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事件 平成 9年 (ワ) 4084号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 カワモリ産業株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 峯田勝次
同 池田直樹
同 武田 純右補佐人弁理士 【B】
被告 松村産業株式会社右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 池下利男
同 村田秀人 右補佐人弁理士 【D】
同 【E】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/09/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙ロ号物件目録2記載の折り畳み式可動門扉を製造し、販売し、貸与してはならない。
二 被告は、原告に対し、金三六二〇万九八四九円及び内金一九六一万九九四八円に対する平成九年五月七日から、内金一六五八万九九〇一円に対する平成一一年一月一日から、支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙イ号物件目録1、2及びロ号物件目録1、2記載の折り畳み式可動門扉を製造し、販売し、貸与してはならない。
2 被告は、原告に対し、金五〇〇六万六八三五円及びこれに対する平成九年五月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告は、日刊建設工業新聞の二ないし一〇面に、段数三段スペース三分の一(一二・五センチメートル)の大きさで、二回、別紙謝罪広告目録記載の文案により、謝罪広告を掲載せよ。
事案の概要
一 争いのない事実等 1 原告は、建築用仮設資材の製造、販売等を業とする会社であり、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」、本件考案の実用新案出願に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。
考案の名称 折り畳み式可動門扉 出願日 昭和六一年一月一八日(実願昭六一ー五六一四) 出願公告日 平成四年一二月二一日(実公平四ー五四三一五) 登録日 平成五年九月二四日 登録番号 第一九八五九八九号 実用新案登録請求の範囲 本判決添付実用新案公報(甲二、以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおり。
2 本件考案の構成要件は、次のとおり分説できる(以下、符号に応じて「構成要件イ」のように表示する。)。 イ 並立するたて格子1、1間を伸縮リンク2で連結して扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能とし、かつ横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートAのたて格子1の適所にヒンジ受け16を設けるとともに、
ロ 折り畳み自在とした板状パネル14の単位パネル14aの両端部にはヒンジ本体18を取り付け、前記ヒンジ受け16とヒンジ本体18とを着脱自在に枢着し、
ハ このヒンジ受け16とヒンジ本体18との枢着時にはパネル14が伸縮リンク式ゲートAを隠蔽でき、非枢着時には伸縮リンク式ゲートAのみにより非隠蔽状態となるように構成してある ことを特徴とする折り畳み式可動門扉。
3 本件考案は、次の作用効果を有する。
(一) ヒンジ受けとヒンジ本体の枢着時にはパネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽でき、非枢着時には伸縮リンク式ゲートのみにより非隠蔽状態となるように構成してなることから、隠蔽が必要な場合と不要の場合とに選択使用することができる(本件公報8欄15〜23行)。
(二) 隠蔽時にも、伸縮リンクを使用した骨組み構造と折り畳み自在なパネルとが一体であるから、従来の単なるパネル構造、又は上下両端部にパンタグラフ状の羽根板を有するパネル構造の門扉に比べて十分な強度が得られる(本件公報8欄24〜29行)。
4 被告は、平成五年一一月一八日から、別紙イ号物件目録1記載の折り畳み式可動門扉(LGCシリーズ、以下「イ号物件」という。)及び別紙ロ号物件目録2記載の折り畳み式可動門扉(LGPシリーズ、以下「ロ号物件」という。)の製造、販売及び貸与をしている(原告は、被告がイ号物件目録2及びロ号物件1記載の折り畳み式可動門扉〔なお、各目録の1と2の間の相違点は主として斜材の数の違いである。〕も製造、販売等をしていると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。)。
このうち、イ号物件は、板状パネル又は単位パネル(以下、単に「パネル」という。)を具備していないのに対し、ロ号物件は、パネルを備えている。
二 原告は、被告によるイ号及びロ号物件の製造、販売、貸与は、本件実用新案権を侵害しており、原告は被告のイ号物件及びロ号物件の販売、貸与により合計金九九四九万八一六〇円の損害を被り、信用を害されたとして、被告に対し、イ号物件及びロ号物件の製造、販売、貸与の差止め、並びに、損害の内金五〇〇六万六八三五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年五月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、別紙謝罪広告目録記載の文案による謝罪広告を求めた。
三 争点 1 イ号物件の製造、販売等は、本件実用新案権の間接侵害に該当するか。
2 ロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するか。
(一) 構成要件ロ該当性について (二) 構成要件ハ該当性について 3 本件考案は全部公知であり、本件実用新案権に基づく権利行使は権利濫用として許されないか。
4 損害額
争点に関する当事者の主張
一 争点1(イ号物件の製造、販売等は、本件実用新案権の間接侵害に該当するか)について 【原告の主張】 1 イ号物件は、パネルを備えていないが、パネルとセットで使用することを当然に予定して販売されているものであり、イ号物件にパネルを取り付けるとロ号物件と同じになり、本件考案技術的範囲に属するから、イ号物件の製造、販売等をする行為は本件実用新案権の間接侵害に該当する。
ところで、間接侵害における「他の用途への経済的、商業的、実用的利用」とは、単にその物が他の用途に使えば使い得るという程度の実務的又は一時的な使用の可能性があるだけでは足りず、他の用途が「商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上承認され得るものであり、かつ原則としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されている」ことを要するものと解される。
イ号物件は、ロ号物件との「兼用シリーズ」として販売され、カタログの図面も全く同一のものが使用されている。また、イ号物件は、たて格子の部分にヒンジ受けが設けられ、単なる伸縮リンク式ゲートとは構造が異なる上、ヒンジ受けの位置がロ号物件のパネルを取り付けることを予定して設計されている。しかも、
被告は、単なる伸縮リンク式ゲートを「CMシリーズ」としてイ号物件とは別に販売しているのであるから、イ号物件には、ロ号物件のゲート部分としての用途以外には「商業的、経済的に実用性ある用途として社会通念上承認され得る」用途はなく、そのような用途が実用化されているともいえない。
