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関連審決 無効2002-35193
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  公然実施 /  きわめて容易 /  削除 /  実施例 /  容易に想到 /  公知技術 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 302号 審決取消請求事件
原告 アビリット株式会社
訴訟代理人弁護士 山上和則
同 尾崎英男
同 三山峻司
同 室谷和彦
訴訟代理人弁理士 稲岡耕作
同 鈴木由充
同 藤本昇
同 薬丸誠一
被告 株式会社オリンピア
訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 早稲本和徳
同 七字賢彦
同 鈴木英之
同 大友良浩
同 隈部泰正
補佐人弁理士 黒田博道
同 米山淑幸
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2002-35193号事件について平成15年6月5日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告(旧商号・高砂電器産業株式会社)は,考案の名称を「スロットマシン」とする登録第2148009号の実用新案登録(昭和62年10月21日出願,平成9年3月12日設定登録。以下「本件実用新案」といい,その出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の実用新案権者である。
(2) 被告は,平成14年5月15日,本件実用新案を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2002-35193号事件として審理し,その結果,平成15年6月5日,「登録第2148009号の実用新案登録を無効とする。」との審決をし,同月12日,その謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲 「1回のゲームの実行につき所定の割当時間が設定されたスロットマシンであって, 前記割当時間の時間消費を計時するための計時手段と, この割当時間内に次回のゲームへの進行を禁止するための禁止手段と, 割当時間が消費されたとき禁止手段の禁止動作を解除するための解除手段と, 割当時間内に次回のゲームの開始操作が行われたとき禁止手段の禁止解除を受けて次回のゲームを自動的に開始させるための開始制御手段 とを具備して成るスロットマシン。」(以下,「本件考案」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件考案は,当業者にとって周知であった回胴式遊技機(以下,審決と同じく「周知回胴式遊技機」という。),特開昭61-259685号公報(以下,審決と同じく「証拠V」という。)に記載された周知技術,実願昭56-132193号(実開昭57-131780号)のマイクロフィルム(以下,審決と同じく「証拠U」という。)に記載された事項に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものである,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した周知回胴式遊技機の構成,これと本件考案との一致点・相違点は,次のとおりである。
(周知回胴式遊技機の構成) 1ゲーム毎に制限時間を設定した回胴式遊技機 (一致点) 1回のゲームを実行するための割当時間が設定されたスロットマシンである点 (相違点) 本件考案には次の(1)〜(4)の手段が記載されているのに対し,周知回胴式遊技機にはそれらの手段について格別記載されていない点。
(1) 割当時間の時間消費を計時するために計時手段を具備している点。
(2) 割当時間内では次回ゲームへの進行を禁止する禁止手段を具備している点。
(3) 割当時間が消費された時は,次回へのゲーム進行禁止手段を,解除手段にて解除する点。
(4) 割当時間内に次回の開始操作が行われた場合,割当時間が消費されたときに,次回のゲームを自動的に開始させるものである点。
(以下,「相違点1」,「相違点2」などという。) 4 スロットマシンに関する法的規制等 (1) 昭和59年改正後の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下「新風営法」という。)の施行(昭和60年2月)に伴い,国家公安委員会規則として,「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則」(以下「新風営法規則」という。),「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」が定められ,パチンコ型スロットマシン(以下,単に「スロットマシン」又は「回胴式遊技機」という。)が新たに規制の対象となった。
新風営法規則7条には,「著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準」として,「回胴式遊技機」について,「1分間におおむね400円の遊技料金に相当する数を超える数の遊技メダル(遊技の用に供するメダルをいう。・・・)を使用して遊技をさせることができる性能を有する遊技機であること」などの基準が定められた。
(2) 新風営法の下では,スロットマシンの製造業者は,製造するスロットマシンの型式が国家公安委員会規則で定める技術上の規格に適合しているか否かについて検定を受けることとなり,財団法人保安電子通信技術協会(以下「保通協」という。)が製品の型式試験を行い,その型式試験に合格した製品のみが販売可能となった。
