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関連審決 訂正2004-39234
訂正2004-39029
審判1999-35816
訂正2004-39295
無効2000-35376
関連ワード 考案 /  図面 /  物の形状 /  組合せ /  物品 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  引用考案の認定 /  相違点の認定 /  新規性(3条1項) /  新規事項の追加(新規事項を追加) /  実施可能 /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  判決の拘束力 /  訴えの利益 /  減縮 /  実施例 /  容易に想到 /  特段の事情 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10682号 審決取消請求事件
原告 X
被告特許庁長官 中嶋誠
指定 代理人一ノ 瀬覚
同 粟津憲一
同 寺本光生
同 岡田孝博
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が訂正2004-39295号事件について平成17年8月3日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記実用新案登録の権利者である原告が,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法39条に基づき,実用新案登録請求の範囲等につき訂正審判請求をしたところ,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 本件訴訟に至る経緯ア 原告による実用新案登録原告は,昭和54年4月4日(以下「本件出願日」という。)に出願した特許出願(特願昭54-41459号)を実用新案登録出願に変更するとして,昭和59年10月25日,考案の名称を「ストレッチフイルムによるトレー包装体」として実用新案登録出願(実願昭59-161589号,以下「本件出願」という。)をし,昭和63年9月8日付けで実用新案出願公告(実公昭63-33829号)がなされた。その後,平成元年7月31日付け手続補正書により補正がなされ,平成2年11月14日,実用新案登録第1839235号として登録を受けた(以下「本件実用新案」という。)。
イ 前件高裁判決ところが,平成12年7月11日に至り,訴外全国農業協同組合連合会(以下「訴外全農」という。)から,本件実用新案登録につき無効審判請求がなされ,特許庁は,これを無効2000-35376号事件(以下「前件無効審判事件」という。)として審理した上,平成13年8月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
そこで,訴外全農は,同審決の取消しを求める訴訟を東京高等裁判所に提起した。同庁は,これを平成13年(行ケ)第412号事件として審理した上,平成15年4月22日,「特許庁が無効2000-35376号事件について平成13年8月1日にした審決を取り消す。」との判決をした(甲3。以下「前件高裁判決」という。)。
もっとも,前件高裁判決は,その確定前に訴えの取下げがなされたため,遡及的に失効した。
ウ 別件大阪地裁判決一方,原告及び同人を代表取締役とする株式会社ハイパックシステムは,平成16年に至り,オギワラ精機株式会社を被告として大阪地方裁判所に,本件実用新案権侵害であるとして各金1000万円の支払い等を求める損害賠償訴訟(同庁平成16年(ワ)第4号)を提起したが,同庁は,平成16年10月4日,前件高裁判決と同様に,本件実用新案には登録無効事由があると判断して,原告らの請求を棄却する判決(甲4)をした。
エ 本件訂正審判請求そこで原告は,挽回して再度損害賠償請求をするため,平成16年12月27日,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法39条に基づき,本件実用新案登録の請求の範囲等を訂正する審判請求(以下「本件訂正審判請求」という。甲20)を行った。特許庁は,同請求を訂正2004-39295号事件として審理した上,平成17年8月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(甲1。以下「本件審決」ということがある。)をし,その審決謄本は,平成17年8月14日原告に送達された。
(2) 訂正審判請求の内容ア 訂正前のもの(甲2の補正掲載部分。以下「本件考案」という。)「平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側面全周に形成された接着剤塗布面とを有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフイルムとからなり,上記ストレッチフィルムは,その周縁を,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフイルムによるトレー包装体。」イ訂正後のもの(甲20。以下「訂正考案」という。下線部が訂正部分)。
記「平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と,周壁の上部外側面全周に,上部周縁を外方に折り返して,または,上部外周縁に直接,形成された接着剤塗布面とを有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部を加熱軟化させた状態でオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するストレッチフィルムとからなり,上記ストレッチフィルムは,その周縁を,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で抵抗線により全周に亘って切断してあることを特徴とするストレッチフィルムによるトレー包装体。」(3) 審決の内容ア本件審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,訂正考案は,その出願前に頒布された下記引用刊行物1〜3に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたから,本件出願は独立して実用新案登録を受けることができないので,本件訂正審判請求は認められない,等としたものである。
記引用刊行物1:実願昭51-13482号(実開昭52-104756号)のマイクロフィルム(乙2)引用刊行物2:実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフィルム(乙3)引用刊行物3:特開昭52-84088号公報(乙4)イ上記判断に当たり,本件審決は,引用刊行物1には下記(ア)の考案(以下「引用考案」という。)が記載されているものと認定し,訂正考案と引用考案との一致点及び相違点について,下記(イ)のとおり認定した。
(ア) 引用考案の認定「平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有するトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部を加熱軟化させた状態でオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有する熱可塑性合成樹脂からなる上フイルムとからなり,上記上フイルムは,その周縁を,トレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で抵抗線により全周に亘って切断してある,熱可塑性合成樹脂からなる上フイルムによるトレー包装体。」(イ) 一致点及び相違点の認定(審決6〜7頁)〔一致点〕「平坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有するトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部を加熱軟化させた状態でオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有するフイルムとからなり,上記フイルムは,その周縁を,全周に亘って切断してある,フイルムによるトレー包装体。」である点。
〔相違点ア〕訂正考案では,トレーが,周壁の上部外側面全周に,上部周縁を外方に折り返して,または,上部周縁に直接,形成された接着剤塗布面を有し,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,各接着剤塗布面が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成され,その状態で接着剤を一括して塗布されたものであるのに対し,引用刊行物1記載の考案では,トレーが接着剤塗布面を有さず,したがって,接着剤塗布面の形状についての言及もない点。
〔相違点イ〕トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフイルムが,訂正考案では,加熱軟化させた状態のストレッチフイルムであるのに対し,引用刊行物1記載の考案では,加熱軟化させた状態の熱可塑性合成樹脂フィルムである点。
〔相違点ウ〕トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフイルムが,訂正考案では,トレーの接着剤塗布面に接着剤を介して接着された周縁を有するのに対し,引用刊行物1記載の考案では,トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有する点。
〔相違点エ〕トレーの上面開口部をオーバーラップして被覆するフイルムの周縁の抵抗線による全周に亘る切断が,訂正考案では,トレーの接着剤塗布面に接着した位置に接近した下側で行われるのに対し,引用刊行物1記載の考案では,トレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で行われる点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,本件審決は,以下の理由により,違法なものとして取消しを免れない。
ア 取消事由1(手続上の違法)(ア) 甲5公報の扱いにつき特公昭50-17915号公報(甲5。以下「甲5公報」という。)について,前件高裁判決においては「引用例2」として重大な判断をしていたのに対し,本件審決は引用例にしていない。このように,本件審決が,前件高裁判決の判断を完全に無視し拘束されていないのは,行政事件訴訟法33条に反しており違法である。判決の拘束力は判決主文が導き出されるに必要な事実認定および法律判断について生ずるはずのものだからである。
本件審決がなぜ前件高裁判決と異なる判断をしたかを原告が思料するに,本件審判手続の審判合議体は,前件高裁判決は技術上の真実に反した間違った判断であるから,これに拘束される必要はないと判断したものであろう(前件高裁判決は,その18頁〜22頁において,ストレッチフィルムを使用する本件考案は,引用例2(本件の甲5公報)の過冷無定形状態の塩化ビニリデンフイルムを,常温において延伸性と粘着性があるので採用したものであるとするが,ストレッチフィルムと過冷無定形状態の塩化ビニリデンフイルムとを同視する点において全くの事実誤認をおかしている。ストレッチフイルムとは軟質塩化ビニルであって,スーパーなどの肉,魚のパック用に広く使われ,可塑剤を含み,その可塑剤が環境ホルモンとして問題になるなどもし,とかく話題になり,ピークで年間10万トンも生産されていた物である。これに対し,過冷無定形塩化ビニリデンとは,塩化ビニリデンフイルムの製造工程中わずかな時間のみ現出する樹脂の特殊な状態で,一般に目にすることができるものでもない。両者は全く違うのである。)。
確かに,間違った判断に拘束されるのを取るか,技術上の真実を取るかを天秤にかければ技術上の真実を取るのは納得できることである。しかしそれならば前件高裁判決はそもそも成り立たないことになるはずである。その判決に対し防衛するため訂正審判を請求する必要もないことになる。したがって,訂正審判の請求は成り立たないとする理由を,独立特許要件の欠如ではなく行政事件訴訟法9条違反にすべきだったのである。
(イ) 引用刊行物2の扱いにつき前件高裁判決は,「甲7刊行物」として本件の引用刊行物2(乙3)を引用例にしているが,後記イ(イ)cのとおり,引用刊行物2は,物の考案に関する実用新案登録公開公報であるところ,そこに記載された物を製造する方法が示されていないため,進歩性の判断に当たって引用例とすることは許されない。
だとすれば,引用刊行物2を引用例とした前件高裁判決自体が違法だということになり,その違法な判決に対し防衛するために本件訂正審判請求をする必要はそもそもなかったことになる。すなわち,本件訂正審判請求は,行政事件訴訟法9条に違反した請求ということになり,請求は成り立たないとするなら,独立特許要件の欠如ではなく,訴えの利益の欠如を理由にすべきだったのである。
(ウ) 判断遺脱a原告は,本件審判請求に当たり,前件高裁判決は本件考案のストレッチフイルムとは過冷無定形塩化ビニリデンフイルムであるとの重大な事実の誤認をしているが,この事実認定に拘束されるべきでないと主張した(甲20の4頁の「ロ」)。本件審決は,原告のこの主張に対して明確に判断しておらず,結果として,事実上,拘束されていないのである。拘束されないなら明確な理由を記さなければならない。この点において,本件審決には判断遺脱の違法がある。
b原告が本件訂正審判請求を行ったのは,前件高裁判決は上記の事実誤認により無効であるとの明確な判断を受けるためであった。
前件高裁判決が無効であることが明確に判断されない以上,本件訂正審判請求が認められて訂正審決を受けたとしても結局意味のない結果となるのである。なぜなら,訂正が認められた考案を損害賠償請求訴訟の場に持ち出してみても,相手方(侵害者)は,必ず,訂正審決は前件高裁判決に拘束されず無視しているから訂正考案は無効であると主張するであろう。これに対し原告は,前件高裁判決は重大な事実の誤認をしているのだから無視して当然であると主張する。これに対し相手方(侵害者)は,前件高裁判決に重大な事実の誤認があるとは訂正審決は一言もいっていない,単にうっかり見落としたのかも知れない,重大な事実の誤認があるとすれば,前件高裁判決は無効であってそもそも訂正審決などする必要はない,原告が訂正審決を求めたのは前件高裁判決は有効であるという前提ではないのか,と主張する。
原告は,ストレッチフイルムが過冷無定形塩化ビニリデンフイルムである,とする前件高裁判決は誰が見ても明白な事実誤認ではないか,と主張する。これに対し相手方(侵害者)は実に様々なこじつけを主張するであろう。
裁判所はどう判断するか,結局,訂正審決が,前件高裁判決が無効であることを明らかにしていないという理由で原告の請求は棄却されるであろう。損害賠償を求める権利は確固たるものでなくてはならないのである。したがって,前件高裁判決に拘束されない理由を明記せずに訂正審決がなされたとしても,何の意味もない。
以上のとおり,前件高裁判決に拘束されない理由を明らかにせずなされた本件訂正審決は違法である。
(エ) 審判手続の信義則違反前件高裁判決の判断が誤りであり,拘束力がないのであれば,実用新案請求の範囲に「加熱軟化させた状態で」との文言を付加して行った本件訂正審判請求はそもそも不必要だったわけである。
ところで,本件訂正審判請求は,同一目的の第3回目の審判であったが,先行した第1次訂正審判請求事件(訂正2004-39029号事件),第2次訂正審判請求事件(訂正2004-39234号事件)(審判長は同一人である。)においては,訂正の文言の適否について事前に審判官がアドバイスをしてくれ,不適当として取り下げたこともあった。訂正審判においてはアドバイスをしてくれるのが実務慣行となっているものと思われる。そうならば,文言「加熱軟化した状態で」を付加する本件訂正審判請求は不必要であるとアドバイスすべきであったのであり,訂正させておいて別の引用例を引用して請求不成立するのは実務慣行に反し,信義則違反である。
イ 取消事由2(相違点アについての判断の誤り)(ア)審決は,相違点アに係る構成の容易想到性について,以下のとおり説示している(7頁最終段落〜9頁第1段落)。
@「相違点アに係る訂正考案の構成は,トレー周壁の上部外側外周面一周に,上部周縁を外方に折り返して,または,上部外周縁に直接,形成された接着剤塗布面が形成されているという構成(以下,「本件接着剤塗布面構成」という。),及び,未包装状態で多数個を積み重ねたとき,上部外側面の一部が,上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する如く形成されているという構成(以下,「本件形状構成」という。)という二つの構成とからなっている。」A「まず,本件接着剤塗布面構成について,フイルムによるトレー包装体において,フイルムとトレーとの密着性を改良するために,トレー周壁の上部外側外周面一周に,上部周縁を外方に折り返して形成された接着剤塗布面,すなわち,本件接着剤塗布面構成を採用することは,本件に係る出願の出願時においては周知の技術(以下,「周知技術1」という。)である。(例えば,特公昭50-17915号公報,実公昭39-38574号公報等。)そして,引用刊行物1記載のトレーについても,フイルムとの密着性を改良するという課題は,当然内在し得るものである。したがって,当業者が,上記周知技術1の構成である本件接着剤塗布面構成とすることは,きわめて容易に想到し得るものというべきである。」B「つぎに,本件形状構成について,トレイの形状として,耳部を設け,トレーを積み重ねた際,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する形状,すなわち,本件形状構成の形状を採用することは,引用刊行物2に開示されている。
ここで,引用刊行物1記載のトレーについても,製造過程ないし搬送の過程で積み重ねられる場合が当然想定され,その際,このトレーが,スタッキングを生じるおそれのある形状であることは明らかであるから,当業者が,引用刊行物2記載の技術的事項である本件形状構成の形状,すなわち,耳部を設け,その形状を,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するようなものにすることも,きわめて容易に想到し得るものというべきである。」C「そして,本件接着剤塗布面構成と本件形状構成を同時に採用するとき,接着面として,トレー外側面のうち,底面と垂直をなす平坦面を選択することは,作業の容易性や接着強度の確保等を考慮するときは,むしろ,当然のことといい得る範囲の事項である。すなわち,引用刊行物2に記載される技術的事項を前提に,引用刊行物1記載の考案,周知技術1に接した当業者が,そこから本件接着剤塗布面構成及び本件形状構成を読み取り,これらを組み合せて,相違点アに係る本件考案の構成を想到することは,きわめて容易であるというべきである。」(イ) しかし,審決の上記認定判断には,以下のとおり誤りがある。
a(取消事由2-1)(a)審決は,上記説示Aにおいて,本件接着剤塗布面構成を採用することは周知技術であるとし,その例として特公昭50-17915号公報(甲5。以下「甲5公報」という。),実公昭39-38574号公報(乙6。以下「乙6公報」という)を挙げた。しかし,甲5公報及び乙6公報は,いずれも物の発明ないし考案について記載したものであるところ,当該物を製造する方法が記載されていないため,これらを周知技術の認定に当たって参酌することは許されない。特許庁の特許・実用新案審査基準においても,「ある引用例が,当業者が当該刊行物の記載,及び刊行物頒布時の技術水準に基づいて,物の発明の場合はその物を作れ・・・・・・るものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは,引用例とすることができない」とされている。本件審決は,審査基準に従っていない点において違法である。
このことを,甲5公報及び乙6公報のそれぞれについて詳細に述べると以下のとおりである。
(b) 甲5公報につき(取消事由2-1-1)甲5公報(特公昭50-17915号)は,ポリ塩化ビニリデンフィルムの過冷無定形状態を利用した包装に係る発明を開示したものである。しかし,過冷無定形状態のポリ塩化ビニリデンフィルムは,一般人には入手が不可能であり,いかなる溶融方法及び押出条件で作製する物なのかが不明である。また,甲5公報には,過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフィルムの自己粘着性を利用して包装するというが,その具体的方法についても記載がない。
この点につき,被告は,甲5公報は包装に用いるフィルムの素材を過冷無定形ポリ塩化ビニリデンに限定するものではなく,ポリ塩化ビニルやポリスチレンも例示されているから,過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフィルムの入手等が不可能であっても,甲5公報に記載された発明が実施不可能であることにはならない,と主張する。
しかし,ポリ塩化ビニルフィルムやポリスチレンフィルムを用いた場合は,フィルムを変形可能にするために加熱しなければならないから,常温で変形可能な過冷無定形ポリ塩化ビニリデンを前提として記載された甲5公報の包装方法では,実用に足る包装を作製することはできない。要するに,甲5公報の記載によれば,過冷無定形ポリ塩化ビニリデンを使用する以外には,包装体の全体のみならず,包装体の一部分をも作製し得ないのである。
(c) 乙6公報につき(取消事由2-1-2)「下方に延びた唇あるいはフラ 乙6公報(実公昭39-38574号)には,ンジは,フィルム・カバー・シートを緊張する好適の縁を形成し,接着剤を施ことの記載がある。しか すことのできる表面積を持ち」(2頁左欄第4段落)し,実際にこのような物を作製しようとして原告が実験してみたと(原告が平成11年審判第35816号事件において提出した平成12年10 ころ,甲15の記載のとおり,唇に接着剤を施月10日付け「審判事件答弁書(追加)」)した場合には実用に足る容器包装を行うことはできないから,当該記載の趣旨は,接着剤をFIG.6の唇24に塗るのではなく,縁21に塗ることを意味しているとしか解釈できない。
(トレーの)上部周縁を外方に折り返して形成された接着 本件審決は,「を採用することが周知技術剤塗布面,すなわち,本件接着剤塗布面構成」であると認定し,その根拠として乙6公報に言及しているのであるが,上記のとおり,乙6公報においては,「トレーの上部周縁を折り返して形成された」部分に相当する唇24は,接着剤塗布面ではない。唇24を接着剤塗布面とするような物は乙6公報には開示されておらず,作製不可能である。
b(取消事由2-2)「引用刊行物1記載のトレーについても, 審決は,上記説示Aにおいて,フイルムとの密着性を改良するという課題は,当然内在し得るものである。したがって,当業者が,上記周知技術1の構成である本件接着剤塗布面構成とすることと判断したが,誤りで は,きわめて容易に想到し得るものというべきである」ある。
引用刊行物1記載のトレーについてはフィルムとの密着性を改良するという課題はなかった。理由は,引用刊行物1記載の方法は成形を行うので,フィルムがトレーの形どおり成形されて密着し,密着を破壊してフィルムを剥がすのに難渋するほどだからである。
c(取消事由2-3)(a)審決は,上記説示Bにおいて,本件形状構成の形状を採用することは,引用刊行物2に開示されているとした。
しかし,引用刊行物2(乙3)も,そこに記載された物を製造する方法が示されていないため,上記a(取消事由2-1)において甲5公報及び乙6公報について述べたのと同様に,進歩性の判断に当たって引用例とすることは許されない。このことを,さらに詳細に述べると以下のとおりである。
(b)本件審決は,本件形状構成は,引用刊行物2(乙3)に「耳部10」を設ける構成として開示されているとした。しかし,引用刊行物2は物の実用新案に係る公開公報であるところ,「耳部10」を作「上記容器は第3図に示す如く,その上周縁を外側 製する方法については,下方に曲折垂下させ,この垂下縁片部10'が十分な長さとなるように当初成型しておき,次いで第4図に示す如く,この垂下縁片部10'を適宜カール機によって曲折内方に巻込ませて容器周側面3の上縁外側に丸みのある耳部10を形成する」と記載されているだけである。本件審決 (4頁下から16行〜目の記載)「その製造に最適な方法があるか否かは別異の事項である」(9頁第2段も,としている。要するに,「耳部10」を作製する方法は不明なの落)である。
(c)被告は,耳部10は物品として存在し得る形状であると主張するが,実際に作製した物品を証拠として示さない限り,かかる主張は認められるべきではない。
また,被告は,審決において引用刊行物2に記載される考案と認定したものは,「耳部を設け,容器を積み重ねた際,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する容器」の考案であり,引用刊行物2の第4図に図示される耳部のカール形状そのものではないとした上,審決において認定した考案は,特公昭44-21670号公報(乙7),特公昭55-11504号公報(乙8)に示されるような公知の方法で適宜作製可能であると主張する。しかし,乙7公報及び乙8公報に記載された物は,プラスチックをカールさせようとして加熱すると直ちに変形を起こしてしまうため,実際に作製することは不可能であるし,いずれの物も,「耳部の外面が上下方向に連続して露呈」することはない。したがって,被告の主張は失当である。
d(取消事由2-4)ここで,引用刊行物1記載のトレー・・・・ 審決は,上記説示Bにおいて,「・・が,スタッキングを生じるおそれのある形状であることは明らかであるから,当業者が,引用刊行物2記載の技術的事項である本件形状構成の形状・・・・・・にすること判断したが,以下 とも,きわめて容易に想到し得るものというべきである」のとおり誤りである。
(a)引用刊行物2(乙3)においては,スタッキングを防止するための構成として,第1図記載のとおり,棚状平面を設けて小さな凹部を形成し,その凹部の深さだけトレー間を離間させるという手段が示されており,これは引用刊行物2記載の考案の出願当時に一般的であった手法であって(その例として実公昭48-727号〔甲21ー1〕,実開昭48-60928号〔甲21-2〕,実開昭50-130533号〔甲21-3〕の各公報を参照),かかる手段によってスタッキングの問題は完全に解決していた。このように,スタッキングを防止するために有利な方法は他に存在していたから,スタッキング防止のために「耳部」を持ったトレーを利用する必要は全くなかった。
(b)訂正考案においては,本件明細書(甲2)の図10,11のとおり,下のトレーに上のトレーがはめ込まれた状態で重なっているから,積み重ねた状態でトレーがスタッキングし,周縁外部がしっかりとした柱状を呈し,接着剤を塗布することが容易になる。これに対し,引用刊行物2に記載されたトレーは,積み重ねた状態でトレーの周縁外部がしっかりとした柱状を呈することはなく,接着剤を塗布することはできない。
したがって,引用刊行物1記載の考案に,引用刊行物2記載の形状構成を適用したとしても,訂正考案の本件形状構成に到達することはない。
ウ 取消事由3(相違点イについての判断の誤り)「一般に,熱可塑性合成樹脂フィルムはストレッチフィルムを含み得る (ア)審決は,ものであり,しかも,引用刊行物1における『熱可塑性合成樹脂フイルム』が,ストレッチフイルムを排除していると認めるべき特段の事情もない」(9頁下から第3段と判断した。 落)しかし,引用刊行物1の熱可塑性合成樹脂フィルムは複雑な物の形どおりに成形を可能にするために採用されているものであるのに対し,ストレッチフイルムは厚さ15μmという極めて薄いものであるため,引用刊行物1が求める複雑な物の形どおり成形しようとすると破れてしまうという問題があり,また,可塑剤が約30%入っているため,形決まりせず,成形できない。したがって,引用刊行物1の熱可塑性合成樹脂フィルムとして,ストレッチフイルムを使うことはできない。
「ストレッチフイルムは,厚さ,可塑剤の含有量とも 審決は,この点につき,所望とする特性等に応じて各種設定し得るものであり,また,材料によっても特性が変わることも当業者にとってよく知られるところであり」(9頁最終段落〜10頁第1とも説示するが,厚さや可塑剤含有率を変えたとすれば,それは 段落)もはやストレッチフィルムとはいえないのであるから,上記説示も誤りである。
「ストレッチフイルムを加熱軟化させた状態で包装に用いることは,引 (イ)審決は,と認定した。
用刊行物3にも開示されている」(9頁下から第3段落)しかし,引用刊行物3(乙4)に開示されている技術は,ダンボール箱等をグルグル巻きに包装する技術であり,引用考案と組み合わせることはできない。
「引用刊行物1記載の考案において,加熱軟化させた状態のストレッチ (ウ)審決は,フイルムを採用することは,当業者にとってきわめて容易に想到し得たものというべと判断した。 きである」(9頁下から第2段落)しかし,ストレッチフイルムとは,常温で引っ張って伸ばして包装するフイルムであって,これを加熱軟化させた状態で包装に用いることは,当業者にとって全く想到し得ないことであった。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める(ただし,本件審決の原告への送達日は平成17年8月15日である。なお,本件実用新案登録は平成6年4月4日に存続期間が満了している。)。同(4)は争う。
3 被告の反論原告が,本件審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおりいずれも失当である。
(1) 取消事由1に対しア 甲5公報の扱いに関する主張につき原告は,本件審決が甲5公報を「引用例」にしていないことは,前件高裁判決の判断を無視しているので違法である旨主張している。
被告は,本件考案に関して,前件高裁判決がなされていることは承知している。しかし,本件審判手続においては,適式な訂正拒絶理由が通知され,その理由に基づいて本件審決がなされたものであって,本件審判の手続及び本件審決の判断に何らの違法性はなく,原告の主張する理由によって取り消されるべきものではない。
また,本件審決において,甲5公報は,引用例としてではないが周知例として示され,判断の基礎とされており,無視されているわけではない。
そして,前件高裁判決は,本件訂正審判請求に係る本件とは別異の事件であることから,本件審決が行政事件訴訟法33条に反しており違法であるとする原告の主張は,そもそも前提において失当である。
イ 引用刊行物2の扱いに関する主張につき原告の主張は,引用刊行物2は考案として未完成であり,進歩性の判断に当たり引用例とすることが許されないものであるから,これを引用例とした前件高裁判決の判断は誤りである,ということを前提とするものである。
しかし,後記(3)のとおり,引用刊行物2から「耳部を設け,容器を積重ねた際,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する容器」との考案を把握することは,当業者にとって十分に可能である。したがって,引用刊行物2に記載される考案が未完成であることを前提とする原告の主張は,失当である。
ウ 判断遺脱の主張につき原告は,前件高裁判決には重大な事実誤認があり無効であるにもかかわらず,このことを明確にしなかった点において本件審決には判断遺脱があると主張する。
しかしながら,前件高裁判決は本件とは別異の事件に関するものであり,それと独立した事件である本件訂正審判請求手続において,前件高裁判決の当否について論じるべきものではない。また,原告は,被告が前件高裁判決の判断は間違いであることを認めている旨も主張しているが,そのような事実はない。
そして,前件高裁判決における判断の手法にかかわらず,当該判決と独立した本件審決は適法になされたものであって,前件高裁判決と判断の手法が異なることの理由を明らかにしなかったという理由により本件審決が取り消されるべきものではない。
エ 審判手続の信義則違反の主張につき原告は,第1次,第2次の訂正審判請求との関連において本件訂正審判請求事件の手続の進行には信義則違反があると主張するが,以下のとおりの経過にかんがみれば,何ら信義則違反はない。
(ア)第1次訂正審判請求事件(訂正2004-39029号事件)において,審判合議体は,平成16年5月17日付けの訂正拒絶理由通知(乙10)において,主位的に新規事項の追加を,予備的に独立登録要件の非充足を拒絶理由として請求人(原告)に通知した。そして,平成16年9月27日付けの請求不成立の審決(乙11)においては,新規事項の追加のみを理由として記載し,独立登録要件についての判断は記載しなかった。
第2次訂正審判請求事件(訂正2004-39234号事件)においても,審判合議体は,平成16年11月24日付けの訂正拒絶理由通知(乙12)においては,主位的に新規事項の追加を,予備的に独立登録要件の非充足を拒絶理由として原告に通知した。これに対し,請求人(本件原告)から,前件高裁判決の「誤り」を正さなければ意味がないので,審決において独立登録要件について判断してもらうにはどうしたらよいかという旨の問い合わせがあったので,審判官は,訂正が新規事項を追加するものではなく,訂正の目的が適法であり,実用新案登録請求の範囲減縮するものでなければならないとの一般論を述べた上,第2次訂正審判で請求する訂正は,新規事項の追加に当たると考えられ,独立登録要件を判断する可能性はきわめて低い旨の回答をした。これを受けて,請求人(本件原告)は,後日,第2次訂正審判請求を取り下げた。
(イ)第3次に当たる本件訂正審判の請求に先立ち,請求人(本件原告)から再度,前件高裁判決の「誤り」を正すために,審判において独立登録要件の判断を受けるためにどうすべきかの問い合わせがあった。さらに,請求人(本件原告)からは,訂正しようとする事項について新規事項となるかの問い合わせがあったので,審判官は,新規事項とはならない蓋然性が高く,実用新案登録請求の範囲減縮にも当たるので,本件訂正審判においては,前件高裁判決に係る無効審判事件における証拠を含めて,独立登録要件を判断することになるであろう旨回答した。
そして,審判合議体は,本件訂正審判に対して,平成17年3月4日付けで独立登録要件の非充足を理由とする訂正拒絶理由通知(乙1)を行い,平成17年8月3日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」という本件審決(甲1)をしたものである。
(ウ)そして,本件訂正審判の手続き,判断に何らの違法性がないことは,上記ア〜ウ及び下記(2)〜(4)のとおりである。
さらに,前件高裁判決に係る無効審判事件における証拠を含めて独立登録要件を判断するという上記回答の趣旨は,同無効審判事件における証拠及び理由のみによって本件訂正考案の独立登録要件を判断するというものではなく,他に理由がないときに,同無効審判事件の証拠及び理由を検討することなく訂正を認めることはないことを意味しているにとどまることは当然である。事前に通知されない訂正拒絶理由に基づいて本件審決がなされたものであるならばまだしも,訂正拒絶理由(乙1)において適法に訂正拒絶理由が通知されているのであるから,独立登録要件の判断を前件高裁判決の証拠及び理由のみによらなかったことは,信義則に何ら反するものではない。
よって,本件訂正審判における手続上の信義則違反はない。
(エ)なお付言すれば,原告の「「加熱軟化した状態で」という文言は不必要であるとアドバイスをすべきであった」という主張については,訂正審判の請求は,請求人がその意思で請求するものであり,その内容を補正できるものでもないので,請求の後に何らアドバイスをなすべきものでもない。
「訂正させておいて別の引用例を引用して却下するのは実務慣行に反し,信義則違反である」という原告の主張についてさらに付言すれば,現時点において,訂正が原告の意思に反するのであれば,本件訂正審判をいまだに係属させていることとの関係で,原告の意図がどこにあるのか理解に苦しむものである。
(2) 取消事由2-1-1に対し原告は,甲5公報(特公昭50-17915号)は,「塩化ビニリデンフィルムの過冷無定形状態」なるものの技術的意義が不明であるから,発明が未完成であるか又は当業者にとって実施不能であり,引用例になし得ないものであると主張する。
しかし,本件訂正審決において周知技術1として認定した技術は,「フイルムによるトレー包装体において,フイルムとトレーとの密着性を改良するために,トレー周壁の上部外側外周面一周に,上部周縁を外方に折り返して形成された接着剤塗布面」を設けるという構成(「本件接着剤塗布面構「然しフイルム13と底部材11との間に作られる 成」)であるところ,甲5公報の密封を改良する為にフランジ部分16の外側表面は好ましくはその上に可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤の薄い基本的には顕微鏡的塗膜18を有するべきである。」(3頁右との記載によれば,甲5公報に当該構成が開示されていることは明 5〜9行)白である。
「本発明に拠る包装に適する製品の全部は極めて広範囲に亘るも そして,甲5公報のので上述せるものは単なる代表例に過ぎない。ポリ塩化ビニル及びポリスチレンフイルムは本発明の包装を作るのに使用され得る別な型式のフイルムの例である。好ましくは,使用されるフイルムは常温又は加熱状態の何れかに於いて適当に成形可能であつて底部材の密封面積と完全に馴染んで皺や折目のない滑らかな密封を作るものでなけれはならない。」(6頁との記載によれば,甲5公報に記載された発明は,「代表 左31行〜右7行)例」として記載された「塩化ビニリデンフィルムの過冷無定形状態」を利用するものに限定されるものではない。出願された発明の進歩性等を判断する資料になり得るためには,その判断の資料となり得る技術的思想が開示されていれば足りるのであり,「塩化ビニリデンフィルムの過冷無定形状態」を利用した包装が実施可能であるかどうかが,当業者が「本件接着剤塗布面構成」の技術的思想を把握できるかどうかに直ちに結びつくものではない。
よって,原告の主張は失当である。
(3) 取消事由2-3に対し原告は,引用刊行物2(実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフィルム。乙3)は,その考案の製造方法が記載されておらず,引用例となし得ない旨主張している。
しかし,本件審決において引用刊行物2に記載された考案として認定したものは,「耳部を設け,容器を積み重ねた際,耳部の外面が上下方向に連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈する容器」の考案であり,引用刊行物2の記載に接した当業者であれば,本件審決が認定した上記考案を把握可能というべきである。
原告は,引用刊行物2の「耳部」は製造不可能であると主張しているが,本件審決が認定した範囲における耳部の形状は容器の外面形状として,カールされた耳部の外側形状を把握するのみであり,原告が指摘する引用刊行物2の第4図に図示される耳部のカール全体の形状ではない。しかも,原告が指摘する引用刊行物2に図示される耳部のカール全体の形状についてさえも,当該形状は物品として存在し得る形状である。そして,原告が指摘する耳部について,量産性を担保し,歩留まり,コスト面から商業的に成立する製造方法が直ちに発見されないとしても,それが物品として存在し得るものであれば,その製造方法が別途の発明を構成することがあるとしても,直ちに物品に係る考案として未完成とされるべきものではない。
したがって,引用刊行物2に記載される考案が未完成であるから引用刊行物2は引用例となし得ない旨の原告の主張は,失当である。
(4) 取消事由2-1-2,2-2,2-4,3に対し本件審決は,訂正考案を訂正明細書に記載された事項から認定しており,当該訂正考案の認定に誤りはなく,引用刊行物1〜3の記載から認定される考案に関しても,各引用刊行物には,本件審決の摘示したとおりの記載があり,各記載から引用考案を認定したことに何らの誤りはない。また,本件審決が周知とする技術も,それを周知とし得ないとする特段の事実は何ら存在しない。さらに,対比判断においても,訂正考案と引用刊行物1記載の考案とを比較し,一致点,相違点を認定し,それら相違点に係る事項は,引用刊行物2,3記載の考案及び周知技術1,2によれば,当業者であればきわめて容易に想到し得たものであると判断しており,かかる認定,判断に何らの誤りはない。
よって,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1請求原因(1)(本件訴訟に至る経緯),(2)(訂正審判請求の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない(ただし,本件審決の原告への送達日は,弁論の全趣旨によれば,平成17年8月15日であることが認められる。)。
2 取消事由1(手続上の違法)について(1) 甲5公報の扱いにつきア原告は,前件高裁判決が引用例とした甲5公報を,本件審決が引用例としなかったことは,前件高裁判決の拘束力に反するものであって行政事件訴訟法33条に違反すると主張する。
しかし,行政事件訴訟法33条1項にいう拘束力は確定した判決について生ずるものであるところ,平成15年4月22日になされた前件高裁判決は,原告主張によっても,訴外全農によるその後の訴え取下げのため結局は確定しなかったのであるから,前件判決に行政事件訴訟法33条1項にいう拘束力が生じたとする原告の主張は,前提において誤りがある。
のみならず,前件高裁判決は,前件無効審判請求事件の審決についてなされたものであるから,これとは別個の事件である本件訂正審判請求事件にその拘束力が及ぶことはなく,この点においても原告の主張は失当である。
なお,本件審決においては,相違点アに係る訂正考案の構成のうち「本件接着剤塗布面構成」が当業者にとって容易に想到できることの根拠として「周知技術1」を認定し,その例として甲5公報を挙げているのに対し(8頁第3段落),前件高裁判決においては,訂正前の本件考案について,本件審決と同一の引用考案(引用刊行物1)と対比の上,本件審決と同様に「相違点ア」を認定し,当該相違点アに係る本件考案の構成のうち「本件接着剤塗布面構成」が当業者にとって容易に想到できることの根拠として甲5公報(前件高裁判決にいう「引用例2(甲第3号証)」)を引用例として挙げているのであって(甲3の18頁第2段落〜22頁第1段落),本件審決と前件高裁判決とは,いずれも,甲5公報を,訂正考案ないし本件考案の相違点アに係る構成のうち「本件接着剤塗布面構成」を当業者が容易に想到できたことの根拠として証拠に採用しているのであり,具体的な論理付けにおいて,周知技術の例として挙げるか引用例として扱うかの差異があるにすぎない。したがって,実質的にみても,甲5公報の扱いについて,前件高裁判決と本件審決との間に理由の相違があるということはできない。
イ原告は,本件審決は,請求不成立の理由を,独立特許要件の非充足ではなく,行政事件訴訟法9条違反とすべきであったと主張する。原告の上記主張は,本件訂正審判請求は,審判請求の利益を欠く不適法なものとして却下されるべきものであったとの趣旨であると解される。
原告の上記主張は,本件訂正審判請求は,本件実用新案を前件高裁判決から「防衛」するために,前件高裁判決の甲5公報に関する判断が実質的に「誤り」であることを,訂正考案が独立特許要件を充足するか否かの判断において示してもらうことを目的として行ったものである,ということを前提とするものである。しかしながら,本件訂正審判請求を提起するに当たって原告がそのような主観的な目的を有していたことと,本件訂正審判請求を行うことの審判請求の利益と法的関係があるとはいえないから,原告の主張は採用することができない。
(2) 引用刊行物2の扱いにつき原告は,前件高裁判決が本件審決にいう引用刊行物2(乙3)を引用例として本件考案進歩性について判断したことは違法であり,かかる違法な前件高裁判決から「防衛」するために本件訂正審判請求を行う必要もなかったから,本件審決は,請求不成立の理由を請求の利益の欠如に求めるべきだったのであり,独立特許要件の非充足を理由としたことは違法であると主張する。
しかし,引用刊行物2(乙3)を訂正考案進歩性の判断に当たっての引用例となし得ることは後記5のとおりであり,このことは,前件高裁判決における訂正前の本件考案進歩性の判断についても同様であるから,原告の上記主張は,その前提において理由がない。また,原告が本件訂正審判を請求した主観的な目的が,審判請求の利益との法的関係を有するものではないことも,上記(1)イに説示したとおりである。よって,原告の主張は,理由がない。
(3) 判断遺脱の主張につき原告は,本件訂正審判請求において,審判請求人である原告が,前件高裁判決が本件考案のストレッチフイルムとは過冷無定形塩化ビニリデンフイルムであるとの重大な事実の誤認をしていることを主張したのに対し,本件審決は,原告のこの主張に対して明確に判断しておらず,この点において,本件審決には判断遺脱の違法がある,と主張する。
しかし,訂正審判請求に対する審理は,訂正審判請求が訂正の法律上の要件(平成5年法律第47号による改正前の実用新案法39条)を充足するか否かについて行われるものである。原告が本件訂正審判請求を行ったことの主観的な目的が,前件高裁判決の判断内容の当否を問うことにあったとしても,本件訂正審判請求事件において,前件高裁判決の判断内容が審理の対象となるものではない。そして,本件審決は,本件訂正審判請求が訂正の法律上の「願書に添付された明細書または図面に記 要件を充足するか否かについて,まず,載された事項の範囲内であり,かつ,実用新案登録請求の範囲減縮に該当するものであと判断し,次いで,独立登録要件について判断しているも る」(3頁第2段落)のであるから ,判断の遺脱があるということは (3頁第3段落〜10頁第3段落)できない。
よって,原告の上記主張も,採用することができない。
(4) 審判手続の信義則違反の主張につき原告は,前件高裁判決の判断に拘束力がないのであれば,本件訂正審判請求はそもそも不必要だったわけであるから,審判合議体は審判請求人(原告)に対して本件訂正審判請求は不必要であるとアドバイスすべきであったのであり,訂正させておいて別の引用例を引用して請求不成立とするのは実務慣行に反し,信義則違反である旨主張する。
しかし,本件訂正審判請求手続において審判合議体が発した訂正拒絶理由通知書(乙1)によれば,訂正拒絶理由として,訂正考案が独立登録要件を欠くとされており,その具体的内容も,本件審決の理由と同一である。すなわち,訂正拒絶理由通知書においても,訂正考案を引用考案(引用刊行物1〔乙2〕記載の考案)と対比のうえ,一致点及び相違点ア〜エを認定し,相違点アについてはこれを「本件接着剤塗布面構成」と「本件形状構成」とに分けて,前者は「周知技術1」から容易であり,後者は引用刊行物2(乙3)から容易であるとし,相違点イについては「周知技術2」及び引用刊行物3(乙4)から容易であるとの審判合議体の見解が明確に示されている。
このように,本件審決の結論及びその理由とするところは,訂正拒絶理由通知書によって事前に審判請求人(原告)に対して通知されていたのであるから,同通知書に接した原告としては,前件高裁判決の理由との異同を含めて,審判合議体の見解を本件審決が出される以前に知った上で,意見書を提出して意見を述べ,あるいは本件審判請求を取り下げる等の行動を適切に取るための機会が十分に保障されていたというべきである(現に原告は,平成17年4月9日付けの意見書〔甲7〕において,前記訂正拒絶理由通知書に対する意見を述べている。)。したがって,本件訂正審判請求手続において,審判合議体の側に,手続上の信義則違反があったということはできず,原告の主張は理由がない。
3 取消事由2-1について(周知技術1の認定の誤り)(1)本件審決は,訂正考案の相違点アに係る構成の容易想到性を判断するに「フイルムによるトレー包装体において,フイルム 当たり,「周知技術1」として,とトレーとの密着性を改良するために,トレー周壁の上部外側外周面一周に,上部周縁を外方に折り返して形成された接着剤塗布面,すなわち,本件接着剤塗布面構成を採用する」という技術が本件出願日(昭和54年4月4日)当時に周知で (8頁第3段落)あったと認定した。この点につき,原告は,本件審決が周知技術1の認定の根拠とした甲5公報(特公昭50-17915号)及び乙6公報(実公昭39-38574号)は,物の発明ないし考案であるところ,これらの公報には当該物を製造する方法が記載されていないから,進歩性の判断に当たっての引用例となし得ないものである,と主張する。
しかし,原告の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
(2) 甲5公報につきア 甲5公報には,次の記載がある(下線は本判決で付した。)。
@「本発明は新式の改良形態の包装及びその特殊な形状の構成要素に関するものである。
更に明確には,本発明はその一部たる特殊底部材にしてその上に製品が支えられ,且それに製品被覆フイルムが新式の改良方式で密着されるものを有する新式改良形態の包装に関するものである。」(2欄7〜12行)A「ポリ塩化ビニリデンフイルムの過冷無定形状態に於ける独特の性質を使用する事に起因して製品包装の改良にはかなりの進歩が為されて来ている。斯かるフイルムは押出し成形されるとまだ無定形状態にある間に基本的には該フイルムの温度を略室温又はそれよりも稍高い温度迄下げる事になる即時過冷の結果として得られる如き状態に懸濁され得る。過冷状態にある此のフイルムは本来非結晶性で即時変形可能性を呈し,可伸性及びそれ自体に対してのみならず適当な状態の下にある別種の材料に対しても独特の密封性を有している。此の型式のフイルムは包装される製品の形に即座に馴染む事が可能で,皺を生じフイルムの折畳まれる部分に密封を作つて維持する事に附随する問題を解決するものである。此の点に関して過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムは十分に変形可能なものでそれ自体と又は適当な可塑剤又は接着剤の界面を有する底部材の如き異種材料と接着して完全に密着せる即ち滑らかで折り重なりや皺のない密封面積の自動的に作られるのを可能にするものである。」(2欄13〜34行)B「本発明の包装の基本的設計は包装フイルムと底部材との独特な組合せにあり,フイルムが底部材の包装の垂直軸線に対して傾けられたフランジ部分の上を同延に覆うて該部に接着され従つて密封の効果を破壊する為にはフィルムをかなり伸ばさなければそれを底部材から離し得ないような形状及び配置の密封を有するものである。密封の斯かる特殊な形状及び配置を得る際に,此の特殊密封を作るのに役立ち尚更に容易に撓曲し得る材料から直ちに底部材を作る事を可能にする特殊な形状の撓曲し難くする部分を底部材に設ける結果として附加利点が得られるのである。過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムを利用する事及び食肉製品又はその他の種類の食料品の包装を作る事の両者に関して本発明の好適実施例が以下に述べられるけれども,フイルムの材料も底部材の材料も又それらに依つて包装される製品も本発明の基本的目的を達成しその基本的利点を具現し得れば如何なる適当な型式のものであつても構わないのは勿論の事である。」(3欄38行〜4欄14行)C「次に包装10の好適形態に就いて述べる事にするが本発明はに挙げられる特定材科のみに限定されるものではない。好ましくは,少くともフイルム13は製品12及び底部材11に施される時過冷無定形状態にあるポリ塩化ビニリデン内側層を有している。図示フイルム13は単層であるけれども樹脂100部当り約75部の可塑剤を有する厚さ約0.025mm(1.0ミル)の可塑剤添加ポリ塩化ビニルフイルムの外側層及び約85%の塩化ビニリデンと15%の塩化ビニルとの共重合体から成り約0.025mm(1.0ミル)の厚さを有する過冷ポリ塩化ビニリデンフィルムの内側層を有する成層体の如き成層フイルム原料も勿論使用され得るのである。然し本明細書では説明の目的で単層フイルム13のみが図示されており,此のフイルムは例えばそれを包装の製品及び底部材に吸引して密着させる真空が包装内に作られる任意の適当な既知の包装形成抽気技法を使用する事に依るなどして製品12の露出表面を覆うて該表面の形にぴつちりと倣うように完全に密着して潰されて即ち吸引されている。加熱状態では過冷ポリ塩化ビニリデンフイルム又は成形可能にして引伸ばし得るその他の適当な不定形フイルムが製品12を覆うて下向きに強く吸引されて底部材11のリム15及びフランジ部16に接して潰されると,このフイルムは無理なくリム15の形状に即して底部材11の全周にわたって該リムの上向き内側面,頂部及び下向き外側面に係合する。 」(4欄35行〜5欄17行)D「再び本発明の好適形態に就いて述べれば,過冷ポリ塩化ビニリデンフイルム13はポリ塩化ビニル底部材11と十分に密着し得る性質を有し熱封に頼る事なしに気密密封を作るものである。此の点に関しては包装10は熱を加えられずに常温で成形され得従つて該包装は感熱材料を包装するのに又感熱包装形成材料の使用を可能にするのに適当なものである。然しフイルム13と底部材11との間に作られる密封を改良する為にフランジ部分16の外側表面は好ましくはその上に可塑剤又は感圧接着剤の如き適当な密封剤の薄い基本的には顕微鏡的塗膜18を有するべきである。・・・・・・多くの異なる型式の感圧接着剤が記載態様に於ける包装形成目的に適用され得る。・・・・・・然し包装される製品が食料品である場合であつても,注目されるべきは密封剤の塗膜18の施される所は製品が底部材11及びフイルム13と接触する所から離れている点である。過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムがポリ塩化ビニル又はポリスチレンの如き適当なプラスチツク底部材と密着する性質は塗膜18の施されるフランジ部分16の内側でリム15とフイルムとの間に中間密封部分を作つている。
フイルムと底部材との界面塗膜18に依って形成される特殊密封は強力密封を作るものである。例えば,塗膜18が過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムとポリ塩化ビニル底部材との間に密封を作る可塑剤である場合には該密封の剥取り強度は幅25mm(1")当り0.7乃至1.4Kg(1・1/2乃至3lb)の範囲に亘り得る。対照的にリム15に沿うて塗膜18の内側に生ずる如き過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムとポリ塩化ビニル底部材との直接密着のみに依つて作られる密封の強さを決定せんと試みられた時には剥取り強度の読みは全然得られなかつたのである。然し,塗膜18の内側に作られる密封はそれにも拘らず気密密封であつて包装10の品質を維持するのに大変役立つものである。」(5欄42行〜7欄7行)E「使用される任意の適当なフイルムは密封形成操作後密封部分に於いて完全に結晶化されて引伸ばしに対して相当の抵抗を示すものである。ポリ塩化ビニリデンフイルムは喩え過冷無定形状態で施されても結晶する事になつて相当な強靭性と引伸ばしに対する抵抗性とを示すものであるから上記の事はポリ塩化ビニリデンフイルムに特に当て嵌るのである。好適な過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムが本発明の包装を作るのに使用される時には,該フイルムの後続晶出は全体に亘って実質的に不規則な結晶分布を示すフイルムを作る結果を生ずる。此の事は過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムのもう一つの独特な特徴であつて,斯かる不規則な結晶分布はフイルムに如何なる方向性脆弱をも即ち完全晶出後に何等が一特定方向へ伸びる傾向を生じないのである。上述の密封構成は実際には底部材11の傾斜フランジ部分16に沿うて作られる強力外側一次密封及び該一次密封が包装の粗雑な取扱いに依つて破られる不時の場合に製品12を防護するのに役立つ内側二次密封を作る。底部材のリム15の中高形状はそのリムからフイルムが容易に剥がされるのを阻止し従つて一次及び二次密封の両者を設ける特徴を助ける。」(7欄18〜37行)F「ポリ塩化ビニル及びポリスチレンフイルムは本発明の包装を作るのに使用され得る別な型式のフイルムの例である。好ましくは,使用されるフイルムは常温又は加熱状態の何れかに於いて適当に成形可能であつて底部材の密封面積と完全に馴染んで皺や折目のない滑らかな密封を作るものでなければならない。」(11欄33行〜12欄7行)イ上記アの各記載によれば,甲5公報には,過冷ポリ塩化ビニリデンフイルム又は成形可能にして引き延ばし得るその他の適当な不定形フイルムを底部材11のリム15及びフランジ部16に係合するようにして,ボローニアソーセージなどの製品を包装するものにおいて,フイルムと底部材11の密封を強固にするために,フランジ部16の外側表面に接着剤の薄い塗膜を設けるようにする技術が開示されているということができる。
ウそして,底部材11は,ボローニアソーセージなどの製品をその上に支持するものであり,第1図〜第3図から,トレー形状を有することが見て取れるから「トレー」といえるものである。また,フランジ部16は,第1図〜第3図から,トレー周壁の上部周縁を外方に折り返して形成されていることが見て取れる。
(3) 乙6公報につきア 乙6公報には,次の記載がある(下線は本判決で付した。)。
@「本考案は半硬のあるいは硬い材料で作られ,周囲に唇またはフランジを持つた容器に熱収縮性プラスチック・フイルムの蓋を施して作られた包装に関するものである。」(1頁左欄下から13〜10行)A「本考案によつて作られた包装は,大体平らな底と,大体上方に延びた側壁と,前記側壁の頂部およびその全周囲のまわりの所にある大体水平な縁とさらに前記側壁頂部の,水平の縁の全周囲のまわりに下方に延びた唇またはフランジとを持つた容器と,前記容器の中に置かれてる包装さるべき品物と,そして前記品物と容器との頂部を覆い,下方に延びて前記唇あるいはフランジの周囲を完全に囲んでいる後縁を持つている所の熱収縮性のフイルム材料のシートとを備え,前記後縁は前記下方に延びた唇あるいはフランジの全周囲の下に収縮されて,それと拘束係合を為し,前記品物を覆うたフイルム・シートの部分は,前記容器および品物の頂部を覆うて緊張した,しわのない覆を形成するように熱収縮されたものである。」(1頁左欄下から9行〜右欄6行)B「さらに,下方に延びた唇あるいはフランジは,フイルム・カバー・シートを緊張する好適の縁を形成し,接着剤を施こすことの出来る表面積を持ち,また,容器がポリスチレンのようなプラスチツクで出来ている時には容器とカバー・シートの間を軽く融着されるので容器とカバー・シートの間には非常に密着した封緘が形成される。」(2頁左欄14〜21行)イ乙6公報の上記各記載によれば,乙6公報には,熱収縮性フイルムを容器の下方に延びた唇又はフランジに係合するようにして製品を包装するものにおいて,フイルムと容器の非常に密着した封緘が形成されるようにするために,当該唇又はフランジが,接着剤を施すことのできる表面積を持つようにするという技術が開示されているものと認められる。
ウそして,乙6公報のFIG.1〜4からみて,乙6公報に記載された考案の容器は,トレーの形状を有するから「トレー」といい得るものであり,唇又はフランジは,トレーの周壁の上部周縁を外方に折り返して形成されたものである。
(4)上記(2)及び(3)において認定した事実によれば,甲5公報及び乙6公報には,「フイルムによるトレー包装体において,フィルムとトレーの密着性を改良するために,トレー周壁の上部外側外周面一周に,上部周辺を外方に折り返して形成された接着剤塗布面」を備えるようにすること,すなわち,本件審決にいう「周知技術1」が開示されているものと認められる。
(5)ア原告は,甲5公報について,過冷無定形状態のポリ塩化ビニリデンフイルムは一般人には入手不可能であり,いかなる溶融方法及び押出条件で作成するものであるかが不明であり,過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフイルムの自己粘着性を利用して包装する具体的な方法についても記載がないから,甲5公報には,そこに記載された発明が実施できる程度に記載されておらず,周知技術を認定するための根拠となり得ないと主張する。
「過冷ポリ塩化ビニリデンフイルムを利用する事・・・・・・に イしかし,甲5公報には関して本発明の好適実施例が以下に述べられるけれども,フイルムの材料も・・・・・・本発明の基本的目的を達成しその基本的利点を具現し得れば如何なる適当な型式のものであつても構わないのは勿論の事である。」(上記(2)アB),「ポリ塩化ビニル及びポリスチレンフイルムは本発明の包装を作るのに使用され得る別な型式のフイルムの例である。
好ましくは,使用されるフイルムは常温又は加熱状態の何れかに於いて適当に成形可能であつて底部材の密封面積と完全に馴染んで皺や折目のない滑らかな密封を作るものでと記載されているのであるから,甲5公 なければならない。」(上記(2)アF)報は,フィルムの型式を過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフィルムに限定しているものではなく,「適当に成形可能であって,底部材の密封面積と完全になじんで皺や折り目のない滑らかな密封を作るフイルム」であればよいとしている。そして,甲5公報には,このようなフィルム一般において,トレーがフィルムに接する箇所を接着剤塗布面とすることによって,トレーとフイルムの密着性を改善する,という技術的思想が開示されているといえる。
そして,トレーを適当に成形可能な包装フイルムで包装することは,甲5公報のみならず,引用刊行物1(実願昭51-13482号(実開昭52-104756号)のマイクロフィルム〔乙2〕)にも記載されているように,本件考案に係る出願時において周知の技術である。そうすると,当業者(その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者)であれば,そのような包装において,トレーがフィルムと接する箇所を接着剤塗布面とすることによってトレーとフィルムとの密着性を改善するという技術的思想も,容易に実施することができるものというべきである。
以上によれば,甲5公報には,本件審決が認定した「周知技術1」についての技術的思想が記載されており,本件出願日当時の技術水準において,当該技術的思想を実施することができるものであるから,仮に,原告のいうように,過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフイルムの入手が困難であったり,その溶融方法や押出条件等が甲5公報の記載からは不明であるとしても,甲5公報を周知技術1を認定する根拠とすることの当否に影響するものとはいえない。
ウなお,昭和42年4月17日社団法人日本合成樹脂技術協会発行「プラスチックス包装材料要覧(改訂・増補版)」(甲29-1)によれば,ポリ塩化ビニリデンや過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフイルムを作成する方法は,いずれも本件考案の出願時より前である,昭和42年において既に知られていたものというべきであるから,甲5公報に過冷無定形ポリ塩化ビニリデンフイルムを作成する溶融方法や押出条件が記載されていないとしても,本件出願日(昭和54年4月4日)当時の当業者にとって,甲5公報に記載された発明が実施不能であったということもできない。
(6)原告は,乙6公報について,原告自身で乙6公報に記載された包装を作製することを種々試みたが不可能であったから,乙6公報記載の考案も実施不可能であると主張している。
しかし,乙6公報に,本件審決が認定した周知技術1に関する技術思想が開示されていると認められることは,上記(3)のとおりである。
そして,フィルムによりトレーを包装すること自体は,引用刊行物1,2(乙2,3)に記載されているように,本件出願日当時において周知の技術的手段であるから,当業者が,乙6公報の「容器の唇又はフランジ部に接着剤を施す」との記載に接したとき,フィルムによりトレーを包装する際に,トレーのフィルムに接する箇所を接着剤塗布面とすることによってトレーとフィルムの密着性を改善する,という技術を適用することに格別の困難性は認められない。そうすると,乙6公報から把握した上記周知技術1を実施することができないものではない。
したがって,仮に原告の主張するように,乙6公報が実用新案登録の請求の範囲特定した方法(熱収縮性フイルムを熱風により収縮させて唇又はフランジ部に巻き込んで密着させるというもの)により包装することが不可能であるとしても,乙6公報を周知技術1の認定の根拠とすることは何ら妨げられない。
(7)以上のとおりであるから,本件審決が,甲5公報及び乙6公報を例示した上で,周知技術1を認定したことに誤りはなく,原告の主張する取消事由2-1は理由がない。
4 取消事由2-2について「引用刊行物1記載のトレーについても,フイルムとの密着性 (1)原告は,本件審決がと認定したこ を改良するという課題は,当然内在し得るものである。」(8頁第3段落)とにつき,引用刊行物1(乙2)の包装方法は真空包装による成形を行うものであるから,フイルムがトレーの形どおりに成形されて密着し,密着を破壊してフィルムを剥がすのに難渋するほどであり,本件審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
「平 (2)ア本件審決が引用刊行物1に記載された考案として認定したものは,坦な底板と,底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有するトレーと,上記トレー内に置かれた被包装物と,上記トレーの上面開口部を加熱軟化させた状態でオーバーラップして被覆し,かつ,トレーの周壁の上部外側面全周に密着させた周縁を有する熱可塑性合成樹脂からなる上フイルムとからなり,上記上フイルムは,その周縁を,トレーの周壁の外側面の上端部から下側の位置で抵抗線により全周に亘って切断してある,熱可塑性合成樹脂からなる上フイルムによるトレー包装体」(5頁第4であるから,被包装物の形状に沿って密着するように真空包装など 段落)により成形されるものに限られない。そして,単にフイルムによりトレーとトレーに載置された被包装物を覆うのみである場合に,真空成形などにより成形される場合に比べ,フィルムとトレーとの間の密着性が劣ることは明らかである。
イところで,引用刊行物1(乙2)には次の記載がある(下線は本判決で付した。)。
@「トレー嵌置受皿の外側面部に,上フイルムを熔断する抵抗線と,上フイルムを抵抗線に接触保持させるフイルム密着手段とを周方向に沿って設けてなるフイルム包装切断用テーブル。」(明細書1頁「実用新案登録請求の範囲」)A「現在,肉,魚,加工品及び雑貨等の包装においては,トレーと熱可塑性合成樹脂フイルムとを用いて次の2通りの包装が行なわれている。第1に,第8図に示す如く真空包装機の下部ボツクス(1)内のテーブル(2)上に,被包装物(3)を盛ったトレー(4)を載せ,テーブルを下降させ,下部ボツクスの開口上面に上フイルム(5)を張り,上部ボツクス(6)を閉じ,ボツクス内を真空にすると共に,上フイルムを加熱板(7)によって成型温度に加熱軟化させ,真空化と加熱が完了した時点でテーブルを上フイルム面に上昇させ,上フイルムを被包装物に接触させ,テーブルの周縁と上部ボツクスの開口下面内側のフランジとにより上フイルムの周縁部を挟持させ,大気をボツクス内に導入して上フイルムを被包装物とトレーに形通りに密着させる。第2に,・・吸気孔より上フイルムの内側の空気を排気して上フイルムを大気圧により被包装物とトレーに形通りに密着成型させる。」(明細書1頁下から7行〜2頁15行)B「ところで,上記のテーブルは大きくし,トレーを多数載せ並べ,この上に1枚の上フイルムを被覆して多数一度に密着包装すると,作業能率がよいが,この場合上記包装後に上フイルムを各トレー間で切り離す必要がある。」(同2頁16行〜末行)C「本考案は上記フイルム包装とフイルム切断とが簡単確実に行なわれるフイルム包装切断用テーブルを提供するものであって,その構成を図面にもとづいて説明すると次の通りである。第1図乃至第3図に示すように,長方形の金属板製の基板(14)上にトレー嵌置受皿(15)を多数格子状配列に形成する。この各受皿(15)は,トレー外周の傾斜と合致する内側面(16a)を有する電気絶縁性の枠体(16)の下部外側フランジ部(16b)を基板(14)上に定着して形成する。枠体(16)の基板(14)と直角状の外側面(16c)にフイルム熔断用抵抗線(17)を周方に張り巡らせる。この抵抗線(17)は枠体外側面(16c)に周方向に適当間隔で突設した止め輪(18)に挿通して若干突出させ,この両端部は枠体の1コーナー部に形成した端子取付部(16d)の各端子(19)(20)に接続する。」(同3頁8行〜4頁3行)D「第4図に示すように,各枠体(16)の外側面(16c)及びフランジ部(16b)の上面に上フイルム(25)の密着手段(26)を設ける。すなわち合成樹脂製の接着剤又は加熱上フイルムが密着する塗料或いはフイルムシート等の密着手段(26)を塗布又は粘着して設ける。」(同4頁8〜13行)E「このテーブルは前述の第8図に示す真空包装機の下ボツクス内に収容し,この各受皿(15)に第4図に示すように被包装物(29)を入れたトレー(30)を上周縁が少し突出した状態に夫々嵌置して前述の包装作業を行なう。この場合,大気圧の導入時,各トレー(30)及び被包装物(29)上の加熱軟化した上フイルム(25)はそれらに凹凸形状通りに押付けられ延伸して密着被覆される。各トレーの周囲上の上フイルム(25)もコ字形の凹部又はL形の段部の塗料はフイルムシート(26)面に押付けら延伸してそれに密着し,上フイルム(25)は抵抗線(17)上に全周に亘り確実に接触する。」(同5頁1〜12行)F「従つて包装後に抵抗線(17)に通電させて発熱させると,この熱により凹状又はL形に形成されている上フイルム(25)が熱収縮を生じて抵抗線(17)との接触部から離れんとするがこれが密着保持手段(26)によって防止され,全周に亘り確実に熔断される。この後,各トレーを取り出すと共に,スクラツプフイルムを適当に剥離除去し,再び包装作業を行なう。」(同5頁12行〜末行)G「包装フィルムとして通常使用されるオレフイン系フイルムの80〜150ミクロン厚のものを熔断するには,」(同6頁11〜13行)H第4図には,平坦な底板と底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁とを有するトレー(30)と基板(14)上に形成されたトレー嵌置受皿(15)の中に,内部に被包装物(29)が置かれたトレー(30)が嵌置され,上フイルム(25)が被包装物に密着しつつトレー(30)の上面開口部をオーバーラップして被覆した状態にあるトレー包装体が図示されている。
ウ引用刊行物1(乙2)の上記記載によれば,引用刊行物2の考案の詳細な説明及び図面には,被包装物が置かれたトレー内を真空状態として,大気圧により上フイルムを被包装物とトレーに形通りに密着成型させることが説明されており,トレーと上フイルムとの間の密着には,接着剤等は用いられていない。
しかし,トレーに被包装物を載置してフイルムで覆うに当たっては,引「従来一般にミートトレイ(通称)等皿状容器を用いたパック 用刊行物2(乙3)に製品の包装作業は自動化したラインで行われている。この作業は,容器に肉等被収納物が収納された後,予め適度の張り強度に微調整されて張られているフイルム下において容器を上昇させ,フイルム面を下から押し上げて容器全体をフイルム内に包み込ませ,次いで下向コ状になつたフイルムを容器の下側において左右から交絞させて容器外周に張り付くように包着させ,その後で容器下側のフイルムの合わさり部をシールして製品と記載されているように,単にト とするものである」(1頁下5行〜2頁6行)レーと被包装物をオーバラップして覆うだけとすることも通常行われていることであるから,引用刊行物1記載の考案においても,フイルムを製品の型どおりに成形する必要がない場合には,真空包装によらず,単にトレーと被包装物をフイルムによりオーバラップしてもよいことは当業者にとって明らかである。
そして,単にトレーと被包装物をフィルムとオーバーラップする場合には,上記アのとおり,密着性が必ずしも十分でないことがあるから,密着性を改良するという課題が内在するということができる。
(3)また,引用刊行物1(乙2)の考案の詳細な説明の記載によれば,上記(2)アのDのとおり,各枠体(16)の外側面(16c)及びフランジ部(16b)の上面に,接着剤等の密着手段(26)を設けるものとされている。そして,同Fの記載によれば,密着手段を設けることの目的としては,抵抗線(17)を発熱させた際の熱収縮によって上フィルムが抵抗線(17)との接触部から離れることを防ぐことが挙げられている。
これらの記載によれば,上フィルムを枠体の外側面及びフランジ部の上面に対して密着させる点においては,真空包装による成型だけでは十分ではなく,密着を確実にするために,接着剤等の密着手段を必要とする場合があることが開示されているということができる。そうすると,真空包装による成型が,原告のいうようにきわめて強固なものであるとまでいうことはできず,上フイルムをトレーに密着させる点においても,接着剤等の塗布によって密着性をより強固なものとすることが必要となる場合があることが示唆されていると解される。
そして,他に,原告のいうように,引用刊行物1の上フイルムとトレーの密着性を改善させる必要がないほどに強固な密着が達成されることを認めるに足る証拠もない。
(4)上記(2),(3)に説示したところによれば,本件審決が,引用刊行物1(乙2)記載のトレーについてもフィルムとの密着性を改良するという課題は当然内在し得るものである,と認定したことに原告主張の誤りはなく,取消事由2-2は理由がない。
5 取消事由2-3について(1)原告は,引用刊行物2(乙3)には「耳部10」を作製する方法が記載されておらず,その作製方法が不明であるから,引用刊行物2に記載された考案は,考案として未完成であるか,又は実施不可能なものであり,本件審決が訂正考案進歩性を否定するに当たり引用刊行物2を引用例としたことは,審査基準に照らして誤りである,と主張する。
しかし,原告の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
(2) 引用刊行物2の記載事項につきア引用刊行物2(乙3)には,次の事項が記載されている(下線は本判決で付した。)。
@「底面,側面に補強リブを形成してなる通称ミートトレイ等皿状容器において,容器上周縁に外下側に巻込んだ形態の耳部を形成してなる包装用皿状容器」(明細書の1頁「実用新案登録請求の範囲」)A「一方,フイルム包着の際フイルムが引張られる為に応々にして容器の上縁端特に四隅上縁端でフイルムを切つてしまうことがあつた。」(同3頁3〜5行)B「本考案は上記に鑑み,これら欠陥を改善する為に,容器の材質や肉厚を特に変更することなくして,・・・フイルム包着が機械による自動作業で行われるので,積合わされている容器を一枚々々剥していく機械作業能力を大きく向上させて,フイルム包装作業全体を効率化する為のスタツキング防止を果すようにすることを目的としてなしたものであり,この為に所定構成の容器の上周縁耳部を外下方に巻込んで成型した容器を提供せんとするものである。」(同3頁6〜19行)C「然して,上記容器は第3図に示す如く,その上周縁を外側下方に曲折垂下させ,この垂下縁片部10’が十分な長さとなるように当初成型しておき,次いで第4図に示す如く,この垂下縁片部10’を適宜カール機によつて曲折内方に巻込ませて容器周側面3の上縁外側に丸みのある耳部10を形成するものである。」(同4頁12〜18行)D「一方,上記耳部10は第5図に示す如く,容器複数枚を積合せた際,丸い耳部同志が重なり合う為容器間に空気Sを生じさせる役目を果し,積合せた容器を一枚々々剥しやすくする上で非常に効果的となり,スタツキング防止を完遂する。尚,第6図は従来公知の容器側を示したもので,このように折返し縁が形成してあるのみでは,この縁同志が嵌り合つてしまつて積合せた容器が密着してしまつて剥し難くなつてしまい,スタツキングを生じ包装作業能率を著しく悪くするのである。」(6頁3〜13行)E「以上のように,本考案によれば,・・・スタツキングが完全に防止されるので,これらにより包装作業を簡便に能率化,省力化し,・・・生産性向上に大きく寄与する。更に,従来成型品によると縁部が折返されて切口(端)が若干外側に向つていたので,包装作業中にフイルムを切つてしまう事態がしばしば生じ,又時には手指等を切つてしまうこともあつたが,本考案では耳部が丸く巻込んであるので当りはやわらかく,上記欠点を皆無にし安全性を高める。」(6頁14〜7頁9行)イ上記アの@及びCによれば,引用刊行物2(乙3)には,「上周縁を外側下方に曲折垂下させ,垂下縁片部が十分な長さとなるように成型し,垂下片部を曲折内方に巻き込ませて容器周側面3の上縁外周に丸みのある耳部10を形成した皿状容器」が記載されているものと認められる。
そして,同B,D及びEによれば,容器の上周縁耳部を外下方に巻き込んで成型することで,容器を複数枚積み重ねた際に耳部同士が重なり合い,スタッキングを防止できるようにしたものであると認められる。
また,同A及びEによれば,乙2の容器の耳部を巻き込んでいるために,包装作業中にフィルムや手指等を切ってしまうことを防止できることが認められる。
(3) 耳部の形状の製造可能性につきア引用刊行物2(乙3)の容器の「耳部」は,上記(2)イにおいて認定したように,容器を複数枚積み重ねた際に耳部同士が重なりあうことで,スタツキングの防止を果たすようにするものである。
「折返し縁が形成してあるのみでは,この縁同士が嵌 そして,引用刊行物2にはと記載されていることからり合うのでスタツキングが生じる」(上記(2)アのD)すれば,縁同士が嵌り合わないようにすれば,すなわち,トレーの耳部として第5図に示されるのと同様の形状を形成すれば,垂下片部を形成して垂下片部を巻き込むようにして形成したものに限らず,スタツキングの防止が可能となることは,当業者にとって明らかである。
「容器を成形する従来の技術は イ一方,乙7公報(特公昭44-21670号公報)にきわめて多くあるが原則的に全べて2つの方法に基ずいている。一つは射出成形技術であり他は熱的成形技術に関するものである。どちらの方法も製品の開口部が欠けたりあるいは鋭くなつたりする可能性があり,そして製作者と消費者の立場から考えても明らかに望ましいことではなかつた。その結果,最近になつてある製作者が他の装置を稼働させて製品容器のリムを巻き付けあるいは曲げて望ましい外形に仕上げている。」(2欄17〜26行) 「従来,紙コツ と記載され,乙8公報(特公昭55-11504号)にはプ,ポリスチロールコツプおよびその他の強度のある材料から製造されるコツプ状容器の上口縁部(開口部)はリツプローリング,リツプカール等の方法で強化が行われているが,発泡ポリスチレンシートの如く厚みが要求され,柔かい材質の材料では上口縁部を巻き込むリツプローリングは物理的に不可能と考えられていた。」(1欄37行〜2欄と記載されている(下線はいずれも本判決で付した)。 6行)「本発明のその他の目的は,一工程で巻込み曲げられた飲また,乙7公報には,口をもちそしてその飲口あるいはリム部分は改善された形状である薄肉製品または容器を成形させる方法と装置を提供することである。」(3欄6〜9行),「加えて第12〜15図に示すようなやゝ複雑な断面形状もなんの困難もなく形成される。」(6欄34〜35行)と記載され,第13図に示された形状は引用刊行物2(乙3)の「耳部」と同様の形状である。
これらの記載によれば,熱可塑性製品の容器の上口縁部をローリング(すなわち巻き込む)し,引用刊行物2と同様の耳部形状を作製する手法は,本件出願日当時,当業者に知られていたものと認められる。
(4)原告は,引用刊行物2(乙3)に記載されたトレーの「耳部」を作製する方法は不明であると主張するが,上記(3)のとおり,引用刊行物2のもののと同じ断面形状のリムを有する容器を作成する手法は当業者に知られていたと認められるから,当業者であれば,これらの公知の手法を適宜採用して「耳部」を作製することが可能であったというべきである。
また,原告は,乙7公報及び乙8公報に記載された物は,プラスチックをカールさせようとして加熱すると直ちに変形を起こしてしまうため実際に作製することは不可能であるとも主張するが,プラスチックをカールさせようとして加熱した場合に直ちに変形を起こすか否かは,プラスチックの材質,厚み,加熱温度等にもよると考えられるから,乙7公報及び乙8公報記載のものが,加熱すると直ちに変形を起こすものとはいえない。むしろ,乙7公報及び乙8公報の上記記載において,熱可塑性製品の容器の上口縁部をローリング(すなわち巻き込む)すること自体は従来技術として記載されていることからみれば,本件出願日当時においては,容器の上口縁部を巻き込むための種々の加工方法が当業者に知られていたと推認できる。
したがって,乙3の耳部と同じ形状をもつトレーを作製することが不可能であるとの原告の主張は採用することができない。
(5)原告は,乙7公報や乙8公報に示された容器では,容器を積み重ねたとき,耳部の外面が上下方向に連続して露呈することはないと主張する。しかし,上記(3)のとおり,乙7公報や乙8公報は,引用刊行物2(乙3)に示された「耳部」の断面形状の作製が不可能とはいえないことを示すものにすぎない。引用刊行物2(乙3)のトレーを積重ねた場合に耳部の外面が上下方向に連続して露呈することは,引用刊行物2の第5図に示されているのであるから,乙7公報や乙8公報に示された容器を積み重ねたとき,耳部の外面が上下方向に連続して露呈するものとなるか否かは,本件審決の結論に影響するものではない。
6 取消事由2-4について「引用刊行物1記載のトレー……が,スタッキングを生じるお (1)原告は,本件審決がそれのある形状であることは明らかであるから,当業者が,引用刊行物2記載の技術的事項である本件形状構成の形状………にすることも,きわめて容易に想到し得る」(8頁第6段と判断したことは誤りであると主張する。 落)しかし,原告の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
(2)ア原告は,上記(1)の本件審決の判断が誤りであることの理由として,まず,引用刊行物2(乙3)の第1図には,棚状平面を設けて小さな凹部を形成して,その凹部の深さだけトレー間を離間させる手段が示されており,本件出願日当時,かかる手段がスタッキングを防止するための方法として一般的であったから,スタッキングの防止のためにトレーに「耳部」を設けた「本件形状構成」を採用する必要は全くなかったのであり,本件審決の上記判断は誤りである,と主張する。
イ原告のいう「棚状平面」とは,引用刊行物2(乙3)第1図の図面奥側の隅部に示された2つの縦状8のうちの図面右側の縦状8の上面に形成された部分であって,トレーの4隅に形成されたものであるが,引用刊行物2には,この棚状平面についての記載はない。
そこで,棚状平面の作用・機能について考察すると,引用刊行物2の第1図によれば,棚状平面が設けられている縦状8は,図面前方側隅部を見れば,外面においてもその形状がそのまま反映されるように形成されていることが見て取れる。そして,棚状平面の設置位置,形状,容器底面からの高さは,各トレーにおいて異なるものであることを窺わせる記載はないから,積み重ねられる各トレーは,同一の形状を有するものであると解される。そうすると,棚状平面が存在するとしても,トレーを積み重ねた場合に,それぞれのトレーの棚状平面同士が嵌り合うことは明らかである。
してみると,引用刊行物2のトレーにおいて棚状平面が存在するだけでは,トレーを積み重ねた際に,トレー間に空間が生じるようになるとは認められないから,当該棚状平面がトレーのスタッキングを防止する作用を奏するとは認めることができない。
「上記耳部10は第5図に示す如く,容器 ウしかも,引用刊行物2(乙3)には,複数枚を積合せた際,丸い耳部同志が重なり合う為容器間に空気Sを生じさせる役目を果し,積合せた容器を一枚々々剥しやすくする上で非常に効果的となり,スタツキングとの記載があり,その記載内容に技術的に特 防止を完遂する」(6頁第2段落)段の不合理な点も見当たらないから,引用刊行物2記載の考案において,「耳部」を設ける目的の一つがスタッキングの防止にあり,実際にその効果を奏していることは明らかであるというべきである。
エ したがって,原告の上記主張は,採用できない。
(3)原告は,上記(1)の本件審決の判断が誤りであることの理由として,訂正考案においては,本件明細書(甲2)の図10,図11のとおり,下のトレーに上のトレーがはめ込まれた状態で重なっているから,積み重ねた状態でトレーがスタッキングし,周縁外部がしっかりとした柱状を呈し,接着剤を塗布することが容易になるのに対して,引用刊行物2(乙3)のトレーは,積み重ねた状態でトレーの周縁外部がしっかりとした柱状を呈することはなく,接着剤を塗布することはできないから,引用刊行物1記載の考案に引用刊行物2記載の耳部の形状を適用しても,訂正考案の本件形状構成に到達することはない,とも主張する。
しかし,訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載された訂正考案の要旨からは,訂正考案を,「トレーを積み重ねた際に,下のトレーに上のトレーがはめ込まれた状態で図10,11のとおりに積み重なるもの」に限定して解釈す「いずれの場合も,・・・ ることはできない。また,本件明細書(甲2)には,未包装のトレーを多数個を積み重ねた状態で,接着剤塗布面15cが上下方向に亘って連続して露呈して略垂直な面として柱状を呈するように形成し,この状態でロール又はスプレー等で,接着剤18を均一な厚さで塗布させることができるように形成する」(4欄9〜15行)と記載されており,訂正考案のトレーに接着剤を塗布するに当たっては,接着剤塗布面が上下方向に亘って連続して露呈して「ほぼ」垂直な面として柱状を呈するものであれば足り,原告主張のように「しっかりとした」柱状を呈することが必要であることについては記載も示唆もされていない。
してみると,原告の主張は,明細書の記載を離れた主張であるといわざるを得ず,採用することはできない。
そして,引用刊行物2(乙3)に開示された耳部の形状を採用すれば,第5図に示されたとおり,トレーを積み重ねた場合に耳部の外面は上下に連続して「ほぼ」垂直な面として柱状を呈するから,スプレーによって接着剤を一括して塗布することに支障はないことも明らかである。
そうすると,訂正考案のトレー形状と乙3のトレー形状とが,原告の主張する点で相違するということもできない。
(4) 以上のとおりであるから,原告が主張する取消事由2-4は理由がない。
7 取消事由3について「一般に,熱可塑性合成樹脂フィルムはストレッチフイルムを含み得る (1)ア 本件審決がものであり,しかも,引用刊行物1における「熱可塑性合成樹脂フイルム」が,ストレと判 ッチフイルムを排除していると認めるべき特段の事情もない。」(9頁第4段落)断したことにつき,原告は,ストレッチフイルムは厚さ15μmという極めて薄いものであるため,引用刊行物1のように複雑な物の形どおり成形しようとすると破れてしまうという問題があり,可塑剤が約30%入っているため,形決まりせず成形できないから,引用刊行物1の熱可塑性合成樹脂フイルムとしてストレッチフイルムを用いることはできないと主張する。
しかし,以下に述べるとおり,原告の上記主張は採用できない。
イ 訂正考案における「ストレッチフイルム」につき(ア)訂正考案の実用新案登録請求の範囲においては,「ストレッチフイルム」について,特に限定される記載はない。
ところで,昭和51年6月15日東洋経済新報社発行「商品大辞典」(甲25,以下「甲25辞典」という。)には,「ストレッチ・フィルム包装」の説明として,次の記載がある(下線は本判決で付した。)。
「軟質の塩化ビニルフィルムを用いて引っ張りながら商品を包み,フィルムの端をその裏面に圧着すると,商品にぴったりくっついて,透明で光沢のある包装が手軽にできる。これをストレッチ・フィルム包装という。塩化ビニルでは接着剤を用いなくとも自己粘着性があってフィルムが相互にくっつき,自然にははがれないが,開封のときはフィルムの端を引っ張れば容易にはがれるという便利性をもっている。最近は,ストレッチフィルム用の自動包装機も開発され,おもに精肉(カット肉)や加工食品の包装に使われている。
最近特に注目され出したのは,ストレッチ・フィルムによる包装のユニットロード化である。すなわち,ストレッチ・フィルムで品物をある単位にまとめてパレットごと,あるいはパレットなしで包装し,機械で荷役することによって包装の合理化をはかり,省資源・省力化に役だてようとするものである。・・・包装方法としては,積荷の周囲に水平あるいは垂直に回転するフィルム供給装置によって,25μ程度の薄いポリエチレンフィルムを積荷に巻きつけるか,あるいはターンテーブルを使用してフィルムが何層かに巻きつくようにする。また別の方法としては,85μくらいより以上のフィルムのカーテンを通して商品を移動することによって製品を包み込み,シーリングジョーという工具でフィルムをはさみ,張力をかけた状態で,ラップ部をはり合わせる方法がある。これは比較的大きなものの包装に利用される。」(1319〜1320頁)(イ)甲25辞典の上記記載によれば,「ストレッチフィルム」は,食品等を包装する際に用いられる軟質の塩化ビニルのほかに,比較的大きなものの包装に利用されるポリエチレンフィルムを含み,包装の用途等に応じて異なる厚み,材質のものが存在すると認められる。また,「ストレッチフィルム包装」とは,フイルムを引っ張りながら包装を行うこと一般を意味するものと解される。
したがって,「ストレッチフイルム」とは,フイルムを引っ張りながら包装することができるフイルムを意味するものというべきであって,その厚みは用途等に応じて異なるものが用いられていたというべきである。
(ウ)一方,本件明細書(甲2)には,ストレッチフイルムに関して,下記の記載がある(下線は本判決で付した。)。
@「〔産業上の利用分野〕この考案はストレツチフイルムによるトレー包装体に関するものである。」(1欄18〜20行)A「〔従来の技術〕現在,スーパーマーケツト等において,肉,魚等のトレー包装体として,ストレツチフイルムを,トレー上にオーバーラツプしたものが広く普及している。・・・基本的な包装方法は,トレー全体をフイルムで包み込み,特に,トレーの裏側においてフイルムを二重・三重に重ね合せてフイルムの自己粘着性を利用しながら,この重ね合せ部分でフイルムをシールするという方法である。」(1欄21行〜2欄5行)B「〔実施例〕第8図及び第9図は,本考案に係るトレー包装体の縦断面図を示すもので,15はトレー,19は被包装物,4はストレツチフイルムである。・・・ストレツチフイルム4は,トレー15の上面開口部をオーバーラツプして被覆し,かつ,トレー15の接着剤塗布面15cに周縁を接着剤18を介して接着し,さらに,この接着剤塗布面15cに近接した下側で全周に亘つて切断してある。 次に,上記形態の包装体を得るための包装方法としては,・・・即ち,詳細に実施例を示すと,ストレツチフイルムを一定温度(フイルム軟化温度)まで接触過熱する。これにより,包装室の室温に左右されることなく,常に最適状態の過熱がなされ,しかも,接触過熱であるから,フイルムの過熱時間が短時間で軟化温度となる。
・・・上記フイルム4はストレツチフイルムであるため,熱すると縦横方向に収縮する性質をもつている。・・・包装作業に当り,フイルム4をロール等から適当長さに切断してフイルム挟持枠6,7に挟持せしめ,加熱板1に密着させて加熱軟化させておく。そしてトレー15に被包装物19を盛付けして切断枠14に嵌め込み,載置台8上に載置する。(第1図参照)次にフイルム挟持枠6,7を下降させ,加熱軟化したフイルム4をトレー15上にオーバーラツプさせ,続いて吸気室11に吸気を発生せしめてフイルム4をトレー15の周囲及び切断枠14の周囲に密着させる。この場合,載置台8の周囲の枠体13の存在により,第2図に示す様に,フイルム4は外気から遮蔽され,各吸気孔9,17からの吸気作用で,フイルム4は第3図に示す様に密着する。特に,切断枠14の周囲の吸気孔17は,フイルム4がトレー15の外周面および切断枠14の外周面の抵抗線16に密着することを確実にする。 次に切断枠14の周囲の抵抗線16に通電し,フイルム4を熔断させる。
これにより,フイルム4はトレー15の周囲に沿つて切断される。」(3欄35行〜6欄25行)(エ)本件明細書の上記記載によれば,訂正考案における「ストレッチフイルム」は,肉,魚等のトレー包装体として,トレー上にオーバーラップして用いられるものであって,「熱すると縦と横方向に収縮する性質」を有し,「加熱により軟化する」性質を有するものであれば足りると認められる。そして,厚さが15μmという極めて薄いものであるため複雑な物の形どおり成形しようとすると破れてしまうという点や,可塑剤が約30%入っているため形決まりせず成形できない点については,本件明細書に記載がないから,訂正考案の「ストレッチフイルム」の意義を原告主張のとおり限定して解釈することはできない。
してみると,原告の上記アの主張は,本件明細書の記載に基づかないものであるといわざるを得ない。
「従来一般にミートトレイ(通称)等皿状容 ウまた,引用刊行物2(乙3)には器を用いたパック製品の包装作業は自動化したラインシステムで行われている。この作業は,容器に肉等被収納物が収納された後,予め適度の張り強度に微調整されて張られているフイルム下において容器を上昇させ,フイルム面を下から押上げて容器全体をフイルム内に包み込ませ,次いで下向コ状になつたフイルムを容器の下側において左右から交絞させて容器外周に張り付くように包着させ,その後で容器下側のフイルムの合わと記載されて さり部をシールして製品とするものである」(1頁下5行〜2頁6行)おり,上記イ(ア)の甲25辞典の記載に照らすと,引用刊行物2に記載された包装方法は,ストレッチフィルム包装であると認められるから,本件審「トレー包装体のフイルムとして,常温で延伸性のあるフイルム,すなわちストレ 決がと認定したことッチフイルムを用いることは例示するまでもなく周知の技術であり」に誤りはない。
してみると,乙2記載の考案において,熱可塑性樹脂フイルムに代えて,周知のストレッチフイルムを用いるようにすることは,当業者が適宜なし得る程度のことというべきである。
エ原告は,厚さや可塑剤含有率を変えたとすれば,ストレッチフイルムと「ストレッチフイルムは,厚さ,可塑剤の含有量とも はいえないから,本件審決が所望とする特性等に応じて適宜設定し得るものであり,また材料によっても特性が変わとした点が ることもよく知られているところであり」(9頁最終段落〜10頁第1段落)誤りであるとも主張する。
しかし,訂正考案のストレッチフイルムの厚さや可塑剤の含有量が,原告のいうように限定されたものであると解することができないことは上記イ(エ)のとおりであり,ストレッチフイルムには用途に応じて異なる厚さのものが存在することも上記イ(イ)のとおりである。
「ストレッチフイルムを加熱軟化させた状態で包装に用いるこ (2)原告は,本件審決がと認定した点が誤とは,引用刊行物3(乙4)にも開示されている」(9頁第4段落)りであると主張する。
ア 引用刊行物3(乙4)には,次の記載がある。
@「従来ストレッチフイルム等を使用して包装する包装機に於て各使用状況,特に夏,冬等温度,湿度等に差のある場合,又は使用する機械の設置された地域,場所等の差でフイルムに直射日光が当る場合等使用状況によりフイルムの状態が夫々変化してくるものである。少し具体的に実施例をもつてフイルム使用の場合を説明してみれば夏期又は春秋期の昼間に於ては一次包装時点即ちフイルムを熱着しない状態でフイルムの接着が充分であるが冬期又は春秋期の朝等に於てはフイルムの伸縮が悪るくフイルムのヤブレ,シワ等が生じ又フイルムの接着が不充分のため二次包装工程として,熱板を設け包装品の底部に当てフイルムを熱着させる為め相当の熱量を必要としなければならない。」(1頁左下欄下から8行〜右下欄第4行)A「本発明は上記の様に構成されているので常に熱が均一にフイルム(7)になる様にしてある為め即ち各パネルヒーター(4)の温度調整は使用状況時の外気により自由に調整出来るよう温度コントロールユニット(6)が作動するのでフイルムが常に安定した状態で使用可能であるから従来の如く使用場所の範囲,又は季節等に使用フイルムが限定されることなくフイルムは最も包装に適した包装し易い状況及び状態に置かれてあるため包装能率は上昇し,………。」(1頁右下欄下7行〜2頁左上欄2行)イ引用刊行物3(乙4)の上記記載によれば,引用刊行物3には,ストレッチフイルムで包装を行うに当たり,気温等の影響によらずフイルムの状態を一定とするために,加熱することによりフイルムを最も包装に適した状態とすることが開示されている。
したがって,引用刊行物1(乙2)記載の包装において,熱可塑性合成樹脂フィルムとしてストレッチフィルムを用いることとした場合,ストレッチフィルムを加熱軟化させて包装に適した状態とするようにすることは,当業者が容易になし得ることである。
ウこの点につき,原告は,引用刊行物3(乙4)に開示された技術は,ダンボール箱等をグルグル巻きに包装する技術であり,食品の包装を対象とする引用刊行物1記載の考案と組み合わせることはできないと主張する。
「冬期又は春秋期の朝等に於てはフイルムの伸縮が悪 しかし,引用刊行物3にはと記載るくフイルムのヤブレ,シワ等が生じ又フイルムの接着が不充分」(上記ア@)されており,食品を被包装物としてトレー及びストレッチフイルムで包装する場合においても同様の問題が発生するであろうことは,当業者にとって明らかであるというべきであるから,原告の主張は採用することができない。
エ原告は,ストレッチフイルムは常温で引っ張って伸ばして包装するフイルムであって,これを加熱軟化させた状態で包装に用いることは,当業者にとって全く想到し得ないことであったというが,引用刊行物3(乙4)の上記アAの記載によれば,ストレッチフィルム包装において,ストレッチフイルムを加熱して用いることが開示されているから,原告の主張は理由がない。
(3) 以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由3は理由がない。
8 結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉
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