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関連ワード 出願経過 /  実施許諾 /  考案 /  先願 /  冒認(冒認出願) /  実施許諾(実施の許諾) /  先願 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 3264号 損害賠償請求事件
原告A
被告国
被告国指定代理人 小山恵一郎
同 益本吉啓
同 木太淳一
同 小林進
同 佐藤一行
被告B
被告C
被告B及び同C訴訟代理人弁護士 飯島歩
同 山浦美紀
被告D
被告D訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 井上裕史
同 田上洋平
被告E
被告 ジョンソン株式会社
被告ジョンソン株式会社訴訟代理人弁護士 渡部喬一
同 小林好則
同 仲村晋一
同 近藤勝彦
同 吉原政幸
同 守田大地
被告 タイホー工業株式会社
被告タイホー工業株式会社訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 井上裕史
同 田上洋平
同補佐人弁理士 福田賢三
同 福田伸一
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/07/29
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告国は、原告に対し、金5000万円を支払え。
(2) 被告B、同C、同D、同E、同ジョンソン株式会社及び同タイホー工業株式会社は、原告に対し、各自金400万円を支払え。
2 請求の趣旨に対する答弁(被告ら) (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 原告は、昭和52年3月ころ、車両のエアーワイパを考案したので、弁理士である被告Dに対し、実用新案登録出願の手続を依頼したが、その際、原告がハスの葉に水をかけても水滴が葉に残らないことにヒントを得て考案した、油膜を車両のウインドガラスの内外にコーティングする撥水剤及び防曇剤の考案についても、口頭で、実用新案登録出願の手続を依頼した。
(2) 原告は、昭和52年6月21日、考案の名称を「車両のエアーワイパ」とする上記(1)記載のエアーワイパの考案につき実用新案登録出願(実願昭52-82155)をした。同出願については、昭和54年1月22日に出願公開(実開昭54-9438)され、昭和57年12月13日に出願公告(実公昭57-58027)がされた後、昭和58年8月10日、実用新案登録第1501677号として登録された(以下、この実用新案権を「本件実用新案権」、その考案を「本件考案」という。)。
(3) 被告Dは、上記(1)記載の撥水剤及び防曇剤の考案については、原告から出願の依頼を受けながらこれを出願せず、また、依頼人の秘密を保持するという職務上の義務に違反して、その内容を第三者に漏洩した。
(4)ア 被告タイホー工業株式会社(以下「被告タイホー工業」という。)は、
昭和54年12月24日、発明者をFほか2名、発明の名称を「防曇剤」とする発明(以下「本件発明@」という。)について特許出願(特願昭54-166942)をした。同特許出願は、昭和56年7月23日に出願公開(特開昭56-90876)され、昭和62年10月7日に出願公告(特公昭62-47227)された後、昭和63年5月30日に特許第1441167号として登録された(以下、
この特許権を「本件特許権@」という。)。
イ 被告Bは、特許庁審査官であった者であるところ、本件発明@は先願である本件考案と同一であったから、本件発明@の出願に対し拒絶査定すべきであったにもかかわらず、これを看過し、特許査定した。
(5) 被告タイホー工業は、フロントガラス撥水剤(名称「自動車用くもり止め剤」、商品番号20970。以下「本件商品@」という。)を販売している。本件商品@は、シリコーンオイルを使用した油膜取りクリンビューであって、泡状にしてフロントガラス内側にコーティングして油膜を防止するものであり、本件発明@の実施品である。しかし、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、油膜を防止する防曇剤の考案も含まれており、本件実用新案権より後願である本件特許権@は無効であるから、被告タイホー工業が本件商品@の販売によって得た利益の一部は、
原告が取得すべきものである。
(6) 被告タイホー工業は、本件商品@の販売により何億円もの利益を得た。
被告Dが、原告による上記(1)の防曇剤の考案について出願していれば、又はその考案の内容を第三者に漏洩しなければ、また、被告Bが本件発明@について拒絶査定していれば、被告タイホー工業に本件特許権@が付与されることはなかった。