スロットマシンの製造業者の業界団体として,日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)が昭和55年末に設立されていたが,新風営法の下で保通協の型式試験が行われるようになると,日電協は,昭和60年3月29日,「回胴式遊技機の機能及び構造等に関する日電協内規」(以下「日電協内規」という。)を作成し,組合員は予め内規に従った日電協の自主検査を経て,保通協の型式試験を受けるようになった。原告及び被告は,いずれも日電協の組合員である(乙8号証)。
(3) 昭和60年中に,新風営法の規制の下で最初の型式認定を受けた回胴式遊技機が各メーカーから登場し,これらは「1号機」と呼ばれた。この型式認定の有効期限は3年であった。
日電協内規については,その後一部改正が行われ,その「遊技料金について」の項は,昭和61年5月23日に一部改正がされ(甲9号証,日電協内規(昭和61年9月8日訂正版),以下「昭和61年5月内規」という。),さらに昭和62年7月1日には,昭和61年5月内規による定めを削除して「口頭説明とする。」と改正された(甲13号証,日電協内規(昭和62年7月1日訂正版),以下「昭和62年7月内規」という。)。その口頭説明は,昭和62年6月26日の全体会議において,組合員に対し行われた。
この間,業界では,2号機の開発が検討され,昭和63年2月,最初の2号機が保通協の検定に合格した。
原告主張の取消事由の要点
1 取消事由1(一致点認定の誤りによる相違点の看過) 審決は,周知回胴式遊技機を「1ゲーム毎に制限時間を設定した回胴式遊技機」であると認定し,その1ゲーム毎の「制限時間」が,本件考案1(判決注・本件考案)における「割当時間」に相当するとして,両者は「1回のゲームを実行するための割当時間が設定されたスロットマシン」という点で一致すると認定している(審決書23頁)。
しかしながら,周知回胴式遊技機における1ゲーム毎の「制限時間」と,本件考案における1回のゲームを実行するための「割当時間」とは全く異なるものである。
(1) 周知回胴式遊技機における「制限時間」について ア 審決が認定する「周知回胴式遊技機」は,昭和62年7月内規の22項「遊技料金について」に従って製造される回胴式遊技機であるが,同項には「口頭説明とする」とあるから,その内容は,昭和62年6月26日に開催された日電協の全体会議において口頭説明されたところのものを意味する。したがって,この口頭説明の内容が昭和62年7月内規の一部をなしていると考えられる範囲において,その内容が本件出願前に公知であった技術であることは否定しない。
イ 上記全体会議のために準備されたものと思われる,昭和62年6月25日付け「62.6.26全体会議 2号機の内規説明」と題する手書きの書面(以下,審決と同じく「証拠J」という。)には,「1ゲーム毎に何秒(6秒とか5.5秒)以上の制限をもうけてゲームを進行させる方式とすることゝ致しました。これの考え方は平均して大ボーナスが一回出るまでの一連の遊技を考え,その中から払出しに要する時間,役物や連続役物に要する時間を差引き残りが一般ゲームに割当てられる時間と考え,1回当り6秒とか5.5秒で制限をすることで了解が得られたわけです。」(2頁3〜9行)と記載されている。
ここで「了解が得られた」とは,関係筋と鋭意折衝を重ねた結果,「規則の許す範囲で広く解釈していただく等,我々の要望にある程度答えて戴いた」(1頁7〜8行)ということであり,その内容は,昭和61年5月内規に規定されていた「1分間に24枚を超えるメダルを投入して遊技できないようにする」という,ゲームの途中でゲーム機の動作を止めるような客離れを招く非現実的規制は要求せず,上記の考え方で計算した時間が6秒とか5.5秒以上になればよい,という考え方で「関係筋」の了解が得られたということである。
ウ 上記の「平均して大ボーナスが一回出るまでの一連の遊技を考え,その中から払出しに要する時間,役物や連続役物に要する時間を差引き残りが一般ゲームに割当てられる時間と考え,1回当り6秒とか5.5秒で制限をすることで了解が得られた」ということの意味は,以下のとおりである。
まず,「平均して大ボーナスが一回出るまでの一連の遊技を考え」るとは,当該ゲーム機において大ボーナス(ビッグボーナス)が当たる確率が例えば,1/300であるとすると,ビッグボーナスが1回出るために一般のゲームを300回行うことになるので,300回の一般ゲームを行うことを考える,という意味である。一般ゲームを300回行うと,その間にボーナスゲームも派生的に生じるので,「一連の遊技」にはこれらのボーナスゲームも含まれる。
次に,「その中から払出しに要する時間,役物や連続役物に要する時間を差引き残りが一般ゲームに割当てられる時間と考え」るとは,300回の一般ゲームとそこから派生するボーナスゲームを考えた場合に,その「一連の遊技」に要する全時間の中には,機械が払出し動作を行う時間と,役物や連続役物に要する時間があるので,「一連の遊技」に要する全体の時間からそれらの時間を差引いた残りの時間を,一般ゲームを行っている時間と考える,ということである。この時間をゲーム回数で割った時間が「1ゲーム当りの時間」となる。
すなわち,証拠Jの説明では,一般ゲームの「1ゲーム当りの時間」を, で定義しているといえる。
