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事件 平成 15年 (ワ) 2893号 特許権侵害等差止請求事件
原告 津根精機株式会社
訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 冨來 真一郎
同 柴田昭久
同 松川雅典
訴訟代理人弁理士 藤川忠司
被告 西島株式会社
訴訟代理人弁護士 山田克巳
同 山田勝重
同 山田博重
補佐人弁理士 山田智重
同 辻實
同 竹山宏明
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/03/14
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、原告に対し、金1046万円及びこれに対する平成15年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを30分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙被告物件Tの目録(原告)、同Uの目録(原告)各記載の丸鋸切断機を製造し、販売し、販売の申出をし、又は販売のために展示をしてはならない。
2 被告は、前項記載の丸鋸切断機を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金3億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、被告が業として製造販売しているストッカー(長尺ワークのローディング装置)付丸鋸切断機について、@原告の有する実用新案権を侵害することを理由とする損害賠償(8億1000万円の内金3億円)及び遅延損害金請求、A原告の有する特許権を侵害することを理由とする差止、廃棄及び前同額の損害賠償及び遅延損害金請求をする訴訟である。
1 基礎となる事実(特に争いがある旨記載していないものは、争いのない事実である。) (1) 原告の実用新案権 原告は下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
(1-1)本件実用新案権の登録番号等は次のとおりである。
実用新案登録番号 第2134521号 考案の名称 長尺ワークのローディング装置 出願日 昭和63年(1988)12月26日 出願番号 実願昭63-168074号 公告日 平成7年(1995)12月25日 公告番号 実公平7-56256号 登録日 平成8年(1996)9月10日 (1-2)本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲請求項1】 外周円形の長尺ワークをその軸心方向に移動可能に支承する複数の水平ローラー2を備えたワーク移送部1と、この移送部1の片側より外方へ斜め上向きに張出して前記ワークの複数本を並列状態で転動可能に支持する複数本の傾斜搬入レール4と、該レール4の長さ方向に移動可能であって該レール上で支持される先頭のワークを受け止める可動ストッパー6と、この可動ストッパー6の移動および定位置ロック操作手段7,8と、前記レール4上の先頭のワークを持ち上げて移送部1の前記水平ローラー2上へ移載する傾斜支持面12を有する上下出退自在なワーク移載具3と、移送部1の前記レール4設置側に取付けられて水平ローラー2上のワークの片側を基準位置に位置決めする固定位置決め部材15と、この固定位置決め部材15に対して遠近方向に移動可能に設置されて前記水平ローラー2上のワークを前記固定位置決め部材15の反対側で位置決めする可動位置決め部材18とを備え、且つ該可動位置決め部材18と前記可動ストッパー6とが平面視同方向へ連動するように連結されてなる長尺ワークのローディング装置。
(1-3)本件考案を構成要件に分説すると、次のとおりとなる。
〔1A〕外周円形の長尺ワークをその軸心方向に移動可能に支承する複数の水平ローラー2を備えたワーク移送部1と、
〔1B〕この移送部1の片側より外方へ斜め上向きに張出して前記ワークの複数本を並列状態で転動可能に支持する複数本の傾斜搬入レール4と、
〔1C〕該レール4の長さ方向に移動可能であって該レール上で支持される先頭のワークを受け止める可動ストッパー6と、
〔1D〕この可動ストッパー6の移動および定位置ロック操作手段7,8と 〔1E〕前記レール4上の先頭のワークを持ち上げて移送部1の前記水平ローラー2上へ移載する傾斜支持面12を有する上下出退自在なワーク移載具3と、
〔1F〕移送部1の前記レール4設置側に取付けられて水平ローラー2上のワークの片側を基準位置に位置決めする固定位置決め部材15と、
〔1G〕この固定位置決め部材15に対して遠近方向に移動可能に設置されて前記水平ローラー2上のワークを前記固定位置決め部材15の反対側で位置決めする可動位置決め部材18とを備え、
〔1H〕且つ該可動位置決め部材18と前記可動ストッパー6とが平面視同方向へ連動するように連結されてなる 〔1I〕長尺ワークのローディング装置。
(1-4)本件考案の作用効果は次のとおりである。
本件考案の長尺ワークのローディング装置によれば、取り扱うワークの径が変化しても、ワーク搬入レール上で並列状態に待機しているワークを、1本ずつ確実に落下衝撃を伴うことなく、移送部の水平ローラー上へ自動的に位置決めされた状態で移載することができ、しかも1つの移動操作手段によって可動ストッパーと可動位置決め部材が同時に位置調整されるため、取り扱うワークの直径が変わった場合の調整作業を簡単且つ正確、能率的に行うことができる。
(2) 原告の特許権 原告は下記の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有している。
(2-1) 本件特許権の特許番号等は次のとおりである。
特許番号 第3043616号 発明の名称 長尺ワークのローディング装置 出願日 平成8年(1996)6月17日 出願番号 特願平8-155816号 公開日 平成10年(1998)1月13日 公開番号 特開平10-6169号 登録日 平成12年(2000)3月10日 (2-2)本件特許権の特許請求の範囲は次のとおりである。
請求項1】 断面円形の長尺ワークを長さ方向移動可能に支持する複数の水平ローラーを備えたワーク移送部と、移送部の片側より外方へ斜め上向きに張出して複数本のワークを並列状態で転動可能に支持する複数本の傾斜搬入レールと、このレールの長さ方向に移動可能で該レール上で支持される先頭のワークを受け止める可動ストッパーと、可動ストッパーの移動および定位置ロック操作手段と、前記レール上の先頭のワークを持ち上げて移送部の水平ローラー上へ移載するワーク移載具と、移送部の前記レール設置側に設けられて水平ローラーのワークの片側を基準位置に位置決めする固定位置決め部材と、固定位置決め部材に対して遠近方向に移動可能に設けれて水平ローラー上のワークを固定位置決め部材の反対側で位置決めする可動位置決め部材とからなるローディング装置であって、ワーク移載具は、その上端にワーク移載用の傾斜支持面を形成し、前記レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下出退可能に構成され、前記可動ストッパーと前記可動位置決め部材とは一体に連設されていることを特徴とする長尺ワークのローディング装置。
請求項2】 前記ワーク移載具は、傾斜支持面の下手側端部を揺動中心として傾斜搬入レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って揺動するようにして上下出退可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の長尺ワークのローディング装置。
請求項3】 前記ワーク移載具は、傾斜搬入レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下垂直方向に昇降するようにして上下出退可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の長尺ワークのローディング装置。
請求項4】 前記可動ストッパーと前記可動位置決め部材とは、傾斜搬入レールの側面に沿ってその長さ方向スライド可能に配設される横長プレートの長さ方向中間部と下手側端部とにそれぞれ上向きに一体に突出形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の長尺ワークのローディング装置。
(2-3) 本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりとなる。
(2-3-1)請求項1の構成要件 〔2A〕断面円形の長尺ワークを長さ方向移動可能に支持する複数の水平ローラーを備えたワーク移送部と、
〔2B〕移送部の片側より外方へ斜め上向きに張出して複数本のワークを並列状態で転動可能に支持する複数本の傾斜搬入レールと、
〔2C〕このレールの長さ方向に移動可能で該レール上で支持される先頭のワークを受け止める可動ストッパーと、
