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関連審決 訂正2006-39170
関連ワード 考案 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  実施可能 /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  先行技術 /  削除 /  容易に想到 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10262号 審決取消請求事件
原告X
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人石原正博,関信之,高木彰,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/03/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が訂正2006-39170号事件について平成19年6月27日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,考案の名称を「ストレツチフイルムによるトレー包装体」とする登録実用新案第1839235号(昭和54年4月4日出願(前特許出願日援用),平成2年11月4日登録。以下「本件実用新案」という。)の実用新案権者である。
原告は,平成18年10月16日,本件実用新案について訂正審判請求(以下,訂正審判請求による訂正を「本件訂正」という。)をし,特許庁は,上記審判請求を訂正2006-39170号事件として審理し,平成19年1月16日付けで訂正拒絶理由通知をしたところ,原告は,同年2月10日付け手続補正書(甲第6号証。以下,審決と同様に,この手続補正書による補正を「本件補正」という。)を提出した。特許庁は,平成19年6月27日,本件補正を不採用とした上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月8日,審決の謄本が原告に送達された。
2本件訂正の前・後による実用新案登録請求の範囲(1)本件訂正前の実用新案登録請求の範囲平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルムとからなり,上記ストレッチフィルムは,その周縁を,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体。
(以下,本件訂正前の本件実用新案に係る考案を「本件考案」という。)(2)本件訂正後の実用新案登録請求の範囲(訂正部分を下線で示す。)平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側全周に,上部外周縁に直接,形成された接着剤塗布面とを有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたPSP(ポリスチレンペーパー)製のトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルムとからなり,上記ストレッチフィルムは,その周縁を,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体。
(以下,本件訂正後の本件実用新案に係る考案を「訂正考案」といい,本件訂正後の明細書(甲第5号証)を「訂正明細書」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,?@本件補正は,請求の要旨を変更するものであり,平成5年法律第26号附則4条1項の規定により,なおその効力を有するとされ,平成15年法律第47号12条により改正された平成5年法律第26号附則4条2項の規定によって読み替えられる改正前の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)41条で準用する特許法131条の2第1項の規定に違反するから却下されるべきである,?A訂正考案は,実願昭51-13482号(実開昭52-104756号)のマイクロフィルム(乙第1号証。以下「刊行物1」という。)記載の考案(以下「刊行物1考案」という。),実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフィルム(乙第2号証。以下「刊行物2」という。)記載の考案(以下「刊行物2考案」という。)及び周知技術に基づいて,当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,実用新案法3条2項の規定により,出願の際独立して実用新案登録を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件補正及び刊行物1考案の内容並びに訂正考案と刊行物1考案との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)本件補正の内容本件訂正における実用新案登録請求の範囲についての訂正を訂正の対象から除外し,考案の詳細な説明の欄の訂正のみを求めるものに補正する。
