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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ネ10064著作権確認等請求控訴事件 判例 実用新案
平成23ワ18564損害賠償請求事件 判例 実用新案
平成23ネ10072特許料請求控訴事件 判例 実用新案
平成23ネ10035実用新案権侵害差止等請求控訴事件 判例 実用新案
平成23ネ10086損害賠償請求控訴事件 判例 実用新案
関連ワード 技術的範囲 /  意識的除外 /  均等 /  考案 /  図面 /  構造 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  公然実施 /  きわめて容易 /  評価書 /  技術評価 /  請求項 /  実施例 /  本質的部分 /  同一の作用効果 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  寄せ集め /  置換 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 ( ) 2544号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告柳瀬ワイチ株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉野守
同訴訟代理人弁理士 三宅始
被 告株式会社犬印本舗
同訴訟代理人弁護士寺中良樹
同 補佐人弁理士 石川達久
同 寺本亮
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2011/02/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,「RELAXADJUSTERリラックスアジャスター」を輸入し,製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,前項の製品及びその半製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,112万9440円及びこれに対する平成22年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,考案の名称を「パンツ類のウエストサイズ調整補助具」とする後記本件実用新案権を有する原告が,商品名を「RELAXADJUSTERリラックスアジャスター」とするパンツ類のウエストサイズ調整補助具(以下「被告製品」という。)を輸入・販売等する被告の行為が本件実用新案権を侵害するとして,被告に対し,実用新案法27条1項に基づく被告製品の輸入・販売等の差止めと,同条2項に基づく被告製品及びその半製品の廃棄をそれぞれ求めるとともに,実用新案権侵害の不法行為に基づく損害賠償として112万9440円及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年2月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない。) 当事者ア原告は,医療用品の製造及び販売を目的とする株式会社である。
イ被告は,マタニティ衣料及び用品の企画,製造及び販売を目的とする株式会社である。
 原告の実用新案権ア原告は,次の実用新案登録に係る実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,本件実用新案権に係る実用新案登録を「本件実用新案登録」という。また,本件実用新案登録に係る出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」といい,実用新案登録請求の範囲請求項2に記載の考案を「本件考案」という。)を有している。
登録番号 第3146031号考案の名称パンツ類のウエストサイズ調整補助具出願日 平成20年8月21日登録日 平成20年10月8日実用新案登録請求の範囲請求項2】「パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたパンツ側係止具と前記前立て部分の他側上端部に設けられ前記パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部との間に取り付けて前立て部分の拡開によりパンツ類のウエストサイズを拡張する伸縮ベルトと,拡開した前立て部分から露出する露出部を覆い隠すため着用する上下両端を開口にした袋状のカバーとからなるパンツ類のウエストサイズ調節補助具であって,前記カバーが伸縮性を有する布地からなり,前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成し,該前身ごろの身丈を,後身ごろの身丈よりも長くして,前記露出部を前記フロントガード片で覆い隠すようにしたことを特徴とするパンツ類のウエストサイズ調整補助具。」イ本件考案は,次の構成要件に分説することができる。
Aパンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたパンツ側係止具と前記前立て部分の他側上端部に設けられ前記パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部との間に取り付けて前立て部分の拡開によりパンツ類のウエストサイズを拡張する伸縮ベルトと,B拡開した前立て部分から露出する露出部を覆い隠すため着用する上下両端を開口にした袋状のカバーとからなるパンツ類のウエストサイズ調節補助具であって,C前記カバーが伸縮性を有する布地からなり,D前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成し,E該前身ごろの身丈を,後身ごろの身丈よりも長くして,F前記露出部を前記フロントガード片で覆い隠すようにしたことを特徴とするパンツ類のウエストサイズ調整補助具。
 被告の行為被告は,平成21年11月頃から,被告製品を中国から輸入して,これを訴外株式会社赤ちゃん本舗に卸売りしている。
 実用新案法29条の2に基づく警告原告は,平成21年12月17日ころ,本件登録実用新案に係る実用新案技術評価書を添付した上,被告の上記  の行為が本件実用新案権を侵害する旨記載した警告書を被告に送付した。
