全容
第1請求の趣旨(甲事件)1被告は,原告P1に対し,別紙イ号物件目録及び別紙ロ号物件目録記載の爪切りを製造し,輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならない。 2被告は,原告P1に対し,別紙イ号物件目録及び別紙ロ号物件目録記載の爪切り,それらの半製品(同目録記載の構造を具備しているが,爪切りとして完成するに至らないもの)及びそれらの製造用金型を廃棄せよ。 3被告は,原告P1に対し,528万円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (乙事件)4被告は,原告有限会社廣田工具製作所に対し,770万円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (両事件共通)5訴訟費用は,被告の負担とする。 6仮執行宣言第2事案の概要1本件は,次のような事案である。 (1)甲事件後記実用新案権を有する原告P1は,被告が輸入販売等する爪切りは同実用新案権に係る考案の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,?@同実用新案権に基づき,それらの輸入販売等の差止め及びその在庫品や半製品等の廃棄を,?A同実用新案権侵害並びにそれに基づく被告の爪切りに対する廃棄請求権を侵害した不法行為又は廃棄義務の債務不履行に基づき,原告P1が被った528万円の損害賠償及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した。 (2)乙事件後記実用新案権について独占的通常実施権の設定を受けたとする原告有限会社廣田工具製作所(以下「原告会社」という )は,被告による上記爪切 。 りの輸入,販売等の行為は原告会社の独占的通常実施権を侵害する不法行為を構成するとして,原告会社が被った770万円の損害賠償及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した。 2前提事実(争いがないか弁論の全趣旨により認められる )。 (1)原告P1は,下記の実用新案権を有している。なお,原告会社は同実用新案権の独占的通常実施権の設定を受けていると主張するが,これに対して被告は 「不知」と答弁している。 ,(以下,この実用新案権を「本件実用新案権」といい,同実用新案権に係る考案を「本件考案」という。また,本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という )。 考案の名称爪切り出願日平成15年3月31日出願番号実願2003-1715登録日平成15年7月16日登録番号実用新案登録第3096809号実用新案登録請求の範囲別紙登録実用新案公報記載のとおり(2)本件考案は,次のとおり分説される。 A操作杆の操作と共に作動する作動片の先端で係止された下刃が,前記本体に固定的に設けられた上刃に対して該本体の保持孔より前後摺動移動する爪切りにおいて,B前記保持孔の上下面の各々の対向部に形成され,螺子を挿通するための螺子挿通孔と,C前記上刃の前後方向の途中箇所に形成され,前記螺子を挿通するための上刃固定孔と,D前記上刃の後端から前記上刃固定孔の近傍までに形成され,前記作動片の先端部の前後移動を案内するレールと,E前記下刃の前後方向の途中箇所に形成され,前記螺子を挿通すると共に該下刃の前後移動を許容すべく前後方向に長尺状とされたガイド孔と,F前記下刃の後端部に形成され,前記作動片を係止する係止孔と,G前記作動片に形成され,前記下刃の前記係止孔と係合する係合部と,Hを備えたことを特徴とする爪切り。 (3)被告は,別紙イ号物件目録記載の爪切り(以下「イ号物件」という )。 を中国から輸入し 「スーパープロネイルトリマー」という商品名で販売し ,たが,原告P1から実用新案権侵害の警告を受けたことから,部分改造を施したもの(以下,この改造品を「ロ号物件」という )を同じ商品名で販売 。 した。 イ号物件は本件考案の技術的範囲に属する。 ロ号物件は本件考案の構成要件のうちのA,C,D,F,G及びHを充足する。 (4)原告P1は,被告に対し,平成18年2月6日付「通告書」と共に本件考案に係る同実用新案技術評価書を送付して警告し,それら書面は同月8日に被告に到達した(以下「本件警告」という。甲4の2,5の2 。また, )原告会社は,被告会社に対し,平成18年11月11日付「警告書」を同実用新案技術評価書を添付して送付し,同警告書は同月14日に到達した。 3争点(1)被告によるイ号物件及びロ号物件の輸入販売等が原告P1の有する本件実用新案権及び原告会社が有すると主張するその独占的通常実施権を侵害するか。特にロ号物件が本件考案の構成要件B及びEを充足するか。 (2)イ号物件についての輸入販売等のおそれの有無(3)被告による原告P1の廃棄請求権侵害の成否(4)本件実用新案権侵害についての被告の過失の有無(5)損害額第3争点に関する当事者の主張1争点(1)(侵害性)について【原告らの主張】(1)ロ号物件の構成は,別紙ロ号物件目録記載のとおりであり,その構成ロ-?Uは本件考案の構成要件Bを充足し,その構成ロ-?Xは本件考案の構成要件Eを充足する。したがって,ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属する。 (2)ロ号物件に関する被告の主張に対する反論仮に被告が主張するロ号物件の改造点を前提にするとしても,ロ号物件は本件考案の構成要件B及びEを充足する。 すなわち,構成要件Bは 「前記保持孔の上下面の各々の対向部に形成さ ,れ」として「孔」の位置関係等を示した上で 「螺子を挿通するための螺子 ,挿通 「孔」として 「孔」の機能に着目して表現した要素である。つまり, 」,「孔」が,上記位置関係等にあり 「孔」が 「螺子を挿通するための螺子 ,,挿通」する機能を有する「孔」であるならば,実際に 「螺子」が挿通され ,ていなくとも,構成要件Bを充足するのである。 ,,「 」 同じように 構成要件Eは前記下刃の前後方向の途中箇所に形成されと「孔」の位置関係等を示した上で 「前記螺子を挿通すると共に該下刃の ,前後移動を許容すべく」機能を有する「前後方向に長尺とされた」形状を有した(長尺故に「ガイド」となる機能も有している「孔」として 「孔」 。),の機能に着目しつつその機能を全うできるような形状を表現した要素である。つまり 「孔」が,上記位置関係等にあり,上記機能を有した「前後方 ,向に長尺とされた」形状を有するのであれば,実際に 「螺子」が挿通され ,ていなくとも,本件構成要件Eを充足するのである。 被告の主張の要点は,要するに,ロ号物件では螺子が挿通されていないから 「挿通孔 「ガイド孔」がないというものであるが,構成要件B及びE ,」はいずれも「孔」を機能に着目して表現した要素である以上,実際に螺子が挿通されていないからといって,機能を有する「孔」がなくなるわけではない。そもそも,被告の主張が許されるのならば,例えば自ら侵害を認めたイ号物件の螺子を留めず販売し,螺子を別売りにするか消費者が独自に螺子を購入する方法等を採れば侵害を免れることになるが,そもそも螺子が実際に存在すること,螺子の長さや固定方法は,本件考案の構成要件要素でもない以上,そのような主張は認められないはずである。被告のロ号物件に関する主張は,これと同様の主張であり失当である。 そして,ロ号物件も,下刃の容易な抜き出し及び容易な取り付けができるという本件考案の作用効果を有している。この作用効果は,本件考案の最も本質的な作用効果の一つといってよく,この作用効果が同一である以上,ロ号物件における作用効果が同一ではないと主張することは許されない。 (3)まとめ前提事実記載のとおりイ号物件は本件考案の技術的範囲に属し,上記のとおりロ号物件も本件考案の技術的範囲に属するから,それらの輸入販売等の行為は本件実用新案権を侵害する行為である。 また,原告会社は原告P1から本件実用新案権の独占的通常実施権の設定を受けているが,被告の前記行為は,原告会社の独占的通常実施権を侵害する行為でもある。 【被告の主張】(1)ロ号物件の構成が別紙ロ号物件目録記載のとおりであることは否認し,ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属することは争う。 被告は,当初はイ号物件を販売していたが,原告P1から,イ号物件が本件実用新案権を侵害している旨の指摘を受けたため,?@保持孔の上下面の各々の対向部に形成され,螺子を挿通するための螺子挿通孔を廃し,かつ,?A下刃の前後方向の途中箇所に形成され,前記螺子を挿通すると共に該下刃の前後移動を許容すべく前後方向に長尺とされたガイド孔を有しない構造に改良した。 