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事件 平成 24年 (行ケ) 10022号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/09/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年9月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(行ケ)第10022号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年9月5日

判 決

原 告 株 式 会 社 伸 晃

同訴訟代理人弁理士 濱 田 俊 明

被 告 株式会社タダプラ

同訴訟代理人弁護士 石 井 義 人

岡 田 健 一

石 田 大 輔

白 井 一 成

同訴訟代理人弁理士 杉 本 勝 徳

内 山 邦 彦

岡 田 充 浩

主 文

1 特許庁が無効2011−400007号事件につい

て平成23年12月28日にした審決中,実用新案

登録第3136656号の請求項3に係る部分を取

り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要

本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件考案に係

る実用新案登録に対する原告の無効審判の請求について,特許庁が同請求のうち請




求項3に係る考案についての請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件

審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由がある

と主張して,その取消しを求める事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 被告は,平成19年8月24日,考案の名称を「靴収納庫用棚板及び靴収納

庫」とする実用新案登録出願(実願2007−6585号。請求項の数5)をし,

同年10月10日,設定の登録(実用新案登録第3136656号)を受けた(以

下「本件実用新案登録」といい,本件実用新案登録に係る明細書(甲9)を「本件

明細書」という。)。

(2) 原告は,平成23年5月26日,本件実用新案登録の請求項1ないし3に係

考案について,実用新案登録無効審判を請求し(甲6),無効2011−400

007号事件として係属した。

(3) 特許庁は,平成23年12月28日,「実用新案登録第3136656号の

請求項1及び2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。実用新案登録第

3136656号の請求項3に係る考案についての審判請求は,成り立たない。」

旨の本件審決をし,平成24年1月11日,その謄本が原告に送達された。

2 実用新案登録請求の範囲の記載

本件実用新案登録の請求項3は,請求項1又は2のいずれかの項を引用するもの

であるところ,本件実用新案登録の請求項3,1及び2の記載は,以下のとおりで

ある。以下,同請求項3に係る考案を「本件考案」といい,同請求項1及び2に係

考案を,それぞれ「請求項考案」「請求項考案」という。

請求項3】靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延びる脚部を形成したこ

とを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靴載置用棚板

請求項1】上面に靴載せ部が形成された板状部材の一端に靴収納庫に設けられた

横桟部材に着脱可能に掛合する掛合部と,他端に靴止め部とを形成し,靴載せ部の

上面と靴載せ部の下方とに靴を収納した収納姿勢と,掛合部を回転中心として靴止




め部側端部を跳ね上げ靴載せ部の下方に靴を出し入れする跳ね上げ姿勢とに回動可

能で且つ掛合部で横桟部材の長手方向に摺動可能に構成したことを特徴とする靴載

置用棚板

請求項2】横桟部材に掛合する掛合部が,靴収納用棚板の側面視においてフック

もしくは下向きU字形に掛合部を形成されていることを特徴とする請求項1に記載

の靴載置用棚板

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,要するに,本件考案は,後記アの引用例に記載された

考案(以下「引用考案」という。)及び後記イないしエの周知例1ないし3に記載

された周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたもの

とは認められない,というものである。

ア 引用例:意匠登録第1131915号公報(甲1)

イ 周知例1:登録実用新案第3072740号公報(甲3)

ウ 周知例2:意匠登録第1164550号公報(甲4)

エ 周知例3:意匠登録第1303260号公報(甲5)

