関連審決 |
無効2002-35362 |
---|
関連ワード | 考案 / 図面 / 構造 / 物品 / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 請求項 / 実施例 / 容易に想到 / 転用 / 設計変更 / 頒布 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
15年
(行ケ)
129号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 株式会社吉勝 訴訟代理人弁理士 武石靖彦,村田紀子 被告 タカ産業株式会社 訴訟代理人弁理士 大西健 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/10/21 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35362号事件について平成15年3月10日にした審決を取り消す。」との判決。 |
|
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件実用新案登録第2576924号「生餌入れ容器」の実用新案権者である。本件実用新案登録に係る考案(本件考案)は,平成4年6月24日に実願平4ー50462号として登録出願され,平成10年 5月1日,実用新案の設定登録(請求項の数・1)がされた。 被告は,平成14年8月28日,本件実用新案登録について無効審判請求をし,無効2002-35362号事件として審理された結果,平成15年3月10日,本件実用新案登録を無効とする審決があり,その謄本は同月20日原告に送達された。 2 被告が審判で主張した無効理由 本件考案は,登録出願前に頒布された下記刊行物(審判甲第1号証〜審判甲第10号証)に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたのもであり,実用新案法3条2項の規定により,実用新案登録を受けることができない考案であり,その実用新案登録は,実用新案法37条1項1号に該当し,無効とすべきものである。 記(1)審判甲第1号証 昭和56年実用新案公開第89370号公報(2)審判甲第2号証 昭和55年実用新案公告第5026号公報(本訴甲第3号証))(3)審判甲第3号証 昭和51年実用新案公開第155892号公報(本訴乙第2号証))(4)審判甲第4号証 昭和48年実用新案公開第19592号公報(5)審判甲第5号証 登録第230695号意匠公報(6)審判甲第6号証 昭和57年実用新案公開第80262号公報(本訴乙第1号証)(7)審判甲第7号証 平成4年実用新案公開第33369号公報(本訴甲第4号証)(8)審判甲第8号証 昭和58年実用新案公開第132971号公報(本訴甲第5号証)(9)審判甲第9号証 登録第770349号意匠公報(本訴甲第6号証)(10)審判甲第10号証 昭和54年実用新案公開第70891号公報(本訴甲第7号証) 3 本件考案の要旨 上方が開口した筒状の容器本体1と,その口部6を開閉可能に覆う蓋体2とを有するものであって,上記容器本体1の側面3の上部には,複数個の孔4が設けられており,上記蓋体2が網状体からなり,該蓋体2の外周が,上記容器本体1の上端部にチャック7により固定可能であることを特徴とする生餌入れ容器。 4 審決の理由の要点 (1) 審判甲号証記載の事項 請求人(被告)が提出した各審判甲号証に記載された技術的事項は,以下のとおりである。 (1)-1 審判甲第1号証:昭和56年実用新案公開第89370号公報 審判甲第1号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,川で鮎の友釣をする際に使用する「鮎おとり箱」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 「底面板(1)の四周に正背面板(2)(3)並びに左右側面板(4)(5)を倒立可能に連設した折畳みできる箱体(6)と,前記背面板(3)に開閉自在に取付けた蓋板(7)と,組立てた箱体(6)内に収容する合成樹脂袋(8)とからなり,前記正背面板(2)(3)及び左右側面板(4)(5)に水流通孔(9)を数箇所穿ち,……鮎おとり箱。」(1頁,実用新案登録請求の範囲) (1)-2 審判甲第2号証:昭和55年実用新案公告第5026号公報 審判甲第2号証には,その実施例及び図面第2図とこれに係わる記載を参酌すると,以下のような技術的事項の記載が認められる。 (i)「本考案は主として鮎の友釣りを行う場合に用いられる釣用囮活罐に関する。 