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事件 平成 13年 (ワ) 12927号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 ニポックス株式会社
同訴訟代理人弁護士 日野和昌
同 大井暁
同補佐人弁理士 丹羽宏之
同 野口忠夫
被告 キャビン工業株式会社
同代表者代表取締役 八田政恭
同訴訟代理人弁護士 毛受久
同 太田純
同補佐人弁理士 篠原泰司
同 藤中雅之
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/08/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は別紙被告製品目録記載の製品を製造し,販売し,又は貸し渡してはならない。
2 被告はその所有する前項記載の製品及び半製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金914万4320円及びこれに対する平成14年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
6 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文1,2と同じ 2 被告は,原告に対し,金2800万円及びこれに対する平成14年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,別紙被告製品目録記載のオーバーヘッドプロジェクタ(以下,「被告製品」という。)を製造,販売する被告の行為が,原告の有する実用新案権を侵害するとして,原告が,被告に対し,上記各行為の差止,被告製品の廃棄及び損害賠償金の支払を求めた事件である。 1 争いのない事実等(認定事実には証拠を付した。) (1) 原告の有する実用新案権 原告は,以下の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)を有する。
登録番号 第2039362号 考案の名称 オーバーヘッド・プロジェクタ 出 願 日 平成元年12月28日 出願公告日 平成6年2月16日 登 録 日 平成6年11月21日 実用新案登録請求の範囲 別紙「実用新案公報」(以下「本件公報」という。)写しの該当欄記載のとおり (2) 本件考案を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A 2つの光源と, B 両光源のうち点灯した一方の光源の光を反射型の集光レンズへ向けて反射する第1反射鏡と, C 集光レンズによって反射された光を第2反射鏡を介してスクリーンに投影する投影レンズとが, D 1つのオーバーヘッド・キャビネット(「・」を挿入した。)に,その長さ方向に並列して収められた構造のプロジェクタであって, E 前記2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け, F かつ前記オーバーヘッド・キャビネットの幅方向に並列して取り付け, G 第1反射鏡は,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けたことを特徴とする H オーバーヘッド・プロジェクタ (3) 被告の行為 被告は,平成12年9月から,被告製品を製造,販売している。被告製品の構成は,別紙被告製品目録記載のとおりである。被告製品のうち,製品番号C-36PZは,映写レンズにズームレンズを搭載しているタイプ(以下「ズーム型」という。),製品番号C-36PSは,ズームレンズを搭載していないタイプ(以下「非ズーム型」という。)である。
(4) 被告製品の本件考案構成要件充足性 被告製品は,本件考案の構成要件AないしCを充足する。
2 争点 (1) 被告製品は,本件考案の構成要件D,E,F,Gを充足するか。
(2) 本件実用新案登録には,明らかな無効理由が存在するか。
(3) 損害額はいくらか。
3 当事者の主張 (1) 被告製品は,本件考案の構成要件D,E,F,Gを充足するか。
(原告の主張) 被告製品は,以下のとおり,本件考案の構成要件DないしGを充足する。
ア 構成要件Dの充足性 被告製品は,別紙被告製品目録添付の図3及び甲5から明らかなとおり,光源1a,2aと,第1反射鏡3aと,投影レンズ5aとが,オーバーヘッド キャビネット7aの長さ方向に並んでいる。
したがって,被告製品は,構成要件Dの「1つのオーバーヘッド・キャビネットに,その長さ方向に並列して収められた構造のプロジェクタであって」を充足する。
イ 構成要件Eの充足性 被告製品は,別紙被告製品目録添付の図3,図5及び図6のとおり,光源1aを第1反射鏡3aに向け,光源1aの光軸が,第1反射鏡3aの鏡面Sに達し,Sで屈折して反射型の集光レンズに向かう構成が採用されている。そして,Sが「第1反射鏡の鏡面中央部」にあることは各図から明らかであり,このことは,光源2aの光軸についても同様である。
したがって,被告製品は,構成要件Eの「前記2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け,」を充足する。 ウ 構成要件Fの充足性 被告製品の2つの光源1a,2aは,別紙被告製品目録添付の図4ないし図7のとおり,互いに90度の角度で近接配置され,オーバーヘッドキャビネットの幅方向に並んでおり,長さ方向からみて前後関係はない。
したがって,被告製品は,構成要件Fの「前記オーバーヘッド・キャビネットの幅方向に並列して取り付け,」を充足する。
この点について,被告は,構成要件Fは,2つの光源が90度の関係にある場合を除外する旨主張するが,構成要件Fにおいて,両光源のなす角度について何ら限定していると解すべき理由はないから,被告の主張は失当である。
エ 構成要件Gの充足性 被告製品は,光源1aと2aの光軸O,Pの交点Qを通り,かつ2つの光軸O,Pに対して垂直な線R上に設けられた軸8を,ツマミ11で回動させることによって,第1反射鏡3aがR線を軸として回動する。このR線は,図5が示すように第1反射鏡3aの鏡面中央部を通っているから,第1反射鏡3aは,鏡面中央部にあるR線と第1反射鏡3aの交点を中心に回動している。
したがって,被告製品は,構成要件Gの「第1反射鏡は,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けたことを特徴とするオーバーヘッド・プロジェクタ」を充足する。
(被告の反論) 被告製品は,以下のとおり,本件考案の構成要件DないしGを充足しない。