また,「1回当り6秒とか5.5秒で制限する」とは,上記の「1ゲーム当りの時間」が5.5〜6秒となるように制限するという意味である。新風営法規則は「1分間に400円を超えないゲームである」旨を定めている。メダルは1枚20円であるから,「1分間に400円」は「1分間に20枚のメダルを投入すること」に相当するので,同規則は「1分間に20枚を超えるメダルを投入しない」と言い換えることができるが,いずれにしても,同規則は1分間についてのゲームの進行速度を規制するものである。これに対し,証拠Jの説明では,上記の式で定義された「1ゲーム当りの時間」について,計算上その時間が5.5〜6秒となることで,同規則がクリアできるとしているのである。つまり,同規則で許される最も速い遊技速度,すなわち1分間に20枚の割合でメダルを投入して上記の「一連の遊技」を行った場合でも,上記式で定義される「1ゲーム当りの時間」が5.5〜6秒となればよいのである。前記の定義式から明らかなように,この時間が5.5〜6秒の範囲に入るようにするためには「機械の払出動作の時間」などが適当な数値になるようにゲーム機の設計を行えばよいのである。
エ 以上のように,周知回胴式遊技機における「1ゲーム毎の制限時間」とは,証拠Jに記載された定義による「1ゲーム当りの時間」についての計算上の数値であるに過ぎない。そして,この数値が5.5秒〜6秒であれば,「1分間に400円を超えない」という新風営法規則をクリアしたものとされるのである。すなわち,昭和62年7月内規の22項「遊技料金について」及び証拠Jには,回胴式遊技機がゲームの実行時間を計時するためのタイマー等の制御機構を有することは全く記載されていないのであり,上記のとおり,「1ゲーム当りの制限時間」が計算上5.5秒〜6秒となることを求めているに過ぎないのである。
したがって,周知回胴式遊技機における「1ゲーム毎の制限時間」は,上記の所定の方式で計算された数値であって,ゲーム機において実際に行われる個々のゲームについての制限時間ではないのである(熟練した遊技者がゲームを速く行って,実際のゲームにおける1ゲームに要した時間が5.5秒より短い時間となることもある。)。
(2) 本件考案における「割当時間」について 本件考案の「1回のゲームを実行するための割当時間」は,1回のゲームの実行につき所定の割当時間を設定して,その割当時間内に次のゲームへ進行するのを禁止するものであり,1回のゲームを実行するのに要する時間に最少所要時間を設定して,実際のゲームの進行速度に制限を加えるものである。
このことは,本件明細書に「法律によりゲームの進行速度に制限を加え,1回のゲームの実行につき所定の割当時間を設定して,その割当時間内に次のゲームへ進行するのを禁止する方式のスロットマシンが提案された」(甲第2号証1頁2欄22行〜2頁3欄1行)との記載があることからも明らかである。すなわち,ここでいう「割当時間」とは,計時手段を用いて実際のゲーム時間を計時し,所定の割当時間が消費されるまでは次のゲームに進行することを禁止する概念である。
しかし,この従来技術は公知技術ではない。
(3) 以上のとおりであり,審決は,周知回胴式遊技機の「制限時間」が「1ゲーム当りの時間」についての計算値であるのに,これを実際の個々のゲームについての制限時間であると誤認して,本件考案の「割当時間」に相当するとしたものであり,一致点の認定を誤り,この点に関する相違点を看過したものである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 前記のとおり,周知回胴式遊技機における「1ゲーム毎の制限時間」は単なる計算上の数値であるに過ぎないのであり,これを誤認してした相違点1ないし4についての審決の判断は,以下のとおり,いずれも誤りである。
(1) 相違点1について,審決は,「1回のゲームの実行に要する時間が割り当てられている以上,当該時間を計時するための計時手段が必要となることは,当業者ならば,当然想到する程度の技術的事項である」(審決書24頁5〜7行)と判断している。
しかし,「周知回胴式遊技機」の「制限時間」は計算上の数値であるから,計時手段による計時とは無関係である。
(2) 相違点2について,審決は,「当該周知回胴式遊技機は,前記の様に1分間に9回を超えるゲームができないようにする旨の規制をクリアする為に,1回のゲームの実行に要する時間が制限されたものであるから,割当時間消化前に次回のゲームが実行されてはならないことは,・・・・当業者にとって明らかなこと」と判断している(審決書24頁10〜16行)。
しかし,「1分間におおむね400円の遊技料金を超えない」という新風営法規則を回胴式遊技機に適用するために「1分間に9回を超えるゲームができない」あるいは「1分間に24枚を超えるメダルを投入できない」ゲーム機としたのでは,ゲームの進行が中断され,客離れを招き,非現実的であることから,それに代わるものとして周知回胴式遊技機の「1ゲーム毎の制限時間」が考えられ,関係筋に了解されたものである。「制限時間」は計算上の数値であり,実際のゲームの進行を禁止するという観念は全くない。
したがって,「制限時間経過前に次回のゲームが実行されないようにする」ことが当業者にとってきわめて容易という審決の判断は,そもそも「1ゲーム毎の制限時間」の趣旨に反するものである。
(3) 相違点3について,審決は,「ゲームの進行禁止を解除しなければ,割当時間消費後の次回ゲームが実行できないことは明らかである」(審決書24頁25〜26行)と判断している。
しかし,周知回胴式遊技機の「制限時間」には実際のゲームの進行を禁止するという考え方は存在しないから,禁止の解除も考えられない。
(4) 相違点4について,審決は,証拠U及び証拠Vを引用して,「割当時間内に次回の動作開始指示を受けても次回の動作を直ちに開始できない前記周知回胴式遊技機が,割当時間内に次回の操作開始指示を受けた場合の対応として,前記周知の技術を適用することは当業者ならばきわめて容易に為し得る程度の事項である」(審決書24頁下から2行〜25頁2行)と判断している。