〔2D〕可動ストッパーの移動および定位置ロック操作手段と、
〔2E〕前記レール上の先頭のワークを持ち上げて移送部の水平ローラー上へ移載するワーク移載具と、
〔2F〕移送部の前記レール設置側に設けられて水平ローラーのワークの片側を基準位置に位置決めする固定位置決め部材と、
〔2G〕固定位置決め部材に対して遠近方向に移動可能に設けれて水平ローラー上のワークを固定位置決め部材の反対側で位置決めする可動位置決め部材とからなるローディング装置であって、
〔2H〕ワーク移載具は、その上端にワーク移載用の傾斜支持面を形成し、
前記レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下出退可能に構成され、
〔2I〕前記可動ストッパーと前記可動位置決め部材とは一体に連設されていることを特徴とする 〔2J〕長尺ワークのローディング装置。
(2-3-2)請求項2の構成要件 〔2K〕前記ワーク移載具は、傾斜支持面の下手側端部を揺動中心として傾斜搬入レール上で支持されるワークの長手方向と直交する垂直面に沿って揺動するようにして上下出退可能に構成されていることを特徴とする 〔2L〕請求項1に記載の長尺ワークのローディング装置。
(2-3-3)請求項3の構成要件 〔2M〕前記ワーク移載具は、傾斜搬入レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下垂直方向に昇降するようにして上下出退可能に構成されていることを特徴とする 〔2N〕請求項1に記載の長尺ワークのローディング装置。
(2-3-4)請求項4の構成要件 〔2O〕前記可動ストッパーと前記可動位置決め部材とは、傾斜搬入レールの側面に沿ってその長さ方向スライド可能に配設される横長プレートの長さ方向中間部と下手側端部とにそれぞれ上向きに一体に突出形成されていることを特徴とする 〔2P〕請求項1〜3の何れかに記載の長尺ワークのローディング装置。
(3) 被告物件 被告は、ストッカー付きの丸鋸切断機を業として製造販売している。
ただし、当該丸鋸切断機をどのように表現するかについては争いがあり、
原告は、別紙「被告物件Tの目録(原告)」「被告物件Uの目録(原告)」のとおり表現し、被告は、「被告物件目録T(被告)」「被告物件目録U(被告)」のとおり表現する。「被告物件Tの目録(原告)」と「被告物件目録T(被告)」は同じ物である(以下「被告物件T」という。ただし、被告は、「被告物件Tの目録(原告)」の目録図5のバリエーションとして記載された操作レバー21aについて、ユーザ自ら被告と関係なく取り付けているところであり、被告において関知するものではないと主張する。)。また、「被告物件Uの目録(原告)」と「被告物件目録U(被告)」も同じ物である(以下「被告物件U」という。)。
(4) 被告物件T、Uにおける本件考案の構成要件の一部充足性 被告物件T、Uは、いずれも本件考案の構成要件1Aないし1C、1F、
1G、1Iを充足する。
(5) 被告物件T、Uにおける本件発明の構成要件の一部充足性(本件発明のうち請求項1に係る発明関係) 被告物件T、Uは、本件発明の構成要件2Aないし2C、2E〜2G、2Jを充足する。
(6) 被告物件T、Uにおける本件発明の構成要件の一部充足性(本件発明のうち請求項2、3に係る発明関係) 被告物件Tは、本件発明の構成要件2K、2Mを充足する。
2 争点 (1) 被告物件Tは、本件考案の構成要件1D、1E、1Hを充足しているか、
構成要件1Dと均等か。
(2) 被告物件Uは、本件考案の構成要件1D、1E、1Hを充足しているか。
(3) 被告物件Tは、本件発明の構成要件2D、2H、2Iを充足しているか。
(4) 被告物件Uは、本件発明の構成要件2D、2H、2Iを充足しているか。
(5) 被告物件T、Uは、本件発明の構成要件2Oを充足しているか。
(6) 本件特許権について明白な無効理由の有無 (7) 原告の損害
争点についての当事者の主張
(被告物件T、Uに関しては、原告の主張は、被告物件T、Uの目録(原告)の名称及び符号を記載し、被告の主張は、最初に被告物件目録T、U(被告)の名称及び符号を記載し、別称を付することがある。) 1 争点(1)(被告物件Tの、本件考案の構成要件1D、1E、1H充足性、ないし構成要件1Dとの均等) (1) 構成要件1Dについて (原告の主張) ア 構成要件充足性 (ア) 構成要件1Dは、傾斜搬入レール上の先頭ワーク位置若しくは移載開始位置を変える作業と移送部上のワークに対する位置決めを径に応じて調整する作業を別々に行うことなく、まとめて簡単に行うことができるような「移動および定位置ロック操作手段」であれば足りる。
その理由は、以下のとおりである。
@ 本件考案の実用新案登録請求の範囲は、「可動ストッパーの移動および定位置ロック操作手段」と記載しているのみであり、特段その具体的構成について限定していない。また、考案の詳細な説明欄においても、特段その具体的構成を限定している個所はなく、実施例に限定する記載もない。よって、「可動ストッパーの移動および定位置ロック操作手段」としての役割を果たすものである限り、
幅広く構成要件1Dに含まれるべきである。
A 本件考案は、ある直径のワークから別の直径のワークに変更する場合、傾斜搬入レール上の先頭のワーク移載開始位置移動量と移送部上のワークに対する位置決め調整に必要な移動量が等しいことに着目し、傾斜搬入レール上で先頭ワークを受け止める可動ストッパーの移動量と移送部上でワークの径に応じて位置決めする可動位置決め部材の移動量が常に等しくなるように両者を連動するように連結したもので、こうすることにより作業を別々に行うことなく、まとめて簡単に行うことができるようにしたものである。このように、本件考案の本質的な部分は「可動ストッパーと可動位置決め部材とを連動するように連結した」ことであり、
「移動および定位置ロック操作手段」自体は本質的部分から外れる。構成要件該当性の判断に当たっては本件考案の本質的特徴に沿った解釈をすべきである。
(イ) 被告物件Tにおいて、ハンドル付きスクリュー軸70の操作方法としては、次の2つの例が考えられ、いずれの例でも、被告物件Tは「移動および定位置ロック操作手段」を備えているといえる。しかし、「移動および定位置ロック操作手段」としての役割は、この例のどちらか一方にでも認められれば、構成要件該当性としてはそれで足りる。
@ ハンドル付きスクリュー軸70の操作方法(その1) ハンドル付きスクリュー軸70をそのハンドル操作によって、突出し方向に回転させて可動ストッパーを上方に移動させ、ハンドル付きスクリュー軸70の先端面が、所望の設置位置にあったときロックレバーを締め付けてハンドル付きスクリュー軸70を不動状態とし、補助的にガイドピン兼用ボルト21をスパナあるいは操作レバー21aで締付けロックする方法。
この操作では、ハンドル付きスクリュー軸70は、本件考案における可動ストッパー(可動ストッパー部)6の移動操作手段7に相当し、ロックレバー71と、ガイドピン兼用ボルト21、あるいは操作レバー21aは本件考案における可動ストッパー(可動ストッパー部)6の定位置ロック操作手段8に相当する。
A ハンドル付きスクリュー軸70の操作方法(その2) ハンドル付きスクリュー軸70の先端面を所望の設定位置に予め合わせ、この状態でロックレバー71を締め付けてハンドル付きスクリュー軸70を不動状態とし、しかる後、可動位置決め部材(可動位置決め部)18の下端面がハンドル付きスクリュー軸70の先端面に当接するまで、可動ストッパー(可動ストッパー部)6を手動で下位側に移動させ、補助的にその当接した定位置で可動ストッパー(可動ストッパー部)6を長孔19に沿ってガイドするガイドピン兼用ボルト21をスパナあるいは操作レバー21aで締付ロックする方法。
この操作でも、ハンドル付きスクリュー軸70は、本件考案における可動ストッパー(可動ストッパー部)6の移動操作手段7に相当し、ロックレバー71と、ガイドピン兼用ボルト21あるいは操作レバー21aは本件考案における可動ストッパー(可動ストッパー部)6の定位置ロック操作手段8に相当する。
イ 被告物件Tのうち、別紙「被告物件Tの目録(原告)」図5の操作レバー21aのない製品(以下「イ号物件」という。)と、構成要件1Dとは、次の理由により均等物である。
(ア) 本件考案の本質的な部分は「可動ストッパーと可動位置決め部材を連動するように連結したこと」であり、「移動および定位置ロック操作手段」自体は本質的部分から外れる。
(イ) 本件考案の目的は、従来技術において、取り扱うワーク径がロットによって異なる場合、この径に応じて、@傾斜搬入レール上の先頭ワーク位置もしくは移載開始位置を変えると共に、A移送部上のワークに対する位置決めを径に応じて調整する作業が必要であったところ、本件考案では、前記@Aの作業を別々に行うことなく、まとめて簡単に行うことができるようにしたことが、本件考案の目的である。このような目的は、イ号物件においても達成され、同一の作用効果を生じているから、本件考案の構成要件1Dを被告物件Tのものと置き換えても本件考案の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものである。