鮎の友釣りを行う場合囮鮎を弱らせることなく活かしておく必要があり,通常は上部に多数の貫通孔を持つ蓋付きの囮活罐を用い,該罐内に囮鮎を入れて適宜川内に沈めて置くのである。ところでこの囮活罐はその容量が比較的小さいため時期的に水温が高い場合には,囮鮎の弱り方が甚しく,特に釣場を移動する場合にはより顕著となるのである。したがって釣場移動時にはこの囮活罐を時々川内に沈めながら的場の移動を行っているのである。」(1頁左欄24〜34行), (ii)「図において1は上面が関口する外罐体で,内罐11と外罐12並びに両罐11,12間に充填された断熱材13とによって構成され,かつこの外筐体1にはその閉口部を開閉する蓋体14が枢着されている。なおこの蓋体14は前記と同様断熱構造としても良い。 2は開閉自在な蓋を持つ囮罐本体で,周壁上部に複数個の貫通孔21……が形成されており,かつ吊紐22により吊下げ可能に構成されている。 しかして本考案は前記外筐体1の上部内周壁に段部15を形成する一方,前記囮罐本体2の上様部に鍔部23を形成し,この罐本体2を外筐体1内に入れ鍔部23の段部15への引掛けをして該罐本体2を外筐体1内に宙吊状に保持させて,この罐本体の上下部に空間を設けたものである。 本考案囮罐箱は以上のごとく構成されるもので,囮罐本体2内に水と共に囮鮎を収容した状態で,該罐本体2を鍔28の段部15への係合により外筐体1内に宙吊状に保持させ,かつこの罐本体2の上部及び下部に形成された両空間のいずれか一方,若しくは両方に氷を入れた状態で前記外筐体1の蓋体14を閉じ,前記罐本体2内の囮鮎を低温状態で活すのである。 なお釣場の移動を行わない場合にあっては罐本体2を通常の囮活罐と同様水中に浸漬して用いることができ,また釣終了後にあっては外筐体1から罐本体2を取外し,該外常体1をクーラーとして用いることができるのである。」(1頁右欄13行〜2頁左欄3行), (iii)「釣場においては前記囮罐本体を外筐体内から簡単に取出して,通常の囮活躍と同様川内に沈めるごとく用いることができ,これによって活動の押えられていた囮鮎は再び元気を取戻し,かっこの釣場での水に馴染み,良好な囮鮎とし用い得るのである。」(2頁左欄19行〜同頁右欄2行), (iv)したがって,これら明細書及び図面の記載によれば,当該審判甲第2号証には,「上方が開口した筒状の罐本体(2)と,その口部を開閉可能に覆う蓋とを有するものであって,上記罐本体(2)の側面の上部には,複数個の貫通孔(21)が設けられており,上記蓋には孔がある釣用囮活罐」が記載されていると認められる。 (1)-3 審判甲第3号証:実願昭50-75347号(昭和51年実用新案公開第155892号)のマイクロフィルム 審判甲第3号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,「鮎おとり容器」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 (i)底板(1)と横長の孔(11)が設けられた周面板(3)とからなる本体(4)と,有孔蓋(7)と開閉蓋9を蝶着された密閉蓋(5)と,合成樹脂製の水槽構成シート(6)とからなる,鮎おとり容器(公開明細書) (1)-4 審判甲第4号証:昭和48年実用新案公開第19592号公報 審判甲第4号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,みみずなどの生餌を収容できるようにした「釣り用餌容器」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 「上部外周側面に通気孔を具えた開放上面の容器本体と,この容器本体の開放上面に着脱自在に蓋着される蓋体とからなり,…釣り用餌容器。」(実用新案登録請求の範囲) (1)-5 審判甲第5号証:登録第230695号意匠公報 審判甲第5号証には,その意匠に係る物品の説明と図面の記載を参酌すると,具体的構成は明確でないものの「鰻篭」が記載されている。 (1)-6 審判甲第6号証:実願昭55-157591号(昭和57年実用新案公開第 80262号)のマイクロフィルム 審判甲第6号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,「鮎入れ用容器」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 「…容器本体Cと,…ネット20を配設した蓋体D,…とからなる鮎入れ用容器。」