ア 構成要件Dの充足性について 構成要件Dは,「2つの光源と,第1反射鏡と,投影レンズとが,1つのオーバーヘッド・キャビネット内に,その長さ方向に並列して収められたプロジェクタ」とされている。同構成要件Dは,オーバーヘッドキャビネット内に,第2反射鏡を収めたものを含まないと解すべきであり,また,オーバーヘッド ・プロジェクタ内部において,2つの光源,第1反射鏡,投影レンズの順序に配列されたもののみに限定していると解すべきである。 これに対し,被告製品は,順に,第1反射鏡3aと,2つの光源1a,2aと,第2反射鏡6aと,投影レンズ5aとを,オーバーヘッドキャビネット7a内に収納したものであるから,オーバーヘッドキャビネット内に第2反射鏡を収めている点,及び,配列順序を異にしている点で,構成要件Dを充足しない。
イ 構成要件Eの充足性について 構成要件Eの「鏡面中央部」とは,「鏡面の縦辺及び横辺の中央」を指すと解すべきである。
被告製品の各光源からの光軸が反射される鏡面上の位置Sは,第1反射鏡上端部から下方へ24ミリメートル(下端から上方へ46ミリメートル)の位置であって,第1反射鏡の鏡面中央部ではない。したがって,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
ウ 構成要件Fの充足性について 構成要件Fの「並列して取り付け」とは,「両光源が互いに90度の角度で向き合うように近接配置する」場合を含まないと解釈すべきである。すなわち,本訴において原告が,「本件考案では,光源は長さ方向に対し斜めとなり,かつ,第1反射鏡を回動させるために長さ方向にその距離をとらなければならず,光源の幅と第1反射鏡の回動とによって,従前のプロジェクタに比し,長さ方向が長くなることはあっても短くなることはない」と主張しているとおり,本件考案は,専ら,幅方向の短縮のみをその解決課題としているのであるから,両光源が90度の角度を形成する場合を除外していると理解されるべきである。
これに対し,被告製品は,キャビネットにおける長さ方向,及び幅方向のサイズを最小化するという目的で,両光源が互いに90度の角度で向き合うように近接配置する構成を採用したものであるから,構成要件Fを充足しない。
エ 構成要件Gの充足性について (ア) 「鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」の意義 構成要件Gの「鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」とは,以下の理由から,「第1反射鏡が,ユニバーサルジョイントを介して,その鏡面中央部を中心に,360度回動可能となるように取り付けた」ことを指すと限定的に解すべきである。
まず,@本件考案明細書(以下「本件明細書」という。)では,第1反射鏡を,ユニバーサルジョイントを介して,鏡面中央部を中心に回動可能とした構成のみが示され,第1反射鏡を,光軸に対して垂直な線上に設けられた「軸」を中心として回動する構成は,何ら開示されていないことに照らすと,上記のとおり限定的に解釈すべきことになる。
また,A本件考案出願時に公知である乙13(特開昭55-96933号)及び乙14(乙13を拡大したもの。)記載の発明(以下「96933号発明」という。)によって無効理由が生じないように解釈すると,上記のとおり限定的に解釈せざるを得ないことになる。すなわち,96933号発明と,本件考案とを対比すると,両者は,透過型と反射型という差異こそあるものの,いずれもオーバーヘッドプロジェクタ(以下「OHP」ということがある。)の光源部の切換構造に関して,@2つの光源を第1反射鏡に向けて配置する点,及び,A第1反射鏡の鏡面の向きをいずれかの光源に向かうように操作可能にすることで当該光源の切り換えを行う点で一致する。以上の事実に照らすならば,構成要件Gは,本件公報の第3図の実施例のように,「第1反射鏡13は,キャビネット15に固定したアーム16にユニバーサルジョイント17を介して取り付け」た構成に限定しなければ,考案として成立し得ない。
(イ) 対比 これに対し,被告製品の第1反射鏡3aは,第1反射鏡支持部材9に固定されており,回動するのは第1反射鏡支持部材9であって,第1反射鏡それ自体ではないから,構成要件Gを充足しない。また,同部材9は,第1反射鏡3aの鏡面の中央部という「点」で回動させられるのではなく,光源1aの光軸Oと光源2aの光軸Pとの交点Qを通り,かつ,2つの光軸O,Pに対し垂直な線R上に設けられた「軸8」を中心として回動するから,この点からも,構成要件Gを充足しない。 (2) 本件実用新案には明らかな無効理由が存在するか。
(被告の主張) 本件考案は,以下のとおり,その出願当時公知である96933号発明(乙13,14)を,反射型OHPに転用したものにすぎず,新規性及び進歩性を欠くから,本件実用新案権に基づく請求は,権利の濫用に当たる。
すなわち,乙14の「発明の詳細な説明」欄には,透過型OHPに関して,2つの光源9及び10を,互いの光源の交角αを鋭角又は鈍角にして配置すると共に,各光軸の交差位置に平面反射鏡を配置した技術が,図2では,反射鏡12を2次元方向に回動させることで,2つの光源のうち所望の光源に切り替えることができることが,図3では,反射鏡12と2つの光源9,10とを相対的に回動することで2つの光源のうち所望の光源に切り替えることができることが,それぞれ記載されている。以上のとおり,乙13,14は,本件考案と同一の技術分野において,本件考案と同様に,キャビネット内において,2つの光源を所定の角度に配置し,各光源からの光軸に対して,反射鏡を,光軸対鏡面の入射角度を一定に保ちながら2次元方向に回転させることで,いずれの光源から発せられた光軸も反射鏡に向かうようにするという構成を開示している。
したがって,96933号発明と本件考案は実質的に同一であり,本件考案には新規性がない。また,仮に,本件考案は反射型OHPであるのに対して,96933号発明は透過型OHPである点で相違すると解してみても,本件考案も96933号発明も,いずれもプロジェクタの光源を収納するキャビネット内部における光源と反射鏡の配置構成に関するものであって,共に実用新案法にいう「物品の構造」に関する構成要素という点で共通し,透過型における発明を反射型へ転用することに関しては技術的な障害はないから,本件考案は,96933号発明に基づいてきわめて容易考案することができたといえる。本件考案進歩性がない。
(原告の反論) 本件考案と,96933号発明には,以下のとおりの相違点があるから,本件考案新規性,進歩性がないということはできない。