(2) また,本件審決が認定した引用考案並びに本件考案と引用考案との一致点及

び相違点は,次のとおりである。

ア 引用考案:上面に靴載せ部が形成されたパレット状棚部材の一端及び他端に

靴整理棚の左右側板間に懸架された前後の棚パイプに着脱可能に掛けることができ

る部分と,パレット状棚部材の他端に靴止め部が形成されており,靴載せ部の上面

と,靴載せ部の下方に靴を収納でき,棚パイプに着脱可能に掛けることができる部

分が,側面視において下向きU字形に形成されている,靴整理棚に用いられる棚板

イ 一致点:上面に靴載せ部が形成された板状部材の一端に靴収納部に設けられ

た横桟部材に着脱可能に掛合する掛合部と,他端に靴止め部とを形成し,靴載せ部

の上面と靴載せ部の下方とに靴を収納することができる,靴載置用棚板

ウ 相違点1:本件考案は,「掛合部」が,板状部材の一端に設けられているも




のであるのに対して,引用考案は,「掛合部」が,板状部材の一端及び他端に設け

られているものである点

エ 相違点2:本件考案は,「掛合部を回転中心として靴止め部側端部を跳ね上

げ靴載せ部の下方に靴を出し入れする跳ね上げ姿勢とに回動可能」であるのに対し

て,引用考案は,靴載せ部の下方に靴を出し入れする跳ね上げ姿勢に回動可能であ

るか否か明らかではない点

オ 相違点3:本件考案は,「掛合部で横桟部材の長手方向に摺動可能」である

のに対して,引用考案は,掛合部で横桟部材の長手方向に摺動可能であるか否か明

らかではない点

カ 相違点4:本件考案は,「靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延び

る脚部を形成」しているのに対して,引用考案は,靴載せ部が形成されたパレット

状棚部材の他端には掛合部が形成されており,脚部を形成するものではない点

(3) 本件審決は,相違点4に係る構成,すなわち,「靴載せ部の靴止め部側端

部の両隅部に下方に延びる脚部を形成」するという構成は周知技術であることを前

提として,棚板の高さを保持するために横桟部材に掛合する「掛合部」を備える引

考案のパレット状棚部材の他端に対して,さらに,板材の高さを保持するための

構成として脚部の構成を適用することは,横桟部材と脚部との両立に無理があるこ

とから阻害要因があるし,引用考案から,横桟部材に掛合する「掛合部」を省いて

まで,「下方に延びる脚部を形成」することには,何ら動機となる要因がない,本

考案は,脚部を形成することにより,他端に横桟部材等の部材がなく,靴を前側

に取り出すことができる靴収納棚に用いた場合であっても,板状部材を掛合部を回

転中心として回動する際に脚部の隙間から手を差し入れて行うことができるとい

う,格別の効果を奏するものであるとして,本件考案は,引用考案及び周知技術に

基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたものということはできな

いとした。

なお,本件審決は,請求項考案につき,同考案と引用考案との相違点は前記相




違点1ないし3であるとした上で,請求項考案及び請求項考案は,いずれも当

業者が引用考案からきわめて容易考案することができたものであるとした。

4 取消事由

本件考案の容易想到性に係る判断の誤り

第3 当事者の主張

〔原告の主張〕

(1) 相違点4に係る判断の誤りについて

ア 本件審決は,本件考案のうち,脚部を除いた構成を有する請求項考案及び

請求項考案について,いずれも引用考案のみに基づいて当業者がきわめて容易

考案できたものにすぎないと判断した。

また,本件審決は,周知例1ないし3によると,「靴載せ部の靴止め部側端部の

両隅部に下方に延びる脚部を形成」する構成は,周知技術であるとするものである。

そうすると,本件考案は,当業者が引用考案からきわめて容易考案し得るもの

であると本件審決が判断した請求項考案又は請求項考案に,本件審決が周知技

術であるとした「靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延びる脚部」を形成

したものにすぎず,請求項考案及び請求項考案と同様に,当業者がきわめて容

易に考案し得るものであるというほかない。