(実用新案登録請求の範囲), (1)-7 審判甲第7号証:実願平2-75697号(平成4年実用新案公開第33369号)のマイクロフィルム 審判甲第7号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,「魚釣り用ネット付バケツ」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 (i)「魚釣り用の冷凍餌(沖アミ等)を解凍する際,またはサシエ用ネット,水切りネットとして,さらにはバケツとしても使用できる」(公開明細書1頁) (ii)「バケツ主体(1)の上面開口部(2)に,該開口部(2)の略略半面を覆うネット(6)を着脱自在に取り付けてなる魚釣り用ネット付きバケツ。」(実用新案登録請求の範囲) (iii)「(7)はネット(5)の三辺縁部(5a)(5b)(5c)とバケツ本体(1)の開口部 (2)内壁間に,連続して設けられたチャックで,該チャック(7)の開閉によりネット(5)を自由に着脱できるようにしてある。」(同7〜8頁) (1)-8 審判甲第8号証:実願昭57-30024号(昭和58年実用新案公開第132971号)のマイクロフィルム 審判甲第8号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,「携帯用水槽」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 (i)「…容器1の上面にはファスナー7で開閉する上蓋8を設け…た携帯用水槽。」(実用新案登録請求の範囲) (1)-9 審判甲第9号証:登録第770349号意匠公報 審判甲第9号証には,その意匠の説明と図面に係わる記載を参酌すると,「上部のチャックを操作して蓋を開け,内部に水を張って釣った魚を入れるもの」である「釣用魚入れ」が記載されている。 (1)-10 審判甲第10号証:昭和54年実用新案公開第70891号公報 審判甲第10号証には,その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると,「びく」に関するもので,概要,以下のような技術的事項が記載されている。 「上端方向に先細状とした筒状網と,該筒状網の上端部に形成された魚収容口と,該筒状網の下端部に設けられた魚収容部とよりなるびくにおいて,該筒状網の下端部近傍に開口部を設け,該開口部にスライドファスナーを取り付けて開閉自在としたことを特徴とするびく。」(実用新案登録請求の範囲) (2) 対比 本件考案と審判甲第2号証に記載された考案とを対比すると,審判甲第2号証における「罐本体(2)」「蓋」及び「複数個の貫通孔(21)」は,それぞれ本件考案における「容器本体1」「蓋体2」及び「複数個の孔4」に相当し,また,審判甲第2号証における「釣用囮活罐」は,鮎の友釣りを行う鮎を活きた状態のまま収容し移動するとともに,釣場では水中に浸漬して用いるものであるから,本件考案における「生餌入れ容器」に対応させることができ,いずれも「活きた釣餌様の入れ容器」である点で共通するものと認められる。 したがって,両者は,以下のとおりの一致点及び相違点を有する。 (一致点)「上方が開口した筒状の容器本体1と,その口部6を開閉可能に覆う蓋体2とを有するものであって,上記容器本体1の側面3の上部には,複数個の孔4が設けられており,上記蓋体2が上記容器本体1の上端部に固定可能である活きた釣餌様の入れ容器。」(相違点) 本件考案にあっては,活きた釣餌様の入れ容器が「生餌入れ容器」であり,「上記蓋体2が網状体からなり,該蓋体2の外周が,上記容器本体1の上端部にチャック7により固定可能である」のに対して,審判甲第2号証にあっては,活きた釣餌様の入れ容器が「釣用囮活罐」であり,上記蓋がチャックにより固定するものではない点, (3) 相違点に関する審決の判断 相違点について,以下に検討する。 (3)-1 活きた釣餌様の入れ容器について,審判甲第2号証における「釣用囮活罐」は,鮎の友釣りを行うための鮎(以下,単に「友釣り用鮎」という。)を入れておくものであり,この友釣り用鮎も,鮎を釣るために用いるものであって,例えば鯛やヒラメなどを対象とする通常の生餌釣りにおける一種の餌に相当するものであり,さらに鯛やヒラメ,鮎などの釣りでは,餌が生きた状態,すなわち「活きが良い」状態で用いることが釣果の重要な要因となるものであるが,審判甲第2号証における「釣用囮活罐」も本件考案と同様に「活きが良い」状態に友釣り用鮎を維持し,この状態で釣りに用いることが釣果の重要な要因となることを前提として構成されているのであるから,審判甲第2号証における「釣用囮活罐」を参酌することにより本件考案における「生餌入れ容器」を構成することは,当業者が適宜になし得ることと認められる。 