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関連審決 無効2014-400006
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事件 平成 27年 (行ケ) 10055号 審決取消請求事件

原告 株式会社ディー・アップ
訴訟代理人弁護士 萬幸男
訴訟代理人弁理士 水野勝文
同 井出真
被告 株式会社コージー本舗
訴訟代理人弁理士 吉村公一
同 吉村徳人
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/12/16
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2014-400006号事件について平成27年2月3日 にした審決のうち,実用新案登録第3170596号の請求項1ないし3,5, 6,9,10に係る部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成23年7月11日,考案の名称を「つけまつげ用の試着ツー ル」とする考案について実用新案登録出願(実願2011-4000号。以 下「本件出願」という。)をし,同年8月31日,実用新案登録第3170 596号(請求項の数10。以下「本件実用新案登録」という。)として実 用新案権の設定登録を受けた(甲12,27)。
(2) 被告は,平成26年5月30日,本件実用新案登録に対し実用新案登録無 効審判を請求した(甲14,27)。原告は,同年7月24日付けで,実用 新案法14条の2第7項に基づき,実用新案登録請求の範囲請求項4を削 除する訂正(以下「本件訂正」という。)をした(甲13)。
特許庁は,上記請求を無効2014-400006号事件として審理を行 い,平成27年2月3日,「実用新案登録第3170596号の請求項1な いし3,5ないし6,9ないし10に係る考案についての実用新案登録を無 効とする。実用新案登録第3170596号の請求項7ないし8に係る考案 についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」とい う。)をし,その謄本は,同月12日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成27年3月13日,本件審決のうち,実用新案登録第317 0596号の請求項1ないし3,5,6,9,10に係る部分の取消しを求 める本件訴訟を提起した。
2 実用新案登録請求の範囲の記載 本件訂正後の実用新案登録請求の範囲請求項1ないし3,5,6,9,10の記載は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る考案を「本件登録実用新案1」などという。甲12)。
請求項1】 つけまつげの試着に用いられる試着ツールであって, 使用者によって保持されるグリップ部と, 前記つけまつげの基端部を支持し,前記グリップ部から延びる棒状の支持部と,を有し, 前記支持部は,眼を開いたときの前記つけまつげの装着ラインに沿って延び ていることを特徴とする試着ツール。
請求項2】 前記グリップ部は,平板状に形成されていることを特徴とする請求項1に記 載の試着ツール。
請求項3】 前記グリップ部の幅は,前記支持部の幅よりも広いことを特徴とする請求項 1又は2に記載の試着ツール。
請求項5】 前記支持部は,三次元方向に曲げ形成されていることを特徴とする請求項1 から4のいずれか1つに記載の試着ツール。
請求項6】 前記支持部は,黒色を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1 つに記載の試着ツール。
請求項9】 前記支持部の先端において,球状部を有することを特徴とする請求項1から 8のいずれか1つに記載の試着ツール。
請求項10】 前記球状部の幅は,前記支持部の幅よりも広いことを特徴とする請求項9に 記載の試着ツール。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに, @本件登録実用新案1ないし3は,本件出願前に頒布された刊行物である実 用新案登録第3116270号公報(甲7。以下「刊行物1」という。)に 記載された考案又は実用新案登録第3090262号公報(甲1。以下「刊 行物2」という。)に記載された考案である,A本件登録実用新案5は,刊 行物1に記載された考案又は刊行物2に記載された考案であり,また,刊行 物1及び2に記載された考案に基づき,当業者がきわめて容易考案をする ことができたものである,B本件登録実用新案6は,刊行物1に記載された 考案に基づき,当業者がきわめて容易考案をすることができたものである, C本件登録実用新案9及び10は,刊行物1に記載された考案と実用新案登 録第3075428号公報(甲10。以下「刊行物3」という。)に記載さ れた本件出願前の周知技術に基づき,当業者がきわめて容易考案をするこ とができたものであるから,本件登録実用新案1ないし3,5,6,9,1 0に係る本件実用新案登録は,実用新案法3条1項3号又は同条2項の規定 に違反し,同法37条1項2号に該当するので,無効とすべきものであると いうものである。
(2) 本件審決が認定した刊行物1に記載された考案(以下「刊行物1考案」 という。),刊行物2に記載された考案,本件登録実用新案5と刊行物1考 案との相違点,本件登録実用新案6と刊行物1考案との相違点,本件登録実 用新案10と刊行物1考案との相違点は,以下のとおりである。
ア 刊行物1考案 「つけ睫2の試着に用いられるカウンセリング用具10であって, 使用者によって把持される延伸把持部7と, つけ睫2の長手方向に沿った一側部を仮接着し,延伸把持部7から延び る細線状の仮接着部1と,を有し, 仮接着部1は,眼を開いたときのつけ睫2の装着ラインに沿って延びて いるカウンセリング用具10。」 イ 刊行物2に記載された考案 (ア) 「つけまつげ用試着表現ツールであって, 使用者によって把持される長方形把持板(7)と, つけまつげ(4)の基端部を付設し,長方形把持板(7)から延びる 略棒状のつけまつげ保持帯(12)と,を有し, つけまつげ保持帯(12)は,眼を開いたときの上まぶたの円弧近傍 に配置されているつけまつげ用試着表現ツール。」(以下「刊行物2考 案A」という。) (イ) 「つけまつげ用試着表現ツールに関し,眼を開いたときのつけまつ げの装着ラインに沿って配置される略棒状のつけまつげ保持帯(12) を,三次元方向に曲がった形状とする考案」(以下「刊行物2考案B」 という。) ウ 本件登録実用新案5と刊行物1考案との相違点 本件登録実用新案5の支持部が三次元方向に曲げ形成されているのに対 し,刊行物1考案の支持部が三次元方向に曲げ形成されていない点(以下 「相違点1」という。)。
エ 本件登録実用新案6と刊行物1考案との相違点 本件登録実用新案6の支持部は黒色を有するのに対し,刊行物1考案の 支持部は黒色を有するものではない点(以下「相違点2」という。)。
オ 本件登録実用新案10と刊行物1考案の相違点 本件登録実用新案10は,支持部の先端において,支持部の幅よりも広 い幅の球状部を有するのに対し,刊行物1考案は,そのような球状部を有 するものではない点(以下「相違点3」という。)。
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 取消事由1-(1)(本件登録実用新案1と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り) 本件審決は,本件登録実用新案1は刊行物1考案と同一の考案である旨判 断したが,以下のとおり,刊行物1には,本件登録実用新案1の「前記グリ ップ部から延びる棒状の支持部」の構成及び「前記支持部は,…前記つけま つげの装着ラインに沿って延びている」との構成の開示はなく,刊行物1考案は上記各構成を備えていない点で本件登録実用新案1と相違するから,本件審決の上記判断は,誤りである。
ア 「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成の不開示(ア) 特定部分が他の部分から一方向につながっていることを表現するた めに,「…から延びる棒状…」と記載することは,極めて一般的かつ定 型的な手段であること(甲22ないし25)からすると,本件登録実用 新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成は,棒状の 支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意味するもので ある。
そして,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていれば, グリップ部の形状がいかなる形状であったとしても,支持部が棒状であ り,かつ,支持部からグリップ部が延びていることにより,上記構成を 含む試着ツールの全体形状が長尺状であることを当然に理解できるから, 上記構成は本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺状であることを 特定したものといえる。
このことは,本件実用新案登録に係る明細書(以下,図面を含めて「本 件明細書」という。甲12)の記載からも明らかである。
本件明細書には,長尺状の試着ツール1が開示されているだけであり, 長尺状以外の他の形状の試着ツールについては開示も示唆もない。また, 本件明細書の段落【0014】記載の「つけまつげの購入者(使用者) は,本考案の試着ツールを用いて,自分の眼につけまつげを合わせるこ とにより,つけまつげを装着した状態を容易に確認することができる。」 という本件登録実用新案1の効果は,長尺状の試着ツールを図7(別紙 1参照)に示す使用形態で使用することによって奏するのものといえる。
すなわち,図7に示すように,使用者の耳から眼に向かって,長尺状の 試着ツールを配置した状態において,試着ツールの支持部に取り付けら れたつけまつげを眼に合わせることにより,つけまつげの装着状態を容 易に確認することができるという効果を奏するものである。
(イ) 刊行物1の記載事項(段落【0017】ないし【0019】)によ れば,刊行物1考案のカウンセリング用具10は,仮接着部1の端部が 下方に屈曲して縦軸部3を形成し,仮接着部1及び縦軸部3の間の角度 は略直角状となるため,長尺状のものとは明らかに異なる。
また,その使用形態も,別紙2の図8に示すように,使用者の顎から 眼に向かって,カウンセリング用具10を使用者の顔の中央に配置した 状態において,仮接着部1に接着されたつけ睫2を眼に合わせることに より,つけ睫2の装着状態を確認するものであるから,本件登録実用新 案1の使用形態と異なる。このようにカウンセリング用具10が使用者 の顔の中央に位置することになるため,使用者が鏡を使って自分の顔を 確認するときには,本件登録実用新案1とは異なり,使用者に違和感を 与えることになる。
さらに,刊行物1には,長尺状の試着ツールについての開示はない。
そうすると,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成を備えているとはいえないから,こ の点において本件登録実用新案1と相違する。
イ 「前記支持部は,…前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」 との構成の不開示 (ア) 本件明細書の段落【0029】の「人間のまつげのラインは,二次 元平面内で屈曲しているのではなく,三次元方向(矢印R1,R2)に おいて屈曲している。この点を考慮して,支持部12の形状を設定して いる。」との記載によれば,本件登録実用新案1の「前記支持部は,眼 を開いたときの前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」との 構成は,支持部が,「三次元方向において屈曲する」つけまつげの装着 ライン(つけまつげを試着するライン)に沿って延びていることを特定 したものと解すべきである。
そうすると,本件登録実用新案1では,支持部が「三次元方向にお いて屈曲する」形状を有するものといえる。
(イ) 刊行物1の記載事項(段落【0017】,図3及び4)によれば, 刊行物1には,仮接 着部1が所定の平面に沿って配置されてい る こ とが開示されているが,これは,仮接着部1が 「三次元方向におい て屈曲する」ものと異なるものである。
そう する と, 刊行 物1考 案の 仮接 着部 1は, 「三 次元 方向 にお いて屈曲する」形状を有するものとはいえないから,刊行物1考案 は,本件登録実用新案1の「前記支持部は,…前記つけまつげの装着ラ インに沿って延びている」との構成を備えているとはいえず,この点に おいて本件登録実用新案1と相違する。
ウ 小括 以上のとおり,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成及び「前記支持部は,…前記つけまつ げの装着ラインに沿って延びている」との構成を備えていない点で本件登 録実用新案1と相違するから,本件登録実用新案1が刊行物1考案と同一 の考案であるとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由1-(2)(本件登録実用新案1と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り) 前記(1)ア(ア)のとおり,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延び る棒状の支持部」の構成は,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につなが っていることを意味するものであり,上記構成は本件登録実用新案1の「試 着ツール」が長尺状であることを特定したものといえる。
しかるところ,刊行物2考案Aのつけまつげ用試着表現ツールの形状は, 長尺状のものとは明らかに異なり,また,刊行物2考案Aのつけまつげ保持 帯(12)はその一端のみが長方形把持板(7)とつながっているものでは ないから,刊行物2考案Aは,「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成を備えていない。
