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関連審決 訂正2002-39258
関連ワード 技術的範囲 /  間接侵害 /  損害額 /  実施料相当額 /  消滅時効 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  進歩性(3条2項) /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 1808号 損害賠償請求事件
原告 株式会社ゴール
訴訟代理人弁護士 隅田勝巳
補佐人弁理士 玉利冨二郎
被告 美和ロック株式会社
訴訟代理人弁護士 黒川辰男
同 熊谷秀紀
同 小杉丈夫
同 内田公志
同 鮫島正洋
同 内山美穂子
補佐人弁理士 飯田岳雄
同 宮口聰
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/07/08
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、金1億0987万3636円及びこれに対する平成11年3月4日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、扉錠に関する実用新案権を有していた原告が、被告が製造販売した錠ケースが、販売先のサッシメーカーで受部材及び規制部材と組み合わせて用いられ、もって原告の上記実用新案に係る物品の製造にのみ用いられたから、被告による上記錠ケースの製造販売は、原告の上記実用新案権の間接侵害に当たると主張して、損害賠償(予備的に不当利得返還)を求めた事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。) (1) 原告は、下記の実用新案権を存続期間満了まで有していた(この実用新案権を以下「本件実用新案権」という。)。
考案の名称 扉錠 出願日 昭和58年11月9日 出願番号 実願昭58-173884号 出願公告日 平成3年8月20日 出願公告番号 実公平3-39585号 登録日 平成4年9月9日 登録番号 第1928926号 登録当初の実用新案登録請求の範囲は、別紙実用新案公報(甲第2号証)の該当欄記載のとおり。
訂正審判請求日 平成14年12月1日 審判番号 訂正2002-39258号 審決日 平成15年3月6日 上記審決によって認められた訂正後の実用新案登録請求の範囲(これに記載された考案を以下「本件訂正考案」という。)は、別紙訂正明細書(甲第45号証添付)の該当欄記載のとおり。
(2) 本件訂正考案の構成要件は、次のとおり分説される。
A 本施錠用の受孔32を形成した受部材30と、用心錠用の係合孔41を形成した規制部材35と、2段階に突出できる錠杆3を出没自在に嵌装した錠ケース1とを備え、
B 前記錠杆3の最小突出時にはその係止部3aを規制部材35の用心錠用の係合孔41に係合して扉の一定角度の開放を可能とし、錠杆3の最大突出時には受部材30の本施錠用の受孔32に係合して本施錠されるようにした扉錠において、
C 前記受部材30は、扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋設するとともに、前面には閉扉時に規制部材35の全部を収納する収納凹部31を、
下部には錠杆3の係止部3a係合用の前記受孔32を形成し、
D1 規制部材35は、上端部を受部材30に枢支するとともに下端部に前記係合孔41を形成し、
D2 更に、規制部材35は、枢軸36で受部材30に枢着した第1部材35aと、該第1部材35aに摺動自在とした第2部材35bと、第2部材35bと前記枢軸36間に取付けて第2部材35bを常時第1部材35aと第2部材35bとが互に一体化される方向に付勢するようにしたばね40とからなり、
D3 又は、規制部材35の上端を取着した枢軸49を受部材30の上端部に穿った摺動長孔48に摺動自在に挿通するとともに、規制部材35を閉鎖位置に復帰させるように付勢したバネ51を備えてなり、
E 錠ケース1は扉イの正面側の前部から後部に向けて埋設してなることを特徴とする扉錠 (3) 被告は、別紙イ号第二物件目録(1)及び(2)の各添付図面に記載の錠ケース(検甲第2号証及び検乙第2号証の2のうちの各錠ケース。この錠ケースを以下「イ号第二錠ケース」という。)を製造し、これをサッシメーカーであるトステム株式会社に対して販売した。
本件実用新案の出願公告日である平成3年8月20日から、権利期間満了日である平成10年11月9日までの間に、被告が販売したイ号第二錠ケースの個数は合計11万9027個である。