これにより,ロ号物件の保持孔の下面の対向部の孔は 「螺子を挿通する ,ための螺子挿通孔 (構成要件B)ではなく,また,同様に,ロ号物件の長 」尺の孔には螺子が挿通されておらず,当該孔は「該下刃の前後移動を許容すべく前後方向に長尺状とされたガイド孔 (構成要件E)ではない。 」そして,これによりロ号物件は,爪を切る際に下刃を左右にぶれることなく真っ直ぐに安定して保持孔から前進移動させて確実に爪を切ることができるとか,取り換えた後の上刃と下刃の密着度を螺子の締め具合によって容易に調整することができるという本件考案の作用効果も有していない。 したがって,ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。 (2)原告らの主張(3)は,イ号物件が本件考案の技術的範囲に属する点を除き争う。 2争点(2)(イ号物件の輸入販売等のおそれ)について【原告P1の主張】被告は,ロ号物件は輸入したイ号物件を改造して製造したと主張しているから,ロ号物件の製造に先立って,イ号物件の「輸入」という実施行為をしていたことになる。 また,被告は,イ号物件をロ号物件に切り替えて販売したのではなく,後記争点(5)に関する原告らの主張(3)ウのとおり,ロ号物件の販売後もイ号物件とロ号物件とを混同して販売していた。 したがって,ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かにかかわらず,イ号物件の輸入販売等の差止めは,なお認められるべきである。 【被告の主張】被告は,輸入したイ号物件を改良してロ号物件を製造したのであるが,イ号物件がロ号物件に改良された時点でイ号物件は存在しなくなるのであるから,イ号物件に関する差止請求など認められない。 また,原告P1が主張するような,被告がイ号物件とロ号物件とを混同して販売したことはないから,この点でもイ号物件に関する差止請求など認められない。 3争点(3)(廃棄請求権侵害・廃棄義務の不履行の成否)【原告P1の主張】原告P1は,イ号物件及びその半製品について,本件実用新案権に基づき廃棄請求を求めているが,廃棄請求権は,差止請求権を実効あらしめるために認められるものであるから,侵害行為が発覚した時点において成立し,その時点から侵害者において,廃棄の義務が生ずることになる。つまり,被告による本件実用新案権の実施行為たるイ号物件の「輸入」時において,原告P1においては廃棄請求権が,被告においては廃棄義務が,両者間の債権債務関係として生じたことになる。そして,被告は,当初からイ号物件が本件実用新案権侵害であることを認めているのであるから,それに伴い原告P1に廃棄請求権が生ずることも当然認識していることになる。 ところで,第三者が他人の債権の存在を知りながら,それを消滅させた場合には,債権侵害として不法行為責任が成立する。そして,本件において,ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属しない場合には,被告は,一旦生じたイ号物件についての廃棄義務を履行することなく,ロ号物件に改造し,廃棄の義務を免れていることになり,これは原告P1が有するイ号物件の廃棄請求権を侵害する行為として不法行為を構成するとともに被告が負う廃棄義務の不履行を構成する。 被告は,イ号物件をロ号物件に改造することは廃棄請求権の趣旨に沿うと主張するが,廃棄行為の趣旨は,実用新案権侵害により得たもので,侵害者が利益を得ることのないようにする趣旨も含むのであるから,被告が廃棄行為を履行せず,廃棄行為に伴う負担を免れた以上,廃棄義務違反に基づく損害賠償請求は認められるべきである。 【被告の主張】廃棄請求権は,侵害品である製品や半製品が残存している場合に,実用新案権の保護という差止請求の趣旨を完全ならしめるため,将来の実用新案権侵害を予め予防することを趣旨とするものである。本件において,イ号物件が,今後何ら原告P1の実用新案権を侵害するおそれのない態様であるロ号物件に改良する行為は,実用新案権の保護という差止請求の趣旨及び廃棄請求の趣旨に沿うものであり,これにより原告P1に何らかの損害を与えることはありえないのであるから,当該改良行為を,廃棄請求権の侵害と捉えるべきではない。 また,そもそも通常いわれている債権侵害を理由とする不法行為責任とは,第三者の行為によって債権が侵害された場合に,当該第三者が債権者に対して負う責任のことであって,本件のように当事者間におけるものではない。 4争点(4)(本件実用新案権侵害についての被告の過失)について【原告らの主張】原告会社は,本件実用新案権の実施品を平成15年4月2日から販売すると, , ともに ペット関連の卸売会社の開催する展示会にも実用新案品として出展し全国にわたって販売し,平成16年1月8日にはその登録実用新案公報が発行された。 また,同実施品については,業界月刊紙である「ペット産業情報新聞ペット&Life」第57号(平成16年4月号)や,ペット専門通販カタログである「通販クラブ2004春・夏号」に掲載されて宣伝広告がされた。そして,これらの宣伝広告等により,原告会社の実施品は,ペットの爪切りを取り扱う業者の間において,実用新案品として周知となっていたのであり,被告のようにペット業界で類似の商売を営む者が,これら業界紙や通販カタログに目を通さなかったことは到底あり得ない。 さらに被告のイ号物件は,原告会社の実施品と機構,サイズ,パッケージのすべてにわたって酷似しているから,原告会社の実施品を模倣し,その一部を改変しただけのものである。 以上よりすれば,被告には,遅くとも被告がイ号物件を輸入したとする平成17年10月の時点において,故意か少なくとも過失があったというべきである。 【被告の主張】争う。被告は「ペット産業情報新聞ペット&Life」なる新聞も「通販クラブ2004春・夏号」も知らない。原告会社の実施品が実用新案品として周知になっていたとの事実はない。 5争点(5)(損害額)について【原告らの主張】(1)原告P1関係ア実用新案権侵害に基づく損害(実用新案法29条3項), 。, 本件における被告の実施行為は 輸入行為及び販売行為である そして輸入及び販売の一連の行為について実用新案法29条3項が適用されるべきであるから,それにより原告P1が受けた損害額の計算式は 「輸入数 ,量全数×1個当たり販売代金×実施料率」ということになる。 本件では,輸入数量は1万個を下らず,1個当たり販売代金は被告の主張を援用して1200円であり,実施料率は20%とするのが相当であるから,原告P1の受けた損害額は240万円を下らない。 なお,損害額算定の対象である上記「輸入数量全数」には,輸入時点では後にロ号物件に改造されたものもイ号物件の状態で輸入されているから当然に含まれる。また,イ号物件として輸入されたものは後にイ号物件,ロ号物件のいずれで販売されたかを問わず,又は未だ販売されていないものも含めて実施料の算定は 「輸入個数全数」を基にすべきである。輸入 ,も,実用新案の実施行為であり(実用新案法2条3項 ,輸入後未だ販売 )されていない実施品についても,実施料が発生することは明らかであるからである。 また,実施料算定は 「販売代金」を基にすべきである。本件における ,実用新案権実施行為は,輸入↑販売という一連の行為であり,輸入は販売の当然の前提であり,輸入後に販売することで実用新案権は消尽するともいえ輸入後の販売行為について再び実施料の取得の機会はなく,また,輸入の際の実施料率を決定する際に,輸入後の販売代金を何ら考慮することなく定められるはずがないからである。 なお,実施料率については,原告P1にとって,本件実用新案権の存在, ,, が 市場に優位を保つ重要な位置づけを持っており 侵害行為がなくとも特に競業他社である被告に実施することはあり得ないのであるから,侵害行為の違法性も加えて,その実施料率は,20%とされるべきが妥当である。 イ廃棄請求権侵害の不法行為又は廃棄義務の不履行に基づく損害被告の主張によると,イ号物件の輸入個数は2016個,イ号物件の販売個数は,738個ということになっており,イ号物件からロ号物件に改造された数は明らかとはなっていないが,被告の主張によっても,イ号物件輸入個数2016個全部について原告P1の廃棄請求権及び被告の廃棄義務が既に成立していることになる。したがって,原告P1の被った上記廃棄請求権侵害又は廃棄義務不履行による損害は,原告P1が被った実施料相当の損害,すなわち,輸入数量(1万個)×1個当たり販売代金(1)(),。, 200円 ×実施料率 20% により 240万円を下らない そしてこの損害は,上記アの実施料相当額の損害とは別個に,それに付加して算定されるべきものである。 なお,損害算定方法の法的根拠については,実用新案法29条3項を類推適用するかその趣旨を類推適用すべきである。本件においては,イ号物件輸入という実用新案権実施行為を行い,原告P1において廃棄請求権が成立しているにもかかわらずこれを無視し,軽微な改造を加え,しかも,「製造番号 「製品名」を変えることなく,従前の商品と混同させて販売 」しているが,ロ号物件は,被告も認める明らかな侵害品であるイ号物件に再度改造することも十分に容易な商品である。本件において,一旦生じた廃棄請求権を無にすることも何ら損害賠償の対象ともならない,又は実用新案法上の特別規定による算定方法が認められず軽微な損害額で算定されるのであれば,侵害者にとって廃棄をするよりもよりダメージが少ない行為を選択することが横行することは当たり前であり,そうであれば,法が特別に権利者保護のために認めた廃棄請求の規定が死文化するはずである。したがって,本件において実用新案法29条3項を類推ないしその趣旨を類推適用することについて何ら問題はない。 ウ弁護士費用原告P1が本件訴訟を追行するために必要な弁護士費用としては48万円を下らない。 (2)原告会社関係(実用新案法29条2項の類推適用)ア原告会社は,原告P1から本件実用新案権の独占的通常実施権の設定を受けて,本件考案の実施品を独占的に製造販売している。 イ被告が本件実用新案権登録後に販売したイ号物件及びロ号物件の数量は,少なくとも1万個を下らない。また,それにより被告が受けた利益の額は,原価の相当安い中国から仕入れて販売していることなどから,少なくとも1個当たり700円を下らない。したがって,被告によるイ号物件及びロ号物件の販売行為により原告会社が被った損害は,700万円を下らない。 ウ弁護士費用原告会社が本件訴訟を追行するために必要な弁護士費用としては70万円を下らない。 (3)被告の主張に対する反論ア輸入回数及び数量の主張についてイ号物件の輸入個数について,被告は,2016個としているが,わざ, ,「」 わざ金型を製作し 全国に被告会社のチラシをまきGrooming Journalという雑誌(平成17年12月1日発行)に宣伝広告するとともに読者5名向けにプレゼントをし,展示会用のパンフレットを作る等の多大な広告費をかけ,平成18年5月24,25日に開催された北海道の展示会においても人員を投入して販売しているにもかかわらず,この輸入回数・個数だけとは到底信じられない。現に,平成18年4月19日に開催された大阪展示会において,被告の東京営業所課長であるP2は,原告P1からの輸入数量の問い合わせに対して 「1200」くらいと答えており,被告 ,が主張する輸入個数と食い違っている。 イイ号物件の販売個数の主張についてイ号物件の販売個数について,被告は,本件訴訟提起前には原告P1に対し 「743個 (甲13の3)と説明していたが,被告は,それはロ ,」号物件を含むものであるとして,イ号物件の販売個数を「738個 (乙」2)と訂正するに至った。 しかしながら,乙2の作成日付が平成18年4月1日であるのに対し,甲13の3の作成日付は平成18年4月7日であって,間違うはずがないのに,訴訟前の段階では敢えて後の日付の甲13の3が提出されており,被告の当該文書の信用性は乏しい。また,個数をロ号物件が入っていたとして訂正する以上,被告としては,イ号物件とロ号物件とを明確に区別して販売していたことになるが 「製造番号「商品名」が両者とも同じで ,」,あり,ロ号物件を含んでいたとされる甲13の3も,イ号物件のみとされる乙2でも,両者証拠の「担当者別商品別売上表」の題の下にあり検索の上,資料を選んだキーワードとなると思われる「担当「商品「分類」,」,コード」も同じものが記載されている。どのようにイ号物件とロ号物件とを区別できたのか分からない。 また,被告のP2は,前記大阪展示会において 「在庫は売りたい 「あ ,」と100個」と言っており,被告主張の輸入個数(2016個)を前提としても,その時点で約1900個を販売していたことになる。 ウイ号物件からロ号物件への切替えの主張について被告は,平成18年3月24日にイ号物件の販売を中止し,ロ号物件に改造した上で,同年4月7日からロ号物件に切り替えて販売したと主張する。 しかし,被告が販売した商品がイ号物件であるのかロ号物件であるのかを事後的に区別することはできないところ,?@被告の取引先である有限会社ペテックの話では,同社が被告に対してイ号物件が本件実用新案権を侵害することについて問い合わせたところ,被告は,構造が違うので大丈夫,,, , と回答したこと ?A被告は 本件警告後 自ら本件実用新案権侵害を認め製造販売を中止した旨回答しながら,自社及び他社のホームページへの商品掲載を中止することなく販売を継続していること,?B被告の代理人弁理士は,平成18年4月7日に原告P1に改良品(ロ号物件)の資料を送付後,原告側の見解を待って改良品の販売を予定していると回答したこと,?C平成18年4月19日の大阪で開かれた展示会でも 当初の商品名ス,(「ーパープロネイルトリマー )も品番( 032289 )も変えることな 」「」く,被告が主張している「部品変更品」の記載さえもすることなく掲載し,,, たパンフレットを配布して商談をし 実際にも商品を販売し 同展示会で被告のP2が 「おおっぴらには売れないが,在庫は売りたい」旨答えて ,, , , いること ?D平成18年5月24日 25日に札幌で開かれた展示会でもイ号物件とロ号物件を共に販売していたことからすると,被告は,イ号物件とロ号物件を混同して販売していたといえる。そして,イ号物件の販売とロ号物件の販売とを明確に区別できない以上,ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属しないとしても,ロ号物件販売分も損害に加えて算定すべきである。 エイ号物件の経費の主張について(ア)商品代金についてイ号物件に対応する,材質がプラスチックで製造を中国に依頼した爪切りについて,原告らが株式会社マルヨシに見積りを依頼したところ,梱包の違いにより,1個186円又は190円であった。このことからして,イ号物件の商品原価は1個200円を下回ることはないはずである。 (イ)輸入経費について被告が主張する輸入経費については,各項目がなぜ原価といえるのかが不明であり,争う。 (ウ)販管費について否認する。 【被告の主張】(1)イ号物件の売上げについて被告の代表取締役であるP3は,平成17年9月26日,イ号物件の製造を委託していた中国の工場を訪問した帰りに,既に製造されていたイ号物件を幾つか持ち帰った。そして,同年10月26日,その持ち帰り品を含めたイ号物件2016個について輸入手続を経て輸入した。 被告は,イ号物件を販売したが,原告P1からイ号物件の販売が本件実用新案権を侵害する旨の指摘を受けたため,平成18年3月24日をもってイ号物件の販売を中止し,以後はイ号物件を販売していない。この間のイ号物, 。, 件の売上数は合計685個 売上金額は合計62万4100円である なお被告は,サンプルや添付(いわゆる「おまけ )等として105個を取引先 」に無償で交付した。 また,本件警告の翌日である平成18年2月9日から上記同年3月24日までのイ号物件の売上数は合計247個,売上金額は合計22万4400円である。なお,このほかに被告は,サンプルや添付(いわゆる「おまけ )」等として19個を取引先に無償で交付した。 そして,被告は,社内でイ号物件をロ号物件に改良した上で,ロ号物件を平成18年4月7日から販売した。 (2)イ号物件の経費についてア輸入原価(商品代金及び輸入経費)について被告は,上記イ号物件を輸入するに当たり,他の商品(ステンレスカンシL)も一緒に輸入した。その内訳は次のとおりである。 (ア)商品代金aイ号物件(スーパーネイルトリマー)について@2.08ドル×2016個=4,193.28ドル4,193.28ドル×116.76(輸入時の為替レート)?遂烽S89,607円bステンレスカンシLについて@2.34ドル×1728個=4,043.52ドル4,043.52ドル×116.76(輸入時の為替レート)?遂烽S72,121円c合計8,236.8ドル(金961,728円)(イ)商品代金及び輸入経費a輸入代金(上記(ア))961,728円b輸入消費税 47,500円c乙仲手数料(免税)41,163円d乙仲手数料(課税)16,000円e乙仲消費税 800円f海上保険料 3,707円g銀行利息 13,163円h銀行諸費用 13,698円i銀行消費税 1,096円j森田トレーディング株式会社に対する諸費用144,259円k上記消費税 7,213円合計金1,250,327円上記商品代金及び輸入経費を,イ号物件とステンレスカンシLの各商品代金で按分することによってイ号物件の輸入経費を算定すると,次のとおりイ号物件の輸入経費は1個当たり316円となる。 1,250,327円×(4,193.28÷8,236.8)÷2016個?垂R16円なお,前記添付,サンプル及び不良品の代品は,被告がそれらを取引先に対して無償で交付することによってイ号物件の販売数を増やし,売上げを上げたのであるから,それらに要する費用もイ号物件の販売に要した経費として控除すべきである。 イ販管費について被告の平成18年4月30日期を基に算定すると,上記以外にイ号物件の販売のために要する経費として明らかにできるものだけで以下のとおりとなる。 (ア)輸入商品のみにかかる費用倉庫代(主に輸入商品を保管している倉庫代)11,466,000円高速代(倉庫を往復する高速代)282,964円人件費(倉庫を往復する人員の人件費)694,200円燃料代(倉庫を往復するための車のトラック代)229,919円合計12,673,083円(イ)輸入商品及び国内商品全般にかかる費用商品郵送代(取引先に商品を郵送する費用)11,900,105円商品包装代(販売するときの商品包装代)582,592円合計12,482,697円被告では,輸入商品と国内商品の比率が約半分であることから,平成18年4月30日期を基にした,上記費用の売上高に対する割合は,以下のとおりとなる。 372,079,240円÷2=186,039,620円(輸入商品に対する売上高)12,673,083円+金12,482,697円÷2=18,914,432円(輸入商品に対する費用)18,914,432円÷186,039,620円=0.1016・・以上から明らかなとおり,被告がイ号物件を販売するにあたって新たに要した販管費だけをもってしても,当該費用は,売上額の1割を下回ることはない。 第4争点に対する当裁判所の判断1争点(1)(侵害性)について。 (1)イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがない(2)ロ号物件についてア弁論の全趣旨によれば,ロ号物件は別紙ロ号物件目録記載のとおりの構成を有していると認められる(ただし,同目録中で付された部材名は,単に当該部材を指称するための便宜的なものにすぎず,本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載と同じ名称の部材名が使用されている場合でも,必ずしも同目録中のそれら部材が実用新案登録請求の範囲中の同一名称の部材に該当することまでもここで認定する趣旨ではない。。)そして,同目録によれば,ロ号物件がイ号物件と相違する点は,イ号物件においては 「前記13Ab螺子挿通孔-前記11c上刃固定孔-前記 ,12bガイド孔までを,同厚みと同じ長さを有する2つのB螺子を以て挿通し,Nナットで留める固定方法を採用した (構成イ-?[)のに対し, 」,「 , ロ号物件では前記13Ab螺子挿通孔-前記11c上刃固定孔までを同厚みと同じ長さを有する2つのB螺子を以て挿通し,Wワッシャーで留める固定方法を採用した (構成ロ-?[)点にあると認められる。 」ロ号物件が本件考案の構成要件A,C,D,F,G及びHを充足することは当事者間に争いがないので,以下,構成要件B及びEの充足性について検討する。 イ証拠(甲1)によれば,本件明細書には次の記載があることが認められる。 (ア)考案が解決しようとする課題について【0019】…上記した従来の爪切り50(注:図4及び図5に示すもの)には,以下の問題があった。すなわち部に示すように,カバー54は,操作杆55の先端部をも覆うようになっている。ところが,このような構成では,操作杆55を操作するとカバー54と操作杆55の先端部との間に隙間が生じ,操作杆55がスプリングSPの付勢力によって初期状態に戻ったときに,前記隙間に指を挟んで怪我をする可能性がある。 【0020】また,部に示すように,上刃51は,カバー54,保持部53Aと共に一体とされている。爪切り50は,下刃52が上刃51に対して密着した状態で摺動することで爪を切るものであるから,上刃51に対する下刃52の上下方向の微調整は不可欠である。ところが,従来の爪切り50は,下刃52が保持部53Aの保持孔53Aaに保持されるのみで,上刃51に対しては上下方向に,つまり上刃51との密着度を微調整することができないといった問題があった。 【0021】さらに,部に示すように,下刃52は,保持部53Aの保持孔53Aaによって前後方向の移動をガイドされている。ところが,この構成では,下刃52が保持孔53Aaから突出するにつれてその先端が前後方向に対して左右にぶれ,上刃51と下刃52の噛み合わせが適切に行われず,爪を確実に切ることができない可能性がある。 【0022】ないし【0024】また,部に示すように,下刃52は,作動片56の係止孔56aに挿通した係止ピンPSを係止部52cに挿入することで,作動片56と下刃52とを係止状態としている。上刃51及び下刃52は長期の使用後に取り換えることとなる。上刃51は螺子Bを外せば容易に保持孔53Aaから抜き出すことができ,また,螺子Bを螺入すれば容易に取り付けることができる。 ところが,従来の爪切り50は,下刃52を抜き出すために,まずカ, , バー54を外し 次いで操作杆55を本体53の枢支部53Bから外しこのときに一体的に本体53から外れる作動杆56の先端部を引き上げることで係止ピンPSを下刃52の係止部52cから外すことで行う。 取り換えた下刃52を取り付ける際には,係止ピンSPを作動片56の係止孔56aに挿入してなおかつ係止部52cに挿入した状態で,スプリングSPの他端を把持部53Cの係合片53Caに係合しなければならず,枢支部53Bの非常に狭い空間で同時に行うことは不可能であり,実質的には下刃52を取り付けることができないといった問題あった。 【0025】本考案は上記した問題点に鑑みてなされたものであり,使用時に指を挟む危険性がなく,また,下刃の上刃に対する密着度を調整することができると共に,下刃がぶれることなく安定して前後移動させることができ,さらに上刃と下刃を容易に交換することが可能な爪切りを提供することを目的とする。 (イ)考案の実施の形態について【0028】上記構成によれば,本考案の爪切りは,保持孔の上下面の各々の対向部に形成された螺子挿通孔と,上刃の上刃固定孔と,下刃のガイド孔とが連通し,これらに螺子を挿通するから,この螺子を締めることで保持孔の上下面の(上下)間隔が狭くなる。よって,上刃に対して下刃が密着して互いの刃が確実に噛み合うことになり,爪を確実かつ容易に切ることができる。 【0029 【0030】】また,本考案の爪切りは,上記したように螺子で上刃が保持孔に取り付けられているから,螺子を外すのみで上刃を保持孔から抜き出すことができる。また,下刃は,螺子で保持孔に,さらに作動片の係合部と係止孔とが係合することで該作動片に,取り付けられているから,螺子を外して,一旦保持孔内に該下刃を退入させて係合部を係止孔から外せば保持孔から抜き出すことができる。 すなわち,従来のように全体を分解しなくても,螺子を外すのみで容易に下刃を保持孔から抜き出すことができる。そして,上記の逆を行えば同じく取り換えた下刃を容易に取り付けることができる。なお,取り換えた後の上刃と下刃の密着度の調整は上記したように容易に行える。 【0031】さらに,本考案の爪切りは,螺子がガイド孔に挿通しているから,ガイド孔に挿通された螺子が前後移動する下刃の左右のぶれを規制することになる。従って,爪を切る際に保持孔から突出するように前進移動する下刃は,左右にぶれることがなくなる。よって本考案の爪切りは,確実に爪を切ることができる。 (ウ)考案の効果について【0056】上記構成によれば,…従来のように全体を分解しなくても,容易に下刃を保持孔から抜き出すことができると共に取り換えた下刃を容易に取り付けることができ,また,取り換えた後の上刃と下刃の密着度を螺子の締め具合によって容易に調整することができ,さらには,爪を切る際に下刃を左右にぶれることなく真っ直ぐに安定して保持孔から前進移動させて確実に爪を切ることができる。 ウ上記の本件明細書の記載からすれば,本件考案は次の3点において従来技術と比べて特徴的な作用効果を奏するものであると認められる。 (ア)上刃と下刃の密着度の調整を螺子の締め具合によって容易に行うことができる点これは,本件考案の爪切りでは,保持孔の上下面の各々の対向部に形成された螺子挿通孔と,上刃の上刃固定孔と,下刃のガイド孔とが連通しており,これらにすべての孔に螺子を挿通することから得られる作用効果である。 (イ)全体を分解せずに螺子を外すだけで下刃の取り換えが容易にできる点これは,本件考案の爪切りでは,下刃が,螺子で保持孔に係合し,さらに作動片の係合部と係止孔とが係合することで該作動片に取り付けられていることによる作用効果である。 (ウ)爪を切る際に前後移動する下刃の左右のぶれを規制できる点これは,本考案の爪切りでは,螺子が下刃に形成されたガイド孔に挿通していることによる作用効果である。 エそうすると,これらの特徴を同時に兼ね備えるためには,本件考案の爪切りは,保持孔の上下面の各々の対向部に形成された螺子挿通孔と,上刃の上刃固定孔と,下刃のガイド孔とが連通し,これらに螺子が挿通されているものであることを要すると認められるから,構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」は,いずれも螺子を挿通されていることを要すると解するのが相当である。 この点について原告らは,構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」は,いずれも螺子を挿通し得る構造を備えていれば足り,実際に螺子が挿通されていることは要しないと主張する。しかし,先に認定した本件考案の特徴的な作用効果は,螺子が挿通されていて初めて同時に実現されるものであるから,構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」たるためには,それらの孔に螺子が挿通していることを要するものと解するのが相当であり,原告らの上記主張は採用できない。 また原告らの主張は,本件考案の上記3つの特徴は,いずれか一つでも実現されていれば足りるとする趣旨にも見受けられるが,前記本件明細書の記載によれば,本件考案の爪切りは,上記の特徴をすべて具備するものとして記載されていると認められるから,そのうちの一部でも具備すれば足りるとは解することができない。 さらに原告らは,ロ号物件の販売が許されるのならば,イ号物件の螺子を留めずに販売し,螺子を別売りにするか消費者が独自に螺子を購入する方法を採れば侵害を免れることになり不当であると主張する。しかし,ロ号物件はそのままでもペット用の爪切りとしての機能を果たし得るものである上,本件全証拠によっても,被告がロ号物件を販売するのに螺子を別売りにするとか消費者に対して独自に螺子を購入して付け替えることを勧める販売方法を採用しているとは認められないから,ロ号物件の販売に本件考案の間接侵害的な要素を認めることもできず,原告らの上記主張は採用できない。 オ以上を踏まえると,ロ号物件は,原告らの主張によっても,前記のとおり 「前記13Ab螺子挿通孔-前記11c上刃固定孔までを,同厚みと ,同じ長さを有する2つのB螺子を以て挿通し,Wワッシャーで留める固定方法を採用した (構成ロ-?[)ものであって,螺子挿通孔と,上刃の上 」刃固定孔と,下刃のガイド孔とにかけて螺子が挿通されている構成を有しないから,同目録ロ-?Uの「13Ab螺子挿通孔」は本件考案の構成要件Bの「螺子挿通孔」を充足せず,また,同目録ロ-?Xの「12bガイド孔」は本件考案の構成要件Eの「ガイド孔」を充足しない。 したがって,ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。 (3)以上によれば,被告によるイ号物件の販売等は原告P1の本件実用新案権を侵害する行為であるが,ロ号物件の販売等は本件実用新案権を侵害する行為ではない。 また,証拠(甲7,8,27)によれば,原告会社は原告P1が全額出資して設立された従業員6名の小規模会社であり,設立当初から原告P1が代表者を務めていること,本件考案の実施品は原告会社のみが製造販売しており,他に原告P1が本件考案の実施許諾をしている例はないこと,本件警告後に被告が原告P1に対して本件実用新案権の実施許諾を求めたのに対して,, 原告P1はこれを明確に拒否したことが認められ これらの事実からすると原告会社は原告P1から本件実用新案権について独占的通常実施権の設定を受けたものと推認される。したがって,被告によるイ号物件の販売は,原告会社の独占的通常実施権も侵害する行為となる。 2争点(2)(イ号物件の輸入販売等のおそれ)について(1)前記前提事実,後掲書証及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア被告は,平成17年10月に中国からイ号物件を輸入し(乙10 ,国)内においてその販売を行った。 イ原告P1(代理人弁護士)が被告に対して最初に本件実用新案権侵害の警告をしたのは,平成18年2月6日付「通告書」によってであった(本件警告 。)() ,「()」 これに対して被告 代理人弁理士 は 同年2月20日付 回答書 1において,精査・検討のために正式回答を同年3月22日まで猶予することを求めた(甲6)後,同年3月7日付「回答書(2 」において,イ号 )物件が本件考案の技術的範囲に属することを確認したことからその製造販売を中止した旨を述べた(甲7 。しかし実際は,被告は,その後もイ号 )物件の販売を継続した(乙11 。)原告P1(代理人弁護士)は,同月22日差出の「催告書」において,被告に対し,イ号物件のホームページからの掲載削除を求めるとともに,正確な製造販売数量の書面による回答を求めた(甲8の各号 。)ウこれに対し被告(代理人弁理士)は,同年4月10日付のファックスにおいて,原告P1(代理人弁護士)に対し,関係資料を添付してイ号物件の輸入販売数量を回答するとともに,同月7日に「改良品 (ロ号物件) 」を原告P1(代理人弁護士)宛てに送付したこと 「改良品」については ,「部品変更品」という表示を明記するようにすることを通知した(甲13の各号 。)エ被告は,同月8日及び9日に仙台で開催された展示会に被告の爪切りを展示した(甲27 。)オ被告は 同月19日に大阪で開催された展示会に被告の爪切りである ス , 「」(,)。, ーパープロネイルトリマーを出品した甲1920その展示場で原告会社の取締役であるP4や原告P1が被告の販売担当者であるP2や担当者に対し,被告の「スーパープロネイルトリマー」について,パテント関係がややこしくなると聞いたが大丈夫かと尋ねたところ,P2や担当者は,いったんは販売を中止したが,改良したので大丈夫である,在庫はメカを改造して在庫分については売りたい旨を答えた(甲28及び29,乙21 。), , カ被告の取引先である有限会社ペテックは 原告P1からの照会に答えて同月25日付の回答書において,原告P1に対し,イ号物件の仕入個数及び在庫数等を回答,仕入開始時期は平成17年11月24日であると回答したが,その際,発売早々の時期にメーカー仲間からイ号物件が実用新案権を侵害するとの連絡を受けたので,被告に照会したところ,構造が違うので大丈夫であるとの説明を受けたとも回答した(甲17 。)キ被告(代理人弁理士)は,平成18年4月27日付の書面において,原告P1に対し,改良品に対する原告P1の見解を待って改良品の販売を開始する予定でいたが,これ以上回答を待ち続けることはできないので,本書面の到達から1週間以内に回答を戴けない場合は改良品の販売を開始する,改良品は本件考案の技術的範囲に属するものではないと考えている旨を通知した(甲18 。)ク原告P1(代理人弁護士)は,同年5月2日付の「催告書」において,被告が改良品とするロ号物件も本件考案の技術的範囲に属するとして,ロ号物件を含めたすべての侵害品の製造販売等の中止と在庫品の廃棄を求めた(甲21の各号 。これに対して被告は,何らの回答をしなかった(弁 )論の全趣旨 。)ケ被告は,同月24日及び25日に札幌で開催された展示会に被告の爪切りを出展した。 コロ号物件は,被告が,輸入したイ号物件を自社で改造したものである。 その改造点は,イ号物件の2つのB螺子を,短尺であるロ号物件の2つのB螺子に取り替え,これに伴いNナットを廃してWワッシャーを使用した点のみにある。そして,被告は,ロ号物件については,商品パッケージの裏面上部に「部品変更品」とのシールを貼付した(乙6の各号 。)サその後,被告は,ロ号物件から13A保持部の底面に設けられた13Ab螺子挿通孔をなくすように更に変更した爪切り(本件訴訟で「ハ号物件」と呼ばれているもの)を中国から輸入し,販売するようになった(弁論の全趣旨 。)(2)以上の事実経過の中で,被告は,イ号物件の販売は平成18年3月24日までであり,ロ号物件への改造を経て,同年4月7日以降は改造後のロ号物件のみを販売していると主張し,これに対して原告P1は,被告は平成18年4月以降もイ号物件とロ号物件を混同して販売していたと主張する。そして,この点は,被告がイ号物件を今後も輸入販売等するおそれがあるか否かに関係するといえる。 そこで検討するに,前記認定事実によれば,被告は,原告P1から直接に警告を受ける前は,イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを否定する態度を示していたことも窺われるが,原告P1から正式に警告を受けた後は,弁理士による検討を経て,イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを一貫して認めている。そして,イ号物件からロ号物件への改造は,2本の螺子を取り替え,ワッシャーを付けることのみによって容易になし得ることであり,さしたる費用や技能を要しないものであって,しかもロ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないものである。これらのことからすると,ロ号物件への改造を考え出し,その実行に着手した被告が,その後もあえてイ号物件の販売を継続するリスクを犯すとは考え難いところであり,輸入した在庫品として存するイ号物件は,すべてロ号物件に改造して販売する(又は販売した)ものと推認するのが合理的である。 この点について原告P1は,被告が平成18年4月以降の前記各展示会においてイ号物件を展示販売していた点を指摘する。しかしまず,仙台展示会においては,原告P1本人の陳述書(甲27)では,被告はイ号物件を展示しており,被告の販売担当者であるP2が「完全な侵害商品を安くで引き取って欲しい 」等と述べたとされているが,これらを裏付ける証拠はない。 。 ,,, , また 大阪展示会においては 前記認定のとおり 被告のP2及び担当者はいったんはスーパーネイルトリマーの販売を中止したが,在庫品についてはメカを改良したので大丈夫であると述べており,この発言からはむしろ大阪展示会の時点ではロ号物件への改造を終えて,それを展示販売していたと考える方が合理的である(原告P1は,被告が大阪展示会でイ号物件を展示していたとして展示写真[甲20]を提出するが,そこに写っている被告の爪切りがイ号物件であると判別することはできない。さらに,札幌展示会 。), 。 においても 被告がイ号物件を展示販売していたことを裏付ける証拠はないまた,原告P1は,被告(代理人弁理士)による平成18年4月27日付の書面の内容からして,そのころまでは被告はロ号物件を販売していなかったはずであると主張する。しかし,同月19日の大阪展示会におけるP2の前記発言からすると,被告は,同展示会までにロ号物件への改造を行い,ロ号物件を展示販売していたと考えられる上,被告(代理人弁理士)による同月10日付の文書の添付資料でも,ロ号物件のパッケージ裏面の「部品変更品」のシールについて 「この表示で出荷しております 」と記載している , 。 のであるから,被告(代理人弁理士)による上記4月27日付の書面の記載は社内実態に反するものであったと認めるほかはないというべきである。 そして,以上述べたことからすると,イ号物件からロ号物件への改造については,被告が主張するとおり,イ号物件の販売は平成18年3月24日に中止され(乙4,22 ,被告ではロ号物件用の短尺の螺子(ビス)とワッ )シャーを同月28日に購入して(乙8 ,自社で改造を行い,同年4月7日 )からロ号物件の販売を正式に開始した(乙5の各号。ただし前日の4月6日に事実上の販売もなされている[乙14 )と認めるほかなく,この認定を ]覆すに足りる証拠はないというべきである。 (3)以上からすると,被告が今後イ号物件を輸入し,販売し又は販売のために展示するおそれがあるということは一般には困難であるように思われる。 しかしながら,被告が今後イ号物件を「輸入」することについていえば,非侵害品であるロ号物件を販売しようとするとイ号物件を輸入することになること,被告はその後にいわゆるハ号物件を輸入しているが,イ号物件の金型が中国の製造元で廃棄されたといった事情は特に窺われないことからして,そのおそれが皆無とまではいえない。また,被告が今後イ号物件を「販売」し又は「販売のために展示」することについても,輸入したイ号物件の在庫が払底したか否かは不明であることに加え,先に認定したように,被告には代理人弁理士による正式回答で社内事実と異なる回答をするような厳密さを欠く面があることからすると,やはりそのおそれが皆無とまではいえない。したがって,被告が,イ号物件を輸入し,販売し又は販売のために展示するおそれがないとまではいえないから,これらの差止請求には理由があるというべきである(他方,被告がイ号物件を製造したことはなく,そのおそれがあるともいえないから,その差止請求には理由がない。。),, 。 なお 原告P1は 被告が在庫として保有するイ号物件の廃棄も請求するしかし,実用新案法27条2項が規定する侵害行為を組成した物の廃棄請求は,差止請求権の行使を実効あらしめるために,差止請求権の実現のために必要な範囲内で認められるものである(最高裁判所平成11年7月16日判決・民集53巻6号957頁参照 。そうすると,被告が今なおイ号物件を )在庫として保有しているとしても,先に述べたとおり被告がそれをロ号物件に改造せずにイ号物件のままで販売し又は販売のために展示するとは一般には考え難く,ただそのおそれがないとまではいえないという程度にとどまることからすると,被告が在庫として保有するイ号物件の廃棄請求を認めることは,差止請求権の実現のために必要な範囲を超えるというべきである。したがって,イ号物件の在庫品の廃棄請求は認めることができない。 , , また原告P1は イ号物件の半製品及びその製造金型の廃棄も請求するが前記認定のとおり被告は中国の製造業者からイ号物件の完成品を輸入したのであり,被告がイ号物件の半製品と製造金型を保有しているとは認められないから,これらの廃棄請求も理由がない。 3争点(3)(廃棄請求権侵害・廃棄義務の不履行の成否)について(1)ここで原告P1は,過去において原告P1が被告に対してイ号物件の廃棄請求権を取得し,それが存続し得ることを前提に,その取得した廃棄請求権を無にされたとして,権利の侵害又は廃棄義務の不履行を主張している。 , ,「 , ところで 実用新案法27条1項は実用新案権者又は専用実施権者は自己の実用新案権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者…に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる 」と規定し 。 ているが,この差止請求権は,所有権に基づく物権的請求権と同様,侵害行為やそのおそれが存するに連れて不断に発生し続け,侵害行為やそのおそれが消滅した場合に発生しなくなるものにすぎない(すなわち,差止請求権をある時点で取得し,それが存続するという性質のものではない。。)そのため,侵害行為やそのおそれの存否は,この請求権の存否を確定すべき時(事実審の口頭弁論の終結の時)を標準として定められるべきものであり,その標準時点を離れて差止請求権の「取得」や「存続」は観念できず,したがって 「取得した権利」の「消滅」や「無になること」もやはり ,観念し得るものではない。そして,実用新案法27条2項が規定する侵害行為を組成した物の廃棄請求は,差止請求権の行使を実効あらしめるために,差止請求権に付随して認められるものであるから,廃棄の必要性についても,差止請求権と同様に事実審の口頭弁論の終結の時を標準として定められるべきものであって,その標準時点を離れて廃棄請求権の「取得 ,」「存続」も,取得した権利の「消滅「無になること」も観念し得るもの 」,ではない。 したがって,原告P1の上記主張は,まずその前提において失当というべきである。 (2)また,仮に原告P1による廃棄請求権の取得を肯定したとしても,先に述べたとおり,実用新案法27条2項が規定する侵害行為を組成した物の廃棄請求は,差止請求権の行使を実効あらしめるために認められるものである。そうすると,被告が侵害品であるイ号物件を非侵害品であるロ号物件に改造することは,侵害品の存在を消滅させ,その販売等による将来の実用新案権侵害行為のおそれを消滅させることにより,差止請求権の行使をより実効あらしめるもので,廃棄請求権の趣旨目的をむしろ実現する行為であるといえるから,それをもって廃棄請求権を侵害するものということはできない。 この点について原告P1は,廃棄行為の趣旨は実用新案権侵害により得たもので侵害者が利益を得ることのないようにする趣旨も含むと主張するが,廃棄請求権は差止請求権を実効あらしめるために認められたものであるから,この主張は採用できない。 したがって,廃棄請求権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がない。 