関連ワード | 技術的範囲 / 構成要件充足性 / 均等 / 実施料相当額 / 権利濫用(権利の濫用) / 考案 / 図面 / 構造 / 組合せ / 公然実施 / 実施例 / 本質的部分 / 同一の作用効果 / 容易に想到 / 公知技術 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
3967号
不当利得返還請求事件
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原告 株式会社明電舎 原告 東伸電機株式会社 原告 三井造船マシナリー・サービス株式会社 原告ら訴訟代理人弁護士 光石忠敬 光石俊郎 原告ら補佐人弁理士 田中康幸 松元洋 被告 株式会社安川電機 訴訟代理人弁護士 松尾和子 渡辺光 訴訟代理人弁理士 大塚文昭 倉澤伊知郎 補佐人弁理士 竹内英人 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/02/16 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,原告ら各自に対し,金8000万円及びこれに対する平成16年3月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
原告らは,被告に対して,配電線無停電工事用電源供給装置を製造及び販売した被告の行為が原告らの共有していた実用新案権を侵害したとして,実施料相当額の不当利得の返還及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の割合による遅延損害金の支払を請求した。 1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。) (1) 当事者 ア 原告株式会社明電舎(以下「原告明電舎」という。)は,電気機械器具及びその他の機械器具の製造及び販売等を目的とする株式会社である。 イ 原告東伸電機株式会社は,配電盤及び直流電源装置の製造,販売及び修理等を目的とする株式会社である。 ウ 原告三井造船マシナリー・サービス株式会社は,商号を「三井・ドイツ・ディーゼル・エンジン株式会社」とし,目的をディーゼルエンジン及び発電機装置等の設計及び製作等として設立され,その後,商号を現商号に変更した株式会社である。 エ 被告は,電気機械器具・装置及びシステムの製造及び販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告らの実用新案権(甲2) 原告らは,下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。)を共有していた。 記 登録番号 第1996517号 考案の名称 配電線無停電工事用電源供給装置 出願日 昭和62年2月20日 公告日 平成5年3月4日 登録日 平成5年12月15日 存続期間満了日 平成14年2月20日 実用新案登録請求の範囲 別紙1「実用新案公報」の「実用新案登録請求の範囲」欄記載のとおり (3) 本件考案の構成要件 本件考案の構成要件を分説すると以下のとおりである(以下「構成要件@」,「構成要件A」などという。)。 @ 配電線の無停電工事を行なうとき前記配電線の電源の代わりに負荷に電力を供給する発電機を含む発電機回路と, A 前記配電線の活線開放部分に並列に接続され前記配電線の負荷量を計測する手段を有する並列回路と, B 前記並列回路の一端を前記活線開放部分の前記電源側に接,断可能に接続する手段と, C 前記並列回路の他端と前記発電機回路の出力端を接続した接続点を前記活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段を備えたことを特徴とする D 配電線無停電工事用電源供給装置。 (4) 被告の行為 ア 被告は,平成5年4月以降,別紙2(原告準備書面3別紙物件目録1の図面に「型式 YEG-65SA」を付記したものである。)及び3(原告準備書面3別紙物件目録2の図面に「型式 YEG-75SA」を付記したものである。)記載の配電線無停電工事用電源供給装置(以下では,別紙2記載の物件を「被告製品1」,別紙3記載の物件を「被告製品2」といい,被告製品1及び2を併せて「被告製品」という。また,被告製品の構造について記述する場合は,別紙2及び3記載の符号をかっこ内に併記する。なお,別紙2及び3の符号について,被告は同4記載のとおりの主張をしているが,被告製品の説明をする際に用いる用語及び回路の範囲が異なるにすぎず,これらの相違点は本件の争点に対する判断に影響しないから,以下では,専ら別紙2及び3に従って表記する。)を製造及び販売している。 イ 被告製品はいずれも構成要件@,A及びDを充足する。 