(2)刊行物1考案の内容平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側全周に,上部外周壁に直接形成された保持面を有するトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し,かつ,上記トレーの保持面に保持させた周縁を有する熱可塑性合成樹脂からなる上フィルムとからなり,上記上フィルムは,その周縁を,トレーの保持面に保持した位置に接近した下側で全周に亘って切断してある,熱可塑性合成樹脂からなる上フィルムによるトレー包装体。
(3)一致点平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側全周に,上部外周縁に直接,形成された保持面とを有しトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの保持面に保持された周縁を有するフィルムとからなり,上記フィルムは,その周縁を,トレーの保持面に密着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあるフィルムによるトレー包装体である点(4)相違点【相違点1】訂正考案においては,トレーの周壁の上部外側全周に形成された保持面が,接着剤塗布面であって,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されるものであるのに対し,刊行物1考案は,トレーが接着剤塗布面を有さず,したがって,接着剤塗布面の形状についての言及がない点【相違点2】トレーの材質が,訂正考案では,PSP(ポリスチレンペーパー)製であるのに対し,刊行物1考案では,トレーの材質が明らかでない点【相違点3】トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが,訂正考案では,ストレッチフィルムであるのに対し,刊行物1考案では,熱可塑性合成樹脂フィルムである点【相違点4】トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムが,訂正考案では,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するのに対し,刊行物1考案では,トレーの周壁の上部外側面全周に保持させた周縁を有する点【相違点5】トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフィルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,訂正考案では,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われるのに対し,刊行物1考案では,トレーの保持面に保持した位置に接近した下側で行われる点第3審決取消事由の要点審決は,?@本件補正の適否についての判断を誤り(取消事由1),?A訂正考案についての独立登録要件の判断を誤った(取消事由2)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)(1)手続違背特許庁は,本件補正を却下するに当たり,原告に何らの通知もせず,弁明の機会を与えていないから,その手続は,実用新案法41条において準用する特許法133条の2に違反する。
(2)要旨の変更本件補正は,訂正事項を削除する補正にすぎず,審判請求書の要旨を変更するものではないから,審決が本件補正を認めなかったことは誤りである。
2取消事由2(独立登録要件についての判断の誤り)(1)刊行物1について刊行物1は,原告自身の考案に係る実用新案出願であり,本件考案及び訂正考案の前提技術であるから,引用例とすることはできない。
(2)刊行物2についてア審決が引用する刊行物2の図5に示された耳部形状を有するトレーを製造する方法は,刊行物2には何ら記載されておらず,また,実際に製造することができないものである。引用発明とするためには,その発明が実施可能でなければならならないが,刊行物2に係る実用新案の出願当時,上記形状のトレーを作るプラスチックは,材料として,塩ビ,ポリスチレン以外にはなく,加熱温度は約150℃,厚さも0.3ミリ〜0.5ミリとする以外にはない。このような材料をカールさせるために加熱すれば,成形した部分が瞬時に収縮,変形し,その程度も甚だしいから,上記形状のトレーを製造することはできない。したがって,審決は,実施可能性のない考案に基づいて,訂正考案進歩性を否定したものであり,その判断は誤りである。