イ号第二錠ケースを購入したトステム株式会社は、これをリョービ株式会社等から購入した受部材及び規制部材と組み合わせて(ただし、組み合わせた受部材及び規制部材の形状については、後記のとおり当事者間に争いがある。)、トステム株式会社が製造販売する玄関ドアである「ポルト」シリーズ等の扉錠として販売していた(扉及び扉枠に取り付けられたイ号第二錠ケース並びに上記受部材及び規制部材を組み合わせたものを、以下「イ号第二物件」という。)。
イ号第二物件は、少なくとも、本件訂正考案の構成要件A、B、Cのうち「前記受部材30は・・・、下部には錠杆3の係止部3a係合用の前記受孔32を形成し」の部分、D1及びD3並びにEをいずれも充足する。
(4) 被告は、別紙イ号第三物件目録記載の物件のうち、錠ケース(検甲第3号証のうちの錠ケース。この錠ケースを以下「イ号第三錠ケース」という。)を製造し、これをサッシメーカーであるYKKアーキテクチュラルプロダクツ株式会社(以下「YKKap社」という。)ないしその関連会社に対して販売した。
本件実用新案の出願公告日である平成3年8月20日から、権利期間満了日である平成10年11月9日までの間に、被告が販売したイ号第三錠ケースの個数は合計8852個である。
イ号第三錠ケースを購入した上記サッシメーカーは、これを原告から購入した受部材及び規制部材(検甲第3号証のうちの受部材及び規制部材)と組み合わせて、上記サッシメーカーが販売する玄関ドアである「アプローズU」シリーズ等の扉錠(検甲第3号証)として販売していた(扉及び扉枠に取り付けられたイ号第三錠ケース並びに上記受部材及び規制部材を組み合わせたものを、以下「イ号第三物件」という。)。
イ号第三物件は、本件訂正考案の構成要件のうち、構成要件D3以外のものをすべて充足するものであり、本件訂正考案技術的範囲に属する。
2 争点及び当事者の主張 (1) イ号第二物件の受部材及び規制部材の形状 〔原告の主張〕 ア 平成16年4月20日受付原告準備書面(28)及び同月23日受付イ号第二物件目録の訂正申立書以前の主張 イ号第二物件の受部材及び規制部材の形状は、別紙イ号第二物件目録(1)添付図面記載のとおりであり(この受部材を以下「イ号第二受部材(1)」という。)、検甲第2号証のうちの受部材及び規制部材がこれである。
イ 平成16年4月20日受付原告準備書面(28)及び同月23日受付イ号第二物件目録の訂正申立書の主張 イ号第二物件の受部材及び規制部材の形状は、別紙イ号第二物件目録(2)添付図面記載のとおりであり、このうち図1ないし6記載の受部材及び規制部材(この受部材を以下「イ号第二受部材A」という。)並びに前面カバーが検甲第5号証であり、図7ないし11記載の受部材及び規制部材(この受部材を以下「以下イ号第二受部材B」という。)が検甲第6号証である。原告が今般入手した現物(検甲第5、第6号証)により、イ号第二物件の受部材には実際は「前面カバー」が装着されていることが明瞭になったので、従前の別紙イ号第二物件目録(1)を同(2)に訂正するものである。
〔被告の主張〕 ア 上記原告の主張アは認める。ただし、検乙第2号証の1のうちの受部材及び規制部材もイ号第二物件の受部材及び規制部材である。
イ 上記原告の主張イは、時機に後れた主張であるから却下されるべきである。
なお、イ号第二受部材Aに関しては、原告自身、その提出に係る甲第50号証の立証趣旨として、「イ号第二物件のカバー部材(飾り板)は受部材を構成する部材ではなく、扉枠(サッシ)を構成するサッシ部材である点などを立証するため。」と説明していた(平成16年3月12日付証拠説明書)。
(2) イ号第二物件の受部材は構成要件Cを充足するか。
ア 「受部材は、扉枠の正面側の前部から後部に向けて埋設する」について 〔原告の主張〕 イ号第二物件の受部材は、扉枠の室外側から室内側に向けて挿入するものであるとしても、取り付けられ使用される状態では扉枠の正面側(扉と扉枠が合わさる面)の前部から後部に向けて埋設された状態と同じ状態である。
本件訂正考案の構成要件Cの、「扉枠ロの正面側の前部から後部に向けて埋設する」とは、扉枠に対する受部材の埋設範囲を示すものであり、この構成要素には経時的要素はなく方法的記載ではない。仮に方法的記載であるとしても、実用新案の保護対象は物品の形態に係る考案であるから、方法的記載は構成要件から除外して技術的範囲を決めるべきである。
したがって、イ号第二物件の受部材は、本件訂正考案の構成要件Cのうち、「受部材は、扉枠の正面側の前部から後部に向けて埋設する」を充足する。
〔被告の主張〕 (ア) イ号第二物件の受部材は、扉枠の室外側から室内側に向けて埋設されており、扉枠の正面側の前部から後部に向けて埋設されていない。