原告は、上記の結果、本来原告が得たであろう400万円を得ることができなかった。
(7)ア 被告Eは、昭和49年2月9日、自己を発明者として、発明の名称「艶出し撥水剤」との発明(以下「本件発明A」という。)について特許出願(特願昭49-16487)をした。同特許出願は、昭和50年12月19日に出願公開(特開昭50-157288)され、昭和53年2月13日に出願公告(特公昭53-3992)された後、昭和53年9月22日に特許第925546号として登録された(以下、この特許権を「本件特許権A」という。)。
イ しかし、本件発明Aの出願は、原告が被告Dに実用新案登録出願の依頼をしていた内容について、被告E名義で冒認出願されたものである。
ウ 被告Cは、特許庁審査官であった者であるところ、本件発明Aの出願が冒認出願であることを理由に拒絶査定すべきであったにもかかわらず、これを看過し、特許査定した。
(8) 被告ジョンソン株式会社(以下「被告ジョンソン」という。)は、被告Eから本件発明Aの実施許諾を受けて、商品名「レインダッシュスーパーロング」という撥水剤(以下「本件商品A」という。)を販売し、何億円もの利益を得た。
被告Dが上記(1)の撥水剤の考案について出願していれば、又は、その考案の内容を被告Eに漏洩せず、被告Eがこれを冒認出願しなければ、また、被告Cが拒絶査定していれば、本件特許権Aは原告に付与され、原告は被告ジョンソンから実施許諾料等を受けることができた。
原告は、上記の結果、本来原告が得たであろう400万円を得ることができなかった。
(9) 被告国は、上記(4)イ及び(7)ウのとおり、特許庁審査官が違法に特許査定をしたことによって原告に損害を与えたから、国家賠償法に基づき原告が被った損害5000万円を賠償する義務がある。
(10) よって、原告は、被告らに対し、それぞれ請求の趣旨記載のとおりの金員の支払を求める。
2 被告国の請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)、(3)、(5)は認否の限りでない。
(2) 請求原因(2)は認める。
(3) 請求原因(4)について ア 請求原因(4)アは認める。
イ 同イは否認する。本件発明@に係る出願については、拒絶の理由がなかったことから特許査定がされたのであって、審査の手続に誤りはない。
(4) 請求原因(6)のうち、被告Bの行為が原告の損害と因果関係があるとの部分は否認する。その余は認否の限りではない。
(5) 請求原因(7)について ア 請求原因(7)アは認める。
イ 同イは不知。
ウ 同ウは否認する。本件発明Aに係る出願については、拒絶の理由がなかったことから特許査定がされたのであって、審査の手続に誤りはない。
(6) 請求原因(8)のうち、被告Cの行為が原告の損害と因果関係があるとの部分は否認する。その余は認否の限りではない。
(7) 請求原因(9)は争う。本件特許権@及びAは、特許法等の規定に基づき適法な審査を経て登録されたものであり、審査の過程において違法な行為は何ら存しない。
3 被告B及び同Cの請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)、(3)、(5)、(9)については認否の限りではない。
(2) 請求原因(2)は認める。
(3) 請求原因(4)について ア 請求原因(4)アは認める。
イ 同イは否認する。
(4) 請求原因(6)のうち、被告Bが拒絶査定していれば原告が販売利益を得ることができたとの事実は不知。その余は認否の限りではない。
(5) 請求原因(7)について ア 請求原因(7)アは認める。
イ 同イは不知。
ウ 同ウは否認する。
(6) 請求原因(8)のうち、被告Cが拒絶査定していれば、原告が利益を得られたとの部分は否認する。その余は認否の限りではない。
(7) 原告は、被告B及び同Cが特許庁審査官としてした特許査定という行政行為を捉えて不法行為を構成すると主張するものと考えられる。しかしながら、かかる行為は、国家賠償法1条1項にいう国の公権力の行使に当たる公務員による職務行為であるから、仮に公務員個人に過失があったとしても、それによる損害の賠償は国家賠償法に基づいて国に対して求められるべきものであり、公務員個人が不法行為責任を負うことはない(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等)。
4 被告Dの請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)のうち、原告が被告Dに対し撥水剤及び防曇剤の考案について実用新案登録出願の手続を依頼した事実は否認する。