イ訂正考案の「上記外周縁に直接」は,本件実用新案の実用新案公報(甲第3号証。以下「公報」という。)の第11図(A)(B)(C)に記載されたトレーの形状をいうところ,上記の形状と刊行物2に記載されたトレーの形状とは,全く異なるものであるから,訂正考案が刊行物2記載の考案からきわめて容易に想到し得るものであるとの審決の判断は誤りである。
(3)周知技術1についてア審決が認定するように,「トレー包装体において,フィルムとトレーとの保持性を改良するために,トレー周壁の上部外側外周面一周に,接着剤塗布面を採用すること」(以下,審決と同様に「周知技術1」という。)が周知技術であり,糊により包装体を接着することが周知であるとしても,本件考案においては,食品の包装用であるから,無害であることが必要であり,ストレッチフィルムと発泡スチロール,POS等の双方に接着される糊であることが必要であるところ,それらの条件に適合する糊は,本件考案の出願当時,既製のものは存在せず,公報に記載のEVA樹脂系の成分の糊を開発することによって,ようやく完成したのである。このように,訂正考案を完成させるためには,糊も完成させなければならず,きわめて容易とはいえない。
イ上記アの糊はトレーの不要な部分に塗布してはならないから,このために訂正考案では,トレーを1本に並べて塗布が必要な部分以外が露出しないようにしているものである。このような先行技術は存在しない。
(4)周知技術3について審決が認定するように,「トレー包装体のフィルムとして,常温で延伸性のあるフィルム,すなわちストレッチフィルムを用いること」(以下,審決と同様に「周知技術3」という。)が周知技術であるとしても,刊行物1考案が熱可塑性フィルムを成形温度まで加熱しておき,被包装物の形通り成形しながら真空包装するものであるのに対して,訂正考案は,ストレッチフィルムを伸ばしながら包装し,ストレッチフィルムの収縮力を利用して張るものであって,真空包装ではない。トレーの周囲を略垂直にしておかなければ,接着がうまくいかないものであるから,訂正考案は,トレーの周囲をほぼ垂直としたものであり,訂正考案は,刊行物1考案に周知技術3を適用しても,きわめて容易に想到し得るものではない。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)について(1)手続違背について特許庁が本件補正を不採用としたのは,本件補正が請求の要旨を変更するものであるからであり,本件補正の手続が不適法だからではない。したがって,実用新案法が準用する特許法133条の2が適用される場合ではない。
(2)要旨の変更について本件補正は,本件訂正における実用新案登録請求の範囲に係る訂正事項を全部削除するもので,訂正審判請求書の要旨を変更するものであることは明らかである。
2取消事由2(独立登録要件についての判断の誤り)について(1)刊行物1について本件実用新案出願前に頒布された刊行物に記載された考案に基いて,当業者がきわめて容易考案することができたものであるか否かを判断するに当たり,刊行物に記載された考案が原告自身の考案に係るものか否かや訂正考案の前提技術であるか否かが影響することはない。
(2)刊行物2についてア審決が刊行物2から認定したのは,「耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する」点であり,原告が主張するような耳部をカールさせるような技術について認定しているわけでない。「耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する」形状であれば,適宜の成形手段で形成してもよいものであって,当業者であれば,容器の耳部の外面を,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するようにすることが可能であることは明白である。したがって,原告が主張するように,カールさせるための加熱加工が実施可能か否かに関わりなく,刊行物2から認定した考案は,当業者が実施し得るものであり,原告の主張は失当である。
イ審決は,刊行物2考案として,上部外周縁を外方に折り返して形成した耳部形状とした点を認定しているわけではない。しかも,審決は,訂正考案と刊行物2考案との異同について判断しているわけではないから,原告の主張は審決を正解しないものであって,失当というほかはない。
(3)周知技術1について本件訂正後の実用新案登録請求の範囲には,接着剤に関して何ら特定されていないし,仮に,特定されたとしても,接着する双方の材質,接着の態様に応じて,周知の接着剤の中から最適なものを選択する程度のことは,当業者が設計上適宜なし得る程度の事項にすぎない。