ア 96933号発明は透過型OHPであり,反射型OHPである本件考案とは根本的に構造が異なる。両者の構成は,光源,反射鏡,集光レンズの配置とその作用,ハウジングの有無,光路などの点で著しく相違する。
イ 96933号発明は,光源がハウジング内に設置され,ハウジングの分だけ大きくなっているから,本件考案の目的の一つである小型化を達成できないし,そのような目的は,示唆ないし開示されていないという点で,本件考案と相違する。
ウ 96933号発明は,光源を放射状に数個配置するとしているのに対し,本件考案では光源を2個に限定しており,その限定により,キャビネットの幅を光源1個分狭くするという効果を奏しているという点で相違する。
エ 96933号発明の目的は,光源と反射鏡との相対的位置,すなわち光源と反射鏡の間隔を,光源ごとに変えること,及び投影レンズの位置とレンズ自身を組合せて選択することにより,透明陽画の大小に対応しようとしたものであって,数個の光源は,光源ごとに反射鏡と異なる間隔に配置されており,本件考案のように,光源をキャビネットの幅方向に並列にして取り付けた構成と相違する。
オ 96933号発明は,数個ある光源のうち,光源と第1反射鏡との間隔が異なるため,プロジェクタ使用中に光源が切れたとき,他の光源を交換して使用することができない構成となっており,玉切れの際の光源の切り換えという目的は示唆されていない点で,本件考案と相違する。 (3) 損害額はいくらか。
(原告の主張) 原告は,被告の本件実用新案権侵害行為により,少なくとも以下のとおりの実施料相当額の損害を蒙った。
ア 被告製品の販売台数 被告は,平成12年9月から平成14年5月末までの間に,被告製品のうちズーム型を2513台,非ズーム型を998台販売した。また,この販売実績からすると,平成14年6月及び7月の2か月の販売台数は,前者が200台,後者が100台と推認するのが相当である。
イ 実施料算定の基礎となる販売価格 (ア) ズーム型の小売価格は15万8000円,非ズーム型は12万8000円であり,実施料相当額は,同価格を基礎として算定すべきである。
(イ) 仮に,小売価格を実施料算定の基礎としない場合でも,少なくとも株式会社内田洋行(以下「内田洋行」という。)の販売価格をもって賠償額算定の基礎とすべきである。被告は,被告製品を,親会社である内田洋行を通して販売しているのであるから,被告と内田洋行は一体となって原告の権利を侵害したと評価することができ,原告は内田洋行の販売行為についても共同不法行為責任を負うべきである。
ウ 実施料率 (ア) 被告製品の特徴がランプの切換えにあり,これにより小型化ができたことは,被告も繰り返し強調しているとおりであり,被告製品が本件考案の利用の上に成り立っていることは明らかである。したがって,実施料としては,少なくとも,販売価格の5%が妥当である。
(イ) 被告は,被告製品には,さまざまな付加価値があり,これによって,売上げを伸ばすことができたのであるから,実施料率について,それらの要素を考慮すべきであると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,被告製品の第1反射鏡の回動手段については,従前の原告製品でも,第1反射鏡を回転させると,光源の光が第1反射鏡中央部に向く位置で停止するような構成を採用しており,被告製品の回動手段が特別なものとはいえない。また,被告製品のズーム機能及びデザインは,原告が平成11年ころ被告に対して提示した原告製品(ズーム式OHP)を模倣したものであり,被告独自の開発によるものではない。そのほか,ワンタッチで操作できる点,安全機能,ランプチェンジの操作性の点は,他のOHPと比較して特段に優れているということはなく,特に強調すべき性能ではない。コンパクト性については,ズームレンズの使用のため,従前のポータブルOHPに比較してむしろ横幅が大きくなっている。
エ 小括 以上によれば,実施料相当損害金は,以下のとおり,2800万円を下回ることはないから,原告は,被告に対し,内金2800万円の支払を求める。
15万8000円×(2513+200)台×0.05 = 2143万2700円 12万8000円×(998+100)台×0.05 = 702万7200円 2143万2700円+702万7200円 = 2845万9900円 (被告の反論) 損害の発生及び損害額はいずれも争う。
ア 被告製品の平成14年6月及び7月の販売台数について 被告製品の平成14年6月及び7月の販売台数は,ズーム型が56台,非ズーム型が5台である。
損害額算定の基礎となる販売価格について (ア) 実施料算定の基礎となる価格は,被告の販売価格(以下「製販価格」という。)とすべきである。
そして,被告製品のうちズーム型には,新型ズームレンズが搭載されており,そのため,非ズーム型に比して,小売価格も製販価格も高額である。この差額は,ズームレンズ機能のために生じたものであって,本件考案とは全く関係がないから,実施料算定の基礎とすべき価格は,非ズーム型(C-36PS)の製販価格である5万2500円である。
(イ) 原告は,「小売価格」を基礎として,これに実施料率を乗ずべきであると主張する。しかし,被告と消費者との間には,内田洋行のような卸会社,その代理店,小売店と複数介在するのであるから,被告製品を納品した先の小売店の上代である小売価格を基礎とするのは妥当でない。
また,原告は,「内田洋行の販売価格」を基礎として,これに実施料率を乗ずべきであるとも主張する。しかし,この点の主張も,以下のとおり,妥当でない。仮に,原告から被告が本件考案実施許諾を受けて,被告が製品を製造して,内田洋行に販売するという場合を想定すると,原告に対してロイヤリティを負担するのは被告であって,被告がこれを負担しさえすれば,その後は原告の権利は消尽して,内田洋行がロイヤリティを負担することはない。そうすると,内田洋行の販売代金を基礎とすることは,およそ解釈として成立しない。なお,内田洋行は,被告と共謀の上,一体となって原告の権利を侵害したことはなく,単に被告製品であるとの認識だけで,発注しているにすぎないのであるから,被告の製販価格を算定の基礎とすべきである。
ウ 実施料率について 被告製品には,以下のとおり,数多くの付加価値が存在し,これらの付加価値のあることが売上げに貢献したといえるから,本件考案の実施料率は,0.5パーセントが相当である。