(2) 請求原因(2)は認める。
(3) 請求原因(3)は否認する。
(4) 請求原因(4)のアは認めるが、同イは不知。
(5) 請求原因(5)は不知。
(6) 請求原因(6)のうち、被告Dの行為により原告が損害を被ったとの部分は否認し、その余は不知。
(7) 請求原因(7)について ア 請求原因(7)アは認める。
イ 同イは否認する ウ 同ウのうち、本件発明Aが被告Eによる冒認出願であることは否認し、
その余は不知。
(8) 請求原因(8)のうち、被告Dの行為により原告が損害を被ったとの部分は否認し、その余は不知。
(9) 請求原因(9)は不知。
(10) 本件発明Aに関する原告の本訴における主張は、原告と被告Dとの間の大阪地方裁判所平成11年(ワ)第2664号損害賠償請求事件における原告の主張した請求原因事実と同じである。同事件での原告の請求は同裁判所の判決で棄却され、大阪高等裁判所(平成11年(ネ)第2604号事件)で控訴も棄却されている。したがって、本訴における原告の被告Dに対する請求は、前訴の確定判決の効力に抵触する。
5 被告Eの請求原因に対する認否 (1) 請求原因(7)について ア 請求原因(7)アは認める。
イ 同イは否認する。
ウ 同ウのうち、本件発明Aが被告Eによる冒認出願であることは否認する。
(2) 請求原因(8)のうち、被告Eの行為により原告が損害を被ったとの部分は否認する。
(3) 本件特許権Aについては、原告から提起された無効審判が、冒認出願を理由とするものも含め、すべて理由がないものとして決着済みである。
被告Eは、本件発明Aの特許出願前はもちろん、その後も被告Dとは何ら接触がなく、冒認の余地はあり得ない。また、本件発明Aの特許出願は、原告が被告Dに撥水剤に関する考案の出願を依頼したという日よりはるか以前であるから、
原告の冒認の主張は根拠がない。
6 被告タイホー工業の請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)は不知。
(2) 請求原因(2)は認める。
(3) 請求原因(3)は不知。
(4) 請求原因(4)アは認め、同イは不知。
(5) 請求原因(5)のうち、被告タイホー工業が本件商品@(自動車用くもり止め剤)を販売していることは認める。同商品(商品名「クリンビュー」)は、本件特許権@とは別の特許権の実施品である。被告タイホー工業は、本件特許権@の実施品である眼鏡用防曇剤を製造販売している。その余の事実は否認する。
(6) 請求原因(6)のうち、被告タイホー工業が、本件商品@及び上記眼鏡用防曇剤の製造販売により利益を得たことは認めるが、その余は否認する。
(7) 請求原因(7)アは認める。同イ、ウは不知。
(8) 請求原因(8)、(9)は不知。
7 被告ジョンソンの請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)ないし(7)及び(9)は不知。
(2) 請求原因(8)のうち、被告ジョンソンが本件商品A(商品名「レインダッシュスーパーロング」)をかつて販売していたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(3) 原告は、被告ジョンソンに対し、本件商品Aの販売が原告の権利を侵害しているとして損害賠償請求訴訟を提起したが(大阪地方裁判所平成11年(ワ)第2664号損害賠償請求事件)、平成11年7月13日、同裁判所において原告の請求を棄却する判決が出され、さらに原告の控訴(大阪高等裁判所平成11年(ネ)第2604号損害賠償請求控訴事件)に対し、同年12月21日、原告の控訴を棄却する判決が出されて、同判決は確定している。したがって、原告の被告ジョンソンに対する請求は、上記確定判決の既判力が及んでいるから、棄却されるべきである。
理 由1 請求原因(2)(本件考案についての出願経過等)、同(4)ア(本件発明@についての出願経過等)及び同(7)ア(本件発明Aについての出願経過等)の各事実は、原告と被告国、同B、同C、同D、同タイホー工業との間で争いがなく、請求原因(7)アについては、原告と被告Eとの間でも争いがない。原告と被告ジョンソンとの間では、甲第5号証の1、2、乙A第1、第2号証により、請求原因(7)アの事実を認めることができる。
また、請求原因(5)のうち、被告タイホー工業が本件商品@(自動車用くもり止め剤)を販売していることは、原告と被告タイホー工業との間では争いがなく、請求原因(8)のうち、被告ジョンソンが本件商品A(商品名「レインダッシュスーパーロング」)を少なくとも過去に販売していたことは、原告と被告ジョンソンとの間では争いがない。
