• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2003-35257
無効2003-35188
関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  自然法則 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  実施可能 /  先行技術 /  通常実施権 /  減縮 /  請求項 /  実施例 /  本質的部分 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  明瞭でない記載 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (ワ) 12523号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 株式会社アルス
訴訟代理人弁護士 田中康之
被告 川万水産株式会社
被告 株式会社エフネット
被告ら訴訟代理人弁護士 小野明
同 鈴木弘美
被告ら補佐人弁理士 永田豊
同 増子尚道
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/11/18
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは、別紙イ号物件目録記載の機械を使用してはならない。
2 被告らは、別紙イ号物件目録記載の機械を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、金1億4904万円及びこれに対する平成14年12月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、考案の名称を「食品蒸機」及び「魚貝類処理装置」とする2つの実用新案権を有する原告が、被告らが魚貝類の加工業務において使用する食品蒸機及び魚貝類解凍洗機がそれぞれ各実用新案権に係る考案技術的範囲に属するとして、被告らに対し、食品蒸機の使用の差止め及び廃棄を求めるとともに、両機械の使用による損害賠償を請求している事案である。
1 争いのない事実 (1) 当事者 ア 原告は、食品加工機械の製造販売等を業とする株式会社である。
イ 被告川万水産株式会社(以下「被告川万」という。)は、加工食品の販売を業とする株式会社であり、被告株式会社エフネット(以下「被告エフネット」という。)の親会社である。
ウ 被告エフネットは、食品加工を業とする株式会社であり、加工食品を被告川万に納入している、被告川万の子会社である。
(2) 本件実用新案権1 ア 原告は次の実用新案権(以下「本件実用新案権1」といい、その考案を「本件考案1」、その明細書を「本件明細書1」という。)を有している。
(ア) 考案の名称 食品蒸機 (イ) 登録番号 第2078885号 (ウ) 出願日 平成3年2月8日(実願平3-4873) (エ) 公開日 平成4年9月4日(実開平4-102928) (オ) 出願公告日 平成6年7月6日(実公平6-25232) (カ) 登録日 平成7年9月18日 (キ) 実用新案登録請求の範囲 別紙実用新案公報1(甲第1号証の1)該当欄記載のとおり イ 本件考案1の構成要件は、次のとおり分説することができる。
A トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け、
B 上記コンベアの途中に煮沸槽を設け、
C この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え、
D 前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設けて成る E 食品蒸機。
ウ 訂正請求 原告は、被告らのした本件実用新案権1に係る実用新案登録無効審判請求(無効2003-35257)に対し、平成15年9月24日付けで、実用新案登録請求の範囲減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正請求を行った。
同訂正請求に係る本件考案1の実用新案登録請求の範囲は、次のとおりである(下線部が訂正箇所)。
「【請求項1】トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け、上記コンベアの往路の途中に煮沸槽を設け、この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え、前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設け、前記トンネル式蒸し釜内の出口付近に前記煮沸槽の出口を設け て成る蛸 蒸機。」 特許庁は、平成15年12月16日、上記訂正を認め、無効審判請求を成り立たないとする旨の審決(甲第19号証)をした。なお、同審決については、
被告らが審決取消訴訟を提起し、係属中である。
訂正後の構成要件は、次のとおり、分説することができる(下線部が訂正箇所)。
A’ トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け、
B’ 上記コンベアの往路の途中に煮沸槽を設け、
C’ この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え D’ 前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設け、前記トンネル式蒸し釜内の出口付近に前記煮沸槽の出口を設けて成る E’ 蛸蒸機。
(3) 本件実用新案権2 ア 原告は次の実用新案権(以下「本件実用新案権2」といい、その考案を「本件考案2」、その明細書を「本件明細書2」という。)を有している。
(ア) 考案の名称 魚貝類処理装置 (イ) 登録番号 第2089093号 (ウ) 出願日 平成3年2月8日(実願平3-4878) (エ) 公開日 平成4年9月7日(実開平4-103490) (オ) 出願公告日 平成7年3月1日(実公平7-7737) (カ) 登録日 平成7年11月21日 (キ) 実用新案登録請求の範囲 別紙実用新案公報2(甲第2号証の1)該当欄記載のとおり イ 本件考案2の構成要件は、次のとおり分説することができる。
A 両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り、
B 円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え、
C 処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラとドラムを回転駆動する駆動部を備え、
D 駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成る E 魚貝類処理装置。
ウ 訂正請求 原告は、被告らのした本件実用新案権2に係る実用新案登録無効審判請求(無効2003-35188)に対し、平成15年10月20日付けで、実用新案登録請求の範囲減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正請求を行った。同訂正請求に係る本件考案2の実用新案登録請求の範囲は、次のとおりである(下線部が訂正箇所)。
「【請求項1】両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液漕とを組合せて成り、円筒ドラムはその外面に内側に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え、処理液漕は漕本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラとドラムを回転駆動する駆動部を備え、駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成り、この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成 る魚貝類処理装置。」 特許庁は、平成16年6月16日、上記訂正を認め、無効審判請求は成り立たない旨の審決(甲第23号証)をした。なお、同審決については、被告らが審決取消訴訟を提起し、係属中である。
訂正後の構成要件は、次のとおり分説することができる(下線部訂正箇所)。
A’ 両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り、
B’ 円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え、
C’ 処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラとドラムを回転駆動する駆動部を備え、
D’ 駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成り、この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成 る E’ 魚貝類処理装置。
(4)ア 被告川万は、平成11年11月ころ、有限会社ハラヤから別紙イ号物件目録記載の食品蒸機(以下「イ号物件」という。)を2台購入し、平成12年3月ころ、株式会社トムテックから別紙ロ号物件目録記載の魚貝類解凍洗機(以下「ロ号物件」という。)を8台購入した。
イ 被告らは、イ号物件及びロ号物件を使用して魚貝類を加工し販売していた。ただし、ロ号物件については、平成15年1月8日に使用を中止した。
(5)ア イ号物件は、本件考案1の構成要件D及びEを充足する。また、訂正後の本件考案1の構成要件E’を充足する。
イ ロ号物件は、本件考案2の構成要件CないしEを充足する。また、訂正後の本件考案2の構成要件C’及びE’を充足する。
2 争点 (1) イ号物件は本件考案1の技術的範囲に属するか ア 構成要件A充足性 イ 構成要件B充足性 ウ 構成要件C充足性 (2) 本件考案1の実用新案登録には明白な無効理由があるか ア 本件考案1の実用新案登録請求の範囲の記載は不明瞭か イ 本件考案1には進歩性が認められないか (3) 訂正後の本件考案1について ア 構成要件D’充足性 イ 訂正後の本件考案1の実用新案登録に無効理由があるか (4) ロ号物件は本件考案2の技術的範囲に属するか ア 構成要件A充足性 イ 構成要件B充足性 (5) 本件考案2の実用新案登録には明白な無効理由があるか ア 本件考案2は実施不能か イ 本件考案2には進歩性が認められないか (6) 訂正後の本件考案2について ア 構成要件D’充足性 イ 訂正後の本件考案2の実用新案登録に無効理由があるか (7) 原告の損害
当事者の主張
1 争点(1)(イ号物件は本件考案1の技術的範囲に属するか)ア(構成要件A充足性)について 【原告の主張】 (1) 構成要件Aは「トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け」である。イ号物件は、トンネル式蒸し釜入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設ける構成を有するから、構成要件Aを充足する。
(2) 被告らは、イ号物件のコンベアは復路がトンネル式蒸し釜の下方外部に設置されているから構成において異なり、また異なる構成を採った効果として、メンテナンスの容易化及び支持桿の削れ防止を挙げている。
しかし、実用新案登録請求の範囲に記載された内容において、エンドレスコンベアの往路・復路のすべてを蒸し釜内に設けなければならないとは解釈できない。蒸し釜入口から出口までの間をエンドレスコンベアの往路が走行していれば、
それは実用新案登録請求の範囲内である。
また、コンベアの復路のみがトンネル式蒸し釜の外に出ても、蒸し釜内部の清掃点検は不可欠であるからメンテナンスが容易になるものではないし、支持桿が削れないように構成することは設計上の常識である。したがって、コンベアの復路を蒸し釜の外に出す必要はない。
被告らの主張するイ号物件と構成要件Aとの相違は、原告の有する実用新案権1の権利範囲から逃れようとしてなされた無意味な改変であり、むしろ性能を落とす改変である。これらの相違によって構成要件A充足性が否定されるものではない。
【被告らの主張】 (1) 本件考案1の構成要件Aは「トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け」であり、その文言からして、コンベアの設置位置は蒸し釜「内」入口、出口間に限定されている。このことは、本件考案1の課題が「蒸気の無駄を省」(本件明細書1の段落番号【0007】)くことであり、その効果が「加熱器への蒸気消費量も煮沸槽を外部に設けた場合に比べると少なくできる」(【0027】)ことであり、本件考案1においては「蒸気」すなわち熱の無駄防止を重要な目的の一つであることからも、説明される。
(2) これに対し、イ号物件は、コンベアの復路はトンネル蒸し釜の下方外部に設置されている。この構成の場合、熱無駄防止の阻害あるいは室温変化に対応した加熱量調整といった不利益が生じるが、その反面、メンテナンスの容易化及び支持桿(本件明細書1の実施例に記載されているように、蛸を支持する支持桿が連結棒から垂れ下がる構成の場合、コンベアの復路も蒸し釜内に設けると、垂れ下がった支持桿の先端が蒸し釜底面に当たったまま引きずられて削れてくる。)の削れ防止の効果が生じる。復路を蒸し釜内にすると、蒸し釜内にコンベアのレール(ガイド)をすべて設置しなければならず、作業の困難性が伴う、蒸し釜が必要以上に大型化し、製作コストの上昇を招き、また、蒸し釜内の所定温度を維持するために多量の蒸気を送り込む必要がある、といった問題も生じる。
このように、イ号物件は、構成要件Aと文言上異なるし、その結果作用効果も異なっているから、本件考案1の構成要件Aを充足しない。
2 争点(1)イ(構成要件B充足性)について 【原告の主張】 (1) 構成要件Bは「上記コンベアの途中に煮沸槽を設け」である。イ号物件は、コンベアの途中に煮沸槽に相当するボイル槽10が設けられている。
(2) 被告らは、煮沸槽の位置はコンベアの往路の開始先端部分を含まないと限定解釈し、イ号物件の煮沸槽であるボイル槽10は往路の開始先端部分に設けられているから、構成要件Bを充足しないと主張する。
しかし、「コンベアの途中に煮沸槽を設け」とは、コンベアの往路のいずれかの位置に煮沸槽を設ける意味であって、コンベアの往路の開始先端部分を含む。被告らの主張は本件明細書1記載の実施例をもって実用新案登録請求の範囲を限定しようとするものであるが、本件実用新案権1の権利範囲はあくまで実用新案登録請求の範囲で判断すべきである。
また、イ号物件は、ボイル槽10をコンベアの往路の開始先端部分に設けているわけではない。被告らはイ号物件における往路の開始先端部分をイ号物件目録におけるトンネル水平部入口2であると主張するが、同目録の食品入口6からトンネル水平部入口2までの間のトンネル傾斜部5にも蒸気が充満していることからすれば、コンベアの往路の開始先端部分は食品入口6と解すべきである。したがって、仮に被告らの主張するとおり構成要件Bの煮沸槽の位置がコンベアの往路の開始先端部分を含まないと解されるとしても、イ号物件は、「コンベアの途中に煮沸槽を設け」ていることになるので、構成要件Bを充足するというべきである。
さらに、被告らはコンベア往路の開始先端部分に限定される理由として、