2争点 被告製品は本件考案技術的範囲に属するか(争点1 ) 本件実用新案登録のうち請求項2に係る実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべきものか(争点2)ア本件考案は本件実用新案登録出願前に公然知られた考案等に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものか(争点2-1)イ明確性要件違反があるか(争点2-2)ウ本件考案は産業上利用できないものか(争点2-3) 原告の損害(争点3)第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告製品は本件考案技術的範囲に属するか)について【原告の主張】 被告製品の構成被告製品の構成は,別紙被告製品説明書に記載のとおりであり,本件考案の構成要件に対応して分説すると次のとおりとなる。なお,以下の括弧内の番号は別紙被告製品説明書に記載の番号に対応する。
aパンツ類のウエストサイズを伸ばすためのゴム製のアジャスター(100)(当該アジャスター(100)はその一端をパンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたベルト通しに留め,他端を前立て部分の他側上端部に設けられたベルト通しに留めて取り付けられる。また,当該アジャスター(100)の両端にはスナップボタン(101)が取り付けられており,一端を一方のベルト通しに通して折り返し,スナップボタン(101)を留めてベルト通しに取り付けられる。同様にして,他端を他方のベルト通しに通し,折り返してスナップボタン(101)を留めることによりベルト通しに取り付けられる。)と,bパンツ類の上から着ておなかまわりを隠す筒状の腹巻型サッシュ(102)とからなり,cサッシュ(102)が伸縮性を有する綿素材の布地からなり,dサッシュ(102)の前身ごろ(103)の下端は略逆三角形状に形成され,eサッシュ(102)の前身ごろ(103)の身丈(F)は,後身ごろ(104)の身丈(B)よりも長く,fパンツの上からサッシュ(102)を着ることにより,おなかまわりを隠すことができる。
 技術的範囲の属否ア文言侵害 構成要件Aa本件考案の構成要件Aは,伸縮ベルトをパンツ側係止具とパンツ側被係止部との間に取り付けることを要件とするものであって,パンツ側係止具とパンツ側被係止部に直接取り付けることを要件とするものではない。そもそも,伸縮ベルトは,前立て部分の拡開によりパンツ類のウエストサイズを拡張するために取り付けるものであるから,パンツ側係止具とパンツ側被係止部との間に取り付けさえすれば,パンツ類のウエストサイズを伸ばすことができる。
上記aのとおり,被告製品のアジャスター(100)は,ベルト通しの間に取り付けるが,アジャスター(100)を取り付けた両ベルト通しの内側にパンツ側係止具(ボタン)とパンツ側被係止部(ボタン孔)があるので,アジャスター(100)をベルト通しの間に取り付けるということは,結局のところ,パンツ側係止具(ボタン)とパンツ側被係止部(ボタン孔)との間に取り付けることにほかならない。
したがって,被告製品では,アジャスター(100)を「パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたパンツ側係止具と前記前立て部分の他側上端部に設けられ前記パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部との間に取り付けて」いるということができる。
b被告は,本件明細書の【考案が解決しようとする課題】の個所に,本件考案は従来の平ゴムでは復元力によりウェスト部分が強く締め付けられるという課題を解決したものであると記載されていることからすると,本件考案の「伸縮ベルト」は平ゴムからなるものを意識的に除外していると主張する。
しかし,本件実用新案権には,請求項1に係る考案と本件考案(請求項2)の二つの考案があるところ,被告が指摘する平ゴムによりウエスト部分が強く締め付けられるという課題を解決したのは請求項1に係る考案であって,本件考案(請求項2)はかかる課題を解決するものではない。本件考案(請求項2)は,拡開した前立て部分から下着が露出しないように隠すという課題を解決したものである。
したがって,本件考案の「伸縮ベルト」から平ゴムベルトを除外する理由はなく,被告製品のゴム製のアジャスター(100)は本件考案の「伸縮ベルト」に相当するというべきである。
c以上のとおりであるから,上記aの構成を備えている被告製品は,構成要件Aを充足する。
 構成要件B,C上記b,cの構成によれば,被告製品が構成要件B,Cを充足することは明らかである。
 構成要件D上記dの構成によれば,被告製品が構成要件Dを充足することは明らかである。
被告は,被告製品のサッシュ(102)の前身ごろ(103)の下端が円弧形状であって略逆三角形状ではないと主張するが,円弧形状も略逆三角形状の範疇に含まれることは明らかである。
 構成要件E,F上記e,fの構成によれば,被告製品が構成要件E,Fを充足することは明らかである。
 したがって,被告製品は,本件考案の構成要件をすべて充足する。
均等侵害仮に,被告製品では,アジャスター(100)をパンツ類の前立て部分間近のベルト通しの間に取り付けていることから,構成要件Aの「パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたパンツ側係止具と前記前立て部分の他側上端部に設けられ前記パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部との間に取り付けて」の要件を文言上充足しないとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。
 非本質的部分性(第1要件)本件考案は,パンツ類の前立て部分が拡開したときに,確実に下着を隠すことを目的とするものであり,下着を隠す手段はカバーであるから,このカバーの前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成し,該前身ごろの身丈を,後身ごろの身丈よりも長くしたこと(構成要件D,E)が本件考案本質的部分である。伸縮ベルトをパンツ側係止具とパンツ側被係止部との間に取り付けることは,本件考案においては非本質的部分である。
 置換可能性(第2要件)a被告製品のように伸縮ベルトをパンツの前立て部分間近のベルト通しの間に取り付けたとしても,本件考案のパンツ側係止具とパンツ側被係止部との間に伸縮ベルトを取り付けるという構成が奏する作用効果と同様に,前立て部分は拡開可能となる。
そして,被告製品は,前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成し,該前身ごろの身丈を後身ごろの身丈よりも長くしたカバーを備えているのであるから,下着を隠すという本件考案の目的を達成することはできる。