2 争点 (1) 被告製品1が構成要件B及びCを充足するか否か(争点1) (2) 被告製品2が構成要件B及びCを充足するか否か(争点2) (3) 明らかな無効理由の存否(争点3) (4) 信義則違反の有無(争点4) (5) 不当利得の額(争点5) 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点1(被告製品1は構成要件B及びCを充足するか否か)について (原告らの主張) ア 構成要件B,Cの「接,断可能に接続する手段」該当性の有無 (ア) 構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」の意義 構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」とは,並列回路により配電線の負荷量を計測する際に,並列回路を配電線の活線開放部分の電源側及び負荷側に接続し,負荷量に応じて発電機の出力を上昇させ,発電機から負荷側に電力を供給した後,並列回路を活線開放部分から切断する手段を指すというべきであり,本件実用新案権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)に記載された実施例の断路器(4,5)等の特定の機器に限定されると解すべきでない。発電機による送電作業が完了した後に切断することができればよく,異相接続の場合等において接続替えができる構造もこれに該当する。 (イ) 被告製品1との対比 以下のとおり,被告製品1の「開閉機器(4,5)」,「接続用コネクタ(4a,5a)」及び「プラグイン式コネクタ(4c,5c)」は,いずれも,「接,断可能に接続する手段」に該当する。 a 開閉機器(4,5)について 被告製品1の開閉機器(4,5)は,手動操作により接続し又は切断することができるから,「接,断可能に接続する手段」である。 この点について,被告は,被告製品1の開閉機器(4,5)は検相手順と関係がない旨主張する。しかし,開閉機器(4,5)は,異相接続や相回転不良を避けるために検相終了後に閉じられるから,検相手順と連係している。 b 接続用コネクタ(4a,5a)及びプラグイン式コネクタ(4c,5c)について 被告製品1の接続用コネクタ(4a,5a)及びプラグイン式コネクタ(4c,5c)は,配電線に手動で取り付けられることにより電気的に接続し,配電線から手動で取り外されることにより電気的に切断する機能を有するから,「接,断可能に接続する手段」である。 この点について,被告は,これらはいずれも作業中に接続され又は取り外されることがない旨主張する。 しかし,これらは,運転準備作業の際に接続され,停止作業の際に外されるし,異相接続であったときや配電線と発電機の相回転が異なっているときなどには接続替えをしなければならないから,作業中に接続され又は取り外されることはある。 イ 構成要件Cの「前記活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段を備えたことを特徴とする」該当性の有無 (ア) 文言侵害 被告製品1は,「開閉機器(5)」及び手動により取り付け,取り外しできる接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)が設けられている。 確かに,被告製品1は,開閉機器(5)が「並列回路(10)の一端と発電機回路(20)の出力端を接続した接続点」と「活線開放部分の負荷側」との間に配置されていないが,構成要件Cにいう電気的に「接,断可能に接続する」手段は,上記接続点と活線開放部分の負荷側との間に配置されている必要はないと解すべきであるから,被告製品1は,構成要件Cを充足する。 (イ) 均等侵害 仮に,上記のように解釈できないとしても,被告製品1の開閉機器(5)は,構成要件Cの「前記活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段」と均等である。すなわち,本件考案の本質的部分は,「発電機投入前に配電線の負荷量を計測し,これにより発電機出力を適当な値として,負荷切換え時に停電や電圧の過渡変動を生じないようにすることができる配電線無停電工事用電源供給装置」であり,被告製品1はこの技術的思想と同一である。また,本件考案と被告製品1の相違する部分を置き換えても,本件考案の目的を達することができ,同一の作用効果を有する。本件考案と被告製品1の相違する部分を置き換えることは,当業者が被告製品1の製造時点において容易に想到することができた。 ウ したがって,被告製品1は構成要件B及びCを充足する。 (被告の反論) ア 構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」等の意義 構成要件Bにいう「並列回路の一端を活線開放部分の電源側に接,断可能に接続する手段」とは,本件明細書の記載(3欄13ないし17行目)を参酌すれば,実施例の断路器(4)に相当する構造に限られると解すべきである。 また,構成要件Cにいう「活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段」とは,活線の電源側から並列回路を通り負荷側に至る回路接続がなされて負荷量が計測される状態と,並列回路を通る接続が絶たれて給電線からの電力供給が遮断され,代わりに発電機回路から負荷側への電力の供給が行われるようになった状態のいずれにおいても電流の通路となる位置に配置されるものを指すというべきである。 イ 被告製品1との対比 (ア) 開閉機器(4)について 開閉機器(4)は,回路を過電流から保護するための回路遮断器であり,一旦閉じられると作業が完了するまで外されることはない。 また,開閉機器(4)は,「発電機から負荷側に電力を供給した後,並列回路を活線開放部分より切断する手段」には当たらない。 しかも,実施例の断路器(4)は「異相接続しないように検相手順に従って」投入されるところ,被告製品1の開閉機器(4)は,検相手順が終了した後に閉じられるものであり,検相手順とは関係がないから,実施例の断路器(4)とは異なる。 したがって,開閉機器(4)は,構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」に該当しない。 (イ) 開閉機器(5)について a 被告製品1においては,発電機回路(20)の最も出力端寄りの位置に配置されるしゃ断器(17)の端子が並列回路(10)の端部に接続されるから,しゃ断器(17)と並列回路(10)の接続部が構成要件Cの「前記並列回路の他端と前記発電機回路の出力端とを接続した接続点」に該当することは明らかである。 被告製品1の開閉機器(5)は,「並列回路(10)の一端と発電機回路(20)の出力端を接続した接続点」と「活線開放部分の負荷側」の間には配置されていない。 したがって,開閉機器(5)は,構成要件Cの「活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段」に当たらない。 b この点について,原告らは,被告製品1の開閉機器(5)は,本件考案の「活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段」と均等である旨主張する。 しかし,被告製品1の開閉機器(5)は接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)を介して配電線に接続されているところ,接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)が「接,断可能に接続する手段」に当たらないことは後記(ウ)のとおりであり,被告製品1の開閉機器(5)と「活線開放部分の負荷側に接,断可能に接続する手段」とは,接続する位置のみならず接続手段においても異なっているから,均等の主張は理由がない。 (ウ) 接続用コネクタ(4a,5a)及びプラグイン式コネクタ(4c,5c)について 接続用コネクタ(4a,5a)及びプラグイン式コネクタ(4c,5c)は,作業開始前に配電線に接続され,運転状態では取り外されたり再接続されたりすることがない。 また,本件明細書には「並列回路の常用電源側および負荷側への接続を,接,断の操作が容易にできるようにした」と記載されているのに対して,接続用コネクタ(5a)は,その取付け及び取外し作業に危険を伴うから,接,断の操作を容易にする手段とはいえない。 以上の理由から,被告製品1の接続用コネクタ(4a,5a)及びプラグイン式コネクタ(4c,5c)は,構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」に該当しない。 ウ したがって,被告製品1は構成要件B及びCを充足しない。 (2) 争点2(被告製品2は構成要件B及びCを充足するか否か)について (原告らの主張) 被告製品2の接続用コネクタ(4a)及びプラグイン式コネクタ(4c)は,構成要件Bの「電源側に接,断可能に接続する手段」に当たる。 また,被告製品2のしゃ断器(17),接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)は,構成要件Cの「負荷側に接,断可能に接続する手段」に当たる。 したがって,被告製品2は構成要件B及びCを充足する。 (被告の反論) ア 構成要件Bについて 被告製品2の接続用コネクタ(4a)及びプラグイン式コネクタ(4c)は「電源側に接,断可能に接続する手段」に当たらない。その理由は,争点1に関する被告の主張ア及びイ(ウ)に同じである。 したがって,被告製品2は,構成要件Bを充足しない。 イ 構成要件Cについて (ア) 被告製品2のしゃ断器(17)は,発電機回路(20)内に設けられており,「並列回路(10)の一端と発電機回路(20)の出力端を接続した接続点」と「活線開放部分の負荷側」の間には配置されていない。 (イ) 被告製品2の接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)は,いずれも運転状態では取り外されたり再接続されたりすることがないから,「負荷側に接,断可能に接続する手段」に当たらない。 (ウ) したがって,被告製品2は構成要件Cを充足しない。 (3) 争点3(明らかな無効理由の存否)について (被告の主張) ア 本件考案は,本件考案に係る出願前に株式会社九州電力により九州において公然実施されていた。 昭和61年4月8日付「電気新聞」(乙1)は,配電線無停電用電源供給装置に係る工法を紹介した記事であるが,同工法は,以下のとおり,本件考案と同一である。すなわち,乙1には,構成要件Aを除くすべての本件考案の構成要件が記載されており,また,無停電で配電線工事を行う装置であるという目的に照らして,負荷が発電機の容量を超えることによる停電を避けなければならないことは当然であり,そのためには負荷測定手段を電源車に搭載しておく必要があるから,乙1には,構成要件Aも開示されているというべきである。そして,昭和62年1月付「300KVA高圧発電機車コンデンサ負荷組合せ試験結果報告書」(乙2)によれば,上記電源供給装置は,その開発,実証段階において公然と実施されていた。 イ また,本件考案は公知技術(乙1及び2)から極めて容易に考案できたものである。 ウ したがって,本件実用新案権には無効理由のあることが明らかであるから,原告らの請求は権利濫用である。 (原告らの反論) 乙1には,配電線の負荷量を測定する手段及び負荷量を計測する手段を備えるための並列回路(構成要件A)が示されていない。 また,乙2は,事故調査報告書という性質上秘密文書である。 したがって,本件実用新案権に無効理由はない。 (4) 争点4(信義則違反の有無)について (被告の主張) 原告らは,本件考案の開発に当たり,株式会社九州電力と共同研究を行うなどしており,その権利取得には問題がある。 また,原告明電舎は,被告に対し,平成5年6月4日,被告製品が本件実用新案権を侵害する趣旨の書面を送付したので,被告は,原告明電舎に対し,被告製品は本件実用新案権を侵害しない旨を回答した。その後,原告明電舎と被告は書面及び面談により交渉を行い,その中で,被告は被告製品が本件実用新案権を侵害しないこと,本件実用新案権には明らかな無効理由が存在することを主張したが,原告明電舎は何ら反論しなかった。しかるに,原告明電舎は,被告に対し,9年間放置した後の平成14年8月2日,被告製品が本件実用新案権を侵害する趣旨の書面を送付し,本訴提起に至った。 このような経緯で本訴を提起した原告らの行為には,信義則違反がある。 (原告らの主張) 争う。 原告明電舎は,平成5年ころ,第三者の働きかけにより被告との間の交渉を中断せざるを得なかったので,長期間交渉を中断していたからといって,信義に反することはない。 (5) 争点5(不当利得の額)について (原告らの主張) 被告は,原告らの許諾を得ることなく被告製品を製造及び販売したことにより,本来支払うべきであった実施料の支払を免れており,原告らは実施料相当額の損失を被った。 実施料相当額は被告製品の販売価格の10%相当額であるところ,被告製品の単価は平均2000万円であり,平成5年9月2日から平成14年2月20日までの間の被告製品の販売数は40台を下らない。 したがって,被告の不当利得の額は8000万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 |
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争点に対する判断
1 被告製品1の構成要件充足性について (1) 「接,断可能に接続する手段」について 当裁判所は,構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」とは,物理的に接続(結線)する手段であって,当該接続手段を介して物理的に接続された状態下において電気的に接続し又は切断することができるものを意味するものと解する。その理由は,以下のとおりである。 ア 構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」とは,文言どおり解すると,接続する手段でありながら「接,断」が可能であるものを意味し,その技術的意義は本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄の記載のみからでは,必ずしも明らかでない。 そこで,本件明細書の「考案の詳細な説明」の記載を参酌する。「考案が解決しようとする問題点」欄及び「発明の効果」(考案の誤記と認められる。)