この点について,被請求人(原告,実用新案権者)は,本件考案は鮎の友釣と全く関係のない「海釣り用の生餌(あじ,海えび等)の容器」であり,「提出した審判甲第1号証〜審判甲第10号証もすべて,海釣り(船釣り)用の生餌の容器とは関係のない」,また「「鮎おとり箱」は川岸の浅瀬に浸けて使用するものであり,蓋まで水に漬けることはないが,仮に,「鮎おとり箱」を蓋まで水に漬けて使用したとしても,水は蓋から流入するものではなく,海水に浸潰して使用する「海釣り用の生餌(あじ,海えび等)の容器」として使用できるものではない。」とし,本件登録実用新案の目的や構成,効果を示唆する記載は全く存在しない旨,さらには「審判甲6号証,審判甲第1号証〜審判甲第3号証及び審判甲第9号証のいずれにも,当業者に,本件考案を開発しようなどと動機付ける記載は全く存在しない」旨主張している。しかしながら,本件考案に係る構成は,前記のとおりのものであって,特定の釣りの対象となる「魚種」やこれに使用する「生餌」の具体的内容を規定するものではなく,また本件実用新案登録請求の範囲に記載された構成全般からも「海釣り用」に限定して解すべき構成も見当たらない。したがって,「生餌入れ容器」を原告の主張するように限定した「海釣り用」と解釈することはできず,本件考案の容器を「海釣り用の生餌(あじ,海えび等)の容器」とすることは本件考案の要旨外の構成をいうものであって,原告の当該主張は採用することができない。 なお,仮にこの容器の使用形態を「海釣り用」に限定されたものとしても,両者は釣りに係わる同一の技術分野に関するものであって,動機付けとなり得ないなど特段の理由も見当たらないから,当業者が適宜になし得るものと認められる。 (3)-2 また蓋の構成について,本件考案における「蓋体2が網状体からなり,該蓋体2の外周が,上記容器本体1の上端部にチャック7により固定可能である」ことの技術的意義は,本件登録明細書の記載を参酌すると,「蓋体2が網状体からなるものでは,海水が容器本体1の上方から効率良く流入,流出するので特に好ましいが,本考案における蓋体2は,シートに孔を設けたものや,孔が形成された成型体等であっても良い。この際,蓋体2における,孔5の占める面積比率が大きいほど,海水の流れは良くなる。図1に示されるような網状体としては,特にプラスチック製のメッシュが好ましく,市販の塩化ビニル製メッシュ等が利用できる。」(段落番号【0008】),「本考案では,容器本体1と蓋体2との固定方法が特に限定されるものではなく,例えば両者が固定金具等により固定されても良いが,図1に示されるように,容器本体1の上端部と,蓋体2の外周とが,チャック7(ジッパー)により固定されるものが特に好ましく,この場合には簡単に容器本体1と蓋体2とが開閉・固定できるので便利である。この図1に例示される生餌入れ容器では,蓋体2の外周の一部と,容器本体1の口部6の一部とが接合されて一体化しており,容器本体1と蓋体2とが分離しないようになっている。この図1の容器では,チャック7をあけて蓋体2を開き,口部6を開口させた状態で生餌を出し入れする。しかしながら,本考案では,容器本体1と蓋体2とが分離するタイプのものであっても良い。」(段落番号【0009】),「本考案の生餌入れ容器は,内部に生餌を入れて海水に浸漬した際,側方に設けられた孔と,蓋体の設けられた孔を通じて,上方と側方から海水が容器内部に効率良く流れ込む構造であるので,釣を行うまでの生餌の保存性に優れる。」(段落番号【0013】)というものである。 これらの記載によれば,容器を水中に浸漬した時に,「蓋体2」の孔(網状体),さらには「側面3の上部」の複数個の孔4から水が良好に流入・流出すること,また「口部6を開口させた状態で生餌を出し入れする」必要があるので「簡単に容器本体1と蓋体2とが開閉・固定できる」ことにあるものと認められる。 しかしながら,審判甲第2号証に記載の容器(釣用囮活罐)においても,その図面第2図を参酌すると,蓋には孔が設けられており,また「罐内に囮鮎を入れて適宜川内に沈めて置く」(1頁左欄28〜29行),「釣場の移動を行わない場合にあっては罐本体2を通常の囮活罐と同様水中に浸漬して用いる」(1頁右欄36〜37行)と記載されているように,容器(釣用囮活罐)を水中に浸漬した時に,「蓋の孔」及び「貫通孔(21)」から水が流入・流出することも示唆されているといえる。