点(c)は,本件考案先願考案の実質的な相違点ということはできない。
(2) 相違点(d)について ア 審決は,本件考案の相違点(d)に係る構成は,本件出願時に,「ベルト本体の裏面の長手方向に沿って取り付けられている蛇行防止コンベアベルトのガイド体」において周知慣用の技術事項であると認定する(審決謄本13頁第3段落)。
イ この認定は,乙5の「裏面にべルトの長手方向全長にわたって突起条を有する無端ベルトと該突起の断面形状に見合う凹溝をローラー円周にわたって溝設した回転ローラー群とからなるベルトコンベヤ」(1頁「2.実用新案登録請求の範囲」1)に関する考案において,その目的として,「この考案は,ベルトコンベヤの構造に関し,ベルトの表面形状の悪化の防止とベルトの片寄りや蛇行の防止を図ったベルトコンベヤに関するものである」(1〜2頁「3. 考案の詳細な説明」第1段落)と記載されているように,正当なものということができる。このように,ベルト裏面に突起を設け,これをプーリに設けたガイド溝に嵌合させてコンベアベルトの蛇行を防止する蛇行防止コンベアベルトにおいて,突起を直線的に設けることは,当業者が当然に想到する構成であり,この構成を採用することにより格別な作用効果を生ずるものではない。
ウ そうすると,相違点(d)についても,本件考案先願考案の実質的な相違点ということはできない。
(3) 相違点(e)について ア 審決は,相違点(e)に係る構成「ベルト本体が走行するときに,ベルト本体が所定の位置を走行できるように案内する」は,「ベルト本体の裏面の長手方向に沿って取り付けられている蛇行防止コンベアベルトのガイド体」において,本件出願時に周知慣用の技術事項であると認定する(審決謄本13頁第4段落)。
イ このような「ベルト本体の裏面の長手方向に沿って取り付けられている蛇行防止コンベアベルトのガイド体」における「蛇行防止」とは,ベルト本体が走行する時に,ベルト本体が所定の位置を走行し得るように案内するとの意味であることは明白であって,このような限定を付すことは,当業者に自明な技術事項である。
ウ したがって,相違点(e)についても,本願考案先願考案の実質的な相違点ということはできない。
(4) 相違点(f)について ア 審決は,本件考案の相違点(f)に係る構成「主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガイド溝中に嵌合する」は,「ベルト本体の裏面の長手方向に沿って取り付けられている蛇行防止コンベアベルトのガイド体」において,本件出願時に周知慣用の技術事項であると認定する(審決謄本14頁第2段落)。
イ ここで,このような「ベルト本体の裏面の長手方向に沿って取り付けられている蛇行防止コンベアベルトのガイド体」において,ガイド体のベルト本体を案内する態様として,主動プーリ及び従動プーリの周面に形成されているガイド溝中にガイド体を嵌合することは,乙1,5に見られるように,本件出願前に周知の技術事項である。
審決は,これら乙1,5を引用していないものの,「ガイド体のベルト本体を案内する態様には,プーリ周面に形成したガイド溝に嵌合する本件考案の態様の他に,プーリ周面には形成せずに別体に形成したガイド溝に嵌合する態様や,左右一対のローラ間にガイド体を通す態様も可能であることは,本件考案の出願時において周知の技術常識であるものと認められる」(審決謄本14頁第2段落)として,周知の構成態様を例示した上,本件考案は,従来周知のものから特定の構成を選択したにすぎないとしている。
ウ そうすると,相違点(f)についても,周知の技術事項であって,本件考案先願考案の実質的な相違点ということはできない。
(5) 相違点(g)について ア 審決は,本件考案の相違点(g)に係る構成について,先願考案を,本件考案のように,ガイド体の断面形状をガイド溝に過不足なく嵌合するものに限定することは,本件出願時において周知の技術であると認定する(審決謄本14頁第3段落〜15頁第1段落)。
イ 確かに,先願考案は,コンベアの蛇行防止を行うための「蛇行防止用コンベアベルト」であって,コンベアベルト本体の裏面に取り付けられているガイド体が,ガイド溝にどのような態様で嵌合するかまでは特定されていない。しかしながら,本件考案のガイド体がガイド溝に過不足なく嵌合する態様は,審決がいうように「ガイド体の断面形状はコンベアベルトの動きの支障となることなく,またコンベアベルトの蛇行を放置することなく機能するような嵌合状態となること」(審決謄本14頁第3段落)を期待するものであることは,技術的に自明である。したがって,先願考案のガイド体の構成について,本件考案のように,ガイド体の断面形状をガイド溝に過不足なく嵌合するものに限定することは,本件出願時において周知の技術事項であったと認められる。
また,審決は,本件考案の構成である「ガイド溝に過不足なく嵌合するような形状」の意義について,ガイド体とガイド溝との嵌合様態が不足することとは,コンベアベルトが蛇行し始めたときに,ガイド体と一体となっているコンベアベルトの蛇行を放置する程度の嵌合状態となることであると判断しており(審決謄本8頁第1段落),相違点(g)に係る判断においても,「不足すること」の意味を上記のように解釈している。