b被告は,伸縮ベルトをパンツ類の前立て部分のベルト通しの間に取り付ける被告製品は,パンツ類の係止具及び被係止部の種類形状を問わずに使用できる(汎用性が高い)という本件考案と異なる独自の作用効果を奏すると主張する。しかし,被告製品の独自の作用効果の有無にかかわらず,被告製品が本件考案の目的を達成している以上,本件考案の構成を被告製品の構成に置換することは可能である 置換容易性(第3要件)伸縮ベルトをパンツ側係止具とパンツ側被係止部との間に取り付ける構成をパンツの前立て部分間近のベルト通しの間に取り付ける構成に置換することは,被告が指摘するように本件実用新案登録出願前にベルト通しを利用して装着するタイプのアジャスター「b-buckles 」が存在する以上,当業者であれば被告製品の製造時点においてきわめて容易に想到することができたものである。
 公知技術から容易推考でないこと(第4要件)被告は,本件実用新案登録出願前にベルト通しを利用して装着するタイプのアジャスター「b-buckles 」が存在することを根拠として,被告製品が本件実用新案登録出願前の公知技術と同一であると主張する。
しかし,被告製品は,アジャスター(100)とサッシュ(102)から構成されるものであるから,被告製品のアジャスター(100)と「b-buckles 」が同一であるとしても,被告製品が本件実用新案登録出願前の公知技術である「b-buckles 」と同一でないことは明らかである。
 意識的除外等の特段の事情がないこと(第5要件)被告は,本件考案の「伸縮ベルト」は被告製品のような平ゴムからなるものを意識的に除外していると主張するが,上記ア bのとおり,本件考案の「伸縮ベルト」は平ゴムベルトを除外していない。
【被告の主張】 被告製品の構成ア被告製品が,原告主張のaないしc,e及びfの構成を有することは認める。
イ被告製品が原告主張のdの構成を有することは否認する。
被告製品のサッシュ(102)の前身ごろ(103)の下端は,略逆三角形状ではなく円弧形状である。
 技術的範囲の属否ア文言侵害 構成要件Aa被告製品のアジャスター(100)は,パンツの前立て部分の直近のベルト通しの間に取り付けられるものであるから,「パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたパンツ側係止具と前記前立て部分の他側上端部に設けられ前記パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部との間に取り付けて」との要件を充足しない。
b本件明細書の【考案が解決しようとする課題】の段落【0005】には,ウエストサイズを調整するものとして従来使用されていた平ゴムベルトでは,復元力によりウエスト部分が強く締め付けられるおそれがあり,本件考案はかかる課題を解決したと記載されているのであるから,本件考案の「伸縮ベルト」は平ゴムからなるものを除外している。被告製品のアジャスター(100)は平ゴムからなるものであるから,本件考案の「伸縮ベルト」の要件を充足しない。
c以上のとおり,被告製品は構成要件Aを充足しない。
 構成要件B,C被告製品が構成要件B,Cを充足することは認める。
 構成要件D被告製品のサッシュ(102)の前身ごろ(103)の下端は,略逆三角形状ではなく円弧形状であるから,被告製品は構成要件Dを充足しない。
 構成要件E,F被告製品が構成要件E,Fを充足することは認める。
均等侵害 置換可能性について(第2要件)本件考案は,伸縮ベルトをパンツ側係止具とパンツ側被係止部との間に取り付けるとしているところ,パンツ側係止具にはボタン,フック,結び紐などの異なる形状のものがあり,被係止部にもボタン穴,フック掛け,結び紐などの異なる形状のものがあるから,本件考案が予定する伸縮ベルトが全ての種類の係止具及び被係止部に対応することは困難である。
これに対し,ベルト通しは,パンツ類の種類を問わず,ほぼ同一の形状であるから,伸縮ベルトをパンツ類の前立て部分のベルト通しの間に取り付けるものとすることは,パンツ類の係止具及び被係止部の種類・形状を問わず使用できる(汎用性が高い)という独自の作用効果を奏するものである。
したがって,被告製品は,本件考案同一の作用効果を奏するものではない。
 置換容易性について(第3要件)パンツ類の係止具及び被係止部とベルト通しは,その構造が根本的に異なり,伸縮ベルトの係止方法も異なるのであるから,本件考案の構成を被告製品の構成に置き換えることに容易に想到することはできない。
 公知技術からの容易推考性について(第4要件)a遅くとも平成19年11月30日には,ベルト通しを利用して装着するタイプのアジャスターである「b-buckles 」が日本国内で販売されていた。
そして,「b-buckles 」と被告製品とを比較すると,?「 b-buckles 」は伸縮性を有しない素材を使用しているが,被告製品のアジャスターは伸縮性を有する素材を使用している点,?「b-buckles 」ではスナップボタンが横一列に数個配置されているが,被告製品では縦一列に2個配置されている点,?「b-buckles 」では装着時にスナップボタンが裏面となるが,被告製品では表側となる点が異なる。
しかし,被告製品は,スナップボタンの数を減らし材料費及び加工費を削減するため,アジャスターに伸縮性のある素材を採用してスナップボタンの位置によるサイズ調節を不要とし(?の相違点),パンツ類との係止力を高めるためにスナップボタンを縦一列に2個配置し(?の相違点),装着性の向上のために装着時にスナップボタンが表側となるようにした(?の相違点)のであって,これらの構造変更は当業者であれば容易に推考できるものである。
したがって,被告製品は,本件実用新案登録出願時の公知技術である「b-buckles 」と同一のものであるか,又は当業者が「 b-buckles 」から容易に推考できるものである。
bまた,被告製品は,後記2【被告の主張】に記載のスペシャルセットの構造を基軸として,特開2008-150758号公報(乙5,以下「乙5公報」という。)に記載の考案,実開平6-12406号公報(乙12,以下「乙12公報」という。),特開平10-266002号公報(乙13,以下「乙13公報」という。)に記載の考案及びマタニティサッシュベルトの技術を取り入れ,伸縮ベルトを「b-buckles 」に変更することにより容易に推考することができるものである。
 意識的除外について(第5要件)被告製品のアジャスター(100)は平ゴムからなるが,上記ア bのとおり,原告は,本件考案の「伸縮ベルト」が平ゴムからなるものを意識的に除外している。
 以上のとおりであるから,被告製品が本件考案均等物ということはできない。
2争点2-1(本件考案は本件実用新案登録出願前に公然知られた考案等に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものか)について【被告の主張】 公知技術等アスペシャルセット(ベリーバンドゥ及びベリーベルト)の使用形態 本件実用新案登録出願前,日本国内において,妊婦が妊娠前に使用していたパンツ類のウエストサイズを拡張調節して着用可能にするためのパンツ類のウエストサイズ調整補助具として,ベリーバンドゥ(袋状のカバー)とベリーベルト(伸縮ベルト)が販売されていた。