(4)周知技術3について刊行物2の「従来一般にミートトレイ(通称)等皿状容器を用いたパック製品の包装作業は自動化したラインシステムで行われている。この作業は,容器に肉等被収納物が収納された後,予め適度の張り強度に微調整されて張られているフィルム下において容器を上昇させ,フィルム面を下から押上げて容器全体をフィルム内に包み込ませ,次いで下向コ状になつたフィルムを容器の下側において左右から交絞させて容器外周に張りつくように包着させ,その後で容器下側のフィルムの合わさり部をシールして製品とするものである」との記載を踏まえれば,ストレッチフィルムを用いてトレーをオーバーラップするに当たり,真空包装のみならず,ストレッチフィルムを伸ばしながら,その自己粘着性を利用して包装することも常套手段として広く採用されていることである。したがって,原告の主張する点は,刊行物1考案に周知技術3を適用するについて,何ら阻害事由になるものではない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件補正の適否についての判断の誤り)について(1)手続違背について実用新案法が準用する特許法133条の2が適用されるのは,「審判事件に係る手続(審判の請求を除く。)において、不適法な手続であつてその補正をすることができないものについて」である。審決が本件補正を採用しなかったのは,本件補正の手続には不適法な点はないが,本件補正は審判請求書の要旨を変更するものに当たり,審判請求書の補正の要件が欠けていることを理由にしていることは,審決の理由第2の1の説示を見れば明らかである。したがって,本件補正については,実用新案法が準用する特許法133条の2が適用される余地はないから,原告の主張するような手続を履践する必要はなく,審決の手続に原告主張の違法はない。
(2)要旨の変更について旧実用新案法41条において準用する特許法131条の2第1項にいう「請求書の要旨を変更する」とは,請求人が訂正審判の係属後に,審判請求書の請求の趣旨の記載を変更することによって,請求の基礎である「審判を申し立てている事項」の同一性や範囲を変更することである。
本件補正は,前記第2の3(1)のとおり,訂正審判請求書において実用新案登録請求の範囲について行うとしていた本件訂正における訂正事項(「上部外周縁に直接,」及び「PSP(ポリスチレンペーパー)製」という文言を加える。)を全部削除するものであるから,当初訂正審判請求で審判を申し立てていた事項と本件補正後に審判を申し立てている事項との間には,同一性がない。したがって,本件補正は,訂正審判請求書の要旨を変更するものであることは明らかであり,本件補正を採用しないとした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(独立登録要件についての判断の誤り)について(1)刊行物1について原告は,刊行物1(乙第1号証)が原告自身の考案に係る実用新案出願であり,本件考案及び訂正考案の前提技術であるから,引用例とすることはできないと主張する。
実用新案法3条2項は,当業者が「前項各号に掲げる考案に基いてきわめて容易考案をすることができたとき」と規定し,上記「考案」につき,平成11年法律第41号による改正前の同条1項3号は「実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案」と規定している。これらの規定の文理からすると,出願考案進歩性の有無,すなわち,当業者がきわめて容易考案することができたものであるか否かを判断する際の基準となる刊行物については,頒布の時期及び地域以外の要件はないから,「実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案」に該当するならば,刊行物に記載された考案が原告自身の考案に係るものでもよいし,また,訂正考案の前提技術であってもよいと解される。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2)刊行物2についてア原告は,刊行物2(乙第2号証)の第5図に示された耳部形状を有するトレーを製造する方法は,刊行物2には何ら記載されておらず,また,実際に製造することができないものであるから,審決は,実施可能性のない考案に基づいて,訂正考案進歩性を否定したものであり,その判断は誤りであると主張する。
a刊行物2(乙第2号証)には,次の記載がある。