4争点(4)(本件実用新案権侵害についての被告の過失)について(1)実用新案権者は,その登録実用新案に係る技術評価書を提示して警告した後でなければ,自己の実用新案権の侵害者に対し,その権利を行使することができないとされている(実用新案法29条の2 。これは,実用新案権 )が実体審査なしで権利が付与されることから,警告をする際には評価書の提示を義務づけるということによって,権利行使に先立って自分の権利の有効性について客観的な評価を権利者自身に十分に認識してもらうということで権利の濫用を防止するということとともに,権利行使を受けた第三者の過度な調査負担を防いで適切な権利行使を担保するという趣旨と解される。したがって,相手方が当該実用新案権の存在を知らない場合はもとより,たとえ,, 相手方が当該実用新案権の存在を知っていたとしても そのことから直ちにその後の侵害行為について相手方に過失があるということになるものではなく,既に特許庁が作成した技術評価書の内容を知っている等の特段の事情がない限り,相手方において,当該実用新案権の侵害について過失があるということはできないものと解すべきである。 (2)本件においては,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,?@原告会社は平成15年4月2日には本件考案の実施品の販売をしていたこと(甲30 ,)?A本件実用新案権は平成15年7月16日に登録され,その登録実用新案公報は平成16年1月8日に発行されたこと(甲1 ,?B業界紙である「ペッ )ト産業情報新聞ペット&Life」第57号(平成16年4月号)では,原告会社の実施品が「切れ味で売れる 「本格工具の技術と材質」の見出し 」の下で紹介され,その記事中には「実用新案登録製品」と記載されていたこと(甲32 ,?Cペット専門通信販売総合カタログである「通販クラブ20 )04春・夏号」にも原告会社の実施品が掲載されたこと(甲33)が認められる。 しかし,これら証拠によっても,原告会社の実施品がどの実用新案権に係るものであるのかは記載されておらず,その技術的評価書の内容についてはなおさらである。そうすると,原告P1が初めて被告に対して本件実用新案権の技術評価書を提示して本件警告をした平成18年2月8日以前の時点で,前記特段の事情があるとは認められず,したがって,被告の同日以前のイ号物件の輸入販売行為に過失があったとは認められない。 他方,本件警告以後のイ号物件の販売については,被告に過失があったと認められる。なお,本件警告は原告P1が行ったものであるが,これによって被告は本件実用新案権の内容とその技術評価書の内容を知るに至った以, 。 上 これ以後は原告会社に対する関係でも過失があったということができる5争点(5)(損害額)について(1)以上述べたところからすると,本件で被告が原告らに対して損害賠償責任を負うのは,本件警告の翌日である平成18年2月9日から同年3月24日までの間のイ号物件の販売行為についてであることになる。 (2)原告P1関係についてア証拠(乙11,23ないし26。なお乙第24ないし26号証は,乙第11,23及び24号証のうち上記期間における取引を抽出したものである )によれば,上記期間のイ号物件の売上数(下記のとおり返品分の3 。 個を控除しないもの)は250個で,総売上金額は22万7100円であり,このほかにサンプル,添付(いわゆる「おまけ )及び不良品の代品 」による無償交付が19個(乙第24号証の「添付数」欄の15個と乙第26号証の「サンプル又は添付等の個数」欄の4個の合計)あったと認められる なお 乙第26号証の上記期間中の取引には いわゆる返品取引 3 。, ,(個)も記載されているが,その前提となる売上取引が上記期間中の取引に係るものか否かが定かでないから,返品取引分を売上数量から控除するのは相当でない。 イこの点について原告らは種々の疑問を指摘するので検討する。 (ア)上記乙第11号証(それを基にする乙第24号証)は,被告によるイ号物件の正規輸入が平成17年10月の2016個(乙9,10)の1回限りであることを前提としているが,原告らが指摘するとおり,イ号物件には専用の金型が存在するはずであり,また被告は全国にチラシを配布し(甲17 ,各展示会用のパンフレット(甲19)を用意して ), () 各展示会に出展し ペット愛好雑誌でプレゼントの提供をする 甲26などイ号物件の販促活動を展開していたことが認められる。そして原告らは,これらの点に照らし,被告は上記以上の輸入をしていたはずであると主張する。 しかし,チラシや展示会は他の被告の商品と共に取り扱われていたものにすぎない(甲19,20)上,発売前から必ず高売上が見こまれたといった事情も特段窺われないから,イ号物件用の金型が製作され,上記の程度の販売促進活動を行っていたからといって,上記以上の輸入をしていたはずであると推認することはできない。 (イ)被告の販売担当者であるP2は,平成18年4月19日の大阪展示会において,?@原告会社の取締役であるP4が 「数量的にどれくらい ,あるん?」と尋ねたのに対し 「100くらいですね 」と返答し,ま ,。 た,?A「全部でどれくらい出ます?数量的に 」との問いに対して, 。 「1回で1200くらい」と答え,続いて「それ何回くらい?」との問いに対して「1回です 」と答えたことが認められる(甲28。この反 。 訳について甲第29号証と乙21号証とでは若干の相違があるが,上記のとおり認められる。。)この会話における発問の趣旨には一義的に理解し難いところがあるが,?@が在庫量,?Aが売上数量を尋ねるものと一応理解することができなくもない。しかし,それに対してP2が答えるところに従うと,同展示会までの売上数量が1200個で,在庫が100個ということになるが,そもそも客観的に裏付けられている平成18年10月の輸入数量だけでも2016個なのであるから,P2の述べるところはこの客観的事実に反しているということになる。 このことに加え,このときの会話が録音されたテープ(甲28)は雑音が多く,上記会話の間にも会話らしき音声が挟まっており,上記会話の趣旨を録音内容から正確に理解することに困難が伴うことを考慮すると,上記P2の発言をもって,乙第11号証の信用性を否定することはできないというべきである。 (ウ)被告は,本件訴訟前の原告P1に対する回答(平成18年4月10日付のファックス)において,イ号物件の輸入個数を2016個,販売個数を743個と回答したことが認められる(甲13の1及び3)が,他方で,本件訴訟では,イ号物件の輸入個数は同数であるが,販売個数は738個と異なる主張をした。 しかし,訴訟提起後においては,訴訟提起前よりも事実経過と資料を精査することによりその主張する事実関係が若干修正されることは通常あり得る事態であるから,上記の程度の販売個数の差があるからといって,乙第11号証の信用性を否定することはできない。 (エ)以上のとおりであるので,先に2(2)で認定した事実(被告が平成18年3月24日でイ号物件の販売を中止し,同年4月7日以降は改造したロ号物件のみを販売したこと)を併せ考えると,原告が平成18年11月10日付で申し立てた文書提出命令の1-2に係る分は,必要性を欠くものというべきである。 ウ原告P1は実用新案法29条3項に基づく損害額の主張をしているところ,本件考案の内容に加え,ペット用爪切りでは各社が種々の特徴点をもって競争を展開していること(甲26 ,原告P1は原告会社のみに本件 )実用新案権の実施品の製造販売を許諾してきており,本件警告後に被告が実施許諾を申し入れた(甲7)ときも検討の余地はないとして明確に拒絶したこと(甲8)等の事情を考慮すると,本件における登録実用新案の実施に対して受けるべき金銭の額としては,被告の売上額の7%とするのが相当である。 そうすると 原告P1の受けた損害額は 1万5897円 227,100×0. , ,(07)となる。 また,原告P1に対する関係で,被告による侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は5000円と認められる。 したがって,原告P1が被告に対して請求し得る損害額は,2万0897円となる。 (3)原告会社関係についてア原告会社は,原告P1から本件実用新案権について独占的通常実施権の設定を受けていたものであるが,独占的通常実施権者も,本件実用新案権の実施による市場利益を独占し得る地位にある点で専用実施権者と変わるところはないから,実用新案法29条2項の類推適用があるものと解するのが相当である。 イ前記損害賠償対象期間中のイ号物件の売上数は250個,サンプル等による提供は19個(合計269個)で,総売上金額は22万7100円であったことは先に認定したとおりである。 