したがって,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の上記構成を備えてい ない点で本件登録実用新案1と相違するから,本件登録実用新案1が刊行物 2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由2-(1)(本件登録実用新案2と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り) ア 「平板」とは,「平らな板」(甲26)を意味するから,「平板状」は, 平らな板のような形状を意味する。
本件登録実用新案2の「グリップ部は,平板状に形成されている」との 構成は,使用者によって保持される部分である「グリップ部」が,平らな 板のような形状であることを特定したものといえる。
イ 本件審決は,刊行物1考案の延伸把持部7の端縁を折り返した折り返し 部9を,平板状の構造であると認定し,刊行物1考案は,本件登録実用新 案2の「グリップ部は,平板状に形成されている」との構成を有する旨判 断した。
しかしながら,刊行物1考案の折り返し部9は,平らな板のような形状 であるといえないし,また,安全上の目的のために設けられているもので あって(甲7の段落【0020】),使用者が保持するために設けられて いるものではなく,「グリップ部」であるとはいえないから,刊行物1考 案は,本件登録実用新案2の「グリップ部は,平板状に形成されている」 との構成を有するとはいえない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りであり,刊行物1考案は上記構 成を備えていない点において本件登録実用新案2と相違するから,本件登 録実用新案2が刊行物1考案と同一の考案であるとした本件審決の判断も 誤りである。
(4) 取消事由2-(2)(本件登録実用新案2と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り) 本件登録実用新案2は,請求項1(本件登録実用新案1)の記載を引用す る考案であるところ,前記(2)のとおり,刊行物2考案Aは本件登録実用新案 1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成を備えていないから, 本件登録実用新案2が刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の 判断は誤りである。
(5) 取消事由3-(1)(本件登録実用新案3と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り) 本件審決は,刊行物1考案は,延伸把持部7の端部がその幅を仮接着部1 の略2倍の幅とする平板状に形成されている構造のものといえるから,本件 登録実用新案3の「グリップ部の幅は,前記支持部の幅よりも広い」との構 成を有する旨判断した。
しかしながら,前記(3)イのとおり,刊行物1考案の延伸把持部7の端縁を 折り返した折り返し部9は,本件登録実用新案3の「グリップ部」であると はいえないから,刊行物1考案は,上記構成を有するとはいえない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りであり,刊行物1考案は上記構成 を備えていない点において本件登録実用新案3と相違するから,本件登録実 用新案3が刊行物1考案と同一の考案であるとした本件審決の判断も誤りで ある。
(6) 取消事由3-(2)(本件登録実用新案3と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り) 本件登録実用新案3は,請求項1(本件登録実用新案1)又は請求項2(本 件登録実用新案2)の記載を引用する考案であるところ,前記(2)及び(4)の とおり,刊行物2考案Aは本件登録実用新案1及び2の「前記グリップ部か ら延びる棒状の支持部」の構成を備えていないから,本件登録実用新案3が 刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りである。
(7) 取消事由4-(1)(本件登録実用新案5と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り等) ア 「前記支持部は,三次元方向に曲げ形成されている」との構成の意義 本件明細書の記載事項(段落【0027】 【0028】 【0042】 , , , 【0043】,図7,8,11)によれば,本件登録実用新案5の「前記 支持部は,三次元方向に曲げ形成されている」との構成は,別紙1の図7, 8及び11に示すように,「支 持部 が , 支持 部 の 基 端( グ リ ップ 部 と 繋がる部分)から, グリップ部に対して 三次元方向に曲げ形 成さ れ ている」ことを特定したものである。
本件登録実用新案 5は,試着ツールの 全体形状が長尺状で ある こ と 及 び 支 持 部 が 「三次元方向において屈曲する」つけまつげの装着ライ ン(つけまつげを試着するライン)に沿って延びていること(本件登録実 用新案1の構成)を前提とした上で,さらに,上記構成を有することによ り,図7,8及び11に示すように,本件登録実用新案5の試着ツールの 使用時に,使用者の耳から眼に向かって試着ツールが配置されることにな るので,グリップ部を回転させて,使用者の眼の上下方向において,つけ まつげの向きを微調整したり,グリップ部を回転させたときに,支持部の 先端が使用者の顔から離れてしまうことを抑制できるという効果を奏する (段落【0042】及び【0043】)。
イ 本件登録実用新案5と刊行物1考案との同一性の判断の誤り 本件審決は,本件登録実用新案5の「前記支持部は,三次元方向に曲げ 形成されている」との構成は,「支持部は,グリップ部を含む平面(仮想 平面)に対して,この平面内の方向とは異なる方向において曲げ形成され ている」ことを意味するとの解釈を前提に,刊行物1考案の仮接着部は, 上記構成を有するから,本件登録実用新案5は,刊行物1考案と同一の考 案である旨判断した。
しかしながら,本件登録実用新案5の「前記支持部は,三次元方向に曲 げ形成されている」との構成は,前記アのとおり,別紙1の図7,8及び 11に示すように,「支持部が,支持部の基端(グリップ部と つなが る部分)から,グリ ップ部に対して三次 元方向に曲げ形成さ れて い る」ことを特定したものであるが,刊行物1考案の仮接着部の形状は, 図7及び8で示された形状と明らかに異なるものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
ウ 刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案5の容易想到性の判断の誤 り 本件審決は,刊行物1考案の仮接着部1に,刊行物2考案Bを適用し, 仮接着部1を三次元方向に曲げ形成されたものとし,それにより,グリッ プ部を回転させてつけまつげの向きを変更しようとしたとき,支持部の先 端が使用者の顔から離れにくくすることは当業者がきわめて容易になし得 る程度の事項にすぎないから,本件登録実用新案5は,刊行物1考案と刊 行物2考案Bに基づき,当業者がきわめて容易考案をすることができた ものである旨判断した。
しかしながら,前記(1)ア(イ)のとおり,刊行物1考案のカウンセリング 用具10の形状が長尺状でない点で,試着ツールの形状が長尺状である本 件登録実用新案1の構成(「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の 構成)と相違し,刊行物1考案は,本件登録実用新案1を構成に含む本件 登録実用新案5とも相違する。この相違点があるため,刊行物1考案の仮 接着部1を刊行物2考案B記載のつけまつげ保持帯(12)のように三次 元方向に曲がった形状に変更したとしても,本件登録実用新案5の「前記 支持部は,三次元方向に曲げ形成されている」との構成(相違点1に係る 本件登録実用新案5の構成)を導出することはできないから,本件審決の 上記判断は誤りである。
(8) 取消事由4-(2)(本件登録実用新案5と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り) 本件登録実用新案5は,請求項1ないし3(本件登録実用新案1ないし3) のいずれか一つの記載を引用する考案であるところ,前記(2),(4)及び(6) のとおり,刊行物2考案Aは本件登録実用新案1ないし3の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成を備えていないから,本件登録実用新案 5が刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りである。
(9) 取消事由5(刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案6の容易想到性 の判断の誤り) 本件審決は,刊行物1の段落【0016】にはカウンセリング用具10の 仮接着部1を着色することが記載されており,しかも,着色するに当たり黒 色とすることに格別困難性は認められないから,刊行物1考案において,支 持部は黒色を有するものとすること(相違点2に係る本件登録実用新案6の 構成)は当業者がきわめて容易になし得る程度の事項にすぎない旨判断した。
しかしながら,本件登録実用新案6の特徴は,試着ツールの支持部に着目 し,支持部を黒色とすることにより,試着ツールを使用して,つけまつげの 装着状態を確認するときに,支持部に対してアイラインの効果を持たせるこ とができ,そのためアイラインの化粧を含めた状態で,つけまつげの装着状 態を容易に確認することができることにある(本件明細書の段落【0011】, 【0035】,図7)。
他方で,刊行物1の段落【0016】は,カウンセリング用具10自体を 着色することを開示しているだけであり,刊行物1には,カウンセリング用 具10の仮接着部1に着目し,これを着色することについての開示がない。
なお,刊行物1の記載から当業者がきわめて容易に想到することができる 事項は,刊行物1のカウンセリング用具10の全体を黒色にすることだけで あるが,カウンセリング用具10の全体を黒色にした構成のものは,本件登 録実用新案6のアイラインの効果を奏することはないから,本件登録実用新 案6と同視することはできない。
したがって,刊行物1考案において,カウンセリング用具10の仮接着部 1のみを黒色に着色し,相違点2に係る本件登録実用新案6の構成とするこ とは当業者がきわめて容易に想到することができたものとはいえないから, 本件審決の上記判断は誤りである。
(10) 取消事由6(刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案9及び10の 容易想到性の判断の誤り) 本件審決は,@刊行物1考案と刊行物3記載の「まつげの化粧に関する化 粧用具において,眼球に対する危険性を低くするため当該化粧用具の尖った 先端部に当該先端部の幅より広い円形の部材を設けることにより安全性を確 保すること」という周知技術に基づいて,刊行物1考案において,その折り 返し部9に代えて,仮接着部1の幅より広い球状部とすること(相違点3に 係る本件登録実用新案10の構成)は当業者が適宜なし得る程度の事項にす ぎないから,本件登録実用新案10は当業者がきわめて容易考案をするこ とができたものである,A本件登録実用新案9は,本件登録実用新案10か ら「球状部の幅」を除いた構成のものであるから,刊行物1考案及び刊行物 3に記載された上記周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をす ることができたものである旨判断したが,以下のとおり,本件審決の上記判 断は誤りである。
ア 本件登録実用新案9の容易想到性の判断の誤り 本件明細書の段落【0038】の記載は,球状部13は,球体に沿った 形状に形成されたものを意味し,凸状の曲面を有しているものを含むもの ではないことを述べるものであることからすると,本件登録実用新案9の 「前記支持部の先端において,球状部を有すること」の構成にいう「球状 部」とは,球体に沿った形状に形成された球状部を意味するものといえる。
他方で,刊行物1には,本件登録実用新案9の「球状部」に関する開示 はない。
また,刊行物3の図1には,「衝撃緩和兼視認性向上の為の部材3」と して円形の部材が示されているが,刊行物3には,部材3を球状に形成す ることについての開示はない。刊行物3から認定できる周知技術は,マス カラブラシの先端に円形の部材を設けたことだけである。
そうすると,刊行物1考案に刊行物3に記載された周知技術を組み合わ せても,本件登録実用新案9の「前記支持部の先端において,球状部を有 する」構成にはならないから,本件登録実用新案9は,刊行物1考案及び 上記周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができた ものとはいえない。
したがって,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
イ 本件登録実用新案10の容易想到性の判断の誤り 前記アと同様の理由により,本件登録実用新案10は,当業者が刊行物 1考案及び刊行物3記載の周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるとした本件審決の判断は誤りである。
2 被告の主張(1) 取消事由1-(1)(本件登録実用新案1と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り)に対し ア 「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成について (ア) 本件登録実用新案1の実用新案登録請求の範囲(請求項1)によれ ば,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 は,「支持部」が「棒状」であること,「支持部」が「グリップ部」につながっていることを特定する意義を有するにとどまる。請求項1には,「グリップ部」の形状を特定する記載はなく,「グリップ部」に対する「支持部」の具体的な延び方(つながり方)を特定する記載はない。また,一般的に,「○○から延びる××」なる用語は,「××が○○につながって続いている」との意義を有するにとどまり,「○○」に対する「××」の具体的な延び方を特定する意義を有するものではない(乙10ないし13)。
そうすると,請求項1の記載から,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」は,支持部の一端のみがグリップ部につながっているものに限定されると解することはできない。
