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事件 平成 15年 (ワ) 2910号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告A
原告 株式会社ミツギロン
原告ら訴訟代理人弁護士 石井義人
同 濱田佳志
同 安藤誠一郎
同 林健太郎
被告 新日本ケミカル・オーナメント工業株式会社
訴訟代理人弁護士 山上和則
同 藤川義人
同 藤本一郎
補佐人弁理士 中尾真一
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/09/09
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙被告物件目録1及び2記載の物品を製造、販売してはならない。
2 被告は、その本店及び営業所内に存する別紙被告物件目録1及び2記載の物品を廃棄せよ。
3 被告は、原告株式会社ミツギロンに対し、金1125万円及びこれに対する平成15年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 原告A(以下「原告A」という。)は、別紙実用新案目録1記載の実用新案権を有し、原告株式会社ミツギロン(以下「原告ミツギロン」という。)にその独占的通常実施権を許諾しており、原告ミツギロンは、別紙原告商品目録1ないし3記載の包装パック用スペーサ(以下、別紙原告商品目録1記載の商品を「原告商品1」、同目録2記載の商品を「原告商品2」、同目録3記載の商品を「原告商品3」といい、原告商品1ないし3を包括して「原告商品」という。)を製造販売している。被告は、別紙被告物件目録1、2記載の物件(以下、別紙被告物件目録1記載の物件を「イ号物件」、同目録2記載の物件を「ロ号物件」といい、イ号物件とロ号物件を包括して「被告物件」という。ただし、被告物件の構成については、
後記のとおり一部争いがある。)を製造販売している。
本件は、被告による被告物件の製造販売が原告Aの実用新案権及び原告ミツギロンの独占的通常実施権を侵害するとして、原告Aが実用新案権に基づいて被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を請求し、原告ミツギロンが独占的通常実施権侵害による損害賠償の一部請求として1125万円及びこれに対する遅延損害金を請求し、また、被告による被告物件の製造販売が原告ミツギロンの周知商品表示である原告商品の形態を使用する不正競争(不正競争防止法2条1項1号)に該当するとして、原告ミツギロンが不正競争防止法に基づいて被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を請求するとともに、同法に基づき、上記と同額の損害賠償及び遅延損害金を請求した事案である。
2 基礎となる事実 (1) 実用新案権等 ア 原告Aは、別紙実用新案目録1記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」、その公告公報(実公平6-43010号。
甲第2号証)を「本件公報」という。)を有している。(当事者間に争いがない。) なお、本件実用新案権は、平成16年2月16日、存続期間満了により消滅した。
イ 原告Aは、本件実用新案権について、原告ミツギロンに独占的通常実施権を許諾している。(弁論の全趣旨) (2) 構成要件 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された明細書の実用新案登録請求の範囲(請求項請求項1のみである。)を構成要件に分説すると、次のとおりである。(当事者間に争いがない。) A トレイの側壁に嵌着される側面視で二股状に形成された嵌着支持部と、
B 嵌着支持部の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面を支える弾性変形可能な円弧状の支え部とを一体に形成してなる包装パック用スペーサにおいて、
C 嵌着支持部の分岐上端部を略平行に形成して板状の側壁挟持嵌合部を形成するとともに、
D その下方に嵌着支持部の少なくとも一方の支持片を外方に曲成してカーリング及び外広がりの周縁部を収納する抱持嵌合部を形成したことを特徴とする包装パック用スペーサ。
(3) 作用効果 本件考案の作用効果は次のとおりである。(当事者間に争いがない。) @ 二股の嵌着挟持部を、その上端部に略平行な挟持嵌合部とその下方に抱持嵌合部とを形成して構成するようにしてあるので、トレイの側壁の上端部が板状に形成されている場合、トレイの板状の側壁の上端部は支え部の上端の挟持嵌合部に挿入され、トレイの側壁の上端部が外方に広がったり、外方にカーリングされた形状である場合、トレイ側壁の上端部は抱持嵌合部に収納され、トレイの側壁の上端部がいずれの形状であっても実施することができ、その汎用性が広く A スペーサの支え部は円弧を描いて弾性変形し、このスペーサの支え部で持ち上げられた透明フィルムシートの下方、即ち食品の上方には大きな空間が確保される。
(4) 被告物件の製造販売 被告は、平成13年12月ころからイ号物件を「ニューダイヤモンド」の商品名で製造販売し、平成14年10月ころからロ号物件を「ラップガードM」の商品名で製造販売している。(イ号物件の製造販売の開始時期について、原告らは平成10年ころであると主張し、被告は平成13年12月であると主張するが、被告が同月より前にイ号物件を製造販売していたことを認めるに足りる証拠はないから、イ号物件の製造販売の開始時期は同月であると認められる。被告が平成14年10月ころからロ号物件を製造販売していることは、当事者間に争いがない。) (5) 被告物件の構成 ア イ号物件は、別紙被告物件目録1記載のとおりであり、その構成を分説すると、次のとおりである。(ただし、構成B、Dについては、傍線部分の記述に争いがあり、括弧外が原告らの主張、括弧内が被告の主張である。) @ トレイの側壁内側に差し込まれる支持脚と、前記側壁外側から前記側壁を押圧する支持片とから構成される嵌着支持部と、
A 前記支持脚の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面を支える側面視円弧状の支え部とを一体に形成してなる包装パック用スペーサにおいて、
B 前記支持片は、前記支え部の長手方向略中央部に架渡された架設板の下端から(架設板から) 前記円弧状の支え部の内方に向けて「くの字状」に延出した屈曲部と、該屈曲部の端部から前記支持脚と略平行に延出する平行部と、該平行部の端部から外方に曲成する(外方に膨出する)段部とを備え、
C 前記支持脚と前記平行部との間に板状の側壁を挟持する挟持嵌合部を形成するとともに、
D 前記段部を略直角状に曲成して(略直角状として)、カーリング及び外広がりのトレイ周縁端を押圧する押圧嵌合部を形成した包装パック用スペーサ。
イ ロ号物件は、別紙被告物件目録2記載のとおりであり、その構成を分説すると、次のとおりである。(ただし、構成B′、D′については、傍線部分の記述に争いがあり、括弧外が原告らの主張、括弧内が被告の主張である。) @′トレイの側壁内側に差し込まれる支持脚と、前記側壁外側から前記側壁を押圧する支持片とから構成される嵌着支持部と、
A′前記支持脚の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面を支える側面視円弧状の支え部とを一体に形成してなる包装パック用スペーサにおいて、
B′前記支持片は、前記支え部の長手方向略中央部に架渡された架設板の下端から(架設板から) 前記円弧状の支え部に沿って延出した延出部と、該延出部の端部から前記支持脚と略平行に延出する平行部と、該平行部の端部から外方に曲成する(外方に膨出する) 段部とを備え、
C′前記支持脚と前記平行部との間に板状の側壁を挟持する挟持嵌合部を形成するとともに、
D′前記段部を略直角状に曲成して(略直角状として)、カーリング及び外広がりのトレイ周縁端を押圧する押圧嵌合部を形成した包装パック用スペーサ。
(6) 原告商品の形態 原告商品は、トレイの側壁に嵌着される側面視で二股状に形成された嵌着支持部と、嵌着支持部の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面を支える弾性変形可能な円弧状の支え部とが一体に形成されており、同嵌着支持部の分岐上端部を略平行に形成して板状の側壁挟持嵌合部を形成するとともに、その下方に嵌着支持部の少なくとも一方の支持片を外方に曲成してカーリング及び外広がりの周縁部を収納する抱持嵌合部を形成している。(当事者間に争いがない。) 3 争点 (1) 実用新案権に基づく請求 ア 被告物件は本件考案技術的範囲に属するか イ 明白な無効理由の存否 (2) 不正競争防止法に基づく請求 ア 不正競争防止法2条1項1号該当性 イ 営業上の利益の侵害の有無 ウ 故意過失の存否 エ 先使用の成否 (3) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 実用新案権に基づく請求 (1) 被告物件は本件考案技術的範囲に属するか ア 原告らの主張 (ア) イ号物件 a 構成要件充足性 構成@は構成要件Aを、構成Aは構成要件Bを、構成B及びCは構成要件Cを、構成Dは構成要件Dを、それぞれ充足する。
b 作用効果 イ号物件は本件考案の作用効果を奏する。
イ号物件が、後記イ(被告の主張)(ア)b@ないしBの作用効果を奏することは否認する。支持脚と支持片の隙間は押え部を押圧してもほとんど広がらず、大量流れ作業の中でそのような押圧操作を行うことは極めて非効率的であり、被告の主張に係る@、Aの点は、新たな作用効果と評価することはできない。
また、「曲成」は「略直角」を含む概念であるが、支持片の略平行部の下方を略直角状に形成することにより保持性が高まることはない。
(イ) ロ号物件 a 構成要件充足性 構成@′は構成要件Aを、構成A′は構成要件Bを、構成B′及びC′は構成要件Cを、構成D′は構成要件Dを、それぞれ充足する。
b 作用効果 ロ号物件は本件考案の作用効果を奏する。
ロ号物件が、後記イbの作用効果を奏することは否認する。「曲成」は「略直角」を含む概念であるが、支持片の略平行部の下方を略直角状に形成することにより保持性が高まることはない。
イ 被告の主張 (ア) イ号物件 a 構成要件充足性 イ号物件の構成が本件考案の構成要件AないしDを充足することは否認する。
b 作用効果 イ号物件は、本件考案の作用効果をすべて備えているが(ただし、
本件考案にいうほどの弾性変形はない。)、それに加え、次の作用効果を奏する。
@ 嵌着支持部の支持片屈曲部内方の押え部を押圧操作することにより、スペーサ本体と挿入口部との間に隙間が形成され、良好な操作性が維持される。
A 支持片の略平行部を分岐上端部ではなく分岐中間部に形成することにより、上端部に押え部を設けて押圧操作をすることが可能となる。
B 支持片の略平行部の下方を外方に「曲成」ではなく「略直角状」に形成することにより、容器の周縁端を支持脚と支持片とで確実に保持する効果が生じる。
c 以上のとおり、イ号物件は、構成においても作用効果においても本件考案と異なるから、その技術的範囲に属さない。
(イ) ロ号物件 a 構成要件充足性 イ号物件の構成が本件考案の構成要件AないしDを充足することは否認する。
b 作用効果 ロ号物件は、本件考案の作用効果をすべて備えているが(ただし、
本件考案にいうほどの弾性変形はない。)、それに加え、支持片の略平行部の下方を外方に「曲成」ではなく「略直角状」に形成することにより、容器の周縁端を支持脚と支持片とで確実に保持する効果を奏する。
c 以上のとおり、ロ号物件は、構成においても作用効果においても本件考案と異なるから、その技術的範囲に属さない。
(2) 明白な無効理由の存否 ア 被告の主張 (ア) 別件仮処分 a 原告ミツギロンは、昭和63年7月15日、株式会社三和企画(以下「三和企画」という。)を債務者として、不正競争防止法(昭和9年法律第14号)に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分を大阪地方裁判所に申し立てた(以下「別件仮処分」という。)。別件仮処分は、三和企画に対し、原告ミツギロンの製造販売していた包装パック用スペーサ(商品名「ラップガード」)が三和企画の別紙実用新案目録2記載の実用新案権(以下「三和実用新案権」という。)の出願中の権利を侵害する旨の文書の頒布の差止めを求めるものであった。
b 原告ミツギロンは、別件仮処分申立書(乙第1号証)の申請の理由、第一、本件紛争の経緯、四(1)に、「申請人は現在別紙(3)イ号の四及び五の物件を製造販売している」と記載しているところ、別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四、及び別紙(3)の五、イ号の五の物件は、本件公報の第1図に記載された物件と非常によく似ており、本件考案に係るものであり、本件考案は、その実用新案登録出願前に公然知られ、又は公然実施されていたことが明らかである。
(イ) 別件訴訟 a 三和企画は、昭和63年、原告ミツギロン(当時の商号は「ミツギロン工業株式会社」であった。)、原告A及び被告に対し、三和実用新案権に基づき、原告ミツギロンによる包装パック用スペーサの製造販売、被告による包装パック用スペーサの販売が同実用新案権を侵害するとして、包装パック用スペーサの製造販売の差止め、補償金及び損害賠償の支払などを請求する訴えを大阪地方裁判所に提起した(同裁判所昭和63年(ワ)第611号。以下「別件訴訟」という。)。
b 別件訴訟については、平成3年11月27日、判決が言い渡された(以下「別件訴訟判決」という。乙第2号証)。別件訴訟判決の第二事案の概要、
四 被告らの行為、1(同判決9頁)においては、原告ミツギロンが、昭和61年6月から昭和62年8月ころまで同判決別紙物件目録記載一ないし三の各物件を製造販売していたが、昭和62年7月ころから同目録記載四ないし六の各物件を製造販売していることが認定されている。同目録記載四、六の物件(図面は、別件訴訟判決別紙図面四、六である。)は、いずれも嵌着挟持部aの中に二股の支持片cとdが存するが、支持片dの側に側面視略平行な部分が存在することは、別件訴訟判決別紙図面五や同判決別紙実用新案公報(二)の第1図の嵌着挟持部分と比べても明白であり、同判決別紙図面四、六は、本件公報の第1図とほぼ同一である。したがって、同判決別紙物件目録記載四、六の物件は、本件考案に係るものであり、本件考案は、その実用新案登録出願前に公然知られ、又は公然実施されていたことが明らかである。
別件仮処分及び別件訴訟においては、間隔保持具の下部に平行部分が存在するか否かが主要な争点となっておらず、嵌着挟持部の分岐上端部の形状について、本文中で具体的に言及されていなかった。しかし、包装パック用スペーサの支え部の形状及び機能のみならず、嵌着挟持部の形状についても争点とされていたから(別件訴訟判決第三、二、2、(二)、(1)(38頁)、第四、二、4(60頁))、別件仮処分申立書や別件訴訟判決において、適当簡略に図面を作成することは考えられない。
(ウ) 検乙第1、第2号証 被告は、原告ミツギロンが昭和63年当時製造販売していた、別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四、及び別紙(3)の五、イ号の五の物件を保有しているので、検乙第1、第2号証として提出する。被告の認識としては、検乙第1、
第2号証は被告の古い在庫の中から発見したものであり、原告ミツギロンが別件仮処分当時に製造販売していた商品と同一である。原告ミツギロンの商品は、別件仮処分以後、若干のモデルチェンジがあった模様であるから、可能性として、検乙第1、第2号証は、同仮処分当時の商品ではなく、モデルチェンジ後の商品であることもあり得るところであり、検乙第1、第2号証が本件考案の実用新案登録出願前の商品そのものであることについて直接的な証拠は存在しない。しかし、別件仮処分申立書及び別件訴訟判決を合わせて検討すれば、検乙第1、第2号証と同一又は極めて類似する商品が本件考案の実用新案登録出願前に販売されていたことは明らかである。
(エ) したがって、本件実用新案登録は、平成11年法律第41号による改正前の実用新案法3条1項1号、2号に違反してされたものであり、本件実用新案に平成5年法律第26号による改正前の実用新案法37条1項1号に規定する無効理由が存在することは明らかであり、本件実用新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は権利の濫用に当たり、許されない。
被告には、実用新案権の無効理由の存在が明白な場合に特許庁に無効審判を請求する義務はないし、本件実用新案権の存続期間は満了したから、侵害の有無と無効理由の存否について、本訴において統一的に解決することが合理的である。
イ 原告らの主張 (ア)a 前記ア(被告の主張)(ア)aの事実は認める。
b 前記ア(ア)bは争う。
別件仮処分申立書においては、間隔保持具上部(支え部)の形状が主要な争点となっており、下部の形状は具体的に特定されていないから、同申立書中には、当時原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案技術的範囲に属することを根拠づける記載は存在しない。
別件仮処分申立書別紙(3)の三ないし五(イ号の三ないし五)には、
間隔保持具の側面図が記載されているが、同申立書においては、上記のとおり、間隔保持具下部の形状は具体的に特定されていないから、その部分について厳密な採寸、作図が行われていたとは考えにくく、各図面から、嵌着支持部の分岐上端部が略平行に形成されていることを判断するのは、不可能である。したがって、同申立書別紙(3)の三ないし五の図面をもって、別件仮処分申立当時原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案技術的範囲に属すると判断することはできない。別件仮処分申立当時に原告ミツギロンが製造販売していた包装パック用スペーサは、
嵌着支持部の分岐上端部に略平行部が存在しない形状のものであり、本件考案とは構造を異にする。
(イ)a 前記ア(イ)aの事実は争わない。
b 前記ア(イ)bは争う。
別件訴訟判決において、間隔保持具下部の構成は、原告らの主張としては、「トレイの側壁の内面部分に当接する二本の受止め部と、トレイの側壁の外面を押圧するように曲成された一本の挟持部分とからなる三本足構造の嵌着挟持部」(同判決第二、七、1(二)(12頁12行ないし13頁2行)参照。)と特定され、裁判所の認定としては、「トレイの側壁の内面部分に当接する二本の受止め部分と、トレイの側壁の外面を押圧するよう曲成された一本の挟持部分とからなるクリップ状の構造」(同判決第四、二、4(61頁1行ないし3行))と特定されている。これらの特定中には、「嵌着支持部の分岐上端部を略平行に形成し、板状の側壁挟持嵌合部を形成する」という文言又は同種の意味を有すると解される文言は存在しない。別件訴訟において問題とされた三和実用新案権の考案においては、
間隔保持具の下部は二股の平行板にすぎなかったので、原告ミツギロンの商品の間隔保持具下部の構成については、挟持部が曲成されていること、クリップ状になっていることが記載されたにすぎなかった。したがって、別件訴訟判決中には、昭和62年7月ころから原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案技術的範囲に属することを根拠づける記載は存在しない。
別件訴訟判決において問題とされた三和実用新案権の考案において、間隔保持具下部は、「この間隔保持具の二股部をトレイの側壁に係合させ」としか特定されておらず、具体的な争点は、二股部が三本足構造のものを含むか否かということであった。この争点について、三和企画(別件訴訟原告)の主張の中心は、二股部が三本足構造であること、及び三本足構造にすることでトレイとの係合がより確実になるという点のみであり、別件訴訟判決は、考案の詳細な説明を前提として、「二股部は二本足構造のもののみならず三本足構造のものも含み、トレイとの安定した係合を図るためにトレイ側壁に対応する構造をとりうるものであると解せられる。」(同判決第四、二、1(四)(54頁8行ないし10行))と判断したにすぎず、足部分の形状について何らの検討も行っていない。したがって、別件訴訟においては、本件訴訟において争点となっている、間隔保持具下部に平行部分が存在するか否かということについては何ら争点となっておらず、その部分の特定又は作図について十分な注意が払われることはなかった。
別件訴訟判決別紙図面四ないし六には、間隔保持具の側面図が記載されているが、同判決における間隔保持具下部の形状の扱いは上記の程度にすぎなかったから、その部分について厳密な採寸、作図が行われていたとは考えにくく、
図面からは、嵌着支持部の分岐上端部が略平行に形成されていることを判断するのは不可能である。したがって、同判決別紙図面四ないし六をもって、昭和62年7月ころ以降原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案技術的範囲に属すると判断することはできない。
別件訴訟判決別紙図面四、六の間隔保持具下部は、大小2個の円弧状の部分を接続したものであり、上端部に平行部分は存在しない。
(ウ) 前記ア(ウ)は争う。
原告ミツギロンが製造販売する間隔保持具の形状は、発売後改良により何度も変更されたが、変更の記録は残っていない。被告は、別件仮処分以前から現在まで、原告ミツギロンの製造販売する間隔保持具を販売しており、被告の下には原告ミツギロンの商品が常時大量に存在する。被告の別紙実用新案目録3記載の実用新案権(以下「被告実用新案権」という。)の出願は、原告ミツギロンを意識して行われたものと考えられるが、被告実用新案権の公告公報(実公平7-18622号公報、乙第5号証)には、従来技術として、「嵌着支持部の分岐上端部が略平行に形成されている」ことについて何らの記載もなく、図面もない。被告も、検乙第1、第2号証が別件仮処分後の商品である可能性を認めている。
したがって、検乙第1、第2号証は、本件考案の実用新案登録出願前の商品であるとはいえない。
(エ) 前記ア(エ)は争う。
実用新案権について、仮に無効理由が存在しても、特許庁における無効審判が確定しない限り、有効なものとして存続し、侵害訴訟において自由技術の抗弁を立てることはできない。本件において、被告は無効審判すら提起しておらず、その主張は失当である。仮に無効理由の存在が一見して明白であるときに、裁判所において例外的に権利の無効を前提とする判断を行うことが可能であるとしても、本件考案についてそのような要件は充足されていないから、被告の無効主張は理由がない。
2 不正競争防止法に基づく請求 (1) 不正競争防止法2条1項1号該当性 ア 原告らの主張 (ア) 原告商品の製造販売等 原告ミツギロンは、平成4年6月から原告商品1、2の製造販売を開始し、同年11月から原告商品3の製造販売を開始し、原告商品を包装業者、食料品業者、スーパーマーケット等に販売している。
原告商品2、3にはプラマークが付されているが、販売開始時からプラマークの表示が義務づけられる前までは、プラマークは付されていなかった。原告ミツギロンは、プラマークの表示が義務づけられた時点で、原告商品2、3の金型に変更を加えてプラマークを表示した。プラマークの存在は、原告商品2、3の形状の特定に影響を及ぼすものではない。
(イ) 商品表示 原告商品は、@支え部の全体を外枠のみで構成するようにデザインされていること、A支え部は全体として湾曲したコの字型を形成すること、B@に関し、支え部の全体が外枠のみで構成されていることによって、支え部の空洞部分を通して内容物を直接に見ることができ、また、間隔保持具の存在を意識させないものとなっていること、という特徴を有する(以下、これらの特徴を有する形態を「原告商品の特徴的形態」といい、上記@ないしBを、それぞれ、「原告商品の特徴的形態@」のように番号により特定して示す。)。原告商品が製造販売される前の包装パック用スペーサは、支え部が板状だったので、それによりトレイの内容物が見えにくくなり、間隔保持具の存在が消費者に強く印象づけられていた。それに比べて、原告商品の特徴的形態は特異であり、スーパーマーケット等で商品が提供されるときに真っ先に消費者の目に入る部分であるので、原告商品の特徴的形態には強い自他識別力がある。
原告ミツギロンは、原告商品を独占的かつ継続的に販売し、その数量は発売後10年間を通じて一貫して年間平均1800万ないし2500万個に達していたから、原告商品の特徴的形態は、原告ミツギロンの商品であることを示す出所表示機能を有していた。
(ウ) 周知性 a 原告商品の特徴的形態は、特異かつ顕著なものである。
b トレイ上部においてラップを持ち上げる機能を有する包装パック用スペーサは、昭和60年に三和企画が、昭和61年に原告ミツギロンが販売を開始し、昭和63年ころから現在まで、包装パック用スペーサの市場占有率は、三和企画が約70%、原告ミツギロンが約30%である。
c 三和企画のスペーサは、上部が2枚の板で構成され、下部が嵌着構造になっていないという特徴があり、原告ミツギロンのスペーサは、上部が円弧状であり、下部が嵌着構造を採るという特徴があるので、需要者は、従来からスペーサの基本的な形状によって出所を簡単に判断することができた。更に原告ミツギロンが平成4年から販売を開始した原告商品は、上記特徴に加えて、原告商品の特徴的形態を備えていた。
d 原告ミツギロンは、原告商品を販売代理店であるキンジヨ株式会社に販売し、同社が包装業者、食料品業者、スーパーマーケット等に販売している。
原告ミツギロンは、少量ではあるが、原告商品を被告にも販売している。
原告商品の販売数量は、別紙ラップガード販売実績記載のとおりであり、平成4年には約1800万個、平成5年度には約3300万個、平成6年には約4500万個に達し、平成6年以降は、年間消費総数が約2億個程度に及ぶといわれるスペーサの約30%が原告商品となった。
e 原告ミツギロンは、原告商品について積極的に宣伝、広告、営業活動を行うとともに、展示会等にも積極的に出品して、販売拡張の努力を重ねていた。
f このような原告商品の形状、販売実績、市場占有率及び市場の状況等を前提とすると、原告商品の特徴的形態は、遅くとも、製造販売の開始から2年後の平成6年ころには、原告ミツギロンの商品であることを示す商品表示として、
取引先である包装業者、食料品業者、スーパーマーケット等の需要者において周知となった。
(エ) 同一又は類似 被告物件は、いずれも支え部の全部又は一部を外枠のみで構成するようデザインされ、支え部は全体として湾曲したコの字型を形成しているという特徴を有している。したがって、被告物件の形態は、いずれも、原告商品の特徴的形態と同一又は極めて類似している。
(オ) 混同 原告ミツギロンと被告は、販売形態、営業形態が同一であり、完全な競業関係にあり、被告物件の形態が、原告ミツギロンの商品表示である原告商品の特徴的形態と同一又は極めて類似していることから、被告が被告物件を製造販売すると、商品の出所について混同を生じさせる具体的危険、又は原告ミツギロンと被告の間に何らかの経済上、組織上の関係があると誤信させる具体的危険がある。
イ 被告の主張 (ア) 前記ア(原告らの主張)(ア)(原告商品の製造販売等)の事実は否認する。
原告商品2、3にはプラマークが付されているが、プラマークは平成13年4月から表示が義務づけられたものであり、原告商品が平成4年から製造販売されていたということはあり得ない。
(イ) 前記ア(イ)(商品表示)は争う。
a 原告商品の特徴的形態@について 原告ミツギロン、被告及び三和企画は、従前、包装パック用スペーサの支え部を板状部材で形成してきた。しかし、被告は、被告実用新案権に係る考案につき実用新案登録出願を行った後、その実施品として、支え部が板状でなく、
全体を外枠のみで構成した初めての包装パック用スペーサ(検乙第3号証、以下「ハ号物件」という。)の製造販売を開始した。ハ号物件は、支え部の全体が外枠のみで構成されていたので、外枠の空洞部分を通じて包装パックの内容物を直接見ることができ、また、間隔保持具の存在を意識させないという作用効果も原告商品と同様に奏していた。原告が原告商品を製造販売する前から被告が支え部の全体を外枠のみで構成する包装パック用スペーサを製造販売していたことからすると、支え部の全部を外枠のみで構成するようにデザインされていること(原告商品の特徴的形態@)は識別性を有しない。
b 原告商品の特徴的形態Aについて 支え部が板状部材からなる従前の包装パック用スペーサにも、支え部が湾曲しているものがあったから、支え部が全体として湾曲したコの字型を形成すること(原告商品の特徴的形態A)は、識別性を有しない。
c 原告商品の特徴的形態Bについて 包装パック用スペーサは、食品等を入れたトレイを包装する透明フィルムシートを上方に持ち上げてシートとトレイや食品等が接触しないようにし、
見た目を良くすることに効用がある。一般的なトレイにおいて、トレイに占める包装パック用スペーサの専有部分はわずかであり、消費者はわざわざスペーサの内部から中身をのぞき見るようなことはせず、透明フィルムシートから直接トレイの内部の食品等を確認する。したがって、支え部の全体が外枠のみで構成されていることによって、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見ることができ、また、間隔保持具の存在を意識させないものとなっていること(原告商品の特徴的形態B)には、何ら特別顕著な特徴があるとはいえない。
d したがって、原告商品の特徴的形態は、客観的に他の同種商品から識別できるほどの個性的な特徴でないから、特別顕著性はなく、原告商品の特徴的形態をもって原告ミツギロンの商品表示ということはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)(周知性)は争う。
包装パック用スペーサには、業界団体があるわけではなく、個々の取引額が小さい割に売先が幅広いので、シェアの統計を取ることに余り意味はない。
被告も10年以上にわたり包装パック用スペーサを製造販売しており、平成6年ころの被告のシェアは、得意先の広がりなどから推定して、4ないし5%を超えるものと思われる。
(エ) 前記ア(エ)(同一又は類似)は争う。
(オ) 前記ア(オ)(混同)は争う。
(2) 営業上の利益の侵害の存否 ア 原告らの主張 被告が被告物件を製造販売することにより、原告ミツギロンは営業上の利益を侵害された。
イ 被告の主張 原告らの主張は争う。
(3) 故意過失の存否 ア 原告らの主張 被告は、原告商品の形態を知っていたはずであり、被告物件を製造販売して不正競争を行うにつき、故意又は過失があった。
イ 被告の主張 原告らの主張は争う。
(4) 先使用の成否 ア 被告の主張 被告は、原告ミツギロンの製造した包装パック用スペーサを購入し販売していたが、自社で開発した包装パック用スペーサも少量ながら製造販売していた。被告は、昭和62年ころには包装パック用スペーサの開発を行っており、平成2年にハ号物件の製造販売を開始し、ハ号物件は、原告商品の販売が開始されたとする平成4年6月以前に全国の包装資材の卸問屋に相当数販売されていた。
ハ号物件は、挟持部の上端が支え部の先端から始まっており、支え部の内部に挟持部が存在するが、支え部の全体は外枠のみで構成されており、原告商品の特徴的形態@を備える。また、ハ号物件は、支え部が全体として湾曲したコの字型を形成するので、原告商品の特徴的形態Aを備える。さらに、ハ号物件は、支え部の内部に挟持部が存在するが、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見ることができ、間隔保持具の存在を意識させないから、原告商品の特徴的形態Bを備える。
したがって、被告は、原告商品の形態的特徴が原告ミツギロンの商品表示として需要者の間に広く認識される前から、原告商品の形態的特徴を不正の目的でなく使用しており、被告物件の製造販売に不正競争防止法3条ないし5条は適用されない(同法12条1項3号)。
イ 原告らの主張 被告の主張は争う。
ハ号物件は、挟持部の上端が支え部の先端から始まっているので、支え部の内部に挟持部が存在し、支え部の全体を外枠のみで構成するデザインとなっていないから、原告商品の特徴的形態@を備えない。また、ハ号物件は、支え部が全体としてコの字型でないから、原告商品の特徴的形態Aを備えない。さらに、ハ号物件は、支え部に空洞はほとんどなく、空洞部分を通して内容物を直接に見ることができないので、原告商品の特徴的形態Bを備えない。
スーパーマーケットにおけるトレイ入り刺身パックの販売方法は、平成3年ころまでは多段方式(売場の壁面に前方に若干傾斜した棚を一定の間隔で数段設置し、棚上にパックを置いて販売する方式)が中心であったが、同年ころ以降、
平台方式が広まった。原告らは、平台方式(売場の壁面から離した位置に、消費者の視線よりかなり低い平台の陳列ケースを設置し、ケース内にパックを並べる方式)に適した存在感のない包装パック用スペーサの開発に努め、支え部を空洞にしたことで従来品に比べ存在感の少ない原告商品を開発した。ハ号物件は、平台方式において使用したときは、支え部の中央の挟持部上部が消費者の視線を遮るから、
多段方式を前提とする従来の包装パック用スペーサと変わらない。
したがって、被告がハ号物件を製造販売していたとしても、被告は、不正競争防止法12条1項3号の「商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用する者」には該当しない。
3 損害額 (1) 原告らの主張 被告は、イ号物件を平成10年1月1日から月に100万個以上製造販売し、ロ号物件を平成14年10月1日から月に150万個以上製造販売しており、
平成15年2月末日までに、少なくともイ号物件を6200万個、ロ号物件を750万個製造販売した。
被告は、被告物件各1個につき少なくとも1.5円の純利益を得ている。
したがって、被告は、被告物件の製造販売により、平成15年2月末日までに少なくとも1億0425万円(1.5円×(6200万個+750万個)=1億0425万円)の利益を上げた。この利益の額が、独占的通常実施権の侵害又は不正競争による営業上の利益の侵害によって原告ミツギロンが受けた損害の額と推定される(実用新案法29条2項類推適用、不正競争防止法5条2項)。原告ミツギロンは、被告に対し、このうち、平成14年12月1日から平成15年2月末日までのイ号物件300万個、ロ号物件450万個の製造販売による損害賠償1125万円(1.5円×(300万個+450万個)=1125万円)及びこれに対する不法行為及び不正競争の後である平成15年4月26日(本件の訴状訂正申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(2) 被告の主張 原告らの主張のうち、被告物件の製造販売個数は否認し、その余は争う。
当裁判所の判断
1 実用新案権に基づく請求 争点(1)イ(明白な無効理由の存否)について検討する。
(1) 実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるときは、その実用新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。なお、
原告らは、本件において被告が無効審判すら提起していないから、被告による無効の主張は失当である旨主張する。しかし、実用新案登録に無効理由が存在することが明らかである場合に、そのような実用新案権に基づく侵害訴訟において、まず特許庁における無効審判を経由して無効審決が確定しなければ、当該登録実用新案に無効理由の存在することをもって実用新案権の行使に対する防御方法とすることが許されないとすることは、登録実用新案の対世的な無効まで求める意思のない当事者に無効審判の手続を強いることになり、また、訴訟経済にも反する(前記最高裁判決参照)ことからすると、本件において被告が本件実用新案権につき無効審判請求を行っていないことは、被告が本件実用新案につき明白な無効理由の存在を主張することの妨げとなるものではないと解するのが相当である。
(2)ア 別件訴訟判決 (ア) 三和企画が、昭和63年、原告ミツギロン、原告A及び被告に対し、三和実用新案権に基づき、原告ミツギロンによる包装パック用スペーサの製造販売、被告による包装パック用スペーサの販売が同実用新案権を侵害するとして、
包装パック用スペーサの製造販売の差止め、補償金及び損害賠償の支払などを請求する別件訴訟を大阪地方裁判所に提起したことは、当事者間に争いがない。
(イ) 乙第2号証(別件訴訟判決)によれば、次の事実が認められる。
a 別件訴訟判決の第二 事案の概要、四 被告らの行為、1(同判決9頁)において、原告ミツギロンが、昭和61年6月から昭和62年8月ころまで同判決別紙物件目録記載一ないし三の各物件を製造販売していたが、昭和62年7月ころから同目録記載四ないし六の各物件を製造販売していることが認定されている。
b 別件訴訟判決別紙物件目録において、同目録記載四の物件は、「別紙図面四に示すプラスチック製の間隔保持具であって、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部分dとからなる三本足構造の嵌着挟持部aに円弧状板(支え部)bを連設したもの。」と特定され、同目録記載六の物件は、「別紙図面六に示すプラスチック製の間隔保持具であって、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部分dとからなる三本足構造の嵌着挟持部aに円弧状板(支え部)bを連設したもの。」と特定されている。
c 別件訴訟判決別紙図面四、六に示された包装パック用スペーサの嵌着挟持部aは、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部分dとからなるが、dの上端部に、c、cと側面視略平行な部分が形成されている。
イ 別件仮処分 (ア) 原告ミツギロンが、昭和63年7月15日、三和企画を債務者として、不正競争防止法(昭和9年法律第14号)に基づく差止請求権を被保全権利とする別件仮処分を大阪地方裁判所に申し立てたこと、別件仮処分は、三和企画に対し、原告ミツギロンの製造販売していた包装パック用スペーサ(商品名「ラップガード」)が三和実用新案権の出願中の権利を侵害する旨の文書の頒布の差止めを求めるものであったことは、当事者間に争いがない。
(イ) 乙第1号証(別件仮処分申立書)によれば、次の事実が認められる。
a 原告ミツギロンは、別件仮処分申立書の申請の理由、第一、本件紛争の経緯、四(1)に、「申請人は現在別紙(3)イ号の四及び五の物件を製造販売している」と記載している。
b 別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四に示された包装パック用スペーサの嵌着挟持部の挟持部分の上端部には、嵌着挟持部の二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されている。同申立書別紙(3)の五、イ号の五に示された包装パック用スペーサについて、側面図は、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されているように描かれているが、斜視図には、そのような略平行な部分は示されていない。
ウ 本件公報との比較 本件公報(甲第2号証)の第1図には、本件考案実施例の包装パック用スペーサが示されている。
本件公報第1図と別件訴訟判決別紙図面四、六に示された包装パック用スペーサを比較すると、本件公報第1図の包装パック用スペーサは、嵌着支持部と支え部の境目付近に屈曲部がないのに対し、同判決別紙図面四、六の包装パック用スペーサは、嵌着支持部と支え部の境目付近に屈曲部が存在する。しかし、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されている点は、同一である。
別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四に示された包装パック用スペーサは、別件訴訟判決別紙図面四に示された包装パック用スペーサと非常によく似ており、本件公報第1図に示された包装パック用スペーサと比較すると、嵌着支持部と支え部の境目付近に屈曲部がある点は異なるが、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されている点は、同一である。
エ 別件訴訟判決についての検討等 (ア) 別件訴訟判決(乙第2号証)の別紙図面五には、嵌着挟持部が二本の受止め部分と一本の挟持部分とからなる包装パック用スペーサが示されているが、その包装パック用スペーサは、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されていないように描かれている。
他方、別件訴訟判決別紙物件目録記載五の物件は、「別紙図面五に示すプラスチック製の間隔保持具であって、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部分dとからなる三本足構造の嵌着挟持部aに円弧状板(支え部)bを連設したもの。」と特定され、「別紙図面五」という部分以外は、同目録記載四、六の物件と同じ文言により特定されている。これは、後記のとおり、別件訴訟判決においては、三和実用新案権の考案の「この間隔保持具の二股部をトレイの側壁に係合させ」という構成要件との関係で、三本足構造の嵌着挟持部が同構成要件の「二股部」に該当するか否かが問題となったことにより、上記のような文言により特定されたものと推認されるが、このように同じ文言によって特定されているにもかかわらず、別件訴訟判決別紙物件目録記載四、六の物件と同目録記載五の物件の形状が図面において異なるものとして表示されていることからすると、同判決は、嵌着挟持部が三本足構造であるかどうかという点だけではなく、そのほかの部分の形状の相違も考慮して、図面により物件を特定しているものと推認される。そうであるとすると、同判決別紙図面四、六は、同判決別紙図面五と比較して、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されていることが明らかであるから、同判決は、同判決別紙物件目録記載四、六の物件を、同目録記載五の物件と区別して、そのような側面視略平行な部分が形成された物件として特定しているものと認められる。
(イ) 原告らは、別件訴訟判決別紙図面四、六の間隔保持具下部は、大小2個の円弧状の部分を接続したものであり、上端部に平行部分は存在しないと主張するが、同判決(乙第2号証)によれば、同判決別紙図面四、六の嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されていることは明らかである。
(ウ) 別件訴訟判決によれば、別件訴訟において、包装パック用スペーサ(間隔保持具)の下部につき、三和企画(別件訴訟原告)は、別紙別件訴訟判決抜粋の「原告主張」記載のとおり主張し、原告ミツギロン、原告A及び被告(別件訴訟被告ら)は、同別紙の「被告主張」記載のとおり主張し、同判決は、同別紙の「裁判所の判断」記載のとおり認定した。同別紙から明らかなように、別件訴訟判決においては、三和実用新案権の考案の「この間隔保持具の二股部をトレイの側壁に係合させ」という構成要件との関係で、三本足構造の嵌着挟持部が同構成要件の「二股部」に該当するか否かが問題となり、三本足構造の嵌着挟持部も「二股部」に含まれると判断された。しかし、同判決別紙物件目録記載四、六の物件は、その円弧状板が三和実用新案権の考案の間隔保持具と形状(構造)を異にし、同考案の間隔保持具にはない作用効果を奏することから、同考案の構成要件の間隔保持具の傾斜板及び縦部材を具備すると認めることはできないとして、同考案技術的範囲に属さないものと判断された。
上記のとおり、別件訴訟判決は、本件のように嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されているか否かが問題とされたのではないから、本文中に、そのような側面視略平行な部分の存否について具体的な記述はない。しかし、そうであるとはいえ、同判決が、別紙別件訴訟判決抜粋のとおり、包装パック用スペーサの下部について検討をしていることからすれば、同下部の形態について相応の注意を払った上で、文言及び図面により各物件の特定を行ったものと推認される。
オ 検乙第1、第2号証 検乙第1、第2号証については、それらが本件考案の実用新案登録出願前に販売されていたものであることを直接立証する証拠はない。しかし、別件仮処分申立書(乙第1号証)、別件訴訟判決(乙第2号証)及び検乙第1、第2号証によれば、検乙第1号証は、その形状が、別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四の物件、別件訴訟判決別紙図面四の物件と非常によく似ており、検乙第2号証は、別件訴訟判決別紙図面六の物件と非常によく似ていることが認められ、別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四の物件、別件訴訟判決別紙図面四、六の物件が、別件仮処分申立時又は別件訴訟判決に認定された昭和62年7月ころ以降、実際に存在したことが推認される。
カ 以上によれば、本件考案の実用新案登録出願日である平成元年2月16日より前に、原告ミツギロンが、別件仮処分別紙(3)の四、イ号の四の物件、別件訴訟判決別紙図面四、六の物件を製造販売していたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。これらの物件は、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されているから、本件考案の構成要件Cを充足し、その余の構成要件A、B、Dも充足する。
したがって、本件考案は、その実用新案登録出願前に公然実施され、公然知られていたものと認められ、本件実用新案登録は、平成11年法律第41号による改正前の実用新案法3条1項1号、2号に違反してされたものであり、本件実用新案に平成5年法律第26号による改正前の実用新案法37条1項1号に規定する無効理由が存在することは明らかであり、本件実用新案権に基づく差止め、廃棄及び損害賠償の請求は権利の濫用に当たり、許されないというべきである。
なお、本件実用新案権は、前記第2、2(1)記載のとおり、平成16年2月16日、存続期間満了により消滅したから、本件実用新案権に基づく差止め及び廃棄の請求は、この点からしても理由がない。
2 不正競争防止法に基づく請求について 争点(2)ア(不正競争防止法2条1項1号該当性)について検討する。
(1) 商品の形態は、通常、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるために選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態が商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得ると解される。
(2)ア 検甲第1ないし第3号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品は、@支え部の全体を外枠のみで構成するようにデザインされていること、A支え部は全体として湾曲したコの字型を形成すること、B@に関し、支え部の全体が外枠のみで構成されていることによって、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見ることができ、また、間隔保持具の存在を意識させないものとなっていること、という原告商品の特徴的形態を備えることが認められる。弁論の全趣旨によれば、原告商品は、平成3年ころ、スーパーマーケットにおけるトレイ入り刺身パックの販売方法が多段方式から平台方式に変更されたことに伴い、上方から見たときに包装パック用スペーサができるだけ目立たないようにするために開発されたものと推認される。そして、原告商品の特徴的形態をすべて備えた包装パック用スペーサが、原告商品の製造販売が開始される前に存在したことをうかがわせる証拠はない。
イ しかし、原告商品は、本件公報(甲第2号証)の第1図に示されるような従前の包装パック用スペーサの板状の支え部を、全体が外枠のみで構成されるように置き換えたものということができ、弁論の全趣旨によれば、原告商品の特徴的形態を開発するために工夫が必要であったことは推認されるが、原告商品の特徴的形態又は原告商品の形態自体は、特別顕著な形態であるとは認められない。
また、乙第5号証、第7ないし第9号証、第10号証の1ないし4、第12号証、検乙第3号証によれば、被告が平成3年当時、ハ号物件(商品名「ダイヤモンドブリッジ」)を製造販売していたことが認められ、ハ号物件は、原告商品の特徴的形態@を備え、原告商品の特徴的形態Bに関して、原告商品ほどでないにしても、支え部の全体が外枠のみで構成されていることによって、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見ることができるという効果を有していたものと認められる。原告商品は、ハ号物件と比べて、支え部が全体として湾曲したコの字型を形成する点、支え部の途中から挟持部が始まっている点が異なるが、それらの差異は、ハ号物件と比べた場合に、改良、変形と言い得るものの、顕著な特徴であるとは認められない。
ウ 弁論の全趣旨によれば、原告商品1は平成4年6月ころ以降、原告商品2、3は同年11月ころ以降(平成13年4月にプラマークの表示が義務づけられる前、原告商品2、3にはプラマークが付されていなかったものと推認される。)、相当数が製造販売されていたものと認められるが、原告らの主張によっても、トレイ向け包装パック用スペーサにおける原告商品のシェアは30%であり、
長期間独占的に原告商品の特徴的形態が使用されたとは認められないし、原告商品の形態について強力な宣伝が行われたことを認めるに足りる証拠もない。
原告らは、原告商品の形態が周知の商品表示であることなどを立証するために原告商品を扱っている会社等の作成に係る陳述書(甲第6ないし第21号証)を提出するが、これらの陳述書は、原告らが用意した同一の不動文字及び写真が印刷された書面に各作成者が日付と記名押印等をしたものであると推認され、各作成者が原告商品の形態の周知性等について明確に意識した上で作成したかどうかという点について必ずしも信用性が高いとは認められない上、これらの作成者が、
包装パック用スペーサや原告商品をどの程度の数量扱っているかが明らかでないから、これらの陳述書の存在を考慮したとしても、原告商品の形態が原告の商品表示として周知であるとは認められない。
エ 以上によれば、原告商品の特徴的形態又は原告商品の形態は、過去において原告の周知の商品表示であったとは認められないし、現在においても原告の周知の商品表示であるとは認められない。
したがって、原告らの不正競争防止法に基づく請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
3 結論 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
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