ウ ところで,ガイド体がコンベアベルトの蛇行を放置したままでは,本件考案にいうコンベアベルトの蛇行防止のガイド体ということができないことは自明であり,また,先願考案に周知慣用の上記技術事項を付加したことで,蛇行防止コンベアのガイド体の断面形状が,コンベアベルトの動きの支障となることなく,コンベアベルトの蛇行を放置することのない嵌合状態が得られることも,当業者に自明な事項である。そうすると,相違点(g)において,本件考案先願考案は実質同一であるとした審決の判断に誤りはない。
(6) 作用効果の相違について ア 原告は,本件考案が,相違点(a)〜相違点(h)に係る構成を組み合わせたものとして独自の作用効果を奏すると主張する。しかしながら,本件考案のこれらの構成が当業者に周知慣用の技術である以上,その奏する作用効果について特段の立証がない限り,単に先願考案と周知慣用技術を組み合わせたにすぎない本件考案が,格別の作用効果を奏するものとは認められない。
イ 原告は,本件考案が個々の構成を組み合わせた効果として,本件明細書(甲1)の〔効果〕の欄(4頁左欄)記載の効果を奏すると主張する。
しかしながら,先願明細書(甲4)の作用の欄においても,ガイド体は「編組して構成されているので,大きな変形性能を有している。・・・ガイド体5が繰り返し湾曲させられても,上記ガイド体5が破損する恐れはない」(6頁第2段落)と記載され,また,先願明細書実施例の欄には,「更に編組して上記ガイド体5を構成しているので,上記ガイド体5に大きな変形性能を持たせることができる。したがって,各基材繊維6のそれぞれに着目すると,或る部分ではガイド体上面5A側に位置し,また,他の部分ではガイド体底面5B側に位置するようになる。
このため,ベルト本体2の走行時にローラー9の部分で湾曲させられたときに,各基材繊維6は或る部分では引っ張られる方向に力を受け,他の部分では縮められる方向に力を受けることになる。すなわち,各基材繊維6のそれぞれが,引っ張られる方向のみや,縮められる方向のみに力のみに力を(注,「方向のみに力を」の誤記と認める。)受けることがないので,変形に対して大きな耐久力を得ることができる。これにより,上記ガイド体5がローラー9のガイド溝10に嵌合して走行すする(注,「走行する」の誤記と認める。)ときに繰り返し湾曲されても,ガイド体5が破損する不都合が生じることがなく,耐久性を大幅に向上させることができる」(13頁)と記載されており,原告が主張する効果は,本件考案に特有なものということはできず,ガイド体がガイド溝中に過不足なく嵌合するように形成するなど,本件考案の各構成により奏し得る効果にすぎない。
ウ また,原告は,先願考案が,ベルト本体の裏面に長手方向に取り付けられているガイド体とプーリの周面に形成されたガイド溝との関係,組合せを必須の構成としているものではなく,ベルト本体に取り付けられている編組体のガイド体が,ベルト本体とともに耐久性に富み,ガイド体がガイドされるべき手段,例えば,平板上の直線ガイド溝,平板上に配設された一対の水平ロール間の間隙,プーリの周面のガイド溝などと,このガイド体との組合せに係る考案ではないと主張する。
しかしながら,先願考案の奏する作用効果がそのようなものであるとしても,本件考案の奏する作用効果もまた,先願考案に周知の技術事項が組み合わされたことにより奏されるものであって,格別の作用効果ということはできないから,両考案の実質的同一性が妨げられるものではない。
(7) 以上によれば,本件考案先願考案の技術的思想は同一であると認めて妨げはなく,両者が実質同一であるとした審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
2 取消事由2(旧実用新案法7条1項の適用の誤り)について (1) 原告は,本件考案先願考案先後願は,本件明細書先願明細書の実用新案登録請求の範囲を対比して認定すべきところ,審決は,先願考案の実施態様に言及して同一性を判断している点で旧実用新案法7条1項の適用を誤っていると主張する。
(2) 確かに,旧実用新案法7条1項の同一性の判断は,実用新案登録請求の範囲に記載された事項を対象とするものではあるが,考案技術的思想の創作であり,考案の詳細な説明の記載は,技術的思想についての理解を正確かつ客観的に明らかに開示するためにされるものである。しかし,同条項の規定を適用するに際し,実用新案登録請求の範囲の記載内容に表された技術的思想を理解するに当たって,考案の詳細な説明の記載を参酌することは,実用新案登録請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができるなど,これが許されない場合を除き,当然許される。また,考案の実質的同一性を判断するためには考案の奏する作用効果について認定判断することを要するが,そのために考案の詳細な説明の記載を参酌することも許される。本件において,審決は,この見地から,本件考案先願考案特定しその一致点及び相違点を認定した上,両者の実質的同一性を判断したものであることが明らかであり,許された範囲を超えて考案の詳細な説明の記載を参酌したということはできないから,原告の上記主張は採用の限りではない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男