本件訂正考案の構成要件Cは、受部材を「埋設する」という方法的な表現であり、受部材が「埋設される」という結果的、受動的な表現を用いているものではないから、取り付けられ使用される状態が同じであるからといって、上記構成要件Cを充足するものとはならない。原告は、方法的記載は構成要件から除外して技術的範囲を決めるべきであると主張するが、実用新案登録請求の範囲に記載した文言について構成要件から除外することは実用新案法の規定に反する。
しかも、受部材を扉枠の横側から挿入するのと、扉枠の正面側の前部から埋設するのとでは、規制部材が前部側にぐらつくか否かという点で結果として得られる状態も異なる。
したがって、イ号第二物件の受部材は、本件訂正考案の構成要件Cを充足しない。
(イ) 仮に、イ号第二物件の受部材及び規制部材の形状が、上記(1)の原告の主張イのとおりであるとすると、イ号第二受部材Aに関しては、そのうち前面カバーの部分は扉枠に埋設されないから、この受部材は、やはり本件訂正考案の構成要件Cを充足しない。
イ 「受部材は、・・・前面には閉扉時に規制部材の全部を収納する収納凹部を・・・形成し」について 〔原告の主張〕 (ア) イ号第二物件の受部材及び規制部材の形状は、上記(1)の原告の主張イのとおりであるところ、このうちイ号第二受部材Aにおいては、前面カバーを取り外した状態においては、規制部材の係合孔近辺は受部材の収納凹部より外方へ突出しているものの、前面カバーを取り付けた状態においては、受部材と前面カバーとで収納凹部が形成され、閉扉時にはここに規制部材の全部が収納され、イ号第二受部材Bにおいては、閉扉時に、受部材の前面に形成された収納凹部に規制部材の全部が収納される。
したがって、イ号第二物件の受部材は、本件訂正考案の構成要件Cのうち、「受部材は、・・・前面には閉扉時に規制部材の全部を収納する収納凹部を・・・形成し」を充足する。
(イ) なお、イ号第二受部材Aにおいて、前面カバーを設け、その取り外し時に規制部材の下端部の係合孔周辺が受部材の収納凹部より外方へ突出するようにしたのは、本件訂正考案技術的範囲から逃れるためにしたものである。
〔被告の主張〕 イ号第二物件の受部材及び規制部材の形状は、上記(1)の被告の主張アのとおりであるところ、規制部材の下端部の係合孔周辺は受部材の収納凹部に収納されていない。すなわち、受部材に形成された収納凹部は、閉扉時に規制部材の全部を収納するものではない。
したがって、イ号第二物件の受部材は、本件訂正考案の構成要件Cを充足しない。
(3) イ号第二及び第三錠ケースは本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物か(間接侵害の成否) ア イ号第二及び第三錠ケース双方について 〔原告の主張〕 イ号第二及び第三錠ケースは、サッシメーカーにおいて、イ号第二及び第三物件のそれぞれ対応する受部材及び規制部材とのみ組み合わされて販売されていたものであり、それぞれ対応する受部材及び規制部材の専用品であって、被告主張のような規制部材と組み合わされたことはない。
被告が後記(ア)で主張する各公報記載の受部材及び規制部材は、実用上種々の問題点があり、商業的、経済的に採用し難く実用に向かない。
また、被告が後記(イ)で主張する「ドアマン ロックンロック」における錠ケース並びに受部材及び規制部材と、イ号第二及び第三物件における錠ケース並びに受部材及び規制部材とは構成が全く異なる。
したがって、イ号第二及び第三錠ケースは、いずれも、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用される物であった。
〔被告の主張〕 (ア) イ号第二及び第三錠ケースは、いずれも、乙8号証の1の昭和56年4月30日付特許願添付明細書、実公昭61-34471号実用新案公報(乙第50号証)、実開昭60-104556号公開実用新案公報のマイクロフィルム(乙第51号証)及び実公平1-22062号実用新案公報(乙第52号証)にそれぞれ記載された規制部材のいずれとも組み合わせて用いることが可能なものであり、これらの規制部材はいずれも実用性を有するところ、これらの規制部材と組み合わせて用いたときには、本件訂正考案を実施するものとはならない。
このように、イ号第二及び第三錠ケースは、いずれも、社会通念上経済的、商業的、実用的な他用途を有するものである汎用品であり、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物ではないから、これらの製造販売は本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