2 被告は、イ号物件は、ゲートの下半分のみを隠蔽する「CKシリーズ」のゲート部分や単なる伸縮リンク式ゲートとしても利用し得ると主張するが、それでは、ヒンジ受けが全く意味を持たなくなり、実用性のある用途とはいえない。また、「CKシリーズ」は、上部梁から吊車で吊り下げる門型ゲートに係るもので、
伸縮リンクを必要としないゲートであるから、イ号物件を「CKシリーズ」に用いることはあり得ない。
【被告の主張】 1 イ号物件は、伸縮リンク機構からなり、「LGCシリーズ」という商品名で単体で販売されている折り畳み式可動門扉であり、本件考案の構成要件である「板状パネル」及び「必要に応じて簡単に隠蔽と非隠蔽状態が得られる構造」を具備しないので、本件考案技術的範囲に属しない。また、イ号物件は、パネルを具備しないで使用することができるものであり、現実にも、仮設用門扉としては非隠蔽状態、すなわちパネルなしで使用することが多いから、イ号物件は、本件考案に関わる物品の「製造にのみ使用するもの」ではなく、イ号物件について間接侵害が成立する余地はない。
2 原告は、イ号物件のたて格子にヒンジ受けが設けられていることを根拠に、イ号物件には、ロ号物件の一部分となること以外の実用化がされていないと主張する。
しかし、イ号物件とロ号物件は、製造コストの低減という観点から「適所にヒンジ受けを設けたたて格子」という部品を共通化しているのであるから、イ号物件にヒンジ受けが存在することは不自然ではないし、イ号物件とロ号物件がたて格子及びヒンジ受けを共用することも、共用性を高めるための工夫にすぎない。また、ヒンジ受けの存在は、伸縮自在の仮設用門扉としてのイ号物件の効用とは全く無関係であり、ヒンジ受けに枢着されるべきパネルとして、本件考案とは異なる種々のものが存在し得ることは当業者には自明である。
二 争点2(ロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するか)について 1 同(一)(構成要件ロ該当性について) 【原告の主張】 ロ号物件の構成Bは、本件考案の構成要件ロを充足する。
構成要件ロにいう「着脱自在」とは、ヒンジ本体とヒンジ受けを連結棒(ピン)で枢着する際に溶接、接着することを排除する趣旨であり、抜け止め具を連結軸に設けることを排除する趣旨ではない。ロ号物件の抜け止め具14は、指で抜け止めを立てるだけでヒンジ受けとヒンジ本体を容易に取り外すことができるという、抜け止めとして最も単純な構造を有しているが、これは、パネル装着時にパネルが自然力により外れてしまわないよう安定性を確保する目的で取り付けられており、ロ号物件のヒンジ受けとヒンジ本体が着脱自在であることを裏付けるものである。現に、被告は、ロ号物件を「兼用シリーズ」として販売しており、隠蔽と非隠蔽とを自在にできることを目的としていることは明らかである。
【被告の主張】 (一) ロ号物件は、構成要件ロの「ヒンジ受けとヒンジ本体とを着脱自在に枢着し」という要件を欠く。
ロ号物件は、その構成Bのように、「ヒンジ受け2の貫通孔10及びヒンジ本体9の貫通孔11に連結軸12を挿通することにより枢着可能とし、連結軸12は、
貫通孔10、11を挿通不能な頭部13及び下端の三角形状の抜け止め具14によって抜け止めがなされた状態で挿通され」ており、本件考案のように、必要に応じて隠蔽処理を施したり隠蔽を解除すべく「簡単に取り外せる」という意味での「着脱自在」の構造ではない。
本件明細書には、本件考案の課題について「必要に応じて簡単に隠蔽処理を施したり隠蔽を解除することができて兼用可能」、効果について「門扉により隠蔽が必要な場合には上記パネルをヒンジ連結により伸縮リンク式ゲートに取り付け、また隠蔽が不要の場合にはヒンジ連結を解除して上記パネルを取り外すことにより、両方の目的に容易に選択使用することができ、極めて使い勝手が良い」との記載があり、本件考案の本質的特徴は、必要に応じて簡易に隠蔽と非隠蔽を使い分け使用できることにあるといえる。しかるに、ロ号物件は、必要に応じて隠蔽と非隠蔽を使い分けるものではなく、隠蔽状態か非隠蔽状態かのいずれかで使用されるものであり、構成Bにいう「三角形状の抜け止め具14」も、ロ号物件を解体する際、抜け止め具を取り外して連結軸をヒンジから抜き出すことによってパネルを取り外すためのものであり、門扉としての使用中に、パネルを取り付けたり取り外したりすることは予定されていない。本件明細書は、「簡単に」「容易に」「極めて使い勝手がよい」なる表現を用いているが、このような表現は、ロ号物件のような複雑な構造の抜け止め具を連結軸に設けることを排除する趣旨で記載されたものと解される。
(二) 原告は、抜け止め具14は、ヒンジ受けとヒンジ本体が「着脱自在」であるからこそ取り付けられており、その存在は、かえって、ロ号物件が「着脱自在」の構造であることを裏付けると主張する。
しかしながら、着脱自在とは、「着」も「脱」も簡単自在であることを意味し、ヒンジ本体がヒンジ受けから抜けることがあるからといって、抜くことが簡単自在であるとはいえない。仮設用門扉においては、いったん、パネルに設けられたヒンジ本体を伸縮リンクのたて格子に設けられたヒンジ受けに取り付けると、
その後、使用時において取り外すことがないため、着脱が簡単にできないように抜け止め構造としているのであり、ロ号物件において、ヒンジ受けとヒンジ本体が簡単に離脱して、伸縮リンクからパネルが取り外しできることは非常に危険である。
なお、「兼用シリーズ」とは、パネルを除いては共通部品を使用し、購入者が、購入時にパネルを枢着したものか否をニーズに合わせて選択できるという意味であるから、これをもって、その非共通部分であるパネルの着脱が自由であり、かつ、それを目的としているとはいえない。
2 同(二)(構成要件ハ該当性について) 【原告の主張】 ロ号物件の構成C、C′は、本件考案の構成要件ハを充足する。
構成要件ハの「伸縮リンク式ゲートを隠蔽できる」とは、パネルが伸縮リンクの下端までを隠蔽するという趣旨であり、ロ号物件はそのような構成を備えている。
本件明細書には、「枢着時にはパネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽でき」るとあるのみで、パネルの下端が地表まで到ることを要するという限定はなく、実施例にもキャスタを隠蔽する構造のゲートはない。実施例を示す第3図によれば、
伸縮リンク式ゲートAのキャスタ8は、パネルに対して垂直方向に交差させた取付台に対向して、二つの車輪を取り付けた構造を有しており、この場合、パネルを伸縮リンクの下端より下方に延長することは、パネルを折り畳む際、パネルの下端がキャスタ本体に当たり折り畳み不能になることから、そのような構成のものは、物理的に「折り畳み式可動門扉」であり得ない。
【被告の主張】 (一) ロ号物件は、ロ号物件目録添付図面第1図のように、パネルがゲート全体を隠蔽せず、下部が非隠蔽状態となっているため、本件考案の構成要件ハの「ヒンジ受けとヒンジ本体との枢着時にはパネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽でき」るという要件を欠く。
原告は、「パネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽できる」の意味を「パネルの下端が本件考案の伸縮リンクの下端までを隠蔽すること」に限定するが、本件明細書中には、かかる限定に関する記載は一切存在せず、それに関する作用効果の記載もない。また、原告は、キャスタがパネルに対して垂直方向に交差させた取付台に対向する二つの車輪を取り付けた構造であるから、パネルを延長しようとするとキャスタ本体に当たり、それ以上下方に延長することは不可能であると主張する。しかし、本件考案明細書には、パネルの形状についても、キャスタの形状や取付方法についても詳細な説明が存在しないのであり、原告の主張は、本件考案の一例である実施例を示す第3図をもとに、技術的に可能か否かを議論するという、