イ 本件審決は,本件明細書【0012】の記載から,本件考案の脚部の効果は,

「脚部間の隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽に行うことができ

る利点」であるとする。しかし,本件考案において,脚部がなければ,棚板は下方

に収納した靴(特に靴先)に接触してしまい,下方に靴を収納することができない

から,これを回避して棚板の他端を浮かすために脚部が設けられたものであって,

当業者も,この効果について,脚部の本来的な効果(機能)として認識するもので

あり,本件明細書に記載された上記効果は2次的なものにすぎない。

上下に靴を収納する靴収納装置において,下方に収納した靴の先端に棚板が当た

らないように脚部で浮かす技術は,周知技術でも同様に採用されているものである。




引用考案においても,パレット状棚部材(本件考案の棚板に相当)の他端は棚パイ

プ(本件考案の横桟部材に相当)にしっかりと固定されずに載せられているもので

あるから,「隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽に行う」ことは

可能である。すなわち,引用考案においても,斜めに靴を収納する場合,2本の棚

パイプのうち,他端側に設けられた棚パイプが同様の機能を発揮するものというこ

とができるから,当該効果は,本件考案だけに特異なものではない。

ウ 本件考案は,既存の靴収納庫(靴箱)にも適合するように,第1の効果とし

て棚板の下方に収納した靴に棚板が干渉しないように脚部を設けたものであって,

その結果として,あるいは2次的な効果として,被告が主張する跳ね上げ操作を楽

に行うという第2の効果を奏するものにすぎない。本件明細書には,より重要な第

1の効果が記載されていないが,靴収納庫用棚板において,このような課題及び効

果は自明である。被告が強調する第2の効果は,引用考案も有するものにすぎない。

本件考案において採用された「脚部」は,下方に収納した靴の靴先が棚板と接触

しないように棚板の他端を浮かせるという周知の課題について,周知の解決手段の

うち,周知例1ないし3により開示されている脚部を採用したものであって,本件

考案は,容易想到性が否定された請求項考案又は請求項考案に,単に周知技術

を適用したものにすぎない。

エ 周知例1ないし3には,他端側のみならず,一端側にも脚部が存在する構成

が開示されており,一端側の脚部は下方に収納した靴のかかと側が棚板に接触しな

いように他端よりも高く設計されているものである。これは,収納の対象物である

靴は靴先よりもかかと側が高いことが通常であるから,棚板に傾斜を設ける必要性

に応じて一端側にはより高い脚部が設けられているものである。棚板に傾斜を設け

る必要性から,少なくとも一端側には脚部が必要であるが,棚板を長くすれば他端

側の脚部を省略することは可能である。もっとも,靴収納庫用棚板や靴収納庫は,

靴箱の中や玄関の隅に置く態様において使用することが想定されるため,不要な長

さの奥行きが生じないように,他端側に脚部を設けることによって,必要以上に棚




板を長くすることなく,靴先が棚板に接触しないように設計することが通常であ

る。周知例1ないし3に開示された高さの低い脚部と,本件考案の脚部の作用効果

は,下方の靴に棚板が接触することを防止する点で,同一である。

本件審決は,引用考案から横桟部材に掛合する掛合部を省いてまで,下方に延び

る脚部を形成することに動機付けはないとするが,引用考案の他端側の横桟部材が

本来的に本件考案の脚部と同様の機能を発揮するものである以上,周知例1ないし

3に記載された周知技術である脚部に置き換えることに動機付けが認められること

は明らかである。

(2) 小括

以上からすると,本件考案は,引用考案及び周知技術に基づいて,当業者がきわ

めて容易に考案することができたものというべきである。

〔被告の主張〕

(1) 相違点4に係る判断の誤りについて

ア 本件考案は,「靴載せ部の上面と靴載せ部の下方とに靴を収納した収納姿勢

と,掛合部を回転中心として靴止め部側端部を跳ね上げ靴載せ部の下方に靴を出し

入れする跳ね上げ姿勢とに回動可能な靴載置用棚板」の構成に加え,「靴載せ部の

