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事件 平成 15年 (ワ) 4726号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 村角工業株式会社
訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 岩坪哲
同 井上裕史
被告 アジア器材株式会社
訴訟代理人弁護士 今村昭文
同 西田育代司
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/02/10
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、214万2844円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、696万円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、「病理組織検査標本作成用トレイ」に関する実用新案権を有していた原告が、被告製品である4種類の病理組織検査標本作成用トレイが、上記実用新案権にかかる考案を実施したものであり、被告がこれを製造させ、また譲渡したことが上記実用新案権を侵害したものであって、これにより原告が損害を被ったと主張して、その損害の賠償を求めた事案である(ただし、一部請求である。)。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。) (1)ア 原告は、下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1に記載された考案を「本件考案」と、その実用新案権にかかる明細書を「本件明細書」という。)を有していた(甲1、
2)。
考案の名称 病理組織検査標本作成用トレイ 出願日 平成元年6月15日 出願番号 実願平1-70186号 公開日 平成3年1月31日 公開番号 実開平3-10245号 登録日 平成9年2月21日 登録番号 第2535982号 権利存続期間満了日 平成16年6月15日 実用新案登録請求の範囲請求項1は、別紙実用新案登録公報(甲2)の該当欄記載のとおり イ 本件考案の構成要件は、次のとおり分説される。
(イ) 周縁の支持部と収容部とからなり (ロ) (イ)の収容部において病理組織検体をパラフィン包埋や凍結包埋ブロックを作成するトレイにおいて (ハ) (ロ)のブロックから切り出された薄片を左右非対称とするために、
(イ)の収容部の形状を左右非対称とした (ニ) ことを特徴とする病理組織検査標本作成用トレイ (2) 被告は、別紙被告物件図面に(1)ないし(4)の斜視図として記載された4種類の金属製病理組織検査標本作成用トレイ(これらを以下「被告物件」という。)を、平成13年10月から平成14年12月10日までの間に金属加工業者に製造させて仕入れ、平成13年10月から平成16年9月までの間にこれを譲渡した。
被告による被告物件の仕入個数合計は1万5430個、在庫個数合計は6486個、譲渡個数合計は8944個である。
被告物件は、本件考案の構成要件のうち、少なくとも(ロ)ないし(ニ)を充足し、構成要件(イ)のうち、少なくとも「収容部」を備える。
2 争点 (1) 被告物件は本件考案の構成要件(イ)の「周縁の支持部」を備えているか 〔原告の主張〕 ア 本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」とは、トレイの周縁においてカセットを支持し得る部分を意味する。
イ 被告物件は、これに対応するカセットの外形部が、トレイの開口部よりも大きくなっており、トレイの開口部すなわち周縁がカセットの外形部に当接してカセットを支持する構造となっている。
したがって、被告物件において、上記のようにカセットを支持するトレイの開口部は、本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」にあたる。
ウ 以上のとおり、被告物件は「周縁の支持部」を備えているから、本件考案の構成要件(イ)を充足しており、したがって本件考案技術的範囲に属する。
〔被告の主張〕 ア 本件考案は、トレイの外形がカセットよりも大きく、カセットをトレイの収容部に落ち込ませ、支持部でカセットを支える仕組みを前提としているものであり、本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」とは、トレイの内壁内すなわち収容部内に設けられ、カセットが収容部に落ち込まず、上下左右に動かないように支える部分を意味すると解すべきである。
イ 被告物件は、これに対応するカセットを使用することを前提としているところ、被告物件はこれに対応するカセットよりも小さく、カセット全体が被告物件の収容部内に入らない仕組みとなっている。
したがって、被告物件には、カセットが収容部に落ち込まないように支える部分、すなわち、本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」は存在しない。
ウ 以上のとおり、被告物件は「周縁の支持部」を備えていないから、本件考案の構成要件(イ)を充足せず、したがって本件考案技術的範囲に属しない。
(2) 本件実用新案登録に無効理由が存在することが明らかか 〔被告の主張〕 ア 本件実用新案登録には、以下のとおり、進歩性の欠如という無効理由が存在することが明らかである。
このような無効理由が存在することが明らかな本件実用新案権に基づく本件請求は、権利の濫用であって許されない。
イ 遅くとも、本件実用新案登録出願より前の昭和57年11月10日時点において、病理組織標本ブロックからスライド染色標本を作成する上で、切片の方向が分かるように病理組織標本ブロックの上左角を落としておくなどの方法でブロックの左右又は上下を非対称とすることは、病理学者、医療従事者、病理組織標本作成器具製造業者等に広く知られていた。
とすると、左右非対称の病理組織標本ブロックを作り出すために、トレイの形状を左右非対称としてパラフィンを固定させることは、本件実用新案登録出願以前において、当業者であればきわめて容易考案をすることができるものであった。
ウ 本件実用新案登録出願より前の昭和48年12月22日に公告された特公昭48-44081号特許公報(乙8)は、包埋トレイ及びカセットに関する特許公報であるが、その中には、「底型10の底及び側壁は、底型の底壁16に沿って方向を定めた標本のある凝固した時の仕上つたパラフイン本体88の形状を決定するために役立つ。」との記載があり、包埋トレイの底及び側壁の形状を変えれば左右非対称のパラフィンブロックができることを明示している。
また、上記イのとおり、本件実用新案登録出願以前において、病理組織標本作成者には、左右非対称のパラフィンブロックを作成する必要性も知られていた。
以上によれば、包埋トレイの底部の形状を左右で変え、左右非対称のパラフィンブロックを作り出すことは、本件実用新案登録出願以前において、その仕組みも必要性も当業者に明らかになっていたのであり、当業者においてきわめて容易考案をすることができるものであった。
〔原告の主張〕 ア 本件実用新案登録には、被告が主張するような無効理由は存在しない。
イ 本件考案は、そもそも病理標本ブロックを左右非対称に作成し、標本作成までのプロセスを簡略化する点に特徴を有しているのであるから、上記〔被告の主張〕イの手法とは技術的思想が異なり、当業者であればきわめて容易に本件考案をすることができたとはいえない。
ウ 上記〔被告の主張〕ウで被告が引用する特許公報の記載は、「底型10の底及び側壁でパラフィン本体88の形状が決まる」という当然のことを記載しただけであり、これを左右非対称にすることについては、明示もされておらず、示唆もない。したがって、当業者であればきわめて容易に本件考案をすることができたとはいえない。
(3) 損害額 〔原告の主張〕 ア 被告物件の譲渡により生じた損害 (ア) 原告は、平成13年5月に、金属製である本件考案の実施品(以下「原告製品」という。)を製造するための金型を製造し、これ以降、下請会社において、原告製品を単価105円で製造させた。
(イ) 原告は、平成15年6月頃まで、原告製品を単価790円で販売していた。
その後、被告が被告物件を無償で配布し、あるいは廉価で販売したため、原告は、原告製品の値下げを余儀なくされ、平成15年6月以降は、単価680円で販売した。
(ウ) 原告は、原告製品の他にも多数の医療器具を販売しているから、原告製品の販売個数が増加しても、営業にあたる従業員の人件費等の経費が増加することもないし、原告製品はきわめて小型の医療器具で、病院等への配送時には他の医療器具と混載して発送されるから、輸送費も増加しない。したがって、原告製品を製造販売するために要する経費は、製造単価である105円のみである。
(エ) 以上から、被告による本件実用新案権侵害の行為がなければ、原告において販売することができた原告製品の1個当たりの利益の額は、平成15年5月までの間は685円、平成15年6月以降は575円である。
(オ) なお、原告は、被告が譲渡した被告物件の個数に相当する8944個の原告製品を、製造販売する能力を有していた。
(カ) 被告が被告物件を各月何個譲渡したかは明らかではないが、平成13年10月から平成16年9月までの36か月の間、均等に譲渡したものとすると、平成13年10月から平成15年5月までの間に4969個、平成15年6月から平成16年9月までの間に3975個を譲渡したこととなる。
以上から、下記の計算式のとおり、それぞれの譲渡数量に原告製品を販売したときの1個当たりの利益の額を乗じた額は、568万9390円となり、
実用新案法29条1項により、この額は原告が被った損害と推定される。
4969個×685円+3975個×575円=568万9390円 (キ) ところで、上記(イ)のとおり、原告が平成15年6月以降原告製品を値下げしたのは、被告による侵害行為があったからであり、これがなければ、原告製品を継続して単価790円で販売することができたのであるから、被告の侵害行為による原告の逸失利益は、被告の譲渡数量に原告製品を単価790円で販売したときに得られる利益額である685円を乗じた額である。
したがって、被告が被告物件を譲渡したことにより原告が被った損害の額は、下記の計算式のとおり、612万6640円である。
8944個×685円=612万6640円 (ク) なお、被告は、被告物件が譲渡されなかったとしても、その個数と同数の原告製品を販売することができなかったとする事情があると主張する。
しかしながら、被告物件は、本件考案の実施品であるから、実用新案法29条1項の適用に際しては、被告物件は原告製品と競合するものというべきであり、被告主張の事情は、被告物件が譲渡されなかったとしても、その個数と同数の原告製品を販売することができなかったとする事情とはならない。
イ 被告物件の製造により生じた損害(譲渡分を除く) 被告が金属加工業者に製造させた被告物件のうち、6486個は在庫となって譲渡されていないが、この製造自体、本件実用新案権の侵害行為である。
本件実用新案権の実施料相当額は、原告製品の販売単価である680円の5パーセントに相当する1個当たり34円が相当である。
以上から、被告物件の製造により、原告が受けるべき実施料相当額(ただし、上記アで損害を算出した譲渡分を除く。)は、下記の計算式のとおり、22万0524円となり、この額は原告が被った損害額と推定される。
6486個×34円=22万0524円 ウ 弁護士費用 本件の提起及び追行を弁護士に委任したことにより生じた費用のうち、
100万円が被告による本件実用新案権侵害行為と相当因果関係がある損害である。
エ 結論 原告は、上記損害のうち、ア(キ)、イの合計634万7164円と、ウのうち61万2836円の合計696万円の賠償を請求する。
〔被告の主張〕 上記〔原告の主張〕のうち、ア(ア)及び(オ)の事実は認め、その余は否認ないし争う。その詳細は以下のとおりである。
なお、被告は、被告物件を合計8944個譲渡したが、このうち有償で譲渡したのは240個(売上合計12万0960円)のみであって、その余の8704個は無償で譲渡したものである。
ア 被告物件の譲渡により生じた損害の主張について (ア) 原告は、原告製品を単価790円で販売していたと主張するが、これを認めるだけの証拠は提出されていない。
また、原告は、被告が被告物件を無償で配布し、あるいは廉価で販売したため、原告製品の値下げを余儀なくされたとも主張するが、これを認めるだけの証拠も提出されていない。
(イ) 原告は、原告製品の販売個数が増加しても、営業にあたる従業員の人件費等の経費は増加しないと主張するが、原告は、原告製品を自社の営業員に販売させ、しかも定価表を作成せずに、顧客毎に見積書を作成しているのであるから、原告製品の販売個数の増加により、営業員の人件費、交通費、宿泊費等が当然増加するはずである。
また、原告は、原告製品の販売個数が増加しても、輸送コストは増加しないと主張するが、原告製品が当然に他の製品と混載できるかは不明であって別途輸送費がかかることも当然予想されるし、仮に、他の製品と混載するとしても、
その場合、他の製品に輸送費を負担させ、原告製品には負担させないということは不合理である。
(ウ) 以下のとおり、被告物件が譲渡されなかった場合に、その個数と同数の原告製品を販売することができなかった事情が存在する。
すなわち、@ 被告物件と原告製品は基本構造を異にしており、被告物件には、原告製品に対応するカセットを使用することができないから、被告物件と原告製品は競合関係にはなく、その結果、被告物件の譲渡は原告製品の売上には影響しない。A 被告物件は、これを使用することで形成されたブロックにバリが生じず、作業効率が上がるという特長故に、顧客に使用されたものであり、被告物件に対応するカセットは被告が販売したものに限られている。これに対し、原告が販売するカセットは、原告製品のみならず、他社のトレイでも使用できるものである。しかも、原告以外にも、形成されたブロックが左右非対称となるトレイを販売している会社があり、しかも廉価なものとなっている。したがって、被告物件の譲渡によって、必然的に原告製品の売上が影響されるものではなく、これらの間に因果関係はない。B 原告は、形成されたブロックが左右非対称となるプラスチック製のトレイ(2、3回使用すると破棄せざるを得ないものの、金属製のものに比べて30分の1ないし20分の1の価格である。)も販売しているから、被告物件が譲渡されなかったとしても、これと同数の金属製である原告製品が販売できるとはいえない。C 形成されたブロックが左右非対称となるトレイは、原告以外の会社も販売しており、競業者が存在するのであるから、被告物件が譲渡されなかったとしても、これと同数の原告製品を販売することができたとはいえない。
イ 被告物件の製造により生じた損害(譲渡分を除く)の主張について 被告が被告物件を金属加工業者に製造させた行為が本件実用新案権を侵害するものであることは否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 本件考案の意義について (1) 本件明細書(甲2)の「考案の詳細な説明」の項には、以下のとおりの記載が存在する。
ア 「産業上の利用分野」の項 本考案は病理組織検査標本作成用トレイに関し、更に詳しくは、該検査標本作成の効率を高め、信頼性を確保するための病理組織検査標本作成用トレイに関する。
イ 「従来技術と問題点」の項 従来のトレイは収容部(14)が左右同形状からなるため、例えば第13図や第14図に示す如く、包埋ブロックから切り出された薄片(21)も当然のこと乍ら左右同形状であり、これらを水の表面に浮かべてスライドグラス上に載せて並置して顕微鏡標本を作成する際に、右か左かが分かり難いためにその判断に時間を要し作業効率が低下するばかりでなく、いかに注意しても誤認する虞れを免れない。左右を誤認すれば検体の患者や採取場所がデタラメとなり、従って、その検査結果は全く意味を持たない結果となる。この様に、従来のトレイでは検査の信頼性が低下するという重大な結果を招く虞れがある。
ウ 「作用・効果」の項 本考案のトレイはその収容部を左右非対称としたため、薄片の左右が明確に区別できるので標本作成の作業効率を高めるとともに、検査結果の信頼性を確保するもので、その有用性は頗る大である。
(2) 上記のとおりの本件明細書の記載に照らせば、本件考案は、病理組織検査標本作成用トレイにおいて、これにパラフィン等を流し込んで形成される包埋ブロック自体の形状を左右非対称にすることによって、これから切り出される標本用薄片の形状を左右非対称とし、もって、薄片の左右を自ずから明らかとして標本作成の効率を高めると共に、これを用いた検査の信頼性を確保することを目的とし、そのために、トレイの収容部自体の形状を左右非対称としたものと解される。
以上の検討を前提として、以下、本件における争点につき判断する。
2 争点(1)(被告物件は本件考案の構成要件(イ)「周縁の支持部」を備えているか)について (1)ア 本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」の意義について、本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」の項自体には、これを明確に定義づけるに足りる記載は存在しない。
そこで、本件明細書の「考案の詳細な説明」の項及び添付図面を見るに、「実施例」の項において、「本考案図面に基づいて説明すると、第1図は本考案の実施態様を示す概略斜視図で、本考案トレイは周縁に支持部(1)を有し、
その内部に収容部(2)が設けられ、…」との記載があり、本件明細書添付図面の第1図及び第2図には、いずれも本件トレイの実施態様として、最外側の縁の内部に、そこから一段下がった支持部(1)が形成され、さらにその内側に収容部(2)が形成されたトレイが記載されている。また、本件明細書添付図面の第9図には、従来のトレイとして、最外側の縁である支持部(13)の内側に、そこから一段下がった部分が形成され、さらにその内側に収容部(14)が形成されたトレイが記載されている。
以上のとおりの本件明細書の記載及び添付図面に照らせば、本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」とは、トレイの周縁かつ収容部の外側にあって、カセットを支持する部分を意味するものと解するのが相当である。
イ この点につき、被告は、本件考案は、トレイの外形がカセットよりも大きく、カセットをトレイの収容部に落ち込ませ、支持部でカセットを支える仕組みを前提としているものであり、「周縁の支持部」とは、トレイの内壁内すなわち収容部内に設けられ、カセットが収容部に落ち込まず、上下左右に動かないように支える部分と解すべきと主張する。
しかしながら、本件明細書及び添付図面(甲2)には、本件考案が被告主張の仕組みを前提としていることを認めるに足りるような記載は存在しない。また、前記1のとおり、本件考案は、収容部の形状を左右非対称にしたところを本質的部分とするというべきであり、「周縁の支持部」については本件明細書及び添付図面にも上記の程度の記載しかないことに加え、従来例についての図面ではあるが、トレイの最外側の縁が「支持部」とされていることに照らせば、「周縁の支持部」がトレイの内壁内に設けられたものに限定することが相当とは解されないし、
また、本件考案実施例の説明において、支持部の内部に収容部を設けたものと明記されていることに照らせば、支持部が収容部内に設けられたものと解することはできない。さらに、本件明細書及び添付図面には、支持部がカセットを上下左右に動かないように支える部分である旨の記載や、これを示唆するような記載は存在しない。したがって、上記被告の主張は採用することができない。
(2) 上記(1)アの検討を前提に、被告物件が「周縁の支持部」を有するかを検討するに、被告物件に対応するカセットが、被告物件よりも大きいことは当事者間に争いがないところ、被告物件においては、収容部の外側にあるトレイの開口部周縁が、開口部を上にしてトレイを置いたときに最も高い面となるから、被告物件よりも大きいカセットをこの上に配置したときには、この開口部周縁にカセットが当接し、トレイの開口部周縁でカセットを支持することになるのは明らかである。
したがって、被告物件においては、別紙被告物件目録(1)ないし(4)の1の部分が、本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」に相当するということができる。
以上のとおり、被告物件はいずれも、本件考案の構成要件(イ)にいう「周縁の支持部」を備えているから、本件考案の構成要件(イ)を充足し、本件考案技術的範囲に属するものである。
3 争点(2)(本件実用新案登録に無効理由が存在することが明らかか)について (1) 一般に、実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるときは、
その実用新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。
そこで、本件実用新案登録に、被告の主張するような無効理由が存在することが明らかであるかどうか、検討することとする。
(2)ア 昭和57年11月10日に発行された書籍である、『病理技術マニュアル3 病理組織標本作製技術(上)-切出しから薄切まで-』第1版第2刷(乙2)には、包埋皿を用いて作成した包埋ブロックについて、「包埋されている組織形状の方向性が乏しいときは左上角のパラフィンを切って方向性をわかりやすくしておくと切片を上げるときに間違いが少ない.」との記述(127頁)及び「ブロックの上左角を落とし,切片の方向がわかりやすいようにしておく.」との記述(149頁)が存在する。
上記記述は、トレイを用いて形成する包埋ブロックについて、これから切り出される標本用薄片の左右を明らかにするために、作成された包埋ブロックの1角を切り落とし、標本用薄片を切り出す以前に包埋ブロックの形状を左右非対称とすることを記述したものである。
しかしながら、上記記述は、包埋ブロックを作成した後にその形状を加工することを述べるにとどまり、形成される包埋ブロックの形状そのものを初めから左右非対称にすることについては、何ら触れるところがない。そして、上記書籍に、他に、これを述べたり、あるいはこれを示唆する記述があるとは認められない。
したがって、上記書籍の記述から、左右非対称の包埋ブロックを作り出すために、トレイの形状を工夫することに想い到り、これを左右非対称とすることが、本件実用新案登録出願以前において、当業者においてきわめて容易であったということはできない。
イ 昭和48年12月22日に公告された特公昭48-44081号特許公報(乙8)には、「生物標本処理及び埋め込み装置」の特許についての公報であるが、これには、「底型10の底及び側壁は、底型の底壁16に沿つて方向を定めた標本のある凝固した時の仕上つたパラフイン本体88の形状を決定するために役立つ。」との記述(6欄)が存在する。
しかし、上記記述は、底型の形状にしたがってパラフィンブロックが成形されることを述べるにとどまるものであり、底型の形状を左右非対称にすることによって、形成されるパラフィンブロックの形状を左右非対称にすることを示唆するものとはいえない。そして、上記特許公報に、他に、これを述べたり、あるいはこれを示唆する記述があるとは認められない。
したがって、上記アの書籍の記述に、上記特許公報の記述を合わせて考慮しても、これらから、左右非対称の包埋ブロックを作り出すために、トレイの形状を左右非対称とすることが、本件実用新案登録出願以前において、当業者においてきわめて容易であったということはできない。
ウ そして、本件実用新案登録出願以前に刊行された、本件の他の証拠においても、型の形状を左右非対称にすることによって、形成されるブロックの形状を左右非対称にすることを述べたり、あるいはこれを示唆する記述があるとは認められない。
以上のとおりであるから、本件に現れた全証拠によっても、本件実用新案登録出願以前において、左右非対称の包埋ブロックを作り出すために、トレイの形状を左右非対称とすることが、当業者においてきわめて容易であったと認めることはできない。
(3) 以上のとおり、被告が主張する実用新案登録無効理由は、これが存在することが明らかであるということはできないのであるから、この点についての被告の主張は理由がない。
4 争点(3)(損害額)について (1) 被告物件の譲渡により生じた損害 ア 実用新案法29条1項による算定 (ア) 原告製品の1個当たりの利益の額 実用新案法29条1項にいう「利益の額」とは、権利者において侵害行為がなければ販売することのできた製品の販売価格から、当該製品を追加的に製造販売する行為に必要であると認められる費用、すなわち、その製品の製造原価ないし仕入れ価格のほか、梱包、保管、運送等の各種の経費のうち当該製品のみのために要する部分を控除した額であると解するのが相当である。
まず、原告において販売していた原告製品は、被告物件と同じく病理組織検査標本作成用トレイであるから、被告物件の譲渡行為がなければ販売することのできた製品であるということができる。この点につき、被告は、原告製品と被告物件は基本構造を異にするなどとも主張するが、実用新案法29条1項にいう侵害行為がなければ販売することのできた物品とは、侵害品と市場で競合する製品であれば足りると解すべきところ、原告製品は被告物件と同種の製品であって市場で競合することは明らかであるから、被告の主張は上記認定を左右するものではない。
原告製品の販売価格について、原告は、平成15年6月頃まで、単価790円で、平成15年6月以降は、被告が被告物件を無償で配布し、あるいは廉価で販売したため、値下げをして、単価680円で販売したと主張する。そして確かに、甲第4号証の3及び第5号証の3によれば、原告が、平成14年8月6日、
原告製品を単価790円で20個、平成15年10月6日、原告製品を単価680円で20個販売したことが認められる。
しかしながら、甲第3号証の3によれば、原告は、平成13年だけでも原告製品を1000個の単位で下請会社に製造させていることが認められるのに、原告が提出した原告製品の販売事例に係る証拠は2件各20個の合計40個についてのものに過ぎず、これ以外の販売事例を明らかにしようとしない。そして、
証拠上、原告製品についての定価表等は提出されておらず、原告がある時期において原告製品を同一の価格で販売していたことを認めるに足りる証拠もない。以上の事実に、原告製品の一般的な販売価格についての資料は、原告の下にあり、原告においてこれを提出することは容易と推認されることを総合すれば、上記40個の販売事例のみによっては、原告製品の販売価格についての原告の上記主張を認めるには足りないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
他方、乙第11号証の2・3及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告物件を無償配布する方針であったが、一部の顧客から無償では経理処理や管理処理上受領できないと言われたため有償で譲渡した物が240個あり、その分の売上高は、合計12万0960円(単価504円)であったことが認められる。上記事実に、原告が証拠を提出した販売事例の売価を考慮すると、原告製品の販売価格は、少なくとも1個当たり504円以上であったものと認められるが、これを超えると認めるに足りる証拠はない。
次に、上記の原告製品の販売価格から控除すべき費用について検討するに、その仕入れ価格が単価105円であることは当事者間に争いがない。また、
甲第3号証の3によれば、上記単価は消費税分を含まない価格であり、原告は、上記単価により計算される代金とは別に、消費税分を仕入れ先に支払っていることが認められるから、消費税分を含めた原告製品の単価は、110円25銭であると認められる。
そして、検甲第2号証によれば、原告製品はきわめて小型でありかつ軽量であることが認められるところ、これに照らせば、原告製品の販売個数が数千個増加しても、これに伴って保管費用が特段増加するとは考え難いし、運送についても、このために費用を追加する必要があるものとは認めがたい。また、乙第20号証の1・2によれば、原告が原告製品のようなトレイの販売を主たる事業としているものではなく、トレイの他にも多様な医療器具製品を販売していることが認められるから、原告製品の販売個数が数千個増加しても、これだけのために、営業担当従業員の人件費をはじめとする営業経費が増加するとも認められない。
そして他に、原告製品の販売価格から控除すべき費用があることを認めるに足りる主張も証拠もない。
したがって、上記の原告製品の販売価格から控除すべき費用としては、その仕入れ単価である110円25銭のみであるということができるから、実用新案法29条1項にいう侵害行為がなければ販売することのできた物品の単位数量当たりの利益の額は、上記(イ)の販売価格である単価504円から、控除すべき費用である110円25銭を控除して得られる額である、393円75銭であると認められる。
(イ) 被告物件の譲渡数量に相当する数を原告が譲渡できないとする事情 実用新案法29条1項ただし書は、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を実用新案権者が販売することができないとする事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を損害の算定から控除する旨を規定している。
ここでいう、「実用新案権者が販売することができないとする事情」とは、侵害者の営業努力、侵害品の侵害実用新案以外の技術的要素やブランド等の付加価値などによる需要の掘り起こしや、権利者製品に侵害品以外に代替品が存在することなどの要因によって、侵害品がなかったとしても、権利者が侵害品の譲渡数量をそのまま販売できない事情をいうと解される。
これを本件について検討するに、以下のとおりの事情があることが認められる。
@ 被告は、被告物件を合計8944個譲渡したが、このうち、8704個は無償で譲渡したものであり、有償で譲渡したのは240個にとどまる。また、有償で譲渡した被告物件の売上高は、合計で12万0960円であって、被告物件1個当たり504円である(「前提となる事実」(2)、乙9の1ないし3)。
A 原告と被告の他にも、病理組織検査標本作成用トレイを製造販売する業者が存在し、その中には、収容部の形状を左右非対称にして形成されるブロックの形状を左右非対称になるようにした金属製のトレイを製造販売している業者も存在する。また、病理組織検査標本作成用トレイとしては、金属製のものだけではなく、樹脂製のものも販売されており、原告自身も樹脂製のトレイを製造販売している(乙20の1・2、21の1ないし3)。
なお、被告は、被告物件と原告製品は基本構造を異にしており、被告物件には、原告製品に対応するカセットを使用することができないから、被告物件と原告製品は競合関係にはなく、その結果、被告物件の譲渡は原告製品の売上には影響しないと主張するが、仮に、被告物件には原告製品に対応するカセットを使用することができないとしても、トレイとカセットを一対のものとして考えれば、被告物件と原告製品とはまさに競合するものであるから、被告のこの主張は前提を欠くものであって採用することができない。
また、被告は、被告物件は、これを使用することで形成されたブロックにバリが生じず、作業効率が上がるという特長故に、顧客に使用されたものであるとも主張するが、被告物件を使用することで、形成されたブロックにバリが生じないという利点が存在するとしても(乙1)、これが顧客の採用動機になったとまで認めるに足りる証拠はないから、被告のこの主張も採用することができない。
そこで、上記@Aの各事情が、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を実用新案権者が販売することができないとする事情に該当するかにつき検討する。
(a) @について 一般に、製品を販売することができるためには、これに対応する需要が存在することが必要である。これに対し、製品を無償で譲渡するためには、
必ずしも製品の有償での販売に対応する需要は必要ではない。かえって、製品を無償で譲渡するときには、これを有償で販売するときよりも、相当数多い譲受けの需要が生じるのが通常であるというべきである。
もっとも、消耗品の必需品のように、無償で製品を譲渡する者がなかったとしても、これとほぼ同数が有償で購買されるであろうと考えられる製品もないわけではない。しかし、被告物件及び原告製品は、いずれも金属製であり、
また繰り返し使用されるいわば耐久財であるから、このような製品に該当するものでもない。
また、耐久財であっても、きわめて多大の購買需要が存在するものであれば、無償で製品が譲渡されなくとも、これとほぼ同数が有償で購買されるであろうと考えられる場合はある。しかし、被告物件や原告製品のような金属製病理組織検査標本作成用トレイの購買需要がどの程度あるかは明らかではないから(被告物件の販売事例は上記のとおり240個にとどまり、原告製品の販売事例も40個は認められるが、原告はこれ以上の販売事例を明らかにしようとしない。)、このような場合に該当するともいえない。
そうすると、上記@の事情は、無償で譲渡された被告物件の個数には、有償での販売であれば購買されなかったであろう数も含まれることを推認させるものというべきである。
(b) Aについて Aの事情に照らせば、原告製品には、被告物件以外に代替品が存在することが認められる。
以上のとおり、上記@Aの各事情に照らせば、仮に被告物件の譲渡行為が存在しなかったとしても、原告において、被告物件の譲渡数の原告製品をそのまま販売することはできなかったというべきである。
そして、上記@Aの各事情に加えて、原告による原告製品の販売単価が上記のとおり504円と認められること等の事情を考慮すれば、被告物件の譲渡行為が存在しなかったとしても、少なくとも、被告が無償で被告物件を譲渡した数である8704個の半数である、4352個については、原告が原告製品をそのまま販売することはできなかったものと推認される。
したがって、実用新案法29条1項による原告が被った損害額の算定にあたっては、上記の4352個に応じた額を控除すべきである。
なお、上記のとおり、被告が被告物件を譲渡したことによる損害を、
実用新案法29条1項により算定するにあたっては、無償での譲渡数のうち4352個分に相当する額を控除すべきであるが、この分についても、被告は被告物件を譲渡したことによって本件実用新案権を侵害したものであるから、これにより原告に損害が生じているというべきである。
そして、この分の損害については、同条3項により算定すべきものである(後記イ)。
(ウ) 上記(ア)(イ)の検討を前提とし、実用新案法29条1項を適用して、被告による被告物件の譲渡により原告が被った損害の額について計算すると、
下記の計算のとおり、180万8100円となる。
(8944個-4352個)×393.75円=180万8100円 イ 実用新案法29条3項による算定 上記ア(イ)で検討したとおり、実用新案法29条1項による損害額の算定にあたっては、被告による被告物件の無償譲渡数のうち4352個分に相当する額は控除すべきであり、この分の損害については、同条3項により算定すべきである。
そこで、この個数の被告物件の譲渡行為に対し、原告が受けるべき実施料相当額について検討するに、この個数については原告は無償で譲渡したものであるが、上記ア(イ)Aのとおり、被告が被告物件を販売するに際しては、1個当たり504円で販売していたことに照らせば、この譲渡に際して原告が受けるべき実施料相当額としては、被告物件1個当たり25円とするのが相当である。
したがって、実用新案法29条3項を適用して、被告による被告物件4352個の譲渡により原告が被った損害の額について計算すると、下記の計算のとおり、10万8800円となる。
4352個×25円=10万8800円 ウ 逸失利益の主張について 原告は、被告による侵害行為がなければ、原告製品を継続して単価790円で販売することができたのであるから、被告の侵害行為による原告の逸失利益は、被告の譲渡数量に原告製品を単価790円で販売したときに得られる利益額を乗じた額であると主張する。
しかしながら、前記ア(ア)のとおり、被告が被告物件を譲渡する以前においては、原告が原告製品を単価790円で販売していたと認めることはできないから、結局、原告製品の販売価格としては、単価504円と算定することとなる。
また、前記ア(イ)で検討したところに照らせば、被告が被告物件を譲渡しなかったならば、これと同数の原告製品を販売することができたとは認められない。
したがって、被告の被告物件の譲渡という侵害行為による原告の逸失利益は、前記アイのとおり算定される損害額を超えることはないと認められるから、
これ以上あえて逸失利益を算定することはしない。
(2) 被告物件の製造により生じた損害(譲渡分を除く) ア 前記「前提となる事実」(2)のとおり、被告は、被告物件を、金属加工業者に製造させて仕入れたものである。
そして、乙第15号証の1ないし5によれば、被告は、被告物件を含めた包埋皿について、被告所有の金型を製作した上で、これを金属加工業者に預けて包埋皿を製造させていることが認められる。
このような事情に照らせば、確かに、形式的には、被告物件を製造したのは金属加工業者であり、被告はこれを購入したものではあるが、実質的には、被告が金属加工業者に発注して被告物件を製造させたものであるから、この行為は被告自身による製造と同視すべきものである。
したがって、被告が金属加工業者に被告物件を製造させ、これを仕入れた行為は、被告による本件実用新案権の侵害行為であるということができる。
イ 実用新案法29条3項は、実用新案権者は、侵害者に対し、登録実用新案の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、損害額として賠償を請求することができる旨規定する。
ところで、被告が被告物件を製造させ、これを仕入れたことは、上記アのとおり、本件考案の実施品の製造として本件実用新案権の侵害にあたるというべきであるが、この実施行為は実施品の販売行為ではなく、実施品の製造行為であり、しかも、実施料相当額の損害を被ったとして原告が主張する分は、被告が他に譲渡した分ではなく、被告の在庫となっている分であるから、原告が主張するように、実施品の販売価格を基準として実施料相当額を算定することは相当ではない。
そこで検討するに、乙第17号証の3の4・5、5の2、7の8ないし10、8の2、9の3・4、11の2、14の2・3によれば、被告は、被告物件を金属加工業者から単価75円ないし86円で仕入れていることが認められる。すなわち、この価額が、被告における被告物件の製造に要した費用に相当する。
上記の事情に照らすと、被告が仕入れたまま他に譲渡しなかった被告物件について、その製造行為による侵害によって原告が被った損害を計算するための原告が受けるべき実施料相当額は、被告物件1個当たり4円をもって計算するのが相当である。
ウ 前記「前提となる事実」(2)のとおり、被告が仕入れたまま他に譲渡せず、在庫となっている被告物件の数は、6486個である。
したがって、実用新案法29条3項を適用して、他への譲渡分を除く被告物件の製造により原告が被った損害の額について計算すると、下記の計算のとおり、2万5944円となる。
6486個×4円=2万5944円 (3) 弁護士費用 原告が被った損害の額のうち、弁護士費用相当分としては、本件事案の難易、請求額、上記認容額、その他諸般の事情を勘案し、20万円をもって相当と認める。
(4) 合計 前記(1)ないし(3)の損害額を合計すると、214万2844円となる。
5 結論 以上のとおりであるから、原告の請求は主文掲記の限度で理由があり、その余は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生
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