ア しかし,周知回胴式遊技機には1回のゲーム実行時間を計時することもなければ,禁止をすることもないから,審決のいう周知の技術を適用する余地もない。
イ 仮に,周知回胴式遊技機における「制限時間」が本件考案の「割当時間」に相当することを前提にしたとしても,審決の進歩性に関する判断は誤りである。
本件考案は,前記のとおり「1ゲーム当りの割当時間」を設定するというアイデアをもつものであるが,これを実際のスロットマシンにおいて実用化する上では問題があった。それは,「割当時間の残存期間中は次回のゲーム開始操作を行っても,その操作が無効となるため,遊技者は割当時間の消費後に同じゲーム開始操作を再度行う必要があり,操作が煩雑かつ客サービスに欠けるという問題」である。
本件考案は,「割当時間内に次回のゲームの開始操作が行われたとき禁止手段の禁止解除を受けて次回のゲームを自動的に開始させるための開始制御手段」という構成をとることによって,その問題の解決手段を示したものである。
すなわち,上記の構成は,マイクロコンピュータによって制御される発明等で一般に用いられる,いわゆる「手段+機能」クレームの形式で機能的に表現されているが,その具体的構成が実施例に記載されている。そのポイントは,「1ゲーム当りの割当時間」をゲーム開始操作(メダル投入)の時から計時するのではなく,タイマーの計時開始時を,メダル投入操作や始動レバー操作より後の時点とすることにある(本件明細書の第5図のフローチャートのST6で6.7秒タイマフラグをセットするのがタイマーの計時開始時に相当する。)。つまり,割当時間の1サイクルの開始時をゲーム開始操作より後の時点に設定することによって,割当時間消費前に行われた次のゲームの開始操作は無効とならず,割当時間消費後,再度ゲーム開始操作をくり返すことなく,自動的に次のゲームに進行することができる。
このように,本件考案により,遊技者の操作を煩雑にすることなく,割当時間を実際のスロットマシンに導入して1ゲーム当りの時間を規制することが可能となったのである。
審決は,証拠U及び証拠Vを引用して,上記のような本件考案進歩性を否定しているが,本件考案は,従来技術の課題を認識し,これを解決する手段を見出して初めてなし得たものである。証拠U及び証拠Vの内容として審決が認定した事実(審決書19頁下から4行〜21頁下から4行)については争うものではないが,証拠U及び証拠Vは,いずれも,本件考案の従来技術の技術課題に相当するような問題が存在せず,所定の条件が満たされれば自動的に次のプロセスに進行することについて何の障害もない技術分野の技術である。証拠U及び証拠Vには,本件考案の従来技術の課題を認識し,解決する上での示唆となる事項は何も記載されていないのであるから,本件考案進歩性は否定されない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点認定の誤りによる相違点の看過)に対して 周知回胴式遊技機と本件考案との一致点に関する審決の認定には何らの誤りもなく,したがって,相違点の看過もない。
(1) 審決は,本件出願前に,原告や被告を含む日電協加盟の回胴式遊技機製造業者等に広く知られた考案として,「一般ゲームにおける1ゲーム毎に制限時間を設け,当該制限時間内には次回の一般ゲームが行えないように構成した回胴式遊技機」という構成を有する技術思想を「周知回胴式遊技機」として認定したものであり,実機として認定したものではない。
(2) 周知回胴式遊技機における「制限時間」は,1ゲーム毎の最少所要時間であり,当然にその最少所要時間よりも短い時間の1ゲームの存在を許さないことを意味しているのである。このことは,審決が引用する証拠の記載から明らかである。
(3) 原告は,周知回胴式遊技機の「制限時間」は,所定の方式による「1ゲーム当りの時間」の計算値であるに過ぎず,遊技者の遊技行為を禁止するものではなく,したがって禁止の解除もないとして,本件考案における「割当時間」とは異なるものであると主張している。
しかしながら,原告は,本件の審判手続においては,「スロットマシンの設計にあたり,各メーカーが,1ゲーム当りの動作時間がその時間よりも短くならないように設計を制限する。その時間を制限時間と呼んでいるもので・・・・。」と主張している。
また,原告は,別に提起している本件実用新案権に基づく侵害訴訟において,「いずれにしても,本件考案の出願当時の技術として割当時間(所要時間,待機時間)を設定してその間に一定の動作を停止(禁止)するスロットマシンは種々存在していたものである。」,「しかるに本件考案は,上記のような割当時間が設定された従来方式のスロットマシンを背景技術として,割当時間内に行われた次回のゲーム開始操作を無効化することなく,有効化させることに着想して本件考案を開発したものである。」,「すなわち,本件考案は割当時間が設定された従来方式のスロットマシンを改良して割当時間内において行われたスタートレバー操作などのゲーム開始操作を割当時間の消費後に有効化することによって割当時間の消費後に再度ゲーム操作を行う必要がないようにすることに技術的課題があるのである。」などと主張している。
これらの主張は,原告の本訴における主張と完全に矛盾し,審決が認定した周知回胴式遊技機の内容及びその存在を自白しているものである。このような原告の主張態度は,訴訟上の信義則から許容されるものではない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して (1) 原告が,相違点1ないし4について主張するところは,いずれも周知回胴式遊技機の「制限時間」が計算上の数値であるに過ぎないとの主張を前提としているものであり,その前提が誤っている。