次に,本件明細書考案の詳細な説明の記載(段落【0018】,【0020】等)を参酌しても,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」は,「支持部」が「棒状」であること,「支持部」が「グリップ部」につながっていることを特定する意義を有するにとどまり,支持部の一端のみがグリップ部につながっているものに限定されると解することはできない。
この点に関し,原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成は,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意味するものであって,本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺状であることを特定したものである旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件登録実用新案1の実用新案登録請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の記載から,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成が棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっているものに限定されると解することはできないし,上記構成が「試着ツール」の具体的な形状を特定する意 義を有するものとはいえない。
また,そもそも,原告がいう「長尺状」が具体的にいかなる形状を意 味するのか,その主張自体から不明であるし,本件明細書には,「長尺 状」なる語の記載はない。
さらに,本件明細書には,本件登録実用新案1の「試着ツール」の形 状を本件明細書図面に開示された形状のものに限定する記載はなく, かえってこれらの形状に限定されないことを示す記載がある(段落【0 020】,【0026】等)。
したがって,原告の上記主張は,本件登録実用新案1の実用新案登録 請求の範囲(請求項1)及び本件明細書の記載に基づかないものであっ て,失当である。
(イ) 刊行物1には,刊行物1考案の細線状の仮接着部1が延伸把持部7 につながっている構成が開示されているから,刊行物1考案は「前記グ リップ部から延びる棒状の支持部」の構成を備えている。
イ 「前記支持部は,…前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」 との構成について (ア) 原告は,本件明細書の段落【0029】の記載を根拠として本件登 録実用新案1の「前記支持部は,眼を開いたときの前記つけまつげの装 着ラインに沿って延びている」との構成は,支持部が,「三次元方向に おいて屈曲する」つけまつげの装着ライン(つけまつげを試着するライ ン)に沿って延びていることを特定したものと解すべきであり,本件登 録実用新案1の支持部は,「三次元方向において屈曲する」形状を 有するものである旨主張する。
し か し なが ら , 本件登録実用新案1の実用新案登録請求の範囲(請 求項1)には,支持部自体の形状を特定する記載はない。本件登録実用 新案1の「支持部は,眼を開いたときの前記つけまつげの装着ラインに 沿って延びている」との考案特定事項は,支持部自体の形状について, 一つの平面に含まれる形状に曲げ形成されているか,又は,三次元方向 に曲げ形成されているかを特定することなく,これらを含む広い意味で, つけまつげの装着ラインに沿って延びていることを特定する意義を有す るものである。本件登録実用新案1は,上記構成によって,自分の眼に つけまつげを合わせることができ,つけまつげを装着した状態を容易に 確認することができるとの作用効果を奏するものである。
したがって,原告の上記主張は,本件登録実用新案1の実用新案登録 請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものであって,失当である。
(イ) 刊行物1には, 「選定された商品(その商品と同一の見本でも良い) をカウンセリング用具10,20,30の仮接着部1,31に糊を介し て仮接着し,その後カウンセリング用具を顧客の顔の前にあてがい,睫 位置が重なり合うようにセットして顧客自身の目でその良し悪しを判断 し,」(段落【0023】)との記載がある。
上記記載は,「つけ睫」の仮接着部1を一つの平面に含まれる形状に 形成した場合であっても,仮接着部1に接着された「つけ睫」を顧客の 睫に重なり合うように配置することができることを開示するものであり, 上記記載によれば,刊行物1考案においては,仮接着部1が,眼を開い たときの睫のライン,すなわち,つけまつげの装着ラインに沿って延び ているといえるから,刊行物1考案は,「前記支持部は,…前記つけま つげの装着ラインに沿って延びている」との構成を備えている。
ウ 小括 以上によれば,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成及び「前記支持部は,…前記つけまつ げの装着ラインに沿って延びている」との構成を備えているとした本件審 決の判断に誤りはない。
したがって,刊行物1考案が上記各構成を備えていない点で本件登録実 用新案1と相違することを理由とする原告主張の取消事由1-(1)は理由 がない。
(2) 取消事由1-(2)(本件登録実用新案1と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り)に対し 原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成は,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意 味するものであり,上記構成は本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺 状であることを特定したものであることを前提として,刊行物2考案Aは, 「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成を備えていないから,本 件登録実用新案1が刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判 断は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,前記(1)アのとおり,その前提において 失当であるから,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由1-(2)は理由がない。
(3) 取消事由2-(1)(本件登録実用新案2と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り)に対し 「平ら」の語は,「ひらたいさま。」を意味し,「ひらたい(平たい)」 の語は,「厚さが少なくて面が広い。」ことを意味する(乙6)から,「平 板状」の語は,「厚さが少なくて面が広い板のような形状」との意味を有す る。
一方,刊行物1の段落【0019】,【0020】,図3及び4(別紙2 参照)には,使用者がつかむための部位である延伸把持部7に折り返し部9 が含まれること,折り返し部9は,その幅が,その厚みより大きい板のよう な形状であることが開示されており,また,別紙2の図8には,延伸把持部 7における折り返し部9を含む部分が使用者によって保持されている状態が 開示されている。
そうすると,刊行物1考案の延伸把持部7は,使用者によって保持される 「グリップ部」に相当し,「平板状」に形成されているものといえるから, 刊行物1考案は,本件登録実用新案2の「グリップ部は,平板状に形成され ている」との構成を備えている。
したがって,本件登録実用新案2が刊行物1考案と同一の考案であるとし た本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2-(1)は理由がない。
(4) 取消事由2-(2)(本件登録実用新案2と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り)に対し 原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成が本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺状であることを特定し たものであることを前提として,刊行物2考案Aは,上記構成を備えていな いから,請求項1(本件登録実用新案1)の記載を引用する本件登録実用新 案2が刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りであ る旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,前記(1)アのとおり,その前提において 失当であるから,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由2-(2)は理由がない。
(5) 取消事由3-(1)(本件登録実用新案3と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り)に対し 刊行物1の図3(別紙2参照)には,延伸把持部7に含まれる折り返し部 9の幅が,仮接着部1の幅より広い構成が開示されており,また,図9には, 延伸把持部7に含まれるタグ21の幅が,仮接着部1の幅より広い構成が開 示されている。
そうすると,「グリップ部」に相当する延伸把持部7の端部は,その幅を 仮接着部1の略2倍の幅とする「平板状」に形成されている構造のものとい えるから,刊行物1考案は,本件登録実用新案3の「グリップ部の幅は,前 記支持部の幅より広い」の構成を備えている。
したがって,本件登録実用新案3が刊行物1考案と同一の考案であるとし た本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3-(1)は理由がない。
(6) 取消事由3-(2)(本件登録実用新案3と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り)に対し 原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成が本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺状であることを特定し たものであることを前提として,刊行物2考案Aは,上記構成を備えていな いから,請求項1(本件登録実用新案1)又は請求項2(本件登録実用新案 2)の記載を引用する本件登録実用新案3が刊行物2考案Aと同一の考案で あるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,前記(1)アのとおり,その前提において 失当であるから,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由3-(2)は理由がない。
(7) 取消事由4-(1)(本件登録実用新案5と刊行物1考案の同一性の判断の 誤り等)に対し ア 「前記支持部は,三次元方向に曲げ形成されている」との構成の意義 (ア) 本件登録実用新案5の実用新案登録請求の範囲(請求項5)の「前 記支持部は,三次元方向に曲げ形成されている」との記載の意義は明確 ではない。
そこで,本件明細書の記載を参酌すると,段落【0010】に,「支 持部は,三次元方向に曲げ形成することができる。支持部は,使用者の 眼に沿って配置されるものであり,眼の周囲は,三次元の形状を有して いる。したがって,支持部を三次元方向に曲げ形成すれば,使用者の眼 に沿って支持部を配置させやすくなる。 との記載がある。
」 上記記載は, 「三次元の形状」の眼の周囲に沿って支持部を配置させやすくするため に,支持部自体の形状を眼の周囲の形状に近付けて,三次元方向に曲げ 形成することを開示するものである。
また,本件実用新案登録の削除された請求項4には,「前記グリップ 部は,前記支持部を含む平面に対して交差する方向に延びている」との 記載があり,本件明細書には,請求項4に係る考案に対応する記載とし て,「グリップ部は,支持部を含む平面に対して交差する方向に延ばす ことができる。これにより,試着ツールを使用するときに,使用者の顔 に沿った状態で試着ツールを位置させることができる。」(段落【00 09】)との記載がある。上記記載によれば,本件実用新案登録の実用 新案登録請求の範囲及び本件明細書では,二つの部材のうち一方の部材 に対する他方の部材の延び方を特定する場合には,他方の部材の延び方 を特定するための対象(基準)となる一方の部材が明示されているとい えるが,請求項5には,支持部の延び方を特定するための対象(基準) となる部材が明示されていないから,本件登録実用新案5の「前記支持 部は,三次元方向に曲げ形成されている」との構成は,支持部自体の形 状を特定する意義を有していることが明らかである。
したがって,本件登録実用新案5の「支持部は,三次元方向に曲げ形 成されている」の記載は,支持部自体が三次元方向に曲げ形成されてい ることを特定する意義を有するものである。
(イ) この点に関し,原告は,本件登録実用新案5の「前記支持部は,三 次元方向に曲げ形成されている」との構成は,本件明細書の図7,8及 び11に示すように,「支持部 が, 支持部 の基端( グリ ップ部 と つ な がる 部分) から, グリッ プ部に 対して 三次元 方向に 曲げ形 成さ れてい る」こ とを特 定した もので あり, 本件登 録実用 新案5 にお いては,図7,8及び11に示すように,本件登録実用新案5の試着ツ ールの使用時に,使用者の耳から眼に向かって試着ツールが配置される ことになるので,グリップ部を回転させて,使用者の眼の上下方向にお いて,つけまつげの向きを微調整したり,グリップ部を回転させたとき に,支持部の先端が使用者の顔から離れてしまうことを抑制できるとい う効果を奏する旨主張する。
しかしながら,本件登録実用新案5は,本件明細書記載の実施例に限 定されるものではないし,実施例の作用・効果をもって,本件登録実用 新案5の作用・効果であるということはできないから,原告の上記主張 は失当である。
イ 本件登録実用新案5の容易想到性 刊行物2考案Bは,「つけまつげ保持帯(12)」が「三次元方向に曲 がった形状に形成」されていることからすると,刊行物1考案に刊行物2 考案Bを適用して,刊行物1考案の仮接着部1を「三次元方向に曲げ形成 されている」もの(相違点1に係る本件登録実用新案5の構成)とし,使 用者の眼に沿って支持部を配置させやすくすることは,当業者がきわめて 容易になし得る程度の事項にすぎない。