すなわち,@被告製品においては,第1反射鏡は,鏡面が軸に固定され,その軸が回動の中心となって回動可能な構成となっており,第1反射鏡鏡面の傾斜が回転軸上で常に一定に保たれるため,その回転軸以外には第1反射鏡鏡面の傾斜角度を固定する部材を必要とせずに,所望の向きに切り替えた際,光源からの入射光の入射角を常に一定に保つことができ,使用者の利便性が向上されていること,A被告製品は,携帯性・操作性が重視されていること,B被告製品は,新型のズームレンズが採用されていること,C被告製品は,曲線曲面を重視した形状,多彩な色調,すぐれたデザインが採用されていること,D被告製品は,使用の際にワンタッチですべての部材がシンクロされ,映写状態にセットされるような工夫がされ,簡便性が高いこと,E被告製品は,安全面での配慮がされていること,F被告製品は,各光源が90度に対向近接配置されているため,コンパクト性が実現されていること等,販売を促進させるための価値が付加されている。
当裁判所の判断
1 被告製品は,本件考案の構成要件D,E,F,Gを充足するか。
(1) 構成要件Gの充足性 ア 「鏡面中央部」の意義 (ア) まず,当裁判所は,構成要件Gにおける「鏡面中央部」とは,光が集光レンズへ有効に反射されるある程度の広がりをもった,鏡面中央部分を指すものと解すべきであり,厳密な意味での「鏡面の中心点」,すなわち「鏡面の縦辺及び横辺の中央点」を指すと限定的に解すべきではないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,@本件考案の【実用新案登録請求の範囲】には,構成要件Gに対応する部分のほかに,「前記2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け」(構成要件Eに対応する部分)と記載されているが,いずれも「鏡面中央部」と記載され,「鏡面の中心点」と記載されているわけではないこと,【考案の詳細な説明】にも,「鏡面中央部」を「鏡面の中心点」に限定する旨の記載はないこと,Aむしろ,〔作用〕欄には,「・・プロジェクタの使用中に,点灯していた一方の光源が切れた場合には,他方の光源をスイッチ等で点灯し,その光軸に第1反射鏡を向けることにより,即座に使用できる」と,〔実施例〕欄には,「第1反射鏡13は,第3図のように,キャビネット15に固定したアーム16にユニバーサルジョイント17を介して取り付けてあり,したがって,鏡面中央部を中心に回動可能となっている。」,〔考案の効果〕欄には,「この考案によれば,・・・第1反射鏡の向きは,点灯した光源の光軸に合わせて可変できるようにしたので,次の効果を得ることができる。」「プロジェクタの使用中に,点灯していた一方の光源が切れたときには,他方の光源を点灯し,その光軸に第1反射鏡を向けることができる」と,それぞれ記載されていること,B当業者が,これらの記載を見れば,上記の作用効果を発揮するためには,第1反射鏡は,2つの光源の光軸が交差する点付近の鏡面中央部分上の点を中心に回動される必要があるが,必ずしも,厳密な意味で鏡面の中心に回動される必要はないと理解すると考えられること等の諸点を総合すれば,「鏡面中央部」とは,光が集光レンズへ有効に反射されるある程度の広がりをもった,鏡面中央部分を指すものと解すべきであり, 構成要件Gは,第1反射鏡が,そのような鏡面中央部分内の1点を中心として回動する構成を意味すると解するのが相当である。
(イ) 次に,当裁判所は,構成要件Gの「第1反射鏡は,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」とは,第1反射鏡が「ユニバーサルジョイントを介して,360度回動可能となるように取り付け」られる場合に限定されるべきではないものと解する。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,確かに,本件明細書の【考案の詳細な説明】及び図面には,「第1反射鏡13は,第3図のように,キャビネット15に固定したアーム16にユニバーサルジョイント17を介して取り付けてあり,したがって,鏡面中央部を中心に回動可能となっている。」(4欄31行目〜35行目)として,ユニバーサルジョイントを用いた実施例が示されている。しかし,@【実用新案の登録請求の範囲】には,「鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」と記載され,同記載文言に照らすと,第1反射鏡が360度回動する場合だけに限定されると解釈することはできないこと,A【考案の効果】欄には,「この考案によれば,2つの光源をキャビネットの幅方向に並列して取り付け,それぞれを別個に点灯できるようにするとともに,第1反射鏡の向きは,点灯した光源の光軸に合わせて可変できるようにしたので,次の効果を得ることができる」,「プロジェクタの使用中に,点灯していた一方の光源が切れた場合には,他方の光源をスイッチ等で点灯し,その光軸に第1反射鏡を向けることにより,即座に再使用できる。」(本件公報5欄4行目〜13行目)と記載されており,これらの記載によれば,本件考案の効果は,玉切れした光源からこれと並列する他方の光源に,第1反射鏡を向けることにより得られるものと理解されること,B第1反射鏡を一方の光源から他方の光源へ向けるためには,第1反射鏡自体が回動中心点を中心に360度回動する場合のみならず,鏡面中央部を通る1つの軸を固定し,その軸を中心に回動する場合であっても足りるのは,当業者にとって自明であると解されること等の諸点を総合すれば,構成要件Gにおける第1反射鏡の取付け方法が「ユニバーサルジョイントを介して,360度回動可能となるように取り付け」られる場合に限定されると解することはできない。
この点について,被告は,出願当時公知であった96933号発明との関係で,無効理由がないように,本件考案技術的範囲を解釈しようとするならば,構成要件Gは,「第1反射鏡13は,第3図のように,キャビネット15に固定したアーム16にユニバーサルジョイント17を介して取り付け」たと限定的に解釈せざるを得ないと主張する。
しかし,後記2(1)のとおり,本件考案は,96933号発明と同一又は同発明からきわめて容易に想到できた考案であるとすることはできないから,被告の上記主張は,理由がない。 イ 対比 被告製品の第1反射鏡3aは,第1反射鏡支持部材9に固定されており,同支持部材9をつまみ11を介して回動させることにより,光源1aの光軸Oと光源2aの光軸Pとが交差する第1反射鏡面上の点Qを通り,かつ,2つの光軸O,Pに対し垂直な線R上に設けられた軸8を中心として回動する。したがって,被告製品の第1反射鏡3aは,鏡面中央部にある点Qを中心に回動可能に取り付けられているから,構成要件Gを充足する。