また,容器の口部を覆う網状体に関し,簡単に開閉・固定できることを目的等としてその口部あるいは開口部への固定・取付を「チャック」により行うこと自体は当業者に自明の技術的事項であって前記審判甲第7〜10号証に開示されており,例えば,前記審判甲第10号証には,釣り用容器である「びく」に関するものであって,「魚収容部(2)」の開口部に「筒状網(5)」を固定可能に設けるものであり,この「筒状網(5)」を魚収容部(2)の開口部(10)にスライドファスナー(F)で開閉自在に取り付けるものが開示されている。そして,この「筒状網(5)」は魚収容部(2)(容器)の蓋となり,また筒状網(5)から水が流入・流出することは技術常識であるから,審判甲第2号証における蓋(2)を網状体とし,その固定・取付を「容器本体の上端部にチャックにより固定可能」となすことにより本件考案のように構成することは当業者が極めて容易になし得ることと認められる。 この点について,原告は,「審判甲第9号証は,密閉性のよい「釣用魚入れ」に関するもので,海水に浸潰しても容器内に海水の流入,流出が可能なものではなく,また蓋をしたら空気も流入しないため,生餌入れに使用することは不可能である。」,また本件考案について,「D) 蓋体はチャックで容器本体上端部に固定されているため,内部に生餌を入れて,容器全体を海水に浸潰しても,蓋体が不当に開いたり,変形,移動したりすることなく,安定して,生餌を容器本体内で泳がせておくことができる。」との作用効果等を主張している。しかしながら,審判甲第7〜10号証において引用する自明の技術的事項は,口部あるいは開口部への固定・取付をチャックにより行う事項であって,該審判甲第10号証には筒状網(網状体)に対する固定・取付をスライドファスナー(チャック)により行うことも開示されていることは前記したとおりであるから,審判甲第2号証に記載された考案において,このような網状体のチャックによる固定・取付が適用できないとする特段の理由もなく,またこれにより奏する作用効果も,当業者が予測し得る程度のものであって,格別のものとは認められない。 (4) 審決のまとめ 以上のとおりであって,本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案は,審判甲第2号証及び審判甲第7〜10号証に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるから,本件実用新案登録は実用新案法3条2項に違反してなされたものであり,本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案登録は,改正前の実用新案法37条1項1号に該当し,無効とすべきものである。 |
|
原告主張の審決取消事由
1 相違点の看過 本件考案と審判甲第2号証記載の考案の相違点は,以下のとおりである。 イ)審判甲第2号証の囮活罐は鮎の友釣り用の囮を入れる容器であり,生餌(あじ,きす,海えび等)を海水中に浸漬しておくことができる「生餌入れ容器」でない。 ロ)審判甲第2号証の囮活罐は,四角い弁当型の容器で,筒型の容器でない。 ハ)審判甲第2号証の囮活罐は,上面(すなわち,弁当型容器の開口部)を,「罐本体(2) 」を外筺体内に吊り下げるための鍔部が周囲に存在する板状体で,覆われているものであり,容器本体の口部を覆う開閉可能な蓋体は存在しない。 ニ)審判甲第2号証の囮活罐に設けられた蓋は,「罐本体(2) 」の上面を覆う板状体の一部に設けられた小さな円形の蓋であり,該蓋には,孔は何も存在しない。 ホ)審判甲第2号証の囮活罐には,どこにも網状体は存在しない。 へ)審判甲第2号証の囮活罐に設けられた小さな円形の蓋は,チャックで固定できるものではない。 審判甲第2号証記載の考案と本件考案は,以上のようにイ)〜へ)においても相違するのに,審決は,これらの相違点を見落とし,単に「活きた釣餌様の入れ容器が釣用囮活罐であること」及び「蓋がチャックにより固定するものではない点」にのみ相違点が存在するかのように認定したものである。また,審決が認定した相違点に関するの判断においても,上記の相違する点を無視しているものであり,相違点の判断も誤りである。 2 審決認定の相違点に関する判断の誤り (1) 審決は,「審判甲第2号証における「釣用囮活罐」を参酌することにより本件考案における「生餌入れ容器」を構成することは,当業者が適宜になし得ることと認められる。」と認定判断するが,誤りである。 すなわち,囮は餌ではない。また鮎の友釣りは川釣りでも特殊なもので,友釣りの用具は,渓流釣りの用具とも全く区別して利用されるものであり,まして,海釣り用に転用されるものではない。また審判甲第2号証の囮活罐は小さく,しかも上面の一部に小さな円形の蓋が存在するだけなので,海釣用の大量の活き餌を有効に収容できるものではない。