 ベリーベルトは,平ゴムベルトであって,パンツ類の前立て部分の係止具とパンツの被係止部との間に取り付け,前立て部分の拡開によりパンツ類のウエストサイズを拡張するものであり,ベリーバンドゥは,上下両端を開口した袋状のカバーであって,拡開したパンツ類の前立て部分から露出する露出部を覆い隠すために装着されるものであるところ,これを組み合わせたセット商品が「スペシャルセット」(以下,このベリーベルトとベリーバンドゥの組み合わせを,単に「スペシャルセット」という。)として販売され,ベリーベルトの装着により拡開したパンツの前立て部分を,その上にベリーバンドゥを重ね着して前立て部分から露出する露出部分を覆い隠すという組み合わせによる使用形態が使用者の間に公知となっていた。
 ベリーベルトとベリーバンドゥの上記のような組み合わせた使用形態は,本件考案の構成要件A,B に相当しており,さらにベリーバンドゥは,伸縮性を有する布地で構成されているから,本件考案の構成要件Cに相当する構成を備えており,結局,スペシャルセットの公然知られた使用形態は,構成要件AないしC を備えているということができる。
イ乙5公報に記載の考案乙5公報には,「パンツ類の前立て部分の係止具間に取り付けられる横設係止部材(伸縮ベルト)と,前記係止具間を覆い隠す伸縮性を有する前側被覆部材(袋状のカバー)と,前側被覆部材に取り付けられる縦設係止部材(パンツ類の下方へのズリ落ちベルト)と,前側被覆部材の内側に着装されるV字型のフロントガード片が前身ごろの裾に連続形成された伸縮性を有する内側被覆部材(袋状のカバー)とからなるパンツ類のウエストサイズ調整補助具」が記載されている(以下「乙5考案」という。)。内側被覆部材の前身ごろの裾に連続形成されるV字型のフロントガード片は,略逆三角形状のフロントガード片ということができるから,乙5考案は本件考案の構成要件Dに相当する構成を備えている。
ウ乙12公報に記載の考案乙12公報には,スリップの内側に柔軟性胴部被覆筒(袋状のカバー) を設け,前記スリップを着用した場合に柔軟性胴部被覆筒の筒内にある着用者の腹部を保温するスリップ用保温装置において,柔軟性胴部被覆筒の裾部に延部を設け,ワイシャツの裾部のようにカットする態様が記載されている(以下「乙12考案」という。)。柔軟性胴部被覆筒の裾部に設けられたワイシャツの裾部のような延部は略逆三角形状のフロントガード片ということができるから,乙12考案は本件考案の構成要件Dに相当する構成を備えている。
エ乙13公報に記載の考案乙13公報には,腹部の上下が膨らみ,背部の上下がくびれているような形状の袋状の妊婦用腹帯が記載されている(以下「乙13考案」という。)。
したがって,乙13考案は,本件考案の構成要件Eに相当する構成を備えている。
オマタニティサッシュベルト平成19年12月15日に発行された妊婦向けの雑誌である「妊すぐ」には,妊婦用パンツ類のウエスト近傍のリブを覆い隠すための袋状のカバーであるマタニティサッシュベルトの宣伝広告が掲載されているところ,このマタニティサッシュベルトは,前身ごろの身丈を後身ごろの身丈よりも長くしたものである。したがって,マタニティサッシュベルトは,本件考案の構成要件Eに相当する構成を備えている。
 きわめて容易考案できたことア以上のとおり,パンツ類にベリーベルトを装着して前立て部を拡開した上,さらにベリーバンドゥを重ね着するというスペシャルセットを組み合わせて使用するという本件実用新案登録出願前に公然知られている使用形態は,本件考案の構成要件AないしCと一致している。相違点となる構成要件D,Eについても,上記のとおり,乙5考案及び乙12考案には本件考案の構成要件Dに相当する構成が,乙13考案及びマタニティサッシュベルトには本件考案の構成要件Eに相当する構成が開示されている。
そして,これらの考案は,いずれもパンツ類のウエストサイズ調整補助具,あるいはマタニティ服飾品という共通する技術分野に属するものであるから,結局,本件考案は,これらの公知技術寄せ集めたものにすぎないといえ,当業者が,これらの公知技術から本件考案の構成に想到することはきわめて容易ということができる。
イまた,本件考案は,乙5考案に,スペシャルセットの公然知られた使用形態を適用し,さらに乙13考案又は乙6の記載事項を適用したものであり,当業者であればきわめて容易考案できたものである。
すなわち,乙5考案は,内側被覆部材を最内側に着用して横設係止部材によってウエストサイズを調整するものであるが,これにスペシャルセットの公然知られた使用形態を参考にして内側被覆部材を最外側に着用するように変更することは,当業者がきわめて容易に想到できることである。
そして,最外側に着用した内側被覆部材の形状を,乙13考案又は乙6の記載事項を参考にして前身ごろの身丈を後身ごろの身丈よりも長くして本件考案の構成とすることも,当業者であればきわめて容易に想到できることである。
【原告の主張】 乙5考案及び乙12考案について被告は,乙5考案及び乙12考案が本件考案の構成要件Dに相当する構成を備えていると主張する。
しかし,乙5考案の内側被覆部材5は,パンツ10の内側に着用するものであり,パンツ10の拡開した前立て部分を覆い隠すことはできない。
また,乙12考案の柔軟性胴部被覆筒4の延部42は,スリップの内側もしくは外側に着用するものであって,パンツ類の上から着用するものではないから,パンツ類の開口した前立て部分から露出する露出部を覆い隠すために着用するものではない。
したがって,乙5考案及び乙12考案は,いずれも本件考案の構成要件Dに相当する構成を備えていない。
 乙13考案及びマタニティサッシュベルトについて被告は,乙13考案及びマタニティサッシュベルトが本件考案の構成要件Eに相当する構成を備えていると主張する。
しかし,本件考案の構成要件Eの「フロントガード片」とは,前身ごろの下端に連続形成される略逆三角形状のものであるところ,乙13考案及びマタニティサッシュベルトには略逆三角形状のフロントガード片は形成されていないから,構成要件Eに相当する構成を備えていない。
 きわめて容易考案できないことア以上のとおり,乙5考案及び乙12考案は本件考案の構成要件Dに相当する構成を備えておらず,乙13考案及びマタニティサッシュベルトは本件考案の構成要件Eに相当する構成を備えていないのであるから,スペシャルセットの公然と知られた使用形態が本件考案の構成要件AないしCと一致する構成を備えているからといって,これに上記各考案を組み合わせることにより本件考案の構成に想到することはできない。
イまた,被告は,スペシャルセットを参考にすれば,当業者が乙5考案の内側被覆部材5を最外側に着用するように変更することはきわめて容易に想到することができるとも主張する。しかし,乙5公報には,内側被覆部材5をパンツ10の内側に着用することの記載はあるが,内側被覆部材5をパンツ10の外側に着用することは記載されておらず,示唆もされていない。パンツ類の外側に着用して前立て部分の拡開した露出部を覆い隠すことを用途とするスペシャルセットが公知であるからといって,当業者が乙5考案の内側被覆部材5を最外側に着用するように変更することにきわめて容易に想到するとはいえず,被告の主張には論理の飛躍があり失当である。