ウ次に被告がイ号物件の販売に要した費用の額について検討する。 (ア)輸入による商品代金について証拠(乙3,9及び10)によれば,被告は,森田トレーディング株式会社を輸入取扱業者として,平成17年10月25日に,中国のロックテインインタストリーズから,イ号物件2016個を単価2.08米ドル(合計4193.28米ドル)で,ステンレスカンシL(インボイス上では「ペットツイーザー )1728個(単価2.34米ドル,合 」.)(.), 計4043 52米ドル と共に輸入し 代金合計8236 8米ドルそれらの商品代金合計として森田トレーディング株式会社に対し,96万1728円(1ドル=116.76円換算)を支払ったことが認められる。 これによれば,イ号物件の輸入に要した商品代金は,1個当たり242.8608円($2.08×116.76)であったと認められる。 これに対して原告らは,イ号物件に相当する商品に要する商品代金は1個当たり200円を上回ることがないとして,株式会社マルヨシ作成の見積書(甲24)を提出する。しかし,本件で問題なのは被告が輸入するに際して実際に要した商品代金であるところ,それが前記認定のとおりであることは,被告以外の第三者が作成したインボイス及び通関書類等の上記各書証によって明確に認められるから,原告らのこの主張は採用できない。そしてまた,この点を明らかにするために原告らが平成19年5月11日付で申し立てた文書提出命令も,必要性を欠くものというべきである。また,同じく原告らが平成18年11月10日付で申し立てた文書提出命令のうちの1-1に係る分も,既に対象文書が提出されたため,必要性を欠くものというべきである。 (イ)他の輸入経費について証拠(乙3,12の各号)によれば,被告が上記のとおりイ号物件及びステンレスカンシLを輸入するに当たって要した他の費用は,次のとおりであったと認められる。 a輸入消費税 47,500円b乙仲手数料(免税)41,163円c乙仲手数料(課税)16,000円d乙仲消費税 800円e海上保険料 3,707円f銀行利息 13,163円g銀行諸費用 13,698円h銀行消費税 1,096円i森田トレーディング株式会社に対する諸費用144,259円j上記消費税 7,213円(合計)288,599円ところで,これら費用は,イ号物件のみでなくステンレスカンシLの輸入にも要した費用であるから,このうちイ号物件に要した費用は,各商品代金合計(イ号物件は4193.28米ドル,ステンレスカンシLは4043.52ドル)によって按分すると,14万6923.127円(288,599×4193.28/(4193.28+4043.52 )となり,1個当たりと )しては72.878円(146,923.127/2016)となる。 なお,先にイで認定したとおり,被告は,有償売上分以外に添付等の理由で取引先にイ号物件を無償交付しているが,これらに要する費用もイ号物件の売上に貢献したのであるから,経費として控除するのが相当である。 (ウ)輸入後の販管費について弁論の全趣旨によれば,被告において輸入商品を販売するに当たり追加的に必要になった費用は,?@輸入商品のみにかかる費用として,倉庫代(主に輸入商品を保管している倉庫代 ,高速代(倉庫を往復する高 )速代 ,人件費(倉庫を往復する人員の人件費 ,燃料代(倉庫を往復 ) )するための車のトラック代)があり,?A輸入商品及び国内商品全般にかかる費用として,商品郵送代(取引先に商品を郵送する費用 ,商品包 )装代(販売するときの商品包装代)があり,それら輸入商品の販売に要する費用の販売額に占める割合は,被告主張のとおり,売上額の10%を下回らないものと認められる。そして,被告による損害賠償対象期間中のイ号物件の売上額は合計22万7100円であるから,要した販管費はその10%である2万2710円を下回らないことになる。 エ以上に基づいて,被告がイ号物件を販売することによって得た利益の額を算定すると,11万9456円となり,これが原告会社の受けた損害の額と推定される。 227,100-(242.8608+72.878)×(250+19)-22,710=119,456また,原告会社に対する関係で,被告による侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額は1万5000円と認められる。 したがって,原告会社が被告に対して請求し得る損害額は,13万4456円となる。 (4)原告P1の損害賠償請求権と原告会社の損害賠償請求権との関係本件で原告P1は原告会社に対して本件実用新案権の独占的通常実施権を設定しているが,原告会社が原告P1に対して実施料を支払っていることを窺わせる証拠はなく,原告P1が原告会社の代表者で,原告会社が原告P1の個人企業であることからすると,むしろ原告P1は原告会社に対して無償の独占的通常実施権を設定したものと推認される。 ところで,実用新案権者が第三者に専用実施権を設定し,専用実施権者が当該実用新案権を実施している場合,専用実施権者は侵害者に対して実用新案法29条2項に基づく損害賠償を請求することができる。しかし,その場合,実用新案権者としては,自ら実施する権利も,他者に更に実施許諾をする権利も有していないのであるから,同条3項に基づく損害賠償を請求することはできない。その場合に実用新案権者に発生する損害として観念し得るのは,実用新案権者が専用実施権者から得られる実施料が減少したことのみであり,そのような損害が発生するときには,実用新案権。, 者は民法709条に基づく損害賠償を請求することができる したがって専用実施権が無償又は定額の実施料で設定されている場合には,当該実用新案権の侵害行為がなされても,実用新案権者に損害は発生せず,実用新案権者は損害賠償請求権を取得しないものと解するのが相当である。 他方,本件のように独占的通常実施権が設定されている場合には,実用新案権者は,独占的通常実施権者との間で他者に実用新案権の実施許諾をしないという債権的な拘束を受けてはいるものの,他者に実用新案権の実施許諾をする権利自体はなお有している。したがって,独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができる。しかし,この場合に,独占的通常実施権者に同条2項の類推適用による損害賠償請, , 求を認め 同時に実用新案権者にも同条3項による損害賠償請求を認めて両請求権が単純に並立するものと解するときには,前記のような専用実施権が設定された場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになり,均衡を失するものというべきである。また,同条2項による損害額の算定は,, 侵害者が実施行為を全く行わなかった場合を想定するものであるのに対し同条3項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を行ったことを前提とするものである点で,両規定は互いに両立しない状況を想定ないし前提しているのであるから,この点からも両請求権が単純に並立すると解することはできない。これらの点を踏まえると,独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは,重複する限度で連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。 したがって,本件では,原告P1の被告に対する2万0897円の損害賠償請求権と,原告会社の被告に対する13万4456円の損害賠償請求権とは,重複する2万0897円の限度で連帯債権の関係に立つことになる。 6まとめ以上によれば,原告らの本件請求は,?@原告P1が被告に対してイ号物件の輸入,販売及び販売のための展示の差止めを請求し,?A原告P1が被告に対して2万0897円及びこれに対する侵害行為後の平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,?B原告会社が被告に対して13万4456円及びこれに対する侵害行為後の平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度で理由がある(ただし?Aと?Bとは重複する限度で連帯債権の関係に立つ。?Bのうち重複部分を除いた金額は,11万3559円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合によるものとなる )が,その余は理由がない。 。 よって,主文のとおり判決する。
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