したがって,本件登録実用新案5は,刊行物1考案と刊行物2考案Bに 基づき,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるとし た本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4-(1)は理由がない。
(8) 取消事由4-(2)(本件登録実用新案5と刊行物2考案Aの同一性の判断 の誤り)に対し 原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成が本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺状であることを特定し たものであることを前提として,刊行物2考案Aは,上記構成を備えていな いから,請求項1ないし3(本件登録実用新案1ないし3)のいずれか一つ の記載を引用する本件登録実用新案5が刊行物2考案Aと同一の考案である とした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,前記(1)アのとおり,その前提において 失当であるから,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由4-(2)は理由がない。
(9) 取消事由5(刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案6の容易想到性 の判断の誤り)に対し 原告は,刊行物1の記載から当業者がきわめて容易に想到することができ る事項は,刊行物1のカウンセリング用具10の全体を黒色にすることだけ であり,刊行物1考案において,カウンセリング用具10の仮接着部1のみ を黒色に着色し,「前記支持部は,黒色を有すること」の構成(相違点2に 係る本件登録実用新案6の構成)とすることは当業者がきわめて容易に想到 することができたものとはいえない旨主張する。
しかしながら,試着ツールの全体が黒色とされている場合も,試着ツール の支持部が黒色を有することになるから,本件登録実用新案6の「前記支持 部は,黒色を有すること」の構成には,全体が黒色とされている試着ツール も含まれるものといえるから,原告の上記主張は,その前提において理由が ない。
したがって,本件登録実用新案6は,刊行物1考案に基づき,当業者がき わめて容易に考案をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤 りはなく,原告主張の取消事由5は理由がない。
(10) 取消事由6(刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案9及び10の 容易想到性の判断の誤り)に対し ア 本件登録実用新案9の容易想到性の判断の誤りに対し 原告は,刊行物3には,部材3を球状に形成することについての開示は なく,刊行物1考案に刊行物3に記載された技術を組み合わせても,本件 登録実用新案9の「前記支持部の先端において,球状部を有する」構成に はならないから,本件登録実用新案9は,刊行物1考案及び刊行物3記載 の周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたも のであるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,刊行物3の段落【0006】には,「3の衝撃緩和兼視 認性向上の為の部材がブラシ先端の2の軸部に装着してある為,万一眼球 に当たっても損傷を与える危険性が低くなり,視認性も向上するので眼球 に当たる可能性が少なくなり,安全性が向上する。」との記載がある。
仮に「衝撃緩和兼視認性向上の為の部材3」を円形あるいは円板状と解 釈した場合には,眼球に当った際に,その周端が眼球に損傷を与える危険 性があるし,これを側方から見た場合には,正面から見た場合と比較して 視認性が低下することになるから,上記記載から,「衝撃緩和兼視認性向 上の為の部材3」は球状であると理解することができる。
したがって,本件登録実用新案9は,刊行物1考案及び刊行物3に記載 された周知技術に基づき,当業者がきわめて容易考案をすることができ たものであるとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由 がない。
イ 本件登録実用新案10の容易想到性の判断の誤りに対し 原告は,本件登録実用新案9は,当業者が刊行物1考案及び刊行物3記 載の周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができ たものとはいえず,同様に,本件登録実用新案10は,当業者がきわめて 容易に考案をすることができたものとはいえないから,本件審決における 本件登録実用新案10の容易想到性の判断に誤りがある旨主張する。
しかしながら,前記アのとおり,本件登録実用新案9は,刊行物1考案 及び刊行物3に記載された周知技術に基づき,当業者がきわめて容易に考 案をすることができたものである。
また,刊行物1考案では,折り返し部9の幅が,仮接着部1の幅よりも 広く構成されている。
そうすると,本件登録実用新案10は,刊行物1考案及び刊行物3に記 載された周知技術に基づき,当業者がきわめて容易考案をすることがで きたものであるから,本件審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は理 由がない。
以上によれば,原告主張の取消事由6は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1-(1)(本件登録実用新案1と刊行物1考案の同一性の判断の誤 り)について (1) 本件明細書の記載事項等について ア 本件訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおり である。
イ 本件明細書(甲12)の「考案の詳細な説明」には,次のような記載が ある(下記記載中に引用する図面については別紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本考案は,つけまつげを試着するときに用いられる試着ツールに関す るものである。
(イ) 【背景技術】 【0002】 つけまつげには,長さや色,毛の密度やカールの程度などの違いによ り,さまざまな種類がある。これらのつけまつげは,これ自体が包装さ れた状態で店頭に置かれている。
【0003】 つけまつげの購入者は,包装されたつけまつげを見た上で,自分に似 合いそうなつけまつげを選択している。すなわち,購入者は,つけまつ げが装着された状態を想像した上で,つけまつげを選択している。
(ウ) 【考案が解決しようとする課題】 【0004】 つけまつげを購入するときには,つけまつげが装着された状態を想像 するだけであるため,実際につけまつげを装着したときに,購入者は, つけまつげが不似合いであることに気付くこともある。
【0005】 そこで,本考案の目的は,つけまつげの購入者(使用者)が,つけま つげを選択するときに,つけまつげを装着した状態を容易に確認するこ とができる試着ツールを提供するものである。
(エ) 【課題を解決するための手段】 【0006】 本考案は,つけまつげの試着に用いられる試着ツールであって,使用 者によって保持されるグリップ部と,つけまつげの基端部を支持し,グ リップ部から延びる棒状の支持部と,を有する。支持部は,眼を開いた ときのつけまつげの装着ラインに沿って延びている。
【0007】 グリップ部は,平板状に形成することができる。グリップ部を平板状 に形成することにより,試着ツールの使用者は,グリップ部を保持しや すくなる。また,使用者がグリップ部を保持したときに,試着ツールに 取り付けられるつけまつげの向きを所定の状態に維持することができる。
【0008】 グリップ部の幅は,支持部の幅よりも広くすることができる。これに より,使用者がグリップ部を保持しやすくなる。また,グリップ部に対 して,ブランドロゴを形成したり,つけまつげに関する情報が記載され たシールを貼り付けたりするためのスペースを確保することができる。
【0009】 グリップ部は,支持部を含む平面に対して交差する方向に延ばすこと ができる。これにより,試着ツールを使用するときに,使用者の顔に沿 った状態で試着ツールを位置させることができる。
【0010】 支持部は,三次元方向に曲げ形成することができる。支持部は,使用 者の眼に沿って配置されるものであり,眼の周囲は,三次元の形状を有 している。したがって,支持部を三次元方向に曲げ形成すれば,使用者 の眼に沿って支持部を配置させやすくなる。
【0011】 支持部は,黒色とすることができる。支持部の材料として,黒色の材 料を用いるときには,この材料を用いて支持部を形成すればよい。支持 部の材料として,黒色ではない材料を用いるときには,この材料を用い て支持部を形成するときに,黒色に着色すればよい。支持部を黒色とす れば,支持部に対して,アイラインの効果を持たせることができる。
【0013】 支持部の先端には,球状部を設けることができる。これにより,試着 ツールを使用するときの安全性を確保することができる。球状部の幅は, 支持部の幅よりも広くすることができる。
(オ) 【考案の効果】 【0014】 つけまつげの購入者(使用者)は,本考案の試着ツールを用いて,自 分の眼につけまつげを合わせることにより,つけまつげを装着した状態 を容易に確認することができる。
(カ) 【考案を実施するための形態】 【実施例1】 【0016】 本考案実施例1である試着ツールについて説明する。図1は,試着ツールの外観を示す斜視図であり,図2および図3は,試着ツールの上面図および下面図である。
【0017】 試着ツール1は,つけまつげが装着されるツールである。つけまつげは,この特徴に応じて複数種類が用意されている。複数種類のつけまつげのそれぞれを,試着ツール1に装着することができる。試着ツール1は,例えば,金属や樹脂で形成することができる。
【0018】 試着ツール1は,棒状の部材として構成されており,グリップ部11と,支持部12と,球状部13と,延長部14とを有する。グリップ部11,支持部12,球状部13および延長部14は,一体的に形成されている。グリップ部11は,試着ツール1の長手方向における一端側に位置しており,支持部12は,試着ツール1の長手方向における他端側に位置している。
【0019】 グリップ部11は,使用者が試着ツール1を使用するときに,使用者によって保持される部分である。グリップ部11は,平板状に形成されている。すなわち,グリップ部11の幅W11は,グリップ部11の厚さT11よりも大きくなっている。グリップ部11を平板状に形成することにより,使用者は,グリップ部11を保持しやすくなるとともに,使用者がグリップ部11を保持したときに,試着ツール1を所望の姿勢に維持させやすくなる。
【0020】 グリップ部11の形状は,平板形状に限るものではなく,他の形状で あってもよい。例えば,グリップ部11を円柱状に形成することもでき る。ここで,本実施例のように,グリップ部11を平板状に形成するこ とにより,使用者は,グリップ部11を保持し易くなる。
【0021】 グリップ部11の幅は,支持部12に向かうにつれて狭くなっている。
グリップ部11には,図2に示すように,ブランドロゴ11aが形成さ れている。ブランドロゴ11aとは,試着ツール1に装着されるつけま つげに関するブランドである。本実施例において,ブランドロゴ11a は,グリップ部11を彫ることによって形成されているが,これに限る ものではない。例えば,ブランドロゴが記載されたシールをグリップ部 11に貼り付けるだけでもよい。
(キ) 【0026】 本実施例では,グリップ部11および支持部12の間に,試着ツール 1の長さを確保するための延長部14を設けている。ここで,延長部1 4の長さは,試着ツール1の使いやすさなどを考慮して適宜設定するこ とができる。また,延長部14は,省略することもできる。
【0027】 図1に示すように,支持部12は,図1の上側に凸となるように屈曲 している。言い換えれば,支持部12は,グリップ部11を含む平面(仮 想平面)に対して,図1の上側に凸となるように屈曲している。図1に 示す矢印R1は,二次元平面内における支持部12の屈曲率を示してい る。ここでいう二次元平面は,グリップ部11を含む平面と直交する平 面である。支持部12の屈曲率は,使用者が眼を開けたときのまつげの ラインに基づいて設定される。まつげのラインは,予め定められた標準 的な人間における,まつげのラインである。
【0028】 また,図2および図3に示すように,支持部12は,試着ツール1の中心線Lに対して片側に屈曲している。図2および図3に示す矢印R2は,二次元平面内における支持部12の屈曲率を示している。ここでいう二次元平面は,グリップ部11を含む平面であり,図1に示す矢印R1における二次元平面とは異なる平面である。
【0029】 人間のまつげのラインは,二次元平面内で屈曲しているのではなく,三次元方向(矢印R1,R2)において屈曲している。この点を考慮して,支持部12の形状を設定している。
【0030】 支持部12には,支持部12の長手方向に延びる溝12aが形成されている。支持部12の長手方向における溝12aの長さは,適宜設定することができる。すなわち,溝12aの長さは,つけまつげを取り付けることができる長さであればよい。
【0031】 溝12aには,つけまつげの基端部が固定される。例えば,接着剤を用いることにより,つけまつげの基端部を溝12aに取り付けることができる。溝12aを設けることにより,つけまつげを支持部12に容易に取り付けることができる。つけまつげを溝12aから剥がせば,他のつけまつげを溝12aに取り付けることができる。
【0032】 本実施例では,支持部12(溝12a)に対して,つけまつげを着脱可能としているが,つけまつげが支持部12から外れないように固定しておくこともできる。この場合には,種類の異なるつけまつげの数に応じた数だけ,試着ツール1を用意しておく必要がある。
【0033】 図5には,図2のA-A断面図を示す。図5に示すように,溝12a は,支持部12の中心Cからずれた位置に設けられている。すなわち, 溝12aは,図2に示すように,支持部12の外径側に設けられている。
【0034】 これにより,つけまつげが取り付けられた支持部12を使用者の眼に 沿って配置したときに,使用者の眼から離れる方向につけまつげが延び るようになる。すなわち,つけまつげを実際に使用した状態と同様の状 態とすることができる。