蛸等の食品を蒸し及び煮沸の両工程併用で加工する場合、煮沸工程を厳密に先行させることにより、食品の自然色が保持されることを挙げる。しかし、そのように厳密に区分させる必要はないし、薬液を使用すれば、色の仕上がり効果に差を生じさせることができる。したがって、被告らの限定理由が失当である以上、そのような限定を根拠とする充足性否定の主張も失当である。
【被告らの主張】 (1) 構成要件Bの「上記コンベアの途中に煮沸槽を設け」とは、「コンベアの往路の途中に煮沸槽を設け」の意味であり、この「途中」には往路の始まり部分を含まないと解される。その理由は次のとおりである。
構成要件Aの記載によればコンベアはエンドレスであるから、どこに煮沸槽を設けても「途中」となるが、構成要件Dが「前記往路が煮沸槽内液中を通過する」であることからすると、煮沸槽はコンベアの往路の途中に設けられるべきであると解される。本件明細書1には、煮沸槽がコンベアの「搬送往路の最終付近」に設けられると明記され(【0009】)、また、「トンネル式蒸し釜内で蒸された食品はその搬送往路途中で煮沸槽に通されて煮沸され」と記載されていることから(【0027】)、食品は最初に蒸されてその後に往路の途中で煮沸されるものと解される。蛸の処理については、最初に蒸した後にこれを煮沸させることにより色つやを鮮やかにさせる方法が従来から周知であるところ、本件考案1についてもこのような従来の方法を採ることが明記されており(【0005】)、本件考案1には、色つやを鮮やかにするために蒸し工程の後に食品を煮沸処理する旨明記されている(本件明細書1の【従来の技術】、【考案が解決しようとする課題】、【作用】及び【効果】の項記載のとおり。)。
よって、「上記コンベアの途中に煮沸槽を設け」とは、「コンベアの往路において、その始まりの部分を含まない途中に煮沸槽を設け」の意義であると解釈される。
(2) イ号物件は、ボイル槽10を往路の開始先端部分に設けているから、「前記蒸し釜内における前記コンベアの往路の始めに煮沸槽を設け」る構成であって、
「コンベアの往路において、その始まりの部分を含まない途中に煮沸槽を設け」る構成ではない。
原告は、イ号物件のトンネル傾斜部5においても蒸し処理がなされ得るから、ボイル槽10が往路の開始先端部分にあるとはいえないと主張するが、実験結果によると、イ号物件のトンネル傾斜部5では温度が低いため蒸し処理ができない。
また、被告らは、イ号物件で、解凍後塩もみすることは考えているが、色つやを鮮やかにすることまでは考えておらず、色つやを鮮やかにする処理は別の装置を使用して煮沸処理やアルカリ性薬液処理等によって行っている。原告は、別の装置を使用するとの被告らの処理方法が不自然であると主張するが、作業の単純化によって間違いの発生を抑制できるし、蒸し・煮沸のいずれの冷却処理も共通の冷却槽を使用できるという効率性がある。
なお、ボイル後の蒸し処理は大きな意味をもたないが、釜内のすべてをボイル処理工程とすることは、水と塩の使用料が増大して不経済である。一方、ボイル後に蒸し処理をしても蛸の色はほとんど変化せず、茹で蛸としての商品価値を失わない。そこで、被告らにおいては、ボイル後の蒸し処理はそのまま実施している(蒸し処理のみのときは、所定の蒸し釜の長さが必要となる。)。
3 争点(1)ウ(構成要件C充足性)について 【原告の主張】 (1) 構成要件Cは「この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え」であるが、イ号物件は、煮沸槽上部に開閉可能な扉と給水口を有し、そこから水道水や食塩水を注入できる構成になっており、また、当該液体を加熱する加熱器を備えている。したがって、イ号物件は構成要件Cを充足する。
(2) 被告らは、ここにいう「処理液」がアルカリ性薬液に限るものであり、イ号物件ではアルカリ性薬液を使用しないから「処理液の供給部」がない、と主張する。
しかし、本件考案1は、蒸機という機械の形状に関するものであるから、
使用する液体によって権利範囲が狭められる理由はない。水道水や食塩水を注入できるのであれば、「処理液の供給部」を有しているというべきである。また、薬液で蛸の色が鮮やかになることは被告らも熟知しているところであり、水道水又は食塩水を注入するがアルカリ性薬液は注入しないとの被告らの主張は信じ難い。
【被告らの主張】 構成要件Cの「処理液」は、「蛸を蒸しただけのものよりも色つや鮮やか」にする効果を奏するものでなければならないから、アルカリ性薬液か、少なくとも当業者にとって上記色付け効果を奏する機能があることが認識されていた液(以下「アルカリ性薬液等」という。)に限られる。
イ号物件は、水道水や食塩水しか使用しておらず、水道水や食塩水では「蛸を蒸しただけのものよりも色つや鮮やか」にする効果は生じないから、イ号物件は「処理液の供給部」がない構成というべきであり、構成要件Cを充足しない。
原告は、水道水等の供給部等からアルカリ性薬液等の注入が可能であると主張するが、作業途中に薄まったアルカリ性薬液等を追加注入しなければならないところ、実験の結果その作業を行うことが危険であることが判明している。
4 争点(2)(本件考案1の実用新案登録には明白な無効理由があるか)ア(本件考案1の実用新案登録請求の範囲の記載は不明瞭か)について 【被告らの主張】 (1) 煮沸槽の位置が不明である点について 本件考案1は、蛸を色つや鮮やかに処理するものであるところ、本件明細書1の記載は首尾一環して「蒸し工程」の後に「茹で工程」を行うという順序を示している。しかるに、本件考案1の実用新案登録請求の範囲には煮沸槽のコンベアにおける位置の特定がないため、その権利範囲には、上記工程順序のほか、「蒸し工程」「茹で工程」「蒸し工程」の順で行うもの、あるいは「茹で工程」の後に「蒸し工程」を行うものも含まれることになる。したがって、本件考案1に係る実用新案登録出願は、平成5年法律第26号による改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)5条5項1号に規定する要件を満たさないものであって、同法37条1項3号の規定に該当し、その登録は無効である。
(2) 「前記往路」について 本件考案1の実用新案登録請求の範囲中には、「前記往路が煮沸槽内液中を通過するように」との記載があるが、この「前記往路」に対応する先行語が存在しないため、実用新案登録請求の範囲に記載された考案が不明確になっている。
したがって、本件考案1の実用新案登録は、旧実用新案法5条5項1号
2号及び6項に規定する要件を満たしていない実用新案登録出願に対してされたものであり、同法37条1項1号及び3号の規定に該当し、その登録は無効である。
(3) 「処理液」について 煮沸槽内に供給される「処理液」は、蛸の蒸し処理後にこれをを用いて煮沸処理することにより、蒸しただけよりも色つや鮮やかにする機能を備えていなければならない。水や食塩水については、かかる機能は全く認められないが、本件考案1の実用新案登録請求の範囲には水や食塩水も含み得る記載となっているから、
本件考案1に係る実用新案登録出願は「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の目的、
構成及び効果を記載」(旧実用新案法5条4項)したものではなく、また、「実用新案登録を受けようとする考案考案の詳細な説明に記載したものであること」(同法5条5項1号)との要件を満たさない実用新案登録出願について登録されたものである。したがって、その登録は無効である。
【原告の主張】 (1) 煮沸槽の位置について 被告らは、本件考案1においては、コンベアの往路の開始先端部分に煮沸槽を設ける場合、すなわち、色つやの鮮やかなものが得られないような処理順序の場合が除外されていないから、本件考案1は所定の作用効果を生じることがない範囲を含み、かつ、構成と作用効果が一致していないとして、その登録は無効であると主張する。
しかし、仮にコンベアの往路の開始先端部分に煮沸槽を設けた場合でも、
食品は煮沸により着色されるので、所定の効果は得られる。煮沸槽を途中に設けるか終端部分に設けるかで大きな差はない。
また、被告らは作用の説明や実施例に記載されているところからその内容を限定的に解釈するが、作用の説明や実施例において実用新案登録請求の範囲に含まれるものを網羅的に記載することは不可能であり、代表的な例を挙げて説明することは許されなければならない。そして、権利の範囲はこの説明から合理的に推察できる範囲に及ぶものとしなければならない。したがって、被告らの主張するように、煮沸槽が出口付近に設置されることに限定されると解釈するのは不当である。
(2) 「前記往路」について 確かに先行語となる「往路」の記載はないが、これが「上記コンベアの往路」の意味であることは、常識的な読み方をすれば十分理解可能である。
(3) 「処理液」について 文言上、「処理液」が、アルカリ性薬液等に限定されているということはできないし、水道水や食塩水を除外するものと解することもできない。
5 争点(2)イ(本件考案1には進歩性が認められないか)について 【被告らの主張】 本件考案1は、その実用新案登録出願前に日本国内において頒布された次の刊行物に記載された考案に基づいて、当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が極めて容易に考案することができたものである。
(1) 特公昭31-2093号特許公報(乙第9号証の3、以下「乙9-3公報」という。) 乙9-3公報には、大量かつ連続的に穀類等を蒸したり煮たりすることが可能な炊飯機が開示されている。第1図及び発明の詳細なる説明の記載によれば、
この炊飯機は次のような構造である。
炊飯機本体4は、一次蒸室7、煮熱室10、及び二次蒸室15の3室に区分されている。一次蒸室7と二次蒸室15内には、蒸気パイプ8が配置され、これらの室に蒸気を送出する。煮熱室10には、第1図に示すように温水を溜める槽が設けられており、予熱温水入口13から温水が槽内に供給され、この温水は蒸気管12、12’によって80℃から100℃に加熱される。
また、穀類等を搬送するための無端帯コンベヤー2を備えており、この無端帯コンベヤー2の往路が蒸気の炊飯機本体4の前記3室にわたり連通し、その復路は炊飯機本体4の外部に設けられている。また、無端帯コンベヤー2は、スポロケツトホイール17、18、19、20、21、22及び23によって案内され、
一次蒸室7から煮熱室10の槽内を通過するように案内されて、さらに二次蒸室15では、コンベヤー上の穀類等が蒸気によって加熱されるように案内される。
蒸籠のようなものでは蒸気の逸失が莫大であるのに対し、この炊飯機では熱量の損失も極めて僅少であることが記載されている。
さらに、穀物等の処理が蒸しのみで、煮炊の不要な場合には、前記湯煎の水位を低下させるか、これを空にして槽の内部をコンベヤーが通過するようにすることが可能である旨記載されている。
(2) 実公昭64-195号実用新案公報(乙第9号証の4、以下「乙9-4公報」という。) 乙9-4公報には、トンネル式蒸し釜内出入口にわたってエンドレスチェーン往路を水平方向所定間隔にもって走行可能とし、チェーン間に連結棒をチェーン長さ方向所定間隔に取付け、入口にて各連結棒に順々に生蛸を引っ掛けて蒸し釜内を通過させて連続的に蒸す蛸蒸機が記載されている。
(3) 実公昭55-41025号実用新案公報(乙第9号証の5、以下「乙9-5公報」という。) 乙9-5公報には、茹湯を満たした茹槽と、茹槽に連通した蒸室と、該蒸室と茹槽とに茹槽の底部から蒸室内へ上昇して蒸室内を進み、搬出口から外に出て蒸室の下部から茹槽内に戻るベルトコンベアーを張設した茹蒸装置、という構成を備えたはんぺん等の蒸し装置が記載されている。
(4) 実公昭55-42711号実用新案公報(乙第9号証の6、以下「乙9-6公報」という。) 乙9-6公報には、茹湯を満たした茹槽と、茹槽の前部上方にはんぺん等の物品を湯中に落とし込む送込部材を設け、後部の上方に湯面へ浮いた物品を後方へ押送する押送部材を設け、茹槽の後方に前部が茹槽上へ冠する蒸室を設け、該蒸室の内部に湯中から上昇して蒸室内を通過し、出口から外に出て湯中に戻るコンベアを張設したはんぺん等の蒸装置、という構成を備えたはんぺん等の蒸装置が記載されている。
(5) 乙9-3公報を基本とし、乙9-5公報及び乙9-6公報によれば、本件考案1の構成が当業者にとって容易想到であること 乙9-3公報に記載の炊飯機の構成を、本件考案1の構成に対比させて整理すれば、@炊飯機本体4内入口、出口間に無端帯コンベヤー2を走行自在に設け、A上記コンベヤーの途中に煮熱室10の湯槽を設け、Bこの湯槽には予熱温水入口13及び蒸気パイプ12、12’を備え、C前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベヤーを案内するスポロケツトホイール19、20を設けてなる、という構成ということができる。これは、本件考案1の構成要件AないしDとほぼ同様である。
また、「トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け」ることは、乙9-4公報に明らかに記載されている。
さらに、「コンベアの途中に煮沸槽を設け」た蒸装置は、乙9-3公報のほか、乙9-5公報及び乙9-6公報にも記載されている。すなわち、乙9-5公報及び乙9-6公報の茹蒸装置又は蒸装置には茹槽が明示され、この茹槽は蒸し釜(蒸機)と全く一体に形成されており、食品に対する茹で処理と蒸し処理とを連続的に分離することなく行っている。また、この茹槽と蒸し釜内にはこれらを連通するコンベア装置が明示されている。
そして、「前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設けて成る」との点も乙9-5公報及び乙9-6公報の装置と一致する。
乙9-3〜6各公報に見られるような蒸装置は、茹槽が蒸し釜とオーバーラップした、すなわち、茹槽の上方の空間が蒸し釜内部である構造を採用し、実質的に茹槽は蒸し釜(蒸機)内に設けられているものであるが、ここから、本来考案1のように煮沸槽を蒸し釜(蒸機)内部に設けることは、当業者ならば極めて容易に想到することができる事項である。
(6) 乙9-3公報において、本件考案1の作用効果が提示されていること 本件考案1では、「つや出し処理は煮沸槽の使用をするかどうかによって選択的に行うことができ」、かつ「煮沸槽を蒸し釜内に設けることによって装置全体をコンパクトに構成でき、かつ、煮沸槽内の加熱器への蒸気消費量も煮沸槽を外部に設けた場合に比べると少なくできるから、装置として経済的でランニングコストを最小限に抑えることができる」との作用効果が記載されている。
乙9-3公報では、「蒸籠のようなものでは蒸気の逸失が莫大であるのに対し、そのようなことがなく、熱量の損失も極めて僅少」であるとされている。また、「穀物等の処理が蒸しのみで、煮炊の不要な場合には、前記湯煎の水位を低下させるか、これを空にして槽の内部をコンベヤーが通過するようにすることが可能である」との趣旨の記載がある。
このように、本件考案1の蒸気消費量の低減、煮沸槽の使用の選択といった作用効果は、乙9-3公報に記載されていると認められる。
なお、例えば蛸については、蒸し工程の後にアルカリ性薬液等を使用して茹で工程を施し、色つやを鮮やかにすることは、本件考案1の実用新案登録出願以前から当該技術分野において周知慣用の技術である。したがって、蛸等を蒸し処理した後、アルカリ性薬液等を使用して煮沸処理し、色づけしておくこと自体には新規性はないことを念のため述べておく。本件考案1は、かかる処理を一つの装置で効率的に実施可能とした点に特徴があり、蛸等の色つやを鮮やかにすることは、本件考案1による特有の効果ではない。このような事情に照らせば、本件考案1の「処理液の供給部」なる構成を乙9-3公報における「予熱温水入口13」とすることは、当業者であれば自由に選択し得る単なる設計事項にすぎない。
【原告の主張】 (1) 乙9-3公報に示されている機械は、米等の穀類又は粒状澱粉質物を大量に炊飯するための機械である。一つのトンネル式釜の中にエンドレスコンベアーを通し、これにより原材料を移動させる間に蒸し及び炊きの両工程の加工をするという点で確かに本件考案1と類似するところはある。
しかし、大きく異なるところは、乙9-3公報の機械は炊飯機であり、本来の用法に従うときは煮炊することが中心であり、蒸し工程は煮炊の効果を補強するために必ずその前工程及び後工程で行われなければならないという点である。本件考案1は、蛸を主とする食品の蒸機である。蒸し加工をすることが中心であって、途中に設けた煮沸槽は、蒸しの効果を補強し、色つやを出すための付随的な装置である。
この両機械の目的の差は、対象とする食材が異なることともあいまって、
機械の外形、煮沸槽の位置、大きさ、満たすべき液の種類、温度、煮沸槽の設置された部分を仕切板で仕切って蒸気の温度管理を徹底しているかどうか等の諸点に発現している。
(2) 乙9-4公報は、原告代表者が考案したものであるが、その考案の中心は、エンドレスチェーンに取り付けた連結棒と食材支持杆との関係にある。一方、
本件考案1の特徴は、蒸し釜内部に煮沸槽を設けたことにある。双方の考案は、主眼が異なっている。
(3) 乙9-5公報は、はんぺん等の魚肉成形品を軽く茹でた後に蒸し上げる機械に関するものである。先ず材料を軽く茹でることにより表面からうまみや栄養素が逃げることを防ぐ目的で、蒸しの前に茹でる工程を加えたものである。煮沸の目的が異なるため、煮沸槽の位置は必ず蒸し工程の前でなければらなず、比較的低い温度で短時間になされなければならない。本件考案1とは似て非なるものである。
(4) 乙9-6公報も同じくはんぺん等の魚肉成形品を軽く茹でた後に蒸し上げる機械である。乙9-5公報と異なる点は、茹槽内に水流を作り、茹で工程を合理化していることである。本件考案1との差は乙9-5公報の場合と同じである。
(5) 上記各公報記載の発明・考案は、いずれも本件考案1とは異なる課題を解決しようとするものであり、蒸機や煮沸機を使う点で類似するところがあるが、課題が異なるため、解決法にも大きな差異がある。これらから本件考案1を容易に考案することができるなどとは到底いえるものではない。
6 争点(3)(訂正後の本件考案1について)ア(構成要件D’充足性)について 【原告の主張】 構成要件D’は「前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設け、前記トンネル式蒸し釜内の出口付近に前記煮沸槽の出口を設けて成る」である。
イ号物件には、煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドが設けられており、また、トンネル式蒸し釜内の出口付近には煮沸槽が設けられているといえるから、構成要件D’を充足する。
被告らは、イ号物件の煮沸槽が出口付近にはないと主張するが、被告らは、
煮沸後の蒸し工程が意味を持たないことを自認しているのであるから(前記2【被告らの主張】(2)参照)、イ号物件の煮沸槽の位置を出口付近と評価できるといえる。
【被告らの主張】 イ号物件は「前記トンネル式蒸し釜内の入口付近に前記煮沸槽を設けて成る」構成、すなわち、煮沸槽を蒸し釜内の入口付近に設ける構成であるから、構成要件D’を充足しない。
7 争点(3)イ(訂正後の本件考案1の実用新案登録に無効理由があるか)について 【被告らの主張】 訂正後の本件考案1の構成は、構成要件D’のうちの訂正で追加された「前記トンネル式蒸し釜内の出口付近に前記煮沸槽の出口を設けて成る」の部分を除き、乙9-3〜6公報に示されている。また、蛸の色づけに関する先行技術を示す乙第18号証の1、2、第19ないし第22号証によれば、蛸を水で茹でるか、あるいは蒸すことで、赤くなるか又は色が鮮やかになること、蛸はアルカリ性薬液で茹でれば染色されて赤くなることなどが、本件考案1の出願前に公知であった。蛸について、蒸し処理後に更に煮沸処理を実施する際に、例えばアルカリ性薬液の使用によって、より色つやが鮮やかになることは、上記先行技術に基づいて、当業者が極めて容易に認識することが可能な事項である。上記事実からすれば、蒸し釜内におけるコンベアの往路のどのような位置に煮沸槽を設けるかは、公知の蛸の色づけ処理を実施する上で、当業者が必要に応じて自由に決定することができる単なる設計的事項の範囲に属する。
したがって、訂正後の本件考案1についても、進歩性欠如の無効理由がある。
【原告の主張】 本件考案1の訂正により、乙9-3〜6各公報記載の技術との差異も明確となった。すなわち、乙9-3公報との関係では、炊飯機であって蒸機ではない、煮熱室10の出口は機器全体の出口付近になく、煮熱の後2次蒸室15で十分蒸し上げる構造となっている、という相違点がある。乙9-4公報は、蛸蒸機に関するものであるが、煮沸槽がないので本件考案1とは根本的に異なっている。乙9-5公報及び乙9-6公報は、はんぺん等の魚肉成形品の茹蒸装置であり、蛸蒸機ではないし、蒸し工程の前に軽く茹でるための茹槽を設けているが、その出口は機器全体の出口付近にはない、という点で異なっている。
なお、被告らは、蛸の色づけに関する文献を提出して訂正後の本件考案1の進歩性を否定するが、被告らが提出する文献はいずれも発色に関する記載がなされているにすぎず、その味や食感については考慮していない上に、そもそも本件考案1はこれらを総合的に解決し、しかも工程の簡素化、コストダウンを図るものであるところ、被告らが提出する文献においてはその点の示唆はない。
8 争点(4)(ロ号物件は本件考案2の技術的範囲に属するか)ア(構成要件A充足性)について 【原告の主張】 (1) 構成要件Aは「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り」である。ロ号物件の構成は、これを満たしており、構成要件Aを充足している。
(2) 被告らは、ロ号物件のドラムは変則多角柱であって、円筒ドラムではないと主張する。しかし、ロ号物件のドラムは円柱を基本として、魚貝類出入口付近のみ変形しているものであって、円筒形状というべきである。
(3) 仮にロ号物件が変則多角柱であって円筒ドラムではないとしても、最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁が示す均等成立のための5要件に照らして、均等であるということができるから、ロ号物件は構成要件Aを充足するというべきである。
【被告らの主張】 構成要件Aは「ドラム形状は円筒ドラム」であるのに対し、ロ号物件は「ドラム形状は変則多角柱形」である。
後記9【被告らの主張】(1)アで詳述するとおり、本件考案2は、吊金具が支持ローラを乗り越える構成を採っており、その乗り越えるときの振動により解凍作用を補助していると考えられるところ、乗り越える際の抵抗は回転運動のエネルギーを消失させるから、その余の構成においてはなるべく回転運動エネルギーを損失させない構成とすべきである。そのため、本件考案2における「円筒ドラム」とは、水の抵抗の少ないもの、すなわち基本的に純粋な円筒ドラム形状で、外周の360度全周にわたり凹凸が最小限で表面平滑なものを意味すると解釈される。
したがって、ロ号物件は、構成要件Aを充足しない。
9 争点(4)イ(構成要件B充足性)について 【原告の主張】 構成要件Bは、「円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え」である。ロ号物件はこのいずれをも備えており、構成要件Bを充足するといえる。
【被告らの主張】 (1) 構成要件Bについて ア 本件明細書2の考案の詳細な説明及び図面を参照するならば、構成要件Bにいう「吊金具」は、「円筒ドラム両端にリング状の支持ローラ受け(円筒ドラムのうち支持ローラと当接する部分を以後このように称する。)を設け、この支持ローラ受けの円筒ドラムの軸方向内側にフランジが隣接し、吊金具は、フランジ外側の支持ローラ受け上に設けた」ものと解釈される。
吊金具のこのような構成からすれば、吊金具は支持ローラを「ゴトン、
ゴトン」と乗り越えるものと解釈される。この乗り越えるときの振動により解凍作用が補助されているものと考えられるが、乗り越える際の抵抗が回転運動のエネルギーの損失となるので、駆動部が他の余分な抵抗を負担することは困難である。
イ そのため、「円筒ドラム」の「小孔」の密度も、水の抵抗を増大させないために、本件明細書2の図1及び3に示すように孔をまばらに設けているものと考えられる。
(2) ロ号物件 ア ロ号物件においては、吊金具は1つだけであり、その位置はフランジ外側のリング状支持ローラ受け上ではなく、円筒ドラム軸方向中心部である。このため、容器が1回転しても、本件考案2のように支持ローラ受け上に突出した吊金具が支持ローラを「ゴトン、ゴトン」と乗り越えることはない。
吊金具が1つだけで、その位置も本件考案2のようにフランジ外側のリング状支持ローラ受け上ではなく、円筒ドラム軸方向中心部となっているが、これは、魚貝類の出入れ用の蓋板5を本件考案2のような天頂部ではなく、斜め上部に設けた工夫により初めて可能となったもので、これにより、出入れ作業も容易となっている。
イ ロ号物件においては、吊金具による回転運動エネルギーの損失もないので、駆動部が他の抵抗を負担することも容易である。そのため、ロ号物件においては、一面に孔の形成されたパンチングメタルネット2と、孔のない平板3と、処理液を攪拌するためのフィン4とにより、あえて水の抵抗の大きい変則多角柱形を構成し、処理液漕中の処理液を回転により積極的に攪拌するとともに、処理液を容器内外に通流させる構成としている。
(3) したがって、ロ号物件は構成要件Bを充足しない。
10 争点(5)(本件考案2の実用新案登録には明白な無効理由があるか)ア(本件考案2は実施不能か)について 【被告らの主張】 (1) 記載不明瞭 本件考案2の構成要件において、「円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え」と記載されているが、蓋板と吊金具等の相互の位置関係を全く示していない。これらを設ける位置はどこでもよいものではなく、これら相互の位置関係、円筒ドラムや支持ローラとの位置関係等を考慮して、適切に所定の作用効果を生じるように実施可能である位置を決定すべきものである。本件考案2においては、「吊り上げ用の吊金具」が必須であり、吊金具と支持ローラの位置関係が本件考案2の本質的な特徴に関わる重要な要素である。
したがって、本件考案2にかかる実用新案登録請求の範囲の記載では、構成が不明瞭であるといわざるを得ない。
(2) 実施不能 上記の吊金具の取付位置について、実用新案登録請求の範囲には特定がない一方、本件明細書2の添付図面の図1及び図3では、共にフランジ外側の両端寄りに明記され、考案の詳細な説明でもドラム本体3の「両端」とのみ記載されている(【0013】)。これらの示す位置は、首尾一貫して、円筒ドラムのうちリング状の支持ローラ受け上であるから、本件考案2を代表する典型的な実施例は、吊金具が支持ローラを「ゴトン、ゴトン」と乗り越えるものと客観的に理解される。
被告らが実際上記のとおりの位置に吊金具を取り付けて、実験を行ったところ、容器内が空で負荷がない状態においても、吊金具が支持ローラにぶつかって円筒ドラムは回転を続けることができず、本件明細書2どおりの取付位置では実施不能であることが確認された。この結果、本件考案2の実用新案登録請求の範囲は実施不能な部分を含むことが明らかとなった。しかも、本件考案2の出願書類では、明細書実施例及び複数の図面で唯一示しているのが、そのような実施不能な構成である。
したがって、本件考案2に係る装置は、自然法則に反しかつ未完成であるから、実用新案法3条1項柱書にいう「考案」であるということができないし、本件明細書2には「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の目的、構成及び効果」が記載されているともいえないから、旧実用新案法5条4項にも反するものであり、同法37条3項の規定によりその登録は無効である。
(3) したがって、本件考案2の実用新案権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
【原告の主張】 (1) 記載不明瞭について 被告らは、本件考案2について、蓋板と吊金具等の相互位置関係を全く示しておらず、構成が不明瞭であると主張している。
しかし、本件考案2においては、蓋板は単に食材をドラムに出入れするためのものであり、吊金具はドラムを支持して処理液槽内に出入れするためのもので付随的なものであるから、その目的を達しさえすればこれを機械のどの位置に何個設けても支障はない。被告らが解釈する「フランジ外側の支持ローラ受け上」に設けることは最悪であって、ドラムの回転に伴い、吊金具が支持ローラにぶつかり、
ドラムが「ゴトン、ゴトン」とローラを乗り越えることになる。それでも食品を処理することは可能であるが、原告は支持ローラより内側に吊金具を取り付けることにしているし、これが常識的な設計である。
蓋板7は、円筒ドラムの頂部(吊金具の並び)に設けるのが常識的かと考えるが、別にこれに限定する必要はない。
(2) 実施不能について 本件考案2の実用新案登録請求の範囲のうち、吊金具に関する部分は、
「円筒ドラムはその外面に・・・吊上げ用の吊金具とを備え」とある部分である。
この文言及び考案全体の趣旨から、常識に従って吊金具の位置を決めればよいのであって、それは十分可能である。
被告らは、ことさら吊金具の位置を円筒ドラムが回転すると支持ローラーにぶつかる位置に取り、これがぶつかるから実施不能だとか、吊金具が支持ローラーを「ゴトン、ゴトン」と乗り越えるものと解釈されるとか主張しているが、これは常識はずれの議論である。本件考案2にとって吊金具が重要な要素であることは被告ら主張のとおりであるが、それは、吊金具の存在が重要なのであって、吊金具の位置が重要であるということではない。吊金具の位置は、食品の入ったドラムを均衡、堅牢に支持し、ドラムの回転等他の作業に邪魔にならない位置であれば、どこでもよいのである。これは、この種の機械を製造する者にとっては説明されるまでもない常識である。
本件明細書2の考案の詳細な説明の中にも、吊金具の位置についての詳しい記述はなく、図1に例示された設計でも、吊上金具9は支持ローラ12に衝突しない位置に取り付けられている。
11 争点(5)イ(本件考案2には進歩性が認められないか)について 【被告らの主張】 本件考案2は、以下のとおり、その実用新案登録出願前に日本国内又は外国で頒布された刊行物に記載された考案・発明等に基づいて、当該考案の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が極めて容易に考案することができたものであって、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(1) 米国特許第4324020号明細書(乙第3号証の1、以下「乙3-1公報」という。) ア 乙3-1公報には、両端に閉じた中空の円筒ドラム4からなる貝処理装置(紫貽貝洗浄機)2が記載されている。円筒ドラム4は、内部に通じる多数の小孔14を外面10に備え、さらに貝を出入れするための蓋板18とドラム4を回転駆動する駆動部(クランク8)とを有する。