3争点2-2(明確性要件違反があるか)について【被告の主張】請求項2(本件考案)に係る実用新案登録請求の範囲には,伸縮ベルトがどの位置,範囲に取り付けられるのか,いかなる技術的手段によって取り付けられるのか,いかなる伸縮機能を有する技術的手段で実施されるのかが記載されていない。
したがって,請求項2(本件考案)に係る実用新案登録請求の範囲の記載は不明確であるから,本件実用新案登録のうち請求項2に係る実用新案登録は,実用新案法5条6項2号の要件を欠き無効である。
【原告の主張】 伸縮ベルトの取付け位置伸縮ベルトの取付け位置が具体的に示されていないとしても,当業者であれば,「パンツ側係止具と・・・パンツ側被係止部との間」との文言だけで,パンツ類の前立て部分を拡開させることが可能な位置に伸縮ベルトを取り付けることができるし,本件明細書においても,実施例として,伸縮ベルト11の一端をパンツ側ボタンホール44に係止し,伸縮ベルト11の他端をパンツ側ボタン43に係止することが記載されている。したがって,伸縮ベルトの取付け位置は不明確ではない。
 伸縮ベルトの取付け範囲伸縮ベルトの取付け範囲については,実用新案登録請求の範囲の「パンツ側係止具と・・・パンツ側被係止部との間」との文言から明らかである。
 伸縮ベルトを取り付ける技術的手段本件明細書には,実施例として,ボタン20,43とボタンホール21,44が例示されているし,本件明細書で指摘されている特許文献2(実用新案登録第3124176号公報)では針片2によって伸縮ベルトを取り付けることが開示されている。また,本件実用新案登録出願前に販売されていたアジャスター「b-buckles 」では,ベルト通しを利用してスナップボタンで装着している。したがって,当業者にとって,伸縮ベルトを取り付ける手段は明確である。
 伸縮ベルトを実施する技術的手段本件明細書には,実施例として,第1ベルト15と第2ベルト16及びバックル17によって伸縮機能を有する伸縮ベルトが例示されており,本件明細書で指摘されている特許文献2(実用新案登録第3124176号公報)では,基材伸縮部に平ゴムを使用した伸縮ベルトが開示されている。したがって,当業者にとって,伸縮ベルトを実施する技術的手段は明確である。
 したがって,明確性要件違反をいう被告の主張は失当である。
4争点2-3(本件考案は産業上利用できないものか)について【被告の主張】本件考案の略逆三角形状のフロントガード片は,その形状から横方向の伸縮性より縦方向の伸縮性が強いから,着用時の張力によってフロントガードが上方へ巻き上がってカバーの裾形状が一直線となり,略逆三角形状のフロントガードでない部分で被覆機能を果たすことになる。
したがって,本件考案の略逆三角形状のフロントガードは何ら被覆機能を果たしていないから,本件考案は実用新案法3条1項柱書きの「産業上利用することができる考案」に該当しない。
【原告の主張】否認ないし争う。
5争点3(原告の損害)について【原告の主張】原告は,平成21年2月から平成21年11月までの間,赤ちゃん本舗に本件考案の実施品である「まだはこ!アジャスター」を合計1万3910個(月平均1391個)販売したが,被告が平成21年12月から赤ちゃん本舗への被告製品の販売を開始したことにより,原告の赤ちゃん本舗に対する「まだはこ!アジャスター」の売上げは激減し,平成21年12月には140個,平成22年1月には470個となった。
過去の販売実績からすると,原告は,平成21年12月から平成22年1月までの間,赤ちゃん本舗に「まだはこ!アジャスター」を合計2782個販売することができたはずであるから,被告の赤ちゃん本舗に対する被告製品の販売により,原告の赤ちゃん本舗に対する「まだはこ!アジャスター」の売上げが2172個減少したことになる。
原告が赤ちゃん本舗に「まだはこ!アジャスター」を販売することによって得る利益は1個当たり520円である。
したがって,平成21年12月から平成22年1月に被告が被告製品を赤ちゃん本舗に販売したことにより,原告は112万9440円の損害を受けたことになる(520×2172=112万9440)。
【被告の主張】不知。
第4当裁判所の判断1争点2-1(本件考案は本件実用新案登録出願前に公然知られた考案等に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものか)について 事案の内容にかんがみ,まず,争点2-1について判断すべきところ,これに関する被告の主張は,要するに,公然知られたスペシャルセットの使用形態に係る考案に,公知の考案を適用することにより,又は乙5考案に,上記公然知られたスペシャルセットの使用形態に係る考案のほか,公知の考案を適用することにより,本件考案は当業者がきわめて容易考案できたものであるから,本件実用新案登録は,実用新案登録無効審判により無効とされるべきとするものと解される。
そこで,まず前者のスペシャルセットの使用形態に係る考案を主引例とする主張について検討する。
 スペシャルセットの使用形態についてア証拠(乙3,4,7,8,14,17)及び弁論の全趣旨によれば,?本件実用新案登録出願前,妊婦が妊娠前に使用していたパンツ類のウエストサイズを拡張調節して妊娠中にも着用可能とするためのパンツ類のウエストサイズ調整補助具であるベリーベルトとベリーバンドゥが,単体で又は組み合わせられたスペシャルセットとしても販売されていたこと,?ベリーベルトは,平ゴムからなるベルトとあて布から構成されるものであり,その使用形態は,パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたボタンと前立て部分の他側上端部に向けられたボタン穴の間にあて布に通したベルトを装着して前立て部分を拡開し(パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたフックと前立て部分の他側上端部に設けられたフック掛けとの間にベルトを装着するタイプもある。),前立て部分の拡開部分から下着等が露出することを防ぐためにパンツ類の内側にあて布を装着するものであること,?ベリーバンドゥは,伸縮性を有する布地からなる上下両端を開口にした袋状のカバーであり,その使用形態は,前立て部分を拡開した状態でパンツ類を着用した上に,ベリーバンドゥを重ねて着用し,これにより拡開部分から露出する露出部を覆い隠すものであり,また布地が伸縮性を有することから腹帯の代わりにもなること,?ベリーバンドゥは非使用時は,その前身ごろの下端は水平直線状であり,前身ごろと後身ごろの身丈が同じ長さであるが,妊婦が着用した場合,伸縮性を有する布地であるために体型に応じて伸縮することから,前身ごろの下端の形状は,略円弧形状となり,身ごろの丈も前身ごろの丈は後身ごろの丈よりも長くなるものであること,以上の事実が認められる。