(ウ) 被告物件Tにおける可動ストッパーの移動及び定位置ロック操作機構は極めて単純化されたものとなっており、当業者がイ号物件の製造時の時点で容易に想到することができたことは明らかである。
(エ) イ号物件は本件考案の本質的特徴(前記)を備えている以上、出願時における公知技術と同一又は当業者がこれらから出願時に容易に推考できたものではない。
(オ) イ号物件が、出願手続において実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。
(被告の主張) ア 構成要件充足性について (ア) 構成要件1Dの「この可動ストッパー6の移動および定位置ロック操作手段7,8と」の文理上の意味は、文字通り可動ストッパー6の移動と定位置ロックを同時に行うことができるという意味である。構成要件1Dの意味はさらに限定されて複数本の傾斜搬入レールにそれぞれ備えられる各可動ストッパー6の移動および定位置ロックを一つの操作手段により、同時に調整することの意味である。
(イ) 被告物件Tには、プレート体1(判決注・別紙「被告物件Tの目録(原告)」の横長プレート(プレート体)20に相当する。以下「横長プレート(プレート体)20」という。)の移動が各傾斜搬入レール2(判決注・別紙「被告物件Tの目録(原告)」の傾斜搬入レール4に相当する。以下「傾斜搬入レール4」という。)ごとに実施されるのであって、各横長プレート(プレート体)20を同時に移動操作する構成がそもそも存在しない。
(ウ) 被告物件Tには、一つの操作手段により横長プレート(プレート体)20の移動と定位置ロックを同時に行うことができる構成が存在しない。
(エ) 構成要件1Dは文意不明であるため、構成要件の一部と見ることは困難である。
イ イ号物件に関する均等の主張について そもそも、イ号物件は、本件考案本質的部分である構成要件1Hを充足していないから、本件考案均等となる余地がない。
(2) 構成要件1Eについて (原告の主張) ア ワーク移載具3の傾斜支持面12とは、ワーク移載具3が上動したときにその移載具上面が傾斜支持面12を形成し、その支持面12の傾斜を利用してワークWが水平ローラ11上へ転動移動される役割のものである。被告物件Tのワーク移載具3の傾斜支持面(ワーク転動面)12も、これと全く同じ役割を果たすから、傾斜支持面(ワーク転動面)12は本件考案の傾斜支持面12に相当する。
イ 被告は、本件考案における「傾斜支持面」の意味を「V字状」およびこれに類する形状のものに限定する趣旨の主張をする。しかし、本件考案における実用新案登録請求の範囲の記載は単に「傾斜支持面」と記載するのみで、かかる限定は一切行っていない。のみならず、考案の詳細な説明欄では「可動ローラー18を高くして転動ストッパーの機能を担わせることによって傾斜支持面12全体を直線傾斜面としてもよい」と明記されている。被告物件Tの構成はまさしくこれに当たる。
ウ 本件考案は、「可動ストッパーの移動量と可動位置決め部材の移動量を常に等しくして両者の移動操作を一緒にさせる」というのが中核をなす技術思想であり、本件発明は「ワークの位置ずれ解消」というのが中核をなす技術思想であって、両者は全く異なるから、ダブルパテントには該当しない。
エ 被告は、本件考案が「方法の考案」であると主張するが、そのような解釈は独自のものであり、理由がない。
(被告の主張) ア 被告物件Tのワーク移載具7(判決注・別紙「被告物件Tの目録(原告)」のワーク移載具3に相当する。以下「ワーク移載具3」という。)においては、本件考案実施例等で説明されるようなV字、その他の形状からなる「傾斜支持面12」は一切備えておらず、ワーク転動面7a(判決注・別紙「被告物件Tの目録(原告)」の傾斜支持面(ワーク転動面)12に相当する。以下「傾斜支持面(ワーク転動面)12」という。)をワーク移載具3の揺動により形成しているにすぎない。したがって、被告物件Tでは、ワーク移載具3において構成要件1Eの「傾斜支持面12」が存在しない。
イ 構成要件1Eの「傾斜支持面12を有する」の意味は、傾斜搬入レール2に対する上動位置においても下動位置においても、傾斜角度において何ら変化のない「傾斜支持面12を有する」もの、すなわちワーク移載具が回転せず、上下方向にのみ出退できるものと解釈されるべきである。
なぜなら、
(ア) 本件発明の構成要件2Hは、「ワーク移載具は、その上端にワーク移載用の傾斜支持面を形成し、…」であり、本件発明の明細書では、実施例として、被告物件Tにおけるワーク移載具と同様に、シリンダ装置のシリンダロッドの進退駆動により、ピン結合部を中心に上下に揺動され、上動端と下動端の間を往復動する構造のワーク移載具を掲げている。同明細書では、原告は本件考案実施例にあるような上端縁がY形を成す傾斜支持面を備えたワーク移載具を従来例として挙げ、従来例にあるような固定的傾斜角度からなる傾斜支持面を備えたワーク移載具は「押し上げ時にワークを押し上げるように作用するため、その押し上げ時にワークが、当該ワーク移載具の傾斜支持面との摩擦力によってワーク移送方向に揺動されることとなり、これがためにワーク移送部に移載されたワークの先端が位置ずれし、切断装置による定寸切断に狂いが生じるという問題」という不具合が存在するため、その不具合に基づき上記傾斜支持面を経時的に形成(すなわち揺動により形成する)する構成要件2Hを含む発明を完成するに至ったことについて述べている。構成要件2Hでは、こうした固定的傾斜角度からなる『傾斜支持面を有するワーク移載具』の構成を文理上排除するため、「ワーク移載具は、その上端にワーク移載用の傾斜支持面を形成し、…」のように記述したことが窺える。このことからすれば、本件発明の従来例として挙げられた構成要件1Eの「傾斜支持面12を有する」の意味は、当然傾斜搬入レールに対する上動位置においても、また下動位置においても、傾斜角度が何ら変化のないものに限定解釈されるべきである。
(イ) 仮に、本件考案について、被告物件Tのワーク移載具3のように上動位置と下動位置との間で傾斜角度が変化するものを含むべき旨の解釈を行うのであれば、上記(ア)の本件発明の構成要件2Hからみて、本件考案と本件発明は同じであり、ダブルパテントになる。
(ウ) 実用新案法上保護されるべき考案は、物品性を備えなければならず、経時的要素を含む「方法の考案」は認められない。ところが、原告の主張によれば、経時的に傾斜支持面12を形成するワーク移載具についても、構成要件1Eが予定している権利範囲であるということになる。原告の主張は、「方法の考案」を保護対象とすべきとする旨の主張である。
ウ そして、被告物件Tにおけるワーク移載具3の傾斜支持面(ワーク転動面)12は、これに該当しないことは明白である。
(3) 構成要件1Hについて (原告の主張) ア 構成要件1Hの「可動位置決め部材18と可動ストッパー6とが平面視同方向へ連動するように連結されてなる」とは、可動位置決め部材18と可動ストッパー6とを同時に平面視同方向に移動調整される構成を説明したものである。可動位置決め部材18と可動ストッパー6とが一体のものを除外するものではない。
本件考案明細書考案の詳細な説明の欄には「可動ストッパーと可動位置決め部材とを一体化することも可能である」と明記されているところである。
イ 被告物件Tは、「可動位置決め部材(可動位置決め部)18と可動ストッパー(可動ストッパー部)6とが平面視同方向へ連動するように連結されてなる構成で、同時に平面視同方向に移動調整される構成となっている。したがって、被告物件Tは、構成要件1Hを充足する。
ウ 被告主張に係るCK3ローディング装置には、構成要件1G、1Hが存在しない。同装置の「幅寄部材」は、水平ローラー上に蹴り出されたワークを固定位置決め部材側に幅寄せ駆動するものであつて、本件考案の可動位置決め部材ではない。しかも、これは独自に幅寄せ駆動するもので、可動ストッパーとは連動していない。また、同装置における「蹴り出し装置に連動しているローラートラック上の幅寄せ装置」とは、アクチュエーターによって角バーが直動する途上で、まず蹴り出し装置が作動し、これに連続して、該角バーによって幅寄部材が作動するようになっていることを説明しているにすぎない。
(被告の主張) ア 構成要件1Hは、「可動位置決め部材18と前記可動ストッパー6とが平面視同方向に『連動』するように『連結』されてなる」である。広辞苑では、
「連動」とは「機械などで、一部分を動かすことによって他の部分も統一的に動くこと」、「連結する」とは「つらねむすぶこと或いはむすびあわせること」とされ、特許技術用語集でも「連動」は「関連して動くこと。ある部材が動くと、他の部材がいっしょに動作すること」、「連結」は「2つの部材を結ぶこと」と定義されている。したがって、構成要件1Hは、可動位置決め部材と可動ストッパーの2つのものを連ねむすび、一方を動かすことによって他の部分も統一的に動かそうとする、と解釈するべきである。これに対して、被告物件Tにおいては、可動位置決め部材、可動ストッパーという「連動」、「連結」するパーツ自体が存在せず、強いて言うならば可動ストッパー部、可動位置決め部を備えた一枚の横長プレート(プレート体)20が存在するだけである。