(イ) イ号第二及び第三錠ケースは、いずれも、リョービ株式会社製の扉錠である「ドアマン ロックンロック」(昭和63年6月ころ発行の同社カタログである乙第56号証に掲載)に適用可能であるところ、上記扉錠は、本件訂正考案を実施する物ではない。
このように、イ号第二及び第三錠ケースは、いずれも、社会通念上経済的、商業的、実用的な他用途を有する汎用品であり、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物ではないから、これらの製造販売は本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
イ イ号第二錠ケースについて 〔原告の主張〕 被告が後記のとおり主張する「ポルトNX」シリーズにおいても、受部材は扉枠に埋設されているから、本件訂正考案の構成要件Cを充足する。
したがって、イ号第二錠ケースは、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用される物であったというべきである。
〔被告の主張〕 イ号第二物件が取り付けられた玄関ドアである「ポルト」シリーズは、
平成10年1月1日から「ポルトNX」シリーズにモデルチェンジされたところ、
「ポルトNX」シリーズにおいては、受部材は扉枠に埋設されず、扉枠の正面側の前部に面付けされている。したがって、「ポルトNX」シリーズにおいては、イ号第二物件の受部材は本件訂正考案の構成要件Cを充足しない。
よって、同日以降、イ号第二錠ケースは本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物ではなくなったのであるから、同日以降のイ号第二錠ケースの製造販売は本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
ウ イ号第三錠ケースについて 〔原告の主張〕 イ号第三錠ケースは、イ号第三物件の製造にのみ用いられる物であった。
仮に、被告の後記主張のように、イ号第三錠ケースが、イ号第二物件の受部材及び規制部材と組み合わせて用いることができる物であるとしても、上記(2)ア、イ及び上記イの原告の主張のとおり、イ号第二物件の受部材は本件訂正考案の構成要件Cを充足するものであるから、イ号第三錠ケースが本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物であり、その製造販売が本件実用新案権の間接侵害に当たることに変わりはない。
〔被告の主張〕 (ア) イ号第三錠ケースは、イ号第二錠ケースと同一であり、現にイ号第二物件の受部材及び規制部材と組み合わせて用いることができる。
ところで、上記(2)ア、イの被告の主張のとおり、イ号第二物件の受部材は本件訂正考案の構成要件Cを充足しない。
そして、イ号第二物件は、イ号第三錠ケースの製造販売を開始した平成8年よりも前である平成3年から販売されていたのであるから、イ号第三錠ケースは、その製造販売の当初から経済的、商業的、実用的な他の用途が存在した。
したがって、イ号第三錠ケースは、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物ではないから、その製造販売は本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
(イ) イ号第三錠ケースは、イ号第二錠ケースと同一であり、現にイ号第二物件の受部材及び規制部材と組み合わせて用いることができる。
ところで、上記イの被告の主張のとおり、「ポルトNX」シリーズにおいては、イ号第二物件の受部材は本件訂正考案の構成要件Cを充足しない。
したがって、イ号第三錠ケースは、「ポルトNX」シリーズが製造販売された平成10年1月1日以降、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物ではなくなったものであり、同日以降のイ号第三錠ケースの製造販売は本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
(4) 訂正後の本件実用新案権に基づく権利主張は時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるか。
〔被告の主張〕 原告による本件実用新案権に係る訂正審判請求は、本件実用新案権の無効審決に対する審決取消訴訟の提起後10月余り経過後に行われているところ、このような訂正審判請求自体が審理遅延行為であるから、訂正後の実用新案登録請求の範囲に基づく権利主張は、時機に後れた攻撃防御方法の提出であり、却下されるべきである。
〔原告の主張〕 争う。