2 確定判決の既判力について 被告D及び同ジョンソンは、本訴における原告の同被告らに対する請求が同一当事者間の前訴の確定判決の効力(既判力)に抵触する旨主張するので、検討する。
丙第1号証、己第1、第2号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告D及び同ジョンソンを被告として、大阪地方裁判所に損害賠償請求等の訴訟(同庁平成11年(ワ)第2664号損害賠償請求事件)を提起したこと、同訴訟において、原告は、実用新案登録出願を依頼する目的で撥水剤のアイデアを弁理士である被告Dに開示したのに、被告Dは、上記アイデアを出願せず、秘密を保持するという職務上の義務に違反してこのアイデアを盗用し、第三者である被告E(同訴訟では当事者になっていない。)の名義を用いて本件発明Aにつき特許出願し、登録された(本件特許権A)こと、被告Dは、被告ジョンソンとの間で、本件特許権Aについての実施契約を締結して、商品名「レインダッシュスーパーロング」として販売していること、これにより原告は損害を被ったことなどを主張して、不法行為に基づく損害賠償等を請求していたこと、同訴訟において同裁判所は平成11年7月13日、原告の請求は理由がないとしていずれも棄却する旨の判決を言い渡したこと、
原告は同判決に対し控訴したが(大阪高等裁判所平成11年(ネ)第2604号損害賠償請求控訴事件)、大阪高等裁判所は平成11年12月21日控訴を棄却する旨の判決を言い渡したこと、この判決は確定するに至ったこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実に基づき、上記前訴における原告の請求原因と、本訴における原告の被告D(本件発明Aに関するもの)及び同ジョンソンに対する請求原因とを対比すると、被告Dが原告から撥水剤の考案について実用新案登録出願手続の依頼を受けたのに、出願手続をせず、考案内容を盗用ないし他に漏洩し、本件発明Aについて被告E名義により冒認出願されて特許登録となり、被告ジョンソンが本件発明Aの実施品である本件商品Aを販売して利益を得ており、原告は損害を被ったとして、不法行為による損害賠償を請求するものである点で実質的に同一であるから、
前訴と本訴とでは訴訟物が同じであるといわざるを得ない。
そうすると、本訴請求のうち、原告の被告ジョンソンに対する請求及び同Dに対する請求のうち本件発明Aに関する部分は、前訴の確定判決の既判力により棄却を免れないものである(なお、上記被告両名についても、念のために前訴の既判力と別に本訴請求の当否を判断しておく。)。
3 請求原因(1)について (1) 上記1により認められる請求原因(2)の事実によれば、原告は、平成52年6月21日に考案の名称を「車両のエアーワイパ」とする考案(本件考案)につき実用新案登録出願をしているものであり、甲第2号証の3(乙第2号証)によれば、出願代理人は弁理士である被告Dであること、本件考案の内容は、実用新案公報の記載によれば、車両に通常具備される機械式ワイパの問題点(前方視界が左右に揺動するワイパにより遮られ、快適な運転が困難であること、前面のウインドガラスに油膜が付着しやすいという欠点があること、前面ウインドガラスの全面をワイパでぬぐうことは困難で、隅部は汚れたままであること)を解決する、車両の前面のウインドガラスの前方側に設置したエアーノズルから噴出するエアーによってエアーカーテンを形成する車両のエアーワイパの技術に関するものであることが認められる。
上記事実によれば、原告は、本件考案の出願日である昭和52年6月21日より前に、エアーワイパに関する本件考案の内容を弁理士である被告Dに開示して説明し、実用新案登録出願の手続を依頼したものと認められる。
(2) 原告は、被告Dに本件考案の実用新案登録出願手続を依頼した際に、撥水剤及び防曇剤の考案についても実用新案登録出願手続を依頼した旨主張する。しかし、このような事実を認めるに足りる証拠は存在しない。原告の主張する請求原因からすると、原告が被告Dに出願手続を依頼したという撥水剤及び防曇剤の考案は、それぞれ本件発明A及び@と同様の内容のものと考えられるが、本件発明@は、メガネ、ゴーグルなどに使用される水溶性防曇基剤に、ある種のリン酸エステル系界面活性剤を配合することにより防曇機能を損なうことなく、拭き取り性を向上させるようにした防曇剤に関する発明(乙@第2号証)、本件発明Aは、主として自動車の車体に使用するシリコーンオイルを配合した艶出し撥水剤に関する発明であって(乙A第2号証)、上記(1)のような内容の本件考案とは全く別個の発明であり、これらの出願代理人も被告Dとは異なる人物であること(上記各証拠)が認められる。さらに、本件発明Aについては、上記1により認められる請求原因(7)アの事実によれば、昭和49年2月9日に被告Eによって出願されているのであり、
原告が被告Dに撥水剤の考案の出願手続を依頼したという昭和52年3月より3年も前のことであるから、原告主張のような事実があり得たとは考えられない。
以上のとおり、原告が被告Dに対し、本件考案の出願手続を依頼した際に、
撥水剤及び防曇剤の考案についても開示して、実用新案登録出願の手続を依頼したとの事実を認めることはできない。
4 請求原因(3)について 上記認定事実によれば、被告Dが原告から撥水剤及び防曇剤の考案について実用新案登録出願手続の依頼を受けた事実があったとは認められないのであるから、
被告Dが原告のためにその出願をしなかったことや第三者にその内容を漏洩するということもあり得ないことになる。
5 請求原因(4)イについて 原告は、本件発明@は先願である本件考案と同一であったから、被告Bは特許庁審査官として拒絶査定すべきであったのに、これを看過して特許査定した旨主張する。しかるところ、弁論の全趣旨によれば、被告Bは特許庁審査官として本件発明@の特許出願の審査に関わったことが認められる。しかし、上記3認定の事実によれば、本件発明@が本件考案と同一であったとはいえないし、その他、審査において違法があったことを認めるに足りる証拠はない。なお、乙@第1号証、第3、
第4号証によれば、原告は、平成13年4月29日、本件発明@に係る防曇剤は原告が先に考案したものであるのに、被告タイホー工業が冒認出願したものであるとの趣旨により、無効審判請求をしたこと、これに対し特許庁は平成15年4月7日、審判請求は成り立たない旨の審決をし、その後同審決は確定するに至っていることが認められる。この事実からみても、原告の上記主張は理由がないものである。
6 請求原因(5)、(6)について 上記3ないし5で判示したところによれば、被告タイホー工業が本件商品@を販売したことによって利益を得たからといって、また、本件商品@と別に本件発明@の実施品を製造販売したとしても、そのことが不法行為を構成するとはいえず、
同被告が利益を得たことをもって原告に損害が発生したということはできない。なお、本件商品@が本件考案の実施品であることを認め得る証拠はない。
7 請求原因(7)イ、ウについて 原告は、本件発明Aの出願は、原告が被告Dに撥水剤について実用新案登録出願の依頼をしていた内容について、被告E名義でされた冒認出願であり、被告Cは特許庁審査官として拒絶査定すべきであったのに、これを看過して特許査定した旨主張する。しかるところ、弁論の全趣旨によれば、被告Cは特許庁審査官として本件発明Aの特許出願の審査に関わったことが認められる。しかし、上記3認定の事実によれば、本件発明Aが、原告が被告Dに実用新案登録出願の依頼をしていた内容と同じであったとは認められず、被告Eによって冒認出願されたという証拠はないし、その他、本件発明Aの特許出願の審査において違法があったことを認めるに足りる証拠はない。なお、乙A第1号証、第3、第4号証によれば、原告は、平成14年2月20日、本件発明Aに係る艶出し撥水剤は原告が先に考案したものであるのに、被告Eが冒認出願したものであるとの趣旨により、無効審判請求をしたこと、これに対し特許庁は平成15年4月24日、審判請求は成り立たない旨の審決をし、その後同審決は確定するに至っていることが認められる。この事実からみても、原告の上記主張は理由がないものである。
8 請求原因(8)について 被告ジョンソンが少なくとも過去に、本件商品Aを販売していたことは上記1のとおりであるが、本件商品Aが本件発明Aの実施品であるか否かにかかわらず、
上記7で判示したところによれば、被告ジョンソンによる本件商品Aの販売が原告に対して不法行為を構成するとは認められない。なお、本件商品Aが本件考案の実施品であることを認め得る証拠はない。
9 被告B及び同Cに対する請求について 被告B及び同Cに対する請求が理由がないことは、上記5及び7で判示したところから既に明らかであるが、原告の同被告らに対する請求は、国家賠償法1条1項にいう国の公権力の行使に当たる公務員による職務行為を不法行為とする請求であるところ、公権力の行使に当たる国の公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、当該職務行為について公務員個人はその責を負わないものと解すべきであるから(同被告ら挙示の最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)、この点からいっても、上記請求は理由がない。
10 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美