原告は、本件発明の構成要件2Iに存在する「可動ストッパーと前記可動位置決め部材とは一体に連設されている」中の連設の部分においても、被告物件の横長プレート(プレート体)20を含むと主張している。そうすると、構成要件1Hと2Iが実質的に同じ内容のものということになり、本件考案と本件発明はダブルパテントされたことになって、不合理である。
イ 原告が、本件考案の出願前に公表していたCK3ローディング装置は、
構成要件1Aないし1G及び1Iを備え、更に「幅寄部材」と「蹴り出し装置」を連動させることで、「供給する材料の外径寸法に応じて蹴り出し装置の位置決めと、蹴り出し装置に連動しているローラートラック上の巾寄せ装置の操作がレバーによるワンタッチで同時に行えますので、多種類の亘る少数ロットの自動切断におけるセッティングはきわめて容易です。」という作用効果を実現している。本件考案の構成要件1Hは、この連結対象の「蹴り出し装置」を「可動ストッパー」に置き換えたものにすぎない。しかも「可動ストッパー」についても、従来の原告CK3ローディング装置に存在している。このことから、構成要件1Hは、既に従来品に係るストッカーにおいて存在した「可動位置決め装置」と「可動ストッパー」という2つの部材を、文字通り「連結」させた、という技術的範囲のものに限定されるべきである。すなわち、一枚のプレート体のものは含まないと解すべきである。
ウ 株式会社Bは、丸鋸切断機(超硬)シンカットマスターNCS-2/360を昭和63年8月頃に発売開始していたが、同切断機のストッカーには、可動位置決め部並びに可動ストッパー部をそれぞれ上方に突出形成した一枚のプレート体を備えていた。したがって、構成要件1Hは、このような一枚物のプレート体からなる製品には拡張的に及ぼすべきではない。
2 争点(2)(被告物件Uの、本件考案の構成要件1D、1E、1H充足性) (1) 構成要件1Dについて (原告の主張) ア 被告物件Uでは、操作ハンドル42の回転操作により、スクリュー軸39におけるナット部材38の螺合位置が変化し、これに伴う揺動レバー36の前後揺動によって横長プレート20すなわち可動ストッパー(可動ストッパー部)6が長孔19の範囲で移動する。したがって、操作ハンドル42は可動ストッパー(可動ストッパー部)6の移動操作手段7を構成する。
イ 操作ハンドル42の回転を停止させることによって、揺動レバー36側から負荷を受けるナット部38によってスクリュー軸39を回転することは不可能であるから、その位置でロックさることになり、可動ストッパー(可動ストッパー部)6にワークWの重量負荷を受けても可動ストッパー(可動ストッパー部)6が変位することがない。したがって、操作ハンドル42は可動ストッパー(可動ストッパー部)6の定位置ロック操作手段8をも構成する。
(被告の主張) ア 被告物件Uでは、プレート体21(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」の横長プレート(プレート体)20に相当する。以下「横長プレート(プレート体)20」という。)を移動する手段としてのスクリューシャフト28(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」のスクリュー軸39に相当する。以下「スクリュー軸39」という。)及び操作ハンドル27(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」の操作ハンドル42に相当する。)が存在するものの、これを定位置にロックする手段を備えていないから、定位置ロック操作手段がない。
イ 原告は、スクリュー軸とナットの噛合状態をもってロック操作と主張するが、それでは、世に存在するボルトとナットの結合、雄ねじと雌ねじの結合もすべてロック操作ということになる。原告の主張は、機械工学、機械要素学の常識からかけ離れている。
(2) 構成要件1Eについて (原告の主張) 被告は、本件考案の「傾斜支持面」の意味を「V字状」及びこれに類する形状のものに限定する趣旨の主張をする。しかし、本件考案における実用新案登録請求の範囲の記載は単に「傾斜支持面」と記載するのみで、かかる限定は一切ない。のみならず、考案の詳細な説明の項では「可動ローラー18を高くして転動ストッパーの機能を担わせることによって傾斜支持面12全体を直線傾斜面としてもよい」と明記されている。被告物件Uの構成はまさしくこれに当たる。
機能からみても、ワーク移載具3上のワークWが水平ローラ11上へ転動して移動されるのは、傾斜支持面(ワーク転動面)12が傾斜支持面となるからである。上記ワーク転動面12も、本件考案のワーク移載具3の傾斜支持面12と全く同じ機能を果たすから、該転動面12は本件考案の傾斜支持面12に相当する。
(被告の主張) 前記1(2)(被告の主張)のとおり、構成要件1Eの「傾斜支持面12を有する」の意味は、傾斜搬入レール2に対する上動位置においても下動位置においても、傾斜角度において何ら変化のない「傾斜支持面12を有する」と解釈されるべきである。
被告物件Uにおけるワーク移載具30(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」のワーク移載具3に相当する。以下「ワーク移載具3」という。)は上下Y方向に駆動するクランク32(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」のリンク軸45に相当する。以下「リンク軸45」という。)により、ガイドピン24a(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」のガイドピン33に相当する。
以下「ガイドピン33」という。)を中心に上下揺動される揺動片からなり、上動端と下動端の間を往復動する構造とされる。この間ワーク転動面の傾斜搬入レール22(判決注・別紙「被告物件Uの目録(原告)」の傾斜搬入レール4に相当する。以下「傾斜搬入レール4」という。)に対する傾斜角度は、常時一定のものとはされず変化する状態にある。したがって、被告物件Uには「傾斜支持面12」が存在しない。
(3) 構成要件1Hについて (原告の主張) 前記1(3)(原告の主張)のとおり、構成要件1Hの「可動位置決め部材18と可動ストッパー6とが平面視同方向へ連動するように連結されてなる」とは、
可動位置決め部材18と可動ストッパー6とを同時に平面視同方向に移動調整される構成を説明したものであって、可動位置決め部材18と可動ストッパー6とが一体のものを除外するものではない。
被告物件Uは、可動位置決め部材(可動位置決め部)18と可動ストッパー(可動ストッパー部)6とが平面視同方向へ連動するように連結されてなる構成で、同時に平面視同方向に移動調整される構成となっている。したがって、被告物件Uは、構成要件1Hを充足する。
(被告の主張) 前記1(3)(被告の主張)のとおり、構成要件1Hは、「可動位置決め部材18と前記可動ストッパー6とが平面視同方向に『連動』するように『連結』されてなる」である。これに対して、被告物件Uにおいては、可動位置決め部材(可動位置決め部)18と可動ストッパー(可動ストッパー部)6が一枚の横長プレート(プレート体)20において存在するのであって、可動位置決め部材、可動ストッパーという独立した部材は存在しない。
3 争点(3)(被告物件Tは、本件発明の構成要件2D、2H、2Iを充足しているか)について (1) 構成要件2Dについて (原告の主張) 本件考案の構成要件1Dと同じく、構成要件2Dも、作業を別々に行うことなく、まとめて簡単に行うことができるような「移動および定位置ロック操作手段」であれば足りる。
被告物件Tのハンドル付きスクリュー軸70は、本件発明における可動ストッパー6の移動操作手段7に相当し、ロックレバー71と、ガイドピン兼用ボルト21、あるいは操作レバー21aは本件発明における可動ストッパー6の定位置ロック操作手段8に相当することは、本件考案構成要件充足性(前記1(1)(原告の主張))において主張したとおりである。
(被告の主張) 本件考案の構成要件1Dと同じく、構成要件2Dの「可動ストッパーの移動および定位置ロック操作手段と」の意味は、可動ストッパー6の移動と定位置ロックを同時に行うことができる、複数本の傾斜搬入レールにそれぞれ備えられる各可動ストッパーの移動および定位置ロックを一つの操作手段により同時に調整する、ということである。
被告物件Tには、各横長プレート(プレート体)20を同時に移動操作する構成がそもそも存在しないこと、一つの操作手段により横長プレート(プレート体)20の移動と定位置ロックを同時に行うことができる構成が存在しないことは、本件考案構成要件充足性(前記1(1)(被告の主張))において主張したとおりである。
(2) 構成要件2Hについて (原告の主張) 構成要件2Hは、願書添付図面の図4に示すように枢軸11を中心にワーク移載具3がワークの長さ方向に直交する垂直面に沿って上下出退可能に揺動する構成(請求項2)と、同図6に示すようにワーク移載具3がワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下出退可能に上下垂直方向に昇降する構成(請求項3)の両実施形態を含むものである。