(5) 本件実用新案登録に無効理由が存在することが明らかか(権利濫用の抗弁) 〔被告の主張〕 本件訂正考案は、いずれも本件実用新案登録出願の前に頒布された特開昭57-180769号公開特許公報(乙第58号証)、特公昭45-33584号特許公報(乙第10号証)、実開昭52-144993号公開実用新案公報(乙第59号証)、実公昭51-2157号実用新案公報(乙60号証)及び特開昭56-139374号公開特許公報(乙第61号証)にそれぞれ記載された技術を組み合わせれば、当業者であれば極めて容易に考案することができたものであるから、
進歩性を欠くものであり、登録無効理由を有することが明らかである。
このように、登録無効理由を有することが明らかである本件実用新案権に基づく権利行使は、権利の濫用であって許されない。
〔原告の主張〕 否認ないし争う。
(6) 損害額 〔原告の主張〕 実用新案法29条1項、2項及び3項の規定により算出した損害額のうち最も高いものを損害として賠償を請求する。
なお、本件実用新案の出願公告日である平成3年8月20日から権利期間満了日である平成10年11月9日までの間に、被告が販売したイ号第二錠ケースの個数は合計11万9027個であり、イ号第三錠ケースの個数は合計8852個である(前提となる事実(3)、(4))。
ア 実用新案法29条1項による計算 原告の本件訂正考案の実施品である扉錠のうち、錠ケースについての1個当たりの平均利益額は859.2円である。
したがって、被告がイ号第二錠ケースを販売したことによって原告が被った損害は、1億0226万7998円(859.2×119,027)であり、被告がイ号第三錠ケースを販売したことによって原告が被った損害は、760万5638円(859.2×8,852)であり、これらを合算すると、1億0987万3636円となる。
イ 実用新案法29条2項による計算 イ号第二、第三錠ケースは、原告の本件訂正考案の実施品である扉錠のうちの錠ケースと同一の材料を使用していることから製造原価はほぼ同一であり、
販売先や販売方法等も原告と同様であるから、被告の錠ケース1個当たりの利益額も原告とほぼ同額と推定される。よって、被告がイ号第二、第三錠ケースを販売したことによって得た利益額は、1個当たり859.2円である。
したがって、被告がイ号第二錠ケースを販売したことによって原告が被った損害は、1億0226万7998円(859.2×119,027)であり、被告がイ号第三錠ケースを販売したことによって原告が被った損害は、760万5638円(859.2×8,852)であり、これらを合算すると、1億0987万3636円となる。
ウ 実用新案法29条3項による計算 イ号第二、第三錠ケースの販売単価は、原告の本件考案の実施品である扉錠のうちの錠ケースの販売単価が2820円であるから、これと同額として計算すべきであり、実施料率は売上高の10パーセントとするのが相当である。
したがって、被告がイ号第二錠ケースを販売したことによって原告が被った損害は、3356万5614円(2,820×119,027×0.1)であり、被告がイ号第三錠ケースを販売したことによって原告が被った損害は、249万6264円(2,820×8,852×0.1)であり、これらを合算すると、3606万1878円となる。
〔被告の主張〕 ア 実用新案法29条1項による計算について 実用新案法29条1項は、間接侵害の事案には適用することができないというべきであるし、実用新案法改正による同項新設前の行為に遡及して適用されるべきではない。
仮にこれが適用されるとしても、原告の本件訂正考案の実施品である扉錠のうち、錠ケースについての1個当たりの平均利益額についての原告の主張は不自然でかつ過大であり、立証もされていない。
イ 実用新案法29条2項による計算について 被告は、イ号第二、第三錠ケースの販売によって利益を得ておらず、むしろ損失が生じている。したがって、実用新案法29条2項による計算では、損害は0円となる。
ウ 実用新案法29条3項による計算について 原告が主張する錠ケースの販売単価は不自然でかつ過大であるから、損害の計算にこれを用いることはできない。
また、実施料率としては売上高の1.5パーセントが相当である。
(7) 消滅時効の成否 〔被告の主張〕 本件訴えの提起は平成11年2月23日にされているところ、遅くともその3年前である平成8年2月23日までに、原告は被告がイ号第二及び第三錠ケースを製造販売していることを知っていた。したがって、平成8年2月22日以前の損害に係る原告の損害賠償請求権は時効により消滅している。被告はこれを援用する。