(ク) 【0035】 ここで,支持部12の色は,黒色とすることが好ましい。また,試着 ツール1のうち,支持部12を除く部分は,透明であることが好ましい。
具体的には,略透明な試着ツール1を形成しておき,支持部12を黒色 で着色することができる。支持部12を黒色とすることにより,支持部 12をアイラインとして用いることができる。これにより,使用者は, アイライン(化粧)も含めて,つけまつげを装着した状態を確認するこ とができる。
(ケ) 【0038】 試着ツール1(支持部12)の先端には,球状部13が設けられてい る。球状部13は,試着ツール1を使用するときに,試着ツール1の先 端が使用者の顔を傷つけてしまうのを阻止するために設けられている。
実施例において,球状部13は,球体に沿った形状に形成されている が,これに限るものではなく,凸状の曲面を有していればよい。試着ツ ール1を使用するとき,使用者の目頭に対応した位置に,球状部13が 位置する。
【0039】 球状部13の幅(直径に相当する)は,支持部12の幅よりも広くな っている。なお,球状部13の幅は,支持部12の幅と等しくすること もできる。また,本実施例では,球状部13が支持部12と一体的に形 成されているが,これに限るものではない。具体的には,球状部13に 相当する部材(球状部材という)を用意しておき,球状部材を支持部1 2の先端に取り付けることもできる。ここで,支持部12の先端が挿入 される溝を,球状部材に形成しておけばよい。
(コ) 【0040】 図6には,つけまつげ20の基端部を溝12aに固定した状態を示し ている。また,図7および図8には,つけまつげ20が取り付けられた 試着ツール1を,使用者が使用しているときの状態を示している。
【0041】 図8に示す点線Hは,顔の輪郭を示しており,領域H11は,眼に相 当し,領域H12は,鼻に相当する。図8に示すように,試着ツール1 を使用するとき,グリップ部11は,支持部12よりも後方に位置して いる。本実施例では,図2および図3を用いて説明したように,支持部 12は,矢印R2で示す曲率を有している。このため,グリップ部11 は,支持部12よりも後方に位置することになる。
【0042】 図7に示すように,使用者は,試着ツール1を使用することにより, 試着ツール1に取り付けられたつけまつげ20を,自分の顔に合わせて 確認することができる。具体的には,使用者は,鏡を用いることにより, つけまつげ20を装着した状態を確認することができる。ここで,グリ ップ部11を回転させれば,つけまつげ20の向きを変更することがで き,つけまつげ20の向きを確認することもできる。
【0043】 本実施例では,上述したように,支持部12が三次元方向で曲率(矢 印R1,R2の曲率)を有している。このように支持部12を曲げ形成することにより,グリップ部11を回転させたときに,球状部13が使用者の顔から離れてしまうのを抑制することができる。この点に関して,以下に説明する。
【0044】 図9は,比較例としての試着ツールの構造を示す概略図である。ここで,本実施例で説明した部材と同一の機能を有する部材については,同一符号を用いている。図9(A)は,試着ツール1の側面図である。図9(B)は,試着ツール1の上面図であり,図2に対応した図である。
【0045】 図9に示す試着ツール1では,支持部12が二次元平面内だけで曲率を有している。グリップ部11を回転させると,球状部13が顔から離れる方向に変位してしまう。グリップ部11を回転させて,つけまつげの向きを変更するとき,支持部12の領域Eは固定されることが多い。
領域Eが固定された状態において,試着ツール1を回転軸RA1の周りで回転させると,球状部13は,矢印M1の方向に変位する。矢印M1の方向は,使用者の顔から離れる方向である。図10には,球状部13が矢印M1の方向に変位したときの変位量D1を示す。
【0046】 図11は,本実施例である試着ツールの構造を示す概略図である。図11(A)は,試着ツールの側面図である。図11(B)は,試着ツールの上面図であり,図2,図3および図8に相当する図である。
【0047】 本実施例の試着ツール1では,グリップ部11を回転させても,球状部13が顔から離れ難くすることができる。試着ツール1を回転軸RA2の周りで回転させると,球状部13は,回転軸RA2を回転中心とし た移動軌跡に沿って移動することになる。ここで,球状部13の変位量 は,図11(B)の左右方向における成分(変位量)と,図11(B) の上下方向における成分(変位量)とを合成したものとなる。言い換え れば,球状部13の変位量は,2つの成分に分散させることができる。
【0048】 支持部12の領域Eが固定された状態でも,球状部13は,矢印M2 の方向に変位するが,上述したように,球状部13の変位量が2つの方 向に分散されるために,矢印M2方向の変位量は,図9,10に示す矢 印M1方向の変位量よりも小さくすることができる。図12には,球状 部13が矢印M2の方向に変位したときの変位量D2を示す。比較例お よび本実施例の試着ツール1を同様に回転させたとき,変位量D2は, 図10に示す変位量D1よりも小さくなる。このように,グリップ部1 1を回転させたときに,球状部13が顔から離れ難くすることにより, 球状部13が顔から離れることによる違和感を低減することができる。
ウ 前記ア及びイによれば,本件明細書には,本件登録実用新案1に関し, 次のような開示があることが認められる。
(ア) 従来,つけまつげは,毛の長さ,色,密度,カールの程度などが異 なる様々な種類のものがそれぞれ包装された状態で店頭に置かれている ので,購入者は,自分に似合いそうなつけまつげを選択する際,包装さ れたつけまつげが装着された状態を想像するだけであり,実際に装着し て初めて不似合いであることに気付くことがあるという問題があった (段落【0002】ないし【0004】)。
(イ) 「本考案」は,上記問題を解決し,つけまつげの購入者(使用者) が,つけまつげを選択するときに,つけまつげを装着した状態を容易に 確認することができる試着ツールを提供することを目的とする(段落【0 005】)。「本考案」は,購入者(使用者)は,「本考案」の試着ツ ールを用いて,自分の眼につけまつげを合わせることにより,つけまつ げを装着した状態を容易に確認することできるという効果を奏する(段 落【0014】)。
(2) 刊行物1の記載事項について 刊行物1(甲7)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図 1,3ないし9については別紙2を参照)。
ア 実用新案登録請求の範囲請求項1】 全体が細線状素材で形成されるカウンセリング用具であって,このカウ ンセリング用具の一端部に,前方に向かって円弧状に膨隆するつけ睫の仮 接着部を形成し,この仮接着部の目頭側の端部を目にかからない位置で下 方に屈曲して縦軸部を形成し,この縦軸部の下端を目と鼻にかからない位 置で目尻側に屈曲して戻り勾配部を形成し,この戻り勾配部の下端をさら に下方に屈曲して延伸把持部を形成したことを特徴とするつけ睫カウンセ リング用具。
請求項2】 前記カウンセリング用具を金属又は合成樹脂製としたことを特徴とする 請求項1記載のつけ睫カウンセリング用具。
請求項3】 前記カウンセリング用具が肌色に着色されていることを特徴とする請求 項1又は2記載のつけ睫カウンセリング用具。
考案の詳細な説明 (ア) 【技術分野】 【0001】 本考案は,顧客にとって似合うタイプのつけ睫を選択するために,美 容相談員などが当該顧客につけ睫のカウンセリングをする際に,カウン セリングツールとして役立つ,つけ睫カウンセリング用具を得ることを 目的とする。
(イ) 【背景技術】 【0002】 従来化粧法のひとつに,つけ睫を自分の目の周りにつける化粧法が知 られている。
つけ睫には,大きさや形状,形態,カラーなどの違いから,複数種類 の商品がそろえられており,さらに使用する側からも,自分の個性に合 わせるため,使用する場所,時間帯,相手の状況などを考慮して,最適 のつけ睫を選定したいという希望がある。
このような状況下で,顧客が好みのつけ睫を購入しようとする場合に は,商品の選定に迷い美容相談員などにアドバイスを求めることが多く なる。
【0003】 このようなアドバイスを求められた美容部員は,顧客にとって似合う と思われるつけ睫を推奨することはできるが,顧客自身にとってはつけ 睫をつけた自分の顔がどの様なイメージとなるかを知りたいと思うにも かかわらず,それを知る手段がないのが実情であった。
(ウ) 【考案が解決しようとする課題】 【0004】 上記特許文献1に記載されたつけ睫カウンセリング用具にあっては, つけ睫を透明樹脂薄板に取り付けて自分の目の前にあてがい,その姿を 鏡に写して顧客自身の目でつけ睫の状態が似合うか否かの判断をするも のであるが,つけ睫を取り付けた透明樹脂薄板の周り(特につけ睫装着 位置の左右及び上方部)には武骨な厚紙製の枠体が存在するため,この 枠体が顔の一部を覆い隠すことになり,邪魔な存在となっていた。
考案は,上記の問題点を解消して,使いやすいつけ睫カウンセリン グ用具を提供せんとするものである。
(エ) 【考案の効果】 【0010】 以上述べたように,請求項1及び2のつけ睫カウンセリング用具によ れば,全体が細線状素材で形成されるためカウンセリング用具で顔が隠 されるという事態が起こらず,その結果対象となったつけ睫が自分のイ メージに合うか否かが,鏡に映った姿からすぐに正確に判断できるとい う効果がある。
【0011】 さらにつけ睫カウンセリング用具におけるつけ睫の仮接着部と縦軸部 と戻り勾配部と延伸把持部との構成が小さく扱いやすい形態であるので, 使用時には延伸把持部を指先で摘みながらつけ睫を自分の睫位置に簡単 に位置合わせできる構成であり,位置合わせが終わった状態ではカウン セリング用具が目の前に来たり,隆起した鼻にぶつかったりする事がな いので,持ちやすくかつカウンセリング用具の先端を目の中に入れてし まうような事故も防止でき,安定した使い方ができるという効果がある。
【0012】 請求項3のつけ睫カウンセリング用具によれば,カウンセリング用具 が肌色を呈するので,カウンセリング用具が肌に溶け込んだようになり, 自然な感じが高まり,一層使いやすくなるという効果が達成される。
(オ) 【考案を実施するための最良の形態】 【0015】 以下添付図面に基づいて,本考案に係るつけ睫カウンセリング用具の 実施例を詳説する。
図1は本考案のつけ睫カウンセリング用具の右目用の斜視図,図2は 同左目用の斜視図,図3は同右目用の正面図,図4は同右側面図,図5は同平面図であり,図6はつけ睫カウンセリング用具につけ睫を仮接着する状態の拡大正面図,図7はつけ睫カウンセリング用具につけ睫を仮接着した状態の拡大斜視図,図8は前図のつけ睫カウンセリング用具を顔にあてがった状態の正面図であり,図9は他の実施例の斜視図,図10はさらに他の実施例の斜視図である。
【第1実施の形態】【0016】 本考案の第1実施の形態のつけ睫カウンセリング用具10は,全体がアルミニウム,ステンレスなどの金属,あるいは適宜の合成樹脂素材製の細線状素材で形成され,その素材には必要に応じて,好みの色彩,例えば肌色などに着色されるが,素材の地色で仕上られることもある。
【0017】 このカウンセリング用具10の一端部には,前方に向かって円弧状に膨隆するつけ睫の仮接着部1が形成されている。この仮接着部1には,商品たるつけ睫2が適宜の糊材料を介して仮接着される。
この仮接着部1の目頭側Aの端部は目4にかからない位置(被さらない位置のこと)で下方に屈曲して縦軸部3を形成している。この縦軸部3は,垂直状であることが好ましいが,必ずしも垂直状でなくても,それに近い状態であればかまわない。
【0018】 つぎにこの縦軸部3の下端を目4と鼻5にかからない位置(被さらない位置のこと)で目尻側Bに屈曲して戻り勾配部6を形成している。この戻り勾配部6は適宜の傾斜を有する状態で形成されるもので,目4と鼻5に重なり合わない状態となり,かつ目の周囲に圧迫感を与えないことを配慮して適宜設計を変更することも可能である。
【0019】 また本考案では,この戻り勾配部6の下端をさらに下方に屈曲して延 伸把持部7を形成している。この延伸把持部7は使用者が自分の指8で つけ睫カウンセリング用具10を摘むための部位であるから,好ましく は摘んだつけ睫カウンセリング用具10を顔にあてがいやすくする位置 (例えば,目4の下方中央付近)に来るようにすると一層使いやすい。
【0020】 さらに上記の仮接着部1と延伸把持部7のそれぞれの端縁を,安全上 の目的から折り返し部9に形成しておくと,それぞれの端縁が丸みを帯 びた状態となり,その端縁で指や顔を刺すような事故が起こりにくくな り,安全となる。
そもそも本考案のカウンセリング用具は,全体形状からその先端が目 の前に来るようなことがないため,安全性への配慮が施されているが, 折り返し部9の形成は更なる安全を追及して考えられたものである。
【第2実施の形態】 【0021】 つぎに図9に示すつけ睫カウンセリング用具20は,延伸把持部7に タグ21を形成したものであり,このタグ21には商品の識別符号や, 説明などが表示されるものであり,このタグ21の表示を目印としてつ け睫カウンセリング用具20の識別,すなわちその仮接着部1に仮接着 されているつけ睫2の識別が可能となり,多数種類の商品を混同するこ となく選択判定できる特徴がある。
(カ) 【第4実施の形態】 【0023】 つぎに本考案を使用してつけ睫についてのカウンセリングをする手順 を説明する。
ケース1としては,まず商品選定(顧客自身が行なっても,カウンセ ラーが推奨しても,いずれでも良い)をした後,その選定された商品(そ の商品と同一の見本でも良い)をカウンセリング用具10,20,30 の仮接着部1,31に糊を介して仮接着し,その後カウンセリング用具 を顧客の顔の前にあてがい,睫位置が重なり合うようにセットして顧客 自身の目でその良し悪しを判断し,良しと判断した場合には商品の買い 上げという結果につながり,悪しと判断した場合には,上記の手順を再 度繰り返して良しという判断が出るまで何度も繰り返すことになる。
【0024】 またケース2としては,カウンセリング用具10,20,30の仮接 着部1,31に糊を介して複数種類のつけ睫2を仮接着したものを予め 用意しておき,このカウンセリング用具を実際の商品の展示部の横に並 べて載置しておき,この状態で実際の商品の商品選定(顧客自身が行な っても,カウンセラーが推奨しても,いずれでも良い)をした後,その 選定された商品の横に載置されたカウンセリング用具10,20,30 を顧客の顔の前にあてがい,睫位置が重なり合うようにセットして顧客 自身の目でその良し悪しを判断し,良しと判断した場合には商品の買い 上げという結果につながり,悪しと判断した場合には,上記の手順を再 度繰り返して良しという判断が出るまで何度も繰り返すことになる。