(2) 原告は,相違点4の容易想到性を認めた審決の判断が誤りである旨主張するが,審決の認定する周知回胴式遊技機,すなわち1ゲーム毎に制限時間を設定した回胴式遊技機という認定には誤りはなく,割当時間内に次回の動作開始指示を受けても次回の動作を直ちに開始できない周知回胴式遊技機において,割当時間内に次回の操作開始指示を受けた場合の対応として,証拠U及び証拠Vなどに示された周知の技術を採用することは,当業者ならば,きわめて容易になし得る程度の事項であることは明らかであるから,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 周知回胴式遊技機に関する審決の認定について 審決は,次のとおり認定した。
「国家公安委員会規則,日電協内規,及び2号機の型式検定について時系列的に整理して要約すると以下のように纏めることができる。
すなわち, (i).昭和60年に施行された風適法によりパチスロは指定品目とされ,風適法に基づいて型式認定された1号機のROMには,不正ROMが出回った。
(ii).警察庁は,当該不正ROM対策としての封印シール,及び1分間に概ね400円,9回のゲームを越えないことを日電協に要望。
(iii).日電協は,前記要望を受けて,技術委員会で検討し,関係当局に陳情・交渉の後,昭和61年9月8日付訂正済の日電協内規を証拠Gのように作成 (iv).当該証拠Gの内規では売れないのではないかとの疑問の下に開発が頓挫していたが,関係筋に対する,陳情・折衝により,1分間に概ね400円の件については,1ゲーム毎に制限時間を設けること,及びその計算書の提出により合意し,当該合意内容を,昭和62年7月1日付内規(証拠L)に「22 遊技料金について 口頭説明」として取り入れた。
(v).当該「1ゲーム毎に制限時間を設ける」との内容は,保通協が行う型式認定に先立つ組合検査基準として,昭和62年9月1日付で制定され,当該組合検査基準には,マル秘は記載されていない。
(vi).当該組合検査基準に基づいて製造された「ウインクル」が,2号機のトップとして保通協の型式検査に昭和63年2月16日合格」(審決書18頁下から2行〜19頁20行) 「してみると,1ゲーム毎に制限時間を設定した回胴式遊技機は,本件考案出願(昭和62年10月21日)前に,当業者にとって周知の回胴式遊技機(以下「周知回胴式遊技機」という)であると認められる。」(審決書19頁22〜24行) 審決の上記説示によれば,審決は,回胴式遊技機に関する法的規制を巡る警察庁の要請とこれに対する日電協の対応等の経緯などを踏まえて,本件出願前に「1ゲーム毎に制限時間を設定した回胴式遊技機」という技術思想が公然知られたものであったと認定したものであり,周知回胴式遊技機が,特定の刊行物に記載された考案であるとか,あるいは公然実施された考案であるとしているものでないことが明らかである。
(2) 周知回胴式遊技機における「1ゲーム毎の制限時間」について ア 前記第2の4の事実と証拠(甲4,6,7,9,11,13,16号証)によれば,次の事実が認められる。
@ 新風営法の下で初めて型式認定を受けた回胴式遊技機の1号機が登場してから,間もなくして不正ROMが出回るようになったことなどから,警察庁から日電協に対し,ROMに封印シールを貼ることや,「1分間に400円を超えないゲームであること,いかなる条件においても1分間に9回(メタル3枚使用の場合)を超えないこと」等の要望が出された(甲4,6,7号証)。
A これに対し,日電協は,昭和60年12月5日付け警察庁保安部防犯課長宛「回胴式遊技機の認定要件についてお願い(陳情)」と題する書面をもって,打込テストによると,1分間に,上級者クラスでは9〜11回,超上級者クラスでは11〜12回となっており,これを1分間に9回以上のゲームができないようにするためには,メダルを受け付けないようにするか,回胴が回転しないようにするなどの方法しかなく,この場合,ゲームがだれてリズミカルな遊技ができず顧客が機械離れをすることになるから,現状で容認いただきたくお願い致しますなどと陳情した(甲7号証)。
B その後,日電協は,昭和61年5月内規として,次のとおり定めた(甲9号証)。
「昭和60年3月29日,日電協内規を作成し,第一号機の製造に着手してきたのであるが,・・・。しかるに遊技機がホールに設置されてから僅か6ヶ月間を経過したにすぎない段階で,遊技機設計上の欠陥や盲点をつかれ改造機具等が出廻るようになったことなど種々の問題が現出したのでこれらを防止するため,ここに日電協内規全般について検討を加え整理統合したので遊技機製造上誤りのないようせられたい。」 「22.遊技料金について 1.1分間に24枚を越える遊技メダルを投入して遊技が出来る構造でないこと。・・・ 〈実現方法〉 (1) スタートレバー作動で1分間タイマーが起動する。
(2) 1分間タイマーが,タイムアップする以前に24枚のメダルに達したら1分間タイマーがタイムアップするまで次の遊技が出来ないこと。
(3) 1分間タイマーが,タイムアップしたときに24枚のメダルに達していないときは,24枚のメダルに達して次のスタートレバー作動で1分間タイマーが起動する。」 C ところが,業界では,上記の昭和61年5月内規に対して,このような回胴式遊技機を作っても売れないのではないかとの疑問が出され,2号機の開発が頓挫していたため,日電協は,さらに関係当局に対する陳情,折衝を重ねた(甲11号証)。
その後,日電協は,昭和62年7月内規として,「22 遊技料金について」の項目について,昭和61年5月内規の前記定めを全部削除し,「口頭説明とする。」と定めた(甲13号証)。そして,昭和62年6月26日の全体会議において,組合員に対する口頭説明がされた。
その口頭説明のために準備された「62.6.26全体会議 2号機の内規説明」と題する62年6月25日付け書面(手書き)には,次の記載があり,当日の全体会議においても,おおむねそのような趣旨の説明がなされたものといえる(証拠J・甲11号証)。