すなわち、トステム株式会社の平成5年12月1日発行のカタログ(乙第34号証)及び平成7年7月1日発行のカタログ(乙第20号証)の「ポルト」シリーズの頁には、原告製品とイ号第二錠ケースの鍵穴部分が並べて掲載されているところ、両者は鍵穴の位置の違いから一見して区別することができる。トステム株式会社に製品を納入していた原告は、これらのカタログを入手して記載を確認していたはずであり、これにより、原告は、被告によるイ号第二錠ケースの製造販売の事実を平成8年2月22日以前に知っていたはずである。
また、原告は、平成6年から、YKKap社ないしその関連会社に対して、本件訂正考案の実施品である錠ケースと受部材のセット品を販売できなくなり、受部材しか販売できなくなったと主張するのであるから、原告は、そのころ、
他社による同種錠ケースの製造販売の事実と被告の存在を知っていたはずである。
原告のYKKap社ないしその関連会社に対する受部材の販売数量は、平成7年には平成6年の約10倍に達していたとのことであるから、遅くとも、平成7年中には原告は上記事実を知っていたはずである。さらに、YKKap社の平成7年8月発行の「アプローズU」のカタログ(乙第35号証)にも、原告製品とイ号第三錠ケースの鍵穴部分が同頁に掲載されており、両者は鍵穴の位置の違いから一見して区別することができるから、YKKap社ないしその関連会社に製品を納入していた原告は、このカタログを入手して記載を確認していたはずである。したがって、
原告は、被告によるイ号第二錠ケースの製造販売の事実を平成8年2月22日以前に知っていたはずである。
〔原告の主張〕 原告は、被告に対し、平成8年7月26日、本件実用新案権を侵害している旨の通告書(甲第28号証)を発送しているところ、原告が被告によるイ号第二、第三錠ケースの製造販売が本件実用新案権を侵害するものであることを知ったのはその直前である。
したがって、原告の損害賠償請求権は時効により消滅していない。
(8) 不当利得の額(予備的請求原因) 〔原告の主張〕 仮に、上記(7)の被告の主張のとおり、平成8年2月22日以前の損害賠償請求権が時効により消滅しているとすれば、原告は被告に対し、イ号第二、第三錠ケースを製造販売したことによる実施料相当額の不当利得の返還を請求する。
すなわち、被告は、原告の許諾を得ずに、本件訂正考案技術的範囲に属するイ号第二、第三錠ケースを製造販売したものであり、原告に支払うべき実施料の支払を免れて同額の利得を得たものである。
そして、実施料率は上記(6)の原告の主張ウと同様に、売上高の10パーセントが相当である。
〔被告の主張〕 実施料率としては、上記(6)の被告の主張ウと同様に、売上高の1.5パーセントが相当である。
当裁判所の判断
1 争点(1)及び争点(2)イについて判断する。
(1) イ号第二受部材Aについて ア 被告は、争点(1)についての原告の主張イが、時機に後れた主張であるから却下されるべきである旨主張するが、原告のこの主張によって訴訟の完結が遅延したとは認められないから、被告の上記主張は採用できない。そこで、原告がイ号第二受部材Aとして主張するように、受部材に前面カバーが付されて用いられていたかについて検討する。
検甲第2号証、第5号証、乙第16号証、乙第37号証の4、検乙第2号証の1によれば、検甲第5号証の受部材には、樹脂製の前面カバーが付されていること、検乙第2号証の1のうちの受部材は、ナイロン樹脂製の前面カバーを付した状態で、扉枠に取り付けられていたこと、検甲第2号証の受部材には、検甲第5号証及び検乙第2号証の1の受部材に存在する前面カバー取付用の係合溝に相当する溝も存在すること、検乙第2号証の1の受部材と、検甲第5号証の受部材は、その色は別にして、構造や寸法は同一であること、これに対して、検甲第2号証の受部材は、基本的な構造は前二者とほぼ同一であるが、前二者には、閉扉時に規制部材が受部材の収納凹部の側面にある金属部分と直接接触しないように樹脂製の緩衝部材が存在するのに対して、検甲第2号証の受部材にはこれがないこと、前二者と検甲第2号証の受部材とでは、規制部材に設けられた係合孔の下端部分における幅が相違する(前二者においては、係合孔の上端部分における幅とほぼ同一であるのに対し、検甲第2号証の受部材においては、これよりも狭い。)ことが認められる。
以上によれば、原告がイ号第二受部材Bとして主張する受部材は別として、イ号第二受部材(1)ないしイ号第二受部材Aはいずれも前面カバーを付して用いられたものと認めることができ、そうすると、イ号第二受部材(1)とイ号第二受部材Aは基本的に同一の構成を有するものというべきである(これら両者を代表させて、以下「イ号第二受部材A」として表記する。)。ただし、イ号第二受部材Aにおいても、上記のような点で少なくとも2つの種類があったことは上記のとおりである(検甲第5号証及び検乙第2号証の1の受部材と同種の受部材を以下「イ号第二受部材A@」といい、検甲第2号証の受部材と同種の受部材を以下「イ号第二受部材AA」という。)。