(キ) 【産業上の利用可能性】 【0025】 本考案は,化粧関連用品特につけ睫の販売の現場等において利用され る。
(3) 同一性の判断の誤りの有無について 原告は,刊行物1には,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延び る棒状の支持部」の構成及び「前記支持部は,…前記つけまつげの装着ライ ンに沿って延びている」との構成の開示はなく,刊行物1考案は上記各構成を備えていない点で本件登録実用新案1と相違するから,本件登録実用新案1は刊行物1考案と同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成について 原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持 部」の構成は,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっているこ とを意味するものであり,上記構成を含む試着ツールの全体形状は長尺状 であることを当然に理解できるから,上記構成は本件登録実用新案1の「試 着ツール」が長尺状であることを特定したものといえるが,刊行物1考案 のカウンセリング用具10は,長尺状のものとは明らかに異なるなどとし て,刊行物1考案は,上記構成を備えていない点において本件登録実用新 案1と相違する旨主張する。
(ア) 本件登録実用新案1の実用新案登録請求の範囲(請求項1)には, 本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」にい う「グリップ部」は,「使用者によって保持される」ものであることが 規定されているが,「グリップ部」の形状を特定する記載はないし,「棒 状の支持部」が「グリップ部」から延びる態様を特定する記載もなく, ましてや,「棒状の支持部」の一端のみが「グリップ部」につながって いることを特定する記載はない。さらには,請求項1には,本件登録実 用新案1の「試着ツール」の全体形状が「長尺状」であることを明記し た記載はない。
次に,本件明細書(甲12)には,本件登録実用新案1の「前記グリ ップ部から延びる棒状の支持部」の語を定義した記載はないし,「長尺 状」の語の記載もない。もっとも,本件明細書には,「実施例1」とし て,「グリップ部11は,試着ツール1の長手方向における一端側に位 置しており,支持部12は,試着ツール1の長手方向における他端側に 位置している。」(段落【0018】)との記載があり,別紙1の図1 ないし3には,支持部12の一端が延長部14を介してグリップ部11 とつながり,支持部12の他端の先端が球状部13として構成された試 着ツール1が記載されているが,他方で,本件明細書には,本件登録実 用新案1の試着ツールを実施例1に記載された形状のものに限定する記 載や,図1ないし3に記載された形状のものに限定する記載はない。か えって,本件明細書には,「グリップ部11の形状は,平板形状に限る ものではなく,他の形状であってもよい。例えば,グリップ部11を円 柱状に形成することもできる。」(段落【0020】),「本実施例で は,グリップ部11および支持部12の間に,試着ツール1の長さを確 保するための延長部14を設けている。ここで,延長部14の長さは, 試着ツール1の使いやすさなどを考慮して適宜設定することができる。
また,延長部14は,省略することもできる。」(段落【0026】) との記載があることからすれば,本件明細書は,本件登録実用新案1の 試着ツールを実施例1に記載された形状のものや図1ないし3に記載さ れた形状のものに限定していないことは明らかである。
そうすると,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状 の支持部」とは,その文言どおり,「棒状の支持部」が「グリップ部」 から延びていることを特定したにとどまるものであって,棒状の支持部 の一端のみがグリップ部につながっていることを意味するものと解する ことはできないし,ましてや,上記「前記グリップ部から延びる棒状の 支持部」の構成が本件登録実用新案1の「試着ツール」の形状が長尺状 であることを特定したものと解することはできない。
(イ) これに対し原告は,特定部分が他の部分から一方向につながってい ることを表現するために,「…から延びる棒状…」と記載することは, 極めて一般的かつ定型的な手段であること(甲22ないし25)からすると,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成は,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意味するものであり,本件明細書の段落【0014】記載の「つけまつげの購入者(使用者)は,本考案の試着ツールを用いて,自分の眼につけまつげを合わせることにより,つけまつげを装着した状態を容易に確認することができる。」という本件登録実用新案1の効果は,長尺状の試着ツールを別紙1の図7に示す使用形態で使用することによって奏するのものといえるから,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成は,本件登録実用新案1の「試着ツール」の形状が長尺状であることを特定したものと解すべきである旨主張する。
しかしながら,部材の特定部分が他の部分から一方向につながっていることを表現するために「…から延びる棒状…」と記載する例があるとしても,他方で,「…から延びる…」の語は,部材の両端部が他の部分につながっていることを表現する場合に用いる例もあり(乙10ないし13),本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の文言から直ちに棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意味するものと解することはできない。
また,前記(1)ウ認定の本件明細書の開示事項によれば,本件登録実用新案1は,従来は,つけまつげが包装された状態で店頭に置かれているため,購入者は,自分に似合いそうなつけまつげを選択する際に装着した状態を確認することができず,実際に装着して初めて不似合いであることに気付くことがあるという問題を解決し,つけまつげの購入者(使用者)が,つけまつげを選択するときに,つけまつげを装着した状態を容易に確認することができる試着ツールを提供することを目的とするものであって,つけまつげが包装されていない状態で,装着した状態を容 易に確認することができる構成のものであれば,本件登録実用新案1の 効果(段落【0014】)を奏するものといえるから,長尺状の試着ツ ールを図7に示す使用形態で使用することによってのみ上記効果を奏す るということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 前記(2)の刊行物1(甲7)の記載事項によれば,刊行物1には,本 件審決認定の刊行物1考案が記載されていること(前記第2の3(2)ア) が認められる。
そして,前記(ア)によれば,刊行物1考案の「延伸把持部7」及び「仮 接着部1」は,それぞれ本件登録実用新案1の「グリップ部」及び「支 持部」に相当し,刊行物1考案の「延伸把持部7から延びる細線状の仮 接着部1」は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状 の支持部」に相当するものと認められる。
そうすると,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成を備えているといえるから,刊行物 1考案は,上記構成を備えていない点において本件登録実用新案1と相 違するとの原告の主張は,理由がない。
イ 「前記支持部は,…前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」 との構成 原告は,本件明細書の段落【0029】の記載によれば,本件登録実用 新案1の「前記支持部は,眼を開いたときの前記つけまつげの装着ライン に沿って延びている」との構成は,支持部が,「三次元方向において屈曲 する」つけまつげの装着ライン(つけまつげを試着するライン)に沿って 延びていることを特定したものと解すべきであるが,刊行物1には,仮 接 着部1が所定の平面 に沿って配置されて いることが開示され てい る が,これは,仮接着部1が「三次元方向において屈曲する」ものと異な るから,刊行物1考案は,上記構成を備えていない点において本件登録実用新案1と相違する旨主張する。
(ア) 本件登録実用新案1の実用新案登録請求の範囲(請求項1)には, 本件登録実用新案1の「支持部」に関し,「前記つけまつげの基端部を 支持し,前記グリップ部から延びる棒状の支持部」,「前記支持部は, 眼を開いたときの前記つけまつげの装着ラインに沿って延びていること」 との記載があるが,「支持部」が,「三次元方向において屈曲する」つ けまつげの装着ライン(つけまつげを試着するライン)に沿って延びて いることを特定した記載はない。かえって,「支持部は,三次元方向に 曲げ形成されている」ことは請求項1を引用する請求項5に記載されて いることからすると,請求項5は,請求項1の「支持部」を「三次元方 向に曲げ形成されている」構成のものに限定したものと解するのが自然 であるから,本件登録実用新案1の「支持部」は,上記構成のものに限 定されないというべきである。
次に,本件明細書には,本件登録実用新案1の「前記支持部は,眼を 開いたときの前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」にいう 「つけまつげの装着ラインに沿って」の語を定義した記載はない。原告 が挙げる本件明細書の段落【0029】の「人間のまつげのラインは, 二次元平面内で屈曲しているのではなく,三次元方向(矢印R1,R2) において屈曲している。この点を考慮して,支持部12の形状を設定し ている。」との記載は,別紙1の図2及び図3に示す「実施例1」にお ける「支持部12」に関するものであり,本件登録実用新案1は,上記 実施例のものに限定されるものではない。
そうすると,本件登録実用新案1の「前記支持部は,眼を開いたとき の前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」との構成は,支持 部が,眼を開いたときのつけまつげを装着する箇所(ライン)に沿うも のであれば,その態様は特に限定されるものではなく,また,上記構成 は,支持部が,「三次元方向において屈曲する」つけまつげの装着ライ ン(つけまつげを試着するライン)に沿って延びていることを特定した ものとはいえない。
(イ) 刊行物1には, 「選定された商品(その商品と同一の見本でも良い) をカウンセリング用具10,20,30の仮接着部1,31に糊を介し て仮接着し,その後カウンセリング用具を顧客の顔の前にあてがい,睫 位置が重なり合うようにセットして顧客自身の目でその良し悪しを判断 し,」(段落【0023】)との記載があることからすると,カウンセ リング用具10は,仮接着部1に接着された「つけ睫」を顧客の睫に重 なり合うように配置することができるものであり,このことは,仮接着 部1が眼を開いたときのつけまつげを装着する箇所(ライン)に沿うも のであることを示すものといえる。
そうすると,刊行物1考案における「仮接着部1は,眼を開いたとき のつけ睫2の装着ラインに沿って延びている」との構成は,本件登録実 用新案1の「前記支持部は,眼を開いたときの前記つけまつげの装着ラ インに沿って延びている」との構成に相当するものと認められる。
したがって,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の「前記支持部は, 眼を開いたときの前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」と の構成を備えているといえるから,刊行物1考案は,上記構成を備えて いない点において本件登録実用新案1と相違するとの原告の主張は,理 由がない。
ウ 小括 以上によれば,刊行物1考案は,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成及び「前記支持部は,眼を開いたとき の前記つけまつげの装着ラインに沿って延びている」との構成を備えてい るものと認められる。
また,刊行物1考案は,本件審決が認定するとおり,本件登録実用新案 1の上記各構成以外のその余の構成も備えているものと認められる。
したがって,本件登録実用新案1は刊行物1考案と同一の考案であると した本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1-(1)は理由 がない。
2 取消事由1-(2)(本件登録実用新案1と刊行物2考案Aの同一性の判断の 誤り)について (1) 刊行物2の記載事項 刊行物2(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図 面については別紙3を参照)。
ア 【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は販売促進用具に係るもので,商品のつけまつげを実際に使用し なくても,顧客に,あたかも装着した如き観念を与えるよう目視せしめ, その選択の便を図り得るつけまつげの試着表現用具すなわち試着表現ツー ルに関するものである。
【0002】 【従来の技術】 従来においては,本考案に属するような技術は存在しない。
【0003】 【考案が解決しようとする課題】 女性の容貌が人さまざまであるように,その人に似合うつけまつげの形 状もさまざまであると共に,容貌のみならず出掛ける場所の雰囲気を考慮 すれば,つけまつげの種類を変えた方が良い場合がある。したがって,メ ーカーとしてもそれらのニーズに対応するため,多種類のつけまつげを製 作し提示することになる。
しかしそうなると,顧客がつけまつげを購入しようとする場合,その選択に迷うことになるが,試供品がある口紅等の商品と異なり,商品の性質上つけまつげには試供品がない。
【0004】 したがって,顧客は商品を眺めながら自分が装着した状態を想像し,選択せざるを得ないので,購入後,実際に装着してから始めて不似合いであることに気が付くと云う事態が生ずることもまゝあった。
