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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ6536実用新案権侵害差止等請求事件 平成18ワ12229損害賠償請求事件 判例 実用新案
平成17ネ10115損害賠償請求控訴事件 判例 実用新案
平成23ネ10072特許料請求控訴事件 判例 実用新案
平成18ワ10717損害賠償請求事件 判例 実用新案
平成20ネ10029実用新案権使用差止等請求控訴事件 判例 実用新案
関連ワード 技術的範囲 /  考案 /  構造 /  組合せ /  物品 /  物品の形状 /  請求項 /  実施例 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (ネ) 10047号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 X
被控訴人 本田技研工業株式会社
訴訟代理人弁護士 平尾正樹
訴訟代理人弁理士 佐藤辰彦
同鷺健志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,100万円を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事案の概要
1 本件は,実用新案登録番号第2581755号の実用新案権(出願日 平成2年11月30日,登録日 平成10年7月17日,考案の名称「デファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機」)を有する控訴人(一審原告)が,被控訴人(一審被告)において平成16年10月から製造販売する車両「レジェンド」に搭載された「SH-AWD」の増速機構が上記実用新案権に係る考案技術的範囲に属するとして,民法709条に基づき,損害賠償金180億円の一部請求として100万円を請求したところ,被控訴人が上記増速機構は控訴人考案技術的範囲に属さないと主張して争っている事案である。
2 原審の東京地裁は,平成19年4月25日,上記機構は上記考案の構成要件を充足しないとして,控訴人の請求を棄却する判決をしたので,これを不服とする控訴人が控訴しているものである。
3 なお,略称は,「本件考案」・「本件明細書」・「被告装置」等を含め,原判決の例による。
当事者の主張
1 当事者双方の主張は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人(1) 原審裁判官が裁判官であることを否認すること等についてア 予告に従い原審裁判官が当該裁判の裁判官であることを否認する。すなわち,当該裁判に先立ち,被告側装置が原告側装置に技術的内容が一致する重要な事柄を示し,判決において述べることを依頼し,述べない場合には裁判官が当該裁判の裁判官であることを否認するとしたが,原審裁判官は判決につきこの内容を省き判決している。したがって,原審裁判官が当該裁判の裁判官であることを否認するとともに当該裁判が裁判の根底から覆されており裁判自体の無効を主張する。
イ また原審裁判官は,控訴人主張の装置に対し,主張の範囲外の装置を取り付けた状態での装置とを比較し異なる装置として判決している。すなわち,範囲外の装置を取り付けると利用状況が限定されるものの利用の限定にとどまり,限定を解除すると同様の装置を取り付けた控訴人の考案の装置に一致することは当然のことながら,控訴人の主張の装置の範囲内で捉えるとまったく同一の内容である。にもかかわらず,控訴人主張の装置に対し,被控訴人の主張する主張の範囲外の装置を取り付けた利用限定での装置とを比較し,異なる装置として判決している。したがって,このような比較のできない当該裁判官が当該裁判の裁判官であることを否認するとともに裁判自体の無効を主張する。
ウ また原審裁判官は原審口頭弁論終結日に一審被告側傍聴人(一審被告側従業員)に対し,一審被告側の技術の高さを評価し,自己の能力が及ばないことを述べている。裁判官に求められる能力は,被告側能力よりも高い次元の技術能力と判断力および判断に伴うものであり,裁判官が一審被告側能力に比し能力が及ばないのであれば裁判はできない。したがって,当該裁判官の能力は裁判であることの前提を失っており,判決は出たものの裁判はなかったものに等しい。
エ 以上のとおりであるから,原審の裁判自体を無効とすべきであり,当該裁判官を裁判所側は裁判にかかわる職務から省き処分すべきである。また裁判所側は訴訟代理人の免許を取り消すべきである。
(2) 被告装置が本件考案技術的範囲に属することについてア 実用新案法(以下「法」という。)1条は,「この法律は,物品の形状,構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより,その考案を奨励し,もつて産業の発達に寄与することを目的とする。」と定め,法5条5項は,「第2項の実用新案登録請求の範囲には,請求項に区分して,各請求項ごとに実用新案登録出願人が実用新案登録を受けようとする考案特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(以下略)」と定める。
これらの規定によれば,実用新案登録請求の範囲の記載内容は,α「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」と,β「当該αを特定するために必要と認める事項」の2点により構成されることになるところ,考案の求める権利の範囲(考案技術的範囲)は,α「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」により決せられ,他方,β「当該αを特定するために必要と認める事項」は,仮にそれが重要な事項であったとしても,権利の範囲外の事項になると解すべきである。
これを本件考案についてみると,本件考案において,権利の範囲内である上記α「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」に該当する構成は,下記@ないしB(以下,これらの構成を「控訴人主張構成」という。)のみであり,その余の部分は,本件考案の技術的な内容や,この技術的内容を達成するための一実施例や,その利用の方法を述べるものではあっても,β「当該αを特定するために必要と認める事項」にすぎず,権利の範囲外である。
したがって,被告装置が控訴人の本件考案における権利を侵害するものであるか否かは,被告装置が控訴人主張構成を備えているか否かにより判断すべきであり,後記エのとおり,被告装置には控訴人主張構成が存在するから,本件考案技術的範囲に属し,控訴人の権利を侵害する。
記@ 二段差の回転力の一方を直接的に,他方をすべりを許容する継手を介して同時に出力シャフトへ伝えるデファレンシャルギヤA @の二段差を設けるための減速ギヤまたはこれに類するものB @及びAを介して二段差の回転力を受ける基本軸を兼ねた出力シャフトイ これに対し被控訴人は,本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載を,下記AないしHのとおり分説し,各分説に本件考案の権利の範囲が属するから,全部の分説が合致しなければならないと主張し,その根拠として,法26条が準用する特許法70条1項の「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」との規定を挙げる。
記A 変速機カバー内に変速機自体を回転させる回転体としての回転カバーを設け,B この回転カバーの内部において,デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され,C エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し,D 分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトへ伝え,E 他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え,F 前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝えることにより,G 二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝えることを特徴とするH 一軸のデファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機。
しかし,上記アに述べたとおり,法は,被控訴人の主張する法26条(ないしこれが準用する特許法70条)の規定のほかに,前記アに述べた法1条及び5条5項をも規定しており,後者の規定からすれば,実用新案登録請求の範囲の記載内容は,権利の範囲内であるα「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」と権利の範囲外であるβ「当該αを特定するために必要と認める事項」の2点のいずれかにより構成されるものと解すべきであるから,法26条及び特許法70条1項に基づく被控訴人の主張は失当である。
ウ また,法ないし特許法上,「分説」についての規定はないが,分説とは,控訴人と被控訴人との装置の比較対照を行わせるための一方法であり,その趣旨は,本件考案の権利範囲に属するα「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」が被告装置に存在するかの検証を行うというものであるから,実用新案登録請求の範囲の記載を分説する場合は,考案に係る権利の内容を明確にするため,上記αとβの差異に留意すべきである。
そして,被控訴人の主張に係る上記分説AないしHのうち,分説G及びHは本件考案の技術的内容を述べたもので,分説A及びBはこの技術的内容を達成するための一実施例であり,分説CないしFはその利用の方法である。上記アに述べたとおり,分説AないしHのうち,本件考案の権利範囲に属するαに該当するものは,控訴人主張構成,すなわち,上記Bのうちの「デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され」た部分のみであり,その余の部分は,いずれも本件考案の権利範囲外であるβに該当する。そうである以上,分説による比較を行うに当たっては,上記のように権利の範囲内のものと範囲外のものがあることに留意すべきなのである。
それにもかかわらず,被控訴人の述べる分説は,法の規定及び分説による比較の趣旨を無視して上記αとβの2点を混在させ,権利の所在を曖昧にするとともに,特に,権利の範囲内であるα「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」の分説の検証を避け,裁判官にその他の分説を注視させようとするものであり,失当である。
ちなみに,分説Bのうち,「この回転カバーの内部において」の部分は,本件考案で求める装置の構成がデファレンシャルギヤ二段差伝達の無断変速機の中の回転カバーの内部であるという位置的特定をしたものであって,β「当該αを特定するために必要と認める事項」に当たり,他方,分説Bのその余の部分(すなわち,控訴人主張構成)は,α「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」に当たるから,権利の範囲の主張を明確にするため,分説Bは更に次のとおり分説すべきである。
B1 この回転カバーの内部において,B2 デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され,エ そして,被告装置には,次のとおり,控訴人主張構成が存在するから,本件考案の権利を侵害するものである。
(ア) 被告装置には,控訴人主張構成@におけるデファレンシャルギヤとして,二連プラネタリギヤ(ダブル・サンギヤ)30と称するヘリカルプラネタリギヤが存在する。すなわち,同装置において,入力軸1に入力された回転力は,入力軸1と一体である大径サンギヤ33から小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35(キャリアピン・ピニオン軸32)を介してキャリア31への方向と,小径サンギヤ36及びこれと一体となる出力軸2への方向との二方向に振り分けて伝達されている。この装置は,キャリアと2個の歯車がピニオンギヤ(キャリアピン)を介して相互に回転力の入出力を可能とし,また,相互に差動回転を可能とするものである。当然のことながら,この装置は,キャリアと2個の歯車間がピニオンギヤ(キャリアピン)を介して相互に歯車伝達の関係にある。主な特徴として,差動回転の制限を行えば回転の伝達は直結化するし,一方向から入力して二方向へ出力する場合に,その出力の一方向を外部から制限すれば,制限された側の回転力は他の一方向へ加算されて出力される。
(イ) これに対し,被控訴人は,被告装置には,直結状態においても,増速状態においても,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割される場面はないとか,控訴人の主張するような「キャリア31への出力」はないと主張する。
しかし,直結状態とか増速状態(更にはすべり状態)というのは,ロークラッチ10とハイクラッチ20の利用動作に関するものであるところ,控訴人主張構成においては利用方法について何ら限定していない以上,権利範囲としての控訴人主張構成に基づく構造があれば,その利用方法の全部(すなわち,直結状態,増速状態,すべり状態の全部)につき,権利の範囲が及ぶと解すべきである。
なお,ハイクラッチの利用に関していえば,ハイクラッチ20の係合によってキャリア31がケーシング3に固定され,これにより入力軸1の回転が,入力軸1に固定された大径サンギヤ33及びこれに噛み合う小径ピニオンギヤ34の間と,大径ピニオンギヤ35及びこれに噛み合う小径サンギヤ36の間とで増速される点は,上記のとおり,デファレンシャルギヤとしての特徴(一方向から入力して二方向へ出力する場合に,その出力の一方向を外部から制限すれば,制限された側の回転力は他の一方向へ加算されて出力される)を示しているのであるから,被告装置がデファレンシャルギヤ装置であることを示すというべきである。
その上,キャリア31がケーシング3に固定され,その回転を止めるということは,キャリア31に回転力が伝わっていることをも裏付けるものである。
(ウ) また,上記二連プラネタリギヤ(ダブル・サンギヤ)30は,控訴人主張構成Aにおける減速ギヤとしても作用する。すなわち,上記(ア)における大径サンギヤ33から小径ピニオンギヤ34(キャリアピン・ピニオン軸32)を介してキャリア31へと伝達される歯車関係が減速ギヤである。
なお,減速ギヤは,その役割として二方向出力側のキャリア31側と小径サンギヤ36・出力軸2への二方向に二段差の回転力差を生じさせなければならないが,二方向の回転比が1対1以外の場合は二段差の回転比があり,上記減速ギヤにおいては当然に二段差の回転力差もある。
(エ) そして,控訴人主張構成Bにおける基本軸を兼ねた出力シャフトとして,出力軸2が存在する。
すなわち,被告装置においては,キャリア31と小径サンギヤ36・出力軸2への二方向へ振り分けて出力しており,さらに減速ギヤとすべり装置は前後しており,差動制限を通じてキャリア31から出力軸2へと同時に回転力を伝えている。
(オ) 被控訴人は,被告装置の構造,動作について主張するが,上記のとおり構造は同じである。控訴人は被告装置のようなダブルサンギヤの装置を予想して,これと仕組みを同じとするデファレンシャルギヤとしてのダブルサンギヤを利用した装置の出願を行っている。その内容は別紙(省略)「公開特許公報フロントページ」及び「実用新案登録第2581755号権利範囲」のとおりであり,これを見れば,控訴人の主張する装置に対して被告装置が同じであることが理解できる。
オ なお,控訴人主張構成には含まれないが,構成要件Eについて付言するに,被告装置においては,前記のように,小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35・ピニオン軸32を介してキャリア31へと回転力が伝達されているが,さらにその回転力を出力軸2へ伝達しなければならないが,直結の場合のロック現象を除き,ロックしないようにキャリア31と出力軸2との間にすべりを行わせる装置が必要となる。当然のように被告装置にはクラッチとして存在し,作動制限を通じてキャリア31から出力軸2へと回転力を伝えている。
また,すべりを許容する継手を介して「前記減速ギヤに伝え」とあることから,控訴人側装置と被告装置ではその前後関係が逆になるが,技術的内容は同じである。
さらに,すべりを許容する継手については権利の範囲から除外し,その設置は必要とするものの設置位置は自由であり,前後関係は問わないというべきである。
以上に対し,原判決は,被告装置におけるクラッチの利用が瞬間的であることを理由として,「すべりを許容する継手」があるとは認められないとして,控訴人の主張を排斥している。
しかし,「瞬間」・「長時間」という時間的な事柄は,装置の利用の方法にすぎず,上記エ(イ)に述べたとおり,このような装置の利用方法は実用新案権としての権利の対象となるものではない。かえって,「瞬間」・「長時間」利用の装置であっても,控訴人主張構成が存在すれば,控訴人は本件考案の権利を主張できるから,瞬間又は長時間ということは,控訴人の上記エの主張を排斥する理由とはなり得ない。しかも,被告装置におけるクラッチ部分は,被告装置においては付加装置としての役割にすぎないから,論ずるまでもない。
したがって,利用が瞬間的であることをもって控訴人の主張に対抗できるものではない。
3 被控訴人(1) 控訴人の主張(1)に対しア 控訴人は,原審裁判官が一審原告(控訴人)の主張を採用しないときは当該裁判官が当該裁判の裁判官であることを否認する旨を予告したのに,原審裁判官は一審原告(控訴人)の主張を採用していないから,裁判官であることを否認するとともに裁判の無効を主張すると述べる。
しかし,一審原告である控訴人には裁判官を否認したり,裁判を無効にする権限はないから,上記主張は失当である。
イ 原審裁判官は,自己の能力が一審被告側に及ばない等とは述べておらず,したがって,これを前提とする「裁判はなかったものに等しい」旨の主張は失当である。
ウ なお,控訴人は,「今回裁判官は一審の裁判官を監督機関に監査を依頼すること。‥被控訴人からの金銭的物質的授受がないように考慮する事」等とも主張するが,一審被告(被控訴人)側から原審裁判官(一審裁判官)への金銭的物質的授受などは全くない。控訴人の主張は,被控訴人に対する根拠のない中傷であるばかりか,原審裁判官を含む日本の裁判官を著しく侮辱するものである。
(2) 控訴人の主張(2)に対しア 控訴人は,控訴人主張構成が存在すれば,被告装置は本件考案技術的範囲に属することになる旨主張するが,本件考案は上記2(2)イのAないしHのすべてを必須の構成要件とするものである。控訴人主張構成における@ないしBは,本件実用新案登録請求の範囲請求項1の記載を無視するものであり,法26条において準用する特許法70条1項に違反するものであって,明らかに誤りである。
イ なお,控訴人主張構成の@については,被告装置には直結状態においても,増速状態においても,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割される場面はなく,控訴人の主張するような「キャリア31への出力」はないから,誤りである。同Aについても,控訴人の主張する「キャリア31側への出力」自体が想定できないから,誤りである。
ウ 被告装置が本件考案の構成要件AないしHのいずれも充足していないことは,次に述べるとおりである。
(ア) 被告装置の構造,動作@ 被告装置の構造,動作は,原判決別紙(省略)「被告装置説明書」記載のとおりである。これについては,一審段階で,控訴人も争っていない。
A 被告装置では,エンジンから入力軸1に入力された駆動力を,そのまま「等速」で出力軸2に出力する場合の直結状態と,「増速」させて出力軸2に出力する場合の増速状態の,2つの状態がある。ロークラッチ10及びハイクラッチ20を,いずれか一方を係合し,他方を解放することによって,直結状態と増速状態との2つの状態を切換える。
直結状態は,ロークラッチ10が係合されることにより形成される。直結状態では,ハイクラッチ20は解放されている。ロークラッチ10の係合を行うクラッチピストン13は,スプリング14により,常にロークラッチ10を係合させる方向に付勢されている。ハイクラッチ20の係合を行う油圧ピストン22は,通常,コイルばね26によって,ハイクラッチ20の係合を解除する方向に付勢されている。
他方,増速状態は,ハイクラッチ20が係合されることにより形成される。増速状態の場合は,ロークラッチ10は解放されている。油圧ピストン22は,ハイクラッチ20の係合時に,ブレーキハブ23を介してクラッチピストン13を押し戻すことになるので,ロークラッチ10を係合する方向の付勢が抑えられ,ロークラッチ10が解放されることになる。
B 直結状態(ロークラッチ10が係合状態,ハイクラッチ20が解放状態)の場合の駆動力伝達経路は,次のようになる。
ロークラッチ10の係合によってキャリア31と入力軸1が一体化されることにより,キャリア31が,入力軸1及び入力軸1に固定された大径サンギヤ33と同一回転する。そのため,大径サンギヤ33に噛み合う小径ピニオンギヤ34及び大径ピニオンギヤ35が,キャリア31に両端を支持されるピニオン軸32を軸に自転しない。その結果として,二連プラネタリギヤ30(キャリア31,ピニオン軸32,大径サンギヤ33,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35,小径サンギヤ36)が一体のものとして回転する。したがって,入力軸1,入力軸1に固定された大径サンギヤ33,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35,小径サンギヤ36及び小径サンギヤ36を固定された出力軸2が回転差を生じない直結状態となるので,入力軸1の回転は,そのまま等速で出力軸2に伝達される。
直結状態の場合,ワンウェイクラッチ40が,通常,入力軸1に固定されたクラッチハブ11と,キャリア31に固定されたクラッチガイド12とを係合しているので,ロークラッチ10がスリップすることは無い。ワンウェイクラッチ40は,入力軸1の回転数が,出力側であるキャリア31,キャリア31に固定されたクラッチガイド12の回転数以上のとき(エンジンブレーキ時,後退時)に,解放状態となり,この場合は,ロークラッチ10の係合力のみで入力軸1の駆動力が出力軸2に伝達される。
C 他方,増速状態(ロークラッチ10が解放状態,ハイクラッチ20が係合状態)の場合の駆動力伝達経路は,次のようになる。
ハイクラッチ20の係合によってキャリア31がケーシング3に固定されることにより,入力軸1及び入力軸1に固定された大径サンギヤ33の回転により,大径サンギヤ33に噛み合う小径ピニオンギヤ34及び大径ピニオンギヤ35が,キャリア31に両端を支持されるピニオン軸32を軸に自転する。従って,入力軸1の回転は,入力軸1に固定された大径サンギヤ33と小径ピニオンギヤ34との間及び大径ピニオンギヤ35と小径サンギヤ36との間で増速されて,小径サンギヤ36に固定された出力軸2に伝達される。
増速状態は,入力軸1の回転数が出力側であるクラッチガイド12の回転数より大きい状態なので,ワンウェイクラッチ40は解放状態となっている。
(イ) 構成要件Aにつき@ 構成要件Aの「変速機カバー」の「変速機」とは,構成要件Bにおいて,「回転カバーの内部において,デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され」るとあるので,「減速ギヤ」を備え,エンジンから入力された回転力を「減速」させる作用を奏することを必須とするものである。
これに対して,被告装置は,前記(ア)Aのとおり,エンジンから入力軸1に入力された駆動力を,そのまま「等速」で出力軸2に出力する場合の直結状態と,「増速」させて出力軸2に出力する場合の増速状態との,2つの状態があり,その他の状態はない。
そして,被告装置における駆動力伝達経路は,前記(ア)BCのとおりであり,エンジンから入力軸1に入力された駆動力は,直結状態の場合は,「大径サンギヤ33,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35,小径サンギヤ36」を介して,そのまま「等速」で出力軸2に伝達され,他方,増速状態の場合は,大径サンギヤ33と小径ピニオンギヤ34との間及び大径ピニオンギヤ35と小径サンギヤ36との間で「増速」されて出力軸2に伝達されるのであるから,被告装置においては,「減速」する作用を奏する場合は存在しない。
したがって,被告装置は,「減速」させる作用を奏しないものであり,「減速ギヤ」を備えていない。してみれば,被告装置は,本件考案の「変速機」の必須の構成要件である「減速ギヤ」を備えていないので,「変速機」に該当しない。
よって,被告装置の「ケーシング3」は,構成要件Aの「変速機カバー」には該当しない。
A また,被告装置の「キャリア31」は,「変速機自体を回転させる」ものではないから,構成要件Aの「変速機自体を回転させる回転体としての回転カバー」には該当しない。
よって,被告装置は,本件考案の構成要件Aを充足しない。
(ウ) 構成要件Bにつき@ 前記(イ)@のとおり,被告装置は,「減速ギヤ」を備えていない。
控訴人も,被告装置において,「減速ギヤ」に相当する部品・部材を具体的に特定できていない。
控訴人は,減速ギヤは,その役割として,二方向出力側のキャリア31側と小径サンギヤ36・出力軸2への二方向に二段差の回転力差を生じさせなければならないが,二方向の回転比が1対1以外の場合は二段差の回転比があり,上記減速ギヤには当然に二段差の回転力差もあると主張する。しかし,被告装置の駆動力伝達経路は,前記(ア)BCのとおりであり,控訴人の主張する「キャリア31側への出力」自体が想定し得ないものであるから,控訴人の上記主張は誤りである。
A 次に,構成要件Bの「デファレンシャルギヤ」とは,構成要件Cで示されるように,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を二つに分割し」ているものである。
他方,被告装置では,前記(ア)Aのとおり,直結状態と増速状態とがあり,ロークラッチ10及びハイクラッチ20を,いずれか一方を係合し,他方を解放することで,2つの状態を切り換えているが,これらのいずれの状態においても,エンジンから入力軸1に入力された駆動力が二つに分割されることはない。
すなわち,直結状態の場合の駆動力伝達経路は,前記(ア)Bのとおり,入力軸1,入力軸1に固定された大径サンギヤ33,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35,小径サンギヤ36及び小径サンギヤ36を固定された出力軸2が回転差を生じない直結状態となるので,入力軸1の回転は,そのまま等速で出力軸2に伝達されるものであるから,この過程において,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割される場面はない。
また,増速状態の場合の駆動力伝達経路は,前記(ア)Cのとおり,入力軸1の回転は,入力軸1に固定された大径サンギヤ33と小径ピニオンギヤ34との間及び大径ピニオンギヤ35と小径サンギヤ36との間で増速されて,小径サンギヤ36に固定された出力軸2に伝達されるものであるから,この過程においても,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割される場面はない。
したがって,被告装置は,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を二つに分割」する作用を有するギヤを有しないから,「デファレンシャルギヤ」を備えていない。
B これに対して,控訴人は,被告装置にも,デファレンシャルギヤとしての二連プラネタリギヤ30があり,一方向からとして入力軸1・大径サンギヤ33側から入力し,二方向へとして小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35・ピニオン軸32を介してキャリア31と小径サンギヤ36・出力軸2への二方向へ振り分けて出力していると主張するが,被告装置の駆動力伝達経路は,前記(ア)BCのとおりであり,控訴人の主張する「キャリア31側への出力」自体が想定し得ないものであるから,控訴人の上記主張は誤りである。したがって,被告装置の「二連プラネタリギア30」は,本件考案の「デファレンシャルギヤ」には該当しない。
C よって,被告装置は,構成要件Bを充足しない。
(エ) 構成要件Cにつき@ 構成要件Cは,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し」というものである。
他方,被告装置の「二連プラネタリギア30」は,上記(ウ)ABのとおり,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を二つに分割」する作用を奏さず,また,控訴人の主張する「キャリア31側への出力」自体が想定し得ないものであるから,「デファレンシャルギヤ」に該当しない。
A よって,被告装置は,構成要件Cを充足しない。
(オ) 構成要件Dにつき@ 構成要件Dは,「分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトへ伝え」というものである。
他方,被告装置は,前記(ウ)A及び(エ)のとおり,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を二つに分割し」ていない。したがって,被告装置は,当然,「分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトへ伝え」てもいない。
A よって,被告装置は,構成要件Dを充足しない。
(カ) 構成要件Eにつき@ 構成要件Eは,「他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え」というものである。
他方,被告装置は,前記(イ)@のとおり,「減速ギヤ」を備えていない。
A また,被告装置は,「ロークラッチ10」,「ハイクラッチ20」及び「ワンウェイクラッチ40」があるが,これらはいずれも「すべりを許容する継手」に該当しない。
すなわち,被告人装置において,「ロークラッチ10」及び「ハイクラッチ20」は,前記(ア)Aのとおり,いずれか一方を係合し,他方を解放することによって,直結状態と増速状態との2つの状態を切り換えるものであって,他の状態はない。したがって,その切換えは瞬間的に行われるものであるから,「すべりを許容する継手」ではない。
また,「ワンウェイクラッチ40」は,直結状態では,通常,ワンウェイクラッチ40は係合状態となり,他方,エンジンブレーキ時や,後退時,また,増速状態では,キャリア31の回転数が入力軸1の回転数以上にならないので,ワンウェイクラッチ40は解放状態となるが,その他の状態はない。したがって,ワンウェイクラッチ40も,その係合・解除は瞬間的に行われるものであるから,「すべりを許容する継手」ではない。
してみれば,被告装置において,「ロークラッチ10」,「ハイクラッチ20」及び「ワンウェイクラッチ40」は,いずれも「すべりを許容する継手」に該当しない。
B これに対して,控訴人は,被告装置においては,前記のように,小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35・ピニオン軸32を介してキャリア31へと回転力が伝達されているが,さらにその回転力を出力軸2へ伝達しなければならないが,直結の場合のロック現象を除き,ロックしないようにキャリア31と出力軸2との間にすべりを行わせる装置が必要となるところ,これが被告装置にはクラッチとして存在し,作動制限を通じてキャリア31から出力軸2へと回転力を伝えていると主張している。
しかしながら,被告装置において,その駆動力伝達経路は前記(ア)BCのとおりであるから,控訴人の主張する「小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35・ピニオン軸32を介してキャリア31へと回転力が伝達され,さらにその回転力を出力軸2へ伝達」する経路は存在せず,また,控訴人の主張する「キャリア31と出力軸2との間にすべりを行わせる装置」も存在しない。したがって,控訴人の主張は,前提となる被告装置における駆動力伝達経路の理解が誤っているから,明らかに誤りである。
C また,控訴人は,控訴人側装置と被告装置ではその前後関係が逆になるが技術的内容は同じであると主張している。
しかし,控訴人は,被告装置におけるどの部品・部材が「減速ギヤ」に相当するかを,具体的に特定していないので,控訴人の主張は趣旨不明である。
仮に,控訴人の上記主張内容が,被告装置における,エンジンから入力軸1に入力された駆動力が「大径サンギヤ33→小径ピニオンギヤ34→大径ピニオンギヤ35→小径サンギヤ36」を介して出力軸2に伝達されるという駆動力伝達経路について,この経路を逆方向からみた場合を前提として本件考案の「減速ギヤ」と技術的内容が同じであるとの趣旨であるならば,被告装置においては,かかる逆方向の駆動力伝達経路は存在しないから,無意味な主張である。
また,本件考案の「減速ギヤ」とは,請求項1に,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し」,分割された二つの回転力の「他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え,前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝える」と記載されているので,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力」の伝達経路の方向が,「デファレンシャルギヤ」⇒「すべりを許容する継手」⇒「減速ギヤ」⇒「出力シャフト」の順であることと,「減速ギヤ」が「回転力を大きくし」て,すなわち「減速して」,出力シャフトへ伝達することは明らかである。したがって,入力された回転力を「減速」して出力軸へ伝達する「減速ギヤ」と,入力された駆動力を「等速」で又は「増速」して出力軸へ伝達する作用しか奏さない被告装置が,「前後関係が逆になるが技術的内容は同じである」とする控訴人の主張は,本件考案請求項1に記載された構成要件を無視し,これに反するものであるから,明らかに誤りであり,失当である。
D さらに,控訴人は,すべりを許容する継手については権利の範囲から除外し,その設置は必要とするものの設置位置は自由であり前後関係を問わないと主張しているが,構成要件Eに示すように,「すべりを許容する継手」を有することは本件考案の必須の構成要件であり,また,「すべりを許容する継手」の設置位置についても,請求項1において,「デファレンシャルギヤにより二つに分割し」た回転力の「他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え」と記載されているから,設置位置もかかる要件を充足する必要があることは明らかであるので,控訴人の上記主張は,本件考案請求項1に記載された構成要件を無視したものであり,根拠がなく,失当である。
E よって,被告装置は,構成要件Eを充足しない。
(キ) 構成要件Fにつき@ 構成要件Fは,「前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝えることにより」というものである。
他方,被告装置は,前記(イ)@のとおり,入力軸1に入力された駆動力を「等速」で又は「増速」させて出力軸2に伝達するものであるから,「回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝える」作用を奏しておらず,「減速ギヤ」を備えていない。
A これに対して,控訴人は,被告装置においては,減速ギヤとすべり装置は前後しており,差動制限を通じてキャリア31から出力軸2へと回転力を伝えていると主張しているが,被告装置の駆動力伝達経路は,前記(ア)BCのとおりであり,入力軸1に入力された駆動力を,「減速」させてキャリア31から出力軸2へ伝える経路は存在しないから,控訴人の上記主張は誤りである。
B よって,被告装置は,構成要件Fを充足しない。
(ク) 構成要件Gにつき@ 構成要件Gは,「二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝える」というものである。
他方,被告装置では,構成要件Gの前提となる構成要件Cの「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力をデファレンシャルギヤにより二つに分割」する構成が存在せず,従って,これを前提とした「二段差の回転力を同時に一つの出力シャフトへ伝える」ことも行っていない。
A これに対して,控訴人は,被告装置においては,キャリア31と小径サンギヤ36・出力軸2への二方向へ振り分けて出力しており,さらに差動制限を通じてキャリア31から出力軸2へと同時に回転力を伝えていると主張しているが,被告装置の駆動力伝達経路は,前記(ア)BCのとおりであり,「キャリア31と小径サンギヤ36・出力軸2への二方向へ振り分けて出力」する構成は存在しないから,控訴人主張は誤りである。
B よって,被告装置は,構成要件Gを充足しない。
(ケ) 構成要件Hにつき@ 構成要件Hは,「一軸のデファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機」というものである。
これに対し,前記(ウ)ABのとおり,被告装置には,「デファレンシャルギヤ」が存在しない。
また,被告装置は,前記(ク)Aのとおり,「二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝える」こともしていないから,「二段差伝達」もしていない。
さらに,被告装置は,前記(ア)ABCのとおり,エンジンから入力軸1に入力された駆動力を,「等速」で又は「増速」させて出力軸2に出力するのみであり,本件考案の「変速機」の必須の構成要件である「減速ギヤ」を備えておらず,「減速」させる作用も奏しないから,「変速機」に該当しないので,本件考案の「無段変速機」ではない。
A よって,被告装置は,構成要件Hを充足しない。
当裁判所の判断
1 原審裁判官が裁判官であることを否認すること等(控訴人の主張(1))について(1) 控訴人は,一審原告である控訴人が,原審裁判に先立ち,被告側装置が原告側装置に技術的内容が一致する重要な事柄を示し判決において述べることを依頼し,述べない場合には原審裁判官が裁判官であることを否認するとしているのに,原審裁判官はこの内容を省いて判決しているから,原審裁判官が裁判官であることを否認し,当該裁判は無効である等と主張する。
しかし,裁判及び裁判官の制度は,裁判所法その他の法律に基づき存立しているのであって,裁判を申し立てた控訴人の依頼に基づくものではないから,控訴人の上記主張はそれ自体において理由がない。また本件記録を精査してみても,原審裁判所及び原審裁判官に法の定める存立要件を疑わせる事実は認めることができない。
控訴人の上記主張は理由がない。
(2) 次に控訴人は,原審裁判官は控訴人の主張の装置に対し,主張の範囲外の装置を取り付けた状態での装置とを比較し異なる装置として判決しているが,このような比較のできない裁判官は裁判官であることを否認するとともに裁判自体も無効となる等と主張する。
しかし,原審裁判官が控訴人主張のような判断をしたからといって,それは判決内容の当否の問題であって,控訴審を含む裁判手続内で是正の要否が検討されるべきものであり,上記(1)でも述べたように,原審裁判が無効となったり原審裁判官が裁判官であることを否定されるべきものではない。
控訴人の上記主張は理由がない。
(3) 次に控訴人は,原審裁判官は原審口頭弁論終結日に一審被告側従業員に対し自己の能力が及ばないことを述べており,このように原審裁判官が一審被告側に比し能力が及ばないのであれば,裁判官であることを否認する等と主張する。
しかし,本件全証拠を精査しても原審裁判官が一審被告側従業員に対し上記のような発言をしたと認めるに足りる証拠はなく,また上記(1)で述べた次第により,原審裁判官が裁判官ではなくなるということもできない。
控訴人の上記主張は理由がない。
2 控訴人の被控訴人に対する本訴請求の当否について(1) 当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3「争点に対する当裁判所の判断」に説示のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア 控訴人は,考案の構成要件をα「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」とβ「当該αを特定するために必要と認める事項」に分け,前者のみが権利の範囲内であるとの主張に基づき,本件考案に係る実用新案登録請求の範囲に記載されている構成のうち,以下の@〜Bの構成が被控訴人製品に存すれば,本件考案技術的範囲に属することになると主張する。
@ 二段差の回転力の一方を直接的に,他方をすべりを許容する継手を介して同時に出力シャフトへ伝えるデファレンシャルギヤA @の二段差を設けるための減速ギヤまたはこれに類するものB @及びAを介して二段差の回転力を受ける基本軸を兼ねた出力シャフトイ しかし,実用新案の侵害を理由とする損害賠償請求訴訟において,相手方の製造等をする製品(以下「対象製品」という。)が考案技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては,願書に添付した実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて考案技術的範囲を確定しなければならず(法26条が準用する特許法70条1項),実用新案登録請求の範囲に記載された構成中に対象製品と異なる部分が存する場合には,対象製品は,考案の技術範囲に属するということはできない。
ウ 控訴人の上記主張は,対象製品が実用新案登録請求の範囲に記載された構成のすべてを充足しないとしても,一部の構成を充足すれば,考案技術的範囲に属する旨の主張であり,その根拠として法1条及び5条5項を挙げるが,法1条は,法の目的を規定したものであり,法5条5項は,願書に添付すべき実用新案登録請求の範囲を作成するに当たって出願人が遵守すべき記載要件を定めたものであって,いずれも控訴人主張のように解する根拠となるものではない。
(3) 本件考案に係る実用新案登録請求の範囲は,原判決記載のとおり,AないしHに分説することができるところ,控訴人は,上記のBをB1(「この回転カバーの内部において」)とB2(「デファレンシャルギアと減速ギア及び基本軸を兼ねた出力シャフト」)に分けるべきであると主張する。
この主張は,考案の構成要件をα「考案として特定された物品の形状,構造又は組合せ」とβ「当該αを特定するために必要と認める事項」に分け,前者のみが権利の範囲内であるとの前記主張に基づくものであるところ,この主張は,前記のとおり採用することができないから,BをB1とB2に分ける必要はないというべきである。
(4) そして,原判決が認定する(13頁19行〜17頁末行)とおり,被告装置は,本件考案のデファレンシャルギヤを有しないから上記構成要件B,C,D,E,Hを充足しないことになり,本件考案の減速ギヤを有しないから構成要件A,B,F,Gを充足しないことになり,すべりを許容する継手を有しないから構成要件Eを充足しないことになる。その結果,被告装置は,本件考案のいずれの構成要件も充足しないことになる。