(2) 構成要件D,E,Fの充足性 ア 構成要件Dの充足性 被告は,構成要件Dの意義について,オーバーヘッドキャビネット内に,2つの光源と,第1反射鏡と,投影レンズだけ配列された場合であり,かつ,部材が,上記の順序で配列された場合に限られるように解釈すべきであると主張する。 しかし,本件考案の【実用新案登録請求の範囲】のうち構成要件Dに対応する部分には,「2つの光源と,・・・第1反射鏡と,・・・投影レンズとが,1つのオーバーヘッド・キャビネットに,その長さ方向に並列して収められた」と記載されているのみで,オーバーヘッド・キャビネット内に収納される部材が,2つの光源と第1反射鏡と投影レンズのみである場合に限定されたり,配列の順序が限定される旨の記載はない。また,本件明細書の【考案の詳細な説明】欄にも,そのような記載をした部分はない。よって,被告の主張は採用できない。
被告製品は,光源1a及び2aと,第1反射鏡3aと,投影レンズ5aとが,1つのオーバーヘッドキャビネット7aに並んで納められているから,本件考案の構成要件Dを充足する。
イ 構成要件Eの充足性 被告は,構成要件Gにおける「鏡面中央部」とは,厳密な意味での「鏡面の中心点」,すなわち「鏡面の縦辺及び横辺の中央点」を指すと解すべきであると主張する。
しかし,前記(1)ア(ア)で示したとおり,当裁判所は,構成要件Eにおける「鏡面中央部」とは,光が集光レンズへ有効に反射されるべきある程度の広がりをもった,鏡面中央部分を指すものと解すべきであると判断する。
被告製品においては,光源1a及び2aの光軸は,第1反射鏡3aの鏡面上のS点で反射して,反射型の集光レンズ4aに向かっている(別紙製品目録添付の図3及び図5)。そして,図5及び乙7によれば,被告製品の第1反射鏡で反射した光の光束範囲は集光レンズ4a全体を覆っており,S点は第1反射鏡の鏡面中央の一定の広がりをもった範囲内にあるということができるから,被告製品は,構成要件Eを充足する。
被告は,S点は,第1反射鏡の上端部から下方へ24ミリメートル(下端から上方へ46ミリメートル)に位置するから,「鏡面中央部」に位置しないと主張するが,構成要件Dの「鏡面中央部」とは,「鏡面中央点」を意味するものでないことは上記のとおりであるから,被告の主張は採用できない。
ウ 構成要件Fの充足性 被告は,構成要件Fにおける「並列」について,「両光源が互いに90度の角度で向き合うように近接配置する」場合は除外されると主張する。
しかし,本件考案の【実用新案登録請求の範囲】には,@2つの光源の光軸が向かう方向については,「第1反射鏡の鏡面中央部に向ける」と記載されているのみであり,両光源が90度で向き合う配置が除かれる旨の記載はないこと,A本件明細書の第2図には,2つの光源が,キャビネットの長さ方向に対して斜めに第1反射鏡に向けられた構成が記載され,一方,その説明として「2つの光源11,12は,キャビネット15の幅W方向に並列して取り付け・・」と記載されているように,本件明細書においては,「光源が並列して取り付けられる」ことと,「光源の向き合う角度が並列である」ことは区別して用いられていること等に照らすならば,構成要件Fの「幅方向に並列して取り付け」が,「2つの光源が並列する角度で向き合う」構成を意味し,「両光源が互いに90度の角度で向き合うよう近接配置する」場合を除外するとは解されない。
別紙被告製品目録添付図面及び甲5によれば,被告製品の2つの光源1a,2aは,キャビネットの長さ方向(光源1a及び2aと,第1反射鏡3aと,投影レンズ5aとが並んでいる方向)と直角に交わる同一線上に隣り合って配置されているから,構成要件Fを充足する。 (3) 小括 以上によれば,被告製品は,本件考案の構成要件をすべて充足するから,被告製品は,本件考案技術的範囲に属し,被告製品を製造,販売する被告の行為は,本件実用新案権を侵害する。 2 本件実用新案には明らかな無効理由が存在するか。
(1) 新規性又は進歩性欠如による無効理由 被告は,本件考案は,その出願当時公知である96933号発明と同一であるか,又は96933号発明に基づいてきわめて容易考案することができたものであるから,本件実用新案登録には法3条1項及び2項違反の無効理由があると主張するので,この点を検討する。
ア 96933号発明の内容 (ア) 乙13(特開昭55-96933号)及び14(乙13を拡大したもの)には,以下の記載がある。
a 「特許請求の範囲」「ハウジング内に光源系およびコンデンサーレンズを下方から順次配設するとともに,ハウジングの上端開口をステージガラスで閉止した投影機本体と,ハウジング外でステージガラスのさらに上方に配設した投影レンズと,この投影レンズを通過した光をスクリーン上へ反射する投影用反射鏡とを備えるオーバーヘッドプロジェクターにおいて,光源系の少なくとも一部を,その光軸が前記コンデンサーレンズの光軸上の一点に対して放射状をなすよう複数個配置し,また,光源系からの光束を前記コンデンサーレンズへ反射する光束上向用反射鏡を,ハウジング内で前記コンデンサーレンズの光軸上に傾斜させて配置し,光源系の少なくとも一部と光束上向用反射鏡との相対運動を可能ならしめ,さらに投影レンズを垂直方向へ移動可能ならしめるとともに,交換可能ならしめたことを特徴とするオーバーヘッドプロジェクター。」(乙14の1頁2行目から2頁2行目) b 「発明の詳細な説明」「本発明はオーバーヘッドプロジェクター,とくにステージガラス上に載置した透明陽画の大小にかかわらず,スクリーン上に一定寸法,一定照度の画像を投影し得るオーバーヘッドプロジェクターに関するものである。」(乙14の2頁3行目から8行目) c 「発明の詳細な説明」「・・・第2図は,第1図のU-U線に沿う投影機本体の略断面図であり,投影機本体7はハウジング1内で底壁8上に取り付けた複数個の光源系9,10と,前述のステージガラス2と,このステージガラスの直下に配置したコンデンサーレンズ11とを有する。ここで光源系9,10は,その光軸がコンデンサーレンズ11の光軸上の一点で交差するとともに,光源系の光軸が,その一点においてコンデンサーレンズ11の光軸の回りに放射状をなすよう配置される。・・・なお,図示例では2個だけの光源系を示し,コンデンサーレンズ11の光軸と光源系の光軸を直交させているが,光源系の数を3個以上にすることおよび各光源の交角αを鋭角または鈍角にすることもできる。次いで,前述した各光軸の交差位置に光束上向用の平面反射鏡12を配置し,この反射鏡12を,光源系の光軸を通る光束がコンデンサーレンズ11の光軸を通って反射されるように傾斜させる。さらに,反射鏡12の裏面に連結したロッド13を底壁8に貫通させるとともに,この底壁8によって軸受けし,そしてロッド13の先端にハンドルまたはつまみ14を設けて反射鏡12を,コンデンサーレンズ11の光軸上で各光源系の光軸方向へ回転し得るようにする。」 (乙14の4頁18行目から6頁5行目)。
d 「このように構成したオーバーヘッドプロジェクタにおいて,たとえば,ステージガラス2とほぼ同一寸法の透明陽画13を投影するに際しては,焦点距離の長い光源レンズ9aを有する光源系9の方向へ光束上向用反射鏡12を回し,コンデンサーレンズ11によって,光束を透明陽画13の全体にわたって透過させる。・・・このような投影の継続中において,または次回の投影において所定の寸法の透明陽画よりも小さい寸法の透明陽画,たとえば第1図に仮想線で示すような小寸法の透明陽画を投影する必要が生じた場合には,まず,つまみ14を回すことによって,焦点距離が短い光源レンズ10aを有する光源系10の方向へ反射鏡12を回転させ・・・る。」(乙14の6頁6行目から7頁10行目)。
(イ) 上記の各記載によれば,96933号発明の内容は,「2つの光源系9,10と,コンデンサーレンズ11とが,ハウジング内に下方から順次配設され,ハウジングの上端開口をステージガラスで閉止した投影機本体と,コンデンサーレンズ11によって透過された光を投影用反射鏡を介してスクリーンに投影する投影レンズが,ハウジング外でステージガラスのさらに上方に配設され,この投影レンズを通過した光をスクリーン上へ反射する投影用反射鏡とを備える透過型オーバーヘッドプロジェクタであって,両光源のうち点灯した一方の光源系9,10の光をコンデンサーレンズ11へ向けて反射する光束上向用反射鏡12がハウジング内に配設され,前記2つの光源系9,10は,その光軸を光束上向用反射鏡12の鏡面に向け,かつ,その光軸が,コンデンサーレンズ11の光軸と交差する一点に対して,放射状をなすよう配置され,光束上向用反射鏡12は,ロッド13及びその先端に設けたハンドルまたはつまみ14により,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けたことを特徴とするオーバーヘッドプロジェクタ」である。
イ 本件考案新規性の有無について 上記認定した事実を基礎にして,96933号発明と本件考案とを対比すると,96933号発明と本件考案とは,以下の構成において相違するので,本件考案新規性を欠くとはいえない。
(ア) 96933号発明は透過型OHPについての発明であるのに対して,本件考案は反射型OHPについての考案であること (イ) 96933号発明は「投影レンズ」が1つのオーバーヘッドキャビネットに配置されていないのに対して,本件考案は「投影レンズ」が1つのオーバーヘッド・キャビネットに配置されていること(構成要件C) (ウ) 96933号発明は,光源と第1反射鏡と投影レンズが,オーバーヘッドキャビネットの長さ方向に並列して収められていないのに対して,本件考案は,光源と第1反射鏡と投影レンズが,オーバーヘッド・キャビネットの長さ方向に並列して収められていること(構成要件D) (エ) 96933号発明は,2つの光源が,オーバーヘッドキャビネットの「幅方向」に並列して取り付けられていないのに対して,本件考案は,2つの光源が,オーバーヘッドキャビネットの「幅方向」(光源と第1反射鏡と 投影レンズが並ぶ長さ方向に対して直角の方向)に並列して取り付けられていること(構成要件F) ウ 本件考案進歩性の有無について 本件考案は,96933号発明に基づいて,きわめて容易考案することができたものであると解することはできない。その理由は以下のとおりである。
(ア) そもそも,本訴において,被告は,本件考案進歩性を欠如するとの理由について,「96933号発明」を挙げるものの,同発明からきわめて容易考案することができる根拠とすべき公知技術について具体的な主張をしない。したがって,本件考案進歩性がないとの被告の主張は,主張自体失当である。
(イ) 上記のとおり,本件考案進歩性がないとの被告の主張は,主張自体失当であるが,念のために,公知技術との組合せに関する具体的な主張があるものとして,補足判断する。そのように主張を補ったとしても,96933号発明において,光源を切り換える目的は,透過型OHPにおいて,原稿台の照明範囲を変更するためのものであり,同発明は,本件考案とは解決課題が全く相違するから,他の何らかの公知技術を組み合わせることによって,本件考案きわめて容易考案することができたと判断することはできない。
a まず,96933号発明において,「2つの光源系9,10の光軸を光束上向用反射鏡12の鏡面中央部に向け,光束上向用反射鏡12を,ロッド13及びその先端に設けたハンドルまたはつまみ14により,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付ける」という構成を採用したのは,専ら,光束上向用反射鏡12を回転させて焦点距離が短い光源レンズ10aから焦点距離が長い光源レンズ9aに切り換えることにより,「ステージガラス上に載置した透明陽画の大小にかかわらず,スクリーン上に一定寸法,一定照度の画像を投影し得る」という効果を奏するためのものであって,本件考案のように,一方の光源が切れた場合に光源の切り替えを行い,プロジェクタの連続使用を可能とするという目的が存するわけではないし,示唆されていない。したがって,当業者が,96933号発明における切り換えの構成を,本件考案の光源の玉切れによる光源の交換目的のために採用することを,きわめて容易に想到することができたとはいえない。
b 次に,96933号発明においては,その「発明の詳細な説明」には,「なお,図示例では2個だけの光源系を示し,コンデンサーレンズ11の光軸と光源系の光軸を直交させているが,光源系の数を3個以上にすることおよび各光源の交角αを鋭角または鈍角にすることもできる。」(5頁12ないし16行目)と,小型化とは相反する記載があり,本件考案のような,光源を2つだけキャビネットの幅方向に並列して取り付けることにより,キャビネットを幅方向に小型化するという目的が存するわけではなく,そのような課題又は効果を示唆する記載は一切されていない。したがって,当業者が,96933号発明における切り換えの構成を,本件考案の小型化の手段として,きわめて容易に想到することができたとはいえない。
(ウ) また,仮に,96933号発明に「本件明細書の〔従来の技術〕欄並びに第4図及び第5図記載の技術」(以下「本件明細書図面記載のOHP」という。)を組み合せることによっても,当業者が,本件考案を,きわめて容易に想到することができたと解することはできない。