「こゝ1〜2ヶ月技術委員会を中心に関係筋に陳情・説明等鋭意折衝を重ねた結果,規則の許す範囲で広く解釈していたゞく等,我々の要望にある程度答えて戴いた内規が略,内定致しましたので,この案の要点を御説明申し上げますが詳細は読んでいたゞいてこの案で不都合な点や疑問点等があれば,・・・組合に御知らせ願いたいと思います。支障がなければこれを内規と定めたいと思っております。では変更があった部分について説明致します。」 「@ 先ず一番の大問題であった1分間おおむね400円の件ですが,1ゲーム毎に何秒(6秒とか5.5秒)以上の制限をもうけてゲームを進行させる方式とすることゝ致しました。これの考え方は,平均して大ボーナスが一回出るまでの一連の遊技を考え,その中から払出しに要する時間,役物や連続役物に要する時間を差引き残りが一般ゲームに割当てられる時間と考え,1回当り6秒とか5.5秒で制限をすることで了解が得られたわけです。たゞし各機種毎に・・・詳細計算書を提出してチェックを受けることとなりました。」 D 日電協は,昭和62年9月1日,日電協内規とは別に,「回胴式遊技機 組合検査基準」を制定したが,その検査項目の「B 動作試験」中には「(1) 1ゲームの制限時間」の項目が設けられている(甲16号証)。
イ 以上認定したところからすれば,回胴式遊技機については,新風営法規則により,1分間におおむね400円に相当する数を超える数の遊技メダルを使用して遊技をさせることができる性能を有するものでないことが必要であるところ,その具体的な認定基準に関して,警察庁から,「1分間に9回(メタル3枚使用の場合)を超えないこと」との見解が示され,日電協としては,その基準の緩和について陳情したものの,結局,昭和61年5月内規により,「1分間タイマーが,タイムアップする以前に24枚のメダルに達したら1分間タイマーがタイムアップするまで次の遊技が出来ない」構造のものとすることを定めたものである。すなわち,日電協は,「1分間におおむね400円」という新風営法規則の基準に適合したものとするため,警察庁の見解を踏まえて,1分間が経過するまでに所定の枚数のメダルを使用しても,1分間を経過するまでは次のゲームが開始できないようにタイマーを用いてゲームの進行制限を行うこととしたものである。
ところが,上記Aの陳情において示されているように,そのような進行制限の方法にすると,ゲームがだれてリズミカルな遊技ができない,すなわち上級者,超上級者クラスでは,1分経過前に24枚のメダルを使用してしまうと,新たなゲームに入るのにかなりの時間待機せざるを得ない事態となることが予想され,これが1分毎に生じるということでは,リズミカルな遊技ができないことから,組合員から,昭和61年5月内規について疑問が出され,日電協において警察庁と折衝した結果,1分単位でゲームの進行制限をするのではなく,1ゲーム毎に何秒(6秒とか5.5秒)以上という制限を設けてゲームを進行させる方式を用いることとなったものということができる。
このように,日電協は,警察庁の1分間におけるゲーム回数の制限という要請を受けて,いったんは1分単位でタイマー管理してゲームの進行制限をするという方法をとることとしたものの,組合員の意向を踏まえ,その方法に代えて,1ゲーム毎の最少所用時間を設定してゲームの進行を制限するという方法により,警察庁の要請したところを実現することとしたものである。したがって,この1ゲーム毎の秒数制限を設けてゲームを進行させる方式は,昭和61年5月内規の1分単位によるメダル使用枚数に基づく進行制限に代わるものとして提案されたものであるから,1ゲーム毎の秒数制限は,当然,その秒数が経過するまでは新しいゲームを開始しないということを意味するものであることは明らかである。
そうすると,既に周知であった,昭和61年5月内規による,1分経過前に24枚のメダルを使用してしまったら,1分が経過するまでは,次のゲームを開始しないという回胴式遊技機に代わるものとして提案された「1ゲーム毎に何秒(6秒とか5.5秒)以上の制限をもうけてゲームを進行させる方式」の回胴式遊技機は,当業者であれば,昭和61年5月内規によるものと同様に,その設定された1ゲーム当りのゲーム時間より前に,ゲームが終了しても,その設定された時間が経過するまでは,次のゲームを開始しないという回胴式遊技機を意味するものとして理解し得ることは当然であり,そのような回胴式遊技機が,本件出願前に,当業者にとって周知の技術思想であったということができる。
ウ 以上のことは,本件明細書に,「遊技者は,ゲームに熟練すればする程,メダルの投入や停止ボタンの各操作が迅速となり,1回のゲームを実行するに要する時間が著しく短くなる。・・・・賭博性の高いゲーム機となるおそれがある。そこで近年,法律によりゲームの進行速度に制限を加え,1回のゲームの実行につき所定の割当時間を設定して,その割当時間内につぎのゲームへ進行するのを禁止する方式のスロットマシンが提案された。」(甲2号証1頁2欄16行〜2頁3欄1行)と記載されていることからも裏付けられるものということができる。
(3) 原告は,周知回胴式遊技機における「制限時間」は,所定の方式で定義された「1ゲーム当りの時間」についての計算値であって,実際に遊技者が行う1回のゲームの実行について「制限時間」が設定されているのではない,と主張する。
原告のこの主張は,前記口頭説明のために準備された甲11号証(証拠J)に「これの考え方は,平均して大ボーナスが一回出るまでの一連の遊技を考え,その中から払出しに要する時間,役物や連続役物に要する時間を差引き残りが一般ゲームに割当てられる時間と考え,1回当り6秒とか5.5秒で制限をすることで了解が得られたわけです。たゞし各機種毎に・・・詳細計算書を提出してチェックを受けることとなりました。」と記載されていることに基づくものである。
