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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ10717損害賠償請求事件 判例 実用新案
平成18ワ1304意匠権侵害差止等請求事件 判例 実用新案
平成18ワ6536実用新案権侵害差止等請求事件 平成18ワ12229損害賠償請求事件 判例 実用新案
平成19ネ10047損害賠償請求控訴事件 判例 実用新案
平成19ワ1623実用新案権確認請求事件 判例 実用新案
関連ワード 技術的範囲 /  損害額 /  考案 /  構造 /  請求項 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 19023号 損害賠償請求事件
静岡県菊川市<以下略>
原告 甲東京都港区<以下略>
被告本 田技研工業株式会社
同訴訟代理人弁護士平尾正樹
同訴訟代理人弁理士佐藤辰彦
同 鷺健志
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/04/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告に対し,金100万円を支払え。
第2事案の概要本件は,「デファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機」に関する実用新案権を有する原告が,被告の製造,販売する車両に搭載された増速機構について,上記実用新案権に係る考案技術的範囲に属するとして,民法709条に基づき,損害額180億円の一部として100万円を請求したのに対し,被告が,被告の上記増速機構は上記考案技術的範囲に属さないと主張して争っている事案である。
21前提となる事実等□原告の実用新案権原告は,以下の実用新案権を有している(以下,「本件実用新案権」といい,請求項1の考案を「本件考案」,本件実用新案権の願書に添付された明細書(別紙実用新案登録公報)を「本件明細書」という。)。
登 録 番 号第2581755号考案の名称デファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機出願日平成2年11月30日登録日平成10年7月17日実用新案登録請求の範囲請求項1】変速機カバー内に変速機自体を回転させる回転体としての回転カバーを設け,この回転カバーの内部において,デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され,エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し,分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトへ伝え,他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え,前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝えることにより,二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝えることを特徴とする一軸のデファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機。
□本件考案の分説本件考案は,以下のとおり分説される(以下,それぞれの要件を,「構成要件A」,「構成要件B」等という。)。
A変速機カバー内に変速機自体を回転させる回転体としての回転カバーを設け,Bこの回転カバーの内部において,デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び3基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され,Cエンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し,D分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトへ伝え,E他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え,F前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝えることにより,G二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝えることを特徴とするH一軸のデファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機。
□被告の製品被告は,その製造,販売する車両「レジェンド」に,四輪駆動システム「」を搭載しており,その内部に増速機構(「の増速機SH-AWD SH-AWD構」,以下「被告装置」という。)を設けている。
被告装置の構造は,別紙「被告装置説明書」記載のとおりである(なお,SH-AWD以下,被告装置の各部位について示す際の番号は,同説明書図5「増速機構断面図」に示される番号を指す。)。
2争点□被告装置は,本件考案技術的範囲に属するか(争点1)□原告の損害及びその金額(争点2)3争点についての当事者の主張□争点1(被告装置は,本件考案技術的範囲に属するか)について(原告の主張)被告装置は,以下のとおり,本件考案の構成要件をすべて充足し,本件考案技術的範囲に属する。
ア構成要件Aについて(ア)構成要件Aの「変速機カバー」とは,装置全体を覆い,装置の保護4と支持を行うもので,被告装置のケーシング3がこれに相当する。
被告は,構成要件Aの「変速機」とは,減速ギヤを備えるものであるところ,被告装置は減速ギヤを備えておらず,被告装置のケーシング3は変速機カバーに該当しない旨主張するが,内部を増速機と見るか変速機と見るかの違いであり,共に,内部を覆い,保護するとともに,内部を固定する構造体であり,単なるカバーとみれば共通である。
(イ)構成要件Aの「回転カバー」は,デファレンシャルギヤ,減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトを内部に収容するキャリアであり,被告装置のキャリア31がこれに相当する。
被告は,被告装置のキャリア31は,変速機自体を回転させるものではないから,「回転カバー」に該当しない旨述べるが,「変速機自体を回転させる」ものとは,基本的にはデファレンシャルギヤへの入力部分を意味するものであり,本件考案では,キャリアである回転カバーに入力しているので,回転カバーが変速機自体を回転させるとしているが,被告装置では入力軸1を回転させるものとして考えればよい。
(ウ)したがって,被告装置は,構成要件Aを充足する。
イ構成要件Bについて(ア)構成要件Bの「デファレンシャルギヤ」とは,三方向より入出力ができるギヤを意味するものであるところ,被告装置においては,二連プラネタリギヤ30がこれに相当する。
(イ)構成要件Bの「減速ギヤ」とは,回転差を生じさせるための調整ギヤを意味し,必ずしも減速させることを必要としないものであり,被告装置においては,ダブルサンギヤ,すなわち,大径サンギヤ33,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35,小径サンギヤ36がそれに該当する。
被告は,本件考案においては,減速ギヤが存在することが必要とされ5ている旨主張するが,上記のダブルサンギヤにおいては,入力軸1から入力する場合,二方向への出力としてキャリア31側と出力軸2側へ出力させることになるが,この出力二方向においては,同回転比,同回転力ではないから,実質的に減速ギヤとなる歯車比で減速するのであって,実質的に減速ギヤが存在する。
(ウ)被告装置においても,入出力に軸そのもの及び中空シャフトを用いて基本軸を兼ねさせ利用しており,構成要件Bの「基本軸を兼ねた出力シャフト」を備えている。
(エ)したがって,被告装置は,構成要件Bを充足する。
ウ構成要件Cについて本件考案は,デファレンシャルギヤによって,三方向からの入出力を可能にするもので,基本的には一方向から入力し,他の二方向へ出力するが,デファレンシャルギヤの種類を限定するものではないから,構成要件Cの「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し,」における,回転力の入力は,回転カバーに限定されない。被告装置においては,キャリア31,入力側のサンギヤ(大径サンギヤ33)のいずれも,エンジンからの回転力が入力されるものということができる。
そして,本件考案において,入出力の方向は,機械的には可逆であるところ,本件考案に係る装置について,出力軸から入力を行った場合,入力された回転力は,減速ギヤとしてのプラネタリギヤに伝達され,回転カバーと中空シャフトの二方向へ出力されるものである。
被告装置においては,デファレンシャルギヤとしての二連プラネタリギヤ30において,三方向の入出力が可能であり,構成要件Cを充足する。
エ構成要件Dについて(ア)上記ウのとおり,被告装置における二連プラネタリギヤ30におい6て回転力が二方向に分割されることから,構成要件Dの「分割された二つの回転力の一方を」を充足している。
(イ)構成要件Dの「直接的に前記出力シャフトに伝え」とは,すべりを介さずに,二分割された回転力の一方を直接的に出力シャフトに伝えることであるが,被告装置においては,出力側サンギヤ(小径サンギヤ36)により,回転力が直接的に出力シャフトに伝えられている。
(ウ)よって,被告装置は,構成要件Dを充足する。
オ構成要件Eについて構成要件Eの「すべりを許容する継手」とは,トルクコンバーター,クラッチ等の種類を問わないところ,被告装置においては,クラッチがこれに該当する。被告装置においては,直結時と増速時とがあり,その切替時に,ハイクラッチ20,ロークラッチ10及びワンウェイクラッチ40のいずれも半係合の状態となって,すべりを許容する状態にあるといえるから,これらのクラッチが「すべりを許容する継手」である。
被告装置については,駆動力可変範囲,前後輪駆動力配分として,前後輪を,70対30から30対70の間で連続可変であると説明されており(甲2),すべりがあることが示されている。
さらに,被告装置では,プラネタリギヤが低速側大回転力から入力され,直結までの無段階又は可変回転出力を行っている(甲2)。
カ構成要件Fについて被告装置は,上記イ(イ)のとおり,減速ギヤを有しており,減速すれば,当然,回転力は大きくなるものであるから,構成要件Fを充足する。
キ構成要件Gについて被告装置は,上記アないしカのとおりの構成と回転力の伝達方法をとるから,構成要件Gを充足する。
ク構成要件Hについて7被告装置は,上記アないしカのとおりの構成と回転力の伝達方法をとるから,構成要件Hを充足する。
(被告の反論)被告装置は,以下のとおり,本件考案のいずれの構成要件も充足しないから,本件考案技術的範囲に属さない。
ア構成要件Aについて(ア)構成要件Aの「変速機カバー」の「変速機」とは,構成要件Bにおいて,「回転カバーの内部において,デファレンシャルギヤと減速ギヤ及び基本軸を兼ねた出力シャフトから構成され」るとあるので,減速ギヤを備え,エンジンから入力された回転力を減速させる作用を奏する。
これに対し,被告装置は,減速ギヤを備えておらず,エンジンから入力軸1に入力される駆動力を等速で,又は,増速させて,出力軸2に出力するのみであって,減速させる作用を奏しない。
したがって,被告装置のケーシング3は,増速機カバーであり,変速機カバーには該当しない。
(イ)また,被告装置の「キャリア31」は,「変速機自体を回転させる」ものではないから,構成要件Aの「変速機自体を回転させる回転体としての回転カバー」には該当しない。
(ウ)したがって,被告装置は,構成要件Aを充足しない。
イ構成要件Bについて(ア)上記ア(ア)のとおり,被告装置は,「減速ギヤ」を備えていない。
(イ)構成要件Bの「デファレンシャルギヤ」とは,構成要件Cで示されているように,エンジンから回転カバーに入力された回転力を二つに分割している。
これに対し,被告装置では,エンジンから入力軸に入力された駆動力は,直結状態(ロークラッチ10が係合,ハイクラッチ20が解放)の8場合に,二連プラネタリギヤ30のキャリア31,ピニオン軸32が,入力軸1,大径サンギヤ33と同一回転となり,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35はピニオン軸32の周りを自転せず,結果的に,二連プラネタリギヤ30が一体的に回転するので,入力軸1の回転がキャリア31を介して等速で出力軸2に伝達される。他方,増速状態(ロークラッチ10が解放,ハイクラッチ20が係合)の場合には,キャリア31,ピニオン軸32がケーシング3に固定され,入力軸1,大径サンギヤ33の回転はピニオン軸32周りを自転する小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35により,小径サンギヤ36を介して増速されて出力軸2に伝達される。このように,二連プラネタリギヤ30は,直結状態及び増速状態のいずれの場合も,入力軸1からキャリア31に入力された駆動力を「二つに分割」してはいない。
したがって,被告装置の「二連プラネタリギヤ30」は,構成要件Bの「デファレンシャルギヤ」に該当しない。
(ウ)よって,被告装置は,構成要件Bを充足しない。
ウ構成要件Cについて構成要件Cは,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し」というものであるが,上記イ(イ)のとおり,被告装置の「二連プラネタリギヤ30」は,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を二つに分割し」ておらず,「デファレンシャルギヤ」とはいえない。
したがって,被告装置は,構成要件Cを充足しない。
エ構成要件Dについて構成要件Dは,「分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトへ伝え」というものであるが,上記イ(イ)及びウのとおり,被告装置は,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を二つに分割9し」ていない。
したがって,被告装置は,「分割された二つの回転力の一方を直接的に前記出力シャフトに伝え」てもいない。
よって,被告装置は,構成要件Dを充足しない。
オ構成要件Eについて(ア)構成要件Eは,「他方をすべりを許容する継手を介して前記減速ギヤに伝え」というものであるが,上記ア(ア)で検討したように,被告装置は「減速ギヤ」を備えていない。
(イ)また,被告装置は,「すべりを許容する継手」も備えていない。
被告装置の「ロークラッチ10」は,入力軸1に固定されたクラッチハブ11と,キャリア31に固定されたクラッチガイド12との間の駆動力の伝達を,クラッチプレート15とクラッチディスク16との係合状態及び解放状態の2つの状態を切り替えることにより行うものであって,ロークラッチ10の係合を行うクラッチピストン13はクラッチガイド12内に配置され,スプリング14により常に係合方向に付勢されている。直結状態の場合,ロークラッチ10は係合状態にあり,増速状態の場合には,ロークラッチ10は解放されている。
また,被告装置の「ワンウェイクラッチ40」は,一方向のみへ駆動力を伝達するものであり,入力軸1の回転数が出力側であるキャリア31,クラッチガイド12の回転数以上のときに解放状態となり,駆動力を伝達しないように組み付けられている。直結状態の場合,前進時には,ワンウェイクラッチ40はロック状態となり,ロークラッチ10がスリップすることもない。前進時の減速状態や,後退時,増速状態では,キャリア31の回転数が入力軸1の回転数以上にならないので,ワンウェイクラッチ40は解放状態となる。
被告装置の「ハイクラッチ20」は,ブレーキハブ23と,ブレーキ10ハブ23とケーシング3との係合状態及び解放状態の2つの状態を切り替えるためのクラッチプレート24,クラッチディスク25とからなる。
ブレーキハブ23は,クラッチガイド12に,回転方向には一体的に,軸方向には摺動可能に取り付けられるとともに,ロークラッチ10のクラッチピストン13に当接し,該クラッチピストン13がクラッチガイド12に当接することにより軸方向への所定以上の移動を規制されている。油圧ピストン22は,ケーシング3内に配置され,図示しない油圧源からの油圧を油圧室21に供給・排出することにより,ハイクラッチ20の係合状態及び解放状態を切り替える。油圧ピストン22は,通常はコイルばね26によりハイクラッチ20の係合を解除する方向に付勢されている。増速状態の場合,キャリア31をケーシング3に固定するため,ハイクラッチ20は係合状態となり,直結状態の場合,ハイクラッチ20は解放状態となる。
以上のとおり,被告装置の「ロークラッチ10」,「ワンウェイクラッチ40」,「ハイクラッチ20」のいずれも,「すべりを許容する継手」には該当しない。
(ウ)したがって,被告装置は,構成要件Eを充足しない。
カ構成要件Fについて(ア)構成要件Fは,「前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝えることにより」というものであるが,上記ア(ア)のとおり,被告装置は「減速ギヤ」を備えていない。
(イ)また,被告装置は,入力軸1に入力された駆動力を「等速」で又は「増速」させて出力軸2に伝達するものであるから,「回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝える」こともしていない。
(ウ)よって,被告装置は,構成要件Fを充足しない。
キ構成要件Gについて11構成要件Gは,「二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝える」というものであるが,被告装置では,構成要件Gの前提となる構成要件Cの「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割し」ておらず,また,2つの異なる大きさの回転力を同時に1つの出力シャフトへ伝えることもしていない。
よって,被告装置は,構成要件Gを充足しない。
ク構成要件Hについて構成要件Hは,「一軸のデファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機」というものであるが,被告装置には,上記イ(イ)のとおり,デファレンシャルギヤが存在しない。
また,被告装置は,上記キのとおり,二段差の回転力を同時に出力シャフトへ伝えるものではないから,「二段差伝達の」変速機ではない。
さらに,被告装置は,エンジンから入力軸1に入力された駆動力を,等速で,又は,増速させて,出力軸2に出力するのみであり,本件考案の変速機のように,減速ギヤを備えて減速させる効果を奏するものではないから,本件考案の「無段変速機」ではない。
よって,被告装置は,構成要件Hを充足しない。
□争点2(原告の損害及びその金額)について(原告の主張)原告は,被告による本件実用新案権の侵害により,損害を受けた。
損害額は,他の訴訟(被告の他社に対する過去の訴訟等)による損害賠償額,被告装置に対する被告の宣伝力や宣伝効果による企業利益,被告装置を搭載した車両販売台数,被告装置への社会の期待感等を考慮して,総額180億円であり,本件訴訟においては,その一部として100万円を請求するものである。
(被告の反論)12原告の主張は争う。原告が主張する損害賠償請求額の根拠は,損害額算定の根拠となり得ないものであり,全く理由がない。
第3争点に対する当裁判所の判断1争点1(被告装置は,本件考案技術的範囲に属するか)について□本件考案の概要本件考案は,デファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機であり,その内容は,上記前提となる事実等(第2,1)□のとおりであり,本件考案の構成要件の分説は,同□のとおりである。
本件考案は,1つの回転力を,回転カバーで受け入れ,デファレンシャルギヤにより分割し,減速ギヤにより二段差の回転力を作り,二段差に分割された前記回転力を同一のシャフトへと伝達することにより達成される無段変速機である(本件明細書3欄24〜28行)。エンジンの回転駆動力を,デファレンシャルギヤにより2つに分割し,更に減速ギヤにより減速させられた回転力の一方と,減速のない回転力とを,回転数の違いにかかわりなく,基本軸としての出力シャフトへ同時に伝達することを可能として,無段変速機を構造上小さくする効果を有するものである(本件明細書4欄18〜23行)。
□被告装置の構造,動作被告装置の構造,動作は,別紙「被告装置説明書」記載のとおりである(争いがない事実)。このうち,ロークラッチ10の係合を行うクラッチピストン13は,スプリング14により,常に係合方向に付勢されている。また,ハイクラッチ20の係合は,油圧ピストン22で行われるが,同油圧ピストンは,通常,コイルばね26によって,係合を解除する方向に付勢されている。
被告装置では,入力軸1から入力された駆動力を,そのまま出力軸に出力する場合の直結状態と,増速させる場合の増速状態の,2状態があり,ロー13クラッチ10及びハイクラッチ20を,いずれか一方を係合し,他方を解放することで,2状態の切替えが行われる。
直結状態は,ワンウェイクラッチ40とロークラッチ10が係合されることにより形成される。直結時は,キャリア31と入力軸1が一体化され,二連プラネタリギヤ30の小径ピニオンギヤ34及び大径ピニオンギヤ35が,ピニオン軸32の周りを自転しなくなり,入力軸1と出力軸2は回転差を生じない直結状態となる。この状態では,ハイクラッチ20は解放されている。
他方,増速状態は,ハイクラッチ20が係合されることにより形成される。
増速時は,ハイクラッチ20の係合によりキャリア31はケーシング3に固定され,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35がピニオン軸32を軸に回転する。この場合,入力軸1の回転は,大径サンギヤ33と小径ピニオンギヤ34との間及び小径サンギヤ36と大径ピニオンギヤ35との間で増速されて,出力軸2に伝達される。この状態では,ロークラッチ10は解放されている。すなわち,油圧ピストン22が,ハイクラッチ20の係合時にブレーキハブ23を介してクラッチピストン13を押し戻すことになり,ロークラッチ10を係合する方向の付勢が抑えられ,ロークラッチ10が解放されることになる。
□被告装置におけるデファレンシャルギヤの有無(構成要件B,C,D,E,H)以上を前提に,まず,被告装置において,本件考案の「デファレンシャルギヤ」が存在するといえるか否かについて検討する。
本件考案の「デファレンシャルギヤ」は,エンジンから回転カバーに入力された回転力を2つに分割する作用を有するものである(構成要件C)。
他方,被告装置では,上記□のとおり,直結状態と増速状態とが,クラッチの係合・解放により,切り替えられているところ,これらのいずれの状態においても,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割されることはない。
14すなわち,直結状態では,ロークラッチ10が係合し,ハイクラッチ20が解放されているが,このとき,二連プラネタリギヤ30のキャリア31と入力軸1が一体化されることにより,キャリア31と,キャリア31に両端を支持されるピニオン軸32とが,入力軸1及び入力軸1に固定された大径サンギヤ33と同一回転することとなって,小径ピニオンギヤ34及び大径ピニオンギヤ35がピニオン軸32の周りを自転しなくなり,その結果として,二連プラネタリギヤ30がそれ自体一体のものとして回転するので,入力軸1の回転は,キャリア31を介してそのまま等速で出力軸2に伝達される。この過程において,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割される場面はない。また,増速状態では,ロークラッチ10が解放され,ハイクラッチ20が係合されているが,このとき,キャリア31と,キャリア31に両端を支持されるピニオン軸32とが,ケーシング3に固定されることにより,入力軸1及び入力軸1に固定された大径サンギヤ33の回転が,ピニオン軸32の周りを自転する小径ピニオンギヤ34(これは大径サンギヤ33と噛み合っている。)及び大径ピニオンギヤ35(これは小径サンギヤ36と噛み合っている。)によって,出力軸2に固定された小径サンギヤ36を介して増速して出力軸2に伝達されることになる。この過程においても,入力軸1から入力された駆動力が2つに分割される場面はない。
そうすると,被告装置は,本件考案のデファレンシャルギヤ,すなわち,エンジンから入力された回転力を2つに分割する作用を有するギヤを有しないことになり,デファレンシャルギヤを有すること又は回転力を2つに分割することを内容とする,構成要件B,C,D,E,Hを充足しないことになる。
なお,原告は,本件考案において,入出力の方向は,機械的には可逆であるところ,本件考案に係る装置について,出力軸から入力を行った場合,入力された回転力は,減速ギヤとしてのプラネタリギヤに伝達され,回転カバ15ーと中空シャフトの二方向へ出力されるものであり,被告装置においては,デファレンシャルギヤとしての二連プラネタリギヤ30において,三方向の入出力が可能であるから,二連プラネタリギヤ30がデファレンシャルギヤに該当する旨主張する。