甚だ根拠の乏しい議論にすぎない。そして、右原告主張を前提とすれば、本件考案は、パネルの下端が伸縮リンクの下端までを隠蔽している後記公知例1の構造と一致することになる。
(二) ロ号物件は、構成要件ハの「ヒンジ受けとヒンジ本体の枢着時にはパネルがゲートを隠蔽でき、非枢着時には非隠蔽状態になる」との要件を欠く。本件考案の課題は、必要に応じて簡単に隠蔽処理をしたり、隠蔽を解除することにあり、その効果は、必要に応じてパネルを着脱することにより隠蔽と非隠蔽を自在にすることができる使い勝手のよい門扉を提供することにある。しかし、ロ号物件は、仮設用であるため、本件考案のようにパネルを着脱することはなく、あくまでパネル付仕様か、伸縮リンクのみで使用するものであり、本件考案のようにヒンジ受けとヒンジ本体とを着脱自在にして隠蔽と非隠蔽を自在とするものではないのであるから、右構成要件を欠くことは明らかである。
三 争点3(本件考案は全部公知であり、本件実用新案権に基づく権利行使は権利濫用として許されないか)について 1 意匠登録第六二九五五二号の意匠公報記載の門扉(乙一、以下「公知例1」という。)について 【被告の主張】 (一) 公知例1は、本件考案と同じく「仮設門扉」に関するものであり、意匠公報の発行日は昭和五九年七月一八日であるから、本件考案の出願日(昭和六一年一月一八日)より前の公知文献である。
(1) 公知例1に係る物品は、意匠公報背面図によれば、@並列するたて格子の間がX状の伸縮リンクで連結され、Aパネルを除外すれば、扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能とし、かつ横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートであり、公報正面図によれば、Bたて格子の上下二か所に筒状のヒンジ受けが設けられているものであるから、本件考案の構成要件イを備えている。
(2) 公知例1に係る物品は、意匠公報右側面図によれば、単位パネルの両端部に筒状のヒンジ本体が取り付けられ、ヒンジ本体とヒンジ受けが枢着されており、「意匠の説明」の欄には、「門扉を2つ以上適宜に連結させて使用する事が可能である」と記載され、正面図及び平面図左端のたて格子には、ヒンジ受けが描かれている(正面図にはヒンジも描かれているが誤記であることが明らかである。)。これらの構成によれば、公知例1による物品が、門扉を3つ以上連結させてヒンジ受けにパネルのヒンジを枢着するものであること及び、パネルとゲートが着脱自在であること、すなわち、本件考案の構成要件ロを備えていることは、当業者に自明である。
(3) 公知例1は、ヒンジ本体とヒンジ受けとの枢着時にはパネル部が伸縮リンク式ゲートを隠蔽するが、非枢着時にはゲートのみにより非隠蔽状態となるものであり、本件考案の構成要件ハも備えている。ただし、公知例1のパネルはゲート全体を隠蔽せず、下部が非隠蔽状態となるので、被告の主張によれば、前記二、
2のとおり、「ゲート全体を隠蔽できる」という構成要件は欠くことになるが、これによっても、本件考案進歩性のないことは一見明白である。なお、公知例1のパネルは網枠部からなるので、ゲートを完全に隠蔽できるか否かという点は本件考案と異なるかもしれないが、これも単なる設計上の微差にすぎない。
以上によれば、当業者が、公知例1から本件考案が全部公知であると認識できることは明らかであり、仮に全部公知と評価されないとしても、本件考案進歩性の欠如により無効事由を有することは一見明白である。
(二) 原告は、公知例1の門扉のクロスされた斜材は、上からも下からも人が自由に出入りできるものであり、それ自体ではゲートとしての用をなさないパネル保持用の建具にすぎないと主張する。
しかしながら、本件明細書には、実用新案登録請求の範囲にも考案の詳細な説明にも、「ゲート」の意義について、人が自由に出入りできるものを除くとの記載はない。また、「自由に出入りできる」というのは、閉鎖状態でも人が無理をすれば出入りできるものを含み、「門扉」とは、出入りに多少の障害を与える機能を最狭義としつつ、境界を明確にする機能さえ有すればよいのであるから、公知例1の門扉が「ゲート」に当たらないとはいえない。
また、原告は、公知例1では、パネルがすべて網枠でなるので、内側を見えないようにすることはできないから、完全隠蔽状態にはならないことを理由に、公知例1は本件考案の作用効果を奏しないと主張する。しかしながら、本件明細書の実用新案登録請求の範囲考案の詳細な説明中にも、パネルがゲートを完全に隠蔽することを要する旨の記載はないから、パネルがゲートを完全に隠蔽するか否かは本件考案の構成要件と無関係であり、設計上の微差、工夫にすぎない。
【原告の主張】 (一) 公知例1には、本件考案の構成要件イの「扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能」という構成は開示されていない。本件考案の伸縮リンク式ゲートはリンクの上からも下からも出入りできないものであり、だからこそ「上部から下部に至り閉鎖可能」なのであるが、公知例1の門扉のクロスされた斜材は、上からも下からも人が自由に出入りできるものであり、それ自体ではゲートとしての用をなさないパネル保持用の建具にすぎない。
また、公知例1には、パネルとゲートが着脱自在であることの記載は存在しない。確かに、意匠公報の正面図には、ヒンジらしきものが描かれているが、
ヒンジには完全固定式の蝶番や可撓性部材からなる蝶番等も存在し、その方が一般的であるため、ヒンジが描かれていることのみでは、パネルとゲートが着脱自在であるか否かを判断するのは不可能である。
(二) 被告は、本件明細書には、実用新案登録請求の範囲にも考案の詳細な説明にも、ゲートについて、人が自由に出入りできるものを除くという記載がないことをもって、公知例1と本件考案が同一の構成であると主張する。しかし、本件考案は、「扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能」という点に構成上の特徴があり、「閉鎖可能」とは、人が自由に出入りできないことを意味することは、本件考案が門扉に係る考案であることからみて当然のことである。
また、被告は、公知例1の意匠公報に「門扉を二つ以上適宜に連結させて使用することが可能である」との記載があることをもって、公知例1のパネルとゲートが着脱自在であることが示唆されていると主張するが、門扉を複数連結できてもパネルを取り外せないゲートはいくらでもあり、門扉を複数連結できることと、パネルとゲートが着脱自在であることは全く別のことである。
本件考案は、ヒンジ本体とヒンジ受けの枢着時にパネルがゲートを隠蔽できることを特徴としており、「隠蔽する」とは、内側が見えないことを意味するところ、公知例1のように、パネルがすべて網枠でなるゲートでは、内側が見えないようにすることはできず、完全隠蔽状態にならないから、公知例1は本件考案の作用効果を奏することができず、本件考案とは全く異なることが明らかである。
2 ホリー株式会社製「ウィンディゲート」(以下「公知例2」という。)について 【被告の主張】 (一) ホリー株式会社は、本件考案の出願前から「ウィンディゲート」なる名称でゲートを製造販売しており、このゲートと本件考案が同一構造であることは明白である。
公知例2のパンフレット(乙二の1)は、裏面右下の「60.8 10,000 A」という記載及び裏面左下の「昭和60年8月現在の製品仕様です」との記載からみて、本件考案出願日(昭和六一年一月一八日)より前の公知文献であり、公知例2は、本件考案の出願前に公然知られていたといえる。なお、「ウィンディゲート」の取扱説明書(乙二の2)の発行年月日は、本件考案出願後の昭和六一年四月一日であるが、そこには、パンフレット記載の製品の裏面構造図及び仕様表がそのまま記載され、掲載商品の構造及び機能もパンフレットと全く同じであるから、公知例2が公知になった時期はパンフレット発行時であり、取扱説明書発行時ではない。