当業者であれば,かかる審判甲第2号証の囮活罐を,海水に浸漬して使用する生餌(あじ,きす,海えび等)用の容器すなわち「生餌入れ容器」に使用しようなどと想像し得るものではなく,また現実に使用できるものでもない。 (2) 審決は,本件考案の「蓋体2」が網状体からなること,及び「蓋体2」の外周が容器本体1の上端部にチャック7により固定可能であることが,当業者にとって容易に考案できると判断している。 審決は,審判甲第2号証記載の囮活罐には,蓋に孔が設けられているとしているが,囮活罐の蓋は,囮活罐の上面を覆う板状体の一部に設けられた小さな円形の蓋であり,そこには孔は存在しない。囮活罐の蓋に孔が設けられているとの審決の認定は誤りである。 (3) 審判甲第2号証の囮活罐の蓋は,罐の上面を覆う板状体の一部に設けられた小さな円形の蓋であり,この蓋には孔は存在しないのであるから,何か特殊な動機付けがない限り,この蓋を網状体にするとは考えられない。また,この蓋を網状体にしたとしても,本件考案の効果が得られるものではない。 更に,この蓋は,罐の上面を覆う板状体の一部に設けられているため,それを容器本体(罐)の上端部に固定できるものではなく,まして上端部にチャックで固定可能などとされるものではない。 このように,審判甲第2号証における蓋を網状体とし,その固定・取付を容器本体の上端部にチャックにより固定可能となすことにより本件考案のように構成することは当業者が極めて容易になし得るとの審決の認定は,何ら根拠のない不当なものである。 (4) 審決において,蓋を網状体とすること及びチャックで容器本体の上端部に取り付けることが容易であるとする根拠として引用された文献も,本件考案と関係のないものである |
|
当裁判所の判断
1 本件考案 本件明細書(甲第2号証)の記載からすると,本件考案は,従来から存在した生餌入れ容器(蓋付きバケツ,魚籠)においては,側面から水が入らないため,容器内の水の流れが悪く,一晩の間に,生餌が弱るという問題点や,水から引き上げた際,容器の上端まで水が満たされ,非常に重くなって取扱いが困難であるという問題点を解消することを目的として(【従来の技術】の項),登録請求の範囲に記載された構成としたものであり,容器本体の側方に設けられた孔と,蓋体に設けられた孔を通じて,上方と側方から水が容器内部に効率良く流れ込む構造とすることにより,生餌の保存性に優れた容器とするととともに,水から引き上げた際,容器本体の側方に設けられた孔により,水が流出できるようにして,容器本体内の水の量を少なくして重量を軽くし,取扱いを便利にした点(【考案の効果】の項)に技術的意義を有するものと認められる。 また,本件考案において,蓋体を網状体とした点は,蓋体に設けられた孔の最も好ましい態様として選択されたものであり(【0008】),蓋体を開閉自在とした点は,従来の生餌入れ容器においても,具備されており(従来の蓋付きバケツにおいて,生き餌を出し入れするために,蓋体が開閉自在とされていることは明らかである。),開閉自在とする最も好ましい態様についてチャックが選択されたものと認められる。 2 審判甲第2号証 (1) 審判甲第2号証(甲第3号証)の記載によれば,審判甲第2号証には, 「上方が開口した角形の容器本体と,その口部を覆う板状の蓋体とを有するものであって,上記容器本体の側面の上部には,複数個の貫通孔21が設けられており,上記蓋体には長孔が形成されている囮罐本体2。」の考案が記載されていると認められる。 そして,「囮鮎を弱らせることなく活かしておく必要があり,通常は上部に多数の貫通孔を持つ蓋付きの囮罐本体を用い,該罐内に囮鮎を入れて適宜川内に沈めて置くのである。」(1頁左欄26〜29行)との記載があることからもすると,審判甲第2号証に記載の囮罐本体2では,上記板状の蓋に形成された孔,容器の上部に形成された貫通孔を有することにより,囮鮎を弱らせることなく活かしておけるものであると認められる。 また,囮鮎を弱らせないためには,角形の容器本体の周壁下部にも,貫通孔を形成する方が,囮罐本体における水の流入,流出が多くなることは明らかであるところ,角形の容器本体において,上部にだけ貫通孔を形成する理由は,囮罐本体2は,外筐体1内に宙吊状に保持させるようにして使用し,囮罐本体2内の囮鮎を低温状態で活かしておくことも目的としており(1頁右欄28〜35行),容器本体内に水を溜めておく必要性があるためであると認められる。 (2) すなわち,審判甲第2号証記載の考案は,囮罐本体2における水の流入,流出と,水から取り出した際の容器本体内における水の残留とを合わせ実現するために,蓋体に長孔を形成するとともに容器本体の上部に貫通孔を形成していることは当業者に容易に理解できることである。 