(5) 控訴人の主張に対する補足的説明ア デファレンシャルギヤ(ア) 控訴人は,被告装置における二連プラネタリギヤ(ダブル・サンギヤ)30においては,入力軸1に入力された回転力は,入力軸1と一体である大径サンギヤ33から小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35(キャリアピン・ピニオン軸32)を介してキャリア31への方向と,小径サンギヤ36及びこれと一体となる出力軸2への方向との二方向に振り分けて伝達されているとして,これが本件考案におけるデファレンシャルギヤに当たると主張する。
確かに,被告装置においては,入力軸1に入力された回転力は,クラッチの切換えにより,直結状態であれば,キャリア31へと伝達されてこれが回転し,その回転力が出力軸2へと出力されることになるし,増速状態であれば,キャリア31がロックされる結果,大径サンギヤ33から小径ピニオンギヤ34・大径ピニオンギヤ35を介して小径サンギヤ36へと伝達されて,これらがそれぞれ回転し,その回転力が出力軸2へと出力されることになるから,異時的には,入力軸1に入力された回転力が二方向に振り向けて伝達される場合があることになる。
しかし,本件考案におけるデファレンシャルギヤは,入力を分割して出力する機構を有するギヤという抽象的な意味の構成を指すのではなく,エンジンから入力された回転力を二つに分割する(構成要件C)のみならず,分割された二つの回転力の一方は直接的に前記出力シャフトへ伝えるものでなければならないし(構成要件D),他方の回転力は減速ギヤを経て出力シャフトに伝えられるものでなければならず(構成要件E,F),しかも,これら二段差の回転力が,同時に出力シャフトへ伝達されるものでなければならないのである(構成要件G)。
そして,上記のとおり,被告装置は,入力軸1に入力された回転力が異時的に二方向に振り向けられることはあっても,同時に出力シャフトへ伝達されることはないのであるから,本件考案におけるデファレンシャルギヤは存在しないといわざるを得ない。
(イ) この点,控訴人は,被告装置について,キャリアと2個の歯車がピニオンギヤ(キャリアピン)を介して相互に回転力の入出力ができ,相互に差動回転ができるものであるとか,キャリアと2個の歯車間がピニオンギヤ(キャリアピン)を介して相互に歯車伝達の関係にあるとか,差動回転の制限を行えば回転の伝達は直結化するし,一方向から入力して二方向へ出力する場合に,その出力の一方向を外部から制限すれば,制限された側の回転力は他の一方向へ加算されて出力されるなどと主張する。
しかし,これらの特徴は,一般論としてのデファレンシャルギヤの特徴に合致するとみる余地はあっても,これにより本件考案におけるデファレンシャルギヤの構成要件を充たすものではない。
したがって,この点に関する控訴人の主張は理由がない。
(ウ) また控訴人は,直結状態とか増速状態(更にはすべり状態)というのは,ロークラッチ10とハイクラッチ20の利用動作に関するものであるところ,控訴人主張構成においては利用方法について何ら限定していない以上,権利範囲としての控訴人主張構成に基づく構造があれば,その利用方法の全部(すなわち,直結状態,増速状態,すべり状態の全部)につき,権利の範囲が及ぶと解すべきであると主張する。
しかし,控訴人の主張する二連プラネタリギヤ30が本件考案におけるデファレンシャルギヤといえないのは,上記のとおり,これが本件考案の構成要件を充たさないからであって,控訴人の主張は採用することができない。
イ減速ギヤ控訴人は,被告装置における二連プラネタリギヤ30が減速ギヤに当たると主張する。
しかし,本件考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば,本件考案における減速ギヤは,二分されたエンジン回転力の一方を大きくした上で出力シャフトに伝達するものとして作用することが前提とされている(構成要件C,E,F参照)。
そして,被告装置においてこれに相当する装置が存在しないことは,原判決が,15頁14行ないし16頁17行において,「減速ギヤの有無(構成要件A,B,F,G)」として説示するとおりである。
ウ 出力シャフト控訴人は,被告装置における出力軸2が出力シャフトに当たると主張する。
しかし,本件考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば,本件考案における出力シャフトは,二分されたエンジン回転力の一方は同回転力のまま,また,他方は減速ギヤにより回転力を大きくした上で,両者が同時に伝えられることを前提とするものである(構成要件D,F,G)ところ,被告装置における出力軸2が二分されたエンジン回転力を同時に伝えられるような構造となっていないことは,既に述べたところから明らかである。
エ 以上のほか,控訴人は,被告装置のようなダブルサンギヤの装置を予想して,別紙(省略)公開特許公報の内容と仕組みを同じとするデファレンシャルギヤとしてのダブルサンギヤを利用した装置の出願を行っており,これを見れば,控訴人の主張する装置に対して被告装置が同じであることが理解できると主張する。しかし,本訴請求は,本件考案に係る権利が被告装置により侵害されたことを理由とするものであるのに対し,別紙(省略)「公開特許公報フロントページ」はこれとは別個独立の権利に関するものである以上,仮に別紙(省略)「公開特許公報フロントページ」に記載された装置と被告装置との間に相似性が認められたとしても,本訴請求が認められることになるわけではない。したがって,両者を比較することに意味はなく,この点に関する控訴人の主張は理由がない。
また,控訴人は,「すべりを許容する継手」が存在しないとした原審の判断を争うが,被告装置に上記「すべりを許容する継手」が存在せず,また,被告装置における各クラッチ(ハイクラッチ20,ロークラッチ10,ワンウェイクラッチ40)がいずれも「すべりを許容する継手」に当たらないことは,原判決が16頁18行ないし17頁12行において,「すべりを許容する継手の有無(構成要件E)」として説示するとおりである。
3結論以上のとおりであるから,控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がない。よってこれと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海
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