欄の記載によれば,本件考案において「接,断可能に接続する手段」を採用した目的は,配電線の負荷量を計測する手段を有する並列回路を配電線の活線開放部分の電源側及び負荷側に電気的に接続し又は切断する作業を容易に行うことにあると認められ,また,実施例においては,「接,断可能に接続する手段」として,断路器(4,5)を例示しているが,断路器とは,定格電圧下において単に充電された電路を開閉するために用いられる開閉器(甲13),すなわち,物理的に接続する手段であって,当該接続手段を介して物理的に接続された状態下において電気的に接続し又は切断することができるものを指すことに照らすと,構成要件B及びCにいう「接,断可能に接続する手段」とは,一旦物理的に接続(結線)した後は電気的に接続又は切断するために当該接続手段全体を物理的に接続し又は取り外すことなく,当該接続手段を介して物理的に接続された状態下において電気的な接続状態及び非接続状態のいずれの状態もとり得る接続手段を意味するものと解するのが相当である。 イ この点について,被告は,「接,断可能に接続する手段」が実施例の断路器(4,5)に限定される旨主張するが,本件明細書の記載内容によっても,「接,断可能に接続する手段」が断路器という具体的な接続手段のみに限定されると解する根拠はないから,被告の主張は採用しない。 他方,原告らは,「接,断可能に接続する手段」とは並列回路と配電線の活線開放部分の電源側及び負荷側とを接続し又は切断することができる手段を広く意味する旨主張するが,そうだとすれば,単なる接続(結線)手段と何ら変わらないのであって,後記のとおり,構成要件B及びCの「接,断可能な」接続手段を備えることが本件考案の特徴であることに照らせば,原告らの主張を採用することはできない。 (2) 構成要件Cの充足性の有無について そこで,以下,上記の解釈を前提として,構成要件Cの充足性の有無について検討する。 ア 開閉機器(5)について (ア) 文言侵害について 甲18及び弁論の全趣旨によれば,被告製品1の開閉機器(5)は,通電状態の電路を手動又は電気操作により開閉することができ,かつ過負荷及び短絡等の際,自動的に電路を遮断する器具であると認められる。 そうすると,開閉機器(5)は,物理的に接続(結線)する手段であって,当該接続手段を介して物理的に接続された状態下において電気的に接続し又は切断することができるものといえるから,「接,断可能に接続する手段」に該当する。 他方,別紙2の図面のとおり,開閉機器(5)は,並列回路(10)の一端と発電機回路(20)の出力端との接続点(以下「本件接続点」という。別紙2の図面中,しゃ断器(7)としゃ断器(17)との間にある接続点がこれに該当する。)を活線開放部分の負荷側に接続していない。 したがって,被告製品1は,「接,断可能に接続する手段」の配置される位置が相違する点において,構成要件Cを文言上充足しない。 この点について,原告らは,「接,断可能に接続する」機能を有する接続手段であれば,当該接続手段が本件接続点と活線開放部分の負荷側との間に配置されていなくともよい旨主張する。 しかし,構成要件Cにおいては,「接,断可能に接続する手段」は「並列回路の他端と発電機回路の出力端を接続した接続点」を「活線開放部分の負荷側」に接続するものとされており,開閉機器(5)を本件接続点と活線開放部分の負荷側との間に配置した場合と,被告製品1のように発電機(8)と本件接続点との間に配置した場合とを対比すると,開閉機器(5)は,前者では並列回路(10)を通る電流を遮断することにより,切断する作業を容易にする機能を有しているのに対して,後者では,発電機回路(20)を通る電流を遮断することができるにとどまり,並列回路(10)を配電線の活線開放部分の負荷側に電気的に接続し又は切断する作業を容易にする機能を有していないから,開閉機器(5)が配置される位置が異なれば,両者の技術的意義は異なるというべきである。したがって,原告らの主張は採用しない。 よって,被告製品1は構成要件Cを充足しない。 (イ) 均等侵害について 原告らは,被告製品1における開閉機器(5)は,「接,断可能に接続する手段」の配置される位置が異なるとしても,構成要件Cにおける「接,断可能に接続する手段」と均等である旨主張する。 そこで,被告製品1と本件考案の構成要件Cとの間で相違する部分が本件考案の本質的部分か否かについて検討する。 本件考案は,配電線無停電工事用として常用電源に代わり負荷に電力を供給する応急用電源供給装置に関し,「発電機投入前に配電線の負荷量を計測し,これにより発電機出力を適当な値として,負荷切替え時に停電や電圧の過渡変動を生じないようにすることができる配電線無停電工事用電源供給装置を提供すること」を目的とするものであり,実用新案登録請求の範囲記載の技術的手段を採用することにより,配電線の負荷量を計測する手段を有する並列回路を設けるとともに,当該並列回路を配電線の活線開放部分の電源側及び負荷側に電気的に接続し又は切断する作業を容易にできるようにした(構成要件B,C)ところに特徴があるというべきである。したがって,「接,断可能に接続する手段」の配置される位置は,本件考案を特徴づける本質的部分であるということができる。 