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事件 平成 26年 (ワ) 6995号 補償金請求事件
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2014/07/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年7月31日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成26年(ワ)第6995号 補償金請求事件

口頭弁論終結日 平成26年6月26日

判 決

札幌市<以下略>

原 告 A

同訴訟代理人弁護士 野 中 信 敬

安 田 修

橋 本 幸 子

辻 美 和

川 見 友 康

東京都千代田区<以下略>

被 告 日本電信電話株式会社

同訴訟代理人弁護士 升 永 英 俊

江 口 雄 一 郎

同補佐人弁理士 佐 藤 睦

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成26年4月16日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,考案の名称を「テレホンカード」とする実用新案権(以下「本件

実用新案権」という。)の登録を受けた原告が,被告に対し,本件実用新案





権の登録前に被告が別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)

を製造販売して本件実用新案権に係る考案(以下「本件考案」という。)を

実施したとして,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下

「旧実用新案法」という。)13条の3第1項に基づく補償金の一部である

100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定

の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実(後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告は,平成11年12月20日,外2名と共同して,昭和59年9月

5日出願の実用新案登録出願(実願昭59−134611)を原出願とす

る実用新案登録出願(実願平6−5675)を原出願として,本件実用新

案権の登録出願をした(実願平11−9646。以下「本件出願」とい

う。)。本件出願については,平成12年6月30日に出願公開がされ

(実開2000−49),平成22年4月2日,本件実用新案権として登

録された(実用新案登録第2607899号)。

本件実用新案権の登録は,平成22年4月21日,平成11年9月5日

存続期間満了を原因として抹消された。

(甲1,6,7,11)

(2) 本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲の記載(本件考案)は,以下

のとおりである。

「 電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,

このカード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するための押形部

から成る指示部を設けて成り,前記指示部は縦軸または横軸の一方が長く

形成される形状の平面を呈し,前記カード本体の外周縁から前記カード本

体の内方向にくぼんでいると共に,前記カード本体の直交する2つの中心

軸線の夫々から一側にずれ且つ前記カード本体面内で前記平面の長く形成

される縦軸または横軸が中心軸線の一にほぼ平行若しくは直交して前記カ





ード本体に配置されており,且つ,前記指示部は目の不自由な者が前記カ

ード本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指が触れ,前記カード

本体の前記電話機に差し込む方向及び表裏を確認し得る位置に配置されて

いることを特徴とするテレホンカード。」

(甲1)

2 本件に関する実用新案法の定め

前提事実のとおり,本件実用新案権は,平成11年12月20日,実願昭

59−134611の分割出願である実願平6−5675の更なる分割出願

として出願されたものであるから,実用新案法11条1項が準用する特許法

44条2項本文により,実願平6−5675の出願日であるとみなされる昭

和59年9月5日に出願されたものとみなされる。

そして,平成5年法律第26号改正附則4条1項は,同法律の施行の際現

に特許庁に係属している実用新案登録出願については従前の例によることと

しており,本件出願には旧実用新案法13条の3及び15条が適用される。

また,本件出願については,平成6年法律第116号の施行前に出願公告を

すべき旨の決定の謄本の送達がされていないので,平成6年法律第116号

改正附則9条1項により出願公告をしないものとされ,旧実用新案法13条

の3については上記改正附則9条4項の委任を受けた特許法等の一部を改正

する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令による読替えにより,旧

実用新案法15条1項については上記改正附則9条3項により,次のとおり

規定されていることになる(ただし,本件と関係のない部分は省略する。以

下,旧実用新案法13条の3ないし15条というときは,以下の読替え後の

ものをいう。)。

(1) 旧実用新案法13条の3

ア 1項

実用新案登録出願人は,出願公開があつた後に実用新案登録出願に係





考案の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは,その警告後

実用新案権の設定の登録前に業としてその考案を実施した者に対し,そ

考案が登録実用新案である場合にその実施に対し通常受けるべき金銭

の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる。当該警告を

しない場合においても,出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案

であることを知つて実用新案権の設定の登録前に業としてその考案を実

施した者に対しては,同様とする。

イ 2項

前項の規定による請求権は,実用新案権の設定の登録があつた後でな

ければ,行使することができない。

ウ 4項

民法第719条及び第724条(不法行為)の規定は,第1項の規定

による請求権を行使する場合に準用する。この場合において,当該請求

権を有する者が実用新案の設定の登録前に当該実用新案登録出願に係る

考案の実施の事実及びその実施をした者を知つたときは,民法第724

条中「被害者又ハ其法定代理人ガ損害及ビ加害者ヲ知リタル時」とある

のは,「実用新案登録出願ノ設定ノ登録ノ日」と読み替えるものとする。

(2) 旧実用新案法15条1項

実用新案権の存続期間は,その設定の登録の日から10年をもって終了

する。ただし,実用新案登録出願の日から15年をこえることができない。

3 争点及びこれに関する当事者の主張

(1) 補償金請求権の有無

(原告の主張)

ア 被告は,本件考案の出願公開日である平成12年6月30日から登録

日である平成22年4月2日までの間,被告製品を業として製造販売し

た。被告製品の構造は別紙物件目録記載のとおりであり,被告製品に設





けられたくぼみはプレス加工により形成されたものであって「押形部」

に相当し,被告製品はカード本体を平面的に見て中心方向にくぼんでい

るから「カード本体の外周縁から前記カード本体の内方向にくぼんでい

る」ことになる。さらに,その他の構成も本件考案の構成を全て満たす

から,被告製品は本件考案技術的範囲に属する。

そして,原告は,被告が製造販売しているテレホンカードにつき,本

件出願の原出願及び原々出願に係る各考案技術的範囲に属するとして,

被告に対する不当利得返還請求訴訟を提起しており,その訴状は平成1

1年11月17日に被告に送達された。本件考案は原出願及び原々出願

において開示されている考案と実質的に同一であるから,被告は,上記

訴訟の提起により旧実用新案法13条の3第1項の「警告」を受けたと

いえるし,仮にそうでないとしても,本件考案を実施していたことにつ

き悪意である。

さらに,本件実用新案権は平成22年4月2日に設定登録されている

から,原告は,被告に対し,補償金請求権を有する。

イ 被告は,後記のとおり,本件実用新案権の存続期間が満了しているこ

とを理由に上記補償金請求権が発生しない旨主張する。

しかし,補償金請求権は,旧実用新案法13条の3によって創設され

た実用新案権とは別個の権利であり,その行使の時期等は全て同条の定

めるところによるべきであって,実用新案権について定めた同法15条

の規定を適用する余地はない。このことは,補償金請求権の法的性質及

び立法趣旨のほか,補償金請求権が実用新案権とは別に行使期間を定め

ていること,特許法上の補償金請求権は特許権が一度有効に発生した場

合にはその後特許権が消滅したとしても消滅せず,この理は実用新案法

上の補償金請求権にも該当すること,実用新案権の存続期間の満了によ

り補償金請求権が消滅する旨の明文の規定がないこと等から裏付けられ





る。

したがって,被告の主張は理由がない。

(被告の主張)

争う。旧実用新案法13条の3は,出願人の利益と第三者の利益の均衡

を図るため,実用新案権が有効に成立していることを前提として補償金制

度を設けた。そのため,設定登録の時点で実用新案権の存続期間が満了し

ているときは上記前提を欠き,仮に実用新案権が登録されたとしても,補

償金請求権は発生しない。本件実用新案権は平成11年9月5日に存続期

間を満了してパブリックドメインとなっているのであり,平成22年4月

2日に登録された本件実用新案権は初めから存在せず,補償金請求権も初

めから存在しない。

(2) 消滅時効の成否

(被告の主張)

本件訴えは本件実用新案権の登録の日である平成22年4月2日から3

年を経過した後に提起されたものであるから,旧実用新案法13条の3

4項により,原告の主張する補償金請求権は,仮にこれが発生していても

時効によって消滅している。被告は,本件の平成26年5月20日の第1

回口頭弁論期日において消滅時効を援用するとの意思表示をした。

(原告の主張)

被告が本件考案を実施していることを原告が知ったのは平成25年4月

10日であるから,旧実用新案法13条の3第4項による民法724条

読替えの前提となる要件を充たしておらず,設定登録の日から3年間の時

効が進行する余地はない。

(3) 補償金の額

(原告の主張)

被告が平成12年6月30日から平成22年4月2日まで被告製品を販





売することにより得た売上高は2000億円を下らず,本件考案の実施に

ついて相当な実施料は5%であるから,補償金の額は100億円となり,

原告はその一部である100万円を請求する。

(被告の主張)

争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)について

前記第2の1及び2のとおり,本件実用新案権は,昭和59年9月5日に

出願したものとみなされるから,これが有効に成立していたとしても,旧実

用新案法15条1項により,同日から15年を経過した平成11年9月5日

に存続期間が満了したことになる。そして,実用新案制度は,実用新案登録

出願をした者に期間を限定して独占権を与えるとともに,その期間の経過後

は誰もが自由にその考案を実施し得るものとして,考案を奨励し,もって産

業の発展に寄与することを目的とするものであるから,本件考案は,同月6

日以降は誰もが無償で自由に実施することができるものとなっていたという

ことができる。したがって,補償金請求権が発生したとする出願公開日(平

成12年6月30日)以降において,原告が本件考案につき実用新案登録出

願をしたことに基づく権利行使をする余地はおよそなかったというべきであ

るから,原告の主張する補償金請求権の行使は認められない。なお,本件実

用新案権は存続期間満了後の平成22年4月2日に登録を受けているが,こ

の点は上記判断に影響するものでない。

これに対し,原告は,前記のとおり,補償金請求権と実用新案権は別個の

権利であり,実用新案権に関する旧実用新案法15条1項が補償金請求権に

適用されることはない旨主張するが,上記で説示したところに照らし,これ

を採用することはできない。

2 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,





理由がない。

第4 結論

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 橋 彩




裁判官 植 田 裕 紀 久

(別紙省略)