また、上記公報には、別の実施例として、両端を閉じた中空のドラム31と、このドラム31を受け入れる処理液槽(水槽34)とを組み合わせた貝処理装置が記載されている。中空ドラム31は、内部に通じる多数の小孔33を外面に備えるとともに、該ドラム31を回転駆動する駆動部(クランク8)を有し、水槽34内で回転自在に支持されている。
さらに、ドラム4、31を回転させるためにモータを設けることが可能である旨の記載がある。
前記ドラム4、31の取扱操作として、洗浄処理すべき貝を入れたドラムを水の中に入れること、並びに水から取り出すことが記載されている。
イ これを本件考案2と比較すると次のようにいうことができる。
本件考案2と乙3-1公報に記載された考案を対比すると、両者は共に、@両端を閉じた中空の円筒ドラムと、このドラムを受け入れる処理液槽とを組み合わせてなる魚貝類処理装置である、A円筒ドラムがその外面に、内部に通じる多数の小孔を備えている、B円筒ドラムが魚貝類の出入れ用の蓋板を備えている、
Cドラムを回転駆動する駆動部を備えている、という構成において一致する。なお、上記駆動部について、本件考案2は実施例においてモータを使用しているのに対し、乙3-1公報に記載の考案は、手動で操作するクランク8を設けている。しかしながら、同公報には、前述のようにドラムを回転させるためモータを設けることが可能である旨の記載があり、両考案はこの点においても一致するものである。
他方、両考案の相違点は、<ア>処理液槽が、槽本体内でドラムを回転自在に支持する支持ローラを備えること、<イ>駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結してなること、<ウ>円筒ドラムが吊上げ用の吊金具を備えること、の点において異なる。
しかし、<ア>については、円筒状のドラムを回転自在に支持する場合に、ドラムの回転中心に支持軸を設けてこれを軸受(ベアリング)を介して支持するか、ドラムの外周面にローラを当接させてこれによりドラムを支持するかは、極めて日常的に行われる周知慣用の技術であって、後記乙第3号証の2、3にも、円筒ドラムを支持ローラによって支持することが記載されているところ、かかる上記慣用技術のうちからローラによる支持方法を選択することは、当該技術分野に属する者にとって何ら考案力を必要としない。
また、<イ>については、複数の処理液槽に対してドラムを移動させていくためには、駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在に構成することは当然のことであり、かかる連結部は、当業者が極めて容易に採用し得る必然的な構成である。後記乙第3号証の3の考案においても、連結部23を設けることによって駆動装置21の回転軸22をドラム6に対し着脱自在としている。このように回転ドラムを移動させようとした場合には、駆動部側と被駆動部側との間に着脱自在の連結部を設けることは、極めて普通に行われる設計事項にすぎない。
なお、「複数の処理液槽に対して魚貝類を入れた容器を移動させていく」こと自体は、後記乙第3号証の4の装置として本件考案2の実用新案登録出願前から実施され知られていたことであり、したがって、処理液の侵入及び排出が可能な多数の小孔を有する容器に魚貝類を入れ、この容器から魚貝類を出すことなく、容器ごと処理液槽間を移動させること自体に新規性はない。また、乙3-1公報にも、回転ドラムを水面に置くこと、並びに所定の処理が終了したときに回転ドラムを取り出すことが記載されており、本件考案2のように処理すべき魚貝類を入れた回転ドラムを処理液槽に対して出入れすることは、本件考案2の実用新案登録出願前から公知の、あるいは採用するのに全く困難性を有しない技術事項である。
<ウ>の点についてみると、クレーン等で物を吊り上げる場合にフックやワイヤを掛けるため、対象物に吊上げ用の吊上金具を単に設けることは、ごく当然に行われる慣用の手法にすぎない。後記乙第3号証の4の装置(籠)も吊上げ用の吊金具を備えており、この金具にフック(ワイヤ)を掛けて籠を吊り上げ、処理液槽間を移動させている。
さらに、本件考案2がその効果としている「ドラム内に封入した魚貝類を取り出すことなく解凍、塩もみ、薬品処理などの作業を効率的に行うことが出来る」ことについても、上記先行技術から予測できる以上の格別な効果も存在しない。
したがって、本件考案2は、先行技術に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものである。
(2) 特開昭61-265043号公開特許公報(乙第3号証の2、以下「乙3-2公報」という。) 乙3-2公報には、全周面に多数の孔2、2’を備えた円筒ドラム(円筒状の回転ドラム1)と、このドラムを受け入れる処理液槽(水槽型の洗浄タンク7)とを組み合わせた魚介類洗浄装置が記載されている。円筒ドラム1は、支持ローラ(車輪式の軸受15、15’、15”・・・)によって回転自在に支持されており、駆動部(モータ20)により回転駆動されることとなっている。
(3) 実開平1-105483号公開実用新案公報(乙第3号証の3、以下「乙3-3公報」という。) 乙3-3公報には、円筒ドラム6(円筒形の洗浄槽)を備えた洗浄装置が記載されている。円筒ドラム6は、支持ローラ5によって回転可能に台車1の上に支持され、回転駆動装置21により回転駆動される。この駆動装置21の回転軸22は、連結部(カップリング等からなる軸継手23)によって、ドラム6に対して着脱自在とされている。
(4) 乙第3号証の4に写っている魚貝類解凍洗機 乙第3号証の4は、茨城県ひたちなか市所在の被告川万本社工場内で撮影した写真であり、本件考案2の実用新案登録出願前から被告川万が使用していた魚貝類解凍洗機を示す写真である。
この魚貝類解凍洗機は、それぞれ多数の小孔を備えた籠と、複数の処理液槽とを組み合わせてなり、吊上げ用の吊金具を備えている。その使用に当たっては、籠の中に処理すべき魚貝類を入れ、吊金具にワイヤを掛けて籠を吊り上げて、
処理液槽に入れて処理を行う。処理液槽は底面から解凍用の水が噴出して槽内を満たすようになされており、小孔を通じて籠内に浸入した水によって冷凍蛸は解凍される。解凍が終わると籠は処理液槽から引き上げられるが、このとき籠内に浸入していた水は、籠の小孔から排出されて水切りされる。そして、次の処理液槽へ籠を移動させて、処理工程に応じた処理が順次行われていく。
なお、乙第6号証も、上記魚貝類解凍洗機を撮影した写真である。
(5) 実開昭54-143476号公開実用新案公報(乙第13号証の1)、特開昭54-129557号公開特許公報(同号証の2)、実開昭61-31081号公開実用新案公報(同号証の3)及び実開昭61-173277号公開実用新案公報(同号証の4) 乙第13号証の1ないし4の各公報には、魚貝類を入れた籠をホイストで吊して処理液槽に移動し、処理液槽内に籠ごと沈めて魚貝類の解凍処理を行った後、再び籠を吊り上げて処理液槽から取り出すことが記載されており、これら各公報記載の装置において、処理すべき対象物が複数の処理工程を必要とするものであるならば、魚貝類を籠に入れたまま他の処理液槽に移すことは極めて通常に行うことができる技術事項である。例えば、乙第13号証の3では、解凍終了後に解凍容器30を解凍槽2から吊り上げて水を切り、作業台50に移動しているが、蛸を解凍する場合のように更に薬液処理等が必要であれば、作業台50に移動する前に薬液を満たした別の槽にそのまま解凍容器30を移動して当該薬液槽に解凍容器30を沈めることは当業者であれば当然に行うことができる技術事項である。
(6) 上記乙3-1〜3各公報、乙第3号証の4及び乙第6号証の写真の装置、
乙第13号証の1ないし4の各公報は、いずれも本件考案2と技術分野並びに基本的な構成及び作用が共通する。すなわち、これらはいずれも魚貝類の処理装置である点で技術分野を共にし、また、多数の小孔を持ち、自由に水(処理液)が通流できる容器に処理すべき魚貝類を入れ、この容器を処理液槽に沈めて魚貝類の処理を行うという共通する基本構成を有し作用を奏するものである。なお、乙3-3公報の考案は、魚貝類を処理するものではないが、ローラで支持した円筒形のドラムをモータで回転させて収容物を効率良く処理(洗浄)するという基本構成及び作用効果の点で本件考案2と共通するものである。
したがって、乙3-1公報(又は乙3-2公報)記載の発明・考案に乙3-3公報及び乙第13号証の1ないし4の各公報記載の考案を適用することに何ら困難性は存在せず、これを組み合わせて本件考案2を構成することは、当業者であれば極めて容易になし得ることである。
(7) 原告は、乙3-1〜3各公報はいずれ魚貝類の洗浄という一つの工程に関するものであって、解凍、塩もみ、薬液処理等の諸工程を流れ作業で行うという目的に適わない旨、及び乙第3号証の4の機械は、食品を入れた籠を回転させることができないから作業性に劣り、特に塩もみができないと主張する。
しかし、乙3-1〜3各公報には、多数の小孔を備えたドラムに魚貝類を入れ、このドラムを処理液槽に収容し回転させることによって魚貝類を処理することが記載されている。また、乙第3号証の4、乙第6号証の写真の機械には、籠の中にを入れ、これを複数の処理液槽間で順次移動させて流れ作業で処理を行っていくことが示されている。
したがって、乙3-1公報の考案に乙3-3公報及び乙第13号証の1ないし4の各公報に記載の考案を適用すれば、本件考案2は極めて容易に構成し得る。
なお、本件明細書2では、実用新案登録請求の範囲に「円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り」とだけ記載され、処理液槽を複数設けることは本件考案2の必須の構成要件とされていない。したがって、解凍、塩もみ、薬液処理等の諸工程を流れ作業で行うという目的に適わない点を指摘し、当業者であれば極めて容易になし得るとはいえないという原告の主張は失当である。
【原告の主張】 (1) 乙3-1〜3各公報に記載の手法は、いずれも魚貝類の洗浄という一つの工程に関するものであり、本件考案2において解決しようとした解凍、塩もみ、薬液処理等の諸工程を流れ作業で行うという目的には沿わないものである。
(2) 乙第3号証の4の機械では、食品を入れた籠を回転させることができないので、作業効率が劣り、特に塩もみをすることは無理である。
また、本件実用新案権2を使用した原告の機械は、乙第3号証の4及び乙第6号証に撮影されている被告川万の従来使用している機械とは、@魚貝類を収納する容器が円筒型であること、A容器が開閉できること、B容器を水槽にセットして回転させられること、の点で差異がある。この差異によって、解凍、洗浄は作業効率が増し、被告川万の従来装置ではできない塩もみも行い得るのである。
解凍、洗浄については、被告川万の従来装置では収納籠を揺らすか、ジェット噴射を食材に当てるかして行われていると思われるが、この方法では、籠の中の位置によって効果にむらがあり、また、食材が痛む場合がある。本件考案2ではドラムを水中で回転するので、効果にむらがなく、食材も痛むことがない。
塩もみ工程は、蛸を加工する上では極めて重要な工程であり、蛸と塩と水とを一つの容器に入れ、その容器を約1ないし3時間ゆっくり回転させることにより行う。この工程により蛸はぬるぬるしたぬめりがとれ、形がしゃきっと整い、塩味がつく。被告川万の従来装置では、これができず、別の装置に移し替えて行わなければならないが、本件考案2では、食材をドラムから取り出さずにできる。
(3) 乙第13号証の1ないし4の各公報は、いずれも被告らが従来使用していた解凍装置に関するもののようである。これらの装置は、いずれも処理液内でパレットや籠が回転することにより解凍等の諸処理がなされる構成ではなく、したがって、パレットや籠と駆動部との連結の問題も生じない。被告らはこの装置を昭和59年から使用しており、この装置からロ号物件を考案することは当業者であれば極めて容易なことであると主張しているが、仮にそのとおりであるならば、被告らが昭和60年代にロ号物件を製造せず、平成5年に原告が納入した機械をまねて平成11年ころにロ号物件を製造したのは、不可解というべきである。
(4) 被告らは、魚貝類を円筒ドラムに入れて処理槽内で回転させる装置は乙3-1、2各公報で公知であり、魚貝類を収納した容器をチェーンで吊り上げて水槽に出入れする装置は、乙第13号証の1ないし4の各公報で公知であるので、本件考案2は、この両者を単純に組み合わせたものであるから、進歩性がないと主張している。
しかし、この両者を組み合わせて魚貝類の解凍、洗浄、塩もみを一貫して行えるよう工程化したことは、それまで誰も考えていなかったことで、新規の考案であり、進歩性がある。
12 争点(6)(訂正後の本件考案2について)ア(構成要件D’充足性)について 【原告の主張】 (1) 訂正後の本件考案2は、構成要件D’の部分において訂正前と異なっているところ、構成要件D’は、「駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成り、この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成る」というものである。この訂正は、本件考案2においてはドラムと水槽壁との間隔が狭いので、その限られたスペースの中で容易迅速にドラムと駆動部の回転軸とを着脱することが重要であることから、その連結方法の点を実用新案登録請求の範囲に明確に記載したものである。
(2)ア ロ号物件のドラム側板の金具は、上部から途中まで平行で、その後下部まで末広がりとなる形状であり、下部だけ見るとハの字状である。ハの字部分の役割は、訂正後の本件考案2と同じく接合を容易にするためである。平行部分は駆動力を受ける部分であるが、これは平行線であろうと、末広がりであろうと特に意味はない。本件考案2の受金具も、本件明細書2添付の図2によれば、厳密な意味でのハの字ではなく、縦に長い変形のハの字になっている。したがって、ロ号物件のドラム側板の金具と本件考案2の受金具との上記の若干の形状の相違は、同一性の範囲内と見るべきである。
イ 本件考案2では、ドラムを駆動部側の平板部材に接合するとドラムの荷重でこれが部材に食い込み、取外しが難しくなるので、これを避けるために下部に支持ローラを設置し、これでドラムを支え、ドラムが平板部材に食い込むのを防いでいる。一方、ロ号物件では、ドラムを連結部に接合するにも、これが垂直に平行部となっているため、ドラムを支持できず下へ落ちてしまうが、これを防ぐため、
下部に支持ローラを設置して、これでドラムを支えている。
以上をみると、本件考案2、被告らの機器ともに支持ローラが果たす役割はドラムを下から支持することであり、平板部材の役割は回転力をドラムに伝えることであり、角柱部材の役割は平板部材と接合してその回転力を上げることであり、その先が開いている部分は接合を容易にすることであり、すべて一致しているということができ、両者に何ら差異はない。
(3) 仮に両者に差異があるとされるとしても、前記最高裁判例の示す均等と評価される場合の5つの要件をすべて満たしているから、本件考案2とロ号物件とは、均等の要件も満たす実質的同一のものである。
【被告らの主張】 (1) 構成要件D’の構成においては、@連結部をドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、回転軸の軸端に設けた平板部材を設けることにより、これら平板部材と受金具によって、ドラム装着時にドラムが位置決めされながら装着される、いわゆる「楔形連結構造」が存在することが必須であり、Aこのように連結部が「楔形」となっているため、「楔形連結構造の楔形の楔が強く食い込むため、取り外しが容易でない」という重大な欠点が生じるので、この欠点を解消するための支持ローラが存在することが必須となっている。すなわち、訂正後の本件考案2は、楔形連結構造と支持ローラとを必須の構成要件としている。
