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関連審決 無効2003-35440
関連ワード 考案 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  きわめて容易 /  請求項 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 266号 審決取消請求事件
原告 村角工業株式会社
訴訟代理人弁護士 村林隆一,井上裕史
被告 アジア器材株式会社
訴訟代理人弁護士 今村昭文,西田育代司
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35440号事件について平成16年5月11日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件考案の実用新案権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件考案についての実用新案登録を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件考案(甲3) 実用新案権者:村角工業株式会社(原告) 考案の名称:「医療検査用カセット」 出願日:平成2年11月8日(実願平2-117934号) 設定登録日:平成9年5月23日 実用新案登録番号:第2547410号 (2) 本件手続 審判請求日:平成15年10月24日(無効2003-35440号) 審決日:平成16年5月11日 審決の結論:「登録第2547410号の実用新案登録を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年5月21日(原告に対し) 2 本件考案の要旨【請求項1】耐薬品性合成樹脂からなるカセット本体と蓋とを具備してなり,前記カセット本体は上面を開放した方形の容器で底部に多数の透孔を有し,かつ,少なくとも対向する側壁の外側に係止部を有するとともに,アダプター固定用突起を有してなり,前記蓋は多数の透孔を有する板状体からなり,その裏面の少なくとも対向する2辺に,前記係止部に係脱可能に係合する舌片状係止部を垂設してなることを特徴とする医療検査用カセット。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,審判甲第1号証(実願昭59-7701号(実開昭60-120358号)のマイクロフィルム。本訴でも甲1。以下「甲1」といい,これに記載された考案を「甲1考案」という。)及び審判甲第2号証(「染色法のすべて」:1988年7月21日筑波大学付属図書館受け入れの「Medical Technology16〔附別冊〕1988筑波大学」に収納されたもの。本訴でも甲2。以下「甲2」といい,これに記載された考案を「甲2考案」という。)を挙げた。
(2) 審決は,本件考案と甲2考案とを対比し,一致点を次のとおり認定した。
「本件考案と甲2に記載されたメガ・タイプのユニ・カセットの考案を対比すると,甲2のメガ・タイプのユニ・カセットは,医療用検体等を収容し,包埋処理に供するのに利用するものであって,本件考案の医療検査用カセットと技術分野・利用分野が同じものと認められ,甲2の『方形の容器』,『蓋の開閉方向とは平行をなす容器の両側壁の各外側面において,下部側に対して上部側を段差をもって厚くすることで形成された突起がある』が本件考案の『方形の容器であるカセット本体』,『カセット本体の少なくとも対向する側壁の外側に突起を有する』に相当することが明らかであり,甲2において,蓋で容器を閉める際のスナップ式の係合は,蓋の裏面側に設けた舌片状係止部に対して,それに対応する係止部を側壁頂部側から掘った受穴に設けることで達成されるものと認められるから,両者は,『カセット本体と蓋とを具備してなり,前記カセット本体は上面を開放した方形の容器で底部に多数の透孔を有し,かつ,少なくとも対向する側壁の外側に突起を有してなり,前記蓋は多数の透孔を有する板状体からなり,側壁に設けた係止部と蓋の裏面に垂設した舌片状係止部とが係合するようになっている医療検査用カセット』である点で一致(する)」 (3) 審決は,本件考案と甲2考案との相違点として次の3点を認定した。
「相違点1:本件考案は,カセット本体と蓋とが耐薬品性合成樹脂からなるものであるのに対し,甲2には耐薬品性合成樹脂について記載がない点。
相違点2:本件考案は,カセット本体の少なくとも対向する側壁の外側に係止部を設け,蓋はその裏面の少なくとも対向する2辺に,前記係止部と係脱可能に係合する舌片状係止部を垂設したものであるのに対し,甲2考案は,蓋とカセット本体は,一端側では互いにヒンジ結合し,他端側では,蓋の裏面に舌片状係止部が垂設され,カセット本体の側壁に掘った受穴に設けた係止部により該舌片状係止部を係合するものである点。
相違点3:本件考案は,カセット本体は,少なくとも対向する側壁の外側にアダプター固定用突起を有しているのに対し,甲2考案は,カセット本体の少なくとも対向する側壁の外側に突起を有しているものの,その突起がアダプター固定用かどうか,記載がない点。」 (4) 審決は,相違点について次のとおり判断した(相違点1についての判断は,本訴での争点となっていないので省略する。)。
(a)「相違点2について検討すると,医療用検体を収容したり,包埋処理に用いる方形の容器(カセット本体)と蓋体の関係に関して,容器と蓋体とをヒンジ結合でなく,分離した別体のものとすることはよく採用される従来周知技術であり[例として,甲1…参照],甲1には,容器と蓋体との結合関係について,蓋体の裏側の両端に突起片9,爪片10(いずれも舌片状係合部である)を設け,容器の両壁には突起片,爪片を合着係止するための受穴部5,切欠片6(いずれも合着係止部である)を設け,蓋体で容器を閉じる際には,両壁の箇所で,蓋体と容器を合着係止させることが記載されており,この甲1において,合着係止のための技術手段として,受穴部5を設けその穴に突起片9を挿入して合着係止する,という構成を採用しているのは,収容した医療用検体認識のための表示欄を見やすくするために,壁頂部から表示欄用のテーパ(傾斜)面を外側に延ばして設けた関係上,このテーパ(傾斜)面に合着係止部を設けるのが不適当であるという理由からと認められ,医療用検体の収容という本質機能さえ達成できればよいということであれば,表示欄用のテーパ(傾斜)面を設ける必要がないことは明らかであるから,甲2に記載されたメガ・タイプのユニ・カセットにおいて,蓋を容器と別体のものとし,壁に表示欄用のテーパ(傾斜)面を設けない単純な方形の容器として,容器を容器外縁側から蓋でパチンとスナップ式で閉じれるような従来周知の係合関係[国際特許分類第4版(1985年に発効)にも,取り外し可能な蓋またはカバーについて「B65D43/08・・容器の口縁上に係合する周フランジをもつもの,B65D43/10・・・かつ,ビードまたは突出部上にスナップ止めされることにより保持されるもの」と分類があるくらいである],を採用することは,当業者がきわめて容易に想到できた事項である。」 (b)「相違点3について:本件…明細書の第2図において,対向する側壁の外側に,下部側に対して上部側に段差をもってより厚くすることで形成された突起26,27がアダプター固定用になるのと同様に,これと同様の段差をもって形成された甲2のメガ・タイプのユニ・カセットの突起を,アダプター固定用とすることは,当業者がきわめて容易に想到できたことである。」 (c)「相違点1-3を総合的に判断しても,それによる効果は予想範囲内のものであり,本件考案は甲1,2に記載された考案及び従来周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案できたものと認められる。」 (5) 審決は,次のように結論付けた。
「本件考案は,甲1,2に記載された考案及び従来周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから,本件実用新案登録は…無効とすべきものである。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(相違点3についての判断の誤り) (1) 審決は,甲2記載のメガ・タイプのユニカセットの突起が,アダプター固定用とはいえないことを前提としながら,本件明細書のアダプター固定用突起と同様の段差であるから,当業者が,当該突起をアダプター固定用突起とすることは,きわめて容易に想到できたとする。
しかしながら,審決の判断は,突起があればなんでもよいとするのと同義であって,「アダプター固定用突起」の作用効果を全く無視するものである。すなわち,本件考案のアダプター固定用突起は,アダプターの係合爪と係合する高さ及び位置に設けることにより,アダプターの係合爪と係合固定する突起として機能し,カセットを高くしても,また長さを大きくしても,従来のアダプターで標本が作製でき,経済性はもちろん標本作製の作業効率も大幅に向上するとの顕著な作用効果を奏するのであって,突起であればどのようなものであってもよいというものではない。
よって,カセット本体の側面の単なる突起から,当業者が,本件考案のアダプタ固定用突起をきわめて容易に想到することができるとの審決の判断は,誤りである。
(2) 被告は,甲2に記載されたメガ・タイプの写真から,長辺側に設けられたわずかな突起が,アダプターの係合爪と係合し,「アダプター固定用突起」として作用する可能性があることを主張する。
しかしながら,現在市販されている「メガ・タイプ」ですら,当該突起では,通常パラフィンブロック薄切り作業時にアダプターとの十分な固定を確保できず,当業者は,メガ・タイプを使用する場合には,直接ミクロトームのネジで固定するか,又は,万力型のアダプターでカセットの壁面を固定している(甲4)。すなわち,現在市販されているメガ・タイプですら,その壁面に設けられたわずかな突起部分は,「アダプター固定用突起」として作用していないのであるから,甲2の発行当時に製造販売されていたメガ・タイプの壁面のわずかな突起部分もまた,「アダプター固定用突起」として機能していなかったのは明らかである。
よって,審決が甲2記載のメガ・タイプのわずかな突起を「アダプター固定用突起」であると認定したことは,事実の誤認であり,それを前提になされた審決は,取り消されるべきである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,表示用のテーパ面は必要がないから,甲2記載のカセットの蓋と容器を別体のものとし,テーパ面を設けない単純な方形の容器とした上で,本件考案の係合関係を採用することも,当業者にはきわめて容易に想到できた事項であるとする。
しかし,審決には,当業者の技術常識に明らかに反する部分が存在するとともに,甲2記載の適用阻害事由を見誤った違法があるから,取り消されるべきである。具体的には,以下のとおりである。
(2) 甲1及び2のいずれの文献に記載されたカセットも,表示用のテーパ面が設けられているが,これは,本件出願当時,カセットの寸法が限定されていたために,カセットに十分な表示欄を確保するためには,記載を大きくするためテーパ(傾斜)面とせざるを得なかったのである。すなわち,本件明細書において指摘するように,本件出願前は,カセットの長さや高さを変えることは,使用するアダプターの変更を意味し,作業能率の低下とコストアップとなるため,当業者は,表示用のテーパ面を採用するしかなく,そのため高価な金型とカセット外形の割には検体を収容する部分が小さいとの不具合とを甘受するほかなかったのである。
しかしながら,本件考案の登場により,使用するアダプターを変更することなく,カセットの長さや高さを自由に変更することができるようになり,その結果,テーパ面を用いなくても十分な面積の記録部が確保できるようになった。
上記のとおりであるから,本件出願時に表示用のテーパが必要なかったとの審決の判断は,明らかに出願当時の当業者の技術常識に反するものである。
(3) また,審決は,甲2記載のカセットの蓋と容器を別体のものとすることも当業者にきわめて容易に想到できるとするが,甲2には,「蓋の取手が大きくなり開けやすくなりました。スナップ式の蓋とロック機構のため,片手で確実に操作ができます。」との記載があり(審決も認定するところである。),蓋と容器本体を一体とすることを,その特徴的な構成としているから,蓋と容器を別体とすることに対し,明確な阻害事由が存在する。
(4) 被告は,「方形の容器」には,甲1記載のテーパを含む独特のカセット形状も含まれるなどと主張するが,立体における「方形」とは,直方体(各辺の長さが同じ場合には立方体)を意味するのであり,面取りがしてあるなど軽微な加工が施されている場合はともかく,甲2記載のカセットのような独自の形状のものは含まれない。
被告の主張の要点
1 取消事由1(相違点3についての判断の誤り)に対して 臨床検査雑誌(甲2の4枚目,乙8)の写真からも明らかなとおり,メガ・タイプのユニ・カセットは,長辺部分の側壁が開口部(蓋のある部分)のある上部において板状突起壁になっている。メガ・タイプのユニ・カセットの場合は,長辺部分の側壁が開口部側側壁においてスタンダード・タイプのカセットの外法の厚さ(6o)の位置まで板状突起壁となっているため,その突起状部分がアダプターの係合爪と係合することになる(乙7)。
病理組織標本を作製する器具(カセット,アダプター,包埋トレー等)の製造者又は販売業者(当業者)であれば,カセットの側壁のうち上部(蓋のある開口部側)がスタンダード・タイプのカセットの厚さの位置まで板状突起壁になっているカセットの写真を見れば,その突起壁部分がアダプターの係合爪に接する部分であると容易に理解できる。そして,なぜ,カセットの側壁をわざわざ2段にして,側壁上部の幅を広くするような突起状にしているかを考えれば,きわめて容易にアダプターの係合爪と接する部分をアダプターの大きさに合わせるためであると理解できる。したがって,臨床検査雑誌(甲2)にメガ・タイプのユニ・カセットの突起を「アダプター固定用」と記載されていなくとも,当該カセットの写真を見れば,当業者なら容易に「アダプター固定用突起」と分かる。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して 本件明細書(甲3)には,原告主張のように,医療用検体認識用の表示欄(記録部)のためにテーパ面を用いなくとも十分な面積の記録部を確保できるようになったなどということは記載されていない。
また,「方形」の意味は四角形と理解されるのであって,必ずしも長方形や正方形を意味せず,テーパ面を有する台形も「方形」に属する。
さらに,スタンダード・タイプの他のすべてのカセットでも,テーパ面以外の長辺側壁にもデーター記載ができ,現実にも検査標本作製現場でその部分を記録部として使用している。
原告が主張する点は,「アダプター固定用突起」があるために,アダプターを変更することなく,長さや高さを変えたカセットを使用できるというにすぎない。そのことと,表示用のテーパ面のあるカセットしか使えないということとの関係は,明細書に記載がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点3についての判断の誤り)について (1) 本件考案における医療検査用カセットとアダプターの関係についてみる。
(1-1) 本件実用新案登録請求の範囲の記載は,前記のとおりであり,カセットとアダプターの関係については,「アダプター固定用突起を有してなり」とされているのみである。
(1-2) そこで,本件考案に関する実用新案登録公報(甲3)の考案の詳細な説明欄をみると,次のような記載がある。
(a)「〔従来の技術〕…被検者から採取した検体はカセット本体内に収容し……所謂カセットブロックとし,これをアダプターで固定してスライスし,顕微鏡標本を作製する」(2欄下から2行〜3欄8行) (b)「〔考案が解決しようとする課題〕…従来の構成のカセットにおいては,……カセットの長さや高さを少しでも大きくした場合には,もはや従来のカセット収容ケースやアダプターには適合せず,別途収容ケースやアダプターを新たに作らざるを得ず」(3欄9〜20行) (c)「〔課題を解決するための手段〕…カセット本体は…アダプター固定突起をアダプターの係止爪に固定してスライスして」(4欄10〜16行),「アダプター固定用突起は既存のアダプターの係合爪と係合する高さ及び位置に設けるのが好ましく,…突起はアダプターの係合爪が引っ掛かればよく」(4欄39〜44行) (d)「〔作用・効果〕…本考案のカセットによれば,…外形寸法が変わらないので,従来のカセット収容ケースやアダプターをそのまま使用することができる。…更に大きい検体に使用する場合は,側壁に従来のアダプターに適合するアダプター固定用突起を設けたので,カセットを高くしても,また長さを大きくしても,従来のアダプターで標本が作製できるので,カセットの種類だけアダプターを準備する必要がなく経済的に有利であるとともに,…標本作製作業効率も飛躍的に向上する。」(4欄47行〜5欄12行) 上記考案の詳細な説明欄では,「従来(既存)のアダプター」を想定し,このアダプターには係合爪(係止爪)が設けられており,カセットのアダプターへの係合方式として,上記係合爪(係止爪)をカセットに引っ掛けて係合する方法があることを前提とした上で,カセットの長さや高さを大きくしても,従来(既存)のアダプターの係合爪と係合する高さ及び位置にアダプター固定用突起を設けることで,新たにアダプターを作ることなく,従来(既存)のアダプターを使って,経済的,効率的に標本を作製し得るという作用効果を奏し得るものであるとされていることが認められる。
もっとも,「アダプター固定用突起」,「従来(既存)のアダプター」との記載のみで,規格等が具体的に記載されておらず,いささか抽象的であって,当業者が適切に理解し得るのか否か,記載として適切であるか否かにつき,疑問の余地がある。
(1-3) そこで,本件考案の出願時の技術常識についても検討しておく。
(a) 乙2によれば,次の事実を認めることができる。
米国のLab-Tec社が昭和40年代に開発したTissue Tec U System機器は,昭和47年に我が国に導入されて以来,特に,生検材料の処理に関して,多くの施設で使用され,普及していった。その基本的な考え方は,組織材料の切出しからパラフィンブロックの整理・保存に至るまでを一貫した系列としてとらえ,全過程に共通する基本単位製品として,固定包埋用カセットを規格化し,固定からブロック整理・保管に至る過程の機器をすべてこれに合わせて一体化し,設計製造したもので,いかにもアメリカ人らしい合理化された一連の機器群であった。規格化されたカセットは,内法31×26×5mm,外法40×28×6mmであった。
(b) 上記事情に照らせば,本件出願時までには,我が国においても,規格化されたカセットが普及し,これに対応した一連の機器群が普及しており,これには,規格化されたカセットと適合するアダプターも含まれ,カセットと同様に普及していたことが推認される。
そして,原告及び被告は,ともに当業者であるといえるが,「ほぼ同じ大きさのアダプターが普及している」との点では争いがない(被告答弁書5頁,原告準備書面(2)1頁)。
(1-4) 上記認定の事情に照らせば,当業者としては,いささか抽象的である「アダプター(固定用突起)」又は「従来(既存)のアダプター」との記載であっても,本件出願時の技術常識に照らして,一定の従来周知のアダプターを認識することができ,本件考案に関する実用新案登録公報(甲3)の上記記載は,このことを前提に記載されているものと善解することが可能である。
本件実用新案登録請求の範囲の記載及び明細書の記載には,上記の疑問の余地があるが,本判決においては,この点を指摘するにとどめ,上記のように善解して,検討を進めることとする。
(2) 甲2に記載されたカセットについて検討する。
甲2に記載されたユニ・カセットについては,甲2にサイズの記載がない。しかし,前認定のように,規格化されたカセットが広く普及している状況の下において,ユニ・カセット「スタンダード」タイプが特別の規格のものであることをうかがわせる証拠はないので,前認定の規格と同様のものであると推認される(ちなみに,甲2によれば,ユニ・カセットは,マイルス・三共株式会社の製品であるところ,甲2には「Tissue-Tek」という上記(1-3)(a)の「Tissue Tec」と似た商標が表示されており,米国法人であるマイルス・ラボラトリーズ・インコーポレーテッド社は,昭和48年代に我が国においてカセットに関する特許を取得し,その後もカセットに関する特許を出願するなどしており,その内容は,乙2に記載されたシステムに関する記載と符合することが認められるのであって,ユニ・カセットは,乙2に記載されたシステムのカセットの流れに属するであろうことも推察される。)。
一方,甲2に記載されたユニ・カセット「メガ・タイプ」は,甲2の記載からして,厚い検体を扱うようにするため,広く普及したカセットの規格を特に高さについて変更したものであると認められる。そして,「メガ・タイプ」は,カセット本体の少なくとも対向する側壁の外側に突起を有しているが(当事者間に争いがない),甲2,乙8によれば,突起部分の高さ(上下幅)は,「スタンダード」タイプの側壁の高さ(上下幅)にほぼ等しいものと認められる(もっとも,厳密なサイズは不明である。)。
(3) 前判示の技術常識に照らせば,まず,当業者としては,「従来(既存)のアダプター」の係合爪(係止爪)をユニ・カセット「スタンダード」に引っ掛けて係合することは,きわめて容易に想到し得るものと認められる(前記の規格化の事情に照らせば,ユニ・カセット「スタンダード」の高さは,「従来(既存)のアダプター」の係合爪(係止爪)の高さと適合するようにされているものと推認される。)。この点,本件考案に関する実用新案登録公報(甲3)でも,「同じ外形寸法で従来のカセットと比較すると,…この場合は,外形寸法が変わらないので,従来のカセット収容ケースやアダプターをそのまま使用することができる。」(4欄49行〜5欄4行)とされ,従来のカセットは,そのまま従来のアダプターに固定して使用し得ることが記載されている。
そこで,当業者が上記のようなユニ・カセット「メガ・タイプ」に接した場合,突起部分の高さ(上下幅)が「スタンダード」タイプの側壁の高さ(上下幅)にほぼ等しいのであるから,前判示の技術常識の下で,「従来(既存)のアダプター」の係合爪(係止爪)により,ユニ・カセット「メガ・タイプ」に引っ掛けて係合しようとして,ユニ・カセット「メガ・タイプ」の側壁の高さ(上下幅)を係合爪(係止爪)の高さ及び位置と適合するように調整するとともに,突起部分の出っ張り具合(段差の深さ)を係合爪(係止爪)で引っ掛けて係合し得る程度のものに変更すること,すなわち,本件考案でいう「アダプター固定用突起」とすることは,きわめて容易に想到することができたものというべきである。
審決が「これ(判決注:本件考案)と同様の段差をもって形成された甲2のメガ・タイプのユニ・カセットの突起を,アダプター固定用とすることは,当業者がきわめて容易に想到できたことである。」と判断したのは,上記と同じ趣旨であると解され,この判断は,是認し得るものである。
(4) 原告は,前記第3,1(1)のとおり主張する。
しかし,「審決の判断は,突起があればなんでもよいとするのと同義」というわけではないことは,上記判示に照らせば明らかである。また,本件考案の作用効果についても,上記のように,アダプター固定用突起に関する相違点3に係る構成がきわめて容易に想到し得る以上,その構成から導かれる作用効果の域を出ず,格別に顕著な作用効果であるとはいえない。
原告の第3,1(1)の主張は,採用することができない。
(5) 原告は,前記第3,1(2)のようにも主張する。
しかし,仮に,原告が主張するように,現在市販されているメガ・タイプ及び甲2の発行当時に製造販売されていたメガ・タイプの壁面に設けられた突起部分では,段差が非常に浅いなどの理由により,「アダプター固定用突起」として作用していないとしても,そのことゆえに,審決の認定判断が誤りであるということにはならない。すなわち,そもそも,審決は,原告が主張するように,「甲2記載のメガ・タイプのわずかな突起を『アダプター固定用突起』である」と認定したわけではない。審決は,前記のとおり,「甲2のメガ・タイプのユニ・カセットの突起を,アダプター固定用とすることは,当業者がきわめて容易に想到できた」としたものである。そして,その趣旨は,前判示のとおり,メガ・タイプのユニ・カセットの突起部分について,その高さや出っ張り具合(段差の深さ)をアダプターに固定し得るようにすることは,当業者がきわめて容易に想到することができたということであって,この判断は是認し得るものである。
原告の第3,1(2)の主張は,採用の限りではない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告の主張する「テーパ面」について検討する。
(a) 甲2記載のユニ・カセット「メガ・タイプ」におけるテーパ面についてみるに,甲2の5枚目の上欄に「使いやすくなったユニ・カセット」との表題の下に説明が記載されている(なお,同欄の説明用の写真は「スタンダード」のものが掲げられているが,上記のとおり,「ユニ・カセット」としての共通の説明であると認められるので,「メガ・タイプ」にも当てはまるものというべきである。)。同説明中,カセットの正面のテーパ面とその左右の側面を指して,「傾斜角度が緩やかになった正面スペースと左右両側面に記入できますので,種々の情報を記入するのに便利です。記入面は特別な表面処理がされています。」との記載がある。また,同頁中段の「メガ・タイプ」の写真をみれば,高さが「スタンダード」よりも2倍程度高くなっているにもかかわらず,正面は,なおテーパ面であることが認められる。
これらによれば,甲2の「ユニ・カセット」に共通する記入スペースは,正面と両側面の3面であること,さらに,「メガ・タイプ」では,「スタンダード」に比べて格段に正面及び両側面の記入面積が広いことが認められるのであって,「スタンダード」について,そして「メガ・タイプ」についてはなおさら,記入スペースの面積を確保するために正面をテーパ面としたとは認め難く,むしろ,正面だけでもテーパ面とすることで,垂直の面に記入するよりも,書いたり見たりするのが「便利」であるという程度の考えによるものと推測される。
そうすると,少なくとも,ユニ・カセット「メガ・タイプ」においては,正面をテーパ面とすることが重要な構成要素であるとはいえず,テーパ面をより単純な垂直の面とすることに阻害要因があるとは認められない。
(b) また,甲1においては,テーパ面とされているが,その趣旨については特段の記載はなく,少なくとも,記入スペースの面積を確保するためにテーパ面としたことを示す記載はなく,甲1の実用新案登録請求の範囲によれば,テーパ面とすることが構成要件とはなっておらず,テーパ面をより単純な垂直の面とすることに阻害要因があるとは認められない。