イ証拠(乙7,8)によれば,?平成19年12月15日発行の妊婦向けの雑誌「妊すぐ」に,ベリーバンドゥの紹介記事として,「『ベリーベルト』と組み合わせて使うとさらに便利!ベリーベルトをつけたボトムの上からこのベリーバンドゥをはくだけ。ぴったりおなかにフィットするのでエアコンなどの風からおなかを守ってくれます。」と記載されていたこと,?インターネットウェブサイト「楽天みんなのレビュー」に,ベリーベルトとベリーバンドゥのセット商品のユーザーレビューとして,「ローライズのジーパンでベリーベルトのみだとずり落ちてしまうのが,バンドゥを使うことによりずり落ちなくなり,なおかつファスナー部分が隠れるので,チュニックだけでなく今まで着ていたちょっと長めの普通丈のトップスも使えます。」(投稿日:平成19年2月2日),「確かにベリーベルトも便利ではあるのですが,単独だとどうしても裾からベリーベルトそのものが見えてしまいそうで心もとないので,必ずベリーバンドゥを上から着用して使ってます。」(投稿日:平成19年9月16日),「ベリーベルトだけでは,半開きのファスナーがやっぱり気になりますので,上からバンドゥでしっかりカバーできて自分的には満足。」(投稿日:平成20年7月3日)との投稿が掲載されていたこと,以上の事実が認められ,これらの事実によれば,本件実用新案登録出願前,スペシャルセットの構成商品であるベリーベルトを装着して前立て部分を拡開した状態でパンツ類を着用し,その上にベリーバンドゥを重ね着することにより,腹部のサポートを得ると同時に前立て部分から露出する露出部分を覆い隠すというスペシャルセットの組み合わせによる使用形態が使用者の間に公知となっていた事実が認められる。
ウ以上認定したところによれば,本件実用新案登録出願前,スペシャルセットの使用形態として,下記の考案(以下「引用考案」という。)が公然知られていたものと認められる。
記「パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたボタンと前記前立て部分の他側上端部に設けられたボタン穴との間に取り付けて(パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたフックと前立て部分の他側上端部に設けられたフック掛けとの間にベルトを取り付けるタイプもある。)前立て部分の拡開によりパンツ類のウエストサイズを拡張する平ゴムからなるベルトと,拡開した前立て部分から露出する露出部のパンツ類の内側に装着するあて布と,該露出部を覆い隠すため着用する上下両端を開口にした袋状のカバーとからなるパンツ類のウエストサイズ調節補助具であって,前記カバーが伸縮性を有する布地からなり,前記カバーの前身ごろの下端は水平直線状で,前身ごろの身丈と後身ごろの身丈が同じ長さであり,前記露出部を前記カバーで覆い隠すようにしたことを特徴とするパンツ類のウエストサイズ調整補助具。」 本件考案と引用考案との対比本件考案の要旨は,上記第2の1 で認定したとおりであり,これと上記認定した引用考案とを対比すると,次のとおりである。
ア引用考案の「ボタン(又はフック)」,「ボタン穴(又はフック掛け)」及び「平ゴムからなるベルト」は,その用途・機能に照らせば,順に本件考案の「パンツ側係止具」,「パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部」及び「伸縮ベルト」にそれぞれ相当する。
したがって,本件考案と引用考案とは,「パンツ類の前立て部分の一側上端部に設けたパンツ側係止具と前記前立て部分の他側上端部に設けられ前記パンツ側係止具を着脱可能に係止するパンツ側被係止部との間に取り付けて前立て部分の拡開によりパンツ類のウエストサイズを拡張する伸縮ベルトと,拡開した前立て部分から露出する露出部を覆い隠すため着用する上下両端を開口にした袋状のカバーとからなるパンツ類のウエストサイズ調節補助具であって,前記カバーが伸縮性を有する布地からなり,前記露出部を前記カバーで覆い隠すようにしたことを特徴とするパンツ類のウエストサイズ調整補助具」の点で一致するものと認められる。
イ他方,本件考案と引用考案とは,本件考案では,カバーの前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成し,カバーの前身ごろの身丈を後身ごろの身丈よりも長くして,パンツ類の拡開した前立て部分から露出する露出部をフロントガード片で覆い隠すようにしているのに対し,引用考案では,カバーの前身ごろの下端は水平直線状であり,また前身ごろの身丈と後身ごろの身丈が同じ長さであり,それゆえ,パンツ類の拡開した前立て部分から露出する露出部を,略逆三角形状のフロントガード片によって覆い隠すようにはしていない点において相違するものと認められる。
 相違点に関する検討ア乙5公報 乙5公報には次の記載がある。
a特許請求の範囲記載欄 「着用者のウエストに位置するウエスト部の前側が開放される下半身用衣服の,前記ウエスト部を開放した両端部に横設して架け渡される帯状の部材で,前記開放した両端部に対して夫々係止することが可能な第一係止部を有している横設係止部材と,着用者のウエストに巻回される巻回部と,前記横設係止部材の外側に配設され,該巻回部から一体的に形成されており,少なくとも前記開放した両端部及び前記横設係止部材を被覆可能な被覆部材と,を有する前側被覆部材と,前記前側被覆部材の内側に縦設して配設される帯状の部材で,その一部が前記巻回部に取り付けられ,前記開放した両端部の少なくともいずれか一方に係止することが可能な第二係止部が備えられている縦設係止部材とを具備していることを特徴とするマタニティウェア。」(【請求項1】) 「前記着用者の少なくとも腹部を被覆可能な面積を有する部材で,前記横設係止部材及び前記縦設係止部材よりも内側の前記着用者側に配設され,伸縮性の素材で形成されている内側被覆部材をさらに具備していることを特徴とする請求項1に記載のマタニティウェア。」(【請求項2】)b発明の詳細な説明記載欄 「また,本発明のマタニティウェアにおいて,「前記着用者の少なくとも腹部を被覆可能な面積を有する部材で,前記横設係止部材及び前記縦設係止部材よりも内側の前記着用者側に配設され,伸縮性の素材で形成されている内側被覆部材をさらに具備している」ものとしても良い。」(段落【0020】) 「ここで,「着用者の少なくとも腹部を被覆可能な面積を有する部材」としては,例えば,円筒状に(環状に)形成され着用者の腹部と臀部とを同時に被覆可能に構成された部材や,前掛状に形成され着用者の腹部をエプロン状に被覆する部材などが例示できる。但し,あまりにも小さく,妊婦の腹部のごく一部のみしか被覆できないような部材や,あまりにも大きく,股下から垂れ下がって着用者の歩行の妨げになるような部材は好適ではない。