このことは、原告が本件実用新案権2に関する訂正請求において構成要件D’の構成として強調していた主張内容や、訂正を認めた審決の内容からしても明らかである。
(2) これに対してロ号物件の連結部は、一定の間隔を隔てて平行に延びる一対の角柱部材9a、9bを有する軸受9と、側縁が平行な長方形の板部材16とからなるもので、角柱部材9a、9bの平行な部分に長方形の板部材16が挿入されてドラム1とモータの駆動軸とが連結される。
ドラム側の軸受9もモータ側の板部材16も、係合部分が共にストレートであって、支持ローラ15がなければ板部材16が軸受9に食い込んで取外しが困難となるようなことも全くなく、「楔形連結構造」という本件考案2の特徴を備えていない。
ロ号物件における支持ローラの機能は、ドラムの回転を支えるという本来のものにすぎず、本件考案2のような「楔が食い込んで取外しが困難になる」ことを回避するための機能を有するものではない。
なお、角柱部材9a、9bの下端部はハの字状に広がった拡開部を形成しているが、これは乙第23号証の1と同様にドラム1と駆動軸の連結を容易にするガイドにすぎない。
(3) 原告は、ロ号物件が本件考案2と均等である旨主張する。
しかし、本件考案2は「楔形連結構造」と「ローラ」の組合せにより、先行技術に対して進歩性が認められたのである。楔形でない着脱自在な連結構造と、
支持ローラとを組み合わせることは、乙3-3公報にも記載されているように、周知慣用技術にすぎないから、上記「楔形連結構造」は、本件考案2の本質的部分であり、必須の構成要素である。また、その作用効果に顕著な差がある。したがって、本件考案2とロ号物件の構成の対比において、前記最高裁判例の示す均等の第1要件も第2要件も満たされていないから、ロ号物件が本件考案2と均等であるということはできない。
(4) したがって、ロ号物件は、構成要件D’を充足しない。
13 争点(6)イ(訂正後の本件考案2の実用新案登録に無効理由があるか)について 【被告らの主張】 訂正後の本件考案2は、その連結部が、ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する回転軸の軸端に設けた平板部材とからなる。
駆動側と被駆動側とを着脱自在に構成する場合に、かかる構成を採用することは周知慣用の、あるいは当事者が日常的になし得る単なる設計事項にすぎず(乙第23号証の1ないし4参照)、何ら格別顕著なものではない。
よって、訂正後の本件考案2の実用新案登録は無効とされるべきものである。
【原告の主張】 (1) 本件考案2の訂正により、被告らの主張する先行技術(乙3-1〜3各公報、乙第13号証の1ないし4)とは技術範囲を異にすることが明確になった。
(2) 被告らは、訂正後の本件考案2について、乙第23号証の1ないし4を提出して、進歩性を欠くと主張するが、失当である。
本件考案2は、乙3-1公報記載の洗浄機の考案、乙第23号証の1記載の軸継手の考案その他の公知の技術等を冷凍蛸等の冷凍魚貝類の解凍、塩もみ、洗浄、薬液処理工程に応用したものであり、この応用、組合せ進歩性があるのであって、その一つ一つを取り出して公知であるとか平凡な技術であるとか評価することは誤りである。乙23号証の2ないし4記載の考案は、本件考案2とは全く異なる技術である。
14 争点(7)(原告の損害) 【原告の主張】 (1) 通常実施権の適正対価 被告らは、イ号物件及びロ号物件を使用して1日当たり約6トンの魚貝類を加工販売し、約600万円の売上を得ている。1か月の稼働日数は平均23日であるので、月間売上額は、1億3800万円となる。本件実用新案権1及び2の通常実施権の対価は売上の3パーセントが適正額であるので、月額414万円となる。原告は、平成11年11月から平成14年10月まで36か月、この通常実施権の対価合計1億4904万円を得ることができないという損害を被った。
(2) 被告らに生じた利益 被告らは、本件考案2を利用することにより、機械面積の減少、人件費の節約、水及び添加物の節約並びに処理時間の節約ができ、この結果、被告らは月額にして115万1200円、ロ号物件を使用していた33か月分(平成11年11月から平成14年10月)として、3798万9600円の利益を得た。実用新案法29条2項によれば、これも原告の受けた損害とすべきものである。
(3) 販売利益(売値から原価を引いたもの)(予備的主張) また、原告がロ号物件と同種の物件を販売した場合の価格は、付属品も含めて、3148万円となる。原告は、この金額を得られないという損害を被った。
なお、ロ号物件と同種の物件を製造する場合に要する原価は1台当たり127万円、8台セットで1016万円である。
【被告らの主張】 原告の主張は争う。
争点に対する判断
1 争点(1)(イ号物件は本件考案1の技術的範囲に属するか)について (1) 争点(1)ア(構成要件A充足性)について ア 本件考案1の構成要件Aは、「トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け」というものである。
イ そこで、構成要件Aの意義につき本件明細書1の記載を検討する。別紙実用新案公報1(甲第1号証の1)によれば、本件明細書1には次の趣旨の記載があるものと認められる。
(ア) 本件考案1は、蛸、貝その他の海産物や芋類等の農産物等の食品を連続的に蒸して熱処理する食品蒸機である(【0001】)。
従来の技術としては、「海産物、例えば蛸を蒸し蛸として大量に熱処理する装置として、トンネル式蒸し釜内にエンドレスのチェーンコンベアで蛸を送り込んで蒸し、その後冷却処理する蛸蒸機」(【0002】)があったが、「蒸したものを市場に流通させる場合、単に蒸機で蒸しただけのものは、色つやが鮮やかでないため需要者から鮮度が悪いと思われがちであり、販売上問題が生じることがある」(【0004】)。「このような問題に対処する方法として、蒸機で蒸した後の工程でさらに食品を煮沸処理することが考えられる」が、蒸し処理の後に煮沸処理を行いたい場合には「煮沸処理する装置を独自に設けねばならず、その際この装置に蒸気を送り込む必要があるため極めて設備費が増大する」(【0005】)という問題があった。また、「このような装置を設けて全自動化すると、食品は煮沸処理する必要がない場合でも必ず上記煮沸処理装置を通過することとなり、煮沸処理する場合としない場合とで処理工程を選択できないこととなる」(【0006】)という問題もあった。本件考案1は、このような「従来の食品蒸機の現状に留意してなされたものであり、食品蒸機のトンネル式蒸し釜内に煮沸処理する装置を設けて設備費の増大を防止し使用蒸気の無駄を省きかつ煮沸処理を選択的に施すことのできるコンパクトな食品蒸機を提供することを課題とする」(【0007】)ものである。
(イ) 本件考案1は、上記従来技術の欠点を解決するため、実用新案登録請求の範囲記載の食品蒸機の構成としたものである(【0008】)。
(ウ) 実施例として、食品蒸機の一例である蛸蒸機があげられており、その構成は次のとおりである。「トンネル式蒸し釜1内入口2、出口3間に搬送ユニットが設けられている。この搬送ユニットは、上記入口2、出口3にそれぞれ2つのスプロケット6、6’を水平方向に所定間隔をもって設け、このスプロケット6、6’間にエンドレスチェーン4、4を掛け渡し、出口3側のスプロケット6’をモータ7により駆動して両チェーン4、4を入口2から出口3に亘って走行させるように形成されている」(【0013】)。「両チェーン4、4間には連結棒5がチェーン4の長さ方向所定間隔に取り付けられ、各連結棒5に走行方向の多数の支持桿8を回動自在に支持している」(【0014】)。「支持桿8は、チェーン往路においてその先端が隣接する連結棒5上に載った状態で移動し、出口3側のスプロケット6’を回る際反転して垂れ下がり、そのまま復路を移動して入口2側のスプロケット6を回る際に後側連結棒5側に倒れてその上面に載置される」(【0015】)。「搬送ユニットの往路の終端付近には、煮沸槽10が設けられている。この煮沸槽10は、蒸し釜1の両側壁間に亘って設けられ、チェーンの走行方向の長さは任意であり、上面は開放されている。煮沸槽10には処理液を供給するための供給管11、供給された液を加熱する加熱器として複数本の加熱パイプ12が設けられている」(【0016】)。なお、「処理液は蒸し蛸の色つやを鮮やかにするためアルカリ性薬液を水に適当量混合したものが使用される」(【0017】)。「煮沸槽10に対して、前記搬送ユニットの往路が煮沸槽10内の貯液中を通過できるようにするため、エンドレスチェーン4、4の往路が煮沸槽内を通るように案内するガイド13を煮沸槽10内の側壁に沿って設けている」(【0018】)。「煮沸槽10を設けたのに伴って、搬送ユニットの復路を煮沸槽10から避けるようにガイド14も設けられている」(【0019】)。
このように構成された蒸機で蛸を蒸し処理及び煮沸処理すると、「隣接する連結棒5間に掛け渡された支持桿8に蛸を順次引っかけて蒸し釜1内を移動すると、その間に蛸は徐々に蒸されて出口3に至る」(【0021】)が、「蛸が蒸し釜1内に移動する間に出口3の手前の煮沸槽10内を通過すると、蒸し蛸はさらに煮沸され、処理液に含まれる薬液の作用で蒸したままの蛸よりも色つやが鮮やかになる」(【0022】)。「かかる煮沸作用を行なうため、煮沸槽10内には予め蒸し蛸のつや出し作用に有効な処理液が満たされ、加熱パイプ12に過熱蒸気を通すことによって処理液を煮沸させている」(【0023】)。「上述した煮沸槽10における煮沸作用は煮沸槽10内に処理液を満たし、加熱パイプ12に蒸気を通すことによって得ているが、かかる処理液を入れずに煮沸しなければ煮沸槽10は何ら作用せず、従って煮沸槽10は容易に選択的に使用することができる」(【0025】)。
このように蒸され、煮沸された蛸は、「出口3においてチェーン4が往路から復路に反転するため支持桿8も回転して垂れ下がりその際支持桿8から自然落下して」(【0024】)、水槽に落下して冷却される。
(エ) 本件考案1の以上のような構成の効果については、「トンネル式蒸し釜内で蒸された食品はその搬送往路途中で煮沸槽に通されて煮沸され、蒸しただけのものよりもさらに色つや鮮やかに処理されたものが得られる。かかるつや出し処理は煮沸槽の使用をするかどうかによって選択的に行なうことができ、煮沸槽を蒸し釜内に設けることによって装置全体をコンパクトに構成でき、かつ煮沸槽内の加熱器への蒸気消費量も煮沸槽を外部に設けた場合に比べると少なくできるから、
装置として経済的でランニングコストを最小限に抑えることができるなど種々の利点が得られる」(【0027】)とされている。
ウ 以上のような本件明細書1の記載に照らして、本件考案1の構成要件Aの意義を検討する。
本件明細書1の記載に照らすと、本件考案1は、従来から存在するエンドレスのチェーンコンベアを利用したトンネル式蛸蒸し釜では、蒸し処理しかできず、煮沸処理をする場合には別途装置を設けなければならない上、その装置に蒸気を送り込む必要があることから、設備費が増大し、無駄に蒸気を必要とするという問題を、トンネル式蒸し釜内に煮沸処理する装置を設けることで、設備費の増大を防止し、使用蒸気の無駄を省いたところに意義を認めることができる。すなわち、本件考案1においては、従来から存在するエンドレスチェーンを使用する方法で食品を搬送するに当たって蒸し処理及び煮沸処理の双方を行うことを可能としながら、その際に設備費が増大せず、処理に当たっての使用蒸気の無駄を省くとの目的を達成するものである。この場合、食品を搬送する部分のエンドレスコンベアは、煮沸処理も可能となるトンネル式蒸し釜内に配置されている必要があるが、
搬送していない部分のエンドレスコンベアの配置については同釜内になければならない必然性はない。仮に搬送していない部分のエンドレスコンベアがトンネル式蒸し釜外に配置されたとしても、そのことをもって、煮沸処理を行うための装置の設備費がかかったり、当該装置に使用する蒸気が必要となったりするわけではない。
したがって、構成要件Aの「トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアを設け」るとは、「トンネル式蒸し釜内入口、出口間にエンドレスのコンベアの食品搬送部が配置されている」ことを意味するというべきである。
エ イ号物件は、エンドレスコンベアが食品搬送部においてはトンネル式蒸し釜内の入口、出口間に設けられているという構成を有しているから、本件考案1の構成要件Aを充足するということができる。
オ 被告らは、イ号物件のエンドレスのコンベアは、食品を搬送しない部分においてトンネル式蒸し釜の外に配置されていること、その結果、コンベア自体の温度が搬送開始時には低下するため、熱の無駄防止という効果を奏しないこと(なお、被告らは、蒸気の無駄防止目的を熱の無駄防止目的と読み替えている。)、また別途メンテナンスの容易化、支持桿の削れ防止といった効果を奏すること、などをもって、イ号物件は構成要件Aを充足しないと主張する。
しかしながら、エンドレスのコンベアの食品を搬送しない部分がトンネル式蒸し釜の外に配置されていたとしても、別途煮沸処理を行う装置に蒸気を使用しなければならないという無駄を省くという目的は達成できている。
なお、仮に被告らの主張するような効果(メンテナンスの容易化、支持桿の削れ防止)が、本件考案1における目的効果に付け加わることがあったとしても、そのことをもって構成要件A充足性が否定されることになるものではない。
(2) 争点(1)イ(構成要件B充足性)について ア 本件考案1の構成要件Bは、「上記コンベアの途中に煮沸槽を設け」というものである。
イ そこで、上記(1)イで認定した本件明細書1の記載に基づき、構成要件Bの意義を検討する。 本件考案1は、蛸のみならず、その他海産物あるいは芋類の農産物等の食品を蒸す装置において、販売上の観点から煮沸処理を必要とする場合があるが、
設備費を抑え、無駄な蒸気を使用しなくてすむようにするために、トンネル式蒸し釜内部に煮沸処理用の煮沸槽を設けることで、別途煮沸処理用の装置を設ける場合と比べて設備費の増大を防止し、使用蒸気の無駄を省くことができるようにしたものである。
したがって、煮沸槽は、トンネル式蒸し釜内部のコンベアが食品を搬送する途中に煮沸槽の中を通過するような場所に配置されていればよく、出口付近に配置されることに限定されないというべきである。
構成要件Bの「上記コンベアの途中に煮沸槽を設け」る構成とは、食品を搬送するコンベアが、その途中に煮沸槽内を通過するような構成をいい、それ以上に煮沸槽の位置は限定されないというべきである。
ウ イ号物件は、トンネル式蒸し釜内部に煮沸槽があり、コンベアが同釜内で食品を搬送する途中に煮沸槽を通過する構成を有しているから、本件考案1の構成要件Bを充足しているということができる。
エ 被告らは、本件明細書1には、蒸した後に煮沸処理する旨の記載や、その順序での処理によっての色つやが蒸しただけの場合よりも一層鮮やかになる旨の記載がいくつかあること等をもって、本件考案1は、蒸し処理の後に煮沸処理をするものに限定されているというべきであり、したがって、煮沸槽の位置はコンベアの往路最終付近に限定される、と主張する。
確かに、本件明細書1には、上記(1)イでも摘示したように、特に蛸の熱処理に関して、蒸し処理の後に煮沸処理を行う方が色つやが鮮やかになるとの記載や、煮沸槽の位置がコンベアの往路(食品を搬送する部分と解される。)の終端付近にある旨の記載がある。しかし、訂正前の本件考案1は、蛸のみならず、その他海産物あるいは農産物をも熱処理対象としているのであるから、本件明細書1の実施例として記載された蛸の処理方法において処理の順序が限定され、そのために煮沸槽の位置が限定されていることを根拠に、海産物や農産物を熱処理対象とする本件考案1において、熱処理順序が限定されたり、それゆえに煮沸槽の位置が限定されることにはならない。
(3) 争点(1)ウ(構成要件C充足性)について ア 本件考案1の構成要件Cは、「この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え」というものである。
イ そこで、上記(1)イで認定した本件明細書1の記載に基づき、構成要件Cの意義を検討する。 本件考案1は、海産物や農産物等が、単に蒸しただけのものは色つやが鮮やかでないため、需要者から鮮度が悪いと思われるという販売上の問題を解決する手段として、従来の蒸機、すなわち蛸蒸機を使用するならば、蒸し処理の後に別途煮沸処理用の装置を用いて煮沸処理をする方法が考えられること、しかしこの方法では、設備費が増大し、別装置用の蒸気が無駄である上、この方法を全自動化すると、蒸し処理のみでよい場合と蒸し処理及び煮沸処理を必要とする場合の選択ができないこと、以上を踏まえて、トンネル式蒸し釜内に煮沸槽を設け、さらに煮沸槽内に処理液を入れないこともできるようにすることによって、設備費の膨大を防止し、蒸気の無駄を省くとともに、蒸し処理のみ行う場合と蒸し処理及び煮沸処理を行う場合とを選択できるようにしたものである。なお、特に蛸の処理を行うときには、アルカリ性薬液を水に適当量混合したものが処理液として使用される旨の記載があるが、蛸以外の海産物や農産物でもアルカリ性薬液等を使用する旨の記載はない。
したがって、構成要件Cにいう処理液とは、水や食塩水、アルカリ性薬液等を含め、海産物や農産物等の処理対象食品の煮沸処理に適した液体全体を指すものというべきであり、構成要件Cの「この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え」とは、煮沸槽が、そのような液体を煮沸槽に供給するための供給部及びそのような液体を煮沸槽内にて加熱するための加熱器を備えていることを意味するというべきである。
ウ イ号物件は、水や食塩水等をボイル槽10に供給するための給水管、及びボイル槽内の水を加熱するための加熱用の管13を備えているから、構成要件Cを充足する。
エ 被告らは、処理液はアルカリ性薬液等に限定されるところ、イ号物件はアルカリ性薬液等を使用しないから、構成要件Cを充足しないと主張する。
しかしながら、本件考案1においては、蛸について処理する場合にアルカリ性薬液等を使用する旨の記載はあるものの、その他の海産物や農産物すべてにおいてもアルカリ性薬液等で煮沸処理するとの記載はなく、水や食塩水によって煮沸処理することが排除されていると解することはできない。したがって、構成要件Cにおける処理槽が、アルカリ性薬液等のみを供給されるとの限定解釈をすることはできない。
(4) 以上によれば、イ号物件は、訂正前の本件考案1の構成要件A、B及びCを充足し、また、構成要件D及びEについて充足することについては当事者間に争いがないから、本件考案1の技術的範囲に属するということができる。
2 争点(2)(本件考案1の実用新案登録には明白な無効理由があるか)イ(本件考案1には進歩性が認められないか)について (1) 乙第9号証の3によれば、乙9-3公報(特公昭31-2093号特許公報)は、「炊飯機」に係る発明の特許公報であり、その特許請求の範囲は、「原料澱粉質を載せる金網若しくはスラツトのコンベヤーが1次蒸キョウ室(注・上記「蒸キョウ室」の「キョウ」は、上記公報では「食偏〔しょくへん〕に強」の漢字が用いられている。「蒸キョウ(ジョウキョウ)」とは要するに「蒸すこと」を意味する〔平凡社大辞典〕。))、湯煎室、2次蒸キョウ室の3室を通過する如くなしたことを特徴とする炊飯機。」である。
(2) 乙9-3公報の「発明の詳細なる説明」と図面を参照すれば、次の事実が認められる。
同公報記載の発明は、穀類あるいは粒状に成形された澱粉質物を自動的かつ連続的に大量に、蒸し、煮炊する目的で完成されたものである。
その構成は、次のとおりである。原料仕込みホッパー1の下面に接して、
金網若しくは多数の長孔を打ち抜いたスラツトの無端帯コンベヤー2を設け、このスラツトの両端はチェーン3により相互に連結され炊飯機本体4の内面両側チェーンガイドレール5に沿って移動する。炊飯機本体4は仕切板6により3室に区分されている。1次蒸キョウ室7には、蒸気パイプ8が設けられ、同パイプにはノズル9が取り付けられている。煮熱室10(特許請求の範囲では湯煎室)には両端にコンベヤーの水面下の位置を調節するためのテークアップ11、11’及び孔径3-4pの多数の小孔を設けた蒸気パイプ12、12’、湯煎入口側に予熱温水入口13、出口側に温水出口14が設けてある。次いで第3室の2次蒸キョウ室15に進行する。この室も1次蒸キョウ室7とほぼ同様に蒸気パイプを配列し出口に向かって傾斜下降している。なお、本体の入口及び出口にはスライドプレート16、16’を附し、原料処理量に応じて上下動して本体内蒸気の逸失を防止するごとく調節する。スラツトのコンベヤー2を連結したチェーンは、入口側よりスポロケットホイール17、18、19、20、21、22及び23とチェーンガイドレール5の上を移動して連続的に回転する。
その作用は、通常の粳白米の一例で示せば、次のとおりである。原料仕込みホッパーに入れられた洗米は連続的に金網若しくはスラツトのコンベヤー上に約1p程度の厚さに載せられて炊飯機本体の中に移動する。本体内部は既に高温蒸気をもつて充たされているので、温度の低い白米は次第に加熱せられていくと同時に、蒸気は白米粒面に凝結し白米の糖化を促す。白米が膨潤能を充分持った時テークアップ11に取付けられたスポロケツトホイール19によつて湯煎室中に移動する。湯煎室に予熱温水入口13より入ってたたえられた温水は 、両端に配置された蒸気管12、12’により80-100℃に加熱されている。1次蒸キョウ室より移動して来た半糊化米粒はここにおいて充分水分を吸収含有し、かつ膨潤したところをテークアップ11’に取り付けられたスポロケツトホイール20によつて2次蒸キョウ室に持ち上げられ、再び蒸気に加熱されて蒸され、かつ米粒表面に附着した水分は乾燥されて完全にα化され白米飯特有の粘りを生じ、スライドプレート16’を潜って本体外部に現れる。
上記発明の効果として、従来の技術では、大量の米を飯に炊き上げるには大変の労力と時間と技術とを要するものであり、在来の釜等による大量炊飯においては焦飯、半煮飯こぼれ等を生じて損失が多く、蒸籠のごとき蒸器では逸失する蒸気量も莫大なものであったが、上記発明では、上記のような構成を有するから、自動的かつ連続的に大量のものを蒸し、及び煮炊し得る。 また、もち米のように、単に蒸すだけで煮沸の不要の場合には、湯煎の水位を低下せしめ、あるいは空にして内部を通過させることも可能である。そして、蒸気量の加減、湯煎温度及び水位の調節、コンベヤー速度の加減等により自由自在に調節ができ、かつ、品質は常に一定のものが何らの損失なく蒸し、煮炊が可能であり、熱量の損失も極めて僅少である。
(3) 上記事実によれば、乙9-3公報には、次の内容の考案が記載されているものと認められる。
「本体4内入口、出口間に無端帯コンベヤー2を水平方向に走行自在に設け、上記コンベヤー2の往路の途中に湯槽を有する煮熱室(湯煎室)10を設け、
この煮熱室10内液中を通過するようにコンベヤーを案内するテークアップ11、
11’を設け、前記本体4内を仕切板6により区分し、入口側に1次蒸キョウ室7、中間に煮熱室10、出口側に2次蒸キョウ室15を設けてなる炊飯機」 (4) 本件考案1と乙9-3公報記載の発明とを対比すると、「無端帯コンベヤー2」は本件考案1の「エンドレスのコンベア」に、「煮熱室(湯煎室)10」にある「湯槽」は本件考案1の「煮沸槽」に、「予熱温水入口13」は本件考案1の「処理液の供給部」に、「蒸気パイプ12、12’」は本件考案1の「液を加熱する加熱器」に、「テークアップ11、11’」は本件考案1の「ガイド」にそれぞれ相当するから、両者は、「入口、出口間にエンドレスのコンベアを水平方向に走行自在に設け、上記コンベアの往路の途中に煮沸槽を設け、この煮沸槽には処理液の供給部及び液を加熱する加熱器を備え、前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設けてなる装置」の点で一致する。
そして、煮沸槽を使用するか使用しないかの選択ができることや、蒸気消費量を少なくできるという作用効果を奏する点でも、両者は一致する。
(5) 他方で、本件考案1と乙9-3公報の発明を対比すると、本件考案1では、トンネル式蒸し釜内に煮沸槽がある食品蒸機という構成であるが、乙9-3公報の発明は、本体が入口側の1次蒸キョウ室、中間の煮熱室(湯煎室)、出口側の2次蒸キョウ室という3つの室に区分された構成の炊飯機である点で相違している。
なお、乙9-3公報の発明の詳細な説明において、2次蒸キョウ室では蒸気により加熱されて蒸され、かつ、米粒表面に附着する水分が乾燥されると記載されていることからすれば、3つの室に区分され仕切り板6が配置されているのは、
少なくとも湯煎室と2次蒸キョウ室を区別することにより、2次蒸キョウ室において米粒を乾燥させる必要があるためと解される。乙9-3公報に「本体の入口及び出口にはスライドプレート16、16’を附し、原料処理量に応じて上下動して本体内蒸気の逸失を防止する」との記載があることからしても、蒸気は炊飯機内全体で使用されていることが明らかである。
(6) 次に、乙第9号証の4によれば、乙9-4公報(実公昭64-195実用新案公報)は、考案の名称が「蛸蒸機」で、実用新案登録請求の範囲には「トンネル式蒸し釜内出入口に亘って2条のエンドレスチェーン往路を水平方向所定間隔をもって走行可能とし、この両チェーン間に連結棒をチェーン長さ方向所定間隔に取付け、各連結棒に前記走行方向の支持杆を回動自在に支持し、この支持杆を、前記連結棒の所定間隔より長くしてその先端を前記チェーン往路において隣接する連結棒上面に載置可能とし成る蛸蒸機。」と記載されていることが認められる。
乙第9号証の5、6によれば、乙9-5公報(実公昭55-41025号実用新案公報)は、考案の名称が「魚肉成形品の茹蒸装置」、乙9-6公報 (実公昭55-42711号実用新案公報)は、考案の名称が「はんぺん等の蒸装置」であり、いずれも、はんぺん等を軽く茹でた後に蒸し上げる製造過程において、一度表層部を軽く茹で上げた後に中心温度が80度以上になるように蒸すためのはんぺん等の茹蒸装置に関する考案が記載されていることが認められる。乙9-5、6各公報記載の装置では、特に蒸し処理に際して水分を乾燥させる必然性がなく、蒸し部と茹で部を仕切っていない装置が記載されている。
(7) 上記(6)の事実によれば、本件考案1と乙9-3公報記載の発明との相違点のうち、蛸蒸機として本体部をトンネル式蒸し釜とすることは、乙9-4公報に記載されており、装置の形状をトンネル式蒸し釜とすることは、被処理物が蛸のような場合には、本件考案1の出願前から行われていたものと認められる(乙第9号証の4)。
また、乙9-3公報の装置が3つの室に区分されている点については、乙9-5、6各公報の記載に照らせば、煮沸処理後の蒸し処理に際し水分を乾燥させる必要がある場合には、使用する蒸気は同じであっても仕切り板等により処理工程をある程度区分した構造とし、その必要がない場合には同じ蒸気を使用することからも蒸し処理と煮沸処理との間に仕切りを備えない構造とすることは、設計上の問題にすぎないということができる。
(8) そうすると、本件考案1は、乙9-3〜6各公報に記載された発明あるいは考案に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものということができる。
(9) 原告は、乙9-3公報において示されている機械は、米等の穀類を炊飯するための機械であること、蒸し工程は煮炊効果の補強のために行われることなどの相違点を有しており、このため、これに乙9-4〜6各公報記載の考案、発明をも合わせて検討したとしても、当業者が極めて容易に本件考案1を考案できるとはいえないと主張する。
しかしながら、本件考案1は、蛸に限らず海産物や農産物等を処理対象とするものであること、乙9-3公報にも、蒸し工程のみを必要とする場合について触れた記載があり、蒸し工程のみの場合と、蒸し工程と煮炊工程の場合の選択が可能であることが示されていること、などからすれば、原告の主張は失当である。
(10) したがって、訂正前の本件考案1は、その実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案に基づいて、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が極めて容易に考案をすることができたものというべきであるから、本件考案1に係る実用新案登録には無効理由が存在することが明らかである。
3 争点(3)(訂正後の本件考案1について)ア(構成要件D’充足性)について (1) 構成要件D’は、「前記往路が煮沸槽内液中を通過するようにコンベアを案内するガイドを設け、前記トンネル式蒸し釜内の出口付近に前記煮沸槽の出口を設けて成る」である。
訂正前の本件考案1では、前記1(2)イで述べたように、煮沸槽は、トンネル式蒸し釜内のコンベアが食品を搬送する途中に煮沸槽の中を通過するような場所に配置されていればよく、出口付近に配置されることに限定されていなかったところ、訂正後の構成要件D’は、煮沸槽の位置を、トンネル式蒸し釜内の出口付近に限定したものである。
なお、訂正後の構成要件E’において、蛸用の蒸機に限定されている。本件明細書1には、蛸の処理を行う場合には、「搬送往路の最終付近に設けられた煮沸槽を通過させると、蛸はさらに煮沸されて色つやが一層鮮やかに処理される」(【0009】)、「蛸が蒸し釜1内に移動する間に出口3の手前の煮沸槽10内を通過すると、蒸し蛸はさらに煮沸され、処理液に含まれる薬液の作用で蒸したままの蛸よりもさらに色つやが鮮やかになる」(【0022】)など、煮沸槽をトンネル蒸し釜内の出口付近に限定する旨の記載がある。
(2) イ号物件は、トンネル式蒸し釜内の入口付近に煮沸槽を設け、出口付近に煮沸槽の出口を設ける構成ではない。
したがって、イ号物件は、構成要件D’を充足しないことが明らかである。イ号物件は、訂正後の本件考案1の技術的範囲に属さない。
(3) 原告は、被告らが煮沸後の蒸し工程が意味をもたない旨主張しているから、イ号物件の煮沸槽の位置を出口付近と評価できると主張する。
しかしながら、本件明細書1には、蛸について蒸し処理と煮沸処理を行う場合は蒸し処理を先にした後煮沸処理を行うこと、この処理順序により蛸の色つやが鮮やかになること、そのため、煮沸槽の位置を出口付近とすることが明記されていることは、前記(1)で記載したとおりであるから、訂正後の本件考案1については、入口付近に煮沸槽を設ける構造が排除されていることは明らかである。
4 以上によれば、本件考案1は、訂正請求についての審決が確定していないところ、訂正前のものは実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるから、本件実用新案権1に基づき差止め、損害賠償等の権利行使をすることは、特段の事情がない限り、権利の濫用として許されないことになる(最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。そして、仮に原告の訂正請求に係る訂正が認められるとしても、その場合には、イ号物件が訂正後の本件考案1の技術的範囲に属さないものと判断されるから、結局、上記特段の事情を認めることはできないものというべきである。
したがって、本件実用新案権1に基づく原告の請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がない。
5 争点(4)(ロ号物件は本件考案2の技術的範囲に属するか)について (1) 争点(4)ア(構成要件A充足性)について ア 構成要件Aは、「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り」というものである。
イ そこで、構成要件Aの意義につき本件明細書2の記載を検討する。別紙実用新案公報2(甲第2号証の1)によれば、本件明細書2には次の趣旨の記載があるものと認められる。
(ア) 本件考案2は、生蛸などの魚貝類を生鮮保持するための、解凍、塩もみ、あるいは薬液処理等を行う処理装置である。
従来、「蛸、イカ、貝などの生鮮魚貝類を大量に販売する場合、生鮮度や長持ちするための処理を施す設備として、従来は水、塩水、あるいは薬液を入れた水溶液を木製の樽に入れ、これを適当な回転座上に乗せて回転させ、解凍、塩もみ、あるいは薬液処理による酸化防止などをしていた」(【0002】)が、
「かかる従来の樽による生鮮処理方法では、解凍、塩もみ、あるいは薬液処理などの処理作業ごとに木樽内に生鮮魚貝類と処理液を投入して樽を密封し、これを回転させて内容物を撹拌させていた」(【0003】)ため、「処理液が異なるごとに樽の開閉作業を行なわなければならず、このような作業は極めて煩らわしく作業効率が悪いという問題があった。又、樽を回転させる場合も回転台上で樽を人手で支えて回転させるため回転が十分でなく、従って処理液の流動が十分でないなど問題もあった」(【0004】)。
(イ) 本件考案2は、「従来の木樽による生鮮・保存処理方法の問題点に留意してなされたものであり、ドラムと処理液樽を組合せ、ドラム内に入れた魚貝類を取り出すことなく種々の処理作業を効率的に行なうことのできる処理装置を提供することを課題とする」(【0005】)ものである。そして、本件考案2は、
この課題を解決するために、実用新案登録請求の範囲記載の構成としたものである。
(ウ) 作用の項には、「処理液槽には予め解凍用の水が注入されており、
この中に入れられたドラムは槽内で支持ローラにより回転自在に支持されると共に、駆動部の回転軸がドラムに対して着脱自在な連結部を介して接続される。」(【0008】)と記載されている。なお、ドラムを回転自在に支持する支持ローラとドラムを回転駆動する駆動部の構成は、実用新案登録請求の範囲(構成要件C)にも記載されている。
(エ) 実施例として示されている円筒ドラム1では、蓋板7が円筒ドラム1の円柱状の外周の約12分の1程度を占める壁面となっており(図2、3)、円弧状面ではなく垂直な面で構成される直方体である。そのため、円筒ドラムは蓋板の部分において若干円筒形状が変形している。また、支持ローラの関係では、「処理液槽2は、前記円筒ドラム1を受入れるに十分なスペースの槽本体を支持部11により支持され、その内部に円筒ドラム1を回転支持するための支持ローラ12を備えている。支持ローラ12は、ドラム本体3の両端を支持するように槽本体斜めの底部に設けられている。」(【0016】)と記載されている。
(オ) 効果については、次のように記載されている。「この考案の処理装置は多数の小孔を設けたドラムを処理液槽と組合せ、処理液槽に設けた駆動部の動力を着脱自在な連結部を介してドラムに伝達するようにしたから、複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着、取外しでき、その間に最初にドラム内に封入された蛸などの魚貝類は中から取り出すことなく所要の解凍、塩もみ、薬品処理などの作業が極めて効率的に行なわれるという種々の利点が得られる」(【0026】)。
ウ 以上のような本件明細書2の記載に照らして、本件考案2の構成要件Aの意義を検討する。
本件考案2は、従来、生鮮魚貝類を生鮮保持するための処理を行う場合、水、塩水、あるいは薬液を入れた水溶液を木製の樽に入れ、その中に生鮮魚貝類を入れて樽ごと回転させて攪拌させることによって行っていたところ、生鮮魚貝類を入れた外壁に小孔のあるドラムを処理液槽内で回転させることによって同様の処理を行おうとするものである。したがって、ドラムの形状は、支持ローラによって回転自在に支持され、中に入る生鮮魚貝類がドラムの回転運動に準じて攪拌されるような構造を採用していればよいのであるから、回転運動を阻害しない限りは、
必ずしも純粋な円筒形状である必要はないというべきであり、内容物を出入れするための蓋板の部分において外壁・内壁が円弧面ではなく垂直面であったとしても、
ドラム全体の回転運動や回転運動によって内容物を攪拌することに何ら支障はなく、また、両端を支持ローラで支持されて回転することにも支障を生じないから、
その程度の変形円筒形状のものも構成要件Aの「円筒ドラム」に含まれるというべきである。
エ ロ号物件は、別紙ロ号物件目録の記載によれば、ドラム周壁の約8分の7は円筒形状であるが、残りの約8分の1程度の部分が内容物を出入れするための蓋部材部分であって、円弧面ではなく垂直面によって構成されており、またドラム周壁と蓋板部材の接合部において若干突出しているため、完全な円筒形状となっていない。しかしながら、処理槽底面部の四隅に設けられた支持ローラで支持されて回転するようになっており、ドラム全体の回転運動や回転運動によって内容物を攪拌する点においては何ら支障はないから、本件考案2の「円筒ドラム」に該当するということができる。
そして、ロ号物件は、両端を閉じた中空の略円筒形状のドラムと、このドラムを受け入れる処理液槽と組み合わされているから、本件考案2の構成要件Aを充足するというべきである。
(2) 争点(4)イ(構成要件B充足性)について ア 構成要件Bは、「円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え」というものである。
イ そこで、構成要件Bの意義につき本件明細書2の記載を検討するに、前記(1)イで認定した記載に加え、本件明細書2には実施例として、次の記載がある(別紙実用新案公報2)。
「円筒ドラム1は、ドラム本体3の両端を側板4で閉じ、その両端にフランジ付きのリング5が設けられ、ドラム本体3の外周面には内部に通じる多数の小孔6が所定の間隔で設けられている。さらに円筒ドラム1は、ドラム本体3の外周面の適宜位置に魚貝類を出し入れするための蓋板7が設けられている。この蓋板7は係止具8でドラム本体3に固定される。又、ドラム本体3の両端には円筒ドラム1を吊り上げるための吊上金具9が設けられている」(【0013】)。
「魚貝類、例えば蛸を処理する場合、一般に解凍、塩もみ、及び薬品処理が施される。これは、冷凍された蛸を市場に送り出す前に生鮮度・保存状態を良くしておくためである。従って、円筒ドラム1は1台、処理液槽2は3台のものが用意される」(【0019】)。「円筒ドラム1は処理液槽の外で、蓋板7を開いて氷で蛸を固めたブロックXが適当量投入される。蓋板7を閉じてドラム1を、図1には図示省略の吊上げ装置のフックFで吊り上げて、図1のように処理液槽2内に入れる。槽内には予め処理液Wとして水が適当量注入されている」(【0020】)。円筒ドラムは、回転軸との連結構造によって連結され、「モータ13を回転駆動すると、円筒ドラム1が回転してドラム内の突条部10に冷凍蛸のブロックXが衝突し、位置を持上げられて落下しというようにしてドラム内で攪拌される。
ドラム内にはドラムを槽内に入れた際にドラムの外周面に設けた多数の小孔6を介して水が侵入しているから、この水によって上記攪拌作用と共にブロックXは解凍される」(【0022】)。「解凍が完了すると、再び円筒ドラム1は吊上げ装置で槽から吊上げられ、次の処理液槽へと移動される。このとき、ドラムの蓋板7は閉じたままでよい。水はドラムの多数の小孔6から排出される」(【0023】)。「次の処理槽では処理液Wとして塩水が槽内に供給されている。この槽に上記手順と同様にして円筒ドラム1を入れると、ドラム内に塩水が侵入してドラムの回転と共に塩もみが行なわれ」(【0024】)、「塩もみが完了すると、さらに次の薬品処理槽へ送られる。この槽では蛸が市場へ出荷されるまでの流通経路途中での酸化を防止して保存状態を良くするため、酸化防止用の薬品を入れた水溶液が供給されている。この槽での処理も前と全く同様の手順で行なわれ、この処理が終了すると円筒ドラム1は槽から引き揚げられた後、ドラムの蓋7が開かれ、処理済の蛸を取り出して市場へと出荷される」(【0025】)。
円筒ドラムと吊金具の設置位置について、図1と図3では、吊金具は円筒ドラムの両端に設けられたフランジ付きのリング5のフランジの部分ないしリング上に設けられているものが示されている。
ウ 以上のような本件明細書2の記載に照らせば、本件考案2においては、外壁にある小孔は、ドラムの回転運動の際に処理液槽内の処理液が円筒ドラムに出入りし、ドラムを吊り上げたときには処理液がすべて処理液槽へ落下するようなものであればよく、それ以上に孔の多寡等の限定は必要ないというべきである。また、吊金具は、処理液槽を移動する際に吊上げ装置を吊り上げるために備わっていればよく、その位置や個数について特に限定すべき根拠はない。
そうすると、構成要件Bの「円筒ドラムはその外側に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具とを備え」とは、「円筒ドラムには、円筒ドラムの回転運動に際し処理液槽内の処理液が円筒ドラム内に出入りし、円筒ドラムを吊り上げた際には処理液が同ドラムから外部に落下するに適した数の小孔と、魚貝類の出入れ用の蓋板と、円筒ドラムを一つの処理液槽から他の処理液槽へ移動させる場合の吊上げ作業に必要となる吊金具」が備わっている構成をいうと解される。
エ ロ号物件は、円筒ドラムにはドラムの回転運動に際し処理液槽内の処理液が出入りできる程度で、円筒ドラムを吊り上げた際に処理液がドラム内から外部に落下する程度の小孔と、ドラム内の魚介類の出入れ用の蓋板と、ドラムを処理液槽間で移動させるときに必要となる吊上げ用の吊金具が備わっているから、構成要件Bを充足する。
オ 被告らは、構成要件Bの意義について、第3の9の【被告らの主張】のとおり主張し、その解釈を前提としてロ号物件が構成要件Bを充足しない旨主張するが、被告らの上記主張は、前述の本件明細書2の記載に照らして、根拠のない独自の主張というべきであって、採用できない。 (3) 以上によれば、ロ号物件は、訂正前の本件考案2の構成要件A及びBを充足するものであり、構成要件CないしEを充足することは、当事者間に争いがないから、本件考案2の技術的範囲に属するものということができる。
6 争点(5)(本件考案2の実用新案登録には明白な無効理由があるか)イ(本件考案2には進歩性が認められないか)について (1) 乙第3号証の1、2によれば、乙3-1公報(米国特許第4324020号明細書)は、「紫貽貝洗浄機(mussel washer)」の発明に関するものであり、次のような記載があることが認められる。
「更なる目的は、安価に製造でき、使い易く、軽く、簡単に持ち運びできる紫貽貝洗浄機を開示することである。各人が集めた紫貽貝を迅速に完全に洗浄することができ、各人にとって使い勝手の良いものである。・・・本発明の紫貽貝洗浄機2は、ドラム4を備え、・・・ドラムの一端からはクランク8が延び、このクランク8・・・は当該ドラムを回転するために使用される。・・・ドラムは、穴の開いた外周10と忠実な円形の端部12とを有する略円筒形の容器である。非常に多くの開口14が外周10に形成されている。・・・紫貽貝は、扉18を通じてドラムの内部に入れられ、またドラムから取り出される。・・・使用者の要望に応じて、洗浄された貝は取り出すか、ドラム内に入れたまま、移動される。(別の実施例では)表面に複数の穴33を有する八面ドラム31が水槽34内に設置されており、これは水槽の両側面の溝に支持されたジャーナル軸受を使用し、貫通クランクによる従来の方法で設置されている。ハンドル8は、水槽の一側面を通過して延び、水槽内において通常のやり方でドラムを回転するのに使用される。・・・(実施態様の修正、変更として)例えばドラムを回転させるためモータを設けることが可能である。」 以上のような乙3-1公報の記載や図面を参照すると、乙3-1公報には、「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受け入れる処理液槽とを組み合わせてなり、円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備え、ドラムを処理槽内で回転させ、回転に当たって駆動部を用いることもある魚貝類処理装置」の発明が記載されているということができる。
(2) 本件考案2と乙3-1公報記載の発明とを対比すると、両者は、「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受け入れる処理液槽との組合せでなり、円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備え、
処理液槽は槽本体内でドラムを回転駆動するための駆動部を備える魚貝類処理装置」である点で一致する。
(3) 他方で、本件考案2と乙3-1公報記載の発明とを対比すると、本件考案1では、吊上げ用の「吊金具」、回転自在に支持する「支持ローラ」、及び駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在とする「連結部」があるのに対し、乙3-1公報記載の発明においては、このような「吊金具」、「支持ローラ」及び「連結部」に相当する構成がなく、この点において相違する。
(4) そこで、これらの相違点について検討する。
ア 乙第3号証の2によれば、乙3-2公報(特開昭61-265043号公開特許公報、発明の名称「魚介類洗浄装置」)には、表面に多数の孔を有する円筒形状の回転ドラムを水槽型洗浄タンク内で回転させることにより、ドラム内に投入した魚貝類を洗浄するための装置であって、円筒ドラムを水槽内で回転させるために、円筒ドラムの側面に円筒ドラムを回転自在に支持する円形支持レールが設けられ、一方、洗浄タンク支持架台の左右両端部に装着されたドラム支持架台に車輪式の軸受(本件考案2の支持ローラに相当する。)が配設されて、円筒ドラムを組み合わせたときに支持レールに適合して円筒ドラムを支持するという構成が記載されていることが認められる。
イ 乙第3号証の3によれば、乙3-3公報(実開平1-105483号公開実用新案公報、考案の名称「棒状物の洗浄装置」)には、円筒ドラム(円筒形の洗浄槽)内に棒状物(例えばウインナソーセージ)と洗浄液を入れて回転させることにより、棒状物を洗浄する装置において、円筒ドラムが支持ローラによって回転可能に台車上に支持され、回転駆動装置により回転駆動され、この駆動装置の回転軸は図示された連結部(カップリング等からなる軸継手)によってドラムに対し着脱自在とされている構成が記載されていることが認められる。
(5)ア 上記(4)ア及びイの事実に照らせば、円筒状の回転体を回転運動させる場合に、回転体の外周を支持ローラによって支持することは、当業者が極めて容易になし得る技術事項であると認められる。
イ また、円筒ドラムの回転を回転駆動装置によって行う構成や、円筒ドラムと駆動装置の回転軸が連結部において連結され、着脱可能となっている構成も乙3-3公報に記載されているところであり、円筒ドラムを移動することが前提となる場合に、円筒ドラムと駆動装置が着脱自在となる連結部によって連結される構成とすることは、当業者が必然的な構成として採用するものというべきである。
ウ さらに、処理対象物を入れたドラムを処理液槽内に出し入れし、また移動させるに当たっては、その大きさや重量の点からクレーン等を使用することは充分考えられことであり、その際、ドラムとクレーン等の結合作業が必要となるところ、この結合作業を容易に行うために予めドラムに吊金具状のものを付設することは、当業者が極めて容易になし得る設計事項ということができる。
エ 以上のとおり、本件考案2と乙3-1公報記載の発明との相違点は、当業者が採用し得る技術事項、設計事項にすぎないということができる。
したがって、本件考案2は、乙3-1公報記載の発明に、乙3-2公報あるいは乙3-3公報に記載された技術事項、設計事項を組み合わせることにより、当業者が極めて容易になし得る考案であって、進歩性を有しないものと認められる。
(6) なお、原告は、乙3-1公報の発明は、魚貝類の洗浄という一つの工程に関するものすぎず、本件考案2において解決しようとする解凍、塩もみ、薬液処理等の諸工程を流れ作業で行うとの目的には沿わないと主張する。
しかしながら、本件考案2の実用新案登録請求の範囲には、そのような複数工程を流れ作業で行う旨の記載はない。本件考案2は、本件明細書2の記載(前記5(1)イ(オ)で述べた本件明細書2の効果の項の記載参照)に照らせば、複数工程の処理液槽に対してドラムを次々容易に装着、取外しをできるようにして、効率的な流れ作業を行うという効果を生じさせることを目的として、各処理を行うに当たって処理液槽内で円筒ドラムを回転駆動する構成とした処理装置に関する考案であるということができる。
この点、乙3-1公報は、本件考案2と同様、円筒形状のドラムの中に処理対象物を入れ、これを処理液槽内で回転運動させていく間に各処理を行い、終了したときには、ドラム内から処理対象物を持ち出すのではなく、ドラムを引き上げて外壁の小孔から液体を排出させるという点で、同じ技術思想の下にあるものと評価できる。
したがって、原告の上記主張は失当である。
(7) 以上によれば、訂正前の本件考案2は、その実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案に基づいて、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が極めて容易に考案をすることができたものというべきであるから、本件考案2に係る実用新案登録には無効理由が存在することが明らかである。
7 争点(6)(訂正後の本件考案2について)ア(構成要件D’充足性)について (1) 構成要件D’は「駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成り、この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成る」という構成である。このうち、「この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成」るの部分が訂正で追加された箇所であり、訂正によって、訂正前の構成要件Dに比べて、連結部の構成をより具体的に特定し、限定したもの(実用新案登録請求の範囲減縮)ということができる。
(2) そこで、訂正された構成要件D’の意義につき検討する。
ア 訂正後の構成要件D’で追加された連結部の具体的構成は、「ドラムの側端に設けたハの字状の受金具」と「このハの字状の受金具に係合する、回転軸の軸端に設けた平板部材」とからなるものである。
イ 原告は、被告らからなされた本件実用新案権2についての無効審判請求(無効2003-35188)に対して行った平成15年10月20日付けの訂正請求(甲第16号証)において、実用新案登録請求の範囲の訂正のほかに、明細書考案の詳細な説明中の効果の項(段落【0026】)についても一部訂正請求をしており、その内容は、実用新案登録請求の範囲の訂正に係るハの字状の受金具と平板部材による連結部の構成により、「回転軸の軸端の平板部材を上向きにするだけで」複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着、取外しができるという趣旨を追加するものである。
ウ 原告は、上記無効審判手続において、平成16年3月30日付けで特許庁審判長宛に「第2意見書」(甲第21号証)を提出した。その中で、原告は、本件考案2の進歩性に関連して、連結部の構造について、次のような趣旨の主張をした。
モータ側と被駆動側との間を着脱自在に連結することや、この着脱の連結構造について、回転軸に直交する方向に延びる嵌合部材を一方に設け、この部材を収容する溝などの受け部を他方に設けることは周知慣用技術であり、また、嵌合突起を収容して嵌合を可能とする受け部を一対の部材によって形成することも、当業者が適宜選択し得る事項である。
しかしながら、訂正による連結部の構造は、「連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成る」という楔形連結構造を採用している。本件考案2がこの楔形連結構造を採用したのは、本件考案2が併せて「円筒ドラムは・・・吊上げ用の吊金具」を備えた構成を採用し、ドラムを吊り下げ可能とすることによって、「回転軸の軸端の平板部材を上向きにするだけで、複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着、取外しができ」るという効果を奏することを狙ったものであるが、この効果を奏するために、「駆動部(モータ)の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部」(連結構造)として、この楔形連結構造を採用することは意外な選択であり、当業者にとって極めて容易なものではない。何故なら、楔形連結構造は、連結構造の装着が容易であるという反面、楔形の楔が強く食い込んだ場合に、その取外しが容易ではないという重大な欠点がある。この欠点を解消して、楔形連結構造の楔が強く食い込むことを防止し、連結構造の装着(したがってドラムの装着)は容易である楔形構造の利点を生かすための構成として、
ローラ支持構造を採用した。このように、本件考案2は、楔形連結構造とローラ支持構造を同時に採用することより、楔形連結構造を単独で採用した場合に生ずる、
連結構造の楔が強く食い込んだ場合にその取外しが容易ではないという重大な欠点を解消し、その利点である連結構造の装着が容易であることを生かして、「この連結部を前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、回転軸の軸端に設けた平板部材から構成したから、回転軸の軸端の平板部材を上向きにするだけで、複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着、取外しでき、その間に最初にドラム内に封入された蛸などの魚貝類は中から取り出すことなく所要の解凍、塩もみ、薬品処理などの作業が極めて効率的に行われる」との訂正明細書記載の格別の作用効果を奏することができる。
エ 上記無効審判請求に対する平成16年6月16日付けの審決(甲第23号証)は、次の判断により、訂正を認めた上で、無効審判請求は成り立たないとした。
提出されている刊行物には、「駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結し、連結部を前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、前記回転軸の軸端に設けた平板部材とすることの記載や、それを示唆する記載もない」。「さらに、このような連結部と同時に、吊金具と支持ローラを設け、楔形連結構造とローラ支持構造を同時に採用することにより、ドラム装着が容易であるだけでなく、吊り下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく、吊り上げによるドラムの取外しを容易にすることは記載されていないし、それを示唆する記載もない」。
本件考案2は、「その構成により、回転軸の軸端の平面部材を上向きにして、ドラムを吊り上げるだけで係合がはずれ、複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着、取外しでき、その間に最初にドラム内に封入された蛸などの魚貝類は中から取り出すことなく所要の解凍、塩もみ、薬品処理などの作業が極めて効率的に行われるという明細書記載の格別の効果を奏するものである」。
したがって、訂正後の本件考案2は、提出された刊行物に記載された考案及び周知慣用技術や公知技術に基づいて当業者が極めて容易に考案できたものとすることはできない。
オ 以上の事実に基づき、構成要件D’の意義を検討すると、構成要件D’は、駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結するに当たり、
当該連結部について、ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と、このハの字状の受金具の内側に係合する、回転軸の軸端に設けた平板部材から成る構成により、ドラム装着時にドラムの位置決めがなされることにより容易に装着できるいわゆる楔形連結構造を採り、かつ、楔が強く食い込むことにより取外しが困難となることを回避するために、同時にローラ支持構造を採用して、取外しが容易となる構造としたものであるということができる。
(3) これに対し、ロ号物件の場合、別紙ロ号物件目録の記載によれば、ドラムの端側に設けた受金具である角柱部材9a、9bは、回転容器1を吊金具6を上にして位置した場合、平行に形成された部分からその下部が広がった形状に形成されており、正面から見ると略ハの字状をなしているといえるが、連結の際に角柱分材9a、9bに係合される、槽内に突出した回転軸の軸端に設けた略長方形をなす平板部材からなる連結部16は、「ハの字状の受金具の内側に係合」するような略ハの字状ではなく、単なる長方形状のものである。上記のような構造のロ号物件の連結部において、角柱部材9a、9bの下部が略ハの字に広がっている点は、被告らが主張するように連結を容易にするガイドの役割を果たすものとは考えられるが、
角柱部材9a、9bのその余の部分も、これに係合される平板部材も共にストレートの形状であるから、係合した場合に取り外しに困難が生じるようなものではなく、支持ローラと組み合わせることによって取り外しを容易にしたというものでもない。したがって、ロ号物件において、角柱部材9a、9bと、平板部材からなる連結部16とによる連結部は、構成要件D’の連結部が採用した楔形連結構造ということはできない。
よって、ロ号物件は、構成要件D’を充足しない。
(4) 原告は、ロ号物件においても、受金具が略ハの字状であり、また、支持ローラが設置されており取外しが容易な構造となっていること、ローラ支持構造を採っていることから、構成要件D’を充足すると主張する。
しかしながら、構成要件D’は、受金具のみならず、これと嵌合(係合)する軸端の部材もハの字状に形成された楔形の連結部材である必要があるから、受金具の形状のみ略ハの字状であることをもって構成要件D’を充足するということはできない。また、上述のとおり、楔形連結部と支持ローラの双方が同時に採用されたところに訂正後の本件考案2の意義が存在するのであるから、支持ローラのみの存在をもって構成要件D’を充足しているということもできない。
(5) さらに原告は、構成要件D’に関して均等論の主張もするが、上記(2)で認定した訂正請求の経過、無効審判手続における原告が表明した意見等からも明らかなように、連結部が楔形連結構造であることと、支持ローラが存在することが、
訂正後の本件考案2の本質的部分というべきである。したがって、楔形連結構造を有さないロ号物件が訂正後の本件考案2と均等であるということはできない。
8 以上によれば、本件考案2は、訂正請求についての審決が確定していないところ、訂正前のものは実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるから、本件実用新案権2に基づき損害賠償請求等の権利行使をすることは、特段の事情がない限り、権利の濫用として許されないことになる(前掲最高裁判所平成12年4月11日判決参照)。そして、仮に原告の訂正請求に係る訂正が認められるとしても、その場合にはロ号物件が訂正後の本件考案2の技術的範囲に属さないものと判断されるから、結局、上記特段の事情を認めることはできないものというべきである。
したがって、本件実用新案権2に基づく原告の請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がない。
9 以上の次第で、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、
いずれも理由がない。
追加
別紙イ号物件目録1構成(1)蒸機は、トンネル傾斜部5と、これに連続するトンネル水平部1と、トンネル水平部1を所定の高さに支持する脚部4とを備えている。トンネル傾斜部5は一端に食品入口6を他端にトンネル水平部入口2を有し、トンネル水平部1は一端にトンネル水平部入口2を他端に食品出口3を有している。
(2)食品入口6から食品出口3の間には、エンドレスのネットコンベア7が設置されている。このネットコンベア7の往路はトンネル傾斜部5の内部からこれに連続するトンネル水平部1の内側を出て食品出口3に達するように設けられている。
このネットコンベア7は、食品出口3でスプロケット11によって反転させられ、
トンネル水平部1の外側底面8及びこれに連続するトンネル傾斜部の外側底面9に沿って走行する復路が形成されている。
(3)トンネル水平部1の内部には、トンネル水平部入口2に接して、トンネル水平部入口2の端部にボイル槽10が設けられている。前記ネットコンベア7は、このボイル槽10の内部を通過するようにガイドされている。このボイル槽10が設置されているトンネル水平部1には、外部からボイル槽10内の様子が確認できるように、トンネル水平部1の側面に、のぞき窓12が設けられている。こののぞき窓12は、主にボイル槽10内の水量を確認するために設けられている。
(4)ボイル槽10内には、水の供給を可能にする、図示しない給水管が設けられている。ボイル槽10内に配置された加熱用の管13に加熱蒸気を流すことによって、給水管により給水されたボイル槽10内の水を加熱することができる。
(5)トンネル水平部1内には、蒸気を供給する複数の蒸気供給部14が設けられている。
2図面(1)図面の説明第1図蒸機全体構造を示す側面図第2図トンネル傾斜部入口を示す正面図(2)図面の符号1トンネル水平部2トンネル水平部入口3食品出口4脚部5トンネル傾斜部6食品入口7ネットコンベア8トンネル水平部の外部底面9トンネル傾斜部の外部底面10ボイル槽11スプロケット12のぞき窓13加熱用の管14蒸気供給部(別紙)第1図・第2図ロ号物件目録第1図第2図第3図
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
  • この表をプリントする