考案は,かかる事態が生じないよう店頭において,恰も顧客が実際につけまつげを試着したかのような状態を作って目視せしめることにより,似合うかどうかの判断が容易的確になし得る如くなしたものである。
イ 【0005】【課題を解決するための手段】 本考案においては,透明樹脂薄板製で,まぶたを覆い得るカバーを,まぶたの湾曲度に合わせて皿状に湾曲せしめると共に,該カバーの下縁を,眼の横幅より稍々広い幅で,開眼状態の右眼上まぶたの円弧に合わせた弧状に切断することによりつけまつげ構成縁を形成し,該つけまつげ構成縁上に沿って対応商品のつけまつげを付設することにより,前記課題を解決せんとするものである。
【0006】【作用】 本考案は前記の如く構成されているので,つけまつげ構成縁に付設したつけまつげが,開眼時の右上まぶたに沿って目視され得る如く,カバーを右眼に被せて鏡に映せば,恰も実際につけまつげを装着した如く看取されるので,前記つけまつげが自分に似合うかどうかの判断が容易的確になし得るものである。
また,右眼の装着状態と左眼の無装着状態との比較により,つけまつげを装着した場合における魅力増の程度が窺われるので,前記判断と相まってつけまつげ選択の参考となし得るものでもある。
尚,右利きの場合には普通右眼に装着して見るが,左利きの場合には左眼に装着するのが自然である。したがってその場合には,左眼の装着状態と右眼の無装着状態を比較し判断することになる。
ウ 【0007】【実施例1】 本考案に係るつけまつげ用試着表現ツールの実施例1は,図1の正面図・図2の底面図及び図3のA-A断面図に示す如く,まぶたを覆い得,且つまぶたの湾曲度に合わせて皿状に湾曲せしめた透明樹脂薄板製のカバー(1)と,前記カバー(1)の下縁を,眼の横幅より稍々広い幅で,開眼時の右眼(2)上まぶたの円弧に合わせた弧状に切断形成してなるつけまつげ構成縁(3)と,前記つけまつげ構成縁(3)に沿って付設したつけまつげ(4)とよりなるものである。
【0008】 したがって,図4に示す如くカバー(1)を右眼(2)に被せ,つけまつげ構成縁(3)が上まぶたに沿って並列する如くなした状態を鏡に映せば,あたかも右眼(2)につけまつげ(4)を装着したかのように看取されると共に,該右眼(2)と無装着状態の左眼間に生ずる魅力の差も看取され得るので,顧客につけまつげ(4)の美容性を改めて認識せしめるものである。
尚,上記カバー(1)の樹脂材料としては,環境汚染に繋がらない樹脂を使用することが好ましい。
エ 【0010】【実施例3】 本考案に係るつけまつげ用試着表現ツールの実施例3は,図6の正面図・図7の背面図及び図8の底面図に示す如く,つけまつげ構成縁(3)部及びつけまつげ(4)部を除くカバー(1)の前面外周縁に接着してなる厚紙製の枠体(6)と,前記枠体(6)の斜め左上方に適当な幅と長さで連係突設してなる長方形の長方形把持板(7) 前記長方形把持板 と, (7)の先端部に開孔した懸吊孔(8)と,前記長方形把持板(7)の正面及び背面に設定した商品の品名 品番 種類 特徴等を示す商品識別印刷面 ・ ・ ・ (9)とよりなるものである。
【0011】 本実施例3はこのように構成してあるので,図4に示す如く,使用時にカバー(1)の保持がしづらい実施例1と異なり,図9の使用状態正面図に示す如く,長方形把持板(7)を把持し得るのでカバー(1)の保持が極めて容易である。
また,つけまつげ構成縁(3)に付設するつけまつげ(4)は試着該当商品の品名・種類等に従って異なるものであるから,顧客はまず本考案のつけまつげ用試着表現ツールを選択する必要があるが,その選択は商品識別印刷面(9)の記載事項に基づいてなされるものであり,その点本実施例3の構成は実施例1の構成より優れていると言える。
オ 【0015】【実施例6】 本考案に係るつけまつげ用試着表現ツールの実施例6は,空気中に浮遊する微粉塵の付着によりカバー(1)が汚損されるおそれを除くようになしたもので,図13に示す如く,実施例3におけるカバー(1)のつけまつげ構成縁(3)に沿って適当な幅のつけまつげ保持帯(12)が構成される如く,枠体(6)の内周縁に沿ってカバー(1)内部を切除することにより,前記カバー(1)面に削除孔(13)を形成してなるものである。
尚,図13に示す如く,長方形把持板(7)の長さ及び懸吊孔(8)の 数等は特に限定されるものではない。
カ 【0017】 【考案の効果】 本考案に係るつけまつげ用試着表現ツールは前述の如く構成されている ので,顧客はまず商品を見て良いと思われるものを選んだ後,つけまつげ 用試着表現ツールの商品識別印刷面(9)或いは商品識別シール(11) 等を見て,前記選定商品に該当するつけまつげ用試着表現ツールを選び, 鏡を見ながらつけまつげ構成縁(3)を右眼(2)の上まぶたの縁に合わ せれば,あたかも選定商品に該当するつけまつげ(4)を装着したかのよ うな状態を目視し得る。
してみれば,選定商品が似合うかどうかを実際に体験したようなもので あるから,顧客は自己の選定の正かったか否かを容易的確に認識し得る。
したがって,正しければその時点で選定商品を購入し得るし,違ってい れば選定をし直し,該し直し選定商品に該当するつけまつげ用試着表現ツ ールを使用して再度似合うかどうかを検討することが出来る。
【0018】 しかして,以上の検討は繰り返し何度でも出来るので,従来の購入時と 異なり,商品に対する顧客の満足感を充分満たしながら購入してもらえる ため,本考案に係るつけまつげ用試着表現ツールの存在は,顧客を馴染み 客とする可能性を秘めながら爾後の商品販売の拡大にも繋がる効果を生じ させるものと言える。…(2) 同一性の判断の誤りの有無について 原告は,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成は,棒状の支持部の一端のみがグリップ部につながっていることを意 味するものであり,上記構成は本件登録実用新案1の「試着ツール」が長尺 状であることを特定したものであることを前提として,刊行物2考案Aは,「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成を備えていないから,本件登録実用新案1が刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
ア しかしながら,本件登録実用新案1の「前記グリップ部から延びる棒状 の支持部」とは,「棒状の支持部」が「グリップ部」から延びていること を特定したにとどまるものであって,棒状の支持部の一端のみがグリップ 部につながっていることを意味するものと解することはできず,また,上 記「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」の構成が本件登録実用新案 1の「試着ツール」の形状が長尺状であることを特定したものと解するこ とはできないことは,前記1(3)ア(ア)のとおりである。
イ 前記(1)の刊行物2(甲1)の記載事項によれば,刊行物2には,本件審 決認定の刊行物2考案Aが記載されていること(前記第2の3(2)イ(ア)) が認められる。
そして,刊行物2考案Aの「長方形把持板(7)」及び「つけまつげ保 持帯(12)」は,それぞれ本件登録実用新案1の「グリップ部」及び「支 持部」に相当し,刊行物2考案Aの「長方形把持板(7)から延びる略棒 状のつけまつげ保持帯(12)」は,本件登録実用新案1の「前記グリッ プ部から延びる棒状の支持部」に相当するものと認められる。
そうすると,刊行物2考案Aは,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成を備えているといえる。
また,刊行物2考案Aは,本件審決が認定するとおり,本件登録実用新 案1の上記各構成以外のその余の構成も備えているものと認められる。
ウ 以上によれば,本件登録実用新案1は刊行物2考案Aと同一の考案であ るとした本件審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張(取消事由1 -(2))は理由がない。
3 取消事由2-(2) 本件登録実用新案2と刊行物2考案Aの同一性の判断の誤 ( り)について 原告は,本件登録実用新案2は,請求項1(本件登録実用新案1)の記載を 引用する考案であるところ,刊行物2考案Aは本件登録実用新案1の「前記グ リップ部から延びる棒状の支持部」の構成を備えていないから,本件登録実用 新案2が刊行物2考案Aと同一の考案であるとした本件審決の判断は誤りであ る旨主張する。
(1) しかしながら,刊行物2考案Aは,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成を含む本件登録実用新案1の構成を全て 備えていることは,前記2(2)認定のとおりである。
また,本件登録実用新案2は,「前記グリップ部は,平板状に形成されて いる」との構成を備えている点で本件登録実用新案1と相違するが,前記2 (1)の刊行物2の記載事項によれば,刊行物2考案Aにおいて,グリップ部」 「 に相当する「長方形把持板(7)」は,平板状に形成されていることが認め られるから,刊行物2考案Aは,上記構成を備えているといえる。
(2) 以上によれば,本件登録実用新案2が刊行物2考案Aと同一の考案である とした本件審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張(取消事由2-(2)) は理由がない。
4 取消事由3-(2) 本件登録実用新案3と刊行物2考案Aの同一性の判断の誤 ( り)について 原告は,本件登録実用新案3は,請求項1(本件登録実用新案1)又は請求 項2(本件登録実用新案2)の記載を引用する考案であるところ,刊行物2考 案Aは本件登録実用新案1及び2の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成を備えていないから,本件登録実用新案3が刊行物2考案Aと同一の考 案であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
(1) しかしながら,刊行物2考案Aは,本件登録実用新案1の「前記グリップ 部から延びる棒状の支持部」の構成を含む本件登録実用新案1の構成を全て 備えていることは,前記2(2)認定のとおりである。
また,本件登録実用新案3は,「前記グリップ部の幅は,前記支持部の幅 よりも広い」との構成を備えている点で本件登録実用新案1と相違するが, 前記2(1)の刊行物2の記載事項によれば,刊行物2考案Aにおいて,「グリ ップ部」に相当する「長方形把持板(7)」の幅が,「支持部」に相当する 「つけまつげ保持帯(12)」の幅よりも広いことが認められるから,刊行 物2考案Aは,上記構成を備えているといえる。
(2) 以上によれば,本件登録実用新案3が刊行物2考案Aと同一の考案である とした本件審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張(取消事由3-(2)) は理由がない。
5 取消事由4-(2) 本件登録実用新案5と刊行物2考案Aの同一性の判断の誤 ( り)について 原告は,本件登録実用新案5は,請求項1ないし3(本件登録実用新案1な いし3)のいずれか一つの記載を引用する考案であるところ,刊行物2考案A は本件登録実用新案1ないし3の「前記グリップ部から延びる棒状の支持部」 の構成を備えていないから,本件登録実用新案5が刊行物2考案Aと同一の考 案であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
(1)ア しかしながら,刊行物2考案Aは,本件登録実用新案1の「前記グリッ プ部から延びる棒状の支持部」の構成を含む本件登録実用新案1の構成を 全て備えていることは,前記2(2)認定のとおりである。
また,本件登録実用新案5は,「前記支持部は,三次元方向に曲げ形成 されている」との構成を備えている点で本件登録実用新案1と相違するが, 前記2(1)の刊行物2の記載事項によれば,刊行物2考案Aにおいて,「支 持部」に相当する「つけまつげ保持帯(12)」が,「グリップ部」に相 当する「長方形把持板(7)」を含む平面に対して,この平面内の方向と は異なる方向(すなわち,「三次元方向」)において曲げ形成された形状 (実施例6,別紙3の図6ないし8,13等参照)であることが認められ るから,刊行物2考案Aは,上記構成を備えているといえる。
イ なお,この点に関し,原告は,本件登録実用新案5の「前記支持部は, 三次元方向に曲げ形成されている」との構成は,本件明細書の図7,8及 び11(別紙1参照)に示すように,「支持 部が,支持部の基端(グリ ップ部と繋がる部分 )から,グリップ部 に対して三次元方向 に曲 げ 形成されている」こ とを特定したもので あり,本件登録実用 新案 5 は,上記構成を有することにより,図7,8及び11に示すように,本件 登録実用新案5の試着ツールの使用時に,使用者の耳から眼に向かって試 着ツールが配置されることになるので,グリップ部を回転させて,使用者 の眼の上下方向において,つけまつげの向きを微調整したり,グリップ部 を回転させたときに,支持部の先端が使用者の顔から離れてしまうことを 抑制できるという効果を奏する旨の主 張(前記第3の1 (7)ア)もして いる。
し か し なが ら , 本件登録実用新案5の実用新案登録請求の範囲(請求 項5)及び本件明細書には,本件登録実用新案5の「前記支持部は,三次 元方向に曲げ形成されている」との構成を,図7,8及び11に示す構成 のものに限定する旨の記載はないから,原告の上記主張は,採用すること ができない。
(2) 以上によれば,本件登録実用新案5が刊行物2考案Aと同一の考案である とした本件審決の判断に誤りはないから,原告の上記主張(取消事由4-(2)) は理由がない。
6 取消事由5(刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案6の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,本件審決は刊行物1考案において,支持部は黒色を有するものとす ること(相違点2に係る本件登録実用新案6の構成)は当業者がきわめて容易になし得る程度の事項にすぎない旨判断したが,刊行物1の記載から当業者がきわめて容易に想到することができる事項は,刊行物1のカウンセリング用具10の全体を黒色にすることだけであり,カウンセリング用具10の全体を黒色にした構成のものは,本件登録実用新案6のアイラインの効果を奏することはないから,本件登録実用新案6と同視することはできず,当業者が,刊行物1考案において,カウンセリング用具10の仮接着部1のみを黒色に着色し,相違点2に係る本件登録実用新案6の構成とすることをきわめて容易に想到することができたものとはいえないから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。