被告物件Tのワーク移載具3は、傾斜支持面12の下手側端部を揺動中心として傾斜搬入レール4上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って揺動するようにして上下出退可能に構成されているから、本件考案のワーク移載具に相当する。
(被告の主張) 原告の主張は、拡張解釈である。被告物件Tのワーク移載具3は、本件発明の実施例等で説明されるような「ワークWの長さ方向と直交する垂直面(鉛直面)に沿って上方突出位置へ上動させるもの」ではなく、ワーク転動面12をワーク移載具3の揺動により形成しているにすぎない。したがって、被告物件Tに構成要件2Hは存在しない。
(3) 構成要件2Iについて (原告の主張) 被告物件Tの可動ストッパー(可動ストッパー部)6は本件発明の可動ストッパーに、可動位置決め部材(可動位置決め部)18は本件発明の可動位置決め部材にそれぞれ相当する。
本件発明の明細書には、一枚の横長プレート20にその長さ方向中間部から上向きに可動ストッパー6が一体に突出して形成され、横長プレート20の下手側端部に可動位置決め部材24が上向きに一体突出して形成されていることが明瞭に記載されている。したがって、構成要件2Iは、被告物件Tのように可動ストッパー(可動ストッパー部)6と可動位置決め部材(可動位置決め部)12が一枚の横長プレート(プレート体)20によって形成された構成を含むものである。
(被告の主張) 「一体に連接」とは、例えば、本件発明の明細書実施例等に示されるように横長プレート20等の他の部材を介して、独立部材としての可動位置決め部材並びに可動ストッパーが一体に連設されていることを意味するものである。
被告物件Tにおいては、可動ストッパー(可動ストッパー部)6と可動ストッパー部材(可動位置決め部)12が一枚の横長プレート(プレート体)20において存在し、独立した部材はそもそも存在しない。したがって、「一体に連設」されているという要件が全く存在しない。
4 争点(4)(被告物件Uは、本件発明の構成要件2D、2H、2Iを充足しているか) (1) 構成要件2Dについて (原告の主張) 被告物件Uが、移動操作手段及びロック手段を備えることは、前記2(1)(原告の主張)で説明したとおりである。
(被告の主張) 被告物件Uに、可動ストッパーという部材自体が存在しないこと、定位置ロック操作手段がないことは、前記2(1)(被告の主張)で説明したとおりである。
(2) 構成要件2Hについて (原告の主張) 構成要件2Hは、願書添付図面の図4に示すように枢軸11を中心にワーク移載具3がワークの長さ方向に直交する垂直面に沿って上下出退可能に揺動する構成(請求項2)と、同図6に示すようにワーク移載具3がワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下出退可能に上下垂直方向に昇降する構成(請求項3)の両実施形態を含むものであることは、前記3(2)(原告の主張)で説明したとおりである。
被告物件Uのワーク移載具3は、本件発明のワーク移載具に相当する。
(被告の主張) 原告の主張は、拡張解釈である。被告物件Uのワーク移載具3は、本件発明の実施例等で説明されるような「ワークWの長さ方向と直交する垂直面(鉛直面)に沿って上方突出位置へ上動させるもの」ではなく、ワーク転動面12をワーク移載具3の揺動により形成しているにすぎない。したがって、被告物件Uに構成要件2Hは存在しない。
(3) 構成要件2Iについて (原告の主張) 被告物件Uの可動ストッパー(可動ストッパー部)6は本件発明の可動ストッパーに、可動位置決め部材(可動位置決め部)18は本件発明の可動位置決め部材にそれぞれ相当する。
構成要件2Iが、可動ストッパーと可動位置決め部材が一枚の横長プレート(プレート体)20によって形成された構成を含むものであることは、前記3(3)(原告の主張)で説明したとおりである。
(被告の主張) 被告物件Uにおいては、可動ストッパー部6と可動位置決め部18が一枚の横長プレート(プレート体)20において存在し、独立した部材はそもそも存在しない。したがって、「一体に連設」されているという要件が全く存在しない。
5 争点(5)(被告物件T、Uは、本件発明の構成要件2Oを充足しているか) (原告の主張) 被告物件T、Uでは、可動ストッパー(可動ストッパー部)6は横長プレート20の長さ方向の端部よりに突出形成されているが、この範囲であれば、構成要件2Oの「横長プレートの長さ方向中間部」に相当する。したがって、被告物件T、Uは、構成要件2Oを充足している。
(被告の主張) 被告物件T、Uが構成要件2Oを充足していることは否認する。
6 争点(6)(本件特許権の明白な無効理由の存否) (被告の主張) (1) 原告の主張では、本件考案と本件発明が実質的に同じということになる。
そうであるなら、本件発明は、請求項1ないし4の発明とも、本件考案の公告公報である実公平7-56256公報(平成7年12月25日公告。以下「本件実用新案公報」という。)記載の発明と同一、又はこれから容易に発明することができたことが明らかである。
(2) 被告は、被告物件Uに係るストッカーを、平成6年10月26日から同年11月3日の間に開催された「第17回日本国際工作機械見本市」に出品した。
また、被告は、被告物件Uに係るストッカーを、Aに対し、平成7年12月5日に、切断機本体(型式番号・NHC-100)とともに、該切断機本体に付設するオプション製品として納品した。
したがって、被告物件Uに係るストッカーが本件発明の技術的範囲内であるなら、本件特許権は、その出願前に公然実施された上記各ストッカーと同一又はこれから容易に発明することができたことが明らかである。
(原告の主張) (1) 本件考案の中核をなす技術的思想は「可動ストッパーの移動量と可動位置決め部材の移動量を常に等しくして両者の移動操作を一緒にさせる」というものであり、本件発明の中核をなす技術的思想は「ワークの位置ずれ解消」というものであるから、両者は全く異なるものである。
また、本件実用新案公報でも、本件発明の技術的思想は全く開示されていない。すなわち、たとえばワーク移載具についていえば、実施例において、倒伏姿勢から起立する構成のほか垂直に昇降する構成でもよいと明記され、これらの構成が明確に認識されているものの、両者の構成の相違から、ワーク先端の位置ずれの有無という本件考案に関係がない事項について相違が生じるか否かについては何ら示唆、開示されていない。そのため、本件実用新案公報を見ただけでは、このような相違を想起することはあり得ない。また、可動ストッパーと可動位置決め部材についていえば、これらを別体に設けた場合には、両者の連結構造が複雑で部品点数が多くなると共に、取付作業が面倒となる問題があるが、これを解決するために、
両者を一体化することにより、可動ストッパーと可動位置決め部材とを簡素な構造にして、部品点数を少なくし、取り付けを簡単にできるようにするという本件特許権の中核的な技術的思想は、一切開示ないし示唆されていない。そのため、本件実用新案公報を見ただけでは、可動ストッパーと可動位置決め部材とを別体に設けるか一体化するかによって、このような相違が生じることを想起することもあり得ない。
(2) 被告は、同じ製造番号であってもさまざまな種類の製品があると主張している。ところが、被告が、被告物件Uに係るストッカーを「第17回日本国際工作機械見本市」に出品した証拠とする乙第21号証は、単に製造番号が記載されているのみであるから、同ストッカーであることの証拠とはならない。
被告が、本件特許権の出願前に、被告物件Uに係るストッカーを販売していたとの証拠は疑問である。
7 争点(7)(損害) (原告の主張) 被告は、被告物件T、Uを年間60台販売している。したがって、被告は、
平成7年12月25日から平成15年12月25日まで、8年間で合計480台販売した。
一台当たりの販売価格は1500万円であるから、総販売価格は、81億円(1500万円×540台)である。
ストッカーの寄与率は、50%を下らないから、ストッカーの価格は、40億5000万円(81億円×50%)である。
利益率は20%を下らないから、被告の得た利益は、8億1000万円(40億5000万円×20%)である。これが、原告の損害額と推定される。
当裁判所の判断
1 被告物件の特定について (1) 弁論の全趣旨によれば、被告物件Tは「被告物件Tの目録(原告)」のとおりのもの、被告物件Uは「被告物件Uの目録(原告)」のとおりのものであることが認められる。したがって、以下、被告物件の特定について主張立証責任を負担する原告が立証した「被告物件Tの目録(原告)」、「被告物件Uの目録(原告)」並びにその名称及び符号によって認定判断することとする。
(2) 被告は、被告物件Tの目録(原告)図5のバリエーションとして記載された操作レバー21aについて、ユーザ自ら被告と関係なく取り付けているところであり、被告において関知するものではないと主張する。しかし、被告は、「ストッカー装置IおよびUについては、納品先に納品し、据え付けを行う際、例えば被告物件目録Iに示されるようなプレート体1を傾斜搬入レール2に対してボルト止めするタイプ・・・のものを、ボルトに代えてレバー(・・・操作レバー21a)にして欲しい旨・・・のカスタマイズをその都度納品先から受け、実行しているにすぎない、すなわち、こうしたカスタマイズは、納品先において据付時に実施される」(被告第2準備書面7頁)と主張しているところであって、上記事実によれば、被告は、被告物件Tに係るストッカーのカスタマイズとして、被告物件Tの目録(原告)図5のバリエーションとして記載された操作レバー21aをも業として製造していたものと認められる。
(3) 被告は、符号6「可動ストッパー(可動ストッパー部)」について「可動ストッパー」、同18「可動位置決め部材(可動位置決め部)」について「可動位置決め部材」との表記をすることに反対する。しかし、当該部分を物件目録においてどのように呼ぶかは、単なる呼称の問題であって、それによって被告物件T、Uが変動するものではない。すなわち、例えば、「可動位置決め部材」と表記したとしても、その表記によって、当該部分が、他の部分と一体性のないものに変わるものではない。したがって、原告と被告がその呼称について合意しない上記符号6及び18の部分については、双方の呼称を並記した「被告物件Tの目録(原告)」、
「被告物件Uの目録(原告)」のものによることが適切である。 2 争点(1)(被告物件Tの、本件考案の構成要件1D、1E、1H充足性、ないし構成要件1Dとの均等)について (1) 構成要件1Dについて ア 証拠(甲1の2)によれば、本件考案明細書には、次の記載があることが認められる。
「(従来技術およびその問題点)・・・取り扱うワーク径がロットによって異なる場合、この径に応じて前記レール上の先頭ワーク位置もしくは移載開始位置を変えると共に、移送部上のワークに対する両側の位置決めの一方を切断装置に対応する固定した基準位置とすると、他方の位置決めの位置を上記径に応じて調整する必要がある。また、ワークの移載において、ワークが移送部の水平ローラー上へ衝撃的に落下した場合、反動によってワークが跳ね上がって危険であると共に、位置ずれを生じたり、ワークおよび移送部の部材が損傷する恐れがあり、且つ衝撃音により作業環境が悪化することになる。しかるに、従来にあっては、取り扱うワークの径変化に簡単な操作手段で対応でき、かつワークを衝撃的な落下を伴うことなく傾斜搬入レール上から移送部へ移載し得るようなローディング装置は実現されていなかった。」(2欄ないし3欄) 「(考案の効果)・・・本考案の長尺ワークのローディング装置によれば、取り扱うワークの径が変化しても・・・ワークを1本ずつ確実に落下衝撃を伴うことなく移送部の水平ローラー上へ自動的に位置決めされた状態で移載することができ、しかも1つの移動操作手段によって可動ストッパーと可動位置決め部材が同時に位置調整されるため、取り扱うワークの直径が変わった場合の調整作業を簡単且つ正確、能率的に行うことができる。」(8欄) イ 以上の記載を始めとする本件考案明細書の記載によれば、本件考案は、ワークを移載する傾斜支持面を有する上下出退自在なワーク移載具を備え、可動ストッパーと可動位置決め部材とを連動するように連結した点に技術的な特徴があり、構成要件1Dの点に技術的特徴があるものではないことが認められる。
ウ 被告物件Tの目録(原告)(とりわけ、被告物件Tの説明(5)、(6))からすれば、被告物件Tにおいては、前記第3の1(1)ア(原告の主張)(イ)@(ハンドル付きスクリュー軸70の操作方法(その1))において原告が主張するとおりのハンドル付きスクリュー軸70の操作方法があることは明らかである。上記操作方法では、ハンドル付きスクリュー軸70は、可動ストッパー(可動ストッパー部)6を移動する操作をしているから、本件考案の「可動ストッパー6の移動操作手段」に、ガイドピン兼用ボルト21及び操作レバー21aは可動ストッパー(可動ストッパー部)6を定位置にロックする操作をしているから、本件考案の「可動ストッパー6の定位置ロック操作手段」にそれぞれ該当する。したがって、被告物件Tは「可動ストッパー6の移動および定位置ロック操作手段」(構成要件1D)を備えているというべきである。
エ 被告は、構成要件1Dについて、可動ストッパー6の移動と定位置ロックを同時に行うことができるというのが文理上の意味であると主張する。しかし、
構成要件1Dの意味を直ちにそのように解釈することはできない。そして、本件考案明細書(甲1の2)の記載をみると、その実施例は、移動操作手段7と定位置ロック操作手段8は別部材であって、移動操作をしただけではロック操作をしたことにはならない(移動とロックは同時に行うことができない)ものであることが認められる。上記明細書の記載及び前記イの本件考案の技術的特徴の認定に用いた明細書の記載に照らし、被告の主張を採用することはできない。
また、被告は、複数本の傾斜搬入レールにそれぞれ備えられる各可動ストッパー6の移動および定位置ロックを一つの操作手段により、同時に調整することの意味であると主張する。しかし、構成要件1Dの文言からして、これをそのように限定されなければならない理由を見出すことはできない。
(2) 構成要件1Eについて ア 被告物件Tの目録(原告)(とりわけ、被告物件Tの説明(7))のとおり、被告物件Tにおいては、ワーク移載具3は、傾斜搬入レール4上の先頭のワークWを持ち上げ、このワークWを可動位置決め部材(可動位置決め部)18側へ転動させ、次いで下方へ退入することによって該ワークWを水平ローラー2上へ移載させるようになっており、ワーク移載具3が、ワークを持ち上げ移載している際には、ワークを支持して転動させる傾斜面(傾斜支持面(ワーク転動面)12)が形成されている。したがって、被告物件Tは、「レール4上の先頭のワークを持ち上げて移送部1の前記水平ローラー2上へ移載する傾斜支持面12を有する上下出退自在なワーク移載具3」(構成要件1E)を備えているというべきである。
イ 被告は、本件発明の明細書を根拠として、「傾斜支持面12を有する」の意味について、傾斜搬入レール2に対する上動位置においても下動位置においても、傾斜角度において何ら変化のない「傾斜支持面12を有する」と解釈されるべきであると主張する。しかし、本件考案より後願である本件発明の明細書に基づいて、本件考案技術的範囲を限定解釈すべきではない(本件発明が本件考案と同一であれば、本件発明に新規性がないだけである。)。そして、本件考案明細書(甲1の2)を見ても、「傾斜支持面」について、「ワーク移載具3に関しては・・・可動ローラー18を高くして転動ストッパーの機能を担わせることによって傾斜支持面12全体を直線傾斜面としたり・・・する構成としてもよい」(8欄)として、傾斜支持面がY字やV字である必要はないことを明示した記載こそあれ、これを被告主張のように限定すべき理由は見出せない。
ウ 被告は、被告物件Tが本件考案の傾斜支持面12を備えるなら、本件考案は経時的要素を含むから「方法の考案」である旨主張するが、本件考案が長尺ワークのローディング装置という物品考案であることは明らかであって、被告の主張は失当である。
(3) 構成要件1Hについて ア 被告物件Tの目録(原告)のとおり、被告物件Tにおいては、可動ストッパー(可動ストッパー部)6と可動位置決め部材(可動位置決め部)18とは、
横長プレート(プレート体)20に一体に形成されているから、平面視同方向へ連動するように連結されているということができる。したがって、被告物件Tは、構成要件1Hを備える。
イ 被告は、構成要件1Hは、「可動位置決め装置」と「可動ストッパー」が一枚のプレート体のものを含まないと主張する。しかし、構成要件1Hの文言から直ちにそのように解釈することはできないうえ、本件考案明細書(甲1の2)には、「可動ストッパーと可動位置決め部材とを一体化することも可能である」と記載されており、この記載に照らし、被告の主張を採用することはできない。
ウ 被告は、従来の原告製品(CK3ローディング装置)には、「可動位置決め装置」と「可動ストッパー」という2つの部材があったことを根拠に、構成要件1Hはこれを「連結」させたものに限定される旨の主張をするが、前記イ認定の事実に照らし、採用できない。
エ 被告は、株式会社Bが被告物件T、Uのストッカーのプレート体と同じものを本件考案の出願日前から販売していた旨主張し、乙第53号証にはこれにそう記載がある。しかし、同証は同社がそれを販売開始した時期が、本件考案の出願日前であることについて客観的裏付けを欠くものであって採用できないし、その他の証拠(時機に後れたものとして却下された証拠を除く)によっても、これを認めることはできない。被告の主張は、採用することができない。
(4) 小括 以上のとおり、被告物件Tは、本件考案の構成要件1D、1E、1Hを充足する。
3 争点(2)(被告物件Uの、本件考案の構成要件1D、1E、1H充足性) (1) 構成要件1Dについて ア 被告物件Uの目録(原告)(とりわけ、被告物件Uの説明(6))のとおり、被告物件Uでは、ナット部材38にスクリュー軸39が螺挿されており、操作ハンドル42の回転操作により、スクリュー軸39におけるナット部材38の螺合位置が変化し、これに伴う揺動レバー36の前後揺動によって横長プレート(プレート体)20(可動ストッパー(可動ストッパー部)6も含む。)が移動し、該操作ハンドル42の停止によって可動ストッパー(可動ストッパー部)6も停止し、
操作ハンドル42が停止すると、可動ストッパー(可動ストッパー部)6に負荷がかかってもスクリュー軸39が回転しないため、可動ストッパー(可動ストッパー部)6が変位することはないものである。したがって、被告物件Uの操作ハンドル42及びスクリュー軸39は可動ストッパー(可動ストッパー部)6の移動操作手段であり、また、可動ストッパー(可動ストッパー部)6に負荷がかかっても変位しないようにロックしているから、定位置ロック手段8にも相当する。
イ 被告は、スクリュー軸とナットの噛合はロック操作とはいえない旨主張する。しかし、構成要件1Dに記載されているのは、「可動ストッパー6の」定位置ロック操作手段であるから、可動ストッパー(可動ストッパー部)6と揺動レバー36及びこれに保持されたナット部材38という構成が存在することにより、操作ハンドル42及びスクリュー軸39の回転停止操作をすれば可動ストッパー(可動ストッパー部)6が定位置にロックされる以上、これを可動ストッパー(可動ストッパー部)6からみれば、その定位置ロック操作手段ということができるのである。
(2) 構成要件1Eについて ア 被告物件Uの目録(原告)(とりわけ、被告物件Uの説明(8))のとおり、被告物件Uにおいては、ワーク移載具3は、傾斜搬入レール4上の先頭のワークWを持ち上げ、このワークWを可動位置決め部材(可動位置決め部)18側へ転動させ、次いで下方へ退入することによって該ワークWを水平ローラー2上へ移載させるようになっており、ワーク移載具3が、ワークを持ち上げ移載している際には、ワークを支持して転動させる傾斜面(傾斜支持面(ワーク転動面)12)が形成されている。したがって、被告物件Uは、「レール4上の先頭のワークを持ち上げて移送部1の前記水平ローラー2上へ移載する傾斜支持面12を有する上下出退自在なワーク移載具3」(構成要件1E)を備えているというべきである。
イ 被告は、「傾斜支持面12を有する」の意味について、傾斜搬入レール2に対する上動位置においても下動位置においても、傾斜角度において何ら変化のない「傾斜支持面12を有する」と解釈されるべきであると主張するが、これが採用できないことは、前記2(2)のとおりである。
(3) 構成要件1Hについて ア 被告物件Uの目録(原告)のとおり、被告物件Uにおいては、可動ストッパー(可動ストッパー部)6と可動位置決め部材(可動位置決め部)18とは、
横長プレート(プレート体)20に一体に形成されているから、平面視同方向へ連動するように連結されているということができる。したがって、被告物件Uは、構成要件1Hを備える。
イ 被告は、構成要件1Hは、「可動位置決め装置」と「可動ストッパー」が一枚のプレート体のものを含まないと主張するが、これが採用できないことは、
前記2(3)のとおりである。
(4) 小括 以上のとおり、被告物件Uは、本件考案の構成要件1D、1E、1Hを充足する。
4 争点(6)(本件特許権の明白な無効理由の有無)について (1) 証拠(甲1の2)によれば、本件発明の特許出願前に刊行された刊行物である本件実用新案公報には、実施例として、本件発明の構成要件2Aないし2G及び2Jの各構成を備える長尺ワークのローディング装置であって、ワーク移載具は、遊端がV字型をなすワーク移載用の傾斜支持面12を形成し、起伏揺動自在に支承され、連動杆を油圧シリンダーにて押し引き移動することによって起伏駆動され、可動位置決め部材(可動位置決め部)18と可動ストッパー(可動ストッパー部)6が別部材であって平面視同方向へ連動するように連結されているもの(以下「本件考案実施例」という。)が記載されるとともに、「ワーク移載具3を垂直に昇降する構成としてもよい」(8欄)、「可動ストッパーと可動位置決め部材とを一体化することも可能である」(8欄)との記載があることが認められる。そうだとすると、本件実用新案公報には、本件考案実施例のワーク移載具を起伏駆動に変えて垂直昇降することとし、可動ストッパーと可動位置決め部材とを一体化した構成も記載されているということができるところ、その構成とした場合には、ワーク移載具は、上端にワーク移載用の傾斜支持面を形成し、傾斜搬入レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下出退可能に構成されており(構成要件2H)、可動ストッパーと可動位置決め部材とは一体に連接されている(構成要件2I)ことは自明である。
したがって、本件発明のうち請求項1に係る発明は、本件実用新案公報に記載された発明であるから、その特許には無効理由があることが明らかである。
(2) 原告は、本件実用新案公報では、倒伏姿勢から起立する構成と垂直に昇降する構成の構成の相違から、ワーク先端の位置ずれの有無の相違が生じるか否かについては何ら示唆、開示されていないと主張する。しかし、本件実用新案公報に「垂直に昇降する構成」という、装置の構成そのものが明確に記載されている以上、その作用効果が記載されていないことをもって、発明が記載されていないということはできない。
(3) 証拠(甲1の2)によれば、本件考案実施例の装置において、ワーク移載具を駆動する油圧シリンダーは往復運動し、ワーク移載具は揺動していることが認められる。また、証拠(乙37ないし39)によれば、実開昭63-71125号公報(昭和63年5月13日公開)には、棒材供給機において、材料棚に支持される棒材の長さ方向と直交する垂直面に沿って上下方向に昇降して棒材を移載する動作をすることが第3図から理解されるリフタ4が、特開昭57-132996号公報(昭和57年8月17日公開)には、棒材投入装置において、後部が持ち上げられた前傾姿勢にて配設固定された棒材戴置用フレームB、B上で支持される棒材Mの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下方向に昇降して棒材Mを転動させる突上げプレートE、Eが、特開平2-53501号公報(平成2年2月22日公開)には、棒材の間歇移送手段として揺動するアーム32、該アームと一体の傾斜板34等からなる機構が、それぞれ記載されていることが認められる。以上の事実によれば、本件実用新案公報記載の実施例を、ワーク移載具を傾斜搬入レール上で支持されるワークの長さ方向と直交する垂直面に沿って上下出退可能とするについて、ワーク移載具を揺動するようにすることも(構成要件2K)、垂直上下方向に昇降するようにすることも(構成要件2M)、設計事項であって、当業者が容易にできたものと認められる。また、ワーク移載具を揺動するについて、揺動中心を傾斜支持面の下手側端部とすることは、単なる設計事項というべきである。
したがって、本件発明のうち請求項2及び3に係る発明は、本件実用新案公報に記載された発明から容易に発明することができたものであるから、その特許には無効理由があることが明らかである。
(4) 本件考案実施例において、可動ストッパーと可動位置決め部材とを一体に連接するに当たり、横長プレートを傾斜搬入レールの側面に沿ってその長さ方向スライド可能とし、該横長プレートの長さ方向中間部と下手側端部とに、可動ストッパーと可動位置決め部材とをそれぞれ上向きに一体に突出形成する程度のことは、
設計事項であって、当業者が容易にすることができたものというべきである。したがつて、本件発明のうち請求項4に係る発明も、本件実用新案公報に記載された発明から容易に発明することができたものであるから、その特許には無効理由があることが明らかである。
5 争点(7)(損害)について (1) 被告において、乙第60号証の2を提出して自認するとおり、被告は、平成7年12月25日から平成15年12月25日まで、別表1(ストッカー製造原価内訳(訂正1))のとおり(ただし、No.24のものは期間が異なるので除く)、
被告物件Tを22台(内訳は、NHC-050N切断機のストッカーを6台、NHC-070N切断機のストッカーを2台、NHC-070NA切断機のストッカーを14台)、被告物件Uを11台(NHC-100/100NA切断機のストッカーを11台、合計33台販売したことが認められる。
原告は、原告ではストッカーなしに丸鋸切断機を販売することはほとんどないのに、被告の提出した書証では、被告が販売した丸鋸切断機の数(200余台)に比べて販売したストッカーの数が少なすぎると主張する。他方、被告は、この点について、@被告は顧客の注文に応じて切断機を含めた工場機械を受注する専用工作機械メーカーであり、既存の工場設備に設置されるストッカーを利用した切断機の受注を受けたり、被告物件T、Uとは異なるストッカーの設計開発をすることもあること、A被告の納入先である自動車工場などでは、ストッカーを必要とせずインラインでワークを連続送りする工場設備も存在するところがほとんどであること、B被告の切断機の販売先は米国、韓国、イタリアなどの機械商社が全体の6割以上を占めるところ、ストッカーはかさばり輸送費がかかるため、購入した機械商社が現地で独自にストッカーを現地関連企業に発注し、アセンブリすること、が理由であると説明する。
証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、被告の切断機カタログでは、ストッカーはオプション品であるとされていること、平成16年11月26日の進行協議期日において、被告が機械番号台帳を示した上でストッカー付きではないと主張する丸鋸切断機から原告が指定した分のうちのいくつかの図面を受命裁判官立会いの下原告代理人において閲覧したが、その中からは被告物件T、Uに係るストッカーの形跡を発見することはできなかったこと、被告は、さらに原告代理人及び裁判所が、これと同様の方法で図面等の確認を別期日を設けて行われることは吝かでないと主張していること(被告第15準備書面8頁)が認められる。
以上の事実に加え、被告の説明に反する資料(例えば、乙第60号証の2、第67号証の1ないし34では、被告が自認する被告物件T、Uの全納入先の名称の一部分が開示されているところ、これに反する社名を持つ納入先が存在するとの資料、被告の切断機販売先は海外も多いというのが事実に反するとの資料等)の存在も認められないことに照らせば、被告の説明をあながち不自然とも言いがたく、結局、被告が自認する以上の被告物件T、Uを販売したと認めるに足りる証拠はないものというべきである。
なお、この点に関して、原告は、被告は被告物件T、Uの販売数量についての説明を変遷させていると主張する。しかし、被告説明の変遷は、裁判所や原告の指摘に基づかず、自主的に訂正したものであって、この訂正をもって、被告の説明を疑問視する根拠とすることはできない。
(2) 被告のストッカー販売額 証拠(乙55、67の1ないし34、93、94)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告物件T、Uに係るストッカーについて、営業の目安として、NHC-050N切断機本体は750万円、ストッカーは150万円、NHC-070NA切断機本体は820万円、ストッカーは180万円、NHC-100/100NA切断機本体は950万円、ストッカーは250万円としていること、しかし、実際には、顧客との交渉により、切断機本体、ストッカー、その他の付属品を営業の目安価格よりも安い価格で販売していることも多く、その販売価格は、別表1の「本体含みの販売価格」のとおりであること、これを営業の目安価格の割合に応じて比例配分した場合には、ストッカーの販売価格は、同表の「ストッカーの価格」欄の金額となることが認められる。
そうだとすると、被告の、被告物件T、Uに係るストッカーの販売額は同表の「ストッカーの価格」欄の金額の合計(ただし、No.24のものを除く)である5392万円である。
(3) 被告がストッカーを製造するのに要した費用 ア 被告は、ストッカーを製造するのに要した経費として、別表1の「製造原価」欄のとおり主張し、その内訳として乙第68号証を提出する。
しかし、被告の主張する経費は、次のとおりの理由で、そのまま受入れ難いものである。
(ア) 材料購入費につき、被告は、購入品詳細(乙97)を提出しているが、その裏付け資料がないこと。
(イ) 加工、組立等の単価として工賃を1時間当たり4560円ないし6840円としているが、証拠(乙71)によれば、これは、償却費、リース、交通費、通信・事務費等を含めた経費であり、ストッカーを製造しなくても必要な固定費も含まれていること。
(ウ) 運賃は、切断機本体の輸送を含めたものであることは被告も自認するものであるところ、ストッカーがなくても本体の輸送は必要であるから、ストッカーが追加されたことによる運賃増があることについての証拠がないこと。この点について、被告は、ストッカー付の切断機の場合はストッカー部分が荷台面積の80%以上を占めると主張する。しかし、そうだとしても、被告のストッカー販売による利益を計算する上では、ストッカー販売に要した経費として控除できるのはストッカーを販売したことによって増加した経費(具体的には、ストッカー付切断機の運賃-ストッカーがない切断機の運賃)であるから、荷台面積に比例して運賃を控除できるものでもない。
(エ) 据付に関する、旅費、宿泊費、現地作業も、ストッカー付ではない切断機であったとしても、切断機本体の据え付け、現地作業(試運転等)は必要であるから、ストッカーが追加されたことによる経費増があることについての証拠がないこと。
ウ 他方、証拠(乙61、69、70)によれば、被告は、ストッカーの組立加工を外注に出したことがあり、外注先に支払った金額は、NHC-050N切断機のストッカーの1例では78万円、NHC-070NA切断機のストッカーの4例では、68万円、70万円、80万円、80万円というものであったことが認められる。上記外注先に支払った額は、外注先の利益を含んだものであるから、これを被告が自社で組立加工した場合の経費は、これより若干少ないものと推認される。
エ 以上の点を総合考慮し、必要な経費としては、前記ウの経費を基準とし、材料を購入する費用が発生したことは明らかであること、被告において、単なる組立加工(外注先がした組立加工、あるいはこれと同等のもの)以外にも、販売供給できるようにするための調整費用、運賃等の増加等が発生するであろうことを考えれば、製造販売費用として、NHC-050N切断機のストッカーについては100万円、NHC-070N及びNHC-070NA切断機のストッカーについては120万円、NHC-100/100NA切断機のストッカーについては166万円の費用は必要であったことは推認されるけれども、これを超えるものがあると認めることはできない。
したがって、経費は、次の(ア)ないし(ウ)の合計である4346万円と算定される。
(ア) NHC-050N切断機のストッカー 100万円×6台=600万円 (イ) NHC-070N、NHC-070NA切断機のストッカー 120万円×16台=1920万円 (ウ) NHC-100/100NA切断機のストッカー 166万円×11台=1826万円 オ 以上の事実によれば、被告が、被告物件T、Uに係るストッカーの販売によって得た利益は、1046万円(5392万円-4346万円)と算定される。
(4) 原告は、被告物件T、Uにおけるストッカーの寄与度が50%を下回ることはないとして、被告が被告物件T、Uの製造販売によって得た利益を基準とすべきである旨主張する。
しかし、実用新案法29条2項は、侵害者が「その侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額」を権利者の損害額と推定するものである。そして、本件において「その侵害の行為」とは、実用新案権の対象となっている「長尺ワークのローディング装置」(ストッカー)を販売することであるから、本件における同項の「侵害の行為により受けた利益の額」も、「侵害の行為」すなわち「ストッカーの販売」により受けた利益の額が基準となる。
もっとも、被告において、本当は価値の低い切断機本体をストッカーとともに販売し、本当はストッカーの価値によって高く販売できているにもかかわらず、切断機本体の価格を高く、ストッカーの価格を低く設定しているなどの事情があるために、被告が付したストッカーの価格が不当に低い場合には、被告の付した価格によらず、客観的価格によって被告の受けた利益を算定すべきである。しかし、証拠(乙66、93ないし95)によれば、被告物件T、Uに係る切断機本体は、例えばNHC-050N切断機本体がストッカーがない状態のまま顧客が数百万円で購入するなど、それ自体相当高価で取引されているものであることが認められ、上記事実に照らし、本件全証拠によっても、被告が付したストッカーの価格が不当に低い等の事情は認めることができない。
また、被告において、侵害品であるストッカーを付さなければ切断機本体を販売できなかったという事実が認められる場合には、被告が切断機本体の販売によって得た利益も、侵害の行為(ストッカーの販売)と相当因果関係があるものとして、「侵害の行為により受けた利益の額」ということができる。しかし、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件考案技術的範囲に属さないストッカーを付して切断機本体とともに製造販売したり、切断機本体をストッカーなしのまま販売し、顧客ないし商社がストッカーを別の会社に製造させている例があることが認められ、
この事実に照らせば、被告において、侵害品であるストッカーなしでは切断機本体が販売できなかったと認めることはできない。
したがって、原告の主張を採用することはできない。
6 結論 以上の次第で、原告の請求は、本件実用新案権の侵害を理由とする損害賠償請求が、上記損害及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年4月13日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、本件特許権の侵害を理由とする請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 守山修生