3 対比 (1) 上記認定によれば,本件考案と審判甲第2号証記載の考案とは,「上方が開口した容器本体と,その口部を覆う蓋体とを有するものであって,上記容器本体の側面の上部には,複数個の貫通孔が設けられており,上記蓋体は孔を有する容器」である点で一致しており,次の点で相違すると認められる。 (イ)容器の用途が,前者においては,「生餌入れ」であるのに対し,後者においては,「囮」入れである点(ロ)容器本体の形状が,前者においては,筒状とされているのに対し,後者においては,角形とされている点(ハ)孔を有する蓋体が,前者においては,網状体であるのに対し,後者においては,孔を形成した板状体である点(ニ)蓋体の固定構造につき,前者においては,蓋体が開閉可能であり,蓋体の外周が容器本体の上端部にチャックにより固定可能とされているのに対し,後者においては,開閉可能なものとされていない点 (2) 審決が,本件考案と審判甲第2号証記載の考案との一致点,相違点の認定において,蓋体が開閉可能である点で両者は一致するとした点は誤りであるが,相違点として,「本件考案においては,蓋体2が網状体からなり,蓋体2の外周が,容器本体1の上端部にチャック7により固定可能であるのに対して,審判甲第2号証にあっては,蓋がチャックにより固定するものではない点」を認定しており,蓋体が固定可能(開閉可能)であるかどうかも実質的に相違点として認定しているので,蓋体が開閉可能であることに関し,審決がした相違点の認定に誤りはない。 また,「釣餌様の入れ」容器である点で容器の用途が一致するとした認定についても,相違点として,「本件考案にあっては,活きた釣餌様の入れ容器が「生餌入れ容器」であるのに対して,審判甲第2号証にあっては,活きた釣餌様の入れ容器が「釣用囮活罐」である旨認定しているので,相違点として認定しているということができる。 そうすると,一致点の認定の誤り(相違点の看過)としては,容器本体の形状が筒状である点で両者が一致するとした点にのみ審決の誤りがある。ただし,この誤りが審決の結論に影響を及ぼさないのは,後記4の(2)で判断するとおりである。 4 相違点についての当裁判所の判断(取消事由に対する判断) (1) 容器の用途が,本件考案においては,「生餌入れ」であるのに対し,審判甲第2号証記載の考案においては,「囮」入れである点(相違点(イ))について 水中においても,また,水から取り出した際にも,弱らせることなく活かしておくという技術的課題は,囮の鮎だけでなく,魚等の生餌にも共通する技術的課題であるところ,審判甲第2号証の囮罐本体の機能,構造(囮罐本体2における水の流入,流出と,水から取り出した際の容器本体内における水の残留とを合わせ実現するために,蓋体に長孔を形成するとともに容器本体の上部に貫通孔を形成する点)によれば,囮の鮎を,水中においても,また,水から取り出した際にも,弱らせることなく活かしておくことができることは明らかであるから,審判甲第2号証の囮罐本体を生餌用に転用することはもちろんのこと,審判甲第2号証の技術的特徴点を生かして生餌用の容器として改良を図ることは,当業者ならば極めて容易に想到し得ることである。 なるほど,審判甲第2号証に記載の囮罐本体には,板状の蓋体に囮の出し入れ口を覆う開閉自在の蓋が設けられるなど,鮎の友釣りに適するような構造上の工夫がある。しかしながら,釣りの形態がどうであれ,水中で活かしておくという点では,囮の鮎であろうと魚等の生餌であろうと,異なるところはないから,囮の鮎を活かしておける容器であれば,魚等の生餌を活かす容器として転用し得ることは明らかである。囮罐体の容量が小さくて生餌用としてそのまま使用できないのであれば,容量を大きくすればよいし,後述するように,出し入れ口の配設態様(蓋体に小蓋を設けるか,蓋体を開閉可能とするか)は,用途に応じて適宜設計変更し得る態様のものである。 したがって,原告が主張するように,審判甲第2号証の囮罐本体が,鮎の友釣り用の囮を入れる容器であり,生餌(あじ,きす,海えび等)を海水中に浸漬しておくことができる「生餌入れ容器」でないとしても,上記相違点(イ)に係る用途上の相違に係る本件考案の構成は,当業者ならば極めて容易に想到することができるというべきである。 (2) 容器本体の形状が,本件考案においては,筒状とされているのに対し,審判甲第2号証の記載の考案においては,角形の浅底状とされている点(相違点(ロ))について 審判甲第2号証の囮罐本体は,容器本体が角形の形状を呈しており,確かに,一般的な筒型(円筒)容器とは形状を異にする。しかしながら,囮罐本体において容器本体の形状を筒型(円筒)とすることは,甲第7号証(審判甲第10号証),乙第1号証(審判甲第6号証)にもみられるように,本件出願前周知であり,かかる周知の形状を囮罐本体ないしは活餌用容器に採用することは当業者ならば適宜設計し得ることである。また,本件考案において,容器を筒型としたことによる格別の技術的意義はないというべきである。 したがって,審判甲第2号証の囮罐本体の容器本体が,角形(原告のいう四角い弁当型)の容器であって,筒型(円筒)容器でないとしても,上記相違点(ロ)に格別の創意を要するものということはできない。 (3) 孔を有する蓋体が,本件考案においては,網状体であるのに対し,審判甲第2号証記載の考案においては,孔を形成した板状体である点(相違点(ハ))について 審判甲第2号証記載の囮罐本体の蓋は,上記認定のとおり,孔を形成した板状体であり網状体で形成されていない。しかしながら,囮罐本体において,蓋に網状体を用いることは,乙第1号証(審判甲第6号証)に記載されているように慣用されていることと認められ,網状体であれば,有孔蓋と同様に水の流入,流出が良好であることは当業者ならば容易に理解できることであるから,囮罐本体ないしは生餌容器に網状体を用いることも,当業者ならば極めて容易に想到し得ること認められる。 したがって,審判甲第2号証の囮罐本体には,どこにも網状体は存在しないからといって,上記相違点(ハ)が格別の創意を要するものということはできない。 (4) 蓋体の固定構造につき,本件考案においては,蓋体が開閉可能であり,蓋体の外周が容器本体の上端部にチャックにより固定可能(開閉可能)とされているのに対し,審判甲第2号証記載の考案においては,開閉可能なものとされていない点(相違点(ニ))について 審判甲第2号証に記載の囮罐本体においては,上方が開口した容器の開口部を覆う蓋体が開閉可能なものではない。しかしながら,乙第2号証(審判甲第3号証)に,「本体4の各周面板3に横長の孔11を穿ち,かつ対向する2枚の周面板に密閉蓋5に係止する止具12を取付け」ると記載されているように(明細書3頁4〜6行),また,本件考案の従来技術である蓋付きバケツのように,蓋体を開閉可能とすることはありふれた技術といえるから,囮罐本体ないしは生餌用容器において,蓋体を開閉可能とすることは当業者が適宜設計変更し得ることである。 また,蓋体ないしは蓋体に類するものを開閉可能とするための手段として,チャックは,本願出願前周知のものである(甲第4〜第7号証(審判甲第7〜第10号証))。したがって,囮罐本体を生餌容器に転用するに際して,網状体からなる蓋体をチャックにより開閉可能とすることは当業者ならば極めて容易に行い得ることというべきである。 したがって,審判甲第2号証の囮罐本体に設けられた小さな円形の蓋は,チャックで固定できるものではないとしても,相違点(ニ)に係る構成が格別の創意を要するものということはできない。 なお,審判甲第2号証記載の囮罐本体が,上方が開口した角形の容器本体と,その口部を覆う板状の蓋体とを有するものであることは,上記認定したところである。この板状の蓋体には,出し入れ口と,この出し入れ口を開閉可能に塞ぐ小蓋が形成されているが,この出し入れ口及び小蓋は,囮の出し入れ用に設けられたものであり,囮を生かすための水の流入,流出手段としては機能しないものであることは明らかである。したがって,囮罐本体を生餌用に設計変更する際には必要ないものとして構成から取り除くことができることは明らかであるから,審判甲第2号証記載の囮罐本体に上記小蓋が形成されているからといって,囮罐本体を生餌用容器に転用することないしは囮罐本体の水の流入,流出構造を生かした生餌用容器の形成が阻害されるわけではない。 また,原告は,審判甲第2号証の囮罐本体は,その上面(すなわち,弁当型容器の開口部)を,「罐本体2」を外筺体内に吊り下げるための鍔部が周囲に存在する板状体で覆われているものであり,容器本体の口部を覆う開閉可能な蓋体は存在しないと主張するが,蓋体を開閉可能とすることが極めて容易であることは上記説示のとおりであるし,蓋体に鍔部が設けられていることが,蓋体を開閉可能とする阻害要因とならないことも明らかである。 (5) 以上のとおりであって,本件考案と審判甲第2号証考案との相違点(イ)〜(ニ)は,いずれも,当業者が極めて容易に想到し得るものであって,本件考案が審判甲第2号証に記載の考案との対比において極めて容易に想到し得るものとした審決に誤りはない。 |
|
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |