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事件 平成 23年 (行ケ) 10012号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2011/12/26
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年12月26日判決言渡

平成23年(行ケ)第10012号 審決取消請求事件

平成23年11月14日 口頭弁論終結

判 決



原 告 A

訴訟代理人弁護士 森 田 哲 治



原 告 B




原 告 C



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 長 島 和 子

同 星 野 浩 一

同 黒 瀬 雅 一

同 芦 葉 松 美

主 文

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が訂正2010−390090号事件について平成22年12月27日に

した審決を取り消す。

第2 当事者間に争いのない事実等

1
1 本件原出願の経緯等

原告A(以下「原告A」という。 は,
) 昭和59年9月5日,実用新案登録出願(実

願昭59−134611号。以下「本件原出願」という。)をした。本件原出願に係

る当初明細書の実用新案登録請求の範囲には,電話機に差し込むことにより電話が


かけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏の確

認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部,穴部或は押形部などから

なる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。 と記載され,
」 指示

部の構成として,切欠部を形成する図が第1図に,穴部を形成する図が第2図に,

押形部を形成する図が第3図に示されていた(甲A3)。

原告Aは,本件原出願について,平成2年8月8日付け拒絶理由通知(甲A6)

を受け,同年11月13日,
「意見書に代える手続補正書」を提出した。上記手続補

正書において,実用新案登録請求の範囲の記載は,
「電話機に差し込むことにより電

話がかけられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,カードの表裏

の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指

示部を設けてなるテレホンカード。 と補正されるとともに,
」 切欠部を図示した第1

図及び穴部を図示した第2図が削除され,押形部を図示した第3図が第1図とされ

た。

特許庁は,平成3年4月2日付けで本件原出願について拒絶査定をした(甲A3

6)。原告Aは,平成3年5月23日付けで上記拒絶査定の不服審判を請求した。本

件原出願は,平成5年6月24日に出願公告(実公平5−25007号。甲A30)

がされたが,実用新案登録異議申立てがされ,原告Aは,平成6年5月24日付け

で手続補正書(甲A8)を提出した。上記手続補正書において,実用新案登録請求

の範囲の記載は,電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードに


おいて,該カード本体に,カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示

するための指示部を設け,該指示部は,該カード本体の一部に形成された押形部か

ら成り,該押形部は,カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特

2
徴とする,テレホンカード。」と補正された。特許庁は,平成6年11月21日,上

記異議申立てにつき,「本件登録異議の申立ては,理由がないものとする。」との決

定をするとともに(甲A4) 同日付けで,
, 本件原出願につき,拒絶査定を取り消し,

実用新案登録をすべきものとするとの審決をした。本件原出願に係る考案は,平成

7年4月20日,設定登録がされた(実用新案登録第2058104号)。

2 本件出願の経緯等

原告Aは,平成6年5月24日,本件原出願から分割出願(実願平6−5675

号。以下「本件出願」という。)をした。本件出願当初の実用新案登録請求の範囲

は,
「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて,この

カード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込

方向の指示部を設けてなり,前記押形部はカード本体の表面を凹状にへこませたく

ぼみから成ることを特徴とするテレホンカード。」と記載されていた(甲A5)。

本件出願は,平成8年2月21日に出願公告(実公平8−5827号)がされた

(甲A27)。その後,本件出願に対し,実用新案登録異議申立てがされ,平成9年

12月25日に同申立てについて「異議理由あり」とする異議決定がされ,同日,

本件出願について拒絶査定がされた。原告A外2名は,平成10年2月12日,上

記拒絶査定に対する不服審判(審判平10−2419号)を請求し(甲B6),同年

3月12日付け補正書(甲A32)で,考案の詳細な説明を補正し,平成11年1

0月28日付け手続補正書(甲A29の1)で,考案の詳細な説明及び図面補正

し(図1を変更し,図2ないし6を追加),平成11年12月6日付け手続補正書で

図面補正(図6を削除)した。

特許庁は,平成12年1月26日付けで,平成11年10月28日付け及び同年

12月6日付け補正を却下するとともに,
「原査定を取り消す。本願の考案は,実用

新案登録すべきものとする。 との審決をし,
」 平成12年3月17日に本件出願の考

案は設定登録がされた(実用新案登録第2150603号。甲A1,55,甲B6)。

上記登録時の実用新案登録請求の範囲には,電話機に差し込むことにより電話がか


3
けられるテレホンカードにおいて,このカード本体の一部に,電話に差し込む方向

を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり,該指示部は,カード本体の

外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの

中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており,且つ,該指示部は

目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指がふれる

位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。と記載されていた
」 (以下,

上記実用新案登録請求の範囲に記載された考案を「本件考案」という。。


3 本件訂正請求の経緯等

原告A外2名は,平成22年8月30日,本件考案について,訂正審判の請求(訂

正2010−390090。以下「本件訂正」という。甲A28)をしたが,特許

庁は,平成22年12月27日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以

下「本件審決」という。)をし,同審決の謄本は,同月29日原告Aに,同月30日

原告B(以下「原告B」という。)に,平成23年1月6日原告Cに,それぞれ送達

された(以下,原告Aと原告Bを併せて「原告ら」という。。


4 本件訂正の内容

本件訂正の内容(甲A28)は,以下のとおりである(判決注:本件訂正に係る

審判請求書の記載には,本件訂正前の明細書及び全文訂正明細書の記載と整合しな

い部分があるので,下線部については,本件訂正前の明細書及び全文訂正明細書

即して記載した。。


訂正事項a:明細書の【実用新案登録請求の範囲】の「電話に差し込む方向を指

示するための押形部からなる指示部を設けてなり」 「電話機に差し込む方向を指
を,

示するためのへこみ部からなる指示部を設けてなり」と訂正する。

訂正事項b:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0005】の「電話に差し

込む方向を指示するための押形部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴と

する。」を,「電話に差し込む方向を指示するためのへこみ部からなる差込方向の指

示部を設けたことを特徴とする。」と訂正する。

4
訂正事項c:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0006】の「この考案

よれば,カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼ

みから成る押形部からなる差込方向の指示部を設けたから」 「この考案によれば,
を,

カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼみから成

るへこみ部である差込方向の指示部を設けたから」と訂正する。

訂正事項d:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0008】の「この指示部

2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,これを指示部2とした。」を,「こ

の指示部2はカード本体1の一部にへこみ部5を形成して,これを指示部2とし

た。」と訂正する。

訂正事項e:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0009】の「又,上述の

如く,指示部2がカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれて配

置されているのでカード本体の電話機への差し込み方向を知ることができると共に

カード本体1の表裏を確認することができる。」の次に,「尚,第1図に示した実施

例はカード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向へ向けたへこ

み部5を形成したもの,第2図に示した実施例はカード本体の平面的な中心方向へ

向けたへこみ部5を形成したものである。また,第3図及び第4図に示す実施例

前記第2図に示した実施例と同様にカード本体の平面的な中心方向へ向けたへこみ

部5を形成したものであるが,へこみ部5である指示部2がカード本体1の厚み(カ

ード本体の表面から裏面までの距離)を越えて,即ち,カード本体の表面から裏面

を越えて形成されたものである。尚,本考案における指示部2はへこみ部5であれ

ば本考案の作用・効果を奏することは明らかであり,へこみ部の形成手段として,

例えば押形を用いて押圧する方法,削る方法,研磨する方法,薬品や熱などにより

溶解や収縮する方法など周知の各種の形成方法が用いられるがいずれの方法を用い

ても形成されたへこみ部について人間の指先の触覚により判別出る程度のへこみ部

5が形成されればよいことから,形成手段の別による作用・効果上の違いはなく,

形成手段は問わない。」を追加する。

5
訂正事項f:明細書の【考案の詳細な説明】の段落【0010】の「この考案

係るテレホンカードは,カード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するた

めにカード本体に形成されたくぼみの押形部からなる差込方向の指示部を設けたか

ら,押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ」を,

「この考案に係るテレホンカードは,カード本体の一部に,電話機に差し込む方向

を指示するためにカード本体に形成されたくぼみのへこみ部からなる差込方向の指

示部を設けたから,押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認する

ことができ」と訂正する。

訂正事項g:明細書の【図面の簡単な説明】における【図1】の次に,【図2】


【図3】
考案の異なる実施の一例を示す平面図である。 本考案の異なる実施の一例

を示す平面図である。【図4】図3の右側面図である。」を追加する。

訂正事項h:明細書の【符号の説明】における「5・・・押形部」を「3・・・

へこみ部」と訂正する。

訂正事項i:図面について第2図,第3図及び第4図を追加する。

5 本件審決の理由

本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正は,実

質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものであって,認めることは

できないとするものである。

第3 取消事由に関する原告らの主張

1 取消事由1(本件考案の認定の誤り)

本件審決は,本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形(押型)」と

は,材料に圧力を加えて整形するのに用いる器具を意味するから,本件考案の「カ

ード本体の一部に,
・・・押形部からなる」とは,カード本体の材料の一部に圧力を

加えて成形された部分からなる構成を意味する趣旨を述べて,本件訂正は許されな

いと判断した。

しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

6
「押形(押型)」は,材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具であり,
「押形部」

は器具の部分(部品)であり,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された

部分からなる構成を意味すると解することはできない。本件訂正は,かかる記載を

明瞭にするためになされたものである。

また,本件審決は,本件原出願に係る当初明細書補正され,出願公告がされた

後に,本件原出願から本件出願が分割出願されたものであるから,本件考案は,本

件原出願に係る当初明細書及び図面(以下「本件原出願に係る当初明細書」という。,


並びに公告時の願書に添付された明細書及び図面(以下「本件原出願に係る公告明

細書」という。)の双方に記載された考案であることを要するところ,本件原出願に

係る公告明細書においては,図1にテレホンカードの側面からみて,上下面から厚

み中心部方向にくぼんだ形状を示す記載がされている以外には,
「指示部」がどの方

向にくぼんでいるかを示す記載はなく,本件考案の「カード本体の外周縁からカー

ド本体の内方向にくぼんでいる」もこれと同様に解さざるを得ない趣旨を述べて,

本件訂正は許されないと判断した。

しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

本件原出願に係る公告明細書には,「指示部はカード本体の一部に形成されている」

との記載があり,図1はそのうちの1つの実施例を示したものにすぎないのであっ

て,本件原出願に係る「指示部」がこれに限定されることはなく,本件考案の「カ

ード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」も,テレホンカードを

側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)にくぼんだ形状に限定して解釈す

る必要はない。

したがって,本件審決の本件考案の認定及び判断には誤りがある。

2 取消事由2(本件訂正が実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更に当たると

した判断の誤り)

(1) 本件審決は,訂正事項aについて,「押形部」を「へこみ部」に訂正し,形

状で特定することは,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分から

7
なるとの構成以外の構成,すなわち,カード本体の一部を削ったり,研磨したりし

て形成されて成るへこみ部からなる構成等を含むものになるから,訂正事項a及び

これに伴う訂正事項b〜f,hは,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は

変更するものに当たると判断した。

しかし,本件審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,本件訂正

「押形部」という明瞭でない記載の釈明である。実用新案法の保護の対象
の目的は,

となるのは,自然法則を利用した技術的思想のうち,物品の形状構造又は組合せ

に係るものに限られ,これを実現するための方法は,実用新案登録請求の範囲に記

載されるべきものではなく,記載されている場合にはその記載を除外して考案の要

旨を認定すべきであるところ,本件訂正は,実用新案登録請求の範囲に記載された

方法の記載を削除し,考案の要旨を明瞭にするためになされたものである。本件考

案は,カードの外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいて,指で触ってその位

置が確認できる構成であればよく,へこみ部の形成方法が変わっても,指示部がへ

こみ部であれば作用,効果に変わりはないのであって,カード本体の一部を削った

り,研磨したりして形成されて成るへこみ部からなる構成等もその構成に含まれる。

(2) 本件審決は,訂正事項e,g,iは,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲

の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」との記載につい

て,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状も含むよう

にするものであり,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに

当たると判断した。

しかし,本件審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,
「カード本

体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」との記載には,テレホンカー

ドを側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)にくぼんだ形状のほか,テレ

ホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状も含んでいることは

明らかであって,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み方向(表裏方向)

にくぼんだ形状に限定する理由はない。本件考案の実用新案登録に係る平成12年

8
1月26日審決においても,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼん


でいる」は,上記2つの形状を含んでいる旨認定されており,訂正事項e,g,i

は,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たらない。

3 その他の取消事由

(1) 本件審決は,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」

「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんで
を「へこみ部」と解釈し,

いる」 @テレホンカードを平面的にみて,
を, カードの中心方向にくぼんだ形状と,

Aテレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心方向(表裏方向)にくぼん

だ形状の両方を含んでいるものと解釈すると,本件原出願の出願前の刊行物である

実願昭56−7267号(実開昭57−122088号)のマイクロフィルム及び

実願昭56−7268号(実開昭57−122065号)のマイクロフィルムに記

載された構成と同一の構成となり,本件考案が無効理由を内在していることになる

から,上記解釈を採ることはできない旨認定,判断した。

しかし,本件審決の上記認定及び判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

上記引用公報に記載されているのは「切欠部」であって,本件考案の「へこみ部」

とは異なるから,本件審決の上記認定及び判断は誤りである。また,本件審決は,

本件考案の認定において,
「切欠部」と「へこみ部」は異なるとしており,上記認定

と矛盾する。さらに,本件審決は,申立ての対象となっていない無効理由について

審理,判断しており,手続違背がある。

(2) 本件審決は,本件出願を親出願として分割出願された実用新案登録出願(実

願平11−9646号。平成22年4月2日登録。実用新案登録第2607899

号。以下「孫出願」という。)において,
「カード内方向」について,
「カード本体を

側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向に向けて形成されている場合と,

カード本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とがある」という補正

が認められ,登録されているとしても,そのような異なる事案に対する審査経過が

本件訂正の可否に影響を与えるものではない旨を判断した。

9
しかし,本件考案が,本件原出願に係る当初明細書及び公告明細書の双方に記載

された考案であることを要するというのであれば,孫出願についても同様の判断が

なされた上で登録に至ったものと解することができるのであって,孫出願における

審査経過とは事案が異なるとして,判断を回避した本件審決には,判断遺脱の違法

がある。

(3) 本件原出願に係る実用新案登録請求の範囲の記載は,平成6年5月24日付

け手続補正書ないし平成8年10月9日付け職権補正により,「・・・該指示部は,

カード枠体を押圧して形成されたへこみ部から成る・・・」との補正がなされたと

ころ,上記「へこみ部」は,カードの外側から平面的なカードの中心方向に向かっ

て形成されるものであることは明らかであるから,本件訂正も同様に認められるべ

きである。

第4 被告の反論

1 取消事由1(本件考案の認定の誤り)に対して

原告らは,本件考案について,@「押形部」は,材料に圧力を加えて成形するの

に用いる器具の部分(部品)であること,A本件原出願に係る公告明細書には,
「指

示部はカード本体の一部に形成されている」と記載されているところ,図1はその

うちの1つの実施例にすぎず,これに限定されることはないことから,本件審決の

本件考案の認定及び判断には誤りがあると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件訂正前の明細

書の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,本件考案の「押形部」とは,テ

レホンカードの電話機に差し込む方向を指示するための「カード本体の材料の一部

に圧力を加えて成形された(くぼんだ)部分」を意味するものである。また,本件

考案における「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」とは,

カード本体の外周縁から指示部がどの方向にくぼんでいるかを規定しているとこ

ろ,本件訂正前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)には,くぼみ方向に

ついて,テレホンカードを側面からみて,上下面から厚み中心部方向(表裏方向)

10
にくぼんだ形状のみが示されており,テレホンカードを平面的にみて,カードの中

心方向にくぼんだ形状については記載も示唆もされていない。

したがって,本件審決の本件考案の認定及び判断に誤りはない。

2 取消事由2(本件訂正が実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更に当たると

した判断の誤り)に対して

原告らは,@訂正事項a及びこれに伴う訂正事項b〜f,hは,実用新案登録請

求の範囲について,方法の記載を削除し,考案の要旨を明瞭にしたものであり,本

考案における「へこみ部」は,カードの外周縁からカード本体の内方向にくぼん

でいて,指で触ってその位置が確認できればよく,方法自体を物品の一部として限

定する理由はない,A訂正事項e,g,iについて,
「カード本体の外周縁からカー

ド本体の内方向にくぼんでいる」をテレホンカードに適用すれば,テレホンカード

を平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状を含んでいることは明らかであ

る,と主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件考案は,テレ

ホンカードという物品の形状又は構造特定した考案であるところ,押形部」
「 とは,

カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分,すなわち,カード本体の

構造の一部を特定するものであって,方法を特定したものとはいえない。実用新案

法が対象としている考案は,物品の形状構造又は組合せに係る考案であって,方

法はその対象となっていないが,実用新案登録請求の範囲において,製造方法によ

って生産物の特定をすることは許される。また,
「押形部」を「へこみ部」に訂正す

ると,カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる構成以外の

構成,すなわち,カード本体の一部を削ったり,研磨したりして成るへこみ部から

なる構成を含むものとなり,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更す

るものに当たる。さらに,上記のとおり,本件考案の「カード本体の外周縁からカ

ード本体の内方向にくぼんでいる」とは,テレホンカードの側面からみて,上下面

から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんだ形状と解される。

11
したがって,本件審決が,本件訂正は実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,

又は変更するものに当たると判断したことに誤りはない。

3 その他の取消事由に対して

原告らは,@本件審決は,申立理由となっていない本件考案の無効理由について

審理,判断した,A孫出願において,「カード内方向」は,「カード本体を側面から

みてカード本体の上下面から厚み中心方向に向けて形成されている場合と,カード

本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とがある」との補正が認めら

れて登録されているにもかかわらず,事案が異なるとして,判断を回避した本件審

決には,判断の遺脱の違法がある,などと主張する。

しかし,本件審決は,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形

部」を「へこみ部」と解し,「カード本体の内方向」について,テレホンカードを

平面的にみて,カードの中心方向も含むものと解すると,本件考案が無効理由を内

在していることになる旨示したにすぎず,申立理由となっていない事項について審

理したものではない。また,孫出願が上記のとおり登録されているとしても,事件

毎に個別に判断すべきものであって,本件審決の判断に遺脱があるとはいえない。

第5 当裁判所の判断

当裁判所は,原告らが主張する取消事由には理由がないものと判断する。その理

由は,以下のとおりである。

1 取消事由1(本件考案の認定の誤り)について

(1) 本件考案における「押形部」について,本件訂正前の実用新案登録請求の範

囲には,
「カード本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形部からな

る指示部を設けてなり」との構成が示されている。また,本件訂正前の明細書には,

「このカード本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するために押形部からな

る差込方向の指示部を設けたことを特徴とするものである。(段落【0005】,
」 )

「・・・カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼ

みから成る押形部からなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部

12
は手で触れることにより容易に確認することができ,・・・」(段落【0006】,


図面において,・・・この指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して,

これを指示部2とした。・・・」(段落【0008】,
)「・・・カード本体の一部に,

電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみの押形部か

らなる差込方向の指示部を設けたから,押形部からなる指示部は手で触れることに

・・・」
より容易に確認することができ, (段落【0010】)との記載,図の簡単な

説明として「【図1】本考案の実施の一例を示す平面図である。 , 【符号の説明】
」「

1・・・カード本体,2・・・指示部,5・・・押形部」との記載があり,図1(本

判決別紙図面のとおり)が添付されている。

上記本件訂正前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,本件考

案における「押形部」とは,カード本体の一部に設けられ,電話機に差し込む方向

を指示するためにカード本体に形成されたくぼみからなる差込方向の指示部である

と理解でき,これがどのような形態であるかについては特定されていないものの,

押すことによって形成された部分を意味するものと理解することができる。そうだ

とすると,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の「押形部」を「へこみ部」とす

ること(訂正事項a)は,押すことによって形成された部分でない「へこみ部」を

広く含むことになるから,本件訂正は,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,

又は変更するものに当たる。

(2) これに対し,原告らは,本件考案における「押形部」は,「器具の部分(部

品)」であり,「圧力を加えて成形された部分」ではない,本件原出願に係る「指示

部」は,カード本体の一部に形成されていればよく,本件原出願に係る公告明細書

における図は1つの実施例にすぎず,表裏方向にくぼんだ形状に限定されない,と

主張する。

しかし,原告らの上記主張は採用することができない。すなわち,上記本件訂正

前の明細書の記載及び図1(別紙図面のとおり)によれば,
「押形部」が器具の部分

(部品)であると解することはできない。また,本件考案は,本件原出願に係る当

13
明細書補正され,出願公告がされた後,分割出願されたものであるから,本件

原出願に係る当初明細書及び公告明細書の双方に記載された考案であると理解する

のが自然である。そして,本件原出願に係る公告明細書(甲A30)には,
「前記カ

ード本体の外周縁から前記カード本体の内方向にくぼんでいる」との構成について,

側面からみて,上下面から厚み中心部方向にくぼんだ形状のみが示されていたこと

に照らすならば,本件考案は,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向

にくぼんだ形状を含まないと理解するのが合理的である。

(3) したがって,原告らの上記主張には理由がなく,本件審決の本件考案の認定

に誤りはない。

2 取消事由2(本件訂正が実用新案登録請求の範囲の拡張又は変更に当たると

の判断の誤り)について

原告らは,@実用新案法の保護の対象となるのは,物品の形状構造又は組合せ

に係るものに限られるから,考案の要旨を認定するに当たり,物品の形状構造

実現するための方法は除外されるべきであるところ,訂正事項a及びこれに伴う訂

正事項b〜f,hは,押すという方法を加味した明瞭でない記載を釈明するため,

「押形部」を「へこみ部」と訂正しようとするものであるから,実質上実用新案登

請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たらない,A本件審決は,圧力を加

えて成形された場合の「押形部」と本件訂正後の「へこみ部」との構造上の違いに

ついて判断していない,B訂正事項e,g,iに関し,本件考案の「カード本体の

外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」には,テレホンカードを平面的に

みて,カードの中心方向にくぼんだ形状を含んでいる,と主張する。

しかし,原告らの上記主張は採用することができない。すなわち,上記のとおり,

本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の「押形部」を「へこみ部」とすること(訂

正事項a)は,押すことによって形成された部分でない「へこみ部」を広く含むこ

とになるから,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当た

る。また,本件審決は,本件考案の「押形部」の意味を,物品であるカードの形状,

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構造又は組合せ特定するものとして認定,解釈した上で,実用新案登録請求の範

囲の拡張等の該当性について判断しており,同判断に違法はない。さらに,上記の

とおり,本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」

には,テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状は含まれ

ないものと解される。

また,原告らは,@本件審決は,構成・作用効果の違いについて判断をしなかっ

た点に違法があり,A本件訂正前後で「へこみ部」という物品の構成に変わりはな

く,本件訂正により「穴部」や「切欠部」に変わることはないにもかかわらず,本

件審決はその点の認定,判断を誤った点に違法があるなどとも主張する。

しかし,原告らのこの点の主張も採用することができない。すなわち,本件審決

は,訂正事項aについて,
「押形部」を「へこみ部」に訂正すると,カード本体の材

料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる構成以外の構成,すなわち,カー

ド本体の一部を削ったり,研磨したりして形成される構成を含むことになり,実質

上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更する趣旨を判断したものであって,

本件審決に,判断をしなかった違法ないし判断を誤った違法はない。原告らの上記

主張は,採用することができない。

以上のとおり,原告らの主張は失当であり,本件審決が,本件訂正は実質上実用

新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものに当たると認定したことに誤りは

ない。

3 その他の取消事由について

原告らは,@本件審決は,申立理由となっていない無効理由について審理,判断

している,A本件出願を原出願とする分割出願(孫出願)について,
「カード内方向」

は,カード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向に向けて形成


されている場合と,カード本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合と

がある」という補正が認められて登録されているとしても,そのような異なる事案

に対する審査経過が本件訂正の可否に影響を与えるものではないとした判断は,判

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断の遺脱に当たる,と主張する。

しかし,原告らの上記主張は失当である。すなわち,本件審決は,原告らの主張

に従って,本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこ

み部」と解釈し,カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」
「 を,

@テレホンカードを平面的にみて,カードの中心方向にくぼんだ形状と,Aテレホ

ンカードを側面からみて,上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんだ形状

の両方を含んでいるものと解釈すると,本件考案が無効理由を内在していることに

なる旨指摘したにすぎず,審理範囲を逸脱した判断であるとはいえない。また,本

件出願を原出願とする分割出願(孫出願)の審査の経緯は,本件審決の結論に影響

を及ぼすものとはいえない。

なお,原告Aは,本件出願後の本件原出願の補正の経緯等についても主張するが,

本件審決の結論に影響を及ぼすものとはいえず,主張自体失当である。

4 結論

以上のとおりであり,原告Cを含む原告らの請求には理由がない。その他,原告

らは,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官
飯 村 敏 明




裁判官
八 木 貴 美 子



16
裁判官
知 野 明




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別紙図面




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