?@「底面,側面に補強リブを形成してなる通称ミートトレイ等皿状容器において,容器上周縁に外下側に巻込んだ形態の耳部を形成してなる包装用皿状容器」(実用新案登録請求の範囲)?A「一方,フイルム包着の際フイルムが引張られる為に応々にして容器の上縁端特に四隅上縁端でフイルムを切つてしまうことがあつた。」(3頁3行〜5行)?B「本考案は上記に鑑み,これら欠陥を改善する為に,容器の材質や肉厚を特に変更することなくして,・・・フイルム包着が機械による自動作業で行われるので,積合わされている容器を一枚々々剥していく機械作業能力を大きく向上させて,フイルム包装作業全体を効率化する為のスタツキング防止を果たすようにすることを目的としてなしたものであり,この為に所定構成の容器の上周縁耳部を外下方に巻込んで成型した容器を提供せんとするものである。」(3頁6行〜19行)?C「然して,上記容器は第3図に示す如く,その上周縁を外側下方に曲折垂下させ,この垂下縁片部10’が十分な長さとなるように当初成型しておき,次いで第4図に示す如く,この垂下縁片部10’を適宜カール機によつて曲折内方に巻込ませて容器周側面3の上縁外側に丸みのある耳部10を形成するものである。」(4頁12行〜18行)?D「一方,上記耳部10は第5図に示す如く,容器複数枚を積合せた際,丸い耳部同志が重なり合う為容器間に空気Sを生じさせる役目を果し,積合せた容器を一枚々々剥しやすくする上で非常に効果的となり,スタツキング防止を完遂する。尚,第6図は従来公知の容器側を示したもので,このように折返し縁が形成してあるのみでは,この縁同志が嵌り合つてしまつて積合せた容器が密着してしまつて剥し難くなつてしまい,スタツキングを生じ包装作業能率を著しく悪くするのである。」(6頁3行〜13行)?E「以上のようにして本考案によれば,・・・スタツキングが完全に防止されるので,これらにより包装作業を簡便に能率化,省力化し,・・・生産性向上に大きく寄与する。更に,従来成型品によると縁部が折返されて切口(端)が若干外側に向つていたので,包装作業中にフイルムを切つてしまう事態がしばしば生じ,又時には手指等を切つてしまうこともあつたが,本考案では耳部が丸く巻込んであるので当りはやわらかく,上記欠点を皆無にし安全性を高める。」(6頁14行〜7頁9行)上記の記載?@及び?Cによれば,刊行物2には,「上周縁を外側下方に曲折垂下させ,垂下縁片部が十分な長さとなるように成型し,垂下片部を曲折内方に巻き込ませて容器周側面3の上縁外周に丸みのある耳部10を形成した皿状容器」が記載されているものと認められる。また,刊行物2の第5図によれば,刊行物2の「トレーの形状」は,積み重ねた際,その耳部10の外面が上下方向に連続して露呈して,略垂直な面として柱状を呈する形状であると認められ,容器を複数枚積み重ねた際に耳部同士が重なりあうことで,容器同士が密着して剥がれにくくなることを防止すること(以下,刊行物2と同様に「スタッキングの防止」という。)ができるものであると認められる。
また,刊行物2の「トレーの形状」は,スタッキングの防止だけでなく,トレーを積み重ねた際,その耳部の外面が上下方向に連続して露呈して,略垂直な面として柱状を呈するものと認められるところ,「折返し縁が形成してあるのみでは,この縁同志が嵌り合うのでスタツキングが生じる」(記載?D)との記載があることに照らせば,「縁同志が嵌り合わないようにす(る)」こと,すなわち,刊行物2の耳部10と同様の形状を備えるようにすれば,「垂下片部を形成して垂下片部を巻き込むようにして形成したもの」でなくても,スタッキングの防止を実現することができることは,当業者にとって明らかというべきである。
b審決は,相違点1の「本件形状構成」の検討において,「容器全体のトレイの形状としてトレーを積み重ねた際,トレーの外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状を採用することは,刊行物2に記載されている。」,刊行物2考案は,「上記の形状を採用することにより,容器を複数枚積合せた際,容器間に空気Sを生じさせ,スタッキング防止を図るものである」と認定している。また,審決は,刊行物1考案「におけるトレーについても,製造過程ないし搬送の過程で積み重ねられる場合が当然想定され,その際,このトレーが,スタッキングを生じるおそれのある形状であることは明らかである。したがって,刊行物1記載の考案と刊行物2記載の考案は共通する課題を有するものといえ」ることを前提にして,刊行物1考案における「周壁の上部外側全周に,上部外周壁に直接形成された保持面」の形状構成について,刊行物2考案を適用して,「容器を複数枚積合せた際,容器間に空気Sを生じさせるよう,外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するものとすることも,当業者がきわめて容易に想到し得るものというべきである。」と認定判断している。