靴止め部側端部の両隅部に下方に延びる脚部」の構成を有することにより,本件明

細書【0012】に記載された隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を

楽に行うという効果を奏するものである。本件考案は,請求項考案又は請求項

考案の構成に,脚部の構成を有機的に組み合わせた構成を採用する点に特徴があり,

単に周知技術を組み合わせたものにすぎないというわけではない。

本件考案における脚部は,隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽

に行うという本件明細書に記載された格別の効果を奏するための重要な意義を有す

るものであって,当該効果は2次的なものにすぎないなどという原告の主張は,独

自の見解にすぎない。

原告は,周知例1ないし3に開示された脚部と,本件考案の脚部との作用効果が




同一であることを前提として,本件考案は,靴先が接触しないように棚板の他端を

浮かせるという周知の課題について,周知の解決手段のうち,「脚部」を採用した

ものにすぎないなどと主張するが,これらの主張も,同様に,失当である。

イ 周知例1ないし3は,いずれもそれ自体の上下に靴を収納する機能を有する

考案(靴受け台,靴整理棚及び靴収納具)に係る文献であり,引用考案において,

他端側の棚パイプを脚部に代えるよりも,むしろ,引用考案に代えて,周知例1な

いし3により開示された靴受け台等を複数設置すれば足りるものであるから,引用

考案の他端側の棚パイプと周知例1ないし3により開示された脚部とを置き換える

動機付けが存在するということはできない。

なお,引用考案は,前後の棚パイプをいずれも左右側板の中段に懸架してパレッ

ト状棚部材を水平に掛け渡し,同棚部材の上下に靴を収納することも予定している

から,1対の前後の棚パイプは同考案に必須の構成であって,前方の棚パイプを脚

部に代えることは,当業者がきわめて容易に想到し得るものではない。

(2) 小括

以上からすると,本件考案は,引用考案及び周知技術に基づいて,当業者がきわ

めて容易に考案することができたものということはできない。

第4 当裁判所の判断

1 本件考案について

(1) 本件考案は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件明細書(甲

9)には,おおむね次の記載がある。

ア 技術分野

本件考案は,靴収納庫用棚板及び靴収納庫に関するものである(【0001】)。

イ 背景技術

玄関先の靴を収納する場合,靴を上下方向に並べ,靴の設置面積を少なくすると,

多くの靴を効率よく収納できる。従来,上部空間に傾斜棚を設け,靴を上下に収納

するものがあったが,傾斜棚が下方の水平の棚板と同様に1枚の大きなものであり,




傾斜棚の下方の水平の棚板にブーツ等の丈の長いものを1足でも載せた場合,靴収

納庫の空間部分を十分有効利用できないという問題があった。また,傾斜棚が1枚

の大きなものであることから,下方に収納した靴を取り出す場合,傾斜棚の靴を全

部取り出して傾斜棚を跳ね上げる必要があり,しかも,傾斜棚が水平棚と一体に固

定されている場合,水平棚を傾斜棚とともに収納庫外に引き出して下方に収納した

靴を取り出さなければならないなど,実用性に欠けるものであった(【0002】

〜【0004】)。

考案が解決しようとする課題

本件考案は,ブーツのような丈の長い靴を収納した場合でも,丈の短い靴の上部

空間を有効に利用することができるとともに,上下に収納された靴を簡単に取り出

すことができる靴収納庫用棚板及び靴収納庫用棚板を設けてなる靴収納庫を提供す

るものである(【0005】)。

エ 課題を解決するための手段

本件考案に係る靴収納庫用棚板は,上面に靴載せ部が形成された板状部材の一端

に靴収納庫に設けられた横桟部材に着脱可能に掛合する掛合部と,他端に靴止め部

とを形成し,靴載せ部の上面と靴載せ部の下方とに靴を収納した収納姿勢と,掛合

部を回転中心として靴止め部側端部を跳ね上げ,靴載せ部の下方に靴を出し入れす

る跳ね上げ姿勢とに回動可能で,かつ,掛合部で横桟部材の長手方向に摺動可能に

構成したことを最も主要な特徴とするものである。また,フック若しくは下向きU

字形に掛合部を形成したことや,靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延び

る脚部を形成したことを特徴とするものである(【0006】【0007】)。

考案の効果

本件考案に係る靴収納庫用棚板では,上面に靴載せ部が形成された板状部材の一

端に靴収納庫に設けられた横桟部材に着脱可能に掛合する掛合部が,他端には靴止

め部が形成されているので,既存の靴収納庫にも必要に応じて所望する箇所に取り

付けて使用することができるのみならず,フック若しくは下向きU字形に掛合部を




形成した場合,着脱操作を一層簡単に行うことができる。また,靴載せ部の靴止め

部側端部の両隅部に下方に延びる脚部を形成していることから,脚部間の隙間から

手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽に行うことができるものである(【0

010】〜【0012】)。

考案を実施するための最良の形態

本件考案では,所望する位置に棚板を設けるようにしてあるので,棚板を横桟部

材に取り付けたまま横にスライドさせたり,棚板を横桟部材に付け替えたりするこ

とにより,棚板を設置する場所を,ブーツのような丈の長いものを避けた場所に設

けることが可能であるし,丈の異なる靴が混在して収納される場合でも,丈の短い

靴の上方の空間を無駄なく利用することが可能である(【0023】)。

(2) 前記(1)の記載からすると,本件考案は,靴収納庫用棚板及び靴収納庫にお

いて,靴を上下に収納するための傾斜棚を設ける場合,水平の棚板と同様に1枚の

大きな傾斜棚を設けると,傾斜棚下方の水平の棚板に丈の長い靴を1足でも収納し

ただけで,靴収納庫の空間部分を十分有効利用できないという問題が生じるのみな

らず,下方に収納した靴を取り出す場合,傾斜棚の靴を全部取り出して傾斜棚を跳

ね上げる必要があり,また,傾斜棚が水平棚と一体に固定されている場合,水平棚

を傾斜棚とともに収納庫外に引き出して下方に収納した靴を取り出す必要があると

いう問題点を解決する考案である。

本件考案は,上記課題を解決するため,靴載せ部を有する板状部材の一端に靴収

納庫に設けられた横桟部材に着脱可能に掛合する掛合部と,靴載せ部の上面と靴載

せ部の下方とに靴を収納した収納姿勢と,掛合部を回転中心として靴止め部側端部

を跳ね上げ,靴載せ部の下方に靴を出し入れする跳ね上げ姿勢とに回動可能で,か

つ,掛合部で横桟部材の長手方向に摺動可能にする構成を採用している。本件考案

は,当該構成により,棚板を跳ね上げて靴を容易に取り出すことができるほか,棚

板が必要に応じて着脱可能で,希望する位置に設置することが可能であるのみなら

ず,棚板を横桟部材に取り付けたまま横にスライドさせたり,棚板を横桟部材に付




け替えたりすることによって,ブーツのような丈の長いものを避けた場所に棚板を

設けることが可能であるし,丈の異なる靴が混在して収納される場合でも,丈の短

い靴の上方の空間を無駄なく利用することを可能とする点に,技術的特徴を有する

ものである。そして,フック若しくは下向きU字形に掛合部を形成した場合,着脱

操作を一層簡単に行うことができ,また,靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下

方に延びる脚部を形成した場合,脚部間の隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね

上げ操作を楽に行うことができるものである。さらに,本件考案は,既存の靴収納

庫にも必要に応じて取り付けて使用することができるという技術的特徴も有するも

のである。

2 相違点4に係る判断の誤りについて

(1) 引用考案及び周知技術について

ア 引用考案について

引用例(甲1)は,靴整理棚に係る意匠公報であるところ,本件審決は,引用考

案と請求項考案との相違点は,前記第2の3(2)ウないしオに記載の相違点1ない

し3であるとした上で,請求項考案及び請求項考案は,いずれも当業者が引用

考案からきわめて容易考案できるとしたものである。