すなわち,本件明細書の〔考案が解決しようとする課題〕〔課題を解決するための手段〕及び〔作用〕欄の記載によれば,本件考案は,「本件明細書図面記載のOHP(従来のOHP)」では,@キャビネット8の幅Wを,光源1を3個横に一列に並べられるだけの大きさにしなければならないため,キャビネット8が大きくなり,コンパクト化の要請に応えられない,A一方の光源1が切れて他方の光源2と交換する場合,人手によって,それぞれを鎖線位置と光源1のあとへ移動させなければならないが,加熱されていて熱いのですぐには交換できず,そのため,光源1,2が冷えるまでの間,プロジェクタの使用が中断されてしまう ,という問題を解決することを課題として,「2つの光源の光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け,第1反射鏡を,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付ける」(構成要件E及びG)構成を考案したものである。そして,本件考案は,@プロジェクタの使用中に,点灯していた一方の光源が切れた場合には,他方の光源をスイッチ等で点灯し,その光軸に第1反射鏡を向けることにより,即座に再使用できる,A上記2つの光源は,オーバーヘッドキャビネットの幅方向に並列して取り付けたので,従来に比べれば,キャビネットの幅が光源1個分だけ狭くなる,という効果を奏する。
以上のとおり,「本件明細書図面記載のOHP」と本件考案とは,目的,作用効果及び構成(本件考案の構成要件E及びG)において,著しく相違するから,当業者が,本件考案の上記各課題を解決しようとした場合に,96933号発明と「本件明細書図面記載のOHP」とを組み合わせることには無理があり,結局,当業者がきわめて容易に想到できとはいえないと解すべきである。
(エ) さらに,仮に,96933号発明に「実開昭59-101250号(乙28号証)記載の考案」(以下「101250号考案」という。)を組み合せることによっても,当業者が本件考案を,きわめて容易に想到することができたと解することはできない。
すなわち,101250号考案は,光源4と,該光源からの光を反射型の集光レンズ8へ向けて反射する第1反射鏡11と,集光レンズ8によって反射された光を第2反射鏡10を介してスクリーンに投影する投影レンズ9とが,1つのオーバーヘッドキャビネット3に,その長さ方向に並列して納められたオーバーヘッドプロジェクタである。そして,同考案は,光源4を囲むキャビネット3に空気流入部13及び空気流出部14を設け,キャビネット下部にファンを設けたもので,該ファンから送風される空気が,前記空気流入部から流入して光源4を冷却することができるとするものである。そして,本件考案と101250号考案とを対比すると,@本件考案においては2つの光源がキャビネットの幅方向に並列に設けられているのに対して,101250号考案においては,光源が1つしか設けられていない点,及びA本件考案においては第1反射鏡が鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けられているのに対して,101250号考案においてはそのような構成が採られていない点において相違する。
ところで,前記のとおり,本件考案は,2つの光源を並列に設けて,一方を他方の玉切れの際における交換用の光源として用いることを前提として,キャビネットの幅方向を光源1個分だけ狭くして,キャビネットの幅方向の小型化を実現させるために,第1反射鏡を回動可能としたものであるから,当業者が,96933号発明と101250号考案とを組み合わせることによって,本件考案の小型化及び玉切れの際の光源交換の手段としての構成要件E及びGについて,きわめて容易に想到することができたとはいえない。
(オ) 以上総合すると,本件考案は,当業者が,96933号発明及び公知技術を組み合わせて,きわめて容易考案することができたといえないのであり,被告の主張は採用できない。
(2) 小括 以上によれば,権利濫用についての被告の抗弁は理由がない。
なお,被告は,本件考案の【実用新案登録請求の範囲】のうち,@「前記2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け,かつ前記オーバーヘッドキャビネットの幅方向に並列して取り付け,」,A「第1反射鏡は,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けた」の各記載が,考案の詳細な説明に記載されていないものを含んでおり,かつ,登録を受けようとする考案特定するのに不明瞭であるとも主張する。しかし,この点を認めることはできず,被告の同主張は採用の限りでない(被告は,上記主張と同一の理由に基づいて本件実用新案について無効審判を請求したが,平成14年1月24日付けで無効審判不成立の審決がされ,同審決は確定している。)。
3 損害額について 原告は,被告に対して,被告製品の販売について,平成12年9月から平成14年7月までの損害賠償(実施料相当額)を請求する。そこで,その額について判断する。
(1) 被告製品の販売台数 ア ズーム型の販売台数 被告は,平成12年9月から平成14年5月末までの間に,ズーム型被告製品を累計2513台販売した。ズーム型の販売台数のうち,被告の独自の販路により販売した自社ブランド製品が108台,被告の親会社である内田洋行に対する製品が1055台,その他の業者1社に対する製品が1350台である(争いがない)。
また,平成14年6月及び7月のズーム型の販売台数は,被告の独自の販路による製品が6台,内田洋行に対する製品が50台,その他の業者1社に対する製品が0台の合計56台であり(その限度で争いがない。),これを超える販売数を認めるに足りる証拠はない。
したがって,販売時から平成14年7月までのズーム型の総販売台数は,合計2569台である。
2513+56=2569台 イ 非ズーム型の販売台数 被告は,平成12年9月から平成14年5月末までの間に,非ズーム型被告製品を累計998台を販売した。非ズーム型の販売台数のうち被告の独自の販路による製品が103台,内田洋行に対する製品が895台である(争いがない)。
また,平成14年6月及び7月の間の非ズーム型の販売台数は,被告の独自販路による製品が5台,内田洋行に対する製品はなく,合計5台であり(その限度で争いがない。),これを超える販売数を認めるに足りる証拠はない。
したがって,販売時から平成14年7月までの非ズーム型の総販売台数は,合計1003台である。
998+5=1003 (2) 本件考案の実施に対し受けるべき相当金額 ア 実施料算定の基礎とすべき販売価格 (ア) 証拠(乙4,16,18ないし20,21)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