これらによれば,審決は,刊行物2考案として,「スタッキングの防止を図るトレーの形状として,トレーを積み重ねた際,トレーの外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状を採用する」ことを認定したにすぎず,刊行物2記載の「トレーの耳部」を「垂下片部を形成して垂下片部を巻き込むようにして形成する」技術を引用したものではない。
c原告は,上記の形状のトレーを作るプラスチックは,材料として,塩ビ,ポリスチレン以外にはなく,加熱温度は約150℃,厚さも0.3ミリ〜0.5ミリとする以外にはないところ,このような材料をカールさせるために加熱すれば,成形した部分が瞬時に収縮,変形し,その程度も甚だしいから,上記の形状のトレーを製造することはできないと主張する。
しかし,審決は,上記bのとおり,トレーの形状を引用しただけであるから,何らかの方法でその形状を製造することが可能でありさえすれば足り,必ずしも刊行物2記載の方法によって製造することが可能であることまでは要求されない。耳部形状を,刊行物2に記載されている方法(垂下片部を形成して垂下片部を巻き込むようにして形成する)によるのではなく,それ以外の方法(例えば,耳部を中空ではなく,中実とし,耳部形状自体を金型等により製造すること)も考えられるから,刊行物2記載のトレーの形状がおよそ製造不可能であると認めるに足りる証拠はない。
d以上のとおり,審決は,刊行物2考案として,トレーの形状を引用しただけであり,刊行物2記載の製造方法を含めて引用したものではなく,その形状の製造がいかなる方法でも不可能であると認められる事情もないから,刊行物2記載の「垂下片部を形成して垂下片部を巻き込むようにして」「耳部形状」を形成することが実施可能な程度に同刊行物に記載されていないとしても,このことが審決の判断に影響するものとはいえない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
イ原告は,訂正考案の「外周縁に直接」との要件で規定された「トレーの形状」(公報第11図(A)(B)(C))と刊行物2記載の「トレーの形状」は全く異なることを根拠に,審決が訂正考案は刊行物2考案に基づいて容易に想到し得ると判断したことは誤りであると主張する。
しかし,訂正考案の「トレー」は,「平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側全周に,上部外周縁に直接,形成された接着剤塗布面とを有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたPSP(ポリスチレンペーパー)製のトレー」であれば足り,上記(A)(B)(C)記載のトレー形状に限られるものではない。したがって,原告の上記主張は,実用新案登録請求の範囲の記載に基づくものとはいえず,訂正考案の「外周縁に直接」との要件で規定された「トレーの形状」(公報第11図(A)(B)(C))と刊行物2記載の「トレーの形状」は全く異なることを根拠に,審決の判断が誤りであるということはできない。
審決は,相違点1についての判断において,「本件接着剤塗布面構成」につき,トレー包装体において,フィルムとトレーとの保持性を改良するために,トレー周壁の上部外側外周面一周に接着剤塗布面を採用することは周知の技術であり,これを適用して,刊行物1記載のトレー包装体の「トレーの周壁の上部外側全周に形成した(フイルム)保持面」を本件接着剤塗布面構成とすることは,当業者がきわめて容易に想到し得ることと判断しているのであって,このことからすれば,審決は,刊行物1記載のトレー包装体の「フィルム保持面」がその「上部外側外周に直接形成されている」ことを前提に,「本件接着剤塗布面構成」についての想到容易性を判断したものと認められる。また,刊行物2については,上記アのとおり,トレーを積み重ねた際,トレーの外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状を認定したものである。したがって,原告の上記主張は,失当である。
(3)周知技術1についてア原告は,訂正考案は食品の包装用であるから,無害であることが必要であり,ストレッチフィルムと発泡スチロール,POS等の双方に接着されるなどの条件に適合する糊は,本件考案の出願当時,既製のものは存在せず,公報記載のEVA樹脂系の成分の糊を開発することによって,ようやく完成したから,訂正考案を完成させるためには,糊も完成させなければならず,きわめて容易とはいえないと主張する。
しかし,本件訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載には,訂正考案が「食品包装用」であることや,用いられる「接着剤」が「食品包装用の安全な糊(EVA樹脂系)のもの」であることは,何ら特定されていない。したがって,訂正考案が「食品包装用」であって,「食品包装用に用いることが可能な安全な糊」を用いるものであることを前提とする原告の上記主張は,前提において誤りであって,採用することはできない。