また,「伸縮性の素材」とは,所謂「ストレッチ素材」などの伸縮自在な材質を示し,前述と同様に,伸縮性のある繊維を用いたもの,メリヤス織のように織り方によって伸縮性を実現させたもの,またはこれらを複合的に採用したもの,等が挙げられる。」(段落【0021】) 「また,本例のマタニティウェア1には,内側被覆部材5がさらに具備されている。内側被覆部材5は,前側被覆部材3の巻回部8に縫着されており,縦設係止部材4よりもさらに内側(着用者側)に配設されている。大きさとしては,着用者の腹部を被覆できる程度に大きく,且つパンツ10の内側に入れ込んでもかさばって邪魔にならない程度の小ささが好ましい。材質としては,着用者の腹部を圧迫しないよう伸縮性の素材が選択されており,本例ではジャージ生地のものが採用されている。内側被覆部材5の裾15は,前側中央部が横側よりも長く垂れ下がっており,正面からみると緩やかなV字型を描くように形成されている。このように形成することで,着用者の腹部が大きく膨れ上がってきても下腹部側まで確実に被覆できるよう配慮されている。・・・」(段落【0040】) 上記  の記載によれば,乙5公報には,下半身用衣服のウエスト部を開放して両端部に横設する帯状の横設係止部材と,開放部を被覆可能な被覆部材と,下半身用衣服の内側に配設して,少なくとも腹部を被覆する伸縮性の素材で形成される円筒状の内側被覆部材を具備するマタニティウェアにおいて,着用者の腹部が大きく膨れ上がってきても下腹部側まで確実に被覆できるようにするため,内側被覆部材の裾を,前側中央部が横側よりも長く垂れ下がるようにし,正面からみると緩やかなV字型(略逆三角形)を描くように形成した態様の考案(乙5考案)が開示されているものと認められる。
イ乙12公報 乙12公報には,次の記載がある。
a要約記載欄 「スリップ本体の上部に柔軟性胴部被覆筒の上端部を連接し,この柔軟性胴部被覆筒の裾部をスリップ部の裾部よりも上方に配置したスリップ用保温装置である。」(【構成】) 「身体における肩,胸等の突出した部分の線を崩すことなく,着用者の胴部の保温を維持することができるものである。また,妊婦の腹帯として使用した場合,腹部を覆う柔軟性胴部被覆筒が擦り下がってこないため使用しやすいものである。」(【効果】)b考案の詳細な説明記載欄 「柔軟性胴部被覆筒4の裾部に延部 42 を設け,所謂,ワイシャツの裾部のようにカットしてもよい。」(段落【0016】) 「柔軟性胴部被覆筒4は周方向に伸び縮みするゴム編みしたものであってもよい。」(段落【0019】) 「妊婦の腹帯としても使用した場合,腹部を覆う柔軟性胴部被覆筒が擦り下がってこないため使用しやすいものである。」(段落【0027】)c図面 図1には,裾部が,ワイシャツの裾部のような形状にカットされている柔軟性胴部被覆筒が示されている。
 上記  の記載によれば,乙12公報には,腹帯としても使用できる伸縮性のある着用者の腹部を保温するスリップ用保温装置において,柔軟性胴部被覆筒の裾部に延部を設け,ワイシャツの裾部のようにカットする態様が記載されていることが認められ,このうち柔軟性胴部被覆筒の裾部に設けられたワイシャツの裾部のような延部は略逆三角形状のフロントガード片ということができるから,同公報には,「伸縮性のある腹帯の前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成する」という考案(以下「乙12考案」という。)が開示されているものと認められる。
ウ乙13公報 乙13公報には,次の記載がある。
a発明の詳細な説明記載欄 「従来,妊婦の下腹部を保温し,かつ胎位を正常に保つために,岩田帯などの腹帯,ガードル及びベルトなどが使用されてきた。」(段落【0002】【従来の技術】)(b) 「妊婦の下腹部の膨らみを計算して,しっかりと下腹部を包み込むように立体裁断した布帛からなる腹帯本体」(段落【0005】【課題を解決するための手段】 「本発明では,合成繊維からなるストレッチ性を有する編物あるいは織物をいずれも使用することができるが,縦横の自由な伸縮性という点から,合成繊維からなるストレッチ性を有する編物を使用するのが好ましい。」(段落【0010】)(c) 「本発明の腹帯本体は,妊婦の下腹部の膨らみを計算して,しっかりと下腹部を包み込むように,腹部の上下が膨らみ,背部の上下がくびれているような形状に裁断したストレッチ性の合成繊維の布帛を,イセ込みやダーツを施して立体的に形成するのが好ましい。」(段落【0011】)(d) 「ストレッチ性の合成繊維の布帛を用いて形成されているため,ソフトにしっかりと下腹部を包み込むことができ,胎位を正常に保つことができるものであるととともに,膨らんだ下腹部を安定に保持することができるものである。」(段落【0022】【発明の効果】)b図面【図1】ないし【図3】には,腹部の上下が膨らみ背部の上下がくびれている腹帯の形状が示されている。
 上記  の記載によれば,乙13公報には,伸縮性のある腹帯において妊婦の下腹部を保温し,かつ胎位を正常に保つためのベルト付き腹帯について,妊婦の下腹部をしっかりと包み込むという課題を解決するために,腹帯の素材自体を伸縮性を有するものとするとともに,その形状を腹部の上下が膨らみ,背部の上下がくびれているような形状を採用したことが記載されていることが認められ,このうち腹部の上下が膨らむという形状は,前身ごろについていえば,その下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成しているものということができるから,同公報には,妊婦の下腹部をしっかりと包み込むという課題とともに,その解決手段として「伸縮性のある腹帯の前身ごろの下端に略逆三角形状のフロントガード片を連続形成し,該前身ごろの身丈を,後身ごろの身丈よりも長くする。」という考案(以下「乙13考案」という。)が開示されているものと認められる(なお,乙13公報に示された腹帯の図の下端をもって略逆三角形状と表現できることについては,後に詳述する。)。
エマタニティサッシュベルト 証拠(乙6,14)及び弁論の全趣旨によれば,?本件実用新案登録出願前,衣類の上から重ね着のように着用する妊婦の腹部を包み込むマタニティサッシュベルトが販売されていたこと,?マタニティサッシュベルトは,伸縮性を有する布地からなる上下両端を開口にした袋状のカバーであり,前身ごろの身丈を後身ごろの身丈よりも長くしていること,?その開口部の形状は,前身ごろ,後身ごろとも水平直線状であること,?その機能目的には,おしゃれにウエスト近傍のリブを覆い隠すというファッション的要素のほか,「冷え解消」(乙6)であるとか,「お腹をしっかり包み込む役目」(乙14)など,通常の腹帯と同様の機能も想定されていること,以上の事実が認められる。
 上記  の事実によれば,本件実用新案登録出願前,ベリーバンドゥと同様に,衣類の最外側に着用して,妊婦の腹部を覆い隠すとともに従来からある腹帯の機能を持たせた腹部ベルトが知られていたことに加え,そのベルトの形状は,膨満する腹部を適切に覆うため,前身ごろを後身ごろの丈よりも長くすることが知られていたことが認められるから,これらによれば本件実用新案登録出願前に,妊婦が重ね着として用いる腹部用バンドにおいて,「前身ごろを後身ごろの丈よりも長くする」という考案が公知であったことが認められる。