被告は,前記のとおり,被告製品につき,内田洋行,内田洋行以外の業者(ただし非ズーム型はゼロ)及び被告独自の販路によって販売している。内田洋行は,被告から購入した被告製品をさらに代理店(特約店),小売店(ディーラー)等に対して販売している。
被告の内田洋行に対する被告製品の製販価格は,非ズーム型については5万2500円,ズーム型は6万3500円である。また,被告製品の小売価格(ただし,パンフレット記載のメーカー希望小売価格)は,ズーム型については15万8000円,非ズーム型については12万8000円である。
(イ) 上記認定によれば,被告製品のうちズーム型は,非ズーム型と比較すると高額であるが,これは,ズーム機能を付加したことにより生じたものと認められるので,本件考案についての実施料相当額を算定する基礎となる販売価格としては,非ズーム型の価格によるのが相当である。
また,実施料を算定する基礎となる価格については,一応,被告の製販価格ではなく,最終小売価格を用い,小売価格の製販価格に対する価格差は,実施料率において考慮することとした。
イ 実施料率 証拠(乙4,20,21)によれば,被告製品は,業界初の全面ズーム型ポータブルOHPであり,また,ズーム型OHPとして最軽量(7キログラム)を実現した商品であり,ワンタッチで開閉し,セットアップに要する時間が3秒という高い操作性を有する等さまざまな付加価値が付けられていることが認められる。他方,@ポータブルOHPの携帯性,軽量化を高めるためには,キャビネットの幅方向への小型化は重要な要素であると考えられること,A被告製品のパンフレット(乙4)には,同製品の「主な特長」として挙げた5つの点の1つとして,「ランプ交換はクイックランプチェンジ方式(ヘッド部に予備ランプを収納)を採用。使用中にランプが切れても,ランプチェンジつまみのワンタッチ操作で直ちにスペアランプに切り替えることができます。」と記載され,本件考案の実施によるプロジェクタの使用中断時間の短縮機能を強調した広告がされていること,B本件考案は被告製品全体の販売の促進に相当程度寄与していると解して差し支えないこと等の事情を総合すると,本件における実施料相当額は,非ズーム型の最終小売価格の2パーセントとするのが相当である。
なお,被告は,本件考案は,単に「第1反射鏡を,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けた」構成でしかなく,このままではおよそ市場において価値のある製品とはいえないのに対し,被告製品においては,第1反射鏡が一定の規則性を維持しながら回動する構成としたため,光源の入射角度が固定されており調整不要となっていることをもって,本件発明の寄与度が低いと主張する。しかし,「第1反射鏡を回動させる」という構成要件を実施する場合,本件明細書記載の実施例のようにユニバーサルジョイントを用いて回動させるか,被告製品のように第1反射鏡が一定の規則性を維持しながら回動させる構成を採用するかは,当業者であればいずれも容易に想到することができる設計上の選択事項にすぎないのであるから,このような設計事項を選択したことをもって,本件考案の寄与が少ないと評価することはできない。
(3) 原告の被った損害額 そうすると,被告が本件考実用新案権を侵害したことにより,原告の被った損害額は,914万4320円であると認められる。
12万8000円×(2569台+1003台)×2% =914万4320円 4 以上によれば,本訴請求は,被告製品の製造,販売及び貸渡しの禁止,被告が所有する被告製品及びその半製品の廃棄並びに不法行為による損害賠償として金914万4320円及びこれに対する不法行為の後の日である平成14年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余は失当であるから棄却する。よって,主文のとおり判決する。
追加
被告製品目録1オーバーヘッドプロジェクタ製品番号(C-36PZ,C-36PS)2図面の簡単な説明(1)図1は,被告の製造販売に係るオーバーヘッドプロジェクタの全体を示す不使用状態に折り畳んで示す斜視図である。
(2)図2は,使用状態に展開,拡開して示す斜視図である。
(3)図3は,要部構造のレイアウトを側面から示す概念図である。
(4)図4は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す平面図である。
(5)図5は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す側面図である。
(6)図6は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す拡大斜視図である。
(7)図7は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す分解斜視図である。
3図面の符号1a(2a)光源3a第1反射鏡4a集光レンズ5a投影レンズ6a第2反射鏡7aオーバーヘッドキャビネット8軸9第1反射鏡支持部材10回動範囲規制部材11ツマミK光軸O光源1aの光軸P光源2aの光軸Q2つの光源の光軸の交点R2つの光軸に垂直な線S光軸と第1反射鏡の交点4被告製品の構成2つの光源1a,2aと,両光源1a,2aのうち点灯した一方の光源の光kを反射型の集光レンズ4aへ向けて反射する第1反射鏡3aと,集光レンズ4aによって反射された光kを,第2反射鏡6aを介してスクリーン(図示省略)に投影する投影レンズ5aとが,1つのオーバーヘッドキャビネット7aに収められた構造のプロジェクタであって,前記2つの光源1a,2aは,互いに90度の角度で向き合うように近接配置され,前記2つの光源1a,2aの光軸O,Pの交点Qを通り,かつ,2つの交軸O,Pに対し垂直な線R上における,前記2つの光源1a,2aの光軸O,Pの交点Qの上方の位置に軸8が設けられ,軸8には,第1反射鏡支持部材9が回動可能に取付けられ,第1反射鏡支持部材9の周囲には,第1反射鏡支持部材9の回動可能範囲を90度に規制するように形成された回動範囲規制部材10が設けられ,第1反射鏡支持部材9は,第1反射鏡3aが,光源1aに向けられたとき及び光源2aに向けられたときのいずれにおいても,いずれの光源に対しても一定の入射角を保持するように,第1反射鏡3aを固定した状態で支持し,第1反射鏡支持部材9には,これを所望の方向に回転させて回動範囲規制部材10に当接させるツマミ11が設けられている。
図面
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 大寄麻代