(c) 以上によれば,「甲2に記載されたメガ・タイプのユニ・カセットにおいて,…壁に表示欄用のテーパ(傾斜)面を設けない単純な方形の容器として,容器を容器外縁側から蓋でパチンとスナップ式で閉じれるような従来周知の係合関係を採用することは,当業者がきわめて容易に想到できた事項である。」とした審決の認定判断は,是認し得るものであり,原告の前記第3,2(2)の主張は,採用することができない。
(d) 本件考案の実用新案登録請求の範囲には「方形」との要件が記載されているが,「方形」の語義は,「四角形。特に正方形」というものであり(広辞苑第5版),本来,2次元の図形の形状を指すものであるが,3次元の立体について使用することもないではなく,その場合には,立体の一定方向からみた2次元の形状が「四角形」をしていることを指すものと解される。そして,特に限定がない限り,「四角形」には,正方形,長方形のほか,台形などの形状のものも含むものであることは明らかであるから,甲2記載のカセットにテーパ面があり,一定方向からみた2次元の形状がほぼ台形様のものであったとしても,「方形」との要件を満たすものというべきである。立体における「方形」とは直方体又は立方体を意味し,甲2記載のカセットのような形状は含まないとの原告の主張は,採用することができない。
(e) そもそも,本件考案に関する実用新案登録公報(甲3)の実用新案登録請求の範囲の記載によれば,カセット本体のすべての側壁をテーパ面でない垂直面とすることが本件考案の構成要件であるとは明記されていないし,原告が主張する「(テーパ面ではなく垂直面とした)本件考案の登場により,テーパ面を用いなくても十分な面積の記録部が確保できるようになった。」との効果については,考案の詳細な説明欄においても記載がない。
そして,「方形」との要件については,上記のとおりである。
もっとも,本件考案の実用新案登録請求の範囲において,「対向する側壁の外側に係止部を有する」及び「係止部に…係合する舌片状係止部を垂設し」との記載があるので,係止部が設けられた側壁は,テーパ面ではなく垂直面であろうと理解し得る。しかし,実用新案登録請求の範囲においては,係止部が設けられた側壁と,アダプター固定用突起が設けられた側壁とが異なるとの記載はないのであるから,これらが同じ側壁に設けられた構成を排除するものとは解し難く,そうであれば,残りの対向する側壁の形状として,テーパ面のものが排除されるとの記載は存在しないことになる。
以上によれば,本件考案の構成として,テーパ面を有するものが排除されているとすべき根拠も見いだし難く,上記効果に関する点を含め,原告の前記第3,2(2)の主張は,明細書の記載に基づかない主張であって失当である。
(2) 甲2記載のカセットにおいて,蓋と容器を別体とする点について検討する。
(a) 証拠(甲1,乙4)によれば,「蓋と容器をヒンジ結合でなく,分離した別体のものとすることは,よく採用される従来周知の技術である」との審決の認定判断は,是認し得るものである。
原告は,前記第3,2(3)のように主張するが,原告が指摘する甲2の記載は,単に,甲2に記載されたカセットの考案が奏する作用効果の1つを示すものにすぎず,この点が,上記のような蓋と容器を分離した別体のものとする従来周知の構成とすることの阻害要因となるものとは認められない。
したがって,「甲2に記載されたメガ・タイプのユニ・カセットにおいて,蓋を容器と別体のものと…することは,当業者がきわめて容易に想到できた事項である。」とした審決の認定判断は,是認し得るものである。
(b) そもそも,本件考案に関する実用新案登録公報(甲3)の実用新案登録請求の範囲の記載においては,「蓋と容器を別体とする」ことは記載されていない。むしろ,考案の詳細な説明欄では,「蓋とカセット本体とは成形時にヒンジ部…を介して一体的に構成してもよい。」(第4欄35〜38行)との記載があるように,本件考案には,蓋とカセット本体とがヒンジ部を介して一体的に構成されたものも含むものと解される。そうすると,原告主張の上記の点は,実質的にみて相違点ではないともいえるものである。
この意味でも,原告の主張は,採用することができない。
(3) 以上のとおりであるから,原告の前記第3,2における主張を精査しても,相違点2についての審決の判断は,是認し得るものであって,原告の主張は,採用することができない。
3 結論 原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文
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