取扱説明書が販売開始から八か月遅れたのは、この種の門扉が現場作業員にとって簡単に取付工事できるもので、特に取扱説明書が必要でなかったからにすぎない。
(二) 公知例2の物品は、本件考案と同じく「門扉」「ゲート」に関するものであり、パンフレットの裏面構造図によれば、@並列するたて格子が存在し、このたて格子がX状の伸縮リンク(ブレース)で連結されている、Aパネルを除外すれば、扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能としかつ横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートが存在する、Bたて格子の上下二か所に筒状のヒンジ受けが設けられているという、本件考案の構成要件イと一致する構成を有している。
また、公知例2の物品は、取扱説明書四頁の組み付け手順中「パネルを柱に取付ける」の説明欄に、「パネルフレームの固定用パイプ(本件考案の筒状のヒンジ本体に相当する)を中間部柱(たて格子に相当する)の固定用パイプ(ヒンジ受けに相当する)に乗せてヒンジピンを通して松葉ピンで止める」の記載があることからみて、単位パネルの両端部に筒状のヒンジが取り付けられ、ヒンジ本体とヒンジ受けが枢着されていることが明らかである。しかも、構造図のヒンジ受けの下部には、ピンの下端部が描かれており、ヒンジ本体とヒンジ受けが着脱自在であることも明らかであるから、公知例2の物品は、構成要件ロと一致する構成を有している。
さらに、公知例2の物品は、パネルを付けた状態でブレースをすべて隠すことが可能であり、構成要件ハと一致する構成を有している。
【原告の主張】 (一) 公知例2のパンフレットに掲載された門扉の構造は、パネルの網枠を除いて公知例1と同一であり、パネルが着脱自在であることを示す記載はない。なお、ヒンジが写真に写っているだけでは、パネルが「着脱自在」である構成を示唆したことにはならない。
仮に、公知例2の門扉のパネルが取り外し可能であるとしても、パネルを取り外した際に残る斜材は、パネルを支える立て具にすぎず、「扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能」という要件を備えるものではないし、伸縮リンクの中央交差部は地表からせいぜい七五センチメートル程度の高さしかなく、容易に人が入ることができるものであるから、パネルを取り外した場合には、
人の出入りを遮断するという門扉本来の目的は全く達成されない。
また、取扱説明書は、本件考案出願後の昭和六一年四月一日(初版)に出版されたものであり、上記取扱説明書をもって本件考案の実用新案登録を無効にすることはできない。
(二) 被告は、取扱説明書とパンフレットを組み合せて出願前公然実施を主張するところ、パンフレット掲載の門扉と取扱説明書掲載の門扉が同一かどうかは不明であり、昭和六一年四月に初版の取扱説明書が発行された商品が、昭和六〇年八月から販売されていたかどうかも極めて疑わしい。被告は、パンフレットと取扱説明書に共通の裏面構造図及び仕様表が用いられていることを根拠に、両書面に掲載された商品が同一であると主張するが、ヒンジの詳しい構造等が開示されていない以上、それだけでパンフレット掲載の商品と取扱説明書掲載の商品が同一であるとはいえない。
仮に、パンフレット掲載の商品と取扱説明書掲載の商品が同一であるとしても、取扱説明書掲載の門扉は、前記のとおり、パネルを取り外しては門扉としての使用に耐えないものであり、取扱説明書のどこにもパネルを取り外して使用することを示唆する記載はないのであるから、取扱説明書及びパンフレットの存在をもって、公知例2の物品が本件考案出願前から公然実施されていたとはいえない。
3 オカモト産業株式会社(前身・岡本金属製作所、以下「オカモト産業」という。)製「キャスター付鋼製ゲート90型」(以下「公知例3」という。)について 【被告の主張】 (一) オカモト産業は、昭和五九年二月一七日、本件考案と同一構造の「キャスター付鋼製ゲート90型」(公知例3)を浪速建設機械株式会社(大阪市<以下略>)(以下「浪速建設」という。)に納入し、浪速建設は、以後これを同社センター西門に設置していた。
公知例3の構造は、オカモト産業のパンフレット(乙三の3)に掲載された「OCCGー90型」と同一であり、並立するたて格子間に、右上がりと左上がりの複数本斜材を枢支軸で各々回動自在に枢着した伸縮リンク機構で連結して横方向に伸縮自在とし、たて格子の上下両側にヒンジ受けを設けるとともに折り畳み自在とした板状パネルの単位パネルの上下両側にヒンジ本体を取り付け、ヒンジ受けの貫通孔及びヒンジ本体の貫通孔に棒を挿入し、該棒の抜け止め用として棒の下を削ってイーリング(Eリング)をはめ込んでなる門扉である。しかも、イーリングはペンチで容易に引き抜くことが可能であり、イーリングを引き抜いた後、前記棒を引き抜くことによりパネルを簡単に着脱自在とすることができるから、公知例3は、本件考案の構成要件をいずれも具備するものといえる。
(二) 原告は、岡本金属製作所がオカモト産業の前身であるか否かは証拠上明らかでなく、岡本金属製作所が販売した「キャスター付鋼製ゲート90型」とオカモト産業のパンフレットに掲載された「OCCGー90型」には、「90型」以外に一致点を見い出せず、両者が同一の商品であることが証明されていないと主張する。
しかし、両社には、商号上「岡本」及び「オカモト」と共通した部分があること、両社の本店所在地が同一であること、オカモト産業の取締役五名及び監査役がすべて「【F】」姓であること、オカモト産業の設立時期が、岡本金属製作所が「キャスター付鋼製ゲート90型」の物品受領証を発行した後の昭和六二年四月六日であることによれば、岡本金属製作所はオカモト産業の前身であると推定される。また、「キャスター付鋼製ゲート90型」と「OCCGー90型」の間にはネーミング上「90型」という一致点があること、「キャスター付鋼製ゲート90型」の納入日時と「OCCGー90型」のパンフレット作成時の時間的経過が長期でないこと、
「OCCG」が「okamoto company」「caster gate」の略称であること、両者がキャスター付鋼製ゲートという近似する製品であることによれば、公知例3が「OCCGー90型」と同一の商品であることは経験則上明らかであり、「キャスター付鋼製ゲート90型」の存在により、本件考案が本件出願前に既に公用されていたことは明らかである。
【原告の主張】 (一) オカモト産業のパンフレットは、裏表紙の右下に「88年10月」の記載があり、本件考案出願後に印刷されたものである。また、オカモト産業は、本件考案出願後の昭和六二年四月六日に設立された会社であり、同社が本件考案出願前に本件考案と同一の構成の門扉を販売することはあり得ない。
そもそも、岡本金属製作所がオカモト産業の前身であるか否かは明らかでない上、岡本金属製作所が販売したとされる「キャスターゲート90型」と、オカモト産業のパンフレットに掲載された「OCCGー90型」の間には、「90型」以外に共通点がなく、両者が同一であることの具体的証明がない。しかも、右パンフレットに掲載された「OCCGー90型」の写真は、遠方から撮影したものであり、当該門扉の構成を具体的に開示するものではないため、本件考案との対比を行うこと自体不可能である。
なお、オカモト産業は、本件考案公開の翌日である昭和六二年七月二九日に本件考案と同一の構成にかかる門扉の考案を実用新案登録出願し、平成五年二月一五日、本件考案の存在を理由に拒絶査定を受けているが、仮に、オカモト産業が岡本金属製作所を前身とし、昭和五九年二月一七日から本件考案と同一構成の門扉を公然実施していたとすれば、同社は、自己の実施から三年後になって、無効を承知で実用新案を出願したことになり、このようなことはあり得ない。
(二) 被告は、「キャスター付鋼製ゲート90型」と「OCCGー90型」の間に、ネーミング上「90型」という一致点があれば、両者が同一の商品であることは経験則上明らかであると主張する。