オ検討 本件考案の袋状のカバーは,拡開したパンツの前立て部を隠すとともに,臨月に至り腹部が膨出した妊婦の下腹部をも適切に覆うことを目的としているが,引用考案のベリーバンドゥも同様の目的からその素材は伸縮性を有したものであり,妊婦が着用した状態における形状は,妊婦の体型に応じて下端部は略円弧形状となり後身ごろより前身ごろの方が長くなるものであって,その状態では,上記認定した相違点がないものである。そもそも,臨月に近づくにつれて腹部が膨出してくる妊婦の下腹部を袋状のカバーで適切に覆うことを目的とする場合,その手段として袋状のカバーそのものに伸縮性を持たせて妊婦の腹部形状に沿わせることによって目的を達することが考えられるが,それだけではなく,袋状のカバーそのものの形状をもあらかじめ妊婦の腹部形状に沿ったものにしようとすることは当業者にとっては自然な発想であるといえる。そして,そのことは,本件実用新案登録出願当時,妊婦の腹帯として,妊婦の腹部を適切に覆うことを目的として,前身ごろの下端部形状を略逆三角形状とし,また前身ごろの丈を後身ごろの丈よりも長くするという形状を採用した乙13考案から明らかであり,同様に腹部を覆うカバーそのものの形状を工夫することによって妊婦の下腹部を適切に覆おうとする技術思想は,乙5考案,乙12考案及びマタニティサッシュベルトにも見られるところである。
 ところで,本件考案と引用考案との一致点,相違点からすると,本件考案の特徴点は,「スペシャルセット」として出願前から公然実施されていた構成要件A,B,Cの構成からなる製品の「袋状のカバー」の形状の改良にあり,その改良点は,袋状のカバーにおいて,前身ごろの下端部に「略逆三角形状」のフロントガード片を連続形成し(構成要件D),該前身ごろの身丈を,後身ごろの身丈よりも長くしている(構成要件E)点にあるといえるが,上記のとおり,そのような改良は,妊婦用品として引用考案と技術分野を同じくする腹帯に関する考案において知られていたのであるから,引用考案の袋状のカバー(ベリーバンドゥ)を,より適切に妊婦の体型に対応させ,また拡開した前立て部を適切に覆い隠すことを目的として,妊婦用腹帯の形状として従来公知であった上記一連の考案の腹帯の形状を適用しようとすることは,当業者であればきわめて容易に想到することができたものということができる。また,その作用効果も,結局のところ,組み合わせにかかる部材が有するそれぞれの作用効果を発揮しているものにすぎないから,それは当業者が予期し得る範囲内の作用効果でしかないものといえる。
 したがって,本件考案は,本件実用新案登録出願前に販売されていたスペシャルセットを購入した妊婦が臨月近くに着用した際の「ベリーバンドゥ」の形状に合わせて,本件考案の「袋状のカバー」の形状を設定したものであり,当該形状自体も妊婦用腹帯として従来公知の形状(乙5考案,乙12考案,乙13考案,マタニティサッシュベルト)を適宜組み合わせたものに過ぎないということができるから,本件考案は,引用考案及び妊婦用腹帯に係る公知技術(乙5考案,乙12考案,乙13考案,マタニティサッシュベルト)に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるといえる。
 なお原告は,乙5考案,乙12考案では,腹帯はパンツ類の上から着用するものではなく,したがって,前立て部分の拡開部分を覆い隠すことを目的としていない点を主張する。確かに主張に係る点はそうであり,また乙13考案についても同様の点が指摘できるが,本件実用新案登録出願前には,重ね着としてパンツの上から着用しながら腹帯の代わりにもなるベリーバンドゥや,マタニティサッシュベルトが既に一般化していたものと認められることに加え,特にマタニティサッシュベルトについては,前身ごろの丈を後身ごろ丈より長くするという形状が採用されていたのであるから,ベリーバンドゥに「お腹をサポートする」という上記考案類と共通する腹帯としての課題がある以上,ベリーバンドゥの前身ごろ下端部分の形状に,腹帯の考案でもある乙5考案及び乙12考案の前身ごろ下端部分の形状を適用しようとすることは自然な発想であるといえる。したがって,これらの考案そのものに前立て部分の拡開部分の露出部を覆い隠す目的がないからといって,そのことから,これらの考案の腹帯の下端部の形状をベリーバンドゥに組み合わせをする動機付けが否定されることにはならないというべきである。
2よって,本件実用新案登録は,実用新案法3条2項に違反してなされたものであり,実用新案登録無効審判により無効とされるべきものであるから,実用新案法30条によって準用される特許法104条の3第1項により,原告は,本件実用新案権に基づく権利行使をすることはできないというべきである。
3なお,乙13公報の図面に描かれた腹帯の前身ごろ下端部の形状につき,原告は略逆三角形状ではないと主張するが,既に認定説示したとおり,当裁判所は,そのような形状であっても本件考案にいう「略逆三角形状」であると判断するものである。すなわち,乙13公報の図面に描かれた腹帯の前身ごろ下端部の形状は,円弧形状とも表現できるものであるが,本件考案の実用新案登録請求の範囲(請求項2)に「略逆三角形状」とあるように,厳格な「三角形状」が規定されているわけではないし,考案の詳細な説明段落【0011】に記載された,妊婦の下腹部を確実に覆うという作用効果からすると,円弧形状であっても,その作用効果は発揮できるはずであるし,また円弧の両端を結ぶ弦を三角形の底辺に対応するものと捉えれば,円弧の中心位置に頂点を観念でき,円弧形状が略三角形状に含まれると解することは決して不合理ではないから,乙13公報の図面に示された腹帯の前身ごろ下端部の形状も略逆三角形状に含まれると解するのが相当である(被告製品の前身ごろ下端部の形状は乙13公報の図面に示された腹帯の前身ごろ下端部の形状とほぼ同一の形状であるから,もし乙13公報の図面に示された腹帯の前身ごろ下端部の形状が略逆三角形状ではないというならば,そもそも被告製品は構成要件Dを充足しないと解すべきことになり,原告の本訴請求は,その点でその余の判断に及ぶまでもなく理由がないということになる(属否論である争点1においては被告製品は構成要件Dを充足すると主張しながら,無効論である争点2-1においては被告製品と同一形状である乙13公報の図面に示された腹帯の前身ごろ下端部の形状が略逆三角形状ではないとする原告の主張は,矛盾しているといわなければならない。
)。 )。
第5結語以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 達野ゆき
裁判官 山下隼人
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