確かに,上記記載部分は,1ゲーム単位で設定される秒数制限の計算の仕方を説明するものであるが,口頭説明において提案された1ゲーム当りの制限時間を設ける方式が,昭和61年5月内規の1分単位によるゲームの進行制限に代わるものとして,それと同様に,1ゲーム当りの制限時間が経過するまでは次のゲームを開始しないという回胴式遊技機を意味するものと理解し得ることは前記のとおりであり,上記記載部分のみをとらえて,その制限時間が計算値に過ぎないとする原告の主張は失当である。
また,原告は,昭和62年7月内規の22項「遊技料金について」及び証拠Jには,回胴式遊技機がゲームの実行時間を計時するためのタイマー等の制御機構を有することは全く記載されていないのであり,「1ゲーム当りの制限時間」が計算上5.5秒〜6秒となることを求めているに過ぎないとして,審決の認定の誤りを主張する。
しかし,審決は,回胴式遊技機の法的規制を巡る前記のような経緯を踏まえて,本件出願前に周知回胴式遊技機なる技術思想が周知であったと認定したもので,昭和62年7月内規及びその口頭説明の準備のための甲11号証(証拠J)の記載だけからそのように認定したものでないことは前記のとおりであるから,それらの記載内容のみに基づいて,審決の認定を非難する原告の主張は当を得たものとはいえない。また,原告主張のように,当時,1ゲーム当りの制限時間が計算上5.5秒〜6秒であれば足り,実際にタイマー等によりその制限時間内は次のゲームを開始できない措置が採られていなくてもよいとする解釈が認められていたとしても,警察庁との折衝経緯など前記認定したところからすれば,それはあくまで特例的な措置でしかなく,それとともに,1ゲーム当りの制限時間を設けてゲームを進行させる方式,すなわち,その制限時間を経過する前は新しいゲームを開始させないという方法が示されていたのであり,それが新風営法規則の基準に適合する本来の方法であるとされていたものというべきである(このことは,本件出願後ではあるが,昭和63年1月27日付けの日電協理事長から各組合員宛の「2号機に関する関係当局への質疑応答結果と保通協からの連絡事項について」と題する書面において,「2 関係当局への質疑応答結果 (1) ゲーム時間について・・・答:特例機としては最短4秒であるからタイマーで4秒以内のゲームができないようにリミットを設ける必要がある(この場合は計算書を出す必要はない)・・・計算書を出すときには,・・・」と記載されているように,1ゲーム当りの制限時間を設けて,タイマーで制限するときは計算書を出す必要がなく,そうでない場合は,計算書を出すとされていることからも窺えることである。甲18号証)。
(4) 以上のとおりであるから,1ゲーム毎に制限時間を設定した回胴式遊技機が本件出願前に当業者にとって周知のものであり,その「制限時間」は本件考案の「割当時間」に相当するということができるのであって,この点に関する審決の認定に誤りはなく,審決に,一致点認定の誤り,ひいては相違点を看過した違法はない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 相違点1について 原告は,周知回胴式遊技機における「制限時間」が本件考案における「割当時間」とは異なることを前提として,周知回胴式遊技機と計時手段とは無関係であると主張するが,その前提が誤りであることは前記のとおりである。そして,前記第5の1(2)アのとおり,本件出願前に既に回胴式遊技機についてタイマーを用いて時間制限を行うべきことが示されていたことが認められるのであって,「1回のゲームの実行に要する時間が割り当てられている以上,当該時間を計時するための計時手段が必要となることは,当業者ならば,当然想到する程度の技術的事項である。」として,相違点1は格別のものではないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点2及び3について 原告は,相違点2及び3についても相違点1と同様に,周知回胴式遊技機における「制限時間」が本件考案における「割当時間」とは異なることを前提にして,周知回胴式遊技機においては実際のゲームの進行を禁止し,あるいはこれを解除するという観念はない旨主張するが,その前提が誤りであることは相違点1の場合と同様である。
そして,周知回胴式遊技機における「1ゲーム毎の制限時間」は,制限時間内においては次のゲームを開始しないということを内容とするものであることも前記のとおりである。そうすると,次のゲームを開始しないことを担保するために,割当時間内に次回のゲームを実行させない禁止手段を具備させること及び次のゲームを開始させるためにその禁止を解除する手段を具備させる程度のことは,当業者がきわめて容易に想到し得るものということができる。したがって,この点に関する審決の判断に誤りはない。
(3) 相違点4について ア 原告は,周知回胴式遊技機には,1回のゲーム実行時間を計時することもなければ,禁止をすることもないから,審決のいう周知の技術を適用する余地もないと主張するが,この主張は,要するに,周知回胴式遊技機における「制限時間」が本件考案における「割当時間」とは異なることを前提とするものであり,その前提が誤りであることは前記のとおりである。
イ 相違点4についての容易想到性について検討する。
@ 原告は,本件考案の「割当時間内に次回のゲームの開始操作が行われたとき禁止手段の禁止解除を受けて次回のゲームを自動的に開始させるための開始制御手段」という構成のポイントが,「1ゲーム当りの割当時間」をゲーム開始操作(メダル投入)の時から計時するのではなく,タイマーの計時開始時を,メダル投入操作や始動レバー操作より後の時点とすることにあるとし,このような設定にすることによって,割当時間消費前に行われた次のゲームの開始操作は無効とならず,割当時間消費後,再度ゲーム開始操作をくり返すことなく,自動的に次のゲームに進行することができるようになったと主張する。