しかし、オカモト産業のパンフレット五頁に掲載された「OPGー90型」は、本件考案のようなキャスタを用いたクロスゲートではなく、上からパネルを吊した門型ゲートであり、「90型」の名称を有していれば、同一の商品とはいえない。なお、右パンフレットは、門扉の構成を具体的に開示するものでなく、ヒンジ受けとヒンジ本体が着脱自在であるとの記載はない。
三 争点4(損害額等)について 【原告の主張】 1 被告は、平成五年一一月一八日から平成一〇年一二月三一日までの間に、
イ号物件及びロ号物件を販売し、その販売及びリース売上高の合計は、イ号物件が三億三四〇二万六一一四円、ロ号物件が三億二九二九万四九五九円で、総合計は六億六三三二万一〇七三円である。
(ロ号物件の内訳) (1) 平成五年一一月一八日から平成八年四月三〇日まで(訴状で請求した分) @ 販売分 八五九八万七九四七円 A リース分 八四四八万九五〇〇円 (2) 平成八年五月一日から平成一〇年一二月三一日まで @ 販売分 七九八五万九一八〇円 A リース分 七八九五万八三三二円 これによる被告の利益は、少なくとも売上高の一五パーセントである九九四九万八一六〇円に達し、被告は同額の損害を与えたが、原告は、右損害額の内金として、五〇〇六万六八三五円を請求する。
2 利益率について (一) 実用新案法29条2項により原告の損害の額と推定される被告の利益とは、売上高から製造にかかる直接経費としての売上原価を差し引いた売上総利益(粗利益)をいうと解するべきところ、これを被告の自白した金額を前提に算定すると、平均四九・六パーセントとなるが、原告は、うち一五パーセントを損害算定の利益率として主張する。
(二) 仮に、販売費及び一般管理費を差し引くことが認められるとしても、
減価償却費は現実の経費として発生するわけではないし、租税公課についても、侵害物件の製造、販売に直接関連するものとは認められない。したがって、被告の得た利益について、少なくとも減価償却費と租税公課は差し引かれるべきではない。
(三) 次に、仮に販売費及び一般管理費の全額を控除するとする考え方が許されるとしても、支払利息・割引料や貸倒引当金は、本件侵害物件の製造の経費とは認められないので、これを差し引くことは認められない。
3 実施料相当損害金 仮に、実用新案法により原告の受けた損害と推定される被告の利益が経常利益に限られるとしても、被告の侵害行為により、最低限実施料相当額の損害は原告に発生しており、その実施料は少なくとも五パーセントを下らない。
したがって、原告の損害と推定される被告の利益が実施料相当額を下回る場合、右実施料相当額を損害として請求する。
4 また、被告は、イ号物件及びロ号物件と原告との商品の混同を生ぜしめた結果、原告の商品が粗悪であるとの印象を与え、原告の信用を低価させたから、謝罪広告をすべきである。
【被告の主張】 1 被告が原告主張の期間にロ号物件の販売及びリースにより得た売上高及びリース売上高は、次のとおりである。
(一) 平成五年一一月一八日から平成八年四月三〇日まで @ 販売分 七二四六万一一九〇円 A リース分 五八三三万八四六八円 B 小計 一億三〇七九万九六五八円 (二) 平成八年五月一日から平成一〇年一二月三一日まで @ 販売分 五二七四万六五五〇円 A リース分 五七八五万二七九一円 B 小計 一億一〇五九万九三四一円 (三) 合計 @ 販売分 一億二五二〇万七七四〇円 A リース分 一億一六一九万一二五九円 B 総計 二億四一三九万八九九九円 なお、イ号物件の販売及びリース売上高の金額は争う。
2 利益率 (一) 損害賠償請求における損害額算定の基礎となる、被告の得た利益とは、
純利益をいう。純利益とは、一般に売上高から製造原価、販売費、営業外損益、公租公課等、要した費用すべてを控除したものであり、損益計算上の経常利益と同視できる。被告の@平成五年二月から平成六年一月まで、A平成六年二月から平成七年一月まで、B平成七年二月から平成八年一月まで、C平成八年二月から平成九年一月まで、D平成九年二月から平成一〇年一月まで、E平成一〇年二月から平成一一年一月までの各期間における損益計算書に基づく経常利益は、平均一・六パーセント前後である。
(二) 被告の得た利益とは、少なくとも販売費を粗利益(売上総利益)から控除した営業利益であるところ、被告の過去の損益計算上の営業利益の平均は三パーセント強である。
3 原告の実施料相当損害金の主張は争う。
4 ロ号物件の販売等により原告の信用が低下したとの主張は争う。
当裁判所の判断
一 争点1(間接侵害)について イ号物件は、それ自体はパネルを備えていない折り畳み式可動門扉であるが、原告は、イ号物件がパネルとセットで使用することを当然に予定して販売されているものであるとして、イ号物件の製造、販売等をすることは本件実用新案権の間接侵害に当たる旨主張するのに対して、被告は、イ号物件はパネルなしで使用できるものであり、現実にもパネルなしで使用することが多いから、本件考案に係る物品の製造にのみ使用するものには当たらない旨主張する。
そこで検討するに、業として、登録実用新案に係る物品の製造にのみ使用する物を製造し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為は、当該実用新案権を侵害する行為とみなされるところ(実用新案法28条)、ここでいう「その物品の製造にのみ使用するもの」とは、社会通念上経済的、商業的ないしは実用的な他の用途がないことをいい、他の用途があるというためには、抽象的ないしは試験的な使用の可能性があるだけでは足りないというべきである。
これを本件についてみると、証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、イ号物件を「ライトゲートクロス(LGC)」という名称で、ロ号物件を「ライトゲートパネル(LGP)」という名称で、それぞれ別個の商品として販売していること、イ号物件についてはパネルはセットで販売されておらず、別売となっていること、イ号物件の広告用チラシには、「MSCライトゲートクロス兼用シリーズ」(MSCは被告の略称と解される。)の表題が付され、クロスゲート単体の写真とパネル着用時の写真が両方掲載されており、《特長》として、「風圧を考えてクロスゲートで、又、場内を視界からシャットアウトするパネル付きと1台2役を演じます」「ワンタッチピンでパネルを付けてよりグレードアップを!(パネル別売)」と記載されていることが認められる。右事実からすれば、被告はイ号物件を、パネルを取り付けないでも取り付けても使用できるという兼用可能であることを特徴として宣伝しているが、あくまでパネルは別売であるから、イ号物件の購入者においてパネルの方は別途購入することなく、もっぱらパネルなしのクロスゲートとして使用することも十分ある得るところであり、そのような使用方法も現実的で実用的なものであるということができる。そうすると、イ号物件には、パネルを取り付けてロ号物件のゲート部分として使用する以外に、パネルを取り付けないで伸縮リンク式ゲート単体として使用するという、実用的な他の用途があるというべきである。
原告は、被告には「CMシリーズ」という伸縮リンク式ゲート単体の商品があるから、イ号物件には、ロ号物件のゲート部分としての用途以外に実用的な他の用途はないと主張する。しかし、「CMシリーズ」は、一八〇センチメートル幅のCMー18の場合、両端に設けたたて格子の間に七本ずつの斜材を格子状に組み合わせ、中央にたて格子の約半分の高さの中間支柱を設けたクロスゲートであり(甲三)、イ号物件と比べて、枠の構造が簡易で強度が劣るものであるから、伸縮リンク式ゲートという物品の範疇は同じでも、イ号物件とは用途に応じて使い分けされるものと推認される。したがって、CMシリーズの存在をもって、イ号物件に伸縮リンク式ゲート単体としての用途がないとはいえない。
また、原告は、イ号物件のたて格子にヒンジ受けが設けられていることを理由に、イ号物件には、ロ号物件のゲート部分として使用する以外に実用的な用途はないと主張するところ、確かに、イ号物件をパネルなしの伸縮リンク式ゲート単体として用いた場合には、たて格子のヒンジ受けが無用なものになるが、イ号物件とロ号物件とでは、パネルがセットで販売されるかどうかと斜材の数の違い程度の差しかないから、被告が主張するように、製造コストの低減という観点から部品を共通化するためにイ号物件にもヒンジ受けが設けられているというのも首肯できるところであり、イ号物件がもっぱらパネルなしで使用される場合にはヒンジ受けが無用であるからといって、イ号物件がパネルでセットで使用されることだけを予定して販売されているとはいえないし、パネルを取り付けない単体での使用が実用性のある用途であることを否定する根拠ともならないものというべきである。
以上によれば、イ号物件の製造、販売等をすることが本件実用新案権の間接侵害に当たるとは認められない。 二 争点2(ロ号物件は本件考案技術的範囲に属するか)について 1 同(一)(構成要件ロ該当性)について (一) 「着脱自在」の意義について 本件明細書考案の詳細な説明及び図面には、次のような記載があることが認められる。
(1) 「産業上の利用分野」の項に、「この考案は、折り畳み式可動門扉の改良に関する」と記載されている(2欄5〜6行)。
(2) 「従来の技術」の項に、(イ)複数のたて格子間を伸縮リンクで連結した骨組み構造の伸縮リンク式ゲート、(ロ)横方向に伸縮自在に支持した複数の板状パネルを上から吊り下げてなるパネル式ゲートのほか、(ハ)、(ニ)として、扉本体の上端部と下端部にパンタグラフ状の羽根板を取り付け、この上下両部の羽根板間にパネルを設けたパネル式ゲートの例が挙げられている(2欄8〜25行)。
(3) 「考案が解決しようとする問題点」の項に、従来は隠蔽を目的とする場合とそうでない場合に応じて前記(イ)(ロ)の二種類の構造のものから一つを選択して設置していたが、「目的によっては、一時期だけ隠蔽が必要で通常は門扉の内側が透けて見えて良い場合、またはその逆の場合があり、このような場合には従来の折り畳み式可動門扉では即座に対応できない上に、両者を配置替えするための費用が高くつくなどの不都合があった」(3欄8〜16行)と記載されている。
(4) 「問題点を解決するための手段」の項に、「横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートのたて格子の適所にヒンジ受けを設けるとともに、折り畳み自在とした板状パネルの単位パネルの両端部にはヒンジ本体を取り付け、前記ヒンジ受けとヒンジ本体とを着脱自在に枢着し」(3欄43行〜4欄3行)、「隠蔽を必要としない場合には簡単に前記パネルを伸縮リンク式ゲートから取り外せるようにしてなるものである」との記載がある(4欄8行〜12行)。
(5) 「実施例」の項に、「このヒンジ軸35の上端部には、軸本体より径の大きい係止頭部35aが形成されると共に、下端部には割りピン40が装着され、これにより上下の各ダブルリーフヒンジ34、34の軸筒体36、36からヒンジ軸35が抜けるのを防止している」(7欄12〜17行)という記載が存在し、第2図に、パネル裏面側から見たヒンジ受けとヒンジ本体の連結の詳細図(抜け止め装置を含む)が示されている。
(6) 「考案の効果」の項に、「門扉により隠蔽が必要な場合には上記パネルをヒンジ連結により伸縮リンク式ゲートに取り付け、また隠蔽が不要の場合にはヒンジ連結を解除して上記パネルを取り外すことにより、両方の目的に容易に選択使用することができ、極めて使い勝手が良い」という記載がある(8欄18〜23行)。
(二) 本件明細書及び図面の右記載に照らせば、構成要件ロにいう「着脱自在」とは、伸縮リンク式ゲートのたて格子に設けられたヒンジ受けと単位パネルの両端部に設けられたヒンジ本体を、門扉による隠蔽が必要な場合と隠蔽が不要の場合に応じて、「容易」「簡易」に連結したり、右連結を解除できることをいうと解されるが、門扉使用中にヒンジ軸が自然力によって抜けることを防止するため、抜け止め装置を設けることを排除するものではないといえる。そして、ここでいう「容易」「簡易」とは、門扉の設置現場において、作業員が人力又は工事器具を用いて連結若しくは連結解除できるものであれば足りるというべきである。
(三) ロ号物件は、連結軸12の下端に三角形状の抜け止め具14を設けており、連結軸12によりヒンジ受け2とヒンジ本体9を枢着する時には、抜け止め具14を立てて抜け止めがなされた状態で挿着するものである。証拠(検甲一)によれば、この抜け止め具は、指で三角形状の部分を立てたり下したりすることにより下端の抜け止めを図ることが予定されており、人力で「容易」「簡易」にヒンジ連結又は連結解除を行うことができるものと認められる。そして、ロ号物件は、右のような構造の連結軸を、たて格子に設けたヒンジ受けとパネルに取り付けたヒンジ本体の各貫通孔に挿通することにより枢着可能とし、パネルを伸縮リンク式ゲートに取り付けたり取り外したりすることができるものであるから、隠蔽状態と非隠蔽状態とを容易に選択できるという作用効果を奏するものと認められる。
したがって、ロ号物件は、構成要件ロの「ヒンジ受けとヒンジ本体を着脱自在に枢着し」との構成を具備しており、構成要件ロを充足するということができる。
2 同(二)(構成要件ハ該当性)について (一) 「隠蔽」の対象となる「伸縮リンク式ゲートA」の範囲について 本件明細書考案の詳細な説明及び図面には、次のような記載があることが認められる(甲二)。
(1) 「考案が解決しようとする問題点」の項に、従来例のうち、(イ)の伸縮リンク式ゲートには、「強度的には十分であるけれども、組み合わされた格子目の間から門扉の内側が透けて見えるため、隠蔽を目的とする用途には適しない」という問題点があると記載されている(2欄27行〜3欄3行)。これに対し、(ロ)のパネル式ゲートは、「門扉の内側がパネルによって遮られるので十分な隠蔽効果を発揮」(3欄4〜6行)し、(ハ)及び(ニ)のパネル式ゲートも、「扉本体の上下両端部にパンタグラフ状の羽根板を設けていること」から、前記欠点を解消することができるとされている(3欄23〜26行)。
(2) 「問題点を解決するための手段」の項に、「伸縮リンクの伸縮動作に応じてパネルを伸縮させて門扉の内側を隠蔽する」という記載がある(4欄8〜9行)。
(二) 本件明細書及び図面の右記載に照らせば、門扉の内側がパネルにより遮られるパネルゲート及び扉本体の上下両端部に羽根板を設けたパネルゲートでは、従来から十分な隠蔽効果が発揮できており、本件考案の構成要件ハは、伸縮リンク式ゲートにおいて、組合わされた格子目の間から門扉の内側が透けて見えるのを防止するための手段を提供したことに特徴があるといえる。右事実によれば、構成要件ハにいう「隠蔽」とは、「門扉の内側」「扉本体の上下両端部」を遮断することをいい、伸縮リンク式ゲートにおいては、「組み合わされた格子目により構成される面」を遮断することをいうと解すべきであり、パネルの下端が地表面に至っていることを要しないものというべきである。
(三) ロ号物件は、キャスタ台の上一センチメートルまでがパネルで被覆されており、パネル装着時には、伸縮リンク式ゲートのうち、左上がりと右上がりの三本ずつの斜材を組み合せた格子目により構成された面は、外側から見えなくなるから、門扉の内側を「隠蔽」するものということができ、構成要件ハを充足する。
3 ロ号物件が本件考案の構成要件イを充足することは、被告も争わない。
以上によれば、ロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するものというべきである。
三 争点3(本件考案は全部公知か)について 1 同(一)(公知例1)について 公知例1は、登録第六二九五五二号の意匠公報(乙一)であり、意匠に係る物品は「仮設門扉」であり、説明欄には「本物品は例えば工事現場等において使用される門扉であって、網枠部の折畳みを介して伸縮可能に設けられる。又本物品は間口の幅に応じて門扉を2つ以上適宜に連結させて使用する事が可能である。」と記載されているところ、同公報の正面図、背面図によれば、公知例1も仮設門扉は、一方のたて格子の約半分の高さから、他方のたて格子の下端に向けて渡された斜材により構成されたX状の格子に、たて格子の上下両端部を覆う網枠部(パネル)を付したものであり、網枠部の外側から、門扉の内側が透けて見えることは明らかであるから、本件考案の構成要件ハのように、パネルが伸縮リンク式ゲートを「隠蔽」するという構成を有しない。
また、右正面図、背面図によれば、公知例1のうち、パネルを除いたX字状部分は、たて格子の約半分の高さしかないため、現場関係者以外の者が、X字の交差部の下をくぐるか、上を跨いで外部から侵入することは容易であると考えられ、パネルを外した場合に残るたて格子及び斜材が、それだけで本件考案のような「扉本体の上部から下部に至り閉鎖可能とし」た「伸縮リンク式ゲート」の機能を有するとはいえないし、パネルを着脱して使用することを予定したものとも断定できないから、公知例1は、本件考案の構成要件イ、ロと同一の構成を備えているとも認められない。
したがって、公知例1をもって、本件考案の構成が出願前から公知であったということはできない。
2 同(二)(公知例2・ホリー株式会社製「ウィンディゲート」)について 証拠(乙二の1、2)によれば、公知例2は、たて格子に設けられたヒンジ受けに、単位パネルの両端部に設けられたヒンジ本体を連着して、パネルを取り付ける構造のパネルゲートであることが認められる。
しかし、公知例2では、単位パネルを外した場合に残るのは、両端のたて格子とX字状の斜材(ブレース)一個だけであり、右ブレースは、交差部の高さがパネル上端(一八〇〇ミリ)の約半分しかないため、パネルを外した場合に残るたて格子とブレースだけでは、開閉の際に格子が捻れて安定性に欠ける上、現場関係者以外の者が下をくぐるか、上を跨いで侵入することも容易となり(甲二九の1〜4)、強度上も防犯上も「門扉」としての機能を有しないと認められ、右事実と証拠(甲一七、一八)によれば、公知例2の門扉は、常にパネルを取り付けた状態で使用することが予定されており、取り外すことは予定していないものと認められる。
以上によれば、公知例2は、本件考案の構成要件イ、ロと同一の構成を備えておらず、これをもって、本件考案の構成が出願前から公知であったとはいえない。
3 同(三)(岡本金属製作所製「キャスター付き鋼製ゲート90型」)について (一) 証拠(乙三の3、4、六、九、証人【F】)によれば、現在も浪速建設の敷地西門に設置されている折り畳み式可動門扉は、オカモト産業(昭和六二年四月六日設立)の前身である岡本金属製作所が製作し、浪速建設に納入した「キャスター付き鋼製ゲート90型」であり、この門扉は、オカモト金属が昭和六三年一〇月に作成したパンフレットには「OCCGー90型仕様」の名称で掲載されていることが認められる。
この門扉「キャスター付鋼製ゲート90型」は、前掲各証拠によれば、次のとおりの構造であると認められる。すなわち、@九〇センチメートル幅毎に設けられたたて格子の間に五本ずつの斜材を組み合わせてなる伸縮リンク式ゲートにおいて、たて格子の両端にヒンジ受けを設け(構成要件イ)、A折り畳み自在とした単位パネルの両端部にヒンジ本体を取り付け、ヒンジ受けとヒンジ本体を頭の付いたピンで挿通することによりパネルを取り付けるものであり、ピンの下側を削ってイーリングをペンチで填め込んで固定することによって抜け止めを図っているが(乙九、写真H、K、J)、このイーリングは、ペンチを使用すれば、ピンの溝に差し込んだり取り外したりすることは容易であるから(証人【F】)、ヒンジ受けとヒンジ本体が「着脱自在」に枢着されているといえる(構成要件ロ)。また、この門扉は、Bパネル枢着時には、パネルが伸縮リンク式ゲートの格子で現された面を「隠蔽」している(構成要件ハ)。
以上によれば、「キャスター付鋼製ゲート90型」は、本件考案の構成要件イ、ロ、ハをすべて満たした構造の折り畳み式可動門扉であるから、本件考案と同一のものといえる。
(二) そこで、「キャスター付鋼製ゲート90型」が、本件考案の出願日前から公然実施されていたかどうかについて検討する。
(1) 浪速建設代表取締役【G】作成の平成七年八月一一日付け証明書(乙三の1)には、「昭和五九年二月一七日に岡本金属製作所(現・オカモト産業株式会社)より『キャスター付鋼製ゲート90型』を購入し、弊社センター西門に設置し、現在も当時のままの状態で使用しております」という記載が存在する。
しかしながら、右証明書は、昭和五九年二月一七日から約一一年六か月を経てから作成された文書であり、門扉の納入時期及び売買を直接裏付ける記録とはいえない。しかも、右証明書の作成経緯について、オカモト産業代表取締役である証人【F】(以下「【F】」という。)は、オカモト産業が原告から平成七年七月三一日付け警告書(乙一六の1)による警告を受けたことから、【F】が記憶に基づき浪速建設を探し、佃から、門扉を買った時期は十数年前である旨の返事を得たので書類を探したところ、昭和五九年二月一七日付け物品受領書(乙三の2)を発見し、右物品受領書に基づき原文を作成した旨証言する。しかし、この物品受領書には、浪速建設のサイン又は印鑑がなく、【F】自身も、会社の仕組みとしては、現物を納入した時に相手方から印鑑又はサインをもらうことになっているが、
この物品受領書に浪速建設の印鑑又はサインがない理由はわからないと証言しているのであるから、昭和五九年二月一七日付け物品受領書が「キャスター付鋼製ゲート90型」の納入時に発行された書類かどうかには疑問があり、これに基づき原文が作成されたという平成七年八月一一日付け証明書(乙三の1)も信用性が乏しく、
採用することができない。
したがって、平成七年八月一一日付け証明書の存在をもって、「キャスター付鋼製ゲート90型」が、昭和五九年二月一七日時点で公然実施されていたことを推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) また、「株式会社オカモト産業」名義で作成された「Castersパネルゲート」と題するパンフレット(乙一〇)には、「キャスター付鋼製ゲート90型」と同一構成を有する門扉が掲載され、末尾に一九八五年(昭和六〇年)五月二七日を示す「1985,5,27」の数字が印字されていることが認められる。
しかし、右乙一〇を子細に見ると、本文の文字がかすれているのに対し、「1985,5,27」という数字だけは濃く明瞭に印刷されており、「1985,5,27」という一連の数字の中でも、月を表す「5」の数字だけが他の数字よりもわずかに浮き上っているという不自然な点が存在することが認められ、「1985,5,27」の部分がパンフレット本文と同時に印刷されていたかどうかには疑問があるといわざるを得ない。加えて、証拠(甲二三、二六、二七)、によれば、【F】は、昭和六〇年三月一三日、「株式会社岡本金属取締役専務【F】」の名刺をもって原告を訪問していること、同年七月二日、株式会社岡本金属を出願人としてヒンジ用ピンの実用新案登録出願を行っていることが認められ、これらの事実によれば、この間の昭和六〇年五月二七日時点において、【F】が「株式会社オカモト産業」の表示を用いてパンフレットを製作することは不自然であり、この点に関する【F】の証言も、曖昧であり採用することができない。
以上によれば、「株式会社オカモト産業」名義のパンフレットの存在をもって、「キャスター付鋼製ゲート90型」が、昭和六〇年五月二七日時点で公然実施されていたと推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
(3) かえって、証拠(甲四の1〜4)によれば、オカモト産業は、昭和六二年七月二九日、「キャスター付鋼製ゲート90型」と同一構成の門扉について、考案の名称「パネルゲート兼用のクロスゲート」とする実用新案登録出願を行ったが、平成四年一〇月一四日、実願昭六一ー五六一四号(実開昭六二ー一一八八九七号)のマイクロフィルムに記載された考案(本件考案)と同一であるから、実用新案法3条1項3号により実用新案登録を受けることができないとして拒絶理由通知を受け、平成五年二月一五日、拒絶査定を受けたことが認められる。右事実に加え、オカモト産業及びその関係者である【H】、【F】は、昭和五〇年三月三日から平成九年九月一二日までに計二五件の特許出願又は実用新案出願を行っていること(甲二三、二四)、【F】は、「パネルゲート兼用のクロスゲート」以外の実用新案出願については、新製品開発直後に出願している旨証言していること(証人【F】)を考慮すると、「キャスター付鋼製ゲート90型」と同一構成の門扉のみが、実用新案出願日である昭和六二年七月二九日から約一年六か月以上前の昭和六一年一月一八日以前から実施されていたと推認するのは不自然である。
4 以上によれば、本件考案は、出願前から全部公知のものとは認められず、
また、出願前の公知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたことが明らかとも認められないから、本件実用新案権に基づく権利行使が権利濫用に当たるとはいえない。
四 争点4(損害額等)について 1 被告が、平成五年一一月一八日から平成一〇年一二月三一日までの間に、
ロ号物件の販売及びリースにより得た売上高は、争点4に関する被告の主張において被告が自認する限度、すなわち、販売による売上高の合計が一億二五二〇万七七四〇円、リースによる売上高(リース料及び基本料)の合計が一億一六一九万一二五九円であり、両者を合わせて二億四一三九万八九九九円(うち、訴状で請求していた期間である平成五年一一月一八日から平成八年四月三〇日までの分が一億三〇七九万九六五八円、同年五月一日から平成一〇年一二月三一日までの分が一億一〇五九万九三四一円)となることは、当事者間に争いがなく、右を超える売上額があったことの立証はない。
2(一) 実用新案法29条2項は、侵害行為を行った者が当該行為により受けた利益の額をもって権利者等の損害の額と推定する旨規定しているが、この規定は、実用新案権が侵害された場合に権利者が侵害行為と損害との因果関係を立証することが一般に困難であることに鑑みて設けられたものであり、さらに逸失利益の立証の容易化を図る趣旨で、平成一〇年の実用新案法の改正により、同条一項として、侵害者の譲渡した侵害品の数量に権利者が侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を損害の額とすることができる旨の規定が新設されたことを総合して考えると、同条二項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から侵害者において当該侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費を控除した額と解するのが相当である。
(二) 証拠(乙一八の1〜6)によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告の平成五年一一月から平成一〇年一二月までの総売上高は、次のとおりである。
平成五年一一月 二二五八万四〇〇〇円 一二月 二六〇九万円 平成六年一月 二四九四万二〇〇〇円 平成六年二月〜平成七年一月 四億四九一三万七〇〇〇円 平成七年二月〜平成八年一月 五億二〇七二万四〇〇〇円 平成八年二月〜平成九年一月 四億二八九〇万九〇〇〇円 平成九年二月〜平成一〇年一月 三億九〇四八万一〇〇〇円 平成一〇年二月〜一二月 三億四一一八万五〇〇〇円 計 二二億〇四〇五万二〇〇〇円 (2) したがって、被告の平成五年一一月から平成一〇年一二月までの総売上高のうち、前記のロ号物件の売上高が占める割合は、一一・〇パーセントとなる。
(3) 被告の売上原価が売上高に占める割合は、平成五年五八・五パーセント、平成六年六三・八パーセント、平成七年五二・八パーセント、平成八年四四・六パーセント、平成九年四四・四パーセント、平成一〇年三七・九パーセントであり、期間全体の平均値は五〇・三パーセントである。
(4) 被告の販売費及び一般管理費が売上高に占める割合は、平成五年三八・八パーセント、平成六年三三・三パーセント、平成七年三八・九パーセント、
平成八年五四・六パーセント、平成九年五四・一パーセント、平成一〇年六〇・七パーセントであり、期間全体の平均値は四六・七パーセントである。また、被告の営業利益率(売上総利益から販売費及び一般管理費を控除した金額が売上高に占める割合)は、平成五年二・七パーセント、平成六年二・九パーセント、平成七年八・三パーセント、平成八年〇・八パーセント、平成九年一・五パーセント、平成一〇年一・四パーセントであり、期間全体の平均値は二・九パーセントである。
(三) 利益額の算定に当たっては、まず売上額から直接経費(売上原価)を控除すべきであるところ、ロ号物件の販売及びリースに関する売上原価を直接に示す資料はないが、平成五年一一月から平成一〇年一二月までの期間全体における被告の売上高に占める売上原価比率の平均値は、前記(二)(3)のとおり、五〇・三パーセントであるから、売上高の五〇パーセントを直接経費分として控除するのが相当である。
次に、被告は、販売費及び一般管理費として、「広告宣伝費」「荷造運賃」「給料手当」「法定福利費」「厚生費」「旅費交通費」「交際接待費」その他の諸経費を計上しているが、これらの経費の中には、ロ号物件の製造、販売とは関連性のない経費や、売上額に応じて増減するものとは必ずしもいえない経費が多数含まれており、利益額の算定に当たり、これらの経費相当分を控除する必要はないといえる。他方、被告においては、販売費及び一般管理費の割合が三三パーセントないし六〇パーセントと高く、損益計算書上、この部分を変動させることにより、
売上総利益から販売費及び一般管理費を控除した金額が売上高に占める割合が低く抑えられていること、ロ号物件の売上高が侵害期間の全売上高に占める割合が一一・〇パーセントであり、必ずしも低いとはいえないことを考慮すれば、販売費及び一般管理費についても、ロ号物件の製造、販売に寄与していないとして、全く考慮しないとすることも相当ではないのであり、結局、実用新案法30条、特許法105条の3の趣旨に照らして、販売費及び一般管理費については、最大限、ロ号物件の売上高の三五パーセントに当たる部分を経費として控除するのが相当であると認める。
以上によれば、被告の利益額は、侵害期間の売上高から、直接経費分として五〇パーセント、その他の経費額として三五パーセントを控除した一五パーセントとみるのが相当である。
3 したがって、ロ号物件の販売等により被告が得た利益の額は、前記1の売上高である二億四一三九万八九九九円(このうち平成五年一一月一八日から平成八年四月三〇日までの分は一億三〇七九万九六五八円)の一五パーセントに当たる三六二〇万九八四九円(同一九六一万九九四八円)を下らないものと認められるところ、右金額が原告の受けた損害の額と推定される(実用新案法29条2項)。
4 原告は、本件実用新案権を侵害するロ号物件の販売等により原告の商品が粗悪であるとの印象を与え、原告の信用を低下させたとして謝罪広告も請求しているが、ロ号物件が原告の商品と比べて粗悪であったことを認めるに足りる証拠はなく、ロ号物件の販売等により原告の信用が低下したとは認められないから、右請求は理由がない。
五 以上の次第であるから、原告の請求は、主文掲記の限度において理由がある(なお、主文第一項については仮執行宣言を付するのは相当でないから、付さないこととする。)。
(口頭弁論終結日 平成一二年六月三〇日)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