本件審決の引用考案の認定,本件考案と引用考案との一致点及び相違点の認定

びに相違点1ないし3に係る判断については,いずれも当事者間に争いがない。

イ 周知技術について

周知例1(甲3)は,靴受け台に係る登録実用新案公報,周知例2(甲4)は,

靴整理棚に係る意匠公報,周知例3(甲5)は,靴収納具に係る意匠公報であると

ころ,周知例1ないし3には,靴載置用板材の高さを保持するために,靴載せ部の

一端及び他端の両隅部に下方に延びる脚部を形成した靴載置用板材が開示されてい

る。そして,周知例1ないし3により開示された靴載置用板材において,前方の脚

部間には床面との間に隙間が存在するものであるから,本件考案と同様に,隙間に

手を入れて靴載置用板材の跳ね上げ操作を楽に行うことができるものである。




ウ 本件考案は,靴収納庫用棚板に係る考案であり,引用考案は,靴整理棚に係

考案であるから,両考案の技術分野は共通する。周知例1ないし3についても同

様である。

(2) 本件審決の相違点4に係る判断の是非

ア 引用例(甲1)によると,引用考案は,靴を載せるパレット状棚部材の前後

に棚パイプが懸架されている構成を有しているところ,当該構成は,収納する靴の

寸法や形状に応じて棚パイプの位置を変更するとともに,パレット状棚部材を載置

することによりこれを支持するものである。なお,引用考案は,2本の棚パイプが

左右側板に懸架されたものであるところ,本件考案は,靴収納庫用棚板に係る考案

であり,横桟部材を保持するための具体的構成に係る考案特定事項は存在しないか

ら,引用考案において横桟部材に相当する棚パイプと左右側板との懸架について,

2本の棚パイプによる構成を重視し,当該構成に限定する必要性は乏しい。

また,引用考案においては,前方の棚パイプに掛合しているパレット状棚部材と

下方に収納した靴の靴底が接触している床面(引用考案の実施品の設置場所として

想定される玄関などの床面)との間に隙間が存在しているところ,下方に収納した

靴を取り出す場合,パレット状棚部材を掴み,同部材を跳ね上げた上で下方に収納

した靴を取り出すことも可能である。

そうすると,引用考案においても,前方の棚パイプは,本件考案と同様に,パレ

ット状棚部材を支持し,床面とパレット状棚部材との間に隙間を生じさせているも

のであるということができるから,引用考案において,上記効果を奏する構成とし

て,前後2つの棚パイプを採用するか,一方の棚パイプについて,周知例1ないし

3において開示されており,しかも,棚板の支持体の構成として一般的な構成とも

いうべき固定脚の構成を採用することは,当業者にとってきわめて容易であるもの

ということができる。

イ この点について,被告は,本件考案は,請求項考案又は請求項考案の構

成に,脚部の構成を有機的に組み合わせた構成を採用する点に特徴を有するもので




あって,単に周知技術を組み合わせたものではない,本件考案における脚部は,隙

間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽に行うという本件明細書に記載

された格別の効果を奏するための重要な意義を有するものであるなどと主張する。

しかしながら,周知例1ないし3により開示された靴載置用板材においても,本

考案と同様に,床面との間の隙間に手を入れて靴載置用板材の跳ね上げ操作を楽

に行うことができるものであることは,先に述べたとおりであって,周知技術にお

ける脚部においても同様の効果を奏するものということができる。したがって,被

告が強調する「脚部間の隙間に手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ姿勢を楽に行

う」との効果は,脚部を採用したことに伴う格別の作用効果といえるものではない

というべきである。

のみならず,仮に,周知例1ないし3が脚部を採用した目的と本件考案が脚部を

採用した目的とが異なるとしても,靴載せ部を支持する構成として,「脚部」の構

成が周知技術である以上,その適用が必ずしも困難であるということはできない。

すなわち,靴収納庫用棚板に限らず,一般的に棚板の一端をパイプ状の部材に載置

し,当該棚板の上下に目的物を収納する場合,他端にも同様のパイプ状の部材を設

けるか,脚部を設けるかによって棚板と床面との間に隙間を生じさせなければ,下

方に収納した目的物と棚板とが接触し,棚板及び上方に収納した目的物の重量によ

り下方に収納した目的物が破損又は変形するおそれがあるのみならず,下方に収納

した目的物を取り出すことが困難であることは明らかである。本件明細書には,脚

部を採用した効果について,隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽

に行うことのみしか記載されていないが,本件考案において,脚部を設けなければ,

靴載せ部を形成した板状部材が下方に収納した靴に接触することにより,下方に収

納した靴が破損したり変形したりするおそれがあることは明らかであって,当業者

が,そのような課題を認識し,これを解決すべき手段を検討することは,むしろ当

然である。

そうすると,脚部を採用することにより生じる効果は,上下に目的物を収納する




棚板における普遍的な効果(目的物の取り出し時に棚板を跳ね上げやすくするため

及び下方に収納した目的物と棚板との接触を防止するために棚板と床面との間に隙

間を生じさせること)にすぎないものというほかない。

ウ また,被告は,周知例1ないし3は,いずれもそれ自体の上下に靴を収納す

る機能を有する考案に係る文献であり,引用考案の他端側の棚パイプと周知例1な

いし3により開示された脚部とを置き換える動機付けは存在しない,引用考案は,

前後の棚パイプをいずれも左右側板の中段に懸架してパレット状棚部材を水平に掛

け渡し,同棚部材の上下に靴を収納することも予定しているから,1対の前後の棚

パイプは同考案に必須の構成であるとも主張する。

しかしながら,上記のとおり,靴収納庫用棚板において,目的物の取り出し時に

棚板を跳ね上げやすくするため及び下方に収納した目的物と棚板との接触を防止す

るために棚板と床面との間に隙間を生じさせることは,引用考案及び周知例1ない

し3により開示された靴載置用板材のいずれにおいても存在する課題であって,そ

の解決手段として一般的な構成で,普遍的な効果を奏するにすぎない脚部の構成を

採用することは,当業者が容易に試みる設計的事項であるというべきである。

もちろん,脚部を設けなくても,板状部材を長くすれば,少なくとも下方に収納

した靴と板状部材との接触を回避することは可能ではあるが,本件明細書が,請求

項1考案及び請求項考案並びに本件考案の技術的特徴の1つとして,「既存の靴

収納庫にも必要に応じて取り付けて使用することができる」ことを指摘していると

おり,靴収納庫用棚板や靴収納庫は,通常,既存の靴箱の中や玄関先等において使

用することが想定されているものであるところ,当業者は,板状部材の長さを含め,

通常想定される靴箱の寸法等による制約を前提として,課題を解決するための手段

を選択するものと解されるから,当業者が脚部の構成を採用することは,むしろ自

然である。

また,引用考案が,パレット状棚部材を水平に掛け渡す態様をも予定していると

しても,本件考案も,棚板の傾斜角度や脚部の寸法などを限定するものではなく,




靴収納庫用棚板が水平となる構成を排除するものではない。引用考案において,パ

レット状棚部材を水平に掛け渡す態様は,棚パイプと脚部との高さを一致させて設

置すれば実現可能であって,1対の前後の棚パイプを有する構成を採用しなければ

実現できないものではないから,当該構成が必須であるとまでいうことはできない。

エ 以上のとおり,被告の主張は,いずれも採用できず,本件考案は,引用考案

及び周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものと

いうべきである。

3 結論

以上の次第であるから,原告が主張する取消事由には理由があり,主文のとおり

判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 土 肥 章 大




裁判官 井 上 泰 人




裁判官 荒 井 章 光






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