しかしながら,開始制御手段について,実用新案登録請求の範囲に記載されている本件考案の構成は,「割当時間内に次回のゲームの開始操作が行われたとき禁止手段の禁止解除を受けて次回のゲームを自動的に開始させるための開始制御手段」というものであり,タイマーの計時開始時をいつにするかなどという点についての記載はなく,何らの限定もされていない。
本件考案においては,割当時間内に次回のゲーム開始操作がされても,次のゲームを開始し得ないのであるから,「割当時間内に次回のゲーム開始操作が行われた」ことが,何らかの手段で記憶されていることが必要であるが,「開始制御手段」が「禁止手段の禁止解除を受けて次回のゲームを自動的に開始させる」ための手段として特定されていることからすると,「割当時間内に次回のゲーム開始操作が行われた」ことは,少なくとも「開始制御手段」において記憶されていると解することができる。そして,1回のゲームの割当時間が,遊技者の開始操作との関係において,いずれの時点において計測が開始されるかについては,実用新案登録請求の範囲に明記されてはいないものの,1回のゲームに設定されている制限時間が,開始操作を行うことに応じて計時が開始され,当該制限時間が消費された時点において,予め設定されている次回ゲームの開始操作を発動させて計時を開始することによって,制限時間を確実に消費することとされているものと解される。
そうすると,本件考案は,計時手段,禁止手段及び解除手段の構成によって,1回のゲームに設けられた制限時間が確実に消費されるようにするとともに,開始制御手段の備える構成により,既に行われた次回ゲームの開始操作を前回ゲームの制限時間中に記憶しておき,前回ゲームが終了した(制限時間が消費された)際に,禁止手段の禁止動作を解除するための解除手段を発動させることで,遊技者が一度行った開始操作を無効としないことに,その特徴を有するものということができる。
A 審決は,証拠U及び証拠Vについて,「証拠Uには以下の事項が記載されていることとなる。すなわち,一定数のパチンコ玉を打球してセーフ穴または入賞装置(ヤクモノ)へ入賞させるゲームにおいて,ゲーム中に誤ってコインを投入した場合,一定数のパチンコ玉の打球が終了し,貯留経路に一定数のパチンコ玉が貯留されたことが検出される迄,当該一定個数のパチンコ玉は放出されず,次のゲームが開始されないこと。」(審決書20頁下から7行〜21頁1行)と認定し,また,証拠Vの記載内容を摘示した上で,「してみると,可変表示装置の動作中に,可変表示装置のスタートスイッチが動作した場合,当該スタートスイッチの動作回数を記憶し,可変表示装置の可変表示動作が一通り完了した後に再度起動されること,すなわち,現在動作中の動作と同様の動作を開始させる動作開始指示が発せられた場合,当該動作開始指示を記憶しておき,現在の動作終了後に当該記憶に基づいて当該動作を自動的に開始させることは,・・・周知の技術である。」(審決書21頁27〜34行)と認定しており,甲20,21号証によれば,その認定に誤りはない(この点に関する審決の認定については,原告も争っていない。)。
B 上記のとおり,「現在のゲームが終了した後,次回のゲームを人手を介さずに開始させること」(証拠U)や,「現在動作中の動作と同様の動作を開始させる動作開始指示が発せられた場合,当該動作開始指示を記憶しておき,現在の動作終了後に当該記憶に基づいて当該動作を自動的に開始させる」(証拠V)といった技術は,本件出願当時,パチンコなどスロットマシンと近接した遊技機において採用されている周知の技術であったものである。そうすると,前記のとおり,回胴式遊技機においては,ゲームの進行制限により,リズミカルな遊技ができなくなることはできる限り避ける必要があることは,当業者が当然認識していることであるから,割当時間内に次のゲームの開始指示を受けても次のゲームを直ちに開始できない周知回胴式遊技機に,上記周知の技術を適用して,相違点4に係る構成とすることは,当業者であれば,きわめて容易に想到し得るものということができる。
C 原告は,証拠U及び証拠Vは,本件考案の従来技術の技術課題に相当するような問題が存在せず,所定の条件が満たされれば自動的に次のプロセスに進行することについて何の障害もない技術分野の技術であり,本件考案の従来技術の課題を認識し,解決する上での示唆となる事項は何も記載されていないから,これらの技術があるからといって,本件考案進歩性は否定されない旨主張する。
しかし,証拠U及び証拠Vは,いずれもスロットマシンと近接したパチンコなどの遊技機に関する共通の技術分野に関するものであり,「現在動作中の動作と同様の動作を開始させる動作開始指示が発せられた場合,当該動作開始指示を記憶しておき,現在の動作終了後に当該記憶に基づいて当該動作を自動的に開始させる」という技術であるから,リズミカルな遊技の実現という観点から,これを周知回胴式遊技機に適用しようとすることは,当業者ならばきわめて容易に思いつくことであり,証拠U及び証拠Vにおいて,本件考案の従来技術の課題が認識ないし示唆されていないとしても,そのことは,上記判断を何ら左右するものではない。
ウ したがって,相違点4は,証拠V及び証拠Uの技術に基づいて当業者がきわめて容易になし得る程度の事項であるとした審決の判断に誤りはない。
3 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂驤
裁判官 若林辰繁
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