しかしながら,構成要件Cでは,「エンジンから前記回転カバーに入力された回転力を前記デファレンシャルギヤにより二つに分割」することが要件となっているのであるから,入出力の方向が機械的に可逆であるか否かは,上記構成要件の解釈において意味がないものであるし,出力軸から入力を行った場合を前提にした議論は,同構成要件に開示された機序の範囲を逸脱するものである。したがって,被告装置における駆動力の伝達経路に類似する点があるとの原告の主張は,前提において誤りがあり,採用することはできない。
□減速ギヤの有無(構成要件A,B,F,G)次に,被告装置において,本件考案の「減速ギヤ」が存在するといえるか否かについて検討する。
被告装置においては,上記□のとおり,入力軸1から入力された駆動力を,そのまま出力軸に出力する場合の直結状態と,増速させる場合の増速状態の,2状態があり,その他の状態はない。したがって,減速させる作用を奏しないのであるから,被告装置に減速ギヤはない。
原告は,本件考案の「減速ギヤ」とは,回転差を生じさせるための調整ギヤを意味し,必ずしも減速させることを必要としないものであり,被告装置においては,ダブルサンギヤ,すなわち,大径サンギヤ33,小径ピニオンギヤ34,大径ピニオンギヤ35,小径サンギヤ36がそれに該当する旨主張するが,本件考案の「減速ギヤ」に係る,原告の上記解釈を採用することはできない。すなわち,本件考案の構成要件Fは,「前記減速ギヤにより回転力を大きくし前記出力シャフトへ伝えることにより,」として,ここでの16「減速ギヤ」が,入力された回転力を大きくするものであることを明示しており,入力された「回転力を大きく」することは,回転力を減速させることにほかならないから,本件考案の「減速ギヤ」が,入力された回転力を減速させるものを意味することは明らかである。このことは,本件明細書の「考案の詳細な説明」において,「回転力の一方を減速するための減速ギヤ」と説明されていることからも明らかである(3欄16行,4欄17行)。
また,原告は,被告装置のダブルサンギヤにおいて,入力軸1から入力する場合,二方向への出力としてキャリア31側と出力軸2側へ出力させることになるが,この出力二方向においては,同回転比,同回転力ではないから,実質的に減速ギヤとなる歯車比で減速するのであって,実質的に減速ギヤが存在する旨主張するが,被告装置における駆動力の伝達経路は,上記□のとおりであり,原告の主張する「キャリア31側への出力」自体が想定し得ないものである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
そうすると,被告装置は,本件考案の減速ギヤを有しないことになり,減速ギヤを有すること又は減速された状態等を内容とする,構成要件A,B,F,Gを充足しないことになる。
□すべりを許容する継手の有無(構成要件E)さらに,被告装置において,本件考案の「すべりを許容する継手」が存在するといえるか否かについて検討する。
被告装置においては,上記□のとおり,駆動力を等速で伝える直結状態と,増速させる増速状態とがあり,それ以外の状態はないから,その切替えは,瞬時に行われるものであると認められ,「すべりを許容する継手」があるとは認められない。
原告は,被告装置の直結状態と増速状態との切替時に,ハイクラッチ20,ロークラッチ10及びワンウェイクラッチ40のいずれも半係合の状態となって,すべりを許容する状態にあるといえるから,これらのクラッチが17「すべりを許容する継手」である旨主張するが,上記のとおり,切替えは瞬時に行われるものであるから,原告の主張するような半係合の状態があるとは認められない。なお,仮に,瞬間的に同状態があり得るとしても,切替時の過渡的な一瞬をとらえ,その際の状態をもって当該クラッチを「すべりを許容する継手」と解することはできない。すなわち,本件考案において,「すべりを許容する継手」は,デファレンシャルギヤにより2つに分割された回転力の一方を減速ギヤに伝えるための構造であり,「すべりを許容する」という作用を発揮することが,有意なものとして予定されていなければならないと解されるところ,被告装置における,上記切替時の一瞬については,同作用を発揮することが,意味のあるものとして予定されていないからである。
なお,原告は,被告装置について,駆動力可変範囲,前後輪駆動力配分として,前後輪を,70対30から30対70の間で連続可変であると説明されており(甲2),すべりがあることが示されているし,プラネタリギヤが低速側大回転力から入力され,直結までの無段階又は可変回転出力を行っていると説明されている旨主張するが,原告が指摘する説明は,被告装置ではなく,被告装置がその一部をなす,四輪駆動システム「」の,「リSH-AWDヤデファレンシャル装置」(被告装置は,上記システムのうちの「増速機構」に該当する。)に係るものであるから,同主張を採用することはできない。
そうすると,被告装置は,すべりを許容する継手を有しないことになり,構成要件Eを充足しない。
□小括以上により,被告装置は,本件考案のいずれの構成要件も充足しないことになるから,本件考案技術的範囲に属しない。
2まとめ18そうすると,他の点を論ずるまでもなく,原告の請求は理由がないことになる。
第4結論以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 片山信
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