イ 次に、原告が主張するように、イ号第二受部材Aにおいて、受部材と前面カバーとの間に形成されるのが、本件訂正考案の構成要件Cにいう規制部材の前面に形成された収納凹部であり、これが閉扉時に規制部材の全部を収納するものであるということができるか検討する。
本件訂正考案の構成要件Cは、「受部材は、・・・前面には閉扉時に規制部材35の全部を収納する収納凹部31を、・・・形成し」というものであるから、このような実用新案登録請求の範囲の記載文言に照らすと、ここでいう収納凹部は、受部材自体に形成され、その中に規制部材の全部を収納することができることが必要であると解すべきである。
これをイ号第二受部材Aについてみるに、前面カバーが受部材を構成する部材であるか否かは、原告の主張としても必ずしも明らかではないから、前面カバーが受部材を構成する場合とそうでない場合の双方について検討することとする。
(ア) まず、前面カバーが受部材を構成する部材であるとするならば、前面カバーも含めて受部材が構成されることとなるのであるから、規制部材が収納される収納凹部は、受部材の前面ではなく、受部材の内部に形成されていることになる。したがって、このような受部材が、本件訂正考案の構成要件Cの、「受部材は、・・・前面には・・・収納凹部31を、・・・形成し」を充足するものではないことは明らかである。
(イ) 次に、前面カバーが受部材を構成する部材ではなく、受部材の前面に取り付ける別部材であるとするならば、前記のとおり、本件訂正考案の収納凹部は受部材自体に形成されたものをいうのであるから、受部材に前面カバーを取り付けた状態において、受部材と前面カバーとの間に形成された空間が収納凹部に当たるということはできない。あくまで、受部材に前面カバーを取り付けない状態において、そこに形成される収納凹部に規制部材の全部が収納されるか否かを判断すべきものである。
そして、受部材に前面カバーを取り付けない状態において、受部材に形成される収納凹部に閉扉時の規制部材の全部が収納されないことは、当事者間に争いがない。
以上のとおりであるから、前面カバーが受部材の構成部材であるか否かにかかわらず、イ号受部材Aに形成されている収納凹部が、規制部材の前面に形成され、閉扉時に規制部材の全部を収納する収納凹部であるということはできない。
ウ なお、原告は、前面カバーの取り外し時に規制部材の下端部の係合孔周辺が受部材の収納凹部より外方へ突出するようにしたのは、本件訂正考案技術的範囲から逃れるためにしたものであると主張する。しかし、前記「前提となる事実」(1)のとおり、登録当初の実用新案登録請求の範囲には「前面には規制部材35収納用の収納凹部31を・・・形成し、」と記載されていたところ、イ号第二物件の受部材がこの要件を充足するものであることは本件の当事者間でも争いがなかったものであること、この記載が「前面には閉扉時に規制部材35の全部を収納する収納凹部31を・・・形成し、」(本件訂正考案)に訂正されたのは、平成14年12月1日の訂正審判請求によるものであり(甲第45号証、第46号証の1)、
この時点で既に本件実用新案権の権利期間は満了していたことに照らせば、本件訂正考案技術的範囲から逃れるために、規制部材の下端部の係合孔周辺が受部材の収納凹部より外方へ突出するようにしたことはあり得ず、上記の原告の主張は採用することができない。
エ よって、イ号第二受部材Aは、本件訂正考案の構成要件Cのうち、「受部材は、・・・前面には閉扉時に規制部材の全部を収納する収納凹部を・・・形成し」との部分を充足しないというべきである。
(2) イ号第二受部材Bについて 乙第30号証は、その記載内容からリョービ株式会社が作成したイ号第二受部材Bの受部材及び規制部材の図面であると認められるところ、同証拠には、98年(平成10年)10月8日の日付があることから、イ号第二受部材Bの受部材及び規制部材が製造され、イ号第二錠ケースと組み合わせて用いられたのは、このころ以降のことであると認めることができる。
一方、甲第5号証によれば、トステム株式会社はイ号第二物件を遅くとも平成3年には販売していたことが認められるところ、乙第16号証は、その記載内容(特に規制部材における係合孔の下端部分の幅及び上記(1)アの緩衝部材〔乙第16号証の図面上は「Dストッパー」と記載されている。〕の存在)から、リョービ株式会社が作成したイ号第二受部材A@の受部材及び規制部材の図面であると認められ、同号証には、91年(平成3年)6月23日の日付があることから、遅くともこの数か月後以降、イ号第二受部材A@の受部材及び規制部材が製造販売され、
イ号第二錠ケースと組み合わせて用いられたものと推認することができる。
そして、上記(1)のとおり、イ号第二受部材Aは、本件訂正考案の構成要件Cを充足しないのであるから、イ号第二受部材Bが本件訂正考案の構成要件Cを充足するからといって、イ号第二錠ケースが、平成14年法律第24号による改正前の実用新案法28条にいう間接侵害の要件である、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用された物といえないことは明らかである。
(3) 以上のとおりであるから、被告によるイ号第二錠ケースの製造販売は、本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
2 争点(3)ウ(ア)について判断する。
(1) 検甲第5号証及び検乙第2号証の2のうちの受部材及び規制部材が、イ号第二受部材A@に相当する受部材及び規制部材であること、遅くとも平成3年6月23日から数か月後以降、イ号第二受部材A@の受部材及び規制部材がイ号第二物件の一部として販売されていたことは、上記1で判示したとおりである。
一方、乙第24号証、第29号証によれば、被告がイ号第三錠ケースの販売を開始したのは、これよりも遅い平成7年であることが認められる。
(2) 検甲第3号証、第5号証、乙第63号証、検乙第2号証の2によれば、イ号第三錠ケース(検甲第3号証のうちの錠ケース)を、イ号第二受部材A@の受部材及び規制部材とそれぞれ組み合わせて、いずれも実用的に用いることができることが認められる。
原告は、イ号第三錠ケースはイ号第二錠ケースと同様、対応する受部材及び規制部材と組み合わせるための専用品であると主張する。しかし、乙第17号証、第30号証によれば、イ号第二錠ケースの納入先であるトステム株式会社は、
その製造販売する玄関ドアのモデルチェンジに伴い、受部材及び規制部材を同社に納入していたリョービ株式会社に、モデルチェンジ後の閉扉時の扉と扉枠との間の間隔やイ号第二錠ケースの錠杆の形状寸法等の仕様に合わせて、受部材及び規制部材を設計させ、納入させていたことが認められる。この事実に照らせば、受部材及び規制部材が、これと対応する錠ケースと組み合わせるための専用品であるということはできるが、反対に、錠ケースが、これと対応する受部材及び規制部材と組み合わせるための専用品であるということはできない。
そして、上記のとおり、イ号第三錠ケースは、イ号第二受部材A@の受部材及び規制部材とそれぞれ組み合わせて、いずれも実用的に用いることができ、イ号第二受部材A@は、前記1のとおり、本件訂正考案の構成要件Cを充足しないものであるから、結局、イ号第三錠ケースには、本件訂正考案の実施品の製造以外の用途が存在したものと認められる。
さらに、上記(1)のとおり、被告によるイ号第三錠ケースの販売開始は平成7年であるところ、イ号第二物件は、遅くとも平成3年には販売が開始され、イ号第二受部材A@の受部材及び規制部材も、平成7年よりは明らかに以前から製造販売されていたものであるから、イ号第三錠ケースは、その販売開始当初から、本件実用新案に係る物品の製造以外の用途があったものというべきである。
(3) なお、検甲第2号証、第3号証によれば、イ号第三錠ケースである検甲第3号証の錠ケースを、イ号第二受部材AAに相当する検甲第2号証のうちの受部材及び規制部材とを組み合わせた場合には、錠ケースの錠杆を1段階突出させたときに扉が十分に開かず、実用的に用いることができないことが認められる(上記(2)のイ号第二受部材A@の受部材及び規制部材と組み合わせた場合との差は、それぞれの規制部材に設けられた係合孔の下端部分の幅が相違することから生じるものである。)。
しかしながら、上記(1)、(2)のとおり、イ号第三錠ケースである検甲第3号証の錠ケースと組み合わせて実用的に用いることができるイ号第二受部材A@の受部材及び規制部材が、イ号第三錠ケースの販売開始前に販売されていたことが認められるのであるから、この事実は上記(2)の結論を左右するものではない。
(4) 以上のとおり、イ号第三錠ケースは、被告による販売開始の当初から、本件訂正考案の実施品の製造以外の用途が存在したものであり、平成14年法律第24号による改正前の実用新案法28条にいう間接侵害の要件である、本件実用新案に係る物品の製造にのみ使用されたものであるとはいえない。
したがって、被告によるイ号第三錠ケースの製造販売も、本件実用新案権の間接侵害には当たらない。
3 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 守山修生