イ原告は,訂正考案では,糊がトレーの不要な部分に塗布されないように,トレーを1本に並べて塗布が必要な部分以外が露出しないようにしているが,このような先行技術は存在しないと主張する。
しかし,審決は,「本件接着剤塗布面構成と本件形状構成を同時に採用するとき,接着面として,トレー外側面のうち,底面と垂直をなす平坦面を選択することは,・・・当然のことといい得る範囲の事項である。」と判断しており,訂正考案のように「トレイを1本に並べて塗布が必要な部分が直列上の平面をなすように構成」すれば,接着剤の塗布が必要な部分以外が露出しないようになるのは,当然の効果であって,先行技術の存否が審決の判断に影響することはない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)周知技術3について原告は,刊行物1考案が熱可塑性フィルムを成形温度まで加熱しておき,被包装物の形通り成形しながら真空包装するものであるのに対して,訂正考案は,ストレッチフィルムを伸ばしながら包装し,ストレッチフィルムの収縮力を利用して張るものであって,真空包装ではないところ,トレーの周囲を略垂直にしておかなければ,接着がうまくいかないから,訂正考案は,トレーの周囲をほぼ垂直としたものであり,訂正考案は,刊行物1考案に周知技術3を適用しても,きわめて容易に想到し得るものではないと主張する。
ア本件訂正後の実用新案登録請求の範囲においては,「ストレッチフィルム」を用いること及び「トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆」することは規定されているが,訂正考案で用いるストレッチフィルムの材質や特性等は特定されておらず,真空包装以外の包装方法を用いるものに限定されているわけでもない。
イ訂正明細書には,次の記載がある。
「〔産業上の利用分野〕この考案はストレツチフイルムによるトレー包装体に関するものである。
〔従来の技術〕現在スーパーマーケツト等において,肉,魚等のトレー包装体として,ストレツチフイルムを,トレー上にオーバーラツプしたものが広く普及している。この為の包装用器具として,手動のハンドラツパーと呼ばれるものから完全自動機に至るまで種々のものが提供されている。これらの包装器具に共通した基本的な包装方法は,トレー全体をフイルムで包み込み,特に,トレーの裏側に於いてフイルムを二重・三重に重ね合せてフイルムの自己粘着性を利用しながら,この重ね合せ部分でフイルムをシールするという方法である。この最終の包装形態はいずれの機械も同一であり,そこに至るまでの操作と装置が相違しているにすぎない。」(1頁16行〜27行)上記の記載からも明らかなように,トレーをオーバーラップするフィルムとして,常温で延伸性のあるフィルム,すなわちストレッチフィルムの自己粘着性を利用しながら用いることは,本件実用新案の出願前から広く行われていた周知の技術であると認められる。
ウ前記イのとおり,ストレッチフィルムを用いてトレーをオーバーラップするに当たり,ストレッチフイルムを伸ばしながら,その自己粘着性を利用して包装することが常套手段として本件出願前において広く採用されていることに照らせば,刊行物1考案において,上フィルム(25)として,ストレッチフィルムを使用し得ることは,当業者にとって明白な事項というべきである。
そして,刊行物1考案における上フィルム(25)が,真空包装に限定的に使用されるものと解すべき技術的根拠は何ら見当たらないから,刊行物1考案において,上フィルム(25)にストレッチフィルムを採用し,これを伸ばしながら,その自己粘着性を利用してトレーの上部外周縁との接触部に密着させることは,当業者が適宜採用し得ることである。
エ原告は,ストレッチフイルムを伸ばしながら包装し,縮む力を利用して張る場合には,トレイの周囲を略垂直にしておかなければうまくいかないものであるから,本件訂正考案は,トレイの周囲をほぼ垂直としたものであり,きわめて容易考案することができるものではないと主張する。
しかし,前記(2)アaのとおり,刊行物2には,トレーの周囲をほぼ垂直としたものが開示されている以上,訂正考案のトレーの周囲がほぼ垂直であることをもって,進歩性を有するものとすることはできない。
オ以上によれば,原告の上記主張を採用することはできず,審決の判断に誤りはない。
3結論以上に検討したところによれば,審決取消事由はいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲
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