よって,被告製品1は本件考案と本質的部分において相違するから,両者が均等であるとの原告らの主張は理由がない。 イ 接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)について 証拠(甲11,16)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品1の接続用コネクタ(5a)及びプラグイン式コネクタ(5c)は,いずれも電気的に接続し又は切断するためにはコネクタ自体を接続し又は取り外す必要がある接続手段であると認められる。 そうすると,いずれも当該接続手段を介して物理的に接続した状態下において電気的に接続し又は切断することができる手段ではないから,「接,断可能に接続する手段」に当たらない。 (3) 小括 よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品1は本件考案の技術的範囲に属しない。 2 被告製品2の構成要件充足性について (1) 構成要件Bの充足性について 証拠(甲11,16)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2の接続用コネクタ(4a,5a)及びプラグイン式コネクタ(4c,5c)は,いずれも電気的に接続し又は切断するためにはコネクタ自体を接続し又は取り外す必要がある接続手段であると認められる。 そうすると,いずれも当該接続手段を介して物理的に接続した状態下において電気的に接続し又は切断することができる手段ではないから,「接,断可能に接続する手段」に当たらない。 したがって,被告製品2は,構成要件Bを充足しない。 (2) 構成要件Cの充足性について 上記(1)のとおり,被告製品2が構成要件Bを充足しないので,本件考案の技術的範囲に含まれないことは明らかであるが,念のため,被告製品2におけるしゃ断器(17)を設けた点が構成要件Cを充足するか否かについて検討する。 甲18及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2のしゃ断器(17)は,通電状態の電路を手動又は電気操作により開閉することができ,かつ過負荷及び短絡等の際,自動的に電路を遮断する器具であると認められる。 そうすると,しゃ断器(17)は,物理的に接続(結線)する手段であって,当該接続手段を介して物理的に接続された状態下において電気的に接続し又は切断することができるものといえるから,「接,断可能に接続する手段」に該当する。 しかし,別紙3の図面のとおり,しゃ断器(17)は,並列回路(10)の一端と発電機回路(20)の出力端との接続点(別紙3の図面中,しゃ断器(7)としゃ断器(17)との間にある接続点がこれに該当する。)を活線開放部分の負荷側に接続していない。 したがって,被告製品2は,本件考案と「接,断可能に接続する手段」の配置される位置が異なるから,構成要件Cを充足しない。 (3) よって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品2は本件考案の技術的範囲に属しない。 |
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結論
以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求にはいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙1は省略)(別紙2)型式YEG-65SA(被告製品1)(別紙3)型式YEG-75SA(被告製品2)(別紙4)1別紙2について別紙2被告の主張4開閉機器(MCB1)4配線用遮断器(MCCB1)5開閉機器(MCB2)5配線用遮断器(MCCB2)4a,5a接続用コネクタ4a,5a接続用クランプ4c,5cプラグイン式コネクタ4c,5c接続用コネクタ7,17しゃだん器(M1,M2)7,17電磁接触器(M1,M2)20発電機回路20発電機回路(20)は,発電機(8),配線用遮断器(5)及び電磁接触器(17)を含む回路である。 2別紙3について別紙3被告の主張4a,5a接続用コネクタ4a,5a接続用クランプ4c,5cプラグイン式コネクタ4c,5c接続用コネクタ7,17しゃ断器(MCCB1,MCCB2)7,17電気操作式配線用遮断器(MCCB1,MCCB2)20発電機回路20発電機回路(20)は,発電機(8),電圧計(21),電流計(22),電力計(23),電気操作式配線用遮断器(17)を含む回路である。 |
裁判官 | 榎戸道也 |
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裁判官 | 田公輝 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |