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関連審決 無効2004-40004
無効2004-40007
関連ワード 考案 /  構造 /  設定登録 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  請求項 /  容易に想到 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10856号 審決取消請求事件
原告 株式会社ジョイナス
訴訟代理人弁護士 吉田康
同 木村元昭
訴訟代理人弁理士 藤沢則昭
同 藤沢昭太郎
被告 久鼎金屬実業股(偏は「イ」,つくりは「分」という文字)有限公司 (登録原簿上の表示)久鼎金属実業股▲ふん▼有限公司
訴訟代理人弁理士 森本義弘
同 板垣孝夫
同 笹原敏司
同 原田洋平
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2004−40007号事件について平成17年11月21日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告は,考案の名称を「二輪車の取り外し可能ハンドル」とする実用新案登録第3071713号の実用新案(平成12年3月14日出願,同年6月28日設定登録。以下「本件実用新案」といい,その出願を「本件出願」という。
請求項の数は2である。)の実用新案権者である。
原告は,平成16年12月15日,本件実用新案登録を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2004-40007号事件(以下「本件審判」という。)として審理した上,平成17年11月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年12月1日,その謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲本件実用新案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲請求項1,2の各記載は,次のとおりである(以下,請求項1,2に係る各考案を「本件考案1」,「本件考案2」といい,これらをまとめて「本件考案」という。)。
「【請求項1】自転車またはハンドル付スケートボードの取り外し式ハンドル部分である,ハンドル支え棒及びハンドルを係合するT字型連接管から構成される二輪車の取り外し可能ハンドルにおいて,縦管には,横管まで延びた導入溝が形成され,上記ハンドル支え棒上段の導入溝に対応する突起部を有し,位置調節が可能な快速取り外し装置が設けられ,上記二輪車の取り外し可能ハンドルに嵌合されている定位体は,弾性ロープによって連接された左右ハンドルを横管内部の接合孔から外した後,ハンドルの接合管を係止するための,左右に夫々半円弧形のハンドルホルダーを有することを特徴とする二輪車の取り外し可能ハンドル。
請求項2】前記二輪車の取り外し可能ハンドルは,前記定位体前端に鈎部が設けられていることを特徴とする請求項1記載二輪車の取り外し可能ハンドル。」なお,本件審決は,対比の便宜上,本件考案の構成を次のとおり分説した(以下,この分説に従って,本件考案の構成要件を「構成要件A」などという。)。
「【請求項1】A 自転車またはハンドル付スケートボードの取り外し式ハンドル部分である,ハンドル支え棒及びハンドルを係合するT字型連接管から構成される二輪車の取り外し可能ハンドルにおいて,B 縦管には,横管まで延びた導入溝が形成され,C 上記ハンドル支え棒上段の導入溝に対応する突起部を有し,D 位置調節が可能な快速取り外し装置が設けられ,E 上記二輪車の取り外し可能ハンドルに嵌合されている定位体は,弾性ロープによって連接された左右ハンドルを横管内部の接合孔から外した後,ハンドルの接合管を係止するための,左右に夫々半円弧形のハンドルホルダーを有することを特徴とするF 二輪車の取り外し可能ハンドル。
請求項2】G 前記二輪車の取り外し可能ハンドルは,前記定位体前端に鈎部が設けられていることを特徴とする請求項1記載二輪車の取り外し可能ハンドル。」3 本件審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,原告(請求人)は,本件考案の構成要件のうちA,B,C,D,F及びEの要件の一部を具備した「ジェイディジャパン株式会社のホームページ(http://www.razor.co.jp)中,一部のページをダウンロードした書面」(甲3)等に記載の商品「JDRAZOR(ジェイディ社製品番号:MS-130)」(以下「引用考案1」という。)が本件出願前に公知となっており,構成要件E中のハンドルホルダーに関する点も台湾公告第224658号公報(甲14の1)記載の考案(以下「引用考案2」という。)によって本件出願前に公知となっていたから,本件考案1は引用考案1及び2に基づいて当業者がきわめて容易に想到できるものであり,本件考案2も本件考案1に周知・慣用技術を付加しただけであって同様に進歩性がないと主張するが,原告が本件審判において提出した証拠(甲3〜17)のいずれからも引用考案1の左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとまでは認められないから,引用考案1は本件考案の構成要件Eのうち「弾性ロープによって左右ハンドルが連接されている」という部分を充足しているという原告の主張の前提自体が成立しないので,本件考案のその余の構成要件について検討するまでもなく,本件考案1及び2に対する原告主張の無効理由は根拠がない,としたものである。
原告主張の取消事由の要点
本件審決は,引用考案1の左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとは認められないと誤って認定したものであり,この誤りが本件審決の結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 引用考案1の認定の誤り(1) 本件審決は,「甲第3号証,甲第13号証,甲第17号証には,ひも状の部材を撮影したものが描写されているが,他の甲各号証及び平成17年10月26日付け上申書を検討しても,これらのものが本件出願前に公知であった商品そのもののハンドル部分を撮影したものであることを明らかにする事実を見い出すことができず,……甲各号証のいずれからも『弾性ロープによって左右ハンドルが連接されている』という構成が本件出願前に公知であったことを推認するに足りる証拠を見い出すことができない。」(審決書12頁13行〜21行)と認定したが,誤りである。
ア 本件審決は,甲3,13,17のそれぞれに掲載されたキックスケーターについて,個別に本件出願前に公知であった商品そのものであるかどうかを検討したが,事実認定の手法として妥当ではない。
甲3は,製品番号「MS-130」との記載とともに,キックスケーターの写真を掲載するものであって,引用考案1である「MS-130」という商品の構成を特定するものである。一方,甲7(中華人民共和国深?商品検査局が発行した輸出許可証の写し),甲8(香港の運送業者 PROSMART INTERNATIONAL LIMITED が原告に対して発行したインボイスの写し),甲9(1999年12月26日付けでジェイディ社の販売部門が自社の商品を卸している各顧客・取引先等に対し送付したFAXの写し),甲10(各Olympic販売店から原告に対して発行された仕入伝票の写し),甲11(原告から各Olympic販売店に向けて発行された納品書の写し),甲12(原告が株式会社Olympicのちらしを貼付したスクラップブックの該当部分の写し)等によれば,上記「MS-130」という商品を対象とした取引が本件出願前に存在し,当該商品が本件出願前に公知になっていたことが,認められる。つまり,甲3と甲7〜12とを総合することにより,引用考案1が本件出願前に公知になっていたことが認められるのである。
また,甲13(平成16年12月6日付け「株式会社Olympicスポーツレジャー部DOスポーツ担当副部長A宛の証明願」)及び甲17(平成17年4月25日付け「株式会社Olympicスポーツレジャー部DOスポーツ担当副部長A宛の証明願」)によれば,@株式会社Olympicにおいて本件出願前である平成12年1月1日から,上記書面や写真に掲載されている「MS-130」と同型の「MS-130」が販売されたこと,A上記「MS-130」という商品と「5F-5140」という商品とは同一のキックスケーターであること,B上記商品は本件考案の構成要件Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」との構成を具備したものであることが,いずれも認められる。
イ 原告は本件出願前に引用考案1を販売していたものであるが,これを訴外Bが購入したことは,甲32の1(納品書),甲33(当座預金照合表),甲34の1(Bの陳述書)から明らかであるところ,検甲1(Bが保管していた引用考案1の現物)及び甲28(平成12年1月28日にBが購入した引用考案1の写真)によれば,引用考案1において,弾性ロープによって左右ハンドルが連接されていることは明らかである。
このように,引用考案1は本件考案の構成要件Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」の構成を具備したものであり,また,引用考案1は本件考案の構成要件A,B,C,D,Fをいずれも具備するものである。
ウ 甲29(「キックボードでお散歩撮影」というホームページの一部をダウンロードしたもの)及び甲30(Cのホームページの一部をダウンロードしたもの)が示すように,引用考案1の総輸入代理店であるジェイディジャパンとは何の関連もない複数の購入者が,本件出願(平成12年3月14日)の直後である平成12年3月15日及び同年3月19日に,引用考案1の写真を含むホームページをインターネット上にアップしている。
また,甲31(「Flyng KICKBOARDERS」というホームページの一部をダウンロードしたもの)が示すように,「Flyng KICKBOARDERS」というホームページ中の「キックボードと仲間たち」には,甲29,30に掲載された写真と同一の写真が掲載されているが,上記「キックボードと仲間たち」という頁がインターネット上にアップされたのは,本件出願前である平成11年11月26日である。
これらによれば,引用考案1は本件出願前から市場において販売されていたと推認されるところ,甲30によれば,引用考案1は弾性ロープによって左右ハンドルが連接されていることが明らかである。
エ ジェイディジャパンは,引用考案1の日本における総輸入代理店として,被告と訴外アトラスオート株式会社により設立されたものであるが,甲37(大阪高裁平成18年2月10日判決をダウンロードしたもの),甲39(大阪高等裁判所平成17年(ネ)第1514号事件における控訴理由書),甲40(大阪高等裁判所平成17年(ネ)第1514号事件における準備書面(1))が示すように,大阪高等裁判所平成17年(ネ)第1514号事件及びその原審である大阪地方裁判所平成15年(ワ)第13028号事件において,ジェイディジャパンは,引用考案1を本件出願前である平成11年4月から輸入販売を開始し,引用考案1の形態が平成12年初めころまでに被告の商品表示として周知になった旨主張しており,引用考案1の公知性は明らかである。
オ 上記アないしエにおいて指摘したことを含め,証拠(検甲1,甲3〜13,15〜17,19〜35,37,39〜59)に照らせば,@引用考案1が本件出願前に公知となっていたこと,A引用考案1は,本件考案1の構成要件Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」との構成を備えており,「ハンドルホルダー」を除く本件考案1の構成要件をすべて備えるものであることは,いずれも明らかである。
なお,原告は,引用考案1の左右ハンドルが弾性ロープにより連接されていることは,甲3の「ハンドルバーエンド部」の写真等(この写真等における「ひも状の部材」が弾性ロープである。)により当然認識されるものと考えていたが,本件審決がこれを否定したので,引用考案1の左右ハンドルが弾性ロープにより連接されているとの事実に関する補強証拠として,検甲1,甲28等を本訴において提出したものである。
(2) 被告は,最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決(民集30巻2号79頁,以下「昭和51年大法廷判決」という。)を引用し,原告が本訴において提出した検甲1,甲28等の補強証拠について,本件審判において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であって,単なる補強証拠ということはできないから,これらに基づいて本件審決の違法性を主張することは許されない旨主張する。
しかし,上記補強証拠は,原告が本件審判において主張した,@本件出願前に引用考案1が公知になっていたという事実,及び,A引用考案1が本件考案の構成要件のうちA,B,C,D,F及びEの要件の一部を備えているという事実を裏付けるものであって,昭和51年大法廷判決が判示した,無効審判で審理された公知事実とは別個の公知事実を審決取消訴訟において主張する場合とは異なる。
したがって,被告の主張は失当である。
2 本件考案1,2の容易想到性被告は,本件審決の引用考案1の認定が誤りであるとしても,本件考案1及び2は,いずれも引用考案1及び2に基づいて当業者がきわめて容易考案することができたものではないから,上記誤りは本件審決の結論に影響しない旨主張するが,以下のとおり,引用考案1に引用考案2を組み合わせることにより,当業者であれば,本件考案1及び2にきわめて容易に想到することができたものである。
(1) 本件考案1についてア 甲14の1には,ロッド体のハンドルを把持するための半円弧形のホルダー部を左右に有する定位体(収納用引掛リング)を縦管(ハンドルホルダー)に嵌合する構成を有する考案(引用考案2)が記載されている。
イ 引用考案2の定位体(収納用引掛リング)と本件考案1の定位体を比較すると,いずれもロッド体のハンドルを係止するためにリング体の左右両端に夫々半円弧形のハンドルホルダーを有しており,形状は同一である。
また,引用考案2においては縦管(ハンドルホルダー)の適宜の箇所に定位体が設置されているところ,本件考案1の定位体の設置箇所は縦管あるいはハンドル支え棒の適宜の箇所である(横管に設置することは構造上考えにくい)から,両考案の構成の全体であるハンドルを大まかにT字型と考えると,両考案ともTのアルファベットの縦の棒の適宜の箇所に定位体を設置することになり,設置箇所は同一である。
ウ 本件考案1において定位体を設置した目的は,T字型連接管の横管内部の接合孔から取り外した左右ハンドルを接合管部分で夫々定位体に係止させることにより,ハンドルの体積を減らすと同時に取り外したハンドルを簡単に収納できるようにし,ハンドルの着脱効果を上げること,また,左右ハンドルの接合管を定位体に係止させることにより,取り外した後の左右ハンドルが縦管等にぶつかって壊れてしまうことを防止することにある。
一方,引用考案2の定位体(収納用引掛リング)の目的として,甲14の1にはハンドルを折り畳んだ後に移動しないように引掛けて固定できるようにするとの記載があるにとどまるが,ハンドルの体積を減らすと同時に取り外したハンドルを簡単に収納でき,ハンドルの着脱効果を上げるといった目的に適うことは,その構成から容易に推測できる。また,左右ハンドルの一端は夫々回動可能に受け溝に軸支されているが,他端は固定されていないため縦管(ハンドルホルダー)にぶつかって壊れてしまう可能性があり,定位体(収納用引掛リング)で左右ハンドルを夫々固定することで,そういった事態を防ぐことができる。
エ 上記検討したところによれば,引用考案1に引用考案2を組み合わせることにより,当業者であれば,本件考案1にきわめて容易に想到することができたというべきである。
(2) 本件考案2について本件考案2は,本件考案1の構成を有し,さらに物を引っ掛ける場所が増え,利便性を高めるため,「定位体の前端に鈎部を設ける構成」を付加したものである。
鈎部を設けることにより物を引っ掛ける場所をつくることは,例えば,甲63(「資料で語る日本の自転車史自転車文化センター収蔵 資料写真集」財団法人日本自転車普及協会平成5年6月30日発行)に収載された「(76)ホドソン号」の写真において,自転車のハンドル支え棒の前側から鈎部が突き出しているように,本件出願当時,周知技術ないし慣用技術であったから,本件考案2において,定位体前端に鈎部を設けていることは,単なる設計事項にすぎない。
したがって,引用考案1に引用考案2を組み合わせることにより,当業者であれば,本件考案2にきわめて容易に想到することができたというべきである。
被告の反論の要点
本件審判で審理された証拠に基づく限り,本件審決の引用考案1の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。仮に本件審決の上記認定が誤りであるとしても,本件考案1,2は,いずれも引用考案1及び2に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたものではないから,上記誤りは,本件審決の結論に影響するものではない。
1 引用考案1の認定の誤りについて(1) 本件審判段階で提出された甲3〜17に原告が本件訴訟で新たに提出した証拠(検甲1,甲19〜35,37,39〜59)を加えれば,@引用考案1が本件出願前に公知となっていたこと,A引用考案1は,本件考案1の構成要件Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」との構成を備えており,「ハンドルホルダー」を除く本件考案1の構成要件をすべて備えるものであることが認められるとの原告の主張は認める。
(2) しかし,特許庁は,原告が本件審判において提出した証拠(甲1〜17)に基づいて審理し,その結果として,本件審決をしたものであり,甲1〜17によって上記@及びAの事実を認定することはできないから,本件審決の認定に誤りがあるとはいえない。
審判の手続において審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は,審決を違法とし,又はこれを適法とする理由として主張することができないところ(昭和51年大法廷判決参照),原告が本訴において新たに提出した証拠(検甲1,甲19〜35,37,39〜59)は,本件審判において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であって,単なる補強証拠ということはできないから,これらに基づいて,本件審決の誤りを主張することは許されない。
2 本件考案1,2の容易想到性について本件審決は引用考案1及び2に基づく本件考案1,2の容易想到性について判断していないが,仮に本件審決の引用考案1の認定が誤りであるとしても,本件考案1,2は,いずれも引用考案1及び2に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたものではないから,上記誤りは本件審決の結論に影響するものではない。
(1) 本件考案1の容易想到性についてア 引用考案2においては,ハンドル11,12は,上下に回動するという非常に制限された動きを行うのみで,下向きに回動して折り畳んだときには,上部押圧板40によって回動が阻止されるものであり,本件考案1のようにロープにより繋がった左右のハンドルが垂れた状態で置かれるために揺れて衝突して破損するおそれがあるというものとは,根本的な相違がある。
したがって,引用考案1と引用考案2とを組み合わせたとしても,本件考案1が示唆されるものではない。
イ 別件無効審判事件(無効2004-40004)の確定審決(乙3。以下「乙3審決」という。)において,甲14の1が引用されたものの,本件実用新案を無効にすることはできない旨判断されている。したがって,乙3審決に照らしても,本件考案1は引用考案1及び2に基づいてきわめて容易考案することができたものとはいえない。
(2) 本件考案2の容易想到性についてア 本件考案2は,本件考案1の構成要件に加え,構成要件Gを有するところ,本件考案1が引用考案1及び2に基づいてきわめて容易考案することができたものとはいえないことは上記(1)のとおりであるから,本件考案2も引用考案1及び2に基づいてきわめて容易考案することができたものとはいえない。
イ 本件考案2においては,鈎部は,請求項1に規定された特有の構成を有する定位体に設けられているものであるが,原告が周知技術を示すものである旨主張する甲63には,このような定位体に設けられた鈎部を示唆する記載はない。この点からも,本件考案2は引用考案1及び2に基づいてきわめて容易考案することができたものとはいえない。
当裁判所の判断
1 引用考案1の認定の誤りについて(1) 本件審判段階で提出された甲3〜17に原告が本件訴訟で新たに提出した証拠(検甲1,甲19〜35,37,39〜59)を加えれば,@引用考案1が本件出願前に公知となっていたこと,A引用考案1は,本件考案1の構成要件Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」との構成を備えており,「ハンドルホルダー」を除く本件考案1の構成要件をすべて備えるものであることが認められることは,被告も認めるところである。
そうすると,「引用考案1のハンドルが取り外し可能であるとしても,左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとまでは認められない」(審決書12頁22行〜23行)とした本件審決の事実認定は誤りであり,したがって「『引用考案1は本件考案1の構成要件のうち,Eの要件についても『弾性ロープによって左右ハンドルが連接されている』という部分は充足している』という請求人の主張の前提自体が成立しない」(審決書12頁24行〜26行)とした本件審決の判断も誤りであるといわざるを得ない。
(2) 被告は,原告が本件審判において提出した証拠(甲1〜17)によって上記@及びAの事実を認定することはできないとした上,原告が本件訴訟において新たに提出した証拠(検甲1,甲19〜35,37,39〜59)は,本件審判において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であるから,これらに基づいて,本件審決の誤りを主張することは許されず,したがって,本件審決の認定に誤りがあるとはいえない旨主張する。
特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった公知事実を主張することは許されないところ(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照),この理は,実用新案登録無効審判の審決に対する取消訴訟についても,同様に当てはまるものというべきであるから,無効審判において実用新案法3条1項各号(同条2項において引用される場合を含む。以下,同じ。)に掲げる考案に該当するものとして審理されなかった公知事実については,取消訴訟において,これを同条1項各号に掲げる発明として主張することは許されない。
しかしながら,審判において,実用新案法3条1項各号に掲げる考案に該当するものと主張され,その存否が審理判断された事実に関し,取消訴訟において,当該事実の存在を立証し,又はこれを弾劾するために,審判での審理に供された証拠以外の証拠の申し出をすることは,審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,これが許されないとする理由はない。
そして,検甲1,甲19〜35,37,39〜59は,いずれも本件審判における審理に供されなかった証拠ではあるが,本件審判で審理判断の対象とされなかった公知事実を立証しようとするものではなく,本件審判において審理判断され,本件審決においてその存在を認められなかった引用考案1に係る前記@及びAの事実について,その存在を立証しようとするものであるから,これらに基づいて本件審決の誤りを主張することは許されるものというべきである。
被告の主張は採用することができない。
(3) 被告は,本件審決の引用考案1の認定が誤りであるとしても,本件考案1,2は,いずれも引用考案1及び2に基づいて,当業者がきわめて容易考案することができたものではないから,上記誤りは本件審決の結論に影響するものではないと主張する。
しかし,本件審決は,引用考案1において左右のハンドルが弾性ロープによって連接されていることを看過した結果,原告が主張する本件考案に対する無効理由は前提自体が成り立たないとして,引用考案1と本件考案とを対比検討して本件考案の容易想到性の有無について判断しないまま,原告が主張する本件考案1及び2に対する無効理由は根拠がないと結論付けたものであるから,容易想到性の点について検討するまでもなく,上記引用考案1の認定の誤りが,本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであり,本件審決は取消しを免れないというべきであって,被告の主張は失当である。
2結論以上の次第で,原告主張の取消事由は理由があり,本件審決は取消しを免れない。
したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。