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関連審決 不服2005-16303
関連ワード 物の形状 /  構造 /  物品 /  技術的思想の創作 /  補正 /  一致点の認定 /  拒絶理由 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  設計変更 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10348号 審決取消請求事件
原告株式会社リブドゥコーポレーション
訴訟代理人弁理 士植木久一
同 菅河忠志
同 二口治
同 伊藤浩彰
同 柴田有佳理
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人一ノ瀬覚
同 粟津憲一
同 高木彰
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/14
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2005-16303号事件について平成18年6月9日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成9年10月8日にした実用新案登録出願(実願平9-8953号)を変更して,平成10年5月1日,発明の名称を「使い捨てパンツの折り畳み構造」とする発明につき特許出願(特願平10-122446号。
以下「本願」という。)をし,平成17年7月22日,特許庁から拒絶査定を受けた。
原告は,これを不服として審判請求をし,同年9月26日付け手続補正書をもって本願に係る明細書について特許請求の範囲補正(以下「本件補正」という。)した。
そして,特許庁は,審理の結果,平成18年6月9日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その謄本は同月27日原告に送達された。
2 特許請求の範囲(1) 本件補正前の請求項1本願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲請求項1ないし4からなり,請求項1(本願の拒絶査定時のもの)の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】少なくともウエスト部開口周囲と脚部開口周囲とに弾性体が添設された使い捨てパンツにおいて,パンツの左右両側方部がパンツの前側または後側に折り返されると共に,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳まれてなることを特徴とする使い捨てパンツの折り畳み構造。」(2) 本件補正後の請求項1本件補正後の特許請求の範囲請求項1ないし3からなり,請求項1の記載は,次のとおりである(下線部は本件補正による補正箇所。以下,この発明を「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マットからなる吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている不織布製の外側シートからなり,ウエスト部開口周囲と脚部開口周囲とに弾性体が添設された使い捨てパンツにおいて,上記使い捨てパンツの上部には,ウエスト部開口周囲の弾性体と略平行に複数本の弾性体がパンツ全周にわたって添設されており,パンツの左右両側方部がパンツの前側または後側に折り返されると共に,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳まれてなることを特徴とする使い捨てパンツの折り畳み構造。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,登録実用新案第3021190号公報(以下「引用刊行物1」という。
甲1),特開平3-21238号公報(以下「引用刊行物2」という。甲2)に記載された発明(以下,それぞれ「引用発明1」,「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は却下すべきであり,さらに,本願発明も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきであるとしたものである。
審決は,本願補正発明と引用発明1との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)「吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている外側シートからなり,ウエスト部開口周囲と脚部開口周囲とに弾性体が添設された使い捨てパンツにおいて,上記使い捨てパンツの上部には,ウエスト部開口周囲の弾性体と略平行に複数本の弾性体がパンツ全周にわたって添設されており,パンツの左右両側方部がパンツの前側または後側に折り返される使い捨てパンツの折り畳み構造。」である点。
(相違点1)本願補正発明の「吸収本体」が「透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット」からなり,「外側シート」が「不織布製」であるのに対し,引用発明1においては,「吸収本体」は,透液性の不織布製のトップシートと不透液性のバックシートの間に吸収体が装填されるものであり,「外側シート」に相当するバックシート及びトップシートはバックシートのみが不織布製である点(判決注・「バックシートのみ」は「トップシートのみ」の明白な誤記と認め,以下,「トップシートのみ」と読み替えて判断する。)。
(相違点2)本願補正発明が,左右両側方部が折り返されることに加え,「パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳まれてなる」ものであるのに対し,引用発明1においては,パンツ上部とパンツ下部は折り畳まれていない点。
当事者の主張
1 取消事由についての原告の主張審決がした相違点2の認定に誤りがないことは認める。
しかし,審決には,以下のとおり,本願補正発明と引用発明1との一致点の認定の誤り(取消事由1),相違点1の認定及び容易想到性の判断の誤り(取消事由2),相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由3),特許法159条2項,同法50条に係る手続違背(取消事由4)があり,その結果,本件補正は独立特許要件を欠く不適法なものであると判断した違法がある。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)審決は,引用発明1の「バックシート」及び「トップシート」,「吸収体」は,本願補正発明の「外側シート」,「吸収本体」に機能上相当する(審決書4頁末行〜5頁2行)とした上で,前記のとおり,両者は,「吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている外側シートからな」る点で一致すると認定している。
しかし,審決の認定には,以下のとおり誤りがある。
ア本願補正発明は,「吸収本体」を使い捨てパンツの不織布製の外側シートと別体の構成とすることによって,「吸収本体」が設けられている外側シートの部分では,「吸収本体」の不透液性シートが,吸収された尿等の液体を外側シートへ漏れるのを防ぐことができ,「吸収本体」が設けられていない外側シートの部分では,外側シートが不織布製であるために,通気性を高めたり,肌触りを良くする機能を有している。
これに対して,引用発明1の「吸収体」は,トップシートとバックシートとの間に収容されているため,「吸収体」に吸収された液体が漏れるのを防止するために,バックシート全体を不透液性のシートとする必要がある。その結果,引用発明1の使い捨てパンツは,通気性が低下し,蒸れやすくなり,肌触りも良くない。
このように本願補正発明の「吸収本体」を不織布製の外側シートと別体として構成するか,引用発明1のように「吸収体」をバックシートとトップシートとの間に収容した一体の構成とするかによって,使い捨てパンツの通気性が著しく異なり,肌触りも異なるのであるから,引用発明1の「バックシート」及び「トップシート」,「吸収体」は,本願補正発明の「外側シート」,「吸収本体」に機能上相当するとした審決の認定には誤りがある。
イ引用刊行物1には「吸収本体」についての記載はなく,引用発明1に「吸収本体」は存在しない。また,引用発明1では,「吸収体」が透液性のトップシートと不透液性のバックシートの間に装填されており,本願補正発明の構成のように,吸収本体が外側シートの「内側」(人体側)に配設されているわけではない。
したがって,引用発明1には,「吸収本体」が外側シートの「内側」(人体側)に配設されていないことを看過し,本願補正発明と引用発明1が,「吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている外側シートからな」る点で一致するとした審決の認定には誤りがある。
(2) 取消事由2(相違点1の認定及び容易想到性の判断の誤り)ア 認定の誤り審決は,相違点1として,「引用発明1においては,『吸収本体』は,透液性の不織布製のトップシートと不透液性のバックシートの間に吸収体が装填されるものであ」ると認定しているが,引用発明1には,前記(1)イのとおり,「吸収本体」は存在しないから,審決の上記認定には誤りがある。
イ 容易想到性の判断の誤り審決は,「使い捨てパンツにおいて,『吸収本体』が『透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット』からなり,『外側シート』を『不織布製』とすることは,従前周知(一例として,特開平6-54878号公報参照。)であり,『吸収本体』,『外側シート』をこのような周知の形式のものとすることは,当業者であれば所望により適宜なし得た設計変更にすぎない。」(審決書5頁28行〜33行)として,引用発明1において,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたと判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)前記アのとおり,引用発明1には,「吸収本体」が存在しないから,引用発明1に,審決認定の周知技術(「吸収本体」が「透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット」からなること)を適用することはできない。
(イ)審決が周知例として引用する特開平6-54878号公報(甲3)の段落【0004】及び【0018】の記載によれば,カバーリング部を構成する外面材と内面材との間に,何本もの弾性糸を接着固定して,カバーリング部に伸縮性を持たせた構成を採るパンツ型おむつの従来技術を否定し,ウエスト開口部に複数の弾性体が設けられている引用発明1のような使い捨てパンツの製造では,連続的かつ能率的におむつを製造することができないことが示唆されている。したがって,甲3に例示されているような周知技術を引用発明1に適用することは,連続的かつ能率的におむつを製造する際には,困難であると考えられる。
また,引用発明1に審決認定の周知技術を適用し得たとしても,吸収本体(吸収体)は,依然として,透液性の不織布製トップシートと不織布製バックシートとの間に装填されたままであり,本願補正発明の構成のように,吸収本体(吸収体)が不織布製トップシートの内側(人体側)に配設されている構成を導き出すことはできない。
したがって,当業者が所望により適宜なし得る設計変更にすぎず,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたとした審決の判断には誤りがある。
(3) 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)審決は,「パンツ型ではないものの,使い捨てのおむつにおいて,コンパクト化のため,適宜所望回数前後方向に折り畳むことは,上記引用発明2に示されるように公知技術であり,また,使い捨てではないもののパンツをパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むことも周知(一例として,特開昭59-93625号公報参照。)のことである。
そして,引用発明1においてもコンパクト化ということを目的として左右両側方部を折り返すものであるから,さらなるコンパクト化を図るのであれば,さらにパンツの本体を前もしくは後ろに2つ折りすること,すなわちパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むようにすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。」(審決書5頁35行〜6頁8行)として,引用発明1において,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたと判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
ア 引用刊行物2記載の技術の適用の困難性(ア)引用刊行物2は,ファスニングテープを使用して着用時にパンツ型に形成する展開型の使い捨ておむつに関するものであり,展開型の使い捨ておむつを折り畳む発想は,引用発明1のような使い捨てパンツを折り畳む発想と,基本的な点で相違する。すなわち,展開型の使い捨ておむつは,使い捨てパンツに比べて,おむつ全体に占める吸収体部分の割合が大きくなるため,展開型の使い捨ておむつを折り畳むためには,吸収体の部分を折り畳んでいくということが考え方の基本となる(甲2の1頁右下欄18行〜2頁左上欄2行,第1図〜第3図)。これに対し,使い捨てパンツは,おむつ全体に占める吸収体部分の割合が小さく,不織布などで構成されるひらひらした部分が大面積で存在するため,使い捨てパンツを折り畳む場合には,吸収体部分ではなく,このひらひらした部分を折り畳むということが考え方の基本となる。
このように展開型の使い捨ておむつを折り畳む発想と使い捨てパンツを折り畳む発想は基本的に異なるので,当業者において,引用刊行物2の展開型の使い捨ておむつに関する折り畳み方法を,引用発明1の使い捨てパンツに適用するという着想に到達することはない。
(イ)引用刊行物2は,前後方向に折り畳む際に,折り畳み箇所位置の吸収体の両側縁に内方に括れる「括れ部」を形成しておくことで,折り畳みの安定性に優れコンパクト化を図ることができることを提案するとともに,「括れ部」が設けられていない吸収体を含む紙おむつを,単に前後方向に折り畳んでも,嵩高くなって,見栄えが悪くなることを示している。なお,引用刊行物2には,「括れ部」が設けられていない紙おむつの記載はなく,「括れ部」に係る技術と前後方向に2つ折り以上に折り畳む技術とが一体不可分の技術として記載されている。
そうすると,吸収体に「括れ部」が設けられていない引用発明1の使い捨てパンツについて,引用刊行物2の記載に基づいて単に前後方向に折り畳んでも,嵩高くなって,見栄えが悪くなることが予想されるはずであるから,引用刊行物2の記載に基づいて,引用発明1の使い捨てパンツについて,さらなるコンパクト化を図る目的で,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むようにすることには,阻害要因がある。
イ 一般の布製パンツに関する周知技術の適用の困難性(ア)一般の布製パンツ(ブリーフ)は,伸縮性を有する基布で構成され,未収縮かつ未伸展の状態にあり,ひだなどが生じておらず,厚みや硬さもほぼ均一であることから,使い捨てパンツと比べて,製造時や梱包時の取扱いが容易である。
一方,使い捨てパンツには,収縮部と未収縮部が存在し,弾性体が添設されて,収縮している開口部周囲にひだが生じ,パンツ下部には,大人の排尿を吸収するために吸収体が配設されるが,パンツ上部のウエスト開口部近傍には吸収体が配設されないので,パンツ上部とパンツ下部の厚みが不均一になり,パンツ上部のウエスト開口部は,ひらひらとしたものになる一方で,パンツ下部は,ごわごわとしたものになる。このような使い捨てパンツの厚み,硬さ(ひらひらやごわごわ)や形状の不均一が,製造時や梱包時のハンドリング性を極めて難しくしている。
そして,厚みが厚くなったり,材料が硬くなるほど,折り畳むことが困難になることは容易に理解することができるから,形状(厚み,形状の不均一など)や材料の硬さなどが著しく異なる布製パンツの折り畳み技術と使い捨てパンツの折り畳み技術とが,共通する技術であるとはいえず,引用発明1の使い捨てパンツに,「使い捨てパンツではない一般の布製パンツにおけるパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳む」という審決認定の周知技術の適用を試みることに,動機付けはないというべきである。
(イ)審決が周知例として引用する特開昭59-93625号公報(甲4)の第12図に示されているように,布製パンツを折り畳む際には,台紙Pが使用されているが,台紙Pを利用してパンツを折り畳むことができるのは,布製パンツの厚みが均一であり,台紙Pに比べてパンツの基布が柔軟であるからと考えられる。一方,パンツ下部とパンツ上部で厚みが不均一な構造の使い捨てパンツの場合には,パンツ上に,台紙Pを配置させること自体が困難であり,仮に配置させることができたとしても,パンツ上部のひらひらの部分が台紙Pにひっかかって,製造ラインの停止の原因になることが予想される。また,パンツ下部に存在するごわごわした吸収体を曲げることができる程度の硬度を有する台紙を用いることは,使い捨てパンツの基材である不織布を破る原因になることも考えられる。
このように布製パンツと使い捨てパンツとは,技術分野が異なり,構成や使用する素材が異なるので,引用発明1の使い捨てパンツに,「使い捨てパンツではない一般の布製パンツにおけるパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳む」という審決認定の周知技術を,適用することは,当業者にとって容易であるとはいえない。
ウ 動機付けの示唆・開示の不存在引用刊行物1,2には,使い捨てパンツの技術分野において,「さらなるコンパクト化を図る」ことについての動機付けや課題の示唆も開示もない。
どのような物を製造するにしても,ハンドリング性に適した大きさがあるのが一般的であり,物の形状が小さくなれば,例えば,把持するのが困難になって,かえってハンドリング性が悪くなる場合もあり,また,剛性の高い吸収部材は折り畳みを繰り返すと,元に戻ろうとする反発力が働くため,ハンドリング不可能となることもある。大人用使い捨てパンツは,大人が着用できる所定の大きさでなければならず,大きさが単にコンパクトであれば(小さければ)よいというものではない。また,使い捨てパンツは,折り畳めば必ずコンパクトになるというわけではない。現に,引用刊行物2は,単に折り畳んだとしても,嵩高となるばかりで,折畳み後の形状安定性がかえって悪くなることを示唆し,コンパクト化を図るためには,吸収体の両側縁に括れ部を形成することを提案している。また,使い捨てパンツを折り畳んでコンパクトにすることができる場合においても,包装袋中の使い捨てパンツ1個当たりの容積がそれほど減少するわけではなく,使い捨てパンツ1個当たりの容積の減少には限界がある。
そうすると,引用発明1が,使い捨てパンツのコンパクト化を目的としているとしても,包装袋にスムーズに収納できる引用発明1の使い捨てパンツについて「さらなるコンパクト化を図る」という動機付けを与える根拠はない。
エ まとめしたがって,引用発明1において,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたとの審決の判断には誤りがある。
(4) 取消事由4(手続違背)拒絶査定(甲9)は,「登録実用新案第302998号,特開平06-204号公報に記載されているように,おむつを下部と上部を重ねることは周知の技術に過ぎない」と認定したのに対して,審決は,「使い捨てではないもののパンツをパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むことも周知(一例として,特開昭59-93625号公報参照。)のことである」(審決書6頁1行〜3行)と認定した上で,本願補正発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に想到することができたと判断している。このように,審決は,認定している周知技術の内容及び周知例として引用する文献において,拒絶査定と異なるから,審決の上記認定部分は,拒絶査定の理由と異なる新たな拒絶理由に該当すると解すべきであり,出願人に反論の機会を与えるべきである。
しかるに,本件審判では,出願人である原告に対し,新たな拒絶理由通知に対する反論及び補正の機会を与えていないから,本件審判手続には,特許法159条2項において準用する同法50条に違反する手続違背がある。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア引用発明1の「バックシート」及び「トップシート」は,使い捨てパンツを着用し,かつ,尿等を吸収する部材(吸収体)を保持するための使い捨てパンツの基本的な構造部材をなす点で,本願補正発明の「外側シート」と共通する。また,引用発明1の「吸収体5」と本願補正発明の「吸収本体」は,いずれも尿等を吸収する部材そのものである。したがって,引用発明1の「バックシート」及び「トップシート」,「吸収体」は,本願補正発明の「外側シート」,「吸収本体」に機能上相当するとした審決の認定に誤りはない。
イなお,両者が「吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている外側シートからな」る点で一致するとした審決の認定のうち,吸収本体が「内側」に配設との部分には誤記があり,正確には「両者は,吸収本体と,前記吸収本体が配設されている外側シートからな」る点で一致すると認定すべきであったといえる。しかし,引用刊行物1記載の使い捨てパンツが,トップシート1とバックシート2の間に吸収本体が収容されているという本願補正発明の使い捨てパンツとの構造上の差異について,審決は相違点1として認定しているので,上記誤記は,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(2) 取消事由2に対しア前記(1)アのとおり,引用発明1の「吸収体」は本願補正発明の「吸収本体」に相当するから,引用発明1に吸収本体が存在しないことを前提に,相違点1の認定及び判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
イ甲3には,審決が認定した周知技術(「使い捨てパンツにおいて,『吸収本体』が『透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット』からなり,『外側シート』を『不織布製』とすること」)の記載とともに(段落【0021】,【0022】),複数本の弾性糸を細かい間隔で接着固定する必要がなく,パンツ型の使い捨ておむつを連続的かつ能率的に製造できることに係る技術が記載されているが,上記周知技術と上記製造に係る技術は,一体不可分な技術ではなく,それぞれを独立した技術として把握可能なものである。甲3に上記製造に係る技術の記載があるからといって,引用発明1に上記周知技術を適用することができないとする理由にはならない。
また,甲3の段落【0027】に「ウエスト部にスパンデックス(登録商標)または糸ゴムのような伸縮部材32を併用することも可能である(図4参照)」と記載されており,図4の記載と併せると,甲3は,ウエスト開口部に複数の弾性体を設けるという技術自体を否定していないことも明らかであり,審決の相違点1の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3に対しア 引用刊行物2記載の技術の適用について複数枚の使い捨てパンツ又展開型の使い捨ておむつを包装袋や包装箱等に収納するに当たり,折り畳む目的は,所望の目的に適合するよう外形の形状を変更することにあり,引用発明1の使い捨てパンツも引用発明2の展開型の使い捨ておむつも,コンパクトな状態で整列させて収納できるようにすることで共通する課題を有するものであるから,折り畳むことによりコンパクトにするために,引用発明1に,引用刊行物2記載の複数回折り畳むという技術の適用を試みる動機付けは十分存在する。
また,引用刊行物2に記載される「括れ部」に関する技術は,折り畳むことにより外形を変更するに当たり厚み方向に関係する技術であり,厚み方向に特に配慮をしないのであれば,「括れ部」を設けることなく,複数回折り畳むことは把握可能に記載されているので,上下を分かつ箇所に吸収体が存在していると否とにかかわらず,当該箇所で折り畳むことに何ら阻害要因はない。
イ 一般の布製パンツに関する周知技術の適用について折り畳むことは,外形の変更を行うことであり,類似形状の商品の梱包,展示等に適する目的に対応した折り畳み方を参酌して折り畳み方を決定することは,当業者の通常の設計行為に属するものである。そして,引用発明1の使い捨てパンツも,周知例(甲4)記載の布製パンツも,類似形状のものであって,適宜折り畳んでコンパクト化を図るという点で共通するから,引用発明1の使い捨てパンツに,布製パンツに関する周知の折り畳み方の適用を試みる動機付けは十分存在する。
また,甲4の実施例には台紙が存在するが,商品の外形を梱包,展示等に適する形状に変更する行為としての折り畳む状態は,パンツ上部とパンツ下部が重ね合わされた状態で折り畳まれていることに変わりはなく,甲4に台紙が存在するという理由のみで,パンツ上部とパンツ下部が重ね合わされた状態で折り畳むという技術思想を適用することへの妨げがあるとはいえない。
ウ 動機付けの示唆・開示について適宜コンパクト化を図ることは,分野を問わず技術者が一般的に認識し得る課題である。そして,引用発明1は,コンパクト化を図るため,「耳部」を折り畳んでいるものであり,また,引用発明2も所望とする大きさにするために,2つ以上の任意の数に折り畳むものであるから,「さらなるコンパクト化」を図ることは,そもそもコンパクト化を目的とする引用発明1から,当業者であれば当然に認識し得る検討すべき課題であり,その課題を解決するための具体的な手段として,近似した技術分野の引用発明2ないし類似形状の布製パンツの周知知技術を参酌することは,格別困難なことではない。
また,折り畳むことにより物品がコンパクト化され,コンパクト化に付随する効果としてのハンドリング性の向上は,当然に予測されるものであるから,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳んだことによるハンドリングに関する効果も当業者の予測の範囲内にすぎない。
したがって,審決の相違点2の判断に誤りはない。
(4) 取消事由4に対し審決は,本願補正発明と引用発明1とを比較して,相違点が存在することを認定した上で,本願補正発明に係る相違点の構成が,引用発明2及び周知技術を適用すれば容易に発明をすることができたと判断したのであって,上記判断は,拒絶査定の理由と異なる新たな拒絶の理由に当たらない。
したがって,審決に原告主張の手続違背はない。
当裁判所の判断
1 はじめに(本願補正発明の特徴的な部分)本願の明細書(甲5)には,本願補正発明は,従来の使い捨てパンツにおいては側方部を折り返すだけであったため,1個の大きさが大きな大人用の使い捨てパンツをコンパクトできれいに包装袋へ収納することが不可能であり,収納の際のハンドリングが不都合であるという問題点があったので,この問題点を解決課題として,パンツの両側方部を折り返すことに加えて,パンツの上部と下部を折り畳むという構成を採用したことが記載されている(段落【0002】ないし段落【0008】)。そうすると,本願補正発明の特徴的な部分は,パンツの左右両側部を折り返すことに加えてパンツの上部と下部を折り畳む点にあるが,この点に係る技術思想(コンパクト化などの目的で2回折り畳むという技術思想)は,単に当業者における技術常識に照らして容易想到であるのみならず,健全な社会通念に照らしてみても容易に着想でき,その技術的思想の創作性の程度は高いものとはいえない。
原告は,本願補正発明と引用発明1との対比及び相違点に係る容易想到性の有無を判断した審決の論理過程に誤りがあるとして,そのそれぞれを独立の取消事由として構成する。しかし,上述した本願補正発明の特徴的な部分及び原告の主張する取消事由の具体的な内容に照らすならば,本願補正発明における課題解決が容易想到であるとした審決の判断の当否に影響を及ぼすに足りる主張としては,取消事由3(パンツの左右両側部を折り返すことに加えて,上部と下部とを折り畳む構成を採用した点が容易想到か否か)の存否のみであるというべきであって,その余の取消事由(例えば,本願補正発明と引用発明1の各部分の機能上の相違に係る誤りなど)は,およそ審決の判断の当否に影響を及ぼすものとはいえない。
そこで,取消事由3について先に判断し,その他の取消事由については念のため判断することとする。
2 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について(1)審決が,引用発明1においてもコンパクト化ということを目的として左右両側方部を折り返すものであるから,さらなるコンパクト化を図る目的で,さらにパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むようにして,本願補正発明の構成を採用することは,引用発明2(パンツ型ではない使い捨てのおむつにおいて,コンパクト化のため,適宜所望回数前後方向に折り畳む発明)及び周知技術(使い捨てではないもののパンツをパンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳む技術)を適用することによって容易に想到し得たとした判断の誤りの有無について検討する。
ア引用刊行物1(甲1)によれば,同刊行物記載の使い捨てパンツは,不織布からなるトップシートと不透液性シート製の防漏シートを含む積層シートからなるバックシート及び尿等の液体を吸収する吸収体から構成され,その構成,形状,素材及び用途等からみて,折り畳むことに支障はない。
また,引用刊行物2(甲2)には,「本発明の紙おむつでは,ポリエチレン等からなる不透液性シ一ト1と,不織布等からなる前記不透液性シ一ト1より幅が狭い透液性シ一ト2との間に,綿状パルプ等からなる,たとえば砂時計形のある程度剛性を有する吸収体3が介在されている。」(2頁右上欄19行〜左下欄4行),「かかる紙おむつにおいて,折り畳みは,まず第3図のように,製品の両側における前後方向折り線Y,Yを境として両側部を内側に折り畳み,その後,第4図のように,製品の前後における横断方向折り線X,Xを境として両端部内側に折り畳むことにより行われる。」(2頁左下欄12行〜17行)と記載されており,紙おむつは,不透液性シ一ト1と,不織布等からなる透液性シ一ト2及び吸収体3から構成されており,その構成,形状,素材及び用途等からみて,折り畳むことに支障はない。
イ以上のとおり,引用刊行物1に記載された使い捨てパンツと引用刊行物2に記載された紙おむつは,いずれも,人体の腰部に着用する点で共通の用途を有し,不透液製シートと不織布からなる透液性シートの材料及び尿を吸収する吸収体からなる点で共通の構成を有し,折り畳むことも容易であるから,コンパクト化などを目的として,適宜所望回数前後方向に折り畳むとの着想を得ることは,引用刊行物1と引用刊行物2に基づいて容易である。そして,使い捨てではない通常の布製のパンツについて,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされた状態で折り畳むことは,周知である(例えば,甲4)。
そうすると,引用発明1は,コンパクト化を目的として左右両側方部を折り返すものであるから,さらにコンパクト化を図るために,引用刊行物1において,パンツ上部とパンツ下部とが重ね合わされるように折り畳むことは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
(2)これに対し原告は,引用刊行物2は,「括れ部に係る技術」と「前後方向に2つ折り以上に折り畳む技術」とが一体不可分の技術として記載されているため,使い捨てパンツにおいて,更にコンパクト化を図る目的で,引用刊行物2の技術を適用することには阻害要因があると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
引用刊行物2(甲2)には「しかし,その折り畳み後,紙おむつの両端部を内側に折り畳むと,その折り畳み線の両端において,吸収体が4層になり,嵩高となるばかりでなく,折り畳み後の形状安定性が悪い」(2頁左上欄3〜6行),「〔課題を解決するための手段〕上記課題は,不透液性シートと透液性シートとの間に吸収体を内包し,少なくとも前後方向に少なくとも一個所折り畳んで販売に供される紙おむつにおいて,前記折り畳み個所位置の吸収体の両側縁に内方に括れる括れ部を形成したことで解決できる。」(2頁左上欄15行〜右上欄1行)と記載されているが,同記載によれば,「括れ部」は,紙おむつが嵩高になり形状安定性が悪化するのを避けつつ,コンパクトなものとするための手段の一つにすぎないのであるから,嵩高や形状安定性の悪化防止を配慮する必要のない場合であれば,「括れ部」を設けることなく,複数回折り畳むとの手段を採ることが考えられる。以上のとおり,吸収体に「括れ部」が設けられていない引用発明1の使い捨てパンツに,さらにコンパクト化を図るために,引用刊行物2の技術を適用することは,困難とはいえない。原告の上記主張は採用することはできない。
(3) したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
3 取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)原告は,@引用発明には「吸収本体」は存在しない点において本願補正発明と異なること,A本願補正発明の「吸収本体」を不織布製の外側シートと別体として構成するか,引用発明1のように「吸収体」をバックシートとトップシートとの間に収容した一体の構成とするかによって,使い捨てパンツの通気性や肌触りが異なることから,本願補正発明と引用発明1が「吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている外側シートからな」る点で一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本願の明細書(甲5)と引用刊行物(甲1)とを対比すれば,引用刊行物1の「トップシート2」及び「バックシート1」は,使い捨てパンツ本体の外形を形成する基本部材である点で,本願補正発明の「外側シート」と共通し,引用刊行物1の「吸収体」は,尿等の液体を吸収する部材としての機能を有する点で,本願補正発明の「吸収本体」と共通するといえるから,引用発明1の「バックシート」及び「トップシート」,「吸収体」は,本願補正発明の「外側シート」,「吸収本体」にそれぞれ機能上相当するとした審決の認定に誤りはない。
そして,引用発明1は,「吸収本体」に機能上相当する「吸収体」と,「外側シート」に機能上相当する「バックシート」及び「トップシート」を主構成部材としているから,審決が,本願補正発明と引用発明1が「吸収本体と,前記吸収本体が内側に配設されている外側シートからな」る点で一致すると認定した部分のうち,「吸収本体と・・・外側シートからな」る点で一致すると認定した点には誤りがない。
イもっとも,本願補正発明と引用発明1とは,「吸収本体」ないし「吸収体」の配設位置において相違する。これに関して,審決は,「吸収本体」が外側シートの「内側に」配設されている点で一致するとしており,審決における「内側に」の語が,本願補正発明では,「外側シート1の内側,すなわち着用者当接側」を指すのに対し,引用発明1では,「バックシート」及び「トップシート」の間,すなわち「外側シート」の中を指し,着用者が当接する箇所を意味するものではない点において,審決の「内側に」の表記には不適切な点がある。しかし,審決は,配設位置等については,相違点として「本願補正発明の『吸収本体』が『透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット』からなり・・・引用発明1においては,『吸収本体』は,透液性の不織布製のトップシートと不透液性のバックシートの間に吸収体が装填されるものであり」と認定しているのであり,全体として誤りはなく,上記の表記が結論に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(相違点1の認定及び容易想到性の判断の誤り)について(1) 相違点1の認定の誤りについて原告は,引用発明1に「吸収本体」は存在しないから,審決が,相違点1として,「引用発明1においては,『吸収本体』は,透液性の不織布製のトップシートと不透液性のバックシートの間に吸収体が装填されるものであ」ると認定したのは誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,審決は,引用刊行物1には「吸収本体」の用語は記載がないものの,引用刊行物1の「吸収体」が尿等の液体を吸収する部材として機能する点で本願補正発明の「吸収本体」と同一とみることができることを前提に,上記相違点1の認定をしていることは審決から明らかである。
そして,引用刊行物1の「吸収体」が,機能の上からみて,本願補正発明の「吸収本体」に相当することは前記3(1)アのとおりであるから,相違点1の認定の誤りをいう原告の主張は理由がない。
(2) 相違点1の容易想到性の判断の誤りについてア原告は,引用発明1に,審決認定の周知技術を適用することはできず,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることが当業者に容易想到であるとした審決の判断には誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
甲3及び乙1(特開平8-182699号公報)によれば,使い捨てパンツにおいて,「吸収本体」が「透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット」からなり,「外側シート」を「不織布製」とすることは,本願の出願当時,周知であったことが認められる。そして,甲3及び乙1のいずれにおいても,上記構成の「吸収本体」に相当する「吸収防漏部」(甲3)及び「吸収材パット」(乙1)は,いずれも使い捨てパンツの着用者の股間に当接する位置(「内面股下領域」又は「股間近傍内側」)に配設されていることが認められる。そうすると,当業者であれば,引用発明1に上記周知事項を適用して,引用刊行物1の「トップシート」のみならず,「バックシート」も不織布製とし,「吸収体」を「透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される」構成とした上で,これを「トップシート」の内側(着用者の人体側)に配設することは,設計上適宜行い得ることであり,容易に想到することができたものと認められる。
イまた,原告は,引用発明1に審決認定の周知技術を適用しても,引用発明1の吸収本体(吸収体)は,依然として,透液性の不織布製トップシートと不織布製バックシートとの間に装填されたままであり,本願補正発明の構成のように,吸収本体(吸収体)が不織布製トップシートの内側(人体側)に配設されている構成を導き出すことはできないと主張する。
しかし,原告のこの点の主張も,以下のとおり理由がない。すなわち,前記ア認定のとおり,甲3及び乙1のいずれにおいても,「透液性シートと不透液性シートおよび両シートの間に装填される吸収マット」からなる「吸収本体」に相当する「吸収防漏部」(甲3)及び「吸収材パット」(乙1)は,いずれも使い捨てパンツの着用者の股間に当接する位置,すなわち「内側」(着用者の人体側)に配設されており,当業者が上記のような構成の「吸収本体」をこの位置に配設することに特段の困難はないものといえるから,原告の上記主張は採用することができない。
ウ以上のとおり,引用発明1に前記周知事項を適用して相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。
(3) したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
5 取消事由4(手続違背)について原告は,審決は,本願補正発明が容易想到であるとした周知技術の内容及び周知例の引用文献が,拒絶査定と異なっており,この点は,新たな拒絶理由に該当すると解され,本件審判において,出願人である原告に対し,上記の新たな拒絶理由を通知し,反論及び補正の機会を与えるべきであったにもかかわらず,その手続を行っていない点で,本件審判手続には,特許法159条2項において準用する同法50条に違反する手続違背があると主張する。
しかし,審決の上記認定部分は,周知技術として本願の出願当時の技術水準を示したものであり,特段の事情のない限り,特許法159条2項において準用する同法50条の適用はないというべきところ,本件においては特段の事情は認められない。したがって,原告の上記主張は採用することができず,取消事由4も理由がない。
6 結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