(1) 本件登録実用新案6の実用新案登録請求の範囲(請求項6)は,「前記支 持部は,黒色を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記 載の試着ツール」というものである。請求項6が引用する請求項1によれば, 「試着ツール」は,「使用者によって保持されるグリップ部」と,「前記つ けまつげの基端部を支持し,前記グリップ部から延びる棒状の支持部」とを 有するものといえる。
しかるところ,請求項6は,その文言上,「試着ツール」の構成部分のう ち,「支持部」が「黒色を有すること」を規定したものといえるが,「試着 ツール」の支持部を除く構成部分の色に関する記載はないから,本件登録実 用新案6においては,支持部を除く構成部分の色に関する限定はないものと 解される。
次に,本件明細書(甲12)には,「実施例1」に関し,「ここで,支持 部12の色は,黒色とすることが好ましい。また,試着ツール1のうち,支 持部12を除く部分は,透明であることが好ましい。具体的には,略透明な 試着ツール1を形成しておき,支持部12を黒色で着色することができる。
支持部12を黒色とすることにより,支持部12をアイラインとして用いる ことができる。これにより,使用者は,アイライン(化粧)も含めて,つけまつげを装着した状態を確認することができる。」(段落【0035】)との記載がある。上記記載は,試着ツール1のうち,支持部12を黒色とし,支持部を除く部分は,透明であることが好ましく,このような構成とすることにより,支持部12をアイラインとして用いることができることを示したものといえる。他方で,本件明細書には,本件登録実用新案6の「試着ツール」について,その支持部を除く部分を透明のもの(実施例1のもの)に限定する旨の記載はない。
また,本件明細書には,「支持部を黒色とすれば,支持部に対して,アイラインの効果を持たせることができる。」(段落【0011】)との記載があるが,上記記載は,アイラインの効果について,支持部の色を黒色とした場合と他の色とした場合とを具体的に比較して述べたものではないし,本件明細書には,上記記載を裏付ける実験結果等の記載はない。また,試着ツールに装着したつけまつげの色,使用者の肌の色,化粧の有無及び態様,試着時の照明の有無,強度等は,アイラインの効果に影響を及ぼすものといえるから,試着ツールの支持部のみを黒色とした場合には,常にアイラインの効果が生じるものとはいえないし,他方で,支持部以外の部分を含む試着ツール全体を黒色とした場合には,アイラインの効果が生じないということもできない。
そうすると,本件明細書の上記記載から,支持部以外の部分を含む試着ツール全体を黒色とした構成のものは,本件登録実用新案6に含まれないと解することはできない。
以上の本件登録実用新案6の実用新案登録請求の範囲(請求項6)の記載及び本件明細書の記載事項によれば,本件登録実用新案6の「前記支持部は,黒色を有する」との構成には,試着ツールの支持部のみが黒色を有するもののみならず,支持部を除く部分を含む試着ツール全体が黒色を有するものと が含まれるものと解される。
これと異なる原告の主張は採用することはできない。
(2) 刊行物1の段落【0016】には,「本考案の第1実施の形態のつけ睫カ ウンセリング用具10は,全体がアルミニウム,ステンレスなどの金属,あ るいは適宜の合成樹脂素材製の細線状素材で形成され,その素材には必要に 応じて,好みの色彩,例えば肌色などに着色されるが,素材の地色で仕上ら れることもある。」との記載がある。上記記載は,カウンセリング用具10 の仮接着部1を好みの色に着色することを示唆するものといえる。
そして,黒色は,基本色の一つであること,アルミニウム,ステンレスな どの素材を黒色に着色することは慣用技術であることからすると,刊行物1 に接した当業者であれば,刊行物1考案の試着ツール全体を黒色とし,「支 持部」に相当する「仮接着部1」を「黒色を有する」構成(相違点2に係る 本件登録実用新案6の構成)とすることをきわめて容易に想到することがで きたものと認められる。
(3) 以上によれば,本件登録実用新案6は当業者が刊行物1考案に基づききわ めて容易に考案をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤り はないから,原告の上記主張(取消事由5)は理由がない。
7 取消事由6(刊行物1を主引用例とする本件登録実用新案9及び10の容易 想到性の判断の誤り)について 原告は,本件審決は,@刊行物1考案と刊行物3記載の「まつげの化粧に関 する化粧用具において,眼球に対する危険性を低くするため当該化粧用具の尖 った先端部に当該先端部の幅より広い円形の部材を設けることにより安全性を 確保すること」という周知技術に基づいて,刊行物1考案において,その折り 返し部9に代えて,仮接着部1の幅より広い球状部とすること(相違点3に係 る本件登録実用新案10の構成)は当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎな いから,本件登録実用新案10は当業者がきわめて容易考案をすることがで きたものである,A本件登録実用新案9は,本件登録実用新案10から「球状部の幅」を除いた構成のものであるから,刊行物1考案及び刊行物3に記載された上記周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものである旨判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。
(1) 刊行物3の記載事項について ア 刊行物3(甲10)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す る図面については別紙4を参照)。
(ア) 【0001】 【考案の属する技術分野】 本考案は,マスカラ使用時に誤って眼球にブラシの先端があたっても, 眼球に与える損傷を少なくし,又先端を目立たす事で眼球に当たりにく くする為,先端に衝撃緩和兼視認性向上の為の部材を装着した化粧用具 に関するものである。
(イ) 【0006】 【実施例】 図1は当該マスカラブラシ全体,1はブラシ,2は軸部,3は衝撃緩和 兼視認性向上の為の部材,4はハンドル。4のハンドルを指で持ち,マ スカラの中味を1のブラシにつけ,まつ毛に塗布する。3の衝撃緩和兼 視認性向上の為の部材がブラシ先端の2の軸部に装着してある為,万一 眼球に当たっても損傷を与える危険性が低くなり,視認性も向上するの で眼球に当たる可能性が少なくなり,安全性が向上する。
イ 前記ア及び図1(別紙4参照)によれば,刊行物3には,「まつげの化 粧に関する化粧用具において,眼球に対する危険性を低くするため当該化 粧用具の尖った先端部に当該先端部の幅より広い円形の部材を設けること により安全性を確保すること」が記載され,図1において,マスカラブラ シ1の軸部の先端に設けられた「衝撃緩和兼視認性向上の為の部材3」と して円形の部材が示されていることが認められる。
そして,刊行物3(甲10)の記載内容及びその発行日(平成13年2 月23日)に照らすと,「まつげの化粧に関する化粧用具において,眼球 に対する危険性を低くするため当該化粧用具の尖った先端部に当該先端部 の幅より広い円形の部材を設けることにより安全性を確保すること」は, 本件出願当時,周知であったことが認められる。
(2) 本件登録実用新案9の容易想到性の判断の誤りの有無について ア 本件登録実用新案9の実用新案登録請求の範囲(請求項9)は,「前記 支持部の先端において,球状部を有することを特徴とする請求項1から8 のいずれか1つに記載の試着ツール。」というものである。
前記1(3)ウ認定のとおり,刊行物1考案は,本件登録実用新案1(請求 項1)の構成を全て備えているから,請求項1記載の試着ツールである。
そうすると,請求項1を引用する本件登録実用新案9と刊行物1考案を 対比すると,本件登録実用新案9は,「前記支持部の先端において,球状 部を有する」のに対し,刊行物1考案は,そのような球状部を有するもの ではない点において相違し,その余の点は一致するものと認められる。
イ 刊行物1の段落【0020】には,「さらに上記の仮接着部1と延伸把 持部7のそれぞれの端縁を,安全上の目的から折り返し部9に形成してお くと,それぞれの端縁が丸みを帯びた状態となり,その端縁で指や顔を刺 すような事故が起こりにくくなり,安全となる。」,「そもそも本考案の カウンセリング用具は,全体形状からその先端が目の前に来るようなこと がないため,安全性への配慮が施されているが,折り返し部9の形成は更 なる安全を追及して考えられたものである。」との記載がある。上記記載 及び別紙2の図1,図3等によれば,細線状の仮接着部1の端縁の折り返 し部9は,仮接着部1の端縁を「丸みを帯びた状態」とすることにより, その端縁で顔を刺すような事故が起こりにくくなるよう,安全性を配慮し て設けられたことを理解することができる。
また,前記(1)イのとおり,「まつげの化粧に関する化粧用具において, 眼球に対する危険性を低くするため当該化粧用具の尖った先端部に当該先 端部の幅より広い円形の部材を設けることにより安全性を確保すること」 は,本件出願当時,周知であったことが認められる。そして,刊行物1考 案のカウンセリング用具10は,まつげの化粧に関する化粧用具に該当す ることは明らかである。
そうすると,刊行物1に接した当業者においては,刊行物1考案におい て,仮接着部1の端縁で顔を刺すような事故が起こりにくくなるよう,安 全性を更に向上させることを目的として,上記周知技術を考慮し,仮接着 部1の端縁を更に丸みを帯びた状態とするために折り返し部9に代えて端 縁の幅より広い円形の部材としたり,ひいては端縁の幅より広い球状の部 材とすることは,適宜なし得る設計的事項にすぎないものと認められる。
したがって,当業者は,刊行物1考案及び上記周知技術に基づいて,相 違点に係る本件登録実用新案9の構成をきわめて容易に想到することがで きたものと認められる。
ウ これに対し原告は,刊行物3には,部材3を球状に形成することについ ての開示は存在せず,刊行物3から認定できる周知技術は,マスカラブラ シの先端に円形の部材を設けたことだけであって,刊行物1考案に刊行物 3に記載された周知技術を組み合わせても,本件登録実用新案9の「前記 支持部の先端において,球状部を有する」構成にはならないから,本件登 録実用新案9は,刊行物1考案及び上記周知技術に基づいて当業者がきわ めて容易に考案をすることができたものとはいえない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ認定のとおり,「まつげの化粧に関する化粧用 具において,眼球に対する危険性を低くするため当該化粧用具の尖った先 端部に当該先端部の幅より広い円形の部材を設けることにより安全性を確 保すること」は本件出願前に周知であったことからすれば,本件登録実用 新案9は,刊行物1考案及び上記周知技術に基づいて,当業者がきわめて 容易に考案をすることができたものと認められる。刊行物3に部材3を球 状に形成することが直接記載されていないとしても,そのことは,上記認 定を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ 以上によれば,本件登録実用新案9は,刊行物1考案及び刊行物3に記 載された周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることが できたものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
(3) 本件登録実用新案10の容易想到性の判断の誤りの有無について ア 本件登録実用新案10の実用新案登録請求の範囲(請求項10) 「前 は, 記球状部の幅は,前記支持部の幅よりも広いことを特徴とする請求項9に 記載の試着ツール。」というものであり,本件登録実用新案9と本件登録 実用新案10とを対比すると,本件登録実用新案10では,本件登録実用 新案9の「支持部の先端」の「球状部」について,その幅を「支持部の幅 よりも広い」構成としたものである。
そして,本件登録実用新案10と刊行物1考案とは,本件登録実用新案 10は,支持部の先端において,支持部の幅よりも広い幅の球状部を有す るものであるのに対し,刊行物1考案は,そのような球状部を有するもの ではない点(相違点3)で相違するものと認められる。
イ 前記(2)イで説示したのと同様の理由により,当業者は,刊行物1考案及 び周知技術に基づいて,相違点3に係る本件登録実用新案10の構成をき わめて容易に想到することができたものと認められる。
また,前記(2)ウで説示したのと同様の理由により,これに反する原告の 主張は理由がない。
ウ 以上によれば,本件登録実用新案10は,刊行物1考案及び刊行物3に 記載された周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすること ができたものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
(4) 小括 以上のとおり,本件審決における本件登録実用新案9及び10の容易想到 性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由6は理由がない。
8 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由1-(1)及び(2),2-(2),3 -(2),4-(2),5及び6はいずれも理由がないから,その余の点について判 断するまでもなく,本件登録実用新案1ないし3,5,6,9及び10に係る 実用新案登録を無効とすべきものとした本件審決の判断に誤りはない。本件審 決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
追加
(別紙1)本件明細書図面【図1】【図2】【図3】 【図5】【図6】【図7】 【図8】【図9】【図10】 【図11】【図12】 (別紙2)刊行物1の図面【図1】【図3】【図4】 【図5】【図6】【図7】【図8】 【図9】 (別紙3)刊行物2の図面【図1】【図2】【図3】【図4】【図6】【図7】 【図8】【図9】【図13】 (別紙4)刊行物3の図面【図1】
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 神谷厚毅